特許第5750411号(P5750411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日特エンジニアリング株式会社の特許一覧 ▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ シチズン時計株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000002
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000003
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000004
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000005
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000006
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000007
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000008
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000009
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000010
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000011
  • 特許5750411-有芯コイルの製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750411
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】有芯コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/06 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   H01F41/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-162263(P2012-162263)
(22)【出願日】2012年7月23日
(62)【分割の表示】特願2011-265083(P2011-265083)の分割
【原出願日】2011年12月2日
(65)【公開番号】特開2013-118350(P2013-118350A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】日特エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307023373
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 功治
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−87165(JP,A)
【文献】 特開2000−197294(JP,A)
【文献】 特開2000−217315(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/109930(WO,A1)
【文献】 特開昭61−116950(JP,A)
【文献】 特開平6−275423(JP,A)
【文献】 特開2004−296715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/06、
B65H 54/00−54/553、
H02K 15/00−15/02、15/04−15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被巻線部材(12)の一端を支持した第一巻治具(13)を前記被巻線部材(12)と共に回転させて前記被巻線部材(12)の一端側に線材(46)を巻回して前記被巻線部材(12)の一端側に土手巻線(62a)を形成する第一巻線工程と、
前記被巻線部材(12)の他端を第二巻治具(41)に支持させるとともに前記第一巻治具(13)による前記被巻線部材(12)の一端の支持を解消する支持軸変更工程と、
前記被巻線部材(12)の他端を支持した第二巻治具(41)を前記被巻線部材(12)と共に回転させて前記第二巻治具(41)と前記土手巻線(62a)の間の前記被巻線部材(12)に前記線材(46)を巻回する第二巻線工程と
を含む有芯コイルの製造方法
【請求項2】
第一巻線工程における被巻線部材(12)の回転速度に対して、第二巻線工程における被巻線部材(12)の回転速度を速くする請求項1記載の有芯コイルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材である被巻線部材に線材を巻回して、例えば、時計コイルのような有芯コイルを得る有芯コイルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芯材となる棒状の被巻線部材に線材を巻回する巻線方法として、対向して配置された二つの巻治具を備え、所要の巻幅と同じになるように二つの巻治具の間隔が増減され、その増減がされたところで、被巻線部材の、二つの巻治具に挟まれている部分に線材を巻回する有芯コイルの巻線方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この巻線方法では、被巻線部材の、二つの巻治具に挟まれている部分に線材を巻回することにより、例え、その被巻線部材に巻幅を制限する鍔のようなものが無くても、その被巻線部材の所望の位置に所望の巻幅で線材を確実に巻回し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−192778号公報(図10,段落番号0058)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の巻線方法では、被巻線部材の両端を2つの巻治具により挟んだ状態で、それら2つの巻治具を被巻線部材と共に同方向に回転させ、それにより被巻線部材の二つの巻治具に挟まれている部分に線材を巻回するので、その回転速度を高めるには限界があった。
