(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記粒子表面領域のみに、ケイ化タングステン、炭化タングステン、ホウ化タングステン及び窒素が固溶化したタングステンから選択される少なくとも1つを有する請求項1〜3のいずれかに記載のタングステン粉。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、弁作用金属としてタングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサにおいて、大きな容量を保ちつつさらに優れたLC特性が得られるタングステン粉、それを用いたコンデンサの陽極体、及びその陽極体を電極として用いた電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、タングステン粉中のゲルマニウム元素の含有量が特定の範囲となるように、粒子表面領域の少なくとも一部をゲルマニウム元素と化合したタングステンとしたタングステン粉を使用することにより前記の問題点を解消できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下に示すタングステン粉、タングステンの陽極体、電解コンデンサ、タングステン粉の製造方法及びコンデンサの陽極体の製造方法に関する。
[1]粒子表面領域のみにゲルマニウム元素を有し、ゲルマニウム元素の含有量が0.05〜7質量%であることを特徴とするタングステン粉。
[2]前記ゲルマニウム元素の少なくとも一部がタングステン元素と化合物を形成している前項1に記載のタングステン粉。
[3]前記化合物がWGe
2またはW
5Ge
3である前項2に記載のタングステン粉。
[4]体積平均一次粒径が0.1〜1μmである前項1〜3のいずれかに記載のタングステン粉。
[5]前記粒子表面領域が、粒子表面から粒子内部へ50nm入った位置までの領域である前項1〜4のいずれかに記載のタングステン粉。
[6]さらに、前記粒子表面領域のみに、ケイ化タングステン、炭化タングステン、ホウ化タングステン及び窒素が固溶化したタングステンから選択される少なくとも1つを有する前項1〜5のいずれかに記載のタングステン粉。
[7]酸素含有量が0.05〜8質量%である前項1〜6のいずれかに記載のタングステン粉。
[8]タングステン、ゲルマニウム、ケイ素、窒素、炭素、ホウ素、リン及び酸素の各元素を除く元素の含有量が0.1質量%以下である前項1〜7のいずれかに記載のタングステン粉。
[9]前記タングステン粉が造粒粉である前項1〜8のいずれかに記載のタングステン粉。
[10]電解コンデンサ用である前項1〜9のいずれかに記載のタングステン粉。
[11]前項1〜10のいずれかに記載のタングステン粉を焼結してなるコンデンサ陽極体。
[12]前項11に記載のコンデンサ陽極体を陽極酸化して得られる陽極と誘電体層の複合体、及び前記誘電体層上に形成された陰極を備える電解コンデンサ。
[13]タングステン粉中のゲルマニウム元素の含有量が0.05〜7質量%となるようにゲルマニウム粉を混合し、減圧下で加熱して反応させることにより前項1〜10のいずれかに記載のタングステン粉を製造するタングステン粉の製造方法。
[14]加熱する温度が1000〜2600℃である前項13に記載のタングステン粉の製造方法。
[15]前項9に記載のタングステン粉を焼結することを特徴とするコンデンサの陽極体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタングステン粉によれば、従来のタングステン粉に比較して、大きな容量を保ちつつLC特性の良好な電解コンデンサを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
原料のタングステン粉としては、市販のタングステン粉を用いることができる。タングステン粉は粒径の小さいものが好ましいが、粒径のより小さいタングステン粉は、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕することによって、あるいはタングステン酸やハロゲン化タングステンを、水素やナトリウム等の還元剤を使用し、条件を適宜選択して還元することによって得ることができる。
また、タングステン含有鉱物から直接または複数の工程を経て、条件を選択して還元することによって得ることもできる。
【0009】
