特許第5750293号(P5750293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750293表面濡れ性改質を行った非晶質炭素膜構造体、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750293
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】表面濡れ性改質を行った非晶質炭素膜構造体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20150625BHJP
   B05D 1/32 20060101ALI20150625BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150625BHJP
   B05C 5/00 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B05D1/32 Z
   B05D7/24 302Y
   !B05C5/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-87816(P2011-87816)
(22)【出願日】2011年4月11日
(65)【公開番号】特開2011-230505(P2011-230505A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2014年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-90052(P2010-90052)
(32)【優先日】2010年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593135365
【氏名又は名称】太陽化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】澁澤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5628893(JP,B2)
【文献】 特開2005−088422(JP,A)
【文献】 特開2005−096269(JP,A)
【文献】 特開2010−067637(JP,A)
【文献】 特開2010−012719(JP,A)
【文献】 特開2009−107314(JP,A)
【文献】 特開2009−113351(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108625(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04− 7/06
B05D 1/00− 7/26
B05C 5/00− 5/04
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された、ケイ素を含有し、さらに少なくとも膜の表面に窒素又は窒素と酸素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜の表面の少なくとも一部に、フッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする濡れ性改質構造体。
【請求項2】
基材と、該基材の表面に形成された、ケイ素を含有し、さらに少なくとも膜の表面に酸素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜の表面の一部に、フッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする濡れ性改質構造体。
【請求項3】
基材と、該基材の表面に形成されたケイ素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜を窒素又は窒素と酸素の混合物を用いてプラズマ処理して得られたプラズマ処理表面と、該プラズマ処理表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体。
【請求項4】
基材と、該基材の表面に形成されたケイ素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜を酸素を用いてプラズマ処理して得られたプラズマ処理表面と、該プラズマ処理表面の一部にフッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体。
【請求項5】
前記プラズマ処理により、前記非晶質炭素膜に窒素又は酸素或いは両者が含有されていることを特徴とする請求項又はに記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項6】
前記濡れ性改質構造体の表面の前記薄膜を有しない部分は、前記薄膜を有する部分に比較して高い濡れ性を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項7】
前記濡れ性改質構造体の表面の前記薄膜を有しない部分は、水との接触角が65°以下であることを特徴とする請求項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項8】
前記非晶質炭素膜が、Si−O結合を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項9】
前記非晶質炭素膜は、フーリエ変換赤外分光法による測定(FT−IR測定)で、波数1300(cm−1)付近のピークから、Si−O結合が検出されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項10】
前記薄膜がフッ素を含有するシランカップリング剤からなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項11】
前記構造体が液体吐出用ノズルであって、前記薄膜が形成された部分が、液体吐出面となる部分であり、ノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性の内壁を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の表面濡れ性改質構造体。
【請求項12】
基材に、原料ガスにケイ素を含有する炭化水素化合物を用いてプラズマCVD法により非晶質炭素膜を形成する工程と、該非晶質炭素膜を窒素又は酸素或いは両者の混合物を用いてプラズマ処理する工程と、所定箇所にマスクを形成する工程と、フッ素を含有するシランカップリング剤により薄膜を形成する工程と、前記マスク及び該マスク上の前記薄膜を除去する工程を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体の製造方法。
【請求項13】