【0005】
即ち、回転する巻治具にあっては、通常その回転速度が上昇すると芯ぶれを生じさせる。このため、被巻線部材の両端を2つの巻治具により挟んだ状態でそれらを同一の方向の同一の速度で回転させたとしても、その回転速度が高まると2つの巻治具の間に生じる異なる芯ぶれにより、それらの巻治具に両端が支持された被巻線部材にストレスが与えられ、その被巻線部材が、比較的割れやすい例えばフェライトのようなものであればその被巻線部材は破損してしまうような不具合があった。
【0006】
一方、被巻線部材を高速で回転させるために、その被巻線部材の一方の端部を巻治具に支持して回転させることも考えられる。しかし、被巻線部材の一方の端部を巻治具に支持して回転させると、被巻線部材が棒状であってその被巻線部材に巻幅を制限する鍔のようなものが無い様なものであれば、その被巻線部材の他方の巻幅を制限するべきものが存在しないので、その被巻線部材の所望の位置に所望の巻幅で線材を巻回することができない不具合を生じさせる。
【0007】
本発明の目的は、被巻線部材の所望の位置に所望の巻幅で線材を確実に巻回するとともに、その巻線速度を十分に高めることができる有芯コイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有芯コイルの製造方法は、被巻線部材の一端を支持した第一巻治具を被巻線部材と共に回転させて被巻線部材の一端側に線材を巻回して被巻線部材の一端側に土手巻線を形成する第一巻線工程と、被巻線部材の他端を第二巻治具に支持させるとともに第一巻治具による被巻線部材の一端の支持を解消する支持軸変更工程と、被巻線部材の他端を支持した第二巻治具を被巻線部材と共に回転させて第二巻治具と土手巻線の間の被巻線部材に線材を巻回する第二巻線工程とを含む。
【0009】
ここで、第一巻線工程における被巻線部材の回転速度に対して、第二巻線工程における被巻線部材の回転速度を速くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明における有芯コイルの製造方法では、被巻線部材の一端を支持した第一巻治具を回転させて、その被巻線部材の一端側に土手巻線を形成するので、この土手巻線の形成時にその被巻線部材の両端を支持するようなことはない。このため、第一巻治具の回転速度を高めて、その土手巻線を比較的素早く形成することができる。そして、この土手巻線は、被巻線部材の一端側に形成されるけれども、被巻線部材の第一巻治具が把持する部分には巻線されない。このため、その第一巻治具により、被巻線部材の一端側における巻幅を制限することができる。
【0011】
また、その土手巻線が形成された後には、被巻線部材の他端を第二巻治具に支持させるとともに第一巻治具による被巻線部材の一端の支持を解消し、被巻線部材の他端を支持した第二巻治具を回転させて、第二巻治具と土手巻線の間の被巻線部材に線材を巻回するので、この第二巻治具の回転による巻線時にその被巻線部材の両端を支持するようなことはない。このため、この第二巻治具の回転速度を高めて、その巻線を比較的高速に行うことができる。そして、この巻線は、第二巻治具と土手巻線の間で行われ、被巻線部材の土手巻線を越えた一端側と、他端側における第二巻治具が把持する部分には巻線されない。このため、実質的に、第一巻治具と第二巻治具が把持した被巻線部材の間に巻線が成されることになり、この被巻線部材に巻幅を制限する鍔のようなものが無い様なものであっても、この被巻線部材の所望の位置の所望の巻幅を越える端部を第一及び第二巻治具に支持させることにより、その被巻線部材の所望の位置に所望の巻幅で線材を巻回することができる。
【0012】
ここで、被巻線部材への巻線は、土手巻線と第二巻治具との間の巻線において、その大部分が行われることになる。このため、土手巻線を形成する第一巻線工程における被巻線部材の回転速度に対して、第二巻線工程における被巻線部材の回転速度を速くすることにより、被巻線部材への巻線速度を更に高めることができる。特に、被巻線部材への巻線の大部分を行う第二巻治具を基台に直接設ければ、その被巻線部材とともに回転する第二巻治具の固有振動数は高まる。このため、被巻線部材とともに第二巻治具を回転させ得る回転速度は更に高まり、この第二巻治具を回転させて巻線する巻線速度をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明実施形態の巻線装置を示す側面図である。
図2】その巻線装置の上面図である。
図3】その第一巻治具の詳細を示す図1のA−A線断面図である。
図4】その第二巻治具に把持された被巻線部材に巻初めの線材が溶着される状態を示す図である。
図5】その被巻線部材が第一巻治具に把持されて土手巻線がなされた状態を示す図4に対応する図である。
図6】その被巻線部材が第二巻治具に把持されて第一巻治具による把持が解消された状態を示す図4に対応する図である。
図7】その被巻線部材の第二巻治具と土手巻線の間に巻線が成された状態を示す図4に対応する図である。
図8】その第二巻治具に把持された被巻線部材に巻終わりの線材が溶着される状態を示す図4に対応する図である。
図9】得られた有芯コイルを第二巻治具から取外す状態を示す図4に対応する図である。
