(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レゾナンスヘッドの表面および裏面の少なくとも一方の有効可動部全面に、樹脂フィルムからなる非打面側質量付与部材を設置して、前記非打面側質量付与部材の外周側部分のみを固定領域として、前記レゾナンスヘッドに固定したことを特徴とする請求項2に記載のアコースティックドラム。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した振動吸収材を用いたドラムでは、振動吸収材をドラムヘッドの全面に全面を貼り付けて固定しているため、ドラムヘッドの可動損失が増大して、アタック音や高調波が生じない打撃音になってしまう。この結果、打撃音がこもった明るさのない音になってしまう。また、前述した振動吸収材を用いたドラムにおいては、振動吸収材としてプラスチックフィルムを用いることも考慮されているが、このようなプラスチックフィルムからなる振動吸収材をドラムヘッド全面に固定した場合、ドラムヘッドの曲げ剛性が大きくなる。このため、ドラムヘッドの挙動が膜の挙動から板の挙動に近くなって反力が大きくなり、打感が痛く感じるようになる。また、ドラムヘッドの可動損失が増えることで、打撃時のスティックの反発も悪くなってしまう。
【0006】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、明るさのある打撃音と良好な打感を維持しながら、音量の低減ができるアコースティックドラムを提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るアコースティックドラムの構成上の特徴は、円筒状のシェル(11,21,41,51)と、シェルの一方の開口に取り付けられて打面を構成するドラムヘッド(12,22,62,72,82)とを備えたアコースティックドラム(10,20,30,40,50,60,70,80)において、ドラムヘッドの表面および裏面の少なくとも一方の有効可動部全面に、樹脂フィルムからな
る複数の打面側質量付与部材(13a,13b,23a,23b,63a,63b,73a,73b,83a,83b)を設置して
、複数の打面側質量付与部材の外周側部分のみを固定領域としてドラムヘッ
ドの有効可動部の外周側部分に固定したことにある。
【0008】
本発明に係るアコースティックドラムでは、ドラムヘッドに、打面側質量付与部材を設置して、打面側質量付与部材の外周側部分をドラムヘッドに固定している。このように、本発明に係るアコースティックドラムでは、打面側質量付与部材を用いてドラムヘッドを重くし、打撃音の振動の振幅を小さくすることによって、音量を効果的に低減することができる。この際、打撃音の基音ピッチの伸びは従来のアコースティックドラムと同じになるように維持することができる。また、打面側質量付与部材の外周側部分だけがドラムヘッドに固定されているため、ドラムヘッドの可動損失を最小限にすることができ、これによって打撃時に必要なアタック音を発生させることができ、また、明るさに起因する倍音成分も発生できる。
【0009】
また、打面側質量付与部材の外周側部分だけをドラムヘッドに固定することで、ドラムヘッドの膜としての特性を維持できるため、打感の悪化を最低限に抑えることができ、これによって、打感が痛さを感じないものになる。さらに、打面側質量付与部材の外周側部分だけをドラムヘッドに固定することで、ドラムヘッドの可動損失を最小限に抑えることができるため、演奏時のスティックの反発性を良好な状態に維持でき、これによって、演奏性を阻害することがなくなる。
【0010】
また、ドラムヘッドに固定される打面側質量付与部材の固定領域としての外周側部分において、固定部は、外周側部分全体、または、外周側部分で周方向に間隔を保った複数部分とすることができるが、スティックで打撃される中央部分は除く。これによると、打面側質量付与部材が打撃音に悪影響を及ぼすことがなくなる。この結果、打撃音の音質や打感は、従来のアコースティックドラムと同様になるため、打面側質量付与部材を設けたことで演奏性が阻害されることもない。
【0011】
なお、打面側質量付与部材は、PET(ポリエチレンテレフタレート)や、PEN(ポリエチレンナフタレート)等からなる樹脂フィルムで構成することができる。また、打面側質量付与部材を構成する材料としては、ドラムヘッドを構成する材料と同じ材料を用いることが好ましい。さらに、打面側質量付与部材は、ドラムヘッドの表面または裏面に1枚貼り付けてもよいし、表面と裏面とにそれぞれ1枚貼り付けてもよい。さらに、複数枚を重ねて、表面と裏面との一方、または両方に貼り付けてもよい。また、本発明において、有効可動部とは、ドラムヘッドにおける打面を形成する部分であり、フープ等によって表面から隠れた部分は除いた範囲になる。
【0012】
また、打面側質量付与部材が貼り付けられたドラムヘッドは、交換可能にシェルに組み付けるようにしてもよいし、打面側質量付与部材は、交換可能にドラムヘッドに組み付けるようにしてもよい。打面側質量付与部材が貼り付けられたドラムヘッドを交換可能にする場合は、ドラムヘッドに対する打面側質量付与部材の固定部分が異なる複数の組付体を準備して、使用に応じて、適宜任意の組付体を選択する。また、打面側質量付与部材を交換可能にする場合には、ドラムヘッドに固定される部分に、粘着剤や接着剤を異なる範囲で取り付けた打面側質量付与部材を複数準備して、使用に応じて、適宜任意の打面側質量付与部材を選択してドラムヘッドに固定する。また、本発明において、ドラムヘッドと打面側質量付与部材との固定は、粘着、接着の他、リベットや固定用の針等の固定部材を用いた固定であってもよい。
