特許第5750824号(P5750824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5750824-転がり軸受装置 図000002
  • 特許5750824-転がり軸受装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750824
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20150702BHJP
   F16N 7/32 20060101ALI20150702BHJP
   B23B 19/02 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16N7/32 C
   !B23B19/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-295343(P2009-295343)
(22)【出願日】2009年12月25日
(65)【公開番号】特開2011-133091(P2011-133091A)
(43)【公開日】2011年7月7日
【審査請求日】2012年11月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183210
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 昌史
(72)【発明者】
【氏名】小山 顕
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−194406(JP,A)
【文献】 特開2000−266066(JP,A)
【文献】 特開2000−120705(JP,A)
【文献】 特開2009−047265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16N 7/32
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軌道面を有する外輪と、
外周面に軌道面を有する内輪と、
上記外輪の軌道面と上記内輪の軌道面との間に配置された複数の転動体と、
上記複数の転動体を保持する保持器と、
上記外輪の内周面と上記内輪の上記外周面との間にオイルとエアとを噴射するオイルエア噴射装置と
を備え、
上記オイルエア噴射装置は、
エア供給源からの上記エアを上記外輪と上記内輪との間の一方の開口の周辺まで案内するエア通路と、
上記開口の近傍に位置する油溜りと、
上記油溜りと、上記エア通路とを連通すると共に、上記開口の近傍に位置するオイル通路と
を有し、
上記油溜り内の上記オイルが、上記オイル通路を通って上記エア通路に移動し、その後、上記エア通路の噴射口から上記エアとともに上記外輪と上記内輪との間に噴射されるようになっており、
上記噴射口は、上記保持器の軸方向の上記転動体側とは反対側に位置すると共に、上記保持器に対して上記軸方向に間隔をおいて位置し、
上記油溜り内の上記オイルの上記オイル通路を介した上記エア通路への移動は、回転数検出センサが算出した上記内輪の回転速度に基づいて、上記噴射口に送り込む流量および間隔のうちの少なくとも一方が調整された上記エアの負圧によって生じ、
上記エアの負圧によって上記オイルが引き込まれる上記オイル通路が、上記オイルを上記外輪の内周面と上記内輪の上記外周面との間に給油するための通路であることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置において、
上記油溜り内に位置すると共に、上記オイルを含有する樹脂部材を備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受と、オイルエア噴射装置とを備える転がり軸受装置に関する。本発明は、例えば、工作機械の主軸等を支持するのに使用すれば好適な転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受装置としては、2003−49851号公報(特許文献1)に記載されているものがある。この転がり軸受装置は、玉軸受と、オイルエア噴射装置とを備える。上記玉軸受は、工作機械のハウジングと、工作機械の主軸との間に配置され、上記主軸を、回転自在に支持している。
【0003】
上記玉軸受は、外輪、内輪および複数の玉を有する。また、上記複数の玉は、外輪の軌道溝と、内輪の軌道溝との間に、保持器に保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0004】
