特許第5750989号(P5750989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5750989-丸棒材の超音波探傷方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750989
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】丸棒材の超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20150702BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   G01N29/11
   G01N29/26
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-96367(P2011-96367)
(22)【出願日】2011年4月22日
(65)【公開番号】特開2012-225887(P2012-225887A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕之
(72)【発明者】
【氏名】兼重 健一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 正志
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−126952(JP,A)
【文献】 特開2009−150679(JP,A)
【文献】 特開平06−213880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒材の周囲にフェーズドアレイ探触子を配置し、当該探触子は丸棒材の周囲を囲むサークル形状ないし円弧状の探触子を丸棒材の周囲を囲むように複数配置して、前記丸棒材の内部へ超音波の横波を同方向から二種の異なる屈折角で入射させつつ前記丸棒材の全周を走査し、相対的に小さい屈折角で入射させた際に、前記横波は入射点と反対側の前記丸棒材の内表面に入射してその殆どが縦波の反射波となって、表面疵がある場合にここでその横波成分が入射方向へ反射させられ、ないし前記入射点から前記丸棒材の内部へ入射して、表面疵がある場合にここで反射波は殆どが縦波として反射し、当該反射波は前記入射点とは反対側の前記丸棒材の内表面でその横波成分が入射方向へ反射させられることより、前記フェーズドアレイ探触子に戻る横波反射波の強度が閾値を越えたときに表面疵有りと判定し、相対的に大きい屈折角で入射させた際に、前記横波は表層疵がある場合には当該表層疵の表面でそのまま反射させられて横波反射波として入射方向へ反射させられることより、前記フェーズドアレイ探触子に戻る横波反射波の強度が他の閾値を越えたときに表層疵有りと判定することを特徴とする丸棒材の超音波探傷方法。
【請求項2】
表面疵ないし表層疵を有する丸棒材の内部へ超音波の横波を同方向から複数の異なる屈折角で入射させて各屈折角における横波反射波の強度を検出し、これら強度の最大値に応じてそれぞれ前記閾値および他の閾値を設定するようにした請求項1に記載の丸棒材の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は丸棒材の超音波探傷方法に関し、特に丸棒材の表面疵と表面近くの表層疵を良好に識別して検出することができる超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
丸棒材の表面疵と表層疵を明確に識別できれば、表面疵は切削等で簡易に除去することにより丸棒材を良品化できることから製造歩留りが向上する。そこで、特許文献1では、サークル形状のアレイ型超音波探触子を使用して超音波ビームの振り角を調整し、丸棒材の内部に超音波を入射させることで表層疵の探傷を行うとともに、表面疵の探傷は丸棒材の表面に表面波を生起させることによって行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−126952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の探傷方法では、表面疵の検出に表面波を利用しているために、丸棒材の表面粗さによって疵検出の精度が左右されるという問題があるとともに、丸棒材を支持する部分では疵検出ができないという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、丸棒材の表面粗さや支持部の有無に影響されることなく表面疵を表層疵と区別して正確に検出することができる丸棒材の超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、丸棒材の周囲にフェーズドアレイ探触子を配置し、当該探触子は丸棒材の周囲を囲むサークル形状ないし円弧状の探触子を丸棒材の周囲を囲むように複数配置して、前記丸棒材の内部へ超音波の横波を同方向から二種の異なる屈折角で入射させつつ前記丸棒材の全周を走査し、相対的に小さい屈折角で入射させた際に、前記横波は入射点と反対側の前記丸棒材の内表面に入射してその殆どが縦波の反射波となって、表面疵がある場合にここでその横波成分が入射方向へ反射させられ、ないし前記入射点から前記丸棒材の内部へ入射して、表面疵がある場合にここで反射波は殆どが縦波として反射し、当該反射波は前記入射点とは反対側の前記丸棒材の内表面でその横波成分が入射方向へ反射させられることより、前記フェーズドアレイ探触子に戻る横波反射波の強度が閾値を越えたときに表面疵有りと判定し、相対的に大きい屈折角で入射させた際に、前記横波は表層疵がある場合には当該表層疵の表面でそのまま反射させられて横波反射波として入射方向へ反射させられることより、前記フェーズドアレイ探触子に戻る横波反射波の強度が他の閾値を越えたときに表層疵有りと判定することを特徴とする。なお、相対的に小さい屈折角の一例は33°付近であり、相対的に大きい屈折角の一例は41°付近である。
【0007】
