【実施例】
【0026】
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例では、a−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜の製造装置として、高圧DCパルスプラズマCVD装置を用いた。
【0027】
まず、本願発明の実施例及び効果の検証結果について記載する。
前述のノズル等について、水との濡れ性(接触角)の測定を微細なノズル穴の内壁面、や微細なノズルの液滴吐出面にて実測することは困難なため、以下の実施例においては、ステンレス鋼(SUS304)板の表面に各実施例、比較例の非晶質炭素膜表面濡れ性改質構造体を形成した場合の、水(純水を使用)との濡れ性の変動を確認した。
【0028】
1.試料の作成
各試料に用いた基材は、電解研摩処理を行った30mm×30mm、厚さ1mmのステンレス鋼(SUS304)板、でその表面粗さはRa:0.034μmである。
(1)実施例1−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした。なお、以降アルゴンガスプラズマによる試料のクリーニングは、各実施例、比較例いずれも、アルゴンガス流量15SCCM、ガス圧1Pa、印加電圧−4kV
、パルス周波数2kHz、パルス幅50μs、5分間の条件で行なった。その後、アルゴン15SCCM、テトラメチルシランを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマを
、シリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例1−1)、他方の試料に、フッ素系シランカップリング剤である
株式会社フロロテクノロジーのフロロサー
フFG−5010Z130−0.2の溶液(フッ素樹脂0.02〜0.2%、フッ素系溶剤99.8%〜99.98%)をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例1−2)
【0029】
(2)実施例2−1、2の作成
実施例1と同様にしてシリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、窒素ガスを流量15SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間窒素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例2−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例2−2)
【0030】
(3)実施例3−1、2の作成
実施例1と同様にしてシリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、窒素ガスを流量15SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間窒素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射したのち、窒素ガスを排気し、酸素ガスを流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマを更にシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例3−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ法により塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例3−2)
【0031】
(4)実施例4−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、反応容器内に、テトラメチルシランを流量15SCCMにて、及び酸素ガスを、テトラメチルシランとの流量混合比で4.5%となるよう流量0.7SCCMに調整したものを、反応容器内圧力1.5Paとし、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例4−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例4−2)
【0032】
(5)実施例5−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、反応容器内に、テトラメチルシランを流量15SCCMにて、及び酸素ガスを、テトラメチルシランとの流量混合比で8.5%となるよう流量1.4SCCMに調整したものを、反応容器内圧力1.5Paとし、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(実施例5−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(実施例5−2)
【0033】
