(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のインサートと前記2及び第3のインサートは、その基体が超硬合金から構成されるとともに、前記第1、前記2及び第3のインサートの前記切れ刃は、それぞれの前記基体に立方晶窒化硼素焼結体を含む硬質焼結体から形成された切れ刃を接合した構成からなっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の刃先交換式ラジアスエンドミル。
前記第1の固定用ネジの前記仕上げ加工を施した外周面部の表面粗さは、前記第1のインサートの前記傾斜ネジ挿通穴の前記仕上げ加工を施した前記内周面部の表面粗さより粗くなされていることを特徴とする請求項1に記載の刃先交換式ラジアスエンドミル。
【背景技術】
【0002】
各種の金型を製作する際には、金型の素材となる被削材に3次元の切削加工を行う必要がある。従来から金型の切削加工用の工具としては、ラジアスエンドミル、あるいはボールエンドミルが用いられる。ボールエンドミルは、刃部の形状は側面視で半球状をなしているため、曲面を高速で仕上げ加工を行う切削工具として適しているが、工具本体の先端部軸線(工具回転軸)付近の刃部はその回転速度が遅くなるため、工具先端部軸線付近の刃部を使用した切削加工を行うと刃部が欠損し易くなるという欠点がある。
【0003】
これに対して、ラジアスエンドミルは、底刃と外周刃と、これら底刃と外周刃との間に形成されたR形状のコーナR刃を備えているため、平面加工や曲面加工も行うことができる。このため、近年、複雑な曲面を有する金型の仕上げ加工や中仕上げ加工に用いる切削工具として、ボールエンドミルに代わってラジアスエンドミルも多用されてきている。
【0004】
近年、各種の金型の寸法は大型化する傾向にあり、これに伴って金型の切削加工を行うための切削工具には、高速、高能率、高精度の切削加工を行い、かつ長寿命化が要求されている。このような事情により、各種の金型の加工を行うための切削工具としてラジアスエンドミルが使用されるようになっている。また、切削加工を高能率、高精度に行うためには、ソリッドタイプの切削工具よりも、切れ刃を形成したインサートを、工具本体に形成した取付座にクランプネジ等により着脱自在に装着する方式である、刃先交換式のラジアスエンドミル(刃先交換式ラジアスエンドミル)が適している。この理由は、インサートに形成した切れ刃が摩耗して切れ味が低下すると、直ちに新しいインサートと交換することができるので、切削加工の高能率化と高精度化を維持することができ、かつ、切削工具に対するコスト低減も行うことができるからである。
【0005】
刃先交換式ラジアスエンドミルの技術に関しては、例えば、下記の特許文献1〜3に記載の発明が提案されている。
【0006】
特許文献1(特開平10−156616号公報)には、突き加工、ドリル加工、肩削り加工を可能としたスローアウェイ式ラジアスエンドミルの提供を目的とした発明が提案されている。このスローアウェイ式ラジアスエンドミルは、工具本体に複数のスローアウェイチップを装着する方式であって、第1のチップとして丸チップを用い、第2のチップとして円弧側面とこれに連なる直線状側面とから成るチップを用いて、この直線状側面を工具本体中心軸付近まで延ばし、かつ、中心軸付近に位置するコーナ部に面取り刃を設けた構成としたものである。
【0007】
特許文献2(特開2005−319558号公報)には、倣い加工時において、被削材の面粗さを改善することを目的とした刃先交換式の仕上げ用ラジアスエンドミルに関する発明が提案されている。この刃先交換式ラジアスエンドミルは、工具本体の先端部に設けたスリット状のインサート取付座に切れ刃を形成したインサートを装着する構成であって、インサートの切れ刃の形状は、外周側の円弧状切れ刃の半径をr1とし、工具直径をDとしたときに、0.31D≦r1≦0.45D、D≧8mmとされ、底刃は半径r2の円弧状内周刃とこの円弧状内周刃に接続されて工具軸まで形成された直線状内周刃から構成され、r1>r2としたものである。
【0008】
特許文献3(特開2009−107046号公報)には、インサート本体自体の強度やインサート取付座への取付強度は確保したまま、切削工具に取り付けて高速回転させても工具本体に振れを生じることが少なく、加工精度を損なうことなく、さらに加工効率の向上を図ることを目的とした切削インサート及びインサート着脱式切削工具に関する発明が提案されている。
【0009】
特許文献3に記載されているインサート着脱式切削工具は、図面の
図8、
図11にラジアスエンドミルとして示されているように、先端縁に切れ刃が形成されるとともに取付孔が厚さ方向に貫通させられた平板状のインサート本体を備え、このインサートを、インサート着脱式切削工具のスリット状のインサート取付座に挿入してクランプネジにより固定する構成とされている。さらに、インサートには、インサート本体に設けた取付孔の周りの取付座壁面によって挟まれる被挟持面の内側に、このインサート本体を厚さ方向に貫通する複数の貫通部をこの取付孔と間隔をあけて形成することによりインサートの重量を軽減して、高速回転させても工具本体に振れの発生を生じないように改善したものである。
【0010】
また、刃先交換式ラジアスエンドミル及び刃先交換式ボールエンドミルにおいては、取付座に装着してクランプネジ等により固定したインサートが、切削加工中に発生する切削加工負荷によりその固定位置がズレないようにすること、切屑の排出が良好に行われるように工具本体の先端部の構造を改善すること、及び新しいインサートを取付座に装着したときに所定の位置に、特にインサートに形成した切れ刃が工具本体の先端部から突出する長さ(位置)が、常に所定の位置に正確に固定・維持されるように、インサートを取付座に固定する方法やその手段を改善することも重要になる。
【0011】
上記したインサートを工具本体の取付座に固定する機構を改善する技術としては、下記の特許文献4〜特許文献6に記載の発明が提案されている。
【0012】
特許文献4(実開昭54−29490号公報)には、切屑つまりを解消して工具の破損がなく、かつ作業能率を向上させた、切刃チップを交換自在とした穴あけ工具が提案されている。特許文献4に記載の考案は、切刃チップをホルダの相対する一対の挟持部間に挿入し、この切刃チップを貫通する締付ボルトにより固定する穴あけ工具において、一方の挟持部の縁部を切刃チップの一方の側面に対してホルダの回転方向へ鈍角をなすように切欠して一方の切削屑排出溝を形成するとともに、これと対称位置にある他方の挟持部の縁部を切刃チップの他方の側面に対しホルダの回転方向へ鈍角をなすように切欠して他方の切削屑排出溝を形成し、かつ締付ボルトを一方の挟持部の切欠した面と他方の挟持部の切欠した面とに、略平行となるように傾斜させた構成にすることが開示されている。
【0013】
特許文献5(特開2001−121339号公報)には、上記特許文献4とほぼ同様な構成を有するスローアウエイエンドミルに関する発明が提案されている。このスローアウエイエンドミルは、ホルダ本体に形成されたチップ嵌合溝に嵌合されるチップの取付座に直交する位置に対して、周方向に所要の角度ほど傾斜した方向からクランプボルトがチップの挿通穴を挿通して両チップ挟持半体にわたってネジこまれる構成とすることにより、チップポケットを大きく取れるようにしたエンドミルである。
【0014】
特許文献6(特許第4531981号公報)には、ホルダの先端部(溝脚部)に形成された溝に挿入された切削インサートを、クランプネジにより確実にクランプする機構を備えた穴ぐり工具に関する発明が提案されている。このクランプ機構(特許文献6の
図3参照)は、溝脚部に設けたクランプネジ用の穴の中心軸はX方向に対して傾斜させるとともに、切削インサートに設けた受容穴の中心軸もX方向に対して傾斜させ、さらに、クランプネジはその頭部と先端部のネジ部との間のシャフト部分の外周面を、頭部からネジ部に向かって先細にしたテーパ状の構成にしたことが記載されている。このような構成にすることにより、切削インサートはクランプネジのくさび面伝道装置のような形式で協働して、ストッパ面に押圧されるので、切削加工中における切削インサートに発生する振動もなくなり、優れたクランプ作用を達成することができると記載されている。
【0015】
また、ラジアスエンドミルの切れ刃の長寿命化を図るために、耐摩耗性を有する立方晶窒化硼素(CBN)からなる硬質焼結体製の切れ刃を備えたラジアスエンドミルも提案されている。切れ刃を立方晶窒化硼素(CBN)からなる硬質焼結体製としたラジアスエンドミルに関しては、例えば、特許文献7、特許文献8が提案されている。
【0016】
特許文献7(特開2008−279520号公報)には、コーナR刃の欠損を防止して寿命延長を図ることを目的としたラジアスエンドミルに関する発明が提案されている。このラジアスエンドミルは、エンドミル本体2の先端部外周にコーナR刃が備えられたラジアスエンドミルにおいて、このコーナR刃の先端部とコーナR刃の先端側に配置される底刃4とで構成される先端刃部を立方晶窒化硼素焼結体によって形成し、先端刃部の軸線O方向の長さLが、コーナR刃の半径Rよりも小さい値となるように構成されている。
【0017】
特許文献8(特開2009−241190号公報)には、CBNラジアスエンドミルの底刃とラジアス刃の境界部を強化することにより、寿命を向上させたラジアスエンドミルに関する発明が提案されている。このCBNラジアスエンドミルは、工具本体の先端部にCBN焼結体を接合し、CBN焼結体には2枚の切れ刃を設けた構成とされている。そして、この切れ刃は、底刃、繋ぎ刃、1/4円のラジアス刃、外周刃から構成され、すくい角が−30°〜−50°に設定され、かつ、くさび角が切れ刃の各部で一定しているネガランドをすくい面上に切れ刃の全域に沿って形成し、さらに、底刃とラジアス刃との間に、すきま角γ0が底刃のすきま角γ1よりも小さく、かつ、0.5°≦γ0≦2°の条件を満たす繋ぎ刃3bを形成したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1に記載のスローアウェイ式ラジアスエンドミルは、刃先交換式のラジアスエンドミルであるが、突き加工、ドリル加工、あるいは肩削り加工を可能とするために、第1のチップとして丸チップを用い、第2のチップとして円弧側面とこれに連なる直線状側面とから成るチップを用いて、この直線状側面を工具本体中心軸付近まで延ばし、かつ、中心軸付近に位置するコーナ部に面取り刃を設けた構成とされている。しかしながら、加工中にこれらのチップに作用する負荷に対してチップの位置ずれを防止する機構については開示されていない。
