特許第5750511号(P5750511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750511
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】電池用セパレータおよび電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-532558(P2013-532558)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2012072020
(87)【国際公開番号】WO2013035622
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2013年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-196806(P2011-196806)
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
(72)【発明者】
【氏名】根本 友幸
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−311220(JP,A)
【文献】 特開2010−171006(JP,A)
【文献】 リチウムイオン二次電池第二版−材料と応用−,日刊工業新聞社,2000年,2版,p.114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂とβ晶核剤とを含み、フィラーを含まない樹脂組成物からなり、該ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層、及びポリプロピレン系樹脂とフィラーとβ晶核剤とを含む樹脂組成物からなるII層の2層を少なくとも有しており、積層構成がI層/II層/I層の2種3層構成であり、
前記II層に含まれているフィラーの含有量が、該II層の樹脂組成物100質量%に対して20質量%以上80質量%以下であり、
前記II層の厚み比率が、電池用セパレータ全体の厚みに対して5%以上80%以下であり、かつ、
β活性を有することを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項2】
前記I層に含まれているβ晶核剤の含有量が、前記I層を形成するポリプロピレン系樹脂100質量%に対し、0.0001〜5質量%の割合である請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
ピン刺し強度が232gf以上である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
厚みあたりのピン刺し強度が6.8gf/μm以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
前記II層に含まれているフィラーは、平均粒径が0.1μm以上2μm以下の粒子である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
二軸延伸により多孔化されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電池用セパレータ。
【請求項7】
空孔率が30〜65%、透気度が50〜500秒/100mlである請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の電池用セパレータが組み込まれていることを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータおよび該電池用セパレータが組み込まれた電池に関し、特に、非水電解液二次電池用セパレータとして好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
多数の微細連通孔を有する高分子多孔体は、超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する防水透湿性フィルム、あるいは電池などに使用する電池セパレータなど各種の分野で利用されている。
【0003】
二次電池はOA、FA、家庭用電器または通信機器等のポータブル機器用電源として幅広く使用されている。特に機器に装備した場合に容積効率がよく機器の小型化および軽量化につながることからリチウムイオン二次電池を使用したポータブル機器が増加している。一方、大型の二次電池はロードレベリング、UPS、電気自動車をはじめ、エネルギー/環境問題に関連する多くの分野において研究開発が進められ、大容量、高出力、高電圧および長期保存性に優れている点より非水電解液二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池の用途が広がっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の使用電圧は通常4.1Vから4.2Vを上限として設計されている。このような高電圧では水溶液は電気分解を起こすので電解液として使うことができない。そのため、高電圧でも耐えられる電解液として有機溶媒を使用したいわゆる非水電解液が用いられている。非水電解液用溶媒としては、より多くのリチウムイオンを存在させることができる高誘電率有機溶媒が用いられ、該高誘電率有機溶媒としてプロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の有機炭酸エステル化合物が主に使用されている。溶媒中でリチウムイオン源となる支持電解質として、6フッ化リン酸リチウム等の反応性の高い電解質を溶媒中に溶解させて使用している。
【0005】
リチウムイオン二次電池には内部短絡の防止の点からセパレータを正極と負極の間に介在されている。該セパレータにはその役割から当然絶縁性が要求される。また、リチウムイオンの通路となる透気性を付与すると共に電解液の拡散・保持機能を付与するために微細孔構造である必要がある。これらの要求を満たすためセパレータとして多孔性フィルムが使用されている。
【0006】
最近の電池の高容量化に伴い、電池の安全性に対する重要度が増してきている。電池用セパレータの安全に寄与する特性として、シャットダウン特性(以後、「SD特性」と称す)がある。このSD特性は、100〜150℃程度の高温状態になると微細孔が閉塞され、その結果、電池内部のイオン伝導が遮断されるため、その後の電池内部の温度上昇を防止できるという機能である。この時、積層多孔性フィルムの微細孔が閉塞される温度のうち最も低い温度をシャットダウン温度(以後、「SD温度」と称す)という。このSD温度は多孔を形成する樹脂成分の主成分の融点にほぼ一致する。
【0007】
しかしながら、近年リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化、高容量化に伴い、通常のシャットダウン機能が十分に機能せず、電池内部の温度がセパレータを構成する主成分のポリエチレンの融点である150℃前後を超えて更に上昇し、セパレータの熱収縮に伴う破膜が発生し、両極が短絡する恐れがある。そこで、シャットダウン温度を越えた温度に昇温しても破膜が発生しない高い耐熱性を具備することが求められている。
【0008】
