特許第5750710号(P5750710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東京医科大学の特許一覧

特許5750710癌マーカー、それを用いた癌の評価方法および評価試薬
<>
  • 特許5750710-癌マーカー、それを用いた癌の評価方法および評価試薬 図000006
  • 特許5750710-癌マーカー、それを用いた癌の評価方法および評価試薬 図000007
  • 特許5750710-癌マーカー、それを用いた癌の評価方法および評価試薬 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750710
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】癌マーカー、それを用いた癌の評価方法および評価試薬
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20150702BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-510157(P2010-510157)
(86)(22)【出願日】2009年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2009058421
(87)【国際公開番号】WO2009133915
(87)【国際公開日】20091105
【審査請求日】2012年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2008-119280(P2008-119280)
(32)【優先日】2008年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】黒田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 正視
(72)【発明者】
【氏名】及川 恒輔
(72)【発明者】
【氏名】水谷 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正勝
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 聖子
(72)【発明者】
【氏名】小杉 好紀
(72)【発明者】
【氏名】大屋敷 一馬
(72)【発明者】
【氏名】土田 明彦
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/081680(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/036765(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/112754(WO,A1)
【文献】 Cancer. Res.,2007年,Vol. 67, No. 13,pp.6031-6043
【文献】 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,2004年,Vol. 101, No. 32,pp.11755-11760
【文献】 Nature,2005年,Vol. 435,pp.828-833
【文献】 Clin. Chem.,2008年 3月,Vol. 54, No. 3,pp.482-490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−3/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料における癌マーカーの発現レベルを検出する癌マーカー検出工程と、
前記生体試料における補正マーカーの発現レベルを検出する補正マーカー検出工程と、
前記生体試料における、前記生体試料における癌マーカーの発現量と前記生体試料における補正マーカーの発現量との比(癌マーカーの発現量/補正マーカーの発現量)で表される前記癌マーカーの補正した発現レベルから、下記(1)、(2)および(3)からなる群から選択された少なくとも一つの方法により、癌の可能性を決定する工程とを含み、
前記生体試料が、血漿または血清であり、
前記癌マーカーが、血漿中または血清中のhsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAであり、
前記補正マーカーが、hsa−miR−638であることを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価する評価方法(ただし、医師の判断工程を含む方法は除く)。
(1)被検者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルを、正常者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルと比較し、前記正常者の補正した発現レベルよりも低い場合に、前記被検者は、前記癌の可能性が高いと決定する。
(2)被検者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルを、正常者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルと比較し、前記正常者の補正した発現レベルよりも相対的に低い程、前記被検者は、前記癌の進行が相対的に進んでいると決定する。
(3)被検者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルを、進行期別の各癌患者の生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルと比較し、前記被検者は、同程度の補正した発現レベルを示す患者と同じ進行期であると決定する。
【請求項2】
前記hsa−miR−92が、hsa−miR−92aである、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記miRNAが、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−494の少なくとも一方である、請求項1記載の評価方法。
【請求項4】
前記癌が、大腸癌、胆嚢癌、胃癌、肺癌、白血病、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、腎癌、子宮体癌、子宮頚癌、肝細胞癌、胆道癌、脳腫瘍、喉頭癌、舌癌、直腸癌および骨肉腫からなる群から選択された少なくとも一つの癌である、請求項1から3のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
癌マーカーであるhsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを検出するmiRNA検出試薬と、補正マーカーであるhsa−miR−638を検出する補正マーカー検出試薬とを含み、請求項1から4のいずれか一項に記載の評価方法に使用することを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価するための評価試薬。
【請求項6】
前記hsa−miR−92が、hsa−miR−92aである、請求項5記載の評価試薬。
【請求項7】
前記miRNAが、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−494の少なくとも一方である、請求項5記載の評価試薬。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の評価試薬を含み、
請求項1から4のいずれか一項に記載の評価方法に使用することを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価するための評価キット。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載の評価方法において、血漿中または血清中の癌マーカーであるhsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方の発現レベルを補正するためのマーカーであり、血漿中または血清中のhsa−miR−638であることを特徴とする、補正マーカー。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか一項に記載の評価方法において、癌マーカーであるhsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAの発現レベルを補正するために、
生体試料における前記癌マーカーの発現レベルを測定する工程と、
前記生体試料における補正マーカーの発現量を測定する工程と、
前記癌マーカーの発現量と前記補正マーカーの発現量との比(癌マーカーの発現量/補正マーカーの発現量)を、前記生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルとする補正工程とを含み、
前記生体試料が、血漿または血清であり、
前記補正マーカーが、hsa−miR−638であることを特徴とする、生体試料における癌マーカーの発現レベルの補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌マーカー、それを用いた癌の可能性の評価方法および評価試薬に関する。さらに、本発明は、前記評価方法において癌マーカーを補正するための補正マーカー、補正方法ならびに補正試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床医療の分野において、疾患の有無、進行度、治療後の効果等を容易に判断することが求められている。そこで、間接的な判断手法として、各疾患の発症や進行に対して特異的に発現量が変化するマーカーの検出が提案されており、実際に実用化が試みられている。
【0003】
疾患の中でも悪性腫瘍、いわゆる癌については、特に、早期発見、適切な治療方針の選択・変更が重要である。このため、前述のようなマーカー検出による間接的な判断を実現するため、種々の癌マーカー(腫瘍マーカー)が報告されている。前記癌マーカーの具体例としては、例えば、PSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)、CEA(癌胎児性抗原:Carcinoembryonic Antigen)、CA19−9(Carcinoembryonic Antigen 19−9)、CA72−4(Carcinoembryonic Antigen 72−4)等がある。また、非特許文献1および2には、has−mir−15、has−mir−16、miR−143およびmiR−145等のmiRNAの発現が、リンパ性白血病や大腸癌等でダウンレギュレーションされるとの記載もある(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Calin GA, Dumitru CD, Shimizu M et al., Frequent deletions and down−regulation of micro−RNA genes miR15 and miR16 at 13q14 in chronic lymphocytic leukemia, Proc Natl Acad Sci USA, 2002, vol.99, p.15524−9
