(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可動体と投入用コイルと釈放用コイルとを有し、前記投入用コイルを励磁し前記釈放用コイルは非励磁とする投入動作を行うことで前記可動体を所定方向に移動させて投入状態とする電磁石装置と、該電磁石装置の動作状態を計測する監視装置とを有するシステムであって、
前記投入用コイル、前記釈放用コイルそれぞれの電流値、電圧値を計測する為の電流計、電圧計を備え、
前記監視装置は、
前記電流計によって計測される電流値、前記電圧計によって計測される電圧値を入力する入力手段と、
前記投入動作が実行された場合に、非励磁側コイルの前記電圧値の時系列データに基づいて、前記電磁石装置の動作状態を示す各タイミングの特徴点を検出する特徴点検出手段と、
該特徴点検出手段によって検出された各特徴点に基づいて、前記電磁石装置の動作時間を計測する動作状態計測手段と、
該動作状態計測手段によって計測された前記動作時間と、予め設定される閾値とに基づいて、摩擦増加の異常の有無、または/及び、バネ劣化の異常の有無を判定する異常判定手段と、
を有することを特徴とする電磁石動作監視システム。
前記異常判定手段は、前記動作状態計測手段によって計測された前記動作時間が、予め設定される所定の第1の閾値よりも大きい場合に、前記摩擦増加の異常と判定することを特徴とする請求項1記載の電磁石動作監視システム。
前記異常判定手段は、前記動作状態計測手段によって計測された前記動作時間が、予め設定される所定の第2の閾値よりも小さい場合に、前記バネ劣化の異常と判定することを特徴とする請求項1記載の電磁石動作監視システム。
前記異常判定手段は、前記計測された動作時間を時系列的に蓄積した動作履歴データに基づいて、該動作履歴データの微分データを生成し、該微分データにおける正と負のピーク部分の有無に応じて、「摩擦増加+バネ劣化」の異常の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の電磁石動作監視システム。
前記非励磁側コイルの前記電圧値は、前記励磁側コイルの励磁によって前記非励磁側コイルに生じる誘導電圧であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電磁石動作監視システム。
前記バネ劣化は、前記可動体を前記投入状態から釈放状態にする為の釈放動作用バネの劣化であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電磁石動作監視システム。
可動体と投入用コイルと釈放用コイルとを有し、前記投入用コイルを励磁し前記釈放用コイルは非励磁とする投入動作を行うことで前記可動体を所定方向に移動させて投入状態とする電磁石装置と、該電磁石装置の動作状態を計測する監視装置とを有するシステムにおける該監視装置であって、
前記投入用コイル、前記釈放用コイルそれぞれの電流値、電圧値を計測する為の電流計、電圧計を備え、
前記監視装置は、
前記投入用コイル、前記釈放用コイルの少なくとも一方の電流値の計測値と、前記投入用コイル、前記釈放用コイルの少なくとも一方の電圧値の計測値とを入力する入力手段と、
前記投入動作が実行された場合に、非励磁側コイルの前記電圧値の時系列データに基づいて、前記電磁石装置の動作状態を示す各タイミングの特徴点を検出する特徴点検出手段と、
該特徴点検出手段によって検出された各特徴点に基づいて、前記電磁石装置の動作時間を計測する動作状態計測手段と、
該動作状態計測手段によって計測された前記動作時間と、予め設定される閾値とに基づいて、摩擦増加の異常の有無、または/及び、バネ劣化の異常の有無を判定する異常判定手段と、
を有することを特徴とする電磁石動作監視装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本例の電磁石の動作状態監視システムの構成例である。
電磁石の動作状態監視システムは、電磁石装置1と動作状態監視装置2等とから成る。
【0019】
図1(a)には電磁石装置1の構造を概略的に示す断面図を示し、
図1(b)には
図1(a)に示す電磁石装置1の等価磁気回路を示すと共に、その動作監視の為の構成(動作状態監視装置2、電流計、電圧計)を示す。
【0020】
まず、電磁石装置1について説明する。本システムにおける電磁石装置1は、例えば、上述した“2つのコイルの何れか一方を励磁することにより投入動作/釈放動作を行うタイプ”である。
【0021】
あるいは、本システムにおける電磁石装置1は、例えば、上述した“2つのコイルの何れか一方を励磁することにより投入動作/釈放動作を行うものであって、上記釈放動作用バネも設けられたタイプ”であってもよい。釈放動作用バネは、特に図示しないが、例えば電磁石装置1の外部に設けられ、可動体4に接続され、可動体4の釈放動作を補助する力を、可動体4に加える構成となっている。これは、釈放動作用バネは、可動体4の投入動作に抵抗する力を、可動体4に加えるものと言うこともできる。従って、釈放動作用バネが無い構成に比べると、可動体4の上記動作時間T1,T2が長くなることになる。
【0022】
尚、以下の説明では、一部を除き(釈放動作用バネの劣化の異常を判定する実施例や釈放動作用バネの劣化の異常と摩擦の異常増加の両方の異常が生じていることを判定する実施例などを除き)、釈放動作用バネについては特に言及しないものとする。
【0023】
まず、動作監視対象である電磁石装置1について簡単に説明しておく。
図1(a)に示すように、電磁石装置1の主要構成要素は、ヨーク3、可動体4、投入用の励磁コイル21(以下、投入用コイル21と記す)と、釈放用の励磁コイル22(以下、釈放用コイル22と記す)と、永久磁石5等である。尚、電磁石装置1の詳細な構成・動作は、後に
図9〜
図12を参照して詳細に説明するものとし、ここでは
図1(a)に示す概略構成図を参照して主要構成要素について概略的に説明するものとする。
【0024】
ヨーク3は、電磁石装置1の筐体(枠体)である。
可動体4(可動鉄心等)は、強磁性体からなる可動体本体4aと、非磁性材料からなるスライド軸4bとから構成されている。可動体4は、スライド軸4bの軸に沿う方向(図上、太線矢印で示す上下方向)に移動可能となっている。尚、図において太線矢印で示す上下方向は、実際の電磁石装置1において重力方向としての上下方向となる場合が多い。また、尚、
図1(a)においては可動体4は下側に位置しており、これを釈放状態(投入状態ではない状態)というものとする。
【0025】
図1(a)に示す釈放状態において、投入用コイル21が励磁されることで、可動体4は図上での上方向にスライドして、最終的には後述する
図12に示す位置(投入状態)になる。そして、この状態で投入用コイル21の励磁を止めても、永久磁石5によって、可動体4は
図12に示す投入状態の位置のままとなる。この為、元の位置(釈放状態)に戻す為には、釈放用コイル22を励磁する必要がある。釈放用コイル22を励磁することで、可動体4は図上での下方向にスライドして、最終的には
図1(a)に示す位置(釈放状態)になる。
【0026】
尚、
図1(a)、(b)には、投入状態にする為の動作(投入動作;投入用コイル21を励磁)による磁束の流れ、釈放状態にする為の動作(釈放動作;釈放用コイル22を励磁)による磁束の流れを示すが、これらについては後に
図11〜
図13を参照して説明するものとする。
【0027】
また、
図1(b)には、
図1(a)に示す電磁石装置1の等価磁気回路を示す。
図1(b)には、投入用コイル21、釈放用コイル22、永久磁石5に係る磁気回路構成要素(起磁力)を示すと共に、電磁石装置1の各種構成要素(可動体本体4aやヨーク3等)の磁気抵抗を示しているが、これらについての詳細は
図13に示すものとし、後に説明することにし、ここでは、動作状態監視装置2の入力データを得る為の構成について説明する。
【0028】
すなわち、動作状態監視装置2が入力データを得る為の構成として、
