特許第5751021号(P5751021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751021
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】イヤホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   H04R1/10 104B
   H04R1/10 104Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-120864(P2011-120864)
(22)【出願日】2011年5月30日
(65)【公開番号】特開2012-249184(P2012-249184A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】川▲原▼ 毅彦
【審査官】 鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−157814(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140087(WO,A1)
【文献】 特開2006−092482(JP,A)
【文献】 特表2009−525629(JP,A)
【文献】 実開平06−081849(JP,U)
【文献】 特開2005−312476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヤホンにおいて、
フロントキャビティを前方に設けた状態でスピーカを収納する第1の空間を内部に有するとともに、前記第1の空間を使用者の外耳道に連通させる第1の開口部が先端に設けられている本体部であって、前記第1の開口部付近に設けられた第2の開口部を介して前記第1の空間と連通する第2の空間を内部に有し、前記第2の空間を外部の空間に連通させる第3の開口部が設けられている本体部と、
前記第2の開口部と前記第3の開口部の少なくとも一方に対して開閉自在に設けられる蓋部と、
当該イヤホンが使用者の耳に装着された状態において外部の音を収音するマイクロホンと、
前記マイクロホンにより収音された音が予め登録された開放指示音であるか否かを判定し、前記開放指示音であると判定された場合には、前記蓋部を開いた状態とする開閉制御部と、を有し、
前記蓋部と前記開閉制御部は前記第2の空間内に設けられ
前記開閉制御部は、前記マイクロホンにより収音された音の音響的特徴と前記開放指示音の音響的特徴とが同一または類似である場合に、当該音は前記開放指示音であると判定する
ことを特徴とするイヤホン。
【請求項2】
イヤホンにおいて、
フロントキャビティを前方に設けた状態でスピーカを収納する第1の空間を内部に有するとともに、前記第1の空間を使用者の外耳道に連通させる第1の開口部が先端に設けられている本体部であって、前記第1の開口部付近に設けられた第2の開口部を介して前記第1の空間と連通する第2の空間を内部に有し、前記第2の空間を外部の空間に連通させる第3の開口部が設けられている本体部と、
前記第2の開口部と前記第3の開口部の少なくとも一方に対して開閉自在に設けられる蓋部と、
当該イヤホンが使用者の耳に装着された状態において外部の音を収音するマイクロホンと、
前記マイクロホンにより収音された音が予め登録された開放指示音であるか否かを判定し、前記開放指示音であると判定された場合には、前記蓋部を開いた状態とする開閉制御部と、を有し、
前記蓋部と前記開閉制御部は前記第2の空間内に設けられ、
前記開閉制御部は、前記マイクロホンにより収音された音に所定の電子透かし情報が重畳されている場合に、当該音は前記開放指示音であると判定する
ことを特徴とするイヤホン。
【請求項3】
前記開閉制御部は、前記開放指示音とは異なる閉鎖指示音が前記マイクロホンにより収音されたことを契機として前記蓋部を閉じることを特徴とする請求項1または2に記載のイヤホン。
【請求項4】
前記開閉制御部は、前記マイクロホンにより収音された音が前記開放指示音であるとの判定結果が得られてから所定時間が経過するまで前記蓋部を開いた状態とし、当該所定時間経過後に前記蓋部を閉じることを特徴とする請求項1または2に記載のイヤホン。
【請求項5】
前記開閉制御部は、前記マイクロホンにより収音された音は前記開放指示音であるとの判定結果が得られている間は、前記蓋部を開いた状態にしておくことを特徴とする請求項1または2に記載のイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イヤホンに関し、特に、外耳道に挿入して使用されるカナル型イヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、イヤホンの本体部(ハウジング部)は、フロントキャビティおよびバックキャビティを前後に設けた状態でスピーカを収納し、フロントキャビティに連通する開口部を先端に有している。この開口部からフロントキャビティへと至る上記本体部内の空間は、スピーカからフロントキャビティへ放射される音を使用者の外耳道へと案内する音道の役割を果たす。カナル型イヤホンとは、エラストマやシリコンゴムなどの軟性の弾性体により形成されたイヤーピースを上記本体部の先端に装着してなるものである。図9は、カナル型イヤホンの使用態様を示す図である。図9に示すように、カナル型イヤホンは、使用者の外耳道84にイヤーピースEPが押し込まれることによって当該使用者の耳に装着される。カナル型イヤホンのイヤーピースEPは軟性の弾性体で形成されているため、使用者の外耳道84へ押し込まれる過程でその外耳道84の形状に合わせて変形し外耳道84の壁面に密着する。
【0003】
カナル型イヤホンは、その装着の際にイヤーピースEPが使用者の外耳道84の壁面に密着するため、周囲への音漏れが少なく、また、周囲の音によって楽音の受聴が妨げられない、といった特徴を有している。しかし、音漏れが少なく周囲の音によって楽音の受聴が妨げられない、といったカナル型イヤホンの特徴は、その使用状況によっては欠点にもなり得る。例えば、百貨店などの商業施設においてカナル型イヤホンを用いて楽音を聴きながら買い物をしているような場合に、当該使用者を呼び出す旨の案内放送が為されても、その案内放送を聴き取ることができず、その呼び出しに応じることができない、といった具合である。
【0004】
