特許第5750391号(P5750391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750391放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法及び放射性ヨウ素・放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750391
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法及び放射性ヨウ素・放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20150702BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   G21F9/12 512J
   G21F9/28 521Z
   G21F9/12 501F
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-67619(P2012-67619)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-200167(P2013-200167A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−181891(JP,A)
【文献】 特開2000−309609(JP,A)
【文献】 特開昭62−237398(JP,A)
【文献】 特許第5675551(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性ヨウ素及び放射性セシウムをともに、親水性樹脂とゼオライトとを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法であって、
上記親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に、第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、
上記親水性樹脂組成物が、親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを、原料の一部として形成された樹脂である請求項1に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
【請求項3】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項1又は2に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、下記の一般式(1)で表せる化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法。
(M+,M2+)O・Al23・mSiO2・nH2O (1)
[但し、式(1)中、M2+は、Ca2+、Mn2+、Ba2+又はMg2+のいずれかであり、M+は、Na+、K+又はLi+のいずれかであり、mは1〜18から選ばれるいずれかの数、nは1〜70から選ばれるいずれかの数である。]
【請求項5】
液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、
親水性樹脂とゼオライトとを含んでなり、
該親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントと、分子鎖中に第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを有してなる、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項6】
液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、
親水性樹脂とゼオライトとを含んでなり、
該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記親水性樹脂の親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項5又は6に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ゼオライトが、下記の一般式(1)で表せる化合物である請求項5〜7のいずれか1項に記載の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
(M+,M2+)O・Al23・mSiO2・nH2O (1)
[但し、式(1)中、M2+は、Ca2+、Mn2+、Ba2+又はMg2+のいずれかであり、M+は、Na+、K+又はLi+のいずれかであり、mは1〜18のいずれかの数、nは1〜70のいずれかの数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントや使用済核燃料施設から生ずる放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムをともに除去処理できる除去方法、及び放射性ヨウ素・放射性セシウムのいずれをも固定化する機能を示す親水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く普及している原子炉発電プラントにおいては、原子炉中での核分裂によって相当の量の放射性副産物の生成を伴う。これら放射性物質の主なものは、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性セリウム等の極めて危険な放射性同位元素を含む核分裂生成物及び活性元素である。これらの中でも、放射性ヨウ素は184℃で気体になるため、核燃料の検査や交換の際に、さらには、核燃料取扱い時の事故や原子炉暴走事故等の不慮の事由により、非常に放出され易いという危険性を有している。その対象となる放射性ヨウ素としては、長半減期のヨウ素129(半減期:1.57×107年)、短半減期のヨウ素131(半減期:8.05日)が主なものである。ここで、放射性を示さない普通のヨウ素は、人体に必須の微量元素であり、咽喉の近くの甲状腺に集められ、成長ホルモンの成分になる。このため、人が呼吸や水・食物を通して放射性ヨウ素を取りこむと、普通のヨウ素と同じように甲状腺に集められ、内部放射能被曝を増大させるため、特に厳格な放出放射能量の低減対策が施されなければならない。
【0003】
また、放射性セシウムは、融点が28.4℃と常温付近で液状を示す金属の一つであり、放射性ヨウ素と同様に非常に放出され易いものである。その対象となる放射性セシウムは、比較的短半減期のセシウム134(半減期:2年)、長半減期のセシウム137(半減期:30年)が主なものである。特にセシウム137は、半減期が長いだけではなく、高エネルギーの放射線を放出し、且つ、アルカリ金属であるため、水への溶解性が大きいという性質を有している。さらに、放射性セシウムは、呼吸や皮膚からも人体に吸収されやすく、ほぼ全身に均一に分散されるため、人への健康被害は深刻である。