粒子表面領域のみにゲルマニウム元素を含有する本発明のタングステン粉は、例えば、タングステン粉にゲルマニウム粉を混合し、減圧下で加熱して反応させることにより得ることができる。使用するゲルマニウム粉の粒径は0.1〜50μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。半導体材料ガスとして周知のGeH
4やGe
2H
8を用いてゲルマニウム元素を含有させることもできるが、分解爆発性があるため取扱いには専用の反応設備や除害設備を備える必要がありコスト高となり好ましくない。ゲルマニウム粉を用いる方法の場合、ゲルマニウム元素はタングステン粒子表面より侵入し、通常、粒子表面から、粒子内部へ50nm入った位置までの領域に存在する。このゲルマニウム元素が存在する領域が粒子表面領域である。上記のように、この粒子表面領域は通常粒子表面から、粒子内部へ50nm入った位置までの領域であるが、この領域の大きさはゲルマニウム元素を含有させる処理条件によって変化する。なお、本明細書における「粒子表面領域のみに○○元素(または化合物)を含有する」という表現は、タングステン粉に含まれる○○元素(または化合物)の100%がこの粒子表面領域に含まれていることを必要とするものではなく、○○元素(または化合物)の95%以上がこの領域に含まれていることを意味する。ゲルマニウム元素の多くはタングステン粒子表面領域に固溶化した状態で存在するが、一部はWGe
2やW
5Ge
3等のゲルマニウム−タングステン化合物となっている。これらのゲルマニウム元素は粒子表面領域にのみ存在するため、一次粒子の中心部は導電率の高い金属タングステンのまま残り、コンデンサの陽極体を作製したとき、陽極体の等価直列抵抗を低く抑えられるので好ましい。タングステン粉中のゲルマニウム元素含有量はゲルマニウム粉の添加量により調整することができる。
【0010】
本発明のタングステン粉のゲルマニウム元素含有量は、0.05〜7質量%が好ましく、0.2〜5質量%が特に好ましい。この範囲のゲルマニウム元素含有量のタングステン粉を用いることにより、容量が大きく、LC特性のよい電解コンデンサを作製することができる。
粒子表面領域にゲルマニウム元素を0.05〜7質量%含有するタングステン粉の焼結体を陽極体とすることによりコンデンサのLC特性が良好となる理由の詳細は必ずしも明らかではないが、酸化ゲルマニウムがポリエチレンテレフタレート等の合成触媒として知られていることから、本発明で規定する量のゲルマニウム元素を含有したタングステン粉の焼結体において、W−O−Geの形で表面領域に存在するゲルマニウム元素が、誘電体層上に半導体層を形成する際に触媒として働き半導体層が誘電体層上に緻密に、かつ広範囲に形成されて従来のタングステン粉に比べてコンデンサ容量が大きくなることが考えられる。
【0011】
ゲルマニウム含有量は0.05質量%未満であると、容量特性が良好な電解コンデンサを与える粉にならない場合がある。7質量%を超えるとタングステン粉中のゲルマニウム元素が多すぎて、該粉を焼結した焼結体を陽極体として化成した場合に、形成した誘電体の容量が減少することがある。
【0012】
タングステン粉とゲルマニウム粉の混合物を加熱して反応させる際の減圧条件は、10
-1Pa以下、好ましくは10
-3Pa以下である。
反応温度は、1000〜2600℃が好ましい。使用するゲルマニウム粉の粒径が小さいほど低温で含有操作が行えるが、1000℃未満であると含有操作に時間がかかる。2600℃を超えるとゲルマニウム元素が気化しやすくなり、それに対応した減圧高温炉のメンテナンスが必要となる。
高温に放置する時間は、3分以上2時間未満がよい。使用する減圧高温炉等に合わせた温度と時間の最適な条件は、予備実験で作製した粉体を分析して決定すればよい。
【0013】
タングステン粉は、さらに造粒されていてもよい(以下、造粒されたタングステン粉を単に「造粒粉」ということがある。)。電解コンデンサ用の粉体としては、陽極体に細孔を形成しやすくなるので、造粒粉がより好ましい。
前述の未造粒の各タングステン粉体(以下、「未造粒粉」ということがある。)を用いて、例えばニオブ粉について特開2003−213302号公報に開示されているように細孔分布を調整してもよい。
【0014】
