(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
我々の身の周りには、白熱電球や蛍光灯など様々な照明光源が使われている。近年では、白熱電球や蛍光灯の代替照明として、低消費電力、長寿命、安全性などの特性を兼ね備えた白色LEDが注目を浴びている。そして、白色LEDに使用される蛍光体へも発光効率や耐久性などに関して更なる高性能化が要求されている。
【0003】
白色LEDは、白色実現方法の観点から、二波長型白色LEDと三波長型白色LEDとの大きく二種類に分類される。現在主流となっている二波長型白色LEDは、青色LEDと黄色蛍光体の併用によって擬似的な白色を得るものであるが、演色性があまりよくないため、自然光に近い白色を発することができない(非特許文献1を参照)。
【0004】
一方、より自然光に近い白色光を発する近紫外や青色光で励起する三波長型白色LEDも存在する。例えば、ケイ素含有蛍光体は、近紫外・青色光での励起と可視光の発光とを行うものが多く三波長型白色LED用蛍光体として有望視されているが、照明光源等に使用可能な実用レベルの高い輝度を有するものは存在しなかった(非特許文献2、3を参照)。
【0005】
低原子価の発光イオンを含むケイ素含有体蛍光体の従来の製造法として、出発原料の全てを固相状態にして還元雰囲気下で合成する方法が一般的である。しかしながら、この還元雰囲気は水素又は窒素等の気体を利用して実現するのであるが、例えば、水素は5体積%程度が爆発限界であるため、量産プロセスにおいてその限界値以上に水素を含有させることができない。これにより、還元効果が十分でなく、低原子価の発光イオンが残ってしまい、結果的に組成制御が十分なされなかった蛍光体しか得られない場合があった。
【0006】
一方、本発明者らは、既に、出発原料の一部であるSiO
xを気相状態にして供給しながらケイ酸塩系蛍光体を合成できること、及び、この気相法を利用して得られた蛍光体が従来の固相法で得られる蛍光体よりも良好な発光特性を示すことを見出し、非特許文献4に開示している。
【0007】
しかしながら、非特許文献4に開示の製造方法は、通常の固相法とは異なり、通常の焼成設備だけで蛍光体の合成を行うことは出来ず、出発原料の一部を気相原料にして供給するための専用の供給設備を追加的に用意する必要があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら下記の具体的な実施形態に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何等限定されるものではない。
【0016】
本発明に係るケイ素含有蛍光体の製造方法は、Eu、Ce、Mn、Sm及びTbのうちの少なくとも一つの元素からなる発光イオンを含んだ化合物と、SiO
x(0.8≦x≦1.2)と、を混合し、800℃〜1500℃の温度範囲内で前記混合物を焼成することを特徴とする。
【0017】
ここで、焼成温度が800℃未満になるとSiO
xは還元剤としての機能を十分に発揮しないため好ましくなく、焼成温度が1500℃を超えるとSiO
xが蒸発して気相状態となり、結局、還元剤としての機能を十分に発揮しないため好ましくない。従って、このような理由から、焼成温度は、好ましくは900℃〜1400℃、さらに好ましくは、1000℃〜1300℃に設定される。
【0018】
本発明のケイ素含有蛍光体の製造方法は、従来方法において一般に付与される固相状態のSiO
2に替えて、固相状態のSiO
x(0.8≦x≦1.2)、例えばSiO、を出発原料として付与することを大きな特徴としている。ここで、SiO
2の全部をSiO
xに代替させても、その一部を代替させてもよい。製造目的とする蛍光体の種類によっては、SiO
2の全部をSiO
xに代替すると、合成過程で不純物を含んでしまったり、代替したSiO
xの全てが還元剤としての効果を発揮しないまま合成が終了してしまったりする場合もあるため、SiO
xとSiO
2とを出発原料として添加して混合する方が良い場合もある。
【0019】
本発明者らによる現在までの検証によれば、SiO
xはSiOに近い状態がより好適に作用するため、SiO
