特許第5750600号(P5750600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750600免疫原性ペプチドおよび免疫障害におけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750600
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】免疫原性ペプチドおよび免疫障害におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20150702BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20150702BHJP
   C07K 1/00 20060101ALI20150702BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150702BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20150702BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 39/35 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C07K19/00
   C07K14/47ZNA
   C07K1/00
   C12Q1/02
   C12N5/00 202L
   A61K39/00 H
   A61K39/35
   A61P37/08
   A61P37/02
   A61P25/00
   A61P3/10
   A61K37/02
【請求項の数】26
【全頁数】74
(21)【出願番号】特願2009-523209(P2009-523209)
(86)(22)【出願日】2007年8月13日
(65)【公表番号】特表2010-500308(P2010-500308A)
(43)【公表日】2010年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2007007165
(87)【国際公開番号】WO2008017517
(87)【国際公開日】20080214
【審査請求日】2010年5月24日
(31)【優先権主張番号】0615966.9
(32)【優先日】2006年8月11日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】0710081.1
(32)【優先日】2007年5月25日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】0711403.6
(32)【優先日】2007年6月13日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】502014363
【氏名又は名称】ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064746
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 久郎
(74)【代理人】
【識別番号】100085132
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100083703
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 義平
(74)【代理人】
【識別番号】100096781
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100098316
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 久登
(74)【代理人】
【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行
(74)【代理人】
【識別番号】100111246
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 伸夫
(73)【特許権者】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サン−レミ,ジャン−マリー
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−524031(JP,A)
【文献】 特表2004−537285(JP,A)
【文献】 特表2003−502079(JP,A)
【文献】 特開2003−289887(JP,A)
【文献】 特表2005−536987(JP,A)
【文献】 特表2003−527438(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/039613(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/086781(WO,A1)
【文献】 特開2004−147649(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/018667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/024766(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/059529(WO,A1)
【文献】 特表平08−505878(JP,A)
【文献】 OKUBO, M. et al.,THE JOURNAL OF OBSTETRICS AND GYNAECOLOGY RESEARCH,2004年 4月,Vol.30, No.2,P.120-129
【文献】 GROSSMAN, W.J. et al.,BLOOD,2004年11月 1日,Vol.104, No.9,P.2840-2848
【文献】 ALEKSZA, M. et al.,ANNALS OF THE RHEUMATIC DISEASES,2005年10月,Vol.64, No.10,P.1485-1489
【文献】 BOLIVAR, J. et al.,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1999年12月17日,Vol.274, No.51,P.36456-36464
【文献】 WIKER, H.G. et al.,MICROBIAL PATHOGENESIS,1999年 4月,Vol.26, No.4,P.207-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
PubMed
Science Direct
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸12〜50個の長さを有する単離免疫原性ペプチドであって、
−アレルゲンタンパク質のT細胞エピトープ、および
−C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフであって、前記モチーフが前記エピトープと隣接するか、または1個のアミノ酸のリンカーによって前記エピトープから隔離されるかのどちらかである、C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフ
を含む、単離免疫原性ペプチド
【請求項2】
アミノ酸12〜50個の長さを有する単離免疫原性ペプチドであって、
−アレルゲンタンパク質のT細胞エピトープ、および
−C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフであって、前記モチーフの少なくとも1つのXがHisまたがProであり、前記モチーフが前記エピトープと隣接するか、または多くても4個のアミノ酸のリンカーによって前記エピトープから隔離されるかのどちらかである、C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフ
を含む、単離免疫原性ペプチド
【請求項3】
アミノ酸12〜50個の長さを有する単離免疫原性ペプチドであって、
−自己抗原のT細胞エピトープ、および
−C−X(2)−Cモチーフであって、前記モチーフが前記エピトープと隣接するか、または多くても7個のアミノ酸のリンカーによって前記エピトープから隔離されるかのどちらかである、C−X(2)−Cモチーフ
を含む、単離免疫原性ペプチド
【請求項4】
前記配列が晩期エンドソームターゲティング配列をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド
【請求項5】
エピトープのN末端側に位置決めされたモチーフを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド
【請求項6】
前記単離免疫原性ペプチドがアミノ酸12〜30個の長さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド
【請求項7】
前記単離免疫原性ペプチドがアミノ酸12〜19個の長さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド
【請求項8】
前記リンカーが多くても4個のアミノ酸である、請求項3に記載のペプチド
【請求項9】
前記モチーフがC−(X)2−Cである、請求項1または2に記載のペプチド
【請求項10】
アレルギー状態の治療および予防の使用のための、請求項1、2、4、5、6または7に記載の単離免疫原性ペプチド
【請求項11】
自己免疫障害の治療および予防の使用のための、アミノ酸12〜50個の長さを有する単離免疫原性ペプチドであって、
−自己抗原のT細胞エピトープ、および
−C−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cモチーフであって、前記モチーフが前記エピトープと隣接するか、または多くても7個のアミノ酸のリンカーによって前記エピトープから隔離されるかのどちらかである、C−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cモチーフ
を含む、単離免疫原性ペプチド
【請求項12】
アミノ酸12〜30個の長さを有する、請求項10または11に記載の治療および使用のための、ペプチド
【請求項13】
前記モチーフがC−(X)2−Cである、請求項10または11に記載の治療および使用のための、ペプチド
【請求項14】
前記リンカーは多くても4個のアミノ酸である、請求項10または11に記載の治療および使用のための、ペプチド
【請求項15】
細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できる、アミノ酸12〜50個の長さを有する免疫原性ペプチドを調製する方法であって、
−抗原タンパク質の配列におけるT細胞エピトープを確認するステップと、
−前記抗原タンパクの配列における[CST]−X(2)−CまたはC−X(2)−[CST]モチーフを確認するステップと、
−前記確認されたT細胞エピトープを含むアミノ酸12〜20個の長さを有するペプチドを産生するステップとを含む方法であって、
前記モチーフおよび前記エピトープが互いに隣接するか、または、多くても7個のアミノ酸のリンカーにより隔離されているかのいずれかであり、ここにおいて調製された免疫原性ペプチドは抗原タンパク質の配列とは異なる、[CST]−X(2)−Cまたは[CST]−X(2)−Cモチーフをさらに含む、方法
【請求項16】
前記抗原が、天然発生型配列中のC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cモチーフを含まず、前記タンパク質における前記T細胞エピトープのN末端側またはC末端側の11個のアミノ酸の領域内にC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cモチーフを有さない、請求項15に記載の方法
【請求項17】
前記ペプチドの能力の低下を評価するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法
【請求項18】
細胞障害性を有する抗原特異的なT細胞を誘導する前記ペプチドの能力を測定するステップを含む、請求項15に記載の方法
【請求項19】
前記抗原タンパク質がアレルゲンまたは自己抗原である、請求項15に記載の方法
【請求項20】
前記ペプチドにおける前記モチーフがC−(X)2−Cである、請求項15に記載の方法
【請求項21】
前記ペプチドがアミノ酸12〜30個の長さを有する、請求項15に記載の方法
【請求項22】
抗原を提示する抗原提示細胞に対するCD4+細胞傷害性T細胞の集団を得る方法であって、
a)単離された末梢血球細胞を、アミノ酸12〜50個の長さを有する免疫原性ペプチドであって、
−前記抗原タンパク質のT細胞エピトープ、および
−C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフであって、前記モチーフが前記エピトープと隣接するか、または多くても7個のアミノ酸のリンカーによって前記エピトープから隔離されるかのどちらかである、C−X(2)−[CT]または[CST]−X(2)−Cモチーフ
を含む免疫原性ペプチドと接触させるステップと、
b)IL−2の存在下で前記細胞を増殖させるステップ
を含む、方法
【請求項23】
前記モチーフがC−(X)2−Cである、請求項22に記載の方法
【請求項24】
前記ペプチドがアミノ酸12〜30個の長さを有する、請求項22に記載の方法
【請求項25】
前記リンカーが多くとも4個のアミノ酸である、請求項22に記載の方法
【請求項26】
アレルギー状態または自己免疫障害の治療および予防での使用のための、請求項25の方法によって得ることができる、細胞傷害性T細胞の集団
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、免疫原性ペプチドならびにアレルギーおよび自己免疫障害を抑制する治療でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
哺乳類免疫系は、体外および体内の危機に陥らせる因子から被験体を保護するように作用する複雑なネットワークである。しかしながら一部の状況において、本複雑な保護機構は被験体内での、たいていは慢性的な意味を持つ障害の原因を維持するか、またはそれ自体が原因となる。多くのこのような免疫障害が存在しており、2つの重要な免疫障害はアレルギー疾患および自己免疫障害である。アレルギー疾患は、従来、1型媒介疾患またはIgE媒介疾患として説明されており、過去20年間にわたってほぼ2倍となったその罹患率が確認されている。アレルギー疾患の臨床徴候としては、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食品に対する過敏症および虫刺されまたは薬物に対するアナフィラキシー反応が挙げられる。アレルギー患者の治療に関連する経済的負担は、年月を重ねるにつれて着実に増加している。1例として、米国におけるアレルギー治療の処方に関連する費用は、2006年には約100億米ドルに達することが予想される。可能ならば常時のアレルゲン除去による、および/または気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイドおよび免疫調節薬、たとえばシクロスポリンを使用する対症療法による管理下に置かれているこのような疾患に有効な療法は現在ない。患者が感作されているアレルゲンの定期的投与に存するアレルゲン脱感作は、アレルギー性鼻炎での有効性を示しているが、喘息およびアトピー性皮膚炎では議論の余地を残している。一部の臨床症状、たとえば食物アレルゲンに関する臨床症状は、脱感作によって治療できない。
【0003】
自己免疫は、生物がそれ自体の構成要素部分(準分子レベルに至るまで)を「自己」として認識できないことであり、それ自体の細胞および組織に対して免疫応答を引き起こす。このように異常な免疫応答から生じるいずれの疾患も自己免疫疾患と呼ばれる。顕著な例は、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群および関節リウマチ(RA)である。自己免疫疾患は、2つの種類、すなわち全身性疾患および器官特異的疾患に大きく分類される。全身性自己免疫疾患の明確な病因は同定されていない。これに対して、器官特異的自己免疫疾患は、器官を標的として、それにより局所炎症の慢性状態を誘発および維持する、BおよびT細胞を含む特異的免疫応答に関連している。器官特異的自己免疫疾患の例としては、I型糖尿病、重症筋無力症、甲状腺炎、多発性硬化症、セリアック病、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化症、副腎炎、多内分泌腺症候群、胃炎、悪性貧血、ブドウ膜炎などの眼疾患、および蝸牛炎などの内耳疾患が挙げられる。
【0004】
自己免疫反応はそれゆえ、自己の細胞または組織に、さらに詳細には「自己抗原」、すなわち哺乳類生物に自然に存在する(タンパク質の)抗原に向けられている。本機構において、自己抗原は、自己抗原を含む組織を攻撃するために免疫系を活性化するBおよび/またはT細胞によって認識される。免疫系の抑制が有益であり、一部の場合では、一部の例における器官機能の部分的または完全な回復につながることが十分に認識されている。この種類の療法はしかしながら、すべての器官特異的自己免疫疾患で効果的というわけではなく、現在まで、抗原特異的方法では免疫抑制は達成不可能である。現在の療法は、特異性の欠如に関連する著しい副作用をすべて示し、それによりその使用およびその全体的な有効性を制限している、副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制剤の使用によって得られた非特異的免疫抑制を利用する。
【0005】
興味深いことに、理解には程遠い理由のために、自己免疫疾患の発生率は、アレルギー疾患で見られた増加とほぼ並行して、過去20年間にわたって2倍になっている。再度、自己免疫疾患の治療に関連する費用は近年、非常に増加しており、新たな形の療法への要求にさらなる議論を加えている。
【0006】
従来技術では、アレルゲンのT細胞エピトープは脱感作目的で利用されてきた。1個または2、3個のT細胞エピトープを含有するアレルゲン由来ペプチドは、WO93/08279に記載されているように、特異的T細胞活性化を阻害して、T細胞無応答の状態を誘発する試みにおいて、動物実験またはヒトにおいて使用されている。本概念の1つのヒト用途は、ネコ感受性個人における皮下注射による、FeI d Iアレルゲンに存在するT細胞エピトープの配列に由来するペプチドの投与である(Wallner & Gefter(1994)Allergy 49,302−308)。あるいは本概念の補足的手法も動物実験において使用されている。使用されたペプチドは、特異的B細胞のMHCクラスII決定基に結合するような方法で修飾されたが、これらのペプチドは、対応するT細胞を活性化するその能力を失った(O’Hehirら、(1991)Int.Immunol.3,819−826)。
【0007】
このタンパク質からの重複ペプチドのセットによるイエダニのアレルゲンDer p 2のスクリーニングは、1つの特異的ペプチドp21−35がユニバーサルエピトープとして挙動して、T細胞アネルギー誘発の適切な候補でありうるT細胞エピトープを含むことを示す(Wuら(2003)J.Immunol.169,1430−2435,WO0170263)。関連刊行物において、本ペプチドおよびその誘導体が、B細胞を提示する抗原のCD4+CD25+媒介アポトーシスに対するエピトープ特異的効果を有することが示された(Janssensら(2003)J.Immunol.171,4604−4612)。しかしながら本ペプチドの同定は、アレルゲンの網羅的なスクリーニングを必要とし、1つ1つの抗原タンパク質、たとえばアポトーシス誘発効果を持つペプチドが同定されうるという指摘はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より効果的、より特異的で、より少ない副作用を有し、疾患の症状を単に治療する代わりに治療に有効であり、さらに詳細には低い費用で容易に入手可能である、アレルギーまたは自己免疫疾患などの免疫疾患の予防または治療のための新規な方法または薬物への要求があることは明らかである。さらに詳細には、アレルギー疾患のための、安全であり、長期にわたって有益な効果を生成する、関与するアレルゲンに特異的である新たな形の療法の開発のための要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本発明は、細胞傷害活性を備えた新規な免疫原性ペプチドに関する。本発明のペプチドは、(i)抗原(自己または非自己)の少なくとも1つのT細胞エピトープであって、(ii)低下した活性を有する有機化合物、たとえばチオレダクターゼ配列に場合によりリンカーによって結合された、免疫反応を引き起こす可能性を備えているT細胞エピトープを含み、さらに場合により(iii)エンドソームターゲティングアミノ酸配列を含む。
【0010】
1態様において、本発明は、抗原タンパク質のT細胞エピトープおよびモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cを含む人工配列を備え、該モチーフが低下した活性を有し、本ペプチドと接触させたときにT細胞による特異的応答を生じる抗原タンパク質に由来する単離免疫原性ペプチドを提供する。
【0011】
詳細な実施形態において、抗原タンパク質のT細胞エピトープおよびモチーフC−X(2)−Cを含む人工配列を含み、それにより該モチーフが人工配列内で多くてもアミノ酸7個のリンカーによってエピトープに隣接して、またはエピトープから隔離されてのどちらかで位置決めされた、抗原タンパク質に由来する単離免疫原性ペプチドが提供される。さらなる詳細な実施形態において、抗原タンパク質に由来する単離免疫原性ペプチドは、抗原タンパク質のT細胞エピトープおよびモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cを含む人工配列を含み、それにより該モチーフは人工配列内で多くてもアミノ酸7個のリンカーによってエピトープに隣接して、またはエピトープから隔離されてのどちらかで位置決めされ、それにより該モチーフはエピトープが由来するタンパク質中のT細胞エピトープのN末端側またはC末端側のアミノ酸11個の領域内で自然発生しない。さらなる詳細な実施形態は、抗原タンパク質のT細胞エピトープおよびモチーフC−X(2)−[ST]または[ST]−X(2)−Cを含む人工配列を含み、それにより該モチーフは人工配列内で多くてもアミノ酸7個のリンカーによってエピトープに隣接して、またはエピトープから隔離されてのどちらかで位置決めされ、それによりモチーフがC−X(2)−SまたはS−X(2)−Cであるこのようなペプチドにおいて、T細胞エピトープがDer p 2のp21−35ペプチドの配列EPCIIHRGKP[配列番号:1]を備えていない、抗原タンパク質に由来する単離免疫原性ペプチドを提供する。さらなる詳細な実施形態は上記の免疫原性ペプチドに相当し、モチーフがC−X(2)−SまたはS−X(2)−Cであるこのようなペプチドでは、抗原タンパク質がDer
p 2ではない。
【0012】
本発明のさらなる詳細な実施形態は、人工配列に結合された晩期エンドソームターゲティング配列をさらに含む、上記のような免疫原性ペプチドに関する。
【0013】
本発明のさらなる詳細な実施形態は、エピトープのN末端側に位置決めされたモチーフを含む、上記のような免疫原性ペプチドに関する。
【0014】
本発明のさらなる詳細な実施形態は、人工配列がアミノ酸12〜19個の長さを有する、上記のような免疫原性ペプチドに関する。
【0015】
本発明の詳細な実施形態において、モチーフ中のXがTyr、または別のかさ高いアミノ酸、たとえばTrpまたはPheでない、上記のような免疫原性ペプチドが提供される。且つ/あるいは、詳細な実施形態において、モチーフ中のXの少なくとも1つは、Gly、Ala、SerまたはThrである。且つ/あるいは、詳細な実施形態において、モチーフ中のXの少なくとも1つは、HまたはPである。
【0016】
本発明の詳細な実施形態において、相当するモチーフ中のシステインがメチル化されている、上記のような免疫原性ペプチドが提供される。モチーフC−X(2)−Cの場合、モチーフ中の1つまたは両方のシステインがメチル化されうる。
【0017】
本発明の免疫原性ペプチドは、免疫抑制効果を作り出すのに有用であり、それにより標的化された免疫抑制効果はエピトープの由来する抗原タンパク質の性質を決定することが予想される。上記の免疫原性ペプチドの詳細な実施形態において、抗原タンパク質は自己抗原、さらに詳細にはサイログロブリン、甲状腺ペルオキシダーゼ、TSH受容体、インスリン(プロインスリン)、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、チロシンホスファターゼIA−2、ミエリン乏突起膠細胞タンパク質、熱ショックタンパク質HSP65から成る群より選択される自己抗原である。
【0018】
上記の免疫原性ペプチドのさらに詳細な実施形態において、抗原タンパク質はアレルゲ
ン、さらに詳細にはシラカンバBet v1アレルゲン、ウシベータラクトグロブリンおよびDer p 1から成る群より選択されるアレルゲンである。
【0019】
本発明のさらなる態様は、上記の免疫原性ペプチドの治療的および予防的用途に関する。したがっ医薬的に許容される担体を含む、上記のペプチドの1つ以上を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、自己免疫障害の治療および予防における上記のペプチドの使用に関する。上で指摘したように、ペプチドは治療効果および予防効果の両方を有し、それにより自己免疫疾患の発生の低減、自己免疫疾患の再発の発生および/または重症度の低減、ならびに/あるいは自己免疫疾患の予防を可能にすると説明されている。それゆえ本発明は、自己免疫障害の治療および予防での使用のための上記の免疫原性ペプチドを提供する。本発明の文脈で予想される自己免疫疾患の具体的な実施形態としては、これに限定されるわけではないが、多発性硬化症、自発的インスリン依存性糖尿病および自己免疫甲状腺炎が挙げられる。
【0021】
本発明のなおさらなる態様は、アレルギー状態の治療および予防における上記のペプチドの使用に関する。上で指摘したように、ペプチドは治療効果および予防効果の両方を有し、それによりアレルギー状態の発生および/または重症度の低減、ならびに/あるいはアレルギー状態の予防、ならびに/あるいはアレルギー状態の症状の低減を可能にすると説明されている。さらに詳細には、本発明は、チリダニアレルギー、牛乳アレルギーおよびカンバ花粉アレルギーから成る群より選択されるアレルギー状態の治療および予防での使用のための、本発明に記載したようなペプチドを提供する。
【0022】
本発明のなおさらなる態様は、細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できる抗原タンパク質のペプチドを調製する方法を提供し、前記方法は、(a)抗原タンパク質のT細胞エピトープから成るペプチド配列を提供するステップと、モチーフおよびエピトープが相互に隣接すること、あるいは多くてもアミノ酸7個のリンカーによって隔離されることのどちらかであるように、本ペプチド配列をモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cを含む配列に結合するステップとを備える。詳細な実施形態において、モチーフは、モチーフC−X(2)−Cである。本発明の本態様による方法の詳細な実施形態において、T細胞エピトープは、T細胞エピトープのN末端側またはC末端側のアミノ酸11個の領域内にモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cを天然には含まない抗原タンパク質のエピトープであり、T細胞エピトープはモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cに結合されている。本発明の本態様による方法のなお他の詳細な実施形態において、T細胞エピトープがDer p
2のp21−35ペプチドの配列EPCIIHRGKP[配列番号:1]を含む場合、モチーフはC−X(2)−SまたはS−X(2)−Cではない。さらなる詳細な実施形態において、抗原タンパク質はDer p 2ではない。
【0023】
詳細な実施形態において、本発明の方法は、エピトープ中のアミノ酸を修飾することによってこのように得たペプチドの配列を修飾することと、それによりMHC II溝に適合する能力が維持されるように修飾ペプチドにおけるエピトープの配列が確実に修飾されるようにすることをさらに含む。このような修飾はアミノ酸置換を含むが、アミノ酸鎖中の変化、たとえばアミノ酸またはなお非天然的に発生する非天然アミノ酸側鎖の翻訳後修飾に遭遇する修飾も含む。
【0024】
本発明のなおさらなる態様は、細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できる抗原タンパク質の単離免疫原生ペプチドを調製する方法に関し、該方法は、抗原タンパク質内で、T細胞エピトープのN末端側またはC末端側のアミノ酸11個の領域内のモチーフC−X(
