【実施例】
【0017】
図2は、この発明の実施例による内燃機関用点火装置の構成を示す回路図である。この図は、例えば4気筒の内燃機関の各シリンダに備えられる点火プラグに重ね放電を行わせる内燃機関用点火装置の概略構成を示している。
図示した内燃機関用点火装置は、4つの点火コイルユニット11〜14、重ね時間制御部31、DC−AC昇圧回路32、ACスイッチ33を備えている。
点火コイルユニット11〜14は、内燃機関のシリンダヘッドに設置された点火プラグ30の頭部電極にそれぞれ直接接続するように構成されている。例えば4気筒の内燃機関において、点火コイルユニット11は1気筒目の点火プラグ30に接続され、点火コイルユニット12は2気筒目の点火プラグ30に、点火コイルユニット13は3気筒目の点火プラグ30に、点火プラグユニット14は4気筒目の点火プラグ30に接続される。
【0018】
点火コイルユニット11は、倍電圧回路21、点火コイル22、スイッチトランジスタ23、ダイオード24を備えており、さらに図示を省略したプラグキャップを備えて一体構成されている。また、点火コイルユニット11は、内燃機関の本体、例えばヘッドカバー等に設置すると、シリンダヘッド等に固定されている点火プラグ30の頭部電極へ上記のプラグキャップが接続するように構成されている。プラグキャップは絶縁素材によって構成されており、その内部には点火コイル30の2次側コイルが発生した放電電圧を伝導する導電部材が配置固定されている。
倍電圧回路21は、例えば、それぞれ6個のコンデンサおよびダイオードを用いて、入力電圧を6倍に昇圧する多段倍電圧整流回路である。なお、倍電圧回路21が発生した高電圧はグランド(以下、GNDと記載する)に印加される。
【0019】
点火コイル22は、1次側コイルの一端にバッテリ電圧VBを入力し、2次側コイルの一端に点火プラグ30を接続している。1次側コイルの他端にはスイッチトランジスタ23が接続され、1次側コイルに流れる電流の導通と遮断を制御するように回路構成されている。2次側コイルの他端にはダイオード24のアノードが接続され、この接続点は後述するACスイッチ33に接続されている。ダイオード24のカソードはGNDに接続されている。このダイオード24は、スイッチトランジスタ23がoffからonに遷移したときに点火コイル22の2次側コイルに電圧が発生することを防ぐもので、点火プラグ30へ印加される放電電圧などに対応する高耐圧の構成を有している。
【0020】
また、スイッチトランジスタ23の制御端子には、1気筒目の点火信号が入力されるように配線接続が行われている。スイッチトランジスタ23としてIGBTを用いた場合には、スイッチトランジスタ23のゲート端子に、外部から、例えば図示を省略したECU(エンジン制御ユニット)から出力された点火信号を入力する配線接続が行われる。
点火コイルユニット12〜14は、前述の点火コイルユニット11と同様に構成されており、点火コイルユニット12は2気筒目の点火信号を入力し、点火コイルユニット13は3気筒目の点火信号を入力し、点火コイルユニット14は4気筒目の点火信号を入力するように配線接続されている。
【0021】
点火コイルユニット11〜14は、それぞれ直接接続される点火プラグ30へ供給する放電電圧を、内部に備えた点火コイル22ならびに倍電圧回路21で発生させるように構成されている。また、点火プラグ30に流れる電流は、点火コイルユニット11〜14に備えられる前述のプラグキャップ内部や、GND即ち点火プラグ30が設置されているシリンダブロック等を経路としている。そのため、点火コイル22が発生する放電電圧、および倍電圧回路21が発生する高電圧を伝達する配線は、内燃機関の外装部分には存在しない。
【0022】
重ね時間制御部31は、プロセッサ等の制御デバイスと、制御プログラムや制御データ等を記憶するメモリなどによって構成されており、前述のECUから出力される各シリンダの点火信号を入力し、DC−AC昇圧回路32およびACスイッチ33の動作を制御するように配線接続されている。