図1(b)に示す電流計6、電圧計7、電流計8、電圧計9が、電磁石装置1に設けられている。これらは、電磁石装置1の状態を測定する為の既存の構成である。
【0029】
電流計6、電圧計7は、投入用コイル21を流れる電流値、投入用コイル21に発生する電圧値を計測する為の構成である。電流計8、電圧計9は、釈放用コイル22を流れる電流値、釈放用コイル22に発生する電圧値を計測する為の構成である。
【0030】
動作状態監視装置2は、これら電流計6、電圧計7、電流計8、電圧計9と接続して、これらの計測値を入力して時系列の電流特性/電圧特性データとして記憶しておく。尚、この様な計測値の入力と電流/電圧特性の生成・記憶は、上記投入動作/釈放動作を行うときのみ、実行するようにしてもよい。
【0031】
一方で、従来では電磁石装置1に更にストロークセンサが設けられており、従来の動作状態監視装置は、上記電流/電圧計測値だけでなく、ストロークセンサの検出データも入力して、上述した動作測定を行っていた。すなわち、従来では、励磁を行うコイルの電流波形と、ストロークセンサからの信号波形との2つの要素を用いて動作状態の測定を行うものであった。この為、特にストロークセンサからの信号波形に関しては、測定対象の機器にストロークセンサ設置用のスペースを設けなければならず、機器の大型化に繋がり、また、コストアップも避けられない。
【0032】
これに対して、本手法では、
図1に示す通り、ストロークセンサを設ける必要が無くなり、ストロークセンサの分だけコストダウンを実現でき、また、ストロークセンサ設置用のスペースが必要なくなる分、機器の小型化を図ることができる。
【0033】
ここで、上記の通り、上記電流計6、電圧計7、電流計8、電圧計9は、既存の構成であるが、従来では、例えば励磁するコイルについてのみ計測を行っていた。つまり、励磁するコイルの電流と電圧を計測していた。これに対して、本手法では、励磁するコイルの電流と、励磁しないコイルの電圧とを計測する。
【0034】
つまり、本手法では、励磁を行うコイルの電流波形と、励磁していないコイルの電圧波形(投入動作/釈放動作の際に励磁していないコイルに発生する誘導電圧)とに基づいて、電磁石装置1の動作測定を行う。
【0035】
すなわち、まず、投入動作の際には、電流計6と電圧計9の計測結果を用いる。投入動作の際には、投入用コイル21を励磁し、釈放用コイル22は励磁しないが、投入用コイル21の励磁によって釈放用コイル22に誘導電圧が生じる。電流計6と電圧計9の計測結果を用いることで、励磁を行う投入用コイル21の電流波形(励磁電流波形)と、励磁していない釈放用コイル22の電圧波形(誘導電圧波形)を用いることになる。
【0036】
一方、釈放動作の際には、電流計8と電圧計7の計測結果を用いる。釈放動作の際には、釈放用コイル22を励磁し、投入用コイル21は励磁しないが、釈放用コイル22の励磁によって投入用コイル21に誘導電圧が生じる。電流計8と電圧計7の計測結果を用いることで、励磁を行う釈放用コイル22の電流波形(励磁電流波形)と、励磁していない投入用コイル21の電圧波形(誘導電圧波形)を用いることになる。
【0037】
以下、これら電流波形、電圧波形の具体例を示す図面(
図2〜
図4)を参照して、これら励磁電流波形、誘導電圧波形に基づく電磁石装置1の動作測定方法について説明する。
本例の電磁石の動作状態監視システムにおける動作状態監視装置2では、上記構成により計測した励磁電流波形(特性)と誘導電圧波形(特性)とに基づいて、遮断器/開閉器/リレー等に用いられる電磁石装置1の動作状態の測定を行うものである。
【0038】
電磁石装置1の動作状態とは、例えば既に述べたように、上記第1の動作時間T1(投入開始の指令から可動体4が動き出すまでの時間)と、上記第2の動作時間T2(可動体4の動作(移動)の開始から終了までの時間)である。
【0039】
図2は、投入動作の際の励磁電流特性、誘導電圧特性を示す図(その1)である。
図3は、投入動作の際の励磁電流特性、誘導電圧特性を示す図(その2)である。
図4は、釈放動作の際の励磁電流特性、誘導電圧特性を示す図である。
【0040】
尚、
図2、
図3、
図4は、実験によって実際に測定されたデータである。
図2と
図3との違いは、投入動作の際のコイル励磁方法の違いである。
図2では動作完了まで励磁し、
図3では途中でコイルの励磁を止める。但し、何れの場合でも、可動体4は所定の位置(
図12に示す位置)まで移動させるものであり、詳しくは後述する。
【0041】
また、
図2、
図3では、何れも、投入用コイル21を励磁し、釈放用コイル22は励磁しないことになる。その逆に、
図4では、釈放用コイル22を励磁し、投入用コイル21は励磁しないことになる。
【0042】
尚、入力される動作指令に応じて投入用コイル21または釈放用コイル22を励磁する為の構成等は、既存の構成であり、特に図示/説明しない。
ここで、
図2には、電磁石の可動部の変位11、動作完了まで励磁した場合の投入用コイル21の励磁電流特性12、無励磁の釈放用コイル22に発生する誘導電圧特性13を示している。
【0043】
電磁石の可動部の変位11は、上記従来のストロークセンサ特性620と略同様に電磁石の可動体4(可動鉄心等)の動き(位置)を示すものであるが、本手法ではストロークセンサは存在しないので、変位11に相当するデータが測定されるわけではない。変位11は、説明を分かり易くする為に示しており、測定データを意味するものではない(但し、実験の際には、ストロークセンサによって変位を測定してもよい)。
【0044】
図示のタイミングt1は、動作指令に応じた励磁電流の供給開始タイミングであり、上述した閉路タイミング611に相当するタイミングである。
任意のタイミングt1で動作指令が入力され、投入用コイル21が励磁されると、励磁されたコイル21には電流が流れる為、
図2に示す励磁電流特性12のように、図示の励磁電流の立ち上がり12aから変化が現れ、電流値が増加していく。それと同時に、上記投入用コイル21の励磁によって磁束が発生するため、無励磁側の釈放用コイル22には誘導電圧が生じる。これは、
図2に示す誘導電圧特性13のように上記励磁電流の立ち上がり12aと同タイミングで図示の無励磁コイル誘導電圧変化点13aの変化(電圧降下)が生じるが、その後しばらくの間は誘導電圧は殆ど変化しない。
【0045】
その後、励磁電流特性12に示すようにコイルの時定数に従って励磁コイル電流が増加していき、変位11に示すようにあるタイミングt2で可動体4が動き出す。これによって電磁石の磁気回路が変化する為、磁束も変化し、誘導電圧において図示の無励磁コイル誘導電圧立ち上がり13bから変化が現れる。すなわち、誘導電圧は、上記のように殆ど変化しない状態であったのが、可動体4が動き出すタイミングt2で変化し始め図示のように上昇し始める。
【0046】
可動体4の変位(移動)に伴う磁気回路の変化によって、励磁電流特性12に示すように励磁電流は減少に転じ、図示のように徐々に減少していき、可動体4の動作完了のタイミングt3で励磁を止めることで、図示の励磁コイル電流変極点12bが現れて励磁電流は消失する。この様な動作完了(可動体4の停止)に伴う磁束の急激な変化により、無励磁側の釈放用コイル22の誘導電圧には、図示のように無励磁コイル誘導電圧ピーク点13cをピークとする急峻な変化が現れる。
【0047】
上記12a,12b,13a,13b,13cのような変化点は、特徴点として検出可能である。
このような特徴点によって、励磁電流特性12に示すように、励磁している投入用コイル21の電流波形では、動作指令のタイミングt1と動作完了のタイミングt3は検出可能であるが、可動体4の動き出しのタイミングt2に特徴が現れないので、このタイミングt2は検出不可能である。この為、従来では更にストロークセンサが必要であったが、本例ではストロークセンサは必要ない。
【0048】
すなわち、誘導電圧特性13に示すように、無励磁の釈放用コイル22に発生する誘導電圧波形は、投入動作指令のタイミングt1、可動体4の動き出しのタイミングt2、動作完了のタイミングt3の全てにおいて、波形に特徴点13a,13b,13cが存在するため、無励磁側コイルである釈放用コイル22に発生する誘導電圧を検出することで、ストロークセンサを使用しなくても、動作状態測定が可能となる。