【0020】
特許文献2に記載の刃先交換式仕上げ用ラジアスエンドミルは、被削材の仕上げ加工において、被削材の面粗さを改善するために、インサートに形成した切れ刃の形状と工具直径との関係を特定したラジアスエンドミルであって、切削加工中にインサートに作用する加工負荷によりこのインサートの位置ずれをより確実に防止するために、インサートを取付座に装着して固定するための機構の改善については開示されていない。
【0021】
特許文献3の
図8、
図11に示されている刃先交換式のラジアスエンドミルは、インサート本体に設けた取付孔の周りに、このインサートの厚さ方向に貫通する複数の貫通部を設けてインサートの重量を軽減することにより、高速度切削を行っても工具本体に振れが発生しない構成としたものであって、高速度切削を行っても取付座に装着して固定したインサートの位置ずれを防止するための対策については、開示されていない。
【0022】
特許文献4に記載の穴あけ工具は、工具先端部に、締付けボルトを傾斜した方向から締付けて切刃チップを固定する構成にすることにより、切屑排出溝を大きく確保するようにした穴あけ専用の工具である。従って、この穴あけ工具は、金型のキャビティー等の3次元切削加工を高速で行うための工具として使用することはできない。また、特許文献4には、切刃チップに形成した挿通穴と締付けボルトの外周面との係合関係の詳細については開示されていない。
【0023】
特許文献5に記載のスローアウエイエンドミルは、ホルダ本体に形成されたチップ嵌合溝に嵌合されるチップの取付座に直交する位置に対して、周方向に所要の角度ほど傾斜した方向からクランプボルトがチップの挿通穴を挿通して両チップ挟持半体にわたってネジこまれる構成とすることにより、チップポケットを大きく取ることができるようにして切屑の排出性を良好にした刃先交換式エンドミルである。しかし、このスローアウエイエンドミルは切れ刃が2枚から構成されているので、金型を高速で切削加工するボールエンドミルとして適用することは困難である。金型等を高速で切削加工するためには、切れ刃を少なくとも4枚刃からなる構成にすることが望ましい。また、特許文献5には、チップに形成した挿通穴とクランプボルトの外周面との係合関係の詳細については開示されていない。
【0024】
特許文献6に記載の切削インサートを備えた穴ぐり工具は、穴開け専用の工具であって、金型のキャビティー等を高速で切削加工するための工具として使用することはできない。また、加工中に切削インサートの位置ずれを防止するためにクランプネジのテーパ状の外周面と切削インサートに設けた挿通穴との具体的な係合関係については記載されていない。
【0025】
特許文献7及び特許文献8に記載のラジアスエンドミルは、エンドミル本体の先端部に形成されるコーナR刃と底刃の先端刃部を立方晶窒化硼素焼結体から構成したソリッドタイプのエンドミルであって、刃先交換式のラジアスエンドミルではない。金型等の被削材を高効率、かつ高速度で切削加工を行うためには、ソリッドタイプよりも刃先交換式のエンドミルの方が優れていることは明らかである。
【0026】
一方、刃先交換式ラジアスエンドミル等において、インサートの工具本体への装着と固定は、取付座に装着したインサートを、このインサートに形成されたネジ挿通穴に固定用ネジを挿通させ、この固定用ネジを取付座と螺合させる手段が採用されている。一般的に、金型等の被削材の仕上げ加工に使用される刃先交換式工具では、摩耗したインサートを新しいインサートと交換して装着する都度、新しく装着したインサートの装着・固定状態、すなわち、工具本体の先端部に対する切れ刃の位置や切れ刃形状等を確認し、必要に応じてはインサートの固定位置を微調整することがある。従って、インサートを工具本体に装着する際において、新しいインサートを装着して固定する都度、この固定位置について高い精度を得るための改善は、インサートの位置調整時間の短縮につながることから、重要な技術課題の一つである。
【0027】
本願の発明者は、高速で、かつ高精度で金型の切削加工、特に仕上げ加工を行うための刃先交換式ラジアスエンドミルの構成、さらにインサートの構成や取付座への固定方法の改善について、種々の検討と実験を行った結果、インサートの固定用のネジ挿通穴の向き、このネジ挿通穴の内周面の面粗さと、固定用ネジの円筒部における外周面の面粗さとを適切に設定して、インサートのネジ挿通穴の内周面と固定用ネジの円筒部の外周面とを、密に係合させることが重要であるとの知見を得た。
【0028】
従って、本発明の目的は、刃先交換式ラジアスエンドミルにおいて、工具本体の先端部に第1のインサート、第2及び第3のインサートをそれぞれの取付座に装着して固定するための固定機構を改善することにより、金型等の被削材の加工を、高速、高能率、高精度に行うことを可能とし、さらにインサートを装着した1本当りの工具の寿命を長寿命とした刃先交換式ラジアスエンドミルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の請求項1に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルは、軸線回りに回転する工具本体の先端部に取付座を設け、前記取付座に切れ刃を有するインサートを着脱自在に装着可能とした刃先交換式ラジアスエンドミルであって、
前記取付座は、
前記工具本体の先端部に前記軸線を含む該工具本体の径方向に形成されたスリット状のインサート嵌合溝からなり、前記インサート嵌合溝に挿入された第1のインサートを、前記第1のインサートを貫通して形成された傾斜ネジ挿通穴に、外周面に仕上げ加工を施した外周面部を備えた第1の固定用ネジを挿通させたネジ締結により固定するための第1取付座と、
前記インサート嵌合溝により、前記工具本体の先端部に形成された先端半体部の一方と他方にそれぞれ設けられた取付座であって、第2のインサートを着脱自在に固定用ネジにより固定する第2取付座と、第3のインサートを着脱自在に固定用ネジにより固定する第3取付座と、を備え、
平板状で、平面視で略四角形状をなす前記第1のインサートは、切れ刃として、その先端面部の中央部からそれぞれの側面部に向けて形成された底刃と、前記側面部のそれぞれに形成された外周刃と、前記底刃と前記外周刃とを繋ぐコーナR刃を有し、前記傾斜ネジ挿通穴の中心線は、前記平板状の平面
に直交する方向に対して
回転方向後方側へ角度θ傾斜するとともに、その内周壁面は仕上げ加工を施した内周面部を有し、
平板状をなす前記第2及び第3のインサートは、切れ刃として、その先端面部に形成された底刃と、一方の側面部に形成された外周刃と、前記底刃と前記外周刃とを繋ぐコーナR刃を有し、
前記先端半体部は、一方の前記先端半体部の外表面から前記インサート嵌合溝内において前記軸線を介するように、他方の前記先端半体部の内部に達して形成されたネジ穴であって前記インサート嵌合溝が前記工具本体の径方向に延びる向きと直交する方向に対して、前記工具本体の回転方向とは逆方向に前記角度θ傾斜した方向に形成された第1インサート固定用ネジ穴を備え、
前記第1取付座に、前記第1のインサートを前記第1の固定用ネジによるネジ締結で固定したときには、
前記第1の固定用ネジの前記外周面部と前記傾斜ネジ挿通穴の前記内周面部とは密に係合していることを特徴としている。
【0030】
請求項2に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルは、 請求項1に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルに係り、前記第1取付座に前記第1のインサートを装着して固定し、前記第2取付座に前記第2のインサートを、さらに前記第3取付座に前記第3のインサートを装着して固定したときに、
前記軸線方向に対する前記工具本体に装着した前記インサートの最下点が、前記軸線と垂直に交わる同一平面上であって、前記第1のインサートの切れ刃に2ケ所、前記第2及び第3のインサートの切れ刃にそれぞれ1ケ所存在するようになされていることを特徴としている。
【0031】
請求項3に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルは、 請求項1又は請求項2に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルに係り、前記第1のインサートは超硬合金から構成され、
前記第2及び第3のインサートはその基体が超硬合金から構成されるとともに該第2及び第3のインサートの前記切れ刃は、前記基体に立方晶窒化硼素焼結体を含む硬質焼結体から形成された切れ刃を接合した構成からなっていることを特徴としている。
【0032】
請求項4に記載の先交換式ラジアスエンドミルは、請求項1又は請求項2に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルに係り、前記第1のインサートと前記2及び第3のインサートは、その基体が超硬合金から構成されるとともに、前記第1、前記2及び第3のインサートの前記切れ刃は、それぞれの前記基体に立方晶窒化硼素焼結体を含む硬質焼結体から形成された切れ刃を接合した構成からなっていることを特徴としている。
【0033】
請求項5に記載の先交換式ラジアスエンドミルは、請求項1に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルに係り、前記第1の固定用ネジの前記仕上げ加工を施した外周面部の表面粗さは、前記第1のインサートの前記傾斜ネジ挿通穴の前記仕上げ加工を施した前記内周面部の表面粗さより粗くされていることを特徴としている。
【0034】
請求項6に記載の先交換式ラジアスエンドミルは、請求項1に記載の刃先交換式ラジアスエンドミルに係り、前記角度θは、20°≦θ≦40°の範囲に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明の先交換式ラジアスエンドミルは、次の効果を奏することが可能になる。
