特許第5750816号(P5750816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750816廃ゴムタイヤを用いた、改良ゴム入りコンクリートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750816
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】廃ゴムタイヤを用いた、改良ゴム入りコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20150702BHJP
   C04B 18/22 20060101ALI20150702BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/22
   C04B24/16
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-502634(P2014-502634)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公表番号】特表2014-514234(P2014-514234A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012030048
(87)【国際公開番号】WO2012134928
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年11月22日
(31)【優先権主張番号】13/078,913
(32)【優先日】2011年4月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515119815
【氏名又は名称】オールニュー ケミカル テクノロジー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】エン クオ ジー
(72)【発明者】
【氏名】リー マウ ティエン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ リャン シン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジェン レイ
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5849818(US,A)
【文献】 特開平6−183814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、
スルホキシド(R−SO−R)、スルホン(R−SO−R)、三酸化硫黄(R−SO)及びこれらの混合物から成る群より選択される表面活性官能基を有する、部分酸化したゴム粒子と、
酸素ガス存在下でクラムラバーを部分酸化することによって形成されるガス凝縮物である液状結合剤と、を含み、
前記Rは前記ゴム粒子の炭化水素を表すことを特徴とする、
コンクリート組成物。
【請求項2】
前記液状結合剤の含有量が、前記コンクリート組成物の少なくとも0.1重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記液状結合剤の含有量が、前記コンクリート組成物の0.1重量%〜1.0重量%であることを特徴とする、請求項2に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記クラムラバー粒子の含有量が、前記コンクリート組成物の0.1重量%〜20重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記クラムラバー粒子の含有量が、前記コンクリート組成物の3重量%〜7.5重量%であることを特徴とする、請求項4に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
前記コンクリート組成物は、硬化した際の圧縮強度が少なくとも40MPaであることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記コンクリート組成物は、硬化した際の曲げ強度が少なくとも5.4MPaであることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
前記コンクリート組成物は、硬化した際の引張強度が少なくとも2.9MPaであることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項9】
高性能減水剤を含有しないことを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項10】
コンクリート組成物として使用される、部分酸化したゴム粒子及び結合剤の製造方法であって、
酸素存在下でゴム粒子を加熱する工程であって、該粒子の表面がスルホキシド(R−SO−R)、スルホン(R−SO−R)、三酸化硫黄(R−SO)及びこれらの混合物から成る群より選択される官能基を形成するように、ゴム粒子を部分酸化し、かつコンクリートの液状結合剤として機能するガス凝縮物を形成する、工程、を含み、
