(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750384
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】頻繁に容易に脱着可能なマイクロニードル用基盤
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
A61M37/00
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-36991(P2012-36991)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-169432(P2013-169432A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2013年6月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502414389
【氏名又は名称】株式会社バイオセレンタック
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】高田 寛治
【審査官】
金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−520367(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/140401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤用チップに磁力応答性を付与することにより、磁力発生部を付与したアプリケーターとの間において容易に脱着できるようにした、基盤上にマイクロニードルがアレイ状に構築されたマイクロニードル・アレイ・チップであって、
該基盤用チップは錠剤用賦形剤に粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合し、打錠して作製した錠剤であることを特徴とするマイクロニードル・アレイ・チップ。
【請求項2】
前記錠剤用賦形剤が酢酸セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体、キチン及びキチン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載のマイクロニードル・アレイ・チップ。
【請求項3】
前記基盤用チップが、マイクロニードル・アレイを構築する層の反対側の層に粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合して作製した2層錠である請求項1又は2に記載のマイクロニードル・アレイ・チップ。
【請求項4】
前記アプリケーターに付与した磁力発生部の磁力の強さが1mT〜500mTである請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロニードル・アレイ・チップ。
【請求項5】
磁力応答性を付与することにより、磁力発生部を付与したアプリケーターとの間において容易に脱着できるようにした、基盤上にマイクロニードルがアレイ状に構築されたマイクロニードル・アレイ・チップの基盤用チップであって、
錠剤用賦形剤に粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合し、打錠して作製した錠剤であることを特徴とする基盤用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つのアプリケーターを用いて、マイクロニードルをアレイ状に構築した基盤チップ(以下、マイクロニードル・アレイ・チップと呼ぶ)の複数を連続的に投与する際に、頻繁に容易に脱着可能なマイクロニードル用の基盤に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルは、皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された針であり、皮膚の最も外側に位置して外界からの細菌やウィルスの進入から体内を防御している角質層を物理的に突破して、従来の技術では経皮的に投与を行っても吸収が望めない薬物、化粧品用化合物の吸収率を改善する製剤技術である。
【0003】
複数のマイクロニードルを整然と林のように構築したマイクロニードル・アレイは、中空構造を持つ金属製のマイクロニードルから成り薬液を注入するタイプであったり、ポリ乳酸などの生分解性高分子物質製のマイクロニードルであったりする(非特許文献1)。さらに、水溶性物質を基剤とする溶解性マイクロニードルも開発されている。すなわち、水溶性物質を基剤に用いて目的物質を保持させておき、皮膚に挿入した後、基剤が皮膚内の水分により溶解することにより、目的物質を経皮的に投与することができる。例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸を基剤とするマイクロニードルが開示されている(特許文献1)。
【0004】
マイクロニードルは微小の突起物であるので、投与する場合には皮膚に対して垂直に衝突しないことには効率よく皮膚に突刺させることができない。そのためにアプリケーターが開示されている(特許文献2)。
【0005】
アプリケーターにマイクロニードル・アレイ・チップを固定した場合にはチップを1個投与する毎にアプリケーターを廃棄せねばならなく、経済的にも非効率である。しかし、皮膚などの局所疾患を治療する場合には、複数のマイクロニードル・アレイ・チップを複数の箇所に投与する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特許第4913030号
【特許文献2】特願2010-201875
【非特許文献1】James C. Birchall,Chapter 18. Stratum corneum bypassed or removed in Enhancement in DrugDelivery. edited by Elka Touitou and Brian W. Barry, pp. 337-351, CRC Press,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、複数のマイクロニードル・アレイ・チップを容易にアプリケーターに脱着する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マイクロニードル・アレイを構築する基盤用チップに配置した磁力応答部とアプリケーターに配置した磁力発生部との間で磁力を利用して着合させるとともに、アプリケーターからマイクロニードル・アレイ・チップを離脱する場合にはアプリケーターに配置した磁力発生部の磁力を消磁するか、あるいは基盤用チップを物理的に離脱することにより、マイクロニードル・アレイ・チップを容易にアプリケーターに脱着することができる。
【0009】
すなわち本発明は、基盤用チップに磁力応答性を付与することにより、磁力発生部を付与したアプリケーターとの間において容易に脱着できるようにした、基盤上にマイクロニードルがアレイ状に構築されたマイクロニードル・アレイ・チップであって、
該基盤用チップは錠剤用賦形剤に
粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合し、打錠して作製した錠剤であることを特徴とするマイクロニードル・アレイ・チップを提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記錠剤用賦形剤が酢酸セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体、キチン及びキチン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0011】
