特許第5751207号(P5751207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751207
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】電池直流抵抗評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20150702BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20150702BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   G01R27/02 A
   H01M10/48 P
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-98622(P2012-98622)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-228216(P2013-228216A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2013年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 一幸
(72)【発明者】
【氏名】浜野 哲志
(72)【発明者】
【氏名】数見 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
【審査官】 柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−231179(JP,A)
【文献】 特開2004−271410(JP,A)
【文献】 特開2004−301724(JP,A)
【文献】 特開2006−292565(JP,A)
【文献】 特開2009−031220(JP,A)
【文献】 特開2011−122917(JP,A)
【文献】 特開2012−078360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
27/02
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の内部直流抵抗を測定する電池直流抵抗評価装置であって、
測定対象電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段と、
このインピーダンス測定手段の測定結果と選択された等価回路に基づき演算される回路定数と電池直流抵抗測定条件の電流値と開路電圧値(OCV)の変化分に基づき前記測定対象電池の応答電圧を算出するとともに内部直流抵抗値を算出する直流抵抗値解析手段を設け、
前記直流抵抗値解析手段は、電池の充電状態(SOC)を変えながらOCVデータを測定して作成されたSOC-OCVテーブルを用いて前記応答電圧を算出することを特徴とする電池直流抵抗評価装置。
【請求項2】
二次電池の内部直流抵抗を測定する電池直流抵抗評価装置であって、
測定対象電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段と、
このインピーダンス測定手段の測定結果と選択された等価回路に基づき演算される回路定数と電池直流抵抗測定条件の電流値と開路電圧値(OCV)の変化分に基づき前記測定対象電池の応答電圧を算出するとともに内部直流抵抗値を算出する直流抵抗値解析手段を設け、
前記直流抵抗値解析手段は、温度を変えながら測定されたOCVデータを用いて前記応答電圧を補正することを特徴とする電池直流抵抗評価装置。
【請求項3】
前記等価回路として、CPEが直列接続された回路を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池直流抵抗評価装置。
【請求項4】
前記等価回路の回路定数は、温度を変えながら測定されたインピーダンスデータを用いて前記回路定数を補正することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電池直流抵抗評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池直流抵抗評価装置に関し、詳しくは、リチウムイオン電池などの二次電池の内部直流抵抗測定における効率改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車などに用いられる二次電池の性能評価指標の一つに、電池内部の直流抵抗(DCR;Direct Current Resistance)があり、このDCRの具体的な試験方法は、たとえば「日本電動車両協会規格JEVS D714 ハイブリッド自動車用密閉形ニッケル・水素電池の直流抵抗算出方法」(非特許文献1)により規定され、公表されている。
【0003】
図12は、従来のDCR測定系の一例を示すブロック図である。図12において、測定対象の電池1には、電池1に充放電パルスを印加する充放電装置2と、充放電装置2を駆動制御するとともに充放電パルス印加時における電池1の電圧および電流を測定する電圧・電流測定装置3が接続されている。そして、電圧・電流測定装置3には、DCR解析装置4が接続されている。