特許文献1には、カナル型イヤホンの上記欠点を解消するための技術が開示されている。特許文献1に記載のイヤホンは、一端が外耳道に向って開口し他端が外部の空間に向って開口するチャネルと、当該チャネルの他端を開放または閉鎖する手段と、をハウジング部に有している。上記チャネルを開放することによって当該イヤホンの使用者は外部の音を聴くことができ、逆に、上記チャネルを閉鎖することによって、外部の音を遮断することができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−525629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術では、イヤホンの使用者はチャネルの開閉を手動で指示しなければならない。チャネルを閉鎖した状態では案内放送が為されても、当該使用者は案内放送がされていることを把握できず、チャネルの開放を指示することはできないため、結局、上記イヤホンの使用者は案内放送を聴き逃してしまう。また、何らかの方法により案内放送がされていることを把握できたとしても、案内放送の開始後にチャネルを開放するのでは、案内放送の冒頭部分を聴き逃してしまう。案内放送を確実に聴き取れるようにするには、案内放送の開始に先立ってチャネルを予め開放しておく必要があるが、何時案内放送が開始されるのかを事前に知ることはできない。上記チャネルを常時開放しておくのであれば、案内放送を聴き逃すことはないが、周囲の音によって再生音の聴取が阻害され、また、周囲への再生音の音漏れを防ぐことができない、といった問題が生じる。換言すれば、上記チャネルを常時開放しておくのであれば、最早、カナル型イヤホンを用いるメリットは殆どなくなってしまうのである。なお、カナル型イヤホンに周囲の音を収音するマイクロホンを設け、このマイクロホンにより収音された音をイヤホン内のスピーカから放音させることで、案内放送など聴取対象の外部音を聴き取れるようにすることも考えられる。しかし、このような態様では、イヤホンの使用者に聴こえる音は電気的な信号処理を経たものであるため、補聴器を用いている場合と同様に自然な感じが乏しく、その聴感に違和感が伴う場合がある。
本発明は以上に説明した課題に鑑みて為されたものであり、聴取対象として定めた外部音を違和感を伴わず、かつ確実に聴き取ることができるカナル型イヤホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、フロントキャビティを前方に設けた状態でスピーカを収納する第1の空間を内部に有するとともに、前記第1の空間を使用者の外耳道に連通させる第1の開口部が先端に設けられている本体部であって、前記第1の開口部付近に設けられた第2の開口部を介して前記第1の空間と連通する第2の空間を内部に有し、前記第2の空間を外部の空間に連通させる第3の開口部が設けられている本体部と、前記第2の開口部と前記第3の開口部の少なくとも一方に対して開閉自在に設けられる蓋部と、当該イヤホンが使用者の耳に装着された状態において外部の音を収音するマイクロホンと、前記マイクロホンにより収音された音が予め登録された開放指示音であるか否かを判定し、前記開放指示音であると判定された場合には、前記蓋部を開いた状態とする開閉制御部と、を有し、前記蓋部と前記開閉制御部は前記第2の空間内に設けられていることを特徴とするイヤホンを提供する。
【0008】
このようなイヤホンの本体部の先端に、使用者の外耳道の形状に合わせて変形するように軟性の弾性体により形成されたイヤーピースを装着してなるカナル型イヤホンでは、上記マイクロホンによって開放指示音が収音されたことを契機として蓋部が開かれる。蓋部が開いた状態では、上記使用者の外耳道は第1、第2および第3の開口部を介して外部の空間と連通するため、当該使用者は外部音を聴き取ることができる。百貨店や駅、列車内などにおける案内放送では、その放送開始に先立って予め定められた予告音が放送されることが多い。したがって、百貨店や駅、列車内などにおける案内放送を聴取対象の外部音とする場合には、上記予告音を開放指示音として定めておくことで、当該イヤホンの使用者はその予告音に後続する案内放送を確実に聴き取ることができる。また、蓋部が開いた状態において上記イヤホンの使用者が聴き取る外部音は、電気的な信号処理を経たものではないため、特段の違和感も伴はない。
【0009】
マイクロホンにより収音された音が開放指示音であるか否かの判定をどのように行うのかについては種々の態様が考えられる。例えば、マイクロホンにより収音された音の音響的特徴と開放指示音の音響的特徴とが同一である場合または類似する場合にマイクロホンにより収音された音を開放指示音であると判定する、といったように、音声認識を利用して上記判定を行う態様が考えられる。駅や百貨店などにおける案内放送を聴取対象の外部音とし、その放送開始を報知する予告音を開放指示音とする場合には、当該予告音の音響的特徴を示すデータを開放指示音と他の音とを識別するための開閉指示音識別データとして予め登録しておき、マイクロホンにより収音された音についての上記音響的特徴を示すデータと開閉指示音識別データとを比較することで上記判定が実現される。ここで、上記音響的特徴を示すデータとしては、音波形を示す波形データや振幅スペクトルを示すデータ、ピッチカーブを示すピッチカーブデータなどを用いることが考えられる。また、開放指示音をイヤホンの使用者の所望に応じて登録することができるようにするため、開放指示音を録音し当該開放指示音についての開放指示音識別データを生成して登録する処理を使用者の指示に応じて実行する開閉指示音登録部をさらに設けても勿論良い。
【0010】
マイクロホンにより収音された音が開放指示音であるか否かについての判定の別の実現態様としては、マイクロホンにより収音された音に所定の電子透かし情報が重畳されている場合に開放指示音であると判定する態様が考えられる。一般に電子透かし情報は頑健性が高く、ノイズに強いといった特徴がある。したがって、このような態様によれば、雑音が大きい場所においても開放指示音を正確に検出することができると期待される。また、開放指示音を示す電子透かし情報をイヤホンの使用者に適宜登録させることができるようにするため、当該電子透かし情報(或いは当該電子透かし情報が重畳された音)を使用者の指示に応じて登録する開閉指示音登録部をさらに設けるようにしても勿論良い。
【0011】
マイクロホンによる開放指示音の収音を契機として開いた蓋部をどのようにして閉じるのかについても種々の態様が考えられる。具体的には、開放指示音とは別個に定めた閉鎖指示音の収音を契機として蓋部を閉じる態様が考えられる。例えば、予め定められた予告音によって放送開始が報知され、この予告音とは異なる終了音によって放送終了が報知される案内放送を聴取対象の外部音とする場合には、上記予告音を開放指示音とし、上記終了音を閉鎖指示音として定めておけば良い。
【0012】