【0004】
このため、世界中で稼働している原子炉から不慮の事由等により偶発的に放射性セシウムが放出された場合は、原子炉で働く労働者や近隣の住民に対する放射能汚染のみならず、空気により運ばれる放射性セシウムにより汚染された食品や水を介して、人間や動物へと、より広範な放射能汚染が引き起こすことが懸念される。この点についての危険性は、チェルノブイリ原子力発電所の事故により明らかに実証済である。
【0005】
このような事態に対し、原子炉内で生成された放射性ヨウ素の処理方法として、洗浄処理方式、繊維状の活性炭等を用いた固体吸着剤充填による物理・化学的処理方式(特許文献1、2参照)、イオン交換剤による処理(特許文献3参照)などが検討されている。
【0006】
しかしながら、上記したいずれの方法も下記に述べるように課題があり、これらの課題が解決された放射性ヨウ素の除去方法の開発が望まれている。まず、洗浄処理方式で実用化されているものとしてはアルカリ洗浄法などがあるが、液体吸着剤による洗浄処理方式で処理し、これを液体のまま長期間貯蔵するのには、量的にも、また安全上も問題が多い。また、固体吸着剤の充填による物理・化学的処理方式では、捕捉されたヨウ素は、他のガスとの交換の可能性に常に晒されており、また温度が上昇すると容易に吸着物を放出するという難点がある。さらに、イオン交換剤による処理方式では、イオン交換剤の耐熱温度は100℃程度までであり、これより高温では十分な性能を発揮し得ないという課題がある。
【0007】
一方、原子炉内で生成した放射性セシウムの除去処理方法としては、無機イオン交換体や選択性イオン交換樹脂による吸着法、重金属と可溶性フェロシアン化物又はフェロシアン化物塩併用による共沈法、セシウム沈殿試薬による化学処理法などが知られている(特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、上述した処理方法は、いずれも循環ポンプや浄化槽さらには各吸着剤を内蔵した充填槽などの大掛かりな設備を必要とし、さらに、それらを稼働させるための多大なエネルギーを必要とする。また、2011年3月11日に発生した日本国の福島第一原発事故のように、電源が断たれたような場合にはこれらの設備は稼働できなくなるので、放射性ヨウ素や放射性セシウム等による汚染の危険度が増大する。そして、電源が断たれた場合には特に、原子炉の暴走事故により周辺地域へ拡散した放射性ヨウ素や放射性セシウム等に対しての除去方法が極めて困難な状況に陥り、放射能汚染を拡大しかねない状況となることが懸念される。したがって、このような事態が生じた場合においても対応が可能な放射性ヨウ素や放射性セシウムの除去技術の開発が急務である。また、放射性ヨウ素と放射性セシウムとを一緒に処理できる有効な除去技術が開発されれば極めて有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭62−44239号公報
【特許文献2】特開2008−116280号公報
【特許文献3】特開2005−37133号公報
【特許文献4】特開平4−118596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを一緒に処理できる有効な除去技術を提供するにあたり、従来技術の問題点を解決し、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性ヨウ素及び放射性セシウムを固体内部に取り込んで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能とした、新規な放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去技術が提供される。本発明の目的は、特に、上記した技術を実施する際に有用な、放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定化できる機能を有し、これらの放射性物質を一緒に除去処理することを可能とし、しかも、処理の際に、樹脂フィルムやシート等の形態で用いた場合に、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)が向上した、その実用性に優れる新規な親水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性ヨウ素及び放射性セシウムをともに、親水性樹脂とゼオライトとを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法であって、上記親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に、第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、上記親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法を提供する。
【0012】
本発明の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。上記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを、原料の一部として形成された樹脂であること;上記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;上記ゼオライトが、下記の一般式(1)で表せる化合物であることである。
(M+,M2+)O・Al23・mSiO2・nH2O (1)
[但し、式(1)中、M2+は、Ca2+、Mn2+、Ba2+又はMg2+のいずれかであり、M+は、Na+、K+又はLi+のいずれかであり、mは1〜18のいずれかの数、nは1〜70のいずれかの数である。]
【0013】
本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とゼオライトとを含んでなり、該親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントと、分子鎖中に第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを有してなる、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0014】
さらに本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれをも固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とゼオライトとを含んでなり、該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、ゼオライトが1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0015】
