【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構「産学共同シーズイノベーション化事業」(光学活性第三級アルコール含有医薬品の工業的製造法の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
水野 智一、波多野 学、石原 一彰,Grignard試薬を用いる触媒的光学活性第3級アルコールの合成,日本化学会第89春季年会−講演予稿集II,日本,社団法人日本化学会,2009年 3月13日,1137頁
【文献】
Organic Letters,2005年,Vol. 7, No. 4,573-576
【文献】
Journal of the American Chemical Society,2006年,Vol. 128,9998-9999
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(A)において、上記RMgYの量は、上記ハロゲン化亜鉛1当量に対して1.0〜1.8当量である請求項1乃至5のいずれかに記載の光学活性アルコールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)工程(A)
工程(A)では、ハロゲン化亜鉛、金属アルコキシド、及びRMgY(R;2級の炭化水素基、Y;ハロゲン原子)を反応させて、有機亜鉛化合物ZnR
2を得る。
【0016】
上記ハロゲン化亜鉛の種類に特に限定はない。上記ハロゲン化亜鉛に含まれるハロゲン原子はF、Cl、Br及びIのいずれでもよい。上記ハロゲン化亜鉛として通常は、塩化亜鉛(ZnCl
2)が用いられる。
【0017】
上記金属アルコキシドの種類に特に限定はない。上記金属アルコキシドに含まれる金属としては、例えば、Li、Na、K、Mg、及びAlが挙げられる。上記金属アルコキシドに含まれるアルコキシドの炭素数は、通常1〜8、好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜4である。上記アルコキシドとして具体的には、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、及びブトキシドが挙げられる。上記金属アルコキシドとして具体的には、例えば、ナトリウムメトキシド(NaOMe)及びナトリウムエトキシド(NaOEt)が挙げられる。
【0018】
上記金属アルコキシドの量
は2.3〜2.7当量である(本明細書中、「当量」の語は「mol当量」を意味する。本明細書では、「当量」又は「mol当量」のいずれかの表記を用いる。)。上記金属アルコキシドの量が上記範囲であると、反応のエナンチオ選択性を高めることができるので好ましい。
【0019】
上記RMgYは、一般にグリニャール(Grignard)試薬として知られている化合物である。Yはハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)であり、通常Cl又はBrであり、好ましくはClである。Rは2級の炭化水素基である。このRが、得られる有機亜鉛化合物(ZnR
2)中の有機基(R)を構成する。
【0020】
上記有機亜鉛化合物を得ることができる限り、上記2級の炭化水素基の種類及び構造には特に限定はない。上記2級の炭化水素基は鎖状構造でもよく、環状構造(例えば、シクロアルキル基)でもよい。上記2級の炭化水素基は通常は飽和炭化水素基であるが、不飽和結合を含んでいてもよい。上記2級の炭化水素基は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記2級の炭化水素基は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。上記2級の炭化水素基は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0021】
上記2級の炭化水素基の炭素数には特に限定はない。上記2級の炭化水素基の炭素数は通常3〜10、好ましくは3〜8である。上記2級の炭化水素基として具体的には、例えば、2級の鎖状アルキル基(i−プロピル基及びsec−ブチル基等)並びに環状アルキル基(シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等)が挙げられる。
【0022】
上記有機亜鉛化合物(ZnR
2;尚、本明細書中、上記有機亜鉛化合物を「R
2Zn」と表記する場合があるが、これは「ZnR
2」と同じ意味である。)の種類及び構造には特に限定はない。上記のように、上記有機亜鉛化合物中の有機基(R)は、上記RMgYの有機基(R)に由来する。上記有機亜鉛化合物中、上記有機基(R)は2個存在する。各有機基(R)は通常、同一の有機基であるが、異なる有機基でも構わない。
【0023】
