特許第5751230号(P5751230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751230
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】汚泥の脱水方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/14 20060101AFI20150702BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C02F11/14 AZAB
   B01D21/01 101A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-218230(P2012-218230)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69145(P2014-69145A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2014年9月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】河江 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】谷 幸雄
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−240999(JP,A)
【文献】 特開2001−121199(JP,A)
【文献】 特開昭49−032870(JP,A)
【文献】 特開2010−000436(JP,A)
【文献】 特開平07−068300(JP,A)
【文献】 特開昭61−181600(JP,A)
【文献】 特開昭60−227898(JP,A)
【文献】 特開昭56−013099(JP,A)
【文献】 米国特許第04559143(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00〜11/20
B01D 21/00〜21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集作用のある正電荷を持つ物質を1ppm以上含む汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加し、フロックの形状として、最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であって、体積として0.1mm3〜15cm3であるフロックが全フロック数の5%以上であるように制御して汚泥を凝集させ、脱水前までフロックを保持することを特徴とする汚泥の脱水方法。
【請求項2】
前記汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加し、その後凝集剤を添加することを特徴とする請求項1に記載の汚泥の脱水方法。
【請求項3】
前記汚泥に、少なくとも1種の凝集剤を添加し、濃縮してから、電荷を持つ繊維を添加することを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の汚泥の脱水方法。
【請求項4】
電荷を持つ繊維が木材由来の繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の汚泥の脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥に凝集剤と繊維を添加して凝集する方法において、正電荷を持つ物質を含む汚泥に、少なくとも1種の凝集剤を添加した後で、電荷を持つ繊維を添加し、フロックの形状、体積及び全フロック中の特定の形状、体積のフロックの分率を制御することにより、凝集後に得られる汚泥の脱水性を著しく改善し、脱水ケーキの含水率を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥や、工業排水処理で発生する汚泥、または建設汚泥等の汚泥は、減容化して処分するか、減容化後に有効利用されることが多い。減容化の方法には機械的脱水、乾燥、焼却等があるが、その中で機械的脱水は最も省エネルギーな方法の一つであり、単独で利用されるだけでなく、汚泥を乾燥または焼却する場合にも、多くの場合前処理として実施されている。
【0003】
脱水後の汚泥は脱水ケーキと呼ばれ、脱水ケーキの含水率はできるだけ低くすることが望ましい。その理由は、例えば汚泥を処分する場合、脱水ケーキの含水率を低くするほど、処分する汚泥量が減るという利点があるだけでなく、運搬等にかかる費用が安くなるというメリットもある。また、汚泥を乾燥または焼却する際は、汚泥中の水分を蒸発させるために、重油や石炭粉などの補助燃料が使用されており、脱水ケーキの含水率を低減する程、補助燃料の使用量を少なくすることができる。更に、汚泥を焼却する場合では、脱水ケーキの含水率が65%程度を下回ると、汚泥が自燃可能となる場合が多く、その場合には、補助燃料が不要となると言われている。そのため、汚泥の機械的脱水では、脱水ケーキの含水率を低減することが重要である。
【0004】