上記したいずれかの本発明の親水性樹脂組成物の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。上記親水性樹脂の親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;上記ゼオライトが、下記の一般式(1)で表せる化合物であることである。
(M+,M2+)O・Al23・mSiO2・nH2O (1)
[但し、式(1)中、M2+は、Ca2+、Mn2+、Ba2+又はMg2+のいずれかであり、M+は、Na+、K+又はLi+のいずれかであり、mは1〜18のいずれかの数、nは1〜70のいずれかの数である。]
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、廃液中や廃固形物中に存在している放射性ヨウ素及び放射性セシウムを、簡便に且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、除去した放射性ヨウ素及び放射性セシウムを固体内部に取りんで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能であり、しかも放射性ヨウ素と放射性セシウムとを一緒に除去処理できる新規な技術が提供される。
また、本発明によれば、放射性ヨウ素及び放射性セシウムのいずれに対しても固定化できる機能を有し、これらを一緒に除去処理することができ、しかも、除去処理の際にフィルム状等の形態で用いた場合に、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)の向上を実現させた、実用性の高い親水性樹脂組成物が提供され、これにより、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの同時処理をより良好な状態で実現可能なものにできる。さらに本発明によれば、その主成分が樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な新規な親水性樹脂組成物が提供される。
本発明のこれらの顕著な効果は、その構造中に、親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを分子鎖中に有している親水性樹脂とともに、ゼオライトを分散させてなれる親水性樹脂組成物を利用するという極めて簡便な方法で達成される。本発明を特徴づける親水性樹脂としては、例えば、有機ポリイソシアネートと、高分子量親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、放射性廃液や放射性固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムを定着して固定化する機能を有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】水溶液中のヨウ素濃度と、実施例1〜3の親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
図2】水溶液中のセシウム濃度と、実施例1〜3の親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
図3】水溶液中のヨウ素濃度と、比較例1〜2の非親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
図4】水溶液中のセシウム濃度と、比較例1〜2の非親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法の特徴は、本発明を特徴づける親水性樹脂に、ゼオライトを分散させてなる本発明の親水性樹脂組成物を用いたことにある。該親水性樹脂は、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基を有する成分を構成単位とする第3級アミノ基含有セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである。すなわち、本発明を特徴づけるこれらの親水性樹脂は、その構造中に、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基を有する成分を構成単位とする第3級アミノ基含有セグメントと、ポリシロキサンセグメントを有しているものであることを要する。これらのセグメントは、親水性樹脂の合成時に、鎖延長剤を使用しない場合は、それぞれランダムにウレタン結合、ウレア結合又はウレタン−ウレア結合等で結合されている。親水性樹脂の合成時に、鎖延長を使用する場合には、上記の結合とともに、これらの結合の間に鎖延長剤の残基である短鎖が存在するものになる。
【0019】
本発明における「親水性樹脂」とは、その分子中に親水性基を有しているが、水や温水等には不溶解性の樹脂を意味し、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース誘導体等の水溶性樹脂とは区別されるものである。
【0020】
本発明の親水性樹脂組成物は、上記した親水性樹脂とゼオライトとを含んでなるが、該組成物を用いることで、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを一緒に除去処理することが可能になる。本発明者らは、その理由を下記のように考えている。まず、本発明で使用する親水性樹脂は、親水性セグメントにより優れた吸水性を示すが、さらに、その構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基が導入されていることによって、イオン化した放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成され、その結果、親水性樹脂中に放射性ヨウ素が定着されるものと考えられる。
【0021】
しかし、水分の存在下では上記の如きイオン結合は解離し易いことから、一定時間経過すれば再び放射性ヨウ素は樹脂から放出すると考えられ、本発明者らは、樹脂中における放射性ヨウ素の定着状態を固定化した状態で除去するのは難しいと予想していた。しかし、この予想に反し、実際には、イオン結合した放射性ヨウ素は長時間経っても樹脂中に定着されたままであることがわかった。この理由は定かではないが、本発明者らは、下記のように考えている。すなわち、本発明において用いる特定の構造をもつ親水性樹脂は、その分子内に疎水性部分も存在しており、該樹脂中の第3級アミノ基と放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成された後、この疎水性部分が親水性部分(親水セグメント)及び上記イオン結合部分の周りを取り囲むようになるためではないかと推察している。上記したような理由から、本発明の方法では、本発明で規定する特有の構造を有する親水性樹脂を用いることで、まず、放射性ヨウ素を樹脂中に固定化でき、その除去が可能になったと考えられる。
【0022】