【0004】
このような構成において、DCR測定にあたり、充放電装置2は、電池1に対して、たとえば定格容量が20Ahの場合には、図13に示すようなシーケンスで所定レベルを有する充放電電流パルス波形を印加する。電圧・電流測定装置3は、たとえば図14に示すように、印加された電流パルス波形による放電電流ΔIに対する電池1の応答電圧ΔVを測定する。そして、DCR解析装置4は、これら応答電圧ΔVと放電電流ΔIの商を演算してDCR(=ΔV/ΔI)を算出する。
【0005】
図15は、DCR解析装置4の具体的な構成例を示すブロック図である。図15において、入力部41を介してDCR演算部42に測定時刻ポイントを含むDCR測定条件と応答電圧が入力される。DCR演算部42は、前述の演算式DCR(=ΔV/ΔI)に基づいて、DCR測定条件で指定された各測定時刻ポイントにおけるDCRを算出する。ここで、ΔVは応答電圧の降下幅であり、ΔIは電流パルスのレベルである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「日本電動車両協会規格 JEVS D714 ハイブリッド自動車用密閉形ニッケル・水素電池の直流抵抗算出方法」、財団法人 日本電動車両協会 標準化部会、平成15年3月26日制定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来のDCR測定系によれば、電池1に対して比較的大きな充放電パルスを印加することから、電池1の出力に現れる摂動も大きくなってしまう。この結果、以下のような問題が発生することになる。
【0008】
1)充放電パルス印加後、電池1を安定状態に回復させるためには長い休止時間を取る必要がある。休止時間を設けないと、測定の再現性が確保できない。よって、従来のDCR測定系を用いてたとえば電池の製造ラインでDCR検査を行う場合にはかなりの検査時間がかかることになり、生産性が悪い。
【0009】
2)測定する電池1の容量によっては大容量の電源を必要とする。また、大容量の電源を用いた場合には、これらの機器から発するノイズなどの影響を受けやすく、安定した測定を行うためにはノイズ対策なども必要になる。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するものであり、その目的は、大容量の電源を用いることなく、短時間で効率よく測定が行える電池直流抵抗評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
二次電池の内部直流抵抗を測定する電池直流抵抗評価装置であって、
測定対象電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段と、
このインピーダンス測定手段の測定結果と選択された等価回路に基づき演算される回路定数と電池直流抵抗測定条件の電流値と開路電圧値(OCV)の変化分に基づき前記測定対象電池の応答電圧を算出するとともに内部直流抵抗値を算出する直流抵抗値解析手段を設け、
前記直流抵抗値解析手段は、電池の充電状態(SOC)を変えながらOCVデータを測定して作成されたSOC-OCVテーブルを用いて前記応答電圧を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、
二次電池の内部直流抵抗を測定する電池直流抵抗評価装置であって、
測定対象電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段と、
このインピーダンス測定手段の測定結果と選択された等価回路に基づき演算される回路定数と電池直流抵抗測定条件の電流値と開路電圧値(OCV)の変化分に基づき前記測定対象電池の応答電圧を算出するとともに内部直流抵抗値を算出する直流抵抗値解析手段を設け、
前記直流抵抗値解析手段は、温度を変えながら測定されたOCVデータを用いて前記応答電圧を補正することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電池直流抵抗評価装置において、
前記等価回路として、CPEが直列接続された回路を用いることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の電池直流抵抗評価装置において、
前記等価回路の回路定数は、温度を変えながら測定されたインピーダンスデータを用いて前記回路定数を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電池直流抵抗評価装置によれば、大容量の電源を用いることなく、短時間で効率よく電池の直流抵抗測定が行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
図2図1の動作説明図である。
図3図1の動作説明図である。
図4図1の動作説明図である。
図5図1の動作説明図である。
図6】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