【0013】
本発明に係るアコースティックドラムの他の構成上の特徴は、シェル(21,51)の他方の開口にレゾナンスヘッド(27,37)を取り付けたことにある。本発明によると、レゾナンスヘッドを設けることによって、打撃音が倍音を含んだ豊かな音になる。
【0014】
本発明に係るアコースティックドラムのさらに他の構成上の特徴は、レゾナンスヘッド(37)の表面および裏面の少なくとも一方の有効可動部全面に、樹脂フィルムからなる非打面側質量付与部材(33a,33b)を設置して、非打面側質量付与部材の外周側部分のみを固定領域としてレゾナンスヘッドに固定したことにある。本発明によると、レゾナンスヘッドに非打面側質量付与部材が貼り付けられていないアコースティックドラムと比較して、音量低減の効果が大きくなる。
【0015】
本発明に係るアコースティックドラムのさらに他の構成上の特徴は、シェル(41,51)の内周面の一部に吸音部材(42,52)を配置したことにある。
【0016】
ドラムヘッドに打面側質量付与部材を貼り付けて重くすると、シェル内部の共鳴がより増強される傾向がある。アコースティックドラムの用途によってはシェル内の共鳴が増強されると不都合な場合があり、本発明によると、シェルの内部で生じるこの内部共鳴音を低減することができる。この場合、シェルの内周面に吸音部材を配置することにより、ドラムヘッドの振動を損失させることなく、シェルの内部共鳴音だけを低減することができる。
【0017】
例えば、吸音部材を、シェルの内部中央に配置した場合には、吸音部材がドラムヘッドの振動、レゾナンスヘッドがある場合にはドラムヘッドとレゾナンスヘッドの振動を阻害するように機能するため、打撃音の自然な基音ピッチの継続音がなくなってしまう。しかしながら、シェルの内周面に吸音部材を配置することにより、ドラムヘッド、または、ドラムヘッドとレゾナンスヘッドの基本振動挙動を阻害することなく、シェルの内部共鳴音を抑制することができる。これによって、打撃音が心地よいものになる。なお、この吸音部材としては、スポンジやウレタンフォーム等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るアコースティックドラムを示しており、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図2】ドラムヘッドと打面側質量付与部材との固定部の断面を示した一部切り欠き斜視図である。
【
図3】ドラムヘッドと打面側質量付与部材とを両面テープで固定した状態を示した一部切り欠き斜視図である。
【
図4】音量低減効果を説明する説明図であり、(a)は従来のアコースティックドラムの説明図、(b)は第1実施形態のアコースティックドラムの説明図である。
【
図5】従来のアコースティックドラムと第1実施形態に係るアコースティックドラムとの打撃からの時間経過に対する音圧の大きさを比較したグラフである。
【
図6】打撃からの時間経過に対する音圧の大きさを示したグラフであり、(a)は従来のアコースティックドラム、(b)は比較例のアコースティックドラム、(c)は第1実施形態のアコースティックドラムの波形をそれぞれ示している。
【
図7】従来のアコースティックドラムと第1実施形態のアコースティックドラムとを打撃したときの打撃音の周波数に対する音圧の大きさを示したグラフである。
【
図8】従来のアコースティックドラムと比較例のアコースティックドラムとを打撃したときの打撃音の周波数に対する音圧の大きさを示したグラフである。
【
図9】第1実施形態のアコースティックドラムと、従来のアコースティックドラムと、比較例のアコースティックドラムとの打撃の際の反力の時間変化を示したグラフである。
【
図10】第1実施形態のアコースティックドラムと、従来のアコースティックドラムと、比較例のアコースティックドラムとの打撃の際のドラムヘッドとアームとの接触時間を示したグラフである。
【
図11】第1実施形態のアコースティックドラムと、従来のアコースティックドラムと、比較例のアコースティックドラムとの打撃の際の反力の大きさを示したグラフである。
【
図12】第1実施形態のアコースティックドラムと、従来のアコースティックドラムと、比較例のアコースティックドラムとの打撃の際のスティックの動きを示したグラフである。
【
図13】第1実施形態のアコースティックドラムと、従来のアコースティックドラムと、比較例のアコースティックドラムとの反発係数を示したグラフである
【
図14】本発明の第2実施形態に係るアコースティックドラムを示した断面図である。
【
図15】本発明の第3実施形態に係るアコースティックドラムを示した断面図である。
【
図16】本発明の第4実施形態に係るアコースティックドラムを示した断面図である。
【
図17】本発明の第5実施形態に係るアコースティックドラムを示した断面図である。
【
図18】第1変形例に係るアコースティックドラムのドラムヘッドに対する打面側質量付与部材の固定部を示した説明図である。
【
図19】第2変形例に係るアコースティックドラムのドラムヘッドに対する打面側質量付与部材の固定部を示した説明図である。
【
図20】第3変形例に係るアコースティックドラムのドラムヘッドに対する打面側質量付与部材の固定部を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るアコースティックドラムを図面を用いて説明する。