【非特許文献2】Michael MZ, SM OC, van Holst Pellekaan NG, Young GP, James RJ, Reduced accumulation of specific microRNAs in colorectal neoplasia, Mol Cancer Res, 2003年, 1巻, p.882−91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、臨床医療の分野においては、優れた信頼性で、癌の発症やその進行状態を判断できる癌マーカーが必要であるため、さらに、新たな癌マーカーの提供が望まれている。そこで、本発明の目的は、癌を評価するための新規な癌マーカー、それを用いた評価方法、および、それに用いる評価試薬を提供することにある。また、本発明の目的は、さらに、癌マーカーの発現レベルを補正するための新たな補正マーカー、それを用いた発現レベルの補正方法、および、それに用いる補正試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の癌マーカーは、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを含むことを特徴とする、乳癌を除く癌のマーカーである。
【0007】
本発明の評価方法は、生体試料における癌マーカーの発現レベルを検出する癌マーカー検出工程を含み、前記癌マーカーが、本発明の癌マーカーであることを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価する評価方法である。
【0008】
本発明の評価試薬は、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを検出するmiRNA検出試薬を含み、本発明の評価方法に使用することを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価するための評価試薬である。
【0009】
本発明の補正マーカーは、hsa−miR−638を含み、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するためマーカーであることを特徴とする。
【0010】
本発明の補正方法は、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するために、
生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを測定する工程と、
前記生体試料における前記補正マーカーの発現量を測定する工程と、
前記癌マーカーの発現量と前記補正マーカーの発現量との比を、前記生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルとする補正工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の補正試薬は、hsa−miR−638を検出するmiRNA検出試薬を含み、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するために使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、癌の発生に伴って、生体試料中でのhsa−miR−92およびhsa−miR−494の発現レベルが減少することを見出し、本発明に到った。本発明の癌マーカーによれば、生体試料中の発現レベルを検出することによって、例えば、癌の発生の有無や癌の進行を判断することが可能となる。また、本発明の癌マーカーによれば、例えば、癌化について、陰性・陽性の差が有意であることから、一般的な触診等では検出が困難である初期段階の癌についても、容易に検出が可能となる。また、本発明の補正マーカーによれば、前記癌マーカーによる検出の精度をより一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施例2において、正常者由来サンプルにおける各種miRNAの発現プロファイルを示すグラフであり、同図(a)は、各サンプルについて、サンプルに含まれる各種miRNAのシグナル強度値を示すグラフであり、同図(b)は、各miRNAについて、正常者7名の各サンプルにおけるシグナル値順位を前記シグナル値平均順位で割った値の対数値(log10[individual rank_Normal/Average rank_Normal])を示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施例2において、AML患者由来のサンプル間におけるmiRNAのシグナル値平均順位と正常者由来のサンプル間におけるmiRNAのシグナル値平均順位との比(Average rank_AML/Average rank_Nomal)を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例3において、正常者由来サンプルおよび急性白血病患者由来サンプルにおける癌マーカーhsa−miR−92aと補正マーカーhsa−miR−638との蛍光強度比(hsa−miR−92a/hsa−miR−638)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<癌マーカー>
本発明の癌マーカーは、前述のように、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを含むことを特徴とする、乳癌を除く癌のマーカーである。
【0015】
前述のように、本発明者らにより、これらのmiRNAの発現レベルが、種々の組織における細胞の癌化に伴って、特異的に変動することが明らかとなった。具体的には、癌化に伴って、例えば、血漿または血清において、その発現レベルが低下することが明らかとなった。このことから、例えば、癌の発症前と比較して癌の発症後の発現レベル、前臨床期前と比較して前臨床期の発現レベル、臨床期前と比較して臨床期の発現レベル、初期段階前と比較して初期段階の発現レベル、初期段階と比較して初期段階以後の発現レベル等が、有意に低下すると解される。したがって、これらのmiRNAの発現レベルの検出によって、例えば、癌が発症する可能性、癌化しているか否か、前臨床期(初期段階)もしくは臨床期等の癌の進行度(進行期または病期)、または、予後の評価等を行うことが可能となる。
【0016】
本発明において、各用語は、以下のことを意味する。「癌」は、一般的に、悪性腫瘍を意味する。「癌化」は、一般的に、癌の発症を意味し、「悪性転換」の意味も含む。「発症」とは、例えば、疾患特異的臨床症状、検査データ等に基づく総合的判断によって、特定疾患と診断された時点をもって、発症とよぶ。「前臨床期」とは、一般的に、疾患特異的な臨床症状が表れる前の発症前状態であって、既に微量の悪性腫瘍細胞が存在している早期の状態を指す。また、子宮頚癌においては、一般的に、CIN1、CIN2、CIN3等の前癌病変、大腸癌においては、腺腫の状態を示す。「臨床期」とは、一般的に、画像所見によって明らかになる癌、既存の腫瘍マーカーで確認できるものを示す。「初期段階」とは、一般的に、早期がんの状態を示す。「予後」とは、例えば、疾患の術後の経過を意味する。本発明の癌マーカーは、例えば、予後を予測し、見通しを立て、適切な治療方法を選択するための判断材料となりうることから、「予後因子」ということもできる。「癌の進行期」は、例えば、癌化組織の種類等によって適宜判断できるが、一般に、0期とI期を初期癌、II期を早期癌、III〜IV期を進行癌と分類できる。
【0017】
本発明の癌マーカーの対象となる癌は、特に制限されないが、例えば、大腸癌、胆嚢癌、胃癌、肺癌、白血病、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、腎癌、子宮体癌、子宮頚癌、肝細胞癌、胆道癌、脳腫瘍、喉頭癌、舌癌、直腸癌、骨肉腫等があげられる。
【0018】
本発明において、miRNAとは、例えば、一本鎖(一量体)でもよいし、二本鎖(二量体)であってもよい。また、本発明において、miRNAは、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0019】
本発明において、hsa−miR−92としては、例えば、hsa−miR−92aがあげられ、これは、前述のように成熟型miRNAが好ましい。
【0020】
前記成熟型hsa−miR−92aの配列は、例えば、アクセッションNo.MIMAT0000092に登録されている。この配列を、下記配列番号1に示す。
hsa−miR−92a(配列番号1)
5’−uauugcacuugucccggccugu−3’
【0021】
hsa−miR−494としては、例えば、前述のように成熟型miRNAがあげられる。前記成熟型miRNAの配列は、アクセッションMo.MIMAT0002816に登録されている。前記成熟型hsa−miR−494の配列を、配列番号2に示す。
hsa−miR−494(配列番号2)
5’−ugaaacauacacgggaaaccuc−3’
【0022】
下記文献に開示されるように、各miRNAは、例えば、5’末端と3’末端に、それぞれ数個のvariationが存在する。したがって、本発明における各miRNAは、さらに、前述の成熟型配列に対して、数個ずつ塩基が異なるvariantも含む。
Wu H.etal.,2007,PLoS ONE 2(10):e1020 miRNA profiling of naive,effector and memory CD8 T cells.
Pablo Landgraf et al.,2007,Cell,v129,1401−1414 A Mammalian microRNA Expression Atlas Based on Small RNA Library Sequencing.
Neilson et al.,2007,Genes Dev,v21,578−589 Dynamic regulation of miRNA expression in order to stage of cellular development.
Ruby et al.,2006,Cell,v127,1193−1207 Large−scale sequencing reveals 21U−RNAs and additional microRNAs and endogeneous siRNAs in C.elegans.
Obernoster et al.,RNA 2006 12:1161−1167 Post−transcriptional regulation of microRNA expression.
Lagos−Quintana et al.,2002,Curr Biol,v12,735−739 Identification of tissue−specific microRNAs from mouse.