xのxの範囲は0.8≦x≦1.2であることが好ましく、更に好ましくは0.95≦x≦1.1である。このような好適な高純度SiOは、例えば、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズや三洋貿易株式会社から市販されている。
【0020】
また、もう一つの出発原料である前記発光イオンを含んだ化合物として、特に限定されるものではないが、Eu
2O
3、Eu
2(CO
3)
3・2H
2O、Eu(NO
3)
3・6H
2O、Eu
2(C
2O
4)
3・10H
2OなどのEuからなる発光イオンを含んだ化合物、Ce
2O
3、Ce
2(CO
3)
3・5H
2O、Ce(NO
3)
3・5H
2O、Ce
2(C
2O
4)
3・9H
2O、Ce
2(C
2O
4)
3・10H
2OなどのCeからなる発光イオンを含んだ化合物、MnO、MnCO
3、Mn(NO
3)
2・6H
2O、Mn(C
2O
4)、Mn(C
2O
4)
3・2H
2OなどのMnからなる発光イオンを含んだ化合物、Tb
2O
3、Tb
2(CO
3)・nH
2O、Tb(NO
3)
3・6H
2O、Tb(C
2O
4)
3・10H
2OなどのTbからなる発光イオンを含んだ化合物、Sm
2O
3などのSmからなる発光イオンを含んだ化合物及びこれらの組合せなどが好適に用いられる。また、前記発光イオンを含んだ化合物には厳密には含まれないが、前記Ce
2O
3や前記Tb
2O
3に類似の物性を示すCeO
2やTb
4O
7を使用してもよい。
【0021】
加えて、混合物には、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、マグネシウム化合物、希土類化合物の少なくとも一つがさらに含まれていることが好ましい。
【0022】
ここで、アルカリ金属化合物として、特に限定されるものではないが、Li
2O、Li
2CO
3、LiNO
3、Li
2C
2O
4、Na
2O、Na
2CO
3、NaNO
3、Na
2C
2O
4、K
2O、K
2CO
3、KNO
3、Rb
2O、Rb
2CO
3、RbNO
3、Cs
2O、Cs
2CO
3、CsNO
3、Cs
2C
2O
4及びこれらの組合せなどが用いられ、好ましくは、高温で分解または酸化して酸化物になりうるものが用いられる。
【0023】
また、アルカリ土類金属化合物として、特に限定されるものではないが、CaO、CaCO
3、Ca(NO
3)
2、Ca(NO
3)
2・4H
2O、SrO、SrCO
3、Sr(NO
3)
2、Sr(NO
3)
2・4H
2O、BaO、BaCO
3、Ba(NO
3)
2、BaC
2O
4、及びこれらの組合せなどが用いられ、好ましくは、高温で分解及び/または酸化して酸化物になりうるものが用いられる。
【0024】
また、アルカリ土類金属化合物と同じ2価の金属であるMgを含んだマグネシウム化合物も前記アルカリ土類金属化合物に代替して用いることができる。
【0025】
また、希土類化合物として、特に限定されないが、例えば、La
2O
3やY
2O
3などが用いられる。
【0026】
以上説明した発光イオンを含んだ化合物、SiO
x、その他の出発原料を混合するにあたっては、固体粉末状の各原料をそのまま混合させる方法(乾式混合)でも、アセトン等の溶媒に浸しながら混合させる方法(湿式混合)でも、いずれかの方法で行ってもよい。
【0027】
本発明のケイ素含有蛍光体は、上述の製造方法で合成されるものであれば特に限定されるものではないが、Ba
2SiO
4:Eu
2+、Li
2SrSiO
4:Eu
2+、Zn
2SiO
4:Mn
2+、(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu
2+、Ba
3Si
6O
12N
2:Eu
2+、BaSi
2O
2N
2:Eu
2+、(Sr,Ca)Si
2O
2N
2:Eu
2+などが挙げられる。
【実施例1】
【0028】
(実施例1の蛍光体 Ba
2SiO
4:Eu
2+について)
本発明の実施例1に係るケイ素含有蛍光体としてBa
2SiO
4:Eu
2+を用いた。Ba
2SiO
4:Eu
2+は、紫外線や青色光で励起され、緑色発光を示す蛍光体である。出発原料の一つとなるEu
