(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性ヨウ素及び放射性セシウムをともに、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法であって、
上記親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、
上記親水性樹脂組成物が、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
前記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを原料の一部として形成された樹脂である請求項1又は2に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
前記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物である請求項5〜7のいずれか1項に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
AxMy[Fe(CN)6] (1)
[式中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【背景技術】
【0002】
現在、広く普及している原子炉発電プラントにおいては、原子炉中での核分裂によって相当の量の放射性副産物の生成を伴う。これら放射性物質の主なものは、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性セリウム等の極めて危険な放射性同位元素を含む核分裂生成物および活性元素である。これらの中でも、放射性ヨウ素は184℃で気体になるため、核燃料の検査や交換の際に、更には、核燃料取扱い時の事故や原子炉暴走事故等の不慮の事由により、非常に放出され易いという危険性を有している。その対象となる放射性ヨウ素としては、長半減期のヨウ素129(半減期:1.57×10
7年)、短半減期のヨウ素131(半減期:8.05日)が主なものである。ここで、放射性を示さない普通のヨウ素は、人体に必須の微量元素であり、咽喉の近くの甲状腺に集められ、成長ホルモンの成分になる。このため、人が呼吸や水・食物を通して放射性ヨウ素を取りこむと、普通のヨウ素と同じように甲状腺に集められ、内部放射能被曝を増大させるため、特に厳格な放出放射能量の低減対策が施されなければならない。
【0003】
また、放射性セシウムは、融点が28.4℃と常温付近で液状を示す金属の一つであり、放射性ヨウ素と同様に非常に放出され易いものである。その対象となる放射性セシウムは、比較的短半減期のセシウム134(半減期:2年)、長半減期のセシウム137(半減期:30年)が主なものである。特にセシウム137は、半減期が長いだけではなく、高エネルギーの放射線を放出し、且つ、アルカリ金属であるため、水への溶解性が大きいという性質を有している。さらに、放射性セシウムは、呼吸や皮膚からも人体に吸収されやすく、ほぼ全身に均一に分散されるため、人への健康被害は深刻である。
【0004】
このため、世界中で稼働している原子炉から不慮の事由等により偶発的に放射性セシウムが放出された場合は、原子炉で働く労働者や近隣の住民に対する放射能汚染のみならず、空気により運ばれる放射性セシウムにより汚染された食品や水を介して、人間や動物へと、より広範な放射能汚染が引き起こすことが懸念される。この点についての危険性は、チェルノブイリ原子力発電所の事故により明らかに実証済である。
【0005】
このような事態に対し、原子炉で生成された放射性ヨウ素の処理方法として、洗浄処理方式、繊維状の活性炭等を用いた固体吸着剤充填による物理・化学的処理方式(特許文献1、2参照)、イオン交換剤による処理(特許文献3参照)などが検討されている。
【0006】
しかしながら、上記したいずれの方法も下記に述べるように課題があり、これらの課題が解決された放射性ヨウ素の除去方法の開発が望まれている。まず、洗浄処理方式で実用化されているものとしてはアルカリ洗浄法などがあるが、液体吸着剤による洗浄処理方式で処理し、これを液体のまま長期間貯蔵するのには、量的にも、また安全上も問題が多い。また、固体吸着剤充填による物理・化学的処理方式では、捕捉されたヨウ素は、他のガスとの交換の可能性に常に晒されており、また温度が上昇すると容易に吸着物を放出するという難点がある。更に、イオン交換剤による処理方式では、イオン交換剤の耐熱温度は100℃程度までであり、これより高温では十分な性能を発揮し得ないという課題がある。
【0007】
一方、原子炉中で生成した放射性セシウムの処理方法としては、無機イオン交換体や選択性イオン交換樹脂による吸着法、重金属と可溶性フェロシアン化物又はフェロシアン化物塩併用による共沈法、セシウム沈殿試薬による化学処理法などが知られている(特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、上述した処理方法は、いずれも循環ポンプや浄化槽さらには各吸着剤を内蔵した充填槽などの大掛かりな設備を必要とし、さらに、それらを稼働させるための多大なエネルギーを必要とする。また、2011年3月11日に発生した日本国の福島第一原発事故のように、電源が断たれたような場合にはこれらの設備は稼働できなくなるので、放射性ヨウ素や放射性セシウム等による汚染の危険度が増大する。そして、電源が断たれた場合には特に、原子炉の暴走事故により周辺地域へ拡散した放射性ヨウ素や放射性セシウム等に対しての除去方法が極めて困難な状況に陥り、放射能汚染を拡大しかねない状況となることが懸念される。したがって、このような事態が生じた場合においても対応が可能な放射性ヨウ素や放射性セシウムの除去技術の開発が急務である。また、放射性ヨウ素と放射性セシウムとを一緒に処理できる有効な除去技術が開発されれば極めて有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを一緒に処理できる有効な除去技術を提供するにあたり、従来技術の問題点を解決し、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性ヨウ素及び放射性セシウムを固体内部に取り込んで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な、新規な放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去技術を提供することにある。本発明の目的は、特に、上記した技術を実施する際に有用な、放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定化できる機能を有するため、これらの放射性物質を一緒に除去処理することが可能な新規な親水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素・放射性セシウムを除去する親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物からなる親水性樹脂組成物を用いる放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法であって、上記親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、