工程(A)において、上記RMgYの量は、上記ハロゲン化亜鉛1当量に対して1.8当量以下、好ましくは1.0〜1.8当量、更に好ましくは1.2〜1.7当量である。上記RMgYの量が上記範囲であると、アルキル化反応のエナンチオ選択性を高めることができるので好ましい。特に、工程(A)から連続的に工程(B)を行って光学活性アルコールを製造する場合に、エナンチオ選択性を高めることができるので好ましい。
【0024】
この理由は以下のように推定される。工程(A)において、残存する上記RMgYと生成した有機亜鉛化合物とが反応すると、亜鉛アート錯体([R
3Zn]
−[MgX]
+)が形成されることがある。該錯体は著しく高活性であり、この高活性な錯体の存在が、アルキル化反応のエナンチオ選択性を低下させる要因となっていると考えられる。特に、工程(A)から連続的に工程(B)を行う場合には、上記錯体が反応系に存在する可能性が高く、その結果、エナンチオ選択性がより低下するおそれがある。一方、上記RMgYの量を上記範囲とすることにより、上記亜鉛アート錯体の形成を抑制し、その結果、エナンチオ選択性を高めることができると考えられる(尚、本説明は、発明者の推測である。従って、本説明は、本発明の内容を何ら定義付ける説明ではない。)。
【0025】
工程(A)において、上記RMgYの量が上記範囲にある限り、上記3成分の量には特に限定はない。工程(A)において、上記3成分(上記ハロゲン化亜鉛、上記金属アルコキシド、及び上記RMgY)の量として具体的には、(1当量)、(
2.3〜2.7当
量)、及び(1.8当量以下)、好ましくは(1当量)、(
2.3〜2.7当量)、及び(1.0〜1.8当量)、更に好ましくは(1当量)、(2.3〜2.7当量)、及び(1.2〜1.7当量)とすることができる。上記3成分の量の好適な一例として、上記ハロゲン化亜鉛、上記金属アルコキシド、及び上記RMgYがそれぞれ、(1当量)、(2.5当量)、及び(1.6当量)である場合を挙げることができる。
【0026】
工程(A)から連続的に工程(B)を行う場合、工程(B)における上記有機亜鉛化合物の量を特定の範囲とするために、上記ハロゲン化亜鉛、金属アルコキシド、及びRMgYの量をそれぞれ特定の範囲とすることができる。上記3成分の量の好ましい例として、工程(B)における上記カルボニル化合物1当量に対して、上記ハロゲン化亜鉛、金属アルコキシド、及びRMgYの量をそれぞれ、(2.5〜3.5当量)、(6〜9当量)、及び(4〜5.6当量)、更に好ましい例として(2.5〜3当量)、(7〜8当量)、及び(4〜4.8当量)である場合を挙げることができる。上記3成分の量の好適な一例として、上記カルボニル化合物1当量に対して、上記ハロゲン化亜鉛、上記金属アルコキシド、及び上記RMgYがそれぞれ、(3当量)、(7.5当量)、及び(4.8当量)である場合を挙げることができる。
【0027】
尚、本発明では上記のように、上記RMgYの量を上記範囲とすることにより、エナンチオ選択性を高めることができる。よって、本発明では通常、上記ハロゲン化亜鉛に対する上記RMgYの量を定めた後、上記ハロゲン化亜鉛に対する上記金属アルコキシドの量を定める(勿論、上記各成分の定め方はこの方法に限定されない。)。
【0028】
工程(A)の具体的内容及び反応条件は、上記有機亜鉛化合物を得ることができる限り、特に限定はない。工程(A)は通常、溶媒中に上記ハロゲン化亜鉛及び上記金属アルコキシドを添加し、次いで上記RMgYを添加することにより行う。工程(A)は通常、溶媒中で行う。該溶媒の種類には特に限定はない。該溶媒は通常、グリニャール反応で用いられている公知の溶媒(例えば、エーテル系溶媒)が挙げられる。上記溶媒は1種のみでもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。反応温度は通常0〜20℃程度である。反応温度は工程(A)中で適宜変更してもよい。反応時間は通常1〜3時間程度である。
【0029】
工程(A)は、必要に応じて他の工程を有していてもよい。該他の工程としては、例えば、反応終了後、減圧留去等の適宜の方法により、溶媒を留去する工程が挙げられる。得られる有機亜鉛化合物が液状の場合、減圧留去等の適宜の方法で溶媒を留去することにより、高濃度又は無溶媒状態の有機亜鉛化合物を得ることができる。高濃度又は無溶媒状態で液状の有機亜鉛化合物は、それ自身で反応溶媒を兼ねることができる。よって、この有機亜鉛化合物を用いれば、特段溶媒を加えることなく工程(B)を実施することもできる。その結果、収率を高めることができると共に、工業的に有利である。
【0030】
本発明では、工程(A)により、種々の2級の炭化水素基を持つ有機亜鉛化合物を得ることができる。例えば、市販されていない2級の炭化水素基を有する有機亜鉛化合物でも、工程(A)により得ることができる。その結果、本発明では、種々の構造の光学活性アルコールを得ることができる。
【0031】
(2)工程(B)
工程(B)では、化合物(1)の存在下、カルボニル化合物と、上記有機亜鉛化合物とを反応させる。
【0032】
式(1)中、R
1〜R
5は、それぞれ独立して一価の炭化水素基である。本明細書において一価の炭化水素基とは、炭化水素の炭素原子から水素原子が1個外れた基を指す。該一価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルケニル基が挙げられる。