図7図6の動作説明図である。
図8図6の動作説明図である。
図9図6の動作説明図である。
図10図6の動作説明図である。
図11】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
図12】従来のDCR測定系の一例を示すブロック図である。
図13】DCR測定時における充放電電流パルス波形のシーケンス例図である。
図14】DCR測定時における電圧・電流の波形例図である。
図15】従来のDCR解析装置4の具体的な構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図12と共通する部分には同一の符号を付けている。図1図12の相違点は、図1には図12の電圧・電流測定装置3に代えてインピーダンス測定装置6が設けられていることである。このインピーダンス測定装置6は、電池1の電気特性としてインピーダンスを測定し、その測定データをDCR解析装置4に入力する。
【0019】
図2図1で用いるDCR解析装置4の具体的な構成例を示すブロック図であり、図15と共通する部分には同一の符号を付けている。図2において、入力部44を介して、インピーダンスデータ、等価回路、SOC-OCVテーブルおよびDCR測定条件の各データが各部に出力される。
【0020】
SOC演算部45は、DCR測定条件として規定されている充放電パルス高およびパルス発生時間から充放電量を算出することにより電池1の充電状態SOC(State of Charge)値を算出し、その演算結果をSOC-OCV演算部47に出力する。詳細な計算方法は別途説明する。
【0021】
回路定数演算部46は、インピーダンス測定装置6により測定されたインピーダンスデータを用いて、等価回路として最適な回路定数を算出する。詳細な計算方法は別途説明する。
【0022】
SOC-OCV演算部47は、SOC-OCVテーブルからSOC値に応じた開路電圧OCV(Open circuit voltage)値を算出する。詳細な計算方法は別途説明する。
【0023】
応答電圧演算部48は、電池1へ電流パルスを印加したときの応答電圧を算出する。具体的には、等価回路、回路定数、DCR測定条件およびOCV値を用いて、電池1の内部インピーダンスに電流パルスを印加した際に発生する電圧変化と内部起電力の和で算出される。詳細な計算方法は別途説明する。
【0024】
それぞれの詳細な計算方法の説明にあたり、各データについて説明する。
図3は、インピーダンス測定装置6により測定された電池1のインピーダンスデータ例図である。特性曲線CHaはインピーダンスの測定結果を示し、特性曲線CHbは位相の測定結果を示している。
【0025】
図4電池の等価回路の説明図であり、(A)は具体的な等価回路例図、(B)は(A)の回路における各素子の具体的な回路定数例リストである。ここで、(A)の抵抗R1は電池内部の電解液の抵抗を表し、抵抗R2とコンデンサC2の並列回路は電池の一方の電極の抵抗と静電容量を表し、抵抗R3とコンデンサC3の並列回路は電池の他方の電極の抵抗と静電容量を表している。これら3個の抵抗R1〜R3は、特開2001−231179号公報の図3にも記載されているように、周波数帯域によって応答周波数が異なることから、3つに分けて表している。
【0026】
図5は、SOC-OCVテーブルの具体例図である。電池1のSOC値が0〜100%の範囲で10%毎に異なる場合について、各OCV値を測定して作成されたものである。
【0027】
SOC値は、SOC演算部45において、所定のDCR測定条件に基づいて演算された各測定時間における演算値である。
【0028】
OCV値は、SOC-OCV演算部47により算出された各測定時間における開回路電圧値である。
【0029】
応答電圧は、応答電圧演算部48で算出された応答電圧である。
【0030】
電池1の電気特性について説明する。
起電力は電池1の起電力であり、OCV値として算出される。
内部インピーダンスは電池1の内部インピーダンスであり、1つあるいは複数の回路素子で構成され、各素子の定数は回路定数演算部46で算出される。
【0031】
[応答電圧の算出]
電池1に発生する応答電圧E0は、図6の等価回路に示すように次のE1とE2との和からなる。
a)内部起電力;E1
b)内部インピーダンスによる電圧変化;E2
【0032】
起電力の電圧E1は、電流の印加状態にはよらない電圧であるが、SOCにより変化する。一般に、放電時には電池1の端子間電圧E0は低下するものとして知られているが、ここではこのような電圧降下は内部インピーダンスによるものである。電流の印加状態にはよらないので、電池1のOCVを測定することで起電力の電圧E1を決定することができる。
【0033】
内部インピーダンスは、電池1の材質や構造により決定されるインピーダンスである。電流印加時には電圧が発生し、放電時には起電力の電圧とは逆の向きに電圧が発生する。同一規格の電池であっても、内部インピーダンスには個体差があり、これがDCR検査結果の差として現れる。
【0034】
本発明の装置では、電池1の起電力(図6のE1)と、電池1の内部インピーダンスに電流を印加した際に発生する電圧変化(図6のE2)との和を求めて、応答電圧E0とする。
