(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光軸と垂直な平面において、前記第1の波長板の分割領域の境界線、及び前記第1の波長板の分割領域の境界線と一致する2つの境界線で分割された4つの分割領域を有する位相板をさらに備え、
前記位相板が隣接する分割領域において、λ/4に対応する光路長差を与える請求項8に記載の偏光ビーム変換素子。
前記第1の波長板の前記λ/4板の軸方位と、前記第2の波長板の前記λ/4の軸方位が平行になっている請求項8乃至11のいずれか1項に記載の偏光ビーム変換素子。
前記第1の波長板の前記分割領域の境界線と、前記第2の波長板の前記分割領域の境界線が略π/2ずれている請求項8乃至12のいずれか1項に記載の偏光ビーム変換素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
組み合わせ波長板素子には、紫外から赤外までの広い波長に対応可能で、高強度のレーザを用いた場合にも損傷しにくいという利点がある。一方で擬似ラジアル偏光ビームの生成において、領域の分割数を増やそうとすると、様々な軸方位を持った波長板を複雑な形状に切り出す必要があり、製作が困難であるという問題点があった。
【0005】
例えば、4分割の場合、各分割領域の中心角は90°となるが、8分割の場合、各分割領域の中心角が45°となる。8分割の組み合わせ波長板素子を制作する場合、波長板の切り出しが困難になる。中心角が45°の場合、中心角が90°の場合に比べて、切り出しが困難である。さらに、各分割領域を所定の軸方位にするため、様々な軸方位を有する波長板を用意する必要がある。このため、作成に必要な部品点数が多くなり、製造コストが増加してしまう。上記の問題点は、擬似アジマス偏光を生成するための組み合わせ波長板でも同様に発生する。このように、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光の分割数と同じ分割数の波長板を用意する必要があるという問題点がある。よって、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光の分割数と同じだけ、波長板を分割する必要がある。よって、波長板の分割数が増え、製造コストが増加してしまうという問題点がある。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、波長板の分割数よりも多い分割数の偏光ビーム変換素子、及びそれを用いた偏光ビーム変換方法、電子銃、ビーム測定装置、電子発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、第1及び第2の波長板を備え、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成するための偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板には、放射状に2
n(nは2以上の自然数)分割された分割領域が設けられ、前記分割領域のそれぞれに(λ/4)×(1−arccos(0.5/cos(π/2
n))/(π/2))の位相差を与える分割波長板が設けられ、前記第1の波長板の前記分割波長板の軸方位が、回転対称になっており、前記第1の波長板の後段に配置された前記第2の波長板には、放射状に2
n分割された分割領域が設けられ、前記分割領域のそれぞれに(λ/4)×(arccos(1−0.5/cos
2(π/2
n))/(π/2))の位相差を与える分割波長板が設けられ、前記第2の波長板の前記分割波長板の軸方位が、回転対称になっており、前記第1の波長板の分割領域のそれぞれが、前記第2の波長板の分割領域とずれて配置され、前記第1の波長板に設けられた分割波長板の軸方位と前記第2の波長板の分割波長板の軸方位がずれているものである。よって、低コストで波長板の分割数よりも多い分割数のビームに変換することができる偏光ビーム変換素子を提供することができる。
【0007】
本発明の第2の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板、及び前記第2の波長板の少なくとも一方が2π/2
nの回転対称になっていることを特徴とするものである。これにより、ラジアル偏光、又はアジマス偏光に近づけることができる。
【0008】
本発明の第3の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、光軸と垂直な平面において、前記第2の波長板の分割領域と一致するよう配置された2
nの分割領域を有する位相板をさらに備え、前記位相板が隣接する分割領域においてλ/2
nに対応する光路長差を与えるものである。これにより、非ラゲールガウスビームを擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光に変換することができる。
【0009】
本発明の第4の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板の分割波長板の軸方位と、前記第2の波長板の分割波長板の軸方位が略π/2
nずれているものである。これにより、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光により近づけることができる。
【0010】
本発明の第5の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板の前記分割領域の境界線と、前記第2の波長板の前記分割領域の境界線が略π/2
nずれているものである。これにより、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光により近づけることができる。
【0011】
本発明の第6の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、n=2であり、前記第1の波長板の4つの分割領域、及び第2の波長板の4つの分割領域のそれぞれが矩形状になっているものである。これにより、第1及び第2の波長板を容易に作成することができる。
【0012】
本発明の第7の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板の前段に配置された第3の波長板をさらに備え、前記第3の波長板が、入射する直線偏光を円偏光にするものである。これにより、直線偏光を擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光に変換することができる。
【0013】
本発明の第8の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、第1及び第2の波長板を備え、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成するための偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板には、放射状に2分割された分割領域が設けられており、前記分割領域のそれぞれにλ/4板が設けられ、前記第1の波長板の前記λ/4板の軸方位が、略直交し、前記第1の波長板の後段に設けられた第2の波長板には、放射状に2分割された分割領域が設けられており、前記分割領域のそれぞれにλ/4板が設けられ、前記第1の波長板の前記λ/4板の軸方位が、略直交し、前記第1の波長板の分割領域のそれぞれが、前記第2の波長板の分割領域とずれて配置されているものである。これにより、低コストで4分割のビームに変換することができる偏光ビーム変換素子を提供することができる。
【0014】
本発明の第9の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、光軸と垂直な平面において、前記第1の波長板の分割領域の境界線、及び前記第1の波長板の分割領域の境界線と一致する2つの境界線で分割された4つの分割領域を有する位相板をさらに備え、前記位相板が隣接する分割領域において、λ/4に対応する光路長差を与えるものである。これにより、非ラゲールガウスビームを擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光に変換することができる。
【0015】
本発明の第10の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記位相板と前記第2の波長板が一体的に形成されていることを特徴とするものである。これにより、部品点数を少なくすることができ、部品コストを低減することができる。
【0016】
本発明の第11の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記位相板が前記第2の波長板に蒸着された蒸着膜によって構成され、前記第2の波長板の材料と同一の材料を蒸着することで前記位相板が形成されているものである。これにより、光の利用効率を向上することができる。
【0017】
本発明の第12の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板の前記λ/4板の軸方位と、前記第2の波長板の前記λ/4の軸方位が平行になっているものである。これにより、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光により近づけることができる。
【0018】
本発明の第13の態様にかかる偏光ビーム変換素子は、上記の偏光ビーム変換素子であって、前記第1の波長板の前記分割領域の境界線と、前記第2の波長板の前記分割領域の境界線が略π/2ずれているものである。これにより、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光により近づけることができる。
