特許第5750392号(P5750392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750392放射性セシウムの除去方法及び放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750392
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】放射性セシウムの除去方法及び放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20150702BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   G21F9/12 512J
   G21F9/28 521Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-68630(P2012-68630)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-200206(P2013-200206A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−190237(JP,A)
【文献】 特開2000−309609(JP,A)
【文献】 特開昭62−237398(JP,A)
【文献】 特許第5675551(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性セシウムを、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性セシウムの除去方法であって、
上記親水性樹脂(但し、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有するものを除く)が、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、
上記親水性樹脂組成物が、親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性セシウムの除去方法。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として形成された樹脂である請求項1に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項3】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項1又は2に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項4】
前記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物のいずれかである請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性セシウムの除去方法。
xy[Fe(CN)6] (1)
[式(1)中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【請求項5】
液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、
親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含み、
該親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として反応させて得られた、親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有してなる、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂(但し、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有するものを除く)であり、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項6】
液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、
親水性樹脂(但し、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有するものを除く)とフェロシアン化金属化合物とを含み、
該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、その分子中に親水性基を有しているが、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項5又は6に記載の放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項8】
前記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物である請求項5〜7のいずれか1項に記載の放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
xy[Fe(CN)6] (1)
[式(1)中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントや使用済核燃料施設から生ずる放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性セシウムを除去処理できる除去方法、及び該方法に好適な放射性セシウムを固定化する機能を示す親水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く普及している原子炉発電プラントにおいては、原子炉中での核分裂によって相当の量の放射性副産物の生成を伴う。これら放射性物質の主なものは、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性セリウム等の極めて危険な放射性同位元素を含む核分裂生成物及び活性元素である。これらの中で、放射性セシウムは、融点が28.4℃と常温付近で液状を示す金属の一つであり、非常に外部放出され易いものである。その対象となる放射性セシウムは、比較的短半減期のセシウム134(半減期:2年)と、長半減期のセシウム137(半減期:30年)が主なものである。中でも特にセシウム137は、半減期が長いだけではなく、高エネルギーの放射線を放出し、且つ、アルカリ金属であるため、水への溶解性が大きいという性質を有している。さらに、放射性セシウムは、呼吸や皮膚からも人体に吸収されやすく、ほぼ全身に均一に分散されるため、放出された場合の人への健康被害は深刻である。
【0003】
このため、世界中で稼働している原子炉から不慮の事由等により偶発的に放射性セシウムが放出された場合は、原子炉で働く労働者や近隣の住民に対する放射能汚染のみならず、空気により運ばれる放射性セシウムにより汚染された食品や水を介して、人間や動物へと、より広範な放射能汚染が引き起こすことが懸念される。この点についての危険性は、チェルノブイリ原子力発電所の事故により明らかに実証済である。