その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、上記親水性樹脂組成物が、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されてなることをと特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法を提供する。
【0012】
本発明の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。上記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること。上記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを原料の一部として形成された樹脂であること。上記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物であること。
A
xM
y[Fe(CN)
6] (1)
[式中、Aは、K、Na及びNH
4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【0013】
本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含み、該親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを原料の一部として形成された、親水性セグメントと、分子鎖中に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有してなる、
その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0014】
さらに本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含み、該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、
その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0015】
上記したいずれかの本発明の親水性樹脂組成物の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。上記親水性樹脂の親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること。上記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物であること。
A
xM
y[Fe(CN)
6] (1)
[式中、Aは、K、Na及びNH
4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、廃液中や廃固形物中に存在している放射性ヨウ素及び放射性セシウムを、簡便に且つ低コストで、更には電力等のエネルギー源を必要とせず、除去した放射性ヨウ素及び放射性セシウムを固体内部に取り
込んで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能であり、しかも放射性ヨウ素及び放射性セシウムを一緒に除去処理できる新規な技術が提供される。本発明によれば、放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれに対しても固定化できる機能を有し、これらを一緒に除去処理することを実現可能にでき、その主成分が樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な新規な親水性樹脂組成物が提供される。本発明のこれらの顕著な効果は、該親水性樹脂がその構造中に、親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントを分子鎖中に有していることにより、更に詳しくは、有機ポリイソシアネートと、高分子量親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物及び少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られる親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂に、フェロシアン化金属化合物を分散させて得られる親水性樹脂組成物を利用するという極めて簡便な方法で達成される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明を特徴づける親水性樹脂組成物は、親水性樹脂に、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を分散させてなる組成物であり、該親水性樹脂は、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、構造中の主鎖及び/又は側鎖に、第3級アミノ基を有する成分を構成単位とする第3級アミノ基含有セグメントとポリシロキサンセグメントとを有していることを特徴とする。すなわち、本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基を有する成分を構成単位とする第3級アミノ基含有セグメントとポリシロキサンセグメントとを有しているものであればよい。これらのセグメントは、親水性樹脂の合成時に、鎖延長剤を使用しない場合は、それぞれランダムに、ウレタン結合、ウレア結合又はウレタン−ウレア結合等で結合されている。親水性樹脂の合成時に、鎖延長を使用する場合には、上記の結合とともに、これらの結合の間に鎖延長剤の残基である短鎖が存在するものになる。
【0019】
本発明における「親水性樹脂」とは、その分子中に親水性基を有しているが、水や温水等には不溶解性である樹脂を意味し、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース誘導体等の水溶性樹脂とは区別されるものである。
【0020】