使用するゲルマニウム粉の形態としては、塊状物や粒状物でもよいが、タングステン粉との混合性を考慮すると粒径が同程度の粉体を使用する方が均一混合しやすく好ましい。タングステン粉と混合したゲルマニウム元素の一部は、減圧下高温処理時にタングステン粉粒子の表面領域のタングステン元素と化合するが、残りはタングステン粒子表面領域に固溶化した状態で存在する。通常、粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有するタングステン粉のゲルマニウム含有量は、減圧下高温処理時のゲルマニウム粉投入量の半分にほぼ等しい。このため、減圧下高温処理時には、タングステン粉中のゲルマニウム元素の含有量が0.05〜7質量%(好ましくは0.2〜4質量%)となるように、ゲルマニウム粉の投入量を目的物のタングステン粉のゲルマニウム元素含有量(すなわち、0.05〜7質量%、好ましくは0.2〜4質量%)の倍量を目安とし、タングステン粉とゲルマニウム粉を混合して反応させる。
【0015】
原料として好ましいタングステン粉、すなわちより細かい粒径の紛体は、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕材を用いて粉砕することにより得ることができる(以下、原料のタングステン粉を単に「粗製粉」ということがある。)。粉砕材としては、炭化タングステン、炭化チタン等の炭化金属製の粉砕材が好ましい。これらの炭化金属であれば、粉砕材の微細な破片が混入する可能性が小さい。中でも、炭化タングステンがより好ましい。
【0016】
各種タングステン粉の造粒物は、各粉を減圧下高温で焼結して顆粒状または塊状とし、室温に戻した後にハンマーミル等で解砕して得ることができる。この場合の圧力、温度条件、放置時間などは、前述した減圧高温下で粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有するタングステン粉を得る条件と同じでもよいが、温度は、それより100〜300℃程度高くする方が強度のある造粒粉が得られるので好ましい。
【0017】
また、造粒粉は、原料粉に水等の液体や液状樹脂の少なくとも1種を加えて適当な大きさの顆粒状とした後に、減圧下に加熱し、焼結して得ることもできる。減圧条件や高温放置条件は、前述の範囲内で予備実験により求めることができる。焼結後の顆粒同士の凝集がなければ、解砕の必要はない。
このような造粒粉は、篩で分級して粒径を揃えることができる。体積平均粒径が好ましくは50〜200μm、より好ましくは100〜200μmの範囲であれば、電解コンデンサの陽極体として成形する場合、粉が成形機のホッパーから金型にスムーズに流れるために好都合である。
【0018】
粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有する体積平均一次粒子径が0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.3μmのタングステン粉は、特にその造粒粉から作製した電解コンデンサの容量を大きくすることができる。
このような造粒粉を得る場合、例えば、前記一次粒子径を調整して、造粒粉の比表面積(BET法による)が、好ましくは0.2〜20m
2/g、より好ましくは1.5〜20m
2/gになるようにすると、電解コンデンサの容量をより大きくすることができ好ましい。
【0019】
本発明の粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有するタングステン粉は、さらに、粒子表面領域に、ケイ化タングステン、炭化タングステン、ホウ化タングステン及び窒素が固溶化したタングステンから選択される少なくとも1つを有するものも好ましく用いられる。
【0020】
各種タングステン粉の粒子表面領域をケイ化する方法の一例として、タングステン粉にケイ素粉をよく混合し、減圧下で加熱して反応させる方法を挙げることができる。この方法の場合、ケイ素粉はタングステン粒子表面より反応し、W
5Si
3等のケイ化タングステンが通常、粒子表面から粒子内部へ50nm入った位置までの領域に形成される。ケイ化タングステンの含有量はケイ素の添加量により調整することができる。また、いずれのケイ化タングステンであっても、含有量はケイ素含有量を指標とすればよい。本発明のタングステン粉のケイ素含有量は、0.05〜7質量%が好ましく、0.2〜4質量%が特に好ましい。減圧条件は、10
-1Pa以下、好ましくは10
-3Pa以下が好ましい。反応温度は、1100〜2600℃が好ましい。加熱時間は、3分以上2時間未満が好ましい。ケイ化の添加操作はゲルマニウム元素の添加操作と同時に行うこともできる。
【0021】