図10】本発明により巻線される別の被巻線部材を示す斜視図である。
図11】その別の被巻線部材を一対の把持片により支持した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1及び図2に、本発明の方法に用いる有芯コイルの巻線装置10を示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平横方向、Y軸が水平前後方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の巻線装置10について説明する。本発明の巻線装置10は、基台11と、被巻線部材12の一端を支持して被巻線部材12と共に回転可能に構成された第一巻治具13を備える。基台11は設置場所に設置可能な箱形形状に構成され、図示しない移動用ローラと設置場所に固定するためのストッパ部材が下部に設けられる。この基台11は設置場所に設置された状態で振動が生じ難い比較的堅牢なものが用いられる。また、被巻線部材12は、その巻幅を制限するフランジや鍔のようなものを有しない棒状のものであり、この実施の形態では、断面が方形であって、これに巻回される線材46(図2)の巻初めと巻き終わりの端部が接合される図示しない端子が一端側に形成されたものである。けれども、被巻線部材12は、これに限定するものではない。
【0016】
第一巻治具13は、第一モータ14により回転するシャフト部16と、そのシャフト部16の先端に同軸に設けられた円板17と、その円板17に設けられた把持機構18とを有する。基台11には、その基台11における上面と平行な移動板22が巻治具移動機構31(図1)を介して設けられ、その移動板22には支持部21が立設される。第一巻治具13におけるシャフト部16は支持部21の支持孔21a(図2)に貫通され、ベアリング23を介して支持される。これによりそのシャフト部16を有する第一巻治具13は、そのシャフト部16及び円板17の中心軸をX軸方向に向けて、そのX軸方向に伸びる中心軸を回転軸として回転自在に支持される。
【0017】
図3に示すように、円板17に設けられた把持機構18は、被巻線部材12の端部を幅方向から挟む一対の把持片18a,18bと、その把持片18a,18bが設けられてその一対の把持片18a,18bが互いに接近し又は離間する方向に移動可能に円板17にレール19,19を介して設けられた一対の可動台18c,18dと、一対の把持片18a,18bが互いに接近するようにその一対の可動台18c,18dを付勢する一対のコイルスプリング18e,18fとを有する。このため、この把持機構18は、一対のコイルスプリング18e,18fの付勢力により、一対の可動台18c,18dとともに一対の把持片18a,18bが互いに接近すると、その一対の把持片18a,18bが被巻線部材12の端部を幅方向から挟んで、被巻線部材12の端部を支持するように構成される。そして、図5に示すように、被巻線部材12の一端を支持する一対の把持片18a,18bは、その被巻線部材12に向かって僅かに先細りに成るように、被巻線部材12に臨む一対の把持片18a,18bの先端面が被巻線部材12に直交する面に対して僅かに傾斜して形成される。これにより、一対の把持片18a,18bの先端面に接触する線材46は被巻線部材12の外周に案内され、その線材46が第一巻治具13自体に巻回されるような事態を防止するように構成される。
【0018】
図2に示すように、移動板22には、把持機構18を操作する操作機構25が設けられる。シャフト部16には、その中心軸にガイド筒16aが貫通して固定される。このガイド筒16aには、操作機構25を構成する操作ロッド26が軸方向に移動可能に挿入され、その操作ロッド26の円板17に臨む先端には、先端に向かうほどその幅が狭くなって一対の把持片18a,18bの間に進入する先端部材26aが設けられる。一方、シャフト部16から後方に突出する操作ロッド26の後部には一対の大径部26b,26cが軸方向に所定の隙間を空けて形成され、その隙間には操作板27が挿入される。
【0019】
その操作板27は、操作アクチュエータである第一操作用エアシリンダ28の出没ロッド28aの先端に取付けられる。その第一操作用エアシリンダ28は、出没ロッド28aを操作ロッド26に平行にして、その出没ロッド28aを出没させることにより操作ロッド26を軸方向に移動させるように、移動板22に設けられる。この第一操作用エアシリンダ28には、図示しないコントローラからの指令により圧縮エアの供給又は排気が行われ、第一操作用エアシリンダ28の出没ロッド28aが突出して、一対の大径部26b,26cに挟まれた操作板27と共に操作ロッド26が前進すると、先端部材26aが一対の把持片18a,18bの間に進入して、その一対の把持片18a,18bを押し広げ、第一巻治具13による被巻線部材12の端部の支持を解消するように構成される(図4)。
【0020】
また、シャフト部16の基端には、シャフト部16の中心軸に中心軸が一致する第一プーリ24が取付けられ、第一モータ14は、シャフト部16の中心軸に第一回転軸14aが平行になるように第一巻治具13に隣接して設けられる。この第一モータ14は移動板22に立設された取付板22aに取付けられ、その第一回転軸14aに第二プーリ14bが取付けられる。そして、第一プーリ24と第二プーリ14bの間にベルト15が掛け回される。第一モータ14には、図示しないコントローラの制御出力が接続され、そのコントローラからの指令により第一モータ14が駆動してその第一回転軸14aが第二プーリ14bとともに回転すると、その回転はベルト15により第一プーリ24に伝達され、その第一プーリ24が設けられた第一巻治具13が回転するように構成される。
【0021】
