【文献】
奈良範久,吉田茂,上森賢悦,平井寛一,高池明,弘川昌樹,尾崎信介,上岡泰晴,超伝導電力機器の冷凍・冷却技術の進展,大陽日酸技報,日本,大陽日酸株式会社,2010年12月 8日,No.29(2010),URL,https://www.tn-sanso-giho.com/pdf/29/tnscgiho29_01.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような冷凍装置の圧縮機や膨張機は、冷凍装置のシステムの運転範囲に併せて、その容量や体格が設計される。具体的には、圧縮機や膨張機は、回転軸トルクの増大に起因する脱調や、軸受荷重の増大に起因する軸受けの潤滑不良等が、システムの運転範囲内で生じないよう、回転電気機械(電動機や発電機)や軸受等の体格が決定される。このため、例えば寒冷地で使用される空気調和機のように、システムの運転範囲が比較的広いものでは、信頼性を十分に確保するために、圧縮機や膨張機の大型化を招いてしまう。
【0006】
ここで、圧縮機の場合には、システムの運転範囲を必ずカバーする必要があるため、大型化やコストアップが余儀なくされる。一方、膨張機の場合には、膨張機のサイズを比較的小さめに設計しつつ、膨張機の運転が故障領域に近づくと、膨張機の運転を停止させ冷媒が膨張機をバイパスするように制御することが考えられる(ここで、「故障領域」とは、上述した脱調や潤滑不良等に起因して通常の運転動作に支障をもたらす領域をいう)。しかしながら、このようにすると、システムの運転条件の変化に併せて、膨張機を適宜発停させる必要があり、システムの効率の低下を招いたり、運転が不安定となったりする問題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、膨張機の小型化を図りつつ、信頼性の高い運転を行える冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、膨張機(24)が故障領域に至らないように膨張機(24)の前後の冷媒の差圧ΔPを差圧調整機構(27,28,80)で調整するものである。
【0009】
具体的に、第1の発明は、圧縮機(21,22)及び膨張機(24)が接続されて冷凍サイクルを行う冷媒回路(11)を備えた冷凍装置を対象とし、前記膨張機(24)の運転が故障領域に至らないように、該膨張機(24)の入口と出口との冷媒の差圧ΔPを調整する差圧調整機構(27,28,80)を備え
、前記差圧調整機構(27,28,80)は、前記膨張機(24)の出口側と前記圧縮機(21,22)の吸入側とを繋ぐインジェクション管(27)と、該インジェクション管(27)に接続される圧力調整弁(28)とを有することを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、圧縮機(21,22)及び膨張機(24)が接続されて冷凍サイクルを行う冷媒回路(11)を備えた冷凍装置を対象とし、前記膨張機(24)の運転が故障領域に至らないように、該膨張機(24)の入口と出口との冷媒の差圧ΔPを調整する差圧調整機構(27,28,80)を備え、前記差圧調整機構(27,28,80)は、該膨張機(24)の入口と出口との差圧ΔPが、所定の差圧閾値ΔPthを越えないように前記差圧ΔPを調整することを特徴とする。
【0011】
第1
及び第2の発明では、圧縮機(21,22)で圧縮された冷媒が放熱した後に膨張機(24)で膨張する。膨張機(24)では、冷媒が膨張する際に生じる動力が回収される。膨張機(24)で膨張した冷媒は、蒸発した後に圧縮機(21,22)に吸入される。この冷凍サイクルにおいて、冷媒回路(11)のシステム全体の運転条件が変化すると、膨張機(24)のトルクが増大したり、膨張機(24)の軸受荷重が増大したりして、膨張機(24)の運転が故障領域に至る虞がある。そこで、本発明の差圧調整機構(27,28,80)は、膨張機(24)の運転が故障領域に至らないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整する。これにより、膨張機(24)の負荷を軽減しつつ、膨張機(24)を連続的に運転させて差圧ΔP分の動力を回収できる。
【0012】
第