【0033】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2〜12、好ましくは2〜10、更に好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6、特に好ましくは2〜4である。上記アルキル基等が環状構造の場合、上記アルキル基等の炭素数は、通常4〜12、好ましくは4〜10、更に好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8である。
【0034】
上記アルキル基等の構造には特に限定はない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。上記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0035】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0036】
上記アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルケニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。上記アリール基等の炭素数は通常6〜15、好ましくは6〜12、更に好ましくは6〜10である。
【0037】
上記アリール基等の構造には特に限定はない。上記アリール基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。この置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びIの1種又は2種以上)、アルキル基、アルケニル基、ニトロ基、アミノ基、水酸基、及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。これらの置換基が芳香環に位置する場合、該置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。
【0038】
上記置換基としてのアルキル基及びアルケニル基としては、例えば、炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基及びアルケニル基の1種又は2種以上が挙げられる。上記アルキル基及びアルケニル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、及びt−ブチル基の1種又は2種以上が挙げられる。尚、上記アルキル基及びアルケニル基は、更に他の置換基を有していてもよく、また、ハロゲン化アルキル基及びハロゲン化アルケニル基でもよい。例えば、上記アルキル基として、メチル基及びエチル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子(F、Cl、Br及びIの1種又は2種以上等)で置換された基(CF
3−、CCl
3−等)でもよい。
【0039】
上記置換基としてのアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6、好ましくは1〜4、更に好ましくは1〜3のアルコキシ基が挙げられる。上記アルコキシ基として具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基が挙げられる。
【0040】
上記アリール基等に含まれる芳香環は、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子)の1種又は2種以上を有していてもよい。上記アリール基等に含まれる芳香環は、芳香族複素環(フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、イソキサゾール、オキサゾール、イソチアゾール、チアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、及びピリミジン等)でもよい。
【0041】
上記アリール基として具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、メトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、エトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、ナフチル基(1−ナフチル基及び2−ナフチル基等)、並びにビフェニル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基として具体的には、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、並びにフェネチル基が挙げられる。上記アリールアルケニル基として具体的には、例えば、スチリル基及びシンナミル基が挙げられる。