上記オイルエア噴射装置は、オイルポンプと、混合チャンバーと、エア通路であるノズルと、エア配管と、オイル配管とを有し、上記ノズルは、外輪と内輪との間に向けられている。上記エア配管は、混合チャンバーにつながっている一方、上記オイル配管は、オイルポンプと、混合チャンバーとの間を接続している。
【0005】
エアは、上記エア配管の中を流れていて、常時混合チャンバーに送り込まれるようになっている。また、上記オイルポンプは、定期的に作動して、定期的にオイルを混合チャンバーに送り込むようになっている。また、上記混合チャンバーは、定期的にエアとオイルとを混合して、オイルエアを、ノズルを介して定期的に内外輪の間に噴射している。上記転がり軸受装置は、このような潤滑形式を採用することにより、オイルが軸受表面に付着し易いようにして潤滑性能を向上すると共に、排気から漏れるオイルの量を低減して、環境を保全するようにしている。
【0006】
しかし、上記転がり軸受装置は、比較的高価な部品であるオイルポンプが必要不可欠になるという問題がある。
【0007】
また、上記転がり軸受装置は、工作機械の主軸の回転速度が変動して、必要なオイル量を変更したい場合、突出間隔を変更することにより、オイルの量を変更できる。
【0008】
しかし、この場合、変更されたオイルが、オイル配管を通過した後に噴射されることになるから、主軸の回転速度が瞬時に急激に変動した場合等に、オイル量変動の指示のタイミングと、指示後のオイルエアの噴射のタイミングとに、転がり軸受の焼付きの発生時間を超えるタイムラグが生じることがある。このため、主軸の回転速度の変動時における瞬時の焼付きの防止を行いにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】2003−49851号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、オイルポンプが必要なくてもオイルおよびエアを噴射できて、コンパクト化および低コスト化を実現できる転がり軸受装置を提供することにある。
【0011】
また、オイル量変動の指示のタイミングと、指示後のオイルエアの噴射のタイミングとのタイムラグが小さくて、主軸の回転速度の変動時に焼付きが発生しにくい転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明の転がり軸受装置は、
内周面に軌道面を有する外輪と、
外周面に軌道面を有する内輪と、
上記外輪の軌道面と上記内輪の軌道面との間に配置された複数の転動体と、
上記複数の転動体を保持する保持器と、
上記外輪の内周面と上記内輪の上記外周面との間にオイルとエアとを噴射するオイルエア噴射装置と
を備え、
上記オイルエア噴射装置は、
エア供給源からの上記エアを上記外輪と上記内輪との間の一方の開口の周辺まで案内するエア通路と、
上記開口の近傍に位置する油溜りと、
上記油溜りと、上記エア通路とを連通すると共に、上記開口の近傍に位置するオイル通路と
を有し、
上記油溜り内の上記オイルが、上記オイル通路を通って上記エア通路に移動し、その後、上記エア通路の噴射口から上記エアとともに上記外輪と上記内輪との間に噴射されるようになっており、
上記噴射口は、上記保持器の軸方向の上記転動体側とは反対側に位置すると共に、上記保持器に対して上記軸方向に間隔をおいて位置し、
上記油溜り内の上記オイルの上記オイル通路を介した上記エア通路への移動は、回転数検出センサが算出した上記内輪の回転速度に基づいて、上記噴射口に送り込む流量および間隔のうちの少なくとも一方が調整された上記エアの負圧によって生じ、
上記エアの負圧によって上記オイルが引き込まれる上記オイル通路が、上記オイルを上記外輪の内周面と上記内輪の上記外周面との間に給油するための通路であることを特徴としている。
【0013】
尚、この発明では、上記開口の近傍には、例えば、外輪または内輪の軸方向の端面に当接する間座の内部が含まれ、また、外輪または内輪の軸方向の端面に当接すると共に、その外輪または内輪の軸方向の端面に軸方向に重なるハウジングの部分の内部が含まれる。また、上記開口の近傍には、外輪または内輪にその軸方向に隣接する部材の内部等も含まれる。そのような範囲であれば、従来例と比較して、以下に説明する作用効果を十分に享受できるからである。
【0014】
本発明において、オイルの供給が必要な場合、例えば、エア供給源からの圧縮エアをエア通路に供給する。このようにして、上記オイル通路内のエアを、エア通路に引き込んで、オイル通路内に負圧を発生させて、油溜り内のオイルを、エア通路に引き込むようにする。そして、このエア通路内に引き込まれたオイルを、エア通路内を流れるエアで、上記開口側に移動させると共に、内外輪の間に向けて噴射する。