1の発明では、インジェクション管(27)に接続された圧力調整弁(28)の開度を調整することで、膨張機(24)の出口の冷媒の圧力が変化し、ひいては膨張機(24)の前後の差圧ΔPが調整される。これにより、冷媒回路(11)のシステムの圧力(高圧圧力と低圧圧力)を変化させることなく、膨張機(24)の運転が故障領域に至ることを回避できる。
【0013】
第
2の発明では、膨張機(24)の前後の差圧ΔPが、所定の差圧閾値ΔPthを越えないように制御される。これにより、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを確実に所定値以下に抑えることができる。その結果、差圧ΔPの増大に起因して軸受負荷が許容値を超えたり、差圧ΔPの増大に起因してトルクが許容値を超えたりすることを防止でき、膨張機(24)の運転が故障領域に至ることを回避できる。
【0014】
第
3の発明は、第
1の発明において、前記差圧調整機構(27,28,80)は、前記膨張機(24)のトルクを推定するトルク推定部(80)を有し、該トルク推定部(80)で推定したトルクNが所定のトルク閾値Nthを越えないように前記差圧ΔPを調整することを特徴とする。
【0015】
第
3の発明では、トルク推定部(80)が運転中の膨張機(24)のトルクを適宜推定する。差圧調整機構(27,28,80)は、推定されたトルクNがトルク閾値Nthを越えないように、差圧ΔPを調整する。これにより、膨張機(24)のトルクが許容値を超えて該膨張機(24)が故障領域に至るのを確実に回避できる。
【0016】
第
4の発明は、第
3の発明において、前記トルク推定部(80)は、前記膨張機(24)の入口冷媒の圧力と該膨張機(24)の出口冷媒の圧力とを少なくとも用いて、前記膨張機(24)のトルクを推定することを特徴とする。
【0017】
第
4の発明では、膨張機(24)の入口側の圧力と、出口側の圧力とが用いられて膨張機(24)のトルクNが推定される。差圧調整機構(27,28,80)は、このトルクNがトルク閾値Nthを越えないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整する。
【0018】
第
5の発明は、第
3の発明において、前記トルク推定部(80)は、前記膨張機(24)の回収電力を用いて、前記膨張機(24)のトルクを推定することを特徴とする。
【0019】
第
5の発明では、膨張機(24)の回収電力が用いられて、膨張機(24)のトルクNが推定される。差圧調整機構(27,28,80)は、このトルクNがトルク閾値Nthを越えないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、膨張機(24)の運転が故障領域に至らないように、膨張機(24)の前後の差圧を調整している。これにより、膨張機(24)の軸受荷重やトルクが許容値を超えることを回避しつつ、膨張機(24)を継続的に運転させて動力を回収できる。その結果、膨張機(24)の小型化を図りつつ、この冷凍装置で信頼性の高い運転を行うことができる。
【0021】
特に、第
1の発明では、インジェクション管(27)の圧力調整弁(28)の開度を調整して、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整しているので、システムの高圧や低圧を変化させずに、膨張機(24)の運転が故障領域に至るのを防止できる。従って、この冷凍装置で安定した性能を得ることができる。
【0022】
第
2の発明では、差圧ΔPが所定の差圧閾値ΔPthを越えないように、差圧ΔPを調整することで、膨張機(24)が故障領域(特に、軸受荷重が許容値を超える運転領域)に至るのを回避できる。
【0023】
第
3の発明では、トルクNが所定のトルク閾値Nthを越えないように、差圧ΔPを調整することで、膨張機(24)のトルクが許容値を越えることを確実に回避できる。また、第
4の発明では、膨張機(24)の入口冷媒の圧力と、出口冷媒の圧力とを用いて、膨張機(24)のトルクを簡便に推定できる。第
5の発明では、膨張機(24)の実際の回収電力を用いて、膨張機(24)のトルクを確実に推定できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1に示すように、本実施形態は、室内を冷房又は暖房する空気調和機(10)である。空気調和機(10)は、室外に設置される室外ユニット(20)と、室内に設置される室内ユニット(60)とを備える。本実施形態の空気調和機(10)は、複数台(