2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cに抗原タンパク質中で隣接されたT細胞エピトープを備えた配列を同定するステップと、アミノ酸12〜19個の単離ペプチドとして本配列を含むペプチドを産生するステップとを含む。この方法では、特定の免疫原性特性を備えたペプチドが産生されうることは、先に証明されていない。詳細な実施形態において、抗原タンパク質はDer p 2ではない。
【0025】
さらなる詳細な実施形態により、本発明の本態様による方法は、モチーフ中のアミノ酸を修飾することによって、および/またはモチーフとエピトープとの間のアミノ酸の数を変更することによって、および/またはエピトープ配列を修飾することによって、前記ペプチドの配列を修飾することを含み、それにより前記修飾されたペプチドにおいて:
−T細胞エピトープがMHC II溝に適合する能力が維持される、
−モチーフが保存される、ならびに
−前記モチーフおよび前記エピトープが相互に隣接されたまま、または多くてもアミノ酸7個のリンカーによって隔離される、
ことを確実にする。
【0026】
さらなる詳細な実施形態において、本発明の本態様による方法は、晩期エンドソームターゲティング配列を、上記のように得たペプチドに結合するステップをさらに含む。
【0027】
本発明のなおさらなる態様は、細胞傷害性Tregの集団を同定する方法に関する。詳細な実施形態において、細胞がCD4を発現して、IL−10またはTGF−ベータを発現せず、Krox−20を発現して、グランザイム(特にグランザイムBおよびC)およびFasリガンドを生成することを判定することを含む方法が提供される。
【0028】
さらなる詳細な実施形態において、本発明の本態様による方法は、非細胞傷害性Tregと比較したときに次の特徴の1つ以上を判定することを含む:
a)活性化時におけるCD103、CTLA−4、FasLおよびICOSを含む表面マーカーの発現増進、
b)CD25の高度発現、CD4、ICOS、CTLA−4、GITRの発現およびCD127(IL7−R)の低発現または無発現、
c)転写因子T−betおよび/またはegr−2(Krox−20)の発現、しかし転写抑制因子Foxp3の無発現、
d)IFN−ガンマの高度生成およびIL−10、IL−4、IL−5、IL−13またはTGF−ベータがないか、ごく微量、
e)活性化時のFasLならびにグランザイムBおよびCを含むマーカーの発現増進。
【0029】
さらなる詳細な実施形態において、本発明の本態様による方法は、これらの細胞がTCR認識による活性化に応答しないことを判定するステップを含む。
【0030】
本発明のなおさらなる態様は、細胞傷害特性を備えた抗原特異的調節T細胞の集団を得る方法を提供する。詳細な実施形態において、本態様による方法は:
−末梢血球を提供するステップと、
−前記血球に上記の免疫原性ペプチドを接触させるステップと、
−IL−2の存在下で前記細胞を増殖させるステップと、
を含む。
【0031】
さらなる詳細な実施形態において、これらの方法は、本発明による免疫原性ペプチドを被験体に投与することと、前記被験体から細胞傷害性特性を備えた抗原特異的調節T細胞を単離することとを含む。
【0032】
本発明のなおさらなる態様は、上記の本発明の方法によって取得できる(および/または同定できる)細胞傷害性特性を備えた調節T細胞の集団に関する。
【0033】
本発明のなおさらなる態様は、アレルギー状態または自己免疫障害の治療または予防における、上記のT調節細胞の集団の使用を提供する。
【0034】
本発明の本態様の詳細な実施形態において:
−治療される被験体の末梢血球を提供するステップと、
−該血球に本明細書に記載する免疫原性ペプチドを接触させるステップと、
−血球を増殖させるステップと、
−増殖した血球を治療される被験体に投与するステップと、
を含む方法が提供される。
【0035】
本明細書で提供される方法においてさらに詳細には、治療される疾患プロセスに関与する抗原タンパク質から由来するT細胞エピトープの免疫原性ペプチドが使用される。最も詳細には、抗原はドミナント抗原である。
【0036】
本発明は、本明細書に記載するような1つ以上の免疫原性ペプチドを前記被験体に投与するステップを含む、被験体における自己免疫障害を治療または予防する方法をさらに提供する。その上、本発明は、本明細書に記載するような免疫原性ペプチドの1つ以上を前記被験体に投与するステップを含む、被験体における症状およびアレルギー状態を治療または低減する方法を提供する。本明細書で提供される方法においてさらに詳細には、治療される疾患プロセスに関与する抗原タンパク質から由来するT細胞エピトープの免疫原性ペプチドが使用される。最も詳細には、抗原はドミナント抗原である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、インスリン還元アッセイ(濁度アッセイ)における、Der p 2のp21−35がジスルフィド架橋を還元する能力を示す(点線:対照;三角形付き実線:B4ペプチド;正方形付き実線:Trx(チオレドキシン)。
図2図2は、サブドミナントT細胞エピトープの添加による、抗原提示細胞によるp21−35の取り込みの増加を示す(標的Wehi B細胞のアポトーシスによりアッセイ)(正方形付き灰色線:T−Bペプチド(破傷風毒素のマイナーTエピトープ(p830−844)に結合されたp21−35;三角形付き黒線:p21−35ペプチド)。
図3図3は、本発明の実施形態による、Tregクローン増殖に対する、P21−35における位置21〜24のアラニンへの変異の効果を示す(Hチミジン取り込み(パネルB)およびWehi細胞溶解(パネルC))。p21−35においてMHC−クラスII結合溝を形成するモチーフおよび残基がパネルAに示されている(neg:ペプチドなし;a21:Cys21Ala変異;a22:His22Ala変異;a23:Gly23Ala変異、a24:Ser24Ala変異)。
図4図4は、本発明の実施形態によるDer p 2タンパク質の注射時の、アレルギーのインビボマウスモデルにおけるT−Bによる予備免疫の効果を示す。「Der p 2モデル」はマウスの対照群であり、TbalumはT−Bペプチドによって予備処理された実験群である。パネルA:対照および実験群におけるマクロファージ、好酸球およびリンパ球の量(総数として表す)。パネルB:0〜6の強度スコアリングシステムを使用して表現された好酸球、リンパ球および杯細胞の量。パネルC:対照および実験群における気道過敏性。過敏性は、マウスを上昇する濃度のメタコリンに曝露することによって得たPenH値の曲線下面積(AUC)を計算することによって測定される。
図5図5は、カルボキシ−H2DCFDA標識細胞の細胞分取によって測定した同種Treg細胞の酸化代謝に対するp21−35の効果を示す。パネルA:PBS(負の対照);パネルB:p21−35ペプチド;パネルC:tert−ブチルヒドロペルオキシド(正の対照)。
図6図6は、細胞溶解パーセンテージとして示された、p21−35ペプチドの添加時に抗原提示細胞として使用されたWEHIB細胞系統に対するTreg系統(G121)の細胞傷害性特性を示す(菱形:WEHI+T細胞、正方形:WEHI細胞+T細胞+p21−35ペプチド、三角形T細胞+p21−35ペプチドと共に予備ロードされたWEHI細胞)。
図7図7は、本発明の実施形態による細胞傷害性による、同じ抗原の別のエピトープに特異的な、または別の抗原に特異的なT細胞の活性化に対するTreg細胞クローンによる抑制を示す。パネルAおよびB:Der p 1に特異的なT細胞系統。パネルCおよびD:Der p 2のペプチドp71−85に特異的なT細胞系統。パネルAおよびCは、ペプチド21−35に特異的な細胞傷害性Tregクローンによるインキュベーション前の、細胞系統の増殖を示す。パネルBおよびDは、ペプチド21−35に特異的な細胞傷害性Tregクローンによるインキュベーション後の、細胞系統の増殖を示す。
図8図8は、本発明のTreg細胞が特徴的な表現型プロフィールを有することを示す。図は、ペプチドp21−35、図4のようなペプチドT−Bによって処理したマウスに由来する、4つのペプチドp21−35特異的Tregクローンのサイトカイン生成を示す(左パネル)。細胞培養物の上清は、抗原提示細胞(未処理マウスからの照射脾臓細胞10個)およびペプチドp21−35(2μg/ml、200μl)による刺激の4日後にサイトカイン含有量について分析した。Tregクローンが主としてIFN−Gを、そしてごく微量のTNF−aおよびIL−10を産生したことがわかる。右パネルは、このようなTreg細胞のmRNAの分析において、転写抑制因子Foxp3の転写物は検出されなかったが、T−bet、グランザイムAおよびグランザイムBが強力に発現されたことを示している。
図9図9は、蛍光励起細胞分取(Facs)を使用した静止時の4つのp21−35特異的T細胞クローンの各種の細胞マーカーの発現を示す。
図10図10は、本発明の実施形態による、対照ペプチド(標的シグナル−Der p 1エピトープ)および実験ペプチド(標的シグナル−CFGS−Der p 1エピトープ)による刺激後の、細胞傷害特性を備えたT細胞クローンの産生の図式概要を示す。「n」は、T細胞クローンの総数であり、「溶解」は、WEHI細胞を溶解させる能力を有するこれらのクローンの数である。
図11図11は、本発明の実施形態による変異残基を持つエピトープ配列を使用する抗原特異的調節T細胞の誘発を示す。パネルA:アポトーシスの誘導(p21−35(三角形)、p21−35met(メチル化システインを含むp21−35ペプチド)(×印)またはmp21−35(破傷風トキソイドのマイナーエピトープおよびP21−35の融合ペプチド)(正方形)で予備ロードされ、G121細胞溶解性Tregクローンと共に24時間同時培養されたWehi細胞を使用して、CD19+ゲート細胞でのアネキシン−V発現として示す。)少なくとも3回の実験を表す結果;パネルB:全Der p 2タンパク質(黒色)、p21−35met(メチル化システインを含むp21−35ペプチド)(白色)またはp830(破傷風トキソイドのペプチドp830−844)およびp21−35metの混合物(灰色)によって誘発された脾臓CD4+T細胞増殖の抑制([3]Hチミジン取り込みとして測定)。ヒストグラムは、個別に3通り試験されたマウス6匹からの平均cpm±標準誤差についてである:パネルC:パネルbに示された、ペプチドによって予備処理された脾臓CD4+T細胞によるサイトカインの生成。3つの細胞集団はすべて未処理Der p 2によって刺激した。ヒストグラムは、個別に試験されたマウス6匹からの平均濃度±標準誤差についてである:パネルD:APCとしての接着脾臓細胞およびエフェクタp21−35特異的CD4+T細胞クローン(G221N)を使用して判定したp21−35met、mp21−35およびDer p 2の処理および提示。APCは示した阻害薬によって前処理した。T細胞の増殖は刺激指数として示される。棒は3回分の培養物の標準誤差値を表す。
図12図12は、本発明の実施形態に従ってmp21−35Asn(破傷風トキソイドペプチドおよび変異p21−35(ll28Asn)の融合ペプチドによって得た細胞溶解性Tregクローンの表現型特徴付けを示す。ミョウバン中のTregクローンを表面マーカー発現および細胞内CTLA−4について試験した。パネルA:Tregクローンからの表面マーカー(Facs)の発現;パネルB:蛍光標識特異的抗体(黒色)を使用する、Foxp3、T−bet、グランザイムB(Grz−B)、パーフォリンおよび表面CD127の細胞内検出。アイソタイプ適合抗体を用いた対照染色も示されている(白色)。パネルC:4つの細胞溶解性クローンでの最後の刺激の12日後に検出されたGrz−AおよびGrz−B mRNA転写物のRT−PCR。レーン1、3、4および5はTregクローンを示し、レーン2は対照p21−35特異的CD4+エフェクタT細胞クローンを示す。ベータアクチンを対照として使用した。パネルD:未処理マウスから得て、mp21−35Asnをロードした照射T細胞除去脾臓細胞を用いた刺激の3日後の4つのクローンにおけるサイトカインのELISA検出。
図13図13は、本発明の実施形態による抗原提示細胞におけるアポトーシスの誘導を示す。パートA:左パネル:p21−35とR3TB7 T細胞クローン(比2/1)で予備ロードした脾臓B細胞のインキュベーション(18時間)。右パネル:p21−35と対照CD4+エフェクタT細胞クローンで予備処理した脾臓B細胞のインキュベーション(18時間)。点線を用いた白色区域は、T細胞なしで培養したB細胞中でのカスパーゼ−3発現を表す;実線を用いた灰色区域は、細胞溶解性Tregクローン(左パネル)またはCD4+エフェクタクローン(右パネル)の存在下でのカスパーゼ−3の発現を示す。開裂カスパーゼ3に対するAbによる染色。データは最低3つの独立した実験による評価を表す。パートB:左パネル:樹状細胞(LPSによって活性化されたCD11c+樹状細胞) 右パネル:WEHI細胞どちらの細胞タイプもp21−35をロードして、R3TB7 Treg(黒色区域)または同じ特異性の対照非細胞溶解性クローン(G221N)(白色区域)と同時培養する。アポトーシスは、開裂カスパーゼ3に対するAbを使用して測定する。細胞カウントは、18時間のインキュベーション後に生存しているWEHI細胞の数を指す。2回の実験を代表するデータ。表示した抑制%は、R3TB7によるWehi成長の抑制%である。パートC:左パネル:抗FasL抗体を用いたWEHI細胞のインキュベーション(p21−35metをロードして、R3TB7 Tregでインキュベーションした(1/1比))。右パネル:GZ−Bに拮抗するペプチド(Z−AAD−CMK)(黒色正方形)またはセリンプロテアーゼの化学阻害薬(DCIC:3,4−ジクロロイソ−クマリン)(白色正方形)を用いたWEHI細胞のインキュベーション(p21−35metをロードして、R3TB7 Tregでインキュベーションした(1/1比))。パートD:左パネル:樹状細胞(p21−35をロードして、G121 Tregの存在下で1/1比にて18時間インキュベートしたCD11c+細胞)のアネキシンV発現によって測定されたアポトーシス(灰色区域)右パネル:左パネルと同様であるが、DCおよびTreg細胞はトランスウェル培養系の半透性膜によって分離される。(白色区域(パネルDでは隠れている)は、細胞傷害性T細胞を含まないDCへのアネキシンV結合を表す)。結果は2回の独立した実験を代表している。パートE:WEHI細胞の2つの集団を80nMまたは300nM CFSEのどちらかで標識して、p21−35またはp71−85によってそれぞれ1時間インキュベートした。細胞を次にG121 Treg(左パネル)または対照CD4+エフェクタT細胞(右パネル)によってインキュベートした。アネキシンVの結合は、18時間のインキュベーション後にフローサイトメトリによって分析した。
図14図14は、本発明の実施形態による、細胞傷害性T細胞によるバイスタンダT細胞の抑制。パートA:APCとして使用したT細胞除去脾臓細胞、1μg/mlの抗CD3抗体、1μg/mlのp21−35、および細胞溶解性Treg細胞系によってインキュベートした、CD4+CD25(−)脾臓細胞のCFSE染色細胞のFACS分析。TregをCD4+CD25(−)T細胞に対して1/3比で、細胞接触を最適化するためのV字形ウェルを備えた未コーティングポリスチレン培養プレートにて使用した。左パネル:細胞溶解性細胞系G121中パネル:細胞溶解性Treg細胞系R3TB7右パネル:細胞溶解性Tregが未標識CD4+CD25(−)脾臓細胞によって置換される対照細胞培養物(右パネル)。細胞数、細胞分裂および細胞サイズは生細胞ゲーティング後にFacsによって評価した。上パネル:48時間のインキュベーション下パネル:72時間のインキュベーションパートB:R3TB7 Treg細胞系との同時培養の18時間後(中パネル)および24時間後(右パネル)のCFSE標識CD4+CD25(−)T細胞へのアネキシンV結合の分析。左パネルは、細胞溶解性Tregを含まない対照培養物(24時間)を示す。パートC:パートAの下パネルの実験環境を用いる実験だが、EGTAおよび細胞溶解性Treg細胞系なしで(左パネル)、2mMのEGTA(中パネル)の存在下で、または4mMのEGTA(右パネル)の存在下で、CFSE分裂を同時培養の72時間後に評価した(左パネルを除く)。パートD:CFSEを用いたDer p 1特異的Th2細胞クローンの標識および同種ペプチド(Der p 1からのアミノ酸114〜128)をロードしたT細胞除去脾臓細胞を用いた72時間の培養。ヨウ化プロピジウム陰性CFSE陽性細胞にゲーティングを行った。左パネルは、同じ未標識Th2細胞の存在下(比1/1)での左側への蛍光移動で判定された増幅を示す。左の第2パネルは、G121 Treg(Th2クローンと1/1比)およびp21−35(1μg/ml)の培養物への添加時に、対照抗体の存在下で得た結果を示す。次の3つのパネル(左から右)は、FasL、GITRまたはLag3に対する抗体を細胞溶解性クローンとの同時培養の開始から添加したときに得た効果を示す。各抗体は10μg/mlで使用した。パーセンテージは、CFSE細胞の集団全体での標識されたPI陰性CFSEの割合である。パートE:同数の同じ未標識クローンを用いた72時間のDer p 2のp71−85に特異的なCFSE標識Th1クローンのインキュベーション(左パネル)。増幅は左側への蛍光移動として示されている。本実験を単一のウェルにおいて(中パネル)、またはトランスウェル膜によって隔離されたウェル2個において(右パネル)繰り返したが、ただし未標識クローンを細胞溶解性Tregで置換した。細胞比は1/1であった。結果は3回の独立した実験を代表している。ヒストグラムはPI陰性CFSE標識細胞を表す。パートF:CFSE標識p71−85特異的Th1クローンを用いたT細胞除去脾臓細胞の18時間のインキュベーション。対照(最左パネル)を除いて、各場合でp71−85ペプチドを添加してクローンを活性化した。本培養物にp830−844対照細胞クローンをその特異的ペプチド(左パネル)、あるいはp21−35ペプチドを含むまたは含まない(それぞれ最右および右パネル)細胞溶解性クローン(R3TB7)と共に添加した。細胞比は1/1であった。密度点プロットを示す。結果は、平均FSC値(上の値、黒色)および芽球化CFSE細胞のパーセンテージ(下の値、灰色)として示す。芽球形成は生リンパ球ゲートにおけるCFSE陽性細胞の細胞サイズから計算した(FSC/SSCプロットより確立)。静止リンパ球ゲートは最高密度の非刺激細胞を示す領域に調整した(最左パネル)。データは少なくとも3回の実験を代表している。
図15図15は、本発明の実施形態による、アレルゲン曝露マウスの肺での細胞溶解性Tregの局在化および抗原提示B細胞によるアポトーシスのインビボ誘導を示す。A:未処理BALB/cマウスからの磁気ビーズによって単離された脾臓B細胞は、p21−35およびgp75タンパク質をコードするレトロウイルスベクターを用いて形質移入した。左パネルは、細胞溶解性T細胞クローン(比2/1)によって18時間インキュベートしたB細胞を表す。右パネルは同じであるが、対照CD4+エフェクタ細胞を用いて実施したアッセイを表す。点線は、T細胞なしで培養したB細胞における抗カスパーゼ−3染色を表す。B:p21−35形質移入B細胞5x10個を各マウス(n=6)に静脈内投与して、5日後に細胞溶解性Treg5x10個を続けた。2週間後、マウスを屠殺処分して、密度勾配精製および磁気ビーズを用いたCD19+選択によって細胞を脾臓および肺から調製した。トランスジェニックB細胞を産生するのに使用したレトロウイルス構築物をコードするmRNAの存在をPCRによって検出した。形質移入B細胞を投与したが、細胞溶解性T細胞を投与しなかったマウスの群(n=6)を同様に処分した。各群の6匹のマウスを分析し、代表的な結果は、細胞溶解性Tregによって処理したマウス2匹の脾臓についてレーンAに、対照群のマウス2匹についてレーンBに示す。C:5x10個のVβ8.1+細胞溶解性Treg、またはV8.1+対照T細胞クローンを未処理BALB/cマウスに静脈内投与して、24時間後にDer p 2 100マイクログラムによる点鼻投与を3回続けた。2週間後、マウスを屠殺処分して、密度勾配遠心分離によって肺リンパ球を調製した。Vベータ8.1を発現する細胞の割合をCD4+細胞の集団内でFacsによって計算した。結果は、各群におけるマウス6匹からの平均%±標準誤差として表す。%CD4は、全リンパ球集団内のCD4のパーセンテージである;%Vb8.1は、全CD4細胞集団内でVb8.1を発現する細胞のパーセンテージである。
図16図16は、本発明の実施形態による細胞溶解性Tregクローンによる、実験的喘息の予防(a〜f)および抑制(g〜l)を示す。パネルA〜Fは、Der p 2による腹腔内感作前のmp21−35 Asn特異的細胞溶解性Treg(クローンT1およびT3)によって処理したマウスからのデータを示す(「対照T細胞クローン」は、破傷風トキソイドのペプチド830−844に特異的であり、「Der p 2モデル」は、細胞に細胞が投与されない実験を指す)。パネルG〜Lにおいて、Der p 2による腹腔内感作後に上の細胞系によって処理された場合のマウスからのデータを示す。パネルAおよびGは、全BALF細胞数を示す;パネルBおよびHは、BALF細胞カウントの差を示す;パネルCおよびIは、ELISAによって測定したBALFサイトカインを示す;パネルDおよびJは、好酸球およびリンパ球による肺浸潤の半定量的スコアリングを示す。パネルEおよびKは、杯細胞計数を示す。結果は、PAS染色後の上皮細胞の集団内での杯細胞の割合(%)として表す。パネルFおよびLは、上昇する濃度のメタコリンの吸入によって評価した気道過敏性を示す。PenH値は、全身プレチスモグラフを使用して決定した。結果は、PenH値について「曲線下面積」(AUC)として示す。比較のために、独立した実験での未処理マウスで得たAUC値を示す(未処理)。本群は、予防および抑制アッセイの両方でバックグラウンド値を与える。データは、群につき最低5匹のマウスからの結果を表す。棒は平均±標準誤差を表す。Der p 2モデルと比較して(片側P値)P≦0.05、**P≦0.01。
図17図17は、本発明の実施形態による、CFSEによって標識され、対応するペプチド(114−128)(上パネル)によってロードされたAPCによってインキュベートした、Der p1 T細胞エピトープ(114−128)に特異的なエフェクタCD4T細胞系によるアポトーシスの誘導を示す。下パネルは、同数のエフェクタ細胞(未標識)が調節T細胞クローンに置換されたときのベースライン死亡率(40%)を示す。
図18A図18Aは、100μgのDer p 1(モデル)またはNaCl(陰性)のどちらかによる点鼻投与後のBALF細胞数の差を示す。マウスには、Der p 1による最初のシリーズの点鼻投与の前(予防)または後(抑制)のどちらかに細胞溶解性T細胞を養子移入した。棒は平均±標準誤差を表し、陰性群と比較してP≦0.05、**P≦0.01。
図18B図18Bは、本発明の実施形態による細胞溶解性T細胞の養子移入後の組織学的スコアリングを示す。0〜6(病変なしから広範囲の浸潤)のスコアを使用して、好酸球、リンパ球およびプラズマ細胞浸潤についてスコアを確立した。マウスには100μgのDer p1(モデル)またはNaCl(陰性)のどちらかによる点鼻投与3回を2シリーズ投与した。マウスには、Der p 1による最初のシリーズの点鼻投与の前(予防)または後(抑制)のどちらかに細胞溶解性T細胞を養子移入した。棒は平均±標準誤差を表し、モデル群と比較してP<0.05;**P<0.01;***p<0.001。
図19A図19Aは、本発明の実施形態による、ペプチドを使用せずに、野生種p21−35ペプチド(C−x−x−S)、またはSer24Cys変異p21−35(C−x−x−C)を使用してAPCによって刺激された細胞溶解性クローンのTNF−アルファ(黒色ヒストグラム)およびINF−ガンマ(灰色ヒストグラム)の生成を示す。
図19B図19Bは、グランザイム(レーン1〜3)およびFas−L(レーン6〜8)転写物の半定量的PCR検出を示す。細胞傷害性クローンは、野生種p21−35(レーン1、6)、Ser24Cys修飾p21−35(レーン2、7)をロードした、またはペプチドを含まない(レーン3、8)、APCによって刺激した。レーン4および5は分子量マーカーである。
図20図20は、本発明の実施形態による、CFSEで標識して、APC細胞によって同時培養したエフェクタT細胞のアポトーシスを示す。棒は未標識Tエフェクタ細胞および野生種MOGペプチドを示す;Tエフェクタ細胞 野生種MOG;Tr細胞および未修飾MOGペプチド:Tr細胞 野生種MOG;Tr細胞およびチオレドキシン配列を含有する修飾MOGペプチド:Tr細胞コンセンサス配列MOG)。CD4+CD25+T細胞は、チオレドキシンコンセンサス配列(CSMOG)を含有するMOGペプチドによって免疫化した動物から得た。エフェクタCD4+CD25−細胞は、EAE動物(Tエフェクタ)より得た。
図21図21は、マウスモデルにおけるMSの発生時の注入未修飾MOGペプチドに対する効果を示す(0:疾患なし、1:跛行、2:跛行および10%を超える体重減少、3:後肢の部分麻痺、4:肢の完全麻痺)。モデル:C57BL/6マウス3匹には、第0日目にCFA中MOGペプチド100μg/マイコバクテリウム・ブチリカム400μgの皮下注射およびNaCl中ボルデテラ・ペルトゥッシス300ngの腹腔内注射を行った。第2日目に、B.ペルトゥッシスの2回目の注射を投与した。養子移入:マウス3匹にモデル群と同様に、疾患誘発24時間前に500,000個のTregによる静脈内注射を行った。
図22図22は、多発性硬化症モデルでのMOGペプチド注射による予防を用いた、または用いないマウスの臨床スコアリングを示す。
図23図23は、2つのNODマウス脾臓細胞からのCFSE標識ポリクローナルCD4細胞におけるアポトーシスのインビトロ誘導を示す。これらの細胞は、修飾ペプチド処理NODマウスから精製したポリクローナルCD4細胞と共にGAD65ペプチド524−543[配列番号:34]をロードしたAPCと同時培養した。図は、7−AADおよびアネキシンV−PEを用いた標的CD4細胞の染色を示す。表は二重陽性細胞(死細胞)のパーセンテージを表す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
定義
「ペプチド」という用語は本明細書に使用するように、ペプチド結合によって結合されているアミノ酸2〜200個のアミノ酸配列を含むが、詳細な実施形態において(たとえば結合有機化合物のように)非アミノ酸構造を含みうる分子を指す。本発明によるペプチドは、従来のアミノ酸20個のいずれかまたはその修飾版を含有しうるか、あるいは化学ペプチド合成によってまたは化学もしくは酵素修飾によって包含された非天然発生型アミノ酸を含有しうる。
【0039】
「抗原」という用語は本明細書で使用するように、巨大分子、通例はタンパク質(多糖類を含むまたは含まない)、または1つ以上のハプテンを含み、T細胞エピトープを含むタンパク質組成物より成る構造を指す。「抗原タンパク質」という用語は本明細書で使用するように、1つ以上のT細胞エピトープを含むタンパク質を指す。自己抗原または自己抗原タンパク質は本明細書で使用するように、免疫反応を同じヒトまたは動物体内で誘発する、体内に存在するヒトまたは動物タンパク質を指す。
【0040】
「食物または医薬抗原タンパク質」という用語は、食物または医薬製品、たとえばワクチンなどにおいて天然に存在する抗原タンパク質を指す。
【0041】
「エピトープ」という用語は、抗体またはその部分(Fab’、Fab2’など)によって特異的に認識および結合される抗原タンパク質の1つまたは複数の部分(立体配座エピトープを定義しうる)、あるいはBまたはT細胞リンパ球の細胞表面に存在して、前記結合によって免疫応答を誘導できる受容体を指す。
【0042】
「T細胞エピトープ」という用語は本発明の文脈において、ドミナント、サブドミナントまたはマイナーT細胞エピトープ、すなわちTリンパ球の細胞表面において受容体によって特異的に認識および結合される抗原タンパク質の一部を指す。エピトープがドミナント、サブドミナントまたはマイナーであるかどうかは、エピトープに対して誘発された免疫反応に依存する。優性は、このようなエピトープがT細胞によって認識され、タンパク質の考えられるすべてのT細胞エピトープの中でそれらを活性化できる頻度に依存する。
【0043】
詳細な実施形態において、T細胞エピトープは、MHC II分子の溝に適合する+/−アミノ酸9個の配列より成るMHCクラスII分子によって認識されるエピトープである。T細胞エピトープを示すペプチド配列の中で、図3Aに示すように、エピトープ中のアミノ酸はP1〜P9の番号が付けられ、エピトープのアミノ酸N末端はP−1、P−2などのように番号が付けられ、エピトープのアミノ酸C末端はP+1、P+2などのように番号が付けられる。
【0044】
「ホモログ」という用語は本明細書で使用するように、本発明の文脈で使用されるエピトープに関連して、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%の天然発生型エピトープとのアミノ酸同一性を有し、それによりエピトープが抗体あるいはBおよび/またはT細胞の細胞表面受容体を結合する能力を維持する分子を指す。エピトープのホモログの詳細な実施形態は、多くて3個、さらに詳細には多くて2個、最も詳細には1個のアミノ酸中の修飾された天然型エピトープに相当する。
【0045】