(6)比較例1−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマにて5分間基材をクリーニングした後、まず、シリコンを含まない非晶質炭素膜の密着用下地中間層を形成するため、反応容器内に、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、反応ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて10分間成膜後、該密着用下地中間層の上層に、本比較例のシリコンを含まない非晶質炭素膜を形成するため、アセチレンガスを20SCCMの流量、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsの条件にて30分間成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例1−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例1−2)
【0034】
(7)比較例2−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間炭素膜を成膜し、シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例2−1)、試料の他の一方に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例2−2)
【0035】
(8)比較例3−1,2の作成
高圧パルスプラズマCVD装置に上記試料を2点投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、まず、シリコンを含まない非晶質炭素膜の密着用下地中間層を形成するため、反応容器内に、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μの条件にて10分間成膜後、該密着用下地中間層の上層に、本比較例のシリコンを含まない非晶質炭素膜を形成するため、アセチレンを20SCCMの流量、ガス圧1.5Pa、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて30分間成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅50μsにて5分間酸素プラズマを非晶質炭素膜に照射した。
2点投入した一方の試料はそのままの状態とし(比較例3−1)、他方の試料に、実施例1と同様にして、フッ素系シランカップリング剤をディップ塗布し、2日間、室温にて乾燥させた。(比較例3−2)
【0036】
2.フーリエ変換赤外分光法による実施例の分析(FT−IR分析)
本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜形成に使用する原料ガスであるテトラメチルシランに対して、一定量の酸素を混合したプラズマ原料ガス流量にて酸素、及びシリコンを含む非晶質炭素膜を形成した場合(上記 実施例4、5)、また、本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜の成膜後、酸素ガスによるプラズマを照射した場合(上記 実施例1)、それぞれに於いてFT−IR分析の結果、3600〜3300(cm
−1)付近に結合OH基、3200〜2700(cm
−1)にカルボニルOH
基などの官能基が確認できている。FT―IR分析は、分析装置、NICOLEL製 PROTEGE 460、ATR測定、結晶:ZnSe 長さ80mm 厚さ4mm 入射角 45度 下方入射 下方出射積分回数 128回である。
これらの官能基が生成されたことにより実施例1、4、5の試料表面において、極性を有している水との親和性が上がり、高い親水性が発現されたと推測される。さらに、フッ素シランカップリング剤等、基材上の官能基と脱水縮合反応や水素結合等による化学結合する層との密着性が向上するものと推定できる。
さらに、実施例4、5においては、1050〜1100(cm
−1)付近においてSi−O結合(シロキサン結合)が存在していることが確認できる。酸素の混合量が多い実施例5の方が実施例4に比べ前述レンジでの吸収がより大きく出ていることも確認できた。
また、実施例1については、1300(cm
−1)付近
のピークから、Si−O結合が検出される。
前記実施例1、4、5のSi−O結合のFT−IR分析測定条件は、分析機器:Bruker社製HYPERION 3000を使用した。分析方法は、顕微ATR法で実施し、高感度反射8波数、32回の測定結果である。
【0037】
さらに、本発明の一実施形態である、シリコンを含む非晶質炭素膜の成膜後、窒素ガスによるプラズマを照射した場合(上記実施例2)について、XPS組成分析を行なった。
測定装置は、X線光電子分光分析装置Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)、分析条件は励起X線 Al Kα(モノクロ)、分析径 100μm(100u25W15kV)、帯電中和 電子 / Arイオンである。
【0038】
XPSによる分析の結果、実施例2では膜中に窒素が存在していることが確認できた。
実施例2では窒素同士の結合の他に炭素との結合も確認された。