図1の例では3台)の室内ユニット(60)を有するマルチ式である。室外ユニット(20)と室内ユニット(60)とは、2本の連絡配管(12,13)によって互いに接続される。これにより、空気調和機(10)には、閉回路となる冷媒回路(11)が構成される。冷媒回路(11)には、冷媒として二酸化炭素が充填される。冷媒回路(11)では、冷媒が臨界圧力以上まで圧縮される、超臨界サイクルが行われる。
【0027】
〈室外ユニット〉
室外ユニット(20)は、室外回路(20a)を備えている。室外回路(20a)には、2台の圧縮機(21,22)、室外熱交換器(23)、膨張機(24)、気液分離器(25)、四方切換弁(26)、インジェクション管(27)、及びバイパス管(29)が接続される。
【0028】
2台の圧縮機(21,22)は、低段側圧縮機(21)と高段側圧縮機(22)とで構成され、互いに直列に接続される。つまり、冷媒回路(11)では、二段圧縮式の冷凍サイクルが行われる。圧縮機(21,22)は、例えばブレードとピストンとが一体に形成された揺動回転式(スイング式)で構成されるが、これ以外にもローリングピストン式や、スクロール式等の他の方式を採用してもよい。圧縮機(21,22)は、インバータ部からの出力周波数に応じて電動機の回転数が調整可能に構成される。
【0029】
室外熱交換器(23)は、室外に設置され、冷媒とファン(図示省略)の送風空気とを熱交換させる。室外熱交換器(23)は、例えば複数のフィンを伝熱管が貫通するフィンアンドチューブ式に構成される。
【0030】
膨張機(24)は、冷媒が膨張する際のエネルギーを動力として回収するものである。膨張機(24)では、冷媒がピストンを駆動させながら減圧されることで、ピストンと連結する回転軸が回転する。回転軸の回転動力は、発電機での発電に利用される。発電機で発生した電力は、空気調和機(10)の運転に利用される。
【0031】
気液分離器(25)は、中間圧の気液二相の冷媒を、ガスと液体とに分離するものである。気液分離器(25)の内部には、下方側に液冷媒が溜まり、上方側にガス冷媒が溜まる。
気液分離器(25)には、冷媒流入管(31)と冷媒流出管(32)とインジェクション管(27)とが接続している。冷媒流入管(31)とインジェクション管(27)の各開口端は、気液分離器(25)の内部上方側(気相側)に開口する。冷媒流出管(32)の開口端は、気液分離器(25)の内部下方側(液相側)に開口する。
【0032】
四方切換弁(26)は、高段側圧縮機(22)の吐出管(35)に接続する第1ポートと、低段側圧縮機(21)の吸入管(36)に接続する第2ポートと、室内熱交換器(62)側に接続する第3ポートと、室外熱交換器(23)側に接続する第4ポートとを有する。冷房運転時の四方切換弁(26)は、第1ポートと第4ポートとを連通させて第2ポートと第3ポートとを連通させる状態(
図1の実線で示す状態)となる。また、暖房運転時の四方切換弁(26)は、第1ポートと第3ポートとを連通させて第2ポートと第4ポートとを連通させる状態(
図1の破線で示す状態)となる。
【0033】
インジェクション管(27)は、膨張機(24)の出口側と圧縮機(21,22)の吸入側とを繋いでいる。インジェクション管(27)には、圧力調整弁を構成するガス抜き弁(28)が設けられている。ガス抜き弁(28)は、その開度が調整自在な電子膨張弁で構成される。
【0034】
バイパス管(29)は、膨張機(24)の入口側と出口側とを接続している。バイパス管(29)には、バイパス弁(30)が設けられる。バイパス弁(30)が開放されると、膨張機(24)の入口側の冷媒が膨張機(24)をバイパスして気液分離器(25)へ送られる。
【0035】
室外回路(20a)には、ブリッジ回路(40)及びエコノマイザ回路(46)が接続されている。ブリッジ回路(40)では、第1から第4までの4本の配管(41,42,43,44)がブリッジ状に接続される。第1配管(41)には第1逆止弁(CV-1)が、第2配管(42)には第2逆止弁(CV-2)が、第3配管(43)には第3逆止弁(CV-3)が、第4配管(44)には室外膨張弁(45)がそれぞれ接続される。各逆止弁(CV-1,CV-2,CV-3)は、
