特許第5751202号(P5751202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5751202高純度クロロシランの製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751202
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】高純度クロロシランの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   C01B33/107 B
   C01B33/107 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-84417(P2012-84417)
(22)【出願日】2012年4月3日
(65)【公開番号】特開2013-212957(P2013-212957A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕務
(72)【発明者】
【氏名】高島 兼正
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−012607(JP,A)
【文献】 特開昭59−182222(JP,A)
【文献】 特開2005−029428(JP,A)
【文献】 特開2011−063480(JP,A)
【文献】 特表2011−504452(JP,A)
【文献】 特開2006−001804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体ケイ素原料を150℃以上の温度で塩素化することにより、テトラクロロシランおよびヘキサクロロジシランを含むクロロシラン蒸気を発生させる第1工程と、クロロシラン蒸気を冷却トラップ中に流通させ、表面温度が−70℃以上0℃以下である冷却部にクロロシラン蒸気を接触させて、クロロシラン蒸気中に含まれる塩化アルミニウムを析出させる第2工程を含むことにより、塩化アルミ濃度が20質量ppm以下の高純度クロロシランを製造する方法。
【請求項2】
ヘキサクロロジシランの含有量が1〜50質量%、テトラクロロシランの含有量が99〜50質量%であるクロロシラン蒸気に対して、表面温度が−30℃以上0℃以下である冷却部を接触させる、請求項1に記載の高純度クロロシランの製造方法。
【請求項3】
複数の冷却トラップを切り替えて用いることにより、冷却トラップの閉塞を避けて連続的に製造する、請求項1または2に記載の高純度クロロシランの製造方法。
【請求項4】
塩化アルミの析出した冷却トラップに、アルカリ金属水酸化物の水溶液を送り込んで、析出した塩化アルミを除去して冷却トラップを再使用する、請求項3に記載の高純度クロロシランの製造方法。
【請求項5】
固体ケイ素原料の塩素化を振動流動床反応装置によって行う、請求項1〜4のいずれかに記載の高純度クロロシランの製造方法。
【請求項6】
固体ケイ素原料の塩素化部分と、表面温度が−70℃以上0℃以下である冷却トラップとを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の高純度クロロシランの製造方法において使用される、高純度クロロシランの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体材料等として重用される、式(1)で表され、アルミニウム不純物の少ない高純度クロロシランの製造方法および製造装置に関する。

SinCl2n+2 (1)

但し、nは1以上の整数である。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用原料として用いられるクロロシラン類としては、トリクロロシランが最も大規模に製造されており、その製造原料として用いられる金属ケイ素には不純物としてのアルミニウムが含まれていることや、原料に含まれるアルミニウムは金属ケイ素の塩素化工程において三塩化アルミニウムの固体となって析出し、配管の閉塞等の問題を引き起こすことが知られていた。
このような問題に対して、[特許文献1]には、アルミニウム濃度が500〜3500ppmである金属ケイ素に、塩化水素、またはテトラクロロシランおよび水素を流動層で反応させた後、冷却し、得られるケイ素塩化物凝縮液を蒸留する工程で、ケイ素塩化物凝縮液からケイ素塩化物を蒸発させて回収し、塩化アルミニウム濃縮液を蒸留塔から抜出して残存するケイ素塩化物を回収するとともに、残留する再濃縮物を系外に排出することとすれば、リボイラーや周辺の配管等における塩化アルミニウムの析出、配管の閉塞を抑制できることが記載されている。