【0023】
本発明におけるmiRNAは、例えば、前記各配列番号に記載の塩基配列と相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、それらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む。前記「相同性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一性の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味し、ポリヌクレオチドの塩基配列が「相同性を有する」とは、前記ポリヌクレオチドが、本発明におけるmiRNAとしての機能を維持できるほど十分に類似していることをいう。なお、前記アライメントは、例えば、BLAST等の任意のアルゴリズムの利用により行うことができる。前記塩基配列が、例えば、点変異、欠失または付加による相違を有しても、これらが前記miRNAの機能に影響を与えないならば、両者は相同といえる。相違する塩基数としては、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個又は1個である。また、二つのポリヌクレオチドを比較して、例えば、塩基配列が80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは約99%の同一性を示す場合、これらは相同であるといえる。また、例えば、二つのポリヌクレオチドのうち一方が、他方のポリヌクレオチドの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする場合には、両者は相同といえる。前記ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、「Tm−25℃」の温度で一晩保温する条件等があげられる。
【0024】
本発明の癌マーカーは、例えば、生体試料中に存在するmiRNAである。本発明における前記生体試料は、生体(例えば、被験者)から採取した液体画分であり、例えば、血液、唾液、尿、これらの希釈液等があげられる。中でも、癌化に伴う前記各種miRNAの発現レベルの変化が特に顕著であることから、血液試料であることが好ましい。前記血液試料としては、特に制限されないが、例えば、血液の液体画分を含む試料であり、いわゆる血漿を含む試料または血清を含む試料等があげられる。前記試料の具体例としては、例えば、全血、全血の液体画分、血漿画分、血清画分、これらを含む試料、これらの希釈試料等があげられる。
【0025】
<評価方法>
本発明の評価方法は、前述のように、生体試料における癌マーカーの発現レベルを検出する癌マーカー検出工程を含み、前記癌マーカーが、本発明の癌マーカーであることを特徴とする、乳癌を除く癌の可能性を評価する評価方法である。
【0026】
本発明においては、癌マーカーとして本発明の癌マーカーを検出することが特徴であって、例えば、各miRNAの発現レベルの検出方法に関しては、何ら制限されない。なお、本発明の癌マーカーは、前述の通りである。本発明において、検出する癌マーカーは、例えば、hsa−miR−92およびhsa−miR−494のいずれか一方でもよいし、両方であってもよい。検出する癌マーカーがhsa−miR−92の場合、例えば、成熟型が好ましい。また、検出する癌マーカーがhsa−miR−92aの場合、成熟型miRNAが好ましい。
【0027】
本発明において、評価対象となる癌は、特に制限されないが、前述のように、例えば、大腸癌、胆嚢癌、胃癌、肺癌、白血病、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、腎癌、子宮体癌、子宮頚癌、肝細胞癌、胆道癌、脳腫瘍、喉頭癌、舌癌、直腸癌、骨肉腫等があげられる。
【0028】
本発明において、前記生体試料としては、特に制限されないが、例えば、前述のように、血液、唾液、尿等があげられる。中でも、癌化に伴う前記各種miRNAの発現レベルの変化が特に顕著であることから、前述のような血液試料が好ましく、より好ましくは、血漿を含む試料、血清を含む試料等である。このような血液試料であれば、例えば、血液を採取するのみで検査が可能であり、被検者の苦痛や負担も極めて軽減できることからも、特に好ましい。
【0029】
本発明の評価方法は、さらに、癌の可能性を決定する工程を含んでもよい。すなわち、前記癌マーカー検出工程で検出した前記生体試料における前記癌マーカーの発現レベルから、下記(1)、(2)および(3)からなる群から選択された少なくとも一つの方法により、癌の可能性を決定する工程を含んでもよい。
(1)被検者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルを、正常者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、前記正常者の発現レベルよりも低い場合に、前記被検者は、前記癌の可能性が高いと決定する。
(2)被検者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルを、正常者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、前記正常者の発現レベルよりも相対的に低い程、前記被検者は、前記癌の進行が相対的に進んでいると決定する。
(3)被検者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルを、進行期別の各癌患者の生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、前記被検者は、同程度の発現レベルを示す患者と同じ進行期であると決定する。
【0030】
本発明において、癌の可能性とは、例えば、癌が発症する可能性、癌化しているか否か、前臨床期もしくは臨床期等の癌の進行度、または、予後等の意味を含む。本発明において、「正常者」とは、例えば、評価対象の癌を発症している、または、前記癌を発症している可能性があると判断されていない者を意味する。
【0031】
前記(1)および(2)における正常者の癌マーカーの発現レベルは、例えば、予め、正常者から採取した生体試料を用いて、決定することができる。また、前記(3)における各癌患者の癌マーカーの発現レベルも、例えば、予め、進行期ごとに患者を分類し、各進行期の患者から採取した生体試料を用いて、決定することもできる。前記(1)〜(3)における正常者および患者の生体試料は、例えば、前記被検体の生体試料と同じ種類の生体試料であることが好ましく、例えば、血液試料が好ましく、特に、血漿を含む試料、血清を含む試料が好ましい。また、前記正常者および患者の生体試料は、例えば、前記被検体の生体試料と同様の方法や条件で調製した試料であることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記癌マーカーの発現レベルとは、例えば、前記生体試料における前記癌マーカーの発現量があげられる。前記発現量は、例えば、実際のmiRNAの量でもよいし、実際のmiRNAの量と相関関係にある値であってもよい。後者としては、例えば、前記miRNAの検出の際に得られるシグナル値等があげられる。このシグナル値は、例えば、miRNAの検出方法や、シグナル値の検出機器の種類に応じて適宜決定できる。前記検出方法が、例えば、リアルタイムRT−PCR(リアルタイム 逆転写−ポリメラーゼチェーンリアクション)法等のPCR法の場合、例えば、copies/μL等で表わすこともできる。
【0033】
前記癌マーカーの発現レベルは、例えば、補正マーカーの発現レベルによって補正することが好ましい。前記補正マーカーとしては、特に制限されないが、例えば、生体試料における発現レベルが恒常的な物質があげられ、中でも、癌化の有無にかかわらず、生体試料における発現レベルが恒常的な物質が好ましい。このような補正マーカーを内部標準として、癌マーカーの検出のために採取した生体試料における発現レベルを検出すれば、例えば、異なる被検者間の癌マーカーの発現レベルや、同じ被検者の経時的な発現レベルを、より一層優れた信頼性で比較できる。このような理由から、本発明の評価方法は、さらに、前記被験者から採取した前記生体試料における補正マーカーの発現レベルを検出する補正マーカー検出工程を含んでもよい。
【0034】
