(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の表面活性化処理が、無機粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング処理、プラズマ放電処理またはコロナ放電処理である、請求項1に記載のラミネート装置用の前記熱板保護シート。
前記熱板保護シートは、ラミネート装置の搬送シートと接触する側の表面に前記ポリイミド系樹脂からなる表面層を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のラミネート装置用の熱板保護シート。
前記の表面活性化処理が、無機粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング処理、プラズマ放電処理またはコロナ放電処理である、請求項5に記載のラミネート装置用の前記搬送シート。
前記搬送シートは、ラミネート装置の熱板保護シートと接触する側の表面に前記ポリイミド系樹脂からなる表面層を有することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載のラミネート装置用の搬送シート。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性および引張強度等に優れた耐熱性繊維織布に、耐熱性や非粘着性に優れた耐熱性樹脂を複合した耐熱性複合シートが知られており、これら耐熱性複合シートは工業関連の耐熱非粘着性シートや耐熱非粘着性搬送ベルト等として使用されている。
【0003】
上記耐熱性複合シートに用いられる耐熱性繊維織布としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維等を平織、綾織等とした織布が用いられている。
【0004】
また、上記耐熱性複合シートに用いられる耐熱性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のフッ素樹脂が用いられている。
【0005】
しかし、一般的に、フッ素樹脂は、耐熱性、耐寒性、非粘着性、耐薬品性、耐燃焼性、耐候性、電気絶縁性、低摩擦性等に優れているが、耐摩耗性に乏しいことと低摩擦性に優れるためスリップし易いという問題点がある。
フッ素樹脂よりも耐摩耗性に優れ、低摩擦性に劣り、グリップ性に優れ、スリップし難い耐熱性材料としてポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0006】
耐摩耗性を向上させたシートの製造方法としては、例えば、ポリイミド系樹脂をフッ素樹脂水性懸濁液に分散させた混合液に耐熱性繊維織布を含浸し付着させて、乾燥した後、焼成する方法(特開2006―21403号公報(特許文献1))が提案されている。
【0007】
しかし、上記の特許文献1に記載のシートは、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材であることから双方の性能が平均化されていて、ポリイミド系樹脂本来の優れた耐摩耗性を得ることは困難なようである。搬送用のエンドレスベルトにおいては、駆動ロールとの接触面であるベルトの内側面が適度なグリップ性と耐摩耗性を有していることが重要となるが、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材ではこれらを両立させることは困難なようである。
【0008】
ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材ではない、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の層を形成する管状エンドレスベルト(特開平7-110632号公報(特許文献2)、特開平7-178741号公報(特許文献3)、特開2002―178422号公報(特許文献4))も提案されている。しかし、製造方法が円筒状金型での成型であり、様々な寸法に対応するためには、設備費が増大するようである。
【0009】
また、太陽電池モジュールを封止する際に用いられるラミネート装置は、特許文献5に開示されているように、一般的に、ラミネート加工時は、ダイヤフラム等の押圧部材により仕切られた上チャンバと下チャンバを有している。下チャンバには太陽電池モジュール等の被加工物を加熱する熱板と、被加工物をラミネート装置外から当該熱板上に搬送するための搬送シート等を備えている。上チャンバは、被加工物を押圧するためのダイヤフラムなどの押圧部材等を備えている。
【0010】
搬送シートは、被加工物を搭載して走行するので、熱板との間で摩擦が生じるため、傷や破れ等の損傷を受けやすい。また熱板の搬送シートとの接触面も搬送シートとの摩擦により摩耗する。そのため、熱板の上部に保護シート(前記した熱板保護シート)を設けて、搬送シートを保護するのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の事情を考慮し、検討したものであって、優れた耐熱性、非粘着性と共に必要な耐摩耗性やグリップ性を有した複層シートを得て、これを必要寸法に裁断してエンドレス化することで、型を使用せず様々な寸法のエンドレスベルトが製造可能な複層シート、およびこの複層シートからなるエンドレスベルトならびにその製造方法を提供することを第1の目的とする。
【0013】
また太陽電池モジュールを製造するラミネート装置において使用される保護シート及び搬送シートについては以下のような問題がある。
熱板上に保護シートを設けることにより、熱板にて発生する熱が保護シートおよび搬送シートを介して被加工物に伝わることになる。これにより、ラミネート加工する被加工物への熱が伝わりにくくなり、ラミネート加工時の昇温速度の遅延が生じることになる。その結果、ラミネート加工時間が長くなり、生産効率が低下するという問題点があった。一方、被加工物の生産タクトタイムを優先すると、ラミネート加工に必要な熱量が不足し、被加工物の構成部材である充填材(封止材)のラミネート加工度不足(架橋不足)が生じることになる。この場合、被加工物の品質的な問題や製造歩留りの問題が発生する。