図1に示すように、この実施の形態における巻治具移動機構31は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成されるものを示す。この実施の形態におけるこれらの伸縮アクチュエータ32〜34は、細長い箱形ハウジング32d〜35dと、そのハウジング32d〜35d内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールネジ32b〜34bと、このボールネジ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c〜34c等によって構成される。そして、これらの伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aが駆動してボールネジ32b〜34bが回転すると、このボールネジ32b〜34bに螺合する従動子32c〜34cがハウジング32d〜34dの長手方向に沿って移動可能に構成される。
【0022】
この実施の形態では、第一巻治具13が設けられた移動板22をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32のハウジング32dに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32とともにその移動板22をZ軸方向に移動可能に、その従動子32cがL形ブラケット36を介してZ軸方向伸縮アクチュエータ34のハウジング34dに取付けられる。また、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cをY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付け、そのX軸及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32,34とともにその移動板22をY軸方向に移動可能に、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33のハウジング33dが基台11の側壁に取付けられる。それらの各伸縮アクチュエータにおけるX軸サーボモータ32a、Y軸サーボモータ33a及びZ軸サーボモータ34aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、この巻治具移動機構31はコントローラからの指令により、各伸縮アクチュエータ32〜34が駆動して、移動板22とともに第一巻治具13を基台11に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0023】
一方、基台11には、第一巻治具13に対向して第二巻治具41が設けられる。第二巻治具41は被巻線部材12の他端を支持するものであって、この実施の形態における第二巻治具41は、第二モータ42の第二回転軸42aに同軸に取付けられ、この第二モータ42を介して基台11に直接設けられる。その第二モータ42を基台11に固定する取付部材43は、基台11にボルト43aにより強固に固定される台板43bと、その台板43bに溶接されてZ軸方向に伸びる比較的厚肉の壁板43cとを備え、この壁板43cに第二モータ42がその第二回転軸42aをX軸方向に延ばして取付けられる。
【0024】
第二巻治具41を第二モータ42を介して基台11に直接設けるのは、その第二回転軸42aに同軸に取付けられて被巻線部材12とともに回転する第二巻治具41が共振して著しい芯ぶれを生じるような事態を回避するためである。即ち、設置場所に設置される基台11は一般的に振動しないような強固なものであり、そのような基台11に直接固定された第二モータ42は、基台11との間に無駄な遊び等は生じない。このため、この第二モータ42を介して第二巻治具41を基台11に直接設けることにより、第二モータ42の第二回転軸42aに直接取付けられた第二巻治具41の共振を生じさせる固有振動数は著しく高まり、その第二巻治具41に共振を生じさせることなくその第二巻治具41が回転し得る速度を、例えば毎分数万回転とするように著しく高めることができる。
【0025】
第二巻治具41は、第二回転軸42aに同軸に接続する円盤状の大径部41aと、その大径部41aに同軸に連続するように設けられた主把持部41bと、その主把持部41bに枢支された揺動片41cとを有する。主把持部41bの大径部41aに接続された基端は断面が円形に形成され、主把持部41bの先端は断面が半円状に形成される。揺動片41cは主把持部41bの断面が半円状の先端部分に重なって、重心を回転中心に一致させて芯ぶれを生じることなく第二巻治具41を比較的速い速度で回転させることが可能になるように、その揺動片41cと主把持部41bは全体として断面の外形が円形になるように形成される。その主把持部41bに重なった揺動片41bはその主把持部41bにピン41dにより枢支され、そのピン41dより先端側の揺動片41cは主把持部41bと共に被巻線部材12の他端を把持し、これによりこの第二巻治具41は被巻線部材12の他端を支持可能に構成される。
【0026】
図7に示すように、被巻線部材12の他端を支持した状態で、その被巻線部材12に臨む揺動片41cの先端縁と主把持部41bの先端縁は、その被巻線部材12に向かって僅かに先細りに成るように被巻線部材12に直交する面に対して僅かに傾斜して形成される。これにより、揺動片41cと主把持部41bの先端縁に接触する線材46は被巻線部材12の外周に案内され、その線材46が第二巻治具41自体に巻回されるような事態を防止するように構成される。図1に戻って、ピン41dより大径部41a側の揺動片41cと主把持部41bとの間にはそれらの間隔を拡大して、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端により被巻線部材12の他端を把持するように付勢するコイルスプリング41e(図1)が介装される。なお、第二モータ42には、この巻線装置10を制御する図示しないコントローラの制御出力が接続され、そのコントローラからの指令により駆動して第二巻治具41をそこに支持された被巻線部材12とともに回転するように構成される。