【0049】
尚、このような特徴点(変化点)の検出方法は、既存の一般的な方法が各種存在するので、ここでは特に説明しないが、例えば、上記励磁電流特性12、誘導電圧特性13は、所定のサンプリング周期で電流計、電圧計の計測値をサンプリングするものであり、任意のサンプリング値とその前のサンプリング値との変化率を算出して、この変化率が急激に大きくなった場合に(例えば所定の閾値と比較する等して判定できる)、特徴点ありと判定するものである。そして、例えば誘導電圧特性13の場合、3つの特徴点が検出されるはずであるので、時系列的に検出した順番でタイミングt1,t2,t3と決定することになる。
【0050】
尚、このように、誘導電圧特性13のみを用いて動作状態測定を行うことができるが、この例に限るものではなく、可動体4の動き出しのタイミングt2以外は、励磁電流波形、誘導電圧波形のどちらを用いてもよい。
【0051】
この様に、上述した励磁電流の立ち上がり12aまたは無励磁コイル誘導電圧変化点13aと、無励磁コイル誘導電圧立ち上がり13bと、励磁コイル電流変極点12bまたは無励磁コイル誘導電圧ピーク点13cの3つの変化点(特徴点)を検出することで、上記タイミングt1,t2,t3を検出することができ、以って図示の第1の動作時間T1と第2の動作時間T2を測定することができる。
【0052】
次に、以下、動作の途中で(可動体4の移動の途中で)投入用コイル21の励磁を止め、イナーシャ動作によって投入を行う方式の電磁石について説明する。本手法は、この様な方式の電磁石装置であっても問題なく適用でき、ストロークセンサを使用しなくても、動作状態測定が可能となる。
【0053】
図3に、この様な方式の電磁石装置1に係る、電磁石の可動体4の変位11−1、動作完了(可動体4の移動完了)まで励磁しない場合の投入用コイル21の励磁電流特性14、無励磁の釈放用コイル22に発生する誘導電圧特性15を示している。
【0054】
尚、変位11−1は、上記変位11と同様、計測データではなく、分かり易くする為に可動体4の動きを示しているものである。
可動体4の動作の途中で投入用コイル21の励磁を止めてイナーシャ動作によって投入を行う方式の電磁石装置の場合、図示のように途中で投入用コイル21の励磁を止めることで励磁電流が無になっても、慣性や永久磁石5の力によって、可動体4は動き続け、所定の位置で停止することになる。
【0055】
この場合、図示のように、励磁電流の立ち上がり14a、無励磁コイル誘導電圧変化点15a、及び無励磁コイル誘導電圧立ち上がり15bについては、上記
図2の場合と略同様のタイミング(t1またはt2)で変化が生じるが(それぞれ、上記各特徴点12a,13a、13bと略同様の変化となる)、上記励磁コイル電流変極点12bに相当する変化(特徴点14b)が現れるタイミングt4は、可動体4の動作完了タイミングt3を示すものではなくなる。
【0056】
つまり、可動体4の動作完了のタイミングt3の前に投入用コイル21の励磁を止めてしまうため、図示のようにそれ以前のタイミングt4で励磁電流が無になっており(図示の特徴点14bが現れており)、よって動作完了のタイミングt3では励磁電流波形に変化点(特徴点)が現れない。
【0057】
しかしながら、投入用コイル21の励磁を止めた後も、可動体4はイナーシャ動作で動き続けているので、磁束に変化が生じる為、無励磁側の釈放用コイル22に発生する誘導電圧は、図示の誘導電圧特性15に示す通り、変化し続け、且つ、可動体4の動作完了(所定位置で停止)するとき、それに伴う磁束の急激な変化により、無励磁側の釈放用コイル22の誘導電圧には、図示のようにタイミングt3において無励磁コイル誘導電圧ピーク点15cをピークとする急峻な変化が現れる。
【0058】
よって、これを検出することで(勿論、他の2つのタイミングも検出することで)、図示の第1の動作時間T1と第2の動作時間T2を測定することができる。
上記のように、本例の場合も、誘導電圧特性15に示すように、無励磁の釈放用コイル22に発生する誘導電圧波形は、動作指令のタイミングt1、可動体4の動き出しのタイミングt2、可動体4の動作完了のタイミングt3の全てにおいて、波形に特徴点15a,15b,15cが現れるため、無励磁側コイルである釈放用コイル22に発生する誘導電圧を検出することで、ストロークセンサを使用しなくても、動作状態測定が可能となる。
【0059】
また、本例においても、誘導電圧特性15だけでなく励磁電流特性14も用いて動作状態測定を行うことも可能であるが、本例の場合、動作指令のタイミングt1についてのみ励磁電流特性14(その特徴点14a)を用いることができる。可動体4の動き出しのタイミングt2及び動作完了のタイミングt3については、必ず、誘導電圧特性15(その特徴点15b、15c)を用いることになる。
【0060】
上記のように、本システムでは、ストロークセンサを使用しなくても、電磁石装置1の投入動作を測定することができる。これは、投入動作に限らず、釈放動作についても略同様にして実現できる。これについて、以下、
図4を参照して説明する。
【0061】
既に述べた通り、釈放動作の場合には、電流計8と電圧計7の計測結果を用いる。
釈放動作の際には、釈放用コイル22を励磁し、投入用コイル21は励磁しないが、釈放用コイル22の励磁によって投入用コイル21に誘導電圧が生じる。電流計8と電圧計7の計測結果を用いることで、励磁を行う釈放用コイル22の電流波形(励磁電流波形;例えば
図4に示す励磁電流特性17)と、励磁していない投入用コイル21の電圧波形(誘導電圧波形;例えば
図4に示す誘導電圧特性18)を用いることになる。
【0062】
図4には、上記励磁電流特性17と誘導電圧特性18を示している。また、
図4には電磁石の可動体4の変位16も示すが、これは上記
図2や
図3の変位11、11−1と同様に、計測データではなく、分かり易くする為に可動体4の動きを示しているものである。
【0063】
図4に示すように、励磁電流特性17は、上記
図2の励磁電流特性12と略同様の特性であり、図示の特徴点17a、17bは、上記特徴点12a,12bと略同様である。よって、励磁電流特性17によって、釈放動作指令のタイミングt1と、可動体4の動作完了のタイミングt3については、検出可能である。
【0064】
その一方で、誘導電圧特性18に関しては、図示の通り、タイミングt2,t3においては変化点(特徴点18a,18b)が現れるが、タイミングt1に関しては変化点(特徴点)は現れない。
【0065】
従って、釈放動作の場合には、投入動作の場合とは異なり、誘導電圧特性18のみでは電磁石装置1の動作(第1の動作時間T1と第2の動作時間T2)を測定することができない。電磁石装置1の動作測定の為には、必ず励磁電流特性17と誘導電圧特性18の両方が必要となる。これは、タイミングt1に関しては励磁電流特性17の特徴点17aを用い、タイミングt2に関しては誘導電圧特性18の特徴点18aを用いる。また、タイミングt3に関しては、励磁電流特性17の特徴点17bまたは誘導電圧特性18の特徴点18bを用いる。
【0066】
尚、特徴点18a,18bは、上記特徴点13b,13cまたは特徴点15b、15cと略同様の変化である(変化の仕方は逆であるが)。
また、釈放動作に関しても、投入動作の場合と略同様に、可動体4の動作(移動)の途中で釈放用コイル22の励磁を止めても、イナーシャ動作によって釈放動作が行われる方式の電磁石装置の場合にも、対応可能である。これについては、特に誘導電圧特性、励磁電流特性を図示しないが、
図3の場合と同様に、励磁電流特性ではタイミングt3を検出することができなくなる。
【0067】
従って、イナーシャ動作によって釈放動作が行われる場合には、特に特性/特徴点は図示しないが、タイミングt1に関しては励磁電流特性の特徴点を用い、タイミングt2とt3に関しては誘導電圧特性の特徴点を用いることになる。