さらに、本発明では、上記した優れた機能を示す親水性樹脂に対し、ゼオライトが特定量分散された本発明の親水性樹脂組成物を用いることで、上記した放射性ヨウ素の除去に加えて、放射性セシウムの除去をも可能にし、放射性ヨウ素と放射性セシウムとの除去処理を同時に達成する。上記したように、本発明では、その構造中に存在する親水性セグメントによって優れた吸水性を示す親水性樹脂を使用しているため、処理対象であるイオン化した放射性セシウムが、樹脂中に速やかに取り込まれるものと考えられる。そして、本発明の除去方法では、イオン化した放射性セシウムを速やかに取り込むことができる特有の樹脂とともに、後述するようにセシウムに対するイオン交換順位が高いゼオライトが分散された親水性樹脂組成物を用いることとした。この結果、本発明では、分散したゼオライトに、放射性セシウムが、より速やかに且つ効率よく定着され、固定化されるようになり、放射性ヨウ素の除去に加えて、より良好な放射性セシウムの除去を可能にできたものと考えられる。
【0023】
本発明で用いる親水性樹脂は、さらに、その構造中にポリシロキサンセグメントを有するものであることを要し、かかる構成によって、本発明の所期の目的の達成により有益な、後述する顕著な効果が得られる。ここで、樹脂分子中に導入されるポリシロキサンセグメントは、本来、疎水性(撥水性)であるが、特定範囲の量のポリシロキサンセグメントを構造中に導入させた場合、その樹脂は「環境応答性」があるものになることが知られている(高分子論文集、第48巻[第4号]、227(1991))。上記論文でいう樹脂に「環境応答性」があるとは、乾燥した状態では、樹脂表面は完全にポリシロキサンセグメントで覆われるが、樹脂を水中に浸漬した場合には、ポリシロキサンセグメントが樹脂中に埋没してしまう現象のことである。
【0024】
本発明では、ポリシロキサンセグメントを導入することで樹脂に表れるこの「環境応答性」の現象を、先述した放射性ヨウ素の除去処理に利用し、当該処理をより有効なものにする。先述したように、本発明で用いる親水性樹脂中に導入されている第3級アミノ基と、処理対象の放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成されると、該樹脂はさらに親水度が増加し、このことによって、逆に下記の問題が生じる恐れがある。すなわち、本発明の除去方法では、後述するように、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを樹脂に固定して除去処理するために、親水性樹脂を、例えば、フィルム状等の形態で用いることが好ましいが、その場合に、処理する放射性ヨウ素の量が多量であると、フィルム状等の樹脂に要求される耐水性に支障をきたす恐れがある。これに対し、本発明では使用する親水性樹脂の分子中(構造中)に、さらにポリシロキサンセグメントを導入することで、上記したような場合であっても、使用する樹脂が十分な耐水機能を示し、処理が有効に行われる樹脂構成を実現させている。すなわち、本発明を特徴づける親水性樹脂は、その構造中に導入した、親水性セグメントによる吸水性能、第3級アミノ基による放射性ヨウ素に対する定着性能に加え、ポリシロキサンセグメントを導入したことによって、当該樹脂で形成したフィルム等の耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)の向上を実現させ、これにより放射性ヨウ素及び放射性セシウムの除去処理に用いた場合に、より有用なものになる。
【0025】
本発明で使用するゼオライトは、人工的に合成することも可能であるが、シリコンとアルミと酸素からなる、分子レベルの微細な孔を持った天然に産する結晶性化合物であり、種々の結晶構造を有するものが知られている。ゼオライトは、非常に大きな表面積を持つ細孔を有する特有の結晶構造を有することから、ガスやイオン等に対する高い吸着能や、様々な化学反応を助ける触媒能を示し、さらに、細孔の大きさによる分子の篩分けも可能であることから、広範な分野で使用されている。
【0026】
天然のゼオライトは、下記一般式(1)で表されるアルミノケイ酸塩の中で結晶構造中に上記したような空隙(細孔)を持つ鉱物であるが、いずれも本発明に使用可能である。
(M+,M2+)O・Al23・mSiO2・nH2O (1)
[但し、式(1)中、M2+は、Ca2+、Mn2+、Ba2+又はMg2+のいずれかであり、M+は、Na+、K+又はLi+のいずれかであり、mは1〜18のいずれかの数、nは1〜70のいずれかの数である。]
【0027】
ゼオライトは、先に述べたように触媒や吸着材料として広く利用されているが、これらに加えて、ゼオライトに含まれる正イオンは別のイオンに簡単に交換できるので高いイオン交換性を示し、しかも樹脂には不向きな高温等の条件でも使用可能であることから、イオン交換材料としても有用である。本発明では、先に述べたゼオライトのもつ高い吸着機能に加えて、特に、ゼオライトのもつイオン交換性を利用することで、液中及び/又は固形物中に存在する放射性セシウムを除去する。ここで、ゼオライトのもつイオン交換性について、具体的に説明する。ゼオライトのもつイオン交換性は、下記に述べるように、ゼオライトの骨格を形成する結晶構造に起因して発現される。ゼオライトの骨格(結晶格子)を作る成分の一つであるケイ素(Si)は4価であるので、2価の負イオンである酸素とはSiO2という組成で電荷のバランスがとれるが、もう一つの成分であるアルミニウム(Al)は3価であるので、AlがSiの代わりに骨格に入ると、正の電荷が1個不足し、陽イオンの欠損ができる。そのため、ゼオライトには別の陽イオンが含まれており、この生じた欠損部分に、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)等の陽イオンを取り込んで、荷電のバランスを取っている。この取り込まれたゼオライト中に含まれる陽イオンは、水溶液中で他の陽イオンと互いに入れ替わる性質があるため、ゼオライトは、高いイオン交換性を示す。ここで、ゼオライトのもつ陽イオン交換の優先順位は下記の通りである。
【0028】
<イオン交換順位>
セシウム(Cs)>ルビジウム(Rb)>アンモニウム(NH4)>バリウム(Ba)>ストロンチウム(Sr)>ナトリウム(Na)>カルシウム(Ca)>鉄(Fe)>アルミニウム(Al)>マグネシウム(Mg)>リチウム(Li)
【0029】
上記したように、セシウムやストロンチウムのイオン交換順位が高いことから、ゼオライトのもつイオン交換性は、放射性セシウム等の放射性物質の除去に利用できるとされており、この点は公知である。本発明では、上記した放射性ヨウ素を定着し、固定化して除去することができ、イオン化した放射性セシウムが速やかに取り込まれ、しかも、フィルム等とした場合に、耐水性や表面の耐ブロッキング性能が向上した特有の構造を有する親水性樹脂に、上記した放射性セシウムを除去することができるゼオライトを分散させた本発明の親水性樹脂組成物を用いることで、放射性ヨウ素と放射性セシウムをより効率よく一緒に除去処理することができる技術を達成する。
【0030】
