(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750995
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】同期電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
H02K1/27 501A
H02K1/27 501K
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-102180(P2011-102180)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-235607(P2012-235607A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】椛嶌 寿行
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−233393(JP,A)
【文献】
特開2008−148391(JP,A)
【文献】
特開2002−118994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機であって、
上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、
上記各永久磁石の周方向の両端部には、上記ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材が、当該各端部に隣接して設けられ、
上記各永久磁石は、上記ロータコアの軸方向から見て断面略矩形状に形成されており、
上記各高透磁率部材は、上記ロータコアの軸方向から見て断面略コ字状に形成されていて、当該各永久磁石の周方向の端面並びに周方向の端部における外周側の面及び中心側の面を覆っていることを特徴とする同期電動機。
【請求項2】
ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機であって、
上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、
上記各永久磁石の周方向の両端部には、上記ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材が、当該各端部に隣接して設けられ、
上記各永久磁石は、上記ロータコアの軸方向から見て、当該ロータコアの中心側に向いた長辺が下底に相当し且つ外周側に向いた短辺が上底に相当する断面略台形状に形成されており、
上記高透磁率部材は、台形の脚に相当する上記各永久磁石の傾斜面を覆うように設けられていることを特徴とする同期電動機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の同期電動機において、
上記高透磁率部材の周方向の端部と、上記ロータコアを構成する電磁鋼板との間には、両者の間に充填された非磁性樹脂からなるフラックスバリアが形成されていることを特徴とする同期電動機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の同期電動機において、
上記高透磁率部材は、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなることを特徴とする同期電動機。
【請求項5】
請求項4記載の同期電動機において、
上記高透磁率部材は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする同期電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)は家電製品、電気自動車、ハイブリッド自動車等に用いられるところ、ロータコアの外周部付近にステータのティースと対向するように永久磁石が周方向に複数埋め込まれた構造を有する電動機(IPMモータ)においては、高効率化を図るとともに高いトルク特性を得るべく、様々な技術課題を解決又は改善するための研究開発が活発になされている。
【0003】
例えば、ロータの永久磁石に関しては、(A)減磁しやすい領域(端部等)の保磁力のみを向上させることや、(B)磁石渦電流の低減等が主要な技術課題となっている。また、永久磁石に関する課題以外にも、トルクリップル低減、コギングトルク低減、鉄損低減、高トルク化、耐遠心力強度の確保等がIPMモータにおける主要な技術課題となっている。
【0004】
ここで、上記(B)磁石渦電流の低減について説明する。IPMモータでは、ロータ回転により、ステータ巻線に鎖交する永久磁石磁束が、時間変化することによって、モータ電源の電圧とは逆極性の起電力がステータ巻線に発生する。この起電力は、モータ回転数(励磁周波数)に比例するため、高回転域では、ステータ巻線に電流を流せなくなり、モータを回転させることが困難になる。そこで、IPMモータにおいては、通常、負のd軸電流を流して、d軸電機子反作用による減磁効果を利用して、鎖交磁束を減少させることにより、電位差を確保してモータを回転させる弱め磁束制御が行われている。