【0068】
この様に、投入動作、釈放動作の何れの場合でも、ストロークセンサが無くても、電磁石装置1の動作(第1の動作時間T1と第2の動作時間T2)を測定することができる。ストロークセンサが無くて済む為、コストダウン、小型化の効果が得られる。
【0069】
ここで、更に、本手法では、以下に説明するように、異常(摩擦増加、バネ劣化等)を判別可能となる。これについて、以下、
図5、
図6、
図7を参照して説明する。
図5は、正常時の動作と摩擦増加時の動作とを示す図である。
【0070】
図6は、正常時と摩擦増加時の開閉負荷を示す図である。
図7は、正常時/摩擦増加時の特徴点履歴、その微分値を示す図である。
図5には、正常時の誘導電圧特性と摩擦増加時の誘導電圧特性等を示す。
【0071】
図5において、誘導電圧特性は、正常動作時の誘導電圧特性63と、摩擦が増加した状況下の誘導電圧特性64をそれぞれ示す。正常動作時の誘導電圧特性63は、図示のように実線で示す。摩擦増加時の誘導電圧特性64は、図示のように点線で示す。尚、誘導電圧特性64が誘導電圧特性63と同じである箇所(例えばT1やそれ以前の期間)については、特に点線は示さない。
【0072】
尚、
図5には、励磁電流については特に示さないが、励磁電流は
図2、
図3の何れの例であってもよい。換言すれば、イナーシャ動作であっても無くてもよい。
図5には、更に、電磁石の可動部(可動体4)の変位も示している。これも、正常時と摩擦増加時について示している。すなわち、電磁石の可動部の変位(正常時)61と、電磁石の可動部の変位(摩擦増加時)62を示している。尚、これも、変位(正常時)61は実線で示し、変位(摩擦増加時)62は点線で示す。また、変位(摩擦増加時)62が変位(正常時)61と同じである箇所(例えばT1やそれ以前の期間)については、特に点線は示さない。
【0073】
尚、摩擦とは、後述する
図11に示す構成の場合には、例えば、スライド軸4bと第1軸受51との摩擦、または/及び、スライド軸4bと第2軸受52との摩擦を意味するが、この例に限らない。基本的には、可動体4の動きを妨げるような摩擦は全て含まれる。
【0074】
尚、電磁石の可動部の変位61,62は、既に
図2等で説明したように、電磁石の可動体4の動き(位置)を示すものであるが、本手法ではストロークセンサは存在しないので、変位61,62に相当するデータが測定されるわけではない。但し、変位61,62は、実験時に別途、ストロークセンサで変位を測定したものと見做してもよい(勿論、これは実験時だけであり、本装置にはストロークセンサは存在しない)。
【0075】
電磁石の可動部の変位(正常時)61は、上記
図2や
図3に示す電磁石の可動部の変位11、11−1等と同じであってよい。一方、電磁石の可動部の変位(摩擦増加時)62は、
図5に点線で示すように、変位(正常時)61に比べて、動き出しタイミングが遅くなる(T1’>T1となる)と共に、移動速度も遅くなる(グラフの傾きが小さくなる;T2’>T2となる)ことになる。よって、全体としての動作時間も、摩擦増加時の「T1’+T2’」は、正常時の「T1+T2」よりも長くなる。この様に、動作時間が正常時に比べて長くなると、様々な不都合が生じるので、異常発生として検知・報知することが必要である。
【0076】
更に詳しく説明する。まず、正常時について説明する。
上記のように変位(正常時)61は
図2や
図3の変位11、11−1等と同じであってよいので、動作指令に応じた励磁電流の供給開始タイミングt1から第1の動作時間T1経過すると(図示のタイミングt2で)電磁石の可動体4が動き出すことになり、更に第2の動作時間T2経過すると(可動体4の動作完了のタイミングt3で)動作ストップすることなる。これに応じて、正常時の誘導電圧特性63に関しては、上記タイミングt1,t2、t3でそれぞれ、図示の特徴点63a、63b、63cが現れることになる。
【0077】
尚、これら特徴点63a、63b、63cは、上記無励磁コイル誘導電圧変化点13a/15a、無励磁コイル誘導電圧立ち上がり13b/15b、無励磁コイル誘導電圧ピーク点13c/15cと同じであると見做しても構わない。図示のように、励磁電流の供給開始タイミングt1で特徴点63aが現れ、このタイミングt1からT1経過時に特徴点63bが現れ、更にそこからT2経過時に(換言すれば、t1から「T1+T2」経過した時点で)特徴点63cが現れる。
【0078】
一方、電磁石の可動部の変位(摩擦増加時)62に関しては、動作指令に応じた励磁電流の供給開始タイミングt1から第1の動作時間T1’経過すると(図示のタイミングt5で)電磁石の可動体4が動き出すことになり、更に可動体4の動作完了のタイミングt6で動作ストップすることなる。これに応じて、異常時(摩擦増加時)の誘導電圧特性64に関しては、上記タイミングt5、t6でそれぞれ、図示の特徴点64b、64cが現れることになる。尚、摩擦増加時でも正常時と同じくタイミングt1で特徴点63aが現れる。
【0079】
尚、これら特徴点64b、64cは、摩擦増加時における上記“無励磁コイル誘導電圧立ち上がり”、“無励磁コイル誘導電圧ピーク点”であると見做して構わない。
図示のように、励磁電流の供給開始タイミングt1からT1’経過時に特徴点63bが現れ、更にT2’経過時に(換言すれば、t1から「T1’+T2’」経過した時点で)特徴点63cが現れる。
【0080】
ここで、上記のように「T1<T1’」であり、また「T2<T2’」であるので、当然、「T1+T2<T1’+T2’」となる。すなわち、投入指令入力から投入動作完了までの時間が、摩擦増加時は正常時に比べて非常に長くなる。これを利用して、異常発生(摩擦の異常増加)を判定することが可能となる。
【0081】
尚、以下に説明する摩擦増加の異常の有無の判定処理、またはバネ劣化の異常の有無の判定処理、あるいは「摩擦増加+バネ劣化」異常の有無の判定処理等の各種異常判定処理は、例えば後述する異常判定部114が実行する。
【0082】
例えば異常判定部114は、まず下記の閾値決定処理を実行する。
すなわち、まず、正常時における上記“投入指令入力から投入動作完了までの時間”(上記「T1+T2」;ここでは可動部移動時間Tmovと記すものとする)の計測結果を記憶しておく。尚、これは、ユーザが、現在が正常な状態か否かを判断して、正常のときに閾値決定処理実行を異常判定部114に対して指示するようにしてもよい。
【0083】
そして、上記計測・記憶されたTmovに基づいて基準値を決定しておく。これは、例えばTmovの1回の計測結果をそのまま基準値としてもよいし、あるいはTmovの複数回の計測結果に基づいて、例えばその平均値を基準値としてもよいが、これらの例に限らず、他の何等かの方法であってもよい。そして、この基準値に対して任意に決められたマージンαを加算することで、閾値Pを算出する(閾値P=基準値+α)。
【0084】
尚、上記の例の場合には、「T1’+T2’」>Pとなるような閾値Pとなるように、マージンαを適宜設定しておく必要がある。
その後は、異常判定部114は、上記“投入指令入力から投入動作完了までの時間”すなわち可動部移動時間Tmovを計測する毎に、「Tmov>P」であるか否かを判定する(Tmovが閾値Pを越えたか否かを判定する)。そして、もし、「Tmov>P」である場合には、例えば摩擦増加の異常発生と判定して、例えばその旨を警告する。
【0085】
尚、上記可動部移動時間Tmovは、既に説明してある通り、無励磁コイルの誘導電圧に係わる特徴点を抽出することで、求めることができる。
また、尚、上記異常発生(摩擦の異常増加)の判定処理は、上述した一例に限らず、例えば、正常動作時の特徴点と摩擦増加時の特徴点とを比較し、時間の遅れを検知することで、摩擦増加の検知が可能となる(例えば、上記「T1+T2」の代わりに、T1,T2の何れか一方を用いて、摩擦増加の異常を判定するようにしてもよい)。
【0086】
ここで、
図6は、正常時と摩擦時の開閉負荷を示す図である。