図1(a),(b)は、同実施形態に係るアコースティックドラム10を示している。以下の説明においては、アコースティックドラム10の上下方向は、
図1(b)に基づくものとする。このアコースティックドラム10は、口径が12インチで奥行が11インチに設定されており、胴部を構成する円筒状のシェル11と、シェル11の上部開口に取り付けられた円形のドラムヘッド12とを備えている。そして、ドラムヘッド12の表面と裏面とにはそれぞれ打面側質量付与部材13a,13bが貼り付けられている。
【0020】
シェル11は、木材(バーチ材)で構成されており振動が発生したときに、内部の空気を効率よく下方に伝えたり、振動を内部で反響させたりする機能を備えている。ドラムヘッド12は、PET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムからなる円形のヘッド部12aと、金属製のリングからなるフレッシュフープ12bとで構成されており、
図2に示したように、ヘッド部12aは、外周縁部がフレッシュフープ12bに連結されることにより円形に保持されている。このヘッド部12aは、厚みが250μmに設定され、直径がシェル11の上部開口の直径よりも少し長く設定されている。
【0021】
また、打面側質量付与部材13a,13bは、それぞれ厚みが250μm、直径が290mmの円形のPETフィルムで構成されている。すなわち、打面側質量付与部材13a,13bは、ヘッド部12aと同じ材料からなるフィルムの直径だけを変更して形成したものである。そして、
図3に示したように、打面側質量付与部材13aは、ヘッド部12aの表面に配置され、外周部分が全周にわたってアクリル系粘着剤と不織布とからなる両面テープ14aによってヘッド部12aに固定されている。
【0022】
また、打面側質量付与部材13bは、ヘッド部12aの裏面に配置され、外周部分が全周にわたって両面テープ14bによってヘッド部12aに固定されている。この打面側質量付与部材13a,13bのヘッド部12aへの固定部分の幅(両面テープ14a,14bの幅)は10mmに設定されている。また、打面側質量付与部材13a,13bは、それぞれヘッド部12aの表面および裏面における後述する有効可動部の全面を覆っている。
【0023】
打面側質量付与部材13a,13bが貼り付けられたドラムヘッド12は、ラグ15と張設部16とによってシェル11の上部開口に着脱可能に取り付けられ、ヘッド部12aと打面側質量付与部材13a,13bとが重なった部分によって打面を形成する部分が構成される。なお、フレッシュフープ12bの内径は、シェル11の外径よりも僅かに大きく設定されており、フレッシュフープ12bの内部側にシェル11の上部を入れたときに、ヘッド部12aの外周側部分と、打面側質量付与部材13bの外周縁部とはシェル11の上部開口の周縁部に押し付けられる。打面側質量付与部材13a,13bは、シェル11の上部開口に対応する部分に位置しており、ヘッド部12aにおけるシェル11の後部開口に対応する部分が本発明に係る有効可動部となる。
【0024】
ラグ15は、平面状に形成された上面から下部側に行くほど徐々に先細りになった部材で構成されており、上面から内部下部側に向かってシェル11の外周面に平行して延びるねじ穴が形成されている。また、ラグ15の内面はシェル11の外周面に沿える曲面に形成されており、ラグ15は、シェル11の外周面における上下方向の中央に、シェル11の外周面に沿って固定されている。このラグ15は、シェル11の周方向に一定間隔を保って6個設けられている。
【0025】
張設部16は、フープ16aと、チューニングボルト16bとで構成されている。フープ16aは、断面形状がコ字状でそのコ字状の開放部分を外側に向けたリングで構成されており、内径および外径がフレッシュフープ12bと略同じに設定されている。また、フープ16aの下端外周部からは、ボルト挿通穴を備えた係合突起16cが外側に向かって突出している。この係合突起16cは、ラグ15と同じ数だけ周方向に一定間隔を保って形成されている。チューニングボルト16bは、係合突起16cのボルト挿通穴に挿通できるとともに、ラグ15のねじ穴に螺合できるねじ部と、直径が係合突起16cのボルト挿通穴の直径よりも長くなって係合突起16cのボルト挿通穴を挿通できない頭部とからなっておりラグ15と同じ数だけ備わっている。
【0026】
このため、シェル11の上部開口に、打面側質量付与部材13a,13bが貼り付けられたドラムヘッド12を組み付けて、係合突起16cとラグ15とをそれぞれ対向させた状態で、フレッシュフープ12bの上部にフープ16aを合わせ、各チューニングボルト16bのねじ部を、順次係合突起16cのボルト挿通穴に通してラグ15のねじ穴に螺合させることにより、ドラムヘッド12をシェル11に固定できる。そのときのチューニングボルト16bの締め具合を変更することにより、ドラムヘッド12および打面側質量付与部材13a,13bのテンションを調節できる。この場合、フープ16aの上部は、ドラムヘッド12よりも上方に突出しており、スティックS(
図4(a),(b)参照)のショルダー部で叩く場所としても利用される。
【0027】