(1)第1のインサートの固定用ネジ挿通穴と工具本体の第1インサート固定用ネジ穴を、工具本体の正回転方向とは逆方向に傾斜させることによって、第2、第3のインサートをネジにより装着できるスペースを充分に設けることができるので、刃先交換式ラジアスエンドミルを4枚刃とすることが可能になる。その結果として、本発明は、従来の2刃タイプの刃先交換式ラジアスエンドミルに比べ、1刃当りの負荷が半分に低減される事により、送り速度Vfを2倍にアップでき、工具寿命も約2倍に向上するなど、切削工具1本当たりの切削性能を向上することができ、平面切削加工及び立ち壁の高速切削加工において高能率、高精度、且つ、工具寿命に優れる刃先交換式ラジアスエンドミルを提供することができる。
【0036】
(2)さらに、第1のインサートを第1の固定用ネジを用いて第1取付座に装着して固定したときには、第1のインサートの傾斜ネジ挿通穴の内周面に形成した仕上げ加工を施した内周面部と第1の固定用ネジの外周面に仕上げ加工を施した外周面部とが密に係合した構成になるので、切削加工中において、第1のインサートが第1取付座から位置ズレすることを防止できる。これにより、金型などの高速切削加工において、高能率・高精度、且つ、工具寿命に優れる刃先交換式ラジアスエンドミルを提供することができる。
【0037】
(3)本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルは、工具本体の第1取付座から第3取付座に、それぞれ第1、第2、第3のインサートを装着して固定したときに、工具本体の軸線O方向に対する最下点が、軸線Oと垂直に交わる同一平面上であって、第1のインサートの切れ刃に2ケ所、第2及び第3のインサートの切れ刃に各1ケ所存在するようにしている。これにより、底刃を主体にした平面部の切削加工の制御を実施したときに、切削加工負荷に伴う振動の発生が抑制されるので、上記(2)に記載の効果に加えて第1のインサートの第1取付座に対する位置ズレをより防止することが可能になる。
【0038】
(4)本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルは、工具本体の第1取付座から第3取付座に、それぞれ第1、第2、第3のインサートを装着して固定したときに、工具本体の軸線Oを回転中心とした第1インサートの外周切れ刃の最外周点の回転軌跡が、工具径(Dc)を直径とした円をなし、この円周上に第2、第3インサートの切れ刃の最外周点が、存在するようにしている。これにより、外周刃を主体にした立ち壁の切削加工の制御を実施したときに、一刃当たりの切削負荷が均等化されることにより、振動の発生が抑制される。従って、上記(2)、(3)に記載の効果に加えて、更に振動の発生を抑制することが可能となり、好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を用いて本発明に係る刃先交換式ラジアスエンドミルの実施形態について、詳細に説明する。
【0041】
(工具本体の構成)
図1〜
図3は、本発明の一実施形態を示す刃先交換式ラジアスエンドミル1について、切れ刃となるインサートを装着していないときの工具本体2の構成を示す図である。なお、
図1は工具本体2の平面図、
図2は工具本体2をその先端部から回転中心軸O(以下、「軸線O」という)方向へみたときに、工具本体2の先端部の構成を示す側面図、
図3は
図1に示す工具本体2を、軸線Oに対して90°異なる方向からみたときに、先端部の構成を示す正面図である。
【0042】
工具本体2の一方の端部となる先端部3には、切れ刃となるインサートを装着して締め付け部材となる固定用ネジによりこのインサートを着脱自在に固定するための取付座が形成されている。工具本体2の他方の端部は、刃先交換式ラジアスエンドミル1を加工装置に取り付けるためのシャンク部となる。工具本体2は、例えば、SKD61等の合金工具鋼から製造されている。
【0043】
次に、切れ刃を備えたインサートを装着して固定するための取付座の構成について説明する。工具本体2の先端部3には、第1取付座4と、第2取付座5と、第3取付座6が形成されている。
図2及び
図3に示すように、第1取付座4は、先端部3の前面部から、軸線Oを含んでこの軸線O方向に所定の深さを有し、かつ、工具本体2の径方向に先端部3を貫くように形成されたスリット状のインサート嵌合溝7から構成されている。
【0044】
図3に示すように、第1取付座4となるインサート嵌合溝7は、所定の間隔を設けて対向するように形成した側面壁7a、7bと、底部7cを備えており、これら側面壁7aと7bは軸線Oを挟んで平行になるように、機械加工により形成されている。また、インサート嵌合溝7が軸線O方向に向かって形成された溝の中心線は、軸線Oと一致させている。この第1取付座4は、切れ刃を備えた第1のインサート12(
図5、
図7参照)をインサート嵌合溝7内に装着して、インサート嵌合溝7内に固定するための取付座になる。
なお、工具本体2の先端部3は、インサート嵌合溝7の形成により2分割された構成になり、以下の説明において、この2分割された先端部3の一方を先端半体部3a、他方を先端半体部3bとして説明する。
【0045】
図1〜
図3に示すように、先端半体部3aの外面部には第2取付座5が、先端部半体3bの外面部には第3取付座6が形成されている。第2取付座5は、切れ刃を備えた第2のインサート13(
図5、
図12参照)を装着して固定するための取付座になる。また、第3取付座6は、切れ刃を備えた第3のインサート14(
図5参照)を装着して固定するための取付座になる。第2取付座5と第3取付座6は、それぞれ第2及び第3のインサート13、14を装着するために軸線O方向に形成された着座面を備えている。なお、これら着座面には、それぞれ第2及び第3のインサート13、14を、締め付け部材となる第2及び第3の固定用ネジ15、16(
図15参照)によるネジ締結により固定するためのネジ穴10が形成されている。
【0046】
また、
図2に示すように、一方の先端半体部3aの表面部から、インサート嵌合溝7を介して他方の先端半体部3b内に向けて第1インサート固定用ネジ穴8が形成されている。第1インサート固定用ネジ穴8は、第1取付座4(インサート嵌合溝7)に装着された第1のインサート12を、第1の固定用ネジ9(
図11参照)により固定するためのネジ穴になる。なお、第1インサート固定用ネジ穴8は、一方の先端半体部3aを貫通し、インサート嵌合溝7を介して他方の先端半体部3bの内部の所定の深さまで形成され、先端半体部3b内に設けた第1インサート固定用ネジ穴8にはネジ溝が刻設されている。このネジ溝は、第1の固定用ネジ9のネジ部9e(
図11参照)とネジ嵌合するために設けたものである。
【0047】
さらに、
図2に示しているように、第1インサート固定用ネジ穴8の中心線の向き(直線O
3)は、インサート嵌合溝7が工具本体2の半径方向に向かう向きとなる直線(中心線)O
1と直交する直線O
2に対して、角度θほど傾斜させた方向に形成している。また、この角度θ、すなわち、第1インサート固定用ネジ穴8の向きO
3は、
図2に示すように、切削加工時における工具本体2(ラジアスエンドミル)の回転方向をRとしたときに、角度θほど直線O
2に対してこの回転方向Rと逆方向に傾斜させている。
本発明において、第1インサート固定用ネジ穴8の向きが、この直線O
2に対して傾斜する傾斜角度θは、20°≦θ≦40°の範囲に設定することが望ましい。なお、
図2に示す11は、先端部3に形成した切屑排出の溝である。
【0048】
(ラジアスエンドミルの構成)
図4〜
図6は、本発明の実施形態となる刃先交換式ラジアスエンドミル1の構成を説明するための図であって、
図1に示す工具本体2の第1取付座4に第1のインサート12を、第2取付座5に第2のインサート13を、第3取付座6に第3のインサート14を装着して固定したときの状態を示す図である。
【0049】
図4(
図6)に示すように、第1取付座4を構成するインサート嵌合溝7に装着された第1のインサート12は、第1の固定用ネジ9を用いたネジ締めにより固定される。また、第2取付座5に装着された第2のインサート13は、第2の固定用ネジ15を用いたネジ締めにより固定され、さらに第3取付座6に装着された第3のインサート14は、第3の固定用ネジ16を用いたネジ締めにより固定される。なお、第2の固定用ネジ15と第3の固定用ネジ16は、同一のネジとすることが望ましい。
【0050】
なお、
図5に示す例では、第2のインサート13と第3のインサート14は、軸線Oに対して対称となるそれぞれの先端半体部3aと3bに設けた取付座5、6に固定した例を示しているが、第2及び第3のインサート13、14を、必ずしも軸線Oに対して対称となる位置に固定する必要はない。この場合には、先端半体部3a、3bに形成する第2取付座5と第3取付座6の位置とその形状などを適切に設定するようにする。
【0051】
(第1のインサートの構成)
続いて、第1のインサート12の構成を、
図7〜
図9を参照して説明する。
図7は第1のインサート12について上面部の構成を示す図、
図8は
図7に示す第1のインサート12について、紙面の左側(切れ刃方向)から見たときの構成を示す側面図、
図9は
図7に示すA−A線における断面の形状を示す図である。
【0052】
第1のインサート12の形状は、所定の厚さを有する平板状をなし、平面視で横方向の長さをX、縦方向の長さをYとした略四角形状をなし、その材質は超硬合金製である。第1のインサート12の上面部12aと下面部12bに囲まれた前面部には、切れ刃となる底刃12cと12dが形成され、前面部の周辺部には曲率半径r1をなすコーナR刃12eと12fが形成され、2つの側面部には外周刃12gと12hが形成されている。なお、底刃12cと12dは、それぞれコーナR刃12e、12fの端部から軸線O方向に向かって形成されるとともに、さらに、後面部12i方向に、軸線Oと直交する面に対して角度αで傾斜するように形成されている。この傾斜角度αは、10°〜20°の範囲に設定する。
【0053】