DC−AC昇圧回路32は、直流電圧を例えば方形波の交流電圧に変換するインバータや、このインバータの出力電圧を所定の電圧に昇圧する昇圧トランス、もしくは昇圧回路等によって構成されている。詳しくは、上記のインバータはバッテリ電圧VBを入力し、重ね時間制御部31の制御信号に応じて、直流の電圧VBから所定周波数を有する、例えば30[kHz]の周波数を有する方形波の交流電圧を生成するように構成されている。
【0023】
また、上記の昇圧回路は、インバータの出力電圧を例えば500[V]へ昇圧するように回路構成されている。また、DC−AC昇圧回路32は、上記の500[V]の交流電圧をACスイッチ33を介して点火コイルユニット11〜14の各倍電圧回路21へ供給するように接続されている。
ACスイッチ33は、例えば半導体素子によって構成されており、例えば内燃機関の気筒数または点火プラグ30と同数のon/off(開閉)接点を有している。
また、ACスイッチ33は、重ね時間制御部31から点火コイルユニット11〜14にそれぞれ対応する各制御信号を入力し、各シリンダに備えられた点火コイルユニット11〜14を個別にDC−AC昇圧回路32の出力端子と接続させる構成を有する。
【0024】
次に動作について説明する。
図3は、
図2の内燃機関用点火装置の動作を示すフローチャートである。この図は、
図2の重ね時間制御部31の制御動作を示したものである。
重ね時間制御部31は、ECUから出力される各シリンダの点火信号を監視し、これらの点火信号がoffを示すレベルからonを示すレベルへ遷移したか否かを判定する(ステップS101)。ここで、offからonに遷移していないと判定した場合には、ステップS101の過程を繰り返して当該点火信号の監視を継続する。
【0025】
また、点火信号がoffを示す信号レベルからonを示す信号レベルへ遷移したとき、当該点火信号を入力した例えば点火コイルユニット11は、この点火信号のレベル遷移によってスイッチトランジスタ23の接点間が導通状態になり、点火コイル22の1次側コイルに電流が流れ、2次側コイルから例えば3[kV]程度の高電圧(点火プラグ30の放電電極間に放電火花が発生する放電電圧)が出力される。点火コイル22の2次側コイルから出力された放電電圧は、点火コイルユニット11と直接接続されている点火プラグ30に供給され、この点火プラグ30の放電電極間に放電電流が流れ始める。
各点火コイルユニット11〜14は、入力している点火信号がoffを示すレベルからonを示すレベルへ遷移すると、点火コイル22から点火プラグ30へ放電電圧を出力して放電火花を発生させる。
【0026】
重ね時間制御部31は、例えば、1気筒目の点火信号がoffからonに遷移したと判定した場合には、ACスイッチ33の1気筒目に該当する接点をon状態に制御する(ステップS102a)。
また、ステップS101の過程において、2気筒目の点火信号がoffからonに遷移したと判定した場合には、ACスイッチ33の2気筒目に該当する接点をon状態に制御し(ステップS102b)、3気筒目の点火信号がoffからonに遷移したと判定した場合には、ACスイッチ33の3気筒目に該当する接点をon状態に制御し(ステップS102c)、4気筒目の点火信号がoffからonに遷移したと判定した場合には、ACスイッチ33の4気筒目に該当する接点をon状態に制御する(ステップS102d)。
【0027】
ステップS102aの過程において、1気筒目に該当する接点をon状態にした後、さらにECUから出力される1気筒目の点火信号を監視し、当該信号がonからoffへ遷移したか否かを判定する(ステップS103a)。ここで、onからoffに遷移していないと判定した場合には、ステップS102aの過程に戻り、当該点火信号の監視を継続する。
ステップS102bの過程において、2気筒目に該当する接点をon状態にした後、さらにECUから出力される2気筒目の点火信号を監視し、当該信号がonからoffへ遷移したか否かを判定する(ステップS103b)。ここで、onからoffに遷移していないと判定した場合には、ステップS102bの過程に戻り、当該点火信号の監視を継続する。
【0028】
ステップS102cの過程において、3気筒目に該当する接点をon状態にした後、さらにECUから出力される3気筒目の点火信号を監視し、当該信号がonからoffへ遷移したか否かを判定する(ステップS103c)。ここで、onからoffに遷移していないと判定した場合には、ステップS102cの過程に戻り、当該点火信号の監視を継続する。