前述の癌マーカーの補正した発現レベルは、例えば、生体試料における癌マーカーの発現量と、補正マーカーの発現量との比で表わすことができる。具体的には、例えば、「癌マーカーの発現量/補正マーカーの発現量」、または、「補正マーカーの発現量/癌マーカーの発現量」として表すことができる。本発明の癌マーカーは、癌化によって発現が低下することから、前者のように「癌マーカーの発現量/補正マーカーの発現量」で表わした場合、例えば、値が相対的に小さいほど、癌の可能性が高いと判断できる。一方、後者のように「補正マーカーの発現量/癌マーカーの発現量」で表した場合、例えば、値が大きい程、癌の可能性が高いと判断できる。
【0035】
前記補正マーカーとしては、特に制限されず、公知のマーカーが使用できるが、本発明においては、特に、hsa−miR−638を補正マーカーとすることが好ましい。このmiRNAを含む補正マーカーは、後述する本発明の補正マーカーであり、例えば、癌化にかかわらず、生体試料内で恒常的に発現する。このように本発明の補正マーカーは、癌化に関わらず、恒常的に発現することから、生体試料における内部標準となる。
【0036】
本発明の補正マーカー、すなわち、前記hsa−miR−638は、例えば、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0037】
hsa−miR−638としては、例えば、前述のように成熟型miRNAがあげられる。成熟型miRNAの配列は、アクセッションMo.MIMAT00033088に登録されている。前記成熟型hsa−miR−638の配列を、配列番号3に示す。
hsa−miR−638(配列番号3)
5’−agggaucgcgggcggguggcggccu−3’
【0038】
本発明において、前記被検者とは、特に制限されないが、例えば、ヒト、犬、猫等を含む哺乳類、霊長類、齧歯類等があげられる。
【0039】
以下に、本発明の評価方法について、生体試料として血漿または血清を使用する例をあげて説明する。なお、本発明は、これには制限されない。
【0040】
まず、被検者の血漿または血清から全RNAを抽出する。前記血漿または血清は、公知の方法で回収でき、例えば、被検者から全血を採取し、遠心により血球画分を除去することによって調製できる。また、前記血漿または血清からの全RNAの抽出方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。前記抽出方法としては、例えば、グアニジン−塩化セシウム超遠心法、AGPC(Acid Guanidinium−Phenol−Chloroform)法等があげられる。
【0041】
つぎに、抽出した全RNAにおける本発明の癌マーカー、すなわち、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方を検出する。本発明の癌マーカーの検出方法としては、何ら制限されず、前述のようにmiRNAの発現を検出できる方法であればよい。前記検出方法の具体例としては、例えば、ノーザンブロット分析、リアルタイムRT−PCR検出法、マイクロアレイ解析法等があげられる。なお、本発明においては、癌マーカーである検出対象のmiRNAが、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方であることが特徴であり、それらを検出するための方法は、何ら制限されず、且つ、技術常識から当業者であれば実施可能である。
【0042】
ノーザンブロット分析は、例えば、以下のようにプローブを用いて行うことができる。前記プローブとしては、特に制限されず、前述のmiRNAを検出可能なプローブが使用でき、例えば、前記miRNAのいずれかにハイブリダイズ可能なプローブがあげられる。前記プローブは、例えば、市販品を使用してもよいし、自家調製してもよい。プローブの配列は、例えば、前述したmiRNAの塩基配列ならびに技術常識に基づいて、適宜設計可能である。具体例としては、検出目的のmiRNAに相補的な配列からなるプローブがあげられる。プローブの配列は、例えば、検出目的のmiRNAに対して、約70%以上相補的であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、特に100%相補的であることが好ましい。前記プローブの構成単位としては、特に制限されず、例えば、公知の構成単位が採用でき、具体例として、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド等のヌクレオチド、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)等の構成単位があげられる。前記LNAとしては、例えば、2',4'−Bridged Nucleic Acid等のBNA(Bridged Nucleic Acid)等があげられる。前記ヌクレオチドにおける塩基としては、特に制限されず、例えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル等の天然塩基でもよいし、非天然塩基(人工塩基)であってもよい。前記プローブの長さは、特に制限されないが、例えば、10〜100merであり、好ましくは、10〜40merであり、より好ましくは、10〜25merであり、好ましくは、15〜20merである。
【0043】
具体例としては、まず、抽出した全RNAを、電気泳動によって鎖長に応じて分画し、これを電気泳動のゲルからメンブレンに転写する。前記メンブレンとしては、例えば、ニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレン等があげられる。続いて、分画したRNAが転写された前記メンブレンを、32P等の放射性物質等の標識で標識化した前述のプローブと、所定のバッファー中でインキュベートする。そして、前記プローブの標識を検出することによって、前記プローブとハイブリダイズしたmiRNAを検出できる。このように、放射性物質で標識したプローブを使用する場合は、例えば、オートラジオグラフィーにより、バンド密度に基づいて、前記プローブとハイブリダイズしたmiRNAを定量できる。ノーザンブロット分析の条件は、特に制限されないが、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、ストリンジェントな条件で行うことが好ましい。ストリンジェントな条件とは、例えば、32Pで標識化したDNAをプローブとする場合、ハイブリダイゼーションバッファー中で温度37℃である。前記ハイブリダイゼーションバッファーは、例えば、0.25mol/L リン酸ナトリウム(pH7.2)、7%SDSおよび0.5%ピロリン酸ナトリウムを含むバッファーがあげられる。また、洗浄ステップにおいては、2×SSCおよび1%SDSを含む洗浄バッファー中で温度37℃、さらに、0.1×SSCを含む洗浄バッファー中で室温である。なお、これには制限されず、検出方法に応じて、それぞれの標準的な条件が採用できる。
【0044】
リアルタイムRT−PCR検出法は、例えば、以下のように、蛍光試薬を用いて行うことができる。まず、例えば、抽出した全RNAの5’末端および3’末端にリンカーをライゲーションした後、これを鋳型として、cDNAの増幅を行う。さらに、得られたcDNAを鋳型として、検出目的のmiRNAを増幅可能なプライマーを用いて、PCRを行う。前記プライマーとしては、何ら制限されず、例えば、前述のmiRNAまたは前記miRNAの周辺領域にハイブリダイズ可能なプライマーがあげられる。前記プライマーは、例えば、前述したmiRNAの塩基配列ならびに技術常識に基づいて、適宜設計可能である。具体例としては、検出目的のmiRNAまたは前記miRNAの周辺領域に相補的な配列からなるプローブがあげられる。前記プライマーの配列は、例えば、検出目的のmiRNAまたは前記miRNAの周辺領域に対して、例えば、約70%以上相補的であることが好ましく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、特に100%相補的であることが好ましい。前記プライマーの構成単位としては、特に制限されず、例えば、前述のプローブと同様である。前記プライマーの長さは、特に制限されず、一般的な長さがあげられる。
【0045】
