(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750279
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】列車制御用信号受信装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20150625BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
B60L15/40 A
B61L3/12 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-46314(P2011-46314)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-186878(P2012-186878A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 和広
(72)【発明者】
【氏名】林 忠宏
【審査官】
久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−194948(JP,A)
【文献】
特開平11−055164(JP,A)
【文献】
特開2007−185045(JP,A)
【文献】
特開2006−160161(JP,A)
【文献】
特開2001−233211(JP,A)
【文献】
特開2008−001348(JP,A)
【文献】
特開昭55−122177(JP,A)
【文献】
特開平04−344478(JP,A)
【文献】
特開2005−229789(JP,A)
【文献】
特開2012−121400(JP,A)
【文献】
米国特許第04038653(US,A)
【文献】
米国特許第05451941(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12、
7/00−13/00、
15/00−15/42、
B61L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車上子と地上子との電磁結合により前記車上子の二次側に送られるスペクトラム拡散信号からなる受信信号のピーク周波数と、前記地上子の共振周波数との差が、予め定める許容値以下であり、且つ、前記受信信号のピーク周波数のQ値が、予め定める上下限値の範囲内である場合に、前記受信信号は正規の信号であると判定し、
前記差が前記許容値を超える場合、前記受信信号は異常な信号であると判定する列車制御用信号受信装置。
【請求項2】
前記ピーク周波数における受信レベルと前記ピーク周波数から予め定める周波数だけ隔てた周波数における受信レベルとの差分値を算出すると共に、Q値と差分値との対応関係を示すデータを予め保存するデータテーブル内の前記データに基づいて前記算出した差分値に対応するQ値を求めることを特徴とする請求項1に記載の列車制御用信号受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御用信号受信装置に関し、特に、受信した信号が列車制御用の正規の信号であるか否かを判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ATSやATC等の列車制御装置は、列車に搭載された車上子と、軌道に沿って配置された地上子とを電磁結合させることにより、車上側から地上側に信号を送信し、地上側において所定の制御を行うと共に、地上側から車上側に信号を送信し車上側で所定の制御を行っている。そして、車上側の受信装置(以下、「列車制御用信号受信装置」と言う)は、一般的に、地上側からの信号を検出する方式として変周方式を用いていたが、近年、地上装置の受信装置としても使用可能な汎用性を確保すると共に地上子の共振周波数が変動しても確実に信号を受信することができるようにするために、信号送出の方式としてスペクトラム拡散方式を採用するようになったことに伴い、地上側からの信号を検出する方式は、変周方式から、スペクトラム拡散方式による信号に対応した方式に移行されている。
【0003】