前記原料ガスが、さらに酸素原子を含有することを特徴とする請求項12に記載の表面濡れ性改質構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に、濡れ性の高い表面と濡れ性の低い表面の両表面を設けた構造体に関し、特に、基材上にプライマー層として非晶質炭素膜からなる層を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド様炭素膜(以下、「DLC膜」ということもある。)等の非晶質炭素膜は、耐摩耗性、耐酸化性などを有し、かつ高硬度を有する膜であるため、各種デバイスの保護膜をはじめとして種々な分野で用いられており、該非晶質炭素膜の上に、更に撥水撥油性の層を設けて潤滑性を向上させることにより、より広範囲の分野での利用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、種々の固体上物質の表面に作製したDLC膜表面に、さらにフッ素コートを施して、撥水性・撥油性や耐摩耗性、耐薬品性、低摩擦性、非粘着性等の高機能を付与する際に、フッ素ガスを使用せずに、極安定パーフルオロアルキルラジカルを有効成分とする表面処理剤を用いることが記載されている。
【0004】
また、インクジェットプリンターの液滴突出ノズル表面に於いて、ノズル孔の出口までの内壁に親水性の保護膜を形成し、滴吐出面側には撥水性の保護膜を形成することで、インクジェットノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性であり、液滴吐出面側は撥水性とすることで、液滴吐出面への吐出液残留がなく、飛行曲がりのない良好な吐出特性を有するノズルを得ることができるとする特許文献がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、インクジェット記録装置におけるシリコン製ノズル基板に関し、ノズル内壁及び接合面にかけてDLC膜からなる耐吐出液保護膜を形成し、ナノインプリントにて凹凸を形成した樹脂を表層に形成した後、Oプラズマアッシングによって、液滴吐出面の保護膜表面に高さが数十nm〜数μmの微細な凹凸を形成して、構造撥水性を付与し、更に該保護膜の全面にディッピングにより、フッ素含有ケイ素化合物からなる撥水層を形成し、その後、非晶質炭素膜の全面に形成された該フッ素含有ケイ素化合物からなる撥水層のうち、親水性が必要な部分にのみアルゴンガスプラズマ処理を再度行なうことで、撥水性と親水性の部位を有するインクジェット記録装置におけるシリコン製ノズル基板を形成することが記載されている。
同様に、特許文献3には、インクジェット記録装置におけるノズル基板に関し、窒素を導入したDLC膜からなる親水性の膜を形成し、液吐出側の面には、撥水処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−146060号公報
【特許文献2】特開2009−113351号公報
【特許文献3】特開2009−297946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェットプリンターのインクノズル、内燃機関の燃料噴射ノズル、塗料や印刷用ペーストなどを突出させるディスペンサノズルなど、液体を充填し誘導させる管又は流路の内壁部分には、濡れ性の高い表面が必要とされる一方で、該液体が噴出される外部表面には、液ダレ付着防止や汚れ付着防止などを目的として、濡れ性が低い表面であることが同時に求められるものがある。さらに、残留液体を拭き取るために繰り返しワイピングがされるため、耐摩耗性等の耐久性も必要とされる。また、上記管又は流路の内壁部分及び外部表面は、使用する液体やスラリー等に含まれる顔料、特に金属微粉やセラミクス微粉などの固いものを含む場合もあり、構造体自体が摩擦・磨耗変形しにくく、繰り返しの洗浄等にも耐える耐久性も必要とされる。
【0008】
これまでの非晶質炭素膜に形成された撥水撥油層はその維持耐久性に乏しいことが確認された。
例えば、市販の各種フッ素系潤滑剤は基材への定着性が悪いという問題がある。
また、特許文献1及び特許文献2に記載されたフッ素を含有するシランカップリング剤は、基材表面の官能基との脱水縮合反応を利用するものであるが、検証の結果、非晶質炭素膜へのフッ素を含有するシランカップリング剤の保持力が充分でないために、撥水撥油性の維持耐久性に課題があることが確認できている。
さらに、非晶質炭素膜の表層に親水性を付与する方法として、特許文献2記載の、形成された非晶質炭素膜表面をアルゴンガスプラズマにて後処理する方法、また、特許文献3記載の非晶質炭素膜を形成する際の原料ガスに窒素ガスを混合して非晶質炭素膜を形成する方法では、元来撥水性に近い水との濡れ性(接触角)を示す通常の非晶質炭素膜表面に対して十分な親水性を付与することはできない。
【0009】
本発明は、こうした従来技術における課題を解決するものであって、同一構造体において、所望の部分に、濡れ性の高い部分と低い部分が形成されていると同時に、使用用途上予期される、物理的外力(摩擦力など)にも耐える構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、非晶質炭素膜(DLC膜)として、ケイ素(Si)を含有する非晶質炭素膜の少なくとも表面に、酸素、または窒素、または酸素及び窒素の双方を含有させることで改質して用いることにより、上記課題を解決しうることを見いだした。また、ケイ素を含む炭化水素系の原料ガスにて非晶質炭素膜を成膜した後、該非晶質炭素膜表面を、窒素又は酸素或いはそれらの混合物を用いてプラズマ処理し、該表面に脱水縮合反応、水素結合等にて、非晶質炭素膜と化学的な結合を起こし、数十nmのフッ素を含む薄膜層を形成可能なフッ素含有シランカップリング剤等のフッ素コート剤を濡れ性の低いことが要求される箇所に塗布することで、濡れ性が高いことが要求される他の部分の高い濡れ性を維持しつつ、硬く耐摩耗性、摺動性に優れた構造体を得ることができることが確認できた。
【0011】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]基材と、該基材の表面に形成された、ケイ素を含有し、さらに少なくとも膜の表面に窒素又は窒素と酸素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜の表面の少なくとも一部に、フッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする濡れ性改質構造体。
[2]基材と、該基材の表面に形成された、ケイ素を含有し、さらに少なくとも膜の表面に酸素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜の表面の一部に、フッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする濡れ性改質構造体。
[3]基材と、該基材の表面に形成されたケイ素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜を窒素又は窒素と酸素の混合物を用いてプラズマ処理して得られたプラズマ処理表面と、該プラズマ処理表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体。