本発明の親水性樹脂組成物は親水性樹脂と紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物とを含んでなるが、該親水性樹脂組成物を用いることで、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを一緒に除去処理が可能になる。本発明者らは、その理由を下記のように考えている。まず、本発明で使用する親水性樹脂は、親水性セグメントにより優れた吸水性を示すが、更に、その構造中の主鎖及び/又は側鎖の第3級アミノ基が導入されていることによって、イオン化した放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成され、その結果、親水性樹脂中に放射性ヨウ素が定着されるものと考えられる。
【0021】
しかし、水分の存在下では上記の如きイオン結合は解離し易いことから、一定時間経過すれば再び放射性ヨウ素は樹脂から放出すると考えられ、本発明者らは、樹脂中における放射性ヨウ素の定着状態を固定化した状態で除去するのは難しいと予想していた。しかし、この予想に反し、実際には、イオン結合した放射性ヨウ素は長時間立っても樹脂中に定着されたままであることがわかった。この理由は定かではないが、本発明者らは、下記のように考えている。すなわち、本発明において用いる特定の構造の親水性樹脂は、その分子内に疎水性部分も存在しており、該樹脂中の第3級アミノ基と放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成された後、この疎水性部分が親水性部分(親水セグメント)及び上記イオン結合部分の周りを取り囲むようになるためではないかと推察している。このような理由から、本発明では、特有の構造を有する親水性樹脂を含む本発明の親水性樹脂組成物を用いることで、放射性ヨウ素を樹脂に固定化でき、その除去が可能となったものと考えられる。
【0022】
本発明で用いる親水性樹脂は、さらに、その構造中にポリシロキサンセグメントを有するものであることを要する。ここで、樹脂分子中に導入されるポリシロキサンセグメントは、本来、疎水性(撥水性)であるが、特定範囲の量のポリシロキサンセグメントを構造中に導入させた場合、その樹脂は「環境応答性」があるものになることが知られている(高分子論文集、第48巻[第4号]、227(1991))。上記論文でいう樹脂に「環境応答性」があるとは、乾燥した状態では、樹脂表面は完全にポリシロキサンセグメントで覆われるが、樹脂を水中に浸漬した場合には、ポリシロキサンセグメントが樹脂中に埋没してしまう現象のことである。
【0023】
本発明は、ポリシロキサンセグメントを導入することで樹脂に表れるこの「環境応答性」の現象を、放射性ヨウ素の除去処理に利用したものである。先述したように、本発明で用いる親水性樹脂中に導入されている第3級アミノ基と、処理対象の放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成されると、該樹脂は更に親水度が増加し、このことによって、逆に下記の問題が生じる恐れがある。すなわち、本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法では、後述するように、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを固定して除去処理するために、例えば、フィルム状等の形態で親水性樹脂を用いることが好ましいが、その場合に処理する放射性ヨウ素の量が多量であると、樹脂に要求される耐水性に支障をきたす恐れがある。これに対し、本発明では使用する親水性樹脂の分子中(構造中)に、さらにポリシロキサンセグメントを導入することによって、上記したような場合であっても、使用する樹脂が十分な耐水機能を示し、処理が有効に行われる樹脂構成を実現させている。すなわち、本発明を特徴づける親水性樹脂は、その構造中に導入した、親水性セグメントによる吸水性能、第3級アミノ基による放射性ヨウ素に対する定着性能に加え、ポリシロキサンセグメントを導入することにより、当該樹脂の耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)を実現したことで、放射性ヨウ素の除去処理に用いた場合、より有用なものになる。
【0024】
さらに、本発明では、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を含む本発明の親水性樹脂組成物を用いることで、上記した放射性ヨウ素の除去に加えて、放射性セシウムの除去処理をも可能にし、これによって、放射性ヨウ素と放射性セシウムとを一緒に処理することを達成した。本発明で使用するフェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物である。これらの中には紺青と呼ばれて広く色材として使用されているものがあるが、いずれも本発明に好適に使用することができる。
A
xM
y[Fe(CN)
6] (1)
[式中、Aは、K、Na及びNH
4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【0025】
上記フェロシアン化金属化合物のより具体的なものとしては、紺青と呼ばれている下記の一般式(A)或いは(B)で表せる化合物等が挙げられるが、これらは、古くから製造された顔料で、その色名としては、プルシアンブルー、ミロリブルー、ベルリンブルー等、たくさんの慣用名がある。
MFe[Fe(CN)
6] (A) [但し、M=NH
4、K、Fe]
MK
2[Fe(CN)
6] (B) [但し、M=Ni、Co]
【0026】
上記した紺青を放射性セシウム除去に使用されることはすでに公知であり、実際に、チェルノブイリ原子力発電所の事故の際に使用されている。紺青の放射性セシウム除去のメカニズムについてはまだ完全には解明されていないが、以下の「イオン交換」と「吸着」の二つの考え方が提唱されている。
【0027】
「イオン交換」の考え方は、紺青の一種であるアンモニウム紺青とセシウムイオンが接触すると、該紺青中の陽イオンとセシウムイオンがイオン交換により置き換わり、放射性セシウムが固定され、除去できるとするものである。一方、「吸着」とは、紺青の結晶の間隔は約0.5nm間隔の空孔に、セシウムイオンが選択的に吸着され、この結果、放射性セシウムが除去されるとする考え方である。現時点ではどちらが正しいか明らかにはなっていないが、いずれにしろ、紺青によるセシウム除去効果は実証されている。このような放射性セシウムを除去することができる紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を、上記した放射性ヨウ素を除去することができる特有の構造を有する親水性樹脂に分散して得られる本発明の親水性樹脂組成物を用いることで、本発明では、放射性ヨウ素と放射性セシウムを一緒に除去処理できる技術を提供する。
【0028】