この種の、スペクトラム拡散方式による信号に対応した信号検出の方式を適用した列車制御用信号受信装置としては、例えば、特許文献1等に記載されたものがある。特許文献1に記載された車上側の列車制御用信号受信装置においては、列車が地上子上を通過すると車上子と地上子が電磁結合し、この際、車上子の二次側から送られる受信信号は、地上子の周波数に対応した周波数においてピーク性を有する周波数分布を示す。そして、この列車制御用信号受信装置は、ピーク周波数における受信レベルが一定のレベルを超えた場合に、地上子からの列車制御用信号を受信したものと判断するように構成されている。このように、従来の列車制御用信号受信装置は、受信レベルが所定のレベルを超えたか否かに基づいて、地上子との電磁結合による列車制御用信号の有無を検知する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−28877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1等に記載される従来の車上側に搭載される列車制御用信号受信装置おいて、例えば、地上子の共振周波数と同じ周波数又はそれに近似した周波数のインパルスノイズを受信した場合には、地上子の共振周波数近傍において受信信号の受信レベルが局所的に上昇してしまうことがある。また、軌道上の鉄板、又は軌道下の鉄筋コンクリート床(スラブ)内の鉄筋などの物体が存在していた場合には、列車の車上子がこの物体上を通過すると、受信信号の受信レベルが受信信号の全周波数にわたり全体的に上昇してしまうことがある。したがって、従来の列車制御用信号受信装置は、列車制御用信号の検知を単に受信レベルが所定のレベルを超えたか否かに基づいて行っているため、インパルスノイズや軌道上の鉄板等に起因して受信レベルが上昇してしまう場合、車上子と地上子とが電磁結合していないにもかかわらず、列車制御用の信号を受信したと判断してしまうおそれがあり、信号の誤検知を招いて不適当な制御を行う可能性があるという問題を有している。
【0006】
本発明は前記問題点に着目してなされたもので、外部からのインパルスノイズや、軌道上の鉄板等に起因する受信レベルの上昇が発生する可能性がある環境においても、受信信号が正規の信号であるか否かを適正に判定することができ、信号の誤検知による不適当な制御を確実に防止することのできる列車制御用信号受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明による列車制御用信号受信装置は、
車上子と地上子との電磁結合によ
り前記車上子の二次側に送られる
スペクトラム拡散信号からなる受信信号の
ピーク周波数と、前記地上子の共振周波数との差が、予め定める許容値以下であり、且つ、前記受信信号のピーク周波数のQ値
が、予め定める上下限値の範囲内である場合に、前記受信信号
は正規の信号であると判定
し、前記差が前記許容値を超える場合、前記受信信号は異常な信号であると判定することを特徴とする。
【0008】
このような構成により、車上子と地上子との電磁結合によ
り車上子の二次側に送られる
スペクトラム拡散信号からなる受信信号の
ピーク周波数と、前記地上子の共振周波数との差が、予め定める許容値以下であり、且つ、ピーク周波数のQ
値が予め定める上下限値の範囲内である場合に、受信信号
は正規の信号であると判定
し、前記差が前記許容値を超える場合、前記受信信号は異常な信号であると判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の列車制御用信号受信装置によれば、
受信信号のピーク周波数と、前記地上子の共振周波数との差が、予め定める許容値以下であり、且つ、ピーク周波数のQ値が予め定める上下限値の範囲内である場合に、車上子の二次側に送られる受信信号が地上子と車上子との電磁結合による正規の信号であると判定することができる。したがって、正規の信号であると判定するためのQ値の範囲を適切に設定しておくことにより、例えば、外部からのインパルスノイズ等に起因するQ値の高い外乱や、地上側に敷設されている鉄板等に起因するQ値の低い外乱が発生した場合においても、正規の信号を受信したと誤って判断することはない。このようにして、信号の誤検知を確実に防止することができ、適正な制御を行うことが可能な列車制御用信号受信装置を提供することができる。
また、例えば、地上子が有する共振周波数と大きく異なる周波数のインパルスノイズが発生している場合においては、ピーク周波数と地上子の共振周波数との差が許容値を超えたことを検出し、Q値を算出するまでもなく、受信信号は異常な信号であると判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る列車制御用信号受信装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態において、車上子と地上子との電磁結合により受信レベルが上昇した場合の、受信レベルの波形を示すグラフである。
【
図3】本実施形態において、インパルスノイズにより地上子の共振周波数近傍の受信レベルが上昇した場合の、受信レベルの波形を示すグラフである。
【
図4】本実施形態において、鉄板等により受信レベルが上昇した場合の、受信レベルの波形を示すグラフである。
【