また、実施例2のC1sスペクトルにおいて288eV付近にC=Oによるショルダーバンドが確認された。これは―COO―(カルボニル基)または―COOH(カルボキシル基)によるピークの可能性を含んでおり、これらの官能基が生成されたことにより実施例2において、極性を有している水との親和性が上がり、高い親水性が発現されると推測される。
さらに、フッ素シランカップリング剤等、基材上の官能基と脱水縮合反応や水素結合等による化学結合する層との密着性が向上するものと推定できる。
【0039】
3.濡れ性の測定
次に、上記実施例1〜5と比較例1〜3の試料について、濡れ性についての測定結果を示す。なお、接触角の測定ポイントは、試料上の任意位置、各グラフに示した複数個所とした。
測定は、室温25℃、湿度30%の環境にて、携帯式接触角計PG−X(モバイル接触角計)Fibro system社製を使用した。フッ素系シランカップリング剤を塗布した試料については、その基材への定着性を確認するため、イソプロピルアルコール(IPA)中に投入し60分間超音波洗浄を行った後の純水との接触角を測定した結果を示す。
超音波洗浄器は、株式会社エスエヌヂィ製、US−20KS、発振38kHz(BLT 自励発振)、高周波出力480Wを使用した。超音波洗浄は、圧電振動子からの振動によって局部的に激しい振動を発生させIPA中にキャビティ(空洞)が発生する。このキャビティが基材表面でつぶれるときに基材表面に対して大きな物理的衝撃力を発生させるので、基材に第2の層などを密着させた場合の密着力などを確認するのに簡便で好適である。
【0040】
《水との接触角の測定》
(1)比較例1−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例1の最表面層は、Siを含まない非晶質炭素膜であり、且つ、プラズマ処理も施さない例であり、
図1が、その結果である。
左図(1−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜の接触角である70°〜80°位の接触角を示しており、比較的濡れ性の低い表面(撥水性を有している表面)といえる。
右図(1−2、コート品)は、フッ素含有シランカップリング剤を塗付したもので、長時間の超音波洗浄の結果、コート剤(フッ素含有シランカップリング剤)が試料から剥離し、未コートの接触角を示す部分が多数表れコート剤の表面定着が悪いことが確認できる。
よって、非晶質炭素膜上の一部に、必要に応じて親水性
(高い濡れ性)を示す部分と、撥水性
(低い濡れ性)を示す部分を形成することは困難と言える。
【0041】
(2)比較例2−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例2は、Siを含む非晶質炭素膜であるが、プラズマ処理を施さない例であり、
図2が、その結果である。
左図(2−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜にて確認できる70°〜80°位の間の接触角を示しており、比較的濡れ性の低い表面(撥水性を有している表面)といえる。
右図(2−2、コート品)は、フッ素系シランカップリング剤を塗付したもので、超音波洗浄後も比較的安定したフッ素樹脂(115°位)〜シリコーン樹脂(100°位)の間を示す高い接触角が確認される。
よって、非晶質炭素膜上の一部に、必要に応じて親水性を示す部分と、撥水性を示す部分を形成することは困難と言える。
【0042】
(3)比較例3−1、2
前記の作成例から明らかなように、比較例3は、Siを含まない非晶質炭素膜に、プラズマ処理を施した例であり、
図3が、その結果である。
左図(3−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜よりも20°近く高い濡れ性を示すことが確認できる。但しまだ、比較的濡れ性の低い表面ともいえる。
右図(2−2、コート品)は、フッ素系シランカップリング剤を塗付したものである。図示しないが、超音波洗浄時間が5分間程度であれば、試料表面上の任意の10点を測定した平均の水との接触角は、110°前後と高く維持され、一定のフッ素含有シランカップリング剤の固定能力(化学結合による固定)を示すが、本件長時間の超音波洗浄の結果、フッ素を含むシランカップリング剤層(コート剤)の一部が剥離し、未コート状態の接触角を示す部分が表れ、フッ素を含むシランカップリング剤層(コート剤)の表面定着が悪いことが確認できる。
フッ素含有シランカップリング剤等、撥水層の保持層として、例えば、印刷用孔版の開口部内壁部分等、比較的短期間に使い切る用途の基材表面に形成され、且つ、接触する相手材が印刷用の流動性のあるペースト等との接触のみで、機械的摩擦など、大きな物理的な外力を直接受けにくい部位での使用には十分な使用可能性を有するが、インクジェットノズル等、比較的長期間、機械的なワイピンングをされながら継続使用が予定されている用途にはフッ素含有シランカップリング剤等、撥水層の保持層として、十分な機能が果たせないことが予測される。
よって、非晶質炭素膜上少なくてもその一部に、必要に応じて撥水性を示す部分を定着良く形成することについては不十分であると言える。
【0043】
以上のように、既存の技術による表面改質では、親水性
(高い濡れ性)の表面と、フッ素系シランカップリング剤を定着させることで、