次に、上述した性能を実現した本発明を特徴づける親水性樹脂を形成するための原料について説明する。本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性セグメントと、第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを有することを特徴とする。そのため、該親水性樹脂を得るには、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを原料の一部とすることが好ましい。本発明に用いる親水性樹脂中に第3級アミノ基を導入するための化合物には、下記に挙げるような第3級アミノ基含有化合物を用いることが好ましい。すなわち、分子中に少なくとも1個の活性水素含有基(以下、反応性基と記載する場合がある)として、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、酸ハライド基、カルボキシエステル基、酸無水物基等を有し、且つ分子鎖中に第3級アミノ基を有する化合物を用いる。
【0029】
上記の如き反応性基を有する第3級アミノ基含有化合物の具体的なものの好ましい例としては、例えば、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物が挙げられる。
[式(2)中の、R
1は炭素数20以下のアルキル基、脂環族基、又は芳香族基(ハロゲン、アルキル基で置換されていてもよい)であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、−O−、−CO−、−COO−、−NHCO−、−S−、−SO−、−SO
2−等で連結されていてもよい低級アルキレン基であり、X及びYは−OH、−COOH、−NH
2、−NHR
1(R
1は上記と同じ定義である)、−SH等の反応性基であり、X及びYは同一でも異なってもよい。又、X及びYは上記の反応性基に誘導できるエポキシ基、アルコキシ基、酸ハライド基、酸無水物基、又はカルボキシルエステル基でもよい。]
【0030】
[式(3)中の、R
1、R
2、R
3、X及びYは、前記式(2)におけるものと同じ定義であるが、但し二つのR
1同士は環状構造を形成するものであってもよい。R
4は−(CH
2)
n−、(nは0〜20の整数)である。]
【0031】
(式(4)中の、X及びYは、前記式(2)におけるものの定義と同じであり、Wは、窒素含有複素環、窒素と酸素含有複素環、又は窒素と硫黄含有複素環を表す。)
【0032】
上記の一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。例えば、N,N−ジヒドロキシエチル−メチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−エチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−イソプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−n−ブチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−t−ブチルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−クロロアニリン、N,N−ジヒドロキシエチルベンジルアミン、N,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N−ヒドロキシエチル−ピペラジン、N,N−ジヒドロキシエチル−ピペラジン、N−ヒドロキシエトキシエチル−ピペラジン、1,4−ビスアミノプロピル−ピペラジン、N−アミノプロピル−ピペラジン、ジピコリン酸、2,3−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、2,6−ピリジン−ジメタノール、2−(4−ピリジル)−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,6−ジアミノトリアジン、2,5−ジアミノトリアゾール、2,5−ジアミノオキサゾール等が挙げられる。
【0033】
又、これら第3級アミノ化合物のエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物等も本発明に使用できる。その付加物としては、例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられる。なお、下記式中のmは1〜60の整数を、nは1〜6の整数を表す。
【0041】
本発明に用いる親水性樹脂は、その構造中にポリシロキサンセグメントを有することを特徴とする。親水性樹脂分子中にポリシロキサンセグメントを導入するために使用可能なポリシロキサン化合物としては、例えば、分子中に1個又は2個以上の反応性基、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基等を有する化合物が挙げられる。上記のような反応性基を有するポリシロキサン化合物の好ましい例としては、例えば、下記の如き化合物が挙げられる。
【0046】
カルボキシル変性ポリシロキサン化合物
【0047】
以上のような活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物中では、特にポリシロキサンポリオール及びポリシロキサンポリアミンが有用である。なお、列記した化合物は、いずれも本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0048】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に使用する有機ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタン樹脂の合成における公知のものがいずれも使用でき、特に制限されない。好ましいものとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、水素添加MDI、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等、或いはこれらの有機ポリイソシアネートと低分子量のポリオールやポリアミンを末端イソシアネートとなる様に反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0049】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に用いられる親水性成分としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を有する重量平均分子量が400〜8,000の範囲の親水性を有する化合物が好ましい。末端が水酸基で、親水性を有するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコールアジペートポリオール、ポリエチレングリコールサクシネートポリオール、ポリエチレングリコール/ポリε−ラクトン共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリバレロラクトン共重合ポリオール等が挙げられる。
