(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
細胞を、マイクロ化学デバイスを使って観察する場合、従来の技術では観察する細胞に適切なウェル形状として最小で直径10μmサイズのマイクロウェルを数十万個集積したデバイスが提供できているものの、射出成形でのマイクロ化学デバイスを作製するにはウェルとウェルとの距離が最小でもウェル径の2倍(2ウェル)以上は必要であった。このような状況では、1デバイス内のウェル集積数は数十万個になるものの、蛍光顕微鏡観察、レーザー顕微鏡観察などの観察では1視野内にあるウェル数に限界があり、かつ観察試料の製作条件によっては貴重な細胞がウェル内に入らないで、ウェル間に存在してしまうことがあった。
【0003】
合成樹脂による射出成形でマイクロ化学デバイスを製作するには、デバイスのパターン形状(ウェルデバイスの場合はウェル形状)を反転させた金型入子を製作する必要がある。現状の金型製作技術では、加工ツールからくる制限、加工機からくる制限、デバイス形状からくる制限などから、ウェル形状製作で望まないコーナー部に生じるアールをゼロにして、ウェル径が10μmから数百μmのウェル形状のデバイスを1ウェル以内の距離でウェルを配列させることができなかった。
【0004】
インプリント、特にマイクロレンズ、拡散シートなどの光学分野では、ナノパターンの凹形状を1パターン以下の距離で配列させる実例があるが、凹形状がナノレベルであるため、ニッケル系の鋼材を使用することで、金型入子の製作が可能となる場合があるものの、本発明のように、細胞・タンパク質などを扱うバイオ関連分野において、パターンサイズが10μm以上、数百μm以下程度のサイズでは、同様な金型入子の製作が困難である。更に、パターン配置も重要で、ウェル形状、ウェル間距離が同じでも、千鳥形状のパターン配置になると、現状の金型加工技術では加工できない。
【0005】
特許文献1では、微生物、細胞、タンパク質などのスクリーニングとして最近は大量のライブラリーからのスクリーニングが必要と記載しているが、ウェルサイズは直径50μmで隣接ウェル間距離は80μmである。更に、ウェルの断面形状は半球型となっており、従来の技術レベルでは、ウェル間距離を1ウェル分以内に縮めることができない。
【0006】
特許文献2では、0.1μmから200μmサイズの凹形状、凸形状、孔形状に関して記載されているが、隣接ウェルの距離に関する記載がなく、図面代用写真から判断する限り、ウェル間距離は1ウェル分以上と考えられる。更に、ウェルの側壁はほぼ垂直であること、射出成形法でデバイスを製作していない。
【0007】
尚、ウェル側壁に特定の傾斜角を付ける手法として、単結晶シリコンのウェットエッチング法が良く知られているが、この手法では、シリコン結晶構造の(100)面と(111)面とのアルカリ液によるウェットエッチング速度の違いを利用して(異方性エッチング)、シリコンの(100)面をウェットエッチングすることで、(111)面が54.74度の傾斜面をもって現われるものの、54.74度の傾斜面しか設けることができないという制約が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、X線リソグラフィー手法とニッケル電鋳手法で隣接ウェル間の距離を1ウェル分以下にして、ウェル側壁に5度から25度の範囲でウェル使用の目的にあった任意の傾斜角を有する高集積の
射出成形マイクロ化学デバイスを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の課題解決のために、観察対象とする微生物、細胞
又はタンパク質を保持する
ためのマイクロウェルが
数十万個集積され、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡
又はレーザー顕微鏡による観察に供するマイクロ化学デバイスであって、
X線源からX線を照射する際、X線マスクとレジスト基板とを計算した任意の距離だけ相対平行移動させることにより、X線マスク上のパターン形状を介してレジスト基板に照射されるX線量を制御する加工方法を用い、レジスト基板上に形成するウェルの側壁にX線マスクとレジスト基板との相対平行移動に見合った5度から25度の傾斜角を設け、そのレジスト基板をもとに導電化処理を経てニッケル電鋳によって金型入子を製作し、その金型入子を用いた合成樹脂の射出成形により、一つのマイクロウェルの形状が10μmから300μmの間口寸法で、ウェル側壁傾斜角が5度から25度の範囲にあるとともに、ウェルアスペクト比が0.7〜1であり、隣接ウェル間距離が1ウェルの間口寸法以下の距離で集積させたことを特徴とする射出成形マイクロ化学デバイスを構成した。
【発明の効果】
【0011】