【0019】
本発明の第14の態様にかかる偏光ビーム変換方法は、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成する偏光ビーム変換方法であって、円偏光を第1の波長板に入射させるステップと、前記第1の波長板を通過した光を第2の波長板に入射させるステップと、を備え、前記第1の波長板には、放射状に2
n(nは2以上の自然数)分割された分割領域が設けられ、前記分割領域のそれぞれに(λ/4)×(1−arccos(0.5/cos(π/2
n))/(π/2))の位相差を与える分割波長板が設けられ、前記第1の波長板の前記分割波長板の軸方位が、回転対称になっており、前記第1の波長板の後段に配置された前記第2の波長板には、放射状に2
n分割された分割領域が設けられ、前記分割領域のそれぞれに(λ/4)×(arccos(1−0.5/cos
2(π/2
n))/(π/2))の位相差を与える分割波長板が設けられ、前記第2の波長板の前記分割波長板の軸方位が、回転対称になっており、前記第1の波長板の分割領域のそれぞれが、前記第2の波長板の分割領域とずれて配置され、前記第1の波長板に設けられた分割波長板の軸方位と前記第2の波長板の分割波長板の軸方位がずれている、ものである。よって、低コストで、波長板の分割数よりも多い分割数のビームを生成することができる。
【0020】
本発明の第15の態様にかかる偏光ビーム変換方法は、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成する偏光ビーム変換方法であって、円偏光を第1の波長板に入射させるステップと、前記第1の波長板を通過した光を第2の波長板に入射させるステップと、を備え、前記第1の波長板には、放射状に2分割された分割領域が設けられており、前記分割領域のそれぞれにλ/4板が設けられ、前記第1の波長板の前記分割波長板の軸方位が、略回転対称になっており、前記第1の波長板の後段に設けられた第2の波長板には、放射状に2分割された分割領域が設けられており、前記分割領域のそれぞれにλ/4板が設けられ、前記第1の波長板の前記分割波長板の軸方位が、略回転対称になっており、前記第1の波長板の分割領域のそれぞれが、前記第2の波長板の分割領域とずれて配置されているものである。これにより、低コストで4分割のビームに変換することができる偏光ビーム変換素子を提供することができる。
【0021】
本発明の第16の態様にかかる電子銃は、上記の偏光ビーム変換素子と、前記偏光ビーム変換素子によって生成された擬似ラジアル偏光を集光するレンズと、前記レンズで集光された光が入射するフォトカソードと、を備えるものである。これにより、高品質の電子ビームを発生させることができる。
【0022】
本発明の第17の態様にかかる電子発生方法は、上記の偏光ビーム変換素子に、円偏光を入射させるステップと、前記偏光ビーム変換素子で生成された擬似ラジアル偏光を集光して、フォトカソードに入射させるステップと、を有するものである。これにより、高品質の電子ビームを発生させることができる。
【0023】
本発明の第18の態様にかかる電子銃は、パルスレーザ光を用いて量子ビームを3次元的に測定するビーム測定装置であって、レーザ発振器によって発振したパルスレーザ光の波長が時間に応じて変化するよう、前記パルスレーザ光のパルス波形を整形して出射する光源部と、前記光源部から出射したパルスレーザ光に対して入射位置に応じた時間遅延を与える遅延素子と、前記パルスレーザ光を入射位置に応じて異なる偏光状態に変換する偏光ビーム変換素子と、を有する入射光学系と、前記量子ビームのビーム径路に配置され、入射位置に応じて異なる結晶軸を有する電気光学素子と、前記入射光学系から前記電気光学素子を介して入射したパルスレーザ光から、所定の偏光成分を取り出す偏光子と、前記偏光子で取り出されたパルスレーザ光のスペクトルを測定する測定器と、を備え、前記偏光ビーム変換素子に、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏光ビーム変換素子が用いられているものである。これにより、精度よく3次元測定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、波長板の分割数よりも多い分割数のビームに変換することができる偏光ビーム変換素子、及びそれを用いた偏光ビーム変換方法、電子銃、電子発生方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、
図1を用いて本実施形態に係る偏光ビーム変換素子の全体構成を説明する。
図1は、偏光ビーム変換素子の全体構成を示す側面図である。偏光ビーム変換素子1は、第1の波長板10と第2の波長板20と位相板30を有している。第1の波長板10と第2の波長板20と位相板30を組み合わせることで、偏光ビーム変換素子1が形成される。偏光ビーム変換素子1は、擬似ラジアル偏光(以下、単にラジアル偏光ともいう)、又は擬似アジマス偏光(以下、単にアジマス偏光ともいう)を生成するための素子である。位相板30の後段に第1の波長板10が設けられている。第1の波長板10の後段に第2の波長板20が設けられている。従って、位相板30を通過した入射光は、第1の波長板10に入射する。第1の波長板10を通過した入射光は、第2の波長板20に入射する。第1の波長板10、及び第2の波長板20のそれぞれは、波長板を組み合わせた組み合わせ波長板素子である。第1の波長板10、及び第2の波長板20のそれぞれは、平行な光入射面と光出射面を有しており、光入射面と光出射面とが、光軸と垂直になるように配置されている。
【0027】
なお、レーザ光は、平行光束となっており、光軸に対して、平行に伝播する。レーザ光の伝播方向をZ方向とし、
図1中の上下方向をY方向とし、
図1の紙面と垂直方向をX方向とする3次元直交座標系を用いて説明する。右円偏光のレーザ光が偏光ビーム変換素子1を通過すると、擬似ラジアル偏光に変化される。なお、右円偏光の電気ベクトルの振幅を1とすると、X方向、及びY方向の電気ベクトルEx、Eyは以下の式(1)に表される。
【0028】
Ex=cos(−ωt+π/2)
Ey=cos(−ωt) ・・・式(1)
【0029】
次に、
図2を用いて、第1の波長板10の構成に付いて説明する。
図2は、第1の波長板10の構成を示す平面図である。
図2に示すように、第1の波長板10は、4つの分割領域11〜14を有している。例えば、第1の波長板10を放射状に四等分することで、4つの分割領域11〜14が形成される。第1の波長板10の外形は、正方形状になっているため、分割領域11〜14のそれぞれも正方形状になっている。4つの分割領域11〜14は、同じ大きさの正方形となっている。第1の波長板10の中心は、光軸と一致する。第1の波長板10の外形の四辺は、X軸、又はY軸から45°又は−45°傾いている。4つの分割領域11〜14は、光軸を中心とする周方向に沿って配置されている。4つの分割領域11〜14をそれぞれ第1分割領域11、第2分割領域12、第3分割領域13、第4分割領域14とする。
【0030】
以下の説明において、光軸、すなわち第1の波長板10の中心をXY平面の原点とし、角度は、+X軸を0°、入射側から見て反時計回りを正とする。第1分割領域11、及び第3分割領域13はY軸上に配置され、第2分割領域12、及び第4分割領域14は、X軸上に配置される。第1分割領域11と第3分割領域13とは、X軸に対して線対称に配置され、第2分割領域12と第4分割領域14とは、Y軸に対して線対称に配置されている。第1分割領域11と第3分割領域13は原点を挟んで対向配置され、第2分割領域12と第4分割領域14は原点を挟んで対向配置されている。第1の波長板10の対角線がX方向、Y方向と平行になるように、第1の波長板10が配置されている。
【0031】
分割領域11〜14のそれぞれは、λ/8板を有している。
図2において、λ/8板の軸方位(XY平面における光学軸の方向)を矢印で示す。なお、以下の説明において、軸方位は、波長板の遅軸の向きである。第1分割領域11と第3分割領域13に設けられたλ/8板の軸方位は、+45°であり、第2分割領域12と第4分割領域14に設けられたλ/8板の軸方位は、−45°(315°)である。従って、4つの分割領域11〜14のうち、対向する2つの分割領域に設けられたλ/8板の軸方位は、平行になっている。例えば、第1分割領域11と第3分割領域13に設けられたλ/8板の軸方位(+45°)は平行になっている。同様に、第2分割領域12と第4分割領域14に設けられたλ/8板の軸方位(−45°)は平行になっている。また、4つの分割領域11〜14のうち、周方向に隣接する2つの分割領域に設けられたλ/8板の軸方位は、直交している。例えば、第1分割領域11のλ/8板の軸方位(+45°)は、第2分割領域12、及び第4分割領域14のλ/8板の軸方位(−45°)と直交している。同様に、第3分割領域13のλ/8板の軸方位(+45°)は、第2分割領域12、及び第4分割領域14のλ/8板の軸方位(−45°)と直交している。
【0032】
第1分割領域11と第2分割領域12の境界線、及び第3分割領域13と第4分割領域14の境界線は、原点を通る+45°の直線であり、第1分割領域11及び第3分割領域13に設けられたλ/8板の軸方位と平行になっている。第1分割領域11と第4分割領域14の境界線、第3分割領域13と第2分割領域12の境界線は、原点を通る−45°の直線であり、第2分割領域12及び第4分割領域14に設けられたλ/8板の軸方位と平行になっている。