【0005】
しかしながら、弱め磁束制御によってステータ巻線で作られる磁束(d軸電機子反作用)は、永久磁石の端部に集中し易いことから、永久磁石の端部ではモータの回転数の上昇に伴って磁束変化が大きくなる。このような大きな磁束変化により起電圧が誘起され、かかる起電圧によって永久磁石の端部に渦電流が流れる。そうして、永久磁石の端部に渦電流が流れると、渦電流損失による局所的な自己発熱が発生することから、IPMモータにおいては、磁石渦電流の低減が大きな課題になっている。
【0006】
そこで、磁石渦電流の低減を図るべく、例えば、特許文献1には、永久磁石の中で発生する渦電流が多く集中する、永久磁石におけるロータ外周に最も近い部位に、スリットを設けることが開示されている。また、特許文献2には、集中巻モータにおいて、永久磁石をステータに向かう面で分割し、この分割した永久磁石片間に電気絶縁性部(エポキシ樹脂又は空隙)を介在させた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−345189号公報
【特許文献2】特開2000−245085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、焼結材である永久磁石にスリットを設けることから、かかるスリットにロータの高速回転時の遠心力に伴う応力が生じ、これに伴ってクラックが発生し、構造的な信頼性が損なわれるおそれがある。
【0009】
また、上記特許文献2のものでは、ロータの回転軸方向に電磁鋼板が積層され、当該電磁鋼板の開口部に永久磁石が圧入等で介挿されているところ、ロータ全体が次第に昇温した場合に、電気絶縁性部を介在させた永久磁石と電磁鋼板との熱膨張差によって、開口部と永久磁石との間に緩みが生じ、構造的な信頼性が損なわれるおそれがある。
【0010】
そこで、構造的な信頼性が損なわれるのを回避すべく、強磁性の磁石(例えばネオジ鉄ボロン)を基材とし、磁束が集中する箇所に高抵抗の磁石(例えばフェライト)を配置した複合磁石を製造し、かかる複合磁石を用いて永久磁石の端部に渦電流が発生するのを抑えることが考えられるが、異なる特性の磁石を組み合わせると、トルクの安定度が低下するという新たな問題が生じる。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステータと、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータとを備えた同期電動機において、構造的な信頼性及びトルクの安定度を維持しつつ、ステータ巻線で作られる磁束に起因して、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る同期電動機では、ステータ巻線を流れる電流によって作られた磁束が永久磁石の端部に流入するのを抑えるべく、永久磁石の周方向の端部に高透磁率部材を隣接して設けることにより、かかる磁束を積極的に通すバイパス磁路を形成するようにしている。
【0013】
具体的には、第1の発明は、ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機を対象とする。
【0014】
そして、上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、上記各永久磁石の周方向の両端部には、上記ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材が、当該各端部に隣接して設けられ
、上記各永久磁石は、上記ロータコアの軸方向から見て断面略矩形状に形成されており、上記各高透磁率部材は、上記ロータコアの軸方向から見て断面略コ字状に形成されていて、当該各永久磁石の周方向の端面並びに周方向の端部における外周側の面及び中心側の面を覆っていることを特徴とするものである。
【0015】
第1の発明によれば、永久磁石の内部の透磁率は真空の透磁率μ
0と同等であり、且つ、かかる永久磁石の周方向の両端部に隣接して設けられている高透磁率部材は、ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有することから、ステータ巻線を流れる電流によって作られ且つ永久磁石の端部に集中する磁束は、永久磁石の端部ではなくこれに隣接する高透磁率部材に優先的に流入する。このように、永久磁石の周方向の端部に高透磁率部材を隣接して設けることにより、換言すると、永久磁石の周方向の端部に、磁束を積極的に通すバイパス磁路を形成することにより、永久磁石の端部に流入する磁束を減少させて、かかる永久磁石の端部でステータ巻線で作られる磁束に起因して渦電流が発生するのを抑えることができる。よって、渦電流損失の発生を抑えて、モータの高効率化を図ることができる。
【0016】