前記Rは前記ゴム粒子の炭化水素を表すことを特徴とする、
方法。
【請求項11】
(a)酸素と不活性ガスの混合気体中で前記ゴム粒子を加熱する工程であって、ある温度まで十分な時間にわたり加熱して前記ゴム粒子を部分酸化してガス状の副産物を発生させる、工程と、
(b)酸化したゴム粒子及びガス状の副産物を冷却する工程と、
(c)酸化したゴム粒子及びガス凝縮物を回収する工程と、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(a)リアクタ内での所望の滞留時間を確保するのに十分な速度で、連続リアクタの上側部分に上部又は上部付近からクラムラバー粒子を含有するフィードを導入する工程と、
(b)前記ゴム粒子の部分酸化を開始及び維持するのに十分な温度まで、空気と不活性ガスの混合気体を予熱する工程と、
(c)前記予熱した混合気体を前記リアクタの下側部分に導入する工程と、
(d)前記リアクタから部分酸化したゴム粒子を取り出す工程と、
(e)前記リアクタのオーバーヘッド冷却器から前記ガス凝縮物を回収する工程と、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
5:1〜1:7の範囲の空気対窒素体積比(A/N)を有する空気と窒素ガスの混合気体中で前記ゴム粒子を加熱する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
100℃〜500℃の範囲の温度まで前記ゴム粒子を加熱する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記ガス凝縮物は、水溶性成分及び水不溶性成分を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的に、廃ゴムタイヤから作製されるゴム入りコンクリートに関する。クラムラバーを表面処理技術で部分酸化することにより、ゴムの疎水性表面を親水性表面に変換する。この酸化プロセスに付随して、活性硫黄酸化物を主成分とするガス凝縮物(gas condensate)が同時発生し、このガス凝縮物は、親水性の部分酸化したゴムと親水性セメント混合物との間の結合剤として機能する。処理済クラムラバー及び結合剤を使用して作製したゴム入りコンクリートにおいては、従来のゴム入りコンクリートと比較して機械的特性が大幅に向上する。
【背景技術】
【0002】
廃ゴムタイヤの処理は、世界の主要な関心事である。すでに埋立地からあふれている数十億本の廃タイヤに加えて、米国だけでも年間およそ2億7千万本の廃タイヤ(360万トン)を生じ、環境災害や健康被害をもたらしている。多くの管区が、タイヤの処分に伴う費用を負担するためにライセンス料又は特別税を課している。
【0003】
コンクリートにおけるクラムラバーの形態で廃タイヤを再利用することは、上記問題に対する費用対効果の高い解決法として開発されてきた。ゴム入りコンクリートは、従来のコンクリートよりも密度は低いが延性が高く、耐久性かつ耐衝撃性を有し、例えば、遮音、断熱、振動減衰等に用いられる。残念ながら、クラムラバーはコンクリート骨材の一部に置き換わるため、結果として生じるゴム入りコンクリートの圧縮強度及び割裂引張強度が比例的に減少する。そのため、混入可能なクラムラバーの量が著しく制限されてしまい、ゴム入りコンクリートの用途の範囲を狭めている。特許文献1(Zandiらによる米国特許第5456751号明細書)には、再利用した廃タイヤから得られた粒状ゴムを0.05〜20重量%含有するコンクリート組成物が開示されている。ゴム添加により、コンクリートの圧縮強度は4,000psiから1,900psiに低下する。この低下は、タイヤゴム粒子のセメントペーストへの粘着性を高める「高性能減水剤」の存在下においても起こるものであり、ゴム入りコンクリートにおける大きな課題であった。特許文献2(Guyらによる米国特許第5762702号明細書)には、廃タイヤ全体から得られるゴム、繊維、及び鋼からなる破砕粒子を約3.5〜4.0重量%含有し、かつフライアッシュ添加剤、並びに高性能減水剤を含有するゴム入りコンクリート組成物が記載されている。このコンクリート複合物から作製した円柱供試体は、7日目でも4,000psiの圧縮強度を発揮した。しかしながら、この特許文献はテストデータを提供していない。
【0004】
特許文献3(Petrらによる米国特許出願第2005/0096412号明細書)に記載されたコンクリート組成物は、コンクリート組成物に混入して最終製品の特性を変化させる高性能減水剤、フライアッシュ、炭素繊維、繊維ガラス、及び鋼に加えて、特異な幾何学形状を有するゴム骨材を含有する。このゴム入りコンクリートの圧縮強度は従来のコンクリートよりも低い。
【0005】
ゴム入りコンクリートの圧縮強度及び引張強度が低い主な理由として、クラムラバー粒子がコンクリートマトリックスと比較的弱い物理的な結合を形成することが挙げられる。高性能減水剤により、疎水性ゴム粒子と親水性コンクリートマトリックスとの間の物理的な結合が強化されるとみられ、その結果、適度により強いゴム入りコンクリート複合物が得られる。