【0004】
一方、原子炉内で生成した放射性セシウムの除去処理方法としては、無機イオン交換体や選択性イオン交換樹脂による吸着法、重金属と可溶性フェロシアン化物又はフェロシアン化物塩併用による共沈法、セシウム沈殿試薬による化学処理法などが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述した処理方法は、いずれも循環ポンプや浄化槽さらには各吸着剤を内蔵した充填槽などの大掛かりな設備を必要とし、さらに、それらを稼働させるための多大なエネルギーを必要とする。また、2011年3月11日に発生した日本国の福島第一原発事故のように、電源が断たれたような場合にはこれらの設備は稼働できなくなるので、この場合は放射性セシウムによる汚染の危険度が増大する。そして、電源が断たれた場合には特に、原子炉の暴走事故により周辺地域へ拡散した放射性セシウムに対しての除去方法が極めて困難な状況に陥り、放射能汚染を拡大しかねない状況となることが懸念される。したがって、電源が断たれたような事態が生じた場合においても対応が可能な放射性セシウムの除去技術の一刻も早い開発が望まれ、開発されれば極めて有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−118596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題点を解決し、簡単で且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性セシウムを固体内部に取り込んで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な、新規な放射性セシウムの除去技術を提供することにある。また、本発明の目的は、特に、上記した技術に有用な、放射性セシウムを固定化できる機能を有し、しかも、処理の際に、樹脂フィルムやシート等の形態で用いた場合に、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)が向上した、実用性に優れる新規な親水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性セシウムを、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性セシウムの除去方法であって、上記親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、且つ、上記親水性樹脂組成物が、親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性セシウムの除去方法を提供する。
【0009】
本発明の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。前記親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として形成された樹脂であること;前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;前記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物のいずれかであることである。
xy[Fe(CN)6] (1)
[式(1)中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【0010】
本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含み、該親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として反応させて得られた、親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有してなる、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0011】
さらに本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂とフェロシアン化金属化合物とを含み、該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、フェロシアン化金属化合物が1〜200質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0012】
上記したいずれかの本発明の親水性樹脂組成物の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;前記フェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物であることである。
xy[Fe(CN)6] (1)
[式(1)中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、廃液中や廃固形物中に存在している放射性セシウムを、簡便に且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、除去した放射性セシウムを固体内部に取り込んで定着し、さらに安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能である新規な技術が提供される。
また、本発明によれば、放射性セシウムに対して固定化できる機能を有し、しかも、除去処理の際にフィルム状等の形態で用いた場合に、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)の向上を実現させた、実用性の高い親水性樹脂組成物が提供され、これによって、放射性セシウムの除去処理をより良好な状態で実現可能なものにできる。さらに本発明によれば、その主成分が樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な新規な親水性樹脂組成物が提供される。
本発明のこれらの顕著な効果は、その構造中に、親水性セグメントと、主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有している親水性樹脂とともに、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を分散させてなる親水性樹脂組成物を利用するという極めて簡便な方法で達成される。本発明を特徴づける親水性樹脂としては、例えば、有機ポリイソシアネートと、高分子量親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させることで得られ、より具体的には、前記した構造を有する親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水溶液中のセシウム濃度と、実施例1〜3の親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