「誘導体」という用語は本明細書で使用するように、本発明のペプチドに関連して、少なくともペプチド活性部分(すなわち細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できる)を含有し、それに加えて各種の目的、たとえばペプチドを安定化すること、あるいはペプチドの薬物動態または薬力学特性を変化させることを有しうる相補部分を含む分子を指す。
【0046】
2個の配列の「配列同一性」という用語は本明細書で使用するように、2個の配列を整列させたときに、短いほうの配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の数によって除算した、同一ヌクレオチドまたはアミノ酸を持つ位置の数を指す。詳細な実施形態において、前記配列同一性は、70%〜80%、81%〜85%、86%〜90%、91%〜95%、96%〜100%、または100%である。
【0047】
「ペプチドコードポリヌクレオチド(または核酸)」および「ポリヌクレオチド(または核酸)コードペプチド」という用語は本明細書で使用するように、適切な環境において発現されたときに、関連するペプチド配列あるいはその誘導体またはホモログの産生をもたらすヌクレオチド配列を指す。このようなポリヌクレオチドまたは核酸としては、ペプチドをコードする正常配列はもちろんのこと、要求される活性を備えたペプチドを発現できるこれらの核酸の誘導体または断片も挙げられる。1実施形態により、本発明によるペプチドをコードする核酸またはその断片は、哺乳類を起源とするまたは哺乳類に相当するペプチドまたはその断片、最も詳細にはヒトペプチド断片をコードする配列である。
【0048】
「還元活性を有する有機化合物」という用語は、本発明の文脈において、タンパク質のジスルフィド結合に対する還元活性を備えた化合物、さらに詳細にはアミノ酸配列を指す。「免疫障害」または「免疫疾患」という用語は、免疫系の反応が生物における機能不全または非生理学的状況に関与するか、または維持する疾患を指す。免疫障害には特にアレルギー障害および自己免疫疾患が含まれる。
【0049】
「アレルギー疾患」または「アレルギー障害」という用語は本明細書で使用するように、アレルゲンと呼ばれる特定の物質(たとえば花粉、虫刺され、薬物、または食品)に対する免疫系の過敏性反応を特徴とする疾患を指す。アレルギーは、個々のアトピー患者がその感作されているアレルゲンに遭遇するときに常に観察される一連の徴候または症状であり、各種の疾患、特に呼吸器疾患および症状、たとえば気管支喘息を引き起こしうる。各種の分類が存在し、大半のアレルギー障害は、それが起こる哺乳類体内の箇所に応じて異なる名称を有する。「過敏症」は、個体がその感作されるようになっている抗原への曝露時に生じる望ましくない(損傷を与える、不快感を生じる、時には致死的な)反応である;「即時型過敏症」は、IgE抗体の生成に依存しており、したがってアレルギーと同等である。
【0050】
「自己免疫疾患」または「自己免疫障害」という用語は、生物がそれ自体の構成要素部分(分子下レベルに至るまで)を「自己」として認識できないことのために、生物のそれ自体の細胞および組織に対する異常な免疫応答から生じる疾患である。疾患の群は2種類、すなわち器官特異的疾患および全身性疾患に分けられる。
【0051】
「アレルゲン」は、素因のある、特に遺伝的傾向のある個々の(アトピー)患者においてIgE抗体の生成を誘発する物質、通常は巨大分子またはタンパク組成物として定義される。同様の定義は、Liebersら(1996)Clin.Exp.Allergy
26,494−516に示されている。
【0052】
「治療的有効量」という用語は、患者において所望の治療的または予防的効果を生じる本発明のペプチドまたはその誘導体の量を指す。たとえば疾患または障害に関連して、そ
れは疾患または障害の1つ以上の症状をある程度まで低減する量、さらに詳細には疾患または障害に関連する、あるいはその原因となる生理学的または生化学的パラメータを部分的または完全に正常に戻す量である。本発明の詳細な1実施形態により、治療的有効量は、正常な生理学的状況の改善または回復につながる本発明のペプチドまたはその誘導体の量である。たとえば免疫障害に罹患した哺乳類を治療的に治療するために使用されるとき、治療的有効量はペプチド1日量/前記哺乳類の体重1kgである。あるいは投与が遺伝子療法による場合、裸のDNAまたはウイルスベクターの量は、本発明のペプチド、その誘導体またはホモログの関連する投薬の局所的生成を確保するように調整される。
【0053】
「天然の」という用語は、本明細書でペプチドまたは配列を指すときに、配列が天然発生型配列と同一であるという事実に関連している。それに対して、「人工的な」という用語は、それ自体は天然には発生しない配列またはペプチドを指す。場合により人工配列は、天然発生型配列中の1個以上のアミノ酸を変化させることなどの制限された修飾によって、あるいは天然発生型配列のN末端側またはC末端側にアミノ酸を付加することによって、天然配列から得られる。アミノ酸は本明細書では、その正式な名称、その3文字の省略形またはその1文字の省略形を用いて呼ばれる。
【0054】
アミノ酸配列のモチーフは本明細書では、Prositeの形式に従って記載する。記号Xは、いずれのアミノ酸も許容される位置に使用する。選択肢は、角カッコ(‘[]’)の間に所与の位置の許容されるアミノ酸を挙げることによって示す。たとえば:[CST]は、Cys、SerまたはThrより選択されるアミノ酸を表す。選択肢として除外されるアミノ酸は、中カッコ(‘{}’)の間にそれらを挙げることによって示す。たとえば:{AM}は、AlaおよびMetを除くいずれのアミノ酸も表す。モチーフ内の別の要素は、ハイフン−によって相互に隔離される。モチーフ内の同一要素の繰り返しは、その要素の後にカッコに入れた数値または数値範囲を配置することによって示されうる。たとえば:X(2)はX−Xに相当し、X(2,4)はX−XまたはX−X−XまたはX−X−X−Xに相当し、A(3)はA−A−Aに相当する。
【0055】
本発明は、T細胞エピトープおよび還元活性を有するペプチド配列を含むペプチドが、抗原提示細胞に対して細胞傷害性効果を有する調節T細胞の集団を産生できるという発見に基づいている。
【0056】
したがってその最も広い意味において、本発明は、還元活性を有する有機化合物、たとえばチオレダクターゼ配列モチーフに結合されて免疫応答を引き起こす可能性を備えた、抗原(自己または非自己)の少なくとも1つのT細胞エピトープを含むペプチドに関する。T細胞エピトープおよび有機化合物は場合により、リンカー配列によって隔離される。さらなる任意の実施形態において、ペプチドはエンドソームターゲティング配列および/または追加の「フランキング」配列をさらに含む。
【0057】
本発明のペプチドは、A−L−BまたはB−L−Aとして図式的に示すことができ、ここでAは、免疫反応を引き起こす可能性を備えた抗原(自己または非自己)のT細胞エピトープを表し、Lはリンカーを表し、Bは還元活性を有する有機化合物を表す。
【0058】
有機化合物の還元活性は、インスリンの溶解性が還元時に変更される、本明細書の実施例で記載するインスリン溶解性アッセイのように、または蛍光標識インスリンを用いて、スルフヒドリル基を還元するその能力についてアッセイされうる。還元有機化合物は、T細胞エピトープのアミノ酸末端側に、またはT細胞エピトープのカルボキシ末端に結合されうる。
【0059】
一般に、還元活性を備えた有機化合物はペプチド配列である。還元活性を備えたペプチ
ド断片は、グルタレドキシン、ヌクレオレドキシン、チオレドキシンおよび他のチオール/ジスルフィドオキシドレダクターゼを含む小型ジスルフィド還元酵素であるチオレダクターゼ内にて遭遇される(Holmgren(2000)Antioxid Redox
Signal 2,811−820;Jacquotら(2002)Biochem Pharm 64,1065−1069)。それらは多機能性、遍在性であり、多くの原核生物および真核生物で見出される。それらは、保存された活性ドメインコンセンサス配列:C−X(2)−C、C−X(2)−S、C−X(2)−T、S−X(2)−C、T−X(2)−C(Xはいずれのアミノ酸も表す)内の酸化還元活性システインを通じて、タンパク質(たとえば酵素)のジスルフィド結合に対して還元活性を作用させる(Fomenkoら(2003)Biochemistry 42,11214−11225;Fomenkoら(2002)Prot.Science 11:2285−2296)。このようなドメインは、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)およびホスホイノシチド特異的ホスホリパーゼCなどのより大型のタンパク質にも見出される(表1)。
【0060】
【表1】
【0061】
したがって詳細な実施形態において、本発明によるペプチドはチオレダクターゼ配列モチーフ[CST]−X(2)−[CST]を含み、ここで[CST]の少なくとも1つはCysである;それゆえモチーフは[C]−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−[C]のどちらかである。本出願において、このようなテトラペプチドは「モチーフ」と呼ばれるであろう。詳細な実施形態において、本発明のペプチドは配列モチーフ[C]−X(2)−[CS]または[CS]−X(2)−[C]を含有する。さらに詳細な実施形態において、ペプチドは配列モチーフC−X(2)−S、S−X(2)−CまたはC−X(2)−Cを含有する。
【0062】
下でさらに詳細に説明するように、本発明のペプチドは、非天然アミノ酸の包含を可能
にする化学結合によって作製されうる。したがって本発明の詳細な実施形態による還元化合物のモチーフにおいて、Cはチオール基を備えたシステインまたは別のアミノ酸のどちらか、たとえばメルカプトバリン、ホモシステインあるいはチオール官能基を備えた他の天然または非天然アミノ酸を表す。還元活性を有するために、モチーフ中に存在するシステインは、システインジスルフィド架橋の一部として出現することは望ましくない。それにもかかわらず、モチーフは、インビボでチオール基を有さないシステインに変換される修飾システイン、たとえばメチル化システインを含みうる。
【0063】
本発明の還元化合物の詳細な実施形態の[CST]−X(2)−[CST]モチーフ中のアミノ酸Xは、S、C、またはTを含むいずれかの天然アミノ酸でありうるか、あるいは非天然アミノ酸でありうる。詳細な実施形態において、Xは、小型側鎖を備えたアミノ酸、たとえばGly、Ala、SerまたはThrである。さらなる詳細な実施形態において、Xは、かさ高い側鎖を備えたアミノ酸、たとえばTyrでない。さらなる詳細な実施形態において、[CST]−X(2)−[CST]モチーフ中の少なくとも1つのXは、HisまたはProである。
【0064】
上記のモチーフを還元化合物として含む本発明のペプチドにおいて、エピトープがMHC溝内に適合するときに、モチーフがMHC結合溝の外側に残存するようにモチーフが配置される。モチーフは、ペプチド中のエピトープ配列に直接隣接して配置されるか、またはリンカーによってT細胞エピトープから隔離されるかのどちらかである。さらに詳細には、リンカーはアミノ酸7個以下のアミノ酸配列を含む。最も詳細には、リンカーはアミノ酸1、2、3、または4個を含む。あるいはリンカーは、アミノ酸6、8または10個を含みうる。モチーフ配列がエピトープ配列に隣接している本発明のペプチドのこのような詳細な実施形態において、これはエピトープ配列と比較して、位置P−4〜P−1またはP+1〜P+4として示される。
【0065】
ペプチドリンカーとは別に、他の有機化合物がペプチドの部分を相互に(たとえばモチーフをT細胞エピトープ配列に)結合するリンカーとして使用されうる。
【0066】
本発明のペプチドは、T細胞エピトープおよび還元化合物(モチーフ)を含む(人工)配列のNまたはC末端側の追加の短いアミノ酸配列をさらに含みうる。このようなアミノ酸配列は本明細書で、一般に「フランキング配列」と呼ばれる。フランキング配列は、エピトープとエンドソームターゲティング配列との間に、および/または還元化合物(たとえばモチーフ)とエンドソームターゲティング配列との間に位置決めされうる。エンドソームターゲティング配列を含まないさらなる実施形態において、短いアミノ酸配列は、ペプチド中で還元化合物および/またはエピトープ配列のNおよび/またはC末端側に存在しうる。さらに詳細には、フランキング配列はアミノ酸1〜7個の配列、最も詳細にはアミノ酸2個の配列である。
【0067】
本発明のペプチドの詳細な実施形態において、モチーフはエピトープからN末端側に配置される。
【0068】
さらなる詳細な実施形態において、ペプチド中に存在するモチーフが1個のシステインを含有する場合、本システインはモチーフ中のエピトープから離れた位置に存在し、それゆえモチーフは、エピトープのN末端側にC−X(2)−[ST]またはC−X(2)−Sとして出現するか、あるいはエピトープのC末端側に[ST]−X(2)−CまたはS−X(2)−Cとして出現する。
【0069】
本発明のある実施形態において、1つ以上のペプチド配列およびモチーフ配列を含むペプチドが提供される。さらなる詳細な実施形態において、モチーフはペプチド中に複数回
(1、2、3、4回またはそれ以上の回数)、たとえば1個以上のアミノ酸によって相互に隔離されうるモチーフの繰り返し(たとえばCXXC X CXXC X CXXC)として、相互に隣接する繰り返し(CXXC CXXC CXXC)として、または相互に重複する繰り返し(CXXCXXCXXCまたはCXCCXCCXCC)として出現する。あるいは1個以上のモチーフがT細胞エピトープ配列のN末端またはC末端の両方に設けられる。
【0070】
本発明のペプチドのために想定される他の変形としては、各エピトープ配列にモチーフが先行するおよび/または続くT細胞エピトープ配列の繰り返し(たとえば「モチーフ−エピトープ」の繰り返しまたは「モチーフ−エピトープ−モチーフ」の繰り返し)を含有するペプチドが挙げられる。本明細書でモチーフはすべて同じ配列を有しうるが、このことは必須ではない。モチーフをそれ自体の中に含むエピトープを含むペプチドの繰り返し配列が、「エピトープ」および「モチーフ」の両方を含む配列も生じることに注目する。このようなペプチドにおいて、1つのエピトープ配列内のモチーフは第2のエピトープ配列の外側でモチーフとして機能する。
【0071】
しかしながら詳細な実施形態において、本発明のペプチドは1つのT細胞エピトープのみを含む。
【0072】
したがって本発明によるペプチドは、還元化合物に加えて、用途に応じて抗原、通例はアレルゲンまたは自己抗原に由来するT細胞エピトープを含む。後述するように、タンパク質配列中のT細胞エピトープは、機能アッセイおよび/または1つ以上のコンピュータでの予測アッセイによって同定されうる。T細胞エピトープ配列中のアミノ酸は、MHCタンパク質の結合溝中のその位置に従って番号付けされる。詳細な実施形態において、本発明のペプチド内に存在するT細胞エピトープは、アミノ酸8〜25個、なおさらに詳細にはアミノ酸8〜16個、なお最も詳細にはアミノ酸8、9、10、11、12、13、14、15または16個より成る。さらに詳細な実施形態において、T細胞エピトープはアミノ酸9個の配列より成る。さらなる詳細な実施形態において、T細胞エピトープは、MHCクラスII分子によってT細胞に提示されるエピトープである。本発明の詳細な実施形態において、T細胞エピトープ配列は、MHC IIタンパク質の溝内に適合するエピトープ配列、さらに詳細にはMHC II溝内に適合するノナペプチドである。
【0073】
本発明のペプチドのT細胞エピトープは、修飾T細胞エピトープが天然T細胞エピトープ配列と同様に、MHC溝内に結合するその能力を保持するという条件で、タンパク質の天然エピトープ配列に相当しうるか、またはその修飾版でありうるかのどちらかである。修飾T細胞エピトープは、天然エピトープと同様のMHCタンパク質に対する結合親和性を有しうるが、低下した親和性も有しうる。詳細な実施形態において、修飾ペプチドの結合親和性は、元のペプチドの10倍以上、さらに詳細には倍以上である。本発明の発見は、本発明のペプチドがタンパク質複合体に対して安定化効果を有することである。したがってペプチド−MHC複合体の安定化効果は、MHC分子の修飾エピトープの低下した親和性を代償する。その例は、Der p 2ペプチドのIle28Asn置換であり、MHC II溝への低い親和性にもかかわらず、天然Der p 2ペプチドp21−35と同じT細胞応答を誘発できる。
【0074】
詳細な実施形態において、ペプチド内にT細胞エピトープおよび還元化合物を含む配列は、MHCクラスII決定基内での処理および提示のために晩期エンドソーム内へのペプチドの取り込みを促進するアミノ酸配列(または別の有機化合物)にさらに結合される。晩期エンドソームターゲティングは、タンパク質の細胞質尾部に存在するシグナルによって媒介され、十分に同定されたペプチドモチーフ、たとえばジロイシンベース[DE]XXXL[LI]またはDXXLLモチーフ(たとえばDXXXLL)、チロシンベースY
XXφモチーフまたはいわゆる酸性クラスタモチーフに対応する。記号φは、かさ高い疎水性側鎖を備えたアミノ酸残基、たとえばPhe、TyrおよびTrpを表す。晩期エンドソームターゲティング配列は、MHCクラスII分子による抗原由来T細胞エピトープの処理および効率的な提示を可能にする。このような晩期エンドソームターゲティング配列はたとえばgp75タンパク質(Vijayasaradhiら(1995)J Cell Biol 130,807−820)、ヒトCD3ガンマタンパク質、HLA−BMβ(Copierら(1996)J.Immunol.157,1017−1027)、DEC205受容体の細胞質尾部(Mahnkeら(2000)J Cell Biol 151,673−683)内に含有される。エンドソームに対する局在化シグナルとして機能するペプチドの他の例は、Bonifacio and Traub(2003)Annu.Rev.Biochem.72,395−447の総説に開示されている。あるいは配列は、抗原、すなわちアレルゲンまたは自己抗原由来T細胞エピトープに対するT細胞応答を克服することなく、晩期エンドソームでの取り込みを促進する、タンパク質からのサブドミナントまたはマイナーT細胞エピトープの配列でありうる。
【0075】
晩期エンドソームターゲティング配列は、効率的な取り込みおよび処理のためにアレルゲンまたは自己抗原由来ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端のどちらかに位置することができ、フランキング配列、たとえばアミノ酸10個までのペプチド配列を通じて連結もされうる。マイナーT細胞エピトープをターゲティング目的で使用するとき、後者は通例、アレルゲンまたは自己抗原由来ペプチドのアミノ末端に位置する。
【0076】
したがって本発明は、抗原タンパク質のペプチドおよび特異的免疫反応を誘発することでのその使用を想定している。本発明のペプチドはいずれも、その配列内に本発明の特徴、すなわち多くて10個、好ましくは7個以下のアミノ酸によって隔離された還元化合物およびT細胞エピトープを含むタンパク質の断片に相当しうる。あるいは、大半の抗原タンパク質で、本発明のペプチドは、本発明の特徴を得るために、還元化合物、さらに詳細には本明細書に記載する還元モチーフを、抗原タンパク質のT細胞エピトープに(それに直接隣接して、または多くて10個の、さらに詳細には多くて7個のアミノ酸のリンカーによってのどちらかで)N末端側またはC末端側に結合することによって産生される。さらに天然発生型配列と比較して、タンパク質および/またはモチーフのT細胞エピトープ配列は修飾されうるか、ならびに/あるいは1個以上のフランキング配列および/またはターゲティング配列は導入(または修飾)されうる。それゆえ本発明の特徴が目的の抗原タンパク質の配列内に見出されうるか否かに応じて、本発明のペプチドは、「人工」または「天然発生型」である配列を含みうる。
【0077】
本発明のペプチドは、長さが実質的に変化しうる。詳細な実施形態において、還元化合物が本明細書に記載するようなモチーフに相当する場合、ペプチドの長さはアミノ酸12〜13個で変化し、すなわちアミノ酸8〜9個のエピトープと、それに隣接するアミノ酸4個、アミノ酸50個またはそれ以上の本明細書に記載するようなモチーフとから成る。たとえば本発明によるペプチドは、アミノ酸40個のエンドソームターゲティング配列、アミノ酸約2個のフランキング配列、アミノ酸4個の本明細書に記載するようなモチーフ、アミノ酸4個のリンカー、およびアミノ酸9個のT細胞エピトープペプチドを含みうる。
【0078】
したがって詳細な実施形態において、完全なペプチドは、アミノ酸12個〜20個、最大25、30、50、75、100または200個より成る。さらに詳細な実施形態において、ペプチドはアミノ酸10〜20個より成る。さらに詳細には、還元化合物が本明細書に記載するようなモチーフである場合、エンドソームターゲティング配列を含まない、リンカーによって場合により結合されたエピトープおよびモチーフを含む(人工または天然)配列(本明細書では「エピトープ−モチーフ配列」と呼ばれる)の長さは重要である
。「エピトープ−モチーフ」はさらに詳細には、アミノ酸12、13、14、15、16、17、18または19個の、最適にはアミノ酸18個以下の長さを有する。アミノ酸12または13〜18個のこのようなペプチドは、サイズがあまり重要でないエンドソームターゲティングシグナルに場合により結合されうる。
【0079】
上で詳説したように、詳細な実施形態において、本発明のペプチドは、T細胞エピトープ配列に結合された本明細書に記載するような還元モチーフを含む。詳細な実施形態により、ペプチドは、そのネイティブな天然配列内にて目的のエピトープの付近に(すなわち、N末端またはC末端側のアミノ酸11個の配列内に)酸化還元特性を備えたアミノ酸配列を含まない、さらに詳細にはそのネイティブな天然配列中にて目的のエピトープの付近にチオレドキシン、グルタレドキシンまたはチオレダクターゼあるいはそのホモログのコンセンサス配列を含まないタンパク質からのペプチドである。最も詳細には、本発明は、C−X(2)−S、S−X(2)−C、C−X(2)−C、S−X(2)−S、C−X(2)−T、T−X(2)−Cより選択される配列、あるいはチオレドキシン、グルタレドキシンまたはチオレダクターゼのコンセンサス配列に特有である他のいずれかのコンセンサス配列を目的のエピトープの付近に、すなわちエピトープ配列のN末端またはC末端側のアミノ酸11個の配列内に含まない抗原タンパク質からの免疫原性ペプチドを産生することを含む。さらなる詳細な実施形態において、本発明は、酸化還元特性を備えた上記のアミノ酸配列をその配列内に含まない抗原タンパク質の免疫原性ペプチドを提供する。さらなる詳細な実施形態において、抗原タンパク質は、エピトープ配列のN末端またはC末端側のアミノ酸11個の配列内に配列C−H−G−Sを天然に含まない。さらに詳細には、本発明は、Der p 2のp21−35ペプチド(CHGSEPCIIHRGKPF[配列番号:2])のエピトープEPCIIHRGKP[配列番号:1]およびモチーフC−H−G−S[配列番号:3]を含むペプチド、さらに詳細には本モチーフがエピトープ配列からN末端側に位置するペプチド、たとえば従来技術で産生され、Der p 2のエピトープマッピングにおける文脈で免疫応答を誘導するのに使用されたペプチドに相当するペプチド(Wuら、2002,J.Immunol.169,2430−2435)以外のペプチドを主張する。
【0080】
さらなる詳細な実施形態において、本発明のペプチドは、その天然配列内に酸化還元特性を備えたアミノ酸配列を含まないT細胞エピトープを含むペプチドである。
【0081】
しかしながら代わりの実施形態において、T細胞エピトープは、エピトープのMHC溝への結合を確実にするアミノ酸のいずれの配列も含みうる。抗原タンパク質の目的のエピトープがそのエピトープ配列内に本明細書に記載したようなモチーフを含む場合、本発明による免疫原性ペプチドは、本明細書に記載したようなモチーフの配列および/または(溝内に埋め込まれたエピトープ内に存在するモチーフとは反対に)結合されたモチーフが還元活性を確保できるように、エピトープ配列のN末端またはC末端側に結合された別の還元配列の配列を含む。
【0082】
詳細な実施形態において、本発明のペプチドは、T細胞エピトープに加えて、本明細書に記載するようなモチーフを含有して、それによりモチーフが多くても7個の、最も詳細には4個までのアミノ酸より成るリンカーによってT細胞エピトープから場合により隔離されている、天然ではなく、人工のペプチドである。
【0083】
詳細な実施形態において、本明細書に記載するようなモチーフおよびDer p 2エピトープを含むDer p 2タンパク質の本発明によるペプチドが提供される。さらに詳細には、C−X2−Cモチーフより成る還元モチーフにそれぞれ結合されたDer p
2のノナペプチドエピトープEPCIIHRGKP[配列番号:1]の1つ以上の複製を備えたペプチドが提供される。あるいはモチーフC−X(2)−[CST]または[C
ST]−X(2)−Cに結合されたEPCIIHRGKP[配列番号:1]を含む配列以外のT細胞エピトープを含むDer p 2タンパク質を備えたペプチドが提供される。本発明のペプチドは、エンドソームターゲティング配列を場合により含む。最も詳細には、C−X2−Cモチーフを含むDer p 2の免疫原性ペプチドが提供される。
【0084】
本発明の別の態様は、本明細書に記載した本発明の免疫原性ペプチドを産生するプロセスに関する。
【0085】
本発明による方法の第1の実施形態において、細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できる抗原タンパク質のペプチドは、前記抗原タンパク質のT細胞エピトープから成るペプチド配列を提供するステップと、前記エピトープを還元化合物に結合するステップによって調製される。本発明によるさらに詳細な方法は、前記モチーフおよび前記エピトープが相互に隣接するか、あるいは多くてもアミノ酸7個、さらに詳細には多くてもアミノ酸4個のリンカーによって隔離されるかのどちらかであるように、前記T細胞エピトープにモチーフC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cに相当するアミノ酸の配列を結合することを含む。さらに詳細には、モチーフはC−X2−Cに相当する。
【0086】
本発明の方法の詳細な実施形態において、抗原タンパク質のT細胞エピトープは、その天然配列中にエピトープおよび前記エピトープのN末端またはC末端側のアミノ酸11個の領域内の本発明によるモチーフの複合配列に相当する配列を含まないように選択される。さらなる詳細な実施形態において、エピトープがDer p 2のp21−35ペプチドの配列EPCIIHRGKP[配列:1]を含む場合、モチーフは[CT]−X2−CまたはC−X2−[CT]、さらに詳細にはC−X2−Cに相当する。本発明の方法は、抗原タンパク質の天然産生T細胞エピトープによって産生されない、またはその程度まで産生されない、特異的免疫応答を誘導する免疫原性ペプチドを産生する。本効果は、T細胞エピトープおよび還元化合物の、さらに詳細にはT細胞エピトープおよび還元モチーフの特異的組合せによって確保される。
【0087】
したがって上記の方法は、本明細書に記載したようなモチーフをその配列内に含まないタンパク質、あるいは本明細書に記載したようなモチーフが目的のエピトープ配列内に完全または部分的に存在するタンパク質、あるいはモチーフが目的のエピトープ配列の外側に、しかし目的のエピトープ配列から(すなわち4、7、または10個を超えるアミノ酸)離れて存在するタンパク質によるアレルゲンまたは自己抗原からの免疫原性ペプチドの産生に特に適している。
【0088】
上記の方法の詳細な実施形態において、リンカーがT細胞エピトープと還元化合物との間に導入される、ならびに/あるいはさらなる配列(たとえばターゲティング配列)が付加される、ならびに/あるいは1つ以上のフランキング配列および/または修飾がペプチドのエピトープ配列中に導入される、1つ以上のさらなるステップが提供される。
【0089】
抗原タンパク質の細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発できるペプチドを得る、本発明による方法のさらなる実施形態において、抗原タンパク質内での適切な免疫原性ペプチドの同定を確実にする方法が提供される。これらの実施形態において、本発明の方法は、抗原タンパク質がその天然配列内にT細胞エピトープを含むか否か、それにより該タンパク質がT細胞エピトープのN末端またはC末端側のアミノ酸11個の領域、さらに詳細にはアミノ酸8個の領域内に本明細書に記載したような還元モチーフをさらに含むか否かを判定することを含む。したがってこれらの実施形態は、免疫原性ペプチドとしての使用のために適切な配列の、抗原タンパク質内での同定および同定された配列に相当するペプチドの産生を含む。さらに詳細には、このように産生された単離ペプチドは、アミノ酸12〜19個の長さを備える。ペプチドの産生方法は後述する。適切な酵素開裂部位がタンパク
質中に存在する場合、本発明のペプチドがネイティブなタンパク質からの酵素開裂によっても産生されうることがさらに想定される。
【0090】
上記の各種方法の詳細な実施形態において、さらなる配列、たとえばターゲティング配列および/または1つ以上のフランキング配列が得られたペプチドに付加される、ならびに/あるいはペプチドのエピトープ、リンカーおよび/または還元モチーフに修飾が導入される、1つ以上のさらなるステップが提供される。これらの修飾は、ペプチドの免疫原性特性をさらに向上させるか、またはペプチドの他の特徴、たとえば合成の容易さ、溶解性などを改善しうる。