【0027】
また、基台11には、コイルスプリング41eの付勢力に抗して、揺動片41cを揺動させる第二操作用エアシリンダ44が設けられる。この第二操作用エアシリンダ44は、そのロッド44aをZ軸方向上方に向けて基台11に取付けられ、主把持部41bのZ軸方向上方に揺動片41cが存在する場合において、そのロッド44aの先端に、揺動片41cのピン41dより大径部41a側に当接するフック部材45が設けられる。この第二操作用エアシリンダ44には、図示しないコントローラからの指令により圧縮エアの供給又は排気が行われ、図5に示すように、第二操作用エアシリンダ44のロッド44aが没入すると、フック部材45がピン41dより大径部41a側の揺動片41cを押し下げ、スプリング41eの付勢力に抗して、ピン41dより大径部41a側の揺動片41cと主把持部41bとの間の間隔を縮め、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端の間を拡大して、その間に把持されていた被巻線部材12の他端を解放するように構成される。
【0028】
図2に示すように、基台11上には、線材46を繰出す線材繰出機50が設けられる。この線材繰出機50は、その線材46が挿通されるノズル51と、そのノズル51を3軸方向に移動させるノズル移動機構52と、その線材46に張力を付与する図示しないテンション装置とを備える。ノズル51は支持板54に固定され、ノズル移動機構52はこの支持板54を基台11に対して3軸方向に移動可能に構成される。この実施の形態におけるノズル移動機構52は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ56〜58の組み合わせにより構成される。このノズル移動機構52を構成する各伸縮アクチュエータ56〜58は、細長い箱形ハウジング56d〜58dと、そのハウジング56d〜58d内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ56a〜58aによって回動駆動されるボールネジ56b〜58bと、このボールネジ56b〜58bに螺合して平行移動する従動子56c〜58c等によって構成される。そして、これらの各伸縮アクチュエータ56〜58は、サーボモータ56a〜58aが駆動してボールネジ56b〜58bが回転すると、このボールネジ56b〜58bに螺合する従動子56c〜58cがハウジング56d〜58dの長手方向に沿って移動可能に構成される。
【0029】
この実施の形態では、ノズル51が設けられる支持板54をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ56のハウジング56dに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ56とともにその支持板54をZ軸方向に移動可能に、Y軸方向伸縮アクチュエータ56の従動子56cがZ軸方向伸縮アクチュエータ57の従動子57cに取付けられる。また、そのY軸及びZ軸方向伸縮アクチュエータ56,57とともにその支持板54をX軸方向に移動可能に、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ57のハウジング57dがX軸方向伸縮アクチュエータ58の従動子58cに取付けられる。そして、X軸方向伸縮アクチュエータ58のハウジング58dがX軸方向に伸びて基台11に固定される。それらの各伸縮アクチュエータ56〜58における各サーボモータ56a〜58aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。
【0030】
また、この巻線装置10には、ノズル51から繰出される線材46を一時的に把持する把持装置61と、その把持装置61とノズル51の間の線材46を被巻線部材12における端子に接合する溶接装置63(図4及び図8)と、巻線が成される以前の被巻線部材12及び得られた有芯コイル66(図9)を搬送する図示しない搬送装置が設けられる。この実施の形態における把持装置61は移動板22に設けられ、被巻線部材12に巻線を行わない状態でノズル51から繰出された線材46を把持するように構成される。また、図示しない搬送装置は、被巻線部材12を搬送して第二巻治具41にまで搬送する第一搬送装置と、その被巻線部材12に巻線が成されて第二巻治具41から取外された有芯コイル66をこの巻線装置10から排出する第二搬送装置を備える。
【0031】
更に、この実施の形態における線材46は、その絶縁皮膜が加熱により溶融し冷却して固着するようなものであって、これ故に加熱されることにより隣接して接する他の線材46と融着する自己融着性のものが用いられる。この線材46を接合する溶接装置63は、基台11に設けられZ軸方向上方に向かって突出させた出没ロッド64aの上端面において被巻線部材12を下方から支える支持用エアシリンダ64と、その支持用エアシリンダ64の上方に位置し、その出没ロッド64aの上端面により支持された被巻線部材12に下端が接して抵抗溶接が可能な電極65(図4及び図8)と、その電極65を上下動させる図示しない昇降装置を備える。そして、この巻線装置10には、被巻線部材12巻回された線材46を互いに融着させるための図示しない加熱ヒータが設けられる。
【0032】
次に、上記巻線装置を用いた本発明における有芯コイルの製造方法について説明する。
【0033】