この種の微細孔を有するフィルムを製膜する技術として、特開2005−071979号公報(特許文献1)で、無機フィラーを含有する単層の高分子多孔質膜で構成された非水系電解液二次電池用セパレータが提案されている。
【0009】
また、多孔性フィルムの透過性を高めるために、結晶形態の一つであるβ晶をポリプロピレン樹脂に配合し、ポリプロピレンシートを延伸して多孔性フィルムを得る方法が、特開平6−100720号公報(特許文献2)、国際公開2002/066233号公報(特許文献3)で提案されている。
【0010】
さらに、ポリオレフィン樹脂多孔性フィルムの少なくとも片面に、フィラーと樹脂バインダーとを含む多孔層を備えた多層多孔性フィルムを得る方法が、特開2004−227972号公報(特許文献4)、特開2007−280911号公報(特許文献5)、特開2008−186721号公報(特許文献6)で提案されている。これらは、多孔性フィルム上に無機などのフィラーを充填させたコート層を塗布して設けることで、異常発熱を起こし、SD温度を越えて温度が上昇し続けた際においても、両極の短絡を前記フィラーを充填させたコート層で防いで安全性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−071979号公報
【特許文献2】特開平6−100720号公報
【特許文献3】国際公開2002/066233号公報
【特許文献4】特開2004−227972号公報
【特許文献5】特開2007−280911号公報
【特許文献6】特開2008−186721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献1に記載の電池用セパレータは、主成分となる高分子材料(高密度ポリエチレン)100重量部に対して無機フィラーを100重量部以上(実施例では硫酸バリウムを187.5重量部)と高充填している。このように無機フィラーを高充填するのは、延伸時に高分子材料と無機フィラーとの界面を剥離させて微細孔を形成するフィラー法により多孔化するためである。しかしながら、製造されるセパレータは単層フィルムであるため、製膜工程や二次電池の組立工程、さらには電池内部での無機フィラーの滑落、いわゆる粉落ちが生じやすい問題がある。よって、生産工程での歩留や、電池の安全性能上で改良の余地がある。
【0013】
また、前記特許文献2,3の製造方法では、フィラーを配合せず、フィラー法で多孔化せず、β晶核剤を配合して多孔化を促進している。前記のように、近時の電池用セパレータでは、シャットダウン温度に達した後も昇温した場合に熱収縮に伴う破膜が発生しない耐熱性が求められるが、フィラーを配合していないため、要求される耐熱性を満たすには不十分であり、この点で改善の余地がある。
また、前記特許文献4〜6に記載の多層多孔フィルムの製造方法では、多孔性フィルムの製膜後に、フィラーを充填させたコート層を塗布して設けており、塗布工程が含まれるため、工程が煩雑化し、歩留等の生産性が低下する問題があった。
【0014】
前記問題に鑑みてなされたもので、高い透気特性や電解液の拡散・保持機能を付与するための微細孔構造を有しながら、シャットダウン温度に達した後も温度が上昇した際に破膜が生じない程度の耐熱性を有する電池用セパレータを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリプロピレン系樹脂とフィラーとを含む樹脂組成物からなるII層との2層を少なくとも有しており、
前記II層に含まれるフィラーの含有量が、該II層の樹脂組成物100質量%に対して20質量%以上80質量%以下であり、
かつ、β活性を有することを特徴とする電池用セパレータである。
【0016】
また、本発明において、前記I層に含まれているポリプロピレン系樹脂に、β晶核剤が含まれていることが好ましい。
【0017】
また、本発明において、前記I層に含まれているβ晶核剤の含有量が、前記I層に含まれているポリプロピレン系樹脂100質量%に対し、0.0001〜5質量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、前記II層の厚み比率が、電池用セパレータ全体の厚みに対して、5%以上80%以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明において、ピン刺し強度が232gf以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明において、厚みあたりのピン刺し強度が6.8gf/μm以上であることが好ましい。
【0021】
また、本発明において、前記II層に含まれているフィラーは平均粒径が、0.1μm以上2μm以下の粒子であることが好ましい。
【0022】
また、本発明について、二軸延伸により多孔化されていることが好ましい。
【0023】
また、本発明の電池用セパレータは、空孔率が30〜65%、透気度が50〜500秒/100mlであることが好ましい。
【0024】
本発明として、上記の電池用セパレータが組み込まれている電池を提供している。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電池用セパレータは、フィラーを配合したII層と、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層とを備えた多層構造とし、β晶核剤を配合する等によりβ活性を有するものとしているため、延伸時に微細孔の形成を促進できると共に、II層では配合したフィラーによりフィラー法で微細孔を形成でき、I層とII層を積層した多層としても優れた透気特性を有する。かつ、II層でフィラーを配合して耐熱性を高めているため、電池が異常発熱し、閉塞によりイオン伝導を遮断した後においても、電池用セパレータの破膜を抑制でき、高い安全性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の電池用セパレータを収容している電池の概略的断面図である。
図2】耐熱性評価及び広角X線回折測定における電池用セパレータの固定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の電池用セパレータの実施形態、ならびに電池への適応形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占める意を包含するものである。
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0028】
以下に、本発明の電池用セパレータを構成する各成分について説明する。
【0029】
[I層]
(ポリプロピレン系樹脂)