[4]基材と、該基材の表面に形成されたケイ素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜を酸素を用いてプラズマ処理して得られたプラズマ処理表面と、該プラズマ処理表面の一部にフッ素を含有し、前記非晶質炭素膜と化学結合するカップリング剤からなる薄膜を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体。
[5]前記プラズマ処理により、前記非晶質炭素膜に窒素又は酸素或いは両者が含有されていることを特徴とする[]又は[]に記載の表面濡れ性改質構造体。
[6]前記濡れ性改質構造体の表面の前記薄膜を有しない部分は、前記薄膜を有する部分に比較して高い濡れ性を有することを特徴とする[1]〜[]のいずれかに記載の表面濡れ性改質構造体。
[7]前記濡れ性改質構造体の表面の前記薄膜を有しない部分は、水との接触角が65°以下であることを特徴とする[]に記載の表面濡れ性改質構造体。
[8]前記非晶質炭素膜が、Si−O結合を有することを特徴とする[1]〜[]のいずれかに記載の表面濡れ性改質構造体。
[9]前記非晶質炭素膜は、フーリエ変換赤外分光法による測定(FT−IR測定)で、波数1300(cm−1)付近のピークから、Si−O結合が検出されることを特徴とする[1]〜[]のいずれかに記載の表面濡れ性改質構造体。
[10]前記薄膜がフッ素を含有するシランカップリング剤からなることを特徴とする[1]〜[]のいずれかに記載の表面濡れ性改質構造体。
[11]前記構造体が液体吐出用ノズルであって、前記薄膜が形成された部分が、液体吐出面となる部分であり、ノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性の内壁を有することを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の表面濡れ性改質構造体。
[12]基材に、原料ガスにケイ素を含有する炭化水素化合物を用いてプラズマCVD法により非晶質炭素膜を形成する工程と、該非晶質炭素膜を窒素又は酸素或いは両者の混合物を用いてプラズマ処理する工程と、所定箇所にマスクを形成する工程と、フッ素を含有するシランカップリング剤により薄膜を形成する工程と、前記マスク及び該マスク上の前記薄膜を除去する工程を有することを特徴とする表面濡れ性改質構造体の製造方法。
[13]前記原料ガスが、さらに酸素原子を含有することを特徴とする[12]に記載の表面濡れ性改質構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、同一構造体において、所望の部分に、濡れ性の高い部分と低い部分が形成されていると同時に、使用用途上予期される、物理的外力(摩擦力など)にも耐える構造体を簡単な方法で形成でき、しかも形成されたフッ素を含む薄膜層と非晶質炭素膜とが優れた密着性を有している構造体を得ることができる。さらには、該構造体を、インクジェットノズルなどのノズルに適用することにより、ノズル内壁に濡れ性の高い表面を有するとともに、液体吐出外表面には、密着性及び耐久性に優れた濡れ性の低い表面を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例1の、Siを含まず、さらにプラズマ処理も施されていない非晶質炭素膜の場合の、水との接触角の測定結果を示す図。
図2】比較例2の、Siを含むが、プラズマ処理を施されていない非晶質炭素膜の場合の、水との接触角の測定結果を示す図。
図3】比較例3の、Siを含まないが、酸素プラズマ処理が施されている非晶質炭素膜の場合の、水との接触角の測定結果を示す図。
図4】実施例1における、水との接触角の測定結果を示す図。
図5】実施例2における、水との接触角の測定結果を示す図。
図6】実施例3における、水との接触角の測定結果を示す図。
図7】実施例4における、水との接触角の測定結果を示す図。
図8】実施例5における、水との接触角の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の表面濡れ性改質構造体は、基材と、基材表面に形成されたケイ素を含有する非晶質炭素膜と、該非晶質炭素膜を窒素又は酸素或いは両者の混合物を用いてプラズマ処理して得られたプラズマ処理表面と、更に該プラズマ処理表面の一部にフッ素を含有するシランカップリング剤により形成された薄膜を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の前記非晶質炭素膜が形成される基材の材質及び形状は、特に限定されず、構造体の使用目的に応じて適宜用いることができる。
また、本発明において、前記非晶質炭素膜を、ある程度の凹凸を伴う基材の上に成膜した場合には、外部からの物理的な摩擦などに対して硬い非晶質炭素膜で被覆された凸部が、凹部の状態を非接触として保護してくれるため、該非晶質炭素膜の表面に形成される表面濡れ性改質状態の耐久性が向上するという効果が得られる。
さらに。非晶質炭素膜表面上の一部に形成される親水性表面は、硬い非晶質炭素膜上に形成されているため、使用に伴う表面粗さの変動(キズなどによる粗化)を起しにくく、
基材の物理的な表面粗さの変動に伴う濡れ性の経時変化を抑制することができる。
【0016】
本発明において、基材の上に形成されるシリコンを含有する非晶質炭素(a−C:H:Si)膜は、炭素(c)、水素(H)、及びケイ素(Si)を主成分とするものであって、膜中の、Si含有量は、4〜50原子%、好ましくは、10〜40原子%である。
本発明のa−C:H:Si膜を形成するには、ケイ素を含有する炭化水素系の反応ガスにより成膜する方法である、プラズマCVD法を用いるのが好ましく、該ケイ素を含有する炭化水素系の反応ガスとしては、テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサンなどが用いられる。
【0017】
また、本発明においては、前記a−C:H:Si膜に、さらに、酸素原子(O)を非晶質炭素膜の堆積時に同時に含有させた、a−C:H:Si:O膜を用いることができる。膜中のO含有量は、非晶質炭素膜製作時のSiを含む炭化水素系の反応ガスへの酸素(O)の混合量で、Siを含む主原料ガスと酸素を加えた総流量中酸素の流量割合が0.01〜12%、更に好ましくは0.5〜10%である。
【0018】
前記a−C:H:Si:O膜を形成するには、前記a−C:H:Si膜と同様、プラズマCVD法を用いるのが好ましい。
以下、プラズマCVD法を用いたa−C:H:Si:O膜の代表的な形成方法を記載する。
(a)テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサンなどに、酸素を含むガスを同時に混合する方法。