【0033】
次に、
図3を用いて第2の波長板20の構成に付いて説明する。
図3は、第2の波長板20の構成を示す正面図である。第2の波長板20も、4つの分割領域21〜24を有している。また、ここでは、第2の波長板20は第1の波長板10と同程度の大きさとなっている。第2の波長板20の外形は、正方形状になっているため、分割領域21〜24のそれぞれも正方形状になっている。分割領域21〜24は、同じ大きさの正方形となっている。第2の波長板20の中心は、光軸と一致する。4つの分割領域21〜24は、光軸を中心とする周方向に沿って配置されている。4つの分割領域21〜24をそれぞれ第1分割領域21、第2分割領域22、第3分割領域23、第4分割領域24とする。第2の波長板20の四辺がX方向、又はY方向と平行になっている。
【0034】
XY平面視において、第2の波長板20の分割領域21〜24は、第1の波長板10の分割領域11〜14に対して45°ずれて配置されている。従って、第1分割領域21と第2分割領域22の境界線、及び第3分割領域23と第4分割領域24の境界線は、原点を通り、Y軸と平行な直線になっている。第1分割領域21と第4分割領域24の境界線、及び第3分割領域23と第2分割領域22の境界線は、原点を通り、X軸と平行な直線になっている。XY平面において、第1分割領域21は第2象限に配置され、第2分割領域22は第一象限に配置され、第4分割領域24は第3象限に配置され、第3分割領域23は第4象限に配置される。
【0035】
分割領域21〜24のそれぞれは、λ/4板を有している。ここで、λ/4板の軸方位(XY平面における光学軸の方向)を矢印で示す。第1分割領域11と第3分割領域13に設けられたλ/4板の軸方位は、+90°であり、第2分割領域22と第4分割領域24に設けられたλ/4板の軸方位は、0°である。従って、4つの分割領域21〜24のうち、対向する2つの分割領域に設けられたλ/4板の軸方位は、平行になっている。例えば、第1分割領域21と第3分割領域23に設けられたλ/4板の軸方位(+90°)は平行になっている。同様に、第2分割領域12と第4分割領域24に設けられたλ/4板の軸方位(+90°)は平行になっている。また、4つの分割領域21〜24のうち、周方向に隣接する2つの分割領域に設けられたλ/4板の軸方位は、直交している。例えば、第1分割領域21のλ/4板の軸方位(+90°)は、第2分割領域22のλ/4板の軸方位(0°)と直交している。同様に、第3分割領域23のλ/4板の軸方位(+90°)は、第4分割領域24のλ/4板の軸方位(0°)と直交している。
【0036】
次に、
図4を用いて位相板30の構成に付いて説明する。
図4は、位相板30の構成を示す正面図である。位相板30も、第2の波長板20と同様に4つの分割領域31〜34を有している。位相板30の外形は、第2の波長板と略同じ大きさの正方形となっている。位相板30の外形は正方形状であるため、各分割領域31〜34も正方形になっている。XY平面視において、分割領域31〜34は、第2の波長板20の分割領域21〜24と一致するように配置されている。すなわち、第1分割領域31は第2象限に配置され、第2分割領域32は第一象限に配置され、第4分割領域34は第3象限に配置され、第3分割領域33は第4象限に配置される。
【0037】
位相板30は、透明な材質(例えば、ガラス、又は樹脂)から構成され、XY平面の位置に応じて厚さが異なっている。これにより、入射位置に応じて位相をずらすことができ、レーザ光の波面を調整することができる。具体的には、第1分割領域31〜第4分割領域34で、光路長がλ/4ずつ異なるよう、厚さが変化している。第1分割領域31を基準(0)とすると、第2分割領域32は第1分割領域31よりもλ/4の光路長に対応するだけ厚くなっている。第3分割領域33はλ/2の光路長に対応するだけ厚くなっており、第4分割領域34は(3/4)λの光路長に対応するだけ厚くなっている。従って、位相板30は、螺旋階段状に厚さが変化している。第4分割領域34を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、3/4λだけ波面が遅れる。すなわち、第4分割領域34を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、3π/2だけ位相が遅れる。同様に、第3分割領域33を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、λ/2だけ波面が遅れ、第2分割領域32を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、λ/4だけ波面が遅れる。すなわち、第3分割領域33を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、πだけ位相が遅れ、第2分割領域32を通過した光は、第1分割領域31を通過した光に比べて、π/2だけ位相が遅れる。位相板30を用いることで、偏光状態を変化させずに、通過したレーザ光の波面を遅らせることができる。なお、位相板30の厚さの違いは、レーザ光の波長と、位相板30を構成する材質の屈折率によって、定めることができる。
【0038】
図5、及び
図6を用いて第1の波長板10を通過したレーザ光の偏光状態について説明する。
図5は、分割領域11〜14の軸方位を示す図であり、
図6は、第1の波長板10を通過したレーザ光の偏光状態を説明するための図である。
図5に示すように、スポット形状が円形のレーザ光が第1の波長板10に入射したとする。レーザ光のスポット中心は、第1の波長板10の中心と一致している。すると、スポットの1/4が第1分割領域11を通過する。同様に、第2分割領域12、第3分割領域13、及び第4分割領域14を通過する光もスポットの1/4となる。
【0039】
第1分割領域11〜第4分割領域14は、λ/8板から構成されている。レーザ光は右円偏光となっている。従って、軸方位が+45°の分割領域(第1分割領域11、及び第3分割領域13)を右円偏光の光が通過すると、
図6に示すような、Y方向を長軸とする楕円偏光となる。軸方位が−45°の分割領域(第2分割領域12、及び第4分割領域14)を右円偏光の光が通過すると、X方向を長軸とする楕円偏光となる。このように、入射光は、第1の波長板10における入射位置に応じて、偏光状態が変化する。
【0040】
そして、第1の波長板10を通過した入射光は、第2の波長板20に入射する。第2の波長板20は、上記の通り、4つの分割領域21〜24を有している。
図7に示すように、入射光のスポット中心と第2の波長板20の中心は一致している。そして、第1の波長板10の分割領域11〜14と第2の波長板20の分割領域21〜24はずれて配置されている。従って、第1の波長板10の第1分割領域11を通過した入射光は、第2の波長板20の第1分割領域21と第2分割領域22に入射する。第1の波長板10の第2分割領域12を通過した入射光は、第2の波長板20の第3分割領域23と第2分割領域22に入射する。第1の波長板10の第3分割領域13を通過した入射光は、第2の波長板20の第3分割領域23と第4分割領域24に入射する。第1の波長板10の第4分割領域14を通過した入射光は、第2の波長板20の第1分割領域21と第4分割領域24に入射する。
【0041】
従って、第1の波長板10、及び第2の波長板20を通過した出射光は、
図8に示すように、8分割の偏光状態となる。ここで、出射光は、8つの領域51〜58に分割されているとして説明する。なお、各領域51〜58中に記載されている数字は、第1の波長板10におけるλ/8板と、第2の波長板20におけるλ/4板の軸方位を示すものである。例えば、領域51の出射光は、軸方位−45°のλ/8板と、軸方位90°のλ/4板を通過している。領域51の出射光が通過した箇所の軸方位を(−45,90)と表記する。同様に表記すると、領域52は(45,90)、領域53は(45,0)、領域54は(−45,0)、領域55は(−45,90)、領域56は(45,90)、領域57は(45,0)、領域58は(−45,0)となる。
【0042】
原点を挟んで対向する2つの領域では、軸方位が同じになっている。例えば、領域51と領域55の軸方位は(−45,90)となっている。同様に、領域52と領域56の軸方位は(45,90)となり、領域53と領域57の軸方位は(45,0)となり、領域54と領域58の軸方位は(−45,0)となっている。このように、対向する一対の領域では、軸方位が一致している。さらに、領域51〜領域54はそれぞれ軸方位が異なっているため、4通りの軸方位(45,90)、(−45,90)、(45,0)、(−45,0)が存在する。
【0043】
各領域における偏光軸は、放射状になる。すなわち、偏光状態は、8つの領域のそれぞれにおいて、中心からラジアル方向を向いた直線偏光となる。
図8では、円形のスポットの外側に、出射光の偏光方向を示している。同じ軸方位である領域51と領域55は、偏光軸が157.5°(−22.5°)の直線偏光となっている。同様に、領域52と領域56は、偏光軸が112.5°(−67.5°)の直線偏光となり、領域53と領域57は、偏光軸が67.5°の直線偏光となり、領域54と領域58は、偏光軸が22.5°の直線偏光となっている。従って、8分割の領域51〜58において、出射光は、偏光軸が放射状に配置される。なお、偏光軸とは、XY平面における偏光面の方向を示している。このように、光軸を挟んで対向する2つの領域では、偏光軸が平行となり、隣接する領域では、偏光軸が45°異なっている。
【0044】
また、第1の波長板10と第2の波長板20を通過すると、XY平面における位置に応じて位相が変化する。従って、出射光の波面が遅れて、波面のずれが生じてしまう。ここで、出射光の位相の遅れに付いて、