本第1発明において、表面疵がある場合には相対的に小さい屈折角で入射させたときに横波反射波の強度がピークを示す。一方、表層疵がある場合には相対的に小さい屈折角で入射させたときに横波反射波の強度が最大値を示す。そこで、それぞれの屈折角で入射させたときの横波反射波の強度が所定の閾値を越えたか否かによって表面疵ないし表層疵の存在を確実に検出することができる。本発明によれば、従来のような表面波を使用しないから、丸棒材の表面粗さや支持部の有無に影響されることなく表面疵を表層疵とは区別して正確に検出することができる。
【0008】
本第2発明では、表面疵ないし表層疵を有する丸棒材の内部へ超音波の横波を同方向から複数の異なる屈折角で入射させて各屈折角における横波反射波の強度を検出し、これら強度の最大値に応じてそれぞれ前記閾値および他の閾値を設定する。
【0009】
上記強度の最大値は疵の形状や大きさによって変動する。したがって、当該最大値に応じて閾値および他の閾値を設定することによって、常に正確な疵検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の丸棒材の超音波探傷方法によれば、丸棒材の表面粗さや支持部の有無に影響されることなく表面疵を表層疵と区別して正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サンプル疵を形成した丸棒材の概念的断面図である。
図2】セクタースキャン角と反射波強度の関係を示すグラフである。
図3】表面疵を検出する超音波の経路を示す、丸棒材の概念的断面図である。
図4】表面疵を検出する超音波の経路を示す、丸棒材の概念的断面図である。
図5】表層疵を検出する超音波の経路を示す、丸棒材の概念的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法を実施するのに好適な例では、水槽内を貫通させた丸棒材の周囲にフェーズドアレイ探触子(以下、単に探触子という)を配置する。探触子は特許文献1に示されるような丸棒材の周囲を囲むサークル形状のものでも良いし、あるいは特開2009−150679号に示されるように、円弧状の探触子を丸棒材の周囲を囲むように複数配置しても良い。
【0013】
実際の疵検出をするのに先立って、丸棒材に以下のようなサンプル疵を形成した。すなわち、直径Dが46mmの、一定長さの鋼製丸棒材1に表面疵として図1(1)に示す半径rが0.1mmの丸溝11、および図1(2)に示す、幅wと深さh1が0.1mmの角溝12を形成した。また、表層疵として図1(3)に示すように、同様の鋼製丸棒材の表面から深さh2が1mmの位置に直径dが0.3mmの円形横穴13を形成した。なお、図1は理解を容易にするために疵の大きさを相対的に過大に描いてある。
【0014】
これらサンプル疵を形成した丸棒材1に対し、探触子から超音波ビームを出力した。超音波ビームは、丸棒材1における横波の屈折角(セクタースキャン角)を15°〜50°の範囲で複数角度で変更しつつ入射させ、この時の横波反射波の強度を検出した。その結果を図2に示す。図2より明らかなように、表面疵がある場合には丸溝11(図2中の線x)、角溝12(図2中の線y)の別なくセクタースキャン角が33°付近で横波反射波の強度は最大となった。一方、表層疵の横穴13については、横波反射波の強度はセクタースキャン角が41°付近で最大となった(図2中の線z)。この理由は凡そ以下のように考えられる。
【0015】
すなわち、図3に示すように、セクタースキャン角θが33°付近になるように入射点Pから丸棒材1の内部へ入射させた横波超音波は、入射点Pと反対側の丸棒材1の内表面にほぼ上記角度33°付近で入射する(経路a)。この際の反射波は殆どが縦波となって90°付近の反射角で反射し(経路b)、表面疵12がある場合にはここで横波成分が入射方向へ反射させられる(経路c)。あるいは図4に示すように、セクタースキャン角θが33°付近になるように入射点Pから丸棒材1の内部へ入射させた横波超音波は、表面疵12がある場合にはここに角度33°付近で入射する(経路d)。この際の反射波は殆どが縦波となって90°付近の反射角で反射し(経路e)、入射点Pとは反対側の丸棒材1の内表面で横波成分が入射方向へ反射させられる(経路f)。表層疵の場合には図5に示すように、セクタースキャン角θが41°付近になるように丸棒材1の内部へ入射させた横波超音波は(経路g)、表層疵13の表面でそのまま反射させられて横波反射波として入射方向へ戻る(経路i)。
【0016】
ここで、表面疵の検出でセクタースキャン角θを25°より小さくすると、入射点Pに対向する丸棒材1内面での、いわゆる底面反射波の影響が大きくなって疵検出が妨げられる。また、理論的にはセクタースキャン角θを33°よりも大きくすると丸棒材1の内表面における縦波の反射が無くなるため、検出感度が大きく低下してしまう。図2において、セクタースキャン角が33°を越えても反射波の強度がある程度維持されているのは、実際の超音波ビームでは33°以下の角度成分も含まれているからである。
【0017】
また、表層疵の検出において、セクタースキャン角θが41°を越えると、丸棒材1の表面形状等の影響を受けてやはり検出感度が低下する。
【0018】
図2において、表面疵と表層疵の検出閾値Thをいずれも例えば30%に設定しておく。そして、セクタースキャン角θを33°付近に設定して丸棒材1の内部に横波超音波を入射させたときに反射波強度が上記閾値Thを越えたときは表面疵有りと判定し、セクタースキャン角θを41°付近に設定して丸棒材1の内部に横波超音波を入射させたときに反射波強度が上記閾値Thを越えたときは表層疵有りと判定する。本実施形態によれば従来のような表面波を使用しないから、丸棒材の表面粗さや支持部の有無に影響されることなく表面疵を表層疵とは区別して正確に検出することができる。
【0019】
なお、上記閾値は表面疵と表層疵の検出で異なる値にしても良いことはもちろんであり、これら閾値は、探傷対象となる丸棒材の種類に応じて図2に示すデータを測定して決定するようにすると良い。また、探傷対象となる丸棒材の種類に応じて図2に示すデータを測定して、反射波強度が最大となる角度を新たなセクタースキャン角θとして設定し直すようにしても良い。
【符号の説明】
【0020】
1…丸棒材、11…丸溝(表面疵)、12…角溝(表面疵)、13…横穴(表層疵)、P…入射点、θ…セクタースキャン角(屈折角)。
図1
図2
図3
図4
図5