この方法では、塩化アルミニウムを含むクロロシラン混合物の中から、トリクロロシラン(沸点31.8℃)やテトラクロロシラン(沸点57.6℃)等の沸点の低いクロロシラン類を蒸発させる事によって塩化アルミニウム液を濃縮するが、一方、本願発明の製造方法の目的物である、式(1)においてnが2以上のクロロポリシランでは、例えばヘキサクロロジシランの沸点が144℃であり、塩化アルミニウムが昇華性を示し始める160℃と近接しているから、蒸発を伴う方法によって塩化アルミニウムを分離除去することは困難であった。
【0003】
[特許文献2]には、塩化アルミニウムを含む液体のケイ素塩化物に固体の種を添加し、種上に塩化アルミニウムおよびその他の金属塩化物を結晶化させ、結果として生じる液体および固体の混合物を固体除去デバイスに移し、固体含有量の減少した液体を回収することでケイ素塩化物から塩化アルミニウムおよびその他の金属塩化物を除去する方法が記載されている。この方法はクロロシランガスを含む留出ガスを凝縮させて液体のケイ素塩化物を得る工程における閉塞を抑制する方法について開示はなく、一方、種上に塩化アルミニウムを結晶化させるのに時間を要するから、ケイ素塩化物の工業的な生産には適していない方法であった。
【0004】
[特許文献3]には、金属ケイ素と塩化水素の反応により得られたクロロシランガスを加熱した塩化ナトリウムの層を通過させることで、クロロシランガス中に含まれる塩化アルミニウムと塩化ナトリウムとを反応させ、生成した複塩(NaAlCl4)を融液状態で塩化ナトリウムから排除する方法が開示されている。そして、実施例には、精製した複塩が約155℃以上で融液となることが記載されている一方で、温度が低下すると融解した複塩が凝固してハウジングが閉塞する可能性が示唆されているから、工業的に実施するには安全性の面で十分とは言えない方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1804号公報
【特許文献2】特表2011−504452号公報
【特許文献3】特開2011−63480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、クロロシラン中に含まれる塩化アルミニウムを除去して高純度クロロシランを得ることであり、特には、沸点と昇華点が近接していて蒸留では分離し難いヘキサクロロジシランと塩化アルミニウムを分離して、高純度のヘキサクロロジシランを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
テトラクロロシランおよびヘキサクロロジシランを含むクロロシラン蒸気を、表面温度が−70℃以上0℃以下の冷却部を有する冷却トラップに流通させることにより、含まれる塩化アルミニウムを冷却部に析出させて除去することができる。さらには流路の切り替え可能な複数の冷却トラップ装置を設置し、一つの冷却トラップにクロロポリシランを含むガス流を流し、他の少なくとも一つの冷却トラップについては析出物を除去する工程を行うことで、途切れることなくクロロシランを連続的に製造する方法及び装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、クロロシランに含まれる塩化アルミニウムを、簡便な方法で除去することができ、高純度のクロロシランを効率良く製造することができる。特に、ヘキサクロロジシランを含むクロロシランについては蒸留法によって塩化アルミニウムを除くのが困難であるので、本発明の方法は優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明におけるクロロシランの組成に対する凝固点の測定値を示す図である。図1の縦軸は凝固点fpを示し、単位は℃である。図1の横軸は、テトラクロロシランとヘキサクロロジシランの混合物全体に対する、ヘキサクロロジシランの質量%を示す。
図2】本発明を実施する装置の一例を示す概略図である。