図9を用いて説明する。領域51と領域52の出射光の位相を基準とすると、領域53と領域54の出射光の位相はπ/2早くなり、領域55と領域56の出射光の位相はπ早くなる。領域57と領域58の出射光の位相は3π/2早く、すなわち、π/2遅くなる。このため、あるXY平面で考えると、位相に応じて、電気ベクトルの大きさが変化している。さらに、あるXY平面で考えると、対向する2つの領域で電気ベクトルの向きが一致してしまう。例えば、領域51の電気ベクトルの向きは、領域55の電気ベクトルの向きと一致(+157.5°)している。
【0045】
そこで、位相を揃えるために、位相板30を用いている。位相板30は上記の通り、分割領域31〜34で厚さが異なっている。このため、領域51と領域52を基準とすると、領域53と領域54では、位相板30によって、予め位相がπ/2遅れた状態になっている。同様に、位相板30によって、領域55と領域56では予め位相がπ遅れた状態となっており、領域57と領域58とでは、予め位相が3π/2遅れた状態となっている。従って、位相板30、第1の波長板10、及び第2の波長板20を通過した出射光は、位相が揃う。これにより、右円偏光が擬似ラジアル偏光となる。このように、4分割の位相板を組み合わせることで、8分割の擬似ラジアル偏光を生成することができる。
【0046】
次に、第1の波長板10及び第2の波長板30の作成方法について、簡潔に説明する。第1の波長板10を作成する場合、正方形状のλ/8板を用意する。なお、λ/8板の軸方位は、正方形の1辺と平行になっている。そして、λ/8板を四等分する。すなわち、4つの分割領域を形成するため、正方形のλ/8板の中心を通る2本の分割線に沿って、λ/8板を切り出す。なお、2本の分割線は互いに直交しており、λ/8板の4辺に対して平行、又は垂直になっている。そして、ホルダや透明基板等を用いて、4つに切り出された分割片を固定する。このとき、軸方位が
図2に示すようになるように、4片に切り出されたλ/8板を固定する。例えば、対向する2つの分割領域に対応する2辺のλ/8板を90°回転させて、固定する。
【0047】
ここで、λ/8板を切り出す際、中心角が90°になるように切り出すことができる。このため、複雑な形状に切り出す必要がなくなり、切り出しを簡便かつ確実に行うことができる。すなわち、中心角が45°となる8片の場合と比べて、簡便に切り出すことができる。さらに、一枚のλ/8板から切り出された4片によって、1枚の第1の波長板10を作成することが可能となる。これにより、部品数を低減することができ、製造コストを低減することができる。同様に、λ/4板を切り出すことで、第2の波長板30について作成することができる。このように、切り出しを簡便かつ確実に行うことができ、生産性を向上することができる。さらに、1枚のλ/4板から切り出された4片によって、1枚の第2の波長板20を作成することが可能となる。これにより、異なる軸方位のλ/4板、及びλ/8板を用意する必要がなくなり、部品数を低減することができる。このように、製造コストを低減することができ、擬似ラジアル偏光、及び擬似アジマス偏光を生成するための偏光ビーム変換素子1を低コストで実現することができる。
【0048】
また、同一形状のλ/8板を4枚用意して、4枚のλ/8板を組み合わせることで、第1の波長板10を作成することができる。例えば、正方形又は中心角が90°の扇型のλ/8板を4枚用意する。そして、4枚に切り出した場合と同様に、4枚のλ/8板を組み合わせる。このようにすることで、同一形状のλ/8板を用いて第1の波長板10を作成することが可能になる。同様に、4枚のλ/4板を用意することで、第2の波長板20を作成することができる。この場合、切り出す必要がないため、かつ同一部品を用意すればよいため、第1の波長板10と第2の波長板20をより低コストで作成することができる。
【0049】
4つの分割領域の中心角を直角することで、第1の波長板10、第2の波長板20が回転対称になる。すなわち、隣接する分割領域では、軸方位が90°ずれており、90°対称となっている。Z軸を回転中心として90°回転させたとしても、第1の波長板10、及び第2の波長板20を軸方位は変化しなくなる。このようにすることで、製造が容易となり、8分割の軸対称ビームに変換するための偏光ビーム変換素子1を低コストで作成することができる。もちろん、第1の波長板10、及び第2の波長板20の少なくとも一方を回転対称にしても良い。さらに、組み合わせ波長板素子であるため、広い波長域に対応することができる。特に、石英とMgF
2を組み合わせた広帯域波長板を用意することで、位相板30以外の部品を広帯域化することができる。
【0050】
位相板30の製造方法に付いて説明する。透明な基板(ガラス板)に対して、透明膜を成膜することで、位相板30を作成することができる。例えば、マスクを用いて、蒸着する膜の厚さを部分的に変える。このようにすることで、簡便に位相板30を作成することができる。あるいは、透明な基板をエッチングすることで、位相板30を作成しても良い。この場合、レジスト等をマスクとして用いることで、位相板30を簡便に作成することができる。なお、位相板30は、入射位置に応じて光路長が異なるものであれば、上記の構成以外のものを用いてもよい。なお、位相板30については、波長に応じて変更する必要がある。しかしながら、厚さの異なる透明な透明板等を用意するだけでよいため、広い波長域であっても低コストで対応することができる。
【0051】
なお、本実施の形態において、第2の波長板20と位相板30を一体的に形成することも可能である。この場合、λ/4板上に直接、位相差を与える透明膜を形成する。例えば、誘電体膜を蒸着する、あるいは光硬化性樹脂膜を塗布することによって、第2の波長板に透明膜を形成することができる。これによって、透明膜を保持する基板が不要となり、偏光ビーム変換素子1を低コストで実現できる。
さらに、透明膜は、λ/4板と近い屈折率の材料によって形成することが好ましい。もちろん、λ/4板と屈折率が同じ材料として、λ/4板と同じ材料を使用することができる。例えば、λ/4板が石英波長板の場合、SiO
2を蒸着する。λ/4板がMgF
2の場合、MgF
2を蒸着する。あるいは、SiO
2、MgF
2、と同じ屈折率に調整されたレジスト、光硬化性樹脂膜を塗布する。
こうすることで、位相板(透明膜)と波長板の屈折率が近くなり、界面での反射によるロスを少なくすることができる。よって、光の利用効率を向上することができる。λ/4板と異なる屈折率の材料で透明膜を形成する場合でも、λ/4板と透明膜との間に適切な誘電体多層膜を形成することで、界面での反射によるロスを小さくできる。しかしながら、この場合にはλ/4板と近い屈折率の透明膜を使用する場合に比べると製造工程が増えてしまう。また、第2の波長板20と位相板20は分割領域の配置が同じであるため、容易に均一な厚さの透明膜を形成することができる。すなわち、4片のλ/8板又は4片のλ/4板を組み合わせる前に、それぞれの波長板の片に対して所定の厚さだけ透明膜を形成すればよい。
【0052】
なお、左円偏光をラジアル偏光にする場合に付いて、
図10、
図11を用いて説明する。
図10は、上述した右円偏光をラジアル偏光にする際の軸方位と位相遅れを示す図であり、
図11は、左円偏光をラジアル偏光にする際の軸方位と位相遅れを示す図である。
【0053】
上記の通り、右円偏光の場合、領域51〜58の軸方位は、
図10のようになっている。さらに、位相板30による位相差は
図10のようになっている。左円偏光の場合、領域51〜58の軸方位、及び位相板30による位相差は、
図11のようになっている。このような軸方位にするため、第1の波長板10と第2の波長板20を
図2、及び
図3に示した状態から−90°回転させる。さらに、位相板30を裏返す。すなわち、−45°の直線を回転軸として、位相板30を180°回転させる。これにより、分割領域32と分割領域34の位置が入れ替わる。このようにすることで、右円偏光と同じ部品で、左円偏光をラジアル偏光にすることができる。すなわち、右円偏光と左円偏光から擬似ラジアル偏光を生成する場合であっても、第1の波長板10、第2の波長板20、及び位相板30を共通化することができる。また、第1の波長板10、及び第2の波長板20を−90°回転させる代わりに、第1の波長板10、及び第2の波長板20を裏返しても、同様の軸方位とすることができる。
【0054】
(擬似アジマス偏光の生成)
さらに、擬似アジマス偏光を生成するための配置に付いて説明する。右円偏光から擬似アジマス偏光を生成する場合、第1の波長板10と第2の波長板20を裏返す。これにより、第1の波長板10と第2の波長板20の軸方位は、
図11に示す状態となる。なお、位相板30はそのままの配置、すなわち、
図10に示す配置とする。このような配置とすることで、右円偏光から擬似アジマス偏光を生成することができる。なお、第1の波長板10と第2の波長板20とを裏返す代わりに、第1の波長板10と第2の波長板20を
図2、及び
図3に示した状態から−90°回転させても良い。
左円偏光から擬似アジマス偏光を生成する場合、位相板30を裏返す。すなわち、位相板30を
図11に示す状態とする。このとき、第1の波長板10と第2の波長板20とは、
図10に示す状態となっている。このような配置とすることで、左円偏光を擬似アジマス偏光に変換することができる。
このようにすることで、擬似ラジアル偏光を生成するための組み合わせ波長板で、擬似ラジアル偏光を生成することができる。すなわち、擬似ラジアル偏光と擬似アジマス偏光とで、第1の波長板10、第2の波長板20、及び位相板30を共通化することができる。
【0055】
実施の形態2.
