特許第5750552号(P5750552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750552
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】抗菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20060101AFI20150702BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20150702BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20150702BHJP
   A01N 63/02 20060101ALI20150702BHJP
   A01N 65/34 20090101ALI20150702BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   A61K8/97
   A61K8/64
   A61Q11/00
   A01N63/02 P
   A01N65/34
   A01P3/00
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-542611(P2014-542611)
(86)(22)【出願日】2013年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2013080192
(87)【国際公開番号】WO2014077188
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249988(P2012-249988)
(32)【優先日】2012年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512295109
【氏名又は名称】株式会社優しい研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】512295121
【氏名又は名称】株式会社トライフ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】永利 浩平
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−320017(JP,A)
【文献】 特表平03−500051(JP,A)
【文献】 特開2006−273817(JP,A)
【文献】 特開平05−161469(JP,A)
【文献】 特開平10−310503(JP,A)
【文献】 特開2004−359626(JP,A)
【文献】 特表平08−504404(JP,A)
【文献】 特開2009−161518(JP,A)
【文献】 特開2006−328002(JP,A)
【文献】 特開2007−031423(JP,A)
【文献】 特開2007−153888(JP,A)
【文献】 特開2002−020398(JP,A)
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集、公益社団法人日本農芸化学会、2012年3月5日、516頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A01N 63/02
A01N 65/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイシンと、
1種または複数種のウメの搾汁、抽出物および蒸留物、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される植物由来成分と
を含む、口腔用である抗菌用組成物であって、
前記抗菌用組成物中の植物由来成分の含有量が200mg/mL以下であることを特徴とする抗菌用組成物。
【請求項2】
前記植物由来成分がウメ果実搾汁であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌用組成
物。
【請求項3】
前記抗菌用組成物中のナイシンの含有量が0.1μg/mL−10mg/mLであり、
前記抗菌用組成物中の植物由来成分の含有量が1−200mg/mLであることを特徴と
する請求項1又は2に記載の抗菌用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイシンを殺菌成分として含み、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両者に有効な抗菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイシン(nisin)は、バクテリオシンの一種であり、チーズより分離されたラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)の産生する、34個のアミノ酸残基からなる多環式抗菌性ペプチドである。ナイシンは、水溶性ポリペプチドであり、1ppb程度の低濃度でも、酢酸菌を始めとするグラム陽性菌に対する生長抑制効果を有しているが、近縁種にのみ抗菌活性を有する他のバクテリオシンと異なり、広い抗菌スペクトルを有している。ナイシンは、我が国を含む多くの国において食品添加物として認可され、食品保存料や各種の抗菌剤等に応用されている。
【0003】