図3】本発明を実施する装置の一例で、2つ設置された冷却トラップを使用する実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の必須構成要件である冷却トラップとは、表面温度を−70℃〜0℃の間に保持できる冷却部を備えたものであり、冷却部の表面温度を制御する方法は、熱媒を用いた熱交換法やペルチェ効果を用いた電子冷却、固体の熱伝導を用いた方法など何でも用いることができるが、好ましいのは冷媒(熱媒とも呼ぶ)を用いた熱交換法である。熱交換法として、冷却トラップの外部に冷媒(熱媒)ジャケットを設けて温度制御を行う外部熱交換法と、冷却トラップの内部に冷却部を備えた内部熱交換法があり、いずれでも用いることができるが、好ましいのは内部熱交換法であり、冷却トラップが管状であり、管内部に並行する管状の冷却部を備える二重管方式も含まれる。さらに好ましいのは接続配管よりも太く広い空間を有する室状の冷却トラップ内にコイル状やループ状などに成形した管からなる冷却部を備える方式であり、より好ましくは冷却部と冷却トラップの外壁との平均クリアランスが5mm以上1000mm以下のものである。冷却部には析出した塩化アルミニウムが厚く堆積する傾向があるため、閉塞を防ぐためにクリアランスは広い方がよいが、あまり広すぎるとクロロシラン蒸気が冷却部に触れずに冷却トラップを素通りしてしまうので、好ましい平均クリアランスは10mm以上1000mm以下、さらに好ましくは10mm以上500mm以下である。冷却トラップが外部熱交換法でも同じである。また、クリアランスはどこでも同じであることは必要なく、一部のクリアランスを広くして閉塞を避けることもできる。
【0011】
冷却部の形状は、内部熱交換法では直管、ループ状、コイル状など何でもよいが、好ましいのは内部に冷媒を流通できる管をコイル状に成形したものであり、コイルを形成する管同士は10mm以上離すことが好ましい。内部熱交換法、外部熱交換法に限らず、冷却部に冷媒を流すことによって冷却する場合の冷媒は公知のものがいずれでも用いることができ、冷却部の表面温度は熱電対等の温度測定手段を用いて測定することができる。そして測定した表面温度に基づいて、冷媒の流速を変えたり、冷媒の温度を変える方法などによって冷却部の表面温度を設定値に保つことができる。
【0012】
冷却部の表面温度を低く保つ具体的方法としては、例えば冷却部の内部と冷凍装置との間でエチレングリコール等の液体冷媒を循環して用いることができ、液体冷媒にはエチレングリコール等の凝固点が低く熱容量の大きな物質が好ましい。この方法は0℃〜―40℃程度の温度を達成するときに効率が良く好ましい方法である。0℃〜−60℃程度までの低温を用いるときには、圧縮機で液化されたアンモニアやフロン等の易気化冷媒を冷却部の内部で気化させる方法なども用いることができる。さらに低い温度を用いるときには冷却部の内部に液体窒素などの低温の液体を流通させる方法を用いることができる。
【0013】
本発明で用いる冷却トラップは複数設置するのが好ましい。これは、使用中の1基の冷却トラップに塩化アルミニウムの析出付着が進み、塩化アルミニウムの除去効率が低下した際に生成物の流路を切り替えられるようにするためである。塩化アルミニウムの付着した冷却トラップの冷却部は洗浄によって塩化アルミニウムを除去して再使用することができる。洗浄には高圧水洗や水蒸気洗浄、薬品洗浄等の公知の洗浄技術が利用できる。洗浄は冷却トラップを取り外して分解して行っても良いが、冷却トラップが洗浄用の配管を有する場合は、取り外すことなく洗浄用のガスや薬液、水等を送り込んで洗浄したり、また、外部から超音波振動や熱を加えて洗浄を促進することもできる。析出した塩化アルミニウムに含まれるケイ素塩化物が加水分解してシリカやシリコシュウ酸等が生成し、冷却部に固着した場合は、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液に浸漬させることで少なくとも一部を溶解させて除去することができる。
【0014】
本発明においては、テトラクロロシランおよびヘキサクロロジシランを含むクロロシラン蒸気を冷却トラップに流通させ、表面温度が−70℃以上0℃以下である冷却部に接触させることにより、クロロシランに含まれる塩化アルミニウムを冷却部の表面に析出させ、クロロシランから除去する。流通させるクロロシラン蒸気は一部にクロロシランの液化ミストを含んでいても良く、クロロシラン蒸気の少なくとも一部は冷却部で液化するので、冷却トラップをコンデンサーとして用いてもよく、生成したクロロシランの凝結回収と塩化アルミの除去を同時に行うこともできる。コンデンサーと冷却トラップを併用する場合、冷却トラップの位置はいずれでもよいが、コンデンサーへの塩化アルミニウムの析出を防ぐためにコンデンサーの前段におくのが好ましい。
【0015】