以上のように構成されたアコースティックドラム10のドラムヘッド12(正確には打面側質量付与部材13aであり、以下、アコースティックドラム10の打面の説明でも同様である。)をスティックSで打撃すると、ドラムヘッド12は打面側質量付与部材13a,13bとともに変位する。この場合、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bとは、全体としては一体として振動するが、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bには、個々に張力がかかっており、これらは局部的、瞬間的には別々の膜として挙動する。そして、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bとの変位によって、シェル11内の空気は圧縮されて下方に移動していく。その後、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bの変形が繰り返されて振動となり、その振動から生まれる空気の振動が打撃音となって響くようになる。
【0028】
この際、アコースティックドラム10は、打面側質量付与部材13a,13bを設けたことにより、従来のアコースティックドラムと比べて、演奏する際に発生する音を低減することができる。このアコースティックドラム10の従来のアコースティックドラムに対する音量低減の効果を、
図4(a),(b)を用いて説明する。
図4(a)は、従来のアコースティックドラム10AをスティックSで打撃した状態を示しており、
図4(b)は、アコースティックドラム10をスティックSで打撃した状態を示している。なお、アコースティックドラム10Aは、打面側質量付与部材13a,13bが設けられていないこと以外の構成については、アコースティックドラム10と同一であるため、
図4(a)において、同一部分に同一符号を記している。
【0029】
まず、アコースティックドラム10Aやアコースティックドラム10においては、演奏者が、ドラムヘッド12をスティックSで打撃すると、ドラムヘッド12は、変位したり、振動したりする。そして、その打撃により発生する打撃音の音量は、ドラムヘッド12の最大変位が大きく影響する。アコースティックドラム10Aの場合、
図4(a)に示したように、演奏者が、ドラムヘッド12をスティックSで打撃すると、ドラムヘッド12の最大変位は、L
10Aとなる。一方、アコースティックドラム10の場合、
図4(b)に示したように、演奏者が、打面側質量付与部材13aの上面をスティックSで打撃すると、打面側質量付与部材13a,13bが貼り付けられたドラムヘッド12の最大変位は、アコースティックドラム10Aの最大変位L
10Aよりも小さなL
10となる。
【0030】
アコースティックドラム10は、打面側質量付与部材13a,13bを設けたことにより、有効可動部の重さが、アコースティックドラム10Aの3倍になり、その分、ドラムヘッド12の最大変位も大幅に減少する。これによって、アコースティックドラム10では、音量が低減される。この場合、アコースティックドラム10は、アコースティックドラム10Aの音色と同様の音色を維持させたまま音量だけを低減させることができる。
【0031】
つぎに、アコースティックドラム10の打撃音と、アコースティックドラム10Aの打撃音とを具体的に測定して比較する実験を行った。この場合の打撃方法は、同じ演奏者が各アコースティックドラムに対して同じスティックSを用いて打撃操作することにより行い、そのときの打撃は、やや強く(メゾフォルテ)なるようにした。そして、ドラムヘッド12の近傍に測定用マイクを設置して、打撃音を収音し、その音を分析した。
図5に、その結果であるアコースティックドラム10と、アコースティックドラム10Aとの打撃音の時間の経過に対する音圧の変化を示した波形を示している。
【0032】
図5において、実線aはアコースティックドラム10の打撃音の波形を示し、破線bはアコースティックドラム10Aの打撃音の波形を示している。
図5から分かるように、打撃時の最大振幅は、実線aは、破線bに比べて小さくなっている。これは、打面側質量付与部材13a,13bの質量効果によるものであり、アコースティックドラム10においては一定の打撃においてドラムヘッド12の最大振幅が抑えられることがわかる。
【0033】
また、それ以外の部分では、実線aと破線bとで略同じ波形を示しており、アコースティックドラム10と、アコースティックドラム10Aとの打撃音に差は認められない。すなわち、アコースティックドラム10の打撃音では、打撃初期のアタック音、高調波音はアコースティックドラム10Aと同様に発生しており、アコースティックドラムであるタムタムやフロアタムで必要な音程感のあるピッチ音もアコースティックドラム10Aと同様に維持されていることが分かる。
【0034】
さらに、前述したアコースティックドラム10と、アコースティックドラム10Aに、従来の音量低減方法を用いたアコースティックドラムを比較例として加えて打撃音を比較する実験を行った。比較例のアコースティックドラムとしては、前述したアコースティックドラム10Aと同一のアコースティックドラムのドラムヘッドの表面と裏面に、打面側質量付与部材13a,13bと同一のPETフィルムを、両面テープ14a,14bと同一のアクリル系粘着剤層を用いて全面を固定したものを用いた。すなわち、比較例のアコースティックドラムは、アコースティックドラム10において、打面側質量付与部材13a,13bの全面をドラムヘッド12に固定したものと同一のものであり、背景技術として記載したドラムに対応するものである。
【0035】
この場合の打撃方法は、再現性を考慮して、スティックSと同等の質量のアームにメゾフォルテ相当の初速(6.3m/s)を与えて打撃した。すなわち、演奏者の筋肉に相当するトルクはかけずに、初速と質量のみに基づいて機械を用いて打撃を行った。そして、ドラムヘッド12等の近傍に測定用マイクを設置して、打撃音を収音し、その音を時間および周波数に基づいて分析した。また、アームの先端の力の計測や、アームの先端の動き(入射速度、反射速度)の計測も行った。そのうちの時間分析の結果を、