【0006】
ゴム粒子とその周囲のセメントマトリックスとの間の結合をより強化するための様々な表面処理技術が開発されてきた。これらの各技術においては、例えば、ゴム粒子を水洗浄すること、酸エッチング又はプラズマ処理によりゴム表面を改質すること、及びカップリング剤を使用すること等が必要となる。タイヤゴム粒子のセメントペーストへの粘着性強化には、水酸化ナトリウム(NaOH)処理が最良の効果をもたらすようであるが、それでもなお、得られるゴム入りコンクリートは従来のコンクリートと比較すると圧縮強度が33%減少する。N.Segre,およびI.Joekes著「Use of tire rubber particles as addition to cement paste」(Cement and Concrete Research 2000,30(9),1421-1425)を参照されたい。
【0007】
Chouらは、ゴム添加剤がゴム入りコンクリートの機械的特性に及ぼす影響を説明するための理論解析を提案した。そして、ゴム粒子の添加によりゴム入りコンクリート内での水拡散が阻止されうるが、それは一部の領域における不十分かつ不完全な水和の原因となり、ゴム粒子が水酸化ナトリウムによって化学的に前処理された場合も同様であることを示した。セメントとゴム粒との間の界面における粘着性の低下は、ゴム入りコンクリートの圧縮強度の低下の重要要因である。Chou, L. H., Lu, C. K., Chang, J. R., Lee, M. T.著「Use of waste rubber as concrete additive」, Waste Manage Res 2007, 25 (1), 68-76.を参照されたい。
【0008】
近年、Chouらは、部分酸化して親水性を向上させた廃ラバークラムをモルタルへの添加剤として用いることを発表した。L.H.Chou著 「Mortars with Partially Oxidized Waste Rubber Crumbs」 Advanced Materials Research Vols. 156-157 (2011) pp 1421-1424 およびChouら, 「Effects of partial oxidation of crumb rubber on properties of rubberized mortar」Composites: Part B Engineering Vol. 41, Issue 8, (2010) pp 613-616を参照されたい。
【0009】
本技術分野においては、粒子とその周囲のセメントマトリックスとの間の粘着性を高めるために、およびより強いゴム入りコンクリートを製造するために、ゴム粒子の表面特性を改質するための技術の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5456751号明細書
【特許文献2】米国特許第5762702号明細書
【特許文献3】米国特許出願第2005/0096412号明細書
【特許文献4】米国特許第5624491号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、クラムラバーを部分表面酸化することによりその表面を親水性にするという実証に一部基づくものである。そのように改質したゴム表面は、周囲のセメントマトリックスの親水性表面と強く相互作用する。また、部分酸化により、スルフィド官能基(−S−)を含有するゴム材料の一部がガス凝縮物に変換され、スルフィド官能基の多くが主に、活性スルホン(R−SO−R)、スルホキシド(R−SO−R)、及び三酸化硫黄(R−SO)に変換されている。ガス凝縮物は、部分酸化したゴム粒子とセメント混合物との間の結合を促進する優れた結合剤であることが判明した。ガス凝縮物は、市販の高性能減水剤と同様に、改質したゴムとセメントとの間の結合剤として機能する。部分酸化したゴム粒子を、同時発生したガス凝縮物とともにセメント混合物に混合して、機械的特性を大幅に向上したゴム入りコンクリートを製造することができる。改良ゴム入りコンクリートは、汎用性がより高く、従来のゴム入りコンクリートでは適さない用途に使用することができる。
【0012】
一の態様では、本発明は、セメントと、部分酸化した、反応性官能基を含む硫黄含有親水性部分を有するクラムラバー粒子と、を含むコンクリート組成物に関する。これらの部分は、セメントマトリックスに存在する親水性部分に対して反応性であることが好ましく、そして、例えば、スルホキシド(R−SO−R)、スルホン(R−SO−R)、及び/又は三酸化硫黄(R−SO)を含む。コンクリート組成物は、また、スルホキシド、スルホン、三酸化硫黄及びこれらの混合物から成る群より選択される官能基を含有する液状結合剤をさらに含むことが好ましい。
【0013】