クロロシランを冷却トラップに流通させるときの流速は遅いほど塩化アルミの回収効率が向上し、冷却部の表面積は大きいほど塩化アルミの回収効率が向上するとともに回収量の上限も大きくなるが、いずれの場合も製造コストや装置コストが上昇する。好ましくは1質量ppm以上10質量%以下の塩化アルミニウムを含むクロロシラン蒸気の合計処理量1kgあたりについて、1cm2〜1m2の表面積を有する冷却部を備える冷却トラップを用いることである。
【0016】
クロロシラン中の塩化アルミニウムの含有量は大きいものほど効率よく塩化アルミニウムを除去できる。固体ケイ素原料を塩素化する製法で得られたクロロシランの場合、固体ケイ素原料中に含まれるアルミニウムに由来するものであるので、このような製法でクロロシランを得る場合は製造プロセスの中に本発明の冷却トラップを組み込んでおけば、以降の蒸留等の精製プロセスにおける塩化アルミニウム除去の負荷を大幅に減らすことができる。
【0017】
また、固体ケイ素原料の塩素化では、固体ケイ素原料の飛び出しを防ぐために反応器出口フィルターを備える場合がある。このときの冷却トラップの位置はいずれでもよいが、冷却トラップへの粉体の付着を防ぐために、冷却トラップは出口フィルターの後段におくのが好ましい。
【0018】
本発明におけるクロロシランとは、ケイ素の塩化物全般を指すが、好ましくは下記式(1)で表されるものを含み、式(1)のClの少なくとも一部がH、F、Br,Iに置換されたものも含む。
SinCl2n+2 (1)
(ただし、式1において、nは1以上の整数である。)
本発明におけるクロロシランの具体例としては、SiCl4、Si2Cl6、Si3Cl8、Si4Cl10、Si5Cl12、Si6Cl14などを例示することができる。これらのうちで、生成物として好ましいものは、式1においてnが2以上の整数であるクロロポリシランであり、さらに好ましくはSi2Cl6、Si3Cl8、Si4Cl10であり、特に有用なものはSi2Cl6であるが、本発明では、SiCl4(テトラクロロシラン)とSi2Cl6(ヘキサクロロジシラン)の両方を含むことが必須である。本発明におけるクロロシラン中のテトラクロロシランおよびヘキサクロロジシランの含有量は、クロロシラン全体の中でテトラクロロシランが好ましくは1質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上80質量%以下であり、ヘキサクロロジシランは好ましくは1質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは6質量%以上60質量%以下である。
【0019】
このような組成のクロロシランの混合物は、固体ケイ素原料の塩素化反応で得られる典型的な組成であり、精留などの工業的方法によって化合物毎に分離することができるが、上記のようにSi2Cl6以上のクロロポリシランを蒸留する温度域では塩化アルミニウムが昇華するので、蒸留によって塩化アルミニウムを分離することは困難であり、高純度のクロロポリシランを得ることが難しかった。
【0020】
固体ケイ素原料の塩素化反応によってクロロシランの混合物を得る方法及び装置の一実施形態を以下に説明する。本発明に係るクロロシランは、一般的な工業的製法としては、所定の反応槽内でケイ素粒子またはケイ素合金粒子(以下、これらを総称して固体ケイ素原料と呼ぶ。)に塩素ガスを反応させて得ることができる。反応槽としては、温度調節機構と、反応槽内に入れた固体ケイ素原料を流動させる流動機構と、を備えているものであれば、特に限定されるものではない。温度調節機構としては、ジャケット式や内部熱交換式、反応槽を温度調節された熱媒を含む室内に置く方法などが応用でき、熱媒は気体でも液体でもよい。
【0021】
反応は流動床方式で固体ケイ素原料を流動させながら行うのが好ましく、流動機構としては、例えば、反応槽に外部から力を加える機構や、反応槽内の固体ケイ素原料に直接力を加える機構などが挙げられる。反応槽に外部から力を加える機構としては、反応槽に振動を与えて反応槽内の固体ケイ素原料を振動流動させる振動流動や、反応層全体を回転させて反応槽内の固体ケイ素原料を撹拌流動させる撹拌流動などが挙げられる。撹拌流動は、例えばロータリーキルンやコニカル乾燥機などを用いて行うことができる。反応槽内の固体ケイ素原料に直接力を加える機構としては、反応槽内に撹拌羽根を備えた機構や、反応槽内に気体や液体などの流体を流動させてその流動する力を利用して反応槽内の固体ケイ素原料を流動させる機構などが挙げられる。撹拌羽根としては、パドル式のものなどが挙げられる。流動機構は、これらの機構のうちの一つよりなるものであっても良いし、複数の機構を組み合わせたものであっても良い。流動機構としては、好ましくは振動流動である。振動流動においては、攪拌羽根を用いた機構のような回転シール部分がないため、反応槽内のガスの漏えいが抑えられる点で好ましい。振動流動においては、例えば振動流動層反応槽を用いることができる。