【0091】
上記の方法は、目的のエピトープの付近にC−X(2)−[CST]または[CST]−X(2)−Cモチーフを天然に含む抗原タンパク質の選択のためだけに、本発明による免疫原性ペプチドの産生を可能にするであろう。詳細な実施形態において、T細胞エピトープは、Der p 2のp21−35ペプチドの配列EPCIIHRGKP[配列番号:1]を含まない。詳細な実施形態において、抗原タンパク質は、目的のエピトープに隣接する最大アミノ酸11個の配列内にC−X(2)−[ST]または[ST]−X(2)−Cを自然に含むことができ、本発明の方法は、前記モチーフおよび前記エピトープ配列を含む単離ペプチドを産生して、本明細書に記載した免疫原性特性をさらに向上させるために前記モチーフをC−X(2)−Cに修飾する。
【0092】
上の方法に記載したようなペプチドの産生での使用のための抗原タンパク質の適切なT細胞エピトープの同定は、下で詳説する。
【0093】
本発明によるペプチド(またはこのようなペプチドを含む組成物)の哺乳類への投与(すなわち注射)時に、該ペプチドが抗原(すなわちアレルゲンまたは自己抗原)由来T細胞エピトープを認識するT細胞の活性化を誘発して、表面受容体の還元によってT細胞への追加シグナルを提供することが示されてきた。このような最適を超える活性化は、T細胞エピトープを提示する細胞に対する細胞傷害特性はもちろんのこと、バイスタンダT細胞への抑制特性も獲得するT細胞を生じる。このようにして、抗原由来T細胞エピトープと、エピトープ外の還元化合物とを含有する、本発明に記載したペプチドまたはペプチドを含む組成物は、ヒトを含む哺乳類の直接免疫化に使用されうる。
【0094】
本発明の1態様はそれゆえ、薬剤としての使用のための本発明のペプチドまたはその誘導体を提供する。したがって本発明は、本発明による1つ以上のペプチドをその必要がある患者に投与することを含む治療方法を提供する。
【0095】
本発明は、細胞傷害特性を与えられたアレルゲン/抗原特異的T細胞が小型ペプチドによる免疫化によって誘発されうる方法を提供する。(i)抗原(すなわちアレルゲン、自己抗原)からのT細胞エピトープをコードする配列および(ii)酸化還元特性を備えたコンセンサス配列を含有し、効率的なMHCクラスII提示のために晩期エンドソーム内へのペプチドの取り込みを促進して、抑制因子T細胞を誘発する配列も場合によりさらに含むペプチドが見出されている。
【0096】
本発明のペプチドの免疫原性特性は、免疫反応の治療または予防において特に興味深い。したがって本発明の別の態様は、本明細書に記載したペプチドの薬剤としての使用、さらに詳細には哺乳類、さらに詳細にはヒトにおける免疫障害の予防または治療のための医薬の製造のための使用を提供する。
【0097】
本発明の別の態様はそれゆえ、本発明のペプチド、そのホモログまたは誘導体を使用することによる、このような治療または予防が必要な哺乳類の免疫障害の治療または予防の
方法に関し、該方法は、免疫障害に罹患した、または免疫障害のリスクに瀕する前記哺乳類に、免疫障害の症状を低減するように本発明のペプチド、そのホモログまたは誘導体の治療的有効量を投与するステップを含む。ヒトおよび動物、たとえばこれに限定されるわけではないが、ペットおよびウマのどちらの治療も想定される。
【0098】
上で言及した免疫障害は、詳細な実施形態において、アレルギー疾患および自己免疫疾患より選択される。アレルギー疾患は従来、1型媒介疾患またはIgE媒介疾患として記載されている。アレルギー疾患の臨床徴候としては、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食品に対する過敏症および虫刺されまたは薬物に対するアナフィラキシー反応が挙げられる。アレルギー疾患は、アレルゲンと呼ばれる特定の物質(たとえば花粉、虫刺され、薬物、または食品)に対する免疫系の過敏性反応によって引き起こされる。アレルギー障害の最も重篤な形は、医学的な緊急事態であるアナフィラキシーショックである。アレルゲンとしては、浮遊アレルゲン、たとえばチリダニ、ペットおよび花粉の浮遊アレルゲンが挙げられる。アレルゲンは、果物、野菜および牛乳を含む食品過敏症の原因となる摂取アレルゲンも含む。
【0099】
上の疾患を治療するために、本発明のペプチドは、該疾患の原因因子であるとして知られているまたは考えられている抗原タンパク質またはアレルゲンより産生される。T細胞エピトープの選択に使用されうるアレルゲンは通例:
−ラッカセイ、魚、たとえばタラ、卵白、甲殻類、たとえばエビ、乳、たとえば牛乳、コムギ、穀類、バラ科の果物(リンゴ、プラム、イチゴ)、ユリ科、アブラナ科、ナス科およびセリ科の野菜、ナッツ、ゴマ、ラッカセイ、ダイズおよび他のマメ科アレルゲン、香辛料、メロン、アボカド、マンゴ、イチジク、バナナに存在する食物アレルゲン、
−ヒョウダニ類またはヤケヒョウヒダニ、コナヒョウダニおよびデルマトフィスミクロセラス(D.microceras)、ユーログリファス・マイネイ(Euroglyphus maynei)またはブロミア種(Blomia sp)より得たチリダニ、
−ゴキブリまたは膜翅目に存在する昆虫からのアレルゲン、
−花粉、特に木、牧草および雑草の花粉からのアレルゲン、
−動物からの、特にネコ、イヌ、ウマおよびげっ歯類からのアレルゲン、
−真菌からの、特にアスペルギルス、アルテルナリアまたはクラドスポリウムからのアレルゲン、
−ラテックス、アミラーゼなどの製品中に存在する職業性アレルゲン
から成る群より選択されるアレルゲンである。
【0100】
本発明の文脈での使用に適切な抗原タンパク質(または免疫原)に相当するT細胞エピトープは通例、ユニバーサルまたは乱交雑T細胞エピトープ(すなわちMHCクラスII分子の大部分に結合できるT細胞エピトープ)であり、さらに詳細には浮遊アレルゲンまたは食物由来アレルゲンに存在する。詳細な実施形態において、前記アレルゲンは、鼻副鼻腔炎、アレルギー性気管支喘息アレルゲンおよびアトピー性皮膚炎アレルゲンから成る群より選択される。
【0101】
アレルゲンは、カビまたは各種の薬物、たとえばホルモン、抗生剤、酵素などに存在する主アレルゲンでもありうる(たとえばClin.Exp.Allergy 26,494−516(1996)およびMolecular Biology of Allergy and Immunology,Ed.R.Bush(1996)の定義も参照)。特定のアレルギー性疾患に関連する他のアレルゲンも当分野で周知であり、インターネット、たとえばwww.allergome.org.で見いだされうる。
【0102】
自己免疫疾患は、2つの種類、全身性疾患および器官特異的疾患に大きく分類される。全身性自己免疫疾患の正確な病因は同定されていない。これに対して、器官特異的自己免
疫疾患は、器官を標的として、それにより局所炎症の慢性状態を誘発および維持する、BおよびT細胞を含む特異的免疫応答に関連している。器官特異的自己免疫疾患の例としては、1型糖尿病、重症筋無力症、甲状腺炎および多発性硬化症が挙げられる。これらの各状態において、インスリン、アセチルコリン筋肉側受容体、甲状腺ペルオキシダーゼ、および主要塩基性タンパク質をそれぞれ含む、1つのまたは少数の自己抗原が同定されている。本器官特異的免疫応答の抑制は有益であり、器官機能の部分的または完全な回復をもたらすことが十分に認識されている。しかしながら、抗原特異的な方法でこのような免疫応答を抑制する治療法はない。現在の療法はむしろ、その特異性の非存在に関連する著しい副作用をすべて示し、それによりその使用およびその全体的な有効性を制限している、副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制剤の使用によって得られた非特異的抑制を利用する。表2は、器官特異的自己免疫障害に関連しており、本発明の文脈で想定される公知の自己抗原の例の非制限的なリストを示す。
【0103】
【表2】
【0104】
本発明により、免疫応答を引き起こす可能性を備えた抗原(自己または非自己)、たとえばアレルゲンまたは自己抗原、たとえば表2に記載するようなもののT細胞エピトープを含む免疫原性ペプチドが提供される。詳細な実施形態において、T細胞エピトープはドミナントT細胞エピトープである。
【0105】
したがって詳細な実施形態において、本発明の治療および予防方法は、本明細書に記載するような免疫原性ペプチドの投与を含み、該ペプチドは治療される疾患において役割を果たす抗原タンパク質(たとえば表2に記載したものなど)のT細胞エピトープを含む。さらなる実施形態において、使用したエピトープはドミナントエピトープである。
【0106】
本発明の文脈での使用のための、このような抗原タンパク質からの、さらに詳細にはアレルゲンまたは自己抗原からのT細胞エピトープの同定および選択は、当業者に公知である。
【0107】
本発明の文脈での使用に適切なエピトープを同定するために、抗原タンパク質の単離ペプチド配列は、ペプチド配列がT細胞応答を誘発するか否かを判定するために、たとえばT細胞生物技法によって試験される。T細胞応答を誘発することが見出されたペプチド配列は、T細胞刺激活性を有すると定義される。
【0108】
ヒトT細胞刺激活性は、たとえばダニアレルゲンに感受性である個体(すなわちダニアレルゲンに対するIgE媒介免疫応答を有する個体)から得たT細胞をアレルゲンに由来するペプチド/エピトープと共に培養することと、たとえばトリチウム化チミジンの細胞取り込みによって測定されるように、T細胞の増殖がペプチド/エピトープに応答して起こるか否かを判定することとによってさらに試験されうる。ペプチド/エピトープに対するT細胞による応答の刺激指数は、対照CPMによって除算された、ペプチド/エピトープに応答する最大CPMとして計算されうる。バックグラウンドレベルの2倍以上のT細胞刺激指数(S.I.)は、「陽性」と見なされる。陽性結果は、試験したペプチド/エピトープの群について各ペプチド/エピトープの平均刺激指数を計算するために使用する。
【0109】
非天然(または修飾)T細胞エピトープはさらに、MHCクラスII分子に対するその結合親和性に関して場合により試験されうる。これは異なる方法で実施されうる。たとえば溶解性HLAクラスII分子は、所与のクラスII分子についてホモ接合の細胞の溶解によって得られる。後者はアフィニティクロマトグラフィによって精製される。溶解性クラスII分子は、そのクラスII分子に対するその強い結合親和性に従って生成されたビオチン標識基準ペプチドと共にインキュベートされる。クラスII結合について評価されるペプチドは次に、各種の濃度でインキュベートされ、基準ペプチドをそのクラスII結合から置換するその能力はニュートラアビジンの添加によって計算される。方法はたとえば、Texierら(2000)J.Immunology 164,3177−3184)に見出されうる。
【0110】
本発明の方法により、T細胞エピトープの免疫原性特性は、それを還元化合物に結合させることによって上昇する。特に、本明細書に記載するような少なくとも1つのT細胞エピトープおよび還元化合物を含む本発明のペプチドは、2.0以上の平均T細胞刺激指数を有する。2.0以上のT細胞刺激指数を有するペプチドは、治療剤として有用であると見なされる。さらに詳細には、本発明によるペプチドは、少なくとも2.5、少なくとも3.5、少なくとも4.0、またはなお少なくとも5.0の平均T細胞刺激指数を有する。加えて、ペプチドは通例、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、または少なくとも約250の陽性指数(P.I.)指数を有する。ペプチドの陽性指数は、平均T細胞刺激指数に、チリダニに感受性の個体の集団における(たとえば少なくとも9名、少なくとも16名、または少なくとも29または30、あるいはなおそれ以上)、ペプチドに応答するT細胞を有する個体のパーセントを乗算することによって決定される(それゆえペプチド/エピトープの乱交雑特性が乗算されたSIに相当する)。それゆえ陽性指数は、チリダニに感受性である個体の集団におけるペプチドに対するT細胞応答の強度(S.I.)およびペプチドに対するT細胞応答の頻度の両方を表す。
【0111】
たとえばファインマッピング技法によって最適T細胞エピトープを決定するために、T細胞刺激活性を有し、それゆえT細胞生物技法によって決定されたような少なくとも1つのT細胞エピトープを有するペプチドは、ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端の
どちらかにおいてアミノ酸残基の付加または欠失によって修飾され、T細胞反応性における修飾ペプチドへの変更を判定するために試験される。T細胞生物技法によって判定されるように、ネイティブなタンパク質配列内で重複区域を共有する2つ以上のペプチドがヒトT細胞刺激活性を有することが見出される場合、このようなペプチドの全部または一部を含む追加のペプチドが生成可能であり、これらの追加のペプチドは同様の手順で試験されうる。本技法に従って、ペプチドが選択され、組み換えまたは合成によって生成される。T細胞エピトープまたはペプチドは、ペプチド/エピトープ(たとえば刺激指数)に応答するT細胞応答の強度および個体の集団におけるペプチドに対するT細胞応答の頻度を含む、各種の因子に基づいて選択される。
【0112】
且つおよび/またはあるいは、1つ以上のインビトロアルゴリズムは、抗原タンパク質内のT細胞エピトープ配列を同定するために使用されうる。適切なアルゴリズムとしては、これに限定されるわけではないが、次のウェブサイトに見出されるアルゴリズムが挙げられる:
−http://antigen.i2r.a−star.edu.sg/predBalbc/;
−http://antigen.i2r.a−star.edu.sg/predBalbc/:
−http://www.imtech.res.in/raqhava/mhcbn/;
−http://www.syfpeithi.de/home.htm;
−http://www−bs.informatik.uni−tuebingen.de/SVMHC;
−http://bio.dfci.harvard.edu/Tools/antigenic.html;
−http://www.jenner.ac.uk/MHCPred/。
さらに詳細には、このようなアルゴリズムは、MHC II分子の溝内に適合するであろう1つ以上のノナペプチド配列の抗原タンパク質内の予測を可能にする。
【0113】
本発明のペプチドは、細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞または哺乳類細胞において、組み換えDNA技法を使用して産生されうる。ペプチドの制限長を考慮して、それらはペプチドが異なるアミノ酸を相互に結合することによって調製される化学ペプチド合成によって調製されうる。化学合成は、たとえばD−アミノ酸、非天然型側鎖を備えたアミノ酸または修飾側鎖を備えた天然アミノ酸、たとえばメチル化システインの包含に特に適切である。
【0114】
化学ペプチド合成方法は十分に説明されており、ペプチドはApplied Biosystemsなどの会社および他の会社に注文できる。
【0115】
ペプチド合成は、固相ペプチド合成(SPPS)または反対に液相ペプチド合成のどちらかとして実施されうる。最も公知のSPPS方法は、t−BocおよびFmos固相化学である。
【0116】
ペプチド合成の間、複数の保護基が使用される。たとえばヒドロキシルおよびカルボキシル官能基はt−ブチル基によって保護され、リジンおよびトリプトファンはt−Boc基によって保護され、アスパラギン、グルタミン、システインおよびヒスチジンはトリチル基によって保護され、アルギニンはpbf基によって保護される。詳細な実施形態において、このような保護基は合成後にペプチドに残されうる。
【0117】
最初にKentによって記載され(Schnolzer & Kent(1992)I
nt.J.Pept.Protein Res.40,180−193)、たとえばTamら、(2001)Biopolymers 60,194−205で総説されているような、SPPSの範囲を超えたタンパク質合成を達成する多大な可能性を与えるライゲーション法(2つの未保護ペプチド断片の化学選択的結合)を使用して、ペプチドは互いに連結してより長いペプチドを形成するために相互に結合されうる。サイズが100〜300残基の多くのタンパク質が、本方法によって正しく合成されてきた。合成ペプチドは、SPPSにおける並外れた進歩のために、生化学、薬理学、神経生物学、酵素学および分子生物学の研究分野で高まり続ける重大な役割を果たし続けてきた。
【0118】
あるいはペプチドは、コードヌクレオチド配列を含む適切な発現ベクターにおいて本発明のペプチドをコードする核酸分子を使用することによって合成されうる。このようなDNA分子は、自動DNA合成装置および遺伝コードの周知のコドン−アミノ酸関係を使用して容易に調製されうる。このようなDNA分子は、オリゴヌクレオチドプローブおよび従来のハイブリダイゼーション方法を使用してゲノムDNAまたはcDNAとしても得られる。このようなDNA分子は、適切な宿主、たとえば細菌、たとえば大腸菌、酵母細胞、動物細胞または植物細胞におけるDNAの発現およびポリペプチドの生成に適している、プラスミドを含む発現ベクター内に包含されうる。
【0119】
目的のペプチドの物理的および化学的特性(たとえば溶解性、安定性)は、ペプチドが治療組成物での使用に適切であるかどうか/あろうかどうかを判定するために検査される。通例、これはペプチドの配列を調整することによって最適化される。場合によりペプチドは、当分野で公知の技法を使用して、合成後に修飾されうる(化学修飾、たとえば官能基の付加/欠失)。
【0120】
T細胞エピトープはそれ自体、抗原提示細胞の表面における適切なHLA分子に結合して、関連T細胞亜集団を刺激することによって、Tヘルパー細胞のレベルにおいて早期事象を引き起こすと考えられる。これらの事象は、T細胞増殖、リンホカイン分泌、局所炎症反応、追加免疫細胞の部位への補充、および抗体の生成につながるB細胞カスケードの活性化を引き起こす。これらの抗体の1つのアイソタイプであるIgEはアレルギー症状の発症において本質的に重要であり、その生成は事象のカスケードの早期に、Tヘルパー細胞のレベルにて、分泌されたリンホカインの性質によって影響される。T細胞エピトープはT細胞受容体による認識の基本要素または最小単位であり、該エピトープはタンパク質のアミノ酸配列中で近接している、受容体認識に必須であるアミノ酸残基を含む。
【0121】
しかしながら本発明によるペプチド(酸化還元配列に結合されたT細胞エピトープを含む)またはその組成物の投与時に、次の事象が起こると考えられる:
・MHC−クラスII分子によって提示された抗原(すなわちアレルゲンまたは自己抗原)由来ペプチドとの同種相互作用から生じる抗原(すなわちアレルゲンまたは自己抗原)特異的T細胞の活性化;
・その第2ドメインが束縛されたジスルフィド架橋を含有する、T細胞表面タンパク質、たとえばCD4分子(およびCD3も)減少させるレダクターゼコンセンサス配列。これはシグナルをT細胞内に形質導入する。増大した酸化経路に関連する一連の結果のうち、重要な事象はカルシウム流入の増加およびNF−κB転写因子の核への転座である。後者は、細胞に細胞傷害特性を獲得させるIFN−ガンマおよびグランザイムの転写増加をもたらす;
・細胞傷害性は、グランザイムB分泌、およびFas−FasL相互作用を含む機構によって、ペプチドを提示する細胞に影響する。抗原提示標的細胞の破壊は、同じ抗原に位置するエピトープに特異的な、または同じ抗原提示細胞によって処理されるであろう無関係の抗原に対して特異的な他のT細胞の活性化を防止する;
・T細胞活性化のさらなる結果は、細胞間接触依存機構によるバイスタンダT細胞の活性
化を抑制することである。このような場合では、異なる抗原提示細胞によって提示された抗原によって活性化されたT細胞も、細胞傷害性およびバイスタンダT細胞の両方が密に近接しているという条件で、抑制される。
【0122】
上で仮定された作用機構は、実験データによって実証される(下の実施例を参照)。一部の実験は加えて、細胞の生存に必須のアミノ酸であるトリプトファン異化の上昇はもちろんのこと、活性化Tregによる微粒子の生成も引き起こす、パーフォリン経路の関与および/または標的細胞におけるインドールアミンオキシダーゼの活性化も示唆している。
【0123】
後述するインビボモデルでの実験は、本発明によるペプチドまたはその組成物の投与(すなわち注射)が抗原特異的免疫応答を予防または抑制しうることを証明している。1例として、アレルゲンDer p 2に対する感作に起因する喘息のマウスモデルにおいて、上記の本発明によるペプチドを用いた予備免疫は、喘息の特徴である肺炎症性細胞浸潤を防止する。メタコリンの増加する投薬量の吸引によって測定されたような非特異的気道過敏性は、同じ実験プロトコルによって本質的に防止される。気管支肺胞液中への細胞の移動も完全に防止される(実施例4を参照)。さらに(組成物によって免疫化された動物に由来する)T細胞クローンの養子移入は、レシピエントにおける炎症細胞の浸潤および気道過敏症の両方を完全に防止および抑制する。本発明によるペプチドの投与により誘発されるこのようなT細胞クローンは、現在同定されているTreg、天然Tregまたは適応Tregのどちらからも該クローンを異なるものとする多数の表現型特徴を提示する。それゆえ細胞傷害性Tregは、CD103、CTLA−4、FasLおよびICOSを含む表面マーカーの発現増進を示す(活性化時)。それらは静止時ですらCD25高、そしてCD127低(IL7−R)である。転写因子発現はT−betを含むが、天然Tregの特徴であると考えられる転写抑制因子Foxp3は含まない。IFN−ガンマの高度生成とは別に、このようなクローンは、IL−10、IL−4、IL−5、IL−13またはTGF−ベータを分泌しないか、ごく微量分泌する。上の特徴は排他的ではないが、このような細胞傷害性Tregが他の公知のTregから区別できるという事実の例証として与えられている。
【0124】
したがって、なおさらなる態様において、本発明は、抗原特異的Tregをインビボまたはインビトロで産生する方法、およびそれと独立して上記の特徴的な発現データに基づいて他のTregから細胞傷害性Tregを識別する方法を提供する。
【0125】
本発明の1態様は、本発明の抗原特異的Tregの生成のためのインビボ方法に関する。詳細な実施形態は、本明細書に記載するように本発明のペプチドによって(ヒトを含む)動物を免疫化することと、次にTregを前記免疫化動物から単離することとによって、前記Tregを生成または単離する方法に関する。さらに詳細な手順は、本明細書に実施例の節に記載されており、本発明の一部である。
【0126】
本発明のさらなる態様は、本発明の抗原特異的Tregの生成のためのインビトロ方法に関する。Tregは免疫調節において重要であり、治療上の大きな可能性を有する。Tregベース免疫療法の有効性は、調節T細胞のAg特異性に決定的に依存する。その上、Ag特異的Tregの使用はポリクローナル増殖Tregに対して、療法に必要なTregの総数を減少させる。当分野で公知の方法を使用するインビトロでの調節T細胞の産生は、多数の重要な欠点を有する。単離末梢細胞のサンプル内のTregのパーセンテージは約5%であり、Tregの量が常に制限されているので、Treg細胞の培養は困難である。その上、このようにして産生されたTregは非特異的であり、それゆえ特異的免疫応答を抑制することができないが、患者に投与されたときに一般的な免疫抑制効果のみ有する。したがって非常に強力なAg特異的Tregの選択および増殖を可能にする選
択手順の開発のための方法が生み出されてきた。しかしながらこのようにして得られた抗原特異的Treg細胞の数は制限されたままである。
【0127】
本発明は、細胞傷害活性を有する抗原特異的調節T細胞を産生する方法を提供する。
1実施形態において、末梢血球の単離、本発明の免疫原性ペプチドによるインビトロでの細胞集団の刺激およびさらに詳細にはIL−2の存在下での刺激された細胞集団の増殖を含む方法が提供される。本発明による方法は、より多数のTregが生成されるという利点および抗原タンパク質に特異的なTregが産生されうる(抗原特異的エピトープを含むペプチドを使用して)という利点を有する。
【0128】
代わりの実施形態において、Tregは、たとえば本明細書に記載した免疫原性ペプチドの被験体への注射、およびインビボで産生されたTregの採取によって、インビボで産生されうる。
【0129】
本発明の方法によって得られる抗原特異的調節T細胞は、アレルギー反応の予防および自己免疫疾患の再発の治療における免疫療法のための哺乳類への投与にとって特に興味深い。異種細胞および自己細胞の両方の使用が想定される。
【0130】
したがって本発明の1態様は、後述するように特徴付けられる細胞傷害性Treg集団を提供することである。さらに詳細には、本発明のTreg集団の集団は、本明細書に記載する方法によって得られる。
【0131】
したがって本発明は、医薬としての使用のための、さらに詳細には養子細胞療法における使用のための、さらに詳細には急性アレルギー反応および多発性硬化症などの自己免疫疾患の再発の治療における、本発明による細胞傷害特性を備えた抗原特異的Tregを提供する。本発明は、本明細書に記載するように産生された前記単離TregまたはTreg細胞集団の使用、さらに詳細には免疫障害の予防または治療用医薬の製造のための本明細書に記載するように産生された抗原特異的Treg細胞集団にも関する。同様に、本発明は前記単離Tregまたは産生Treg集団を使用することによる治療方法に関する。
【0132】
本発明のさらなる態様は、細胞の発現特徴に基づいて細胞傷害性Treg細胞を他のTreg細胞から識別する方法を提供する。さらに詳細には、本発明による方法は、T細胞集団が非細胞傷害性Treg細胞集団と比較して、次の特徴の1つ以上を示すか否かを判定することを含む:
−活性化時におけるCD103、CTLA−4、FasLおよびICOSを含む表面マーカーの発現増進、
−CD25の高度発現、
−CD4、ICOS、CTLA−4、GITRの発現およびCD127(IL7−R)の低発現または無発現、
−転写因子T−betおよびegr−2(Krox−20)の発現、しかし転写抑制因子Foxp3の無発現、
−IFN−ガンマの高度生成およびIL−10、IL−4、IL−5、IL−13またはTGF−ベータがないか、ごく微量。
【0133】
さらに詳細には、本発明の方法は、細胞がCD4を発現すること、それらがIL−10またはTGF−ベータを発現しないこと、それらがKrox−20を発現して、グランザイムおよびFasリガンドを生成することを判定することを含む。最も詳細には、これらの細胞はさらに、TCR認識による活性化に応答しない細胞として機能的に選択される。さらなる詳細な実施形態において、該方法は上記の特徴すべてを判定することを含む。
【0134】
ここ数年、生理学的条件および病理学的条件の両方において調節T細胞(Treg)の特徴付けで大幅な進歩がもたらされている。さらに詳細には、一部の疾患治療にTregを使用する可能性が議論されている。本発明は、インビトロまたはインビボ誘導に使用された方法および特異的特性による、先に報告されたTregとは異なる抗原特異的養子Tregの新たに定義されたサブセットの開発を扱う。Tregは、2つの広範な種類、すなわち天然Tregおよび誘導(または適応)Tregに属する。天然Tregは最初に1995年にマウスで説明され、胸腺で能動的に選択されたCD4+T細胞のサブセットとして定義された。このような細胞は、静止細胞におけるCD25、GITR、CTLA−4およびLAG−3を含む多数の表面マーカーの発現を特徴とする。さらに近年では、天然TregはCD127(IL−7R)の発現の欠失によってさらに定義されている。Foxp3転写抑制因子は、天然Tregの選択で決定的な役割を果たす。Foxp3の変異は、天然Tregの非存在下で、多発性内分泌腺症、腸疾患、アトピー発現および致死的感染を伴うX連鎖免疫調節解除と共に生じる。このような天然Tregは、胃腸症候群を含む各種の炎症プロセスを抑制する。分子レベルにおいて、Foxp3はAP1との競合においてNFAT転写因子と結合して、それにより多数のサイトカインの転写を調節する。天然Tregの作用機構は鋭意調査中である。インビトロでは、このような細胞はIL−10およびTGF−ベータを生成する。インビボではしかしながら、IL−10および/またはTGF−bの中和は抑制を克服せず、他の機構が効果を現していることを示す。インビトロでは、天然Tregが細胞接触に依存した方法で適応応答を抑制する。興味深いことに、天然Tregはグランザイム−A(GZ−A)およびグランザイム−B(GZ−B)などのグランザイムプロテアーゼを発現する。なお議論の余地があるが、天然Tregのさらなるまたは代わりの作用機構は、グランザイムのエキソサイトーシスによって標的細胞を溶解させるその能力に依拠するように思われる。GZ−B欠乏Tregは、免疫応答を抑制するその能力を部分的に緩める。適応Tregは、共通して抗原特異的であり、バイスタンダT細胞に抑制活性を及ぼし、末梢にて誘導される必要のある、T細胞の異種ファミリを構成する。Th3細胞は、抗原の経口投与によって主に生成され、腸間膜リンパ節に見出される。このような細胞は、高レベルのTGF−ベータを可変量のIL−4およびIL−10と共に生成することによりその抑制活性を及ぼす。Tr1細胞は高濃度のIL−10および可変量のTGF−ベータを生成する。これらは未処理CD4+T細胞の高濃度のIL−10への曝露または抗CD3および抗CD46抗体による複合活性によってインビトロで誘導される。Th3細胞とTr1細胞との間の精密な関係は、特異的表現型マーカーの非存在下では確立されない。これらの2つの適応Tregの間の重複が存在するように思われるだけでなく、追加のサブセットも今後数年で定義されると思われる。適応Tregは、Foxp3抑制因子を発現しない。IL−10および/またはTGF−ベータなどの抑制サイトカインの生成とは別に、CD4+CD25(−)T細胞は抗CD3および抗CD46抗体刺激によって誘導されてグランザイム、主にGZ−Bを発現しうることが報告されている。これらの非特異的インビトロ誘導Tregがグランザイム分泌のために細胞傷害活性を及ぼすか否かは明らかでない。本発明のペプチドは、生存している動物、通例ヒトへの投与時に、バイスタンダT細胞へ抑制活性を及ぼす特異的T細胞を誘発するであろう。ペプチドは明らかに、同種相互作用後のT細胞の酸化代謝を活性化して、CD4分子の第2細胞外ドメインの束縛されたジスルフィド架橋を減少させる。