本発明における有芯コイルの製造方法は、被巻線部材12の一端を支持した第一巻治具13を被巻線部材12と共に回転させて被巻線部材12の一端側に線材46を巻回して被巻線部材12の一端側に土手巻線62a(図5)を形成する第一巻線工程と、被巻線部材12の他端を第二巻治具41に支持させるとともに第一巻治具13による被巻線部材12の一端の支持を解消する支持軸変更工程と、被巻線部材12の他端を支持した第二巻治具41を被巻線部材12と共に回転させて第二巻治具41と土手巻線62aの間の被巻線部材12に線材46を巻回する第二巻線工程とを含む。以下に各工程を詳説するけれども、以下に詳説する動作は、図示しないコントローラにより制御されて、自動的に行われるものとする。
【0034】
第一巻線工程では、線材46を巻回して土手巻線62a(図5)を形成するけれども、その前提として巻回される線材46の巻初めの端部46aは被巻線部材12の一端側における図示しない端子に接合される。図4に示すように、被巻線部材12は、図示しない第一搬送装置により搬送されて予め第二巻治具41にその他端が支持される。そして、線材46の巻初めの端部46aの接合は、ノズル51を移動し、把持装置61(図2)とノズル51の間の線材46をその端子に重合させ、この状態で、溶接装置63により接合される。この溶接装置63により接合は、先ず、支持用エアシリンダ64の出没ロッド64aをZ軸方向上方に向かって突出させ、その出没ロッド64aの上端面において被巻線部材12を下方から支える。そして、図示しない昇降装置により電極65を下降させて被巻線部材12における端子とともにその線材46aをその端子65により挟み、その電極65に通電することにより巻初端部の線材46aをその端子65に抵抗溶接する。このようにして端子と線材46aを電気的に接合した後、支持用エアシリンダ64の出没ロッド64aを没入させると共に図示しない昇降装置により電極65を上昇させて、その後の巻線に支障を生じさせない。なお、線材46における巻初めの端部46aが図示しない端子に接合された後には、把持装置61(図2)を移動板22とともに被巻線部材12から遠ざけて、把持装置61と端子の間にある線材46をその端子の近傍において切断しておく。そして、この実施の形態における把持装置61は、その切断された残余の線材46を図示しない線材貯蔵箱まで搬送するものとする。
【0035】
次に、図5に示すように、線材46における巻初めの端部46aが端子に接合された被巻線部材12の一端を第一巻治具13に支持させる。この実施の形態では、巻初端部の線材46aが端子65に抵抗溶接された被巻線部材12の端部を第一巻治具13に支持させる。この被巻線部材12を第一巻治具13に支持させるには、先ず、図4の実線矢印で示すように、操作機構25(図2)により操作ロッド26を前進させ、それにより先端部材26aを一対の把持片18a,18bの間に進入させて、その一対の把持片18a,18bを押し広げる。そして、巻治具移動機構31(図1)により移動板22とともに第一巻治具13を移動させて、第二巻治具41に他端が把持されている被巻線部材12の一端を、その一対の把持片18a,18bの間に挿入する。その後、図5の破線矢印で示すように、操作ロッド26を先端部材26aとともに後退させる。そして、一対のコイルスプリング18e,18f(図3)の付勢力により一対の把持片18a,18bを互いに接近させ、それによりその一対の把持片18a,18bの間に進入した被巻線部材12の一端をその一対の把持片18a,18bにより挟持させる。これにより、この被巻線部材12を第一巻治具13に支持させる。その後、第二巻治具41による被巻線部材12の他端における支持を解消する。この第二巻治具41による解消手順は後の支持軸変更工程における動作と同一であるので、ここにおける説明は省略する。
【0036】
第二巻治具41による被巻線部材12の他端における支持を解消した後、次に、図5の実線矢印で示すように、第一巻治具13を被巻線部材12と共に回転させる。この回転は図2に示す第一モータ14により行われ、第一モータ14が駆動してその第一回転軸14aが第二プーリ14bとともに回転すると、その回転はベルト15により第一プーリ24に伝達される。これにより、その第一プーリ24が設けられた第一巻治具13を被巻線部材12と共に回転させる。第一巻治具13を回転させて、線材46を被巻線部材12に巻回させるとき、ノズル51を被巻線部材12の一端側において往復移動させる。この移動はノズル移動機構52(図2)により行われ、図5に示すように、そのノズル51から繰出される線材46を被巻線部材12の一端側に集中して巻回することにより、被巻線部材12の一端側に巻回された線材46から成る土手巻線62aを形成する。
【0037】
土手巻線62aの程度は、被巻線部材12の大きさやそこに巻回される線材46の太さにより適宜決定され、例えば、直径が0.0185mmの線材46を用いるような場合には幅1.2mmの間に20層の巻線をすることにより得られる土手巻線62aが例示される。このとき、被巻線部材12と共に回転する第一巻治具13の回転速度は、可能な限り早いほうが好ましく、図3に示す把持機構18を有するこの実施の形態における第一巻治具13にあっては、毎分4〜5千回転程度の速度が期待できる。このとき、図5に示すように、第一巻治具13に支持される被巻線部材12の一端は、線材46が巻回されない部分とし、この第一巻治具13がその被巻線部材12の一端側における巻幅を制限するものとして機能する。そして、この土手巻線62aの形成時に、図示しない加熱ヒータによりその土手巻線62aを構成する線材を加熱してそれらを互いに融着し、得られた土手巻線62aがその後崩れるようなことを防止する。
【0038】
このように、第一巻線工程では、被巻線部材12の一端を支持した第一巻治具13を回転させて、その被巻線部材12の一端側に土手巻線62aを形成するので、この土手巻線62aの形成時に、従来のようにその被巻線部材12の両端を支持するようなことはない。このため、両端を支持することに起因するストレスが被巻線部材12加わることはなく、第一巻治具13の回転速度を高めて、その土手巻線62aを比較的素早く形成することができる。そして、この土手巻線62aは、被巻線部材12の一端側に形成されるけれども、被巻線部材12の第一巻治具13が把持する部分には巻線されないので、その第一巻治具13により、被巻線部材12の一端側における巻幅を制限することができる。