第1のインサート12においては、その側面部の前面部側から後面部側に向けて形成された外周刃12gと、第1のインサート12の前面部に形成された底刃12cとは、曲率半径r1をなすコーナR刃12eにより繋がれており、これら底刃12c、コーナR刃12e、外周刃12gは、第1のインサート12において、一つの切れ刃を構成する。なお、この切れ刃は、コーナR刃12eの一方の端部が底刃12cの端部に繋がり、コーナR刃12eの他方の端部が外周刃12gの端部と繋がるように構成されている。同様に、外周刃12hと底刃12dとコーナR刃12fについても、コーナR刃12fの一方の端部が底刃12dの端部に繋がり、コーナR刃12fの他方の端部が外周刃12hの端部と繋がるように構成されて、一つの切れ刃を構成している。
【0054】
このように、第1のインサート12は、2つ(2枚)の切れ刃を備えていることになる。そして、第1のインサート12を第1取付座4(インサート嵌合溝7)に装着して、その上面部12aと下面部12bを、対応するインサート嵌合溝7の側面壁7a、7bに当接させた状態で固定したときには、第1のインサート12の底刃12cと12d、コーナR刃12eと12f、外周刃12gと12hは工具本体2の先端部3及び外側部から所定の長さほど突出させるようにする。なお、外周刃12gと外周刃12hは、
図7に示す軸線Oと平行になるように形成するか、あるいは軸線O方向(底刃12c(12d)方向)に所定の角度傾斜させたテーパ形状とした切刃を備えているようにしてもよい。
【0055】
なお、
図7に示す第1のインサート12の後端部12iは、例えば、直線状の平面をなす面(直線状平面部)であって、第1のインサート12を第1取付座4に装着したときに、インサート嵌合溝7の底部7cに当接させる部分になる。このため、直線状平面部12iには仕上げ加工を施しておくようにすることが望ましい。また、直線状平面部12iの他の実施形態としては、第1のインサート12をインサート嵌合溝7の底部7cに位置合わせするために、例えば平面視でV字状など凸形状をなすようにし、インサート嵌合溝7の底部7cを凹形状としてもよい。
【0056】
図7に示すように、第1のインサート12は、上面部12aから下面部12bに向けて傾斜して貫通する傾斜ネジ挿通穴12jを備えている。さらに、傾斜ネジ挿通穴12jの内周面には仕上げ加工を施した内周面部12kを形成している。
なお、
図7に示す12pはすくい面であって、上面部12a(下面部12b)に対してその高さを若干低くした平面状をなしている。また、
図7に示す直線O
4は、平面視において第1のインサート12の高さYを2等分する直線であって、第1のインサート12を第1取付座4に装着して固定したときに軸線Oと一致する直線である。2つの底刃12c、12dのそれぞれの一方の端部は、この直線O
4、又は直線O
4の近傍まで形成され、かつ、2つの底刃12c、12dは直線O
4に向かって角度αの中低勾配をなすように形成されている。
【0057】
なお、
図7に示すS1とS2は、第1のインサート12を工具本体2の第1取付座4に装着して固定したときに、工具本体2の最下点となる位置を示している。この最下点S1の位置は、コーナR刃12eと底刃12cとの繋ぎ部(接続部)、またはコーナR刃12eの切れ刃稜線上であってこの繋ぎ部の近傍になるように、第1のインサート12の形状及び第1取付座4の着座面の構造を適切に設計する。また、最下点S2の位置も、同様に、コーナR刃12fと底刃12dとの繋ぎ部(接続部)、またはコーナR刃12fの切れ刃稜線上であってこの繋ぎ部の近傍になるようにする。この最下点S1とS2は、第1のインサート12を第1取付座4に装着して固定したときに、軸線O(O
4)と直交する平面上に位置するようにする。
【0058】
図7に示すG1は、コーナR刃12eと外周刃12gとの繋ぎ部に位置する最外周点G1を示す。また、G2はコーナR刃12fと外周刃12hの繋ぎ部に位置する最外周点G2を示す。このように、第1のインサート12を工具本体2の第1取付座4に装着して固定したときには、工具本体2における2つの最下点S1、S2と2つの最外周点G1、G2が第1のインサート12の切れ刃上に生じることになる。
【0059】
続いて、本発明のラジアスエンドミルに装着する第1のインサート12が備えている傾斜ネジ挿通穴12jの構成について説明する。
図7に示す第1のインサート12のA−A線(傾斜ネジ挿通穴12jの中心線を通り直線O
4と直交する平面)の断面の状態を示す
図9において、傾斜ネジ挿通穴12jの向き、すなわち、傾斜ネジ挿通穴12jの中心線を通る直線O
8の向きは、第1のインサート12の断面の中心線O
7に対して角度δほど傾斜させている。なお、
図9に示す直線O
7は、第1のインサート12の上面部12a(又は下面部12b)に対して直交する直線を示す。そして、傾斜ネジ挿通穴12jの内周面が直線O
8に沿う向きも、角度δほど傾斜した方向に設けるとともに、傾斜ネジ挿通穴12jの内周面には仕上げ加工を施した内周面部12kを形成している。なお、角度δは、前記した角度θ、すなわち第1インサート固定用ネジ穴8の向きO
3の傾斜角度と同じ角度、すなわち、20°≦δ≦40°内の適切な角度に設定する。
【0060】
第1のインサート12が備えている傾斜ネジ挿通穴12jの構成の詳細を、
図10(a)、(b)に基づいて説明すると次のようになる。
【0061】
超硬合金製の第1のインサート12は、後述するように、炭化タングステン粒子、コバルト粒子と必要に応じて添加物を加えて作製した混合造粒粉末を用いてプレス(又は金型)成形することにより、傾斜ネジ挿通穴12jを有する第1のインサート12の成形体を製造することができる。
図10(a)は、上記した粉末のプレス成形により成形した第1のインサート12の成形体の素材を、焼結した後の断面形状を示している。この焼結した成形体は、厚さtを有している。粉末のプレス成形においては、金型のキャビティーの形状を適切に設計することにより、上記した角度δほど傾斜し、長さL(焼結後の長さ)を有する傾斜ネジ挿通穴12jを備えた第1のインサート12を成形することができる。
【0062】
このプレス成形においては、
図10(a)に示すように、傾斜ネジ挿通穴12jとして、その中央部には長さL1にわたって内径D0の内周面部12mを、さらにこの内周面部12mの両端部には内径D0より大きい内径D1を有し、傾斜ネジ挿通穴12jの方向(直線O
8)に所定の長さの内周面部12nを備えた成形体を、焼結後には各部の長さが20%から30%収縮することを見込んで予め大き目の寸法で成形する。なお、
図10(a)、
図10(b)に示すL、L1、D0、D1、D2及び厚さtは、便宜上、粉末のプレス成形により成形した第1のインサート12の成形体の素材を、焼結した後の寸法を示している。
【0063】
そして、この成形体を焼結した後に、長さL1の内周面部12mの全面に仕上げ加工を施して、
図10(b)に示すように仕上げ加工を施した内周面部12kを形成する。なお、
図10(b)に示すD2は、上記した仕上げ加工を施した後の仕上げ内周面部12kの内径を示している。以下の説明において、内周面部12mに仕上げ加工を行った仕上げ内周面部12kのことを単に「内周面部19k」と記載する場合がある。
【0064】
上記したように、本発明のラジアスエンドミル1は、第1のインサート12を第1取付座4(インサート嵌合溝7)に装着して第1の固定用ネジ9により固定したときに、第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴19と工具本体2に設けた第1インサート固定用ネジ穴8の向きは、ともに、インサート嵌合溝7が工具本体2の半径方向に向かう直線O
1と直交する直線O
2に対して、工具本体2の回転方向Rとは逆方向に角度θ(δ)(角度θは、20°〜40°)傾斜させた方向になるように構成している。この構成は、本発明の特徴の一つ(以下、「第1の特徴」という)となるものである。
【0065】
この第1の特徴により、第2及び第3のインサート13、14を、それぞれ第2及び第3取付座5、6に装着して、第2及び第3の固定ネジ15、16により、安定した状態で固定するためのスペース、すなわち、工具本体2の先端半体部3a、3bに、第2及び第3取付座5、6と、第2及び第3の固定ネジ15、16をねじ込むためのネジ穴を設けるスペースを十分に確保することができるようになり、第2及び第3取付座5、6にそれぞれ第2及び第3のインサート13、14を安定した状態で強固に固定することが可能になる。
【0066】
さらに、この第1の特徴により、刃先交換式ラジアスエンドミル1は、2つ(2枚)の切れ刃を有する第1のインサート12と、それぞれ1枚の切れ刃を有する第2及び第3のインサート13、14を備えた、いわゆる4枚刃を備えた刃先交換式ラジアスエンドミルとすることができるので、2枚刃からなる刃先交換式ラジアスエンドミルと比較して高速度の切削加工が可能になるという効果が生じる。
【0067】
上記したように、第2及び第3のインサート13、14を、それぞれ第2、及び第3の固定ネジ15、16により第2及び第3取付座に装着して固定するための十分なスペースを確保して、4枚刃からなる刃先交換式ラジアスエンドミルの構成にするためには、角度θ(δ)は、20°≦θ(δ)≦40°の範囲に設定することが望ましい。この理由は、工具径(Dc)が20mm〜30mm程度の工具本体において、θ(δ)を20°≦θ(δ)≦40°の範囲に設定すると、第2及び第3のインサート13、14をそれぞれ第2及び第3取付座に、第2、及び第3の固定ネジ15、16により安定した状態で固定するためのスペースを十分に確保することができるからである。
【0068】
(第1のインサートの製造方法)
続いて、第1のインサート12の製造方法について説明する。超硬合金製の第1のインサート12は、例えば、次の手順(1)〜(5)により製造することができる。
【0069】
(1)炭化タングステン粒子、コバルト粒子と必要に応じて添加物を加えて作製した混合造粒粉末を用いて、金型を用いた金型成形により、第1のインサート12の成形体を成形する。なお、前記したように、この金型成形時に、
図10(a)に示すように、中央部に内径D0を有する長さL1の内周面部12mと、両端部に内径D1と所定の長さを有する内周面部12nを備えた傾斜ネジ挿通穴12jを、粉末冶金法による焼結後の20%から30%収縮することを踏まえて大きくし、さらに内周面部12mの研削代として0.05mm〜0.3mmを加味し、形成するようにする。
【0070】