【0035】
[内部インピーダンスによる電圧変化]
時間tにおける電流パルスX(t)に対し、応答電圧e(t)を算出する。
本発明では、電池1の内部インピーダンスを、抵抗と複数のRC並列回路が直列に接続された回路で近似する。つまり、電池1の内部インピーダンスは抵抗と各RC並列回路のインピーダンスの和である。
であり、内部インピーダンスにかかる電圧e(t)は各インピーダンスにかかる電圧の和である。
【0036】
たとえば図7のような直列回路にかかる電圧の和は以下の式で求められる。
e(t)=eA(t)+eB(t)+eC(t)
【0037】
たとえばeA(t)は、複素数領域sにおける電圧EA(s)の逆ラプラス変換により求める。
ただし、s=jωである(ωは角周波数)。
【0038】
たとえばEA(s)は、次式で求めることができる。
A(s)=ZA(s)×I(s)
A(s) :s領域におけるインピーダンス
I(s) :s領域における電流
【0039】
[回路定数の算出]
内部インピーダンスを近似する回路は、電池1のインピーダンス測定と、そのデータを用いた回路中の回路定数の最適化により求める。
最適な回路定数は、y−f(x)の二乗和を最小にする回路定数xであり、最小二乗法により求める。ここではインピーダンスデータをyとし、インピーダンスの計算式には関数f(x)とする。解法のアルゴリズムには、ガウス・ニュートン法やLevenberg-Marquardt法を用いることができる。
【0040】
[s領域における電流]
DCR評価において、電池1に印加する電流X(t)は、図8に示すような時間を変数とする充放電電流のステップ関数Xk(t)の和である。
【0041】
【0042】
そして内部インピーダンスにかかる電圧e(t)は、各ステップ関数により発生する応答電圧ek(t)の和である。
【0043】
【0044】
ラプラス変換は線形性があるので、各ステップ関数により発生する応答電圧をs領域で求め、和算して求めることができる。
【0045】
【0046】
Ik(s)は、時間領域における電流をラプラス変換して求める。たとえばt=0においてΔIk変化する電流は、ステップ関数で次のように表すことができる。
0 :t<0
ΔIk :t≧0
【0047】
これは単位ステップ関数u(t)を用いると次のように表すことができる。
ΔIk×u(t)
つまり、次式のように表すことができる。
k(s)=L[ΔIk×u(t)]=ΔIk/s
【0048】
図9は、DCR測定における充放電電流とSOCの変化の関係例図である。図9において、実線は電流パルスを示し、破線はSOCを示している。
【0049】
[抵抗にかかる電圧]
抵抗の抵抗値がrのとき、電圧er(t)は、次の式により求められる。
r(t)=r×X(t)
【0050】
[RC回路にかかる電圧]
RC回路のインピーダンスがZrc(s)のとき、かかる電圧erc(t)は次の通りである。
【0051】
【0052】
k(s)がt=tkにおいてΔIk変化する電流のステップ関数であるとき、その応答電圧Yrck(T)は以下のように求める。ただし、T=t-tkとする。
【0053】
RC回路のインピーダンスZrc(s)は抵抗Rと静電容量CのRC並列回路のインピーダンスなので、次のように求まる。
【0054】
【0055】
このとき、α=1/C、β=−1/RCとすると、Z(s)=α/(s−β)となることから、Erck(s)は以下のように表すことができる。
【0056】
【0057】
【0058】
は逆ラプラス変換すると、
【0059】
【0060】
になることから、Yrck(T)は次式のようになる。
【0061】
【0062】
[内部起電力]
図6に示す電池1の内部起電力E1は、OCV値で決定される。このOCV値は、以下手順にて算出する。
1)DCR充放電パルスによるSOCの変化を算出する。
2)SOCの変化によるOCV値を算出する。
【0063】
[SOC算出]
DCR測定においては、電池1に対して充電あるいは放電パルスを印加するため、図5に示すように測定の進捗に応じて電池1のSOCが変化する。時間tにおけるSOC値は以下の式により算出できる。
【0064】
【0065】
ここで、S0はSOCの初期値、Cmaxは電池1の最大容量、I(x)は充放電電流である。
【0066】
SOCの算出例について説明する。
大容量2400mAh、SOC 50%(1200mAh)の電池1において、2400mAで30秒間の充電パルスを印加した場合、SOCは以下の式で計算される。
{1200mAh+(2400mA*0.0083)}/2400mAh=0.5083
となり、充電パルス印加後のSOCは50.83%となる。
【0067】
一方、最大容量2400mAh、SOC50%(1200mAh)の電池1において、2400mAで30秒間の放電パルスを印加した場合、SOCは以下の式で計算される。
{1200mAh+(−2400mA*0.0083)}/2400mAh
=0.4917
となり、放電パルス印加後のSOCは49.17%となる。
【0068】
[OCV値算出]
OCVはSOCによって変化する。S(t)におけるOCVを求めるには、電池1の充電状態を変えながらOCVを測定してSOC引きのOCVテーブルを作成し、S(t)に応じて参照するようにする。中間値は、線形補間などの計算法を用いて算出する。