本実施の形態では、直線偏光を擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光とするため、偏光ビーム変換素子1が、
図12に示す構成となっている。本実施形態では、実施の形態1で示した構成に加えて第3の波長板40が設けられている。なお、実施の形態1で示した構成については説明を省略する。第3の波長板40は、第1の波長板10の前段に配置されている。第3の波長板40は、
図13に示すように、λ/4板である。
図13では、λ/4板の軸方位が太線で示され、直線偏光の偏光軸が矢印で示されている。直線偏光の偏光軸が軸方位に対して45°傾いている。よって、直線偏光が第3の波長板40を通過することで、円偏光が生成される。従って、実施の形態1と同様に、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成することができる。
【0056】
実施の形態3.
本実施の形態では、円偏光ラゲールガウスビームを擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光とするための、偏光ビーム変換素子1が
図14に示す構成となっている。ラゲールガウスビームでは波面が螺旋状になっている。そのため、第1の波長板10と第2の波長板20による位相遅れの調整が不要となる。実施の形態1の構成から、位相板30が取り除かれた構成となっている。なお、実施の形態1で示した構成については説明を省略する。本実施形態では、入射光の波面が予め螺旋状になっているラゲールガウスビームを用いてため、位相板30で位相を揃える必要がない。もちろん、本実施の形態にかかる偏光ビーム変換素子1は、波面が螺旋状となっているラゲールガウスビームに限らず、波面が螺旋階段状となっている擬似的なラゲールガウスビームに対しても適用可能である。なお、ラゲールガウスビームはホログラム素子や液晶素子を用いて生成することができる。
【0057】
実施の形態4.
本実施の形態では、直線偏光ラゲールガウスビームを擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光とするための、偏光ビーム変換素子1が
図15に示す構成となっている。ラゲールガウスビームでは波面が螺旋状になっている。そのため、第1の波長板10と第2の波長板20による位相遅れの調整が不要となる。実施の形態2の構成から、位相板30が取り除かれた構成となっている。すなわち、実施の形態3の構成に対して、第3の波長板40を追加した構成となっている。なお、実施の形態1で示した構成については説明を省略する。本実施形態では、入射光の波面が予め螺旋状になっているため、位相板30で位相を揃える必要がない。もちろん、本実施の形態にかかる偏光ビーム変換素子1は、波面が螺旋状となっているラゲールガウスビームに限らず、波面が螺旋階段状となっている擬似的なラゲールガウスビームに対しても適用可能である。なお、ラゲールガウスビームはホログラム素子や液晶素子を用いて生成することができる。
【0058】
その他の実施の形態.
なお、上記の説明では、第1の波長板10、第2の波長板20、及び位相板30の外形は正方形に限られるものではない。例えば、第1の波長板10、第2の波長板20、及び位相板30の外形が、円形や長方形状であっても良い。また、レーザ光のスポット形状は円形に限られるものではない。例えば、スポットがリング状のビームを用いることもできる。さらに、波長板、及び位相板の外形線、軸方位の角度、分割領域の境界線は、示した角度値と厳密に一致していなくてもよい。実質的に、擬似ラジアル偏光や擬似アジマス偏光が得られるように配置されていても良い。このため、第1の波長板10には、放射状に4分割された分割領域が設けられ、分割領域のそれぞれにλ/8板が設けられた構成とする。そした、λ/8板の軸方位が、周方向に隣接する2つの分割領域では略直交しており、かつ対向する2つの分割領域では略平行となるように配置する。さらに、第1の波長板10の後段に配置された第2の波長板20には、放射状に4分割された分割領域が設けられ、分割領域のそれぞれにλ/4板が配置された構成とする。そして、λ/4板の軸方位が、周方向に隣接する2つの分割領域では略直交しており、かつ対向する2つの分割領域では略平行となるように配置する。さらに、第1の波長板10の分割領域のそれぞれが、第2の波長板20の分割領域とずれて配置され、λ/8板の軸方位とλ/4板の軸方位がずれるように配置すればよい。
【0059】
実施の形態1、2では、位相板30が最前段に配置されていたが、位相板30の配置は、特に限られるものではない。すなわち、位相板30は、偏光軸を変えるものではないため、どの場所に配置しても良い。例えば、第2の波長板20の後段でもよく、第1の波長板10と第2の波長板20の間でもよく、第1の波長板10と第3の波長板40の間であっても良い。
【0060】
(応用例1:電子銃、及び電子発生方法)
上記の偏光ビーム変換素子は電子銃、レーザ加工装置、レーザ顕微鏡等に利用することができる。例えば、電子銃、特には偏極電子銃への利用することで、電子ビームの高輝度化、低エミッタンス化を実現することができる。例えば、フォトカソードに擬似ラジアル偏光ビームを入射させる。擬似ラジアル偏光ビームを用いた電子銃に付いては、例えば、特開2008−288099号公報、特開2009−031634号公報、特開2010−015877号公報等に記載されている。さらに、上記の電子銃は、電子顕微鏡、X線自由電子レーザ(XFEL)、逆コンプトン散乱によるフェムト秒X線パルス光源、高繰り返しフェムト秒時間分解電子顕微鏡、超短パルス電子線描画装置、エネルギー回収型ライナック(ERL)などの電子源として、好適である。また、偏光ビーム変換素子をレーザ加工装置に用いることで、高効率なレーザ加工を実現することができる。レーザ顕微鏡に用いることで、より精度よく観察することができる。
【0061】
また、擬似ラジアル偏光は、Z方向に電気ベクトルが振動するZ方向の生成に利用することができる。上記の偏光ビーム変換素子を用いて生成したZ偏光を利用する電子銃、及び電子発生方法に付いて、
図16を用いて説明する。
図16は、電子銃の構成を示す図である。
【0062】
電子銃100は、レーザ光150がカソードに入射することによって、電子を発生するフォトカソード電子銃である。そして、電子銃100で発生した電子は、マイクロ波源124からのマイクロ波によって加速される。なお、本実施の形態にかかる電子銃100は、反射型のフォトカソードを有している。すなわち、電子ビーム出射側からレーザ光を照射している。
【0063】
電子銃100は、レーザ光源111、波長変換素子112、アキシコンレンズ113、アキシコンレンズ114、偏光ビーム変換素子115、ミラー117、レンズ118、フォトカソード121、共振器123、及びマイクロ波源124を有している。
【0064】
レーザ光源111は、直線偏光のレーザ光150を出射する。レーザ光源111としては、例えば、再生増幅器付きのTi:Sapphireレーザを用いることができる。従って、レーザ光源111は、波長790mmのパルスレーザ光を出射する。レーザ光源111からの光ビームは、平行光束となって、波長変換素子112に入射する。波長変換素子112は、例えば、非線形光学結晶であり、レーザ光150の波長を変換する。これにより、レーザ光150の波長が短くなる。波長変換素子112としては、例えば、BBO結晶を用いることができる。すなわち、波長変換素子112は、波長790nmの基本波から、波長395nmの2倍波を生成する。もちろん、2倍波に限らず、波長263nmの3倍波を用いてもよい。このように、波長変換素子112は、レーザ光150の波長を変換する。
【0065】
波長変換されたレーザ光150は、1対のアキシコンレンズ113、114に入射する。アキシコンレンズ113、114は、円錐形状になっている。レーザ光150は、1対のアキシコンレンズ113、114によって屈折され、輪状のビームに変換される。すなわち、アキシコンレンズ114から出射したレーザ光150の断面は、中空のリング状になっている。このように、1対のアキシコンレンズ113、114は、レーザ光150から円環ビームを生成する。アキシコンレンズ114からは、平行な光束が出射する。なお、1対のアキシコンレンズ113、114以外の構成で円環ビームを生成してもよい。例えば、1つのアキシコンレンズと1つの球面レンズとによって、円環ビームを生成することができる。このように、1枚以上のアキシコンレンズを用いることで、レーザ光強度の低下を防ぐことができる。あるいは、リング状のスリット(輪帯)を用いてもよい。このように、レーザ光源111からのレーザ光を円環状の光ビームに変換する円環ビーム変換手段を設けることによって、レーザ光150を効率よく利用することができる。
【0066】