(2)続いて、上記(1)により成形した第1のインサート12の成形体を所定の温度(1300℃から1400℃程度)に加熱した加熱炉に装入して焼結を行う。
【0071】
(3)続いて、
図10(a)及び(b)に示すように、傾斜ネジ挿通穴12jの中央部の長さL1の内周面部12mに、その研削代0.05mm〜0.3mmついた内周面の全面に、ダイヤモンド(又はCBN)砥粒を有する砥石を用いた研削加工、バフ研磨加工、あるいはホーニング加工のいずれか又は併用した仕上げ加工を施して、内径D2を有する内周面部12kを形成する。なお、この仕上げ加工においては、砥粒の材質、粒度、及び加工処理時間を適切に設定することによって、仕上げ内周面部12kの面粗さRza値(十点平均粗さ)を1.0μm以下になるようにする。
【0072】
(4)さらに、焼結した第1のインサート12に形成されている切れ刃(底刃12cと12d、コーナR刃12eと12f、外周刃12gと12h)ついて、ダイヤモンド(又はCBN)砥粒を有する研削砥石を用いて仕上げ加工を行う。また、直線状平面部12iにも仕上げ加工を施す。
【0073】
(5)続いて、第1のインサート12について、傾斜ネジ挿通穴12jを除いた表面に、耐摩耗性と耐熱性を付与するための被膜をコーティングする。この被膜の材質は、例えば、Ti−Al系窒化物、Ti−Si系窒化物、Ti−B系窒化物などの被膜をPVD法により形成する。なお、仕上げ加工が完了した第1のインサート12の内周面部12kの内径D2は、例えば、ラジアスエンドミルの工具径(Dc)が20mmの場合には3.5mm、工具径(Dc)が30mmの場合には5.0mmを目標として設定するようにする。
【0074】
(第1の固定用ネジの構成)
続いて、第1の固定用ネジ9の構成について説明する。第1の固定用ネジ9は、第1取付座4となるインサート嵌合溝7に装着された第1のインサート12を、第1取付座4にネジ締結により固定するための締め付け部材である。第1のインサート12を第1取付座4に固定したときには、第1の固定用ネジ9が第1のインサート12に設けた傾斜ネジ挿通穴12j内に挿入される部分(
図11に示す外周面部9c)は、傾斜ネジ挿通穴12j内の内周面部12kと密に係合する。このように、本発明の刃先交換式ラジアスエンドミル1においては、第1のインサート12を第1取付座4に固定したときに、傾斜ネジ挿通穴12jの内周面部12kと第1の固定用ネジ9の外周面部9cの全面とが密に係合するような構成にしたことにも特徴(以下、「第2の特徴」という)がある。
【0075】
この第2の特徴により、高速度の切削加工を行ったときに、主切れ刃となる第1のインサート12に大きな切削加工負荷が作用しても、第1取付座4に固定された第1のインサート12が第1取付座4からの位置ずれを防止することが可能になり、被削材を高速度で、かつ高精度で切削加工を行うことが可能になる。
【0076】
図11は、第1の固定用ネジ9の正面図を示している。第1の固定用ネジ9は、その上端部にネジ頭部9aが形成され、ネジ頭部9aから下方に向かって、第1円筒部9b、仕上げ加工を施した外周面部9c、第2円筒部9d、下端部には外周面にネジ溝(ネジ山)を刻設した所定の長さを有するネジ部9eを備えている。
【0077】
本発明のラジアスエンドミル1においては、第1のインサート12を第1取付座4に装着して第1の固定用ネジ9により固定したときには、前記したように、この第1の固定用ネジ9の仕上げ加工を施した外周面部9cが、第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴12jに形成した内周面部12kと密に係合することになる。
【0078】
従って、第1の固定用ネジ9の軸線方向に設ける第1円筒部9b、第2円筒部9d、ネジ部9eの長さは、第1のインサート12を第1の固定用ネジ9により固定したときに、その外周面部9cが第1のインサート12の内周面部12kと係合するように適切に設定するとともに、仕上げ加工を施した外周面部9cの長さは、内周面部12kの長さL1より若干長くして、両者が密に係合したときには、内周面部12kの全面が外周面部9cに密に係合させるようにする。このように、内周面部12kの全面が外周面部9cに密に係合させることにより、切削加工中に第1のインサート12にかかる切削加工負荷により、第1のインサート12が第1取付座4からの位置ずれをより防止することが可能になる。
なお、以下の説明において、仕上げ加工を施した第1の固定用ネジ9の外周面部9cのことを単に「外周面部9c」と記載して説明する場合がある。
【0079】
第1の固定用ネジ9の外周面部9cの仕上げ加工は、前記した第1のインサート12の内周面部12kに仕上げ加工を施した方法と同様の技術、例えば、ダイヤモンド(又はCBN)砥粒を有する円筒型の研削砥石を用いて仕上げ加工を施すことができる。そして、仕上げ加工を施したときには、外周面部9cの表面粗さを(Rzb)としたときに、この表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で1.5μm〜3.5μm程度の仕上げ加工面を有するようにして、前記した第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴12jに形成した内周面部12kの表面粗さ(Rza)であるRz=1.0μm以下より粗くなるようにする。
【0080】
本発明のラジアスエンドミル1において、第1の固定用ネジ9の外周面部9cの表面粗さを、第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴12jに形成した内周面部12kの表面粗さより粗くする理由は、下記の通りである。
【0081】
第1の理由は、両者の表面粗さを異にすることにより、第1取付座4に第1のインサート12を第1の固定用ネジ9で固定するときに、傾斜ネジ挿通穴12jへの第1の固定用ネジ9の挿通操作と、ネジ締付けにより接触する両者の摩擦力を下げることができる。しかしながら、鋼製の第1の固定用ネジ9の外周面部9cに高品位に研削加工やラップ加工を行ってその表面粗さを低くするとコスト高になるという不具合が生じる。
【0082】
このため、第2の理由としては、この第1の固定用ネジ9の外周面部9cは適度な表面粗さを有するように研削加工を施した仕上げ加工面とし、超硬合金製の第1のインサート12の内周面部12kは高品位に研削加工やラップ加工を施すことにより、摩耗し難い超硬合金製の第1のインサート12に表面粗さの精度基準をおいた方が、日々の加工精度の管理を行い易くなるからである。
また、切れ刃が摩耗した第1のインサート12は、摩耗した切れ刃の部分を再研磨して再使用することも可能になるので、第1のインサート12の内周面部12kを高品位に仕上げ加工を施した方が第1のインサート12のコスト低減に貢献することができるからである。
【0083】
(第1の固定用ネジの製造方法)
第1の固定用ネジ9の製造は、例えば、次の方法により製造することができる。SKD61等の合金工具鋼製の棒材(線材)から、プレス加工、旋盤加工により外周面部9c、ネジ部9e等を形成した後に、ダイヤモンド(又はCBN)砥粒を有する砥石を用いた機械研磨加工等により、外周面部9cの全外周面に仕上げ加工を施す。なお、外周面部9cの外径(d2)は、第1のインサート12の内周面部12kの内径より3μm〜10μm程度と僅かに小さくする。これにより、第1のインサート12の内周面部12kに第1の固定用ネジ9の外周面部9cが挿入されたときに、両者は密に係合することになる。
【0084】
(第2のインサートの構成)
続いて、第2取付座5に着脱自在に装着して固定される第2のインサート13の構成について説明する。
図12は第2のインサート13について上面部の構成を示す平面図、
図13は
図12に示す第2のインサート13を紙面の左側(底刃側)から見たときの図、
図14は
図12に示す第2のインサート13を外周刃方向から見たときの図である。
【0085】
図12〜
図14に示すように、第2のインサート13の形状は、所定の厚さを有する平板状をなし、平面視で略四角形状、または多角形状をなし、その基体は超硬合金からなっている。第2のインサート13の上面部13aと下面部13bとの間の側面部であってその前面部には切れ刃となる直線状の底刃13cが、前面部の外側端部にはR形状をなすコーナR刃13eが、外面部には外周刃13gが形成されている。コーナR刃13eは、平面視で曲率半径r1のR形状をなす切れ刃を有している。
なお、曲率半径r1の値は、第1のインサート12のコーナR刃12e(12f)と同じ曲率半径r1としている。そして、外周刃13gと底刃13cとは、コーナR刃13eのそれぞれの端部に繋がれている。従って、第2のインサート13は、底刃13cとコーナR刃13eと外周刃13gからなる一つ(1枚)の切れ刃を有するインサートとして構成されている。
【0086】
なお、
図12に示すように、平面視において底刃13cは、コーナR刃13eの端部から第2のネジ挿通穴13jの方向に角度αをなすように傾斜するように形成されている。この傾斜角度αは、10°〜20°程度の範囲に設定する。
【0087】
さらに、第2のインサート13は、上面部13aから下面部13bまで貫通して形成された第2のネジ挿通穴13jを備えている。第2のネジ挿通穴13jは、第2取付座5にこの第2のインサート13を装着して固定するときに、第2の固定用ネジ15を挿通させるための挿通穴である。なお、第2のネジ挿通穴13jの中心線の向きは、下面部13bに対して直交する方向に形成され、下面部13bが第2取付座5の着座面に固定される部分になる。
【0088】
さらに、工具径(Dc)が40mmより小さくなる場合の望ましい例として、第2のネジ挿通穴13jの中心線の向きは、下面部13bに対して傾斜した方が望ましい。このときの傾斜は、工具本体2の回転方向Rとは逆方向、10度以内の角度で傾斜させたることが好ましい。この理由は、工具本体に固定した場合の固定ネジ15のネジ部15cと第2取付座5設けた雌ネジ部との螺合する有効ネジ山数が増やせるからである。
また、
図12に示す13pは第2のインサート13のすくい面であって、上面部13aに対してその高さを若干低くした平面状をなしている。
【0089】
