【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、非特許文献1乃至4に記載のように、測定対象部位における血管系のモデル、および、所定の押し下げ量で血管を加圧したときの血圧を計算するための皮下組織モデルに基づいて、所定の時間間隔で段階的に圧力を上げながら血管を加圧したときの血圧変動について、以下に示すモデル計算を行った。その結果、加圧された血管の圧力から求められた脈波の平均圧と圧振幅とを、脈波の平均血圧と血圧振幅とでそれぞれ無次元化したときの関係に基づいて、血圧を推定できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
[モデル計算−使用モデル]
モデル計算は、
図1に示すモデルを使用して行った。なお、
図1に示すモデルは、非特許文献1乃至4に記載のモデルと同じものである。
図1(a)に示すように、腕部血管系の数学モデルは、動脈系(Artery)を全長700mmのテーパーのついたコラプシブルチューブで模擬し、チューブの上流端に供給圧力源(Supply)が、下流端に毛細血管による微小循環(micro−circulation)、静脈(Venous)が接続されている。チューブの上流端半径(Inlet radius)を、4.23mm、下流端半径(Outlet radius)を、1.74mmとする。また、血液を、密度ρ=1050kg/m
3、動粘度ν=3.8×10
−6m
2/sの非圧縮性ニュートン流体とし、血流は一次元で記述する。
【0011】
このモデル計算で使用する運動方程式、連続の式、動脈壁に働く力のつり合いの式は、以下のようになる。
【数1】
【0012】
ここで、uは動脈内流速、Pは血管の内圧、f
1は抵抗係数、Dは動脈周長、Aは血管の断面積、λは管摩擦係数、R
exは局所レイノルズ係数、Qは流量、Tは動脈の管軸方向の張力、P
eは動脈を圧迫する圧力、A
0は任意の基準内圧のときの血管の断面積、γは血管の断面積変化に対する粘性抵抗係数である。また、モデル計算では、モデルを不等間隔スタッガード格子系により各格子に分割し、4次ルンゲ・クッタ法により計算を行っている。
【0013】
動脈への加圧および圧力測定は、チューブの下流端から100mmの位置とし、その位置での加圧時の皮下組織モデル(Tissue Model)を、
図1(b)に示す。
図1(b)に示すように、皮下組織モデルとして二次の非線形バネモデルを用いると、圧力センサ(Sensor)の押し下げ量Yとセンサ出力圧力P
0との関係は、次のようになる。なお、センサは、加圧面が直径8mmの円形である。
【0014】
【数2】
P
e:動脈を圧迫する圧力
a:組織モデル定数(=10.0×10
8Pa/m
2)
dy
av:センサ加圧面における、血管の初期形状の高さy
0からの変化量dyの空間平均値
【0015】
また、モデル計算で使用する心拍一周期分の供給圧力(Supply pressure)P
sの波形を、
図2に示す。ここで、平均圧P
savは13.3kPa(100mmHg)、振幅ΔP
sは、5.5kPa(41mmHg)とした。
図2に示す波形は、ヒトの腕頭動脈の圧力の実測値を基に作成されたものである。
【0016】
また、モデル計算では、血管の断面積比A/A
0と伸展圧φとの関係が、
図3に示すチューブ則で表されるものとして、モデル計算を行う。チューブ則は、次式で表される。
【数3】
【0017】
ここで、n
1=5、n
2=6、A
C/A
0=0.3、A/A
0=0のときの伸展圧φ=−26.6kPaとする。また、C
1=0.3、C
2=0.05とし、C
3〜C
5は、A
C/A
0=0.3において、2つの式のφの傾きが一致するように設定する。
【0018】
[ステップ状加圧時のモデル計算結果]
図1乃至
図3に示すモデルを使用して、5秒間隔で、0.5mmずつ圧力センサを押し下げて、段階的に血管を加圧したときの、センサ出力圧力のモデル計算結果を、
図4(a)に示す。ここで、各押し下げステップ毎のセンサ出力圧力の平均値P
oavおよび振幅ΔP
Oは、血圧や血管の力学特性により様々に変化する。血圧振幅ΔP
Sを5.5kPaとし、平均血圧P
savを変化させた場合の、モデル計算による加圧時のP
oavとΔP
Oとの関係を
図4(b)に示す。また、平均血圧P
savを13.3kPaとし、血圧振幅ΔP
Sを変化させた場合の、モデル計算による加圧時のP
oavとΔP
Oとの関係を
図4(c)に示す。
【0019】
図4(b)および(c)において、加圧時のP
oavとΔP
Oとを、それぞれ平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとで割って無次元化したときのグラフを、それぞれ
図5(a)および(b)に示す。
図5(a)および(b)に示すように、P
oav/P
sav≦1の範囲では、平均血圧P
savや血圧振幅ΔP
Sのパラメータによらず、各曲線がほぼ一致しており、各押し下げステップ毎のP
oav/P
savおよびΔP
O/ΔP