前記PCRの際、例えば、PCR反応液に蛍光試薬を共存させることが好ましい。前記蛍光試薬としては、例えば、二本鎖核酸に特異的に結合する蛍光色素、二本鎖核酸にインターカレートする蛍光色素等があげられる。このような蛍光試薬の場合、核酸増幅により二本鎖核酸を形成すると、前記二本鎖核酸に前記蛍光色素が結合またはインターカレートする。そこで、前記二本鎖核酸に結合またはインターカレートした前記蛍光色素の蛍光強度を測定することにより、検出目的のmiRNAを定量できる。前記蛍光色素としては、例えば、SYBR(商標)Green等があげられる。このようなリアルタイムRT−PCR検出法は、例えば、公知の方法で行うことができる。また、例えば、SYBR(商標)Green PCRマスターミックス(商品名、Perkin−Elmer Applied Biosystems社)等の市販の試薬や、ABI Prism 7900 Sequence Detection System(商品名、Perkin−Elmer Applied Biosystems社)等の市販の検出機器を用いて、それらのマニュアルに従って実施することができる。また、前述のプライマーが、前記蛍光試薬を兼ねてもよい。このようなプライマーとしては、例えば、蛍光色素で標識された標識化プライマーであって、蛍光二本鎖核酸を未形成の場合には蛍光色素の発光が消光され、二本鎖核酸を形成すると消光が解除され蛍光を発するプライマーがあげられる。このような標識化プライマーは、例えば、技術常識に基づいて設計可能である。
【0046】
このような検出方法によって発現量を測定する際には、例えば、後述するように、補正マーカー等の内部標準を測定し、検出目的のmiRNAについて、前記内部標準で補正した発現量を算出しておくことが好ましい。
【0047】
他方、正常者から採取した血漿または血清についても、同様にして、本発明の癌マーカーを検出しておく。この際、被検者の癌マーカーと正常者の癌マーカーとは、同じ種類の癌マーカーであることが好ましい。正常者における本発明の癌マーカーの発現レベルは、例えば、予め、決定しておくことが好ましく、評価の度に正常者の発現レベルを決定する必要はない。すなわち、予め検出しておいた正常者における本発明の癌マーカーの発現レベルを、正常者の標準値として設定しておくことが好ましい。なお、前記正常者の発現レベルは、例えば、1名の正常者の値であってもよいし、複数人の正常者の発現レベルから統計学的手法により算出した値であってもよい。
【0048】
そして、前記被検者の発現レベルと前記正常者の発現レベルとから、例えば、下記(1)または(2)の方法により、前記被検者の癌の可能性を評価することができる。
【0049】
(1)の方法では、例えば、前記被検者の前記癌マーカーの発現レベルを、正常者の前記生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、前記正常者の発現レベルよりも有意に低い場合に、前記癌の可能性が高いと決定する。本発明の癌マーカーは、前述のように、例えば、血液において、癌化に伴って発現レベルが低下する。したがって、正常者の発現レベルと同等またはそれよりも高い場合には、前記被検者について、癌化の可能性は低いと判断できる。一方、前記被検者の発現レベルが、前記正常者の発現レベルよりも低ければ、前記被検者について、癌化の可能性が高いと判断できる。
【0050】
(2)の方法では、例えば、前記被検者の前記癌マーカーの発現レベルを、正常者の前記生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、前記正常者の発現レベルよりも相対的に低い程、前記癌の進行が相対的に進んでいると決定する。本発明の癌マーカーは、前述のように、例えば、血液において、癌化の進行に伴って発現レベルが低下する。したがって、前記被検者の発現レベルが、前記正常者の発現レベルより低く、且つ、両者の差が相対的に小さい程、癌の進行状況が軽く、前記両者の差が相対的に大きい程、癌の進行状況が重いと判断できる。
【0051】
前記(1)および(2)の方法では、例えば、被検者の発現レベルが、正常者の発現レベルと比較して、例えば、50%以上低下している場合に、癌の可能性が高いと判断でき、さらに、85%以上、90%以上、95%以上と低下するにしたがって、より進行していると判断できる。なお、後述するように、補正マーカーにより発現レベルを補正した場合も、同様である。
【0052】
また、正常者の癌マーカーの検出に代えて、または、加えて、進行期別の各癌患者から採取した血清または血漿についても、同様に本発明の癌マーカーを検出してもよい。この際、被検体の癌マーカーと、癌患者の癌マーカーとは、同じ癌マーカーであることが好ましい。患者における本発明の癌マーカーの発現レベルは、予め、決定しておくことが好ましく、また、評価の度に、患者の発現レベルを決定する必要はない。すなわち、予め検出しておいた各癌患者における本発明の癌マーカーの発現レベルを、各進行期の標準値として設定しておくことが好ましい。なお、前記癌患者の発現レベルは、例えば、1名の癌患者の値であってもよいし、複数人の癌患者の発現レベルから統計学的手法により算出した値であってもよい。
【0053】
そして、前記被検者の発現レベルと各癌患者の発現レベルとから、例えば、下記(3)の方法により、前記被検者の癌の可能性を評価することができる。
【0054】
(3)の方法では、例えば、前記被検者の前記癌マーカーの発現レベルを、進行期別の各癌患者の前記生体試料における前記癌マーカーの発現レベルと比較し、同程度の発現レベルを示す患者と同じ進行期であると決定する。本発明の癌マーカーは、前述のように、血液において、癌化の進行に伴って発現レベルが低下する。したがって、進行期別の各癌患者について発現レベルを決定することで、これとの対比により、前記被検者の癌化の可能性だけでなく、その癌の進行期を評価することが可能である。
【0055】
前記(1)〜(3)に示すように、前記被検者と正常者または癌患者との発現レベルを比較する際、その有意差は、例えば、T−test(T検定)、F検定、カイ二乗検定等の統計学的手法により判断することができる。
【0056】
また、本発明の評価方法の信頼性を向上するために、前述のように、本発明の癌マーカーの発現レベルを補正して、評価を行ってもよい。
【0057】
補正した発現レベルとは、前述のように、例えば、生体試料における癌マーカーの発現量と、補正マーカーの発現量との比で表わすことができ、具体例として、「癌マーカーの発現量/補正マーカーの発現量」で表わすことができる。そして、前記(1)または(2)の方法においては、例えば、前記被検者について算出した比と、前記正常者について算出した比とを比較すればよい。さらに、両者の比較を容易にするために、例えば、前記正常者について算出した比を「1」として、これに対する、前記被検者について算出した比の相対値を求めることが好ましい。これによって、前記被検者の算出値が「1」よりも小さいか大きいかによって、より容易な判断が可能となる。また、前記(3)の方法においても、例えば、前記被検者について算出した比と、前記進行期別の癌患者について算出した比とを比較すればよい。
【0058】
このような評価方法によれば、例えば、判断が困難であった癌の前臨床期の被検者についても、高い信頼性で、癌の可能性が高いと判断することができる。また、例えば、癌の進行期についても、高い信頼性で判断することができる。このため、癌の予防や治療において、例えば、投薬や手術等の方針を決定するための重要な情報を、高い信頼性で得ることができる。
【0059】
<評価試薬>
本発明の評価試薬は、前述のように、本発明の評価方法に使用するための評価試薬であって、本発明の癌マーカーの検出試薬、すなわち、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを検出するためのmiRNA検出試薬を含むことを特徴とする。このような評価試薬によれば、本発明の評価方法を簡便に実施できる。
【0060】
本発明は、前述のように、癌のマーカーとして、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方を検出することが特徴であって、これらのmiRNAの検出方法は何ら制限されない。したがって、本発明の評価試薬に含まれる前記miRNA検出試薬は、これらのmiRNAのいずれかを検出できればよく、例えば、その試薬の種類や組成等は、何ら制限されない。また、当業者であれば、技術常識に基づいて、これらのmiRNAの検出試薬を設定できる。
【0061】
本発明の評価試薬は、例えば、各種検出方法に応じて、さらに、各種酵素、緩衝液、洗浄液、溶解液、分散液、希釈液等を含んでもよい。また、本発明の評価試薬の形態は、特に制限されず、例えば、液体状態のウェット系であってもよいし、乾燥状態のドライ系であってもよい。
【0062】