図6には、正常動作時の開閉負荷特性71と、摩擦増加時の開閉負荷特性72とを示している。図では、正常動作時の開閉負荷特性71は実線で示し、摩擦増加時の開閉負荷特性72は点線で示す。
【0087】
図6に示すように、摩擦が増加すると電磁石の開閉負荷が増加する。この為、例えば上記一例のように、T1→T1’、T2→T2’のように、動作時間が増加することになる。
【0088】
ここで、他の異常としてバネ劣化があり得る。これは、例えば上記釈放動作用バネが劣化するという異常である。この異常が生じた場合には、可動部の投入動作に抵抗する力が弱くなることになるので、上記可動部移動時間Tmovは正常時よりも短くなる。これを利用して、例えば以下に述べるようにして、バネ劣化の異常を判定できる。
【0089】
上記可動部移動時間Tmovを用いる手法により、この様なバネ劣化の異常も検知できる。すなわち、ばね劣化の場合は、正常動作時よりも負荷が減少し、投入指令入力から投入動作完了までの時間(Tmov)が正常時よりも早まる(短くなる;小さくなる)ことになる。
【0090】
これより、上記異常判定部114は、例えばまず摩擦増加の場合と同様に上記基準値を求める。次に、この基準値に対して任意に決められたマージンβを減算することで、閾値Qを算出する(閾値Q=基準値−β)。
【0091】
その後は、異常判定部114は、上記“投入指令入力から投入動作完了までの時間”すなわち可動部移動時間Tmovを計測する毎に、「Tmov<Q」であるか否かを判定する(Tmovが閾値Q未満となったか否かを判定する)。そして、もし、「Tmov<Q」である場合には、例えばバネ劣化の異常発生と判定して、例えばその旨を警告する。
【0092】
この様に、基本的には、正常動作時の特徴点とばね劣化時の特徴点とを比較し、動作時間の短縮を検知することで、ばね劣化の検知が可能となる。
尚、上記2つの判定を一緒に行っても良い。すなわち、「Q≦Tmov≦P」であるか否かを判定して、「Q≦Tmov≦P」である場合には(すなわち判定YESの場合には)“正常である”と判定する。一方、判定NOである場合には、異常検知と判定すると共に、更に上記「Tmov>P」と「Tmov<Q」のどちらの異常に該当するのかを判定し、前者に該当すれば摩擦増加の異常、後者に該当すればバネ劣化の異常と判定することになる。
【0093】
尚、上記の例では可動部移動時間Tmov(=「T1+T2」)を用いて、摩擦増加やバネ劣化の異常を判定するものとしたが、この例に限らない。上述したように、T1単体もしくはT2単体であっても、正常時と異常時とで違いが見られるのであるから、T1、T2の何れか一方のみを用いて、摩擦増加の異常やバネ劣化の異常を判定することも可能である。
【0094】
ここで、上記摩擦増加の異常とバネ劣化の異常の両方が発生した場合には、異常を検知し損ねる可能性がある。この問題と解決方法について、以下、
図7を参照して説明する。
図7に示す動作履歴データ81は、開閉動作毎に、上記無励磁コイル誘導電圧に係る各種特徴点(例えば63a、63b、63c等)を抽出して(あるいは更に励磁電流に係る各種特徴点を抽出して)、これらに基づいて得られる上記動作時間(T1、T2、あるいは「T1+T2」の何れであってもよいが、ここでは「T1+T2」とする)を保存した、動作履歴の一例である。尚、この説明では、動作時間「T1+T2」には、正常時のものだけでなく異常時のもの(すなわち上記「T1’+T2’」等)も含まれるものとする。
【0095】
尚、換言すれば、上記計測された動作時間(例えば可動部移動時間Tmov(=「T1+T2」)を時系列的に蓄積したものが、上記動作履歴データ81であると言うこともできる。
【0096】
上記動作時間(ここでは可動部移動時間Tmov;以下、動作時間Tmovと記す場合もある)は、既に述べた通り、摩擦増加の場合には正常時より長くなり、バネ劣化の場合には正常時より短くなる。この為、
図7に示すように、これら2種類の異常の両方が生じた場合には、動作時間Tmovが正常時とほぼ変わらない状況となる場合が有り得る。
【0097】
尚、上記動作時間Tmovは、投入指令入力から投入動作完了までの時間である。
図7は、横軸が開閉回数、縦軸は、動作履歴データ81に関しては上記動作時間Tmov、微分データ82に関しては動作時間Tmovの微分値である。
【0098】
また、横軸において、図示の期間A1は正常時であり、その後、摩擦異常発生により期間A2が始まり、更にその後、バネ劣化異常発生により期間A3が始まるものである。つまり、期間A2は摩擦異常のみが生じているが、期間A3は摩擦異常とバネ劣化異常の両方が生じていることになる。
【0099】
換言すれば、図示の例では、最初は正常であったが、その後、摩擦異常が発生し、更にその後にバネ劣化が生じたものとしている。尚、異常に対して対処したわけではないので、期間A3においても摩擦異常状態は継続している。
【0100】
図示の動作履歴データ81に示すように、上記動作時間Tmovは、正常動作をしている間(期間A1)は、図示の符号81aに示すように、ほぼ一定の適正値T4(上記正常時の「T1+T2」に相当)となっている。しかし、その後、時間が経過していき(定期的に又は随時、開閉動作を行うことで、時間の経過と共に開閉回数は徐々に増えていく)、摩擦増加が生じると、上記動作時間Tmovは、増加することになる。尚、図示の例では符号81bで示すように(短い点線で示す)、ある時点で動作時間Tmovが図示のT5へと増加したら、その後は増加後の値を維持する(摩擦増加状態に応じた一定の値となる(図示のT5を維持する))。このT5は例えば上記「T1’+T2’」に相当する。
【0101】
その後、ばね劣化が生じると、これによって今度は上記動作時間Tmovが短くなる(減少する)ことになる。ここで、例えば偶然により、この減少量が上記摩擦増加に伴う増加量と略同様であった場合、上記動作時間Tmovは図示のように上記T5から減少して上記適正値T4と略同様の値(仮にT6とする)となると共に、その後もこの値T6を維持する(図示の符号81cで示す(長い点線で示す))。この場合、異常であるにも係らず異常を検知できない問題が生じる可能性がある。
【0102】
例えばT4=T6となった場合、あるいはT4≠T6であっても両者の差が上記マージンα、β未満である場合には、上記判定処理において例えば「Q≦Tmov≦P」であるか否かの判定結果がYESとなる場合も有り得る。
【0103】
この様に、摩擦増加とばね劣化の両方の異常が発生しているにも係わらず、正常であると判定されてしまう可能性がある。
尚、
図7の例は、上記動作時間Tmovは、例えば任意の開閉回数m回の時点で上記適正値T4であったものが、その次の‘m+1’回の時点では摩擦増加によって上記T5になったものとする。また、上記動作時間Tmovは、上記‘m+1’回の時点以降、任意の開閉回数n回の時点までは(n>m)上記T5であったものが、その次の‘n+1’回の時点ではばね劣化によって上記T6になったものとする。
【0104】
この場合、動作履歴データなしの開閉時データのみの特徴点検出による状態検知方法では正常状態と「摩擦増加+ばね劣化」状態とを判別できない。
本手法では、この様な問題を、上記動作履歴データ81(特徴点の履歴)を保存しておくことで解消する。そして、本例の場合、動作履歴データ81に基づいて、その微分値である図示の微分データ82を生成することで、正常状態と「摩擦増加+ばね劣化」の異常状態とを区別する例を示すが、この例に限るものではない。
【0105】
図示のように、微分データ82は、動作履歴データ81が殆ど変化せずに安定している状態(正常状態や、上記T5維持状態や、上記T6維持状態)では、図示の符号82aで示すようにほぼ‘0’となっている。一方、摩擦増加により上記動作時間Tmovが増加したタイミングでは、微分データ82は正の値となる(図示の符号82bで示す(短い点線で示す)部分のうち、三角形状で示すピーク部分)。一方、バネ劣化により上記動作時間Tmovが減少したタイミングでは、微分データ82は負の値となる(図示の符号82cで示す(長い点線で示す)部分のうち、逆三角形状で示すピーク部分)。
【0106】