【0135】
本発明のペプチドは、ある抗原の特異的T細胞エピトープを含むが、同じ抗原の他のT細胞エピトープに対する免疫反応によって誘発された障害の予防または治療に、あるいはある状況で他の異なる抗原が同じ機構を通じて本発明のペプチドによって活性化されたT細胞の付近でのMHCクラスII分子により提示される場合は、他の異なる抗原の他のT細胞エピトープに対する免疫反応によって誘発された障害の治療にすら使用されうることを、本機構も示唆しており、実験結果が示している。
【0136】
本発明のさらなる詳細な態様はそれゆえ、CD4を発現すること、IL−10またはTGF−ベータを発現しないこと(他の適応T細胞はIL−10および/またはTGF−ベータを生成するが)、Krox−20を発現して、グランザイムおよびFasリガンドを生成することを特徴とするT細胞、特に詳細にはTregまたはT抑制細胞である細胞タイプに関する。さらに詳細には、これらの細胞はさらに、TCR認識による活性化に応答しない細胞として機能的に選択される。さらに詳細には、本明細書に記載した特徴を有するTreg細胞タイプの集団が提供され、それによりアネルギー応答は抗原特異的である。
【0137】
さらなる詳細な実施形態において、本発明のTreg細胞は、それらが:
−CD25、CD4、ICOS、CTLA−4、GITRの発現、およびCD127(IL7−R)の無発現、Foxp3を除く転写因子T−betおよびerg−2(Krox−20)の発現、
−活性化時のFasLならびにグランザイム(BおよびC)を含むマーカーの発現増進、−INF−ガンマの高度生成
を有することを特徴とする。
【0138】
さらなる詳細な実施形態において、本発明は、T細胞、特に詳細にはTregまたはT抑制細胞である細胞タイプであって、それらが:
−CD25、CD4、ICOS、CTLA−4、GITRの発現、およびCD127(IL7−R)の無発現、Foxp3を除く転写因子T−betおよびerg−2(Krox−20)の発現、
−活性化時のFasLならびにグランザイム(BおよびC)を含むマーカーの発現増進、−INF−ガンマの高度生成
を有することを特徴とする細胞タイプを提供する。
【0139】
最も詳細には、本発明のTreg細胞または細胞集団は、それらが:
−活性化時におけるCD103、CTLA−4、FasLおよびICOSを含む表面マーカーの発現増進、
−他の適応T細胞がCD25陰性であるが、CD25の高度発現、CD4、ICOS、CTLA−4、GITRの発現およびCD127(IL7−R)の低発現または無発現、
−転写因子T−betおよびegr−2(Krox−20)の発現、しかし他の適応T細胞がFoxp3陽性であるが、転写抑制因子Foxp3の無発現、
−IFN−ガンマの高度生成およびIL−10、IL−4、IL−5、IL−13またはTGF−ベータがないか、ごく微量、
−活性化時のFasLならびにグランザイム(BおよびC)を含むマーカーの発現増進
を有することを特徴とする。
【0140】
さらに詳細には、本発明は、加えて抗原特異的である、すなわち抗原特異的免疫応答を抑制できる、上記の特徴を有する細胞タイプの単離細胞集団を提供する。したがって本発明は、上記のように特徴付けられる単離抗原特異的Treg細胞を提供する。さらに詳細には、本発明は、Der p 2によって誘発される以外の抗原特異的Treg細胞を提供する。
【0141】
本発明によるペプチドは、当分野で周知の遺伝子療法方法でも使用でき、本発明で使用する、本明細書によるペプチドの使用について説明する用語は、本発明による免疫原性ペプチドをコードまたは発現する核酸の使用も含む。
【0142】
したがって本発明のさらなる態様は、本発明のペプチドをコードする核酸配列およびその使用方法に関する。
【0143】
哺乳類にてインビボで遺伝子療法によって本発明によるペプチド、そのホモログまたは誘導体のレベルを達成する各種の方法が、本発明の文脈内で想定される。
【0144】
タンパク質配列をコードする組み換え核酸分子は、標的細胞への送達のために、裸のDNAとしてあるいはリポソームまたは他の脂質系において使用されうる。ヒト遺伝子療法での使用のためのプラスミドDNAの細胞内への直接移入の他の方法は当業者に周知であり、プラスミドDNAをタンパク質へ複合体化することによりDNAを細胞の受容体に標的化することを含む。その最も簡単な形において、遺伝子移入は、微量注入のプロセスによって微量のDNAを細胞の核へ単に注入することによって実施されうる。組み換え遺伝子がいったん細胞内に導入されると、それらは細胞の通常の転写および翻訳機構によって認識可能であり、遺伝子産物が発現されるであろう。DNAをより多数の細胞に導入するための他の方法も試みられている。これらの方法は:DNAがリン酸カルシウムによって沈殿され、飲作用によって細胞内へ取り込まれる、形質移入;細胞がホールを膜中に導入するために大きい電圧パルスに曝露される、電気穿孔);標的細胞と融合する親油性小胞にDNAが充填される、リポフェクション/リポソーム融合;および小型発射体に結合されたDNAを使用する微粒子銃を含む。DNAを細胞中に導入する別の方法は、DNAを化学修飾タンパク質に結合することである。アデノウイルスタンパク質は、エンドソームを不安定化させて、DNAの細胞中への取り込みを増進させることができる。DNA複合体を含有する溶液へのアデノウイルスの混合、またはタンパク質架橋剤を使用する、アデノウイルスに共有結合したポリリジンへのDNAの結合は、組み換え遺伝子の取り込みおよび発現を実質的に改善する。アデノ結合ウイルスベクターも、血管細胞内への遺伝子送達にも使用されうる。本明細書で使用するように、「遺伝子移入」は、遺伝子によってコードされた特定の生成物の発現を可能にするために一般に実施される外来核酸分子を細胞中に導入するプロセスを意味する。前記生成物としては、タンパク質、ポリペプチド、アンチセンスDNAまたはRNA、あるいは酵素活性RNAが挙げられる。遺伝子移入は培養細胞において、または哺乳類への直接投与によって実施されうる。
【0145】
別の実施形態において、本発明によるペプチドをコードする核酸分子配列を含むベクターが提供される。詳細な実施形態において、核酸分子配列が特定の組織中のみで発現されるようにベクターが産生される。組織特異的遺伝子発現を達成する方法は、当分野で周知である。1実施形態により、これは、1つ以上の特定の組織で発現を指示するプロモータの制御下に本発明によるペプチドをコードする配列を配置することによって達成される。
【0146】
ウイルス、たとえばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、RNAウイルスまたはウシパピローマウイルスに由来する発現ベクターは、本発明のペプチド、そのホモログまたは誘導体をコードするヌクレオチド配列(たとえばcDNA)の標的組織または細胞集団内への送達に使用されうる。当業者に周知である方法を使用して、このようなコード配列を含有する組み換えウイルスベクターを構築する。
【0147】
したがって本発明は、アレルギーまたは自己免疫疾患の治療および/または予防のための、インビボで本発明のペプチドを発現できる核酸の使用を開示する。1実施形態により、インビボで本発明によるペプチドを発現できる核酸は、プロモータに操作可能に連結された、このようなペプチドをコードする配列である。このような配列は直接または間接的に投与されうる。たとえば本発明によるペプチドのコード配列を含有する発現ベクターは細胞中に挿入することができ、その後、前記細胞はインビトロで増殖され、次に患者に注射または輸液される。あるいはインビボで本発明によるペプチドを発現できる核酸は、細胞の内因性発現を修飾する配列である。遺伝子療法方法は、本発明によるペプチド、そのホモログまたは誘導体をコードするヌクレオチド配列または本発明によるペプチドをコー
ドする裸の核酸分子を含むアデノウイルスベクターの使用を含みうる。あるいは本発明によるペプチドをコードする核酸分子を含有する組み換え細胞が注入されうる。
【0148】
本発明による1つ以上のペプチドの投与が遺伝子移入によって保証される場合(すなわち投与時にインビボでの本発明によるペプチドの発現を保証する核酸の投与)、核酸の適切な投薬量は、たとえば投与後の血中ペプチド濃度を決定することによって、核酸の結果として発現されたペプチドの量に基づいて決定されうる。それゆえ詳細な実施形態において、本発明のペプチドは、発現ベクター中か否かにかかわらず、前記ペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用によって投与され、それゆえ本発明は遺伝子療法にも関する。別の詳細な実施形態は、免疫障害の治療または予防のための本発明のペプチドの局所過剰発現を誘導する方法の使用に関する。
【0149】
本発明のなお別の態様は、本発明による1つ以上のペプチドを含み、医薬的に許容される担体をさらに含む医薬組成物を提供する。上で詳説したように、本発明は、薬剤としての使用のための組成物、または前記組成物を使用することによって免疫障害の哺乳類を治療する方法、および免疫障害の予防または治療用の医薬製造のための前記組成物の使用にも関する。
【0150】
医薬組成物はたとえば、免疫障害、特に浮遊または食物由来アレルギーはもちろんのこと、アレルギー起源の疾患も治療または予防するのに適切であるワクチンでありうる。本明細書でさらに述べる医薬組成物の例として、本発明によるペプチドは、哺乳類への投与に適切なアジュバント、たとえば水酸化アルミニウム(ミョウバン)に吸着される。通例、ミョウバンに吸着されたペプチド50μgを皮下経路によって、2週間間隔で3回注射する。当業者には、経口、経鼻または筋肉内を含む他の投与経路が可能なことが明らかであることが望ましい。また、注射回数および注射量は、治療される状態に応じて変化しうる。さらにミョウバン以外の他のアジュバントは、それらがMHCクラスII提示でのペプチド提示およびT細胞活性化を促進するという条件で使用されうる。それゆえ活性成分は単独で投与されることが可能であるが、それらは通例、医薬調合物として与えられる。本発明の動物用およびヒト用の調合物はどちらも、上記のような少なくとも1つの活性成分を1つ以上の医薬的に許容される担体と共に含む。本発明の詳細な実施形態は、医薬的に許容される担体と混合された、活性成分として本発明による1つ以上のペプチドを含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、治療または予防方法に関して下で示されるような、活性成分の治療的有効量を含むことが望ましい。場合により、組成物は他の治療成分をさらに含む。適切な他の治療成分は、それらが属するクラスに応じたその通常の投薬量と同様に当業者に周知であり、免疫障害を治療するのに使用される他の既知の薬物より選択されうる。
【0151】
「医薬的に許容される担体」という用語は本明細書で使用するように、たとえば前記組成物を溶解、分散または拡散することによって治療部位へのその塗布または浸透を促進するために、および/またはその有効性を損なわずにその貯蔵、輸送または取り扱いを容易にするために、活性成分と共に処方されるいずれの材料または物質も意味する。それらはありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤(たとえばフェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(たとえば糖または塩化ナトリウム)などを含む。組成物中でのモノクローナル抗体活性成分の作用期間を制御するために、追加の成分も含まれうる。医薬的に許容される担体は、固体または液体または圧縮されて液体を形成する気体であってもよく、すなわち本発明の組成物は濃縮剤、エマルジョン剤、液剤、顆粒剤、ダスト剤、スプレー剤、エアゾール剤、懸濁剤、軟膏、クリーム、錠剤、ペレットまたは粉剤として適切に使用されうる。前記医薬組成物およびその調合物での使用のために適切な医薬担体は当業者に周知であり、本発明ではその選択には特定の制限はない。それらは添加剤、たとえば湿潤剤、分散剤、粘着剤、接着剤、乳化剤、溶媒、コーティ
ング、抗菌剤および抗真菌剤(たとえばフェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(たとえば糖または塩化ナトリウム)なども、それらが薬務と一致するという条件で、すなわち哺乳類に恒久的な損傷を生じない担体および添加剤を含みうる。本発明の医薬組成物は、いずれの公知の方法でも、たとえば選択された担体材料、および適切な場合には界面活性剤などの他の適切な添加剤と共に、1ステップまたは多ステップ手順で、活性成分を均質に混合、コーティングおよび/または粉砕することによって調製されうる。それらはたとえば通常約1〜10μmの直径を有するミクロスフェア形態で得る目的で、すなわち活性成分の制御または持続放出のためのマイクロカプセル製造のために、微粒子化によっても調製されうる。
【0152】
エマルジェントまたは乳化剤としても公知である、本発明の医薬組成物で使用される適切な界面活性剤は、良好な乳化、分散および/または湿潤特性を有する非イオン性、カチオン性および/またはアニオン性材料である。適切なアニオン性界面活性剤としては、水溶性石鹸および水溶性合成界面活性剤の両方が挙げられる。適切な石鹸は、高級脂肪酸(C10〜C22)の、アルカリまたはアルカリ土類金属塩、非置換または置換アンモニウム塩、たとえばオレイン酸またはステアリン酸の、あるいはヤシ油または獣脂油から入手できる天然脂肪酸混合物のナトリウム塩またはカリウム塩である。合成界面活性剤としては、ポリアクリル酸のナトリウム塩またはカルシウム塩;脂肪スルホネートおよびサルフェート;スルホン化ベンズイミダゾール誘導体およびアルキルスルホネートが挙げられる。脂肪スルホネートおよびサルフェートは通常、アルカリまたはアルカリ土類金属塩、非置換アンモニウム塩あるいは8〜22個の炭素原子を有するアルキルまたはアシルラジカルによって置換されたアンモニウム塩、たとえばリグノスルホン酸またはドデシルスルホン酸のナトリウムまたはカルシウム塩あるいは天然脂肪酸から得た脂肪アルコールサルフェート、硫酸またはスルホン酸エステルのアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえばラウリル硫酸ナトリウム)および脂肪アルコール/エチレンオキシド付加体のスルホン酸の混合物形態である。適切なスルホン化ベンズイミダゾール誘導体は通例、8〜22個の炭素原子を含有しうる。アルキルアリースルスホネートの例は、ドデシルベンゼンスルホン酸またはジブチル−ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、カルシウム塩またはアルカノールアミン塩あるいはナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒド縮合生成物である。対応するホスフェート、たとえばリン酸エステルの塩およびp−ノニルフェノールとエチレンおよび/またはプロピレンオキシドとの付加体、またはリン脂質も適切である。本目的のための適切なリン脂質は、セファリンまたはレシチン型の天然(天然または植物細胞から生じる)または合成リン脂質、たとえばホスファチジル−エタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセリン、リゾレシチン、カルジオリピン、ジオクタニルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびその混合物である。
【0153】
適切な非イオン性界面活性剤としては、分子中に少なくとも12個の炭素原子を含有するアルキルフェノール、脂肪アルコール、脂肪酸、脂肪族アミンまたはアミドのポリエトキシ化およびポリプロポキシ化誘導体、アルキルアレーンスルホネートおよびジアルキルスルホスクシネート、たとえば脂肪族および脂環式アルコール、飽和および不飽和脂肪酸およびアルキルフェノールのポリグリコール誘導体が挙げられ、前記誘導体は通例、(脂肪族)炭化水素部分に3〜10個のグリコールエーテル基および8〜20個の炭素原子を含有し、アルキルフェノールのアルキル部分に6〜18個の炭素原子を含有する。さらに適切な非イオン性界面活性剤は、ポリエチレンオキシドとポリプロピレングリコール、アルキル鎖中に1〜10個の炭素原子を含有するエチレンジアミノポリプロピレングリコールとの水溶性付加体であり、該付加体は20〜250個のエチレングリコールエーテル基および/または10〜100個のプロピレングリコールエーテル基を含有する。このような化合物は通常、プロピレングリコール1単位当たりエチレングリコールを1〜5単位含有する。非イオン性界面活性剤の代表的な例は、ノニルフェノール−ポリエトキシエタノ
ール、ヒマシ油ポリグリコールエーテル、ポリプロピレン/ポリエチレンオキシド付加体、トリブチルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリエチレングリコールおよびオクチルフェノキシポリエトキシエタノールである。ポリエチレンソルビタン(たとえばポリオキシエチレンソルビタントリオレアート)、グリセロール、ソルビタン、スクロースおよびペンタエリスリトールの脂肪酸エステルも、適切な非イオン性界面活性剤である。適切なカチオン性界面活性剤としては、ハロ、フェニル、置換フェニルまたはヒドロキシによって場合により置換された4炭化水素ラジカルを有する、4級アンモニウム塩、特にハライド;たとえばN置換基として少なくとも1個のC8〜C22アルキルラジカル(たとえばセチル、ラウリル、パルミチル、ミリスチル、オレイルなど)、さらなる置換基として、非置換またはハロゲン化低級アルキル、ベンジルおよび/またはヒドロキシ低級アルキルラジカルを含有する4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0154】
本目的のために適切な界面活性剤のさらに詳細な説明は、たとえば“McCutcheon’s Detergents and Emulsifiers Annual”(MC Publishing Crop.,Ridgewood,New Jersey,1981),“Tensid−Taschenbucw”,2d ed.(Hanser Verlag, Vienna,1981)および“Encyclopaedia of Surfactants,(Chemical Publishing Co.,New York,1981)に見出される。本発明によるペプチド、そのホモログまたは誘導体(および「活性成分」という用語にすべて含まれるその生理学的に許容される塩および医薬組成物)は、治療される状態に適切な、そして投与される化合物、ここではタンパク質および断片に適切ないずれかの経路によって投与されうる。考えられる経路としては、領域、全身、経口(固体形態または吸入)、経直腸、経鼻、局所(眼内、頬側および舌下を含む)、経膣および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、動脈内、髄腔内、および硬膜外)が挙げられる。好ましい投与経路は、たとえばレシピエントの状態および治療される疾患によって変化しうる。本明細書に記載するように、(複数の)担体は、調合物の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに対して有害でないという点で最適に「許容」される。調合物としては、経口、経直腸、経鼻、局所(頬側および舌下を含む)、経膣および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、動脈内、髄腔内、および硬膜外)投与に適したものが挙げられる。調合物は単位投薬形態で好都合に存在し、調剤分野で周知のいずれの方法によっても調製されうる。このような方法は、活性成分を1つ以上の副成分を構成する担体と結合させるステップを含む。一般に調合物は、活性成分を液体担体、または微粉化固体担体、あるいは両方と均質および密接に結合させて、次に必要ならば生成物を成形することによって調製される。経口投与に適切な本発明の調合物は、活性成分の所定の量をそれぞれ含有するカプセル剤、カシェ剤または錠剤などの別個の単位として;粉剤または顆粒剤として;水性液体または非水性液体中の液剤または懸濁剤として;あるいは水中油型エマルジョン剤または油中水型エマルジョン剤として与えられうる。活性成分は、ボーラス、舐剤またはペースト剤としても存在しうる。錠剤は、場合により1つ以上の副成分を用いて圧縮または成形によって作製されうる。圧縮錠剤は、場合により結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、保存料、界面活性剤または分散化剤と混合された粉末または顆粒などの易流動形の活性成分を適切な機械で圧縮することによって調製されうる。成形錠剤は、適切な機械で不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を成形することによって作製されうる。錠剤は場合によりコーティングまたは分割され、中の活性成分の低速または制御放出を提供するために調合されうる。
【0155】
たとえば関節などの皮膚への局所治療では、調合物は、たとえば0.075〜20%w/w(0.6%w/w、0.7%w/wなどの0.1%w/w刻みの0.1%〜20%の範囲で(複数の)活性成分を含む)、特に0.2〜15%w/wおよびさらに特に0.5〜10%w/wの量の活性成分を含有する局所軟膏またはクリームとして場合により塗布される。軟膏に調合されるとき、活性成分はパラフィン系または水混和軟膏ベースのどち
らかと共に利用されうる。あるいは活性成分は、水中油型クリームベースによってクリームへ調合されうる。所望ならば、クリームベースの水層はたとえば、少なくとも30%w/wの多価アルコール、すなわち2個以上のヒドロキシル基を有するアルコール、たとえばプロピレングリコール、ブタン、1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロールおよびポリエチレングリコール(PEG400を含む)およびその混合物を含みうる。局所調合物は望ましくは、皮膚または他の罹患範囲を通じた活性成分の吸収または浸透を強化する化合物を含みうる。このような皮膚浸透強化剤の例としては、ジメチルスルホキシドおよび関連類似物質が挙げられる。本発明のエマルジョン剤の油相は、公知の方法で公知の成分から構成されうる。該相は乳化剤(そうでなければエマルジェントとして公知)のみを含みうるが、該相は望ましくは、少なくとも1つの乳化剤と脂肪または油、あるいは脂肪および油の両方との混合物を含む。場合により、親水性乳化剤は、通例は油および脂肪の両方を含むことによって安定剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。同時に、(複数の)安定剤を含むまたは含まない(複数の)乳化剤はいわゆる乳化ワックスを構成して、ワックスは油および脂肪と共に、クリーム調合物の油性分散相を形成するいわゆる乳化軟膏ベースを構成する。
【0156】
医薬乳化調合物に使用されると思われる大部分の油中の活性化合物の溶解性は非常に低いため、調合物のための適切な油または脂肪の選択は、所望の化粧品特性を達成することに基づく。それゆえクリームは場合により、チューブまたは他の容器からの漏れを回避するために適切な稠度を備えた、べたつかず、色が付かず、洗い流せる製品であることが望ましい。直鎖または分枝鎖、1または2塩基アルキルエステル、たとえばジイソアジペート、イソセチルステアレート、ヤシ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、イソプロピルミリステート、ドデシルオレアート、イソプロピルパルミテート、および特にブチルステアレート、2−エチルヘキシルパルミテートまたはCrodamol CAPとして公知の分枝鎖エステルのブレンドが使用されうる。これらは要求される特性に応じて単独で、または組合せて使用されうる。あるいは高融点脂質、たとえば白色ワセリンおよび/または流動パラフィンあるいは他の鉱油が使用されうる。眼への局所投与に適切な調合物としては、活性成分が適切な担体、特に活性成分用の水性溶媒に溶解または懸濁されている点眼薬が挙げられる。活性成分は場合により、このような調合物に0.5〜20%、好都合には0.5〜10%、特に約1.5%w/wの濃度で存在する。口内での局所投与に適切な調合物としては、着香ベース、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカント中に活性成分を含む口内錠;不活性ベース、たとえばゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴム中に活性成分を含むトローチ錠;および適切な液体担体中に活性成分を含む口腔洗浄液が挙げられる。経直腸投与用の調合物は、たとえばココアバターまたはサリチル酸塩を含む適切なベースを用いた坐剤として提供されうる。担体が固体である経鼻投与に適切な調合物としては、嗅剤が摂取される方法で、すなわち鼻付近で保持された粉末容器からの鼻通路を通じた迅速な吸入によって投与される、たとえば20〜500ミクロンの範囲の粒径(30ミクロン、35ミクロンなどの、5ミクロン刻みの20〜500ミクロンの範囲内の粒径を含む)を有する粗い粉末が挙げられる。たとえば経鼻スプレー剤または点鼻薬としての投与のための担体が液体である適切な調合物としては、活性成分の水性または油性溶液が挙げられる。エアゾール投与に適切な調合物は在来の方法に従って調製でき、他の治療剤と共に送達されうる。膣内投与に適した調合物は、活性成分に加えて当分野で適切であることが既知である担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー調合物として提供されうる。非経口投与に適切な調合物としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬および調合物を対象のレシピエントの血液と等張性にする溶質を含有しうる水性および非水性滅菌注射用液剤;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含みうる水性および非水性滅菌懸濁剤が挙げられる。調合物は、単回用量または多数回用量容器、たとえば密封アンプルおよびバイアルとして提供され、注射のために使用直前に滅菌液体担体、たとえば水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件で貯蔵されうる。即時注射用液剤および懸濁剤は、上述
した種類の滅菌粉剤、顆粒剤および錠剤から調製されうる。
【0157】
代表的な単位投薬調合物は、活性成分の、本明細書で上述したような1日用量または単位1日分割用量、あるいはその適切な一部を含有するものでありうる。本発明の調合物が特に上で挙げた成分に加えて、問題の調合物の種類に関して当分野で在来の他の薬剤を含みうること、たとえば経口投与に適切な調合物が着香剤を含みうることが理解されることが望ましい。本発明によるペプチド、そのホモログまたは誘導体を用いて、活性成分として本発明の1つ以上の化合物(「制御放出調合物」)を含有する制御放出医薬調合物を提供し、活性成分の放出が制御または調節されて、より少ない投薬を可能にするかまたは所与の本発明の化合物の薬物動態学的または毒性プロフィールを改善する。別個の単位が本発明の1つ以上の化合物を含む、経口投与に適した制御放出調合物は、在来の方法に従って調製されうる。組成物中での活性成分の作用期間を制御するために、追加の成分も含まれうる。制御放出組成物はそれゆえ、たとえばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチル−酢酸ビニルコポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プロタミンサルフェートなどの適切なポリマー担体を選択することによって達成されうる。薬物放出速度および作用期間も、活性成分をハイドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメチルメタクリレートおよび他の上記のポリマーなどのポリマー性物質の粒子、たとえばマイクロカプセルに包含させることによって制御されうる。このような方法は、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセルなどのコロイド薬物送達系を含む。投与経路に応じて、医薬組成物は保護コーティングを必要としうる。注射に適切な医薬形態としては、滅菌水溶液または分散剤およびその即時調製用の滅菌粉剤が挙げられる。したがって本目的のための代表的な担体としては、生体適合性水性緩衝剤、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどおよびその混合物が挙げられる。複数の活性成分が組合せて使用されるときに、それらが治療される哺乳類においてその連携治療効果を直接、同時に必ずしも発揮しないという事実を考慮して、相当する組成物は2つの成分を個別のしかし隣接した容器または仕切りに含有する医療キットまたはパッケージの形態でもありうる。したがって後者の場合では、各活性成分は他の成分とは異なる投与経路に適切な方法で調合され、たとえばその1つは経口または非経口調合物の形態であるのに対して、残りは静脈注射用アンプルまたはエアゾールの形態である。