【0014】
一方、搬送シートは耐熱性・非粘着性・潤滑性・耐薬品性等の理由からフッ素系樹脂を含むものPTFE等が使用されており、また熱板保護シートにも同じ理由から同材料が用いられている。ラミネート加工時には、これら二種類のシートが密着し、さらにラミネート加工時に両シートに熱が加わるが、いずれもフッ素樹脂を含むものから成るため、互いに張り付きやすいという問題も有った。一回目のラミネート加工が終わった後、熱板に取り付けられて固定されている熱板保護シートと搬送シートが張り付いたままで搬送シートが被加工物を搬出するために動き出すと、当該保護シートも搬送シートにより引っ張られ、熱板保護シートの取り付け部で破損することがあった。また同時に搬送シートも破損してしまうこともある。
【0015】
また、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ラミネート加工時の昇温速度を向上させることができ、同時に保護シートの破損を防止した保護シート及び搬送シートを提供することを第2の目的とする。また当該保護シート及び搬送シートを使用したラミネート装置を提供することを第3の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を達成するための第1発明である複層シートは、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる少なくとも1層の複合材層とポリイミド系樹脂からなる表面層とを有する複層シートであって、前記表面層が、前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていること、を特徴とするものである。
【0017】
第2発明の複層シートは、第1発明において、前記の表面活性化処理が、シリカ粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング処理、プラズマ放電処理またはコロナ放電処理であるもの、を包含する。
【0018】
第3発明のエンドレスベルトは、第1発明において、上記の複層シートから形成されたベルト状物の環状体からなること、を特徴とするものである。
【0019】
第4発明のエンドレスベルトの製造方法は、第1発明の複層シートをベルト状に裁断し、この複層シートのベルト状物の対向する二つの端部を接合して環状体を得ること、を特徴とするものである。
【0020】
第5発明のエンドレスベルトの製造方法は、第1発明の複層シートと他のシートとが積層されたベルト状物を、このベルト状物の前記複層シートについての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシートについての対向する二つの端部をそれぞれ接合ないし近接配置させて環状体を得ること、を特徴とするものである。
【0021】
第6発明のラミネート装置用の熱板保護シートは、第1発明または第2発明の複層シートからなることを特徴とするものである。
【0022】
第7発明のラミネート装置用の熱板保護シートは、第6発明において、ラミネート加工した後、ラミネート装置の搬送シートとの付着がまったく無いことを特徴とするものである。
【0023】
第8発明のラミネート装置用の熱板保護シートは、第6発明または第7発明において、搬送シートと接触する側の表面に前記ポリイミド系樹脂からなる表面層を有することを特徴とするものである。
【0024】
第9発明のラミネート装置用の搬送シートは、第1発明また第2発明の複層シートからなることを特徴とするものである。
【0025】
第10発明のラミネート装置用の搬送シートは、第9発明において、ラミネート加工した後、ラミネート装置の熱板保護シートとの付着がまったく無いことを特徴とするものである。
【0026】
第11発明の前記搬送シートは、第9発明または第10発明において、熱板保護シートと接触する側の表面に前記ポリイミド系樹脂からなる表面層を有することを特徴とする。
【0027】
第12発明のラミネート装置は、第6発明から第8発明のいずれかの熱板保護シートを使用したことを特徴とするものである。
【0028】
第13発明のラミネート装置は、第9発明から第11発明のいずれかの搬送シートを使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、優れた耐熱性、非粘着性および耐摩耗性、グリップ性を有する複層シートを得ることができる。
【0030】
この複層シートは、その表面層がポリイミド系樹脂であることから、所望の用途、要求性能等に適合した非粘着性、耐摩耗性ないしグリップ性等を得ることが出来る。
【0031】
そして、本発明によれば、この複層シートをそのままあるいは他のシートを積層した後に、所望とする幅および長さのエンドレスベルトが形成できるように、この複層シートあるいは他のシートの積層物をベルト状に切断し、これからエンドレスベルトを得ることができるので、用途に応じた所望の幅、長さ、層構成のエンドレスベルトを容易に製造することができる。また、積層に先だって、所望の幅、長さを有する各層を用意し、これらを積層の後、エンドレスベルトを製造することができる。
【0032】
また、場合により、同一の複層シートを切断することなしに幅広のエンドレスベルトを
一旦形成させた後に、この幅広のエンドレスベルトを所望の幅に切断することによって、長さが同一のエンドレスベルトを同時に複数製造することが可能になる。また、前記の幅広のエンドレスベルトを切断する際の幅を調整することによって、幅が異なるエンドレスベルトを作り分けることも容易である。
【0033】
そして、複層シートの表面層の形成をポリイミド系樹脂の塗布によって行うことができるので、予め表面層部分をシート状で得ておいてこれを接着剤等によって積層する場合に比べて、表面層の接合強度が高いことから強度および耐久性が優れた複層シートおよびエンドレスベルトを得ることができ、かつ複層シートやエンドレスベルトの製造を容易かつ効率的に行うことができる。