前記miRNA検出試薬としては、特に制限されないが、例えば、前述のようなノーザンブロット分析やリアルタイムRT−PCR検出法に使用する試薬があげられる。ノーザンブロット分析に使用するmiRNA検出試薬の具体例としては、例えば、前述のような、これらのmiRNAのうちいずれかにハイブリダイズ可能な標識化プローブがあげられる。また、リアルタイムRT−PCR検出法の試薬の具体例としては、前述のような、全RNAからcDNAを増幅するためのプライマー、これらのmiRNAのうちいずれかを増幅するためのプライマー、二本鎖核酸に特異的に結合またはインターカレートする蛍光試薬、核酸増幅に使用できる各種試薬等があげられる。前記各種試薬としては、例えば、DNAポリメラーゼ等の酵素、ヌクレオチド三リン酸(dNTP)等があげられる。
【0063】
<評価キット>
本発明の評価キットは、前述のように、本発明の評価方法に使用するための評価キットであって、hsa−miR−92およびhsa−miR−494の少なくとも一方のmiRNAを検出するmiRNA検出試薬(例えば、本発明の評価試薬)を含むことを特徴とする。このような評価キットによれば、本発明の評価方法を簡便に行うことができる。なお、本発明の評価キットにおいて、本発明の評価試薬は、例えば、前述の通りである。
【0064】
本発明の評価キットは、さらに、補正マーカーを検出する補正マーカー検出試薬を含むことが好ましい。前記補正マーカーの検出試薬は、特に制限されず、前述のような補正マーカーの種類、補正マーカーの検出方法等に応じて、適宜決定できる。前述のように、本発明の評価方法における前記補正マーカーは、本発明の補正マーカーが好ましいことから、前記補正マーカー検出試薬としては、例えば、本発明の補正マーカーを検出する試薬、つまり、hsa−miR−638を検出するmiRNA検出試薬であることが好ましい。このmiRNA検出試薬は、特に制限されないが、本発明の癌マーカー検出試薬と同様に、例えば、ノーザンブロット分析やリアルタイムRT−PCR検出法に使用する試薬があげられる。
【0065】
本発明の評価キットの形態は、特に制限されず、液体状態のウェット系でもよいし、乾燥状態のドライ系であってもよい。本発明の評価キットにおける各種試薬は、例えば、それぞれ別個であり使用時に併用してもよいし、使用時前から混合されてもよい。
【0066】
本発明の評価キットは、例えば、前述の本発明の評価試薬や、その他の各種試薬を配置した検査用具であってもよい。前記検査用具の形態としては、特に制限されないが、例えば、マイクロリアクター等のリアクター、マイクロチップ等のチップ、マイクロタイタープレート等のプレート、マイクロアレイ等のアレイ等があげられる。このような検査用具であれば、例えば、リアルタイムPCR装置等の既存の各種検出機器で、必要なシグナルを検出することによって、本発明の評価方法を容易に実行できる。さらに、例えば、コンピュータ処理によって、検出したシグナルの数値化、前述のような補正マーカーの発現レベルによる測定シグナル値の補正、被検者ごとのデータファイルの作成、データファイルの所定のディレクトリへの保存、被検者、正常者および患者の測定結果の統計解析等を行うシステムを伴ってもよい。このようなデータ処理のシステムは、当業者であれば、技術常識に基づいて、既存の技術、方式、手順から設計できる。
【0067】
本発明の評価キットは、例えば、さらに、本発明の評価方法を実行するために使用できる各種機器等を含んでもよい。また、本発明の評価キットは、さらに、例えば、使用説明書を含むことが好ましい。
【0068】
<補正マーカー>
本発明の補正マーカーは、前述のように、hsa−miR−638を含み、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するためマーカーであることを特徴とする。
【0069】
本発明者らは、生体試料において、内部標準となる新たな補正マーカーを得るべく鋭意研究を行った。その結果、前述のような、hsa−miR−638が、生体試料中、特に血液試料中で、恒常的に発現することを見出し、本発明に到った。なお、補正マーカーとなるmiRNAは、これまで報告されておらず、本発明者らにより見出されたこれらのmiRNAが、初めての報告となる。このような補正マーカーによれば、例えば、検出目的の本発明の癌マーカーについて、被検者間の比較や、同じ被検者の経時的な比較を、より優れた信頼性で行うことができる。なお、本発明の補正マーカーにおけるmiRNAは、前述の通りである。
【0070】
本発明の補正マーカーは、生体試料中に存在するmiRNAであり、前記生体試料は、特に制限されない。前記生体試料としては、特に制限されないが、例えば、前述のように、血液、唾液、尿等があげられる。中でも、癌であるか否かにかかわらず発現が恒常的に保たれていることから、前述のような血液試料が好ましい。前記血液試料の中でも、例えば、血漿を含む試料、血清を含む試料、または、血漿および血清を含む試料等がより好ましい。
【0071】
本発明の補正マーカーは、生体試料中における検出対象マーカーの発現レベルの補正に使用でき、具体的には、本発明の癌マーカーの発現レベルの補正に使用することが好ましい。本発明の補正マーカーは、例えば、癌か否かにかかわらず恒常的に存在することから、前記検出対象マーカーの種類は、本発明の癌マーカーには制限されず、例えば、その他に、癌の発症で発現レベルが変化する癌マーカーであってもよい。なお、検出対象マーカーは、例えば、疾患によって生体試料中の発現レベルが変動するマーカーであってもよい。
【0072】
<補正マーカーによる補正方法>
本発明の補正方法は、前述のように、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するために、
生体試料における前記本発明の癌マーカーの発現レベルを測定する工程と、
前記生体試料における前記補正マーカーの発現量を測定する工程と、
前記癌マーカーの発現量と前記補正マーカーの発現量との比を、前記生体試料における前記癌マーカーの補正した発現レベルとする補正工程とを含むことを特徴とする。
【0073】
本発明の補正方法によれば、前記補正マーカーが生体試料中に恒常的に存在することから、生体試料中における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正することで、例えば、被検体間の比較や、同じ検体間の経時的な発現レベルの比較等を、より優れた信頼性で行うことが可能となる。
【0074】
なお、前述のように、本発明の補正マーカーを用いた補正方法は、例えば、本発明の癌マーカーには制限されず、生体試料における他の検出目的のマーカーに対しても使用可能である。前記補正マーカーは、例えば、癌か否かにかかわらず恒常的に存在することから、前記検出対象マーカーとしては、癌の発症で発現レベルが変化する癌マーカーが好ましい。具体例としては、前記本発明の癌マーカーの他に、例えば、miR−16−1−15a、miR−145、let−7 family、miR−155、miR−17−92 cluster、miR−21、miR−221、miR10−b、miR−128、miR−181a、miR−181b、miR−125b、miR−145、miR−143、miR133b、miR−31、miR−135b、miR−96、miR−183、miR−18、miR−224、miR−199a、miR−195、miR−200a、miR−125a、miR−122、miR−126、miR−21、miR−205、miR−15a、miR−16−1、miR−150、miR−222、miR−103、miR−107、miR−204、miR−372、miR−373、miR−146b、miR−197、miR−346等があげられる。
【0075】
本発明においては、本発明の補正マーカーによって、本発明の癌マーカーの発現量を補正する点が特徴である。このため、本発明の癌マーカーおよび本発明の補正マーカーの発現量の測定方法は、何ら制限されない。本発明の補正マーカーに関しては、例えば、前述のように、本発明の癌マーカーと同様、各miRNAを検出できる手法であればよい。
【0076】
<補正試薬>
本発明の補正試薬は、前述のように、hsa−miR−638を検出するmiRNA試薬を含み、本発明の評価方法において、生体試料における本発明の癌マーカーの発現レベルを補正するために使用することを特徴とする。このような補正試薬によれば、本発明の補正方法を簡便に実施できる。
【0077】
本発明は、前述のように、補正マーカーとして、hsa−miR−638を検出することが特徴であって、このmiRNAの検出方法は、何ら制限されない。したがって、本発明の補正試薬に含まれるmiRNA検出試薬は、前述のように、このmiRNAのいずれかを検出できればよく、例えば、その試薬の種類や組成等は、何ら制限されない。また、当業者であれば、技術常識に基づいて、このmiRNAを検出するmiRNA検出試薬を適宜設定できる。