【0015】
また、本発明において、噴射するオイルの量を変動させたい場合には、例えば、エア通路に供給する圧縮エアの流量を変動させる。このようにして、オイル通路内に発生する負圧の程度を適宜調整して、エア通路に引き込むオイルの量を調整し、噴射するオイルの量を調整する。
【0016】
本発明によれば、エア通路を流れるエアによって、オイル通路内のエアを、エア通路に引き込んで、オイル通路内に負圧を発生させて、油溜り内のオイルを、エア通路に引き込む構成であるから、オイルを供給するポンプを必要とすることがない。したがって、この発明を備える工作機械等のコンパクト化および低コスト化を実現できる。
【0017】
また、本発明によれば、上記油溜りおよびオイル通路が、内外輪の間の一方の開口の近傍に位置する。したがって、オイルが油溜りから噴射されるまでの経路を格段に短くすることができる。したがって、エア供給源から供給されるエアの速度は、オイル通路を流動するオイルの速度に比較して格段に速いから、例えば、内輪回転の仕様において、回転軸の回転数が急激に増加して、オイルの供給が必要になった場合に、オイルエア供給源にオイル供給を表す信号を送信することにより、オイルを、従来よりも格段に迅速に内外輪の間に噴射することができる。すなわち、従来と比較して、オイル量変動の指示のタイミングと、指示後のオイルエアの噴射のタイミングとのタイムラグを格段に小さくすることができて、主軸の回転速度の変動時に焼付きが発生することを大きく抑制することができる。
【0018】
また、一実施形態では、
上記油溜り内に位置すると共に、上記オイルを含有する樹脂部材を備える。
【0019】
上記実施形態によれば、オイルを油溜りに保持する性能を高くできる。したがって、オイルが急激に内外輪間に供給されることがなくて、オイル切れまでの期間を長くすることができる。
【0020】
また、一実施形態では、
上記内輪が、回転輪であり、
上記内輪の回転速度を検出する回転数検出センサと、
上記回転数検出センサからの信号に基づいて、上記エア供給源が上記エア通路に供給するエアの量を制御する制御装置を備える。
【0021】
尚、制御される上記エアの量には、0(零)も含まれる。
【0022】
上記実施形態によれば、制御装置が、内輪の回転速度に基づいて、上記エア供給源が上記エア通路に供給するエアの量を制御するから、適切な量のオイルを、迅速かつ適宜に内外輪の間に噴射できる。したがって、外輪、内輪および転動体の焼付きの抑制性能を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の転がり軸受装置によれば、従来と比較して、オイル量変動の指示のタイミングと、指示後のオイルエアの噴射のタイミングとのタイムラグを格段に小さくすることができて、主軸の回転速度の変動時に焼付きが発生することを大きく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態の転がり軸受装置の模式断面図である。
図2】上記転がり軸受装置の制御装置が、エア通路を流れるエアの流量等を制御する制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態の転がり軸受装置の模式断面図である。
【0027】
この転がり軸受装置は、工作機械(図示しない)のハウジングと、主軸との間に配置されている。この転がり軸受装置は、上記主軸を回転自在に支持するようになっている。この転がり軸受装置は、転がり軸受の一例としてのアンギュラ玉軸受(以下、単に玉軸受という)1と、オイルエア噴射装置2とを備える。
【0028】
上記玉軸受1は、外輪10と、内輪11と、転動体としての複数の玉13とを有する。上記外輪10は、工作機械のハウジングの内周面に内嵌されている。上記外輪10は、軌道面の一例としてのアンギュラ型の軌道溝16を有している。
【0029】
上記外輪10の内周面の軌道溝16の軸方向の一方側は、肩部が存在しない構造になっている。すなわち、上記外輪10は、その内周面の軌道溝16の軸方向の一方側に、カウンタボア構造を有している。
【0030】
上記内輪11は、工作機械の主軸の外周面に外嵌されており、上記主軸と同期回転するようになっている。上記内輪11は、軌道面の一例としての軌道溝17を有している。
【0031】