【0034】
本発明の複層シートをラミネート装置の熱板保護シート及び搬送シートに使用することにより以下の効果を得ることができる。
【0035】
ラミネ−ト加工中に搬送シートと熱板保護シートの付着が無いので、ラミネート加工後に被加工物を搭載して搬送シートを走行させても、熱板保護シートが損傷することがない。熱板保護シートと搬送シートとの付着を無くすことができ、熱板保護シートおよび搬送シートの耐摩耗性を更に向上させることができる。したがってラミネート装置用の熱板保護シートおよび搬送シートの寿命が向上するのでその交換作業を減らすことができ、太陽電池モジュールの生産性が向上する。
【0036】
ラミネート加工後の熱板保護シートと搬送シートとの付着が無いので、ラミネート加工が終了した後に搬送シートに被加工物を搭載して走行させても、両シートが破断するようなことが無く、熱板保護シートおよび搬送シートの厚みを薄くすることができる。これにより熱板から熱板保護シート、搬送シートを介して被加工物への加熱が迅速になされ、被加工物のラミネート加工時間を短縮することができる。したがって本発明の熱板保護シート及び搬送シートは熱伝導性が良好であり、昇温速度を早めることが可能となり、ラミネート加工の生産効率を向上させることができる。
【0037】
本発明のラミネート装置によれば、ラミネ−ト加工中に搬送シートと熱板保護シートの付着が無いので、ラミネート加工後、被加工物を搭載して搬送シートが熱板保護シート上を走行しても、熱板保護シートや搬送シートが損傷したり破断することが無く、両シートを薄くできるので熱伝導性が良好となる。これによりラミネート加工の際の被加工物の昇温速度を早めることが可能となり、ラミネート加工の生産効率を向上させることができる。またラミネート加工の温度上昇不足により生じていた太陽電池モジュールのラミネート加工不良が減り、製品の歩留りが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明による複層シートは、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる少なくとも1層の複合材層とポリイミド系樹脂からなる表面層とを有する複層シートであって、前記表面層が、前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていること、を特徴とするものである。
【0040】
このような本発明による複層シートの好ましい具体例としては、例えば
図1、2に記載されたものを挙げることができる。
【0041】
図1に示される本発明による複層シート10は、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2とポリイミド系樹脂からなる表面層3aとを有する複層シートであって、前記表面層3aが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0042】
図2に示される本発明による複層シート11は、この複層シートの両面にポリイミド系樹脂からなる表面層を有するものであって、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2と、ポリイミド系樹脂からなる表面層3aとを有する複層シートであって、前記表面層3aが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0043】
<複合材層>
本発明による複層シートにおける複合材層は、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなるものである。
【0044】
本発明におけるフッ素樹脂としては、限定するものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群から選ばれた耐熱性樹脂が挙げられる。この中では、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0045】
前記フッ素樹脂には、必要に応じて導電性粉を配合することができる。これによって、導電性の付与ないし向上ならびに耐摩耗性の向上等を図ることができる。導電性粉の好ましい具体例としては、カーボンブラックおよび酸化チタンを挙げることができる。その配合量は、フッ素樹脂に対して1〜20質量部が好ましい。
【0046】
本発明において、前記耐熱性繊維織布としては、限定するものではないが、ガラス繊維、アラミド繊維が挙げられる。耐熱性繊維織布の厚さは、一般的に30〜1000μm、特に30〜700μmが好ましい。
【0047】
このような複合材層は、好ましくは、例えば、前記のフッ素樹脂の粒子の水性懸濁液を前記の耐熱性繊維織布に含浸させ、乾燥した後、焼成することによって形成することができる。水性懸濁液を調製する際の溶媒としては、例えば水、特に純水、が好ましい。水性懸濁液中のフッ素樹脂の粒子の量は、溶媒100質量部に対して20〜60質量部、特に30〜60質量部が好ましい。
【0048】
本発明における複合材層は、フッ素樹脂が耐熱性繊維織布の内部にまで充分浸透し、かつ耐熱性繊維織布の表面がフッ素樹脂に覆われていることが好ましい。従って、フッ素樹脂の施用量は、耐熱性繊維織布とフッ素樹脂との総量を100質量部として、30〜70質量部、特に40〜60質量部、が好ましい。
【0049】
<表面層>
本発明による複層シートは、ポリイミド系樹脂からなる表面層を有するものである。
【0050】
本発明において、ポリイミド系樹脂は、限定されるものではないが、例えばポリイミドおよびポリアミドイミドが好ましく、特にポリイミドが好ましい。
【0051】
本発明において表面層を塗工により形成させる際は、その塗工を容易にするために液状のポリイミドワニスを用いることができ、必要に応じて溶剤を配合することができる。これによって、粘度を低減して塗工性の向上を図ることができる。
【0052】