図6(a)〜(c)に示している。
図6(a)〜(c)には、それぞれの打撃からの時間の経過に対する打撃音の大きさの変化を表す波形を示しており、
図6(a)はアコースティックドラム10A、
図6(b)は比較例のアコースティックドラム、
図6(c)はアコースティックドラム10の打撃音の波形をそれぞれ示している。
【0036】
この結果によると、
図6(a)〜(c)に示された波形は、すべて全体としては、略同じような形状をしており、このことから基音ピッチ(音程感)の伸びは概ね同等であることが確認できる。しかしながら、
図6(b)に示した比較例のアコースティックドラムの波形では、初期の高調波成分が殆どないため、アタック音が発生せず、こもった打撃音が発生されるようになる。このように、高調波成分が発生しないことは、
図6(b)に示された波形には、
図6(a),(c)に示された波形に存在する最初の山の部分に上下に小さく往復するぎざぎざ部分が殆ど存在しないことから判断される。このようにアタック音が発生せず、こもった打撃音が発生すると、拍やリズムをとることが難しくなり、演奏性にも問題が生じる。
【0037】
さらに、アコースティックドラム10Aおよびアコースティックドラム10と、比較例のアコースティックドラムとの違いは、初期のアタック音だけでなく、基音ピッチ持続音の中の倍音成分にも生じている。
図6(a)〜(c)に示された波形の右側部分を比較すると、
図6(b)に示した波形に比べて、
図6(a),(c)に示した波形の方が尖った波形になっていることが認められ、このことから、アコースティックドラム10Aやアコースティックドラム10の方が、比較例のアコースティックドラムよりも基音ピッチの中に含まれる倍音成分が多く、これによって明るい音色の打撃音を発生できることがわかる。
【0038】
また、アコースティックドラム10Aとアコースティックドラム10との打撃音を周波数領域で観察した結果を
図7に示し、アコースティックドラム10Aと比較例のアコースティックドラムとの打撃音を周波数領域で観察した結果を
図8に示している。
図7における実線a’はアコースティックドラム10の打撃音を示し、破線b’はアコースティックドラム10Aの打撃音を示している。また、
図8における実線cは比較例のアコースティックドラムの打撃音を示し、破線b’はアコースティックドラム10Aの打撃音を示している。なお、
図7の破線b’と、
図8の破線b’とは同一の波形を示している。
【0039】
図7における周波数が150Hz〜400Hz程度の範囲では、実線a’と破線b’とに大きな差は認められないが、
図8における周波数が150Hz〜400Hz程度の範囲では、実線cは破線b’と比較して倍音成分が大きく減少していることが認められる。このことから、アコースティックドラム10は、比較例のアコースティックドラムと比較して基音ピッチの倍音成分が豊富であることがうかがえる。また、
図7における右側部分では、実線a’と破線b’とに大きな差は認められないが、
図8における右側部分、特に、周波数が500Hzを超えたところで実線cは破線b’よりも高調波成分が急激に減少している。このことから、アコースティックドラム10は、比較例のアコースティックドラムと比較して、アタック音に起因する高調波成分も多いことがうかがえる。
【0040】
つぎに、打撃時にアームにかかる反力を計測した。その結果を、
図9に示している。この
図9は、アームがドラムヘッドを打撃するときの時間の経過に対する反力の大きさを示しており、波形における反力が0kgf以下の窪んだ部分はアームがドラムヘッドに接触している時間帯を示している。また、
図9において、実線a”はアコースティックドラム10の打撃音の波形を示し、実線b”はアコースティックドラム10Aの打撃音の波形を示し、破線c’は比較例のアコースティックドラムの打撃音の波形を示している。
図9からわかるように、アームとドラムヘッドとの接触時間は、破線c’、実線a”、実線b”の順に長くなり、反力の最大値は、破線c’、実線a”、実線b”の順に小さくなっている。
【0041】
演奏者は、スティックSでドラムヘッドを打撃したときに、スティックSとドラムヘッドとの接触時間が短いほど痛さを感じ、また、反力の最大値が大きいほど痛さを感じる。このため、一定の力で打撃したときに、比較例のアコースティックドラムが一番大きな痛みを感じ、アコースティックドラム10Aが一番痛みを感じなくなる。そして、アコースティックドラム10を打撃したときの痛みは、比較例のアコースティックドラムとアコースティックドラム10Aとの中間になる。
【0042】
このように、PETフィルムの全面をドラムヘッドに固定した比較例のアコースティックドラムの場合、ドラムヘッドは全体として厚い板として振動するため、ドラムヘッドの曲げ剛性は非常に高くなり、打撃時の痛さを強く感じる傾向がある。これに対して、アコースティックドラム10では、打面側質量付与部材13a,13bをドラムヘッド12に外周のみ固定しているため、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bは膜として振動する。このため、ドラムヘッド12の曲げ剛性は高くならず、打撃時に感じる痛さもアコースティックドラム10Aに近くなる。
【0043】
また、
図9に示した結果に基づいて、各ドラムを打撃したときのドラムヘッドとアームとの接触時間を
図10に示し、反力の最大値を
図11に示した。