【0158】
本発明の実験部は、抗原特異的な、インビボ誘発型の、増殖しやすい、調節特性を持つT細胞のサブセットを示す。後者は:(1)樹状細胞およびB細胞の両方に影響を及ぼし、インビトロおよびインビボの両方で示された、MHCクラスII依存性同種活性化後のAPCアポトーシスの誘導、および(2)IL−10および/またはTGF−ベータの非存在下での接触依存性機構によるバイスタンダT細胞の抑制を含む。本発明はさらに、誘導された細胞傷害性Tregを天然および適応Tregの両方から識別する方法を開示する。15個のクローンの特徴付けに基づいて、表面表現型がCD25hi、CTLA−4hi、GITR+およびICOS+として定義されるが、CD127(−)は除く。このようなクローンは、低レベルのCD62LおよびCD103を発現するが、CCR7は発現しない。サイトカイン生成は、TGF−ベータまたはIL−10は伴わず、IFN−ガンマに限定された。すべてのクローンはFoxp3(−)であったが、グランザイムBに対する高い転写レベルと共に、T−betおよびEgr−2に対して強い陽性であった。天然TregはFoxp3の発現およびCD127の非存在によって定義され、少なくともインビトロで高レベルのIL−10を生成し、自己抗原に対して特異的である。これまでに述べた多数の適応T細胞の中で、大半がIL−10(そしてTh3細胞などの一部の場合ではTGF−ベータ)の生成を分担して、Foxp3およびCD25陰性である。T−betの強力な発現が細胞溶解性Tregにとって重要である。T−betはSTAT−1依存性経路を介してINF−γによって誘導され、IL−2転写の抑制、グランザイム転写の誘導を含む各種の活性を及ぼし、Th1分化の成熟因子である。
【0159】
本発明のT細胞クローンではIL−2の転写は見られず、興味深いことに外来性IL−2はインビトロで繰り返しされた刺激サイクルの後でも、IL−2転写を回復しなかった。これは細胞溶解性Tregが後成的変化を受けて、その調節活性をインビトロおよびインビボで維持することを示唆している。T−betはTh1サブセットの成熟に必要であるが、その発現は必ずしも細胞がこのような系統に属するとは言えない。T−betによるグランザイムBの誘導は、CD8+細胞溶解性T細胞によって観察されている。本明細書に記載したTregは、それらがその抗原受容体の架橋時にIL−2を増殖および/または生成できなかったという意味でアネルギー性である。興味深いことに、本アネルギー状態はIL−2の添加によって克服されうる。p21cip1およびp27kipなどの細胞サイクル阻害薬をアップレギュレートする、転写因子Egr−2(Krox−20)の高度発現が観察された。IL−2がおそらくNF−kBの活性化によってEgr−2媒介抑制に優先しうることが公知である。後者は、グランザイムの生成に対してT−betと相乗作用しうるグランザイム転写をアップレギュレートする。細胞がIL−2添加によって刺激されるときに調節特性が失われないことに留意すべきである。詳細な実施形態において、これはIL−2依存性活性化にその調節活性を与える外見的に安定な細胞サブセットである、本細胞溶解性Tregの特性である。アポトーシスの誘導は、調節活性の根底にある機構である。このことはカスパーゼ3および/またはアネキシンV結合の活性化を示すことによって、APCおよびバイスタンダT細胞の両方のレベルで示された。アポトーシスに至る2つの主要な経路が細胞溶解性Tregにおいて活性化されることが示された。GrBおよびパーフォリン生成の両方がTregの活性化によって誘導され、GrBの転写が増加したが、グランザイムAの転写は増加しなかった。GrBはGrAに対抗して、少なくとも2つの機構、すなわちプロカスパーゼ3の直接活性化および間接活性化によってアポトーシスを誘導し、間接活性化はミトコンドリアおよびカスパーゼ9活性化によるチトクロムCの放出によってである。GrBの特異的阻害薬は、アポトーシス誘導の著しい低下を、細胞傷害性に近い濃度においてのみ示した。EGTAが有意な程度までアポトーシスを少しも遮断しなかったので、パーフォリンがこのような活性にとって必要か否かは疑わしい。アポトーシスが誘導されうる第2経路は、Fas−FasL経路である。興味深いことに、FasLはグランザイムと共にエキソサイトーシス顆粒中に存在して、T細胞中でのFasL発現の主経路を構成する細胞活性化時に膜に固着する。FasLはFasを通じてシグナル伝達して、シトクロムCのミトコンドリアからの放出を通してカスパーゼ3およびカスパーゼ9の下流活性化と共に、カスパーゼ8活性化を引き起こし、それによりGrBと相乗作用する。アポトーシスの部分阻害はFasL特異的抗体を使用して得られた。GrBおよびFasL経路の相対的関与はFasL発現の程度によって決定された。それゆえFasの構成的高度発現を有するWehi細胞は、たとえば樹状細胞と比較して、Tregによって容易に溶解される。2つの阻害薬の組合せが標的細胞アポトーシスを消失させなかったことを予備実験が示しているので、GrBおよびFasLの複合作用がすべての細胞溶解活性を説明するか否かは十分に確証されていない。グランザイムは、一部のTregによって分泌されることが公知である。それゆえグランザイムBはヒトおよびマウスの両方で、天然Tregが免疫応答を制御する機構に関与する。GrB KOマウスは調節に欠陥を有する。しかしながら誘導されたTregがその調節活性を与えるためにグランザイムをどの程度まで使用するかを確証することは困難である。1つの報告は、抗CD3および抗CD46抗体によって活性化されたある割合のTr様TregがGrBを発現することを示している。グランザイムに関するまだ解決されていない問題は、特異的で効率的な阻害薬がないことである。本発明で使用されるような(実施例11)化学またはペプチド阻害薬は、活性となるために高い濃度を必要とした。Fas−FasL経路の使用は適応Tregで先に報告されておらず、天然CD4+CD25+TregもFas−Lを機構として使用できたことを示すデータはごくわずかである。注目すべきことに、アポトーシス誘導が樹状細胞およびB細胞によって観察され、1次および2次免疫応答の両方が調節されうることが示唆されている。加えて、さらに複合抗原
からの単一T細胞エピトープを認識するTregは、抗原提示細胞を除去することによってタンパク質全体に対する応答を抑制する能力を有する。これは、全アレルゲンDer p 2に対する応答が単一Tregクローンの養子移入後に抑制されるインビボデータによって十分に示されている。本効果は、バイスタンダT細胞が別のAPCとの相互作用によって活性化されているときでも、TregとエフェクタT細胞との間の細胞接触が可能であるという条件で、バイスタンダT細胞の抑制によって強化される。興味深いことに、Tregは各種の成熟段階、Th0、Th1またはTh2においてエフェクタT細胞を調節しうる。重要なのは、細胞溶解性Tregが標的細胞において、壊死ではなくアポトーシスを誘導することである。アポトーシス性APCは抑制で役割を果たしうる。抗原提示細胞によって取り込まれたアポトーシス細胞が耐性を誘導するが、これに対して壊死細胞はむしろ炎症を誘導することが実際に証明されている。インビボでは、肺内での炎症のほぼ完全な抑制が、壊死の代わりに標的細胞アポトーシスの証拠として確実に見なされることが望ましい。本発明の態様は、B細胞アポトーシスがインビボでも発生するということの証明である。それゆえp21−35を発現するトランスジェニックB細胞、続いて対応する特異性の細胞溶解性Tregを養子移入されたマウスは、脾臓で検出されたようなB細胞の完全な消失を示す。トランスジェニックB細胞が他の部位に移動したとは思えない。このような細胞の証拠は肺または肝臓で見出されなかった。p21−35トランスジェニック細胞の機能特性は、在来のロードアッセイにおいてペプチドでインキュベートされたB細胞の機能特性と同じである。ここではトランスジェニックB細胞が細胞溶解性Tregとの同時培養によって、インビトロでアポトーシスへと誘導されることが示され、APC細胞溶解のインビボ関連性の良好な証拠が示されている。IL−10の考えられる関与に対して特に注意が払われた。天然Tregは、全部ではないにしても大半の記載された適応Tregのサブセットと同様にIL−10を生成する(Levingsら(2002)Int.Arch.Allergy Immunol.129,263−276)。これらのサブタイプの1つは、アレルゲンに対する呼吸による曝露の後に誘導され、Foxp3、GATA3を発現して、IFN−γを発現しなかった(Akbariら(2002)Nature medicine 8,1024−1032)。強いTh1分極状態の間に(アジュバントとしてリステリア菌)の間に別のタイプが誘導され、Fox3、T−betを発現して、IFN−γを生成した(Stockら(2004)Nat.Immunol.5,1149−1156)。どちらのサブセットもIL−10依存性機構による気道過敏症および炎症を阻害できた。Foxp3陰性細胞傷害性TregあるいはSTAT3またはSP1活性化による、IL−10生成の証拠はなかった。アポトーシスの誘導が、トランスウェル実験で示されたような直接細胞接触を必要とする観察と、細胞溶解性Tregすべてによって高レベルで生成されるIFN−ガンマによるIL−10転写の公知の抑制は、細胞傷害性Treg活性へのIL−10の著しい関与に対する証拠として解釈された。驚くべきことに、必要であったのはミョウバンなどの弱いアジュバントだけである。興味深いことに、CFA/IFAにて行われたmp21−35ペプチドによる免疫化は、気道炎症および過敏症を抑制するのになおさらに効果的であったが、このことは肺内への多数のTh1リンパ球蓄積には不利であった。加えて、このことはCFAにおける免疫化が細胞溶解性Tregを誘発できなかったことを示す。システインのメチル化はMHCクラスII提示を増加させたが、このことはペプチドの安定性向上およびAPCによる取り込み増加に起因する。興味深いことに、Der p 2の2番目に主要なT細胞エピトープ、p71−85に対して細胞溶解性Tregを誘導することは可能でなかった。イソロイシン28のアスパラギンによる置換は、MHCクラスII分子への結合親和性を低下させ、このことは細胞溶解性Tregの誘発にとって有害でないことが示された。T細胞エピトープを持つ変化を受けたペプチドは、結合親和性および/またはTCR認識のどちらかを上昇させるか、あるいは予測が困難な結果である、耐性を誘導することが報告されている。この場合において、エフェクタおよび細胞溶解性Tregは同じエピトープを認識し、インビトロでp21−35によって、その野生種および変異配列のどちらかにおいて増殖されうる。
【0160】
本試験の興味深い態様は、細胞溶解性TregがアレルゲンDer p 2への気道曝露時に肺に向かって移動することの証明であり、これは末梢アレルゲン感作の非存在下においてであった。Tリンパ球の肺への誘引に関与するケモカインは精密には同定されていない。本明細書に記載した細胞溶解性TregはCD103を発現するが、CCR7は発現せず、このことはそれらに炎症組織へ移動する能力を付与する。CCR5およびCCR3などの他のケモカインは検出されなかった。しかしながら細胞溶解性Tregが養子移入されたマウスに1週間間隔の3回の点鼻投与を2連続した、本明細書で使用したモデル系は、アレルゲン吸入のみを受けさせた対照マウスで見られたような、肺での著しい炎症を誘発しない。末梢感作およびアレルゲン吸入を含む喘息実験モデルにおいて、Tregが、気管支喘息の特徴である炎症性浸潤および気道過敏症の両方を予防および抑制する能力を有することが示された。アレルギー喘息に罹患している患者の大多数に関与している主アレルゲン、Der p 2のLPSを含まない組み換え形態を使用した。並行試験では、p21−35ペプチドがDer p 2に感作された患者からのCD4+エフェクタT細胞を活性化することが判定された。このような患者に由来するp21−35特異的T細胞クローンは、マウス細胞溶解性Tregの特性に匹敵する特性を示し、これは細胞溶解性TregがDer p 2などのアレルゲンに対する正常な免疫応答の一部として産生されることを示唆している。
【0161】
これらの観察は、診療所でアレルギー性喘息を治療するための本発明による細胞溶解性Tregの有用性を裏付けている。細胞溶解性TregはMHCクラスII制限エピトープ提示によって活性化および容易に増殖され、臨床用途に必要とされる特異性を与える抑制性サイトカインを生成しない。加えてこのようなTregは、マイコバクテリウムまたはCFAなどの細菌由来物質を必要とせずに、在来のアジュバント、すなわちミョウバンを使用して免疫化時に得られる。非特異的刺激薬、すなわちメタコリンに対する気道過敏症がアレルゲン感作後でさえ著しく低下したという観察が最も有望である。気道炎症および過敏症が必ずしも関連付けられていないため、このことは予想外であった。実際に、Der p 2に対する喘息モデルにおいて、2つの現象は相互から解離している。
【0162】
本発明はここで、制限する意図なしで与えられる次の実施例によって例証されるであろう。さらに本明細書に記載したすべての参考文献は、参照により本明細書に明示的に含まれる。
【実施例1】
【0163】
実施例1:P21−35は、チオレドキシン/グルタレドキシンコンセンサス配列を含有する。
【0164】
表1は、異なる生物からのタンパク質中のp21−35の断片およびC−X(2)−S酸化還元モチーフとの間のアミノ酸配列相同性を示す。
【0165】
図1は、p21−35がインスリン還元アッセイ(比濁アッセイ)中のジスルフィド架橋を減少させる能力を示す。ここでDL−ジチオスレイトールを含有するインスリン溶液(1mg/ml)を還元タンパク質またはペプチドまたは対照によって25℃にて20分間インキュベートした。次にpH7における還元インスリンの沈殿による650nmにおける光学密度の上昇(Y軸)を異なる時点(X軸)にて測定した。p21−35(B4)[配列番号:4]の組み換えテトラマーを、正の対照としての組み換えチオレドキシンと共に使用した。
【実施例2】
【0166】
実施例2:抗原提示細胞によるp21−35の取り込みは、サブドミナントt細胞エピト
ープの添加によって上昇する(図2)。
【0167】
WEHI B細胞のアポトーシスの誘導は、抗原取り込みおよび提示の尺度として使用した。ペプチドp21−35特異的Tregクローン(比1/1)および低下する濃度のペプチドp21−35(X軸)、または破傷風毒素からのマイナーTエピトープに結合された同じペプチド(p830−844;T−B)と混合された、WEHI B細胞(2x10個)。18時間後、細胞を抗CD19−PE抗体(WEHI細胞のマーカー)およびアポトーシスマーカーであるアネキシンV−FITCで標識した。サンプルは次にフローサイトメトリで分析した。結果は、アネキシンVに対して陽性のWEHI細胞の割合を示している。図2に示すように、ペプチドp21−35がマイナーT細胞エピトープに結合されたときに、アポトーシスを誘導する能力の100倍の上昇が観察された。
【実施例3】
【0168】
実施例3:チオレドキシン様コンセンサス配列に関与するアミノ酸残基は、調節特性の発現に役立つ。
【0169】
図3のパネルAは、ペプチドp21−35内のチオレドキシン様配列モチーフの位置を示す。CHGS[配列番号:3]配列は、MHCクラスII結合溝に隣接している。チオレドキシン様C−X(2)−Sモチーフの残基21Cまたは残基S24のアラニン置換は、Tregクローンの増殖(H−チミジン取り込み)によって測定されたようにT細胞エピトープ認識を損なわず、図3のパネルBに示されている。増殖は、ペプチド6μMを用いて37℃にて1時間インキュベートしたWEHI細胞5x10個を使用して実施した。細胞を次に洗浄して、T細胞5x10個と共に4日間同時培養した。培養終了の24時間前にH−チミジンを添加した。繊維ガラスフィルタに吸着させた細胞で放射能をカウントした。残基21および24の置換は、実施例2に記載したように実施したアポトーシス誘導アッセイ(図3のパネル2を参照)においてTregクローンが抗原提示細胞を溶解させる能力を無効にする。
【実施例4】
【0170】
実施例4:マウスへのT−Bb注射時の、生理学的特性を備えたTregの産生。
ペプチドT−BがDer p 2誘導喘息を予防する能力を次のように評価した。BALB/cマウス8匹の群(図4でTbalumとして示す)に、ミョウバンに吸着させたT−Bペプチドを用いて2週間間隔で実施された3回の足踵注射(注射1回当たり20μg)を行った。最後の注射の2週間後、すべてのマウスに、ミョウバン吸着全長rDer
p 2(注射1回当たり40μg)の2週間間隔での腹腔内注射3回、続いて生理食塩水中rDer p 2の点鼻投与(投与1回当たりPBS 50μl中rDer p 2
100μg)を行った。結果は、rDer p 2によって処理されたが、ペプチド注射は投与されなかったマウスの群(図4で「Der p 2モデル」として示されている)との比較によって評価した。図は、ペプチドを用いた予備免疫がメタコリンの濃度上昇に対する反応性によって判定されたサイトスピン(図4、パネルA)、肺組織診断スコア(図4、パネルB)および気道過敏症(図4、パネルC)にて評価されたBAL細胞カウントを著しく減少させることを示している。
【実施例5】
【0171】
実施例5:同種Treg細胞の酸化代謝に対するP21−35の効果。
P21−35に特異的なTregクローン(細胞10個)を、PBS(図5、パネルA)、ペプチドp21−35(PBS 200μl中20μg/ml;図5、パネルB)または反応性酸素種(ROS)の誘導物質であるtert−ブチルヒドロペルオキシド(PBS中100μM;図5、パネルC)によって90分間インキュベートした。次に細胞を、生細胞中のROS用の蛍光発生マーカーであるカルボキシ−H2DCFDA(12μ
M)によって30分間標識して、次にフローサイトメトリによって分析した。図は、ペプチドp21−35が同種Treg細胞の酸化代謝を刺激して、ROSの増加による蛍光強度の倍加を誘発することを示す。
【実施例6】
【0172】
実施例6:TREG細胞クローンが抗原提示細胞に対する細胞傷害特性を示す。
Treg系統(G121)の細胞傷害特性を、抗原提示細胞として使用されるWEHI
B細胞系に対して試験した。図6は、細胞傷害性細胞系のみ(WEHI(細胞10個)+T細胞(細胞10個))、p21−35ペプチドの添加を伴うT細胞系(WEHI+T細胞+p21)、またはp21−35ペプチドが予備ロードされたWEHI細胞(WEHIp21+T細胞)の存在下での、14時間にわたって溶解された細胞の%を示す。WEHI細胞の溶解は、JAMアッセイ(DNA断片化の定量的アッセイ)を使用して測定した。WEHI細胞10個は、H−チミジン(4.5μCu/ml、1ml)を用いて37℃にて10時間予備インキュベートして、次に洗浄してTreg系統と同時培養した。上清中でのH−チミジンの放出は、WEHI細胞溶解の尺度として解釈した。データは、T細胞系を活性化するためにペプチドの存在が必要とされることを示している。
【実施例7】
【0173】
実施例7:TREG細胞クローンは、同じ抗原上の別のエピトープに対して特異的な、または別の抗原に対して特異的なT細胞の活性化を細胞傷害性によって抑制する(図7)。
【0174】
Der p 2とは無関係のアレルゲンである、Der p 1に対して特異的な、またはDer p 2に位置する代替的なメジャーT細胞エピトープ(p71−85)に対して特異的なT細胞系(TCL;細胞10個)をCFSE(細胞質タンパク質の標識であり、細胞分裂するたびに50%まで低下する染色強度に基づいて、細胞分裂回数を評価できるようにする)によって標識した(12.5ナノM)(図7)。このようなCFSE標識Der p 1特異的TCL(パネルAおよびB)またはp71−85TCL(パネルCおよびD)の増殖を、細胞毒性Tregクローン(比1/1)によるインキュベーションの前(パネルAおよびC)または後(パネルBおよびD)に測定した。抗原提示細胞には、特異的アレルゲン(Der p 1またはDer p 2;それぞれの場合で10μg/mlを含有する、0.5ml)およびペプチド21−35(10μg/mlを含有する、0.5ml)の両方を予備ロードした。インキュベーションの72時間後、細胞を採取して、ヨウ化プロピジウムで染色して、フローサイトメータで分析した。図のパートBおよびDのヒストグラムおよびパーセンテージは、残存する生CFSE陽性細胞の割合を表す(生細胞は、ヨウ化プロピジウム陰性であることによって区別された)。図は、ペプチド21−35に対して特異的な細胞傷害性Tregクローンが、2つのバイスタンダT細胞それぞれの増殖(CFSE分割)を大きく低減させたことを示している。CFSE染色細胞の大半は、アポトーシスマーカーのヨウ化プロピジウムに陽性となり、バイスタンダT細胞がアッセイにて死滅したことが示された。
【実施例8】
【0175】
実施例8:Treg細胞の表現型プロフィールの判定。
図8は、実施例4のようなペプチドT−B組成物によって処理したマウスに由来する、4つのp21−35特異的Tregクローンのサイトカイン生成を示す(左パネル)。細胞培養物の上清は、抗原提示細胞(未処理マウスからの照射脾臓細胞10個)およびペプチドp21−35(2μg/ml、200μl)による刺激の4日後にサイトカイン含有量について分析した。Tregクローンは主にIFN−γ(IFN−G)と、ごく微量のTNF−α(TNF−a)およびIL−10を生成した。右パネルは、このようなTreg細胞のm−RNA分析を示す。転写抑制因子Foxp3の転写物は検出されなかったが、T−bet、グランザイムAおよびグランザイムBは強い転写レベルを示した。
【0176】
図9は、蛍光励起細胞分取(Facs)による静止時の21−35ペプチド特異的T細胞クローンの各種遺伝子の発現レベルを示す。表4には、4つの異なるクローン(T1〜T4)(細胞2x10個)の平均蛍光強度が与えられている。高レベルのCD25、ICOS、GITR、CD103および細胞内CTLA−4が観察された。CD28は無発現であるか、不十分に発現された。CD62−LおよびCD45RBは低レベルで発現された。すべての抗体はBecton−Dickinson(NJ、USA)からであった。
【0177】
【表3】
【実施例9】
【0178】
実施例9:細胞傷害特性を備えたTreg細胞は、グルタレドキシン様コンセンサス配列に結合されたアレルゲンDer p 1のドミナントT細胞エピトープより成るペプチドを用いた免疫化によって誘発される(図10)。
【0179】
BALB/cマウスSNYCQIYPPNANKIR p114−128[配列番号:5]によって認識されたアレルゲンDer p 1のドミナントT細胞エピトープは、大腸菌k12からのグルタレドキシン様コンセンサス配列を持つ配列CGFS(モチーフ配列[配列番号:6])に従って合成された。後者は、T細胞エピトープのアミノ末端に付加された(s114をP1とする)。
【0180】
全ペプチドは配列CGFSSNYCQIYPPNANKIR[配列番号:7]を有する。グルタレドキシン様コンセンサス配列[配列番号:5]を含まないDer p 1 T細胞エピトープを含有する配列を対照として使用した。
【0181】
T細胞エピトープを晩期エンドソームにターゲティングするために、どちらのペプチドもリンカー配列SGGSGGSGG[配列番号:8]によって配列のアミノ末端にて、gp75タンパク質の膜貫通ドメインおよび切断サイトゾル側末端に相当する配列IITIAVVAALLLVAAIFGVASCLI RSRSTKNEANQPLLTDS[配列番号:9]のアミノ末端に結合される(ジロイシンベースモチーフには下線が付けてある)。
【0182】
ターゲティング配列、リンカー、モチーフおよびエピトープ配列を含むペプチドの全配列は:
CGFS SNYCQIYPPNANKIR SGGSGGSGG
IITIAVVAALLLVAAIFGVASCLIRSRSTKNEANQPLLTDS [配列番号:10]であるが、これに対して配列CGFS[配列番号:6]を含まない対照ペプチドは配列:
SNYCQIYPPNANKIR SGGSGGSGG
IITIAVVAALLLVAAIFGVASCLIRSRSTKNEANQPLLTDS[配列番号:11]を有する。
【0183】
BALB/cマウスの群を実験用ペプチド[配列番号:10]または水酸化アルミニウムに吸着された対照ペプチド[配列番号:11]によって皮下的に免疫化した(20μg)。2週間間隔で3回の注射を実施した。最後の免疫化の10日後に、マウスを屠殺処分して、磁気ビーズを用いて脾臓からCD4+T細胞を調製した。次にCD4+T細胞(細胞2x10個)をインビトロで、抗原提示細胞として作用する接着脾臓細胞によって提示されたDer p 1 T細胞エピトープ(20μg)によって刺激した。
【0184】
刺激の10日後に、各群で得た特異的T細胞系の数を限界希釈分析によって計算した。各細胞系は、実施例6に記載したように、MHCクラスII決定基による抗原提示におけるその有効性のために選択されたB細胞系であるWEHI細胞を溶解させるその能力について評価した。グルタレドキシンコンセンサス配列を含有するペプチドによって免疫化された動物より得た細胞のみがWEHI細胞を溶解させる能力を獲得して、溶解は同種Der p 1 T細胞エピトープの存在下でのみ起こる。
【0185】
図10は、Treg特性を備えたT細胞クローンが、対照ペプチドを投与されたマウスからではなく、グルタレドキシン様酸化還元モチーフおよびgp75に結合されたDer
p 1エピトープより成る構築物を投与されたマウスからだけ由来しうることを示す。構築物による処理後に得られ、インビトロで再刺激されたすべてのT細胞クローンは細胞傷害性であった。
【実施例10】
【0186】
実施例10:多発性硬化症のインビボモデルにおけるMOGタンパク質のドミナントT細胞エピトープの使用。
【0187】
多発性硬化症は、MOGタンパク質のアミノ酸残基37−52に相当する、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)ペプチドVGWYRSPFSRVVHLYR[配列番号:12]による免疫化によって実験モデル内で誘導されうる。本ペプチドは、ドミナントT細胞エピトープを含有する。P1位置、すなわちMHCクラスII溝内に固着された第1アミノ酸は、Y40である(P1−P9配列には下線が付いている)。ペプチドのアミノ末端のアミノ酸3個は、ヒトチオレドキシン配列、残基21〜24)に相当する配列CGPS[配列番号:13]によって置換され、ペプチドCGPSYRSPFSRVVHLYR[配列番号:14]を生じる。T細胞エピトープを晩期エンドソームにターゲティングするために、実験ペプチド[配列番号:14]および対照ペプチド[配列番号:12]は、リンカー配列SGGSGGSGG[配列番号:8]によって、HLA−DMβタンパク質の膜貫通ドメインおよび切断サイトゾル側末端に相当する配列VSVSAVTLGLGLIIFSLGVISWRRAGHSSYTPLPGSNYSEGWHIS[配列番号:15]のアミノ末端にて結合される(チロシンベースモチーフには下線が付けてある)。
【0188】
ターゲティングされたペプチドの配列は:
VSVSAVTLGLGLIIFSLGVISWRRAGHSSYTPLPGSNYSEGWHIS SGGSGGSGG CGPS YRSPFSRVVHLYR[配列番号:16]および
VSVSAVTLGLGLIIFSLGVISWRRAGHSSYTPLPGSNYSEGWHIS SGGSGGSGG YRSPFSRVVHLYR[配列番号:17]である。
【0189】
C57BL/6マウスの群は、多発性硬化症様症候群を誘導することになっているプロトコルの後に、CD4+MOG特異的エフェクタT細胞クローンが養子移入される。これは完全フロイントアジュバント中のMOGペプチドの投与および百日咳毒素の注射2回を含む。本プロトコルはエフェクタT細胞クローンの増殖を誘発し、これはMOGペプチド投与後12日以内に多発性硬化症と一致する徴候の発症を引き起こす。
【0190】
C57BL/6マウスの第2の群は、MOG特異的調節T細胞クローン(上記のペプチド[配列番号:16および17]を使用して得た)が最初に養子移入され、1日後に疾患誘導の完全プロトコルが続く。
【0191】
細胞溶解性T細胞クローンによって予備処理されたマウスが発生させた臨床スコアは、エフェクタT細胞クローンのみを投与されたマウスと比較して著しく低下することが観察される。
物質および材料
マウス。6〜8週齢のBALB/cマウスを組織内施設より入手した。インビボ試験は、University of Leuvenの倫理委員会によって承認された。
【0192】
試薬。ヤケヒョウダニグループ2アレルゲン(Der p 2)Der p 1および破傷風トキソイドに由来するペプチドを合成した(純度、>85%)。配列は:p21−35、CHGSEPCIIHRGKPF[配列番号:2];p114−128(Der p 1からのアミノ酸114−128)、SNYCQIYPPNANKIR [配列番号:5];p830(破傷風トキソイドからのアミノ酸830−844)、QYIKANSKFIGITEL[配列番号:18];mp21−35 QYIKANSKFIGITELGGCHGSEPCIHRGKPF[配列番号:19];mp21−35Asn QYIKANSKFIGITELGGCHGSEPCIHRGKPF[配列番号:20]である。組み換え全長Der p 2はピキア・パストリス中で産生された。