次に、上述した性能を実現した本発明を特徴づける親水性樹脂を形成するための原料について説明する。本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性セグメントと、第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを有することを特徴とする。そのため、まず、該親水性樹脂を得るには、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを原料の一部とすることが好ましい。本発明に用いる親水性樹脂中に第3級アミノ基を導入するための化合物には、下記に挙げるような第3級アミノ基含有化合物を用いることが好ましい。すなわち、分子中に少なくとも1個の活性水素含有基(以下、反応性基と記載する場合がある)として、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、酸ハライド基、カルボキシエステル基、酸無水物基等を有し、且つ分子鎖中に第3級アミノ基を有する化合物を用いる。
【0031】
上記の如き反応性基を有する第3級アミノ基含有化合物の好ましい例としては、例えば、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物が挙げられる。
[式(2)中の、R1は炭素数20以下のアルキル基、脂環族基、又は芳香族基(ハロゲン、アルキル基で置換されていてもよい)であり、R2及びR3はそれぞれ独立に、−O−、−CO−、−COO−、−NHCO−、−S−、−SO−、−SO2−等で連結されていてもよい低級アルキレン基であり、X及びYは−OH、−COOH、−NH2、−NHR1(R1は上記と同じ定義である)、−SH等の反応性基であり、X及びYは同一でも異なってもよい。また、X及びYは上記の反応性基に誘導できるエポキシ基、アルコキシ基、酸ハライド基、酸無水物基、又はカルボキシルエステル基でもよい。]
【0032】
[式(3)中の、R1、R2、R3、X及びYは、前記式(2)におけるものと同じ定義であるが、但し二つのR1同士は環状構造を形成するものであってもよい。R4は−(CH2)n−、(nは0〜20の整数)である。]
【0033】
(式(4)中の、X及びYは、前記式(2)におけるものの定義と同じであり、Wは、窒素含有複素環、窒素と酸素含有複素環、又は窒素と硫黄含有複素環を表す。)
【0034】
上記の一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。例えば、N,N−ジヒドロキシエチル−メチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−エチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−イソプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−n−ブチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−t−ブチルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−クロロアニリン、N,N−ジヒドロキシエチルベンジルアミン、N,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N−ヒドロキシエチル−ピペラジン、N,N−ジヒドロキシエチル−ピペラジン、N−ヒドロキシエトキシエチル−ピペラジン、1,4−ビスアミノプロピル−ピペラジン、N−アミノプロピル−ピペラジン、ジピコリン酸、2,3−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、2,6−ピリジン−ジメタノール、2−(4−ピリジル)−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,6−ジアミノトリアジン、2,5−ジアミノトリアゾール、2,5−ジアミノオキサゾール等が挙げられる。
【0035】
また、これら第3級アミノ化合物のエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物等も本発明に使用できる。その付加物としては、例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられる。なお、下記式中のmは1〜60の整数を、nは1〜6の整数を表す。
【0036】
【0037】
さらに本発明に用いる親水性樹脂は、その構造中にポリシロキサンセグメントを有することを特徴とする。親水性樹脂分子中にポリシロキサンセグメントを導入するために使用可能なポリシロキサン化合物としては、例えば、分子中に1個又は2個以上の反応性基、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基等を有する化合物が挙げられる。上記のような反応性基を有するポリシロキサン化合物の好ましい例としては、例えば、下記の如き化合物が挙げられる。
【0038】
アミノ変性ポリシロキサン化合物
【0039】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物
【0040】
アルコール変性ポリシロキサン化合物
【0041】
メルカプト変性ポリシロキサン化合物
【0042】
カルボキシル変性ポリシロキサン化合物
【0043】
以上のような活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物中では、特にポリシロキサンポリオール及びポリシロキサンポリアミンが有用である。なお、列記した化合物は、いずれも本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0044】
上記したようなポリシロキサン化合物とともに、本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に使用する有機ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタン樹脂の合成における公知のものがいずれも使用でき、特に制限されない。好ましいものとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、水素添加MDI、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等、或いはこれらの有機ポリイソシアネートと低分子量のポリオールやポリアミンを末端イソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0045】
また、親水性セグメントを有する本発明を特徴づける親水性樹脂の合成には、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンを用いることが好ましい。本発明において好適な親水性成分としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を有する重量平均分子量が400〜8,000の範囲の親水性を有する化合物が好ましい。具体的には、末端が水酸基で、親水性を有するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコールアジペートポリオール、ポリエチレングリコールサクシネートポリオール、ポリエチレングリコール/ポリε−ラクトン共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリバレロラクトン共重合ポリオール等が挙げられる。