【0050】
末端がアミノ基で、親水性を有するポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドトリアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドトリアミン等が挙げられる。その他、カルボキシル基やビニル基を有するエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0051】
本発明においては、親水性樹脂に耐水性を付与するため、上記の親水性成分とともに、親水鎖を有しない他のポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸等を併用することも可能である。
【0052】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成の際に、必要に応じて使用される鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオールやジアミン等の従来公知の鎖延長剤がいずれも使用でき、特に限定されない。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0053】
以上の原料成分を用いて得られる親水性セグメントと、第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを分子鎖中に有する親水性樹脂は、その重量平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算)が3,000〜800,000の範囲のものであることが好ましい。更に好ましい重量平均分子量は5,000〜500,000の範囲である。
【0054】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に使用するのに特に好適な親水性樹脂中の第3級アミノ基の含有量は、0.1〜50eq(当量)/kgの範囲が好ましく、更に好ましくは0.5〜20eq/kgである。第3級アミノ基の含有量が0.1eq/kg未満、すなわち分子量10,000当たり1個未満では、本発明の所期の目的である放射性ヨウ素の除去性の発現が不十分となり、一方、第3級アミノ基の含有量が50eq/kgを超えて、すなわち分子量10,000当たり500個を超えた場合では、樹脂中の親水性部分の減少による疎水性が強くなり、吸水性能に劣るようになるので好ましくない。
【0055】
また、本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に特に好適な親水性樹脂中のポリシロキサンセグメントの含有量は、0.1〜12質量%の範囲、特に0.5〜10質量%の範囲が好ましい。ポリシロキサンセグメントの含有量が0.1質量%未満では、本発明の目的である耐水性や表面の耐ブロッキング性の発現が不十分となり、一方12質量%を超えると、ポリシロキサンセグメントによる撥水性が強くなり、吸水性能を低下させ放射性ヨウ素の吸着性を阻害するので好ましくない。
【0056】
また、本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に特に好適な親水性樹脂の親水性セグメントの含有量は、20〜80質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは30〜70質量%の範囲である。親水性セグメントの含有量が20質量%未満では、吸水性能に劣り放射性ヨウ素の除去性が低下する。一方、80質量%を超えると、耐水性に劣るようになり好ましくない。
【0057】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に好適な、本発明の親水性樹脂組成物は、上述した親水性樹脂に、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物(以下、紺青と呼ぶ)を分散させることにより得られる。具体的には、上述した親水性樹脂に、紺青と分散溶媒を入れ、所定の分散機によって分散操作を行うことで製造することができる。上記分散に使用する分散機としては、通常顔料分散に用いる分散機であれば問題なく使用することができる。例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、パールミル(アイリッヒ社製)、サンドミル、ビスコミル、アトライターミル、バスケットミル、湿式ジェットミル(ジーナス社製)等があるが、分散性と経済性を鑑みて設定するのが好ましい。また、メディアとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、ステンレスビーズ等を用いることができる。
【0058】
本発明の親水性樹脂組成物における親水性樹脂と紺青との分散割合は、親水性樹脂100質量部に対し紺青を1〜200質量部の割合で配合したものを用いる。紺青が1質量部未満では、放射性セシウムの除去が不十分であり、200質量部超では組成物の機械物性が弱くなるとともに、耐水性に劣るようになり、放射能汚染水中で形状を保てなくなり好ましくない。
【0059】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法においては、上記した構成からなる本発明の親水性樹脂組成物を下記のような形態で使用することが好ましい。すなわち、親水性樹脂組成物の溶液を、離型紙や離型フィルム等に、乾燥後の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜50μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥させて得られるフィルム状のものが挙げられる。この場合は、使用時に離型紙・フィルム等から剥離し、放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去フィルムとして使用する。また、その他、各種基材に、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を塗布又は含浸して使用してもよい。この場合の基材としては、金属、ガラス、木材、繊維、各種プラスチック等が使用できる。
【0060】