【0039】
次の支持軸変更工程では、被巻線部材12の他端を第二巻治具41に支持させるとともに第一巻治具13による被巻線部材12の一端の支持を解消する。被巻線部材12の他端を第二巻治具41に支持させるには、図5に示すように、第二巻治具41における主把持部41bのZ軸方向上方に揺動片41cが存在させ、この状態で第二操作用エアシリンダ44のロッド44aを没入させ、フック部材45によりピン41dより大径部側の揺動片41cを押し下げる。このようにして、スプリング41eの付勢力に抗して、ピン41dより大径部側の揺動片41cと主把持部41bとの間の間隔を縮め、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端の間を拡大させる。そして、巻治具移動機構31(図1)により移動板22と共に第一巻治具13を移動させて、第一巻治具13に一端が把持されている被巻線部材12の他端を、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端の間に挿入する。その後、図6に示すように、第二操作用エアシリンダ44のロッド44aを突出させ、フック部材45を上昇させてスプリング41eの付勢力により、ピン41dより大径部側の揺動片41cと主把持部41bとの間の間隔を拡大して、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端により被巻線部材12の他端を把持させる。このようにして、被巻線部材12の他端を第二巻治具41に支持させる。
【0040】
被巻線部材12の他端を第二巻治具41が支持した後には第一巻治具13による被巻線部材12の一端の支持を解消する。これは、操作機構25(図2)により図6の実線矢印で示すように、操作ロッド26を先端部材26aとともに前進させて、その先端部材26aにより一対の把持片18a,18bを押し広げる。これにより第一巻治具13による被巻線部材12の一端の支持は解消し、その後、第二巻線工程の準備として、巻治具移動機構31(図1)により第一巻治具13を第二巻治具41から離間させておく。その後、図7に示すように、操作ロッド26を先端部材26aとともに後退させておくこともできる。
【0041】
第二巻線工程では、図7の実線矢印で示すように、被巻線部材12の他端を支持した第二巻治具41を被巻線部材12と共に回転させて第二巻治具41と土手巻線62aの間の被巻線部材12に線材46を巻回する。第二巻治具41の回転は第二モータ42を駆動することにより行われ、この第二モータ42が駆動して第二回転軸42aが回転すると、その第二回転軸42aに直接設けられた第二巻治具41が、そこに他端が支持された被巻線部材12とともに回転することになる。
【0042】
第二巻治具41を回転させて、線材46を被巻線部材12に巻回させるとき、ノズル51を土手巻線62aと第二巻治具41との間で往復移動させる。この移動はノズル移動機構52(図2)により行われ、そのノズル51から繰出される線材46を土手巻線62aと第二巻治具41の間に均一に巻回する。このようにして、先に形成された土手巻線62aに隣接して、新たに巻回された線材46から成る新たな巻線62bを被巻線部材12に形成する。そして、この新たな巻線62bの形成時にあっても、図示しない加熱ヒータによりその新たな巻線62bを構成する線材を加熱してそれらを互いに融着し、得られた新たな巻線62bがその後崩れるようなことを防止する。
【0043】
ここで、この第二巻線工程では、被巻線部材12の他端を支持した第二巻治具41を回転させて、第二巻治具41と土手巻線62aの間の被巻線部材12に線材46を巻回するので、この第二巻治具41の回転による巻線時にその被巻線部材12の両端を支持するようなことはない。このため、両端を支持することに起因するストレスが被巻線部材12加わることはなく、この第二巻治具41の回転速度を高めて、その巻線を比較的高速に行うことができる。そして、この巻線は、第二巻治具41と土手巻線62aの間で行われ、被巻線部材12の土手巻線62aを越えた一端側と、他端側における第二巻治具41が把持する部分には巻線されない。このため、実質的に、第一巻治具13と第二巻治具41が把持した被巻線部材12の間に巻線が成されることになり、この被巻線部材12に巻幅を制限する鍔のようなものが無い様なものであっても、この被巻線部材12の両端部を第一及び第二巻治具13,41に支持させることにより、その被巻線部材12の所望の位置に所望の巻幅で線材46を巻回することができる。
【0044】
また、本発明では、第二巻治具41を回転させる第二モータ42を比較的堅牢な取付部材43を介して基台11の上面に固定した。即ち、第二巻治具41と基台11の間には、この第二巻治具41を移動させるような移動機構を何ら設けることをしない。このため、第二モータ42の第二回転軸42aに直接取付けられた第二巻治具41の共振を生じさせる固有振動数は著しく高められる。よって、例えば、その第二巻治具41に支持された被巻線部材12のバランスが多少崩れていようとも、第二巻治具41の回転による共振は生じ難いものとなり、共振に起因する芯ぶれの発生を抑制できる。また、この実施の形態における第二巻治具41は、その揺動片41cと主把持部41bを回転中心上に重心が位置するような断面外形が円形になるように形成したので、バランスは保たれ、例えば1分間に5万回転又は6万回転以上の速さで第二巻治具41を回転させることが可能になる。このため、この第二巻治具41を用いた巻線速度を著しく高めることができる。
【0045】