以上にしてなる本発明の射出成形マイクロ化学デバイスによれば、観察対象とする微生物、細胞
又はタンパク質を保持する
ためのマイクロウェルが
数十万個集積され、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡
又はレーザー顕微鏡による観察に供するマイクロ化学デバイスであって、X線源からX線を照射する際、X線マスクとレジスト基板とを計算した任意の距離だけ相対平行移動させることにより、X線マスク上のパターン形状を介してレジスト基板に照射されるX線量を制御する加工方法を用い、レジスト基板上に形成するウェルの側壁にX線マスクとレジスト基板との相対平行移動に見合った5度から25度の傾斜角を設け、そのレジスト基板をもとに導電化処理を経てニッケル電鋳によって金型入子を製作し、その金型入子を用いた合成樹脂の射出成形により、一つのマイクロウェルの形状が10μmから300μmの間口寸法で、ウェル側壁傾斜角が5度から25度の範囲にあるとともに、ウェルアスペクト比が0.7〜1であり、隣接ウェル間距離が1ウェルの間口寸法以下の距離で集積させたマイクロ化学デバイスを提供できるので、単位面積あたりのウェルの集積度を最大に高めることができ、それにより一枚のマイクロ化学デバイスでスクリーニングできる微生物、細胞、タンパク質などの数を増やすことができ、また光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡などの観察装置でウェル内の細胞観察をする際、同じ倍率でも視野内に存在するウェル数が多くなり、作業効率が格段に向上する。また、隣接ウェル間距離が小さいので、隣接するウェルの間に細胞等が付着することがなく、貴重なサンプルを有効に利用できる。
【0012】
マイクロウェルのウェル側壁傾斜角が5度から25度の範囲にすることにより、デバイスを射出成形で作製する際に、メルトがウェルパターンを完全に充填させることができ、また細胞をウェル内にスムーズに導入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】X線リソグラフィーによってポジ型レジストにウェル形状を形成する基本原理を示す説明図である。
【
図2】X線マスクを往復平行移動させて、側壁傾斜角を有するウェルを製作する例を示す説明図である。
【
図3】
図2と異なるX線マスクを往復平行移動させて、側壁傾斜角を有するウェルを製作する例を示す説明図である。
【
図4】ウェル側壁傾斜角の好ましい範囲を説明するための説明図である。
【
図5】ウェルの好ましい基本形状を示し、(a)は正方形の四角錐台形状のウェル、(b)は長方形の四角錐台形状のウェル、(c)は(a)と(b)の中央断面図、(d)は正六角形の六角錐台形状のウェル、(e)は横長六角形の六角錐台形状のウェル、(f)は(d)と(e)の中央断面図、(g)は円錐台形状のウェル、(h)は(g)の中央断面図を示している。
【
図6】1辺が100μmの正方形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロでウェルが縦横に配列した格子状最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図7】1辺が100μmの正方形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロでウェルが千鳥に配列した千鳥状最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図8】1辺が100μmの正方形のウェルを用い、隣接ウェル間距離が20μmでウェルが千鳥に配列した千鳥状最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図9】ウェル間口の1辺が100μmの正六角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図10】ウェル間口の1辺が100μmの正六角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図11】ウェル間口寸法(対向する平行な2辺間距離)が100μmの正六角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図12】ウェル間口寸法(対向する平行な2辺間距離)が100μmの正六角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図13】ウェル間口寸法(対角の頂点間距離)が140μmの正八角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図14】ウェル間口寸法(対角の頂点間距離)が140μmの正八角形のウェルを用い、隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【