I層で用いるポリプロピレン系樹脂として、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、電池用セパレータの機械的強度、耐熱性などを維持する観点から、ホモポリプロピレンがより好適に使用される。前記I層には、開孔を促進するためや、成型加工性を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で、変性ポリオレフィン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂若しくはその変性体、エチレン系共重合体、または低分子量ポリプロピレンを添加しても構わない。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂としては、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が80〜99%であることが好ましい。より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%であるものを使用する。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎるとフィルムの機械的強度が低下するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合についてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al(Macromolecules8,687,(1975))に準拠した。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂としては、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが2.0〜10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0〜8.0、更に好ましくは2.0〜6.0であるものが使用される。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが2.0未満であると押出成形性が低下する等の問題が生じるほか、工業的に生産することも困難である。一方、Mw/Mnが10.0を超えた場合は低分子量成分が多くなり、電池用セパレータの機械的強度が低下しやすい。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5〜15g/10分であることが好ましく、1.0〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分以上とすることで、成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く、十分な生産性を確保することができる。一方、15g/10分以下とすることで、得られる電池用セパレータの機械的強度を十分に保持することができる。MFRはJIS K 7210に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定する。
【0033】
なお、前記ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」、「Adsyl」、「HMS−PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「バーシファイ」「インスパイア」(ダウケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
【0035】
本発明の電池用セパレータは、前記β活性を有することを重要な特徴としている。β活性は、延伸前の膜状物において、前記ポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の膜状物中にβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細孔が形成されるため、透気特性を有する多孔性フィルムを得ることができる。なお、前記β活性は、本発明の電池用セパレータ全層の状態で測定している。
【0036】
本発明の電池用セパレータにおいて、「β活性」の有無は、後述する示差走査型熱量計によりβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出された場合か、及び/又は後述する広角X線回折装置を用いた測定により、β晶に由来する回折ピークが検出された場合、「β活性」を有すると判断している。
具体的には、示差走査型熱量計で多孔性フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、前記ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β活性を有すると判断している。
【0037】
また、前記電池用セパレータのβ活性度は、検出される前記ポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算している。
β活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上170℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばエチレンが1〜4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0038】
前記電池用セパレータのβ活性度は大きい方が好ましく、β活性度は20%以上であることが好ましい。40%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましい。電池用セパレータが20%以上のβ活性度を有すれば、延伸前の膜状物中においてもポリプロピレン系樹脂のβ晶が多く生成することができることを示し、延伸により微細かつ均一な孔が多く形成され、結果として機械的強度が高く、透気性能に優れた電池用セパレータとすることができる。
β活性度の上限値は特に限定されないが、β活性度が高いほど前記効果がより有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
【0039】
また前記β活性の有無は、特定の熱処理を施した電池用セパレータの広角X線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断できる。
詳細には、前記ポリプロピレン系樹脂の融点を超える温度である170℃〜190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた電池用セパレータについて広角X線測定を行い、前記混合樹脂組成物のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°〜16.5°の範囲に検出された場合、β晶生成力が有ると判断している。
ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造と広角X線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643−652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361−404(1991)、Macromol.Symp.89,499−511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0040】
前記電池用セパレータのβ活性を得る方法としては、前記ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレンを添加する方法、及び組成物にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。
【0041】
(β晶核剤)