アキシコンレンズ114から出射したレーザ光150は、偏光ビーム変換素子115に入射する。偏光ビーム変換素子115は、実施の形態2で示した偏光ビーム変換素子1である。この偏光ビーム変換素子115は、直線偏光を偏光軸が放射状になるラジアル偏光に変換する。正確には、偏光ビーム変換素子115に直線偏光のレーザ光150を入射させることで、ラジアル偏光に近い偏光状態となる。すなわち、直線偏光をラジアル偏光に近似する擬似ラジアル偏光にすることができる。この偏光ビーム変換素子115を、レンズ118と組み合わせることで、Z方向(光軸方向)に大きな電場成分を持つZ偏光を生成することができる。Z偏光に変換されたレーザ光150は、光の進行方向に振動する。
【0067】
偏光ビーム変換素子115を通過したレーザ光150は、ミラー117に入射する。ミラー117は、レーザ光150の光軸に対して45°傾斜している。従って、ミラー117は、レーザ光150を、フォトカソード121の方向に反射する。ミラー117からのレーザ光150は、レンズ118に入射する。レンズ118は、レーザ光150は、レンズ118によって屈折され、フォトカソード121に入射する。すなわち、レンズ118は、レーザ光150を集光して、フォトカソード121に照射する。
【0068】
ミラー117、及びレンズ118は、中心部分がくり抜かれた中空形状になっている。また、アキシコンレンズ113、114によって、レーザ光150が輪状になっている。このため、中空のミラー117、及びレンズ118を用いた場合でも、レーザ光のほとんどがフォトカソード121に入射する。換言すると、ミラー117、及びレンズ118は、輪状のレーザ光150に対応する中空部分を有している。よって、輪状のレーザ光150は、ミラー117、及びレンズ118の中空部分には、入射しない。これにより、レーザ光150のほとんどがフォトカソード121に入射する。従って、レーザ光150の利用効率の低下を防ぐことができる。
【0069】
レンズ118を通過したレーザ光150は、共振器123の開口部に入射する。レーザ光150は共振器123の空胴部分を通過して、フォトカソード121に入射する。レーザ光150は、レンズ118によって、フォトカソード121の表面に集光されている。すなわち、レンズ118の焦点位置にフォトカソード121の表面が配置されている。従って、レーザ光150の集光点は、フォトカソード121の表面となる。フォトカソード121にレーザ光150が入射すると、光電効果によって、電子が発生する。なお、レーザ光150の光軸は、フォトカソード121の表面と垂直になっている。すなわち、ミラー117はフォトカソード121に対して45°傾斜している。よって、レーザ光150は、フォトカソード121に直入射する。
【0070】
共振器123には、マイクロ波源124で発生したマイクロ波が入射されている。共振器123は、空胴共振器であり、入力されたマイクロ波に応じた定在波を発生する。すなわち、RF共振器である共振器123には、フォトカソード121で発生した電子を加速するための電場が発生している。フォトカソード121で発生した電子は、共振器123内の電場で加速される。すなわち、所定の速度の電子ビーム160となって共振器123から出射する。ここでは、共振器123で発生する定在波に応じて、レーザ光パルスのタイミングを調整する。すなわち、マイクロ波源124からのマイクロ波とレーザ光のパルスを同期させる。これにより、共振器123内に加速電場が生じているタイミングで、フォトカソード121から電子が発生する。従って、電子ビーム160が効率よく加速される。そして、加速された電子ビーム160は、ミラー117、及びレンズ118の中空部分を通過する。これにより、電子ビーム160に対して外乱が生じるのを防ぐことができる。すなわち、電子ビーム160がミラー117やレンズ118などの構造物を通過しなくなる。ミラー117、及びレンズ118が電子ビーム160と干渉しない。このため、電子ビーム160の品質の劣化を防ぐことができる。
【0071】
このようにして得られた電子ビーム160は、所定の経路を通過して、X線自由電子レーザ(XFEL)、逆コンプトン散乱によるフェムト秒X線パルス光源、フェムト秒時間分解電子顕微鏡、超短パルス電子線描画装置、エネルギー回収型ライナック(ERL)などに利用される。なお、電子ビーム160の経路中に存在するミラ−117、及びレンズ118は、真空中に配置される。すなわち、ミラー117、及びレンズ118は真空チャンバー内に配設される。従って、偏光ビーム変換素子115からのレーザ光150は、真空チャンバーに設けられたウィンドウを介して、ミラー117に入射する。このように、偏光ビーム変換素子115を大気中に配設している。これにより、光学系の調整等を容易に行うことができる。例えば、波長板、及び位相板の回転させることで、λ/4板とλ/8板の軸方位を調整することができる。よって、利便性を向上することができる。
【0072】
ここで、偏光ビーム変換素子115、及びレンズ118を用いることによって、レーザ光150の焦点位置では、Z方向の電場が発生している。フォトカソード121の表面にZ方向の電場をかけることで、ショットキー効果が発生する。ショットキー効果によって、フォトカソード121の実効的な仕事関数が小さくなるため、量子効率が高くなる。波長の長いレーザ光を用いた場合でも、大気中で安定な材料をフォトカソード121として用いることができる。例えば、仕事関数が4eV程度の銅や仕事関数が5.5eV程度の銅ダイアモンドなどをフォトカソード材料として用いることができる。換言すると、大気中で、フォトカソード121をメンテナンスすることが可能になる。よって、メンテナンス性を向上することができ、電子銃の長寿命化を図ることができる。さらに、フォトカソード材料の選択幅を広くすることができる。また、波長の長いレーザ光を用いることができるので、レーザ光源111の大型化、複雑化を防ぐことができる。すなわち、簡素な構成で小型のレーザ光源111を用いることが可能になる。
【0073】
フォトカソード121に金属材料を用いる場合、光電効果のレスポンスは、10fsec程度である。従って、マイクロ波源124のマイクロ波と同期して、レーザ光150を照射することで、安定して電子を加速することができる。
【0074】
本実施の形態では、偏光ビーム変換素子115を用いてZ偏光を発生させている。レーザ光150によるZ方向の電場を利用して、電子を発生させている。すなわち、Z偏光をフォトカソード121の表面に入射させている。これにより、ニードル化したフォトカソードに比べて、エミッタンスを向上することができる。さらに、量子効率を向上することができるため、高輝度の電子ビーム160を得ることができる。よって、簡便な構成で、高品質の電子ビーム160を発生させることができる。また、実効的な仕事関数を低くすることができる。このため、金属やダイアモンドなどの大気中で安定なフォトカソード材料を用いることができる。これにより、低ランニングコストでメンテナンス性の高い電子銃100を実現することができる。
【0075】
(応用例2:ビーム測定装置)
さらに、上記の偏光ビーム変換素子は、特開2008−288087号公報に開示されたビーム測定装置、ビーム測定方法についても利用することができる。本実施の形態の偏光ビーム変換素子を用いて、擬似ラジアル偏光を生成する。さらに、測定対象となる電子ビームの経路中には、ビームが通過する中空部分を有する電気光学素子を配置しておく。そして、電気光学素子の中空部分を電子ビームのバンチが通過すると、電気光学素子の結晶軸が変化する。また、電子ビームと同期して、中空の擬似ラジアル偏光を、経路中の電気光学素子を通過させる。すると、結晶軸の軸方位に応じて、擬似ラジアル偏光の偏光状態が変化する。従って、電気光学素子を通過した光の偏光状態を調べることで、ビームの3次元空間分布等を測定することができる。
【0076】
ビーム測定装置の構成に付いて、
図17を用いて説明する。
図17は、ビーム測定装置200の構成を示す図であり、基本的には、特開2008−288087号公報に記載された構成と同様の構成を有している。なお、ビーム測定装置200の基本的な概念は、特開2008−288087号公報に開示されているため、詳細な説明を省略する。
【0077】
レーザ光源201は、プローブ光となるレーザ光を出射する。レーザ光源201から出射したレーザ光は、光変調器202、及びフォトニック結晶203によって、線形にチャーピングされる。よって、フォトニック結晶203から出射したレーザ光は、波長と時間の関係がリニアになっている。光変調器202は、例えば、ファーストライト(FASTLITE)社製DAZZLER(登録商標)UWB−650−1100であり、パルスレーザ光の時間波形を変調する。フォトニック結晶は、非線形光学効果によって、レーザ光を広帯域化する。レーザ発振器によって発振したパルスレーザ光の波長が時間に応じて変化するよう、パルスレーザ光のパルス波形を整形して出射する。