【0044】
式(1)中、R
4及びR
5は、互いに結合して環を形成してもよい。該環の構造には特に限定はない。例えば、環員数には特に限定はない。R
4及びR
5が互いに結合して環を形成している場合、その環員数は、通常、R
4及びR
5が結合している窒素原子を含め、4〜10員環、好ましくは5〜8員環とすることができる。上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。上記環は、他の置換基を有していてもよい。上記環は、その構造中に不飽和結合を有していてもよい。
【0045】
R
4及びR
5が互いに結合して形成された環の具体例を以下に示す。該環として具体的には、例えば、テトラメチレン基により形成された5員環構造、ペンタメチレン基により形成された6員環構造、ヘキサメチレン基により形成された7員環構造、及びヘプタメチレン基により形成された8員環構造が挙げられる。また、環構造中にヘテロ原子を含む構造としては、例えば、酸素原子を含む構造(モルホリル基)が挙げられる。
【0047】
R
1〜R
5は、全て同じ基でもよく、一部又は全て異なる基でもよい。例えば、R
2及びR
3は、同じ基でもよく、異なる基でもよい。また、R
1〜R
3は、全て同じ基でもよい。R
1〜R
3のうち、R
2及びR
3が同じ基で、R
1がこれと異なる基でもよい。R
4及びR
5は、同じ基でもよく、異なる基でもよい。
【0048】
R
1〜R
5の具体的な構造には特に限定はない。R
1〜R
5の具体的な構造としては、例えば、上記で例示した各構造を、必要に応じて適宜組み合わせて採用することができる。
【0049】
R
1は、例えば、アルキル基、アリールアルキル基、又はアリールアルケニル基とすることができる。該アルキル基としては、例えば、上記で説明したアルキル基、特にメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、及びt−ブチル基とすることができる。上記アリールアルキル基としては、例えば、上記で説明したアリールアルキル基、特に、ベンジル基、並びにo−、m−、及びp−アルコキシベンジル基(メトキシベンジル基及びエトキシベンジル基等)とすることができる。R
1は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はアリールアルケニル基であり、且つR
2及びR
3のいずれか又は両方と異なる基とすることができる。
【0050】
R
2及びR
3は、例えば、それぞれ独立してアリール基又はシクロアルキル基とすることができる。上記アリール基は、フェニル基又は下記式(4a)〜(4e)のいずれかで表される基とすることができる。フェニル基又は式(4a)若しくは(4b)で表される基が好適に使用できる。式(4a)中、R
10は一価の炭化水素基である。R
11は水素原子又は一価の炭化水素基である。上記一価の炭化水素基の内容については、R
1〜R
5の説明が妥当する。
【0052】
R
10及びR
11が共に一価の炭化水素基の場合、R
10及びR
11は、互いに結合して環を形成してもよい。該環の構造には特に限定はない。該環は飽和環でもよく、不飽和環でもよい。該環の構造としては、例えば、炭素数は通常4〜8、更に好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8の脂環式構造が挙げられる。上記環として具体的には、例えば、シクロヘキサン構造が挙げられる。R
10及びR
11が互いに結合して環を形成している式(4a)で表される基として具体的には、例えば、1,2,3,4−テトラヒドロナフチル基及びその誘導体が挙げられる。
【0053】
上記アリール基及び上記シクロアルキル基は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記フェニル基及び式(4a)〜(4e)の芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。この置換基の位置は、m−、及びp−のいずれでもよい。但し、式(4a)〜(4e)の芳香環のうち、リン原子と結合(直接結合又は間接結合)している芳香環のo−位の置換基は1個のみである。例えば、式(4a)の芳香環のo−位の置換基は1個(R
6)のみである。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、ニトロ基、アミノ基、水酸基、及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。
【0054】
式(1)中、「X」は酸素原子又は硫黄原子である。通常、「X」は酸素原子である。また、「A」はメチレン基又はカルボニル基である。通常、「A」はメチレン基である。
【0055】
化合物(1)として具体的には、例えば、以下の一般式で表される化合物が挙げられる。
【0057】
上記式中、「X」は酸素原子又は硫黄原子である。「A」はメチレン基又はカルボニル基である。R