また、第1の発明によれば、永久磁石の端部にスリットを形成したり、永久磁石に電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせていないので、トルクの安定度を維持することができる。
【0017】
さらに、第
1の発明によれば、高透磁率部材が、ステータ巻線で作られる磁束が集中し易い各永久磁石の周方向の端面のみならず、各永久磁石の周方向の両端部における外周側の面及び中心側の面をも、覆っていることから、永久磁石に流入する磁束をより一層確実に減少させて、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを確実に抑えることができる。
【0018】
第
2の発明は、
ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機を対象として、上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、上記各永久磁石の周方向の両端部には、上記ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材が、当該各端部に隣接して設けられ、上記各永久磁石は、上記ロータコアの軸方向から見て、当該ロータコアの中心側に向いた長辺が下底に相当し且つ外周側に向いた短辺が上底に相当する断面略台形状に形成されており、上記高透磁率部材は、台形の脚に相当する上記各永久磁石の傾斜面を覆うように設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
第2の発明によれば、第1の発明と同様に、渦電流損失の発生を抑えて、モータの高効率化を図ることができ、また、構造的な信頼性を維持することができるとともに、トルクの安定度を維持することができる。
【0020】
また、第
2の発明によれば、台形の脚に相当する、断面略台形状に形成された永久磁石の傾斜面を、覆うように高透磁率部材が設けられていることから、簡単な構造で、永久磁石の外周側の面を径方向から見た傾斜面の投影面積の分だけ、高透磁率部材によって覆うことができる。これにより、永久磁石に流入する磁束をより一層確実に減少させて、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0021】
第
3の発明は、上記第1
又は第
2の発明において、上記高透磁率部材の周方向の端部と、上記ロータコアを構成する電磁鋼板との間には、両者の間に充填された非磁性樹脂からなるフラックスバリアが形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
第
3の発明によれば、高透磁率部材とロータコアを構成する電磁鋼板との間にフラックスバリアが形成されているので、ロータコアに埋め込まれている永久磁石に対して高透磁率部材がズレるのを抑えることができる。また、永久磁石の周方向の端部に隣接して設けられている高透磁率部材の周方向の端部と電磁鋼板との間に非磁性樹脂を充填すれば、永久磁石の周方向の端部の少なくとも一部がフラックスバリアで囲まれることから、永久磁石からの磁束漏れを低減することができる。
【0023】
第
4の発明は、上記第1〜第
3のいずれか1つの発明において、上記高透磁率部材は、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなることを特徴とするものである。
【0024】
第
4の発明によれば、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなる高透磁率部材を用いることで、永久磁石の周方向の端部にバイパス磁路を形成して、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを確実に抑えることができる。
【0025】
第
5の発明は、上記第
4の発明において、上記高透磁率部材は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とするものである。
【0026】
第
5の発明によれば、これらの一種または数種を高透磁率部材として用いることで、永久磁石の周方向の端部にバイパス磁路を形成して、永久磁石の端部で渦電流が発生するのをより確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る同期電動機によれば、ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材を永久磁石の周方向の両端部に隣接して設けることから、永久磁石の端部に集中する磁束が高透磁率部材に優先的に流入するので、ステータ巻線で作られる磁束に起因して永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0028】
また、永久磁石の端部にスリットを形成したり、永久磁石に電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせていないので、トルクの安定度を維持することができる。
【0029】