【0078】
線形にチャーピングされた光ビームは、偏光ビーム変換素子204に入射する。偏光ビーム05204は、上記のように、光ビームをラジアル偏光に変換する。偏光ビーム変換素子204で8分割の擬似ラジアル偏光となった光ビームは、一対のアキシコンレンズ205、206に入射する。1対のアキシコンレンズ205、206によって、光ビームのスポットが中空となり、円環ビームが生成される。アキシコンレンズ205、206からの円環ラジアル偏光ビームは、タイミング制御板207に入射する。タイミング制御板207は、分割領域毎に、遅延時間を与える。すなわち、タイミング制御板207は、8つの分割領域毎に光路長が変化するよう、厚さや材料等が異なっている。タイミング制御板207は、例えば、各分割領域に10psec以上の遅延時間を与える。8分割の擬似ラジアル偏光の光ビームに対して、偏光方向毎に所定の遅延時間が与えられる。
【0079】
タイミング制御板207からの光ビームは、ミラー208に入射する。ミラー208は、電子ビーム220のビーム経路中に配置されている。ミラー208は、レーザ光の光軸に対して45°傾斜している。従って、ミラー208は、レーザ光を、ミラー211の方向に反射する。ミラー208からのレーザ光は、電子ビームの進行方向に伝播する。すなわち、パルスレーザ光は、電子ビームの下流側に伝搬する。ミラー211も、ミラー208と同様に中空になっており、電子ビーム220の経路中に配置されている。ミラー211によって、電子ビーム220の経路から、レーザ光が取り出される。
【0080】
ミラー208、211は、中心部分がくり抜かれた中空形状になっている。また、アキシコンレンズ205、206によって、レーザ光が輪状になっている。このため、中空のミラー208、211を用いた場合でも、レーザ光のほとんどがミラー208、211で反射される。従って、レーザ光の利用効率の低下を防ぐことができ、正確な測定が可能になる。また、電子ビーム31は、ミラー25の中空部分を通過する。これにより、非破壊で電子ビームを測定することができる。
【0081】
ミラー208とミラー211の間には、電気光学結晶209、又はカー材料210が配置される。電気光学結晶209は、電気光学効果を示す結晶であり、結晶軸がラジアル配置されている。電気光学結晶209では、電子ビーム220によって生じる電界によって、屈折率が変化する。電気光学結晶209としては、電界の強さに比例して屈折率が変化するポッケルス素子を用いることができる。カー材料210は、カー効果を示す材料であり、例えば、非晶質材料を用いることができる。カー材料210では、電子ビーム220によって生じる電界によって、屈折率が変化する。カー効果では、電界の強さの2乗に比例して、屈折率が変化する。なお、電気光学結晶209、又はカー材料210は、ミラー208、211と同様に中空であり、この中空部分を電子ビーム220が通過する。これにより、非破壊でのビーム測定が可能となる。なお、以下の説明ではビームの経路中に電気光学結晶209を配置する例に付いて説明する。
【0082】
電子ビーム220のバンチが電気光学結晶209の中空部分を通過するときに、レーザ光が電気光学結晶209を通過するにタイミング調整する。こうすることで、レーザ光が電気光学結晶209の屈折率変化の影響を受ける。例えば、結晶軸に平行な電場が印加されると結晶軸方向の屈折率が変化する。このとき、レーザ光の光軸と垂直な平面において、結晶軸と垂直な方向では、屈折率が略変化しない。従って、電気光学結晶209では、電場強度に比例して屈折率の変化が起こり、複屈折が誘起される。複屈折によって、各分割領域で、直線偏光が楕円偏光に変換される。楕円偏光の傾きは、電場強度に応じて変化する。また、電気光学結晶209における電場強度は、電子ビーム220の空間分布を反映している。ラジアル偏光ビームが、電気光学結晶209に入射すると、同時に電気光学結晶209に入射する電子ビーム220の空間分布に応じて、偏光状態が変化する。電気光学結晶209は、タイミング制御板207と同様に8分割となっており、例えば、結晶軸が放射状になっている。
【0083】
電気光学結晶209によって偏光状態が変化した光ビームは、ミラー211に入射する。ミラー211によって、電子ビームの経路中から光ビームが取り出される。光ビームは波長板212に入射する。波長板212を通過した光ビームは、偏光ビームスプリッタ213に入射する。電気光学結晶209によって生じたリタデーションを偏光ビームスプリッタ213で直交する偏光成分に分離する。このように、偏光ビームスプリッタ213は、入射光学系から電気光学結晶209を介して入射したパルスレーザ光から、所定の偏光成分を取り出す。そして、それぞれの直交成分に対して、分光器214、215が分光測定を行う。これにより、直交成分のそれぞれに対して、スペクトルが測定される。
【0084】
ここで、電気光学結晶209に入射するレーザ光はチャープされている。さらに、電気光学結晶209に入射するレーザ光には、タイミング制御板207によって、遅延時間が与えられている。従って、電気光学結晶209によるリタデーションの影響を受けるレーザ光の波長が、分割領域で異なっている。すなわち、光ビームの進行方向において、電子ビーム220のバンチと同じ位置にあるレーザ光の波長は、分割領域で異なっている。従って、分光測定を行うことで、各分割領域の光強度を独立に測定することができる。さらに、直交成分のそれぞれに対してスペクトル測定を行うことで、電子ビームの空間分布を測定することができる。
【0085】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各位相差板の分割領域の中心角は、厳密に90°に限られるものではない。すなわち、4分割にすることで、中心角が直角に近くなるので、8分割の場合よりも中心角を大きくすることができる。このようにすることで、波長板の切り出しを簡便に行うことができる。
【0086】
(偏光ビーム変換素子の2
n分割への拡張)
上記の説明では、4分割の波長板を2枚組み合わせて、8分割の擬似ラジアル偏光を生成したが、本発明にかかる偏光ビーム変換素子は、2
n分割の波長板を2枚組み合わせて、2
(n+1)分割の擬似ラジアル偏光に変換する構成に拡張することができる(なお、nは2以上の自然数である)。n分割に拡張する場合に付いて説明する。
【0087】
回転対称性を満たすため、入射光を円偏光とする。左右どちらの円偏光でもよいが、以下の説明では、右回りの円偏光が入射する場合を考える。偏光状態を
図18に示すポアンカレ球で考える。偏光状態をポアンカレ球上で考える。球の直径は1に規格化されているとする。ポアンカレ球状の座標を極座標(ψ,χ)で表す。
ただし、
S
1=cosχcosψ
S
2=cosχsinψ
S
3=sinχ
S
12+S
22+S
32=1
である。
【0088】
第1の波長板10、第2の波長板20を2
n分割とし、X軸となす角が最も小さい分割領域を第1分割領域とする。説明の明確化のため、第1の波長板10の第1分割領域の波長板を波長板1−1とし、第2の波長板20の第1分割領域の波長板を波長板2−1とする。さらに、第1の波長板10について、波長板1−1から反時計回りに波長板1−2、波長板1−3、・・・波長板1−nとする。同様に、第2の波長板20についても、波長板2−1から反時計回りに波長板2−2、波長板2−3、・・・波長板2−nとする。波長板1−1〜1−8、及び波長板2−1〜2−8の中心角は、2π/2
nとなる。2
3=8分割の波長板を2枚組み合わせて、2
4=16分割の擬似ラジアル偏光を生成する例では、第1の波長板10と第2の波長板20は、
図19、
図20のように示される。
図19は8分割の第1の波長板10を示す正面図であり、
図20は、8分割の第2の波長板20を示す正面図である。
【0089】
図21はポアンカレ球を北極側から見た投影図である。入射光の右回り円偏光はポアンカレ球上で、北極(ψ,χ)=(0,π/2)である(点A)。入射光は波長板1−1を透過し、ポアンカレ球上で、点Bで表される偏光状態に変化する。2
n+1分割のラジアル偏光が生成されるためには、波長板1−1と波長板2−1を透過した光の偏光方向とx軸のなす角がπ/2
n+1となればよい。この偏光状態はポアンカレ球上で(ψ,χ)=(π/2
n,0)で表される(点C)。波長板1−1と波長板2−2
nを透過した光の偏光方向とx軸のなす角はπ/2
n+1となればよい。この偏光状態はポアンカレ球上で(ψ,χ)=(−π/2
n,0)で表される(点D)。
【0090】
点Bの満たすべき条件に付いて考える。
波長板2−1と波長板2−2
nは同じ位相差の波長板であるため、BとCの間の球の表面に沿った距離と、BとDの間の球の表面に沿った距離とは等しいことが求められる。したがって、点BはS
1S
3平面上の点である必要がある(北極からの投影図のS
1軸上)。
回転対称性から、波長板2−1がx軸となす角と、波長板2−2