【0022】
図2は、本発明に係るクロロシランの製造方法(以下、本製造方法ということがある。)
において好適に用いられる、本発明に係る振動流動床反応装置の一実施形態を示した概略図である。図2に示す反応装置は、固体ケイ素原料などの原料粒子を入れる円筒横型の反応槽1を備えている。反応槽1には加熱・除熱を行う熱媒を循環させるためのジャケットが設けられており、蒸気や熱媒オイルなどが例示される熱媒によって反応温度の制御が可能になっている。所定の温度で反応槽1に固体ケイ素原料が入った状態で偏心モーター等により反応槽1を振動させて固体ケイ素原料を振動流動させるとともに原料ガス供給口2から不活性ガスで希釈されていてもよい塩素ガスを供給し、気体状の反応生成物を反応槽外に取り出すことができる。
【0023】
反応槽1には固体ケイ素原料の供給装置を備えていても良く、供給装置は固体ケイ素原料の他、触媒の仕込みにも使用することができ、また、これらを塩素化反応中に反応槽1内に追加する場合にも使用することができる。これらの追加を行うことで、反応槽1内に仕込んだ原料粉量が塩素化反応によって減少した場合に、その粉面を一定レベルに維持することができる。また、反応槽の出口配管には、出口フィルター5を備えることができ、反応槽内の粉体の飛び出しを防ぐことができる。反応槽1から送り出された反応生成物は、反応槽の振動を吸収するフレキシブルホースを介して生成物を貯留するための生成物受器6が接続されており、生成物受器6までの途中のラインには、生成物を凝縮させるコンデンサー10が設けられている。また、塩素ガスなどの原料ガスを反応槽1内に吹き込むための原料ガス吹き込み管2は複数備わっていてもよく、その先端は、反応槽1内の所定の場所に配置されている。原料ガス吹き込み管2から吹き込まれる原料ガスは流量調節バルブによって流量調節(供給停止も含む)が可能になっており、フローメータを用いて所定量に調節することができる。
【0024】
固体ケイ素原料としては、シリコンウェハ、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、金属ケイ素などのケイ素粒子やカルシウムシリコン、マグネシウムシリコン、フェロシリコン等のケイ素化合物粒子がいずれも用いることができる。これらの固体ケイ素原料の多くに不可避的に含まれているアルミニウム不純物の濃度が高くても効率的に除去できるのが本発明の特徴であり、金属ケイ素の不純物濃度としてはケイ素以外の金属元素が金属ケイ素全体の中で70質量%以下、さらに金属元素のなかでもAlがアルミニウム元素として金属ケイ素全体の中20質量%以下のものが好ましい。下限については、イレブンナイングレードのシリコンウェハが知られており、不純物濃度が0.01質量ppbを下回る程度のものでも実施可能であるが、金属不純物濃度が1質量ppm以上のものは工業的に安価に入手できる点で、本発明を実施する際の原料として適している。
【0025】
金属ケイ素という名称でよばれるものは、二酸化ケイ素をカーボン電極を使用したアーク炉で還元して得られる、いわゆる金属グレードシリコンを限定して指す場合もあるが、本発明においては、さらに純度の高い高純度多結晶シリコン、太陽電池グレードシリコン、半導体グレードシリコン等もすべて含む。本実施形態においては、金属ケイ素およびカルシウムシリコン、マグネシウムシリコン、フェロシリコン等のケイ素化合物の中から選択される少なくとも一つを固体ケイ素原料として用いることがこのましい。
【0026】
固体ケイ素原料の形状は粒状が好適であり、粒径は小さい方が表面積が大きいので触媒活性化や塩素化の反応が起き易く、また、粒径が大きいほうが、流動床反応器を用いるときの飛散量が少なくなるため好ましい。固体ケイ素原料の粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布計で測定することができ、体積基準で粒度分布を解析して、メジアン径を粒径の代表値として用いることができる。本発明における金属ケイ素の好ましいメジアン径は1μmから5mmの間にあるものであり、さらに好ましくは100μmから3mmの間である。
【0027】