また、ポリイミド樹脂には、必要に応じて導電性粉を配合することができる。これによって、例えば導電性や熱伝導性の付与ないし向上ならびに耐摩耗性の向上等を図ることができる。
【0053】
上記の表面層の形成は、上記のポリイミド系樹脂を、複合材層の表面活性化処理面に塗工し、乾燥した後、焼成することによって行うことができる。ポリイミド系樹脂の焼成温度は、300〜400℃が好ましく、特に330〜370℃が好ましい。
【0054】
表面層の厚さは、本発明による複層シートおよびエンドレスベルトの具体的用途や目的等によって適宜定めることができる。例えば、搬送用途に特に適したエンドレスベルト製造用の複層シートについて示せば、ポリイミド樹脂表面層の厚さは1〜50μmが好ましく、特に5〜20μmが特に好ましい。
【0055】
<表面活性化処理>
本発明による複層シートにおいては、前記表面層が前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されている。ここで、表面活性化処理とは、前述の本発明による複合材層の表面のフッ素樹脂を処理することによって、その表面張力を低下させて、複合材層のフッ素樹脂と複層シートの表面層として形成されるポリイミド系樹脂との接合を可能にし、かつ充分な接合強度を発現させる処理を言う。この表面活性化処理が行なわれない場合には、前記の複合材に、ポリイミド系樹脂からなる表面層を形成することができず、本発明の目的を達成することができない。
【0056】
本発明における好ましい表面活性化処理としては、例えばシリカ粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング表面処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理を挙げることができる。この中では、シリカ粒子付着焼成処理が特に好ましい。
【0057】
ここで、本発明における表面活性化処理の詳細を下記に示す。
【0058】
シリカ粒子付着焼成処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材に、シリカ粒子とフッ素樹脂粒子との混合水性懸濁液を塗布した後、焼成処理を行うことにより複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0059】
金属ナトリウムエッチング表面処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材に、金属ナトリウム溶液を塗布することにより、複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0060】
プラズマ放電処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材の表面にグロー放電処理を施して、複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0061】
コロナ放電処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる前記の複合材の表面にコロナ放電処理を施し、複合材の表面の親水性を向上させる処理。
【0062】
表面活性化処理は、上記複合材層の上記の表面層が形成される部位の全面に対して行うことが好ましいが、上記の複合材層の表面層が形成される部位の一部分に対して行うこともできる。
【0063】
このような表面活性化処理を施すことによって、複合材層表面のフッ素樹脂面上に純水を滴下した際の接触角(JIS K6768)が有意に低下する。表面活性化処理前では106°程度であった接触角が、シリカ粒子付着焼成処理によって80〜90°に、金属ナトリウムエッチング表面処理では、50〜60°に、プラズマ放電処理によって、50〜60°にまで低下する。
【0064】
<エンドレスベルト>
本発明によるエンドレスベルトは、上記の複層シートから形成されたベルト状物の環状体からなることを特徴とするものである。したがって、本発明によるエンドレスベルトは、上記複層シートの優れた特性、例えば、主としてフッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材層に基づく優れた耐熱性、形状安定性、非粘着性および耐久性と、主として表面層であるポリイミド系樹脂に基づく諸特性(例えば、耐摩耗性、耐熱性、耐久性)を具備するものである。
【0065】
そして、本発明によるエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートをベルト状に裁断し、この複層シートのベルト状物の対向する二つの端部を接合して環状体を得ることを特徴とする。なお、この環状体は、例えば、(イ)複層シートのベルト状物の一方の端部の周辺域に他方の端部を重ね合わせて接合することにより(
図3(A))、(ロ)複層シートのベルト状物の二つの端部をその端部断面にて強固に接合することにより(
図3(B))、(ハ)複層シートのベルト状物の二つの端部の双方を同一の連結用シートに接合することによって(
図3(C))、得ることができる。なお、二つの端部の接合は、熱融着あるいは接着剤を用いることによって行うことができる。
【0066】
また、本発明によるもう一つのエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートと他のシートとが積層されたベルト状物を、このベルト状物の前記複層シートについての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシートについての対向する二つの端部をそれぞれ接合ないし近接配置させて環状体を得ることを特徴とする。ここで、上記の複層シートと積層する他のシートとしては、単層または複数の層からなるシートを挙げることができる。なお、この他のシートとしては、単層および複層シートを用いることができる。そのような他のシートには、例えば上記の複合材2および複層シート10、11等も包含される。
【0067】