図2】水溶液中のセシウム濃度と、比較例1〜2の非親水性樹脂組成物で作製したフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の放射性セシウムの除去方法の特徴は、本発明を特徴づける親水性樹脂に、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を分散させてなる本発明の親水性樹脂組成物を用いたことにある。本発明を特徴づける親水性樹脂は、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである。これらのセグメントは、親水性樹脂の合成時に、鎖延長剤を使用しない場合は、それぞれランダムにウレタン結合、ウレア結合又はウレタン−ウレア結合等で結合されている。親水性樹脂の合成時に、鎖延長を使用する場合には、上記の結合とともに、これらの結合の間に鎖延長剤の残基である短鎖が存在するものになる。
【0016】
本発明における「親水性樹脂」とは、その分子中に親水性基を有しているが、水や温水等には不溶解性である樹脂を意味しており、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース誘導体等の水溶性樹脂とは区別されるものである。その詳細については後述する。
【0017】
本発明の親水性樹脂組成物は、上記した親水性樹脂と、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物とを含んでなるが、該親水性樹脂組成物を用いることで放射性セシウムを除去処理が可能な理由について、本発明者らは下記のように考えている。まず、本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に存在する親水性セグメントによって優れた吸水性を示すため、処理対象であるイオン化した放射性セシウムが樹脂中に速やかに取り込まれる。そして、本発明の除去方法では、この、イオン化した放射性セシウムを速やかに取り込むことができる特有の親水性樹脂とともに、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物が分散された親水性樹脂組成物を用いることで、分散させたフェロシアン化金属化合物に、放射性セシウムが、より速やかに且つ効率よく定着され、固定化されるようになり、この結果、効率のよい放射性セシウムの除去を可能にできたものと考えている。本発明で使用するフェロシアン化金属化合物については後述する。
【0018】
本発明で用いる親水性樹脂は、さらに、その構造中にポリシロキサンセグメントを有するものであることを要するが、かかる構成によって、本発明の所期の目的を達成するのにより有益な効果が得られる。ここで、樹脂分子中に導入されるポリシロキサンセグメントは、本来、疎水性(撥水性)であるが、特定範囲の量のポリシロキサンセグメントを構造中に導入させた場合、その樹脂は「環境応答性」があるものになることが知られている(高分子論文集、第48巻[第4号]、227(1991))。上記論文でいう樹脂に「環境応答性」があるとは、乾燥した状態では、樹脂表面は完全にポリシロキサンセグメントで覆われるが、樹脂を水中に浸漬した場合には、ポリシロキサンセグメントが樹脂中に埋没してしまう現象のことである。
【0019】
本発明では、ポリシロキサンセグメントを導入することで樹脂に表れるこの「環境応答性」の現象を、放射性セシウムの除去処理に利用し、当該処理をより有効なものにする。先述したように、本発明で用いる親水性樹脂は、その構造中の親水性セグメントにより優れた吸水性を示し、イオン化した放射性セシウムを速やかに取り込むことができ、その除去処理に有効なものであるが、本発明者らの検討によれば、その実用化において、下記の課題があった。すなわち、放射性セシウムの除去処理に際しては、例えば、本発明の親水性樹脂組成物をフィルム状としたり、基材に塗布してシート状等の形態にして利用し、これらを、放射性セシウムを含有する廃液に浸漬させたり、放射性セシウムを含有する固形物の覆いとする必要がある。そして、その場合には、使用する樹脂フィルム等に、上記した放射性セシウムの除去処理に対する耐久性が求められるが、使用状態によっては十分とは言い難かった。本発明者らは、この問題に対して鋭意検討した結果、使用する親水性樹脂の分子中(構造中)に、さらにポリシロキサンセグメントを導入することで、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)を向上させることができることを見出し、上記したような使用形態とした場合であっても樹脂フィルム等が十分な耐水機能等を示し、より有効な放射性セシウムの除去処理を行うことができる樹脂構成を達成させている。
【0020】
本発明では、上記した優れた機能を示す親水性樹脂とともに、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物が分散されている本発明の親水性樹脂組成物を、放射性セシウムの除去処理に用いているため、この分散している紺青等により、より速やかに且つ効率よく放射性セシウムが定着され、固定化されたものと考えられる。
【0021】
ここで、本発明で使用するフェロシアン化金属化合物は、下記の一般式(1)で表せる化合物である。これらの中には紺青と呼ばれて広く色材として使用されているものがあるが、いずれも本発明に好適に使用することができる。
xy[Fe(CN)6] (1)
[式(1)中、Aは、K、Na及びNH4から選ばれるいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれるいずれかであり、且つ、x、yは、式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たし、nはMの価数を表す。]
【0022】
上記フェロシアン化金属化合物のより具体的なものとしては、紺青と呼ばれている下記の一般式(A)、(B)で表せる化合物等が挙げられるが、これらは、古くから製造されている顔料であり、その色名としては、プルシアンブルー、ミロリブルー、ベルリンブルー等、たくさんの慣用名がある。
MFe[Fe(CN)6] (A)[但し、M=NH4、K又はFe]
MK2[Fe(CN)6] (B)[但し、M=Ni又はCo]
【0023】
上記した紺青を放射性セシウム除去に使用できることはすでに公知であり、実際に、チェルノブイリ原子力発電所の事故の際に使用されている。紺青の放射性セシウム除去のメカニズムについては、まだ完全には解明されていないが、以下に説明する「イオン交換」と「吸着」という二つの考え方が提唱されている。
【0024】