上記のようにして得られた、本発明を特徴づける親水性樹脂組成物製のフィルム又は各種基材に塗布したシートを、放射性廃液や、放射性固形物をあらかじめ水で除染した廃液などに浸漬することにより、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの両方を選択的に除去することができる。また、放射能で汚染された固形物などに対しては、本発明の親水性樹脂組成物製のフィルムやシートで覆うことによって、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの拡散を防ぐことができる。
【0061】
本発明の親水性樹脂組成物製のフィルムやシートは水には溶けないため、除染後に、容易にその廃液から取りだすことができる。このように、放射性ヨウ素・放射性セシウムの両方を除去するのに特別な設備も電力も必要とせず簡単にかつ低コストで除染ができる。さらには、吸水した水分を乾燥させ100〜170℃に加熱すれば、樹脂が軟化して体積の収縮が起こり放射性廃棄物の減容化の効果も期待できる。
【実施例】
【0062】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0063】
[製造例1](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレタン樹脂の合成)
撹拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内で、下記構造のポリジメチルシロキサンポリオール(分子量3,200)8部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)142部、N−メチルジエタノールアミン20部及びジエチレングリコール5部を、100部のメチルエチルケトンと200部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、73部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、60部のメチルエチルケトンを加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0064】
【0065】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で330dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した親水性樹脂フィルムは、破断強度20.5MPa、破断伸度が400%であり、熱軟化温度は103℃であった。
【0066】
[製造例2](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレア樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、メチルイミノビスプロピルアミン25部及び1,4−ジアミノブタン5部を、ジメチルホルムアミド250部に溶解し、内温を20〜30℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、75部の水素添加MDIを100部のジメチルホルムアミドに溶解した溶液を徐々に滴下して反応させた。滴下終了後、次第に内温を上昇させ、50℃に達したところで更に6時間反応させた後、124部のジメチルホルムアミドを加え、本発明で規定する構造の親水性ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0067】
【0068】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で、315dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した親水性樹脂フィルムは、破断強度が31.3MPa、破断伸度が370%であり、熱軟化温度は147℃であった。
【0069】
[製造例3](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のエチレンオキサイド付加型ポリジメチルシロキサン(分子量4,500)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、及びN,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン30部及び1,4−ジアミノブタン5部を、メチルエチルケトン150部と150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解し、内温を20〜30℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、72部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後80℃で6時間反応させ、反応終了後、メチルエチルケトン75部を加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0070】
【0071】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で、390dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した親水性樹脂フィルムは、破断強度が22.7MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は127℃であった。
【0072】
[製造例4](比較例1で使用する第3級アミノ基もポリシロキサンセグメントも含有しない非親水性ポリウレタン樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解し、60℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、62部の水素添加MDIを171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させることにより、比較例で用いる樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から得られた樹脂フィルムは、破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0073】