別の態様では、本発明は、(i)セメントと、(ii)部分酸化し、かつ、スルホキシド(R−SO−R)、スルホン(R−SO−R)、三酸化硫黄(R−SO)及びこれらの混合物から成る群より選択される表面活性の官能基を有するゴム粒子と、(iii)酸素ガス存在下でクラムラバーを部分酸化することによって形成されるガス凝縮物である結合剤と、を含むコンクリート組成物に関する。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、コンクリート成分としての使用に適した部分酸化したゴム粒子及び結合剤を製造する方法に関する。本方法は、酸素の存在下でゴム粒子を加熱する工程であって、粒子の表面が、スルホキシド(R−SO−R)、スルホン(R−SO−R)、三酸化硫黄(R−SO)、及びこれらの混合物から成る群より選択される官能基を含む親水性部分を形成するように、ゴム粒子を部分酸化する、工程を含む。ゴム粒子を加熱すると、ガス凝縮物が同時発生し、このガス凝縮物は、コンクリート組成物におけるゴム粒子とセメントとの間の結合剤として機能する。この結合剤の有効性は、市販の高性能減水剤の有効性と少なくとも同等である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、バッチ式の部分酸化反応器の概略図である。
図2図2は、未処理クラムラバーのFT−IRスペクトル(曲線A)、処理済クラムラバーのFT−IRスペクトル(曲線B)、及びガス凝縮物のFT−IRスペクトル(曲線C)である。
図3図3は、(D−メタノール溶液における)ガス凝縮物中のH−NMRスペクトルである。
図4図4は、ガス凝縮物における水溶性種のC−NMRスペクトルである。
図5図5は、(D−クロロホルムにおける)ガス凝縮物中の水溶性種のH−NMRスペクトルである。
図6図6は、連続式の部分酸化反応器の概略図である。
図7図7は、セメントと水水和モルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
図8図8は、セメントと水相ガス凝縮物水和モルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
図9図9は、セメントと油相ガス凝縮物水和モルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
図10図10は、セメントと未処理クラムラバーモルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
図11図11は、セメントと処理済クラムラバーモルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
図12図12は、セメントと高性能減水剤(エトリンガイト)モルタルとから得られた水和生成物のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
試験に供したクラムラバー粒子は、以下のプロセスを経て廃タイヤから再利用したものである。すなわち、まず、鋼線、ガラス繊維、及び他の非ゴム材料からゴム成分を分離し、続いて、液体窒素又は他の適切な手段を用いた低温凍結によりデブリフリーゴムを回収する。その後、ゴムを機械的に粉砕し、所望のサイズの不規則形状の粒子に選別するが、そのサイズは通常100〜1,000μmの範囲内、好ましくは300〜600μmの範囲内とする。クラムラバーは、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、及び/又はイソプレンゴムを含む。硬化ゴムの耐久性及び強度を向上する有機硫黄化合物によりこれらのポリマーを架橋する。硬化ゴムは、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭酸カルシウム、及び酸化防止剤等の添加物をさらに有する。
【0017】
一般にR−S−Rで表される有機硫黄化合物を、制御された条件下で酸化して有機スルホキシド(R−SO−R)、有機スルホン(R−SO−R)、及び有機三酸化物(R−SO)とすることができ、高温燃焼により酸化してSOガスとすることができる。クラムラバー粒子に関して、「R」は硫黄含有官能基に結合した炭化水素ゴム成分を表す。スルホキシド官能基(−S=O)は、スルホン基(−SO)よりも活性が高く、さらに、スルホン基(−SO)はスルフィド基(−S−)よりも活性が高い。例えば、ジメチルスルホキシドは、ジメチルスルホンよりも化学的により活性であり、また、ジメチルスルフィドよりもはるかに活性である。本発明によれば、部分酸化によって、スルフィド官能基(−S−)をスルホン基(−SO)に、好適にはスルホキシド基(−S=O)に変換することで、クラムラバー粒子の表面を化学的に変化させる。さらに、ゴム粒子の少なくとも一部はガス凝縮物に変換される。
【0018】