本発明において、前記I層を形成するポリプロピレン系樹脂に、β晶核剤が含有されることが好ましい。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成・成長を増加させるものであれば特に限定される訳ではなく、また2種類以上を混合して用いても良い。
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジエステル類もしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。そのほか核剤の具体的な種類については、特開2003−306585号公報、特開平06−289566号公報、特開平09−194650号公報に記載されている。
【0042】
β晶核剤の市販品としては新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU−100」、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B−022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)−PP BE60−7032」、Mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP−LN」などが挙げられる。
【0043】
前記ポリプロピレン系樹脂に添加するβ晶核剤の割合は、β晶核剤の種類または前記ポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することが必要であるが、前記I層を形成するポリプロピレン系樹脂100質量%に対し、0.0001〜5質量%の割合で配合されることが好ましい。また、0.001〜3質量%がより好ましく、0.01〜2質量%がさらに好ましい。0.0001質量%以上であれば、製造時において十分に前記I層を形成するポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成・成長させることができ、電池用セパレータとした際にも十分なβ活性が確保でき、所望の透気性能が得られる。また、5質量%以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、電池用セパレータ表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0044】
(他の成分)
本発明においては、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。また、開孔を促進するためや、成型加工性を付与するために、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、変性ポリオレフィン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂若しくはその変性体、エチレン系共重合体、または低分子量ポリプロピレンを添加しても構わない。
【0045】
[II層]
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明において、II層はポリプロピレン系樹脂とフィラーとを含む樹脂組成物であることが重要である。
【0046】
本発明におけるII層を構成する樹脂組成物に含まれるポリプロピレン系樹脂について、前述のI層で好適に用いられるポリプロピレン系樹脂と同様である。
また、II層もβ活性を有することが好ましい。さらに、II層に含まれるβ晶核剤の種類や添加量はI層と同じであっても、異なっていても良い。β晶核剤の種類や添加量を変更することで、各層の多孔構造を適宜調整することができる。
【0047】
(フィラー)
本発明において、II層を構成する樹脂組成物に含まれるフィラーとしては、ポリプロピレン系樹脂とともに押出成形して膜状物化できるものであれば特に制約されるものではなく、無機フィラー、有機フィラー、有機無機ハイブリッド粒子が挙げられる。
【0048】
無機フィラーの例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカなどの酸化物のほか、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、本発明の電池用セパレータを電池に組み込んだ際に化学的に不活性であるという観点で、硫酸バリウム、酸化アルミニウムが好ましい。
【0049】
有機フィラーとしては、延伸温度においてフィラーが溶融しないように、延伸温度よりも高い結晶融解ピーク温度をもつ樹脂粒子が好ましく、ゲル分率が4〜10%程度の架橋した樹脂粒子がさらに好ましい。有機フィラーの例としては、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、メラミン、ベンゾグアナミンなどの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐電解液膨潤性の観点より、架橋させたポリスチレンや、架橋させたポリメチルメタクリレートなどが好ましい。
【0050】
有機無機ハイブリッド粒子とは、有機高分子と無機材料とが同一粒子内に均一に分布した複合体粒子であって、耐摩耗性、耐熱性等、無機材料としての特性と、柔軟性等の有機高分子としての特性を併せ持つ粒子である。中でも、有機無機ハイブリッド粒子の例としては、有機シリコーン微粒子が挙げられる。有機シリコーン微粒子は、ポリシロキサン架橋構造体から成るものである。このポリシロキサン架橋構造体は、シロキサン単位が3次元の網目構造を形成した構造体である。
【0051】
前記フィラーの含有量は、前記II層を構成する樹脂組成物100質量%に対して、20質量%以上80質量%以下であることが重要である。30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることが更に好ましい。
前記フィラーの含有量が20質量%以上とすることにより、II層の開孔性が向上することは勿論のこと、電池が異常発熱した場合において、多孔構造の閉塞によるイオン伝導を遮断した後においても、電池用セパレータの破膜を抑制する効果をもたらす。これは、本発明の電池用セパレータのI層の主成分であるポリプロピレン系樹脂や、II層を構成する樹脂組成物に含まれるポリプロピレン系樹脂が溶融しても、前記フィラーが凝集し、擬似耐熱層を形成するためであると考えられる。異常発熱時における擬似耐熱層の形成の概念は、本発明で最も重要な効果である。一方、前記フィラーの含有量が80質量%以下とすることにより、成形時に樹脂焼けなど工程上の不具合を起こしにくくし、十分な成形安定性を確保できる。
【0052】
また、本発明において、前記II層を構成する樹脂組成物に含まれるフィラーの平均粒径が0.1μm以上、2μm以下であることが好ましく、0.15μm以上1.8μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上1.6μm以下であることが更に好ましい。前記フィラーの平均粒径が0.1μm以上とすることで、フィラー同士の凝集を抑制させ、十分な分散性を得ることで均一に延伸することができるとともに、熱可塑性樹脂とフィラーとの界面の接触面積が小さくなることで、十分な押出成形加工性を得ることができ、均一に多孔化させることが可能である。一方、平均粒径が2μm以下とすることで、前述の擬似耐熱層を形成させ、十分な耐熱性を得ることができる。これは、異常発熱等によって熱可塑性樹脂が溶融される際、前記フィラーの比表面積が小さいためにフィラー同士が凝集して、擬似耐熱層を形成すると考えられる。