図1の矢印で示す方向への冷媒の流通を許容し、その逆の冷媒の流通を禁止する。室外膨張弁(45)は、その開度が調整自在な電子膨張弁で構成される。室外膨張弁(45)は、冷房時に全閉となって冷媒の流通を禁止し、暖房時には所定開度に開放されて冷媒を減圧する。
【0036】
エコノマイザ回路(46)には、内部熱交換器(47)と中間インジェクション管(48)とが設けられている。内部熱交換器(47)は、第1流路(47a)と第2流路(47b)とを有し、両者の流路(47a,47b)を流れる冷媒を熱交換させる。第1流路(47a)は、ブリッジ回路(40)と膨張機(24)との間の高圧ラインに接続し、第2流路(47b)は中間インジェクション管(48)に接続している。
【0037】
中間インジェクション管(48)は、その流入端がブリッジ回路(40)と第1流路(47a)との間に接続し、その流出管が低段側圧縮機(21)と高段側圧縮機(22)との間に接続している。中間インジェクション管(48)には、第2流路(47b)の上流側に中間減圧弁(49)が接続している。中間減圧弁(49)は、例えば電子膨張弁で構成され、高圧冷媒を中間圧まで減圧する。内部熱交換器(47)では、第1流路(47a)を流れる高圧冷媒と、第2流路(47b)を流れる中間圧冷媒とが熱交換する。その結果、第1流路(47a)を流れる冷媒が冷却される。
【0038】
〈室内ユニット〉
3つの室内ユニット(60)は、室内回路(61)をそれぞれ備えている。室内回路(61)には、室内熱交換器(62)と室内膨張弁(63)とが接続される。
【0039】
室内熱交換器(62)は、室内に設置され、冷媒とファン(図示省略)の送風空気とを熱交換させる。室内熱交換器(62)は、例えば複数のフィンを伝熱管が貫通するフィンアンドチューブ式に構成される。
【0040】
室内膨張弁(63)は、室内熱交換器(62)とブリッジ回路(40)との間に接続している。室内膨張弁(63)は、その開度が調整自在な電子膨張弁で構成される。
【0041】
〈センサ及びコントローラ〉
冷媒回路(11)には、低圧圧力センサ(71)、高圧圧力センサ(72)、膨張機入口圧力センサ(73)、膨張機入口温度センサ(74)、及び膨張機出口温度センサ(75)が設けられている。低圧圧力センサ(71)は、吸入管(36)内の冷媒の圧力を検出する。高圧圧力センサ(72)は、吐出管(35)内の冷媒の圧力を検出する。膨張機入口圧力センサ(73)は、膨張機(24)の入口側の冷媒の圧力を検出する。膨張機入口温度センサ(74)は、膨張機(24)の入口側の冷媒の温度を検出する。膨張機出口温度センサ(75)は、冷媒流出管(32)内の冷媒の温度を検出する。冷媒流出管(32)内の冷媒は、気液二相状態となっている。このため、膨張機出口温度センサ(75)で冷媒の温度を検出することで、この冷媒の温度に相当する飽和圧力を求めることができる。つまり、膨張機出口温度センサ(75)は、実質的には、膨張機(24)の出口の冷媒の圧力を検出する圧力検出部を構成している。なお、膨張機出口温度センサ(75)に代えて、膨張機(24)の出口の冷媒の圧力を検出する圧力検出部を用いてもよい。
【0042】
コントローラ(80)には、上記各センサ(71〜75)の信号が入力される。本実施形態のコントローラ(80)には、差圧算出部(81)と差圧制御部(82)とが設けられている。差圧算出部(81)は、膨張機(24)の入口と出口との差圧ΔPを算出する。差圧制御部(82)は、算出した差圧ΔPが、差圧閾値ΔPthを越えないように、ガス抜き弁(28)の開度を制御する。コントローラ(80)、インジェクション管(27)、及びガス抜き弁(28)は、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整するための差圧調整機構を構成する。
【0043】
−運転動作−
空気調和機(10)の基本的な運転動作について
図1を参照しながら説明する。空気調和機(10)は、冷房運転と暖房運転とを切り換えて実行する。
【0044】
〈冷房運転〉
冷房運転では、四方切換弁(26)が