上記保持器12は、第1環状部30、第2環状部31および複数の柱部(図示せず)を有し、第1環状部30は、玉13よりも軸方向の一方側に位置している。上記各柱部は、二つの環状部30,31の間を連結している。上記複数の柱部は、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。上記複数の玉13は、外輪10の軌道溝16と、内輪11の軌道溝17との間に、保持器12によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0032】
上記オイルエア噴射装置2は、玉軸受1の軸方向の他方側に位置している。上記オイルエア噴射装置2は、エア通路としての噴射ノズル61と、油溜り70と、オイル含有樹脂75と、オイル通路80と、回転数検出センサ(図示せず)と、制御装置(図示せず)とを有する。
【0033】
エア供給源としての図示しない気体圧縮部(コンプレッサ)からの圧縮エアは、図示しないエア配管を介して、噴射ノズル61に導入されるようになっている。また、上記噴射ノズル61は、外輪10と内輪11との間の他方側の開口の周辺まで延在し、気体圧縮部からのエアを、上記開口の周辺に噴射するようになっている。
【0034】
図1に示すように、上記外輪10の軸方向の他方側には、環状の外輪取付部材90が存在している。上記外輪取付部材90は、上記ハウジングの内周面に内嵌されて固定されている。上記外輪取付部材90の軸方向の一方側の端面は、外輪10の軸方向の他方側の端面に当接している。
【0035】
上記噴射ノズル61は、外輪取付部材90の内部に形成されている。上記噴射ノズル61は、非環状の通路である。上記噴射ノズル61は、略軸方向に延在している。上記噴射ノズル61の噴射口は、軸方向に上記開口に重なっている。
【0036】
上記油溜り70は、環状室であり、外輪取付部材90の内部に存在している。上記油溜り70は、噴射ノズル61の径方向の外方側に位置している。上記油溜り70は、断面略矩形の形状をしている。
【0037】
上記オイル含有樹脂75は、油溜り70内に配置されている。上記オイル含有樹脂75は、オイルエア潤滑に好適なオイルに十分に浸されることによって、そのオイルを多量に含有しているスポンジ樹脂材からなっている。
【0038】
上記オイル通路80は、外輪取付部材90の内部に形成されている。上記オイル通路80は、油溜り70と、噴射ノズル61とを連通している。上記オイル通路80は、非環状の通路である。上記オイル通路80は、径方向に延在している。図1に示すように、上記油溜り70およびオイル通路80は、外輪10と内輪11との間の他方側の開口の近傍に存在している。
【0039】
上記回転数検出センサは、パルサリングと、回転数センサの一例としての磁気センサとを有する。詳述しないが、上記パルサリングは、内輪11の外周面に粘着および外嵌固定されている。上記パルサリングは、周方向交互に異なる極性の磁極が設けられたプラスチックマグネットリングから成っている。このプラスチックマグネットリングは、磁性粉を混入した合成樹脂の射出成形品や焼結フェライト等の磁性金属材を母材として、その周方向所要角度領域を、交互にS極、N極に着磁されることにより形成されている。
【0040】
また、上記磁気センサは、そのセンサ面がパルサリングの外周面と径方向に対向配置されるように、外輪10の内周面に粘着固定されている。上記磁気センサは、ホールICから成っている。このホールICは、ICチップを合成樹脂から成る保護カバーでモールドした構造を有している。
【0041】
上記パルサリングが、内輪11の回転に伴い内輪11と同期回転すると、パルサリングの各磁極が非回転の磁気センサに対して順次対面することになる。ここで、パルサリングの複数対の磁極間に発生する磁場(磁力線)の大きさは、周方向で周期的に連続的に増減し、磁場(磁力線)の向きは、周方向交互に逆向きになっているからパルサリングの回転に伴い磁気センサを通過する磁場の向きは回転速度に応じた周期で順次回転する。上記磁気センサは、上記磁場の向きの周期的な反転を検出して、パルサリングの回転速度に応じた周波数のパルス信号を、検出するようになっている。
【0042】
上記制御装置は、マイクロコンピュータからなっている。上記制御装置は、上記回転数検出センサからの信号を受信し、制御信号を、気体圧縮部に出力するようになっている。
【0043】
図2は、上記制御装置が、噴射ノズル61を流れるエアの流量等を制御する制御系を示すフローチャートである。
【0044】
図2に示すように、上記回転数検出センサ40は、内輪11(図1参照)の回転速度に応じた周波数のパルス信号を、制御装置41に配線を介して、または、無線で出力するようになっている。
【0045】