ナイシンはグラム陽性菌に対する抗菌活性を有するため、う蝕の原因菌であるミュータンス菌(Streptococcus mutans)の除菌に有効であることが期待される。そのため、毒性の指摘されるラウリル硫酸ナトリウムやプロピレングリコール等を含む従来の洗口液(マウスウォッシュ)に代わる、より安全性の高い洗口液等へのナイシンの応用が期待される。しかしながら、ナイシン単独ではグラム陰性菌に対する抗菌活性を有しないため、グラム陰性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)等の歯周病原因菌の除菌には効果を有しない。EDTA等のキレート剤とナイシンとを組み合わせることによりグラム陽性菌とグラム陰性菌の両者に対する抗菌活性を併せ持つ抗菌性組成物が得られることが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)。また、グラム陰性菌に対して殺菌作用を有するフマル酸と、グラム陽性菌に対して殺菌作用を有するナイシンと、乳酸(例えば0.8%(w/v))と、リン酸およびクエン酸の双方もしくはいずれか一方とを有する殺菌剤であって、フマル酸の濃度が0.03%〜0.1%(w/v)、ナイシンの濃度が1ppm〜100ppmに設定された抗菌剤が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平3−500051号公報
【特許文献2】特許第4309822号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Applied and Environmental Microbiology,58(5),p.1786−88,1992
【非特許文献2】International Journal of Food Microbiology,21,p.305−314,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、EDTAは人体に対し毒性を有するため、これを口腔ケアなど人体に使用する抗菌用組成物の原料として用いることは安全性の観点から好ましくない。また、特許文献2記載の抗菌剤は、フマル酸以外に乳酸等の有機酸をさらに含んでいるため、香りや味わい等の風味を損ね、口腔ケアなど人体に使用する抗菌用組成物への応用への適用には問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の双方に対する抗菌活性を有し、安全性が高く、かつ風味を損なわない抗菌用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明は、ナイシンと、1種または複数種のウメの搾汁、抽出物および蒸留物、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される植物由来成分とを含む抗菌用組成物であって、前記抗菌用組成物中の植物由来成分の含有量が200mg/mL以下であることを特徴とする抗菌用組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0009】
本発明の抗菌用組成物において、前記植物由来成分がウメ果実搾汁であることが特に好ましい。
【0010】
本発明の抗菌用組成物において、前記抗菌用組成物中のナイシンの含有量が0.1μg/mL〜10mg/mLであり、前記抗菌用組成物中の植物由来成分(ウメ果実搾汁)の含有量が1〜200mg/mLであることが好ましい。本発明の抗菌用組成物は、口腔用組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ナイシンとバラ科植物に由来する植物由来成分を混合して用いることにより、グラム陽性菌に加え、ナイシン単独では抗菌活性を有しないグラム陰性菌に対しても抗菌活性を有する抗菌用組成物を提供できる。また、本発明の抗菌用組成物は、キレート剤やラウリル硫酸ナトリウム等の、大量に使用すると人体に害を及ぼすおそれがある化合物を必須成分としないため、安全性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対するウメエキス、ナイシン、ナイシン+ウメエキスの抗菌効果を示すグラフである。
図2】実施例2における、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対するウメエキス、ナイシン、ナイシン+ウメエキスの抗菌効果を示すグラフである。
図3】実施例3における、大腸菌に対するナイシンの抗菌効果を示すグラフである。
図4】実施例3における、大腸菌に対するウメエキス、ナイシン+ウメエキスの抗菌効果を示すグラフである。
図5】実施例4における、大腸菌に対するウメエキス、ナイシン、ナイシン+ウメエキスの抗菌効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る抗菌用組成物(以下、単に「抗菌用組成物」または「組成物」と略称する場合がある。)は、ナイシンと、1種または複数種のバラ科植物の搾汁、抽出物および蒸留物、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される植物由来成分とを含んでいる。本発明の抗菌用組成物は、特に、口腔用組成物として有用である。
【0014】
(1)ナイシン
ナイシンとは、バクテリオシンの一種であって、異常アミノ酸であるランチオニンを含む34個のアミノ酸残基からなる低分子タンパク質である。抗菌用組成物の製造に用いることができるナイシンの種類は、特に制限されず、例えば、ナイシンAおよびナイシンZが挙げられる。ナイシンAとナイシンZの構造は類似している。ナイシンAでは、そのポリペプチド鎖のN末端から27番目のアミノ酸がヒスチジンであるのに対し、ナイシンZではアスパラギンであるという点のみが異なる。
【0015】
