(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る足裏滑り検出装置1の概略構成を示す。図示例の足裏滑り検出装置1は、主要な構成として、人の足裏の所定領域に接するように履き物10の底面(またはインソール)に取り付けられるセンサ部2と、センサ部2に接続される計測装置3とを備えている。
【0014】
センサ部2は、弾性を有する芯糸に導電性を有する巻糸を巻き付けてなるカバリング糸4(
図3に示す)を織り成すことにより形成されており、
図2に示すように、面状の基布21に複数のパイル22が立設されたパイル布帛20により構成されている。
【0015】
カバリング糸4は、本実施形態では、
図3に示すように、ポリウレタンなどの弾性糸からなる芯糸40に、巻糸41,42が2重に巻き付けられており、1重目の巻糸41の巻き方向に対し、2重目の巻糸42の巻き方向が逆方向となるように構成されている。カバリング糸4の製法については、従来のダブルカバリング糸と同様である。
【0016】
巻糸41,42は、ステンレスなどの導電性繊維と、ポリエステルなどの非導電性繊維とを混紡することにより得られたものであり、例えば、特開2003−20538号公報に開示されたものを好ましく用いることができる。このような構成を有する巻糸41,42は、張力(荷重)が加わっていない状態では、
図4(A)に示すように、導電性繊維43と非導電性繊維44とが隙間を介して混在しており、電気は導電性繊維44ごとに流れるので、電気抵抗値は大きい値となる。これに対して、巻糸41,42に張力が作用すると、
図4(B)に示すように、巻糸41,42全体が収束するので、導電性繊維43同士が接触し、導電性繊維43の密度が高くなることによって電気抵抗値が低くなる。また、巻糸41,42に作用する張力が小さくなると、再び導電性繊維43の密度が低くなって電気抵抗値が高くなる。すなわち、巻糸41,42に作用する張力(荷重)の変化に伴い、導電性繊維43同士が接触してその密度が変化するため電気抵抗値が変化する性質を有している。
【0017】
本発明に係る足裏滑り検出装置1では、上記構成の巻糸の性質を利用しており、センサ部2を上記構成の巻糸を用いて構成し、歩行時のセンサ部2の電気抵抗値の変化を計測することで、歩行時にセンサ部2にどの程度の大きさの荷重が作用しているかを検出し、この荷重の大きさにより、履き物10の内部で、足裏の滑りが起きているかどうかを検出している。
【0018】
つまり、履き物10が足にフィットしている場合には、足が着地する際、センサ部2には足裏(の所定領域)の踏み付けにより大きな荷重がかかるため、巻糸41,42が大きく変形し、その分、電気抵抗値も大きく変化する。これに対して、履き物10が足にフィットしていない場合には、歩行時に足が着地する際、履き物10内部で足裏の滑りが生じ、この足裏の滑りによって、センサ部2が受ける荷重が小さくなる。そのため、巻糸41,42の変形量は、履き物10が足にフィットしている場合と比較すると小さくなる。この巻糸41,42の変形量の差が、センサ部2の電気抵抗値の変化に表れるため、歩行時のセンサ部2の電気抵抗値の変化を計測することで、足裏の滑りを検出することが可能となっている。
【0019】
図5は、上記構成の巻糸に作用する張力(荷重)と電気抵抗値の関係を、一例として示す図である。
図5では、巻糸は弾性に乏しく、試行ごとに糸が伸びきって不可逆的な変形を起こすため、1試行に1本、計5本の巻糸について実際に測定した結果を示している。巻糸には、混紡率がポリエステル繊維70%、ステンレス繊維30%のものを使用し、長さ300mmの巻糸の先端に重りを吊るしたときの巻糸の抵抗値の変化を、
図6に示す計測回路を用いて測定した。
図6において、Vccは定電圧(5V)、R1は金属皮膜抵抗(1kΩ)、Rxは測定対象となる巻糸の抵抗であり、VccをR1およびRxで分圧したときの出力電圧Voutから、Rxの電気抵抗値を算出した。重りには水を使用し、5gずつ150gまで増加させた。また、出力電圧Voutの計測は、携帯型オシロスコープ(ZR−MDR10、OMRON社)を使用して行い、サンプリングレートは200Hzとした。
【0020】