Sの値もほぼ一致していることが確認された。このことから、血管の押し下げ量を任意の一定の位置で維持した場合には、血圧が変化しても、P
oav/P
savおよびΔP
O/ΔP
Sの値は一定となるはずである。このため、P
oav/P
savおよびΔP
O/ΔP
Sを監視することにより、血圧を推定することができると考えられる。具体的には、圧力センサの押し下げ量を任意の一定の位置で維持した状態で、P
oavおよびΔP
Oを測定し、P
oav/P
savおよびΔP
O/ΔP
Sの値が常に一定になるように血圧P
savおよびΔP
Sを求めればよい。
【0020】
以上の結果から、本願発明の連続血圧測定システムは、被測定者の血圧を測定する初期血圧測定手段と、所定の押し下げ量で前記被測定者の血管を加圧する加圧手段と、前記加圧手段で加圧中の前記血管の圧力を、所定の時間間隔で測定する加圧血圧測定手段と、前記被測定者の血圧を校正して求める解析装置とを有し、前記解析装置は、前記初期血圧測定手段で測定された前記被測定者の血圧から、平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとを求める初期血圧算出手段と、前記加圧血圧測定手段で所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力から、それぞれ平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを求める加圧血圧算出手段と、前記加圧血圧算出手段で最初に求められた平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを、それぞれ前記初期血圧算出手段で求められた平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとで割って、無次元化された平均圧P
a=P
oav/P
savと圧振幅ΔP=ΔP
O/ΔP
Sとを求める基準血圧算出手段と、前記加圧血圧算出手段で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、前記基準血圧算出手段で求められた平均圧P
aと圧振幅ΔPとに基づいて血圧を校正する血圧校正手段とを有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る連続血圧測定方法は、被測定者の血圧を測定する初期血圧測定工程と、所定の押し下げ量で前記被測定者の血管を加圧する加圧工程と、前記加圧工程で加圧中の前記血管の圧力を、所定の時間間隔で測定する加圧血圧測定工程とを有し、コンピュータが、前記初期血圧測定工程で測定された被測定者の血圧から、平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとを求める初期血圧算出工程と、前記加圧血圧測定工程で所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力から、それぞれ平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを求める加圧血圧算出工程と、前記加圧血圧算出工程で最初に求められた平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを、それぞれ前記初期血圧算出工程で求められた平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとで割って、無次元化された平均圧P
a=P
oav/P
savと圧振幅ΔP=ΔP
O/ΔP
Sとを求める基準血圧算出工程と、前記加圧血圧算出工程で2回目以降に求められた平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、前記基準血圧算出工程で求められた平均圧P
aと圧振幅ΔPとに基づいて血圧を校正する血圧校正工程とを有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る連続血圧測定プログラムは、コンピュータを、被測定者の初期血圧と、所定の押し下げ量で前記被測定者の血管を加圧した状態で所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力とを入力する入力手段、前記入力手段で入力された前記初期血圧から、平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとを求める初期血圧算出手段、前記入力手段で入力された前記所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力から、それぞれ平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを求める加圧血圧算出手段、前記加圧血圧算出手段で最初に求められた平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを、それぞれ前記初期血圧算出手段で求められた平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとで割って、無次元化された平均圧P