【0078】
本発明の補正試薬は、例えば、前記miRNAに対する各種検出方法に応じて、各種酵素、緩衝液、洗浄液、溶解液、分散液、希釈液等を含んでもよい。また、本発明の補正試薬の形態は、特に制限されず、例えば、液体状態のウェット系であってもよいし、乾燥状態のドライ系であってもよい。
【0079】
前記miRNA検出試薬としては、特に制限されないが、例えば、前述のような、ノーザンブロット分析やリアルタイムRT−PCR検出法に使用する試薬があげられる。ノーザンブロット分析に使用するmiRNA検出試薬の具体例としては、例えば、前述のような、これらのmiRNAのうちいずれかにハイブリダイズ可能な標識化プローブがあげられる。また、リアルタイムRT−PCR検出法の試薬の具体例としては、前述のような、全RNAからcDNAを増幅するためのプライマー、これらのmiRNAのうちいずれかを増幅するためのプライマー、二本鎖核酸に特異的に結合またはインターカレートする蛍光試薬、核酸増幅に使用できる各種試薬等があげられる。前記各種試薬としては、例えば、DNAポリメラーゼ等の酵素、ヌクレオチド三リン酸(dNTP)等があげられる。
【実施例】
【0080】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例により制限されない。
【0081】
[実施例1]
下記表に示す正常者および癌患者より採血し、血清および血漿を含む画分(以下、サンプルという)を分離した。得られた前記サンプルから、商品名Isogen−LS(ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出し、全RNA濃度を100ng/μLとなるように調製した。そして、全RNAを、仔牛小腸由来アルカリホスファターゼ(商品名Alkaline Phosphatase(Calf intestine)(CIAP)、タカラバイオ社)を用いて脱リン酸化反応を行った後、リガーゼ(商品名T4 RNA Ligase(Cloned)、アンビオン社)を用いて、シアニン色素でラベル化した。なお、これらの操作は、キット(商品名miRNA Labeling Reagent and Hybridization Kit、カタログNo.5190−0408、アジレント・テクノロジー社)を用いて、添付のプロトコールに従って行った。さらに、マイクロアレイスライド(商品名Human miRNA Microarray kit 8×15K V2、カタログNo.G4470B、アジレント・テクノロジー社)を用いて、シアニンラベル化全RNAのハイブリダイゼーションを行い、シグナルを、スキャナー(商品名DNA Microarray Scanner、アジレント・テクノロジー社)を用いてスキャニングした。シグナルの検出には、前記スキャナーに付属のソフトウェア「Feature Extraction 9.5.3 SoftwareおよびAgilent Scan Control Software(ver.7.0)」を用いた。
【0082】
このようにして、各被検者の前記サンプルにおける、癌マーカーhsa−miR−92aならびにhsa−miR−494、および、補正マーカーhsa−miR−638の発現レベルを示すシグナル値を得た。さらに、各被検者について、下記(A)および(B)を算出した。
(A)下記式に示す、癌マーカー発現レベルと補正マーカー発現レベルの比
has−miR−92a/has−miR−638(以下、「92a/638」)
has−miR−494/has−miR−638(以下、「494/638」)
(B)下記式に示す、各被検者の前記比「92a/638」および「494/638」を、それぞれ、さらに正常者(BS63)の比「92a/638」および「494/638」で割った相対値
[被検者92a/638]/[正常者92a/638]
(以下、「92a/638/BS63」)
[被験者494/638]/[正常者494/638]
(以下、[494/638/BS63])
【0083】
これらの結果を下記表1および表2に、それぞれ示す。表1は、癌マーカーがhsa−miR−92a、補正マーカーがhsa−miR−638である結果を示し、表2は、癌マーカーがhsa−miR−494、補正マーカーがhsa−miR−638である結果を示す。
【0084】
【表1】
【表2】
【0085】
前記表1に示すように、癌マーカーとしてhsa−miR−92aを検出し、補正マーカーhsa−miR−638で補正した結果、正常者の発現レベル92a/638/BS63「1.0」と比較して、癌患者の発現レベル92a/638/BS63は、0.022〜0.665と極めて顕著に低下していることがわかった。また、表2に示すように、癌マーカーとしてhsa−miR−494を検出し、補正マーカーhsa−miR−638で補正した結果、正常者の発現レベル494/638/BS63「1.0」と比較して、癌患者の発現レベル494/638/BS63は、0.03〜0.086と極めて顕著に低下していることがわかった。以上の結果から、本発明の癌マーカーの検出によって、高い信頼性で癌化の有無を判断できることがわかった。
【0086】
[実施例2]
急性骨髄性白血病(AML)患者(n=2)および正常者(n=7)より採血し、15,680m/s、15分間の遠心により血清および血漿を含む画分(以下、「サンプル」という)を回収した。これらのサンプルを使用した以外は、実施例1と同様にして、マイクロアレイ解析により、各サンプル中のmiRNAの発現解析を行った。そして、正常者由来の各サンプルについて、発現した各種miRNAのシグナル値順位(Individual rank_Normal)の決定、正常者由来のサンプル間における、各種miRNAのシグナル値平均順位(Average rank_Normal)の決定を行った。また、サンプル間における各miRNAの発現の変動を確認するため、正常者由来の各サンプルにおける各種miRNAのシグナル値を、前記正常者由来のサンプル間における各種miRNAのシグナル値平均順位で割り、その対数(log10(individual rank_Normal/Average rank_Normal])を求めた(底は10)。
【0087】
これらの結果を用いて、まず、正常者由来の7検体のサンプルについて、各種miRNAの発現プロファイルを比較した。この結果を図1(a)および(b)に示す。同図(a)は、前記7検体の各サンプルについて、サンプルに含まれる各種miRNAのシグナル強度値を示す図である。同図において、横軸の1〜7は、各検体を示し、縦軸は、シグナル強度を示す。なお、同図においては、「hsa−miR」を「miR」で示す(以下、同様)。同図(b)は、各miRNAについて、各正常者7名の順位を平均順位で割った値の対数値(log10(individual rank_Normal/Average rank_Normal])を示す。同図(b)において、横軸は、各miRNAを示し、縦軸は、前記対数値を示す。
【0088】
その結果、図1(a)に示すように、正常者由来の7検体のサンプルのいずれにおいても、hsa−miR−638およびhsa−miR−92aの発現が確認され、さらに、hsa−miR−638が最も高い発現を示すことがわかった。また、図1(b)に示すように、hsa−miR−638について、前述のシグナル値順位に関する対数値は、0であった。この対数値は、例えば、正常者の各サンプルにおいて、miRNAの発現プロファイルが異なる挙動を示す程、0を中心として、絶対値が大きく変動する。しかしながら、hsa−miR−638については、「0」であったことから、いずれの正常者のサンプルにおいても、同様の発現プロファイルを示すことがわかった。以上の結果から、hsa−miR−638は、サンプルにおけるmiRNAの定量において、補正マーカーとなることが確認された。
【0089】
つぎに、AML患者由来のサンプルについて、サンプル間における、各種miRNAのシグナル値平均順位(Average rank_AML)の決定を行った。そして、2名のAML患者由来のサンプル間における各種miRNAのシグナル値平均順位(Average rank_AML)を、7名の正常者由来のサンプル間における各種miRNAのシグナル値平均順位(Average rank_Normal)で割り、AML患者由来のサンプルにおける各種miRNAの発現プロファイルを比較した。この結果を図2に示す。図2は、前記AML患者由来のサンプル間におけるmiRNAのシグナル値平均順位と、正常者由来のサンプル間におけるmiRNAのシグナル値平均順位との比(Average rank_AML/Average rank_Normal)を示すグラフであり、値が大きいほど、患者と正常者とで発現プロファイルが異なることを意味する。同図において、縦軸は、Average rank_AML/Average rank_Normalを示し、横軸は、各miRNAを示す。