ステップS102dの過程において、4気筒目に該当する接点をon状態にした後、さらにECUから出力される4気筒目の点火信号を監視し、当該信号がonからoffへ遷移したか否かを判定する(ステップS103d)。ここで、onからoffに遷移していないと判定した場合には、ステップS102dの過程に戻り、当該点火信号の監視を継続する。
【0029】
ステップS103aの過程において、1気筒目の点火信号がonからoffに遷移したと判定した場合には、DC−AC昇圧回路32の駆動を開始させる(ステップS104)。
また、ステップS103b〜S103dの各過程において、それぞれ監視している点火信号がonからoffに遷移したと判定した場合には、ステップS103aの過程後と同様にDC−AC昇圧回路32を駆動させる(ステップS104)。
【0030】
DC−AC昇圧回路32は、重ね時間制御部31から出力される制御信号に応じて、自ら備えるインバータや昇圧回路を稼働させ、直流のバッテリ電圧VBを例えば方形波の交流電圧に変換してAC500[V]に昇圧する。さらに、この交流電圧を例えばステップS102aの過程においてon状態としたACスイッチ33の接点を介して点火コイルユニット11へ出力する。なお、DC−AC昇圧回路32が生成する交流電圧は、点火信号がonからoffへ遷移したタイミングで、ステップS102a〜S102dの各過程においてon状態とされた、換言するとDC−AC昇圧回路32と回路接続された点火コイルユニットへ供給が開始される。
【0031】
DC−AC昇圧回路32から交流電圧の入力を開始した倍電圧回路21は、自ら備える各コンデンサに順次電荷を蓄え、自身の出力点の電圧を上昇させ、点火コイル22から出力される放電電圧がピーク値を迎えて下降に遷移するタイミングで、当該倍電圧回路21の出力点から3[kV]程度の放電電圧を出力する。
倍電圧回路21は、DC−AC昇圧回路32から交流電圧を入力している期間において上記の放電電圧の出力を継続する。
【0032】
倍電圧回路21が発生する放電電圧は、点火コイル22からの放電電圧によって発生させた点火プラグ30の放電火花を維持することができる程度であればよく、上記の電圧3[kV]に限定されない。稼働する内燃機関において、特に燃焼室内の流動が高い場合やEGRを高く作用させた場合に失火することなく確実に放電火花を維持するためには、点火コイル22が発生する放電電圧と同様な電圧を供給する必要がある。運転中の内燃機関は、概ね1.4[kV]の放電電圧を点火プラグ30へ供給することにより、燃焼室の混合気への点火を安定させることができる。そのため、倍電圧回路21は、1.4[kV]以上の高電圧を発生するように構成されている必要がある。
【0033】
ここで例示した倍電圧回路21は、点火コイル22の出力電圧3[kV]と同様な高電圧を発生させている。
重ね時間制御部31は、DC−AC昇圧回路32を駆動させると、当該DC−AC昇圧回路32から高電圧を出力している時間を計測し、例えば予め自身に記憶設定されている重ね時間を経過したか否かを判定する(ステップS105)。具体的には、入力した点火信号が有意を示した時点から経過時間を計測し、この経過時間が予め記憶している閾値を超えたか否かを判定する。
また、予め複数の重ね時間(閾値)を記憶しておき、外部から入力した所定の信号に基づいて、複数の重ね時間の中から選択したものを上記の判定に使用してもよい。
【0034】
ステップS105の過程において、重ね時間を経過していないと判定したときには、ステップS104の過程に戻り、DC−AC昇圧回路32の出力動作を継続させる。また、重ね時間を経過したと判定したときには、DC−AC昇圧回路32の駆動を終了して交流電圧の出力動作を停止させる(ステップS106)。
なお、重ね時間に関する制御は各シリンダごとに行われ、ステップS103a〜S103dの各過程において、いずれか1つの点火コイルユニットでも点火信号がonからoffへ遷移したときにはステップS104の過程が実行され、DC−AC昇圧回路32の駆動が開始される。
【0035】
