【実施例】
【0052】
(実施例1)
次に、本発明の実施例を説明する。実施例1では、上記実施の形態で説明したセラミックス部材の製造方法により、原料ロットL2を使用し、原材料として窒化ホウ素(BN)を49.3(wt%)、酸化珪素(SiO
2)を24.8(wt%)、酸化マグネシウム(MgO)を19.6(wt%)使用し、焼結助剤として酸化イットリウム(Y
2O
3)を4.7(wt%)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を1.6(wt%)使用して、縦×横×厚さが90mm×90mm×20mmの焼結体を焼成した。焼成に当たっては、外力作用工程及び焼結工程をホットプレス焼結法によって一括して行った。ホットプレス焼結を行う際には、600mmHgの窒素雰囲気中で、面圧25MPaの焼結圧力にて一方向へプレス加圧し、焼結温度1,250℃で2時間焼結した。焼成後、焼結されたセラミックス部材に含まれる構成成分の存在をX線回折によって分析した。
【0053】
図8は、本実施例1で測定に使用した試験片を模式的に示す図であり、具体的には、焼結体101(破線で表示)からの試験片の切り出し方を模式的に示している。
図9は、試験片を用いて測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を示す図である。
図10は、試験片を用いて測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を示す図である。表1は、セラミックス部材の製造に使用した原材料の原料ロット番号、原材料と焼結助剤の各含有率(wt%)、焼結温度(℃)、焼結圧力(MPa)、焼成されたセラミックス部材に含まれる構成成分の存在、熱膨張係数、3点曲げ強度、配向度、配向度指数及び相対密度を示す表である。表2は、試験片を用いて20℃〜250℃の間の所定の温度帯域で測定した配向方向の熱膨張係数と加圧方向の熱膨張係数の温度との関係を示す表である。表1において、原料ロットの番号は、セラミックス部材の焼成に用いた原料ロットの違いを示す番号である。
【0054】
図8に示す2つの試験片102,103のうち、試験片102は窒化ホウ素粒子の配向方向の熱膨張測定用として作製したものであり、試験片103が加圧方向(配向方向と垂直な方向)の熱膨張測定用として作製したものである。このように切り出した試験片102を用い、JIS R 1618に準拠して熱膨張係数(×10
−6/℃)を測定し、JIS R 1601に基づく3点曲げ強度を測定した。その結果を、実施例1で使用した原材料の原料ロット番号、原材料と焼結助剤の各含有率(wt%)、焼結温度(℃)、焼結圧力(MPa)及び焼成されたセラミックス部材に含まれる構成成分の存在、配向度、配向度指数及び相対密度と共に表1に示す。表1において、原料ロット番号は、セラミックス部材の焼成に用いた原料ロットの違いを示す番号である。また、
図9及び
図10において実施例1の測定結果をそれぞれ点Ex1として示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例1のセラミックス部材(原料ロット:L1)は、エンスタタイト(MgSiO
3)、窒化ホウ素(BN)及びフォルステライト(2MgO・SiO
2)を構成成分として含んでおり、150℃における配向方向の熱膨張係数が4.7×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が216MPaであった。
【0057】
また、実施例1のセラミックス部材から切り出した2種類の試験片102,103に対し配向方向の熱膨張係数(×10
−6/℃)及び加圧方向の熱膨張係数(×10
−6/℃)を20℃〜250℃の間の所定の温度帯域で測定した。表2は、この測定結果を温度帯域ごとに示す図である。
【0058】
【表2】
【0059】
表2から、セラミックス部材の配向方向の熱膨張係数は20℃〜250℃の全ての温度帯域で(4.6〜5.0)×10
-6/℃程度であり、シリコンの熱膨張係数(3.4×10
-6/℃)に近い値を達成していることがわかる。他方、加圧方向の熱膨張係数は、(6.2〜6.6)×10
-6/℃程度であった。この結果、本実施例1に係るセラミックス部材には、熱膨張係数に関する異方性が発現していることが明らかとなった。
【0060】
上述した窒化ホウ素粒子の配向を更に明確に確認するため、焼成した実施例1のセラミックス部材を用いてX線回折の測定を行い、測定結果から窒化ホウ素の配向度(I.O.P.)及び配向度指数を求めた。窒化ホウ素の配向度(I.O.P.)及び配向度指数の値を表1に示す。
【0061】
表1に示すように、焼成されたセラミックス部材は、配向度がI.O.P.=0.15<1であることから、窒化ホウ素結晶のc軸が試料中で加圧方向と平行に配向し、焼成されたセラミックス部材の板面方向に沿って鱗片状の窒化ホウ素結晶の表面が配向していることが分かる。
【0062】
また、焼成されたセラミックス部材の相対密度(嵩密度)を測定したところ、99.9%であり、緻密な焼結体であることが分かった。
【0063】
一方、セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例1の焼結体から板厚が2.70mmのセラミックス部材を形成し、このセラミックス部材に対し、超鋼ドリルを用いたドリル加工により、500個の貫通孔をマトリックス状に形成した。ここでは、貫通孔の径を160μm(アスペクト比は2.70/0.160=16.9)、孔ピッチp(
図5参照)を200μmとすることができた。その結果、ピッチ精度として±5μmを達成することができた。この意味で、実施例1で製造したセラミックス部材は良好な加工性を有していることが確かめられた。
【0064】
(実施例2)
原料ロットL2を使用し、焼結温度を1,300℃に変え、実施例1の方法によって縦×横×厚さが90mm×90mm×5mmの焼結体を焼成した。焼成後、焼結されたセラミックス部材に含まれる構成成分の存在を実施例1と同様にしてX線回折によって分析した。その結果を、実施例1で使用した原材料と焼結助剤の各含有率(wt%)、焼結温度(℃)、焼結圧力(MPa)及び焼成されたセラミックス部材に含まれる構成成分の存在と共に表1に示す。
【0065】
そして、焼成したセラミックス部材から実施例1の試験片102に対応する試験片を切り出し、JIS R 1618に準拠した熱膨張係数(×10
−6/℃)と、JIS R 1601に基づく3点曲げ強度を測定した。また、焼成した実施例2のセラミックス部材を用いてX線回折の測定を行い、測定結果から窒化ホウ素の配向度(I.O.P.)及び配向度指数を求めた。熱膨張係数、3点曲げ強度、窒化ホウ素の配向度(I.O.P.)及び配向度指数の値を表1に併せて示す。また、焼成されたセラミックス部材について測定した相対密度(嵩密度)の値を表1に示す。更に、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex2として示す。
【0066】
表1に示すように、実施例2のセラミックス部材は、少なくとも窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、150℃における配向方向の熱膨張係数が3.3×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が216MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.04、配向度指数は1.38、相対密度は99.6%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0067】
焼成したセラミックス部材の加工性を確認するため、セラミックス部材に実施例1と同様にして貫通孔を加工した。その結果、本実施例2で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0068】
(実施例3)
原料ロットL3を使用し、焼結温度を1,250℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex3として示す。
【0069】
表1に示すように、実施例3のセラミックス部材は、窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が3.8×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が252MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.10、配向度指数は0.99、相対密度は99.9%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0070】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例3で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0071】