図10に示したように、比較例のアコースティックドラムの接触時間は4.6m秒、アコースティックドラム10の接触時間は5.7m秒、アコースティックドラム10Aの接触時間は6.7m秒である。また、
図11に示したように、比較例のアコースティックドラムの反力の最大値は2.4kgf、アコースティックドラム10の反力の最大値は2.2kgf、アコースティックドラム10Aの反力の最大値は2.0kgfである。
【0044】
つぎに、打撃時のアーム(スティックS)の先端の動き観察した。その結果を、
図12に示している。
図12は、アームがドラムヘッドを打撃するときの時間の経過に対するアームの先端の動きを示しており、これによって、演奏者が感じる反発の大きさを読み取ることができる。
図12において、実線a”’はアコースティックドラム10を打撃したときのアームの動きを示し、実線b”’はアコースティックドラム10Aを打撃したときのアームの動きを示し、破線c”は比較例のアコースティックドラムを打撃したときのアームの動きを示している。また、
図12に示した時間波形から入射速度と反射速度との比を反発係数として、
図13に示している。
【0045】
図13に示したように、アコースティックドラム10Aを打撃したときの反発係数は0.73、アコースティックドラム10を打撃したときの反発係数は0.67、比較例のアコースティックドラムを打撃したときの反発係数は0.55であった。反発係数は演奏者の演奏性の観点で非常に重要であり、従来から使用されているアコースティックドラム10Aと同様の反発を生じることが好ましい。このことから、アコースティックドラム10はアコースティックドラム10Aに近い反発を生じており、アコースティックドラム10が生じる反発は好ましいものであるが、比較例のアコースティックドラムが生じる反発はあまり好ましいものではないといえる。
【0046】
このように、PETフィルムの全面をドラムヘッドに固定した比較例のアコースティックドラムの場合、ドラムヘッドは可動損失を非常に多く含む板のように振動するため、打撃時のドラムヘッド側の損失が多くなり、スティックSの反発が好ましいものでなくなる傾向がある。これに対して、アコースティックドラム10では、打面側質量付与部材13a,13bをドラムヘッド12に最低限の部分で固定しているため、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bは可動損失の少ない複数層の膜として振動し、打撃時の損失も少なく、アコースティックドラム10Aに近い反発を生じることができる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係るアコースティックドラム10では、ドラムヘッド12の表面と裏面とにそれぞれ打面側質量付与部材13a,13bを設置して、打面側質量付与部材13a,13bの外周側部分をドラムヘッド12に固定している。このように、打面側質量付与部材13a,13bを用いてドラムヘッド12を重くし、打撃音の振動の振幅を小さくすることによって、音量を効果的に低減することができる。
【0048】
また、打面側質量付与部材13a,13bの外周側部分だけがドラムヘッド12に固定されているため、打撃された際に、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13a,13bとは全体的には一体として振動するが、局部的、瞬間的には別々の挙動を生じるようになり、この挙動によって、アタック音が目立つ打撃音を維持することができる。また、打面側質量付与部材13a,13bにおけるスティックSで打撃される中央部分はドラムヘッド12に固定されていないため、打面側質量付与部材13a,13bが打撃音に悪影響を及ぼすことがなくなる。この結果、打撃音の音質や打感は、従来のアコースティックドラムと同様になるため、打面側質量付与部材を設けたことで演奏性が阻害されることもない。
【0049】
(第2実施形態)
図14は、本発明の第2実施形態に係るアコースティックドラム20を示している。このアコースティックドラム20は、胴部を構成する円筒状のシェル21と、シェル21の上部開口に取り付けられた円形のドラムヘッド22と、シェル21の下部開口に取り付けられた円形のレゾナンスヘッド27とを備えている。ドラムヘッド22は、ヘッド部22aとフレッシュフープ22bとで構成されており、ヘッド部22aの表面と裏面とには打面側質量付与部材23a,23bが両面テープ24a,24bを介して貼り付けられている。そして、ドラムヘッド22は、シェル21の外周面に設けられた6個のラグ25と、係合突起26cを含むフープ26aとチューニングボルト26bとからなる張設部26とによってシェル21の上部開口に取り付けられている。また、ラグ25は、下端部がシェル21の上下方向の中央よりも僅かに上方に位置するようにして配置されている。
【0050】
前述した各部材のうちの、シェル21、ドラムヘッド22、打面側質量付与部材23a,23b、両面テープ24a,24b、ラグ25および張設部26は、前述した第1実施形態におけるシェル11、ドラムヘッド12、打面側質量付与部材13a,13b、両面テープ14a,14b、ラグ15および張設部16とそれぞれ同一の部材で構成されている。すなわち、前述したアコースティックドラム20の構成からレゾナンスヘッド27を除くとともにラグ25の配置を上方に移動させると、アコースティックドラム10と同一のものになる。
【0051】