【0053】
また、II層を構成する組成物に可塑剤を加えても良い。特に、フィラーの分散性を向上させる目的で可塑剤を加えることが好ましい。
前記可塑剤としては、エステル化合物、アミド化合物、アルコール化合物、アミン化合物、エポキシ化合物、エーテル化合物、鉱油、ワックス、液状シリコーン、フッ素オイル、液状ポリエーテル類、液状ポリブテン類、液状ポリブタジエン類、カルボン酸塩、カルボン酸化合物、スルホン酸塩、スルホン化合物、アミン塩、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0054】
具体的には、前記エステル化合物としては、テトラグリセリントリステアレート、グリセリントリステアレート、ステアリルステアリレート、エチレンカーボネート、ジステアリルカーボネート、ジオクチルナフタレート等が挙げられる。
アミド系化合物としては、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。アルコール化合物としては、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ドデシルフェノールなどが挙げられる。
【0055】
アミン化合物としては、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、ラウリルアミンなどが挙げられる。アミン塩化合物としては、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。エポキシ化合物としては、エポキシ大豆油などが挙げられる。エーテル化合物としては、トリエチレングリコールなどが挙げられる。鉱油としては、灯油、ナフテン油などが挙げられる。ワックスとしては、パラフィンワックスなどが挙げられる。カルボン酸塩としては、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。カルボン酸化合物としては、ステアリン酸、カプロン酸などが挙げられる。スルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。スルホン化合物としては、スルホラン、ジプロピルスルホン等が挙げられる。
【0056】
本発明の電池用セパレータの用途に鑑み、可塑剤は前記の中でも融点25℃以上、沸点が140℃以上の可塑剤が好ましい。ここで融点25℃以上とは、示差走査型熱量計による測定で25℃以上の結晶融解ピーク温度を明確に有しているもの、または、25℃での動粘度が100000mm/秒以上と定義する。沸点が140℃以上とは、沸点が明確に140℃以上あるもの、または140℃で1時間加熱した後の質量が加熱前の質量に対して10%以上減少していないものとする。
【0057】
前記可塑剤の配合量は、II層に含まれる全熱可塑性樹脂100質量%に対し0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。可塑剤の配合量が0.1質量%未満の場合には、目的とする良好な延伸性が発現されにくくなり不均一な多孔構造になりやすいなどの可塑剤を配合することによる効果が十分に得られない。また、可塑剤の配合量が30質量%を超えると、膜状物成形の際に樹脂焼けや目ヤニなど工程上の不具合を起こしやすくなる。
【0058】
このほか、II層には、前述した本発明の目的やII層の特性を損なわない程度の範囲で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤等が配合されていてもよい。具体的には、I層に配合することができる添加物の例示と同じである。
【0059】
[電池用セパレータの積層構成]
ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリプロピレン系樹脂とフィラーとを含む樹脂組成物からなるII層の2層を少なくとも有することが重要であり、構成に関しては特に限定されない。
具体的な構成として、I層/II層の2種2層構成、I層/II層/I層、II層/I層/II層の2種3層構成、I層/II層/I層/II層の2種4層構成、I層/II層/I層/II層/I層、II層/I層/II層/I層/II層の2種5層構成などが挙げられる。また、層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。
中でも、本発明の電池用セパレータは、I層/II層/I層の2種3層構成やI層/II層/I層/II層/I層の2種5層構成がより好ましい。I層を最外層とすることによって、II層に含まれるフィラーの滑落防止の効果がある。更に、II層の多孔構造と比較してI層の多孔構造の方がより緻密な孔構造を形成させることができるため、十分な機械的強度、表面特性を確保することができる。また、電荷イオンの経路の曲路率を小さくすることができるため、電池の出力特性を十分に確保することができるために好ましい。
【0060】
本発明の電池用セパレータの性質から、I層、II層とは異なる他の層(III層)を積層してもよい。前記III層としては、シャットダウン特性を有するシャットダウン層、更なる耐熱性を付与するための耐熱層などが具体的に挙げられる。前記III層もI層、II層と同様に多孔性であることが好ましいが、前記III層がガス透過率差を発現するような無多孔層を形成しても構わない。前記III層を用いた具体的な構成として、I層/II層/III層、I層/III層/II層、II層/I層/III層の3種3層構成、I層/II層/III層/I層、I層/II層/III層/II層、II層/I層/III層/I層、II層/I層/III層/II層の3種4層構成、I層/III層/II層/III層/I層、II層/III層/I層/III層/II層の3種5層構成などが挙げられる。また、層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。
【0061】
また、前記II層の厚み比率が、電池用セパレータの厚みに対して、5%以上80%以下であることが好ましい。下限値としては、7%以上がより好ましく、10%以上が更に好ましく、20%以上が尚更好ましく、33%以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、70%以下が更に好ましく、60%以下が特に好ましい。該II層の厚み比率は24〜54%が最も好ましい。
前記II層の厚み比率が5%以上とすることで、電池用セパレータの耐熱性を十分に得ることができる。また、前記II層の厚み比率が80%以下とすることで、電池用セパレータの強度を十分に得ることができ、十分な延伸性も確保することができる。
なお、前記II層の厚み比率が80%を超えることによって、前述の擬似耐熱層の形成が困難になるため好ましくない。これは、異常発熱等によって熱可塑性樹脂が溶融される際、II層の厚み比率が80%を超えると、フィラー同士が凝集して、擬似耐熱層を形成することが困難となり、フィラーの凝集塊が存在しない箇所から破膜するためであると考えられる。
【0062】
前記のように、フィラーの配合量を前記20〜80質量%とし、かつ、フィラーを配合したII層の厚みを5〜80%とし、該II層におけるフィラーの配合量を20〜80質量%としていることで、シャットダウン温度が従来と同様な110〜150℃の電池用セパレータにおいて、150℃を越えて電池内部の温度上昇が続いても、セパレータに破膜の発生を防止できる耐熱性を有するものとしている。