上記したように、第2のインサート13の基体は、超硬合金製の部材から構成し、切れ刃となる底刃13c、コーナR刃13e、外周刃13gも、超硬合金製の基体と一体に金型成形等により成形することができる。
【0090】
また、本発明において、第2のインサート13は、その基体を金型成形等により作製した超硬合金製とし、この基体の上面部13aと下面部13bとがなす側面部に、硬質焼結体製の切れ刃となる底刃13c、コーナR刃13e、外周刃13gをロウ付けにより接合して、
図12に示すような構成からなる第2のインサート13を装着することが望ましい。なお、この硬質焼結体としては、立方晶窒化硼素焼結体(CBN)を質量比で95%程度含む部材を用いることが好ましい。
【0091】
このように、本発明において、第2のインサート13の切れ刃となる底刃13cと、コーナR刃13eと、外周刃13gを立方晶窒化硼素焼結体を含む硬質焼結体から構成すると、全体を超硬合金製としたインサートと比較して、高速度の切削加工を行うためのインサートとして、より耐摩耗性と耐熱性を発揮させることが可能になる。
【0092】
本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルにおいて、第3取付座6に装着する第3のインサート14は、上記した第2のインサート13と同一の構成にすることができるので、第3のインサート14の構成及についての説明は省略する。
なお、第2及び第3のインサート13、14に形成する外周刃13g、14g(
図6参照)は、第2取付座5、第3取付座6に装着したときに、軸線Oと平行になるように形成するか、あるいは軸線O方向(底刃13c(14c)方向)に、所定の角度傾斜させたテーパ形状とした切刃を備えているようにしてもよい。
【0093】
第2のインサート13を第2取付座5に装着して固定したときには、第2のインサート13のコーナR刃13eが工具本体2の先端部3の外周側に位置するように配置するとともに、第2のインサート13の底刃13cを工具本体2の先端部3から軸線O方向に所定の長さほど突出させ、外周刃13gを先端部3の端部から工具本体2の外周方向に所定の長さほど突出させるようにする。
さらに、第2のインサート13を第2取付座5に装着して固定したときには、
図5又は
図6に示すように、第2のインサート13(
図6では第3のインサート14)の底刃13c(
図6では第3のインサート14の底刃14c)は、軸線O上に位置しないようにする。第3のインサート14を第3取付座6に装着して固定したときも、上記第2のインサート13と同様な配置になる。
【0094】
図6に示すS3は、第2のインサート13を第2取付座5に装着して固定したときに、工具本体2の最下点となる位置を示し、G3は最外周点を示している。この最下点S3の位置は、コーナR刃13eと底刃13cとの繋ぎ部(接続部)、またはコーナR刃13eの切れ刃稜線上であってこの繋ぎ部の近傍になるようにし、最外周点G3はコーナR刃13eと外周刃13gとの繋ぎ部に位置するように、第2のインサート13の形状及び第2取付座5の着座面の構造を適切に設計する。
【0095】
同様に、第3のインサート14を第3取付座6に装着して固定したときに、工具本体2の最下点となるS4と最外周点となるG4が、第3のインサート14の切れ刃上に生じるようにする。この最下点S4の位置は、第3のインサート14のコーナR刃14eと底刃14cとの繋ぎ部(接続部)、またはコーナR刃14eの切れ刃稜線上であってこの繋ぎ部の近傍になるようにし、最外周点G4は、コーナR刃14eと外周刃14gの繋ぎ部に位置するようにする。
【0096】
そして、本発明においては、工具本体2の第1取付座4に第1のインサート12を、第2取付座5に第2のインサート13を、第3取付座6に第3のインサート14を装着して固定したときには、前記した4つの最下点S1、S2、S3及びS4は、軸線Oと直交する平面であって同一の平面上に位置するようにしている。
【0097】
また、工具本体2の第1取付座4から第3取付座6に、それぞれ第1、第2、第3のインサート12、13、14を装着して固定したときに、工具本体2の軸線Oを回転中心とした第1インサート12の外周刃12g、12h上の最外周点G1、G2の回転軌跡が、工具径(Dc)を直径とした円をなし、この回転軌跡の円周上に、第2、第3インサート13、14の外周刃13g、14g上の最外周点G3、G4が、存在するようにしている。ただし、最外周点G3、G4は、回転軸方向に±20μmの位置振れがあってもよい。なお、外周刃12g、12h、及び外周刃13g、14gを前記したようにテーパ形状をなすように形成すると、工具本体2の各インサート12、13、14を装着したときには、これらの最外周点G1、G2、G3、G4は、工具本体2の最外周点に位置することになる。
【0098】
本発明において、上記したように、工具本体2に第1のインサート12、第2のインサート13、第3のインサート14を装着して固定したときに、4つの最下点S1、S2、S3及びS4が軸線Oと直交する同一の平面上に位置する構成としていることにより、次の効果を発揮させることが可能になる。
【0099】
(1)被削材について平面加工を行うときに、被削材の表面に同時に接触した状態で切削加工を開始することが可能になるので、切削加工に伴って発生するビビリ振動の発生を防止することができ、仕上げ加工面の精度向上を得ることができるようになる。
(2)第1のインサート12、第2のインサート13及び第3のインサート14が備えている切れ刃、特に底刃、コーナR刃の切削加工において従来の2刃タイプに比べ本発明は、1刃当りの負荷が半分に低減される事により、送り速度Vfを2倍にアップできたり、工具寿命も約2倍に向上するなど、切れ刃の摩耗も減り、長時間にわたって仕上げ加工面の精度を維持することができるようになる。これにより、本発明は、長寿命化を可能とした刃先交換式ラジアスエンドミルを提供することができるようになる。
【0100】
第2のインサート13を構成する超硬合金からなる基体の製造方法は、前記した超硬合金製の第1のインサート12の製造方法とほぼ同一であるが、ネジ挿通穴13jの内周面には仕上げ加工を施した仕上げ内周面部を必ずしも設ける必要はない。
【0101】
なお、超硬合金からなる基体に、立方晶窒化硼素焼結体を含む硬質焼結体からなる切れ刃(底刃13c、コーナR刃13e、外周刃13g)をロウ付けした第2のインサート13を製造する方法は、例えば、下記の第1から第4の工程により製造することができる。第3のインサート14の製造も下記と同様の製造工程により製造することができる。
【0102】
(第1の工程)
超硬合金製の基体からなる第2のインサート13の刃部に相当する箇所(基体の上面部13aと下面部13bとがなす側面部)に、予め、切り欠き部を作製しておく。この切り欠き部は、超硬合金製の基体の金型成形時に作成しておくこともできる。なお、金型成形により成形した成形体を焼結した後に、この切り欠き部に立方晶窒化硼素焼結体からなる切れ刃を固着するため、この切り欠き部の焼き肌面の表面にダイヤモンド(又はCBN)砥粒を有する砥石などで仕上げ加工面を形成しておくことが好ましい。
【0103】
(第2の工程)
底刃13c、コーナR刃13e、外周刃13gが連続した切れ刃をなすように予め所定の形状に成形された立方晶窒化硼素焼結体から、ワイーヤーカットによって、底刃13cとコーナR刃13eと外周刃13gとが連続した刃部を、1枚ずつ切り出す。
【0104】
(第3の工程)
前記した第1の工程で作製した超硬合金製の基体の切り欠き部に、第2の工程で作製した立方晶窒化硼素焼結体からなる刃部を、ロウ材を用い接着し、熱処理を行って両者を強固に固着する。
【0105】
(第4の工程)
続いて、最終工程として、ダイヤモンド砥石により、超硬合金製の基体に接着した刃部に仕上げ研削加工等を施す。
このような製造工程により、1枚の切れ刃として、底刃13c、コーナR刃13e及び外周刃13gを備えた第2のインサート13を製造することができる。
【0106】
なお、本発明において上記した第1のインサート12についても、その切れ刃を構成する底刃12c、12d、コーナR刃12e、12f、外周刃12g、12hを、立方晶窒化硼素焼結体(CBN)を含む硬質焼結体からなる切れ刃として、超硬合金製の基体にロウ材を用いて熱処理により固着した構成としてもよい。このように第1のインサート12の切れ刃をCBN製の切れ刃を備えたインサートとすることにより、主切れ刃となる第1のインサート12を装着した刃先交換式ラジアスエンドミルの工具寿命をより増大させることが可能になる。
【0107】
(第2の固定用ネジの構成)
第2の固定用ネジ15の構成を
図15に示している。第2の固定用ネジ15は、ネジ頭部15aと、円筒部15bと、ネジ部15cを備えている。第2のインサート13を、第2取付座5に装着して、この第2の固定用ネジ15の締付けにより固定したときには、第2の固定用ネジ15は第2のネジ挿通穴13jを挿通し、ネジ部15cは第2取付座5に設けたネジ穴にネジ込まれる。これにより、第2のインサート13は、第2取付座5に強固に固定される。第3のインサート14を第3取付座6に固定する機構も、上記した第2のインサート13と同様である。
【0108】
なお、第2及び第3の固定用ネジ15は同一とすることができるので、その製造方法は、前記した第1の固定用ネジ9と同様に、SKD61等の合金工具鋼製の棒材(線材)から、プレス加工、ネジ加工等の機械加工を用いて製造することができる。
【0109】
(工具本体へのインサートの装着と固定)
続いて、工具本体2に第1、第2、第3のインサートを装着する操作の手順の概要について説明する。この操作手順は、例えば、次の手順により行うことができる。
【0110】
(操作手順1)
第1のインサート12を工具本体2の先端部3に設けた第1取付座4(インサート嵌合溝7)に挿入し、第1の固定用ネジ9を用いて仮止めを行う(所定締め付けトルクの7割の値)。
【0111】
(操作手順2)
第2のインサート13を工具本体2の先端部3に設けた第2取付座5に合わせて、第2の固定用ネジ15を用いて仮止めを行う(所定締め付けトルクの7割の値)。
【0112】
(操作手順3)
第3のインサート14を工具本体2の先端部3に設けた第3取付座6に合わせて、第3の固定用ネジ16を用いて仮止めを行う(所定締め付けトルクの7割の値)。
【0113】
(操作手順4)