図1に示すバッチシステムは、円柱状バッチリアクタ容器2内に所定量のクラムラバーを挿入して部分酸化するように構成したものであり、リアクタ容器2はメッシュスクリーン4を備えて固定ゴム粒子層10を反応領域内に支持する。ガス注入口12及びガス放出口14が、それぞれ、容器2の上部及び底部に設けられる。ガス注入口12は、空気18及び酸素28の源に連通している。バルブ16、20、及び22はそれぞれ、空気と酸素との混合気体、空気、及び酸素の流れを調節する。空気は、酸化の速度を減じる不活性ガスである窒素の供給源の役割を果たす。システムの動作中、窒素と空気の混合気体を、所望の空気対窒素体積比(A/N)を得るのに十分な期間にわたって、制御された速度にて反応領域に供給し、多孔性ゴム粒子層を通過させる。その後、バルブ16及び24を閉じる。A/N体積比は、一般的に5:1〜1:7の範囲内であり、好適には1:2〜1:5の範囲内である。
【0019】
その後、容器を、該容器の外部に巻きつけた電気加熱リング6で加熱する。熱電対(図示せず)で反応領域の温度を測定し、熱電対からの信号を、電子リレーを備えた温度制御装置8に伝達して、加熱リング6の温度を調節する。容器を所望の部分酸化の温度まで加熱し、その温度は典型的には100℃〜500℃の範囲内、好適には200℃〜300℃の範囲内とする。部分酸化反応を、所定の時間にわたり行うが、その時間は、典型的には30分〜3時間、好適には45分〜2時間であり、その後、リアクタを室温まで冷却する。部分酸化したゴム粒子は粘り気のある油状の外観を呈するが、まずそのゴム粒子をリアクタから取り出した後、適切な有機溶剤でリアクタをすすいでガス凝縮物を回収する。ガス凝縮物はアセトンに完全に溶解するため、アセトンを用いて粘着性のガス凝縮物をリアクタから取り出すことができる。本明細書においてさらに詳述するように、ガス凝縮物の一部も水溶性である。
【0020】
この手順を用いて、図1に示すように構成したリアクタにてラバークラムを部分酸化した。このリアクタの反応領域は直径約8.2cm、高さ19.5cmとした。空気対窒素比は1:4(つまり、酸素対窒素体積比O/Nを0.04)とした。リアクタを250℃で1時間加熱した。フーリエ変換赤外(FT−IR)分光分析及び核磁気共鳴(NMR)分光分析により、ガス凝縮物を分析した。FT−IR分光分析により、部分酸化したゴム粒子の表面官能基を分析した。FT−IR分光計は株式会社島津製作所製(型名:FT−IR−8400)を、NMR分光計はバリアン社製(Varian Medical Systems, Inc.)(型名:Varian NMR-300MHz)をそれぞれ用いた。
【0021】
図2に、(i)未処理クラムラバーのFT−IRスペクトル(曲線A)、(ii)A/N比を1:4として250℃で処理したクラムラバーのFT−IRスペクトル(曲線B)、及び(iii)同処理条件下でリアクタから回収したガス凝縮物のFT−IRスペクトル(曲線C)を示す。曲線Aは、C−H結合伸縮による3,000cm−1、C−H結合屈曲による1,500cm−1、S=O結合伸縮による1,000cm−1の各領域周辺における3種類の吸収を示す。曲線Bは、1,000cm−1付近における吸収の増加を示し、これは制御された部分酸化により表面硫黄分子がスルホキシド(R−SO−R)及び/又はスルホン(R−SO−R)に変換されたことによる可能性が高い。驚くべきことに、曲線Cの1,000cm−1付近の吸収が著しく増加し、これは、ガス凝縮物が主に、化学的に活性なスルホキシド、スルホン、および、さらに活性の高い三酸化物(R−SO)を含むことを意味する。
【0022】
部分酸化によって廃タイヤゴムから発生したガス凝縮物は、部分酸化したゴム粒子とセメントマトリックスとの間の結合強度を大幅に高めることができるという観点から、従来の高性能減水剤と同等以上の結合剤として用いることができる。ゴム表面の硫黄原子を酸化することにより疎水性表面を親水性表面に変換し、これがセメントマトリックスの親水性表面との結合を向上する傾向がある。この表面結合は、化学的に活性なガス凝縮物の存在により大幅に強化され、このガス凝縮物において、有機硫黄化合物は、主に、スルホキシド、スルホン、及び三酸化物に酸化されている。
【0023】
H−NMRによりガス凝縮物についてさらに調査を行った。すなわち、D−メタノール溶媒及びD−クロロホルム溶媒にガス凝縮物のサンプルを溶解し、これらの溶液をNMR分光分析にかけた。図3は、D−メタノールに溶解したガス凝縮物が、R−SO−CHR、R−SO−CHR、R−S−CHR、R−SH、及び酸化された炭化水素を含むことを示している。D−クロロホルムの溶液に溶解したガス凝縮物からも同様のH−NMRスペクトルが得られた。これらの結果は、制御された酸素が、高温においてゴム表面の硫黄原子を酸化するだけでなく、酸素が表面硫黄原子のC−S結合の切断も促進することができ、その結果、より高いA/N比及びより高い温度でガス凝縮物に活性スルホキシド及び活性スルホンを発生させることを示している。
【0024】
スルホキシド、スルホン、三酸化硫黄などのガス凝縮物の主要な官能基が主に親水性かつ水溶性であるため、水を用いてこれらの成分をガス凝縮物から抽出した。そして、これらの主要な官能基を含む水相を、C−NMR及びH−NMRによって分析した。その各スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。C−NMRスペクトルは、8つの強いピークを示しており、これは水相が8つの炭素化合物のみから成ることを意味する。H−NMRスペクトルから、R−SO−Rシグナルが非常に強く、分析に用いた溶媒(D−クロロホルム)のシグナルよりもさらに強いことが明らかである。R−SO−Rのシグナル強度がR−CH−Rのシグナル強度のほぼ半分であるため、これはガス凝縮物の硫黄原子の大部分が、制御された部分酸化により酸化したこと示唆している。