また、開放指示音の収音を契機として蓋部を開いた時点から計時を開始し、所定時間が経過した時点で蓋部を閉じる態様も考えられる。駅や列車内にて放送される到着案内や通過案内のように、予め定められた予告音によって放送開始が報知されるものの、終了音による放送終了の報知が為されない場合もあるからである。さらに、開放指示音が収音されている間は蓋部を開いておき、開放指示音が収音されなくなったことを契機として蓋部を閉じる態様も考えられる。予告音による放送開始の報知が為されず、終了音による放送終了の報知も為されない場合もあるからである。このように放送開始および終了が報知されない場合であっても、聴取対象の外部音にそのものを開放指示音とする(例えば、聴取対象の外部音に上記電子透かし情報が重畳されている場合や、交差点等における誘導音を聴取対象とし、この誘導音を開放指示音とする場合など)態様であれば、当該聴取対象の外部音を本発明のイヤホンの使用者に違和感を伴うことなく確実に聴き取らせることができる。
【0013】
さらに別の好ましい態様としては、前記開閉制御部としてラッチ型ソレノイドなどのラッチ型アクチュエータを用いる態様が考えられる。詳細については後述するが、このような態様によれば蓋部を開くとき、或いは蓋部を閉じるときだけ上記ラッチ型アクチュエータを通電させれば良く、蓋部を閉じた状態或いは同蓋部を開いた状態の維持に電力を要しない、といった利点があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態のイヤホン1Aの外観および使用態様を示す図である。
図2】同イヤホン1Aの本体部10の構成を示す断面図である。
図3】同本体部10に収納されるラッチ型ソレノイド310の構成および動作を模式的に示した図である。
図4】同ラッチ型ソレノイド310に対する通電制御を行うコントローラ320の構成例を示す図である。
図5】同コントローラ320の不揮発性記憶部3242に記憶されている識別データテーブル3242bのテーブルフォーマットの一例を示す図である。
図6】同コントローラ320のCPU3210が開閉制御プログラム3242aにしたがって実行する開閉指示音登録処理の流れを示すフローチャートである。
図7】同CPU3210が開閉制御プログラム3242aにしたがって実行する開閉制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8】本発明の変形例を説明するための図である。
図9】カナル型イヤホンの使用態様を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
<A:第1実施形態>
<A−1:構成>
図1は、本発明の第1実施形態のイヤホン1Aの外観および使用態様を示す図である。
イヤホン1Aはカナル型イヤホンであり、図1に示すように、従来のカナル型イヤホン(図9参照)と同様にイヤーピースEPを使用者の外耳道84に押し込むようにして当該使用者の左右の耳に装着される。図1には、使用者の左右の耳のうちの一方に対する装着態様が示されている。図1に示すように、イヤホン1Aは、本体部10と、この本体部10の先端に装着されるイヤーピースEPと、このイヤーピースEPが使用者の外耳道84に挿入された状態において外部の周囲の音を収音するマイクロホンMとを有しており、本体部10には信号線を介して楽音再生装置(図示略)から左右の何れか一方のチャネルのオーディオ信号が供給される。イヤーピースEPは、エラストマやシリコンゴムなどの弾性体で形成されている。イヤーピースEPは、使用者の外耳道84に押し込まれる過程において当該外耳道84の形状に合わせて変形し当該外耳道84の壁面に密着する。また、本体部10およびマイクロホンMには、イヤホン1Aの作動制御を行うコントローラ320が接続される。
【0016】
図2(A)および図2(B)は、図1のXX´線におけるイヤホン1Aの断面を示す断面図である。図2(A)および図2(B)に示すように、本体部10内部は、大きく2つの空間に区画されている。これら2つの空間のうちの一方(以下、第1の空間)には、フロントキャビティ110およびバックキャビティ120を前後に設けた状態でスピーカSPが収納される。図2(A)および図2(B)に示すように、本体部10の先端部には、上記第1の空間を使用者の外耳道に連通させる開口部130(第1の開口部)が設けられている。上記第1の空間のうちフロントキャビティ110から開口部130に至る部分と開口部130はスピーカSPの音振動をイヤホン1Aの使用者の外耳道へと案内する音道86の役割を果たす。本体部10において上記第1の空間と他方の空間(以下、第2の空間)とを仕切る部材には両空間を連通させる開口部170(第2の開口部)が開口部130の近傍に設けられている。さらに、本体部10の筐体には、上記第2の空間を外部の空間に連通させる開口部160(第3の開口部)が設けられている。この第2の空間には、開口部160に対して開閉自在に設けられた蓋部20と、この蓋部20の開閉を行うラッチ型ソレノイド310とが収納される。
【0017】
図2(A)は、蓋部20を閉じて開口部160を塞いだ状態のイヤホン1Aの断面を示す図であり、図2(B)は、蓋部20によって開口部160が塞がれていない状態(以下、「開口部160が開いた状態」と呼ぶ)のイヤホン1Aの断面を示す図である。本実施形態では、ラッチ型ソレノイド310によって蓋部20を図2(A)における矢印MA方向、または図2(B)における矢印MB方向にスライドさせることで開口部160の開閉が行われる。
【0018】
例えば、図2(A)に示すように、開口部160が蓋部20によって塞がれている状態においては、蓋部20を同図2(A)の矢印MA方向にスライドさせることによって、開口部160が開いた状態へと遷移せることができる。逆に、図2(B)に示すように、開口部160が開いた状態においては、蓋部20を同図2(B)の矢印MB方向にスライドさせることによって、開口部160を蓋部20によって閉じた状態へと遷移せることができる。本実施形態では、開口部160が閉じた状態では、図2(A)に示すように、蓋部20によって開口部170も塞がれ、開口部160が開いた状態では、図2(B)に示すように、開口部170も開放される。このため、図2(B)に示すように、開口部160が開いた状態では、上記第1の空間(すなわち、フロントキャビティ110および開口部130とともに音道86の役割を果たす空間)は開口部170および160を介して外部の空間に連通する。イヤホン1Aが使用者の耳に装着された状態(すなわち、イヤーピースEPが使用者の外耳道84に押し込まれた状態)において開口部160を開いた状態にすると、イヤホン1Aの使用者の鼓膜、同外耳道、イヤーピースEP、音道86およびフロントキャビティ110により区画される空間は、開口部130、開口部170および開口部160を介して外部の空間と連通する。このように、開口部160を開いた状態では使用者の外耳道は開口部130、170および160を介して外部の空間と連通するため、当該使用者は周囲の音を聴き取ることができる。逆に、開口部160が閉じた状態としておけば、イヤホン1Aの使用者の鼓膜、同外耳道、イヤーピースEP、音道86およびフロントキャビティ110により区画される空間は外部の空間から遮断され、当該使用者は周囲の音を聴き取ることはできない。つまり、本実施形態では、蓋部20の開閉によって、周囲の音を聴き取れる状態と、周囲の音から遮断された状態とが切り換えられるのである。