これより、例えば上記異常判定部114は、随時、微分データ82を生成後、まず、この微分データ82に上記正のピーク部分(図示の三角形状で示す部分)と上記負のピーク部分(図示の逆三角形状で示す部分)の両方があるか否か判定する。尚、これは一例であり、更に正のピーク部分→負のピーク部分の順番でピーク部分が出現するものであるか否かを判定するものであってもよい。
【0107】
そして、微分データ82に、上記正のピーク部分の上記負のピーク部分の両方がある場合には(あるいは更に正のピーク部分→負のピーク部分の順番でピーク部分が出現する場合には)、「摩擦増加+ばね劣化」の異常状態であるものと判定する。
【0108】
尚、上記正のピーク部分、負のピーク部分の有無の判定方法は、例えば正負それぞれに予め任意の閾値を設定しておき、閾値を越えた(これは、負の場合には閾値未満になったことを意味するものとする)か否かを判定するものであるが、この例に限らない。
【0109】
このように、特徴点の履歴を保存しておき微分することで、この微分データには履歴データの変化に応じて正/負のピーク部分が生じるため、正常状態と「摩擦増加+ばね劣化」状態とを判別可能になる。
【0110】
上述したように、本提案では投入動作、釈放動作の際に励磁していないコイルに発生する誘導電圧を検出し、その波形の特徴点を検出することで、動作状態の検知を行う。
従来ではストロークセンサが必要であったが、本手法ではストロークセンサがなくても動作状態の監視(摩擦増加やばね劣化や「摩擦増加+ばね劣化」などの異常状態の有無の検知も含む)が可能になるため、ストロークセンサ設置に必要なスペース、コストを減らすことができ、測定対象機器の小形化、低コスト化が可能となる。
【0111】
また、励磁するコイルの電流波形ではなく、無励磁のコイルに発生する誘導電圧を検出するため、コイルの励磁を途中で止め、イナーシャ動作で投入を行うような機器の動作状態測定にも適用できるため、従来よりも動作状態測定の対応可能な機種を増やすことができる。さらに、開閉毎の比較以外にも、動作履歴として特徴点の変化傾向を管理することでより精度の高い動作状態の検知が可能となる。
【0112】
ここで、
図8に、動作状態監視装置2の構成例を示す。
図示の例の動作状態監視装置2は、入力インタフェース101、メモリ102、CPU/MPU等の演算プロセッサ103、出力部104等を有する。
【0113】
入力インタフェース101は、不図示の信号線により上記電流計6、電圧計7、電流計8、及び電圧計9と接続して、これら電流計6、電圧計7、電流計8、及び電圧計9の計測データを入力する。
【0114】
入力インタフェース101から入力された各計測データは、例えばメモリ102に一時的に格納される。これは、例えば各計測データ毎にデータ取得順に時系列で格納される。これより、投入動作/釈放動作完了の際には、例えば上記励磁電流特性12と誘導電圧特性13、または励磁電流特性14と誘導電圧特性15、あるいは励磁電流特性17と誘導電圧特性18に相当するデータ(電流・電圧計測データの時系列データ)が、メモリ102に格納されていることになる。
【0115】
また、メモリ102には予め所定のアプリケーションプログラムが格納されており、演算プロセッサ103は、このアプリケーションプログラムを読出・実行することにより、図示の各種処理機能部の処理を実現する。
【0116】
すなわち、演算プロセッサ103は、電流/電圧特性記憶部111と、特徴点検出部112と、電磁石動作測定部113、異常判定部114等の各種処理機能部を有する。
電流/電圧特性記憶部111は、上記入力インタフェース101から入力される電流計6、電圧計7、電流計8、電圧計9の各計測データのうちの少なくとも1つ以上の計測データを、メモリ102にデータ取得順に時系列的に記憶することで、励磁電流特性データまたは/及び誘導電圧特性データを生成・記憶する。尚、この様な励磁電流特性データまたは/及び誘導電圧特性データは、電流値、電圧値の時系列データと言うこともできる。
【0117】
特徴点検出部112は、電流/電圧特性記憶部111によって生成・記憶された励磁電流特性データまたは/及び誘導電圧特性データを用いて、特徴点を検出する。
この特徴点に関しては、既に説明したように、基本的には3つの特徴点が必要となる。すなわち、動作指令(励磁開始)のタイミングt1、可動体4の動き出しのタイミングt2、動作完了(可動体4の移動完了)のタイミングt3の3つのタイミングを示す3つの特徴点が必要となる。この3つのタイミング毎に最低1つの特徴点が必要であり、従って最低でも3つの特徴点が必要となるが、1つのタイミングに対して2つの特徴点を抽出しても構わない。例えば
図2の例では5つの特徴点を検出可能である。
【0118】
また、既に述べた通り、投入動作に関しては、励磁電流特性データを用いることなく、誘導電圧特性データのみを用いて、上記3つのタイミングを示す3つの特徴点を検出することも可能である。一方で、既に述べた通り、釈放動作に関しては、励磁電流特性データと誘導電圧特性データの両方を用いなければ、上記3つのタイミングを示す3つの特徴点を検出することはできない。
【0119】
尚、投入動作、釈放動作の何れの場合でも、励磁電流特性データのみでは、上記3つのタイミングを示す3つの特徴点を検出することはできない(それゆえに、従来では、ストロークセンサが必要であった)。
【0120】
電磁石動作測定部113は、上記特徴点検出部112によって検出された上記3つのタイミングを示す3つの特徴点を用いて、電磁石装置1の動作時間(第1の動作時間T1と第2の動作時間T2等)を測定する。
【0121】
尚、第1の動作時間T1は、動作指令(励磁開始)のタイミングt1から可動体4の動き出しのタイミングt2までの時間である。第2の動作時間T2は、可動体4の動き出しのタイミングt2から動作完了(可動体4の移動完了)のタイミングt3までの時間である。よって、例えばT1=t2−t1、T2=t3−t2によって、各動作時間T1,T2を求めることができる。尚、「T1+T2」も動作時間の一種であると考えても良い。
【0122】
異常判定部114は、上記電磁石動作測定部113による動作時間Tmovの測定結果に基づいて、異常の有無を判定する。これは、例えば、摩擦増加の異常の有無を判定する。あるいは、例えば、バネ劣化の異常の有無を判定する。この判定方法は、例えば、上記測定された電磁石装置1の動作時間Tmovに基づいて、これを予め設定される所定の閾値と比較することにより正常/異常を判定する。
【0123】
例えば、測定した上記動作時間Tmov(例えば「T1+T2」に相当する時間等)が、所定の第1の閾値よりも大きい場合に、摩擦増加の異常と判定する。摩擦増加の異常がある状態では、動作時間Tmovが正常時よりも大きくなるので、正常時の値に基づいて設定される第1の閾値よりも大きければ摩擦増加の異常と判断できる。
【0124】
あるいは、例えば、測定した上記動作時間Tmovが、所定の第2の閾値よりも小さい場合に、バネ劣化の異常と判定する。バネ劣化の異常がある状態では、動作時間Tmovが正常時よりも小さくなるので、正常時の値に基づいて設定される第2の閾値よりも小さければバネ劣化の異常と判断できる。
【0125】
但し、上記の例に限らない。例えば、上記電磁石装置1の動作時間Tmovを、上記動作時間T1またはT2に相当するものとしてもよい。この場合にも、測定される動作時間Tmovを、予め設定される所定の閾値と比較して、異常の有無を判定することになる。
【0126】
ここで、摩擦増加とバネ劣化の両方の異常が生じていた場合、誤って正常と判定される可能性がある。これに対して、異常判定部114は、測定データ(上記動作時間Tmov等)を時系列的に蓄積しておき、この蓄積データの微分データを生成することで、摩擦増加とバネ劣化の両方の異常が生じていることを判別できる。
【0127】
出力部104は、必ずしも必要なものではないが、電磁石動作測定部113による測定結果(第1の動作時間T1と第2の動作時間T2等)や異常判定部114で異常と判定された場合の警告等を、何らかの形で出力するものである。これは、表示、印字、音声、外部の情報処理装置へ通信線を介して出力等、様々な方法の何れかであってよい。そして、出力方法が例えば表示である場合には、出力部104はディスプレイ等であることになる。