また、ステップS105の過程においては、各シリンダごとに重ね時間を経過したか否かを判定し、ステップS106の過程においては、いずれか1つの点火コイルユニットでも放電電圧を重ねて放電点火を行っているときには、DC−AC昇圧回路32の駆動を継続させる。
ステップS105ならびにステップS104の過程において、ACスイッチ33の接点がon状態になっている点火コイルユニットには、DC−AC昇圧回路32から出力される交流電圧が供給される。
例えば、ACスイッチ33の、1気筒目の接点がon状態となっているとき、点火コイルユニット11の倍電圧回路21にはDC−AC昇圧回路32が生成したAC500[V]の電圧が供給される。
【0036】
倍電圧回路21は、この回路を構成する各コンデンサに電荷を蓄積して、当該倍電圧回路21の出力点に、例えばDC3[kV]の放電電圧を発生させる。
倍電圧回路21が生成した放電電圧は、GND部分を介して点火プラグ30の一方の放電電極に印加される。このとき、点火プラグ30は、点火コイル22から出力された放電電圧によって放電火花を発生させており、上記のGNDを介して印加された放電電圧により点火プラグ30の放電状態を維持する。この放電状態を維持させた電流は、点火プラグ30の他方の放電電極から点火コイル22の2次側コイルとACスイッチ33とを介してDC−AC昇圧回路32へ帰還する。なお、倍電圧回路21から出力される電流は、点火コイル22が放電電圧を発生したときに2次側コイルに流れる電流に対して順方向に流れる。
【0037】
重ね時間制御部31は、ステップS106の過程でDC−AC昇圧回路32の駆動を終了させると、ACスイッチ33の全ての接点がoff状態となるように制御を行い(ステップS107)、ステップS101の過程に戻って以降の各処理過程を同様に繰り返す。
【0038】
以上のように、この実施例による内燃機関用点火装置は、点火プラグ30の頭部電極に直接接続する点火コイルユニット11〜14に、倍電圧回路21と点火コイル22とを備え、重ね時間制御部31の制御によってDC−AC昇圧回路32から出力される交流電圧を各点火コイルユニット11〜14へ供給し、それぞれの点火コイルユニット11〜14において所定の期間中点火プラグ30に重ね放電を行うようにした。この構成によって、各点火プラグ30の近傍に放電電圧を発生させる点火コイル22ならびに倍電圧回路21を配置することができ、高耐圧の配線を少なく抑えることが可能になり、漏電等の発生を防ぐことができる。
【0039】
また、1つのDC−AC昇圧回路32を用いて、複数の点火コイルユニット11〜14が重ね放電に使用する放電電圧を生成するようにしたので、設置スペースを抑制することができる。
ここで説明した重ね放電型の内燃機関用点火装置は、1つのDC−AC昇圧回路32を備え、この回路が生成した交流電圧を、全ての点火コイルユニット11〜14に供給するように構成されている。
【0040】
内燃機関が多数の点火プラグを備える多気筒エンジン等である場合には、DC−AC昇圧回路32に重い負荷がかかり、また、この負荷変動も大きくなる。そのため、DC−AC昇圧回路32を構成する昇圧トランスや回路素子などの発熱量が大きくなる場合も考えられる。
例えば、4気筒エンジンの場合には、2つのDC−AC昇圧回路32を備え、それぞれのDC−AC昇圧回路32において2気筒ずつの点火コイルユニットへ交流電圧を供給するように構成してもよい。
【0041】
また、6気筒エンジンの場合には、3つのDC−AC昇圧回路32を備え、それぞれのDC−AC昇圧回路32において2気筒ずつ、即ち2つの点火コイルユニットへ交流電圧を供給するように構成してもよい。あるいは、2つのDC−AC昇圧回路32を備え、それぞれのDC−AC昇圧回路32において3気筒ずつ、即ち3つの点火コイルユニットへ交流電圧を供給するように構成してもよい。
このように、1つのDC−AC昇圧回路32から、2つないし3つの点火コイルユニットへ交流電圧を出力するように内燃機関用点火装置を構成すると、熱容量もしくは耐熱性の小さな回路素子や昇圧トランスなどを使用してDC−AC昇圧回路32を構成することが可能になり、DC−AC昇圧回路32の小型化を図ることが容易になる。