汚泥の機械的脱水法は、汚泥に凝集剤を添加して粗大なフロックを形成させてから、圧搾することが一般的である。しかし、凝集剤を使用すると、高圧を作用させてもフロックの内部に取り込まれた水の除去は難しく、低含水率の脱水ケーキを得ることができない。現在の技術では、一般的な脱水ケーキの含水率は85〜95%であり、最新の脱水機を用いても80%程度が限界と言われている。
【0005】
汚泥に脱水補助剤として繊維を添加すると、脱水ケーキの含水率を低減できることが知られている。例えば、汚泥に凝集剤とセルロース等を主成分とする繊維状脱水補助剤を添加して、大きなフロックを形成させてから機械的脱水する方法が知られている(特許文献1)。この方法では脱水補助剤の電荷についての記載がなく、一般的にポリエチレンテレフタラートやナイロンは電荷を持たず、セルロースやレーヨンも合成法によっては電荷を持たない場合と持つ場合があるが、これらについては言及されていない。また、凝集剤と脱水補助剤の電荷の関係については記載されておらず、フロックの形状についても考慮されていないため、脱水補助剤の添加量が汚泥の固形分に対して3〜10%と非常に多いといった問題がある。また、汚泥に凝集剤と古紙粉砕物を混和して凝集させた後、脱水処理する方法が知られている(特許文献2)。この方法では、凝集剤には、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、両性ポリマー等を使用することが記載されているが、古紙粉砕物の電荷については記載されておらず、フロックの形状についても考慮されていないため、古紙粉末の添加量が6.2〜40%と非常に多いといった問題がある。また、生物処理後の余剰汚泥に凝集剤を添加してから脱水機にて一次脱水し、発生した脱水後汚泥を繊維状物質と混合して二次脱水する方法が知られているが、この方法では一次脱水時にフロックが壊れてしまい、汚泥が泥状に戻ってしまうため、この泥状の汚泥に繊維を添加しても、二次脱水で効率よく汚泥の泥から水を抜き取ることができない(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−436号公報
【特許文献2】特許3485138号公報
【特許文献3】特許4671780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法は、汚泥の機械的圧搾時に繊維の網目が汚泥の流出を防ぐ効果といった物理的な効能だけを利用した方法であるため、繊維を大量に添加しなければ含水率を低減させることができないといった欠点がある。そこで、本発明は繊維の添加量が少量であっても、脱水ケーキの含水率を低減できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、繊維として電荷を持つ繊維を使用し、この繊維と凝集剤を、繊維と凝集剤が持つ電気的な作用を考慮した順番で汚泥に添加し、フロックの形状を制御することで繊維の添加量が少量であっても、脱水ケーキの含水率を著しく低減できることを見出した。
【0009】
本願は以下の各発明を包含する。
(1)凝集作用のある正電荷を持つ物質を1ppm以上含む/または含ませた汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加し、フロックの形状として、最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であって、体積として0.1mm〜15cmであるフロックが全フロック数の5%以上であるように制御して汚泥を凝集させ、脱水前までフロックを保持する汚泥の脱水方法。
【0010】
(2)前記汚泥に、少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加し、その後さらに凝集剤を添加する(1)記載の汚泥の脱水方法。
【0011】
(3)前記汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加し、フロックを形成後に濃縮してから、電荷を持つ繊維を添加する(1)又は(2)に記載の汚泥の脱水方法。
【0012】
(4)電荷を持つ繊維が木材由来の繊維である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の汚泥の脱水方法。
【発明の効果】
【0013】
凝集作用のある正電荷を持つ物質を1ppm以上含む汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加し、フロックの形状として、最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であって、体積として0.1mm〜15cmであるフロックが全フロック数の5%以上であるように制御することで、フロックの内部に水が通り抜ける道筋を形成しながら、更に、脱水機による圧搾時に繊維の網目によってフロックが流出することを防ぐことが出来るので、高い圧力をかけることが可能になり、汚泥を脱水する際に、著しく脱水ケーキの含水率を低減することができ、添加する繊維量も少ないため汚泥量を増やすことなく効率的に脱水することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための形態について述べる。