図5】本実施形態に係る列車制御用信号受信装置の制御動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る列車制御用信号受信装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、前記列車制御用信号受信装置の実施形態を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の列車制御用信号受信装置は、スペクトラム拡散信号を出力する信号発生手段1と、前記スペクトラム拡散信号が供給される車上子2と、信号検出手段3と、判定手段4とを備えて構成されている。なお、本実施形態において、列車制御用信号受信装置は、列車5を制御する列車制御装置の車上装置10を構成するものでもあり、また、信号発生手段1と車上子2は、一般的な車上装置10における列車制御用信号送信装置を構成するものでもある。
【0012】
前記信号発生手段1は、車上情報に基づいて所定の周波数信号を拡散変調して、スペクトラム拡散信号として出力するものであり、列車5に搭載された車上装置10に設けられており、変調器6と信号発生回路7と第1接続トランス8とを備えて構成されている。
【0013】
前記変調器6は、車上子2から列車の走行する軌道に沿って設けられた地上子9に送出するための車上情報を生成するものであり、信号発生回路7と接続されており、車上情報を信号発生回路7に出力する。
【0014】
前記信号発生回路7は、変調器6から出力された車上情報に基づいて所定の周波数信号を拡散変調して、スペクトラム拡散信号を出力するものである。このスペクトラム拡散信号は、例えば、後述する
図4に発信信号として示したように、地上子9が有する共振周波数f(例えば、103kHz)を中心として、列車制御に使用する周波数帯域を含むように広帯域に拡散された周波数特性を示す。
【0015】
前記第1接続トランス8は、信号発生回路7と接続されており、信号発生回路7から出力されるスペクトラム拡散信号を車上子2へ出力するものである。
【0016】
前記車上子2は、信号発生手段1からのスペクトラム拡散信号が供給されるものであり、一次側コイル2aと二次側コイル2bとを備えて構成されており、列車5の先端下部に設けられている。車上子2の一次側コイル2aは、第1接続トランス8を介して、信号発生回路7と接続されている。車上子2の二次側コイル2bは、後述する第2接続トランス11の一次側と接続している。信号発生手段1で生成されたスペクトラム拡散信号は、車上子2の一次側コイル2aを介して、地上側へ送出されると共に、二次側コイル2bにも送出される。列車5が地上子9上を通過すると車上子2と地上子9は電磁結合し、この際、車上子2の二次側コイル2bから第2接続トランス11に送られる受信信号(スペクトラム拡散信号)は、地上子9の共振周波数に対応した周波数においてピーク性を有する周波数分布を示し、そのスペクトルエネルギー密度が変化する。
【0017】
前記信号検出手段3は、車上子2と地上子9との電磁結合により車上子2の二次側コイル2bに送られる受信信号の受信レベルを検出するものであり、第2接続トランス11とA/D変換回路12とFFT演算処理部13と信号検出部14を備えて構成されている。
【0018】
前記第2接続トランス11は、前述したように車上子2の二次側コイル2bと接続しており、車上子2の二次側コイル2bからの信号をA/D変換回路12に出力する。
【0019】
前記A/D変換回路12は、第2接続トランス11の二次側に接続されており、第2接続トランス11の二次側から得られるアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。
【0020】
前記FFT演算処理部13は、A/D変換回路12によってデジタル信号に変換された受信信号を一定時間毎にサンプリングして周波数分析を行い、周波数毎の受信レベルを演算し、信号検出部14へ出力する。
【0021】
前記信号検出部14は、従来と同様に地上からの受信信号の有無を検出するしきい値としての最小動作レベルを予め設定し、FFT演算処理部13の出力信号内に最小動作レベルを超える受信レベルの信号が有るか否かを検出する。信号検出部14は、判定手段4と接続しており、最小動作レベル以上の受信レベルを検出すると、FFT演算処理部13からの周波数毎の受信レベルの信号を判定手段4に出力する。
【0022】