更に、被巻線部材12への巻線は、土手巻線62aと第二巻治具41との間の巻線において、その大部分が行われることになる。このため、土手巻線62aを形成する第一巻線工程における被巻線部材12の回転速度に対して、第二巻線工程における被巻線部材12の回転速度を速くすることにより、被巻線部材12への巻線速度を著しく高めることが期待できる。
【0046】
そして、所望の回数線材46を被巻線部材12に巻回することができた後は、ノズル51を移動させて、図8に示すように、その新たな巻線62bから引き出される線材46bを被巻線部材12の一端に形成された図示しない端子に重合させ、この状態で、溶接装置63によりその線材46bをその端子に接合させる。この接合手順は、巻初め端部の線材46aの接合手順と同一であるので、繰り返しての説明は省略する。そして、巻終わり線材46bを端子に接合した後には、ノズル51から繰出される線材46を把持装置61(図2)に把持させて、その把持装置61を移動板22とともに被巻線部材12から遠ざけて、把持装置61と端子の間にある線材46をその端子の近傍において切断する。そして、図2に示すように、ノズル51から繰出される線材46の端部を把持装置61に把持させて、次の巻線に備える。
【0047】
その後、図9に示すように、第二巻治具41による被巻線部材12の他端における支持を解消してその第二巻治具41から被巻線部材12を取外す。第二巻治具41から被巻線部材12を取外しは、主把持部41bのZ軸方向上方に揺動片41cを存在させた状態で、第二操作用エアシリンダ44のロッド44aを没入させ、フック部材45によりピン41dより大径部側の揺動片41cを押し下げ、スプリング41eの付勢力に抗して、ピン41dより大径部側の揺動片41cと主把持部41bとの間の間隔を縮め、揺動片41cの先端と主把持部41bの先端の間を拡大させることにより行われる。このようにして、第二巻治具41から取外して、土手巻線62aと新たな巻線62bから成るコイル62と、その被巻線部材12を有する有芯コイル66を得る。そして第二巻治具41から取外された有芯コイル66は、図示しない第二搬送装置により巻線装置10から排出される。
【0048】
なお、上述した実施の形態では、巻幅を制限するフランジや鍔のようなものを有しない棒状の被巻線部材12を用いて説明したが、第一及び第二巻治具13,41により端部が支持可能である限り、被巻線部材12は、例えば、図10に示すように、棒状の巻胴部12aの両端部にその巻胴部12aよりも大きな取付部12b,12cが形成されたものであって、いわゆる時計コイルに用いられるようなものであっても良い。この巻胴部12aには絶縁紙12f(図11)が巻回されており、図10における符号12d,12eは、一方の取付部12bに形成されて、線材46(図2)の巻初めと巻き終わりの端部が接合される端子12d,12eを示す。このような被巻線部材12に巻線を施す巻線装置10にあっては、その第一巻治具13における一対の把持片18a,18b、及びその第二巻治具41における揺動片41cと主把持部41bが、その取付部12b,12cへの接触を回避して巻胴部12aの端部を支持するものであることが、取付部12b,12cの形状がどの様なものであっても巻線が可能になるので、好ましい。
【0049】
取付部12bを回避して巻胴部12aの端部を支持する第一巻治具13における一対の把持片18a,18bを図11に例示する。この図11に示す把持片18a,18bは、一対の可動台18c,18dの被巻線部材12の厚さ方向両側からその被巻線部材12に平行に膨出した後にその被巻線部材12側に湾曲して形成され、湾曲して被巻線部材12に臨む先端に、被巻線部材12の巻胴部12aの端部を両側から挟持する挟持部18g,18hが形成される。この挟持部18g,18hは、被巻線部材12の長手方向において僅かな厚さに形成され、その挟持部18g,18hが巻胴部12aの端部を挟持してその端部を支持するように構成される。このように、一対の把持片18a,18bを湾曲させると、その湾曲する一対の把持片18a,18bは、その巻胴部12aの端部に連続して設けられる取付部12bに接触せずに、そこへの接触を回避することができる。
【0050】
また、上述した実施の形態では、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成された巻治具移動機構31を用いて説明したけれども、巻治具移動機構はこの構造のものに限るものではなく、第一巻治具13が基台11に対して移動可能である限り、この巻治具移動機構は他の形式のものであっても良い。
【0051】
また、上述した実施の形態では、被巻線部材12の一端を支持する一対の把持片18a,18bの先端面を僅かに傾斜して形成し、これにより、線材46を被巻線部材12の外周に案内するようにしたけれども、線材46が第一巻治具13自体に巻回されるような事態を回避しうる限り、被巻線部材12の一端を支持する一対の把持片18a,18bの先端面を湾曲させ、これにより、線材46を被巻線部材12の外周に案内するようにしても良い。
【0052】
更に、上述した実施の形態では、被巻線部材12の他端を支持する揺動片41cの先端縁と主把持部41bの先端縁を僅かに傾斜して形成し、これにより、揺動片41cと主把持部41bの先端縁に接触する線材46を被巻線部材12の外周に案内するようにしたけれども、線材46が第二巻治具41自体に巻回されるような事態を回避しうる限り、揺動片41cと主把持部41bの先端縁を湾曲させ、これにより、線材46を被巻線部材12の外周に案内するようにしても良い。
【符号の説明】
【0053】
10 巻線装置
12 被巻線部材
13 第一巻治具
31 巻治具移動機構
41 第二巻治具
46 線材
62a 土手巻線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11