ナイシンは、乳酸菌を公知の方法により培養し、精製することによって得ることができる。例えば、乳酸菌をエムアールエス培地(MRS培地、Oxoid社製)で培養後、培養上清をアンバーライトXAD−16(シグマ社製)等の合成吸着剤で処理してナイシンを吸着させ、アンバーライトを蒸留水および40%エタノールで洗浄後、0.1%のトリフルオロ酢酸を含む70%イソプロピルアルコールでナイシンを溶出させ、溶出画分を陽イオン交換カラム(例えば、SP−Sepharose FF、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)に供することによって、ナイシンの精製品を得ることができる。必要な場合、逆相クロマトグラフィーに供することによって、さらに精製度を高めてもよい(例えば、Biosci.Biotechnol.Biochem.,67(7),p1616−1619,2003を参照)。また、市販品(例えば、ナイサプリン(Nisaplin、商標、ダニスコ株式会社製))を使用してもよい。ナイサプリンは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)由来のナイシンと塩化ナトリウムとの混合物であり、無脂肪乳または糖培地由来の成分を含む。必要な場合、上記精製方法により培地由来の成分等を除去し、純度を高めてもよい。
【0016】
抗菌用組成物中のナイシンの含有量は、所望の抗菌活性を示す限りにおいて特に限定されないが、好ましくは0.1μg/mL〜10mg/mLであり、より好ましくは0.5μg/mL〜1mg/mLであり、さらに好ましくは1μg/mL〜250μg/mLである。
【0017】
(2)植物由来成分
バラ科植物は、双子葉植物で、高木、低木、多年草、さらに一年草とその生活型は様々で、南極を除いたすべての大陸に分布しているが、特に北半球の暖帯から温帯に多い。その花序は多様で、花は多くのもので両性、放射相称である。
【0018】
抗菌用組成物の製造に用いるバラ科植物は特に限定されないが、例えば、キンミズヒキ属(Agrimonia)、ピラカンサ属(Pyracantha)、シモツケ属(Spiraea)、キジムシロ属(Potentilla)、イチゴ属(Fragaria)、ダイコンソウ属(Geum)、ヘビイチゴ属(Duchesnea)、キイチゴ属(Rubus)、ワレモコウ属(Sanguisorba)、バラ属(Rosa)、サクラ属(Prunus)、サンザシ属(Crataegus)、ビワ属(Eriobotrya)、ボケ属(Chaenomeles)およびリンゴ属(Malus)が挙げられる。好ましくは、バラ科植物はサクラ属であり、その具体例としては、アーモンド(Prunus dulcis)、モモ(Prunus persica)、プルーン(Prunus domestica)、ウメ(Prunus mume)、スモモ(Prunus salicina)、スピノサスモモ(Prunus spinosa)、アンズ(アプリコット)(Prunus vulgaris)、セイヨウミザクラ(Prunus avium)、カンヒザクラ(Prunus campanulata)、スミミザクラ(Prunus cerasus)、ヤマザクラ(Prunus jamasakura)、カスミザクラ(Prunus leveilleana)、エドヒガン(Prunus pendula)、シナミザクラ(Prunus pseudocerasus)、オオシマザクラ(Prunus speciosa)、カスミザクラ(Prunus verecunda)、モチヅキザクラ(Prunus × mochizukiana)、ソメイヨシノ(Prunus × yedoensis)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)、エゾノウワミズザクラ(Prunus avium Mill)、ウワミズザクラ(Prunus grayana)、イヌザクラ(Prunus buergeriana)、セイヨウバクチノキ(Prunus lauro−cerasus)、リンボク(Prunus spinulosa)、バクチノキ(Prunus zippeliana)が挙げられる。
【0019】
植物由来成分としては、バラ科植物の搾汁、抽出物および蒸留物を用いる。バラ科植物の植物体の部位としては、例えば、花部(花全体または花弁、萼、雌蕊、雄蕊等の花の一部)、茎部(茎部全体または樹皮等の茎部の一部)、葉部、種子、果実(種子を含む果実全体または果皮、果肉等の果実の一部)等を含む地上部および根、地下茎、球根等の地下部である。これらのうち、任意の複数のものを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0020】
好ましい植物由来成分としては、ウメ、スモモ、アプリコット等の果実搾汁が挙げられ、中でもサクラ属に属する植物であるウメ果実搾汁が特に好ましい。果実または他の部位からの搾汁の採取は、任意の方法を特に制限なく用いることができる。搾汁の採取の際には、果皮や種子を含む果実を丸ごと用いてもよいが、これらを除去したものを用いてもよく、必要に応じて、細切、粉砕等の前処理を施したものを用いてもよい。残渣と搾汁の分離には、布、ろ紙、限外ろ過膜、ガラスフィルター等を用いてもよく、遠心分離、デカンテーション等の分離法を用いてもよい。得られた搾汁は任意の手段および方法を用いて適当な割合に濃縮し、濃縮液または固体として用いてもよい。
【0021】
抽出または蒸留に際しては、バラ科植物の植物体またはその一部分をそのまま用いてもよいし、乾燥、細切、粉砕など加工した加工物を使用してもよい。抽出物を得る際に使用する溶媒としては、極性溶媒として、水、低級アルコール、高級アルコール、ケトン等の有機溶媒、あるいはこれらの任意の2種以上の混合溶媒を例示することができる。また、非極性溶媒としては、石油エーテル、あるいは炭素数4〜8の脂肪族炭化水素、炭素数1〜2の脂肪族炭化水素のハロゲン化物、炭素数6〜7の芳香族炭化水素等を例示することができる。また、抽出方法は特に限定されず、ソックスレー法等の固−液抽出法、液−液抽出法、超臨界流体を用いた抽出法等のいずれの方法を用いてもよい。
【0022】
蒸留物を得るための蒸留方法についても特に制限はなく、常圧蒸留法、減圧蒸留法、水蒸気蒸留法等の任意の方法を適宜用いることができる。
【0023】