図15】ウェル間口寸法(直径)が100μmの円形のウェルを用い、隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
図1は本発明の製造方法の一部を示し、シンクロトロン放射光によるX線リソグラフィーの原理図である。このX線リソグラフィーによって、ウェルの形状と同じ凹形状を基板に形成し、該基板を用いてニッケル電鋳法によって金型入子(凸形状)を作成し、それを射出成形金型内にセットして、合成樹脂で射出成形してマイクロ化学デバイスを製作する。
【0015】
シンクロトロン放射光によるX線リソグラフィーとは、
図1に示すように、シンクロトロン放射光1を照射時にX線マスク2をPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)基板3に対して任意量を相対平行移動させて、ポジ型レジストであるPMMA基板3に照射されるX線量を制御する。このX線量の制御により、PMMA基板3に任意の傾斜を設けたウェル4を形成することが可能となる。X線マスク2は、X線透過部2AとX線不透過部2Bよりなり、X線透過部2Aの形状によって、前記PMMA基板3に形成されるウェル4の輪郭形状が決まる。
【0016】
即ち、側壁傾斜角も含めて1ウェルの形状を決めた後、X線マスクを製作することになるが、このX線マスクのパターン形状とX線マスク移動量とを制御することにより、ウェル間距離をゼロから1ウェル分以下の範囲にすることが可能となる。従って、ウェルレイアウトは、格子状、千鳥形状を問わない。
【0017】
更に、X線照射量全域でナノレベルの形状精度でマイクロウェルを1ウェル以下の隣接間距離で大量に作製することが可能となる。更に、金型鋼材から直接、10μmから数百μmの形状の凸形状を加工した場合、側壁コーナー部に加工アールが付いてしまうが、本加工プロセスでは加工アールは付かないという特徴がある。但し、X線マスク2とPMMA基板3とを相対移動させることから、両者の間に移動クリアランスを設ける必要がある。サブナノメートルの波長のX線を用いても、PMMA基板3に形成するパターンサイズによっては、このクリアランスがX線回折を引き起こし、形成するパターン部にアールが付いてしまう。従って、本願のパターンサイズである数十μm程度のパターンを形成させる場合、この移動クリアランスは最大で500μm前後にする必要がある。
【0018】
図2及び
図3に、X線透過部2Aの形状が同じ正方形でピッチも同じであるが、大きさが異なるX線マスク2を用いて、X線マスク移動量を変化させた場合に、PMMA基板3に形成されるウェル4の形状及びサイズがどのようになるかを示した。
図2のX線マスク2は、X線透過部2Aのサイズが小さく、
図3のX線マスク2は、X線透過部2Aのサイズが大きい。
【0019】
先ず、
図2において、X線マスクのパターンの
エッジ位置を基準として初期位置をL
0とし、それを左右方向(この方向をX軸方向とする)にL
lとL
2の間(L
1−L
2間がX線マスクの移動距離に相当する)で、X線マスク2をある任意の等速円運動でX軸方向とY軸方向にそれぞれ移動させることで、PMMA基板3に実線で示すようなウェル4が形成される。X線マスク2の等速円運動を高精度に、その移動量を制御することで、ウェル側壁の傾斜面は直線状になる。この場合、ウェル4には平坦な底部が形成され、全体として四角錐台形状となる。また、ウェル4の深さはX線の照射量(Dose)で制御できる。そして、前記X線マスク2をL
3とL
4の間で等速円運動により、X軸方向とY軸方向にそれぞれ移動させると、点線で示すようなウェル4が形成される。L
4は隣接するX線透過部2A,2Aの中間位置に対応し、この場合、形成された隣接するウェル4,4の間の間隔はゼロになる。また、L
3はX線透過部2Aの中心線に対応すると、ウェル4の底部は1点になり、ウェル4は四角錐形状となる。尚、X線マスク2はX線透過材料(例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、カーボン、シリコン、高分子フィルム)からなる基板に、X線吸収材料(例えば、金、銅、タンタル、タングステン)で
図2のような形状がパターニングされていれば何を用いてもよい。
【0020】
次に、
図3では、同様にX線マスク2を、初期位置L
0を中心に左右方向にL
lとL
2の間である任意の等速円運動でX軸方向とY軸方向にそれぞれ移動させることで、PMMA基板3に実線で示すように四角錐台形状のウェル4が形成される。更に、X線マスク2の移動量を増やし、L
3とL
4の間を等速円運動でX軸方向とY軸方向にそれぞれ移動させると、点線で示すような四角錐台形状のウェル4が形成される。L