先に仮止めした第1、第2、第3のインサート12、13、14について、これらの位置決め精度、すなわち、これらの切れ刃が先端部3から突出する長さが予め設定した所定の値になっているか否かを確認した後、上記した各固定用ネジ9、15、16を所定のトルク値まで増し締めを行って、各取付座に固定する。これにより、
図4〜
図6に示すように、工具本体2の取付座4、5及び6に、それぞれ第1、第2及び第3のインサート12、13、14を装着して固定することができる。
【実施例】
【0114】
続いて、上記した構成を備えている本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルについて、その性能を試験した実験例とその結果について説明する。
【0115】
(実験例1)
[第1のインサートの取付座への固定精度]
刃先交換式ラジアスエンドミルに装着されているインサートは、切削加工時間が多くなるにつれて切れ刃が摩耗し、切削精度が低下する。このため、例えば、切削加工時間の累計値が所定の時間に達すると、所定の切削加工精度が得られなくなる前に、これまで使用したインサートに代えて新しいインサートを工具本体の取付座に装着して固定した後に、切削加工を再開する。
【0116】
このインサートを工具本体の取付座に再装着(初回の装着も含む)する操作においては、新規なインサートを含む各インサートの切れ刃が、工具本体2の先端部3において所定の位置、すなわち、軸線方向(A方向)と半径方向(R方向)との両方向で、予め設定した位置に高精度に位置決めされるように、インサートを取付座に固定する必要がある。特に、軸線方向の位置精度に係る、4つの最下点S1、S2、S3、S4が軸線Oと直交する同一の平面上に位置するように、第1〜第3のインサート12、13、14をそれぞれ第1取付座4、第2取付座5、第3取付座6に装着して固定する必要がある。
また半径方向の位置精度に係る切れ刃の最外周点についても、立ち壁のような傾斜面加工において、高い精度が要求される。
インサートの切れ刃の位置決め位置に誤差が生じると、インサートを再装着する都度、切削加工の加工精度が低下して段差等が発生するからである。特に、金型などの仕上げ切削加工においては、この切れ刃の位置決めについて特に高い精度が要求される。
【0117】
この実験例1においては、本発明に係る刃先交換式ラジアスエンドミルを試作して、第1のインサート12を、繰り返して工具本体2の第1取付座4に固定したときに、第1のインサート12の切れ刃についてその固定位置の精度を確認する試験を行った。
【0118】
この第1のインサートの固定精度の確認試験を実施するために、
図1(
図2)に示す工具径(Dc)が30mmの工具本体2と、この工具本体2の第1取付座4に装着する第1のインサート12を4種、この第1取付座4に装着した第1のインサート12を固定するための第1の固定用ネジ9を3種作製した。そして、製作した計12の試料について、第1のインサートを第1取付座4に装着したときの固定精度を確認する試験を行った。
【0119】
この第1のインサートの固定精度を確認する試験は、次の手順に基づいて実施した。すなわち、作製した第1のインサート12を第1取付座4に装着して第1の固定用ネジ9で固定したときに、第1のインサート12の第1取付座4に対する固定位置を、5回繰り返して測定した。なお、この「繰返し」とは、同一の第1のインサート12と第1の固定用ネジ9とについて、第1取付座4への「装着と取り外し(着脱)」を5回繰り返して行ったことを示す。
【0120】
なお、上記した第1のインサート12の切れ刃について、その固定位置の精度の確認方法は、工具本体2を、円錐面を有した専用スリーブ治具にセットし、基準となる水平なステージに対して垂直に載置して、CCDカメラを搭載した画像処理装置を用いて、切れ刃位置の座標を測定する方法を採用した。測定したデータは、切れ刃の最下点の座標、および最外周点の座標を測定した。測定装置としては、例えば、大阪工機株式会社製の工具刃先検査装置等で行うことができる。
また、作製した第1のインサート12の内周面部12kの面粗さ(Rza)と、第1の固定用ネジ9の外周面部9cの面粗さ(Rzb)については、予め面粗さ測定装置によって測定した。
【0121】
また、この第1のインサート12の固定位置の精度確認の試験は、次の要領で実施した。その固定位置の精度の評価は、初回に、第1のインサート12を第1取付座4に装着したときに、工具本体における2つの最下点S1、S2の位置が軸線Oと直交する同一の平面上に存在するように調整し、この初回における最下点S1、S2の位置を、第1のインサート12の固定位置の精度評価を行うための基準値「0」とし、この最下点S1、S2の位置を測定した。
【0122】
ここで、上記精度評価を行うための基準値「0」とは、インサートの切れ刃の最下点S1、S2における座標を、夫々基準となるゼロポイントに設定したということであり、最下点S1の座標を(S1
A0、S1
R0)、最下点S2の座標を(S2
A0、S2
R0)とした。なお、上記各座標を示す(S1
A0、S1
R0)等において、それぞれの下付文字「A」は軸線方向、下付文字「R」は半径方向を示す。最下点S1、S2の位置が軸線と直交する同一の平面上に存在するように調整することにより、S1
A0とS2
A0とを同一又はほぼ同じ値にした。
【0123】
続いて、このインサート12を一度取り外し、再度このインサート12を第1の固定用ネジ9を用いて第1取付座4に固定したときの最下点S1、S2の位置の座標を測定し、初回に測定したそれぞれの最下点S1、S2の位置との差(固定位置の精度Fp
A)を求めた。軸線方向の位置精度に係るFp
Aは、再測定した最下点S1を(S1
A1、S1
R1)、最下点S2を(S2
A1、S2
R1)としたとき、軸線方向の成分の差、(S1
A0−S1
A1)、(S2
A0−S2
A1)、・・・によって求めた。この操作を4回繰り返した。また、これと同時に上記と同様な要領で、半径方向の位置精度に係るFp
Rも測定した。このFp
Rの測定は、インサートの切れ刃の最外周点G1、G2の座標をそれぞれ(G1
A0、G1
RO)、(G2
A0、G2
R0)、・・・として求め、半径方向の成分の差を、(G1
R0−G1
R1)、(G2
R0−G2
R1)、・・・によって求めて各回の測定時のFp
R値とした。
【0124】
上記した「最下点S1、S2の位置」とは、2つの最下点S1及びS2が工具本体2に装着したインサートの切れ刃の先端部であって、回転軸線方向に突出している位置を示す。なお、最下点S1、S2、最外周点G1、G2の位置は、CCDカメラを搭載した画像処理装置を用いて検出し、この検出データに基づいて精度Fp
A、Fp
Rを求めた。
【0125】
また、固定位置の精度確認試験に用いた第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴19に形成した仕上げ内周面部12kの径D2は「(5mm+5μm)〜5mm+15μm)」内の第1のインサート12を選択し、一方、第1の固定用ネジ9に成形した仕上げ外周面部9cの径d2は「(5mm+2μm)〜(5mm−5μm)」内の第1の固定用ネジ9を選択し、かつ、径D2と径d2の差が3μm〜20μm内に入る第1のインサート12と第1の固定用ネジ9とを組合わせて装着するようにした。そして、第1のインサート12の仕上げ内周面部12kと第1の固定用ネジ9の仕上げ外周面部9cとが密に係合するように、インサート12を第1取付座4に固定した。
【0126】
表1は、この第1のインサート12の固定位置の精度確認試験に用いた工具本体(試料番号1〜12)ごとに、この工具本体の仕様、工具本体に装着した第1のインサートの仕様、第1の固定用ネジ、及び切れ刃の固定位置の精度(Fp
A、Fp
R)とその評価を記載している。
【0127】
なお、表1に示す「固定位置の精度と評価」欄において、Fp
A(軸線方向)、Fp
R(半径方向))は、試料番号ごとに、上記した5回の繰返し試験を実施した結果を示す。
Fp
A値は、第2回〜第5回の試験で測定した最下点S1及びS2の軸線方向の座標値が、初回の最下点S1及びS2のそれぞれの座標値と比較したときに、その差の最大値の範囲を示している。同様に、Fp
R値は、初回の最下点G1及びG2のそれぞれの座標値と比較したときに、その差の最大値の範囲を示している。
また、表1に示す「評価」欄において、「◎」は固定位置の精度(Fp
A)の値が、4回ともFp
A<5.0μm、Fp
R<5.0μmの場合を示し、「○」は1回でも精度(Fp
A)、(Fp
R)の値が5.0μm≦Fp
A<10.0μm内に含まれた場合を示し、「△」は1回でも精度(Fp
A)、(Fp
R)の値が 10.0μm以上の場合を示している。
【0128】
【表1】
【0129】
表1に示す「固定位置の精度と評価」欄の記載内容等から明らかなように、第1のインサートの内周面部12kの面粗さ(Rza)値が0.8μm以下であり、かつ第1の固定用ネジ9cの外周面部9cの面粗さ(Rzb)値が6.3μm以下となる、第1のインサートと第1の固定用ネジ9との組み合わせ、すなわち、試料番号1、2、4、5では、第1のインサート12の固定位置の誤差(精度Fp
A、Fp
R)が5.0μmmより小さくなり、極めて固定位置の精度(Fp
A、Fp
R)が高くなり、満足のいく結果が得られた。
一方、試料番号10〜12においては、固定位置の誤差(精度Fp
A、Fp
R)が10.0μmmを超えて(精度Fp
A、Fp
R)が劣った第1のインサートと第1の固定用ネジ9cとの組み合わせにおいては、それだけ固定位置の寸法精度のバラツキが大きくなるので、第1のインサートの固定位置の微調整のための操作と調整時間を必要とすることになる。
【0130】
上記した実験例1による第1のインサート12の固定位置の精度確認試験の結果から、本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルに装着する第1のインサート12については、その内周面部12kの面粗さRzaは0.8μm以下とし、第1の固定用ネジ9の外周面部9cの面粗さRzbは6.3μm以下にした、第1のインサート12と第1の固定用ネジ9の組合せを用い、かつ、内周面部12kと外周面部9cとを密に係合させることが望ましいと言える。
【0131】
(実験例2)