2O
3はEu
3+であるが、発光イオンはEu
2+であるため還元する必要がある。しかし、従来法では、通常雰囲気による還元を行っているが、雰囲気による還元作用の制御は限界があるため、付活したEuをすべてEu
2+の状態で得ることは困難である。このため、還元ガスと還元作用を持つSiOを還元剤及び原料として使用することで、より多くのEu
2+を得て発光強度の向上を目的として実施例1による実証を行った。
【0029】
(Ba
2SiO
4:Eu
2+の合成)
この実施例1に係るケイ素含有蛍光体を以下のように製造した。出発原料として、BaCO
3(関東化学(株),3N)とEu
2O
3(信越化学工業(株),4N)とに加え、SiO
2とSiOとの少なくとも一方を用いた。上述の各原料を化学量論比に従って秤量し、メノウ乳鉢で混合した。混合後、ペレット状に加圧成形した混合物をアルミナ製ボートに載置し、水素ガスを5体積%含有させたアルゴンガスを含んだ還元ガス雰囲気下にある炉内で、混合物を1300℃の温度で6時間、焼成した。
【0030】
なお、SiO
2とSiOとの添加具合が蛍光体特性に与える影響を評価した。具体的には、SiOのみを添加した場合(SiO 100mol%)と、SiOとSiO
2とをそれぞれ50mol%づつ添加した場合(SiO 50mol%)と、の2つの試料を用意して、本発明により合成された蛍光体の発光強度特性を評価した。なお、比較例として、還元剤の役目をするSiOを全く添加せずにSiO
2のみを添加して合成した試料である(比較例、従来の固相法)。
【0031】
(試料の同定)
焼成後の試料の同定には粉末X線回折装置((株)マックサイエンス製,MX−Labo)を使用した。
図1は、上述の実施例1により製造された試料のX線回折(XRD)測定結果を示す。なお、最上段の結果は、社団法人化学情報協会(JAICI)が提供している無機結晶構造データベース(ICSD)から取得されたBa
2SiO
4の参照用XRDパターンを示す。
【0032】
この
図1を観察すると、上記実施例1により製造された試料のいずれの条件(SiOが100mol%と50mol%の条件)のXRDパターンについても、それらのピーク位置と、Ba
2SiO
4の参照用XRDパターンのピーク位置と、は良く一致している。従って、実施例1のいずれの条件でもが目的物であるBa
2SiO
4:Eu
2+が主相で得られていると言える。
【0033】
(蛍光特性の評価)
図2は、実施例1により製造したBa
2SiO
4:Eu
2+の励起発光スペクトルを示した図である。なお、励起・発光スペクトルの測定には、分光蛍光光度計(日本分光(株),FP−6500)を使用した。
図2中、左側に描画された曲線群は各試験条件での励起スペクトルを示し、右側に描画された曲線群は最適励起波長で励起した場合の発光スペクトルを示す。
【0034】
ここで、破線で示した各曲線は、従来法により製造された試料(つまり、SiO
2のみを原料として使用)についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。また、太い実線は、SiOが50mol%の条件で製造された試料についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。また、細い実線は、SiOが100mol%の条件で製造された試料についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。
【0035】
図2から明らかなように、本発明の実施例1によって合成された試料のいずれも、従来法により合成された試料よりも高い発光強度を示した。最も高い発光強度を示したものは、SiOが50mol%の試料であった。この発光強度の向上は、SiOを原料に使用したことで還元作用が強くなった結果、Eu
2+の量が増加したためであると考えられる。
【実施例2】
【0036】
(実施例2の蛍光体 Li
2SrSiO
4:Eu
2+について)
本発明の実施例2に係るケイ素含有蛍光体としてLi
2SrSiO
4:Eu
2+を用いた。Li
2SrSiO
4:Eu
2+は、紫外線や青色光で励起され、黄色発光を示す蛍光体である。出発原料の一つとなるEu