「イオン交換」の考え方は、紺青の一種であるアンモニウム紺青とセシウムイオンが接触すると、該紺青中の陽イオンとセシウムイオンがイオン交換により置き換わり、放射性セシウムが固定され、除去できるとするものである。一方、「吸着」とは、紺青の結晶が有する約0.5nm間隔の空孔に、セシウムイオンが選択的に吸着され、その結果、セシウムイオンが除去されるとする考え方である。現時点ではどちらが正しいか明らかにはなっていないが、いずれにしろ、紺青によるセシウムの除去効果は実証されている。本発明では、先に説明した親水性セグメントを有する親水性樹脂と、上記の紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物を分散して含む親水性樹脂組成物を用いることで、放射性セシウムを、より効率よく、簡便に経済的に除去処理できる技術を提供する。
【0025】
次に、上記性能を実現した本発明を特徴づける親水性樹脂を形成するための原料について説明する。本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂及び親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。該親水性樹脂を得るためには、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部とすることが好ましい。本発明で使用する親水性樹脂を形成する際に用いる、該樹脂分子中にポリシロキサンセグメントを導入するために使用可能なポリシロキサン化合物としては、例えば、分子中に1個又は2個以上の反応性基、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基等を有するポリシロキサン化合物が挙げられる。上記のような反応性基を有するポリシロキサン化合物の好ましい例としては、例えば、下記の如き化合物が挙げられる。
【0026】
アミノ変性ポリシロキサン化合物
【0027】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物
【0028】
アルコール変性ポリシロキサン化合物
【0029】
メルカプト変性ポリシロキサン化合物
【0030】
カルボキシル変性ポリシロキサン化合物
【0031】
以上のような活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物中では、特に、ポリシロキサンポリオール及びポリシロキサンポリアミンが有用である。なお、列記した化合物は、いずれも本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0032】
親水性セグメントを有する本発明を特徴づける親水性樹脂の合成には、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンを用いることが好ましい。このような親水性成分として好適なものとしては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を有する重量平均分子量が400〜8,000の範囲の親水性を有する化合物が好ましい。具体的には、末端が水酸基で、親水性を有するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコールアジペートポリオール、ポリエチレングリコールサクシネートポリオール、ポリエチレングリコール/ポリε−ラクトン共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリバレロラクトン共重合ポリオール等が挙げられる。
【0033】
末端がアミノ基で、親水性を有するポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドトリアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドトリアミン等が挙げられる。その他、カルボキシル基やビニル基を有するエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0034】
また、本発明を特徴づける親水性樹脂の合成の際に、上記した親水性成分及びポリシロキサン化合物ともに用いられる有機ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタン樹脂の合成における公知のものがいずれも使用でき、特に制限されない。好ましいものとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、水素添加MDI、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等、或いはこれらの有機ポリイソシアネートと低分子量のポリオールやポリアミンを末端イソシアネートとなる様に反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0035】
また、本発明においては、親水性樹脂に耐水性を付与するため、上記した親水性成分とともに、親水鎖を有しない他のポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸等を併用することも可能である。
【0036】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成の際には、必要に応じて鎖延長剤を使用することができる。使用される鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオールやジアミン等の従来公知の鎖延長剤がいずれも使用でき、特に限定されない。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0037】
以上の原料成分を用いて得られる、親水性セグメント及びポリシロキサンセグメントを分子鎖中に有する親水性樹脂は、重量平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算)は、3,000〜800,000の範囲が好ましい。更に好ましい重量平均分子量は5,000〜500,000の範囲である。
【0038】
本発明の放射性セシウムの除去方法に使用するのに特に好適な親水性樹脂中のポリシロキサンセグメントの含有量は、0.1〜12質量%の範囲、特に0.5〜10質量%の範囲が好ましい。ポリシロキサンセグメントの含有量が0.1質量%未満では、本発明の目的である耐水性や表面の耐ブロッキング性の発現が不十分となり、一方、12質量%を超えるとポリシロキサンセグメントによる撥水性が強くなり、吸水性能を低下させるので好ましくない。
【0039】
また、本発明の放射性セシウムの除去方法に使用するのに特に好適な親水性樹脂の親水性セグメントの含有量は、20〜80質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは30〜70質量%の範囲である。親水性セグメントの含有量が20質量%未満では、吸水性能が低下する。一方、80質量%を超えると耐水性に劣るようになるので好ましくない。
【0040】