【0063】
[電池用セパレータの形状、及び物性の説明]
電池用セパレータの形態として、平面状、チューブ状の何れであってもよいが、幅方向に製品として数丁取りが可能であることから生産性がよく、さらに内面にコートなどの処理が可能であること等の観点から、平面状がより好ましい。
本発明の電池用セパレータの厚みは1〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。厚みが1μm以上、好ましくは10μm以上であれば、実質的に必要な電気絶縁性を得ることができ、例えば大きな電圧がかかった場合にも短絡しにくく安全性に優れる。また、厚みが50μm以下、好ましくは30μm以下であれば、電池用セパレータの電気抵抗が小さくできるので電池の性能を十分に確保することができる。
【0064】
本発明の電池用セパレータの物性は、層構成や積層比、各層の組成、製造方法によって自由に調整できる。
【0065】
本発明の電池用セパレータの透気度は50〜500秒/100mlが好ましく、100〜400秒/100mlがさらに好ましく、200〜300秒/100mlが特に好ましい。透気度が500秒/100ml以下であれば、電池用セパレータが優れた透気性能を示すことができる。
透気度はフィルム厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とはフィルム厚み方向の孔のつながり度合いである。本発明の電池用セパレータの透気度が低いということはリチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。
【0066】
本発明の電池用セパレータにおいて、空孔率は多孔構造を規定する為の重要なファクターである。
空孔率は30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。空孔率が30%以上であれば、連通性を確保し透気特性に優れた多孔性フィルムとすることができる。
一方、上限については65%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、55%以下が更に好ましい。空孔率が65%以下であれば、微細孔が増えすぎてフィルムの強度が低下する問題もなくなり、ハンドリングの観点からも好ましい。なお、空孔率は後述の実施例に測定方法が記載されている。
【0067】
本発明の電池用セパレータにおいて、ピン刺し強度は電池内部で異物などにより物理的に電池用セパレータが破膜することを防止する点において重要なファクターである。一般的に、フィラーを含有しない場合と比較して、フィラーを含有する層を有する場合はピン刺し強度が低下しやすい傾向にあるが、本発明の電池用セパレータでは、強度が大きく低下することなく、電池に組み込んでも安全性上全く問題の無いピン刺し強度を有するものである。
【0068】
[電池用セパレータの製造方法]
次に本発明の電池用セパレータの製造方法について説明するが、本発明はかかる製造方法により製造される電池用セパレータのみに限定されるものではないが、本発明の電池用セパレータは、無孔膜状物が二軸延伸により多孔化されてなるものであることが好ましい。
【0069】
また、本発明において、積層多孔性フィルムを用いた電池用セパレータを製造する場合、製造方法は、多孔化と積層の順序等によって以下の4つに大別される。
(A)各層を多孔化したのち、多孔化された各層をラミネートしたり接着剤等で接着したりして積層する方法。
(B)各層を積層して積層無孔膜状物を作製し、ついで当該無孔膜状物を多孔化する方法。(以降「共押出法」と称す)
(C)各層のうちいずれか1層を多孔化したのち、もう1層の無孔膜状物と積層し、多孔化する方法。
(D)多孔層を作製した後、無機・有機粒子などのコーティング塗布や、金属粒子の蒸着などを行うことにより積層多孔性フィルムとする方法。
本発明においては、その製造方法について特に限定されるものはないが、その工程の簡略さ、生産性の観点から(B)の方法を用いることが好ましい。
【0070】
以下に、好ましい製造方法の詳細を説明する。
【0071】
(共押出法)
まず、ポリプロピレン系樹脂、あるいはポリプロピレン系樹脂と、フィラー、熱可塑性樹脂、添加剤の混合樹脂組成物をそれぞれ作製する。例えば、I層ではポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤を配合し、II層ではポリプロピレン系樹脂にフィラーを配合し、さらに所望によりその他添加物等の原材料を加え、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて、または袋の中に全成分を入れてハンドブレンドにて混合する。その後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等、好ましくは二軸押出機で溶融混練し、カッティングしてそれぞれペレットを得る。
【0072】
前記のペレットをそれぞれ押出機に投入し、Tダイ押出用口金から押出して膜状物を成形する。Tダイの種類としては特に限定されない。例えば本発明の電池用セパレータが積層構造をとる場合、Tダイは2種3層用マルチマニホールドタイプでも構わないし、2種3層用フィードブロックタイプでも構わない。
使用するTダイのギャップは、最終的に必要なフィルムの厚み、延伸条件、ドラフト率、各種条件等から決定されるが、一般的には0.1〜3.0mm程度、好ましくは0.5〜1.0mmである。0.1mm未満では生産速度という観点から好ましくなく、また3.0mmより大きければ、ドラフト率が大きくなるので生産安定性の観点から好ましくない。
【0073】
押出成形において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、概ね180〜350℃が好ましく、190〜330℃がより好ましく、200〜300℃が更に好ましい。180℃以上の場合、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ生産性が向上することから好ましい。一方、350℃以下にすることにより、樹脂組成物の劣化、ひいては得られる電池用セパレータの機械的強度の低下を抑制できる。
キャストロールによる冷却固化温度は本発明において非常に重要であり、膜状物中のポリプロピレン系樹脂のβ晶の比率を調整することができる。キャストロールの冷却固化温度は好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。冷却固化温度を80℃以上とすることで、膜状物中のβ晶の比率を十分に増加させることができるために好ましい。また、150℃以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻き付いてしまうなどのトラブルが起こりにくく、効率よく膜状物化することが可能であるので好ましい。
【0074】
前記温度範囲にキャストロールを設定することで、延伸前の膜状物のポリプロピレン系樹脂のβ晶比率は30〜100%に調整することが好ましい。40〜100%がより好ましく、50〜100%が更に好ましく、60〜100%が最も好ましい。延伸前の膜状物中のβ晶比率を30%以上とすることで、その後の延伸操作により多孔化が行われやすく、透気特性の良い電池用セパレータを得ることができる。