各種タングステン粉の粒子表面領域に窒素を固溶化させる方法の一例として、該粉を減圧下で350〜1500℃に置き、窒素ガスを数分から数時間通じる方法がある。窒素を固溶化させる処理は、ゲルマニウム元素を含有させるときの減圧高温処理時に行ってもよいし、先に窒素を固溶化させる処理を行ってからゲルマニウム元素の含有を行ってもよい。さらに粗製粉作製のとき、造粒粉作製後、あるいは焼結体作製後に窒素を固溶化させる処理を行ってもよい。このように、窒素を固溶化させる処理をタングステン粉製造工程のどこで行うかについては特に限定されないが、好ましくは、工程の早い段階で窒素含有量を0.01〜1質量%にしておくとよい。これにより、窒素を固溶化させる処理で、粉体を空気中で取り扱う際、必要以上の酸化を防ぐことができる。
【0022】
各種タングステン粉の粒子表面領域を炭化する方法の一例として、前記のタングステン粉を、炭素電極を使用した減圧高温炉中で300〜1500℃に数分から数時間置く方法がある。温度と時間を選択することにより、炭素含有量が0.001〜0.5質量%になるように炭化することが好ましい。炭化を製造工程のどこで行うかについては、前述した窒素固溶化処理の場合と同様である。炭素電極炉で窒素を所定条件で通じると、炭化と窒素の固溶化が同時に起こり、粒子表面領域のみにゲルマニウム元素を含有し、ケイ化及び炭化していて、窒素が固溶化したタングステン粉を作製することも可能である。
【0023】
粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有したタングステン粉の粒子表面領域をホウ化する方法の一例として、ホウ素元素やホウ素元素を有する化合物をホウ素源としておき、造粒する方法がある。含有量が0.001〜0.1質量%になるようにホウ化するのが好ましい。この範囲であれば良好な容量特性が得られる。ホウ化を製造工程のどこで行うかについては、前述した窒素固溶化処理の場合と同様である。窒素固溶化処理した粉を炭素電極炉に入れ、ホウ素源を置き造粒を行うと、粒子表面領域が、ゲルマニウム元素を含有し、ケイ化、炭化及びホウ化していて、窒素が固溶化したタングステン粉を作製することも可能である。また、所定量のホウ化(好ましくはホウ素含有量が0.001〜0.1質量%)を行うと、さらにLCが良くなる場合がある。
【0024】
粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有したタングステン粉に、ケイ化したタングステンテン粉、窒素が固溶化したタングステンテン粉、炭化したタングステン粉、ホウ化したタングステン粉の少なくとも1種を加えてもよい。この場合でも、ゲルマニウム、ケイ素、窒素、炭素及びホウ素の各元素については、混合粉についてそれぞれ前述した含有量の範囲内に収まるように配合することが好ましい。
前述したケイ化、炭化、ホウ化の方法では、粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有した各タングステン粉を対象として行う場合を説明したが、先にケイ化、炭化、ホウ化、窒素固溶化処理の少なくとも1つを行ったタングステン粉に、さらに粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有させてもよい。粒子表面領域にゲルマニウム元素を含有したタングステン粉にケイ化、炭化、ホウ化、窒素固溶化処理の少なくとも1つを行ったタングステン粉にタングステン単独粉を混合してもよいが、ゲルマニウム、ケイ素、窒素、炭素及びホウ素の各元素については、混合粉についてそれぞれ前述した含有量の範囲内に収まるように配合することが好ましい。
【0025】
本発明のタングステン粉の酸素含有量は、0.05〜8質量%が好ましく、0.08〜5質量%がより好ましい。
酸素含有量を0.05〜8質量%にする方法としては、粒子表面領域をケイ化、炭化、ホウ化の少なくとも1つを行ったタングステン粉の粒子表面領域を酸化する方法がある。具体的には各粉の粗製粉作製時や造粒粉作製時の減圧高温炉からの取り出し時に、酸素を含有した窒素ガスを投入する。この時、減圧高温炉からの取り出し温度が280℃未満であると窒素の固溶化よりも酸化が優先して起こる。酸素窒素混合ガスの酸素分圧や混合ガスの炉内圧力を調整することにより所定の酸素含有量にすることができる。前もって各タングステン粉を所定の酸素含有量に調整しておくことにより、その粉を使用して電解コンデンサの陽極体を作製する工程において、厚みにムラのある自然酸化膜の生成による過度の酸化劣化を緩和することができる。酸素含有量が前記範囲内であれば、作製した電解コンデンサのLC特性をより良好に保つことができる。この工程で窒素を固溶化させない場合には、窒素ガスの代わりにアルゴンやヘリウムガス等の不活性ガスを使用してもよい。タングステン粉に酸素を含有させる工程は、ゲルマニウムを含有させる工程の前に行うことが好ましい。ゲルマニウムを含有するタングステン粉に酸素を含有させる操作を行うと、タングステン粒子表面領域においてゲルマニウム元素が酸素元素と反応して酸化ゲルマニウムが生成して、続く化成の処理の際にその大半が溶出してしまう可能性が高く、本発明の効果を低減してしまうことがあるので好ましくない。