これらにより、構造的な信頼性及びトルクの安定度を維持しつつ、ステータ巻線で作られる磁束に起因して永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0030】
さらに、高透磁率部材が、ステータ巻線で作られる磁束が集中し易い各永久磁石の周方向の端面のみならず、各永久磁石の周方向の両端部における外周側の面及び中心側の面をも、覆っているか、又は、台形の脚に相当する、断面略台形状に形成された永久磁石の傾斜面を、覆うように高透磁率部材が設けられていることから、永久磁石に流入する磁束をより一層確実に減少させて、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態1に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。
【
図2】ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石のうち1つを拡大して示す横断面図である。
【
図3】永久磁石の周方向の端部における当該永久磁石の磁束の流れを模式的に説明する図であり、同図(a)はフラックスバリアを設けていない場合を示し、同図(b)はフラックスバリアを設けている場合を示す。
【
図4】本発明の実施形態2に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。
【
図5】ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石のうち1つを拡大して示す横断面図である。
【
図6】その他の実施形態に係る複数の永久磁石のうち1つを拡大して示す横断面図である。
【
図7】その他の実施形態に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、
図1〜
図7では、図を見易くするために、断面表示用のハッチングを省略する。
【0033】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。なお、
図1では、図を見易くするために、後述するフラックスバリア47を図示省略している。この同期電動機1は、ステータ巻線9を有するステータ3と、ロータコア15の内部に永久磁石7が埋め込まれたロータ5と、を備えたIPMモータである。
【0034】
ステータ3は、略円筒状のヨーク13と、当該ヨーク13の内周面から径方向内側に突出する8つのティース23とを有しており、これらのティース23の先端面で囲まれる略円柱状の空間に、ロータ5が当該ステータ3に対して回転可能に配置されている。また、ステータ巻線9は、ティース23に巻回された断面円形の導線や平角導線で構成されている。なお、ステータ巻線9は集中巻でも分布巻でもよい。
【0035】
ロータ5のロータコア15は、プレスで打ち抜いた薄い(例えば0.25〜0.35mm)電磁鋼板15aを軸方向に積層することにより形成されており、その中央に不図示の回転シャフトを嵌挿するための貫通孔25が形成された略円筒状をなしている。なお、図中の符号35は、ロータコア15の軽量化を図るために形成された肉抜き凹部を示す。
【0036】
このロータコア15の外周縁部には、当該ロータコア15の軸方向から見て断面矩形状の永久磁石7が、矩形の長辺が径方向外側を向くように、周方向に離間して16個埋め込まれている。より具体的には、この永久磁石7は強磁性材であるネオジ鉄ボロンからなり、矩形板状に形成されていて、ロータコア15の外周縁部に形成された軸方向に延びる孔に挿入されている。これらの永久磁石7は、ロータコア15の軸方向から見て、2つ一組で径方向外側に行く程広がる略V字状に配置されており、これにより、ロータコア15の外周縁部には、一対の永久磁石7からなる略V字状の磁極が8つ形成されている。
【0037】
このように、本実施形態に係る同期電動機1では、一対の永久磁石7を略V字状に配置することで、ステータ巻線9を流れる電流と永久磁石7が発する磁束との相互作用によって生じるマグネットトルクに加えて、磁気的な突極性により発生するリラクタンストルクが作用することになり、大きなトルクが得られるようになっている。なお、この同期電動機1では、永久磁石7の磁極の数と、ステータ3の極数とが同数となっているが、これに限らず、永久磁石7の磁極の数とステータ3の極数とが異なってもよい。
【0038】
ここで、IPMモータにおいては、ステータ巻線9に負のd軸電流を流して永久磁石7の磁化方向と逆向きの磁束を発生させることで、永久磁石7の磁束を弱めて電位差を確保する弱め磁束制御が行われているところ、かかる弱め磁束制御によってステータ巻線9で作られる磁束は、永久磁石7の端部7aに集中し易い。このため、永久磁石7の端部7aでは、不可逆減磁が発生し易くなるとともに、磁束変化が大きくなって起電圧が誘起されることから、渦電流損失による局所的な自己発熱の原因となる渦電流が発生し易くなる。
【0039】
そこで、本実施形態に係る同期電動機1では、不可逆減磁や渦電流の発生を抑えるべく、