(実施例4)
原料ロットL3を使用し、焼結温度を1,250℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex4として示す。
【0072】
表1に示すように、実施例4のセラミックス部材は、少なくとも窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.3×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が249MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.13、配向度指数は0.87、相対密度は99.6%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0073】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例4で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0074】
(実施例5)
原料ロットL4を使用し、焼結温度を1,250℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex5として示す。
【0075】
表1に示すように、実施例5のセラミックス部材は、窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.1×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が234MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.13、配向度指数は0.88、相対密度は99.6%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0076】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例5で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0077】
(実施例6)
原料ロットL3を使用し、焼結温度を1,230℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex6として示す。
【0078】
表1に示すように、実施例6のセラミックス部材は、窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.1×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が249MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.12、配向度指数は0.93、相対密度は99.9%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0079】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例6で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0080】
(実施例7)
原料ロットL4を使用し、焼結温度を1,230℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex7として示す。
【0081】
表1に示すように、実施例7のセラミックス部材は、窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.1×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が246MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.13、配向度指数は0.90、相対密度は99.9%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0082】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例7で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0083】
(実施例8)
原料ロットL4を使用し、焼結温度を1,270℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex8として示す。
【0084】
表1に示すように、実施例8のセラミックス部材は、窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が3.9×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が239MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.12、配向度指数は0.91、相対密度は99.2%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0085】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例8で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0086】
(実施例9)
原料ロットL5を使用し、焼結温度を1,270℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex9として示す。
【0087】
表1に示すように、実施例9のセラミックス部材は、少なくとも窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.5×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が275MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.13、配向度指数は0.87、相対密度は99.8%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0088】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例9で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0089】
(実施例10)
原料ロットL5を使用し、焼結温度を1,300℃に変えたことを除き、実施例2と同様にして焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、実施例2と同様に分析し、測定した結果を原材料の含有率等と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ex10として示す。
【0090】
表1に示すように、実施例10のセラミックス部材は、少なくとも窒化ホウ素及びエンスタタイトを構成成分として含み、配向方向と平行な方向の熱膨張係数が4.3×10
−6/℃であり、3点曲げ強度が265MPaであった。また、配向度は、I.O.P.=0.12、配向度指数は0.93、相対密度は99.9%であり、窒化ホウ素結晶がセラミックス部材の板面に沿って配向し、緻密な焼結体であることが分かった。
【0091】
セラミックス部材の加工性を確認するため、実施例2と同様に貫通孔を形成した。その結果、本実施例10で製造したセラミックス部材は、実施例1で製造したセラミックス部材と同等の加工性を有することが確かめられた。
【0092】
(比較例1〜4)
次に、比較のため、原材料や焼結助剤の各割合(wt%)、焼結温度(℃)及び焼結圧力(MPa)を変化させることにより比較例1〜4のセラミックス部材を焼成し、焼成したセラミックス部材及び切り出した試験片について、含まれる構成成分の存在、熱膨張係数(×10
−6/℃)、3点曲げ強度、配向度、配向度指数及び相対密度(嵩密度)を実施例1〜10と同様にして測定した。測定結果を比較例1〜4で使用した原材料の含有率(wt%)、焼結助剤の含有率(wt%)、焼結温度(℃)、焼結圧力(MPa)と共に表1に示す。また、測定した熱膨張係数と焼結温度との関係を
図9に、測定した3点曲げ強度と焼結温度との関係を
図10に、それぞれ点Ce1〜Ce4として示す。
【0093】
表1に示すように、比較例1〜4のセラミックス部材は、少なくとも窒化ホウ素及びエンスタタイトを含んでいる。しかし、比較例1〜4のセラミックス部材は、熱膨張係数が(3〜5)×10
−6/℃の範囲を外れると共に、3点曲げ強度が200MPa〜300MPaの範囲を外れているもの(比較例1)、熱膨張係数が(3〜5)×10
−6/℃の範囲を外れているもの(比較例3)、3点曲げ強度が200MPa〜300MPaの範囲を外れているもの(比較例2,4)であった。