(b)テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジオメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサンなどシリコンを含有する炭化水素系のプラズマ原料ガスで、シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜した後、その表面に酸素、または酸素を含むガスで形成するプラズマを照射する方法
)Siを含まない、アセチレンなどの炭化水素系のガスに、ヘキサメチルジシロキサン、シロキサンなどの分子中にSi−O結合を有するガスを同時に混合する方法。
【0019】
本発明のa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の膜厚は特に限定されないが、少なくとも1nm〜50μmであるのが好ましく、更に好ましくは5nm〜3μmである。
【0020】
また、本発明のa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の形成に用いるプラズマCVD法としては、高周波放電を用いる高周波プラズマCVD法や、直流放電を利用する直流プラズマCVD法、マイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD法などが挙げられるが、ガスを原料とするプラズマ装置であればいずれでもかまわない。
なお、成膜する際の基材温度、ガス濃度、圧力、時間などの条件は、形成するa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の組成、膜厚に応じて、適宜設定される。
【0021】
本発明においては、形成されたa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の表面は、その後の窒素又は酸素或いはそれらの混合物を用いてプラズマ処理されていることを特徴の1つとする。
本発明の一実施形態として、形成されたa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜に対して、その後行なう該非晶質炭素膜表面への窒素、又は酸素、或いはそれらの混合物を用いて行なうプラズマ処理の原料ガスは、酸素ガス、窒素ガス、窒素と酸素の混合ガス、さらには前記以外であっても、例えば、大気中の空気のように、酸素、及び窒素の、その少なくとも一方を含むものから適宜選択できる。
本発明の該プラズマ処理は、前述の非晶質炭素膜の成膜装置と同じ成膜装置内にて、通常は真空をブレイクすることなく、非晶質炭素膜成膜用のガスを排気し、所定の真空状態に達した後、原料ガスを切り替える、若しくは非晶質炭素膜の原料ガスにそれらの原料ガスを一定割合で混合するだけなので、非晶質炭素膜の成膜と連続、または一括にておこなうことができるという利点がある。
上記のようにプラズマ処理された非晶質炭素膜表面は、濡れ性が高いことに加えて、様々な官能基が存在することにより、これらと後述するフッ素含有表面処理剤の持つ官能基とが相互作用することにより、例えば、フッ素含有シランカップリング剤などのフッ素含有表面処理剤が非晶質炭素膜表面に確実に定着されて、これにより密着性や耐久性が向上すると考えられる。
さらに、形成されたa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の表面を、その後、酸素ガス、又は酸素と窒素の混合ガスを用いてプラズマ処理する場合、通常のシリコンを含まない非晶質炭素膜表面に対して前記酸素ガス、又は酸素と窒素の混合ガスによりプラズマ処理を行なう場合に比して、酸素プラズマによる非晶質炭素膜のアッシング量が少なく、形成される非晶質炭素膜の膜厚管理(膜厚減少の防止)をより簡便、正確に行なうことができ、且つ、シリコンを含まない非晶質炭素膜に酸素や窒素プラズマ処理を行なったものより、格段に濡れ性の高い親水表面を形成することが可能となる。
【0022】
本発明の特徴の1つは、前記の濡れ性の高い表面に部分的にフッ素含有表面処理剤を塗布して、濡れ性の低い表面を有する構造体とするとともに、該フッ素含有表面処理剤として、フッ素を含有するシランカップリング剤(以下、「フッ素系シランカップリング剤」ということもある。)を用いる点にある。
本発明の一実施形態にて用いるフッ素を含有するシランカップリング剤は、市場で各種簡単に入手できるものであって、前記の親水化処理されたa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜と脱水縮合反応や水素結合等による化学結合で強固に固定可能なものとし、且つ、厚みが10nm〜100nm未満の薄いフッ素含有表面処理層の形成が可能となり、薄膜で形成可能であり、金属、樹脂、セラミクス等多様な素材上に密着良く形成可能な非晶質炭素膜からなるプライマー層と合わせて、基材の形状、寸法精度を損なわない表面改質処理が可能となる。また、本発明の一実施形態においては、フッ素含有シランカップリング剤がプラズマプロセスにて改質された非晶質炭素膜と強固に結合しているため、例えば、表層の官能基に乏しい基材に対して、より強固にフッ素含有シランカップリング剤を固定する必要のある場合に多用される、液体状プライマーを用いてフッ素含有シランカップリング剤を固定する必要がない。これにより、液体状プライマーを用いた場合に発生し易い、基材への液体プライマー塗布後、乾燥固化前の該プライマーの基材の微細な穴部、溝部等への濡れ広がり(穴部、溝部を覆い塞ぐように膜を形成してしまう状態)と、続く固化による基材開口部閉塞の発生や、液体プライマー塗布時の重力方向への流動と固化による膜厚のばらつき、膜厚の増加、基材変形等の弊害を防止することができる。
【0023】
本発明の一実施形態において、前述のa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜表面上に、フッ素を含有するシランカップリング剤からなる層を形成する方法としては、該シランカップリング剤の溶液を塗布するか、或いは該シランカップリング剤の溶液中に浸漬した後、乾燥する方法が用いられる。
乾燥後のシランカップリング剤からなる層は、本発明のa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜との密着力により、その表面に強固に固定される。
本発明のa−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜上に固定されるフッ素系シランカップリング剤からなる層の膜厚は特に限定されず、用いる該シランカップリング剤により適宜決定されるが、およそ、1nm〜1μmである。
【0024】
本発明において、フッ素系シランカップリング剤を用いた場合には、a−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜に、低い濡れ性を付与することに加え、耐摩耗性、耐薬品性、低摩擦性、非粘着性等の高機能を付与することができる。
フッ素系シランカップリング剤は、特に限定されないが、具体的には、株式会社フロロテクノロジーのフロロサーフFG−5010Z130−0.2等を用いることができる。