【0026】
本発明のタングステン粉はリン元素の含有量が1〜500質量ppmであることが好ましい。
粒子表面領域にゲルマニウムを含有したタングステン粉、さらに、粒子表面領域の少なくとも一部をケイ化、炭化、ホウ化、酸化、窒素の固溶化の少なくとも1つを行ったタングステン粉に、リン元素を1〜500質量ppm含有させる方法の1例として、各粉の粗製粉作製時や造粒粉作製時に、減圧高温炉中にリンやリン化合物をリン化源として置いてリンを含有する粉を作製する方法がある。リン化源の量を調整するなどして、前述の含有量となるようにリンを含有させると、陽極体を作製したときの陽極体の物理的破壊強度が増加する場合があるので好ましい。この範囲であれば、作製した電解コンデンサのLC特性がさらに良好になる。
【0027】
粒子表面領域にゲルマニウムを含有したタングステン粉では、より良好な容量特性を得るために、ゲルマニウム、ケイ素、窒素、炭素、ホウ素、酸素及びリンの各元素以外の不純物元素の含有量については、合計0.1質量%以下に抑えることが好ましい。これらの元素を前記含有量以下に抑えるためには、原料や、使用粉砕材、容器等に含まれる不純物元素量を低く抑える必要がある。
本発明のタングステン粉を焼結して、コンデンサの陽極体が得られる。さらに、前記陽極体を陽極酸化して得られる陽極と誘電体層の複合体と、誘電体層上に形成された陰極を備える構成とすることにより電解コンデンサが形成される。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、下記の記載により本発明は何ら限定されるものではない。
本発明において、粒子径、比表面積、及び元素分析は以下の方法で測定した。
体積平均粒子径は、マイクロトラック社製HRA9320−X100を用い、粒度分布をレーザー回折散乱法で測定し、その累積体積%が、50体積%に相当する粒径値(D50;μm)を体積平均粒径とした。なお、この方法では二次粒子径が測定されるが、粗製粉の場合、通常分散性は良いので、この測定装置で測定される粗製粉の平均粒径はほぼ体積平均一次粒子径とみなせる。
比表面積は、NOVA2000E(SYSMEX社)を用いBET法で測定した。
元素分析は、ICPS-8000E(島津製作所製)を用いICP発光分析を行った。
【0029】
実施例1:
タングステン酸を水素気流中980℃で還元して平均粒径0.5μm、比表面積0.3m
2/gのタングステンの粗製粉を得た。この粉に、別途用意した市販ゲルマニウム粉(平均粒径1μm)を9.6質量%混合し、タングステン製の容器に入れて、モリブデン電極の減圧高温炉中、3×10
-4Pa下で1320℃に40分放置し、その後室温になるまで放冷し、常圧に戻した。その後、ハンマーミルで解砕し、目開き320μmの篩により篩分けし、タングステン造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径120μm、比表面積0.2m
2/gであった。
得られた造粒粉を元素分析したところ、ゲルマニウムが4.8質量%、酸素0.97質量%、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0030】
実施例2〜5及び比較例1〜3:
実施例1でゲルマニウムの混合量を変更した以外は実施例1と同様にしてタングステン造粒粉を得た。各例の平均粒径及び比表面積は実施例1と同様であった。各例で得られた造粒粉のゲルマニウム及び酸素の含有量は表1に示す通りであり、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0031】
実施例6:
市販の三酸化タングステン粉、三酸化タングステン粉の25倍質量の粉砕材(直径1mmの炭化タングステンボール)、及び水を固形部が沈む程度に、それぞれ三井鉱山社製粉砕機アトライターに入れ、水素気流下、700℃で5時間粉砕した。
粉砕材を除去後、水を蒸発させ、平均粒径0.3μm、比表面積2.3m
2/gのタングステンの粗製粉を得た。ついで、市販ゲルマニウム粉(平均粒径0.2μm)を7.2質量%となるように加えてよく混合し、減圧高温炉に入れ、7×10