【0019】
図3は、ラッチ型ソレノイド310の構成および動作を模式的に示した図である。
図3に示すように、ラッチ型ソレノイド310の構成および機能は一般的なラッチ型ソレノイドと何ら変るところはない。具体的には、ラッチ型ソレノイド310は、図3に示すように、プランジャ310a、付勢部材310b、励磁コイル310c、固定鉄芯310d、および永久磁石310eを含んでいる。
【0020】
励磁コイル310cはコントローラ320による制御の下で通電し、固定鉄芯310dとともに電磁石として機能する。固定鉄芯310dは軸方向の長さが励磁コイル310cよりも短く、励磁コイル310cの一端から永久磁石310eの厚みの分だけ突出するように励磁コイル310cに挿入されている。永久磁石310eは、励磁コイル310cの外径と略同一の外径を有し、かつ励磁コイル310cの内径と略同一の内径を有するドーナッツ型永久磁石である。本実施形態では、永久磁石310eの2つのドーナッツ状の面のうち一方がN極、他方がS極となっている。この永久磁石310eは、図3に示すように、一方のドーナッツ面(本実施形態では、N極側の面)が励磁コイル310cに接するように固定鉄芯310dにはめ込まれている。
【0021】
このような構成としたため、図3に示すラッチ型ソレノイド310においては、例えば図3(A)に示す向きの電流を励磁コイル310cに通電させることによって永久磁石310eの磁場と同じ方向の磁場を上記電磁石に発生させ、逆向きの電流(図3(B)参照)を励磁コイル310cに通電させることによって、永久磁石310eの磁場を相殺する方向の磁場を上記電磁石に発生させることができる。本実施形態では、永久磁石310eとして一方のドーナッツ面がN極、他方のドーナッツ面がS極となっているドーナッツ型永久磁石を用いたが、例えば外周面が一方の磁極になっており、内周面が他方の磁極となっているドーナッツ型永久磁石を永久磁石310eとして用いても良い。このような構成のドーナッツ型永久磁石であっても、励磁コイル310cに通電させる電流の方向によって、当該永久磁石の磁場と同じ方向、或いは相殺する方向の磁場を励磁コイル310cに発生させることができるからである。
【0022】
付勢部材310bは、励磁コイル310cの内径よりもやや大きな内径を有する弦巻ばねである。プランジャ310aは、励磁コイル310cの内径よりもやや小さい直径を有する円筒状のプランジャ軸と、励磁コイル310cの内径よりもやや大きい直径を有する扁平な円筒状の頭部と、により構成されている。このプランジャ310aは例えば鉄などの強磁性材料により形成されている。プランジャ310aの頭部は蓋部20に連接されており、同プランジャ軸は付勢部材310bを介して励磁コイル310cに挿入されている。図3に示すように、付勢部材310bはプランジャ310aの頭部と励磁コイル310cに挟まれている。
【0023】
プランジャ310aは強磁性材料で形成されているため、永久磁石310eにより形成される磁場と同じ方向の磁場を励磁コイル310cに発生させると、プランジャ310aは、永久磁石310eおよび上記電磁石による磁力によって吸引されて付勢部材310bを押し縮め、固定鉄芯310dに吸着する(図3(A)参照)。したがって、蓋部20が閉じた状態から開いた状態に遷移させる際には、永久磁石310eにより形成される磁場と同じ方向の磁場を励磁コイル310cに発生させる電流を励磁コイル310cに通電させれば良い。本実施形態では、永久磁石310eによる磁力のほうが付勢部材310bによる付勢力を上回るように構成されている。このため、プランジャ310aが固定鉄芯310dに吸着した状態で励磁コイル310cに流れる電流をオフにしても、プランジャ310aは固定鉄芯310dに吸着されたままの状態となる。
【0024】
これに対して、プランジャ310aが固定鉄芯310dに吸着した状態において、永久磁石310eにより形成される磁場を相殺する方向の磁場を励磁コイル310cに発生させると、付勢部材310bが自然長となるまで伸張し、その付勢力によってプランジャ310aを復位させる(図3(B)参照)。したがって、蓋部20が開いた状態から閉じた状態に遷移させる際には、永久磁石310eにより形成される磁場を相殺する方向の磁場を励磁コイル310cに発生させる電流を励磁コイル310cに通電させれば良い。そして、付勢部材310bが自然長まで伸びきった後は、励磁コイル310cに流れる電流をオフにしてもこの状態が維持されるのである。つまり、本実施形態のイヤホン1Aにおいては、蓋部20を開けるとき、または同蓋部20を閉じるときのみ励磁コイル310cを通電させればよく、電力の消費を伴わずに蓋部20を開いた状態、または同蓋部20を閉じた状態を維持することができるのである。
【0025】
図4は、ラッチ型ソレノイド310の通電制御を行うコントローラ320の構成例を示す図である。このコントローラ320は、例えばボリュームコントローラなどとともに、楽音再生装置と本体部10とを接続するケーブル上に設けられる。図4に示すように、コントローラ320は、CPU(Central Processing Unit)3210、インタフェース部3220、操作部3230、記憶部3240、およびこれら構成要素間のデータ授受を仲介するバス3250を含んでいる。インタフェース部3220には、マイクロホンMとラッチ型ソレノイド310とが接続される。操作部3230は、各種ボタンなどの操作子を備えており、それら操作子に対して為された操作内容を示すデータをCPU3210に与える。これにより、イヤホン1Aの使用者が操作部3230に対して行った操作の内容がCPU3210に伝達される。
【0026】
記憶部3240は、図4に示すように、不揮発性記憶部3242と揮発性記憶部3244とを含んでいる。不揮発性記憶部3242は、ROMなどのデータの書き換えができない不揮発性メモリとEEPROMなどのデータの書き換えが可能な不揮発性メモリとを含んでいる。不揮発性記憶部3242には、開閉制御プログラム3242aと、識別データテーブル3242bとが格納されている。より詳細に説明すると、開閉制御プログラム3242aはROMなどデータの書き換えができない不揮発性メモリに格納されており、識別データテーブル3242bはEEPROMなどデータの書き換えが可能な不揮発性メモリに格納されている。
【0027】