図2に示すように、各永久磁石7の周方向の両端部7aに、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aよりも高い透磁率を有する高透磁率部材17を、当該各端部7aに隣接して設けている。より詳しくは、高透磁率部材17は、矩形板状の本体部17aと、軸方向に延びる当該本体部17aの長辺側の両側縁部からそれぞれ当該本体部17aと垂直に延び且つ略径方向に対向する外周側壁部17b及び中心側壁部17cを有していて、ロータコア15の軸方向から見て断面コ字状に形成されており、当該各永久磁石7の周方向の端部7a(周方向の端面7b並びに周方向の端部における外周側の面7c及び中心側の面7d)を覆っている。
【0040】
そうして、永久磁石7の内部の透磁率は真空の透磁率μ
0と同等であり、且つ、高透磁率部材17はロータコア15を構成する電磁鋼板15aよりも高い透磁率を有することから、
図2の破線19で示すように、永久磁石7の端部7aに集中する磁束は、高透磁率部材17に優先的に流入する。換言すると、永久磁石7の周方向の両端部7aに隣接して設けられた高透磁率部材17は、ステータ巻線9で作られた磁束を優先的に通すバイパス磁路として機能し、これにより、永久磁石7の端部7aに流入する磁束が減少して、永久磁石7の端部7aにおける渦電流の発生が抑えられる。なお、高透磁率部材17は、永久磁石7の周方向の両端部7aを覆うように設けられている(より厳密には、後述するフラックスバリア47を介して電磁鋼板15aに接着されている)だけであり、異なる特性の磁石を複合化している訳ではないので、永久磁石7の全磁束量の低下等が生じることはない。
【0041】
ここで、高透磁率部材17としては、透磁率が高く且つ飽和磁束密度が高いものが望ましいが、透磁率及び飽和磁束密度の両方が高い材料は存在しない。よって、高透磁率部材17として用いる軟磁性材料は、同期電動機1のサイズや用途、要求される出力等に応じて適宜選択されることになるが、一応の目安としては比初透磁率μ
iが300以上であることが好ましい。そして、ある程度高い飽和磁束密度を確保するという観点から、高透磁率部材17は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることが特に好ましい。
【0042】
また、高透磁率部材17の厚さは、用いられる材料や同期電動機1の大きさ等によって大きく異なるため、一概には規定できないが、数十μm程度の被膜では足りず、少なくともミリ(mm)オーダーの厚さとすることが好ましい。
【0043】
さらに、
図2に示すように、高透磁率部材17の周方向の端面(端部)17dと、ロータコア15を構成する各電磁鋼板15aとの間には、両者の間に充填された非磁性樹脂(例えば、エポキシ樹脂接着剤)からなるフラックスバリア47が形成されている。このように、非磁性樹脂からなるフラックスバリア47を形成することで、高透磁率部材17が当該フラックスバリア47を介して電磁鋼板15aにしっかりと接着されることから、高透磁率部材17が永久磁石7に対してズレるのを抑えることができる。また、隣接する永久磁石7間では、
図3(a)の破線57で示すように、一方(図の例では右側)の永久磁石7の周方向の端部7aから他方(図の例では左側)の永久磁石7の周方向の端部7aに磁束が流入する磁束漏れが生じ易いところ、高透磁率部材17の周方向の端面17dと各電磁鋼板15aとの間にフラックスバリア47を形成することで、永久磁石7の周方向の端面7bがフラックスバリア47で囲まれることから、
図3(b)の破線67で示すように、永久磁石7からの磁束漏れを低減することができる。なお、本実施形態では、フラックスバリア47は断面略半円形に形成されているが、フラックスバリアの断面形状は、非磁性樹脂が充填される孔の形で決まるものであり、略半円形に限定されない。
【0044】
−効果−
本実施形態によれば、永久磁石7の周方向の端部7aに高透磁率部材17を隣接して設けることにより、換言すると、磁束を積極的に通すバイパス磁路を形成することにより、永久磁石7に流入する磁束を減少させて、ステータ巻線9で作られる磁束によって永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのを抑えることができる。よって、渦電流損失の発生を抑えて、モータの高効率化を図ることができる。
【0045】
また、永久磁石7にスリットを形成したり、電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせた複合磁石とは異なり、トルクの安定度を維持することができる。
【0046】
さらに、高透磁率部材17が、ステータ巻線9で作られる磁束が集中し易い各永久磁石7の周方向の端面7bのみならず、各永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7c及び中心側の面7dをも、覆っていることから、永久磁石7に流入する磁束をより一層確実に減少させて、永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのをより一層抑えることができる。