延伸前の膜状物中のβ晶比率は、示差走査型熱量計を用いて、該膜状物を25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温させた際に、検出されるポリプロピレン系樹脂(A)のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
β晶比率(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
【0075】
ついで、得られた無孔膜状物を延伸する。延伸工程としては、一軸延伸であっても良いが、少なくとも二軸延伸することがより好ましい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよいが、各延伸工程で延伸条件(倍率、温度)を簡便に選択でき、多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸がより好ましい。なお、膜状物及びフィルムの長手方向を「縦方向」、長手方向に対して垂直方向を「横方向」と称する。また、長手方向への延伸を「縦延伸」、長手方向に対して垂直方向への延伸を「横延伸」と称する。
【0076】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時変える必要があるが、縦延伸での延伸温度は概ね0〜130℃が好ましく、より好ましくは10〜120℃、更に好ましくは20〜110℃の範囲で制御される。また、2〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍、更に好ましくは4〜7倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
一方、横延伸での延伸温度は概ね100〜170℃、好ましくは110〜160℃、更に好ましくは120〜150℃である。また、好ましい縦延伸倍率は1.1〜10倍が好ましく、より好ましくは1.2〜5倍、更に好ましくは1.4〜3倍である。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された空孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができる。
前記延伸工程の延伸速度としては、500〜12000%/分が好ましく、1500〜10000%/分がさらに好ましく、2500〜8000%/分であることが更に好ましい。
【0077】
このようにして得られた電池用セパレータは、寸法安定性の改良を目的として熱処理を施すことが好ましい。この際、温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上とすることで、寸法安定性の効果が期待できる。一方、熱処理温度は好ましくは170℃以下、より好ましくは165℃以下、更に好ましくは160℃以下である。熱処理温度が170℃以下であれば、熱処理によってポリプロピレン系樹脂の融解が起こりにくく、多孔構造を維持できるため好ましい。また、熱処理工程中には、必要に応じて1〜20%の弛緩処理を施しても良い。なお、熱処理後、均一に冷却して巻き取ることにより、電池用セパレータが得られる。
【0078】
(電池)
続いて、本発明の電池用セパレータを収容している非水電解液二次電池について、図1に参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極は電池用セパレータ10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。
前記捲回工程について詳しく説明する。電池用セパレータの片端をピンのスリット部の間に通し、ピンを少しだけ回転させて電池用セパレータの一端をピンに巻きつけておく。この時、ピンの表面と電池用セパレータの被覆層とが接触している。その後、電池用セパレータを間に挟むようにして正極と負極を配置し、捲回機によってピンを回転させて、正負極と電池用セパレータを捲回する。捲回後、ピンは捲回物から引き抜かれる。
【0079】
前記正極板21、電池用セパレータ10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、前記電解質を電池缶内に注入し、電池用セパレータ10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液二次電池を作製している。
【0080】
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0081】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0082】
本実施形態では、負極として、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0083】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0084】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。すなわち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【実施例】
【0085】
次に実施例および比較例を示し、本発明の電池用セパレータについて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、電池用セパレータの引き取り(流れ)方向を「縦」方向、その直角方向を「横」方向と記載する。
【0086】
(1)厚み
得られた電池用セパレータを1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0087】
(2)II層の厚み比率
電池用セパレータの断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−4500)にて観察し、その層構成及び厚みからII層の厚み比率を測定した。
【0088】
(3)空孔率
得られた電池用セパレータの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0−W1)/W0}×100
【0089】
(4)透気度(ガーレー値)
得られた電池用セパレータから直径φ40mmの大きさでサンプルを切り出し、JISP8117に準拠して透気度(秒/100ml)を測定した。
【0090】
(5)ピン刺し強度
日本農林規格告示1019号に準じ、ピン径1.0mm、先端部0.5R、ピン刺速度300mm/分の条件で測定した。
【0091】
(6)β活性(DSC)
得られた電池用セパレータをパーキンエルマー社製の示差走査型熱量計(DSC−7)を用いて、25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温した。再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)である145〜160℃にピークが検出されるか否かにより、以下のようにβ活性の有無を評価した。
○:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出された場合(β活性あり)
×:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出されなかった場合(β活性なし)
なお、β活性の測定は、試料量10mgで、雰囲気ガスを窒素として行った。
【0092】
(7)β活性(広角X線回折測定、XRD)
電池用セパレータを縦100mm×横100mm角に切り出し、図2(A)に示すように中央部が縦70mm×横70mmの角状の穴の空いたアルミ板(材質:JIS A 5052、サイズ:縦100mm、横100mm、厚さ1mm)2枚の間にはさみ、図2(B)に示すように周囲をクリップで固定した。
電池用セパレータをアルミ板2枚に拘束した状態で設定温度180℃、表示温度180℃である送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、型式:DKN602)に入れ3分間保持した後、設定温度を100℃に変更し、10分以上の時間をかけて100℃まで徐冷を行った。表示温度が100℃になった時点で取り出し、アルミ板2枚に拘束した状態のまま25℃の雰囲気下で5分間冷却して得られたものについて、以下の測定条件で、中央部が縦70mm×横70mmの角状の部分について広角X線回折測定を行った。
・広角X線回折測定装置:株式会社マックサイエンス製、型番:XMP18A
・X線源:CuKα線、出力:40kV、200mA
・走査方法:2θ/θスキャン、2θ範囲:5°〜25°、走査間隔:0.05°、走査速度:5°/min
得られた回折プロファイルについて、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来するピークより、β晶活性の有無を以下のように評価した。
○:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出された場合(β晶活性あり)
×:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出されなかった場合(β晶活性なし)
なお、電池用セパレータ片が縦100mm、横100mm角に切り出せない場合は、中央部が縦70mm×横70mmの角状の穴に電池用セパレータが設置されるように調整しても構わない。
【0093】
(8)耐熱性評価
得られた電池用セパレータを縦100mm×横100mm角に切り出し、図2(A)に示すように、中央部に縦70mm×横70mmの角状の穴を空けたアルミ板(材質:JIS規格A5052、サイズ:縦100mm、横100mm、厚み2mm)2枚の間にはさみ、図2(B)に示すように周囲をクリップで拘束した。
これを200℃に設定した熱風循環式熱処理オーブンに入れ、オーブン内部温度が190℃に達してから8分間保持した後、直ちに取り出し、以下のように電池用セパレータの状態を確認して形状保持性能を評価した。
○:形状が保持されている場合
×:フィルムが破膜した場合
【0094】
実施例、比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0095】
(ポリプロピレン系樹脂)
・A−1;ノバテックPP FY6HA(日本ポリプロ社製、MFR;2.4g/10分)
(β晶核剤)
・B−1;3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン
(酸化防止剤)
・C−1;IRGANOX−B225(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(フィラー)
・D−1;バリエースB55(硫酸バリウム、堺化学社製、平均粒径0.66μm)
・D−2;バリエースB54(硫酸バリウム、堺化学社製、平均粒径1.2μm)
【0096】
(実施例、比較例)
まず、前記ポリプロピレン系樹脂(A−1)にβ晶核剤(B−1)と酸化防止剤(C−1)をA−1/B−1/C−1=100/0.2/0.1の質量割合で配合し、東芝機械株式会社製の2軸押出機(口径40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度280℃で溶融混合後、水槽にてストランドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドをカットし、ペレットを作製した。得られたペレットを表1および以下にA−2と表記する。
【0097】
次に、表1に示すようにA−1またはA−2に、フィラーD−1またはD−2を配合したものを東芝機械株式会社製の二軸押出機(口径40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、水槽にてストレンドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドカットし、比較例1以外のII層用、及び比較例2のI層用のペレットを作製した。
【0098】
次に、各層用に作製したペレットを三菱重工株式会社製の2台の単軸押出機を用いて、200℃で溶融混合後、2種3層マルチマニホールドダイより押出した溶融樹脂シートをキャストロールで引き取り、冷却固化させて、膜状物を得た。次いで、得られた膜状物に対し、フィルムロール縦延伸機を用い、105℃に加熱したロール間において、4.6倍縦方向に延伸を行った後、次いで京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で、2.1倍横方向に延伸した後、153℃で12秒間熱処理を行い、多孔性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に纏める。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表2より、実施例1〜7で得た電池用セパレータは、優れた透気性を有するとともに、著しい強度低下なども見られない。加えて、非常に高い耐熱性を有していることがわかる。特に、ピン刺し強度が232gf以上であり、また厚みあたりのピン刺し強度が6.8gf/μm以上と、優れた強度を有することから、電池内部において仮に異物が含まれたとしても、容易に物理的に破膜するおそれが低減された電池用セパレータであることがわかる。
【0102】
一方、比較例1では、優れた透気性を有するものの、主としてポリプロピレン系樹脂から構成される単層フィルムであるため、ポリプロピレン系樹脂の融点以上では、フィルムの熱安定性を発揮することはなく、フィルムが破膜する。すなわち、本発明の目的である、耐熱性の向上を満たさない。さらに比較例2では、フィルムの厚み方向に対し、すべて、ポリプロピレン系樹脂とフィラーから構成されるため、延伸性が悪く、延伸時に破断が生じた。すなわち、本発明が規定する構成とは異なるため、安定した製膜が困難であることがわかった。さらに、比較例3においても、延伸によりフィルムが破断した。フィルムが破断したため、延伸前の未延伸シートにおいて、β活性の有無を調査した所、β活性を有しないことが明らかとなった。すなわち、本発明の規定するI層とは異なり、I層が、β活性を有しないポリプロピレン系樹脂で構成した場合、安定した製膜が困難であることが分かった。
【符号の説明】
【0103】
10 電池用セパレータ
20 二次電池
21 正極板
22 負極板
24 正極リード体
25 負極リード体
26 ガスケット
27 正極蓋
31 アルミ板
32 多孔性フィルム
33 クリップ
34 多孔性フィルム縦方向
35 多孔性フィルム横方向
図1
図2