本発明の放射性セシウムの除去方法に好適な本発明の親水性樹脂組成物は、上述した親水性樹脂に、紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物(以下、紺青を例にとって説明する)を分散させることで構成される。具体的には、上述したような親水性樹脂に、紺青と分散溶媒とを入れ、所定の分散機によって分散操作を行うことにより製造することができる。上記分散に使用する分散機としては、通常顔料分散に用いる分散機であれば問題なく使用することができる。例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、パールミル(以上、アイリッヒ社製)、サンドミル、ビスコミル、アトライターミル、バスケットミル、湿式ジェットミル(以上、ジーナス社製)等があるが、分散性と経済性を鑑みて設定するのが好ましい。また、メディアとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、ステンレスビーズ等を用いることができる。
【0041】
本発明の親水性樹脂組成物における親水性樹脂と紺青との分散割合は、親水性樹脂100質量部に対し紺青を1〜200質量部の割合で配合したものを用いる。紺青が1質量部未満では、放射性セシウムの除去が不十分になるおそれがあり、200質量部を超えると組成物の機械物性が弱くなるとともに、耐水性に劣るようになり、放射能汚染水中で形状を保てなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0042】
本発明の放射性セシウムの除去方法を実施するにあたっては、上記した構成からなる本発明の親水性樹脂組成物を下記のような形態で使用することが好ましい。すなわち、本発明の親水性樹脂組成物の溶液を、離型紙や離型フィルム等に、乾燥後の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜50μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥させてから得られるフィルム状としたものが挙げられる。この場合は、使用時に離型紙・フィルム等から剥離し、放射性セシウムの除去フィルムとして使用する。また、その他、各種基材に、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を塗布又は含浸して使用してもよい。この場合の基材としては、金属、ガラス、木材、繊維、各種プラスチック等が使用できる。
【0043】
上記のようにして得られた、本発明の親水性樹脂組成物製のフィルム又は該組成物を各種基材に塗布したシート等を、放射性廃液や、放射性固形物をあらかじめ水で除染した廃液などに浸漬することにより、これらの液中に存在する放射性セシウムを除去することができる。また、放射能で汚染された固形物等に対しては、本発明の親水性樹脂組成物製のフィルムやシートで固形物等を覆うことによって、放射性セシウムの拡散を防ぐことができる。
【0044】
本発明の親水性樹脂組成物のフィルムやシートは水には溶けないため、除染後に、容易にその廃液から取りだすことができる。このように、放射性セシウムを除去するのに、特別な設備も電力も必要とせず簡単に且つ低コストで除染ができる。さらには、吸水した水分を乾燥させ120〜220℃に加熱すれば、樹脂が軟化して体積の収縮が起こり放射性廃棄物のさらなる減容化の効果も期待できる。
【実施例】
【0045】
次に具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0046】
[製造例1](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレタン樹脂の合成)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内で、下記構造のポリジメチルシロキサンポリオール(分子量3,200)8部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)142部、エチレングリコール8部を、150部のメチルエチルケトンと140部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、52部の水素添加MDIを50部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、50部のメチルエチルケトンを加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0047】
【0048】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で410dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した親水性樹脂フィルムは、破断強度24.5MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は105℃であった。
【0049】
[製造例2](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレア樹脂の合成)
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、プロピレンジアミン8部を、ジメチルホルムアミド180部に溶解した。そして、内温を10〜20℃でよく撹拌しながら、47部の水素添加MDIを100部のジメチルホルムアミドに溶解した溶液を徐々に滴下して反応させた。滴下終了後、次第に内温を上昇させ、50℃に達したところで更に6時間反応させた後、100部のジメチルホルムアミドを加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0050】
【0051】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で、250dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成したフィルムは、破断強度が27.6MPa、破断伸度が310%であり、熱軟化温度は145℃であった。
【0052】
[製造例3](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成)
製造例2で使用したと同様の反応容器中に、製造例2で使用したポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)145部及び1,3−ブチレングリコール8部を、74部のトルエン及び197部のメチルエチルケトン混合溶剤に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、42部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させて、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂溶液を得た。上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で200dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成したフィルムの破断強度は14.7MPa、破断伸度は450%であり、熱軟化温度は90℃であった。