a=P
oav/P
savと圧振幅ΔP=ΔP
O/ΔP
Sとを求める基準血圧算出手段、前記加圧血圧算出手段で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、前記基準血圧算出手段で求められた平均圧P
aと圧振幅ΔPとに基づいて血圧を校正する血圧校正手段、として機能させることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る連続血圧測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータを、被測定者の初期血圧と、所定の押し下げ量で前記被測定者の血管を加圧した状態で所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力とを入力する入力手段、前記入力手段で入力された前記初期血圧から、平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとを求める初期血圧算出手段、前記入力手段で入力された前記所定の時間間隔で測定された前記血管の圧力から、それぞれ平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを求める加圧血圧算出手段、前記加圧血圧算出手段で最初に求められた平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとを、それぞれ前記初期血圧算出手段で求められた平均血圧P
savと血圧振幅ΔP
Sとで割って、無次元化された平均圧P
a=P
oav/P
savと圧振幅ΔP=ΔP
O/ΔP
Sとを求める基準血圧算出手段、前記加圧血圧算出手段で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、前記基準血圧算出手段で求められた平均圧P
aと圧振幅ΔPとに基づいて血圧を校正する血圧校正手段、として機能させることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る連続血圧測定システム、連続血圧測定方法、連続血圧測定プログラムおよび、連続血圧測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、被測定者に対して1箇所での測定で、連続的に血圧を測定することができるため、被測定者への負担を軽減することができる。また、複数箇所で血圧や脈波速度などの測定を行う場合と比べて、システム全体の小型化が可能である。連続的に血圧を測定している間は、被測定者の血管を、P
oav/P
sav≦1の圧力が小さい範囲で加圧していればよく、長時間圧迫しても被測定者への負担が小さい。無次元化された平均圧P
aと圧振幅ΔPとに基づいて常に血圧を校正するため、時間進行に伴う誤差の蓄積が発生しにくく、高精度で血圧を測定することができる。
【0025】
所定の押し下げ量での被測定者の血管の加圧、および所定の時間間隔での加圧中の血管の圧力の測定は、市販の1つのカフを用いて行うことができる。また、被測定者の初期血圧の測定も同じカフを用いて行ってもよく、別の市販の血圧計を用いて行ってもよい。血管の加圧圧力の制御は、解析装置やコンピュータで制御可能であってもよい。また、校正された平均血圧と血圧振幅とに基づいて、最高血圧や最低血圧を求めてもよい。この場合、例えば、校正された平均血圧をP’
sav、血圧振幅をΔP’
Sとすると、最高血圧PH=P’
sav+(2/3)×ΔP’
S、最低血圧PL=P’
sav−(1/3)×ΔP’
Sとして求めることができる。
【0026】
本発明に係る連続血圧測定システム、連続血圧測定方法、連続血圧測定プログラムおよび、連続血圧測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、手首式血圧計や腕時計型血圧計などの市販の血圧測定装置に内蔵することができ、安価に構成可能である。また、簡易な四則演算のみの計算処理で血圧を校正することができ、高度な計算処理能力を要しない。
【0027】
本発明に係る連続血圧測定システム、連続血圧測定プログラムおよび、連続血圧測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体で、前記血圧校正手段は、前記加圧血圧算出手段で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、校正後の平均血圧P’
sav=P
oav/P
a、血圧振幅ΔP’
S=ΔP
O/ΔPを求めてもよい。本発明に係る連続血圧測定方法で、前記血圧校正工程は、前記加圧血圧算出工程で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、順次、校正後の平均血圧P’
sav=P
oav/P
a、血圧振幅ΔP’
S=ΔP