【0090】
同図に示すように、AML患者におけるhsa−miR−92aのシグナル値平均順位は、正常者におけるシグナル値平均順位の約20倍であり、AML患者においてhsa−miR−92aの発現が顕著に減少していることが示された。この結果から、hsa−miR−92aは、AMLについての癌マーカーとなることが確認できた。
【0091】
[実施例3]
男性39名、女性38名の合計77名の被検者より、前記実施例2と同様にして血漿および血清を含む画分(以下、サンプルという)を回収した。前記被検者のうち、正常者は16名、急性白血病患者は61名であり、前記急性白血病患者のFAB分類は、以下の通りである。
AML M0 2 (3.2%)
AML M1 11(18.0%)
AML M2 19(31.1%)
AML M3 10(16.3%)
AML M4 3 (4.9%)
AML M4E 1 (1.6%)
AML M5 1 (1.6%)
AML M5b 1 (1.6%)
AML M6 1 (1.6%)
AML M7 2 (3.2%)
AML(多血球系異形成を伴うもの) 3 (4.9%)
ALL L2 2 (3.2%)
ALL ph+ 1 (1.6%)
ALL preB 4 (6.5%)
【0092】
前記各サンプルについて、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−638の発現レベルを、市販のTaqMan(商標)MicroRNA Assay(Applied Biosystems社)を用いた定量的RT−PCRにより解析した。なお、特に示さない限り、使用した市販試薬の使用説明書にしたがって解析を行った。
【0093】
まず、前記全RNAは、前記各被検者由来のサンプルから、前記実施例2と同様にして単離した。20ngの前記全RNAを鋳型として、商品名TaqMan(商標)MicroRNA RT Kit(Applied Biosystems社)を用いて、逆転写反応を行った。具体的には、全RNA20ng(インプットRNA)を添加した下記組成の逆転写反応液15μLを、16℃で30分、42℃で30分および85℃で5分インキュベートして逆転写反応を行った。なお、下記反応液において、下記hsa−miR−92a用プライマーおよびhsa−miR−638用プライマーは、それぞれ、miRNA特異的ステムループプライマー(Looped RT primer)である。具体的に、下記hsa−miR−92a用プライマーは、TaqMan(商標)MicroRNA AssayのAssayName hsa−miR−92 品番4373013(Applied Biosystems社)を使用し、hsa−miR−638用プライマーは、TaqMan(商標)MicroRNA AssayのAssayName hsa−miR−638 品番4380986(Applied Biosystems社)を使用した。
【0094】
【表3】
【0095】
続いて、前記逆転写反応の転写産物を鋳型とし、Mx3005P(商標)QPCRシステム(STRATAGENE社)を用いて、定量的リアルタイムPCRを行った。前記逆転写産物としては、前述の逆転写反応後の反応液とヌクレアーゼフリーの水とを1:2(体積比)で混合希釈した転写産物希釈液1μLを使用した。具体的には、前記希釈液1μLを添加した下記組成のPCR反応液20μLを、95℃で2分処理した後、95℃15秒および60℃1分を1サイクルとして、50サイクルインキュベートした。下記PCR反応液において、下記bufferは、hsa−miR−92a検出用の前記TaqMan(商標)MicroRNA Assay(AssayName hsa−miR−92:品番4373013:Applied Biosystems社)におけるプライマーセットおよびTaqMan(商標)Probe、または、hsa−miR−638検出用の前記TaqMan(商標)MicroRNA Assay(AssayName hsa−miR−638:品番4380986:Applied Biosystems社)におけるプライマーセットおよびTaqMan(商標)Probeを、それぞれ含む。なお、hsa−miR−92a検出用の前記プローブおよびhsa−miR−638検出用の前記プローブは、それぞれ、5’がFAM、3’がTAMRAで標識化されている。
【0096】
【表4】
【0097】
定量的RT−PCRのデータは、MxPro−Mx3005P(商標)version 3.00(STRATAGENE社)で解析し、ベースライン適合およびCt決定のスレッシュホールドのための自動Ctセッティングも行った。そして、各被検体由来のサンプルについて、癌マーカーhsa−miR−92aを示す蛍光強度と補正マーカーhsa−miR−638を示す蛍光強度の比(hsa−miR−92a/hsa−miR−638)を求め、さらに、マンホイットニーU検定を行って、正常者由来サンプルと急性白血病患者由来サンプルとの間における前記比の統計的有意性を確認した。
【0098】
これらの結果を図3に示す。図3は、正常者由来サンプルと急性白血病患者由来サンプルについての前記蛍光強度比(hsa−miR−92a/hsa−miR−638)を示すグラフである。同図に示すように、正常者由来のサンプルについては、前記蛍光強度比が、中央値0.4672、25%0.0051、75%0.0138、最高値2.3388、最低値0.0189、平均値0.74587であった。一方、急性白血病患者由来のサンプルについては、前記蛍光強度比が、中央値0.0129、25%0.0058、75%0.0274、最高値0.1085、最低値0.0004、平均値0.020585であった。この結果から、前記患者のサンプルにおいて、hsa−miR−92aの発現が著しく減少していることがわかった。また、正常者と急性白血病患者との間の差の統計的有意性を示すP値は、2.0×10−8であり、十分に有意性を示すことがわかった。以上の結果から、血清または血漿におけるhsa−miR−92aは、急性白血病に関する非常に感度の高いマーカーであることが示された。
【0099】
[実施例4]
2名の膵臓癌患者について、手術前および手術後に、前記実施例3と同様にして、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−638を測定し、蛍光強度比(hsa−miR−92a/hsa−miR−638)を算出した。その結果、手術前の蛍光強度比を1とした場合、手術後の蛍光度比の相対値は、2名の患者それぞれ、2.67および1.40であった。この結果から、膵臓癌を発症している際には、hsa−miR−92aの発現量が低下し、治療後には、hsa−miR−92aの発現量が増加することがわかる。つまり、hsa−miR−92aの発現量によって、膵臓癌を発症しているか否かを判断することができるといえる。
【0100】
同様に、4名の肝臓癌患者についても、手術前および手術後に、前記実施例3と同様にして、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−638を測定し、蛍光強度比(hsa−miR−92a/hsa−miR−638)を算出した。その結果、手術前の蛍光強度比を1とした場合、手術後の蛍光度比の相対値は、4名の患者それぞれ、6.13、12.6、156.52、および12.12であった。この結果から、肝臓癌を発症している際には、hsa−miR−92aの発現量が低下し、治療後には、hsa−miR−92aの発現量が増加することがわかる。つまり、hsa−miR−92aの発現量によって、肝臓癌を発症しているか否かを判断することができるといえる。なお、他の癌についても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、生体試料中の本発明の癌マーカーの発現レベルを検出することによって、例えば、癌の発生の有無や進行を高い信頼性で判断することが可能となる。また、本発明の癌マーカーによれば、例えば、癌化について陰性と陽性の差が顕著であることから、一般的な触診等では検出が困難である初期段階の癌についても、検出が可能である。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]