図4は、このような本発明によるエンドレスベルトの好ましい具体例を示すものである。
図4に示される本発明によるエンドレスベルト12は、
図1に示された複層シート10を外周側に、他のシート5を内周側にするものであって、この他のシート5として上記の複合材層2と同一内容のシートを用いたものである。この本発明によるエンドレスベルト12では、複層シート10についての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシート5についての対向する二つの端部を、6、7の位置にて、それぞれ接合あるいは近接配置させて環状体を得て、エンドレスベルトとしている。
なお、本発明によるエンドレスベルトは、
図1に示された複層シート10を内周側に、他のシート5を外周側にしたものも好ましい具体例として包含する。
【0068】
このような本発明では、従来の型等によって作製したシームレス管状物を利用してエンドレスベルトを製造する方法と異なって、用途に応じた所望の幅、長さ、層構成のエンドレスベルトを容易に製造することができる。
【0069】
また、場合により、同一の複層シートを切断することなしに幅広のエンドレスベルトを
一旦形成させた後に、この幅広のエンドレスベルトを所望の幅に切断することによって、長さが同一のエンドレスベルトを同時に複数製造することが可能になる。また、前記の幅広のエンドレスベルトを切断する際の幅を調整することによって、幅が異なるエンドレスベルトを作り分けることも容易である。
【0070】
本発明による複層シートと他のシートとの積層シートは、複層シートと他のシートとを熱融着させることによって得ることが好ましいが、接着剤によって複層シートと他のシートとを接着させて積層シートを得ることもできる。
【実施例1】
【0071】
実施例1として、実施例A1〜A4、実施例C1〜C4、および実施例D1〜D4について以下にて説明する。
【0072】
<実施例A1>
(1)複合材の片面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート
まず、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材を得るため、連続塗工装置で平織のガラス繊維布厚み(95μm)にフッ素樹脂(PTFE)の水性懸濁液を含浸し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成して、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材(厚み135μm)を得た。
【0073】
次に、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材へ表面活性化処理を行なうため、シリカの水性懸濁液100質量部へPTFE樹脂の水性懸濁液100質量部を混合して、表面活性化処理液を得た。
【0074】
次に、連続塗工装置でフッ素樹脂とガラス繊維の複合材の片面に、表面活性化処理液を塗布し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成し、シリカを付着焼成させて表面活性化処理層を得た。
【0075】
次に、液状ポリイミドワニスを得るために、市販の(東レ社製「トレニース#3000」(商品名))100質量部へ、溶剤(ジメチルアセトアミド(DMAC)を100質量部混合し、粘度が50Cpの液状ポリイミドワニスを得た。
【0076】
次に、連続塗工装置で前記のフッ素樹脂とガラス繊維の複合材(厚み135μm)の表面活性化処理した面へ前記の液状ポリイミドワニスを塗工し付着させ、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成して、フッ素樹脂とガラス繊維複合材の片面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート(厚み140μm)を得た(
図1)。
【0077】
上記のようにして得られた複合材のフッ素樹脂層面と、複層シートのポリイミド樹脂層面を下記の評価方法で比較した。評価結果を表1に示す。
【0078】
1)摩耗試験:JIS H8682−1に準拠して実施した。(スガ摩耗試験機を用い、速度2.4m/分、荷重350gf、試験回数1000回、相手材として摩耗輪(直径50mm、幅12mm)、#4000耐水フイルムの条件にて測定。)
2)摩擦係数:JIS K7218に準拠して実施した。(オリエンテック社製 摩擦摩耗試験機を用い、滑り速度50mm/S、荷重20N、試験時間30分、相手材としてSUS304リングを使用して測定。)
3)接触角:JIS K6768に準拠して実施した。(協和界面化学社製の接触角計CA−D型を用い、試験液として蒸留水を使用して測定。)
【表1】
【0079】
上記の評価結果より、ポリイミド樹脂はフッ素樹脂よりも、耐摩耗性に優れ、非粘着性、低摩擦性に劣る。この結果より、ポリイミド樹脂はフッ素樹脂よりも、摩耗、スリップし難いことが分かった。この結果は、常温の状態での結果である。実施例2で記載しているラミネート装置の熱板保護シートや搬送シートに本発明の複層シートを応用する場合には雰囲気温度は約170℃程度になる。そのような場合は、非粘着性(剥がれやすさ)はポリイミド樹脂の方が優れている。この内容は、実施例2において詳述する。
【0080】
実施例A1の構造は、非粘着性が重要で、グリップ性を重要としないワーク側へフッ素樹脂面を、耐摩耗性、グリップ性が重要なワーク非接触側へポリイミド樹脂面を使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0081】
<実施例A2>
(2)複合材の両面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート
実施例A1と同様にして複層シートを得た。この複層シートのポリイミド樹脂表面層が形成されていない面に、実施例A1と同様の操作にて、表面活性化処理およびポリイミド樹脂表面層の形成を行って、複合材の両面にポリイミド樹脂表面層が形成された複層シート(厚み145μm)を得た(