4は隣接するX線透過部2A,2Aの中間位置に対応し、この場合、形成された隣接するウェル4,4の間の間隔はゼロになる。この場合、L
3はX線透過部2Aの中心線まで達しないので、常にウェル4には平坦な底部が形成される。
【0021】
一般的に、X線の照射量(Dose)が同じであれば、X線マスク2の移動量が大きくなるほど、ウェル側壁傾斜角(基板3の表面に垂直な面に対する角度)は大きくなるが、X線の照射量(Dose)が多くなるほどウェル側壁傾斜角は小さくなり、深さが増す。従って、隣接ウェル間距離、ウェル側壁傾斜角、ウェルの深さが決まると、それに応じてX線マスク2のX線透過部2Aの形状と移動量、X線照射量を制御して、目的の形状を得るのである。また、ウェルの平面形状が円形の場合ならびに多角形の場合も同じ手法で、X線マスクを高精度に移動させることにより、目的のウェル集積パターンをPMMA基板上に形成することが可能となる。但し、PMMAはポジ型レジストという範疇に属すので、PMMA基板上にウェルを形成するには、所定量のX線をPMMA基板に照射した後、このPMMA基板を別途モルフォリン、アルコール系の混合溶媒に所定時間浸漬させる必要がある。
【0022】
一方、上述のX線リソグラフィー手法によって得られたPMMA基板をマスターにしたニッケル電鋳手法に関しては、一般的なスルファミン酸ニッケル浴を用いたニッケル電鋳プロセスを用いることで対応できる。このプロセスでは、PMMA基板の微細パターン面を無電解めっき、蒸着、あるいはスパッタリングにより、パターンサイズが数十μmの場合には特に膜厚に注意しながら導電化薄膜を形成した後、ニッケル電鋳を行う。
【0023】
純ニッケルの場合は、出来上がったニッケル電鋳金型入子の表面硬度が、およそ300Hv(ビッカース硬度)であるが、Ni−Fe、Ni−P、Ni−CoなどNiと合金化させることにより、表面硬度を700Hvから1000Hvまで高めることが可能となり、金型入子の耐久性が向上する。
【0024】
ウェルのサイズについては、観察対象とする微生物、細胞、タンパク質の大きさに依存する。例えば、各種細胞の大きさは、酵母細胞は10μm以下、CHO細胞は20μm以下、大腸菌は数μmであり、血球関連では赤血球は7〜8μm、白血球は20〜30μmであり、ほ乳類の成熟卵細胞はおおよそ150μm、ES細胞は数百μm、Hela細胞は20〜40μmである。従って、本発明では、マイクロウェルのサイズを10μmから500μm、好ましくは10μmから300μmの間口寸法とした。
【0025】
ウェルパターンに関しては、二次元平面で同じ形状を隙間なく二次元全面に展開するには、三角形、四角形、六角形である。従って、幾何学的には同じ面積であれば、これら三角形、四角形、六角形は同じ個数を単位面積内に形成させることが可能になる。ウェルとウェルとの間の距離(隣接ウェル間距離)が長くなると、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡などの観察装置でウェル内の細胞観察をする際、同じ倍率でも視野内に存在するウェル数が少なくなること、並びにウェル内に存在しない(ウェル間に存在する)細胞が多くなる。ウェル間に細胞が多くなると、細胞観察する際の各種溶液処理で細胞が流されてしまう危険性が高まり、更に決められた位置にない細胞は解析ができないという支障が生じる。このことから、隣接ウェル間距離がゼロのデバイスの要求が高まっている。合成樹脂の射出成形で隣接ウェル間距離を1ウェル分以下に縮めたマイクロ化学デバイスを製作する場合、この隣接ウェル間距離が短くなればなるほど、ウェルの側壁傾斜角の設定が重要になってくる。この側壁傾斜角は、デバイスを射出成形で作製する際に、メルトがウェルパターンを完全に充填させるための最適傾斜角であり、また細胞をウェル内にスムーズに導入させるための最適傾斜角である。
【0026】
特に、細胞をウェル内にスムーズに導入させるには、デバイスの親水化処理が必要となるが、ウェルの側壁傾斜角を5度から25度の範囲で設定することにより、デバイス上の親水化レベルを水を用いた水滴接触角の評価で60度から40度の範囲に制御すれば良い。
【0027】
上述のように、四角形のウェルを平面全域に形成させる場合、X線マスク上に形成する四角形の大きさと、四角形の配置(ピッチ間距離)、並びにX線マスクの移動量に応じて、ウェル底部を平坦から四角錐の頂点形状まで変化させることが可能である。当然、X線マスクの移動量を制御することにより、隣接ウェル間距離をゼロ(密着)から1ウェル分まで変化させることが可能である。
【0028】