-4Pa下、1360℃に40分間放置した。降温の途中1000℃で、炉に窒素ガスを10kPaになるように入れ、20分間保った。最後に、窒素ガスで常圧に戻してから室温で炉外に取り出した。その後、ハンマーミルで解砕し、目開き320μmの篩により篩分けし、タングステン造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径100μm、比表面積1.6m
2/g、ゲルマニウムが3.6質量%、酸素が870質量ppm、窒素が1.6質量%、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0032】
実施例7:
塩化タングステンを400℃で気相水素還元することにより、平均粒径0.1μm、比表面積9.6m
2/gのタングステンの粗製粉を得た。別途用意したステアリン酸0.3gをトルエン3gに溶かした液にタングステン粉20gをよく混合して平均粒径160μmの顆粒状の混合物を得た。得られた顆粒状の混合物に、リン酸を0.05質量%になるように加え、さらに、平均粒径0.2μmのゲルマニウム粉1gを加えてよく混合し、実施例1で使用した減圧高温炉に入れ、1×10
-3Pa以下で1340℃に40分放置し、その後放冷して室温にしてから常圧に戻した。このようにして得たタングステン造粒粉は、平均粒径180μm、比表面積8.8m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が0.3質量%、炭素が300質量ppm、リンが100質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0033】
実施例8:
実施例4で造粒粉を作製する前に、あらかじめタングステンの粗製粉に対し、ホウ素が0.03質量%の添加量になるようにホウ素溶液(20質量%硝酸水溶液にホウ素を0.1質量%となるように溶解した溶液)を加えて混合し、次に、260℃の温度、7×10
2Paの減圧下2時間放置して乾燥し室温に戻した。このように処理したタングステン粉を用いて、実施例4と同様にしてゲルマニウムを混合し、タングステン造粒粉を得た。ただし、モリブデン電極の減圧高温炉の温度を1420℃とした。得られた造粒粉は、平均粒径120μm、比表面積0.2m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が0.5質量%、窒素が380質量ppm、ホウ素が260質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0034】
実施例9:
実施例6と同じ条件でタングステンの粗製粉を作製した。減圧高温下7×10
-4Pa、1360℃に40分間放置し、降温の途中1000℃で炉に窒素ガスを10kPaになるように導入して20分間保った。最後に室温で酸素5体積%、窒素95体積%の混合ガスを常圧で1時間炉中に通してから室温で炉外に取り出した。その後、ハンマーミルで解砕し、目開き320μmの篩により篩分けし、タングステン造粒粉を得た。このタングステン造粒粉に市販ゲルマニウム粉(平均粒径0.2μm)を7.2質量%となるように加えてよく混合し、減圧高温下7×10
-4Pa、1360℃に40分間放置し、降温の途中1000℃で、炉に窒素ガスを10kPaになるように入れ、20分間保った。最後に、窒素ガスで常圧に戻してから室温で炉外に取り出した。得られた造粒粉は、平均粒径100μm、比表面積1.6m
2/g、ゲルマニウムが3.6質量%、酸素が4.4質量%、窒素が0.14質量%、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0035】
実施例10:
実施例7で顆粒状の混合物を作るときに、ステアリン酸のトルエン溶液の代わりに、平均粒径0.2μmのゲルマニウム粉1gを分散させた水50mlを使用し、さらにリン酸を加えなかった以外は実施例7と同様にして平均粒径180μm、比表面積8.8m
2/gのタングステン造粒粉を得た。得られた造粒粉は、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が3.3質量%、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0036】
実施例11:
実施例8で、ホウ素が0.06質量%の添加量になるようにホウ素溶液を加えた以外は実施例8と同様にして造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径120μm、比表面積0.2m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が1.2質量%、窒素が400質量ppm、ホウ素が490質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0037】
実施例12:
実施例8でホウ素が0.005質量%の添加量になるようにホウ素溶液を加えた以外は実施例8と同様にして造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径120μm、比表面積0.2m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が1質量%、窒素が400質量ppm、ホウ素が20質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0038】
実施例13:
実施例7で加えるリン酸を0.3質量%になるように加えた以外は実施例7と同様にして造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径180μm、比表面積8.8m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が0.5質量%、炭素が300質量ppm、リンが480質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0039】
実施例14:
実施例7で加えるリン酸を0.005質量%になるように加えた以外は実施例7と同様にして造粒粉を得た。得られた造粒粉は、平均粒径180μm、比表面積8.8m
2/gであり、ゲルマニウムが0.5質量%、酸素が0.7質量%、炭素が300質量ppm、リンが2質量ppm、その他の不純物元素はいずれも350質量ppm以下であった。
【0040】
比較例1を除く各例における造粒粉をスパッタリングしてオージェ電子分光法により分析したところ、ゲルマニウム元素は造粒粉の粒子表面から粒子内部へ30nmまでの領域に存在することが分かった。
【0041】
各実施例における造粒粉をX線回析で分析を行ったところ、造粒粉の粒子表面領域より反応物としてゲルマニウム化タングステンWGe
2及びW
5Ge
3が検出された。
【0042】
以上の各例で作製した造粒粉を成形して大きさ1.8×3.0×3.5mmの成形体を作製した。この成形体には、直径0.29mmのタンタル線が1.8×3.0mmの面に垂直に植立していて、内部に2.8mm埋設され、外部に8mm出ている。この成形体を、前記のモリブデン電極の減圧高温炉中、1400℃で30分間真空焼結して質量145mgの焼結体を得た。
得られた焼結体を電解コンデンサの陽極体として用いた。陽極体を0.1質量%のリン酸水溶液中で9Vで2時間化成し、陽極体表面に誘電体層を形成した。誘電体層を形成した陽極体を30%硫酸水溶液中に漬け、白金黒を陰極として電解コンデンサを形成し、容量及びLC(漏れ電流)値を測定した。容量は、アジレント製LCRメーターを用い、室温、120Hz、バイアス2.5Vの条件で測定した。LC値は、室温で2.5Vを印加して30秒後に測定した。
各実施例・各比較例の結果を表1に示した。容量とLCの値は各例128個の平均値である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から、ゲルマニウム元素の含有量が0.05〜7質量%の範囲である実施例1〜5の電解コンデンサは、ゲルマニウム元素の含有量が上記範囲外の比較例1〜3に比べて、容量が大きくLCが小さいことが分かる。
また、実施例1〜5と実施例10の結果を較べると、酸素の含有量が3質量%程度と大きい場合には、LCが小さいままで容量が著しく大きくなることが分かる。
更に、実施例13と実施例14を較べると、炭素の含有量が300質量ppm程度と大きい場合には、LCが小さいままで容量が著しく大きくなることが分かる。
本発明は、粒子表面領域のみにゲルマニウム元素を有し、ゲルマニウム元素の含有量が0.05〜7質量%である、漏れ電流(LC)性能が良好な電解コンデンサ用のタングステン粉を提供する。タングステン粉の体積平均一次粒子径は0.1〜1μmで、その粒子表面から粒子内部へ50nm入った位置までの領域にゲルマニウム元素が局在し、粒子表面領域のみに、ケイ化タングステン、炭化タングステン、ホウ化タングステン、窒素が固溶化したタングステンの少なくとも1つを有し、リン元素の含有量が1〜500質量ppm、酸素含有量が0.05〜8質量%であることが好ましい。