固体ケイ素原料は銅または銅化合物を加えて銅触媒体を生成させてから塩素と反応させることが好ましい。銅触媒体の生成は、固体ケイ素原料と銅または銅化合物とを接触させて250℃以上で加熱することによって実施できる。塩素化反応に用いる塩素は、窒素やアルゴン等の不活性ガスで希釈されたものでもよく、塩化ケイ素や塩化水素を含んでいても良い。塩化水素を含んでいるときは(式1)のClの一部がHに置き換わったケイ素塩化物が生成しうるが、好ましくは塩化水素を含まない塩素であり、さらに好ましくは不活性ガスを含む塩素であり、より好ましくは窒素ガスを含む塩素である。不活性ガスで希釈された塩素は、固体ケイ素原料との反応が温和になって粒子表面での急激な発熱が抑えられるので好ましい。不活性ガスによって希釈されるとき、好ましくは塩素が90質量%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。塩素濃度の下限は0.1質量%である。
【0028】
固体ケイ素原料と好ましくは銅触媒体とを含むものに塩素ガスを接触させて反応させることによりクロロシランを得る。固体ケイ素原料の塩素化反応は、クロロシランにおける六塩化二ケイ素の選択率に優れるなどの観点から、150〜300℃の範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは170〜270℃の範囲内、さらに好ましくは200〜250℃の範囲内、特に好ましくは210℃〜230℃である。塩素化反応の結果、式(1)で示されるクロロシランの混合物が得られる。
SinCl2n+2 (1)
ただし、式1において、nは1以上の整数である。
【0029】
<作用>
ヘキサクロロジシランの凝固点は−1〜0℃であり、冷却部の表面温度が低すぎると生成物中のヘキサクロロジシランなどのクロロポリシランが固体となって析出し、冷却トラップを閉塞させてしまう可能性があるから、従来の技術常識であれば冷却トラップの冷却部を0℃以下にすることは考えられなかったが、本願発明において冷却部の表面温度を−70℃〜0℃にしてもクロロポリシランは析出しなかった。この理由は、固体ケイ素原料の塩素化反応ではクロロポリシランの他に必ず四塩化ケイ素が副生することでありクロロポリシランと四塩化ケイ素の混合物は低温でも凝固しないことを本発明者が見出したことにある。一方、クロロシラン類への塩化アルミニウムの溶解度は液温によって大きく変動するため、冷却部の表面が低温であるほど塩化アルミニウムが多く析出する。本発明の効果はこれらの現象が組み合わせられた結果、奏されるものであり、従来技術からは予想し得ない効果である。
【実施例】
【0030】
<参考例1>
本発明者は、まず標準組成のヘキサクロロジシランとテトラクロロシランの混合物の凝固点を測定し、本発明の製造方法を実施できる冷却トラップの冷却部の表面温度の範囲を決定した。参考例1では、ヘキサクロロジシランとテトラクロロシランとを一定の質量比で混合したものを20℃の液体として冷却トラップの中に流し、冷却部に冷媒を流して冷却部の表面温度を変えたときに、冷却部表面に固体が析出を始めた温度を凝固点として記録した。その結果を表1および図1に示した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1において、ヘキサクロロジシランの含有量は、テトラクロロシランとの合計質量に対するヘキサクロロジシランの質量%を示し、0%の場合は全量がテトラクロロシランであることを意味する。表1の値をグラフに表示したものが図1である。参考例1の結果から、ヘキサクロロジシラン100%の場合は2℃で固体の析出が始まったが、ヘキサクロロジシランとテトラクロロシランの混合物を2℃よりも低温の冷却部に接触させた場合は、ヘキサクロロジシラン成分だけが選択的に析出する現象は起きず、組成によっては−70℃の低温でも固体が析出しないことがわかった。また、さらに驚くべきことに、ヘキサクロロジシランとテトラクロロシランの混合物は、組成によってはテトラクロロシラン単体よりもさらに低温まで析出しない、一種の凝固点降下を示すことも分かった。すなわち、参考例1はテトラクロロシランを含むヘキサクロロジシランは従来知られていた凝固点よりも低い温度の冷却部に接触させてもよく、組成にもよるが、−70℃以上0℃以下の温度範囲の表面温度の冷却部を備えた冷却トラップを用いることができることを示している。
【0033】
<実施例1>
<振動流動床反応装置の構成>