【0046】
末端がアミノ基で、親水性を有するポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドトリアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドトリアミン等が挙げられる。その他、カルボキシル基やビニル基を有するエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0047】
本発明においては、親水性樹脂に耐水性を付与するため、上記の親水性成分とともに、親水鎖を有しない他のポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸等を併用することも可能である。
【0048】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成の際には、必要に応じて鎖延長剤を使用することができる。使用される鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオールやジアミン等の従来公知の鎖延長剤がいずれも使用でき、特に限定されない。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0049】
以上の原料成分を用いて得られる親水性セグメントと、第3級アミノ基と、ポリシロキサンセグメントとを分子鎖中に有する親水性樹脂は、その重量平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算)が3,000〜800,000の範囲のものであることが好ましい。更に好ましい重量平均分子量は5,000〜500,000の範囲である。
【0050】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に使用するのに特に好適な親水性樹脂中の第3級アミノ基の含有量は、0.1〜50eq(当量)/kgの範囲が好ましく、更に好ましくは0.5〜20eq/kgである。第3級アミノ基の含有量が0.1eq/kg未満、すなわち分子量10,000当たり1個未満では、本発明の所期の目的である放射性ヨウ素の除去性の発現が不十分となり、一方、第3級アミノ基の含有量が50eq/kgを超えて、すなわち分子量10,000当たり500個を超えた場合では、樹脂中の親水性部分の減少による疎水性が強くなり、吸水性能に劣るようになるので好ましくない。
【0051】
また、本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に特に好適な親水性樹脂中のポリシロキサンセグメントの含有量は、0.1〜12質量%の範囲、特に0.5〜10質量%の範囲が好ましい。ポリシロキサンセグメントの含有量が0.1質量%未満では、本発明の目的である耐水性や表面の耐ブロッキング性の発現が不十分となり、一方、12質量%を超えると、ポリシロキサンセグメントによる撥水性が強くなり、吸水性能を低下させ放射性ヨウ素の吸着性を阻害するので好ましくない。
【0052】
また、本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法に特に好適な親水性樹脂における親水性セグメントの含有量は、20〜80質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは30〜70質量%の範囲である。親水性セグメントの含有量が20質量%未満では、吸水性能に劣り放射性ヨウ素の除去性が低下する。一方、80質量%を超えると、耐水性に劣るようになるので好ましくない。
【0053】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法で使用する親水性樹脂組成物は、上述した親水性樹脂に、ゼオライトを分散させることによって得られる。具体的には、上述した親水性樹脂にゼオライトと分散溶媒を入れ、所定の分散機によって分散操作を行うことにより製造することができる。上記分散に使用する分散機としては、通常顔料分散に用いる分散機であれば問題なく使用することができる。例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、パールミル(以上、アイリッヒ社製)、サンドミル、ビスコミル、アトライターミル、バスケットミル、湿式ジェットミル(以上、ジーナス社製)等があるが、分散性と経済性を鑑みて設定するのが好ましい。また、メディアとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、ステンレスビーズ等を用いることができる。
【0054】
本発明の親水性樹脂組成物では、組成物中に分散させるゼオライトの量は、親水性樹脂100質量部に対して、ゼオライトを1〜200質量部の割合で配合させる。ゼオライトが1質量部未満では、放射性セシウムの除去が不十分であり、200質量部を超えると組成物の機械物性が弱くなるとともに、耐水性に劣るようになり、放射能汚染水中で形状を保てなくなるおそれがあるので好ましくない。また、本発明の親水性樹脂組成物における親水性樹脂とゼオライトの組成比の決定に際しては、前記したゼオライトのイオン交換順位に従い、ゼオライト中からイオン交換後のイオンが水溶液中に溶出する点についても考慮する必要がある。
【0055】
本発明の放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去方法においては、上記した構成からなる本発明の親水性樹脂組成物を下記のような形態で使用することが好ましい。すなわち、親水性樹脂組成物の溶液を、離型紙や離型フィルム等に、乾燥後の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜50μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥させて得られたフィルム状にしたものが挙げられる。この場合には、使用時に離型紙や離型フィルム等から剥離して、放射性ヨウ素・放射性セシウムの除去フィルムとして使用する。また、その他、各種基材に、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を塗布又は含浸して使用してもよい。この場合の基材としては、金属、ガラス、木材、繊維、各種プラスチック等が使用できる。
【0056】
上記のようにして得られた、本発明を特徴づける親水性樹脂組成物製のフィルム又は各種基材に塗布したシートを、放射性廃液や、放射性固形物をあらかじめ水で除染した廃液などに浸漬することにより、これらの液中に存在する放射性ヨウ素及び放射性セシウムの両方を選択的に除去することができる。また、放射能で汚染された固形物などに対しては、本発明の親水性樹脂組成物製のフィルムやシートで覆うことによって、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの拡散を防ぐことができる。
【0057】