前記判定手段4は、最小動作レベル(しきい値)以上の受信レベルが信号検出手段3により検出された場合に、受信信号のピーク周波数f0のQ値を算出し、このQ値が予め定める上下限値の範囲内である場合に、受信信号は地上子9と車上子2との電磁結合による正規の信号であると判定するものである。具体的には、判定手段4は、例えば、CPUによって構成されており、信号検出部14から出力される信号に基づきピーク周波数f0を検出し、該ピーク周波数f0のQ値を算出する。ピーク周波数f0は、FFT演算処理部13により演算される受信信号の周波数毎の受信レベルのうち最大の受信レベルを示す周波数であり、地上子9が有する共振周波数f(例えば、103kHz)と一致する。なお、地上子9の共振周波数fは地上子9の経年変化等によりわずかに変動することがあるため、ピーク周波数f0もその変動に応じてわずかに変動する。また、判定手段4は、例えば、検出したピーク周波数f0と、予め記憶した地上子9の共振周波数fとの差を演算し、この差が前述した地上子9の共振周波数fのわずかな変動等を考慮して定める許容値内であるか否かを判定するように構成されている。判定手段4は、例えば、予め記憶した地上子9の共振周波数fとの差が、許容値以下である場合は、前述したようにQ値の算出をし、許容値を超える場合は、Q値を算出するこのなくノイズを受信したものと判定するように構成されている。
【0023】
ここで、Q値とは、ピーク周波数f0の尖鋭度を示す値であり、Q値が大きいほど尖鋭度が高く、Q値が小さいほど尖鋭度は低い。Q値は、ピーク周波数f0の受信レベルから3dBv下がった受信レベルに対応する周波数f1,f2(ピーク周波数f0の上下近傍の周波数)とピーク周波数f0に基づいて一般的に定義される値とし、以下の式で表されるものである。
Q=f0/(f2−f1)・・・・・・式(1)
また、Q値の下限値Qminは、軌道上の鉄板等に起因する尖鋭度の低い外乱に対応して適切に設定され、また、Q値の上限値Qmaxはインパルスノイズ等に起因する尖鋭度の高い外乱に対応して適切に設定されている。
【0024】
本実施形態において、判定手段4は、前記式(1)に基づく一般的な方法によってQ値を直接算出するのではなく、データテーブルに基づいてQ値を算出する構成である。具体的には、判定手段4は、
図2に示すように、ピーク周波数f0における受信レベルとピーク周波数f0から予め定める周波数dfだけ隔てた上下近傍の周波数(f1,f2)における受信レベルとの差分値(α、β)をそれぞれ算出すると共に、Q値と差分値との対応関係を示すデータを予め保存するデータテーブル内のデータに基づいて算出した差分値に対応するQ値を求めるように構成されている。ここで、予め定める周波数dfは、FFT演算処理部13等の周波数分解能に応じて任意に設定することができ、例えば、1kHzに設定されている。このような構成により、本実施形態における判定手段4は、ピーク周波数f0における受信レベルと周波数f1における受信レベルとの差分値αと、ピーク周波数f0における受信レベルと周波数f2における受信レベルとの差分値βとを求め、求めた各差分値を加算し、その加算値(α+β)と対応付けられたQ値をデータテーブルより読み出すことによりQ値を求める。
【0025】
判定手段4は、
図2に示すように、算出したQ値が下限値Qminと上限値Qmaxの範囲内である場合には、正規の信号が入力されたと判定し、例えば、図示省略の出力制御部に判定結果を出力する。そして、この出力制御部は、判定手段4から得られた判定結果に基づいて列車の駆動モータやブレーキ等の所定の機器に対する制御信号を出力する。
【0026】
また、判定手段4は、
図3に示すように、算出したQ値が上限値Qmaxより大きい場合は、外部から地上子9の共振周波数(スペクトラム拡散信号の中心周波数)と同じ周波数又はそれに近似した周波数のインパルスノイズを受信し、受信信号の受信レベルがそのインパルスノイズによって上昇してしまったと判定し、受信信号は異常な信号であると判断する。この場合、例えば、前述した出力制御部への受信信号の出力を行わないようにして、異常信号による不適切な列車の制御を防止する。また、図示しないが、地上子9が有する共振周波数fと大きく異なる周波数のインパルスノイズが発生している場合においては、判定手段4は、前述したように検出したピーク周波数f0と予め記憶した地上子9の共振周波数fとの差が許容値を超えたことを検出し、Q値を算出するまでもなく、受信信号は異常な信号であると判断する。
【0027】
そして、判定手段4は、
図4に示すように、算出したQ値が下限値Qminより小さい場合は、軌道上の鉄板等の地上子9以外の物体により受信レベルが全体的に高くなったものと判定し、受信信号は異常な信号であると判断し、Q値が上限値Qmaxより大きい場合と同様にして、不適切な列車の制御を防止する。
【0028】
また、軌道に沿って設けられた前述した地上子9は、軌道の所定箇所に所定の間隔を保って複数個設けられるものである。地上子9は、車上子2と電磁結合したときに車上装置10の信号発生手段1で生成されたスペクトラム拡散信号を地上装置20に出力できるように構成されている。地上装置20は、信号発生回路7から出力されたスペクトラム拡散信号に基づいて車上情報を認識し、この車上情報は、各種列車5の制御に利用される。また、地上子9は、共振回路により構成されている。このように構成することにより、地上子9と車上子2が電磁結合した際に、車上子2の二次側コイル2bから第2接続トランスに送られる受信信号(スペクトラム拡散信号)のスペクトルエネルギー密度を、地上子9の共振周波数に対応して変化させている。車上装置10は、車上子2の二次側コイル2bより受信されたスペクトラム拡散信号に基づいて地上子9からの信号を認識し、この地上子9からの信号は、前述した出力制御部へ出力されて、列車5の駆動モータやブレーキ等の所定の機器制御に利用される。