【0047】
また、高透磁率部材17の周方向の端面17dとロータコア15を構成する各電磁鋼板15aとの間にフラックスバリア47が形成されているので、ロータコア15に埋め込まれている永久磁石7に対して高透磁率部材17がズレるのを抑えることができるとともに、永久磁石7からの磁束漏れを低減することができる。
【0048】
(実施形態2)
本実施形態は、永久磁石7の形状、及び、高透磁率部材27の形状が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。なお、
図4では、図を見易くするために、フラックスバリア47を図示省略している。
【0049】
図4及び
図5に示すように、本実施形態に係る同期電動機1では、各永久磁石7は、ロータコア15の軸方向から見て、当該ロータコア15の径方向中心側に向いた長辺7fが下底に相当し且つ径方向外周側に向いた短辺7eが上底に相当する断面台形状に形成されている。
【0050】
これに対し、各高透磁率部材27は、ロータコア15の軸方向から見て、当該ロータコア15の径方向中心側に向いた短辺27aが上底に相当し且つ径方向外周側に向いた長辺27bが下底に相当する断面直角台形状に形成されている。この高透磁率部材27は、永久磁石7と同じ高さ(厚さ)を有していて、台形の脚に相当する傾斜面27cが、台形の脚に相当する永久磁石7の傾斜面7gを覆うように設けられている。そうして、高透磁率部材27の周方向の端面(端部)27dと、ロータコア15を構成する各電磁鋼板15aとの間には、両者の間に充填された非磁性樹脂からなるフラックスバリア47が、当該周方向の端面27dを覆うように形成されている。
【0051】
このように、永久磁石7をロータコア15の軸方向から見て断面台形状に形成して、永久磁石7の傾斜面7gを高透磁率部材27で覆うようにすれば、径方向から見た傾斜面7gの投影面積の分だけ、永久磁石7の外周側の面を高透磁率部材27によって覆うことができる。これにより、
図5の破線29で示すように、永久磁石7の端部7aに集中する磁束を、高透磁率部材27に優先的に流入させて、永久磁石7の端部7aに流入する磁束を減少させることができる。
【0052】
−効果−
本実施形態によれば、高透磁率部材27によって永久磁石7の外周側の面を広く覆うことができるので、簡単な構造で、永久磁石7に流入する磁束をより一層確実に減少させて、永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0053】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0054】
上記実施形態2では、高透磁率部材27をロータコア15の軸方向から見て断面直角台形状に形成して、その傾斜面27cで永久磁石7の傾斜面7gを覆うようにしたが、これに限らず、例えば、
図6に示すように、高透磁率部材37をロータコア15の軸方向から見て断面直三角形状に形成して永久磁石7の傾斜面7gを覆うようにしてもよい。このようにしても、
図6の破線39で示すように、永久磁石7の端部7aに集中する磁束を、高透磁率部材37に優先的に流入させて、永久磁石7の端部7aに流入する磁束を減少させることができる。
【0055】
さらに、上記各実施形態では、フラックスバリア47として、高透磁率部材17,27の周方向の端面17d,27dと、ロータコア15を構成する各電磁鋼板15aとの間に非磁性樹脂を充填したが、これに限らず、フラックスバリア47として、例えば、高透磁率部材17,27の周方向の端面17d,27dと、ロータコア15を構成する各電磁鋼板15aとの間に貫通孔(空隙)を形成してもよい。
【0056】
また、上記各実施形態では、永久磁石7を、ロータコア15の軸方向から見て、2つ一組で径方向外側に行く程広がる略V字状に配置したが、これに限らず、例えば、
図7に示すように、ロータコア15の軸方向から見て、その長手方向がロータコア15の周方向に沿うように永久磁石7を配置してもよい。なお、
図7では、図を見易くするために、後述するフラックスバリア47を図示省略している
。
【0057】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明は、ステータと、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータとを備えた同期電動機等について有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 同期電動機
3 ステータ
5 ロータ
7 永久磁石
7a 周方向の端部
7b 周方向の端面
7g 傾斜面(脚)
9 ステータ巻線
15 ロータコア
15a 電磁鋼板
17 高透磁率部材
17d 周方向の端面(周方向の端部)
27 高透磁率部材
27d 周方向の端面(周方向の端部)
37 高透磁率部材
47 フラックスバリア