本発明の親水性樹脂組成物のフィルムやシートは水には溶けないため、除染後に、容易にその廃液から取りだすことができる。このように、本発明の方法によれば、放射性ヨウ素と放射性セシウムの両方を除去するのに、特別な設備も電力も必要とせず、簡単にかつ低コストで除染することができる。さらには、本発明で使用する親水製樹脂に吸水した水分を乾燥させ100〜170℃に加熱すれば、樹脂が軟化して体積の収縮が起こり、放射性廃棄物の減容化の効果も期待できる。
【実施例】
【0058】
次に具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0059】
[製造例1](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレタン樹脂の合成)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内で、下記構造のポリジメチルシロキサンポリオール(分子量3,200)8部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)142部、N−メチルジエタノールアミン20部及びジエチレングリコール5部を、100部のメチルエチルケトンと200部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、73部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、60部のメチルエチルケトンを加え、本発明規定する構造を有する親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0060】
【0061】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で330dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した親水性樹脂フィルムは、破断強度20.5MPa、破断伸度が400%であり、熱軟化温度は103℃であった。
【0062】
[製造例2](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレア樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、メチルイミノビスプロピルアミン25部及び1,4−ジアミノブタン5部を、ジメチルホルムアミド250部に溶解し、内温を20〜30℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、75部の水素添加MDIを100部のジメチルホルムアミドに溶解した溶液を徐々に滴下して反応させた。滴下終了後、次第に内温を上昇させ、50℃に達したところでさらに6時間反応させた後、124部のジメチルホルムアミドを加え、本発明規定する構造を有する親水性ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0063】
【0064】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で、315dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成したフィルムは、破断強度が31.3MPa、破断伸度が370%であり、熱軟化温度は147℃であった。
【0065】
[製造例3](第3級アミノ基とポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のエチレンオキサイド付加型ポリジメチルシロキサン(分子量4,500)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、N,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン30部及び1,4−ジアミノブタン5部を、メチルエチルケトン150部と150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解した。そして、内温を20〜30℃でよく撹拌しながら、72部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させ、反応終了後、メチルエチルケトン75部を加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0066】
【0067】
上記で得た樹脂溶液は固形分35%で、390dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成したフィルムは破断強度が22.7MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は127℃であった。
【0068】
[製造例4](比較例で使用する第3級アミノ基もポリシロキサンセグメントも含有しない非親水性ポリウレタン樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解した。そして、60℃でよく攪拌しながら、62部の水素添加MDIを171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させて、比較例で使用する非親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から得られたフィルムは、破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0069】
[製造例5](比較例で使用する第3級アミノ基を含有し、ポリシロキサンセグメントを含有しない非親水性ポリウレタン樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、N−メチルジエタノールアミン20部と、ジエチレングリコール5部を、200部のメチルエチルケトンと150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、74部の水素添加MDIを、112部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させて、比較例で使用する非親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で510dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成したフィルムは、破断強度23.5MPa、破断伸度が470%であり、熱軟化温度は110℃であった。
【0070】
上記で得られた製造例1〜5の各樹脂の重量平均分子量、及び第3級アミノ基、ポリシロキサンセグメント含有量は表1の通りであった。
【0071】
【0072】
<実施例1〜3、比較例1、2>
製造例1〜5で得た各樹脂溶液と、ゼオライト(サン・ゼオライト工業(株)製)とを、表2に示した配合で、高密度アルミナボール(3.5g/ml)を使用してボールミルで24時間分散した。そして分散後の内容物を、ポリエステル樹脂製の100メッシュのふるいを通して取り出して、樹脂溶液とゼオライトとを含んでなる液状の各樹脂組成物を得た。