図1の実線で示す状態となり、室外膨張弁(45)が全閉され、室内膨張弁(63)が所定開度で開放される。低段側圧縮機(21)及び高段側圧縮機(22)によって圧縮されて吐出された高圧冷媒は、室外熱交換器(23)を流れて室外空気へ放熱する。放熱した冷媒は、ブリッジ回路(40)の第1配管(41)を通過し、内部熱交換器(47)の第1流路(47a)と、中間インジェクション管(48)とに分流する。中間インジェクション管(48)を流れる冷媒は、中間減圧弁(49)によって減圧されて中間圧力となり、内部熱交換器(47)の第2流路(47b)を流れる。内部熱交換器(47)では、第2流路(47b)の冷媒が、第1流路(47a)の冷媒から吸熱して蒸発する。これにより、第1流路(47a)の冷媒が冷却される。第2流路(47b)で蒸発した冷媒は、高段側圧縮機(22)に吸入される。
【0045】
内部熱交換器(47)の第1流路(47a)を通過した冷媒は、膨張機(24)に流入する。膨張機(24)では、高圧冷媒がピストンを回転させながら徐々に減圧される。その結果、ピストンと連結する回転軸が回転する。この回転動力は、膨張機(24)内の発電機(図示省略)での発電に利用される。
【0046】
膨張機(24)で中間圧力まで減圧された冷媒は、気液分離器(25)に流入する。気液分離器(25)では、気液二相状態の冷媒が、ガス冷媒と液冷媒とに分離する。気液分離器(25)の上部に溜まったガス冷媒は、インジェクション管(27)を流れてガス抜き弁(28)で低圧まで減圧された後、低段側圧縮機(21)に吸入される。
【0047】
気液分離器(25)の下部に溜まった液冷媒は、冷媒流出管(32)、第3配管(43)を流れた後、各室内回路(61)へ供給される。各室内回路(61)では、冷媒が室内膨張弁(63)で減圧されて低圧となった後、各室内熱交換器(62)を流れる。室内熱交換器(62)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内空気が冷却される。室内熱交換器(62)で蒸発した冷媒は、低段側圧縮機(21)に吸入されて圧縮される。
【0048】
〈暖房運転〉
暖房運転では、四方切換弁(26)が
図1の破線で示す状態となり、室外膨張弁(45)及び室内膨張弁(63)が所定開度で開放される。低段側圧縮機(21)及び高段側圧縮機(22)によって圧縮されて吐出された高圧冷媒は、各室内熱交換器(62)を流れて室内空気へ放熱する。放熱した冷媒は、ブリッジ回路(40)の第2配管(42)を通過し、内部熱交換器(47)の第1流路(47a)を流れて冷却される。
【0049】
内部熱交換器(47)の第1流路(47a)を通過した冷媒は、膨張機(24)で膨張した後、気液分離器(25)に流入する。気液分離器(25)で分離したガス冷媒は、インジェクション管(27)を流れて低段側圧縮機(21)に吸入される。気液分離器(25)で分離した液冷媒は、第4配管(44)を流れて室外膨張弁(45)で低圧まで減圧された後、室外熱交換器(23)を流れる。室外熱交換器(23)では、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)で蒸発した冷媒は、低段側圧縮機(21)に吸入されて圧縮される。
【0050】
〈差圧制御について〉
本実施形態では、膨張機(24)の軸受荷重、及びトルクが所定の許容値を超えないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPが調整される。この点について以下に詳細に説明する。
【0051】
図2に示すように、空気調和機では、冷房運転や暖房運転の運転条件に応じて、冷媒回路のシステム差圧(高圧と低圧との間の差圧)が変動する。一般的に、膨張機のサイズ(容量や体格)は、このシステム差圧が最大となる運転条件(
図2のΔPmax)においても、発電機の脱調や軸受の潤滑不良が生じないように、比較的大きめに設定される。これにより、
図2のS1で示す運転領域においても膨張機の回収動力を十分に確保できる。
【0052】
ところが、システム差圧がΔPmaxになるのは、空気調和機の年間の運転を通じて極めて稀である。このため、このようにしてΔPmaxを基準に膨張機のサイズを決定したとしても、年間を通じたトータルの回収動力はさほど大きくならず、例えば回転軸や発電機の大型化に起因してかえって回収動力が低下したり、空気調和機の大型化、高コスト化を招くという問題がある。
【0053】
そこで、本実施形態の膨張機(24)は、システムの最大差圧ΔPmaxよりも低い所定の差圧を基準に膨張機(24)のサイズを決定することで、膨張機(24)の小型化を図っている。そして、実際の運転中には、膨張機(24)の運転が故障領域(上述した脱調や軸受けの潤滑不良により通常の運転ができなくなる運転領域)に至らないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整している。この差圧制御について