その表面に撥水性
(低い濡れ性)の表面を同
時に形成できるものは存在しないことが確認できた。
【0044】
(4)実施例1〜3
実施例1〜3の測定結果を、
図4〜
図6に示す。
図4〜6に示すとおり、実施例1〜3の3例の非晶質炭素膜は、いずれも、左図(未コート品)では、水との接触角が40°以下であり、通常の非晶質炭素膜に比べ半分程度と格段に低い接触角を示しており、また、右図(コート品)のフッ素含有シランカップリング剤を塗付したものは、いずれも100度以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
以上の結果から、実施例1〜3については、非晶質炭素膜表面に強い親水性と、強い撥水性の、大きなコントラストのある濡れ性を付与することが可能であることが確認でき、非晶質炭素膜表面に接する水や油など、液体の濡れ性を利用した制御を、より確実、容易とすることができる。
【0045】
(5)実施例4〜5
前記の作成例から明らかなように、実施例4〜5は、ケイ素(Si)及び酸素(O)を、その成膜中に各例の流量混合比で混合させ、非晶質炭素膜中及び表層に酸素を含有させた非晶質炭素膜の事例である。
実施例4の測定結果を、
図7に示す。
左図(4−1、未コート品)は、通常の非晶質炭素膜とは大きな差異は確認できなかった。比較的濡れ性の低い表面といえる。
右図(4−2、コート品)のフッ素系シランカップリング剤を塗付したものは、水との接触角が100°以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
【0046】
実施例5は、実施例4に比較して、酸素の混合量を増やしたものである。
実施例5の測定結果を、
図8に示す。
左図(5−1、未コート品)は、実施例4の場合に比べ、20°前後の接触角の低下(濡れ性の向上)が確認できた。
このことから、実施例4、5の膜構成では、酸素の混合量を制御することにより、接触角をある程度制御できることが確認された。
右図(5−2、コート品)のフッ素含有シランカップリング剤を塗付したものは、100°以上と高い接触角を示し、フッ素含有シランカップリング剤(フッ素系表面処理剤)の固定能に優れていることが確認できた。
【0047】
以上の検証から、非晶質炭素膜の表面に安定した親水性部分と撥水性部分を形成するにあたり、
1)非晶質炭素表面に、親水性表面を形成すると同時に、
2)非晶質炭素膜表面に固定される撥水材料であるフッ素含有シランカップリング剤等の材料(膜)を化学結合にて強固に固定可能な表面状態を該非晶質炭素膜表面に形成できることが要求されることが解る。
上記1)は、ただ単に非晶質炭素膜を任意のガスでプラズマ処理するだけでは達成されず、
3)酸素や窒素など電気陰性度の大きな元素のガスにて、非晶質炭素膜の表面をプラズマ処理することがまず必要条件となることが解る。
なお、今回、非晶質炭素膜を形成した後アルゴンガスプラズマ処理を行った事例、及び非晶質炭素膜を形成した後水素ガスプラズマ処理を行なった事例のそれぞれで、同様の試験(水との接触角の測定)を行ったが、いずれも、非晶質炭素膜表面に親水性を示す接触角は確認できなかった。
さらに、上記1)と上記2)の要件を同時に満たすためには、
4)シリコンの含まれた非晶質炭素膜に上記3)のプラズマ処理を行なうことが、さらに必要条件となり、
上記4)と3)の条件を満たすことをもって、初めて上記1)、2)を同時に満たすための、必要十分条件とすることができることを確認できた。
また、上記4)のシリコンの含まれた非晶質炭素膜に上記3)の電気陰性度の大きい酸素を混ぜながら、シリコン、及び酸素を含む非晶質炭素膜を形成する場合は、酸素のシリコンを含む非晶質炭素膜原料ガスとの混合量を、親水性の発現するに必要な混合比に至るまで調整することが必要であることも確認できた。
上記をまとめて、シリコンを含む非晶質炭素膜を各実施例のように酸素、または、窒素、又は窒素及び酸素双方にてプラズマ処理を行ない、且つ、その一部に必要に応じてフッ素含有シランカップリングを塗布し、撥水性を示す部分を定着良く形成することによって、親水性、撥水性部位を必要に応じて形成可能な非晶質炭素膜が提供されることが確認できた。
【0048】
以上の検証結果を、後述するNi箔の電鋳ノズルの部位によって親水性と撥水性が選択的に形成されていることの間接的な検証、即ち、ノズルの液体出口面までの穴部分内壁及びその裏面は親水性(濡れ性)が高く、液体出口の穴側の面は撥水性面として製作できている間接的な検証とした。
【0049】
《油(ミネラルスピリット)との接触角の測定》
油(ミネラルスピリット)との接触角の検証用に、水との接触角の検証時とそれぞれ 同じ方法で各検証基材試料を作成し、水との接触角検証時と同様の内容にてミネラルスピリットとの接触角を測定した。
各実施例においては、フッ素含有シランカップリング剤を塗布した試料を60分間の超音波洗浄後、任意の10点の接触角を測定した結果、フッ素材料が示す、油(ミネラルスピリット)との50°を超える安定した高い接触角が確認できた。また、フッ素含有シランカップリング剤を塗布しない各実施例について、油(ミネラルスピリット)との接触角は全てミネラルスピリットが大きく不定形に基材表面に濡れ広がり、濡れ広がる形とその接触角測定部分により、測定器にて測定不能となった部分が多数発生する程の濡れ性(低接触角)が確認できた。