1’は炭素数2以上、好ましくは3以上、より好ましくは3〜10のアルキル基又はアリールアルキル基であり、且つR
2’及びR
3’とは異なる基である。R
2’及びR
3’は同一の又は異なるシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はアリールアルケニル基である。R
4’はアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である。尚、R
1’〜R
4’には、R
1〜R
4の説明が妥当する。
【0058】
化合物(1)を得る方法に特に限定はない。化合物(1)は、例えば、非特許文献1又は特許文献1に記載された方法により得ることができる。
【0059】
上記カルボニル化合物の種類及び構造には特に限定はない。上記カルボニル化合物はアルデヒド(R
6−CHO)でもよく、ケトン(R
7−CO−R
8)でもよい。上記カルボニル化合物は芳香族カルボニル化合物、脂肪族カルボニル化合物、及び脂環式カルボニル化合物のいずれでもよい。上記カルボニル化合物としてアルデヒドを用いると、高収率・高エナンチオ選択的に光学活性アルコールを得ることができるので好ましい。
【0060】
上記式中、R
6〜R
8は一価の炭化水素基である(但し、R
8はR
7と異なる一価の炭化水素基である。)。該一価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルケニル基が挙げられる。上記一価の炭化水素基の種類及び構造は、R
1〜R
5の説明が妥当する。
【0061】
上記式中、R
7はメチル基又はエチル基とすることができる。また、R
8はフェニル基又は置換フェニル基とすることができる。該置換フェニル基の置換基としては、例えば、電子求引性を有する基であるハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、及びニトロ基が挙げられる。上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子の1種又は2種以上が挙げられる。上記ハロゲン化アルキル基は、アルキル基(例えば、メチル基及びエチル基)の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子の1種又は2種以上等)で置換された基であればよい。上記ハロゲン化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基(CF
3−)及びトリクロロメチル基(CCl
3−)が挙げられる。
【0062】
工程(B)では、化合物(1)の存在下、カルボニル化合物と、上記有機亜鉛化合物とを反応させる。ここで、「存在下」とは、化合物(1)が反応過程の少なくとも一部の段階で存在していればよく、反応過程の全ての段階で常に存在している必要はない。即ち、本発明では、化合物(1)を反応系に加えれば、反応過程で何らかの変化が生じたとしても、「存在下」の要件を満たす。例えば、化合物(1)を反応系に加えた後、化合物(1)と上記有機亜鉛化合物とで錯体が生じ(特許文献1及び非特許文献1参照)、これが反応に寄与する場合でも、「存在下」の要件を満たす(尚、特許文献1にも記載されているように、この錯体形成の説明は、発明者の推測である。従って、この錯体形成の説明は、本発明の内容を何ら定義付ける説明ではない。)。
【0063】
工程(B)において、上記有機亜鉛化合物の量には特に限定はない。例えば、上記有機亜鉛化合物の量は通常、上記カルボニル化合物1当量に対して1〜5当量、好ましくは1〜4当量、更に好ましくは1〜3当量とすることができる。
【0064】
工程(B)において、化合物(1)の量には特に限定はない。化合物(1)の量は通常、上記カルボニル化合物に対して0.1〜20mol%、好ましくは0.5〜15mol%、更に好ましくは1〜15mol%、より好ましくは5〜15mol%とすることができる。
【0065】
工程(B)の反応条件には特に限定はない。反応時間は通常1〜48時間、好ましくは1〜24時間である。また、反応温度は通常−20〜70℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは15〜40℃である。
【0066】
工程(B)は、溶媒存在下で行ってもよく、無溶媒下で行ってもよい。本発明では、原料の性状及び各工程のコスト等を勘案して、工程(B)を溶媒存在下又は無溶媒下で行うことを適宜に選択することができる。
【0067】
工程(B)を無溶媒下で行うと、高収率で光学活性アルコールを得ることができ、また、後述するように工業的にも有利であるので好ましい。上記のように、高濃度又は無溶媒状態で液状の有機亜鉛化合物は、それ自体が溶媒を兼ねることができる。よって、特段溶媒を添加することなく、化合物(1)及び上記カルボニル化合物を添加して反応を進めることが可能である。溶媒を使用しないことにより、溶媒自体のコストが削減できること、溶媒が有し得る毒性及び引火性等の危険性を回避できること、反応容量の圧縮により設備が小型化できること等、工業的に有利な点を有する。