レゾナンスヘッド27は、ヘッド部22aと同じPETのフィルムからなる円形のヘッド部27aと、フレッシュフープ22bと同じ金属製のリングからなるフレッシュフープ27bとで構成されている。そして、このレゾナンスヘッド27は、ラグ15および張設部16と上下対称に設置された6個のラグ28と張設部29とを介して、ドラムヘッド22と上下の方向を変えて同様の方法により、シェル21の下部開口に着脱可能に取り付けられる。この場合も、張設部29に備わっているチューニングボルト29bのねじ部を、フープ29aに形成された係合突起29cのボルト挿通穴に通してラグ28のねじ穴に螺合させることが行われ、その際に、チューニングボルト29bの締め具合を変更することにより、レゾナンスヘッド27のテンションを調節できる。
【0052】
このように構成されたアコースティックドラム20の打面をスティックSで打撃すると、ドラムヘッド22は打面側質量付与部材23a,23bとともに変位する。この場合、ドラムヘッド22および打面側質量付与部材23a,23bは、前述したドラムヘッド12および打面側質量付与部材13a,13bと同様に振動する。そして、ドラムヘッド22および打面側質量付与部材23a,23bの変位によって、シェル21内の空気は圧縮され、圧縮された空気はレゾナンスヘッド27を下方に押して変形させる。
【0053】
その後、ドラムヘッド22と打面側質量付与部材23a,23bおよびレゾナンスヘッド27の変形が繰り返されて振動となり、その振動から生まれる空気の振動が打撃音となって響くようになる。その際、発生する打撃音は、前述したアコースティックドラム10の打撃音よりも倍音を多く含んだ豊かな音色を有するものになる。このアコースティックドラム20のそれ以外の作用効果については、前述した第1実施形態のアコースティックドラム10と同様である。
【0054】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係るアコースティックドラム30を示している。このアコースティックドラム30では、レゾナンスヘッド37におけるヘッド部37aの表面(下面)に両面テープ34aによって非打面側質量付与部材33aが貼り付けられ、ヘッド部37aの裏面(内面)に両面テープ34bによって非打面側質量付与部材33bが貼り付けられている。この非打面側質量付与部材33a,33bは、前述した打面側質量付与部材23a,23bと同一のもので構成され、同一の方法で、ヘッド部37aに貼り付けられている。このアコースティックドラム30のそれ以外の部分の構成については、前述したアコースティックドラム20と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0055】
このアコースティックドラム30によると、音量低減の効果を前述したアコースティックドラム20よりもさらに大きくすることができる。このアコースティックドラム30のそれ以外の作用効果については、前述した第2実施形態のアコースティックドラム20と同様である。
【0056】
(第4実施形態)
図16は、本発明の第4実施形態に係るアコースティックドラム40を示している。このアコースティックドラム40では、シェル41の内周面の一方に吸音部材42が取り付けられている。この吸音部材42は、厚み(左右方向の長さ)が25mm、上下方向の長さが100mm、シェル41の内周面の周方向に沿った長さが150mmで、密度が20kg/m3の発泡ウレタンフォームで構成されており、シェル41の内周面における上下方向の中央に接着剤により貼り付けられている。このアコースティックドラム40のそれ以外の部分の構成については、前述したアコースティックドラム10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0057】
このアコースティックドラム40によると、ドラムヘッド12の振動を阻害することなく、効率よくシェル41の内部で生じる内部共鳴音を低減することができる。また、ドラムヘッド12に打面側質量付与部材13a,13bを貼り付けて重くした場合、シェル41の内部の共鳴がより増強される傾向があり、これが不都合になることもあるが、シェル41に吸音部材42を取り付けることによって、この共鳴を吸収することができる。これによって、アコースティックドラム40は、心地の良い打撃音を発生することができる。このアコースティックドラム40のそれ以外の作用効果については、前述した第1実施形態のアコースティックドラム10と同様である。
【0058】
(第5実施形態)
図17は、本発明の第5実施形態に係るアコースティックドラム50を示している。このアコースティックドラム50では、シェル51の内周面の一方に、前述した吸音部材42と同じ構成からなる吸音部材52が取り付けられている。このアコースティックドラム50のそれ以外の部分の構成については、前述した第3実施形態のアコースティックドラム30と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このアコースティックドラム50によると、前述した各実施形態のアコースティックドラム10〜40のどれよりも音量低減効果があり、かつシェル51内の共鳴を低減することができるアコースティックドラムを得ることができる。
【0059】
図18は、前述した第1実施形態の第1変形例に係るアコースティックドラム60の要部を示している。このアコースティックドラム60では、ドラムヘッド62におけるヘッド部62aに対する打面側質量付与部材63a,63bの固定部65は、打面側質量付与部材63a,63bの外周側部分であって、打面側質量付与部材63a,63bの外周端から幅5mmに設定されている。アコースティックドラム60も12インチのアコースティックドラムであり、この大きさのアコースティックドラムでは、固定部65の幅を最小で5mmとする。この値は、張力や打撃によって、打面側質量付与部材63a,63bがヘッド部62aから剥がれない最小限の値であり、これによると、最小の固定強度で最大の効果を得ることができる。