【0128】
以上説明したシステムにおける動作監視対象である電磁石装置1について、以下、詳細な具体例を示しながら更に詳しく説明するものとする。
すなわち、
図9には上記電磁石装置1の外観斜視図を示し、
図10には
図9におけるA−A’断面図を示し、
図11、
図12には
図9におけるB−B’断面図を示す。
図11は可動体4の釈放状態、
図12は可動体4の投入状態を示すものである。また、
図13は、
図9〜
図12に示す電磁石装置1の磁気回路を示す回路図である。
【0129】
以下、本システムにおける電磁石装置1の詳細な具体例について、
図9〜
図13を参照して説明するが、具体例はこの例に限るものではない。また、以下の説明における各構成要素(及びその参照符号)は、
図9〜
図13の少なくとも何れか1つの図面に示されているが、どの図面に示されているのかを逐一全て説明することはない。
【0130】
まず、既に説明した通り、電磁石装置1の主要構成要素は、ヨーク3、可動体4(可動鉄心等)、投入用の励磁コイル21(以下、投入用コイル21と記す)と、釈放用の励磁コイル22(以下、釈放用コイル22と記す)と、永久磁石5等であり、これら主要構成要素については
図9〜
図12においても
図1と同じ参照符号を付してある。
【0131】
可動体4は、強磁性体からなる可動体本体4aと、非磁性材料からなるスライド軸4bとから構成されている。
図11、
図12等に示す通り、スライド軸4bが可動体本体4aを貫通して固定されている。可動体4は、スライド軸4bと可動体本体4aとが一体となって、スライド軸4bの軸に沿う方向(図上、上下方向)に移動可能となっている。尚、本説明における上下方向は、
図1(a)や
図11、
図12に太線矢印で示した方向を意味する。そして、以下の説明における上、下、上側、下側、上方向、下方向等は、この定義に従ったものである。
【0132】
図11に示す釈放状態において、投入用コイル21が励磁されることで、可動体4は上方向にスライドして移動していき、最終的には
図12に示す位置(投入状態)になる。そして、この投入状態で投入用コイル21の励磁を止めても、永久磁石5によって、可動体4は
図12に示す投入状態の位置のままとなる。この為、元の位置(釈放状態)に戻す為には、釈放用コイル22を励磁する必要がある。釈放用コイル22を励磁することで、可動体4は下方向にスライドして移動していき、最終的には
図11に示す位置(釈放状態)に戻る。
【0133】
尚、投入用コイル21は、例えば両端にフランジを有する円筒状のボビン21aの外周に、コイル用巻線21bを巻き回して中空円柱状に形成されている。釈放用コイル22も同様に、例えば両端にフランジを有する円筒状のボビン22aの外周に、コイル用巻線22bを巻き回して中空円柱状に形成されている。上記励磁するとは、コイル用巻線21bまたは22bに電流を流すことで磁束を発生させることである。尚、ボビン21a,22aは非磁性材料で形成されている。
【0134】
上記投入用コイル21、釈放用コイル22は、ヨーク3に固定されている。
ヨーク3は、上記のように電磁石装置1の筐体(枠体)として各種構成要素を収納/固定する役割を有するが、更に、投入用コイル21や釈放用コイル22によって発生する磁束の磁路を構成するものである。ヨーク3は、可動体4と共に投入用コイル21の内外を通る周状の磁路(符号401,402,403で示す点線矢印/一点鎖線矢印)を構成するように形成されている。ヨーク3は、強磁性体によって構成されている。ヨーク3は、
図11や
図12に示すように、上部ヨーク31、下部ヨーク32、一対の側部ヨーク33、中ヨーク34、コイル内ヨーク35等から成る。
【0135】
上部ヨーク31は、矩形板状であり、その中心部分に表裏を貫通するスライド軸用孔31aが形成されている。上部ヨーク31には投入用コイル21が固定されている(例えば接着等されている)。また、コイル内ヨーク35は、図示の様に上部ヨーク31の板面(下面)から突出するように配置され、この板面(下面)に接着されている。コイル内ヨーク35は、投入用コイル21内周に嵌合するように略円柱状に形成されている。
【0136】
一対の側部ヨーク33は、それぞれ、矩形板状に形成され、一方側端部が上部ヨーク31に固定され、他方側端部が下部ヨーク32に固定されている。各側部ヨーク33は、投入用コイル21の側面側に延在するように配置されている。一対の側部ヨーク33は、投入用コイル21を挟んで互いに対向するように配置されている。一対の側部ヨーク33の間には、中ヨーク34が架け渡されるように配置されている。
【0137】
中ヨーク34は、略平板状に形成され、その両端部には永久磁石5が配設されている。中ヨーク34は、その両端部の永久磁石5を介して側部ヨーク33に固定されている。中ヨーク34は、図示の通り、投入用コイル21の下側に配置されており、その一方側の板面は投入用コイル21に接着されており、その他方側の板面(中ヨーク下面34a)は、上記投入動作の際には可動体本体4aの一部(フランジ部42の第2上面42a)と接触する。
【0138】
図10に示すように、中ヨーク34の中央部分には表裏を貫通する可動体挿入孔34bが形成されている。この可動体挿入孔34b内に可動体本体4aの一部が挿入されている。つまり、可動体本体4aは、
図11等に示すようにそれぞれ径が異なる円柱形状の3つのパーツ(投入部41、フランジ部42、引き外し部43)から成っており、そのうちの投入部41が可動体挿入孔34b内に挿入される。最も径が大きいフランジ部42が、中ヨーク34に引っ掛かるので、フランジ部42及び引き外し部43は可動体挿入孔34b内に挿入されない。
【0139】
図10、
図11、
図12に示すように、投入部41と中ヨーク34との間にはギャップEが存在している。また、
図11に示すように釈放状態においては、投入部41(その第1上面41a)とコイル内ヨーク35(そのコイル内ヨーク下面35a)との間にギャップCが存在している。また、
図12に示すように投入状態においては、第2軸受52と引き外し部43(その下面である可動体引き外し磁極面43a)との間のギャップKが存在している。更に、
図12の投入状態にならない限り(釈放状態だけでなく可動体4の移動中も含めて)、可動体4の第2上面42aと中ヨーク下面34aとの間にはギャップDが存在している。尚、ギャップC、D,E,Kの空間には空気が存在しており、以下、これらを空気ギャップC、D,E,Kと呼ぶ場合もある。
【0140】
下部ヨーク32は、矩形板状に形成され、上記の通り一対の側部ヨーク33各々の他方側端部が接続されている。換言すれば、一対の側部ヨーク33の他方側端部間に架け渡されるようにして下部ヨーク32が配置されている。
【0141】
また、下部ヨーク32には、中央部分に図示の貫通孔32a(表裏を貫通する孔)が形成されており、この貫通孔32aには第2軸受52が嵌合されて固定されている。また、これによって図示のヨーク引き外し磁極面32bが形成されている。第2軸受52には可動体4のスライド軸4bが嵌挿されている。尚、第2軸受52は、非磁性材料で形成されている。
【0142】
スライド軸4bの一端側が第1軸受51に嵌挿され、他端側が第2軸受52に嵌挿されることによって、可動体4がヨーク3に対して上記図上で上下方向にスライド移動可能に配設されている。また、スライド軸用孔31aと、第1軸受51と、投入用コイル21と、中ヨーク34の可動体挿入孔34bと、釈放用コイル22と、第2軸受52とは、同軸配置となっており、可動体4が軸方向にスライド移動するようになっている。
【0143】
上述したように、電磁石装置1は基本的に、上部ヨーク31と下部ヨーク32と一対の側部ヨーク33とによって矩形状の枠体(筐体)を構成し、この枠体内に中ヨーク34、コイル内ヨーク35、投入用コイル21、釈放用コイル22、可動体4等が配置された構成となっている。