図2に示す構成の振動流動床反応装置とした。反応槽には、円筒横型の反応槽(25L、内径250mm×長さ600mm)を用いた。反応槽は周方向に円振動が可能である。反応槽の円振動により固体ケイ素原料が振動流動される。反応温度の制御は、ジャケット内を循環する熱媒により行われる。固体ケイ素原料は原料粒子供給口から供給され、塩素ガスは吹き込み管から供給される。反応生成物としてクロロポリシランを含むクロロシランが留出口から留出され、冷却トラップ3およびコンデンサー10で凝縮されて凝縮生成物受器に貯められる。コンデンサーの外部ジャケットには常時−10℃のエチレングリコール冷媒を循環した。
【0034】
<出口フィルター>
留出口のフランジに焼結金属エレメントを直接溶接することにより、図2の5に示す出口フィルターとした。焼結金属フィルターの仕様は以下の通りである。
材質:SUS316L
焼結体密度:4.2〜5.2g/cm3
空隙率:36〜48%
使用温度:−250〜550℃
孔径:20μm、100μm
【0035】
<塩素化反応>
反応槽に固体ケイ素原料と塩素化触媒とを入れて反応槽を振動させ、反応槽を所定の温度に加熱した状態で原料ガスを供給して塩素化反応を行った。反応条件は以下の通りである。なお、塩素化反応を行うに際し、事前に触媒体の生成を行った。触媒体の生成は、塩素ガスを吹き込む前に、吹き込み管から窒素を10L/hで吹き込みながら、反応槽の熱媒温度を320℃に設定して3時間加熱し、反応槽を1500cps振幅3mmで振動させて行った。
固体ケイ素原料:ケイ素粒子(エルケム・ジャパン社製「Silgrain HQ」、(Silgrainはエルケム社の登録商標)、Si純度99.7質量%、メジアン粒径520μm)24kg、アルミニウム含有量472質量ppm。
塩素化触媒:電解銅粉1kg
反応温度:220℃
原料ガス:塩素ガス50vol%+窒素ガス50vol%
塩素ガス供給量:250L/h
窒素ガス供給量:250L/h
吹き込み管の本数:3本
振動条件:振動数1500cpm、振幅3mm
【0036】
<冷却トラップ>
図2の3に示す、直径100mm、長さ700mmの円筒形冷却トラップの上部フランジ中央に、図2の4に示すように直径6.35mm、長さ3400mm、肉厚1mm、材質SUS316Lのシームレス管を内径50mm、ピッチ26mmでコイル状に成形したものを冷却部としてとりつけた。冷却トラップ内壁と冷却部コイルの最短距離は18mmであった。冷却部のコイル部表面には熱電対が取り付けられ表面温度が測定できる。そして、表面温度を測定しながら冷却部内部に液体窒素を流し、表面温度が設定値になるように液体窒素流量を制御した。
【0037】
塩素化反応を継続しながら、冷却部の表面温度を表2に示すように10℃刻みで変化させ、10分間反応を継続させたときに凝縮生成物受器にたまった生成物をICP発光分光分析装置で測定し、アルミニウム元素の濃度を測定して表2に載せた。
【0038】
【表2】
【0039】
<実施例2>
実施例1と同じ冷却トラップに、液体窒素の代わりに外部に設置した冷凍機で冷却したエチレングリコールを流しながら、塩素化反応を100時間行ない、金属ケイ素を19.6kg消費して、ケイ素塩化物を111.5kg得た。得られたケイ素塩化物をガスクロマトグラフ法で分析したところ、テトラクロロシランが64質量%、ヘキサクロロジシランが24質量%、オクタクロロトリシランが9.7質量%であった。反応中、冷却トラップの閉塞はなかった。エチレングリコールの温度は、冷却部表面温度が−10℃になるように温度測定値からフィードバックコントロールしたが、概ね−10℃〜−25℃の間であった。
【0040】
反応終了後、凝縮生成物として得られたケイ素塩化物全量中のアルミニウム濃度は質量5.8ppmであったので、生成したケイ素塩化物111.5kgに含まれるアルミニウムは0.65gと算出された。反応終了後の反応器には窒素ガスのみを3時間流して反応槽や配管等に残存しているケイ素塩化物を追い出した後、冷却コイルを取り外した。冷却コイルの特に上部には黄白色の固体が多く付着しており、黄白色固体からはアルミニウムが検出された。消費された金属ケイ素19.6kgに含まれるアルミニウムは9.25gなので、その全量が塩素化されたとして、9.25−0.65=8.60gのアルミニウムが冷却トラップで除去されたと考えると、冷却トラップによるアルミニウム除去率は93%と算出された。
【0041】
<実施例3>
実施例1と同じ冷却トラップに、液体窒素の代わりに外部冷凍機で冷却したエチレングリコールを流しながら塩素化反応を95時間行ない、金属ケイ素を17.1kg消費して、ケイ素塩化物を93.5kg得た。得られたケイ素塩化物をガスクロマトグラフ法で分析したところ、テトラクロロシランが63質量%、ヘキサクロロジシランが25質量%、オクタクロロトリシランが9.2質量%であった。反応中、冷却トラップの閉塞はなかった。エチレングリコールの温度は、冷却部表面温度が0℃になるように温度測定値からフィードバックコントロールしたが、概ね0℃〜−15℃の間であった。