【0025】
クラムラバーの大規模な部分酸化は、図6に示すような連続リアクタシステム30において実施することが好ましく、この場合、所望のガス凝縮物の量だけでなく活性についても最大化を図るために、動作パラメータを慎重に制御する。空気36及び窒素ガス38を混合して予熱器34で所定の温度まで加熱し、その温度は通常100℃〜500℃の範囲内であり、好適には150℃〜350℃の範囲内、より好適には200℃〜300℃の範囲内である。その後、得られた混合気体をリアクタ32底部付近の下側部分に流入させる。調製したゴム粒子40を、リアクタ32の上部付近の上側部分から、制御された速度で連続的に供給し、反応領域におけるゴム粒子の滞留時間が約30分〜約3時間、好適には45分〜2時間となるようにする。ゴム粒子は降下する際に、空気と窒素ガスの混合気体の上向流によって撹拌され、リアクタ32の底部から低速の移動層式により処理済クラムラバー46として回収される。
【0026】
リアクタの温度の制御及び過剰な酸化の防止のため、空気対窒素体積比(A/N)を、好適には5:1〜1:7の範囲内に維持し、より好適には1:2〜1:5の範囲内に維持する。A/N比が混合ガスにおける所望の酸素のレベルよりも高すぎると、リアクタ温度が急激に上昇して過剰な酸化を引き起こし、最低限のガス凝縮物しか含まない乾燥したゴム粒子、又はガス凝縮物を全く含まない乾燥したゴム粒子を生成する。逆に、A/N比が低すぎると、適切な温度制御を行ってもゴム表面上の官能基(R−S−R)は影響されない。部分酸化したゴム粒子は、粘り気のある油状の外観を呈し、測定可能な量のガス凝縮物がリアクタの冷却凝縮器に蓄積していることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、部分酸化したゴム粒子及び同時発生したガス凝縮物をセメント混合物に混合することで、圧縮強度、曲げ強度、引張強度が向上したゴム入りコンクリートを製造することができる。従来のコンクリートは、セメント質材料(又はセメント混合物)、砂等の細骨材、粗骨材、及び水を含む硬化性混合物である。コンクリート組成物における成分の相対的割合は、硬化物の所望の特性によって異なる。例えば、本明細書において参照により援用する特許文献4(Liskowitizらによる米国特許第5624491号明細書)及び特許文献1(Zandiらによる米国特許第5456751号明細書)を参照されたい。
【0028】
酸化したゴム粒子のコンクリート組成物に対する含有量は、通常、0.1〜20重量%とし、好適には2〜10重量%とし、より好適には3.0〜7.5重量%とする。液状結合剤(ガス凝縮物)を添加する場合は、コンクリート組成物に対する含有量は、通常、少なくとも0.1重量%、好適には0.1〜1.0重量%とする。
【0029】
酸化したゴム粒子を混合することにより、使用に必要となる粗骨材材料が比例的に少なくなる。ガス凝縮物によって達成される優れた機械的特性のため、本発明のゴム入りコンクリートの作製には高性能減水剤を必要としない。部分酸化したゴム粒子を使用したコンクリート組成物は優れた機械的特性を発揮する。これらの特性は、結合剤を混合することでさらに25%〜50%高められる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例に記載したように、本発明に基づいて、クラムラバーに表面処理を行い、部分酸化したゴム粒子及びガス凝縮物を用いてゴム入りコンクリートを作製した。
【0031】
実施例1
異なる部分酸化の条件の効果を分析するために、廃ゴムタイヤを機械的に粉砕し、300〜600μmに選別した。このラバークラムを、図1に示すように構成した実験室リアクタに配置した。A/N比を1.25とした空気と窒素ガスの混合気体を30分間にわたりリアクタに注入した後、リアクタを密封した。1時間にわたってリアクタの温度を150℃に上昇させて部分酸化を行い、室温まで冷却した。部分酸化したゴム粒子をリアクタから取り出し、ガス凝縮物をアセトンで取り出した。過剰な酸化を防ぐ1つの方法として、部分酸化したゴム粒子の外観を目視検査して、粘り気のある油状を呈していることを確認することが挙げられる。リアクタをアセトンですすぐことにより、少なくとも測定可能な量のガス凝縮物をリアクタから回収した。新たなクラムラバーの部分酸化を200℃〜250℃で繰り返し行った。
【0032】
実施例2
実施例1における3つの温度で形成された部分酸化したクラムラバー粒子と、それに伴って同時発生したガス凝縮物を、別々に回収し、比較のためにポルトランド(Portland)セメントと混合してゴム入りセメントの試料を調製した。ポルトランドセメントは、台湾セメント社(Taiwan Cement Company)製のものを用いた。表1にセメントの各成分を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