【0068】
一方、上記カルボニル化合物及び上記有機亜鉛化合物の性状(溶解性等)を考慮して、工程(B)を溶媒存在下で行うことができる。上記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、及びトルエンが挙げられる。上記溶媒は1種のみでもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。尚、収率向上のため、上記溶媒は、更にアルコール(メタノール及びエタノール等)を含有していてもよい。
【0069】
(3)その他
本発明では、工程(A)を行った後、得られた上記有機亜鉛化合物を単離し、次いでこれを反応系に加えることにより、工程(B)を行ってもよい。しかし、本発明では、工程(A)及び工程(B)は完全に分離する必要はない。工程(A)及び工程(B)は連続的に行うことができる。例えば、工程(A)により上記有機亜鉛化合物を得た後、これを単離せずに、続いて化合物(1)及び上記カルボニル化合物を反応系に加え、工程(B)を行うことができる。この方法によれば、工程(A)及び工程(B)を1つの反応槽で行うことができる。
【0070】
化合物(1)は、工程(B)において、反応系に存在していればよい。よって、ホスホロアミド化合物(1)は、常に工程(A)の後で反応系に添加する必要はない。例えば、工程(A)の段階で化合物(1)を反応系に加え、上記有機亜鉛化合物を得た後、続いて反応系に上記カルボニル化合物を添加することができる。勿論、工程(A)により上記有機亜鉛化合物を得た後、化合物(1)及び上記カルボニル化合物を反応系に加えてもよい。
【0071】
本発明では、反応促進剤としてチタン添加剤(Ti(Oi−Pr)
4等)を用いなくてもよい。従来は、反応促進剤として、カルボニル化合物に対して等モル量〜過剰量のチタン添加剤が用いられていた。しかし、該チタン添加剤は、吸湿分解性が強く、取り扱いが容易でない。本発明では、チタン添加剤を用いなくてもよいことから、容易に光学活性アルコールの製造方法を行うことができる。勿論、本発明では、上記チタン添加剤を使用しても構わない。しかし、上記チタン添加剤の使用量は上記カルボニル化合物1当量に対して2当量以下、好ましくは1当量以下、更に好ましくは0.5当量以下、より好ましくは0.3当量以下、特に好ましくは0.1当量以下とすることができる。
【0072】
工程(B)は、アミン化合物の非存在下又は存在下のいずれでも行うことができる。本発明は、アミン化合物の非存在下でも、高収率・高エナンチオ選択的に光学活性アルコールを得ることができるので好ましい。上記アミン化合物としては、例えば、モノアミン、ジアミン、トリアミン、テトラアミン(ポルフィリン等)、及びポリアミンが挙げられる。上記アミン化合物は、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンのいずれでもよい。上記アミン化合物は、鎖状構造でもよく、環状構造(脂環式アミン及び芳香族アミン)でもよい。上記アミン化合物は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アミン化合物の好適な例としてTMEAD(テトラメチルエチレンジアミン)が挙げられる。
【0073】
本発明により得られる光学活性アルコールの種類及び構造には特に限定はない。上記のように、本発明では、工程(A)により種々の2級の炭化水素基を持つ有機亜鉛化合物を得ることができる。その結果、本発明では、種々の種類及び構造の光学活性アルコールを製造することができる。尚、上記カルボニル化合物がケトンの場合、上記光学活性アルコールは光学活性第3級アルコールとなる。一方、上記カルボニル化合物がアルデヒドの場合、上記光学活性アルコールは光学活性第2級アルコールとなる。
【0074】
本発明では、必要に応じて他の工程を有していてもよい。該他の工程としては、例えば、光学活性体のみを分離する光学分割、並びに生成物の濃縮、精製、及び単離等の物理的操作工程が挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0076】
(1)アルデヒドからの光学活性アルコールの合成(I)
以下の方法により、ジイソプロピル亜鉛(i−Pr
2Zn)を用いて、アルデヒドから光学活性第2級アルコールを合成した。
【0077】
ZnCl
2(682mg、5mmol)及びNaOMe(540mg、10mmol)を入れた加遠心分離可能な専用容器に、窒素雰囲気下、室温でEt
2Oを加えて(5ml)、懸濁液を調製した。この懸濁液を室温で20分撹拌した。懸濁液を0℃に冷却し、i−PrMgCl(2.0M Et
2O溶液、4ml、8mmol)を10分かけてゆっくり滴下した。滴下後、懸濁液を室温に昇温させた。次いで、懸濁液を室温で2時間撹拌し、遠心分離した(4000rpm、10分)。この上澄部分から、i−Pr
2Zn溶液(0.44M Et
2O溶液)を取り出した。
【0078】