【0025】
本発明において、前記の濡れ性の高い表面と濡れ性の低い表面との両者を有する構造体としては、特に限定されないが、インクジェットノズルなどのノズル形状を有するものが好適な例として揚げられる。
本発明の一実施形態に係るノズルであって、ノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性であり、液滴吐出面側が撥水性を有するノズルの場合、その孔の断面形状、ノズル孔(管)の全長や開口部径や断面積、ノズル孔内壁面の粗さや凹凸などの形状、孔を為す管状部位のテーパ形状、管部分の直線性、また、ノズル孔縁部開口部へのメッシュ状の構造物の配置などのノズルの有する形状、加えて、前記ノズルを構成する素材、材料等、さらには、前記ノズル各単体の配置数や配置状態は特に限定されず、使用目的に応じて、適宜用いることができる。
本発明の一実施形態として、前記ノズルの様な孔を有する管状のものではなく、基材表面上に設けられた溝状、または、樋状に凹形状を為し、液体等が流動、または滞留する該溝、凹部内壁面を親水性とし、該溝の凹部の表層縁部から始まる面を撥水性とした場合、液体の凹部(縁部)からの滲み出しや、漏れ出しを防止することが可能となる。
構造体が微細なノズルや溝である場合、a−C:H:Si:O膜又はa−C:H:Si:O膜を成膜する基材に、ノズル形状を有する基材が用いられるが、該ノズルの形成には、電鋳(アディティブ)プロセスが好ましく用いられる。
電鋳プロセスは、公知であるフォトリソグラフィー法によるメッキ母型の描画・形成を行なった後、メッキ法による微細・精密な造形へと続くプロセスである。このプロセス技術は、精密部品製作手法として、粘性のあるペーストを扱う各種印刷用の版、精密微細メッシュ、成型金型、ディスペンサーやインジェクターノズル等、微細噴射ノズルのような精密な液体搬送部品、MEMSなどの液体の流路を備えたデバイスに至るまで、広範囲な加工部品が精密に製作できる技術として周知されている。
なお、上記ノズルは、YAGレーザ加工装置にてSUS板にレーザビームを20〜30μmφ程度に絞り穴開けし、その後、電解研摩などで、レーザで発生するドロスを除去するなどしても作成可能である。
また、本発明の一実施形態に於ける上記ノズルは、樹脂やセラミクス基材に炭酸ガスレーザ、エキシマレーザなどにて形成したものでも良く、更に、基材にドリル加工、プレス加工などにて形成したものでも良い。
更に、基材は金属と樹脂等、異なる材質からなる複合積層素材等であってもかまわない。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例では、a−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の製造装置として、高圧DCパルスプラズマCVD装置を用いた。
【0027】
まず、本願発明の実施例及び効果の検証結果について記載する。
前述のノズル等について、水との濡れ性(接触角)の測定を微細なノズル穴の内壁面、や微細なノズルの液滴吐出面にて実測することは困難なため、以下の実施例においては、ステンレス鋼(SUS304)板の表面に各実施例、比較例の非晶質炭素膜表面濡れ性改質構造体を形成した場合の、水(純水を使用)との濡れ性の変動を確認した。
【0028】
1.試料の作成
各試料に用いた基材は、電解研摩処理を行った30mm×30mm、厚さ1mmのステンレス鋼(SUS304)板、でその表面粗さはRa:0.034μmである。
(1)実施例1−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした。なお、以降アルゴンガスプラズマによる試料のクリーニングは、各実施例、比較例いずれも、アルゴンガス流量15SCCM、ガス圧1Pa、印加電圧−4kVパルス周波数2kHz、パルス幅50μs、5分間の条件で行なった。その後、アルゴン15SCCM、テトラメチルシランを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例1−1)、他方の試料に、フッ素系シランカップリング剤である株式会社フロロテクノロジーのフロロサーフFG−5010Z130−0.2の溶液(フッ素樹脂0.02〜0.2%、フッ素系溶剤99.8%〜99.98%)をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例1−2)
【0029】
(2)実施例2−1、2の作成
実施例1と同様にしてシリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、窒素ガスを流量15SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間窒素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例2−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例2−2)
【0030】
(3)実施例3−1、2の作成
実施例1と同様にしてシリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、窒素ガスを流量15SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間窒素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射したのち、窒素ガスを排気し、酸素ガスを流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマを更にシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例3−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例3−2)
【0031】
(4)実施例4−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、反応容器内に、テトラメチルシランを流量15SCCMにて、及び酸素ガスを、テトラメチルシランとの流量混合比で4.5%となるよう流量0.7SCCMに調整したものを、反応容器内圧力1.5Paとし、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例4−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例4−2)
【0032】
(5)実施例5−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、反応容器内に、テトラメチルシランを流量15SCCMにて、及び酸素ガスを、テトラメチルシランとの流量混合比で8.5%となるよう流量1.4SCCMに調整したものを、反応容器内圧力1.5Paとし、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例5−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例5−2)