上記制御装置41は、回転数検出センサからの信号に基づいて、内輪の回転速度を算出するようになっている。上記制御装置41は、その算出結果に基づいて、気体圧縮部42が噴射ノズル61に送り込むエアの流量およびエアを噴射ノズル61に送り込む間隔のうちの少なくとも一方の情報を表す信号を、気体圧縮部42に、有線または無線を通じて出力するようになっている。尚、ここで、エア流量を制御する際の回転速度(回転数)と、エア流量およびエア噴射の間隔のうちの少なくとも一方の関係は、回転速度に応じて予め実験的に求められている。
【0046】
また、上記気体圧縮部42は、制御装置41からの信号に基づいて、エア配管に吐出するエアの圧縮率および吐出間隔のうちの少なくとも一方を、適宜適切に変動するようになっている。このようにして、エア配管を流れるエアの流量や、エアの間隔が調整されるようになっている。
【0047】
また、この転がり軸受装置は、次ぎのようにオイルエアを生成および噴射するようになっている。
【0048】
すなわち、圧縮エアが、エア供給源である気体圧縮部42からエア配管に供給されて、噴射ノズル61内を図1に矢印aで示す方向に流れると、オイル通路80内のエアが、噴射ノズル61に引き込まれ、図1に矢印bで示す方向に流れる。すると、負圧が、オイル通路80内に発生して、油溜り70内のオイルが、オイル通路80を介して噴射ノズル61内に引き込まれる。このようにして、エアと、オイルとを混合して、オイルエアを生成し、生成したオイルエアを、ノズル61から内外輪10,11間の開口付近に噴射するようになっている。
【0049】
上記実施形態の転がり軸受装置によれば、噴射ノズル61を流れるエアによって、オイル通路80内のエアを、噴射ノズル61に引き込んで、オイル通路80内に負圧を発生させて、油溜り70内のオイルを、噴射ノズル61に引き込む構成であるから、オイルを供給するポンプを必要とすることがない。したがって、この転がり軸受装置を備える工作機械のコンパクト化および低コスト化を実現できる。
【0050】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、上記油溜り70およびオイル通路80が、内外輪10の間の一方の開口の近傍に位置する。したがって、オイルが油溜り70から噴射されるまでの経路を格段に短くすることができる。したがって、上記気体圧縮部からのエアの速度は、オイル通路を流動するオイルの速度に比較して格段に速いから、例えば、内輪11回転の回転数が急激に増加して、オイルの供給が必要になった場合に、気体圧縮部42にオイル供給を表す信号を送信することにより、オイルを、従来よりも格段に迅速に内外輪10,11の間に噴射することができる。すなわち、従来と比較して、オイル量変動の指示のタイミングと、指示後のオイルエアの噴射のタイミングとのタイムラグを格段に小さくすることができて、内輪11の回転速度の変動時に焼付きが発生することを大きく抑制することができる。
【0051】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、上記油溜り70内にオイル含有樹脂75を配置し、油溜り70内のオイルを樹脂材に含有させる構成であるから、オイルを油溜り70に保持する性能が高くなる。したがって、オイルが急激に内外輪10,11間に供給されることがなくて、オイル切れまでの期間を長くすることができる。
【0052】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、制御装置41が、内輪11の回転速度に基づいて、気体圧縮部42がエア配管に供給するエアの量を制御するから、適切な量のオイルを、迅速かつ適宜に内外輪10,11の間に噴射できる。したがって、外輪10、内輪11および玉13の焼付きの抑制性能を更に向上させることができる。
【0053】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、負圧を使用して、油溜り70内のオイルを噴射ノズル61内に引き込む構成であるから、より多くのオイルを軸受内に供給しなければならない場合に、より大きな負圧が必要になり、より高速なエアを噴射ノズル61内に流す必要がある。したがって、必然的により多量のオイルを含んだオイルエアは、高速になるから、そのオイルエアは、内輪11の高速回転に起因して内外輪10,11の間に発生するエアカーテンを、より容易に通過することになる。したがって、相対的に多量のオイルをより確実に玉軸受1内に供給することができる。
【0054】