【0050】
なお、今回各実施例として記載した、シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜後、真空ブレイクすることなく、シリコンを含む原料ガス等を排気した後、酸素、窒素、または双方のガスを導入し、プラズマ照射したものを記載したが、本願記載の各実施例同様に、シリコンを含む炭素膜を作成した後、一度プラズマCVD装置の成膜容器の真空状態を常圧に戻した後(成膜容器から試料を取り出した後)、再度試料をプラズマCVD装置の成膜容器内に配置し、真空状態を新たに作り、酸素、窒素、または双方のガスを導入し、同様条件にてプラズマ照射したものを、前記の接触角測定試験と同様の条件にて測定した場合の水、やミネラルスピリットとの接触角は、ほぼ同様の接触角の数値を示しているのが確認できている。
【0051】
(電鋳プロセスによるノズル作成と非晶質炭素膜の成膜)
本発明の一実施例として、親水、撥水表面を有する構造体であるノズルを作成した。
まず、以下のようにしてノズル基材を作成した。
日新製鋼製 ステンレス鋼(SUS304)板で、表面バフ研摩品、厚み0.3mm、のものを一辺が95mmの四角形にカットした。その後、該ステンレス鋼(SUS)板の表面を脱脂し、スピンコーター(ミカサ(株) 1H―DX II)にてJSR社製フォトレジストTHB―126Nを最大2500RPMにてコートした後、ホットプレート(井内sefi SHAMAL HOTPLATE HHP―401)にて90℃で5分間乾燥し、手動マスクアライナ紫外線露光装置(SUSS MicroTec MA6)にて、予め30μmφの穴形状を描画できるように作成したガラス乾板を使い、600mJ/cm
2にて露光を行った。引き続き、現像液につけて手搖動75秒(15秒静止後搖動)現像を行った。レジスト塗布厚は約30μmであった。
次に、該母型をスルファミン酸Niメッキ液にてメッキし、電流1.8A、電流密度約2.4A/dm
2にて30分間メッキした。
その後、レジスト部分を専用のレジスト剥離液(THB―S2)にて除去した。
【0052】
次に、非晶質炭素膜の形成を行った。
上記析出したNi箔をNiめっき形成母材であるステンレス鋼(SUS)板から剥離しないまま、高圧パルスプラズマCVD装置に投入し、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて、30分間シリコンを含む非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて5分間酸素プラズマをシリコンを含む非晶質炭素膜に照射した。ここまでの工程で、Ni箔の片面には親水性の非晶質炭素膜が形成された。
【0053】
上記の非晶質炭素膜の成膜後、めっき法によりNi箔を析出させたステンレス鋼(SUS)板のNi箔側から非晶質炭素膜の表層に市販のスプレー塗料(大日本塗料製サンデーペイント水性スプレー 成分:合成樹脂(シリコン変性)、顔料、有機溶剤、水)にて、Ni箔の開口穴の部分(孔)の内部壁面を含め全面をコート後、乾燥させた後、ステンレス鋼(SUS)板からNi箔を剥離した。
片面と開口穴の内部(孔)にスプレー塗料を乾燥固化させた状態にて、Ni箔を高圧パルスプラズマCVD装置に投入し、電極を繋ぎ、1×10
−3Paまで真空減圧した後、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、アルゴンガスを15SCCM、テトラメチルシランガスを流量10SCCM、ガス圧1.5Paになるよう調整し、印加電圧−4kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsの条件にて30分間非晶質炭素膜を成膜し、原料ガスを排気した後、酸素ガス流量14SCCM、ガス圧1.5Paになるように調整し、印加電圧−3kV、パルス周波数2kHz、パルス幅10μsにて5分間酸素プラズマを非晶質炭素膜に照射した。
【0054】
上記成膜後、塗料をスプレーした反対側のNi箔面(ステンレス鋼(SUS)板側の面であり、ノズルの「液滴吐出面」側となる部分)にフッ素系シランカップリング剤である
株式会社フロロテクノロジーのフロロサー
フFG−5010Z130−0.2の溶液(フッ素樹脂0.02〜2%、フッ素系溶剤99.8%〜99.98%)を刷毛塗りし2日間室温にて乾燥させた。
このとき、スプレーでマスキングしたNi箔に形成したノズル孔の内壁面部分にフッ素含有シランカップリング剤が浸透するのを防止するため、塗付後速やかにフッ素含有シランカップリング剤の溶剤成分を揮発させることが望ましい。
上記のNi箔をIPAの入った超音波洗浄装置に投入し、5分間洗浄を行い、スプレー塗料を除去し、撥水性のノズル「液滴吐出面」側となる部分と、ノズル孔の吐出口縁部を境にして、ノズル孔内部が親水性の内壁を有するノズルが完成した。
【0055】
なお、本実施例では、マスキング部材には、簡便であるためスプレー塗料を使用したが、熱硬化や光硬化樹脂その他、後にエッチングや表面研摩などで剥離可能であり、真空装置中にて有害なアウトガスを出さないものであればマスキング部材は公知の技術、処理プロセスの中から適宜選択可能である。