上記のようにして得られた搾汁、抽出物または蒸留物は、そのまま用いてもよいが、必要に応じてさらに精製(精密蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の任意の方法を用いることができる。)したものを用いてもよく、さらにこれらの濃縮物を用いてもよい。また、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
抗菌用組成物中の植物由来成分の含有量は、グラム陰性菌に対する抗菌活性を付与できる限りにおいて特に制限されないが、好ましくは1〜200mg/mLであり、より好ましくは1.5〜150mg/mLであり、さらに好ましくは2〜100mg/mLであり、特に好ましくは2.5〜50mg/mLである。なお、植物由来成分として搾汁、抽出物または蒸留物の濃縮物を用いる場合、濃縮前の含有量に換算した値が上記範囲であることが好ましい。
【0025】
抗菌用組成物は、う蝕や歯周病等の歯および歯肉の疾患、それらの関連症状または前駆症状である口腔の悪臭、歯垢形成等の、口腔内の望ましくない疾患または状態を生じる原因となる口腔内微生物(グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両者を含む。)に対する抗菌効果を有する。抗菌用組成物は、例えば洗口液(マウスウォッシュ)、洗口スプレー(マウススプレー)、練り歯磨き、歯磨き粉、歯磨きクリーム、ゲル剤、チューインガム、液体を中心に充填したガム(liquid center filled gums)、ミント剤、トローチ、口腔用フィルム等から選択される形態をとることができる。
【0026】
抗菌用組成物は、上記のような口腔ケア用途以外にも、細菌による感染症や原因菌を殺す目的の製品に用いることができ、例えば、アクネケア等のためのフェイスケア製品、体(足、脇)のデオドラント、子供のとびひ予防等のためのボディーケア製品、目薬、コンタクト洗浄液等のアイケア製品などに用いることができる。
【0027】
抗菌用組成物は、その形態に応じて、所望の形態の抗菌用組成物に通常用いられる任意の他の基剤や添加物を含んでいてもよいのはもちろんである。例えば、練り歯磨きの場合、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の研磨剤、ラウロイルサルコシンソーダ、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル等の発泡剤、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等の保湿剤、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等の結合剤、キシリトール等の甘味料、メントール等の香料、乳酸カルシウム等の矯味剤、エタノール等の助剤、フッ化物、デキストラナーゼ、グルコースオキシダーゼ、クロルヘキシジン、塩化リゾチーム等の薬効成分を添加剤として含んでいてもよい。
【0028】
また、洗口液の場合には、基剤として精製水等の水が用いられ、グリセリン、ソルビトール等の湿潤剤、水添デンプン、キシリトール等の甘味料、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体(ポロキサマー等)等の可溶化剤、ヒドロキシエチルセルロース等の粘結剤、ペパーミント、アロエベラ液汁等の香料、チモール、メントール、サリチル酸メチル(ウインターグリーン油)、ユーカリプトール、カルバクロール、ショウノウ、アネトール、カルボン、オイゲノール、イソオイゲノール、リモネン、オシメン(osimen)、n−デシルアルコール、シトロネル(citronel)、α−サルピネオール(salpineol)、酢酸メチル、酢酸シトロネリル、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナラオール(ethyl linalaol)、サフロラバニリン(safrola vanillin)、スペアミント油、ハッカ油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、月桂樹油(laurel oil)、ニオイヒバ油、ゲリアノール(gerianol)、ベルベノーン、アニス油、ベイ油、ベンズアルデヒド、ベルガモット油、苦扁桃、クロロチモール、桂皮アルデヒド、シトロネラ油、チョウジ油、コールタール、ユーカリ油、グアヤコール、ラベンダー油、カラシ油、フェノール、サリチル酸フェニル、パイン油、マツ葉油、サッサフラス油、スパイク(spike lavender)油、ストラックス、タイム油、トルーバルサム、テレビン油、チョウジ油等の精油、エタノール、塩化リゾチーム、ラクトフェリン、グルコースオキシターゼ、グルコースオキシターゼ等の助剤、乳酸カルシウム等の矯味剤を用いてもよい。
【0029】
抗菌用組成物による抗菌作用の対象となる微生物としては、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、アクチノミセス・ビスコサス(Actinomyces viscosus)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ストレプトコッカス・サングイス(Streptococcus sanguis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、アクチノバチルス(Actinobacillus)、バクテロイデス(Bacteroides)、カプノシトファーガ(Capnocytophaga)、エイケネラ(Eikenella)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
以下の実施例において、ナイシンとしてナイシンA、植物由来成分としてウメ果汁の5倍濃縮物(BX82、酸度51%。以下「ウメエキス」という。)をそれぞれ使用した。
【0031】