試験用のモルタル試料の調製には、標準規格品であるオタワ砂(U.S. Silica Company社製)を含むポルトランドセメントに、150℃、200℃、及び250℃でそれぞれ部分酸化したゴム粒子を、それに付随するガス凝縮物とともに、0重量%、1.5重量%、3.0重量%、4.5重量%及び6.0重量%の割合でそれぞれ混ぜ合わせた。対照として、未処理ゴム粒子、セメント、及び砂のみを含有する試料も調製した。水和のために重量比0.62:1で水を混合物に添加してコンクリート試料を調製し、それぞれ3日間、7日間、14日間、28日間、及び56日間放置したものに対して試験を行った。
【0035】
実施例3
本実施例では、実施例2で調製したコンクリート試料の圧縮強度を、ASTM規格C109に準拠した方法で測定した。試験結果を表2にまとめて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
このデータは、セメント混合物に未処理ゴム粒子を添加すると、添加した未処理ゴムの量に比例してゴム入りコンクリートの圧縮強度が低下することを示している。さらに、例えば、150℃及び200℃等の低温の部分酸化によって得られた処理済みゴムでは、ゴム入りコンクリートの圧縮強度を向上する効果をほとんど又は実質的にもたらさなかった。(このことは、A/N比及び/又は反応時間について異なる動作条件を用いて行う低温での効果的な部分酸化を排除するものではない。)しかしながら、250℃で生成した処理済ゴムを用いた場合、ゴム入りコンクリートの圧縮強度が、一般的なコンクリートと比較して、著しく向上した。例えば、混合物の水和後56日では、処理済ゴムを4.5重量%及び6.0重量%含有するゴム入りコンクリートの圧縮強度は、それぞれ、56.3MPa及び42.1MPaであったのに対し、一般的なコンクリートの圧縮強度は39.2MPaであった。このことは、本発明によるゴム入りコンクリートの圧縮強度が、未処理ゴム及びセメントから作製したゴム入りコンクリートに対して40〜225%向上したことを表している。
【0038】
部分酸化したゴム及びガス凝縮物から得られた結合剤を含有する本発明のコンクリート組成物は、約50日以上にわたり硬化させた後は、一般的なコンクリートのものよりも優れた、少なくとも40MPa、好適には40〜60MPaの圧縮強度を有すると見込まれる。
【0039】
実施例4
実施例2で調製したコンクリート試料の曲げ強度を、ASTM規格C190に準拠した方法で測定した。その結果を表3にまとめて示す。
【0040】
【表3】
【0041】
このデータは、未処理ゴムをコンクリート混合物に添加すると、結果として得られるコンクリートの曲げ強度が低下することを示している。さらに、このデータは、低温で処理したゴムを用いても、未処理ゴムを用いる場合と比べて、コンクリートの曲げ強度を高めないことを示唆している。その理由として、低温(150℃及び200℃)での部分酸化が、ゴム表面の硫黄官能基(R−S−R)をより活性なスルホキシド又はスルホン(R−SO−R)に変換せず、活性ガス凝縮物結合剤も発生しないことが考えられる。最後に、ここでも、250℃で処理したゴムをコンクリート混合物に添加することにより、一般的なコンクリートのものと同程度の曲げ強度を示すゴム入りコンクリートを形成することが認められる。このことは、本発明のゴム入りコンクリートの曲げ強度が、未処理ゴム及びセメントから作製したゴム入りコンクリートに対して20%〜90%向上したことを表している。
【0042】
部分酸化したゴム及びガス凝縮物から得られた結合剤を含有する本発明のコンクリート組成物は、約50日以上にわたり硬化させた後は、一般的なコンクリートのものと同等の少なくとも5.4MPa、好適には5.4MPa〜6.6MPaの曲げ強度を有すると見込まれる。
【0043】
実施例5
実施例2で調製したコンクリート試料の引張強度を、ASTM規格C348に準拠した方法で測定した。その結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
また、上記の結果は、未処理ゴム又は低温で処理したゴムを混合すると、ゴム入りコンクリートの引張強度が一般的なコンクリートと比較して大幅に低下しうることを明示している。しかしながら、250℃の温度で酸化した処理済みゴムを用いると、一般的なコンクリートと同等の引張強度が維持されるゴム入りコンクリートを生成した。
【0046】
実施例2〜4の結果は、ゴム入りコンクリートの圧縮強度、曲げ強度、及び引張強度等の機械的強度を一般的なコンクリートと同程度又はそれ以上に高めるためには、高温(250℃)でのゴム粒子の部分酸化が好ましいことを示している。図1に示すようなバッチ式リアクタシステムにおいて、200℃〜250℃の範囲のリアクタ温度での酸化によって、セメント混合物への混合に適した、部分酸化したゴム及びガス凝縮物が得られるが、リアクタにおけるゴム粒子の滞留時間及びリアクタへのガスフィードにおける酸素濃度を最適化する必要があることが見込まれる。このことは、本発明のゴム入りコンクリートの引張強度が、未処理ゴム及びセメントから作製したゴム入りコンクリートに対して30%〜80%向上したことを表している。