O/ΔPを求めてもよい。これらの場合、簡単な計算により、血圧を校正することができる。
【0028】
[一定加圧時のモデル計算結果]
図1乃至
図3に示すモデルを使用して、圧力センサの押し下げ量を一定の3mmとしたときのモデル計算を行った。血圧振幅ΔP
Sを5.5kPaとし、平均血圧P
savを1kPa毎に増加させた場合のモデル計算結果を
図6(a)に示す。また、平均血圧P
savを13.3kPaとし、血圧振幅ΔP
Sを0.275kPa毎に増加させた場合のモデル計算結果を
図6(b)に示す。
【0029】
図6(a)に示すように、加圧時のセンサ出力圧力の無次元平均圧P
oav/13.3kPaは、P
savの増加とともに直線的に増えることが確認された。また、P
savが13.3kPaから18.3kPaまで、37.6mmHg増加したとき、加圧時の無次元圧振幅ΔP
O/5.5kPaは、約8%減少していることが確認された。
図6(b)に示すように、加圧時の無次元圧振幅ΔP
O/5.5kPaは、ΔP
Sの増加とともに直線的に増えることが確認された。また、ΔP
Sが増加しても、加圧時の無次元平均圧P
oav/13.3kPaは、ほぼ一定値でほとんど変化しないことが確認された。
【0030】
図6(a)および(b)において、加圧時の平均圧P
oavおよび圧振幅ΔP
Oを、それぞれP
sav=13.3kPa、ΔP
S=5.5kPaのときのP
oavおよびΔP
Oの値で割って無次元化し、P
savおよびΔP
Sを、それぞれ13.3kPaおよび5.5kPaで割って無次元化したときのグラフを、それぞれ
図7(a)および(b)に示す。
図7(a)および(b)に示すように、それぞれP
oavおよびΔP
Oのグラフの傾きが、ほぼ1になっており、P
oav/P
savおよびΔP
O/ΔP
Sが常に一定値になるはずであるという、
図5の結果から得られた結論と一致することがわかる。また、
図7(a)に示すように、
図6(a)と同様に、P
savが増加するとともに、ΔP
Oがやや減少していることが確認された。
【0031】
[P
savの変化によるΔP
Oの変化の原理]
図6(a)および
図7(a)に示すように、P
savが増加するとともに、ΔP
Oが減少する原因は、
図3に示すチューブ則の影響によるものと考えられる。すなわち、
図8に示すように、チューブ則の血管の伸展圧φ(血圧に対応)が正の部分では、血圧振幅(φの変動幅)が一定で平均血圧を増加させた場合、血管断面積比A/A
0の変化が小さくなる。ここで、センサ出力圧力の平均圧P
oavは、力の釣り合いによりφの値に対応するが、圧振幅ΔP
Oは、血管断面積比A/A
0の変化に対応している。このため、
図8(a)に示すように、平均血圧が増加するほど血圧振幅は小さくなることがわかる。
【0032】
φ=血管内圧(P
sav)−血管外圧(P
oav)であるため、これをP
savで割って、1−P
oav/P
savとし、ΔP
O/ΔP
Sの累積和との関係をプロットすると、皮下組織の弾性などの影響を含めたチューブ則に対応するものとなる。
図5(a)および(b)において、1−P
oav/P
savと、ΔP
O/ΔP
Sの累積和との関係を求め、それぞれ
図9(a)および(b)に示す。
図9に示すように、P
oav/P
sav≦1の範囲では、平均血圧P
savや血圧振幅ΔP
Sのパラメータによらず、各曲線がほぼ一致しており、この範囲で測定を行うことが好ましいことが確認された。
【0033】
図6(a)および
図7(a)に示すように、平均血圧P
savが変化すると、センサ出力圧力の圧振幅ΔP
Oが若干変化する。このため、一定押し下げ量で加圧した状態で、より正確な血圧測定を行うためには、P
savの変化に伴うΔP
Oの変化を補正する必要がある。そのためには、
図6(a)、
図7(a)、または
図9に示すような、P
savの変化に伴うΔP
Oの変化を示す関係をあらかじめ求めておき、その関係に基づいて測定した血圧の校正を行うことが好ましい。
【0034】
すなわち、本発明に係る連続血圧測定システム、連続血圧測定プログラムおよび、連続血圧測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体で、前記血圧校正手段は、前記加圧血圧算出手段で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、あらかじめ求められた平均血圧P
savと圧振幅ΔP
Oとの関係を利用してΔPを補正するとともに、補正したΔPを用いて、順次、校正後の平均血圧P’
sav=P
oav/P
a、血圧振幅ΔP’
S=ΔP
O/ΔPを求めてもよい。本発明に係る連続血圧測定方法で、前記血圧校正工程は、前記加圧血圧算出工程で2回目以降に求められる平均圧P
oavと圧振幅ΔP
Oとから、あらかじめ求められた平均血圧P
savと圧振幅ΔP
Oとの関係を利用してΔPを補正するとともに、補正したΔPを用いて、順次、校正後の平均血圧P’
sav=P
oav/P
a、血圧振幅ΔP’
S=ΔP
O/ΔPを求めてもよい。これらの場合、より正確な血圧を求めることができる。