【0053】
[製造例4](比較例で使用するポリシロキサンセグメントを含有しない非親水性ポリウレタン樹脂の合成例)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解した。そして、60℃でよく攪拌しながら、62部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、メチルエチルケトン71部を加えて、比較例で用いる非親水性樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で320dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から得られた非親水性樹脂フィルムは、破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0054】
[製造例5](比較例で使用するポリシロキサンセグメントを含有しない非親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成例)
製造例1で使用したと同様の反応容器に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、ヘキサメチレンジアミン18部とを、ジメチルホルムアミド200部に溶解した。そして、内温を20〜30℃でよく撹拌しながら、60部の水素添加MDIを100部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、メチルエチルケトン123部を加えて、比較例で用いる非親水性樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は固形分35%で、250dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した親水性樹脂フィルムは破断強度が14.7MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は121℃であった。
【0055】
以上得られた製造例1〜5の各樹脂の重量平均分子量、ポリシロキサンセグメント含有量は表1に示したとおりであった。
【0056】
<実施例1〜3、比較例1〜2>
製造例1〜5で得た各樹脂溶液と紺青(ミロリブルー(色名);大日精化工業(株)製)とを、表2に示した配合で、高密度アルミナボール(3.5g/ml)を使用してボールミルで24時間分散した。そして、分散後の内容物をポリエステル樹脂製の100メッシュのふるいを通して取り出して、樹脂溶液と紺青とを含んでなる液状の各樹脂組成物を得た。
【0057】
【0058】
[評価]
上記で得た実施例1〜3、比較例1〜2の各樹脂組成物をそれぞれ離型紙上に塗布し、110℃で3分加熱乾燥して溶剤を揮散させ、約20μmの厚さの樹脂フィルムをそれぞれ形成した。このようにして得た実施例1〜3と比較例1、2の各樹脂フィルムを用い、以下の項目を評価した。
【0059】
<耐ブロッキング性(耐くっつき性)>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した各樹脂フィルムについて、それぞれフィルム面同士を重ね合わせた後、0.29MPaの荷重を掛け、40℃で1日放置した、その後、重ね合わせたフィルム同士のブロッキング性を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:ブロッキング性なし
△:僅かにブロッキング性あり
×:ブロッキング性あり
【0060】
<耐水性>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した各樹脂フィルムを、厚さ20μm、縦5cm×横1cmの形状に切り、25℃の水中に12時間浸漬し、浸漬フィルムの縦方向の膨張係数を測定し、耐水性を評価した。なお、膨張係数(膨張率)は、以下の方法で算出し、膨張係数が200%以下である場合を○とし、200%超である場合を×として、耐水性を評価した。得られた結果を表3に示した。
膨張係数(%)=(試験後の縦の長さ/元の縦の長さ)×100
【0061】
<セシウム除去に対する評価>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した各樹脂フィルムを用い、下記の方法で、セシウムイオンの除去に対する効果を評価した。
(評価試験用セシウム溶液の作製)
評価試験用のセシウム溶液は、イオン交換処理した純水に塩化セシウムを、セシウムイオン濃度が100mg/L(100ppm)となるよう溶解し調整した。なお、セシウムイオンが除去できれば、当然に放射性セシウムの除去ができる。
【0062】
(実施例1〜3の樹脂組成物についての評価結果)
実施例1〜3の各親水性樹脂組成物フィルム20gを、それぞれ上記セシウム溶液100ml中に浸漬させて(25℃)、経過時間毎に、溶液中のセシウムイオン濃度をイオンクロマトグラフ(東ソー製;IC2001)で測定した。そして、溶液中のセシウムイオンの除去率を求めた。結果を表4と図1に示した。
【0063】
【0064】
(比較例1、2の樹脂組成物についての評価結果)
比較例1、2の非親水性樹脂組成物フィルム20gを用いた以外は、実施例の親水性樹脂組成物フィルムを用いたと同様にして、経過時間毎に溶液中のセシウムイオン濃度を測定し、その除去率を求めた。その結果を表5と図2に示した。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の活用例としては、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性セシウムを、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせずに除去できるため、この新しい放射性セシウムの除去方法を実施することで、近時、問題となっている廃液中や固形物中に混在している放射性物質を、簡便に、経済的に除去することが可能になるので、その活用が期待される。また、本発明では、親水性セグメントを有する親水性樹脂の構造中に、ポリシロキサンセグメントを導入することで、該ポリシロキサンセグメントの存在によってもたらされる耐水性や表面の耐ブロッキング性(耐くっつき性)を実現することが可能となる。さらに、本発明では、上記のような特有の構造を有する親水性樹脂と紺青に代表されるフェロシアン化金属化合物とを含んでなる親水性樹脂組成物に、除去した放射性セシウムを取り込んで安定的に固定化することができ、また、樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能であるので、処理後に生じる放射性廃棄物における問題も軽減できるので、この点からもその利用が期待される。
図1
図2