図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0054】
図3に示すように、空気調和機(10)の運転(暖房運転又は冷房運転)が開始されると、ステップSt1で膨張機(24)の前後の差圧ΔPが算出される。この差圧ΔPは、膨張機入口圧力センサ(73)で検出された冷媒圧力P1と、膨張機出口温度センサ(75)で検出された冷媒の飽和温度に相当する圧力P2との差(P1−P2)である。次いで、ステップSt2では、算出されたΔPと、上述した差圧閾値ΔPthとの大小が比較される。この差圧閾値ΔPthは、膨張機(24)の運転が上記の故障領域に至らないように、予め決定された許容値である。なお、このΔPthを、通常の運転範囲において軸受けに作用する最大軸受荷重から決定すると、軸受荷重の増大に起因する軸受の潤滑不良を確実に防止できる。
【0055】
空気調和機(10)のシステム差圧が大きくなると、これに伴いΔPも大きくなる。そして、ステップSt2でΔPがΔPthより大きくなると、ステップSt3へ移行し、ガス抜き弁(28)が全閉でない場合に、ガス抜き弁(28)の開度が所定開度だけ小さくなる(ステップSt4)。これにより、膨張機(24)の出口側の圧力P2が上昇するため、ΔPが小さくなる。その結果、システム差圧が比較的高い領域(例えば
図2のS2で示す領域)であっても、膨張機(24)の運転が故障領域に至るのを回避でき、且つ膨張機(24)を継続的に運転して動力を回収できる。なお、ガス抜き弁(28)の開度の操作量は、ΔPのΔPthに対するオーバーシュートが大きくならない程度の比較的小さな操作量となっている。
【0056】
システム差圧が比較的小さく、ステップSt2でΔPがΔPth以下である場合、ステップSt5へ移行し、ガス抜き弁(28)が全開でない場合に、ガス抜き弁(28)の開度が所定開度だけ大きくなる。その結果、膨張機(24)の出口側の圧力P2が低下するため、ΔPが大きくなって膨張機(24)の回収動力が増大する。
【0057】
なお、ステップSt2においては、ΔPの検知誤差の影響を小さくするために、条件(ΔP>ΔPth)の成立をカウントして、このカウント数が所定回数(例えば3回)を越えると、次のステップへ移行させる制御としてもよい。
【0058】
また、ステップSt3において、ガス抜き弁(28)が全閉である場合、ガス抜き弁(28)を調整してΔPを下げることができない。このため、冷房運転を行っている場合には、膨張機(24)を停止して膨張機(24)の運転が故障領域に至るのを未然に回避する(ステップSt7→ステップSt12)。
【0059】
一方、ステップSt7で暖房運転を行っていると判定されると、ステップSt8に移行し、膨張機(24)の回転数が未だ最大でない場合には、膨張機(24)の回転数を上げるようにする(ステップSt8→ステップSt9)。膨張機(24)の回転数は、膨張機(24)の入口の冷媒圧力P1が所定の目標値に至るように制御される。このため、ステップSt9に移行した場合に、このP1の目標値を下げてやることで、膨張機(24)の回転数が増大する。これにより、膨張機(24)の入口の冷媒圧力P1が低下し、ひいてはΔPが小さくなる。従って、膨張機(24)の運転が故障領域に至るのを回避できる。
【0060】
また、ステップSt8で膨張機(24)の回転数が最大である場合、ステップSt10へ移行する。ステップSt10において、室内膨張弁(63)の開度が所定開度より大きい場合、ステップSt11へ移行し、室内膨張弁(63)の開度が小さくなる。室内膨張弁(63)の開度は、システムの高圧と膨張機(24)の入口圧力P1との差圧が所定の目標値に至るように制御される。このため、ステップst11へ移行した場合に、この差圧の目標値を上げてやることで、室内膨張弁(63)の開度が小さくなる。これにより、膨張機(24)の入口圧力P1が低下し、ひいてはΔPが小さくなる。従って、膨張機(24)の運転が故障領域に至るのを回避できる。
【0061】
なお、ステップSt10において、複数の室内ユニット(60)の室内膨張弁(63)の開度を調整する場合には、各室内膨張弁(63)の開度を全て同じ割合で絞るようにすると、各室内ユニット(60)の暖房能力をバランスできる。