【0060】
また、
図19は、前述した第1実施形態の第2変形例に係るアコースティックドラム70の要部を示している。このアコースティックドラム70では、ドラムヘッド72におけるヘッド部72aに対する打面側質量付与部材73a,73bの固定部75は、打面側質量付与部材73a,73bの外周側部分であって、幅は、打面側質量付与部材73a,73bの外周端からヘッド部72aの半径の50%に設定されている。アコースティックドラム70も12インチのアコースティックドラムであり、この大きさのアコースティックドラムでは、固定部75の幅を最大でヘッド部72aの半径の50%とする。これによると、固定部75の面積を最大にして、打面側質量付与部材73a,73bがヘッド部72aから剥がれることを確実に防止しながら、アタック音を得ることができる。
【0061】
すなわち、12インチのアコースティックドラムにおいては、固定部の幅を5mmからヘッド部の半径の50%までの範囲で適宜設定することが好ましい。また、この固定部の幅の範囲は、第2実施形態〜第5実施形態のアコースティックドラム20〜50にも適用できる。さらに、第3実施形態および第5実施形態の非打面側質量付与部材33a,33bの固定部もこの範囲の幅に設定することが好ましい。また、アコースティックドラムの大きさが異なる場合には、その大きさに応じて固定部の幅も変更する。この場合、アコースティックドラムの直径と固定部の幅とが略比例するように変更する。これによって、他の大きさのアコースティックドラムに適用することができる。
【0062】
図20は、前述した第1実施形態の第3変形例に係るアコースティックドラム80の要部を示している。このアコースティックドラム80では、ドラムヘッド82におけるヘッド部82aと打面側質量付与部材83a,83bとの固定部85が、外周部の全周でなく周方向に一定間隔を保った複数の部分で構成されている。この固定部85は、全周の50%の部分に設けられ、幅は10mmに設定されている。アコースティックドラム80も12インチのアコースティックドラムであり、この大きさのアコースティックドラムでは、前述した固定部85で充分な効果を得ることができる。この固定部85も第2実施形態〜第5実施形態のアコースティックドラム20〜50に適用できる。また、第3実施形態および第5実施形態の非打面側質量付与部材33a,33bの固定部もこの範囲の幅に設定することが好ましい。
【0063】
また、本発明に係るアコースティックドラムは、前述した各実施形態や各変形例に限定するものでなく、さらに変更して実施できるものである。例えば、前述した各実施形態では、打面側質量付与部材13a等をヘッド部22a等の表面に設置し、打面側質量付与部材13b等をヘッド部22a等の裏面に設置しているが、打面側質量付与部材は、打面側質量付与部材13a等だけで構成してもよいし、打面側質量付与部材13b等だけで構成してもよい。また、複数枚の打面側質量付与部材を、ヘッド部22a等の表面または裏面に設置してもよい。同様に、非打面側質量付与部材33a,33bについてもどちらか一方だけを用いてもよいし、複数枚の非打面側質量付与部材をヘッド部37aの表面または裏面に設置してもよい。
【0064】
また、打面側質量付与部材13a,13bや非打面側質量付与部材33a,33b等のヘッド部12aやヘッド部37a等への固定方法は、両面テープ14a等を用いた粘着に限らず、接着剤を用いて固定してもよいし、リベットやステープラーの針等の固定部材を用いて固定してもよい。さらに、ヘッド部12a等、打面側質量付与部材13a等、非打面側質量付与部材33a等を構成する材料としては、PETフィルムに限らず、PENフィルム等、PETフィルムと同様の性質を持つ他の高分子フィルムを用いてもよい。また、吸音部材42等としては、発泡ウレタンフォームの他、グラスウール等繊維系の材料やスポンジ等を用いることができる。
【0065】
さらに、打面側質量付与部材13a,13bが貼り付けられたドラムヘッド12や、非打面側質量付与部材33a,33bが貼り付けられたレゾナンスヘッド37は、予め、アコースティックドラムに組み込まれたものでなく、別途組み込みが可能にして用いることができる。この場合、複数種類のドラムヘッドやレゾナンスヘッドを準備して、任意のものを使用に応じて用いることが好ましい。また、打面側質量付与部材13a,13bや非打面側質量付与部材33a,33b等についても、ドラムヘッドやレゾナンスヘッドに固定される部分に、粘着剤や接着剤を取り付けた打面側質量付与部材や非打面側質量付与部材を複数準備して、使用に応じて、任意の打面側質量付与部材や非打面側質量付与部材を選択してドラムヘッドやレゾナンスヘッドに固定することができる。
【0066】
これらの方法を用いると、使用の態様が大幅に広がり使い勝手のよいものになる。さらに、前述した各実施形態や変形例では、12インチの小型アコースティックドラムを中心に説明したが、本発明に係るアコースティックドラムは、サイズに拘わらず小型のアコースティックドラムから大型のアコースティックドラムまで適用できることは言うまでもない。また、アコースティックドラム10等のそれ以外の部分の構成についても、本発明の技術的範囲内で、適宜、変更して実施することが可能である。