[被削材の切削加工試験]
本発明例及び従来例となる刃先交換式ラジアスエンドミルを試作して、3軸NC工作機械を用いて、傾斜角度が5°の傾斜面(平面)を有する被削材の立ち壁について切削加工を行って、その高能率加工性を評価する切削加工試験を実施した。この平面状の立ち壁の切削加工試験においては、試作した刃先交換式ラジアスエンドミルの第1、第2及び第3のインサートの底刃とコーナR刃を使用した切削加工を実施した。
以下に、この実験例2に係る切削加工試験の内容とその結果について説明する。
【0132】
この切削試加工験においては、被削材の材質はS50C(220HB)とし、この被削材の傾斜角度が5°の傾斜面について等高線加工による切削試験を行った。そして、切削加工試験を実施するために、4種の刃先交換式ラジアスエンドミル(
図16に示す試料番号A1〜A4)を作製した。これら製作した4種の刃先交換式ラジアスエンドミルについて、工具本体、工具本体に装着した第1、第2及び第3のインサートの仕様を
図16に示している。
【0133】
図16に示すように、試料番号A1とA2は第1、第2及び第3のインサートを装着した4枚から構成され、工具径(Dc)を30mmとした本発明に係る刃先交換式ラジアスエンドミルである。試料番号A1は、工具本体に装着した第1、第2及び第3のインサートは切れ刃も含む全てを超硬合金製とし、さらに、これら全てのインサートの表面にはコーティング膜を被覆した超硬合金製のインサートとした。また、試料番号A2は、工具本体に装着した第1、第2及び第3のインサートの全てはその基体を超硬合金製とし、これら基体に硬質焼結体(CBN)製の底刃、コーナR刃及び外周刃からなる切れ刃をロウ付けしたCBN製の切れ刃を備えたインサートとした。なお、この試料番号A2に装着したこれらインサートにはCBNとし、コーティング膜の被覆を行わなかった。
【0134】
試料番号A1と試料番号A2については、4枚の切れ刃の固定位置を測定して、最下点、最外周点の最大振れ幅が、夫々最下点の場合は10μm以下、最外周点の場合は20μm以下となるように調整した状態で切削試験を行った。インサートの装着手順は、インサート1から3の順序で、工具本体にインサートを装着した。このときの装着は、所定締め付けトルクの7割の値で仮止め状態とした。次に、インサート1から3の順序で所定締め付けネジトルクによりインサートを固定したのち、固定位置を測定した。
【0135】
また、試料番号A3とA4は、第1取付座のみを設け、この第1取付座に第1のインサートのみを装着した2枚から構成され、工具径(Dc)を30mmとした従来例に係る刃先交換式ラジアスエンドミルである。なお、試料番号A3の工具本体に装着したインサートは、切れ刃も含む全てを超硬合金製とし、さらに、このインサートの表面にはコーティング膜を被覆した超硬合金製のインサートとした。また、試料番号A4の工具本体に装着したインサートは、その基体を超硬合金製とし、この基体に硬質焼結体(CBN)製の底刃、コーナR刃及び外周刃からなる切れ刃をロウ付けしたCBN製の切れ刃を備えたインサートとした。
なお、本発明例及び従来例ともに、インサートの表面に被覆したコーティング膜の材質は、Ti−Al−Si−N系とし、その被膜の厚さは3μmにした。
【0136】
また、
図16に示しているように、本発明例に係る試料番号A1とA2の刃先交換式ラジアスエンドミルは、次のような構成とした。すなわち、工具本体2の先端部3に形成した第1インサート固定用ネジ穴8の前記した中心線の傾斜角度θは25°、前記した第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴12jの傾斜角度δも、角度θと同じ25°とした。
【0137】
さらに、
図16には示していないが、傾斜ネジ挿通穴12jの仕上げ加工を施した内周面部12kの内径D2は5.007mmとし、第1のインサート12を第1取付座4に固定するための第1の固定用ネジ9については、仕上げ加工を施した外周面部9cの径d2は4.997mmとした。
【0138】
従来例となる試料番号A3、A4は、第1のインサートのみを装着した2枚刃から構成されており、前記角度θと角度δは0°とした。
【0139】
なお、実験例2において、切削加工による試験結果の評価は、次のようにした。
試料番号A1とA3については、切削速度VcをVc=200m/min(切削条件1)、及びVc=565m/min(切削条件2)と高速度とした切削加工を行ったときに、第1のインサートの切れ刃の寸法変化が0.02mm、逃げ面摩耗幅(VBmax)が0.10mmに達したときにこのインサートは寿命に達したと判定し、この寿命(インサート工具寿命)に達するまでの被削材の切削長さ(インサート工具寿命L)を測定した。
【0140】
また、試料番号A2とA4、すなわち、インサートの基体に硬質焼結体(CBN)製の切れ刃をロウ付けしたCBN製の切れ刃を装着した試料番号A2とA4の刃先交換式ラジアスエンドミルについては、切削速度VcをVc=565m/minと高速度とした切削加工のみを実施して、上記した試料番号A1とA3と同様な手順でインサートの寿命を判定してその切削長(インサート工具寿命L)を測定した。
【0141】
上記した実験例2による切削試験行うために設定した切削条件(上記した切削条件1と切削条件2)を纏めて記載すると次のようになる。
【0142】
<切削条件1>
切削速度Vc : 200m/min
加工方法 : 立ち壁(5°傾斜面)の等高線切削(仕上げ加工)
、乾式切削
回転数n : 2120min
−1
送り速度Vf : 1060、2120mm/min
1刃当たりの送り量fz : 0.25mm/刃
軸方向切込み量ap : 0.1mm
径方向切込み量ae : 0.3mm
工具突き出し量 : 110mm
【0143】
<切削条件2>
切削速度Vc : 565m/min
加工方法 : 立ち壁(5°傾斜面)の等高線切削(仕上げ加工)
、乾式切削
回転数n : 6000min
−1
送り速度Vf : 3000、6000mm/min
1刃当たりの送り量fz : 0.25mm/刃
軸方向切込み量ap : 0.1mm
径方向切込み量ae : 0.3mm
工具突き出し量 : 110mm
【0144】
表2は、実験例2による切削加工試験の結果を試料番号A1〜A4別に示している。表2の評価結果欄の「インサート工具寿命L(m)」は、上記したインサートの工具寿命を切削速度(Vc)別に被削材の切削長さとして示している。
【0145】
【表2】
【0146】
表2に示す切削加工試験の結果から次のことが明らかになった。
切削速度Vc=200m/minの切削加工試験において、コーティング膜を被覆した超硬合金製インサートを装着した2枚刃からなる従来例となる試料番号A3は、インサートの工具寿命L(切削長)は400mであった。また、切削速度Vcを565m/minと高速度にした切削加工試験においては、インサートの工具寿命L(切削長)は250mであった。
【0147】
これに対して、超硬合金製の第1〜第3のインサートを装着した4枚刃からなる本発明例となる試料番号A1において、切削速度Vc=200m/minのときのインサート工具寿命L(切削長)は800mとなり、切削速度Vcを565m/minと高速度にした切削加工試験においては、インサート工具寿命L(切削長)は500mであった。このように、本発明例A1は、従来例の試料番号A3と比較して2倍の工具寿命を示した。
【0148】
この理由は、下記によるものと考えられる。
(1)第1のインサート12に2つの切れ刃、第2と第3のインサート13、14にそれぞれ1つの切れ刃、計4枚刃を備えた刃先交換式ラジアスエンドミルとしたことにより、各切れ刃の切削加工負荷が分散され、高速の切削加工を行ってもインサートの耐摩耗性の向上が得られた。
【0149】
(2)第1のインサート12の傾斜ネジ挿通穴の内周面部は、第1の固定用ネジの外周面部と密に係合させていることにより、第1のインサート12は第1取付座において位置ズレが発生しなかった。
【0150】
(3)工具本体2の第1〜第3取付座4、5、6にそれぞれ第1〜第3のインサート12、13、14を装着して固定したときに、工具本体2の軸線O方向に対する最下点が、軸線Oと垂直に交わる同一平面上であって、第1のインサートの切れ刃に2ケ所(最下点S1とS2)、第2及び第3のインサートの切れ刃に各1ケ所(最下点S3及び最下点S4)存在するようにしている。これにより、底刃を主体にした平面加工を実施したときに、切削加工に伴う振動の発生が抑制されるために、特に、第1のインサート12の第1取付座4に対する位置ズレが発生しなかったと考えられる。
【0151】
一方、超硬合金製の基体にCBN製の切れ刃をロウ付けしたインサートを装着した本発明例となる試料番号A2と、従来例となる試料番号A4について、Vc=565m/minと高速度の切削加工を実施したときの工具寿命Lは、試料番号A2は8000m、試料番号A4は4000mとなり、本発明例となる試料番号A2は従来例となる試料番号A4の2倍の工具寿命Lが得られた。さらに、第1〜第3のインサートの全てを超硬合金製とした本発明例であるA1の工具寿命(Vc=565m/min)と比較しても、16倍の工具寿命が得られた。
【0152】
本発明例となる試料番号A2の工具寿命が上記のように著しく向上した理由は、第1〜第3のインサートを装着した4枚刃としたこと、及び、第1〜第3のインサートの全ての切れ刃を耐熱性と耐摩耗性に優れているCBN製としたこと、さらに上記したように、4つの最下点S1〜S4が同一平面上になるようにしていることによるものと推測できる。
【0153】
上記した実験例2の実験結果から、本発明の刃先交換式ラジアスエンドミルに装着する第1〜第3のインサートの全ては、切れ刃も含め超硬合金製とするか、あるいは、工具寿命をさらに向上させるために、第1〜第3のインサートの基体を超硬合金製とし、この超硬合金製の基体に、CBN製の底刃、コーナR刃及び外周刃となる切れ刃をロウ付け等により強固に結合したインサートとすることがより望ましいといえる。
【0154】
なお、本発明において、第1のインサートを超硬合金製の基体にCBN製の切れ刃を備えたインサートとし、第2及び第3のインサートは、切れ刃も超硬合金製とした超硬合金製のインサートを装着しても、高速度の切削加工を行っても、もちろん、工具寿命を向上させることができる。