【0047】
部分酸化したゴム及びガス凝縮物から得られた結合剤を含有する本発明のコンクリート組成物は、約50日以上にわたり硬化させた後は、一般的なコンクリートのものと同等の、少なくとも2.9MPa、好適には3.1MPa〜3.4MPaの引張強度を有することが見込まれる。
【0048】
実施例6
実施例1に記載した部分酸化により、部分酸化したラバークラム及び水溶性(水相)成分及び水不溶性(油相)成分を含むガス凝縮物が得られた。アセトンを用いてガス凝縮物を回収した後に、ガス凝縮物から水溶性成分を水を用いて抽出した。部分酸化したラバークラム及びガス凝縮物成分を、別々にポルトランドセメントと混合し、試験を行った。比較のため、酸化していない(つまり、未処理の)ゴムについても試験を行った。5種類のセメント混合物について試験を行い、ゴム粒子とセメントマトリックスとの間の結合剤としての、ガス凝縮物の有効性を測定した。5種類のセメント混合物は、それぞれ、以下の各成分を以下の重量比で混合してなる。
(1)セメント、及び水(混合重量比1:1)
(2)セメント、及びガス凝縮物の水相(1:1)
(3)セメント、水、及びガス凝縮物の油相(1:1:0.1)
(4)セメント、水、及び未処理ゴム(1:1:1)
(5)セメント、水、及び部分酸化したゴム(1:1:1)
【0049】
混合物を調製した後、各サンプルを水和反応させて、5つの水和生成物を得た。28日経過後、水和生成物の結晶及び表面形態を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。図7図11はそれぞれ、混合物中のセメントと次の各成分、すなわち、(i)水、(ii)ガス凝縮物の水相、(iii)ガス凝縮物の油相(水によって抽出されないもの)、(iv)未処理ゴム粒子、(v)部分酸化したゴム粒子、から得られた水和生成物の表面形態及び結晶サイズを示すSEM画像である。
【0050】
通常の水和生成物のSEM画像(図7)と、ガス凝縮物の水相を混合して得た水和生成物の画像(図8)及びガス凝縮物の油相を混合して得た水和生成物の画像(図9)とを比較すると、通常の水和生成物の表面は、モルタル表面上に結合していない塊状の結晶板があり、一方、ガス凝縮物を添加して得られた水和生成物の画像では、はるかに精製した表面上に微細な針状結晶が形成されている。この向上した精製な表面では、部分酸化したゴムとセメントマトリックスとの間の強い結合が促進される。未処理ゴムを混合したセメントから得た水和生成物(図10)及び部分酸化したゴムを混合したセメントから得た水和生成物(図11)もそれぞれ比較した。図10において、水和生成物の表面は、未処理ゴム表面を覆うあらゆる大きさのスポット及び結晶板を呈し、未処理ゴムとセメントとの境界が視覚的に分離している。これはセメントの水和結晶が未処理ゴムの細孔(slots)に完全に収まりきらずに、ゴム表面上に物理的に吸着したにすぎないことを意味する。
【0051】
対照的に、図11は、セメントと処理済ゴムとから得た水和生成物の表面形態が、より微細な針状結晶表面を有し、処理済ゴムとセメントとの境界が消滅したことを示している。親水性のセメント結晶が、「当初は」疎水性であったゴムの細孔にうまく適合している。部分酸化により、ゴム表面上におけるR−S−RがR−SO−Rに変換されてゴム表面が親水性となり化学的により活性となってセメントとゴム表面がより結合するだけでなく、さらに、主にR−SO−R及びRSOからなる活性の親水性ガス凝縮物が発生する。このガス凝縮物が、気相から液相に凝縮しながら、処理済ゴムの表面全体を覆う傾向があり、処理済ゴムとセメントとの間の結合を実質的に向上する。
【0052】
実施例7
この実施例では、本発明のガス凝縮物を使用してゴムとセメントとの間の結合強度を高めるメカニズムが、高性能減水剤を使用した場合のメカニズムと実質的に類似していることを示す。その類似性を示すため、一般的なコンクリートとPlankらによって開示されたエトリンガイト等の高性能減水剤とからなる水和モルタルのSEM画像を図12に示す(Plank, J.; Hirsch, C; 「Impact of Zeta Potential of Early Cement Hydration Phases on Superplasticizer Adsorption」, Cement and Concrete Research, 2007, 37 (4), 537-542)。図8(又は図9)のSEM画像を図12のSEM画像と比較すると、ガス凝縮物及び高性能減水剤はいずれも、類似した均一で微細な針状結晶をコンクリート表面上に生成することが明らかである。ガス凝縮物は改良ゴム入りコンクリートの製造において廃タイヤから回収したゴムを部分酸化する際の副産物であり、高価な高性能減水剤のかわりに、このガス凝縮物を用いることが非常に望ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12