図2)。
【0082】
実施例A2の構造は、耐摩耗性、グリップ性が重要で、非粘着性が重要でない用途へ使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0083】
<実施例A3>
(3)実施例A1の複層シートと他のシートとの積層シートおよびエンドレスベルト
実施例A1の複層シート(厚み140μm)とフッ素樹脂とガラス繊維複合材(厚み135μm)を積層して、エンドレスになるようフッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度でこれらを熱融着して、片面にフッ素樹脂表面層が、もう片面にポリイミド樹脂表面層が形成されたエンドレスベルト(厚み275μm)を得た(
図4)。
【0084】
この実施例A3のエンドレスベルトの構造は、非粘着性が重要で、スリップを重要としないワーク側へフッ素樹脂面を、耐摩耗性、グリップ性が重要なワーク非接触側の駆動ロール側へポリイミド樹脂面を使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0085】
<実施例A4>
(4)実施例A1の複層シート2枚を積層した両面ポリイミド樹脂のエンドレスベルト
実施例A1の複層シート(厚み140μm)のベルトを2つ用意し、これらをエンドレスになるようフッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度で熱融着して、積層して、両面にポリイミド樹脂表面層が形成されたエンドレスベルト(厚み280μm)を得た(
図4)。
【0086】
この実施例A4のエンドレスベルトの構造は、耐摩耗性、グリップ性が重要で、非粘着性が重要でない用途へ使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0087】
上記の実施例A1〜A4の様に、必要に応じた非粘着性、耐摩耗性、グリップ性を付与し、かつ必要寸法に裁断し、エンドレスすることで型等を使用せず、様々な寸法に対応できるエンドレスベルトが製造可能な、耐熱性、耐摩耗性、非粘着性およびグリップ性を有する高機能な複層シート、この複層シートからなる搬送ベルト(又は搬送シート)を提供することができる。
【0088】
<比較例A1>
実施例A1の複層シートに、表面活性化処理を行わずに液状ポリイミドワニスを塗工したが、接合できず、使用可能な十分な接合強度を有する複層シートを得ることはできなかった。
【0089】
<実施例C1〜C4>
実施例A1〜A4において、シリカ付着焼成処理の代わりに金属ナトリウムエッチング処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例A1〜A4と同様にして、本発明による複層シートC1、C2およびエンドレスベルトC3、C4を得た。
【0090】
<実施例D1〜D4>
実施例A1〜A4において、シリカ付着焼成処理の代わりにプラズマ処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例A1〜A4と同様にして、本発明による複層シートD1、D2およびエンドレスベルトD3、D4を得た。
【0091】
<接合強度試験>
上記の実施例A1〜A4、実施例C1〜C4および実施例D1〜D4によって得られた各複層シートのポリイミド表面層に対して、JIS H5400に準拠して碁盤目試験(1mm×100升)を実施したが、複層シートから剥がれた升目の数はいずれの複層シートにおいても0個であった。一方、表面活性化処理層を行わない比較例A1では、剥がれた升目の数は100個であった。評価結果を表2に示す。
【表2】
【実施例2】
【0092】
実施例2として、実施例E1、E2、F1、およびF2について以下にて説明する。
【0093】
実施例2は、本発明の複層シートを太陽電池モジュール製造用のラミネート装置の熱板保護シート及び搬送シートに使用した実施例であり、
図5〜
図13を使用して説明する。実施例1におけるワークは、実施例2において太陽電池モジュール(
図13の「20」)に相当する。
【0094】
太陽電池モジュール製造用のラミネート装置100の構造は、
図5に示すように、上ケース110、熱板122(
図6参照)、搬送シート130、ダイヤフラム112、下ケース120、熱板保護シート400(
図6参照)等で構成される。
図6は、ラミネート装置のラミネート部の側断面図である。
図7は、ラミネート装置のラミネート加工時におけるラミネート部の側断面図である。
【0095】
図6に示すように、上ケース110と下ケース120との間で、熱板122の表面には、熱板保護シート400が設けられ、さらにその上を搬送シート130が移動自在に設けられている。この熱板保護シートが熱板上に設けれていない場合、搬送シートが熱板上を被加工物20を搭載しながら走行するので熱板の上面が搬送シートにより摩耗してしまう。このような熱板の摩耗を防止するために熱板上に熱板保護シートが設けられている。
【0096】
図13は、被加工物20として結晶系セルを使用した太陽電池モジュールの構成を示す断面図である。太陽電池モジュールは、図示のように、透明なカバーガラス21と裏面材22との間に、充填材23、24を介してストリング25を挟み込んだ構成を有する。裏面材22にはポリエチレン樹脂等の不透明な材料が使用される。充填材23、24にはEVA(エチレンビニルアセテート)樹脂等が使用される。ストリング25は、電極26、27の間に結晶系セルとしての太陽電池セル28をリード線29を介して接続した構成である。
【0097】
搬送シート130は、熱板保護シート上を走行しながら、
図5の搬入コンベア200からラミネート前の被加工物20を受け取ってラミネート部101の中央位置、すなわち熱板122の中央部に正確に搬送する。また、搬送シート130は、ラミネート後の被加工物20を
図5の搬出コンベア300に受け渡す。尚
図5、
図6、