実施例1:ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する抗菌活性(1)
歯周病原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスATCC33277株を、Enriched Tryptic Soy Broth(e−TSB)で対数増殖期まで培養した。0.8%NaClを加えたクエン酸緩衝液(pH4.5)で培養液を希釈し、菌数を調整した(10CFU/mL)。試験液は、滅菌精製水を用い希釈し、5倍濃縮ウメエキス(3mg/mL、濃縮前換算で15mg/mL)、ナイシン(150μg/mL)、ナイシン(150μg/mL)+5倍濃縮ウメエキス(3mg/mL、濃縮前換算で15mg/mL)に調整した。該希釈した培養液(100μL)を、試験液(5mL)に添加した。室温で1分間接触させた後、該液(100μL)をe−TSB培地(5mL)に添加・混合し、直ちに該混合液(100μL)を嫌気化した血液寒天培地上にプレーティングして、5日間嫌気培養後、プレート上に形成されたコロニーの数を測定した。結果は、下記の表1および図1に示すとおりであった。なお、表1において「CFU」は、コロニー形成単位(Colony forming unit)を表す(以下同じ)。
【0032】
【表1】
【0033】
表1および図1の結果より、ナイシン単独では、グラム陰性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスに対し、全く抗菌活性が見られず、ウメエキス単独でも十分な抗菌活性が認められなかったのに対し、両者を併用することで非常に高い抗菌活性を示すことが確認された。
【0034】
実施例2:ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する抗菌活性(2)
歯周病原因菌であるポロフィロモナス・ジンジバリスW83株をヘミン(5mg/L)とメチジオン(1mg/L)を添加したBrain heart infusion培地で対数増殖期まで培養した。培養液を、0.8%NaClを加えたクエン酸緩衝液で希釈し、菌数を調整した(10CFU/mL)。試験液は、5倍濃縮ウメエキス(10mg/mL、濃縮前換算で50mg/mL)、ナイシン(20μg/mL)、5倍濃縮ウメエキス(10mg/mL、濃縮前換算で50mg/mL)+ナイシン(20μg/mL)に滅菌精製水で調製し、96well plateを用いて2倍系列希釈を行った。各well(50μL)にヘミン(5mg/L)とメチジオン(1mg/L)を添加したBrain heart infusion培地(140μL)と菌液(10μL)を添加し、48時間培養後、菌の濁度を600nmで測定した。判定は、(1−(試験液の濁度/滅菌水の濁度))×100の式より、増殖抑制効果%を算出した。結果を図2に示す。
【0035】
図2の結果より、ナイシン単独では、グラム陰性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖抑制効果は非常に低く、濃度1/32(32倍希釈)では増殖抑制効果が全くなかった。ウメエキス単独でも、濃度1/16(16倍希釈)では増殖抑制効果が非常に低く、濃度1/32(32倍希釈)では増殖抑制効果が全くなかった。それに対し、両者を併用することで、濃度1/16(16倍希釈)でも増殖抑制効果を一定レベルで保つことができ、濃度1/32(32倍希釈)でも増殖抑制効果を示すことが確認された。
【0036】
実施例3:大腸菌に対する抗菌活性(1)
グラム陰性菌である大腸菌(エッシュリヒア・コリ)NBRC3301株を、Tryptic Soy Broth(TSB)で対数増殖期まで培養した。培養液を滅菌精製水で希釈し、菌数を調整した(10〜10CFU/mL)。試験液は、滅菌精製水を用い希釈し、ナイシン(10μg/mL)、5倍濃縮ウメエキス(3mg/mL、濃縮前換算で15mg/mL)、ナイシン(10μg/mL)+5倍濃縮ウメエキス(3mg/mL、濃縮前換算で15mg/mL)に調整した。該希釈した培養液(10μL)を、試験液(1mL)に添加した。室温で接触させた後、所定の日数(0〜7日間)経過後に、該液(100μL)をTSB寒天培地上にプレーティングして、48時間培養後、プレート上に形成されたコロニーの数を測定した。結果を、下記の表2〜3および図3〜4に示す。なお、表2〜3において「D+n」は、希釈した培養液と試験液の接触日数(n日)を表す(以下同じ)。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表2〜3および図3〜4の結果より、ナイシン単独およびウメエキス単独の場合よりも、両者を組み合わせて用いた場合に、非常に高い抗菌活性が発現することが確認された。
【0040】
実施例4:大腸菌に対する抗菌活性(2)
グラム陰性菌である大腸菌(エッシュリヒア・コリ)NBRC3301株を、Tryptic Soy Broth(TSB)で対数増殖期まで培養した。培養液を滅菌精製水で希釈し、菌数を調整した(10〜10CFU/mL)。試験液として使用したサンプル(No.1〜3)の組成は、下記の表4に示すとおりであった。該希釈した培養液(10μL)を、試験液(1mL)に添加した。室温で接触させた後、所定の日数(0〜5日間)経過後に、該液(100μL)をTSB寒天培地上にプレーティングして、48時間培養後、プレート上に形成されたコロニーの数を測定した。結果を、下記の表5および図5に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
表5および図5の結果より、ゲル状の組成物を用いた場合にも、実施例2と同様、ナイシン単独およびウメエキス単独の場合よりも、両者を組み合わせて用いた場合に、非常に高い抗菌活性が発現することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5