窒素雰囲気下、ホスホロアミド化合物(1b)(17.8mg、0.05mmol)を入れたシュレンク反応管に、上記工程で得られたi−Pr
2Zn(3.4ml、1.5mmol)を室温で加えた。その後、減圧留去により、得られた溶液からEt
2Oをほぼ完全に留去して、i−Pr
2Zn試薬(ホスホロアミド化合物(1b)を含む。)を得た。該試薬はほぼ無溶媒状態である。
【0079】
上記i−Pr
2Zn試薬にベンズアルデヒド(0.5mmol)を加え、室温にて2時間撹拌した。反応終了をTLCで確認の上、溶液を0℃に冷却した。その後、酢酸エチル(5ml)及び飽和塩化アンモニウム水溶液(10ml)の順に加え、混合液を室温に昇温した。混合液から酢酸エチル(15ml×3)で抽出を行い、抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(10ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。「セライト」を用いてろ過を行い、溶媒を減圧留去した。得られた濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/Et
2O=10/1−2/1)を通して精製を行い、光学活性第2級アルコールを得た(エントリー3;収率93%)。更に、キラルカラムを充填したガスクロマトグラフイーにより、生成物のエナンチオマー過剰率を決定した(エントリー3;91%ee(S))。
【0080】
i−PrMgClの量を1.9mol当量とする他は、上記と同じ方法により、i−Pr
2Zn溶液を得て、これを用いて上記と同じ方法により、光学活性第2級アルコールを得た(エントリー1)。上記i−Pr
2Zn試薬に代えて、上記i−Pr
2Zn溶液を用いる他は、上記と同様の方法により、光学活性第2級アルコールを得た(エントリー2)。NaOMeの量を2.5mol当量とする他は、上記と同じ方法により、光学活性第2級アルコールを得た(エントリー4)。NaOMeの量を2.5mol当量とし、化合物(1)として、ホスホロアミド化合物(1a)を用いる他は、上記と同じ方法により、光学活性第2級アルコールを得た(エントリー5)。以上の結果(収率及びエナンチオマー過剰率)を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
エントリー1は、2級アルキル基を対象として、非特許文献2記載の混合比で得られた有機亜鉛化合物を用いた結果である。表1より、エントリー1では収率は良好であるが、エナンチオマー過剰率が低く(3%)、エナンチオ選択性が十分でないことが分かる。一方、エントリー2〜5ではいずれもエナンチオマー過剰率が高く、エナンチオ選択性に優れることが分かる。エントリー2は収率が若干エントリー1より低いが(副反応により還元体が生成)、エントリー2〜5は依然として高収率であることが分かる。
【0083】
(2)アルデヒドからの光学活性アルコールの合成(II)
アルデヒド及び有機亜鉛化合物として、表2に示すアルデヒド及び有機亜鉛化合物を用いる他は、上記(1)と同様の方法により、表2に示す光学活性第2級アルコールを合成した。合成スキーム及び結果(収率及びエナンチオマー過剰率)を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2より、様々なアルデヒド(脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、脂環式アルデヒド)を用いて様々な2級アルキル化(イソプロピル化、sec−ブチル化、シクロペンチル化、シクロヘキシル化)を行った結果、いずれも高収率・高エナンチオ選択的に光学活性第2級アルコールを得ることができた。
【0086】
特に、エントリー13、20及び22より、側鎖(R及びR’)の構造が類似する光学活性第2級アルコールも、高収率・高エナンチオ選択的に得られることが分かる。通常、ケトンの不斉還元による光学活性アルコールの合成では、側鎖の判別が困難であるため、エナンチオ選択性を発現させることは困難である。しかし、本実験例によれば、かかるアルコールを高収率・高エナンチオ選択的に得ることができることが分かる。
【0087】
(3)ケトンからの光学活性アルコールの合成
ベンズアルデヒドに代えて、3,5−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノンを用い、反応時間及び反応温度を下記記載の時間及び温度とする他は、上記(1)と同様の手順により、光学活性第3級アルコールを得た(「cat」は、上記のホスホロアミド化合物(1a)である。)。合成スキームは以下の通りである。その結果(収率及びエナンチオマー過剰率)を以下に示す。
【0088】
【化6】
【0089】
本実験例では、アルデヒドと同様に、いずれも高エナンチオ選択性を示した。また、収率はアルデヒドよりも低いが、副反応による生成物(アルドール体)は痕跡量であり、原料回収が認められた。本実験例より、ケトンから第3級アルコールの合成においても優れたエナンチオ選択性を示すと共に、副反応を抑制することができることが分かる。