【0033】
(6)比較例1−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマにて5分間基材をクリーニングした後、まず、シリコンを含まない非晶質炭素膜の密着用下地中間層を形成するため、反応容器内に、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、反応ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて10分間成膜後、該密着用下地中間層の上層に、本比較例のシリコンを含まない非晶質炭素膜を形成するため、アセチレンガスを20SCCMの流量、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsの条件にて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例1−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例1−2)
【0034】
(7)比較例2−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間炭素膜を成膜し、シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例2−1)、試料の他の一方に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例2−2)
【0035】
(8)比較例3−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、まず、シリコンを含まない非晶質炭素膜の密着用下地中間層を形成するため、反応容器内に、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μの条件にて10分間成膜後、該密着用下地中間層の上層に、本比較例のシリコンを含まない非晶質炭素膜を形成するため、アセチレンを20SCCMの流量、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマを非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例3−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例3−2)
【0036】
2.フーリエ変換赤外分光法による実施例の分析(FT−IR分析)
本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜形成に使用する原料ガスであるテトラメチルシランに対して、一定量の酸素を混合したプラズマ原料ガス流量にて酸素、及びシリコンを含む非晶質炭素膜を形成した場合(上記 実施例4、5)、また、本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜の成膜後、酸素ガスによるプラズマを照射した場合(上記 実施例1)、それぞれに於いてFT−IR分析の結果、3600〜3300(cm−1)付近に結合OH基、3200〜2700(cm−1)にカルボニルOH基などの官能基が確認できている。FT―IR分析は、分析装置、NICOLEL製 PROTEGE 460、ATR測定、結晶:ZnSe 長さ80mm 厚さ4mm 入射角 45度 下方入射 下方出射積分回数 128回である。
これらの官能基が生成されたことにより実施例1、4、5の試料表面において、極性を有している水との親和性が上がり、高い親水性が発現されたと推測される。さらに、フッ素シランカップリング剤等、基材上の官能基と脱水縮合反応や水素結合等による化学結合する層との密着性が向上するものと推定できる。
さらに、実施例4、5においては、1050〜1100(cm−1)付近においてSi−O結合(シロキサン結合)が存在していることが確認できる。酸素の混合量が多い実施例5の方が実施例4に比べ前述レンジでの吸収がより大きく出ていることも確認できた。
また、実施例1については、1300(cm−1)付近ピークから、Si−O結合が検出される。
前記実施例1、4、5のSi−O結合のFT−IR分析測定条件は、分析機器:Bruker社製HYPERION 3000を使用した。分析方法は、顕微ATR法で実施し、高感度反射8波数、32回の測定結果である。
【0037】
さらに、本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜の成膜後、窒素ガスによるプラズマを照射した場合(上記実施例2)について、XPS組成分析を行なった。
測定装置は、X線光電子分光分析装置Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)、分析条件は励起X線 Al Kα(モノクロ)、分析径 100μm(100u25W15kV)、帯電中和 電子 / Arイオンである。
【0038】
XPSによる分析の結果、実施例2では膜中に窒素が存在していることが確認できた。
実施例2では窒素同士の結合の他に炭素との結合も確認された。
また、実施例2のC1sスペクトルにおいて288eV付近にC=Oによるショルダーバンドが確認された。これは―COO―(カルボニル基)または―COOH(カルボキシル基)によるピークの可能性を含んでおり、これらの官能基が生成されたことにより実施例2において、極性を有している水との親和性が上がり、高い親水性が発現されると推測される。
さらに、フッ素シランカップリング剤等、基材上の官能基と脱水縮合反応や水素結合等による化学結合する層との密着性が向上するものと推定できる。
【0039】
3.濡れ性の測定
次に、上記実施例1〜5と比較例1〜3の試料について、濡れ性についての測定結果を示す。なお、接触角の測定ポイントは、試料上の任意位置、各グラフに示した複数個所とした。
測定は、室温25℃、湿度30%の環境にて、携帯式接触角計PG−X(モバイル接触角計)Fibro system社製を使用した。フッ素系シランカップリング剤を塗布した試料については、その基材への定着性を確認するため、イソプロピルアルコール(IPA)中に投入し60分間超音波洗浄を行った後の純水との接触角を測定した結果を示す。
超音波洗浄器は、株式会社エスエヌヂィ製、US−20KS、発振38kHz(BLT 自励発振)、高周波出力480Wを使用した。超音波洗浄は、圧電振動子からの振動によって局部的に激しい振動を発生させIPA中にキャビティ(空洞)が発生する。このキャビティが基材表面でつぶれるときに基材表面に対して大きな物理的衝撃力を発生させるので、基材に第2の層などを密着させた場合の密着力などを確認するのに簡便で好適である。
【0040】
《水との接触角の測定》