ある一形態においては、前記基盤用チップが、マイクロニードル・アレイを構築する層の反対側の層に
粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合して作製した2層錠である。
【0012】
ある一形態においては、前記アプリケーターに付与した磁力発生部の磁力の強さが1mT〜500mTである。
【0013】
また、本発明は、磁力応答性を付与することにより、磁力発生部を付与したアプリケーターとの間において容易に脱着できるようにした、基盤上にマイクロニードルがアレイ状に構築されたマイクロニードル・アレイ・チップの基盤用チップであって、
錠剤用賦形剤に
粒子径1〜500マイクロメートルの鉄粉を配合し、打錠して作製した錠剤であることを特徴とする基盤用チップを提供する。
【0014】
中でも好ましい基盤用チップは非水溶性の錠剤用賦形剤から成る成形体に磁力応答性成分を添加した錠剤あるいは部分的に添加した2層錠である。生産性に優れ、滅菌などの医薬品製造プロセスに適するからである。錠剤用賦形剤は複数の成分を含有する組成物であってもよい。好ましい錠剤用賦形剤としては、酢酸セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体、キチン及びキチン誘導体などが挙げられる。磁力応答性成分としては、鉄粉などが挙げられる。
【0015】
錠剤用賦形剤から成る基盤用チップは錠剤と同様の方法で製造すればよい。例えば、錠剤用賦形剤に磁力応答性成分を混和して打錠機の臼の中に入れ、杵を用いて適当な打錠圧で打錠する。基盤用チップの寸法は、臼の直径、錠剤用賦形剤の充填量及び打錠圧を増減することにより、適宜調節される。
【0016】
基盤用チップに添加する磁力応答性成分である鉄粉の粒子系は、好ましくは1〜500マイクロメートル、より好ましくは10〜200マイクロメートルである。何故ならば、鉄粉の粒子径が大きくなると、打錠時に臼と杵を傷つけるからである。
【0017】
基盤用チップの形状は、例えば、直径が5〜50mm、好ましくは10〜35mm、厚さ1〜10mm、好ましくは2〜5mmの円盤状である。また、必ず円盤状である必要はなく、四角形や長方形の形状でも構わない。基盤用チップの硬さは、皮膚に経皮吸収製剤の微細針を突刺した場合に実質的に変形せず、また、衝撃力を印加して皮膚に経皮吸収製剤の微細針を突刺した場合に崩壊しない程度であれば、特に限定されない。外径2.0cm、内径1.2cm、高さ2.0cmの金属製の円筒の上に円盤状の錠剤の基盤用チップを置き、ディジタルフォースゲージ(FGP−50,日本電産シンポ工業)の先端に円錐のアタッチメントを付けて崩壊強度を測定した場合、ある一形態では基盤用チップの崩壊強度は10〜50Nである。この場合、測定に用いた試料の厚さは2.0mmである。
【0018】
アプリケーターに付与した磁力発生部に必要な磁力の強さは、磁力応答部を有するマイクロニードル・アレイ・チップをアプリケーターに保持させて皮膚に投与する場合にマイクロニードル・アレイ・チップがアプリケーターの保持部から脱落しない程度であれば特に限定されないが、実用的には1mT〜500mT、好ましくは5mT〜300mT、より好ましくは20mT〜200mTである。
【0019】
また、本発明は溶解性マイクロニードル・アレイ・チップに限定されるものでもなく、金属製あるいはプラスチック製のマイクロニードル・アレイ・チップでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法を用いれば、マイクロニードル・アレイ・チップを容易にアプリケーターに脱着することができる。
【0021】
以下に実施例をあげて具体的な実施形態を説明する。もちろん、本考案は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
単発打錠器(市橋精機、HANDTAB100)の臼に酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースおよび鉄粉(平均粒子経100マイクロメートル、JIP MG270H、JFEスチール)の100:10:5の混和物の約0.5gを入れ、約10kNの打錠圧で直径1.5cm、厚さ約2.0mmの基盤用チップとなる錠剤を作成した。コンドロイチン硫酸ナトリウム200mgに精製水250マイクロリットルを加え、よく攪拌することにより粘調液を作成した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を225個有するメス型の上にこの粘調液を塗布し、加圧条件下でメス型に充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウムの粘調液を再びメス型に塗布し、加圧条件下でメス型に充填した。コンドロイチン硫酸ナトリウムの50mgに精製水100マイクロリットルを加えて作成した粘調液を基盤用チップに塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に基盤用チップをメス型から引き離すことにより225本のマイクロニードルをアレイ状に構築した磁力応答性を有する錠剤としてマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0023】
(実施例2)
単発打錠器の臼に先ず酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースおよび鉄粉の100:10:5の混和物の約0.30gを入れた。次いで、その上に酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースの100:10の混和物の約0.25gを入れ約10kNの打錠圧で直径1.5cm、厚さ約2.0mmの基盤用チップとなる2層錠を作成した。コンドロイチン硫酸ナトリウム200mgに精製水250マイクロリットルを加え、よく攪拌することにより粘調液を作成した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を225個有するメス型の上にこの粘調液を塗布した。加圧条件下でメス型に充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウムの粘調液を再びメス型に塗布し、加圧条件下でメス型に充填した。コンドロイチン硫酸ナトリウムの50mgに精製水100マイクロリットルを加えて作成した粘調液を基盤用チップに塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に基盤用チップをメス型から引き離すことにより225本のマイクロニードルをアレイ状に構築した磁力応答性を有する2層錠としてマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【産業上の利用可能性】
【0024】
マイクロニードル・アレイ・チップを容易にアプリケーターに脱着する方法が求められている。
【0025】
本発明により、マイクロニードル・アレイを構築する基盤用チップに配置した磁力応答部とアプリケーターに配置した磁力発生部との間で磁力を利用して着合し、また、アプリケーターから離脱させる場合にはアプリケーターに配置した磁力発生部の磁力を消磁するか、あるいは物理的に基盤用チップを離脱することにより、マイクロニードル・アレイ・チップを容易にアプリケーターに脱着することが可能となった。