n がx軸となす角との差は、2π/2
nである。このような角度の違いを持った波長板によって、BからC、BからDへ偏光状態が移動するためには、北極からの投影図上でのCBD=2π/2
n−1である必要がある。以上の条件から点Bの位置は(0,arccos(0.5/cos(π/2
n))と求められる。
【0091】
なお、上記の点Bの位置は、
図22を参照して、以下のように導出される。
2・∠CAB=∠CBEより、AB=BC(二等辺三角形)
AC=1より、AB=0.5/cos(∠CAB)=0.5/cos(π/2
n)
χ=arccos(AB)=arccos(0.5/cos(π/2
n)
【0092】
波長板1−1は点Aから点Bへ偏光状態を変化させることから、次のようなものを用いればよい。
軸の向きとx軸の成す角度:−π/4
位相差:(λ/4)×(1−arccos(0.5/cos(π/2
n))/(π/2)) ・・・(2)
【0093】
波長板2−1は点Bから点Cへ偏光状態を変化させることから、次のようなものを用いればよい。
軸の向きとx軸の成す角度: π/2
n−π/4
位相差:(λ/4)×(arccos(1−0.5/cos
2(π/2
n))/(π/2)) ・・・(3)
【0094】
回転対称性から残りの波長板の軸方位は容易に求まる。すなわち、隣接する分割領域の波長板の軸方位の差が、2π/2
nとなればよい。これにより、対向する2つの分割領域の波長板の軸方位が平行になる。第1の波長板10に設けられた波長板1−1〜波長板1−nは全て同じ位相差であり、第2の波長板20に設けられた波長板2−1〜波長板20nも全て同じ位相差である。そして、第1の波長板10に設けられた波長板の軸方位と、第2の波長板20に設けられた波長板の軸方位は、π/2
nずれている。すなわち、第1の波長板10の分割領域と一部重複する第2の波長板20の分割領域において、重複する分割領域の軸方位の成す角度は、2π/2
nとなる。さらに、XY平面上において、第1の波長板10の分割領域と第2の波長板20の分割領域は、ずれている。XY平面において、第1の波長板10の分割領域と第2の波長板20の分割領域とが、π/2
nずれている。従って、第1の波長板10の分割領域の一つがx軸で二等分されるとすると、第2の波長板20の分割領域の境界線の一つがx軸と一致する。
【0095】
このような第1の波長板10、及び第2の波長板20を透過した光の位相を求めると、波長板1−1と波長板2−1を透過した光の位相と、波長板1−2と波長板2−1を透過した光の位相は揃っている。回転対称性から同様に波長板1−2と波長板2−2を透過した光の位相と、波長板1−3と波長板2−2を透過した光の位相も揃うことがわかる。すなわち、第2の波長板20において1つの分割領域内を透過した光の位相は揃っている。
【0096】
波長板2−1を透過した光の位相と波長板2−2を透過した光の位相を比較すると、波長板2−2を透過した光の位相は、2π/2
nだけ位相が遅れている。第2の波長板20の隣り合う分割領域では境界を入射側から見て反時計回りに超えると2π/2
nだけ位相が遅れる。第2の波長板20と同様に分割した位相板をもちいることで、この位相差を補正できる。具体的には、入射側から見て時計回りに2π/2
n(λ/2
n)ずつ、位相差を増加させた分割位相板を用いる。この分割位相板によって、隣接する分割領域を通過する光に、2π/2
n(λ/2
n)の光路長差が与えられる。この位相差は第2の波長板上に蒸着などによって形成した位相差膜によって与えても良い。すなわち、位相板30を第2の波長板20の上に直接形成してもよい。
【0097】
左回り円偏光が入射される場合は、それぞれの波長板の軸方位をπ/2だけ回転させた波長板のセットを用い、反時計回りに2π/2
n(λ/2
n)ずつ、位相差を変化させた分割位相板を用いることでラジアル偏光を生成できる。このことは第1の波長板10、第2の波長板20と位相板30のそれぞれを裏返すことと同じである。位相差膜が第2の波長板上に直接形成されている場合にも、そのまま裏返して用いることができる。それぞれを裏返すことができるように、第1の波長板10と第2の波長板20とは分離可能とし、裏返しても組み付けられるようにすることができる。
【0098】
アジマス偏光を生成させる場合には、(擬似アジマス偏光の生成)で説明した手法を用いることができる。例えば、右回り円偏光からラジアル偏光を生成させるための組み合わせに左回り円偏光を入射する(あるいはその逆とする)と良い。このとき、上記の位相板30を裏返した状態としている。このようにすることで、アジマス偏光を生成することができる。
【0099】
このように、第1の波長板10の各分割領域において、直交する成分に、式(2)で示される位相差を与え、第2の波長板20の各分割領域において、直交する成分に式(3)で示される位相差を与える。また、第1の波長板10において、隣接する分割領域の軸方位は、2π/2
n異なるように配置する。同様に、第2の波長板20において、隣接する分割領域の軸方位が、2π/2
n異なるように配置する。さらに、各分割領域の中心角を2π/2
nとする。このようにすることで、第1の波長板10と第2の波長板20が回転対称となる。さらに、非ラゲールガウスビームの場合、光軸と垂直な平面において、第2の波長板20の分割領域と一致するよう配置された2
nの分割領域を有する位相板をさらに設ける。そして、位相板30が隣接する分割領域においてλ/2
nに対応する光路長差を与えるようにする。第1の波長板10の波長板の軸方位と、第2の波長板20の波長板の軸方位が略π/2
nずれるように配置する。こうすることで、擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光に近づけることができる。
【0100】
(n=1の場合)
次に、n=1の場合に付いて
図23〜
図25を用いて説明する。n=1の場合、2分割の波長板を2枚用意して、4分割の擬似ラジアル偏光、又は擬似アジマス偏光を生成する。
図23は、第1の波長板10の正面図であり、
図24は、第2の波長板20の正面図であり、
図25は位相板30の正面図である。
図23〜
図25は、それぞれ、ビームの入射側から見た構成を示している。n=1の場合、入射光を45°の直線偏光とする。すなわち、x軸から+45°傾斜した偏光面を持つ直線偏光を第1の波長板10に入射させる。第1の波長板10の前段に、λ/2板やλ/4板を配置することで、入射光を45°の直線偏光にすることができる。n=1の場合、上記の(2)式、及び(3)式に当てはまらない特異点となる。以下の説明では、45°の直線偏光を、4分割の擬似ラジアル偏光に変換する例に付いて説明する。
【0101】
第1の波長板10は、nが2以上の時と同様に、放射状に2分割されている。本実施形態では、第1の波長板10は
図23に示すように、左右に二等分された分割領域を有している。すなわち、第1分割領域と第2分割領域の境界線がy方向となる。右側の分割領域の波長板1−1では、軸方位がx方向となり、左側の分割領域の波長板1−2では、軸方位がy方向となっている。このように、波長板1−1の軸方位と波長板1−2の軸方位とが直交している。
【0102】
第2の波長板20は、nが2以上の時と同様に、放射状に2分割されている。本実施形態では、第2の波長板20は、上下に二等分された分割領域を有している。すなわち、第1分割領域と第2分割領域の境界線がx方向となる。上側の分割領域の波長板2−1では、軸方位がx方向となり、下側の分割領域の波長板2−2では、軸方位がy方向となっている。このように、波長板2−1の軸方位と波長板2−2の軸方位とが直交している。このようにすることで、4分割の放射状の偏光状態に変換することができる。また、2分割の波長板を2枚用意するだけでよいため、コストを低減することができる。
【0103】
さらに、非ラゲールガウスビームの場合、
図25に示す位相板30を第2の波長板20の後段に配置する。もちろん、上記と同様に、第2の波長板20に直接、位相板30を形成しても良い。位相板30は、4分割の分割領域を有している。そして、第1象限の位相を基準(0)とすると、第2象限はλ/4(π/2)、第3象限はλ/2(π)、第4象限は3λ/4(3π/2)だけ、位相を遅らせる。このように、4分割の位相板30を配置して、位相を遅らせることで、位相を揃えることができる。
【0104】
4分割のアジマス偏光を生成させる場合には、−45°の直線偏光を第1の波長板10に入射させればよい。あるいは、第1の波長板10、第2の波長板20、位相板30を反転させて、4分割の擬似アジマス偏光を生成しても良い。(間違っていないかご確認下さい)
【0105】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各波長板の分割領域で与えられる位相差、軸方位等は、上記の式、及び値と厳密に一致していなくても良い。