揮発性記憶部3244は、例えばRAMにより構成されており、開閉制御プログラム3242aを実行する際のワークエリアとしてCPU3210によって利用される。また、この揮発性記憶部3244には、開閉制御プログラム3242aの実行過程で参照されるデータとして状態フラグが格納される。状態フラグは0または1の何れかの値を有するデータである。本実施形態では、状態フラグの値が0であれば蓋部20が閉じた状態であることを示し、同フラグの値が1であれば蓋部20が開いた状態であることを示す。詳細については後述するが本実施形態では、開閉制御プログラム3242aにしたがって蓋部20を開閉する処理がCPU3210によって実行され、蓋部20の開閉に同期させて上記状態フラグの値がCPU3210によって書き換えられる。
【0028】
開閉制御プログラム3242aは、図4に示すように、開閉制御処理と開閉指示音登録処理とをCPU3210に実行させるためのプログラムである。開閉制御処理とは、マイクロホンMにより収音された音が蓋部20の開放を指示するものとして予め定められた開放指示音、または同蓋部20の閉鎖を指示するものとして予め定められた閉鎖指示音であるか否かを判定し、その判定結果に応じてラッチ型ソレノイド310の通電制御(すなわち、蓋部20の開閉)を行う処理である。なお、以下では、開放指示音と閉鎖指示音の両者を合わせて「開閉指示音」と総称する場合がある。
【0029】
開閉指示音登録処理とは、開閉指示音の登録をイヤホン1Aの使用者に行わせるための処理である。本実施形態では、開閉指示音を示すデータとして、開閉指示音と他の音とを識別するためのデータである開閉指示音識別データと、その開閉指示音が開放指示音であるのかそれとも閉鎖指示音であるのかを示す開閉指示子と、が用いられる。開閉指示音登録処理とは、イヤホン1Aの使用者により与えられる指示に応じて開閉指示音識別データと開閉指示子とを対応付けて識別データテーブル3242bに書き込む処理であり、これにより、開閉指示音の登録が実現される。
【0030】
図5は、識別データテーブル3242bのテーブルフォーマットの一例を示す図である。図5に示すように、識別データテーブル3242bには、IDと開閉指示音識別データと開閉指示子とが互いに対応付けられて格納される。IDとは開閉指示音の登録順に付与される一連番号である。開閉指示音識別データとしてどのようなデータを用いるかについては種々の態様が考えられる。例えば、開閉指示音の時間波形を示す波形データや周波数領域における振幅スペクトラムを示すデータ、或いは開閉指示音におけるピッチの時間変化(或いは音階の時間変化)など音楽的な特徴に関するデータ、開閉指示音の音量に関する所定の音量範囲を示すデータなど、開閉指示音の音響的特徴を示すデータを開閉指示音識別データとして用いることが考えられる。
【0031】
百貨店などの商業施設における案内放送では、案内放送の開始に先立ってその開始を報知するために予め定められた予告音(例えば、音階が徐々に上昇してゆく「ド・ミ・ソ・ド」というメロディの音)が放音され、案内放送の終了後にその終了を報知するために予め定められた終了音(例えば、音階が徐々に下降してゆく「ド・ソ・ミ・ド」というメロディの音)が放送されることが一般的である。したがって、百貨店などの商業施設における案内放送を聴取対象の外部音とする場合には、図5に示すように、上記予告音を開放指示音として登録し、同終了音を閉鎖指示音として登録しておけば良い。開放指示音たる予告音の収音を契機として蓋部20が開かれるため、この予告音に後続する案内放送を聴き逃すことがなくなるからである。なお、図5に示す例では、開閉指示音識別データとしてピッチカーブデータを用いる場合について例示されている。また、図5に示す例では、開閉指示子として0または1が用いられている。本実施形態では、値が0である開閉指示子は開放指示音を示し、値が1である開閉指示子は閉鎖指示音を示す。
以上がイヤホン1Aの構成である。
【0032】
<A−2:動作>
以下、図5に示すように百貨店など商業施設における案内放送の予告音を開放指示音とする一方、同終了音を閉鎖指示音とし、かつ開閉指示音識別データとしてピッチカーブデータを用いる場合を例にとって、開閉制御プログラム3242aにしたがってCPU3210が実行する動作を説明する。
【0033】
開閉制御プログラム3242aにしたがって作動しているCPU3210は、操作部3230に対する操作により開閉指示音登録処理の開始を指示されると当該開閉指示音登録処理の実行を開始し、開閉制御処理の開始を指示されると、当該開閉制御処理の実行を開始する。
【0034】
(A−2−1:開閉指示音登録処理における動作)
図6は、開閉指示音登録処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように開閉指示音登録処理では、CPU3210は、イヤホン1Aの使用者により指示された期間内にマイクロホンMから出力される音信号にA/D変換を施して得られる波形データ(波形を表すサンプル列)を揮発性記憶部3244に書き込むことで登録対象の開閉指示音の録音を行う(ステップSA100)。次いで、CPU3210は、ステップSA100にて揮発性記憶部3244に書き込んだ音データに対して音声認識処理を施し、開閉指示音識別データを生成する(ステップSA110)。
【0035】
前述したように、本実施形態では、開閉指示音識別データとしてピッチカーブデータが用いられる。このため、CPU3210は、ステップSA100にて揮発性記憶部3244に書き込んだ波形データに対してピッチ抽出処理を施してピッチカーブデータを生成し、このピッチカーブデータを開閉指示音識別データとする。なお、開閉指示音識別データとして波形データを用いる場合には、ステップSA100にて揮発性記憶部3244に書き込んだ波形データそのもの(或いは、当該波形データに対して雑音を除去するフィルタ処理(ハイパスフィルタ処理やローパスフィルタ処理など)を施して得られる波形データ)を開閉指示音識別データとして用いれば良い。また、開閉指示音識別データとして振幅スペクトラムを表すデータを用いる場合には、ステップSA100にて揮発性記憶部3244に書き込んだ波形データにFFTを施して得られるデータを開閉指示音識別データとして用いれば良い。
【0036】
そして、CPU3210は、ステップSA100にて録音した音を開放指示音として登録する旨の操作が操作部3230に対して為された場合には、ステップSA110にて生成した開閉指示音識別データに値が0である開閉指示子を対応付け、さらにその登録順を示すIDを付与して識別データテーブル3242bに書き込む。逆に、閉鎖指示音として登録する旨の操作が為された場合には、CPU3210は、同開閉指示音識別データに値が1である開閉指示子を対応付け、さらにIDを付与して識別データテーブル3242bに書き込む(ステップSA120)。