【0069】
OCVの算出例について以下にて説明する。
時刻t=tkにおけるOCV値e(tk)を次の式を用いて計算する。ただし、SOC値S(tk)=50.83%、OCV1はSOC50%の時のOCV値、OCV2はSOC60%の時のOCV値である。
【0070】
【0071】
この式によるOCV値の演算結果は3.727Vとなる。そして、同じ式によるSOC49.17%のOCV値は3.706Vとなる。
【0072】
本発明は、交流インピーダンス測定結果に基づいて電池のDCR測定結果を推定することから、以下の効果が得られる。
1)交流インピーダンス測定は、測定のために印加する交流信号の振幅が小さくとも安定に測定できることから電池1の出力に現れる摂動を小さく抑えることができる。
2)これにより、電池1を元の状態に戻すための待機時間が不要になって測定時間を短縮でき、たとえば製造ラインにおける検査の効率を上げることができる。
【0073】
3)再現性の良い測定が行える。
4)小さな電源容量でも安定した測定が行える。
5)交流インピーダンス測定では、測定結果をFFT処理して解析対象となる周波数のみを用いるためノイズなどの影響を受けにくい。
【0074】
なお、上記実施例では、OCV算出に用いるパラメータとしてSOCの例について説明したが、SOCに限るものではなく、温度(セル温度、環境温度)を用いてもよい。すなわち、事前に電池1の温度を変えながら測定したOCVデータを用い、温度変化からOCVを算出して応答電圧を補正してもよい。
【0075】
また、OCVの算出にあたっては、電池の材料や構造を考慮し、温度テーブルを補正してもよい。
【0076】
また、OCVの算出にあたっては、SOCに温度や他の条件を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
また、等価回路として、CPE(Constant Phase Element)を直列に接続した回路を用いてもよい。CPEは電池内部の物質拡散によるインピーダンスを表すことができる素子であり、インピーダンスZは定数PとTを用い、一般には次のように定義される。
【0078】
【0079】
P=0.5のとき、CPEのインピーダンスは、以下の式で表されるワールブルグインピーダンスと等しい。
【0080】
【0081】
抵抗やRC並列回路と同様に等価回路中のCPEにかかる電圧を求め、他の部分にかかる電圧と加算することで内部抵抗全体の応答電圧とする。
【0082】
[CPEにかかる電圧]
CPEのインピーダンスがZcpe(s)のとき、かかる電圧Ecpe(t)は次の通りである。
【0083】
【0084】
k(s)がt=tkにおいてΔIk変化する電流のステップ関数であるとき、その応答電圧Ecpek(T)は以下のように求める。ただし、T=t-tkとする。
【0085】
CPEのインピーダンスは、定数PとQを用いて次のように定義される。PとQは電池固有の特性であり、回路定数として扱う。
【0086】
【0087】
よって
【0088】
【0089】
【0090】
ここで、次の逆ラプラス変換を用いる。
【0091】
【0092】
ただし、n>0、Γ(n)はガンマ関数である。これにより、Ecpe(T)は次式のように表せる。
【0093】
【0094】
回路定数の決定にあたっては、SOC毎のインピーダンス測定結果(SOC−インピーダンスデータ)を用いてもよい。図10はSOC-インピーダンスデータを用いたDCR解析装置4の具体的な構成例を示すブロック図であり、図2と共通する部分には同一の符号を付けている。SOC-回路定数テーブル演算部49aは、入力部44から入力されるSOC−インピーダンスデータテーブルと等価回路データに基づき、各SOCにおける等価回路に対応した回路定数を求める。
【0095】
具体的には、たとえば図11に示すように、各回路定数をSOC引きの回路定数としたSOC−回路定数テーブルを作成する。
【0096】
SOC-回路定数演算部49bは、SOC-回路定数テーブルとSOC演算部45から算出されるSOC値に基づき、SOC値に応じた回路定数を算出する。
【0097】
なお、回路定数の演算にあたっては、たとえば各SOCの測定データに基づきパラメータが制限された範囲内に収まるように回路定数の最適化を行うが、特性を変化させる条件はSOCに限るものではなく、温度を条件にしてもよい。
【0098】
以上説明したように、本発明によれば、大容量の電源を用いることなく、短時間で効率よく抵抗測定が行える電池直流抵抗評価装置を提供することができ、電池の製造ラインにおけるDCR検査などに好適である。
【符号の説明】
【0099】
1 供試電池
4 DCR解析装置
42 DCR演算部
43 出力部
44 入力部
45 SOC演算部
46 回路定数演算部
47 SOC-OCV演算部
48 応答電圧演算部
49a SOC-回路定数テーブル演算部
49b SOC-回路定数演算部
5 交流電源
6 インピーダンス測定装置
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図15
図3
図4
図14