図5に示すように、荷重の大きさが約40g以下の場合には、いずれの巻糸についても、荷重の増加に伴い電気抵抗値は大きく低下していることから、巻糸に作用する張力と電気抵抗値の間に相関関係を有することがわかる。これに対し、荷重の大きさが40gより大きくなると、荷重を増加させても、いずれの巻糸についても電気抵抗値がほとんど変化していないため、電気抵抗値の変化を計測しても巻糸に作用する荷重の大きさが一意的に定まらない。
【0021】
図7は、巻糸に作用する荷重と巻糸の伸び率の関係を、一例として示す図である。伸び率は、巻糸の自然長を100%としたときの値で示している。荷重と電気抵抗値との間に良好な相関を有する荷重が40g以下の条件は、
図7に示すように、1%以下の微小な伸び率に相当する。そのため、この巻糸をセンサ部2に用いるためには、より大きな荷重がセンサ部2にかかっても、巻糸が伸び率1%以下で微小変形して、巻糸の電気抵抗値が明確に変化するようにする必要がある。
【0022】
そこで、本実施形態では、上記性質を有する巻糸41,42を、弾性糸からなる芯糸40に巻き付けてカバリング糸4を構成し(
図3参照)、このカバリング糸4によりセンサ部2を構成している。これにより、足裏からの荷重によりカバリング糸4に大きな張力が作用して芯糸40の伸び率が大きくなった場合でも、これに巻き付けられた巻糸41,42の伸び率は相対的に抑制することができる。したがって、カバリング糸4の全体の伸びを、巻糸41,42の微小変形として検出することが可能であり、これにより、歩行時にセンサ部2に足裏から大きな荷重がかかっても、センサ部2に作用する荷重の大きさを的確に検出することが可能となっている。
【0023】
図8は、本実施形態のカバリング糸4について、伸び率と電気抵抗値の関係を一例として示す図である。カバリング糸4の初期長さは100mmとし、伸び率は20%まで4%ずつ計測した。電気抵抗値の測定方法は、上述した巻糸単体の場合と同様であり、1本のカバリング糸4に対して3回の試行を行った。
【0024】
図8に示すように、カバリング糸4の伸び率が20%に至るまで電気抵抗値は継続的に変化しており、
図2および
図4に示す巻糸単体の結果と比較して、糸全体でより大きな伸び率の変化を電気抵抗値の変化として検出可能であることがわかる。
【0025】
また、
図8に示すカバリング糸4の結果では、
図2に示す巻糸単体の結果と比較して、試行ごとの電気抵抗値のばらつきが小さいことがわかる。これは、カバリング糸4では、巻糸41(42)を芯糸40に巻き付けることで、巻糸41(42)同士が接触して導電性繊維43同士の接点密度が増加することにより、巻糸単体のものと比較して感度(電気的性能)が向上したためであると考えられる。
【0026】
また、本実施形態では、カバリング糸4は、巻き方向が互いに逆方向である2重の巻糸41,42を芯糸40に巻き付けて構成されているため、トルクの相殺による糸の安定化が得られるとともに、一重目の巻糸41と二重目の巻糸42との接触によって、導電性繊維43同士の接点密度がさらに増加することから、単一(1重)の巻糸を使用する場合に比べて感度が向上する。ただし、芯糸に巻き付ける巻糸は、単一のものであってもよく、この場合も、芯糸に対する巻糸の伸びを抑制することが可能である。
【0027】
また、芯糸40に伸縮性を持つ素材を使用したカバリング構造にすることにより、芯糸40が安定した伸縮性を担うのでヒステリシスを低減することも可能となっている。
【0028】
本実施形態では、上記構成のカバリング糸1を織り成すことで、
図2に示すようなパイル布帛20を形成し、このパイル布帛20によりセンサ部2を構成している。パイル布帛20は、面状の基布21に複数のパイル22が立設された形状のものである。
【0029】
センサ部2をパイル布帛20により構成することで、歩行時の足裏からの荷重により、パイル布帛20の各パイル22が変形し、これに伴い、カバリング糸4が伸縮して、巻糸41,42が微小変形を起こす。この巻糸41,42の変形量が、パイル布帛20の電気抵抗値の変化として現れるため、パイル布帛20の電気抵抗値の変化を計測することで、パイル布帛20に作用する荷重の大きさを検出でき、その結果、歩行時の足裏の滑りを検出することができる。