【0042】
反応終了後、凝縮生成物として得られたケイ素塩化物全量中のアルミニウム濃度は15.5質量ppmであったので、生成したケイ素塩化物93.5kgに含まれるアルミニウムは1.45gと算出された。反応終了後の反応器には窒素ガスのみを3時間流して反応槽や配管等に残存しているケイ素塩化物を追い出した後、冷却コイルを取り外した。冷却コイルの特に上部には黄白色の固体が多く付着しており、黄白色固体からはアルミニウムが検出された。
消費された金属ケイ素17.1kgに含まれるアルミニウムは8.07gなので、その全量が塩素化されたとして、8.07−1.45=6.62gのアルミニウムが冷却トラップで除去されたと考えると、冷却トラップによるアルミニウム除去率は82%であった。
【0043】
<実施例4>
冷却トラップを図3の3A,3Bのように2基備える反応装置で実施例2と同じ塩素化反応を行い、最初は3Aの冷却トラップに反応生成物を流し、反応を50時間継続したところで、図3の7,8の流路切換え弁を操作して反応生成物の流路を3Bの冷却トラップに変更して反応開始から100時間目まで反応を継続した。50時間目に流路を切り替えた後の3Aの冷却トラップには洗浄用配管9から窒素を流し、冷却部にはスチームを流して表面温度を130℃まで上げた。排出配管11は除害装置につないだ。こうして冷却トラップ3Aの乾燥を1時間した後、10%質量濃度の水酸化ナトリウム溶液を冷却トラップ3Aに満たし、冷却部には温水を流して表面温度を60℃にして48時間おいた。その後、冷却トラップの中を脱イオン水で洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液と共に洗浄液を回収して回収液中のアルミニウム濃度をICP発光分光分析装置で測定したところ、冷却トラップ3Aに付着していて洗浄で溶出したアルミニウムは、4.02gであった。冷却トラップ3Aには再び窒素を流し、冷却部にはスチームを流して表面温度を130℃まで上げ、1時間乾燥した。100時間の反応終了後、冷却トラップ3Bは冷却トラップ3Aと同じように洗浄操作を行い、回収したアルミニウム量を測定したところ、4.15gであった。
【0044】
実施例4は実施例2と同じように塩素化反応を100時間行ない、金属ケイ素を19.6kg消費して、ケイ素塩化物を111.5kg得た。反応終了後、凝縮生成物として得られたケイ素塩化物の組成は実施例2と同じであった。全量中のアルミニウムは質量5.0ppmであったので、生成したケイ素塩化物111.5kgに含まれるアルミニウムは0.56gと算出された。消費された金属ケイ素19.6kgに含まれるアルミニウムは9.25gなので、その全量が塩素化されたとして、9.25−0.56=8.69gのアルミニウムが冷却トラップで除去されたと考えられる、冷却トラップによるアルミニウム除去率は94%と算出された。
【0045】
冷却トラップ3Aおよび3Bの洗浄液中のアルミニウムの量は4.02+4.15=8.17gであったので、ケイ素原料中のアルミニウム成分は、高い除去率で冷却トラップに捕捉され、捕捉されたアルミニウムは、洗浄操作によってほぼ全量が除去された、すなわち冷却トラップがリサイクルされたことが確かめられた。そして、1個の冷却トラップを用いて100時間の反応を通して行った場合よりも複数の冷却トラップを切り替えて用いた方がアルミニウム除去率が高く、冷却トラップは使用時間と同じ50時間で洗浄リサイクルが可能だったことから、少なくとも2個の冷却トラップを切り替えて用いれば、連続的に反応を継続できるものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るクロロシランの製造方法および装置は、半導体用シリコンのシリコンソース
として重用されるテトラクロロシランヘキサクロロジシラン等の高純度クロロシランを得
る方法および装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1.振動流動床反応槽
2.原料ガス吹き込み管
3.冷却トラップ
3A.冷却トラップ(2系列のうちの第1)
3B.冷却トラップ(2系列のうちの第2)
4.冷却部
5.出口フィルター
6.凝縮生成物受器
7.冷却トラップ出口流路切換え弁
8.冷却トラップ入口流路切換え弁
9.冷却トラップ洗浄用配管
10.コンデンサー
11.冷却トラップ排出用配管
図1
図2
図3