(1)比較例1−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例1の最表面層は、Siを含まない非晶質炭素膜であり、且つ、プラズマ処理も施さない例であり、図1が、その結果である。
左図(1−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜の接触角である70°〜80°位の接触角を示しており、比較的濡れ性の低い表面(撥水性を有している表面)といえる。
右図(1−2、コート品)は、フッ素含有シランカップリング剤を塗付したもので、長時間の超音波洗浄の結果、コート剤(フッ素含有シランカップリング剤)が試料から剥離し、未コートの接触角を示す部分が多数表れコート剤の表面定着が悪いことが確認できる。
よって、非晶質炭素膜上の一部に、必要に応じて親水性(高い濡れ性)を示す部分と、撥水性(低い濡れ性)を示す部分を形成することは困難と言える。
【0041】
(2)比較例2−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例2は、Siを含む非晶質炭素膜であるが、プラズマ処理を施さない例であり、図2が、その結果である。
左図(2−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜にて確認できる70°〜80°位の間の接触角を示しており、比較的濡れ性の低い表面(撥水性を有している表面)といえる。
右図(2−2、コート品)は、フッ素系シランカップリング剤を塗付したもので、超音波洗浄後も比較的安定したフッ素樹脂(115°位)〜シリコーン樹脂(100°位)の間を示す高い接触角が確認される。
よって、非晶質炭素膜上の一部に、必要に応じて親水性を示す部分と、撥水性を示す部分を形成することは困難と言える。
【0042】
(3)比較例3−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例3は、Siを含まない非晶質炭素膜に、プラズマ処理を施した例であり、図3が、その結果である。
左図(3−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜よりも20°近く高い濡れ性を示すことが確認できる。但しまだ、比較的濡れ性の低い表面ともいえる。
右図(2−2、コート品)は、フッ素系シランカップリング剤を塗付したものである。図示しないが、超音波洗浄時間が5分間程度であれば、試料表面上の任意の10点を測定した平均の水との接触角は、110°前後と高く維持され、一定のフッ素含有シランカップリング剤の固定能力(化学結合による固定)を示すが、本件長時間の超音波洗浄の結果、フッ素を含むシランカップリング剤層(コート剤)の一部が剥離し、未コート状態の接触角を示す部分が表れ、フッ素を含むシランカップリング剤層(コート剤)の表面定着が悪いことが確認できる。
フッ素含有シランカップリング剤等、撥水層の保持層として、例えば、印刷用孔版の開口部内壁部分等、比較的短期間に使い切る用途の基材表面に形成され、且つ、接触する相手材が印刷用の流動性のあるペースト等との接触のみで、機械的摩擦など、大きな物理的な外力を直接受けにくい部位での使用には十分な使用可能性を有するが、インクジェットノズル等、比較的長期間、機械的なワイピンングをされながら継続使用が予定されている用途にはフッ素含有シランカップリング剤等、撥水層の保持層として、十分な機能が果たせないことが予測される。
よって、非晶質炭素膜上少なくてもその一部に、必要に応じて撥水性を示す部分を定着良く形成することについては不十分であると言える。
【0043】
以上のように、既存の技術による表面改質では、親水性(高い濡れ性)の表面と、フッ素系シランカップリング剤を定着させることで、その表面に撥水性(低い濡れ性)の表面を同時に形成できるものは存在しないことが確認できた。
【0044】
(4)実施例1〜3
実施例1〜3の測定結果を、図4図6に示す。
図4〜6に示すとおり、実施例1〜3の3例の非晶質炭素膜は、いずれも、左図(未コート品)では、水との接触角が40°以下であり、通常の非晶質炭素膜に比べ半分程度と格段に低い接触角を示しており、また、右図(コート品)のフッ素含有シランカップリング剤を塗付したものは、いずれも100度以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
以上の結果から、実施例1〜3については、非晶質炭素膜表面に強い親水性と、強い撥水性の、大きなコントラストのある濡れ性を付与することが可能であることが確認でき、非晶質炭素膜表面に接する水や油など、液体の濡れ性を利用した制御を、より確実、容易とすることができる。
【0045】
(5)実施例4〜5
前記の作成例から明らかなように、実施例4〜5は、ケイ素(Si)及び酸素(O)を、その成膜中に各例の流量混合比で混合させ、非晶質炭素膜中及び表層に酸素を含有させた非晶質炭素膜の事例である。
実施例4の測定結果を、図7に示す。
左図(4−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜とは大きな差異は確認できなかった。比較的濡れ性の低い表面といえる。
右図(4−2、コート品)のフッ素系シランカップリング剤を塗付したものは、水との接触角が100°以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
【0046】
実施例5は、実施例4に比較して、酸素の混合量を増やしたものである。
実施例5の測定結果を、図8に示す。
左図(5−1、未コート品)は、実施例4の場合に比べ、20°前後の接触角の低下(濡れ性の向上)が確認できた。
このことから、実施例4、5の膜構成では、酸素の混合量を制御することにより、接触角をある程度制御できることが確認された。
右図(5−2、コート品)のフッ素含有シランカップリング剤を塗付したものは、100°以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
【0047】
以上の検証から、非晶質炭素膜の表面に安定した親水性部分と撥水性部分を形成するにあたり、
1)非晶質炭素表面に、親水性表面を形成すると同時に、
2)非晶質炭素膜表面に固定される撥水材料であるフッ素含有シランカップリング剤等の材料(膜)を化学結合にて強固に固定可能な表面状態を該非晶質炭素膜表面に形成できることが要求されることが解る。
上記1)は、ただ単に非晶質炭素膜を任意のガスでプラズマ処理するだけでは達成されず、
3)酸素や窒素など電気陰性度の大きな元素のガスにて、非晶質炭素膜の表面をプラズマ処理することがまず必要条件となることが解る。
なお、今回、非晶質炭素膜を形成した後アルゴンガスプラズマ処理を行った事例、及び非晶質炭素膜を形成した後水素ガスプラズマ処理を行なった事例のそれぞれで、同様の試験(水との接触角の測定)を行ったが、いずれも、非晶質炭素膜表面に親水性を示す接触角は確認できなかった。
さらに、上記1)と上記2)の要件を同時に満たすためには、
4)シリコンの含まれた非晶質炭素膜に上記3)のプラズマ処理を行なうことが、さらに必要条件となり、