【0144】
上記の通り、
図12は、本例の電磁石装置1における可動体4の投入状態を示している。
可動体4の投入状態は、可動体4が図上上側に位置する状態であり、可動体4の第1上面41aとコイル内ヨーク下面35aとが接触した状態となっており、且つ、可動体4の第2上面42aと中ヨーク下面34aとが接触した状態となっている。更に、この状態では、スライド軸4bが、上部ヨーク31のスライド軸用孔31aに挿入された状態となっている。上記の通り、本例の電磁石装置1では、永久磁石5の磁力により、投入用コイル21の励磁を止めても、この投入状態を維持するようになっている。
【0145】
上記の通り、
図11は、本例の電磁石装置1における可動体4の釈放状態を示している。
可動体4の釈放状態は、図示の通り可動体4が図上下側に位置する状態であり、可動体引き外し磁極面43aと第2軸受52とが接触した状態となっている。また、この状態では、スライド軸4bは、上部ヨーク31のスライド軸用孔31aに挿入されていない状態である。
【0146】
ここで、
図11には、上記釈放用コイル22を励磁した場合の磁束の流れ(磁路)を、点線矢印(符号403)で示している。図示の通り、磁路403は、釈放用コイル22を略中心にして略長方形形状で1周する形となっている。
【0147】
この磁束の流れ(磁路403)については、詳しくは後に
図13を参照して説明するが、
図12に示す投入状態において釈放用コイル22に電流を流すと、釈放用コイル22によって生じる磁束が、下部ヨーク32、第2軸受52、第2軸受52と可動体引き外し磁極面43aとの間の空気ギャップK、可動体本体4a、可動体本体4aと中ヨーク34との間の空気ギャップE、中ヨーク34、永久磁石5、側部ヨーク33を通って一周する上記磁路403を流れる。
【0148】
この磁束によって、ヨーク引き外し磁極面32bと可動体引き外し磁極面43aとの間に吸引力が生じ、第2軸受52の上面と可動体引き外し磁極面43aとが接触して停止するまで(
図11に示す釈放状態になるまで)、可動体4が下側方向へと移動することになる。
【0149】
可動体4は、重力によって(あるいは不図示の不勢部材によって)、下側方向に不勢されている。従って、釈放用コイル22に電流を流すことを止めても、
図11に示す釈放状態は維持されることになる。
【0150】
以下、
図11に示す釈放状態であって投入用コイル21、釈放用コイル22の両方とも励磁していない状態において、投入用コイル21に電流を流す場合について説明する。
この場合、投入用コイル21によって生じる磁束は、上部ヨーク31、コイル内ヨーク35、コイル内ヨーク下面35aと可動体本体4aの第1上面41aとの間の空気ギャップC、可動体本体4a、可動体本体4aと中ヨーク34との間の空気ギャップE、中ヨーク34、永久磁石5、側部ヨーク33を通って一巡する磁路401(
図11上で一点鎖線矢印で示す)を通過する。
【0151】
この磁束によって、コイル内ヨーク下面35aと可動体本体4aの第1上面41aとの間に吸引力が生じ、可動体4が上側に吸引される(すなわち、投入用コイル21内に吸引される)。これによって可動体4が上方向へと移動していき、ある一定距離以上移動すると、可動体本体4aの第2上面42aと中ヨーク下面34aとの距離(空気ギャップDの長さ)が、可動体本体4aの投入部41と中ヨーク34との間の距離(空間ギャップEの長さ)よりも短くなる。そうすると、
図12に点線矢印で示す磁路402が形成される。
【0152】
すなわち、この場合、投入用コイル21によって生じる磁束は、
図12に点線矢印で示すように、上部ヨーク31、コイル内ヨーク35、可動体本体4a、可動体本体4aの第2上面42aと中ヨーク下面34aとの間の空気ギャップD、中ヨーク34、永久磁石5、側部ヨーク33を通って一巡する磁路402を通過する。
【0153】
尚、この状態では、可動体4の位置は
図12に示す位置(投入状態)にはなっておらず、移動中の状態であり、従って上記空気ギャップDが存在しているが、
図12に示す位置(投入状態)となったときには図示の通り空気ギャップDは消滅していることになる。
【0154】
可動体4が移動中の状態(空気ギャップDが未だ存在する状態)で上記磁路402が形成されることで、その結果、可動体本体4aの第2上面42aと中ヨーク下面34aとの間にも吸引力が生じ、より大きな吸引力によって可動体4が上方向(投入用コイル21内に引き込まれる方向)にスライド移動し、最終的には
図12に示す投入状態となる。
【0155】
そして、この投入状態において投入用コイル21に電流を流すことを止めても、上述したように永久磁石5によって投入状態が維持される(重力等があっても釈放状態になることはない)。
【0156】
その後は、この投入状態のまま、投入用コイル21、釈放用コイル22の両方とも励磁していない状態となる。
そして、任意のときに投入を止める場合には、上記の通り釈放用コイル22を励磁することで、上述したように今度は上記磁路403によって可動体4は下方向へと移動していき、最終的には停止して上記
図11の位置(釈放状態)となる。
【0157】
ここで、
図13に示す磁気回路について説明する。
図13は、上記
図9〜
図12に示す具体例の電磁石装置1の等価磁気回路を示している。
【0158】
同図において符号513は、釈放用コイル22によって励磁した際に発生する釈放用コイル22の起磁力を示している。同様に、符号511は永久磁石5の起磁力を示し、符号512は投入用コイル21によって励磁した際に発生する投入用コイル21の起磁力を示している。また、図示の符号501〜510、514,515は、それぞれ、上記電磁石装置1の各構成要素の磁気抵抗である。
【0159】
図13において、上記釈放用コイル22による起磁力513によって発生する磁束は、下部ヨーク32の磁気抵抗502、第2軸受52の磁気抵抗515、第2軸受52と可動体引き外し磁極面43aとの間の空気ギャップKによる磁気抵抗509、可動体本体4aによる磁気抵抗506、可動体本体4aと中ヨーク34との間の空気ギャップEによる磁気抵抗510、中ヨーク34の磁気抵抗504、永久磁石5の内部磁気抵抗507、永久磁石5の起磁力511、側部ヨーク33の磁気抵抗503を通って一周する磁路403を流れる。
【0160】
一方、上記投入用コイル21の起磁力512から発生した磁束は、上部ヨーク31の磁気抵抗501、コイル内ヨーク35の磁気抵抗505、コイル内ヨーク下面35aと第1上面41aとの間の空気ギャップCによる磁気抵抗508、可動体本体4aによる磁気抵抗506、可動体本体4aと中ヨーク34との間の空気ギャップEによる磁気抵抗510、中ヨーク34の磁気抵抗504、永久磁石5の内部磁気抵抗507、永久磁石5の起磁力511、側部ヨーク33の磁気抵抗503を通って一周する磁路401を流れる。
【0161】
尚、上記磁気抵抗508、509は可変抵抗である(空気ギャップの大きさが変わることで値が変わる)。同様に、第2上面42aと中ヨーク下面34aとの間の空気ギャップDによる磁気抵抗514も、可変抵抗であり、この磁気抵抗514が磁気抵抗510よりも小さくなると、主な磁束の流れが上記磁路401から、図示のような磁路402(磁気抵抗510の代わりに磁気抵抗514を通る磁路)に切り替わる。
【0162】
以上説明したように、本手法によれば、特許文献1等で示される従来技術では必要であったストロークセンサが無くても、遮断器/開閉器/リレー等に用いられる電磁石装置1の動作状態の測定を行うことができる。よって、ストロークセンサが必要なくなり、またストロークセンサ設置に必要となるスペースが必要なくなるので、電磁石装置の動作状態監視システムの低コスト化、小型化を実現することができる。
【0163】
また、本手法は、無励磁のコイルに発生する誘導電圧を検出して動作状態の測定を行う為、コイルの励磁を途中で止めイナーシャ動作で投入を行うような動作を行う機器であっても、動作状態の測定を行うことができる。よって、特許文献1の従来技術よりも動作状態測定の対応可能な機種を増やすことができる。