これにより開閉指示音の登録が完了するのである。
【0037】
百貨店など商業施設における案内放送の予告音を開放指示音として登録し、同終了音を閉鎖指示音として登録する場合には、イヤホン1Aの使用者は、まず、操作部3230を操作して開閉指示音登録処理の開始を指示する。次いで、上記使用者は、予告音(或いは終了音)が放音されている期間を指定してその録音を指示し、その録音完了後に、当該録音した音を開放指示音(或いは閉鎖指示音)として登録する旨の指示を操作部330を介して与える。これにより上記予告音(或いは終了音)が開放指示音(或いは閉鎖指示音)として登録されるのである。そして、開放指示音および閉鎖指示音の登録が完了すると、イヤホン1Aの使用者は操作部330に対する操作により開閉制御処理に開始を指示する。
【0038】
(A−2−2:開閉制御処理における動作)
開閉制御処理の実行を指示されたCPU3210は、マイクロホンMの出力信号にA/D変換を施し、このA/D変換により得られたサンプル列を揮発性記憶部3244内の所定領域に順次書き込む処理を実行する。そして、CPU3210は、上記所定領域に蓄積されたサンプル数が上記予告音(或いは終了音)の時間長に応じた数に達すると図7に示す開閉制御処理を実行し、以降、所定数のサンプル(予告音や終了音の時間長よりも充分短い時間に対応するサンプル)が書き込まれる度に、図7に示す開閉制御処理を実行する。
【0039】
図7に示すように、CPU3210は、まず、マイクロホンMにより収音された音が開放指示音であるのか、それとも閉鎖指示音であるのか、またはそれらの何れでもないのかを判定するための判定対象データとして、開閉指示音識別データと同じ音響的特徴を示すデータを当該開閉制御処理の実行開始時点から上記所定時間長だけ前の時間区間に対するサンプル列に音声認識処理を施して生成する(ステップSB100)。前述したように、本実施形態では、開閉指示音識別データとしてピッチカーブを示すピッチカーブデータが用いられている。このため、CPU3210は、上記判定対象データとして、マイクロホンMにより収音された音の上記所定時間分のピッチカーブを示すピッチカーブデータを生成する。これは、判定対象データと開閉指示音識別データとの比較により、マイクロホンMにより収音された音が、開閉指示音であるのか否かを判定するためである。
【0040】
次いで、CPU3210は、ステップSB100にて生成した判定対象データを検索キーとして識別データテーブル3242bを検索し、その検索結果に基づいて、マイクロホンMにより収音された音が開放指示音であるのか、閉鎖指示音であるのか、またはそれらの何れでもないのかを判定する(ステップSB110)。より詳細に説明すると、CPU3210は、判定対象データの示すピッチカーブと同一のまたは類似のピッチカーブを示す開閉指示音識別データが識別データテーブル3242bに格納されていないという検索結果が得られた場合には、当該判定対象データの示す音は開放指示音ではなく、閉鎖指示音でもないと判定する。ここで、判定対象データの示すピッチカーブと類似するピッチカーブとは、少なくとも一部が判定対象データの示すピッチカーブと一致するピッチカーブのことを言う。
【0041】
逆に、判定対象データの示すピッチカーブと同一のまたは類似のピッチカーブを示す開閉指示音識別データが識別データテーブル3242bに格納されているという検索結果が得られた場合には、CPU3210は、当該開閉指示音識別データに対応付けて識別データテーブル3242bに格納されている開閉指示子を取得する。そして、CPU3210は、当該開閉指示子の値が0であれば、上記判定対象データの示す音は開放指示音である、と判定し、逆に、当該開閉指示子の値が1であれば、上記判定対象データの示す音は閉鎖指示音である、と判定するのである。
【0042】
ステップSB110にて開放指示音であると判定された場合には、CPU3210は揮発性記憶部3244に格納されている状態フラグを参照し、蓋部20が閉じているか否かを判定する(ステップSB120)。より詳細に説明すると、CPU3210は状態フラグの値が0であれば蓋部20は閉じていると判定し、逆に、状態フラグの値が1であれば蓋部20は開いていると判定する。そして、CPU3210は、蓋部20が閉じていると判定した場合(すなわち、ステップSB120の判定結果が“Yes”)である場合にのみ、蓋部20が開いた状態となるようにラッチ型ソレノイド310の通電制御を行い(ステップSB130)、状態フラグの値を1(すなわち、蓋部20が開いていることを示す値)に書き換える。つまり、開放指示音が収音された時点において蓋部20が閉じていれば、その収音を契機として蓋部20が開かれ、開放指示音の収音時点で既に蓋部20が開いていたのであれば、特段の処理は実行されない。以降、CPU3210は、ステップSB160の処理を実行する。このステップSB160では、CPU3210は操作部3230に対して開閉制御処理の終了を指示する操作が為されたか否かを判定する。ステップSB160の判定結果が“No”であれば、CPU3210はステップSB100以降の処理を実行し開閉制御処理を継続する一方、ステップSB160の判定結果が“Yes”であれば、開閉制御処理を終了する。
【0043】
ステップSB110にて閉鎖指示音であると判定された場合には、CPU3210は上記状態フラグを参照し、蓋部20が開いているか否か(すなわち、状態フラグの値が1であるか否か)を判定する(ステップSB140)。そして、CPU3210は、蓋部20が開いていると判定した場合(すなわち、ステップSB140の判定結果が“Yes”である場合)にのみ、蓋部20が閉じた状態となるようにラッチ型ソレノイド310の通電制御を行い(ステップSB150)、状態フラグの値を0(すなわち、蓋部20が閉じていることを示す値)に書き換える。つまり、閉鎖指示音が収音された時点において蓋部20が開いていたのであれば、その収音を契機として蓋部20が閉じられ、閉鎖指示音の収音時点で既に蓋部20が閉じた状態であれば、特段の処理は実行されない。以降、CPU3210は、前述したステップSB160の処理を実行する。
【0044】
ステップSB110にてその他の音であると判定された場合(すなわち、開放指示音ではなく、閉鎖指示音でもないと判定された場合)には、CPU3210は、前述したステップSB160の処理のみを実行する。つまり、マイクロホンMにより収音された音が開放指示音ではなく、また、閉鎖指示音でもない場合には蓋部20の開閉制御は行われず、その時点の状態が維持されるのである。
以上が本実施形態における開閉制御処理の詳細である。
【0045】