2O
3はEu
3+であるが、発光イオンはEu
2+であるため還元する必要がある。しかし、従来法では、通常雰囲気による還元を行っているが、雰囲気による還元作用の制御は限界があるため、付活したEuをすべてEu
2+の状態で得ることは困難である。このため、還元ガスと還元作用を持つSiOを還元剤及び原料として使用することで、より多くのEu
2+を得て発光強度の向上を目的として実施例による実証を行った。
【0037】
(Li
2SrSiO
4:Eu
2+の合成)
この実施例2に係るケイ素含有蛍光体を以下のように製造した。出発原料として、Li
2CO
3(関東化学(株),3N5)と、SrCO
3(関東化学(株),3N)と、Eu
2O
3(信越化学工業(株),4N)とに加え、SiO
2とSiOとの少なくとも一方を用いた。上述の各原料を化学量論比に従って秤量し、メノウ乳鉢で混合した。混合後、ペレット状に加圧成形した混合物をアルミナ製ボートに載置し、水素ガスを5体積%含有させたアルゴンガスを含んだ還元ガス雰囲気下にある炉内で、混合物を900℃の温度で12時間、焼成した。
【0038】
実施例2においても、SiO
2とSiOとの添加具合が蛍光体特性に与える影響を評価した。具体的には、還元剤の役目をするSiOを全く添加せずにSiO
2のみを添加して合成した試料(比較例、従来の固相法)と、SiOとSiO
2の比が、それぞれ、10mol%/90mol%、30mol%/70mol%、50mol%/50mol%、になるようにSiOを添加して合成した試料を用意して評価を行った。なお、後述する試料の同定や蛍光特性の評価にあたっては、実施例1で説明した同一の装置を使用した。
【0039】
(試料の同定)
図3は、実施例2により製造された試料のうちSiOが10mol%の添加割合で合成された試料のX線回折(XRD)測定結果を示す。なお、比較として、従来法により合成された試料のXRDの結果を最下段に示す。また、最上段には、社団法人化学情報協会(JAICI)が提供している無機結晶構造データベース(ICSD)から取得されたLi
2EuSiO
4の参照用XRDパターンを示す。なお、ICSDには、Li
2SrSiO
4のデータが無いために、ここでは同一の結晶構造を有するLi
2EuSiO
4のXRDパターンを参照した。
【0040】
この
図3を観察すると、上記実施例2により製造された試料(SiOが10mol%の条件)と従来法により製造された試料のXRDパターンについて、それらのピーク位置と、Li
2EuSiO
4の参照用XRDパターンのピーク位置と、は良く一致している。また、説明の便宜のため、図示しないが、実施例2の他の上記試験条件により合成された試料においても、図示の結果と同様のXRDパターンを示した。従って、実施例2による試料と従来法による試料とのどちらもが、目的物であるLi
2SrSiO
4:Eu
2+が単一相で得られていると言える。
【0041】
(蛍光特性の評価)
図4は、上記実施例2により製造したLi
2SrSiO
4:Eu
2+の励起発光スペクトルを示した図である。ここで、破線で示した各曲線は、従来法により製造された試料(つまり、SiO
2のみを原料として使用)についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。また、実線は、SiOが10mol%の条件で製造された試料についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。なお、説明の便宜のため、実施例2の他の上記試験条件(SiOの添加率が30mol%と50mol%との場合)における結果を図示していないが、SiOが10mol%の場合の結果とほぼ同様な発光強度を示した。
【0042】
図4から、本発明の実施例2によって合成された試料のいずれも、従来法により合成された試料よりも約1.7倍程度高い発光強度を示した。この発光強度の向上は、SiOを原料に使用したことで還元作用が強くなった結果、Eu
2+の量が増加したためであると考えられる。
【0043】
以上の説明により、本発明の製造方法を使用すれば、発光強度に非常に優れたケイ素含有蛍光体を提供できることが明らかになった。