本発明で、使用できる合成樹脂は、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、環状オレフィンポリマーを代表として、一般的に射出成形機のシリンダーでポリマー(ペレット)が溶融して、金型内で硬化する材料であれば使用に制約はなく、ポリマー単体で用いることも可能であるし、グラファイト(黒鉛)を添加した複合材料でもベースポリマーの流動性を大きく低下させない限り、使用することができる。
【0030】
表1中のφXとφYは、
図4に示す円錐台形状のウェル4の間口寸法である。つまり、φXはウェル側壁傾斜角がゼロの場合の間口寸法、φYはウェル側壁傾斜角がゼロでない場合の間口寸法である。
図4にはウェル4内に隙間なく球形の細胞Cが嵌まっている状態を示し、ウェルの深さが間口寸法と同じ場合(ウェルアスペクト比:1)とウェルの深さが間口寸法の70%の場合(ウェルアスペクト比:0.7)を併せて示している。
【0031】
ウェルアスペクト比を0.7にした場合、ウェル側壁傾斜角が25度より大きくなると、間口寸法が傾斜角ゼロと比較して3割も広がることになる。さらに、ウェルアスペクト比が1になると、ウェル傾斜角が30度の場合、傾斜角ゼロの場合と比較して約1.7倍に、ウェルアスペクト比を1.2にした場合は約2倍に広がってしまうことになる。また、ウェル間口を広くすることは細胞をウェル内に入れやすくするという特長があるものの、細胞洗浄の際に細胞がウェルから出てしまう危険性も生じる。従って、ウェル側壁傾斜角の上限を25度とした。一方、傾斜角が5度未満の場合は、射出成形時のメルトの冷却収縮の影響で、スムーズにデバイスを金型から離型できない。従って、ウェル側壁傾斜角の下限を5度とした。つまり、ウェル側壁傾斜角は5度から25度の範囲が最適である。
【0032】
また、ウェルの深さが細胞の直径よりも浅くなると、細胞の上部がウェルから露出した状態となり、細胞等の溶液処理やピックアップがやり易くなるので好ましいが、ウェルの深さが浅くなり過ぎると、ウェル内に細胞等を安定に保持することができなくなる。
【0033】
図5は、ウェルの好ましい基本形状を示している。(a)は正方形の四角錐台形状のウェル、(b)は長方形の四角錐台形状のウェル、(c)は両者の中央断面図を示している。また、(d)は正六角形の六角錐台形状のウェル、(e)は横長六角形の六角錐台形状のウェル、(f)は両者の中央断面図を示している。そして、(g)は円錐台形状のウェル、(h)はその中央断面図を示している。図中の寸法を用いれば、A×0.2<d<A×1.2の範囲が好ましく、Bは任意(300μm以内が好ましい)である。ここで、dはウェルの深さである。また、C×0.2<d<C×1.2の範囲が好ましく、Eは任意(300μm以内が好ましい)である。そして、F×0.2<d<F×1.2の範囲が好ましい。
【0034】
次に、基本形状のウェルを用いたレイアウトの例を
図6〜
図15に示す。何れのウェルも深さが100μm、ウェル側壁傾斜角が20度である。
図6〜
図8は、ウェル間口寸法が100μm、底部の寸法が1辺28μmの正方形のウェルを用いたレイアウトである。
図6は、隣接ウェル間距離がゼロでウェルが縦横に配列した格子状最密充填レイアウト、
図7は隣接ウェル間距離がゼロでウェルが千鳥に配列した千鳥状最密充填レイアウト、
図8は隣接ウェル間距離が20μmでウェルが千鳥に配列した千鳥状最密充填レイアウトを示している。
【0035】
図9及び
図10は、ウェル間口の1辺が100μmの正六角形のウェルを用いたレイアウトで、
図9は隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示し、
図10は隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示している。
【0036】
図11及び
図12は、ウェル間口寸法(対向する平行な2辺間距離)が100μmの正六角形のウェルを用いたレイアウトで、
図11は隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示し、
図12は隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示している。
【0037】
図13及び
図14は、ウェル間口寸法(対角の頂点間距離)が140μmの正八角形のウェルを用いたレイアウトで、
図13は隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示し、
図14は隣接ウェル間距離が20μmの最密充填レイアウトを示している。但し、このレイアウトの場合、4つのウェルで囲まれる位置に四角形の平坦部が形成されるが、何れもウェル間口寸法よりも小さい間隔である。
【0038】
最後に、
図15は、ウェル間口寸法(直径)が100μmの円形のウェルを用いたレイアウトで、隣接ウェル間距離がゼロで最密充填レイアウトを示している。