【0073】
【0074】
[評価]
上記で得た実施例1〜3、比較例1、2の各樹脂溶液をそれぞれ用い、離型紙上に塗布し、110℃で3分加熱乾燥して溶剤を揮散させ、約20μmの厚さの各樹脂フィルムをそれぞれ形成した。このようにして得た実施例1〜3と比較例1、2の各樹脂フィルムを用い、以下の項目について試験を行い、それぞれについて評価した。
【0075】
<耐ブロッキング性(耐くっつき性)>
実施例及び比較例の各樹脂フィルムを、それぞれフィルム面同士を重ね合わせた後、0.29MPaの荷重を掛け、40℃で1日放置した。その後、重ね合わせたフィルム同士のブロッキング性を目視で観察し、以下の基準で評価した。その結果を表3に示した。
○:ブロッキング性なし
△:僅かにブロッキング性あり
×:ブロッキング性あり
【0076】
<耐水性>
実施例及び比較例の各樹脂フィルムを、厚さ20μm、縦5cm×横1cmの形状に切り、25℃の水中に12時間浸漬し、浸漬試験後におけるフィルムの縦の長さを測定し、浸漬フィルムの縦方向の膨張係数(%)を下記の式を用いて算出した。そして、得られた膨張係数が200%以下のフィルムを○と評価し、200%を超えたフィルムを×として耐水性を評価した。結果を表3に示した。
膨張係数(%)=(試験後の縦の長さ/元の縦の長さ)×100
【0077】
【0078】
<ヨウ素イオン及びセシウムイオン除去に対する効果>
実施例及び比較例の透明樹脂フィルムを用い、下記の方法で、ヨウ素イオン及びセシウムイオンの除去に対する効果を評価した。
(評価試験用のヨウ素溶液及びセシウム溶液の作製)
評価試験用のヨウ素溶液は、イオン交換処理した純水にヨウ化カリウムを、ヨウ素イオン濃度が200mg/L(200ppm)となるよう溶解して調製した。また、評価試験用のセシウム溶液は、イオン交換処理した純水に塩化セシウムを、セシウムイオン濃度が200mg/L(200ppm)となるよう溶解して調製した。なお、ヨウ素イオン及びセシウムイオンが除去できれば、当然に、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの除去ができる。
【0079】
(実施例1の樹脂組成物についての評価結果)
実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを、先に評価試験用に調製したヨウ素溶液50mlとセシウム溶液50mlの混合溶液中に浸漬し(25℃)、経過時間毎に、溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度をイオンクロマトグラフ(東ソー製;IC2001)で測定した。結果を表4に示したが、表4に示した通り、経過時間毎に、溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。表4中に、経過時間毎の溶液中のこれらのイオンの除去率(%)を合わせて記載した。また、その結果を図1及び図2に示した。
【0080】
【0081】
(実施例2の樹脂組成物についての評価結果)
実施例2の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表5と図1及び図2に示した。その結果、実施例2の親水性樹脂組成物を用いた場合も、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。
【0082】
【0083】
(実施例3の樹脂組成物についての評価結果)
実施例3の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表6と、図1及び図2に示した。その結果、実施例3の親水性樹脂組成物を用いた場合も、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度がともに減少することを確認した。
【0084】
【0085】
(比較例1の樹脂組成物についての評価結果)
比較例1の非親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表7と、図3及び図4に示した。その結果、比較例1の非親水性樹脂組成物を用いた場合は、ヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度のいずれも殆ど除去できておらず、実施例1〜3の親水性樹脂組成物の優位性が確認された。
【0086】
【0087】
(比較例2の樹脂組成物についての評価結果)
比較例2の非親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルム20gを用いた以外は、実施例1の親水性樹脂組成物を用いて作製した樹脂フィルムを用いたと同様にして、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度及びセシウムイオン濃度を測定した。得られた結果は、先に説明した実施例1の場合と同様に、表8と、図3及び図4に示した。その結果、比較例2の非親水性樹脂組成物を用いた場合は、比較例1の非親水性樹脂組成物を用いた場合よりもヨウ素イオン及びセシウムイオンの除去率が向上するものの、実施例1〜3の親水性樹脂組成物を用いた場合に比べて格段に劣っており、実施例の親水性樹脂組成物の優位性が確認された。
【0088】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、放射性廃液や放射性固形物中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムを、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要としない新しい除去方法で簡便に除去することが可能になる。本発明では、その構造中に、親水性セグメントと、放射性ヨウ素とイオン結合する第3級アミノ基に加え、さらにポリシロキサンセグメントを導入した親水性樹脂を含む親水性樹脂組成物を使用することで、該ポリシロキサンセグメントの存在によってもたらされる耐水性や樹脂表面の耐ブロッキング性(耐くっつき性)を実現し、フィルム等を使用して除去処理を行う場合の実用性をより高めることができ、さらに、これらに加えて、ゼオライトが分散されてなる親水性樹脂組成物とすることで、放射性セシウムを一緒に除去することを可能にする。すなわち、本発明で用いる親水性樹脂は、イオン化した放射性セシウム等を速やかに樹脂に取り込むことができ、さらに、親水性樹脂組成物中に分散させたゼオライトは、イオン化した放射性セシウム等に対して高いイオン交換性を有するため、放射性セシウムの効率のよい除去処理が可能になる。さらに、本発明の親水性樹脂組成物は、放射性ヨウ素及び放射性セシウムを取り込んでより安定的に固定化することができるだけでなく、その主成分が樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化することも可能であり、放射性物質の除去処理後に生じる大量の放射性廃棄物における問題も軽減でき、その利用が期待される。
図1
図2
図3
図4