【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ジンクリッチ塗料は、一般に、有機溶剤と亜鉛とが混合されて構成されているので、塗布作業時に発生する揮発性有機化合物とそれによる異臭が作業環境や近隣環境を悪化させるという問題があった。
【0006】
そこで、有機溶剤を抑制して水を主たる分散媒にする水系ジンクリッチ塗料も提案されているが(特許文献1〜特許文献2)、常温下で使用でき、はけ塗りやローラー塗りに適した塗料組成を教示するものではない。また、鋼材ケレン面の補修塗装直後の塗膜に不可避的に浮遊してくるフラッシュラストを効果的に低減できる塗料組成や、発生したフラッシュラストの成長を抑止する適切な補修方法は未だ知られていない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、フラッシュラストを効果的に低減できる水性塗料、及び、このような水性塗料を使用した適切な補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、発明者は、種々の実験を繰り返した結果、特定の組成の水性塗料によれば、錆が生じている鋼材であっても作業環境を悪化させることなく補修できることを見出して本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、鋼材表面に上塗りされる水性塗料であって、微粉末シリカ、
微粉末シリカ以外の増粘剤、及び水性ウレタン樹脂を含有すると共に、塗料全体に対して70%〜90%で、且つ、固体成分に対して90%〜97%の重量比の亜鉛末を含有し、前記微粉末シリカが、前記亜鉛末に対して1000〜5000ppmの重量比で添加されて
おり、塗料全体の重量比10%〜25%が揮発成分で構成され、揮発性有機化合物は、塗料全体の重量比1%未満である。本発明の揮発成分とは、乾燥状態で塗膜に残存しない物質を意味し、分散媒たる水を含んだ概念である。また、本発明の数値範囲は、以上と以下で規定されており、数値両端を含んでいる。
【0010】
本発明の水性塗料は、分散媒として水を使用するものの、塗料全体に対して70%〜90%で、且つ、固体成分に対して90%〜97%の重量比の亜鉛末を含有し、乾燥時間が短いので、金属面が露出した鋼材に塗布しても鋼材表面がウェットな時間を低減することができ、フラッシュラストの発生を効果的に抑制することができる。さらには、亜鉛顔料の犠牲防食作用により、フラッシュラストの広がりを電気化学的に抑制することができる。
【0011】
また、本発明の水性塗料は、揮発性有機化合物の含有量が、塗料全体の重量比1%未満に抑制されているので、溶剤の乾燥時における作業環境や近隣環境への悪影響が極めて少ない。なお、本発明の水性塗料は、旧塗装膜の上に重複して塗装できるが、鋼材表面に錆が発生しているような場合には、旧塗装膜を剥離するケレン作業を先行させるのが好適である。
【0012】
また、本発明の水性塗料は、鋼材の表面に直接塗布することもでき、この場合には、亜鉛めっきを省略することができる。すなわち、本発明の水性塗料は、常温下で使用できるので、高温状態(460℃以上)の亜鉛槽での亜鉛めっき工程を省略することで、薄板材の熱変形などを回避することができる。
【0013】
本発明では、亜鉛含有量は、塗料全体に対して重量比70%〜90%であるが、より好ましくは、重量比75%〜87%とすべきである。また、亜鉛含有量は、固体成分に対して、より好ましくは、重量比92.1%〜97%とすべきである。
【0014】
本発明の揮発成分は、塗料全体の重量比10%〜25%であるが、より好ましくは、20重量%以下に抑制されるべきである。このような場合、典型的には、重量比75%以上の亜鉛末の第1材料と、重量比25%未満の第2材料とを別々に用意し、作業現場で両者を混合して、本発明の水性塗料を完成させるのが好適である。
【0015】
このような組成によれば、はけ塗りやローラー塗りに適した粘度が実現されるが、エアスプレーガン塗装、エアレススプレーガン塗装を実現するためには、必要に応じて希釈水を追加して使用してもよい。但し、希釈水は、塗料全体の2重量%以下に制限すべきである。
【0016】
また、本発明の水性ウレタン樹脂(固形分)は、好ましくは、塗料全体に対して重量比3%〜9%の含有比とすべきである。また、好ましい実施形態によれば、乾燥膜厚40μmにおいて、JIS K5600−5−4に基づく表面硬度がB〜2Hとなる。表面硬度は、より好ましくは、HB〜2Hとすべきであり、実施例の水性塗料では表面硬度がHB以上となる。
【0017】
本発明の水性塗料は、好適には、増粘剤、消泡剤、分散剤の何れか一以上が含有されて、はけ塗りやローラー塗りに適した粘度に調製される。増粘剤の配合量は、必要な粘度に対応して適宜に設定されるが、塗料全体に対して、重量濃度1500〜2200ppm程度であるのが好適である。
【0018】
そして、増粘剤としては、ポリエーテルポリオール及びノニオン活性剤を、増粘剤全体に対して30〜45重量%程度含有するものが好適に選択される。なお、ポリエーテルポリオールは、ノニオン活性剤に対して重量比4.0〜5.0程度が含有されるのが好適である。
【0019】
消泡剤と分散剤は、好ましくは、互いに、0.7:1〜1:0.7程度、より好ましくは0.9:1〜1:0.9程度の重量比で重複して添加するのが好適である。
【0020】
本発明の水性塗料には、塗布性などの観点から、好ましくは、平均粒径が4〜5μm程度の亜鉛末が使用される。更に好ましくは、亜鉛末は、亜鉛及び酸化亜鉛で構成され、これに、1000〜5000ppmの微粉末シリカが含有される。含有された微粉末シリカは、凝集防止剤として機能し、かつ、亜鉛末混練時の分散性を向上させている。また、上記の量を添加することで、増粘効果を発揮し、亜鉛顔料の沈降を抑制、さらには消泡剤との相乗効果で、塗膜形成過程におけるスムーズな消泡を可能としている。微粉末シリカSiO
2としては、例えば、4塩化ケイ素(SiCl
4)を水素(H
2)火炎中で燃焼させて生成されるヒュームドシリカが好適に使用される。
【0021】
また、本発明は、鋼材表面に、水性塗料を塗布して乾燥状態で膜厚30〜50μmの第1塗膜を形成する第1塗布工程と、第1塗布工程で塗布した水性塗料が乾燥した後、同一の水性塗料を塗布して乾燥状態で膜厚30〜50μmの第2塗膜を形成する第2塗布工程と、を有し、前記水性塗料は、微粉末シリカ、
微粉末シリカ以外の増粘剤、及び水性ウレタン樹脂を含有すると共に、塗料全体に対して70%〜90%で、且つ、固体成分に対して90%〜97%の重量比の亜鉛末を含有し、前記微粉末シリカが、前記亜鉛末に対して1000〜5000ppmの重量比で添加され
おり、塗料全体の重量比10%〜25%が揮発成分で構成され、揮発性有機化合物は、塗料全体の重量比1%未満である。
【0022】
本発明によれば、同一の塗料を重ね塗りすることで足りるので、作業性に優れている。なお、三回以上の重ね塗りすることを禁止するものではないが、膜厚30〜50μmの塗装膜層を二重に設けることで、第1塗布工程の直後にフラッシュラストが発生した場合でも、その成長を確実に抑止することができる。なお、この点は、多数回の実験によって確認している。
【0023】
本発明の第1塗布工程は、鋼材表面に塗装膜を残した状態で実行しても良いが、塗装膜に錆が浮いている場合には、塗装膜を剥離するケレン作業を第1塗布工程に先行して実行するのが好ましい。