図7において搬送シート130は、従来の熱板保護シートと構成は類似しているので、(400)と付記している。
【0098】
次に、本実施形態に係るラミネート装置100によるラミネート加工についてより具体的に説明する。まず、
図6に示すように、搬送シート130は、被加工物20をラミネート部101の中央位置に搬送する。
【0099】
次に、昇降装置(図示しない)は、上ケース110を下降させる。上ケース110を下降させることにより、
図7に示すように、上ケース110と下ケース120との内部空間は、密閉される。すなわち、上ケース110と下ケース120との内部にて上チャンバ113及び下チャンバ121は、それぞれ密閉状態に保つことができる。
【0100】
次に、ラミネート部101は、上ケース110の吸排気口114を介して、上チャンバ113内の真空ポンプにより真空引きを行う。同様に、ラミネート部101は、下ケース120の吸排気口123を介して、下チャンバ121内を真空ポンプにより真空引きを行う(真空工程)。下チャンバ121の真空引きにより、被加工物20内に含まれている気泡は、被加工物20外に送出される。
被加工物20は、温度制御装置の温度制御により加熱された熱板122によって加熱されるので、被加工物20の内部に含まれる充填材23、24も加熱される。
【0101】
次に、ラミネート部101は、下チャンバ121の真空状態を保ったまま、上ケース110の吸排気口114を介して、上チャンバ113に大気を導入する。これにより、上チャンバ113と下チャンバ121との間に気圧差が生じることで、ダイヤフラム112が膨張する。従って、ダイヤフラム112は、
図7に示すように下方に押し出される(加圧工程)。被加工物20は、下方に押し出されたダイヤフラム112と、熱板122とで挟圧され、加熱により溶融された充填材23、24によって各構成部材が接着される。
【0102】
このようにラミネート工程が終了した後、ラミネート部101は、下ケース120の吸排気口123を介して、下チャンバ121に大気を導入する。このとき、昇降装置は、上ケース110を上昇させる。上ケース110を上昇させることにより、
図6に示すように、搬送シート130を移動させることができるようになる。搬送シート130は、ラミネート後の被加工物20を搬出コンベア300に受け渡す。
【0103】
太陽電池モジュールのラミネート加工は、上記のように行われる。したがって太陽電池モジュールに対して所定の熱が熱板から供給されるが、被加工物である太陽電池モジュール20と熱板122の間には従来型の熱板保護シート400と搬送シート130が存在しており、熱板から熱の直接的供給を妨げている。さらにラミネート加工中は、
図7の密着部分Kの熱板保護シートと搬送シートは、熱板により加熱され、さらにダイヤフラムと熱板の間で加圧され、両シートが付着しやすい状態となっている。
【0104】
従来の熱板保護シート及び搬送シートは、フッ素系樹脂だけで構成したり、
図8(
図1および
図2の「2」部に相当する)に示すように、ガラス繊維により製織したガラスクロスにフッ素系樹脂を含浸して焼成したものを使用している。熱板保護シートと搬送シートも同質素材を含んで構成されているので両シートは、ラミネート加工により
図7のK部にて付着を招来することになる。以下熱板保護シートと搬送シートを合わせて両シートという。
【0105】
ラミネート加工においては、その生産効率を上げるため太陽電池モジュールの昇温速度をできるだけ高めることが要求されている。したがって両シートは、比熱が低く、熱伝導率が高く、薄いものが好ましい。一方、熱板保護シートは、搬送シートが被加工物である太陽電池モジュールを搭載しながら、その上を走行するので、ラミネート加工により搬送シートと熱板保護シートの付着が有ると、熱板保護シートは損傷する。
【0106】
また、熱板保護シート自体が損傷を受けても、搬送シートが損傷を招くことになる。熱板保護シートの損傷は、前述したように、主に搬送シートとの付着に起因して生じる。このため、熱板保護シートは、熱板側は熱板と付着しやすく搬送シートと付着しにくい構成とすることが重要である。
【0107】
本発明の熱板保護シート及び搬送シートは、ラミネート装置におけるラミネート加工条件である、175℃、0.1MPaで15分間程度加圧しても、両シートの付着が無い。太陽電池モジュール製造用のラミネート装置は、封止剤であるEVA樹脂を溶融し架橋するために、真空状態下で、所定の温度で一定時間、熱板とダイヤフラムとの間で挟圧して行われる。EVA樹脂の架橋はおよそ140℃から開始するため、熱板はおよそ150〜170℃に設定される。前記した175℃、0.1MPa、15分間程度加圧という加工条件は、当該ラミネート加工において、熱板保護シートが受ける温度、圧力、時間に対応している。
【0108】
本発明の当該熱板保護シート及び搬送シートは、本発明の複層シートと同様に、実施例1に記載の複合層の表面上に厚さが数μm程度のポリイミド系樹脂(以下、ポリイミド樹脂という)を設けている。複合層としては、フッ素樹脂のみでもよいし、
図1および
図2の「2」部に相当する耐熱性繊維織布とフッ素樹脂を複合化させたものでもよい。フッ素系樹脂としては、PTFE、FEP、PFA、ETFE等の公知のものから適宜選択することが可能である。実施例1の複層シートと同様の製造方法により得ることができる。
尚本発明の熱板保護シートおよび搬送シートは、太陽電池モジュール製造用のラミネート装置に使用されるものであり、その大きさは概略数100mm角の大きさから1m×2m程度の大きさ、更にはそれ以上の大きさとすることもできる。
本発明の熱板保護シート及び搬送シートを上記の構成とすることにより、両シートの付着を無くすことができる。表面のポリイミド樹脂は、高い耐熱性を有し、ラミネート時に加わる熱的条件で部分的な軟化を防止し、両シートの付着を防止する効果を有する。
【0109】
このようなポリイミド樹脂層は、熱板保護シートと搬送シートの両シートに設けてもよいし、どちらか一方に設けるようにしてもよい。このようなポリイミド樹脂層を熱板保護シート側に設ける時は、