【0030】
また、各パイル22の変形により、パイル22同士が接触することによって、巻糸41,42の導電性繊維43同士が接触して接点密度がさらに増加することから、センサ部2としての感度をより向上することができ、試行ごとに計測される電気抵抗値のばらつきを抑制することができる。
【0031】
パイル布帛20は、履き物10の底面やインソールなどに対して縫い付けや埋め込みなどにより装着される。パイル布帛20の大きさは、例えば約50×40(mm)程度であり、各パイル22の長さHは1mm〜6mm程度が好ましい。このパイル布帛20は、履き物10やインソールに対して、例えば、歩行時の足の踏み込みにより、足裏からの荷重が大きくかかる足の中足骨の骨頭部が当たる位置に取り付けられるのが好ましい。なお、その他にも、足の踵が当たる位置など、足裏が接する領域であれば、任意の箇所に装着することも可能である。
【0032】
図1に戻って、計測装置3は、本実施形態では、パイル布帛20の電気抵抗値に応じた出力値を取り出す計測回路30と、前記出力値を測定する測定機器31と、前記出力値からパイル布帛20の電気抵抗値を算出して電気抵抗値の変化を計測するPCなどの情報処理装置32とから構成されている。
【0033】
次に、
図2に示したパイル布帛20からなるセンサ部2を、実際に履き物のインソール11(
図9に示す)に装着して、履き物内部における足裏の滑りを検出した。パイル布帛20は、大きさが50×40(mm)、パイル布帛20の長さが5.5mmのものを使用し、
図9に示すように、インソール11の足の中足骨の骨頭部が当たる位置に取り付けた。パイル布帛20は金属製のコネクタからなる電極12,12を介して
図10に示す計測回路30に電気的に接続されており、計測回路30により、歩行時のパイル布帛20の電気抵抗値を測定した。
図10において、Vccは定電圧(5V)、R1´は金属皮膜抵抗(22Ω)、Ryは測定対象となるパイル布帛20の抵抗である。Vccは可変電圧レギュレータ(ナショナルセミコンダクター社製の低ドロップアウト正出力電圧レギュレータ「LM1086」)に接続されており、3.3Vの定電圧をR1´およびRyで分圧したときの出力電圧Vout1を計測することにより、Ryの電気抵抗値を算出した。出力電圧Vout1の計測は、携帯型オシロスコープ(ZR−MDR10、OMRON社)などの測定機器31を使用して行い、サンプリングレートは200Hzとした。この出力電圧Vout1を、情報処理装置32に入力して、Ryの電気抵抗値を算出し電気抵抗値の変化を計測した。
【0034】
上記したパイル布帛20を取り付けたインソール11を一般的に市販されている運動シューズの中に敷き、トレッドミル上で被験者による歩行を行い、歩行時のパイル布帛20の電気抵抗値の変化を計測した。トレッドミルの速度は2km/hで、300歩分のデータを計測した。また、運動シューズ内部で足裏が滑る状況と滑らない状況を作るため、裸足で運動シューズを履いた状態での歩行実験(実験1)、および、ナイロン生地のストッキングの上から運動シューズを履いた状態での歩行実験(実験2)の2通りの条件で歩行実験を行った。
【0035】
なお、運動シューズの踵および爪先には、図示は省略しているが、歩行の解析に必要なトゥーオフ(TO:爪先の離地)およびヒールコンタクト(HC:踵の接地)のタイミングを検出するためにフットスイッチを取り付けた。フットスイッチは荷重によってスイッチがONされると、ONしている間3.3Vの定電圧が出力されるようになっている(
図10参照)。この出力電圧Vout2,Vout3の計測は、携帯型オシロスコープ(ZR−MDR10、OMRON社)を使用して行い、サンプリングレートは200Hzとした。
【0036】
図11は、計測された300歩分のパイル布帛20の電気抵抗値の計測波形(実験2)から、前後50歩分のデータを除き、カットオフ周波数が0.2Hzのハイパスフィルタを用いて電気抵抗値のドリフトを除去した計測波形の一部を示している。横軸に時間[sec]を、縦軸に抵抗値変化[Ω]を、それぞれ示す。なお、抵抗値変化とは、所定の荷重がパイル布帛20に加えられたときの電気抵抗値を「0」とした場合の、各電気抵抗値の算出量を示す。