尚、上記実施形態の転がり軸受装置では、非環状の噴射ノズル61を、一つのみ有していたが、この発明では、噴射ノズルは、環状であっても良い。また、噴射ノズルは、二以上存在しても良く、この場合、二以上の噴射ノズルを、周方向に等配または非等配に配置しても良く、二以上の噴射ノズルを、径方向の位置が異なるように配置しても良い。また、環状の噴射ノズルと、非環状の噴射ノズルとを併用しても良い。
【0055】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、油溜り70は、環状室であって、軸方向の断面形状が矩形状であったが、この発明では、油溜りは、非環状の室であっても良い。また、油溜りの軸方向の断面形状は、台形状や、円形状等、如何なる形状であっても良い。
【0056】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、油溜り70に、オイル含有樹脂75を配置することによって、油溜り70にオイルを保持したが、この発明では、油溜りに直接オイルを保持しても良い。
【0057】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、オイル含有樹脂75が、オイルを含有するスポンジ樹脂であったが、この発明では、オイル含有樹脂は、オイルを含有するポリマー潤滑剤(超高分子量ポリエチレン)などの含油性のある樹脂全般であっても良い。また、この発明で使用できるオイルとして、例えば、ISOグレードで言うとVG10のオイルなどの動粘度の低い、サラッとしたオイルがある。
【0058】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、非環状のオイル通路80を、一つのみ有していたが、この発明では、オイル通路は、環状であっても良い。また、オイル通路は、二以上存在しても良く、この場合、二以上のオイル通路を、周方向に等配または非等配に配置しても良く、二以上のオイル通路を、軸方向の位置が異なるように配置しても良い。また、環状のオイル通路と、非環状のオイル通路とを併用しても良い。尚、一のエア通路(噴射ノズル)に二以上のオイル通路が連通する場合よりも、一のエア通路(噴射ノズル)に一のみのオイル通路が連通している場合の方が好ましい。
【0059】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、噴射ノズル61は、軸方向に延在していたが、この発明では、噴射ノズルが軸方向に対して鋭角に傾斜する方向に延在する等、噴射ノズルは、軸方向以外の方向に延在していても良い。
【0060】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、オイル通路80は、径方向に延在していたが、この発明では、オイル通路が径方向に対して鋭角に傾斜する方向に延在する等、オイル通路は、径方向以外の方向に延在していても良い。
【0061】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、転がり軸受がアンギュラ玉軸受であったが、この発明では、転がり軸受が深溝玉軸受等、アンギュラ玉軸受以外の玉軸受であっても良い。また、この発明では、転動体が玉13であったが、この発明では、転動体は、円筒ころ、円錐ころ、凸面ころ等、玉以外の転動体であっても良い。また、転動体は、ころ(円筒ころ、円錐ころ、凸面ころ等)と玉の両方を含んでいても良い。また、この発明では、保持器は、冠型保持器であっても良い。
【0062】
【0063】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、油溜り70が、外輪取付部材に形成されたが、この発明では、油溜りは、内輪取付部材またはハウジングに形成されても良い。尚、外輪が回転輪である場合に、油溜りが内輪取付部材に形成されることが好ましく、内輪が回転輪である場合に、油溜りが外輪取付部材またはハウジングに形成されることが好ましいことは、言うまでもない。尚、この発明では、油溜りおよびオイルエアが、内外輪の間の一方の開口の近傍に配置されるのであれば、油溜りおよびオイルエアは、如何なる構造および形式で設けても良い。また、上記実施形態では、転がり軸受装置は、工作機械に設置されたが、この発明の転がり軸受装置は、ターボ分子ポンプ等、工作機械以外の如何なる機械に設置されても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 玉軸受
2 オイルエア噴射装置
10 外輪
11 内輪
13 玉
16 外輪の軌道溝
17 内輪の軌道溝
42 気体圧縮部
61 噴射ノズル
70 油溜り
75 オイル含有樹脂
80 オイル通路
図1
図2