【0193】
アレルゲン感作。動物は第1日目、第14日目および第28日目に、AL(OH) 6mgに吸収された組み換えアレルゲン40μgの腹腔内注射によって感作された。第43日目、第44日目および第45日目に、マウスを点鼻投与によって生理食塩水50μl中のアレルゲン100μgに曝露し、全身プレチスモグラフによる第1回の肺機能測定を続けた。第50日目、第51日目および第52日目には第2シリーズの点鼻投与を実施して、全身プレチスモグラフによる肺機能の判定を続けた。
【0194】
細胞精製。ペプチド免疫化後に脾臓CD4 T細胞を得た。Ficoll密度勾配精製(Nycomed Pharma)の後、それらはCD4 T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)およびLS分離カラムを使用して陰性選択によって濃縮した。脾臓樹状細胞は、LS分離カラムでCD11cマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用して陽性選択した。それらを5μg/ml LPS(Sigma)によって5時間刺激して、次に洗浄し、COインキュベータ内で18時間保管した;生細胞は死細胞およびアポトーシス細胞を、LSカラム上のアネキシンVマイクロビーズおよびMidiMacs(すべてMiltenyi Biotecより)によって除去することによって回収した。
【0195】
Bリンパ球は未処理BALB/cマウスの脾臓細胞から、CD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用して陽性選択によって調製した。抗原提示細胞として、脾臓細胞をLD除去カラム上のCD90マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)によってT細胞から除去した。一部のアッセイにおいて、脾臓接着細胞は脾臓細胞を培地中で37℃にて2時間インキュベートすることによって調製した。非接着細胞を除去して、残存する細胞をアッセイのために回収した。
【0196】
肺リンパ球は、先に記載されたように(Abrahamら(1990)J.Immunol.144,2117−2122)、コラゲナーゼ(Sigma)消化およびPercoll (Pharmacia)遠心分離によって調製した。
【0197】
細胞培養。樹状細胞、T細胞およびB細胞を5% FCS、50μM 2−ME、200μg/mlゲンタマイシン(Invitrogen)を含有するRPMI 1640培地中で培養した。Wehi231細胞は欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)より購入した。
【0198】
エフェクタT細胞クローンG221Nは、ペプチドp21−35に対して特異的である。
【0199】
G121、R3TB7、T1およびT3は、本試験にて試験される細胞溶解性T細胞クローンを同定する(実施例11において)。
【0200】
ペプチド処理アッセイ。増殖アッセイで試験されたペプチドp21−35に特異的なエフェクタT細胞クローンであるG221Nは、APCとして使用される脾臓接着細胞である。それらを0.2μMロイペプチン、0.1mMクロロキン、60μMコルヒチンのいずれかで予備処理するか、未処理のまま30分間放置した。PBSによる3回の洗浄の後、APCにペプチドp21−35、mp21−35またはDer p 2を37℃にて1時間ロードした。それらを次に培地で2回洗浄して、G221Nクローン(それぞれ10個)に72時間にわたって添加した。エンドサイトーシスを遮断するために、APCもNaN3/デオキシグルコース(それぞれ2mg/ml、50mM)でペプチドを用いたインキュベーション時間全体にわたって処理して、冷PBSによる洗浄を3回続けた。
増殖は、最後の18時間の間に〔H〕チミジン(ICN)1μCi/ウェルの添加によってアッセイした。細胞を採取して、包含された同位体をカウントした(cpm)。データは、ペプチドロードAPCによって刺激されたG221N T細胞について得られたcmpを未ロードAPCによって得られた値で除算することによって計算された刺激指数として表された。
【0201】
調節T細胞クローンの誘導体化。BALB/cマウスを、2週間間隔の、ミョウバン中の20μg/mlペプチドmp21−35Asnの足踵注射3回によって免疫化した。最後の注射の10日後、脾臓CD4+T細胞を、ペプチドmp21−35Asnの存在下で、未処理マウスからのT細胞除去脾臓細胞によって刺激した。10日後、細胞を同じ条件で、しかし10U/mlマウスII−2(Roche)を用いて再刺激した。5回目の再刺激の後、T細胞を10U/mlIL−2の存在下で限界希釈によってサブクローニングした。次の特異的刺激は、20U/mlマウスIL−2の存在下で実施した。G121 T細胞系は上述のように誘導した(Janssensら(2003)J.Immunol.171,4604−4612。)
FACS分析。FACSCalibur(Becton Dickinson)を分析フローサイトメトリに使用して、データをCellQuestソフトウェアによって分析した。最後の再刺激の10日後、T細胞をCD25、CD28、CD62−L、CD103、CD45RB、ICOS、CTLA−4、およびCD11c(Pharmingen)、GITR、Foxp3、Granzyme−B、T−bet(4B10)、パーフォリン、CD127、およびVb8.1 TCR(eBioscience)に対する抗体によって染色した。
【0202】
バイスタンダ抑制アッセイ。標的CD4+CD25−T細胞およびTヘルパークローンを37℃のPBS中で125nM CFSE(Molecular Probes)によ
って15分間標識した。30%FBSを含有するPBSによって細胞を洗浄することによって、反応を停止させた。これらの細胞(3x10個)を10個の細胞傷害性CD4+T細胞クローンおよびT細胞除去脾臓細胞と共に1μg/ml抗CD3抗体(eBioscience)を用いて同時培養した。Tヘルパークローンの抑制のために、細胞10個を同じ数の細胞傷害性細胞およびT細胞除去脾臓細胞と共に同時培養した。48時間または72時間後に、細胞を収集して、フローサイトメトリによって分析した。
【0203】
一部の培養では、FAS−L、GITR、LAG−3に対する遮断抗体を10μg/ml(eBioscience)にて使用した。トランスウェルアッセイを24ウェルプレート(Becton Dickinson)で実施した。
【0204】
アポトーシス検出。アネキシンV−FITCまたは−PEを使用して、B細胞、樹状細胞およびT細胞における細胞死を検出した(アネキシンV検出キット、BD Biosciences)。一部の実験において、アポトーシスは、製造者の説明書に従った、FITC−またはPE−標識抗体(Pharmingen)を用いた活性化カスパーゼ−3の細胞内検出によって、またはヨウ化プロピジウム(PI)染色溶液(Pharmingen)を用いた核標識によって測定した。
【0205】
GZ−B活性の阻害には、指示された濃度でZ−AAD−CMK(Calbiochem)または3,4−ジクロロイソクマリン(DCIC)(SIGMA)を全同時培養期間中に添加した。
【0206】
サイトカイン検出。Treg細胞100万個を照射T細胞除去脾臓細胞300万個によって72時間にわたって再刺激した。各種のサイトカインの存在について上清を判定した。IL−10およびIL−13は、OptEIAマウスElisaキット(BD Biosciences)を使用して評価した。TGF−βおよびIL−13は、DuoSet抗マウスTGF−b1またはDuoSet抗マウスIL−13アッセイキット(R&D Systems)によってそれぞれ評価した。IL−2、IL−4、IL−5、IFN−γおよびTNF−α生成は、Th1/Th2サイトカインCBAキット(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリによって分析した。
ポリクローナルCD4+細胞刺激のために、細胞10個を照射T細胞除去脾臓細胞(未処理マウスより)5x10個および10μg/ml Der p 2で72時間刺激した。
【0207】
ポリクローナルCD4+細胞増殖。ペプチド処理マウスからの脾臓CD4細胞10個をT細胞除去脾臓細胞10個および10μg/ml mp21−35、5μg/mlペプチドp830または10μg/ml Der p 2によって刺激した。(H)−チミジン取り込みをすでに記載したようにアッセイした。結果は、個別に3通り試験されたマウス6匹からの平均アイソトープカウント(cpm)±標準誤差として示す。
【0208】
気道過敏性。気道過敏性(AHR)は、公開された方法(Hamelmannら(1997)Am.J.Resp.Crit.Care Med.156,766−775)に従って、全身プレチスモグラフ(EMKA)を使用して、拘束されていないマウスで測定した。ピーク向上休止(peak enhanced pause(PenH))を気管支収縮のパラメータとして使用した。動物を、用量を増加したエアゾール化メタコリン(10〜100mg/ml)に1分間曝露し、3分間の休止が続き、その間に呼吸パラメータを評価した。PenH値は、各メタコリン曝露後の3分間の期間にわたって30秒ごとに実施した測定の平均として表した。肺コンプライアンスは、FlexiVentシステム(Scireq)によって測定した。
【0209】
気管支肺胞洗浄液収集(BALF)。メタコリンチャレンジの3日後、マウスを屠殺処分して、気管を分離し、カニューレを挿入した。BALFは、5%BSA(サイトカイン検出のために使用)を含有する生理食塩水1ml、次に続いて生理食塩水1mlx2によって洗浄して収集した。細胞カウントが確証された。1400rpmで6分間の遠心分離によってサイトスピンを調製して、染色した(Diff−Quik法)。細胞同定のために3つの別のフィールドにおいて細胞100個をカウントした。
【0210】
肺組織診断。肺は、4%ホルムアルデヒドによって固定して、脱水し、切片作製(7μm厚スライド)のためにパラフィン包埋して、ヘマトキシリン/エオシンで染色した。好酸球はMay−Gruenwald Giemsa染色によって検出した。気道粘膜における杯細胞は、過ヨウ素酸シッフ反応(PAS)によって同定した。PAS陽性細胞をカウントして、全上皮細胞のパーセンテージとして表した。各マウスについて、中央気管支からはもちろんのこと、細気管支からの各肺切片より5フィールドを検査した。好酸球およびリンパ球浸潤の密度を次のように等級付けした:非存在:0;低いが組織的ではない:1;低い:2;低い〜中程度:3;中程度:4;中程度〜高い:5;高い:6。
【0211】
スライドをすべて、マウスが属した群を知らない病理学者を含む2名が検査した。
移入T細胞の分析では、肺をパラホルムアルデヒドで固定して、20%スクロースを用いて一晩凍結保護して、OCT培地中で急速凍結した。クリオスタット切片(9μm)を切断して、アセトン中で固定し、アンチフェード試薬(ProLong Gold;Invitrogen)をマウントして、共焦点顕微鏡法によって分析した。分析は、3CCDビデオカメラ(DXC−93OP、Sony)に接続されたZeiss Axioplan2、およびKS300ソフトウェア(Zeiss)で実施した。
【0212】
Bリンパ球におけるペプチドの標的化発現。腫瘍レトロウイルスpMND−SNベクターはUSCのD.Kohn博士より入手した。リンカーSer−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly[配列番号:8]によって連結されたp21−35(Der p 2のアミノ酸21〜35)およびgp75のカルボキシ末端(アミノ酸488〜539)を含有する融合構築物をPCRによって作製して、pMNDベクター内にクローニングした。先に記載されたように、生じたベクターpMND−p21gp75をウイルスタンパク質をコードするベクターと併せて用いて293T細胞を一過性形質移入して、腫瘍レトロウイルス生成細胞を得た(Janssens W.ら、Human gene therapy 14,263−276(2003))。50μg/ml細菌LPSによって24時間予備活性化させた脾臓B細胞を、ポリブレン(6μg/ml)およびLPS(50μg/ml)の存在下で、濾過したウイルス含有上清と同時培養した。次に、未処理BALB/cマウスへの養子移入前に、B細胞を徹底的に洗浄した。
【0213】
mRNAの分析。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および逆転写酵素PCR(RT−PCR)を先に記載されたように実施した(Janssens W.ら(2003),Human gene therapy 14,263−276。)T細胞では、細胞10個を再刺激後、第12日目に分析した。プライマー配列は:グランザイムA、(フォワード)5’ctctggtccccggggccatc 3’[配列番号:21]および(リバース)5’tatgtagtgagccccaagaa 3’[配列番号:22];グランザイムBの場合、(フォワード)5’ctccacgtgctttcaccaaa
3’[配列番号:23]および(リバース)5’ggaaaatagtacagagaggca 3’[配列番号:24];β−アクチンの場合、(フォワード)5’cattgtgatggactccggagacgg 3’[配列番号:25]および(リバース)5’catctcctgctcgaagtctagagc 3’[配列番号:26]。アニーリング温度は、27サイクルにわたって55℃であった。
【0214】
インビボでの形質導入B細胞の検出。pMND−p21gp75形質導入B細胞と、続くT細胞クローン移入を受けたマウスを屠殺処分して、脾臓B細胞をCD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)によって精製した。全RNA5μgをcDNA調製のために逆転写した。PCRはcDNAに対して、レトロウイルスベクター特異的プライマー(フォワード)5’ccctttatccagccctcactc 3’[配列番号:27]および(リバース)5’cctggggactttccacaccc 3’[配列番号:28]を使用して実施した。アニーリング温度は、28サイクルにわたって56℃であった。
【0215】
統計分析。平均間の差を評価するために、非パラメトリックアッセイを使用した(Mann−Whitney U検定)。気管過敏性を判定するために、曲線下面積を計算して、差をMann−Whitney U検定によって評価した。
【実施例11】
【0216】
実施例11:インビボ誘導細胞溶解性CD4+CD25+調節T細胞は実験的喘息を予防および抑制する。インビボでの抗原特異的調節T細胞の誘発
第1の細胞溶解性CD4+CD25+T細胞クローン(G121)は、アレルゲンDer p 2のメジャーT細胞エピトープを含む合成ペプチドp21−35で免疫化されたマウスより得た。このような細胞溶解性T細胞の頻度は、同じ特異性のCD4+エフェクタ細胞の頻度と比較すると、極めて低かった。ミョウバンなどの代わりのアジュバントを使用して、同じ特性を備えたT細胞を得る試みは、成功しなかった。
【0217】
これは、たとえば迅速な分解および/または不十分な晩期エンドソーム取り込みによる不十分なペプチド提示のためでありうる。G121調節T細胞クローンによって抗原提示細胞(APC)として使用されるB細胞系(Wehi細胞)のアポトーシスを誘導する、ペプチドの各種の形のインビトロでの能力を試験した。2つのシステインのメチル化は、ペプチドの安定化(p21−35met)を向上させうる。あるいは公知のサブドミナントT細胞エピトープを持つペプチドにp21−35を結合させることは、晩期エンドソーム取り込みを向上させうる。BALB/cマウスにおいて、破傷風トキソイドのアミノ酸残基830〜844を含む配列は、このようなマイナーエピトープ(QYIKANSKFIGITEL、[配列番号:18])を表す。したがってグリシン2個によってp21−35に結合された破傷風トキソイドのアミノ酸830〜844を含む合成ペプチドが生成され(QYIKANSKFIGITELGGCHGSEPCNIHRGKPF、[配列番号:20])、安定性の理由でシステイン2個もメチル化された(修飾ペプチド、mp21−35)。mp21−35は、G121 Tregの存在下でWehi細胞アポトーシスを誘導するのに、p21−35と比較して100倍効果的である(図11a)。p21−35(p21−35met)のシステイン残基2個のメチル化も、MHCクラスII提示を向上させ、この安定化されたペプチドはmp21−35と同じくらい効果的であった。mp21−35の構成要素2個の順序を逆転させることによって作製した対照ペプチドは、WEHI細胞アポトーシスの誘導において不十分であった。
【0218】
p21−35のメチル化形態(p21−35met)または結合された変形(mp21−35)を、細胞溶解性T細胞の十分なインビボ誘発に関して試験した。BALB/cマウスをミョウバン中のDer p 2によって免疫化して、脾臓CD4+T細胞のインビトロ再刺激は、Der p 2が刺激に使用されたときには強い増殖を示したが、p21−35提示にはわずかな応答を示した(図11b:生理食塩水対照群)。次に、BALB/cマウスの予備免疫化によってmp21−35がCD4+T細胞増殖を防止する能力を、mp21−35またはp830−844およびp21−35met、すなわちmp21−35の2つのペプチド構成要素の混合物のどちらかによって試験した。これには、上のようにミョウバン中のDer p 2の腹腔内投与が続いた。Der p 2誘導増殖の
著しい低下は、mp21−35が予備免疫化に使用されたときにのみ観察された(図11b)。Der p 2で刺激されたCD4+脾臓細胞によって作製されたサイトカインの生成は対照群と、2つの独立したペプチド構成要素によって予備免疫化した群とで同じであり(図11c)、Th2様応答を示した。mp21−35で予備処理した群において、サイトカイン生成は検出できない濃度まで低下した。
【0219】
注目すべきことに、mp21−35またはペプチドの混合物のどちらかによって予備処理されたマウスから得たCD4+脾臓細胞のインビトロ刺激は、p830−844に対する増殖(図11b)、またはサイトカイン生成を誘発せず、破傷風トキソイド由来のペプチドがTregの産生を妨害しなかったことを示す。
【0220】
mp21−35は、各種の阻害薬の存在下でのp21−35エフェクタT細胞(G221N)の活性化を判定することによって示されるように(図11d)、効果的な提示のために処理される必要があった。このことは、p21−35met、mp21−35およびDer p 2が抗原提示細胞への内部移行(NaN3/デオキシグルコースによって阻害)、晩期エンドソームとの融合および晩期エンドソームの酸性化(それぞれコルヒチンおよびクロロキノンによって阻害)を必要としたことを示す。ロイペプチン、セリン/システインプロテアーゼ阻害薬の添加による阻害が存在しないことによって示されるように、MHCクラスII分子がアミノ酸15個までの配列を収容する能力を反映して、ペプチド処理はp21−35metには不要であった。
【0221】
まとめて考えると、これらのデータは、mp21−35が、その2つの構成要素の混合物とは対照的にインビボで効率的に処理されたことと、mp21−35による予備免疫がアレルゲン特異的T細胞活性化を予防したこととを示している。調節がT細胞エピトープの類似物質によってより容易に達成されうることを示すという発見に基づいて、腹腔内免疫化後に各種の単一アミノ酸p21−35変異体がCD4+T細胞を誘発する能力をミョウバン中で判定した。詳細には、P4 MHCクラスIIアンカー残基に相当する公知の位置であるlle28Asn変形のある変異ペプチドは、T細胞増殖を誘導する能力のごくわずかな低下を示した。したがってmp21−35(mp21−35Asn)の変異形を本実施例の残りの実験で使用した。
【0222】
Tregクローンの誘導体化および表現型特徴付け
表現型分析のためのT細胞クローンは、ミョウバン中のmp21−35Asn、CFA/IFA(完全または不完全フロイントアジュバント)中のmp21−35Asn、Der p 2または対照としての生理食塩水のいずれかを注射されたマウスの脾臓に由来した。合計17個のクローンが得られ、その増殖はIL−2の添加に完全に依存していた。これらのクローンはCD25の発現を判定する前に、10日間静止のまま維持された。陽性クローンは次に、アネキシンV結合をリードアウトとして使用して、p21−35ロードWehi細胞のアポトーシスを誘導するその能力についてスクリーニングした。ミョウバン中mp21−35Asnで免疫化されたマウスに由来するCD4+CD25+T細胞クローン(8/8)はすべて細胞溶解性であることが示されたが、CFA/IFA中のmp21−35Asnによって(0/5)、またはDer p 2によって免疫化されたマウスから(0/4)は、このようなクローンは得られなかった。興味深いことに、少数のCD4+エフェクタT細胞が非免疫化マウスから得られたが(下を参照)、いずれも細胞溶解性でなかった。
【0223】
細胞溶解性Tregの表現型を特徴付けした。別個の免疫化から得た合計15個のクローンについても、同様の結果を得た。表面マーカーの代表的なFacs結果を図12a(1つの代表的なクローン)および表5(4つのクローン)に示し、均質な発現レベルが示されている。
【0224】
【表4】
【0225】
すべてのクローンは、CD62LおよびCD103の低い発現、ならびにケモカイン受容体CCR7のほぼ検出できない発現ではあるが、顕著である高レベルのCTLA−4、GITRおよびICOS1を発現した。Foxp3ではなく、T−betは均一に発現されたが、CD127はごく微量であった(図12b)。加えて、Tregクローンは、高レベルのグランザイムBおよびパーフォリンを発現する。RT−PCR実験は、検出可能なレベルのグランザイムA mRNAを示すが、グランザイムBよりもはるかに低いレベルである(図12c)。サイトカイン分泌パターンは、ほぼIFN−ガンマのみを示すが、IL−10を示さないか、ごくわずかなIL−10を示し、TGF−ベータは示さなかった(図12d)。表面結合TGF−βは検出されなかった。
【0226】
すべての細胞溶解性Tregは、添加されたIL−2の非存在下で抗原活性化に応答しなかったためアネルギー性であった。後者は、再刺激サイクル後に示されるように、IL−2転写を回復することなく、調節特性の消失を伴わずに、アネルギーを逆転させた。これは、おそらくT−betの過剰発現に関連した後成的変化を示唆している。加えてこれらのクローンは、細胞サイクル陰性調節因子の転写を活性化することが公知である、erg−2を高レベルで発現した。
【0227】
これらの細胞は高レベルのCD44を発現したが、CD45RB(そして上記のようなCD62L)の低い発現を示し、それらを記憶細胞として同定した。抑制性サイトカインの生成が存在しないことは、その作用機構が細胞間接触を必要とすることを示唆している。グランザイムおよびパーフォリンの発現は、このようなクローンを細胞溶解の可能性を備えたT細胞に位置付けられるとした。最後に、Vβ8.1の優勢を示す細胞溶解性TregのVβの用法が判定され、一部のクローンはVβ7ファミリに属していた。多数のクローンのベータ鎖が配列決定されて、CDR3における著しい相違が示され、それはp21−35ペプチドに対する応答がオリゴクローナルであることを示した。
【0228】
したがってTregクローンを機能的に評価して、標的細胞溶解の機構およびバイスタンダT細胞抑制を誘発するその能力の両方を判定した。
【0229】
抗原提示細胞におけるアポトーシスの誘導
抗原提示細胞の溶解は、B細胞および樹状細胞の両方で得られた。p21−35が予備ロードされた、未処理BALB/cマウスからの脾臓B細胞は、対照CD4+エフェクタp21−35特異的T細胞が添加されたときではなく(図13a:右パネル)、R3TB7細胞溶解性T細胞クローン(すなわち同様の方法で得られた、細胞溶解活性を備えた別のT細胞クローン)によってインキュベートされたときにのみ(図13a:左パネル)、カスパーゼ3活性化に対して誘導された。アネキシンVをアポトーシスマーカーとして使
用して同じ実験を繰り返して、同じ結果を得た。
【0230】
実験は、p21−35ロードCD11c+樹状細胞(図13b:左パネル)またはWEHI細胞(図13b:右パネル)を用いて実施した。R3TB7を用いたインキュベーション時に、本質的にすべての樹状細胞(DC)またはWehi細胞は、カスパーゼ3活性化によって測定されたように、アポトーシスへ誘導された。アネキシンVを用いて同じ実験が実施され、同一の結果を示した。
【0231】
アポトーシスはFas−FasL経路またはグランザイムを含有する細胞傷害性顆粒の分泌のどちらかによって誘導されうる。これらの経路それぞれを阻害する試みが行われた。上昇する濃度のFasLに対する抗体またはグランザイムB阻害薬の、p21−35ロードWEHI細胞および細胞溶解性T細胞クローンを含有する細胞培養物への添加は、生存WEHI細胞の数を用量依存方法で増加させた(図13c)。多数の実験において、抗FasL抗体がWEHI細胞生存を80%まで回復したことが示された。グランザイムB阻害薬によって、そして細胞傷害性に近い高用量が使用されたときにのみ、生存の部分的な回復のみが得られ、グランザイムBが細胞溶解性の多くの原因とならないことが示された。追加の実験では、顆粒エキソサイトーシスの阻害薬としてEGTAが使用され、再度Wehi細胞生存の部分的な回復のみを示した。
【0232】
標的細胞溶解が細胞間の接触を必要としたか否かがさらに評価された。このためにp21−35(または並行実験においてmp21−35Asn)がロードされたCD11+DCを使用した。ロードされたDC細胞をG121細胞溶解性T細胞クローンと共にインキュベートしたときに、アネキシンV発現によって測定されたように、溶解が細胞の89%で観察された(図13d、左パネル)。同じ実験をトランスウェルシステムで実施したときに、DC溶解は15%に制限され、溶解が細胞間の直接接触を必要とすることを示した(図13d、右パネル)。
【0233】
APC溶解が細胞溶解性T細胞との直接接触を必要としたことをp21−35のMHCクラスII提示によってさらに確認するために、p21−35または無関係なペプチド(p71−85)のどちらかがロードされたWehi細胞の2つの同じ集団において実験を実施した。これらの2つの集団は、CFSE標識の差によって区別されうる。図13eから、p21−35を提示するWEHI細胞は完全に溶解されたが、p75−85ロード細胞のわずか40%が影響されたことがわかる。
【0234】
全体として、細胞溶解性T細胞クローンがMHCクラスII依存性ペプチド提示による免疫シナプスの形成を必要とする機構によって、DCおよびB細胞のアポトーシスを誘導したことが明らかになる。Fas−FasLの著しい関与が示されているが、グランザイムBは制限された関与のみである。
【0235】
バイスタンダT細胞抑制
バイスタンダT細胞抑制の機構は、ポリクローナルCD4+CD25(−)T細胞によって、そして各種のCD4+エフェクタT細胞クローンによって調査した。
【0236】
最初にTregが、抗原提示細胞の存在下で抗CD3活性化後にCD4+CD25(−)T細胞の増殖を抑制する能力をアッセイした。2つの細胞溶解性T細胞クローン(G121およびR3TB7)について得られた結果を図14aに示す。検出可能なCD4+CD25(−)T細胞の数は、観察された分裂の回数と同様に、2つの細胞溶解性クローンのどちらか一方が添加されたときに(左上および中パネル)、48時間のインキュベーション中に劇的に低下した。本効果は、第2のT細胞クローンで72時間にてより顕著であった(下中パネル)。興味深いことに、芽球形成を示す垂直軸からわかるように、活性化
CD4+CD25(−)T細胞のみが溶解された。Tregが同数の未標識CD4+CD25(−)T細胞によって置換された対照実験(右パネル)は、培地中の全細胞の変動数に関連した、考えられるアーチファクトを除去した。
【0237】
次に抑制の動力学を分析した。図14bに示す実験において、CFSE標識CD4+CD25(−)T細胞の48%および78%が、図14aと同じアッセイ系を使用して、細胞溶解性Treg(R3TB7)とのそれぞれ18時間および24時間の同時インキュベーションの後に、アネキシンVを発現することがわかる。
【0238】
このように迅速な効果は、CD8+細胞傷害性T細胞によって使用されたのと同様の分泌経路の関与を示唆している。したがって、培養物へのEGTAの添加による顆粒エキソサイトーシスの阻害が抑制を阻害するか否かを検証するために実験を繰り返した。基本的に、バイスタンダT細胞の抑制の阻害は、2つの濃度のEGTAによって72時間後に観察されなかった(図14c)。
【0239】
次に定義された特異的および異なる表現型のT細胞クローンが、非特異的抗CD3活性化の代わりに、対応する抗原の同種認識によって活性化されるときに、細胞溶解性T細胞によって抑制されうるか否かが評価された。このために3つのクローン、すなわち同じ源からの第2の無関係なアレルゲン(Der p 1)に対して特異的なTh2細胞、Der p 2の第2のメジャーT細胞エピトープ(アミノ酸71−85)に特異的なTh1細胞および破傷風トキソイドの830−844サブドミナントT細胞エピトープに特異的なTh0クローンがBALB/cマウスから誘導体化された。これらの3つのクローンそれぞれをここで報告したすべてのアッセイ系で使用した。各アッセイでの単一クローンについての結果を示すが、結果はアッセイおよびクローンの考えられるすべての組合せで確認した。
【0240】