前述したように、百貨店などの商業施設における案内放送では、案内放送の開始に先立ってその開始を報知する予告音が放音され、案内放送の終了後にその終了を報知する終了音が放送されることが一般的である。このため、百貨店などの商業施設における案内放送に先立って放送される予告音が開放指示音として予め登録されていれば、イヤホン1Aの使用者が上記商業施設においてイヤホン1Aを装着して楽音を聴きながら何らかの買い物を行っていたとしても、当該予告音の収音を契機として蓋部20が開かれるため、当該予告音に後続する案内放送を聴き逃すことはない。また、閉鎖指示音として登録された終了音の収音を契機として蓋部20は再び閉じられるため、案内放送終了後は周囲の音に煩わされることなく楽音の聴取を楽しむことができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、蓋部20を閉じて楽音等を聴いている状態であっても、予め定められた開放指示音の収音を契機として蓋部20が開けられ、その開放指示音に後続する案内放送を聴き逃すことはない。また、蓋部20が開いた状態では、イヤホン1Aの使用者は、開口部160、開口部170および開口部130を介して聴取対象の案内放送を直接聴き取るため、マイクロホンMにより収音した聴取対象音をスピーカSPにより電気的に再生する場合に比較してより自然に近い状態でその聴取対象音を聴くことができるのである。なお、本実施形態では、蓋部20の開閉によって、開口部160が開いている状態では開口部170も開いている状態とし、開口部160が閉じている状態では開口部170も閉じている状態としたが、開口部160と開口部170の何れか一方を蓋部20により開閉し、他方を常時開けておく態様によっても、本実施形態と同一の効果が得られる。
【0047】
<B:第2実施形態>
上述した第1実施形態では、開放指示音として定められた音の収音を契機として蓋部20を開き、閉鎖指示音として定められた音の収音を契機として蓋部20を閉じる開閉制御処理をCPU3210に実行させた。これに対して、本実施形態では、開放指示音として定められた音の収音を契機として蓋部20を開くようにラッチ型ソレノイド310の通電制御を行うとともに計時を開始し、当該計時を開始してから所定時間が経過した時点(換言すれば、開放指示音を検知してから所定時間が経過した時点)において蓋部20を閉じるラッチ型ソレノイド310の通電制御を行うようにした点が上記第1実施形態と異なる。このように、蓋部20を開いてから所定時間が経過した時点において蓋部20を閉じることとした理由は以下の通りである。
【0048】
駅のプラットホームなどで流れる電車の通過(或いは到着)を報知する案内放送においては、予告音によって放送開始が報知されるものの、終了音は流れないことが一般的である。このように、予告音によって聴取対象の放送開始が報知されるものの、その放送終了が報知されない場合には、第1実施形態にて説明した態様では、案内放送の終了に同期させて蓋部20を閉じることができず、蓋部20が開いたままの状態となる。蓋部20が開いたままでは、周囲の音によって楽音の聴取が阻害され、また、周囲への音漏れも発生する。このため、イヤホンの使用者は、開放指示音の収音を契機として蓋部20が開かれる度に、案内放送の終了時点において蓋部20をその都度手動で閉じなければならず、極めて煩雑である。
【0049】
これに対して、本実施形態によれば、開放指示音によって放送開始が報知されるものの、閉鎖指示音が放音されない場合であっても、開放指示音の収音から所定時間が経過した時点でCPU3210によって蓋部20が自動的に閉じられるため、上記煩雑さを解消することができる。また、上記所定時間を聴取対象の案内放送の時間長(複数種の案内放送を聴取対象とする場合には、それらのうちの最長の時間長)に応じて定めておけば、案内放送の末尾部分を聴き逃す虞もない。以上が蓋部20を開いてから所定時間が経過した時点において蓋部20を閉じることとした理由である。
【0050】
このように本実施形態によれば、開放指示音によって案内放送の開始が報知されるものの、その終了が報知されない場合であっても、その放送終了後の楽音の聴取を妨げることなく、かつ音漏れを防止しつつ、その案内放送を聴き逃さないようにすることが可能になる。なお、上記第1実施形態では、開閉指示音識別データに対応付ける開閉指示子として開放指示音を表す値(0)のものと、閉鎖指示音を表す値のもの(1)の2種類を用いたが、所定時間経過後に蓋部を閉じる処理の実行を伴う開放指示音であることを表す値(例えば、3)のものを追加しても良い。つまり、判定対象データを検索キーとした検索により取得された開閉指示子の値が3であれば、マイクロホンMにより収音された音は開放指示音であると判定して蓋部20を開き、その収音から所定時間経過後に蓋部20を閉じる処理をCPU3210に実行させるのである。このような態様によれば、上述した第1実施形態における蓋部20の開閉制御と本実施形態における蓋部20の開閉制御とを併用することが可能になる。
【0051】
<C:第3実施形態>
上述した第1実施形態では予告音および終了音を開閉指示音として蓋部20の開閉制御を行い、第2実施形態では予告音のみを開閉指示音として蓋部20の開閉制御を行った。これに対して、本実施形態では予め定められた電子透かし情報を開閉指示音識別データとして用い、所定の周波数帯域(例えば、18kHzよりも上の周波数帯域)に当該開閉指示音識別データが重畳された音が収音されている間は蓋部20を開いた状態とする開閉制御処理をCPU3210に実行させるようにした点が上記第1および第2実施形態と異なる。換言すれば、本実施形態においては、上記開閉指示音識別データの役割を果たす電子透かし情報を埋め込まれた聴取対象音声そのものが開閉指示音となるのである。
【0052】
このような態様によれば、案内放送等に上記電子透かし情報が予め重畳されているのであれば、予告音や終了音を伴わずにその案内放送が行われたとしても、その放送終了後の楽音の聴取を妨げることなく、かつ音漏れを防止しつつ、その案内放送を聴き逃さないようにすることが可能になる。また、電子透かし情報は頑健性が高く、雑音に強いといった特徴を有しているため、本実施形態によれば、雑音が多い環境下においても本実施形態のイヤホンの使用者に聴取対象の音を確実に聴き取らせることが可能になる。なお、所定の電子透かし情報が重畳された音を聴取対象とし、当該電子透かし情報を開閉指示音識別データとして用いる場合には、開閉指示音登録処理においては、当該電子透かし情報が重畳された音を録音し、当該音の音データそのもの(或いは当該音データから抽出される電子透かし情報)に開閉指示子を対応付けて識別データテーブル3242bに書き込むようにすれば良い。また、交差点等で放音される誘導音(例えば、カッコウの鳴き声のような音)を聴取対象の外部音とする場合には、当該誘導音の波形を表す波形データや振幅スペクトラムを表すデータを開閉指示音識別データとして用い、当該誘導音そのものを開放指示音として登録するようにすれば良い。