【0037】
図12は、ある任意の1歩について、パイル布帛20の電気抵抗値の計測波形と前記フットスイッチのON操作により計測された出力電圧とを重ねた結果を示している。なお、
図12において、横軸は時間[sec]を、縦軸の一軸目は抵抗値変化を、縦軸の二軸目はフットスイッチの出力電圧を、それぞれ示している。
【0038】
前記フットスイッチによるトゥーオフ(TO)およびヒールコンタクト(HC)の計測結果によると、パイル布帛20の電気抵抗値の変化の一つ目の立ち下がり位置がトゥーオフ(TO)として、二つ目の立ち上がりをヒールコンタクト(HC)として、それぞれ示された。これにより、トゥーオフ(TO)からヒールコンタクト(HC)の間が遊脚期を、ヒールコンタクト(HC)からトゥーオフ(TO)の間が立脚期を、それぞれ示すことが分かる。
【0039】
次に、実験1および実験2のそれぞれの計測波形について、連続した50歩分のデータを抽出して、各データの時間間隔を揃えて1歩分の時間を100%とし、1歩ずつ重ねて50歩分の平均値を算出した。また、抵抗値変化については、最小値を0%、最大値を100%として正規化した。実験1および実験2のそれぞれについての計測結果を
図13および
図14に示す。また、両実験1,2の計測結果を重ねた結果を
図15に示す。
【0040】
図15を参照して、実験1の計測結果と実験2の計測結果とを比較すると、立脚期のヒールコンタクト(HC)からフットフラット(FF)までの間において、計測波形が異なる挙動を示すこと、つまり、実験1の計測波形はほぼ直線形状になっているのに対し、実験2の計測波形では内に凹んだなだらかな形状になっていることが分かる。特に、時間域が67%から86%の間の領域Aでは、
図13および
図14に示すように、実験2(ストッキングの上から運動シューズを履いた状態)の計測波形の形状は、実験1(裸足で運動シューズを履いた状態)の計測波形の形状と比べて傾斜がゆるやかになっており、該領域Aにおける各計測波形の線形近似線を描くと、この線形近似線の傾きα,βが、実験1ではα=−1.77、実験2ではβ=−1.16であった。この領域Aでは、線形近似線の傾きが実験1(α)よりも実験2(β)の方が小さく、実験2ではパイル布帛20(センサ部2)の電気抵抗値の変化が小さくなっていることが分かる。
【0041】
これにより、歩行時の着地の際には、足の踵が接地(HC)した後、中足骨に当たる位置の接地を経てフットフラット(FF)の状態に至るが、実験1では、足の中足骨に当たる位置が接地する際、足裏の滑りが生じず、センサ部2が足裏(足の中足骨に当たる位置)によりしっかりと踏み付けられるために、パイル布帛20の各パイル22(巻糸41,42)が大きく変形して、パイル布帛20の電気抵抗値が大きく変化することが確認された。
【0042】
これに対し、実験2では、足の中足骨に当たる位置が接地する際に、履き物の内部で滑りが起こり、この滑りによってセンサ部2が足裏によりしっかりと踏み付けられないために、センサ部2にかかる荷重が小さくなった結果、パイル布帛20の各パイル22の変形量、すなわち、巻糸41,42の変形量が小さくなり、パイル布帛20の電気抵抗値の変化が小さくなることが確認された。
【0043】
上記の結果から、感圧導電性糸を用いたカバリング糸4を織り成すことにより形成したパイル布帛20を履き物10内に組み込み、歩行時のパイル布帛20の電気抵抗値の変化を計測することにより、履き物10内部における足裏の滑りを計測することが可能であることが確認された。
【0044】
本発明の足裏滑り検出装置1では、センサ部2がパイル布帛20で構成されているために軽量で薄く、履き物10内の装着箇所を選ばずに用いることが可能である。また、センサ部2の装着箇所を容易に変更することができ、履き物10内の複数箇所に装着することも可能である。これにより、歩行時の履き物10内部における足裏の動きをより詳細に解析することができる。本発明の足裏滑り検出装置1は、履き物10内部における足裏の滑りを計測することが可能であることから、足裏が内部で滑らない履き物、靴下、履き物に用いるインソールなどの開発用途に特に適している。