アッセイの第1のセットでは、T細胞除去脾臓細胞による対応する抗原の提示後にCFSE標識細胞を使用して、T細胞クローンの増殖を測定した。培地中の栄養素の競合によるアーチファクトを除去するために、CFSE標識Th2クローンに同量の未標識Th2クローンを添加した。Der p 1に対して特異的なTh2クローンは、72時間の期間にわたって測定されたように容易に増殖した(図14d)。並行アッセイにおいて、APCにまたp21−35をロードして、細胞溶解性T細胞クローンを1/1の比でDer
p 1特異的Th2クローンに添加した。図は、Th2クローンの5%のみが72時間のインキュベーション後に生き残ったことを示す。図は、全インキュベーション期間にわたってFasLへの特異的抗体の添加が抑制の部分阻害を引き起こしたのに対して(36%残存Th2クローン)、抗GITRまたは抗Lag3抗体は効果を有さなかったことも示す。Der p 2に対するTh1クローンおよび破傷風トキソイドに対するTh0クローンによって同じ結果が得られた。したがって活性化がMHCクラスII同種相互作用を通じて起きる条件で、クローンは成熟状態とは無関係に細胞溶解性T細胞による抑制を受けやすかった。
【0241】
接触相互作用が細胞溶解性T細胞とバイスタンダT細胞との間で必要か否かに関する問題は、トランスウェル培養系で調査した。結果を図14eに示す。p21−35およびp71−85の両方をロードしたT細胞除去脾臓細胞は、p71−85特異的Th1クローンの増殖を維持した。p21−35細胞溶解性Tregの添加は増殖を抑制した(中パネル)。ペプチドロードAPCがトランスウェル培養系にて隔離され、細胞溶解性細胞系が1つのコンパートメントに、71−85特異的Th1クローンが第2のコンパートメントに添加されたとき、抑制は観察されなかった(右パネル)。したがって抑制は溶解性因子によって媒介されなかったことが結論付けられる。これらの実験は、Der p 1に対してTh2細胞クローンを使用して確認した。
【0242】
細胞溶解性Tregは、バイスタンダT細胞芽球形成を効率的に抑制した。バイスタンダT細胞の平均細胞サイズは、図14fに示すように活性化細胞溶解性Treg(R3TB7)の存在下で同時培養するときには、ごくわずかに増大する。これには、CFSE標識バイスタンダ細胞によって測定されたように、細胞死の割合の上昇が伴った。細胞死のパーセンテージは、バイスタンダ細胞単独では26%、細胞溶解性クローンの代わりに対照p830−844クローンを使用して36%、活性化を伴わない細胞溶解性クローンで34%、活性化ペプチドの存在下での細胞溶解性クローンで51%であった。
【0243】
バイスタンダ抑制が一部は、APCの溶解によるアーチファクトのためでありうることを除外するために、APC(Wehi−231 B細胞)の2つの別個の集団がそれぞれp21−35、またはリードアウトペプチド(Der p 1由来T細胞エピトープまたは破傷風トキソイドのp830−844)のどちらかによってインキュベートされる追加のアッセイを実施した。2つのAPCを同じウェルで培養して、細胞溶解性T細胞クローンおよびCFSE標識エフェクタ細胞の両方。標識T細胞クローンが抑制されることが観察された。細胞溶解性Tregを活性化するのに必要とされたp21−35のAPC提示は、抗CD3および抗CD28抗体の組合せによって代替された。このような状況下で、同種認識によって活性化されたエフェクタ細胞の増殖も抑制された。図14eで報告した実験とひとまとめにすると、これは細胞溶解性T細胞クローンがAPCアポトーシス誘導の非存在下でバイスタンダT細胞を抑制することを示している。
【0244】
細胞溶解性Tregはp21−35ロードB細胞をインビボで溶解させる
細胞溶解性TregはインビトロでAPCのアポトーシスを誘導する。本活性がインビボ設定で関連するか否かを判定するために、MHCクラスII決定基の文脈でp21−35を発現するトランスジェニックB細胞を使用した。このようなトランスジェニックB細胞を、養子移入後、脾臓内で少なくとも3ヶ月間持続する。最初に、細胞溶解性TregがトランスジェニックB細胞のアポトーシスをインビトロで誘発できるか否かを検証した。B細胞の52%が細胞溶解性T細胞クローンとの18時間のインキュベーション後にアポトーシスを誘導する(図15a)。トランスジェニックB細胞およびTregの両方を移入されたマウスの脾臓においてではなく(レーンA)、対照マウスの脾臓における(レーンB)構築物の発現が、図15bに示されている。ウイルス構築物は、アレルゲン曝露の非存在下で肺細胞中で検出されなかった。これらのデータは、細胞溶解性T細胞が、インビボ移入後に同種抗原を提示するB細胞を溶解するその能力を維持したことを示した。
【0245】
細胞溶解性Tregはアレルゲン曝露時に肺中へ蓄積する
Tregの記憶表現型は、CCR7の非存在および低レベルのCD103と組み合わされて、それらが肺に移動可能であり、肺でその抑制活性を発揮しうることを示唆している。
2つの異なる細胞溶解性T細胞系woCFSEまたはSNARFのどちらかで標識して(どちらも細胞質タンパク質のマーカーで、異なる波長で発光する)、別の実験で使用した。CFSE標識細胞の蓄積は血管周囲および気管支肺領域で見出された(データは示さず)。アレルゲン投与ではなく、標識Tregを投与された対照マウスは実質的に肺蛍光を示さなかった。
【0246】
Tregが著しい割合の肺へのリンパ球蓄積を示すか否かを確証するために、そして蛍光標識の固有の毒性に関連した、考えられるアーチファクトを除去するために、未標識TregをBALB/cマウスに養子移入した。このような実験では、細胞溶解性細胞がVβ8.1を発現して、アレルゲンの点鼻投与後に肺に蓄積するCD4+集団全体を超える陽性細胞の割合をカウントしたという事実が利用された。このような条件下では、ごくわずかのリンパ球が喘息のDer p 2モデルの肺に引き付けられることが公知である。
細胞溶解性T細胞クローンを移入されたマウスの群では、CD4+細胞の90%超がVβ8.1を発現し、これに対して対照Vβ8.1+細胞系で処理した群、および吸入によりDer p 2を投与されたが、T細胞は投与されなかったマウスの対照群それぞれにおいて、このような細胞が25%および20%だけ検出された(図15c)。
【0247】
したがって細胞溶解性Tregが点鼻投与によるアレルゲンチャレンジ時に肺内へ蓄積することが結論付けられる。
【0248】
細胞溶解性Tregクローンは、実験的喘息を予防および抑制する
上記の実験は、細胞溶解性T細胞クローンがインビボでの特異的免疫応答の制御に有用でありうることを示唆した。MHCクラスII同種相互作用およびAPCのアポトーシスの誘導に対する要求は、単一の抗原に対する応答全体を抑制する機会を与える。加えて肺組織へのその蓄積は、喘息と関連する特徴の一部に対するその調節活性に好都合でありうる。
【0249】
これは、予防的および抑制的設定の両方でp21−35に対して特異的な細胞溶解性T細胞を養子移入することによって試験した。Der p 2に対する実験的喘息モデルを上記のように使用した。mp21−35Asnで免疫化されたBALB/cマウスから得たような、2つの細胞溶解性T細胞系を使用した。
【0250】
予防的実験の結果を図16(a〜f)に示す。Der p 2感作の誘導前の細胞溶解性T細胞の移入が、マクロファージを除いて実質的に細胞を伴わずに、BALFから回収した細胞の数を未処理動物で観察された値まで減少させたことがわかる(図16には示さず)。対照細胞は、陽性対照群と比較してBALF細胞回収には影響を有さなかった。2つの細胞溶解性細胞クローンは本質的に同じ効果を生じた。BALFにおけるTGF−βの生成は2つのTregでは検出できなかったが、第2のクローンによってIL−10生成が抑制された。肺好酸球浸潤および杯細胞過形成の著しい減少が観察された。加えて、用量を増加したメタコリンの吸入によって測定された気道過敏性は、未処理マウス(未処理)で観察されたレベルまで実際に低下した。
【0251】
Der p 2感作後に2つの細胞溶解性細胞系を使用したとき、生物学的および機能的パラメータの同様の改善が観察された(図16(g〜l))。しかしながら1つの顕著な例外は、杯細胞過形成の存在であった。興味深いことに、メタコリンに対する気道過敏性は未処理動物の気道過敏性に匹敵した。追加試験では、これらの最後の結果を動的コンプライアンス測定によって検証したが、実質的に同じ結果が得られた。
【実施例12】
【0252】
実施例12:Der p 1由来ペプチドによるBALB/cマウスの免疫化。
BALB/cマウスの2つの群を皮下経路によって、ペプチド20μgとアレルゲンDer p 1のT細胞エピトープ配列(SNYCQIYPPNANKIR[配列番号:5])またはN末端に配列CGFS[配列番号:6]を有するその修飾版CGFSSNYCQIYPPNANKIR[配列番号:7]のどちらかを用いて免疫化した。
【0253】
溝内に存するDer p 1のアミノ酸は、S114(またはN115)−P122(またはP123)である(溝内のアミノ酸9個を結合するMHCクラスIIハプロタイプが関係する)。Der p 1に存在するSNYC配列はそれゆえアクセス不能であり、他のタンパク質と相互作用して、その還元活性を及ぼすことができない。
【0254】
3回の注射後、マウスを屠殺処分して、脾臓からCD4+T細胞を精製し、限界希釈によってクローニングした。SNYCQIYPPNANKIR[配列番号:5]ペプチドに
よって免疫化したマウスから得たT細胞クローンは、ペプチドのMHCクラスII提示との同種相互作用後の増殖およびサイトカイン分泌を特徴とする、エフェクタCD4+T細胞を生成した。ペプチドCGFS SNYCQIYPPNANKIR[配列番号:7]によって免疫化したマウスは、実施例10で記載したのと同様のアッセイで判定されたように、細胞溶解特性を備えたT細胞クローンを生成した。
【0255】
細胞溶解特性を備えたT細胞(実施例10で示したような)がエフェクタT細胞のアポトーシスを誘導する能力を有するか否かを判定するために、抗原提示細胞(APC)を接着脾臓細胞から調製した。APCはMHCクラスII決定基中への提示のためにDer p 1アレルゲンでインキュベートした。
【0256】
図17に示すように、CD4エフェクタ細胞は、抗原ロードAPCに添加すると容易に増殖した。細胞溶解性T細胞の添加は、CD4エフェクタ細胞の死を誘導した(7−AAD陽性染色(FL3−H))。図17は、エフェクタ細胞の73%におけるアポトーシスと、CD4エフェクタ細胞の増殖の強い抑制を示している。
【実施例13】
【0257】
実施例13:細胞溶解活性を備えたT細胞クローンの養子移入は、Der p 1アレルゲンの点鼻投与によって誘発された喘息を完全に予防および抑制する。
【0258】
BALB/cマウスには、Der p 1アレルゲン100μgを使用して、3回の1日点鼻投与を1週間間隔で2シリーズ投与した。最後の点鼻投与後の日にマウスを屠殺処分して、気管支肺胞空間および肺でのアレルギー喘息に特徴的な変化が存在しないか調べた。
【0259】
マウスの2つの追加群は、モチーフを備えたDer p 1ペプチドを使用して、実施例11に記載したように得た細胞溶解性T細胞クローンを、1度目の点鼻投与の前または後に養子移入した。
【0260】
BALF分化細胞カウントを、点鼻投与の最終シリーズの4日後に実施した(群当たりBALB/c6匹)。細胞は、肺の気管支肺胞洗浄によって得て、サイトスピンでマクロファージ、好中球、好酸球またはリンパ球として同定した。マウスには100μgのDer p1(モデル)またはNaCl(陰性)のどちらかによる点鼻投与3回を2シリーズ投与した。図18AおよびBは、最初の点鼻投与シリーズの前または後に細胞溶解性T細胞を投与するとき、これが気管支への好酸球浸潤の完全な抑制をもたらすことを示している。図示されたように、洗浄液中で回収された細胞の総数は、未処理動物より得られる細胞総数の範囲内である。
【0261】
気管支肺胞洗浄液をサイトカインの存在について試験した(表6)。細胞傷害性クローンを投与したマウスは、該モデルにおいて著しく上昇するIL−10濃度を含めて、非常に低いサイトカイン回収を示した。
【0262】
【表5】
【実施例14】
【0263】
実施例14:細胞溶解性調節T細胞を活性化する能力に対する修飾ペプチドの酸化還元効力を上昇させる効果。
【0264】
抗原提示細胞に、その未処理構造のp21−35[配列番号:2]または位置24のセリンがシステインによって置換されたp21−35、CHGCEPCIIHRGKPF[配列番号:29]をロードした。本置換は、C−x−x−C型の酸化還元部分を生成する。
細胞溶解活性を備えた複数の調節T細胞クローンをAPCでインキュベートした。
【0265】
図19は、C−x−x−C酸化還元配列を持つペプチドが、サイトカイン生成によって判定された、そのC−x−x−S対応物よりも高度のT細胞活性化を誘導することを示している。C−x−xC配列が、FasLおよびグランザイムの両方でそのC−x−x−S対応物よりもmRNA転写を誘導することも示されている。グランザイムは、標的細胞のアポトーシスの誘導の主要な担い手のうちの2つである。
【実施例15】
【0266】
実施例15:ベータ−ラクトグロブリンアレルギーの予防および抑制。
ウシベータ−ラクトグロブリン(BLG)は、ヒト牛乳アレルギーの主なアレルゲンである。マウスモデルを使用して、修飾ペプチドがBLGに対する特異的応答を変化しうるか否かを判定する。BLGのT細胞エピトープに結合されたチオ酸化還元モチーフ配列C−H−G−C[配列番号:31]を含むペプチドCHGC AQKKIIAEK[配列番号:30]を合成する。
【0267】
BALB/cマウスは、ミョウバン中配列CHGC AQKKIIAEK[配列番号:30]のペプチド20μgを用いた皮下注射2回によって免疫化する。これにBLG(ミョウバン中5μ)に対する腹腔内感作を15日後に2週間間隔で2回続ける。あるいはBLGへの腹腔内感作の15日後にペプチドを投与する。
【0268】
BLGに対する過敏症は、マウスでのBLGの鼻内投与後の気管支過敏性を判定することによって検証する。すべてのマウスに、最後の注射の10日後に生理食塩水中BLG10μgの鼻内投与を受けさせる。ペプチド免疫化なしで腹腔内感作を実施する対照群が含まれる。
【0269】
感作の前または後に修飾ペプチドエピトープを注射したマウスは、BLG点鼻投与と反
応する能力を完全に消失していた。このことは、好酸球および過敏性の両方が観察される対照群と比較して、気管支肺胞洗浄液中に好酸球がないことと、用量を増加したメタコリンによるチャレンジに対する過敏性の非存在とによって示される。
【実施例16】
【0270】
実施例16:多発性硬化症の予防および抑制。
C57BL/6マウスの群を、水酸化アルミニウムに吸着させたペプチド(配列モチーフC−X(2)−Sを含有する、CHGS YRSPFSRVVHLYR[配列番号:32])または対照ペプチド(YRSPFSRVVHLYR[配列番号:33])によって皮下的に免疫化(20μg)する。2週間間隔で3回の注射を実施する。最後の免疫化の10日後に、マウスを屠殺処分して、磁気ビーズを用いて脾臓からCD4+T細胞(細胞2x10個)を調製する。次にCD4+T細胞を、接着脾臓細胞(細胞2x10個)によって提示されたMOG T細胞エピトープ(20μg/ml)によってインビトロで刺激する。
【0271】
4回の再刺激後、バイスタンダ抑制アッセイにおいて、EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)が有効である動物から得たポリクローナルCD4+CD25−細胞を標的細胞として用いて、T細胞系を試験する。図20によって示すように、C−X(2)−S配列モチーフを含有するペプチドによって免疫化された動物から得た細胞のみが、EAE動物からのエフェクタCD4+CD25−に存する対照と比較して、標的細胞における死を誘導する能力を有する。
【0272】
C57BL/6マウスの群は、CD4+MOG特異的調節T細胞クローンが養子移入され、1日後に多発性硬化症様症候群を誘導することになっているプロトコルが続く。これは完全フロイントアジュバント中のMOGペプチドの投与および百日咳毒素の注射2回を含む。本プロトコルはエフェクタT細胞クローンの増殖を誘発し、これはMOGペプチド投与後12日以内に多発性硬化症と一致する徴候の発症を引き起こす。細胞溶解性T細胞クローンによって予備処理されたマウスが発生させた臨床スコアは、疾患誘導の全プロトコルのみを投与されたマウスと比較して著しく低下されることが観察される(図21)。図21に示すように、細胞溶解性T細胞クローンによって予備処理されたマウスが発生させた臨床スコアは、エフェクタT細胞クローンのみを投与されたマウスと比較して著しく低下されることが観察される。
【実施例17】
【0273】
実施例17:ペプチド免疫化による多発性硬化症の予防。
モデル群において、C57BL/6マウス3匹に、第0日目にCFA中MOGペプチド100μg/マイコバクテリウム・ブチリカム400μgの皮下注射およびNaCl中ボルテテラ・ペルトゥッシス300ngの腹腔内注射を投与した。第2日目に、B.ペルトゥッシスの2回目の注射を投与した。
【0274】
予防群において、C57BL/6マウス5匹を、IFA中に配列モチーフC−X(2)−Sを含有するCSMOGペプチド(CHGS YRSPFSRVVHLYR[配列番号:32])20μgを用いた注射5回によって、モデル群と同様に疾患誘導前に、14日間隔で免疫化する。対照実験は、そのN末端にモチーフのないペプチド[配列番号:33]を用いて実施する。
【0275】
スコアは、0:疾患なし、1:跛行、2:跛行および10%を超える体重減少、3:後肢の部分麻痺として確立した。
【0276】
図22は、修飾ペプチド[配列番号:32]による予備処理が症候群の発症を完全に除
去することを示している。
【実施例18】
【0277】
実施例18:GAD65由来ペプチドによる自発的インスリン依存型糖尿病の予防および抑制。
【0278】
非肥満糖尿病(NOD)マウスは、自発的インスリン依存型糖尿病に適切な動物モデルを構成する。
【0279】
ヒトなどのこのような動物では、自己抗原グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65)に対する早期免疫応答は、応答が細胞内および細胞間伝播によって広がる膵島炎が見られる時点に観察される。新生児に対するタンパク質の投与によるGADに対する耐性の誘導が、糖尿病の発症を予防する。
【0280】
GAD65のカルボキシ末端領域、そして特に断片524−543 SRLSK528VAPVIKARMMEYGTT[配列番号:34]は、特異的T細胞によって認識される。このようなT細胞の一部、たとえば断片530−543を認識するT細胞は病原性であり、これに対して他のT細胞、たとえば断片524−538を認識するT細胞は疾患を誘発しない。
【0281】
Lys528は、P1アンカー残基を構成する。本発明によるペプチドの産生では、セリン残基P−4およびP−1はシステインによって置換され、CRLC KVAPVIKARMM[配列番号:35]を生じる。
【0282】
細胞傷害特性を備えたTreg細胞は、GAD65タンパク質のT細胞エピトープを含む上記の修飾ペプチドによる免疫化によって誘発される。20週齢のNODマウスの膵臓より得たT細胞は、顕性糖尿病と同様に膵島炎が存在する時点で、病原性T細胞クローンを産生するためにペプチド524−543によってインビトロで増殖する。
【0283】
NODマウスは、2週齢からIFA(不完全フロイントアジュバント)中のチオレドキシンコンセンサス配列を含有するペプチドによって免疫化する。T細胞をインビトロで増殖し、調節特性を備えたクローンを産生する。
【0284】
チオレドキシンコンセンサス配列で免疫したマウスから精製したポリクローナル細胞は、ペプチド524−543がロードされた抗原提示細胞によって刺激されるときに、ペプチド524−543免疫化NODマウスから得たポリクローナルCD4細胞にてアポトーシスを誘導する(図23を参照)。図23の表は、調節集団なしで得たバックグラウンド値の減算後、二重陽性細胞(死細胞)のパーセンテージを表す。
【0285】
NODマウスにおける2週齢での、すなわち膵島炎発症(3週齢)前のTregの養子移入は、糖尿病発症を完全に予防することが示されている。
【0286】
2週齢からのペプチドCRLC KVAPVIKARMM[配列番号:35]によるNODマウスの直接免疫化は、糖尿病および膵島炎の病変を完全に予防することが示されている。
【0287】
抑制設定では、6〜20週の異なる週齢でのTregの養子移入は、NODマウスでの糖尿病および膵島炎を抑制することが示されている。膵島炎がすでに顕著である週齢(15週齢)後のペプチドCRLC KVAPVIKARMM[配列番号:35]による免疫化は、糖尿病および膵島炎を抑制することが示されている。
【実施例19】
【0288】
実施例19:インスリン由来ペプチドによる自発的インスリン依存型糖尿病の予防および抑制。
【0289】
細胞溶解性を備えたTregは、グリシンリンカーの有無でモチーフC−X(2)−Cに結合されたインスリンのT細胞エピトープによるNODマウスを免疫化することによって誘発される。
【0290】
合成されるペプチドは:
EALYVCGERG CGPC[配列番号:36]
EALYVCGERG G CGPC[配列番号:37]
EALYVCGERG GG CGPC[配列番号:38]
EALYVCGERG GGG CGPC[配列番号:39]
EALYVCGERG GGGG CGPC[配列番号:40]
である。
【0291】
これらのペプチドによって得られたTreg細胞は、病原性細胞および調節細胞の両方がインスリンの提示によって活性化されるインビトロ系でインスリン特異的病原性T細胞のアポトーシスを誘導する。それらはさらに、膵島炎の自発的発症の前(2週齢)または後(6週齢)でのTregの養子移入後にそれぞれ、糖尿病および膵島炎の発症を予防または抑制する。
【0292】
これらのペプチドによって得られたTreg細胞は、予防のためには2週齢にて、または抑制のためには15週齢にてそれぞれ開始するチオレドキシンコンセンサス配列を含有する配列のペプチドによる免疫化時にインビボで誘発されたときに、糖尿病および膵島炎の発症を予防または抑制する。
【実施例20】
【0293】
実施例20:甲状腺ペルオキシダーゼ由来ペプチドによる自己免疫甲状腺炎の予防および抑制。
【0294】
ヒトの自己免疫甲状腺炎は、甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体の生成に関連付けられる。TPOに対する抗体および特異的T細胞は、細胞傷害性および細胞溶解性機構の組み合わせによる甲状腺細胞破壊を生じて、甲状腺機能低下を引き起こす。C57BI/6マウスのTPOによる免疫化は、意図的にヒト病態と同じ疾患状態を誘発して、したがって自己免疫甲状腺炎に適切なモデルと見なされる。
【0295】
TPOの断片540−559(QGQLM544NEELTERLFVLSNV[配列番号:41]は、C57BI/6マウスによって認識されたTPOのドミナントT細胞エピトープを含む。
【0296】
各種のアルゴリズムの使用によって、残基Met544を、MHCクラスII決定基への最初のアンカー残基として同定した。アミノ酸P−4〜P−1は、D−異性体CGPC[配列番号:42]の配列によって置換され、配列(CGPC)D−異性体MNEELTERL[配列番号:43]を産生する。
【0297】
C57BI/6マウスを、CFA/IFA中の実験ペプチド[配列番号:43]または対照ペプチド[配列番号:41]またはQGQLM544NEELTERL[配列番号:48]で2回免疫化する。最後の免疫化の10日後、マウスを屠殺処分して、脾臓からT
細胞を調製する。540−559配列をロードした抗原提示細胞を使用して、CD4+T細胞をインビトロで増殖させる。T細胞クローンを限界希釈によって得る。
【0298】
実験ペプチド(CGPC)D−異性体MNEELTERL[配列番号:43]によって産生されたT細胞クローンが配列540−559のペプチドによる免疫化によって得られたエフェクタT細胞の活性化を抑制する能力をインビトロで試験する。本明細書では、抗原提示細胞にペプチド540−559をロードする。エフェクタT細胞クローンの添加は、チミジン取り込みによって測定されるように、このような細胞の活性化および増殖を引き起こす。調節活性を備えたT細胞クローンをエフェクタクローンと共に系に添加するとき、後者の活性化および増殖は完全に阻害される。
【0299】
ペプチド540−559による免疫化の前または後の調節T細胞のC57BI/6マウスへの養子移入は、甲状腺のリンパ球浸潤を判定することによって評価されるように、甲状腺炎の誘導をそれぞれ予防または抑制した。
【実施例21】
【0300】
実施例21:サイログロブリン由来ペプチドによる自己免疫甲状腺炎の予防および抑制。
サイログロブリンに対する免疫応答は、ヒト自己免疫甲状腺炎の一般的な特徴である。T細胞エピトープを含むペプチドの注射時の実験的甲状腺炎におけるこのような応答の誘導は、H2kマウスなどの遺伝的に素因のある動物で得られている。
【0301】
サイログロブリン断片2340−2359(QVA2342ALTWVQTHIRGFGGDPR[配列番号:44]は、AKR/Jマウスによって認識されたサイログロブリンのドミナントT細胞エピトープを含む。各種のアルゴリズムの使用によって、残基Ala2342をMHCクラスII決定基への最初のアンカー残基として同定する。アミノ酸P−4〜P−1は、配列CGSP[配列番号:13]の配列によって置換され、配列CGPS AALTWVQTH[配列番号:45]を産生する。
【0302】
AKR/Jマウスは、CFA/IFA中の実験ペプチド[配列番号:45]および対照ペプチドLDQVAALTWVQTH[配列番号:49]で2回免疫化する。最後の免疫化の10日後、マウスを屠殺処分して、脾臓からT細胞を調製する。2340−2359断片をロードした抗原提示細胞を使用して、CD4+T細胞をインビトロで増殖させる。T細胞クローンを限界希釈によって得た。
【0303】
ペプチドCGPS AALTWVQTH[配列番号:45]によって産生されたT細胞クローンが配列2340−2359のペプチドによる免疫化によって得られたエフェクタT細胞の活性化を抑制する能力をインビトロで試験する。本明細書では、抗原提示細胞にペプチド2340−2359をロードした。エフェクタT細胞クローンの添加は、チミジン取り込みによって測定されるように、このような細胞の活性化および増殖を引き起こした。調節活性を備えたT細胞クローンをエフェクタクローンと共に系に添加するとき、後者の活性化および増殖は完全に阻害される。
【0304】
ペプチド2340−2359による免疫化の前または後の調節T細胞のAKR/Jマウスへの養子移入は、甲状腺のリンパ球浸潤を判定することによって評価されるように、甲状腺炎の誘導をそれぞれ予防または抑制する。
【実施例22】
【0305】
実施例22:カンバ花粉アレルゲン由来ペプチドによる花粉アレルギーの予防および抑制。
【0306】
カンバ花粉への感受性は、鼻炎および喘息の一般的な原因である。しかしながらカンバ花粉感作被験体の約60%が、バラ科の果実、たとえばリンゴ、ナシ、プラムおよびサクランボの摂取時に症状を発症する。Bet v1(主カンバ花粉アレルゲン)とこのような食物との間の交差反応が、特異的IgE抗体およびT細胞のレベルの両方で証明されている。特にT細胞エピトープは、各種のアイソフォーム間で保存されているBet v1分子のカルボキシ末端に位置して、リンゴの同等のアレルゲン(Mal d1)の配列との高度の相同性が示された。Bet v1の断片142−156を認識するエフェクタT細胞は、Mal d1対応エピトープに曝露されたときに強く活性化される。
【0307】
Bet v1の残基144−154に対応し、T細胞エピトープを含有するペプチドLRAVESYLLAH[配列番号:46]は、そのアミノ末端での配列(CGPC)D−異性体[配列番号:42]の添加によって修飾され、(CGPC)D−異性体LRAVESYLLAH[配列番号:47]を生じる。
【0308】
本ペプチドは、ミョウバン1mgに対してペプチド50μgを使用して、水酸化アルミニウム上に吸着させる。ペプチド50μgの皮下注射3回を、2週間間隔で実施した。最後の注射の2週間後、末梢静脈から血液を採取して、CD4+T細胞を磁気ビーズでの細胞分取によって精製した。CD4+T細胞を培地に添加して、そこで抗原提示細胞として使用された組織適合性樹状細胞をBet v1抗原、または対照としての破傷風トキソイドのどちらかで室温にて2時間インキュベートした。次に細胞を洗浄および精製して、CD4+T細胞を培地に添加した。このようなCD4+T細胞は、破傷風トキソイドタンパク質を提示する樹状細胞ではなく、Bet v1抗原を提示する樹状細胞のアポトーシスを誘導した。CD4+T細胞の、Mal d1抗原がロードされた樹状細胞によるインキュベーションは、樹状細胞アポトーシスを生じた。
【0309】
リンゴ摂取に対する口腔咽頭アレルギーと共にカンバ花粉への曝露時にアレルギー症状を示し、ペプチドCGPC LRAVESYLLAH[配列番号:47]の皮下注射3回によって処置された患者は、花粉への曝露または口腔咽頭粘膜のリンゴとの接触のどちらとも反応できなかった。
【0310】
酸化還元部分を含有するように修飾されたカンバ花粉からのアレルゲンBet v1由来のT細胞エピトープを含有するペプチドによるワクチン接種は、カンバ花粉曝露に関連する症状および相同性T細胞エピトープを持つ果実の摂取から生じる症状を除去する細胞傷害性調節T細胞を誘発する。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]