【0053】
<D:変形例>
以上、本発明の第1、第2および第3実施形態について説明したが、これら実施形態に以下に述べる変形を加えても勿論良い。
(1)上述した第1実施形態では、開放指示音の収音を契機として蓋部20を開き、閉鎖指示音の収音を契機として蓋部20を閉じる場合について説明した。しかし、開放指示音の収音を契機として蓋部20を開いた後、閉鎖指示音が収音される前にイヤホン1Aの使用者により蓋部20を閉じる旨の指示が操作部3230を介して与えられた場合には当該指示に応じて蓋部20を閉じる処理をCPU3210に実行させても良い。案内放送の内容によってはイヤホン1Aの使用者とは無関係な場合もあり、このようにイヤホン1Aの使用者とは無関係な案内放送の場合には、その放送終了を待たずに聴取を打ち切り、楽音の聴取に専念できるようにするためである。第2実施形態においても、蓋部20を開いてから所定時間が経過する前にイヤホン1Aの使用者により蓋部20を閉じる旨の指示が操作部3230を介して与えられた場合には当該指示に応じて蓋部20を閉じる処理をCPU3210に実行させるようにしても良い。同様に、第3実施形態においても、開放指示音が収音されている間であっても、イヤホン1Aの使用者により蓋部20を閉じる旨の指示が操作部3230を介して与えられた場合には当該指示に応じて蓋部20を閉じる処理をCPU3210に実行させるようにしても良い。
【0054】
(2)上述した各実施形態では、使用者の耳に装着されると当該使用者の外耳道の形状に合わせて変形するように弾性体により形成されたイヤーピースEPがイヤホン1Aの本体部10に予め装着されていた。しかし、イヤホン1AからイヤーピースEPを除いた部分をイヤホンとして流通させても良い。イヤーピース部分は使用に伴って劣化する消耗品であるとともに、使用者の嗜好が強く表れる部分でもあるため、イヤーピースのみ単体で様々な種類のものが市場に流通している。これら一般に流通しているイヤーピースのうちから使用者の嗜好に則したものを選択し、そのイヤーピースを装着することでカナル型イヤホンとして使用することができるようにするためである。このように、イヤホン1AからイヤーピースEPを除いて流通させる態様であっても上記第1実施形態と同一の効果が得られることは言うまでもない。本発明の特徴である開口部160および170は本体110に形成されており、蓋部20および蓋部20を開閉するためのラッチ型ソレノイド310は何れも本体部10に内蔵されており、コントローラ320は例えばボリュームコントローラなどとともにイヤホン1Aと楽音再生装置とを接続するケーブル上に設けられているからである。
【0055】
(3)上記各実施形態では、商業施設や駅、列車内などで放送される案内放送の予告音や終了音、案内放送そのものを開閉指示音とする場合について説明した。しかし、特定の人の発話音声を開閉指示音とし、当該特定の人が発話し始めたら蓋部20を開放してその発話内容を聴き取れるようにしても良い。
【0056】
(4)上記各実施形態では、蓋部20を開閉するためのアクチュエータとしてラッチ型のもの(ラッチ型ソレノイド)を用いたが、プル型ソレノイド(或いはプッシュ型ソレノイド)などプル型(或いはプッシュ型)のものを用いるようにしても勿論良い。また、ソレノイド以外の電磁式のもの、静電式、圧電式、或いは高分子式など他の方式のアクチュエータを用いても良い。ただし、プル型(或いはプッシュ型)のアクチュエータを用いて蓋部20の開閉制御を行う場合、それらアクチュエータを通電させた状態における蓋部20の位置をその通電前の位置に復位させる機構を別途設ける必要がある。また、プル型(或いはプッシュ型)のアクチュエータを用いて蓋部20の開閉制御からを行う態様では、蓋部20が開いた状態(或いは閉じた状態)を維持するのにそれらアクチュエータを通電させ続ける必要があり、この点においてラッチ型のものを用いた場合に比較して劣る。
【0057】
(5)上記第1実施形態では、開閉制御処理および開閉指示音登録処理をソフトウェアにより実現した。しかし、これら各処理を実行する電子回路(開閉制御処理を実行する開閉制御部、および開閉指示音登録処理を実行する開閉指示音登録部)を組み合わせてイヤホン1Aのコントローラ320を構成しても勿論良い。また、図8に示すように、周囲の外部音を収音する音声入力装置により収音された音から開閉指示音識別データを生成して識別データテーブルに書き込む識別データ生成装置、識別データテーブルの格納内容を参照して当該音声入力装置により収音された音が開閉指示音であるか否かを識別する音声認識装置、および当該音声認識装置による識別結果に応じてラッチ型ソレノイド310を駆動する開閉制御装置の各々を別個の装置で構成し、これら各装置を組み合わせてコントローラ320を構成しても勿論良い。また、上述した実施形態では、CPU3210に開閉制御処理、および開閉指示音登録処理を実行させる開閉制御プログラム3242aが不揮発性記憶部3242に予め書き込まれていたが、当該プログラムをCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布しても良い。
【0058】
(6)上記第1実施形態では、開閉指示音と他の音とを識別するための開閉指示音識別データとその開閉指示音が開放指示音であるか閉鎖指示音であるか示す開閉指示子とを対応付けて識別データテーブル3242bに書き込む開閉指示音登録処理をCPU3210に実行させた。しかし、例えば、開閉指示音識別データと開閉指示子との組を電気通信回線経由のダウンロードにより(或いは、メモリスティックなどの記録媒体に書き込んで)配布し、このようにして配布される開閉指示音識別データおよび開閉指示子にしたがって蓋部20の開閉制御をCPU3210に実行させるようにしても良い。このような態様であれば、必ずしも開閉指示音登録処理をCPU3210に実行させる必要はなく、開閉指示音登録部を設ける必要もない。
【符号の説明】
【0059】
1A…イヤホン、10…本体、110…フロントキャビティ、120…バックキャビティ、130,160,170…開口部、20…蓋部、310…ラッチ型ソレノイド、310a…プランジャ、310b…付勢部材、310c…励磁コイル、310d…固定鉄芯、310e…永久磁石、320…コントローラ、3210…CPU、3220…インタフェース部、3230…操作部、3240…記憶部、3242…不揮発性記憶部、3242a…開閉制御プログラム、3242b…識別データテーブル、3244…揮発性記憶部、3250…バス、82…鼓膜、84…外耳道、86…音道、EP…イヤーピース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9