【0062】
また、暖房運転であっても、膨張機(24)の回転数が最大であり、且つ室内膨張弁(63)の開度が所定開度以下である場合には、膨張機(24)を停止させる(ステップSt7→ステップSt8→ステップSt10→ステップSt12)。
【0063】
−実施形態の効果−
上記実施形態では、膨張機(24)の運転が故障領域に至らないように、膨張機(24)の前後の差圧ΔPを調整している。これにより、膨張機(24)のトルクが増大して脱調が生じたり、膨張機(24)の軸受荷重が増大して軸受けの潤滑不良が生じたりするのを未然に回避できる。その結果、膨張機(24)で安定した運転を行うことができ、空気調和機(10)の信頼性を確保できる。
【0064】
また、システム差圧が比較的大きな運転領域(例えば
図2の領域S2)であっても、膨張機(24)の運転を継続でき、所定の回収動力を得ることができる。
【0065】
また、ガス抜き弁(28)を調整して膨張機(24)の出口圧力P2を増大させたとしても、冷房時の室内膨張弁(63)や暖房時の室外膨張弁(45)の開度を調整することで、所定の蒸発圧力を維持できる。つまり、本実施形態では、ガス抜き弁(28)を調整しても、高圧と低圧を所望とする圧力に維持できるため、空気調和機(10)で安定した運転を行うことができる。
【0066】
−実施形態の変形例−
上記実施形態については、以下のような変形例としてもよい。
【0067】
上記実施形態では、空気調和機(10)の運転中に膨張機(24)の前後の差圧ΔPを求め、この差圧ΔPが差圧閾値ΔPthを越えないように、ガス抜き弁(28)を調整している。しかしながら、空気調和機(10)の運転中に膨張機(24)のトルクNを求め、このトルクNが許容値(トルク閾値Nth)を越えないように、ガス抜き弁(28)を調整するようにしてもよい。
【0068】
つまり、変形例1では、
図4に示すように、ステップSt21で膨張機(24)のトルクNが算出され、ステップSt22で算出されたトルクNと、予め決定されたトルク閾値Nthとの大小比較が行われる。
【0069】
上記トルクNは、コントローラ(80)に含まれたトルク推定部によって推定される。具体的に、トルクNは、膨張機(24)の入口圧力P1、膨張機(24)の入口温度T1、膨張機(24)の出口圧力P2、及び膨張機(24)の回転数Rをパラメータとして、予めコントローラ(80)に設定したテーブルを用いて簡易的に求めることができる。なお、このトルクNを、上記P1、P2、及びRから求めてもよいし、P1及びP2のみを用いてより簡易的に求めてもよい。また、トルクNを、膨張機(24)の回転数R、膨張機の前後の冷媒の理論エンタルピ差Δh、膨張機(24)の冷媒の循環量G、運転時の膨張機の効率ηexpを用いてより正確に求めることもできる。
【0070】
更に、トルクNを膨張機(24)の回収電力Wを用いて算出することもできる。つまり、膨張機(24)のトルクNと膨張機(24)の回収電力Wとの間には、ある程度の相関がある。従って、膨張機(24)の回収電力Wと、回転数Rとを用いてトルクNを推定することができる。
【0071】
ステップSt22でトルクNがトルク閾値Nthよりも大きい場合、ステップSt23へ移行し、ガス抜き弁(28)が全閉でない場合に、ガス抜き弁(28)の開度が所定開度だけ小さくなる(ステップSt24)。これにより、ΔPが小さくなり、膨張機(24)のトルクNも小さくなる。その結果、膨張機(24)の脱調を確実に回避できる。
【0072】
ステップSt22でトルクNがトルク閾値Nth以下である場合、ステップSt25へ移行し、ガス抜き弁(28)が全開でない場合に、ガス抜き弁(28)の開度が所定開度だけ大きくなる。その結果、ΔPが大きくなり、膨張機(24)の回収動力が増大する。それ以外の制御フローは、上述した実施形態と同様である。
【0073】
《その他の実施形態》
上記実施形態に係る差圧閾値ΔPthや、上記変形例に係るトルク閾値ΔNthは、膨張機(24)の回転数に応じて変化する変動値であってもよい。つまり、トルクや軸受荷重の許容値は、厳密には膨張機(24)の回転数によっても変化する。従って、膨張機(24)の回転数を考慮して差圧閾値ΔPthやトルク閾値ΔNthを決定することで、膨張機(24)の運転が故障領域に至るのをより確実に回避できる
。