【0029】
次に、本実施形態に係る列車制御用信号受信装置の制御動作について
図5に示すフローチャートを参照して説明する。なお、以下の説明において、インパルスノイズの周波数と地上子9の共振周波数fとの差は、前述した地上子9の共振周波数fのわずかな変動等を考慮して定める許容値内であるものとして説明する。
【0030】
列車5の運転開始により車上装置10の電源が投入されると(STEP1;Yes)、変調器6は、所定の車上情報を生成して信号発生回路7に出力する。信号発生回路7は、変調器6からの車上情報に基づいて、所定の周波数信号を拡散変調させたスペクトラム拡散信号を生成し(STEP2)、第1接続トランス8を介して車上子2に出力する(STEP3)。そして、列車5の走行により車上子2が地上子9に電磁結合されると、スペクトラム拡散信号がその地上子9で受信され、受信されたスペクトラム拡散信号は、地上装置20に出力され、地上装置20における列車制御用の車上情報として用いられる。また、車上子2の二次側コイル2bから受信信号が入力されると、受信信号は、第2接続トランス11を介してA/D変換回路12に出力され、A/D変換回路12によりデジタル信号に変換される。そして、デジタル変換された受信信号は、FFT演算処理部13により一定時間毎にサンプリングして周波数の分析処理が行われ、信号検出部14により、このFFT演算処理部13の出力が検波され、受信レベルがしきい値以上である場合(STEP4;Yes)は、FFT演算処理部13からの周波数毎の受信レベルの信号が判定手段4に出力される。次に、判定手段4は、ピーク周波数f0を検出し、検出したピーク周波数f0における受信レベルと、ピーク周波数f0から予め定める周波数dfだけ隔てた上下近傍の周波数(f1,f2)における受信レベルとの差分値(α、β)をそれぞれ算出し、各差分値(α、β)を加算し、その加算して算出した差分値(α+β)に対応するQ値をデータテーブル内のデータに基づいて算出する(STEP5)。そして、このQ値が下限値Qmin以上の場合(STEP6;Yes)は、次のステップへ進み、STEP7において、Q値が上限値Qmax以下の場合(STEP7;Yes)は、受信信号は地上子と車上子との電磁結合による正規の信号であると判定し(STEP8)、受信信号に基づき車上側の制御を行うように前述した出力制御部へ信号を出力する(STEP9)。そして、車上装置10の電源が遮断されていない場合はSTEP2に戻り(STEP10;No)、車上装置10の電源が遮断されると制御動作は終了する(STEP10;Yes)。また、STEP6においてQ値が下限値Qminより小さい場合(STEP6;No)は、軌道上の鉄板等に起因する信号誤検知と判定し(STEP11)、STEP7においてQ値が上限値Qmaxより大きい場合(STEP7;No)は、外部からのインパルスノイズに起因する信号誤検知と判定し(STEP12)、いずれの場合(STEP6;No、及びSTEP7;No)も受信信号は地上子と車上子との電磁結合による正規の信号ではないと判定し(STEP13)、STEP10へ進む。なお、STEP4において受信レベルがしきい値未満である場合(STEP4;No)も、上記同様、受信信号は地上子と車上子との電磁結合による正規の信号ではないと判定し(STEP13)、STEP10へ進む。
【0031】
なお、本実施形態のように、判定手段4をデータテーブルに基づいてQ値を間接的に算出する構成にすることにより、FFT演算処理部13の周波数分解性能が低く、ピーク周波数f0の受信レベルから3dBv下がった受信レベルに対応する周波数を算出できない場合であっても、インパルスノイズのように極めて高いQ値を算出することができる。このように、本実施形態における列車制御用信号受信装置は、比較的コストの低い低分解能のFFT演算処理部13を用いることができるため、コストを高めることなく極めて高いQ値をも算出することができる。
【0032】
以上全ての説明において、判定手段4は、データテーブルに基づいてQ値を間接的に算出する構成で説明したが、これに限らず、ピーク周波数f0の受信レベルから3dBv下がった受信レベルに対応する周波数を算出可能な高分解能のFFT演算処理部13を用いて、Q値を直接前記式(1)に基づいて算出する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 信号発生手段
2 車上子
2b 車上子の二次側(車上子の二次側コイル)
3 信号検出手段
4 判定手段
5 列車
9 地上子