[製造例5](比較例2で使用する第3級アミノ基を含有し、ポリシロキサンセグメントを含有しない非親水性ポリウレタン樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部とN−メチルジエタノールアミン20部とジエチレングリコール5部とを、200部のメチルエチルケトンと150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解し、60℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、74部の水素添加MDIを112部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させることにより、比較例で用いる樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で510dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した樹脂フィルムは、破断強度23.5MPa、破断伸度が470%であり、熱軟化温度は110℃であった。
【0074】
上記で得られた製造例1〜5の各樹脂の重量平均分子量、及び第3級アミノ基、ポリシロキサンセグメント含有量は下表1の通りであった。
【0075】
【0076】
<実施例1〜3、比較例1、2>
製造例1〜5の各樹脂溶液と紺青[ミロリブルー(色名);大日精化工業(株)製]とを、表2に示した各配合で、高密度アルミナボール(3.5g/mL)を使用してボールミルで24時間分散した。そして分散後の内容物を、ポリエステル樹脂製の100メッシュのふるいを通して取り出して、樹脂溶液と紺青とを含んでなる液状の各樹脂組成物を得た。
【0077】
【0078】
[評価]
上記で得た実施例1〜3、比較例1、2の各樹脂溶液をそれぞれ用い、離型紙上に塗布し、110℃で3分加熱乾燥して溶剤を揮散させ、約20μmの厚さの各樹脂フィルムをそれぞれ形成した。このようにして得た実施例1〜3と比較例1、2の各樹脂フィルムを用い、以下の項目について試験を行い、それぞれ評価した。
【0079】
<耐ブロッキング性(耐くっつき性)>
実施例及び比較例の各樹脂フィルムを、それぞれフィルム面同士を重ね合わせた後、0.29MPaの荷重を掛け、40℃で1日放置した。その後、重ね合わせたフィルム同士のブロッキング性を目視で観察し、以下の基準で評価した。その結果を表3に示した。
○:ブロッキング性なし
△:僅かにブロッキング性あり
×:ブロッキング性あり
【0080】
<耐水性>
実施例及び比較例の各樹脂フィルムを、厚さ20μm、縦5cm×横1cmの形状に切り、25℃の水中に12時間浸漬し、浸漬試験後におけるフィルムの縦の長さを測定し、浸漬フィルムの縦方向の膨張係数(%)を測定し、下記の式を用いて算出した。そして、得られた膨張係数が200%以下のフィルムを○と評価し、200%を超えたフィルムを×として、耐水性を評価した。結果を表3に示した。
膨張係数(%)=(試験後の縦の長さ/試験前の縦の長さ)×100
【0081】
【0082】
<ヨウ素イオン及びセシウムイオン除去に対する効果>
実施例及び比較例の透明樹脂フィルムを用い、下記の方法で、ヨウ素イオン及びセシウムイオンの除去に対する効果を評価した。
(評価試験用のヨウ素溶液及びセシウム溶液の作製)
評価試験用のヨウ素溶液は、イオン交換処理した純水にヨウ化カリウムを、ヨウ素イオン濃度が200mg/L(200ppm)となるよう溶解して調製した。また、評価試験用のセシウム溶液は、イオン交換処理した純水に塩化セシウムを、セシウムイオン濃度が200mg/L(200ppm)となるよう溶解して調製した。なお、ヨウ素イオン及びセシウムイオンが除去できれば、当然に、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの除去ができる。
【0083】
(実施例1の樹脂組成物についての評価結果)
実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを、先に評価試験用に調製したヨウ素溶液50mlとセシウム溶液50mlの混合溶液中に置浸漬し(25℃)、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度をイオンクロマトグラフ(東ソー製;IC2001)で測定した。結果を表4に示したが、表4に示した通り、経過時間毎に、溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。表4中に、経過時間毎の溶液中のこれらのイオンの除去率を合わせて記載した。また、その結果を
図1及び
図2に示した。
【0084】
【0085】
(実施例2の樹脂組成物についての評価結果)
実施例2の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたのと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表5と、
図1及び
図2に示した。その結果、実施例2の親水性樹脂組成物を用いた場合も、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。
【0086】
【0087】
(実施例3の樹脂組成物についての評価結果)
実施例3の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたのと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表6と、
図1及び
図2に示した。その結果、実施例3の親水性樹脂組成物を用いた場合も、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。
【0088】
【0089】
(比較例1の樹脂組成物についての評価結果)
比較例1の非親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたのと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表7と、
図3及び
図4に示した。その結果、比較例1の親水性樹脂組成物を用いた場合は、ヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度のいずれも除去できておらず、実施例1〜3の親水性樹脂組成物の優位性が確認された。
【0090】
【0091】
(比較例2の樹脂組成物についての評価結果)
比較例2の非親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製したフィルムを用いたのと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表8と、
図3及び
図4に示した。その結果、比較例2の親水性樹脂組成物を用いた場合は、比較例2の親水性樹脂組成物を用いた場合よりもヨウ素イオン及びセシウムイオンの除去率が向上するものの、実施例1〜3の親水性樹脂組成物を用いた場合に比べて格段に劣っており、実施例の親水性樹脂組成物の優位性が確認された。
【0092】