上記4)と3)の条件を満たすことをもって、初めて上記1)、2)を同時に満たすための、必要十分条件とすることができることを確認できた。
また、上記4)のシリコンの含まれた非晶質炭素膜に上記3)の電気陰性度の大きい酸素を混ぜながら、シリコン、及び酸素を含む非晶質炭素膜を形成する場合は、酸素のシリコンを含む非晶質炭素膜原料ガスとの混合量を、親水性の発現するに必要な混合比に至るまで調整することが必要であることも確認できた。
上記をまとめて、シリコンを含む非晶質炭素膜を各実施例のように酸素、または、窒素、又は窒素及び酸素双方にてプラズマ処理を行ない、且つ、その一部に必要に応じてフッ素含有シランカップリングを塗布し、撥水性を示す部分を定着良く形成することによって、親水性、撥水性部位を必要に応じて形成可能な非晶質炭素膜が提供されることが確認できた。
【0048】
以上の検証結果を、後述するNi箔の電鋳ノズルの部位によって親水性と撥水性が選択的に形成されていることの間接的な検証、即ち、ノズルの液体出口面までの穴部分内壁及びその裏面は親水性(濡れ性)が高く、液体出口の穴側の面は撥水性面として製作できている間接的な検証とした。
【0049】
《油(ミネラルスピリット)との接触角の測定》
油(ミネラルスピリット)との接触角の検証用に、水との接触角の検証時とそれぞれ 同じ方法で各検証基材試料を作成し、水との接触角検証時と同様の内容にてミネラルスピリットとの接触角を測定した。
各実施例においては、フッ素含有シランカップリング剤を塗布した試料を60分間の超音波洗浄後、任意の10点の接触角を測定した結果、フッ素材料が示す、油(ミネラルスピリット)との50°を超える安定した高い接触角が確認できた。また、フッ素含有シランカップリング剤を塗布しない各実施例について、油(ミネラルスピリット)との接触角は全てミネラルスピリットが大きく不定形に基材表面に濡れ広がり、濡れ広がる形とその接触角測定部分により、測定器にて測定不能となった部分が多数発生する程の濡れ性(低接触角)が確認できた。
【0050】
なお、今回各実施例として記載した、シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜後、真空ブレイクすることなく、シリコンを含む原料ガス等を排気した後、酸素、窒素、または双方のガスを導入し、プラズマ照射したものを記載したが、本願記載の各実施例同様に、シリコンを含む炭素膜を作成した後、一度プラズマCVD装置の成膜容器の真空状態を常圧に戻した後(成膜容器から試料を取り出した後)、再度試料をプラズマCVD装置の成膜容器内に配置し、真空状態を新たに作り、酸素、窒素、または双方のガスを導入し、同様条件にてプラズマ照射したものを、前記の接触角測定試験と同様の条件にて測定した場合の水、やミネラルスピリットとの接触角は、ほぼ同様の接触角の数値を示しているのが確認できている。
【0051】
(電鋳プロセスによるノズル作成と非晶質炭素膜の成膜)
本発明の一実施例として、親水、撥水表面を有する構造体であるノズルを作成した。
まず、以下のようにしてノズル基材を作成した。
日新製鋼製 ステンレス鋼(SUS304)板で、表面バフ研摩品、厚み0.3mm、のものを一辺が95mmの四角形にカットした。その後、該ステンレス鋼(SUS)板の表面を脱脂し、スピンコーター(ミカサ(株) 1H―DX II)にてJSR社製フォトレジストTHB―126Nを最大2500RPMにてコートした後、ホットプレート(井内sefi SHAMAL HOTPLATE HHP―401)にて90℃で5分間乾燥し、手動マスクアライナ紫外線露光装置(SUSS MicroTec MA6)にて、予め30μmφの穴形状を描画できるように作成したガラス乾板を使い、600mJ/cmにて露光を行った。引き続き、現像液につけて手搖動75秒(15秒静止後搖動)現像を行った。レジスト塗布厚は約30μmであった。
次に、該母型をスルファミン酸Niメッキ液にてメッキし、電流1.8A、電流密度約2.4A/dmにて30分間メッキした。
その後、レジスト部分を専用のレジスト剥離液(THB―S2)にて除去した。
【0052】
次に、非晶質炭素膜の形成を行った。
上記析出したNi箔をNiめっき形成母材であるステンレス鋼(SUS)板から剥離しないまま、高圧パルスプラズマCVD装置に投入し、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて、30分間シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて5分間酸素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。ここまでの工程で、Ni箔の片面には親水性の非晶質炭素膜が形成された。
【0053】
上記の非晶質炭素膜の成膜後、めっき法によりNi箔を析出させたステンレス鋼(SUS)板のNi箔側から非晶質炭素膜の表層に市販のスプレー塗料(大日本塗料製サンデーペイント水性スプレー 成分:合成樹脂(シリコン変性)、顔料、有機溶剤、水)にて、Ni箔の開口穴の部分(孔)の内部壁面を含め全面をコート後、乾燥させた後、ステンレス鋼(SUS)板からNi箔を剥離した。
片面と開口穴の内部(孔)にスプレー塗料を乾燥固化させた状態にて、Ni箔を高圧パルスプラズマCVD装置に投入し、電極を繋ぎ、1×10−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて30分間非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsにて5分間酸素プラズマを非晶質炭素膜に照射した。
【0054】
上記成膜後、塗料をスプレーした反対側のNi箔面(ステンレス鋼(SUS)板側の面であり、ノズルの「液滴吐出面」側となる部分)にフッ素系シランカップリング剤である株式会社フロロテクノロジーのフロロサーフFG−5010Z130−0.2の溶液(フッ素樹脂0.02〜2%、フッ素系溶剤99.8%〜99.98%)を刷毛塗りし2日間室温にて乾燥させた。
このとき、スプレーでマスキングしたNi箔に形成したノズル孔の内壁面部分にフッ素含有シランカップリング剤が浸透するのを防止するため、塗付後速やかにフッ素含有シランカップリング剤の溶剤成分を揮発させることが望ましい。
上記のNi箔をIPAの入った超音波洗浄装置に投入し、5分間洗浄を行い、スプレー塗料を除去し、撥水性のノズル「液滴吐出面」側となる部分と、ノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性の内壁を有するノズルが完成した。
【0055】
なお、本実施例では、マスキング部材には、簡便であるためスプレー塗料を使用したが、熱硬化や光硬化樹脂その他、後にエッチングや表面研摩などで剥離可能であり、真空装置中にて有害なアウトガスを出さないものであればマスキング部材は公知の技術、処理プロセスの中から適宜選択可能である。
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