図6に示すように熱板保護シートの搬送シートの接触面側に設ける。またこのようなポリイミド樹脂層を搬送シート側に設ける時は、搬送シートの熱板保護シート側に設ける。このような構成とすることによりラミネート加工後における熱板保護シートと搬送シートの付着を無くすことができ両シートの破損を防止することができる。
【0110】
本発明の熱板保護シート及び搬送シートの表面にポリイミド樹脂層を設ける形態としては、シート全体にわたって均一に分布させても良い。また両シートの付着を防止するという観点から、
図9(a)に示すように、熱板保護シートは、ポリイミド樹脂層を搬送シートと接する面にだけ設ける構成でもよい。一方搬送シートは、
図9(b)に示すように、ポリイミド樹脂層を搬送シートが熱板保護シートに接する面にだけ設ける構成としてもよい。このような構成とすることにより、熱板保護シートと搬送シートが付着するという問題は解消する。さらにラミネート装置の上ケースと下ケースを
図7のように閉合させた場合に、下ケース側のOリングが搬送シートと直接接触するような場合には、Oリングの複数回の加圧接触による摩耗損傷を防止することにも有効である。
また図示していないが、搬送シートの両面にポリイミド樹脂層を設ける構成とすることもできる。これにより、搬送シートの被加工物を搭載する側の耐摩耗性も向上させることができる。さらにラミネート装置の上ケース側にもOリングを設け搬送シートと直接接触するような場合には、Oリングの複数回の加圧接触による摩耗損傷を防止することにも有効である。
【0111】
熱板保護シート及び搬送シートに処理するポリイミド樹脂層は、
図10に示すように、ポリイミド樹脂を含む部分をシート面において縞状や島状に分布させるなどの方法も、付着防止という点で効果が発現するように、適宜選択することができる。
【0112】
当該熱板保護シート及び搬送シートの厚みは35μm〜205μmとすることが好ましく、70μm〜205μmがより好ましく、85μm〜205μmがさらに好ましい。熱板保護シートの厚みが35μmよりも薄ければ熱板の熱伝達を阻害しない点で好適ではあるが、引張強度が弱すぎるため、当該熱板保護シートを熱板に取り付ける際に破損する虞がある。また熱板保護シートの厚みが205μmを超えると、被加工物への熱伝達が大きく阻害される。
【0113】
以下、実施例E1、実施例E2、比較例E1、比較例E2により本発明の熱板保護シート及び搬送シートの付着が無いことについて確認した。
【0114】
まず本発明の熱板保護シートと搬送シートとの付着の度合いについて確認した。実施例および比較例の熱板保護シートとしては、表3のものを用いた。搬送シートは、実施例E1、実施例E2および比較例E1および比較例E2ともに従来品のプレミアム10(サンゴバン株式会社製)を用いた。搬送シートの材質は、ガラスクロスとフッ素樹脂の複合層としている。
【表3】
【0115】
図11に示すように、熱板保護シートと搬送シートを太陽電池モジュール製造用のラミネート装置における加圧力と加熱温度を実現できる加熱プレス機に重ね合わせてセットし、一定時間加熱および加圧した。加熱プレス機は、上側部と下側部に分かれた構成であり、上側部および下側部それぞれの温度制御が可能で所定の加圧力を加えることができる構造である。
【0116】
まず加熱プレス機の下側部の台座に本発明の熱板保護シートを置いた。このとき特に固定していない。従来品の搬送シートは、加熱プレス機の上側部の台座に取り付けその周辺を枠状の固定部材で固定した。次に加熱プレス機の上側部と下側部を所定の温度に制御しながら所定の加圧力でプレスした。加圧条件は、上下の台座の温度はともに175℃に設定し、0.1MPa、15分間加圧プレスした。15分間の加圧プレス後、加熱プレスの上側台座を上げて下側の台座から離した。このときに、本発明の熱板保護シートが搬送シートと一緒に持ち上がって持ち上がったままの場合を「付着あり」とした。一緒に持ち上がらない、または一旦持ち上がっても重力で自然に下に落ちた場合を「付着なし」として判定した。
結果は、実施例E1、E2は「付着無し」、比較例E1、E2は「付着有り」であった。
【0117】
次に本発明の熱板保護シートおよび搬送シートの熱伝導性試験を行った。
加熱プレス機の下側部の台座に熱電対をセットしておき、その上に本発明の熱板保護シートを置き、加圧プレスした。加圧条件は、上側部の台座だけ175℃に設定し、下側部の台座は加熱なしとして、0.4MPaで20秒間プレスした。このとき、熱電対が示す温度を記録し、経過時間に対する温度変化を
図12に示す。
【0118】
実施例F1は、熱板保護シートが実施例E1と同じ素材で厚みが105μmである場合の温度変化である。(
図12中(1))
実施例F2は、熱板保護シートが実施例E2と同じ素材で厚みが105μmである場合の温度変化である。(
図12中(2))
比較例F1は、熱板保護シートが比較例E1と同じ素材で厚みが220μmである場合の温度変化である。(
図12中(4))
比較例F2は、熱板保護シートが比較例E2と同じ素材で厚みが100μmである場合の温度変化である。(
図12中(3))
【0119】
図12からわかるように、実施例F1、F2及び比較例F2は厚さが薄いので温度上昇が速く、太陽電池モジュールをラミネート加工する際にラミネート装置の熱板の温度を素早く被加工物に伝達できることがわかる。また、実施例F1及び実施例F2は、従来品と同様の素材を使用した熱板保護シートの厚さを同程度としたものより温度上昇速度は速い。比較例F2は、厚みが薄く温度上昇速度は速いがラミネート加工後の両シートの付着が有り、搬送シートに被加工物を搭載し走行させると熱板保護シートは破損する。一方実施例F1、F2では、ラミネート加工後、本実施例の熱板保護シートと搬送シートとの付着は無く、搬送シートに被加工物を搭載し走行させても熱板保護シートの破損は無い。したがって本発明の熱板保護シート及び搬送シートを太陽電池モジュール製造用のラミネート装置に使用することにより、両シートの厚みを薄くしても破損することは無く太陽電池モジュールのラミネート加工時の加熱時間を短縮することができその生産効率を向上させることができる。