本発明で対象とする汚泥は、汚泥中に凝集作用のある電荷を持つ物質を1ppm以上含有する汚泥であれば制限はない。例えば、上水製造工程から発生する汚泥、下水処理工程から発生する汚泥、食品製造工程、製紙工程、製薬工程、建築工程、建設工程等から発生する汚泥等、公知の工程から発生する汚泥であれば、如何なる汚泥でもよく、好気性処理、嫌気性処理、好気性/嫌気性処理といった汚泥が発生する処理法にも関わらず、公知の汚泥であれば、如何なる汚泥にも適用することができるが、好ましくは、下水処理や食品製造工程から発生する汚泥のような、汚泥中の繊維量が少ないものがよい。
【0015】
汚泥に含有される正電荷を持つ物質としては、硫酸アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアミン、メラミン酸コロイド、ジシアンジアミド等の無機塩や有機化合物が挙げられる。また、これらが汚泥を含む水中で溶解した時に生じるイオンと同じイオンを含む物質でもよく、例えば水に溶解してアルミニウムイオンを供給する物質や鉄イオンを供給する物質であれば異なる構造の物質でもよい。
【0016】
汚泥は排水中でコロイド粒子の状態で電気的に反発して漂っており、正電荷をもつ物質は、イオンの力で汚泥コロイドの反発力を奪い、汚泥コロイドの分子間力(ファンデルワールス力)によって、微小フロックを作る働きをする。この作用を発現させるためには、正電荷を持つ物質は、汚泥中に乾燥重量が1ppm以上含まれる必要が有るため、添加して1ppm以上含有させることも可能である。
【0017】
汚泥に添加する凝集剤には、水の中に存在する有機物および/または無機物を電気的な力によって凝集させ、フロックとして捕集する働きがある。汚泥に添加する繊維として、電荷を持たない繊維を使用した場合と、電荷を持つ繊維を使用しても、繊維と凝集剤の電荷のバランスを考慮しない順番で汚泥に添加した場合には、フロックと繊維が絡み合うことでフロックをまとめるという物理的効果は得られるが、フロック内に取り込まれた水を抜き取ることは困難である。そのため、低い含水率を低減するためには、繊維がフロック内で網目を形成できるまで、繊維を大量に添加しなければならない。また、この場合にはフロック中の繊維の分散性が悪いため、フロックの形状がいびつとなる。
【0018】
一方、繊維として電荷を持つ繊維を使用し、繊維と凝集剤が化学的に反発する力を利用すると、フロック内部に水の通り抜ける筋道を形成することが可能であるため、フロックに取り込まれた水を容易に脱水することが可能となる。この方法では、繊維がフロック中で均一に分散するほど高い脱水効果が得られ、繊維が均一に分散するほど、フロックの三次元構造は、最長辺と最短辺の比率が小さくなり、球体に近づくことが見出され、更に具体的には、フロックの構造において最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であるフロックが全フロック数の5%以上となるように制御すると、脱水ケーキの含水率を著しく低減できることを見出した。
【0019】
更に好ましくは、フロックの構造において最長辺と最短辺の比率が1.5:1〜1:1の範囲であるフロックが全フロック数の20%以上となるように制御すると、フロック内部に水の通り道ができるだけでなく、フロック間にも空隙が生じ、汚泥から水が通り抜ける道筋を確保する効果が著しく向上する。最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であるフロックが全フロック数の5%よりも少ない場合には、電荷を持つ繊維の価格に対し、脱水性が向上することで得られる経済的効果が小さいことが見出された。
【0020】
フロックの大きさについては、凝集剤と繊維の反発の強さによってフロックが小さくなる場合があり、フロックの体積が0.1mmよりも小さい場合は、フロックがフィルター式脱水機に目詰まりしてしまう可能性や、スクリュープレスの目穴から抜け落ちる可能性があるため、好ましくなく、一方、フロックの体積を15cmよりも大きくするためには、凝集剤や繊維の添加量が大幅に増えてしまうため、経済的ではない。フロックの体積のさらに好ましい範囲としては1〜10cmであり、この範囲では、フロックが脱水機を目詰まりさせることや、脱水機から抜け落ちることなく脱水することができる。
【0021】
汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加してフロックを形成させた後で、電荷を持つ繊維を添加すると、フロックが小さくなり、脱水機の目穴から抜け落ちる場合があるときには、その後さらに凝集剤を添加することで、フロックの内部に水が通り抜ける道筋と、汚泥の流出を防ぐ網目を形成させながら、更に、フロックを粗大化することができるので、汚泥を脱水する際に、著しく脱水ケーキの含水率を低減できるため好ましい。
【0022】
さらには、汚泥に少なくとも1種の凝集剤を添加し、凝集沈殿処理などで濃縮してから電荷を持つ繊維を添加すると、汚泥と電荷を持つ繊維を効率的に混合することができるので、電荷を持つ繊維の添加量を少なくすることができる。
【0023】
本発明で使用する電荷を持つ繊維は、木材パルプ、綿、麻、古紙パルプ、非木材パルプといった如何なる天然物を用いることができるし、電荷を付与したポリプロピレン等の如何なる電荷を持つ合成繊維も使うことができる。また、繊維に電荷を持つ物質を固定化、および/または吸着させたものを用いることもできる。また、紙パルプ製造工場から回収された繊維や、繊維分を多く含むスラッジを用いることもできる。繊維の持つ電荷はアニオン性、カチオン性、その両方でもよく、繊維中の電荷の量は特に限定されないが、電荷を持つ繊維は、比表面積が大きく、柔軟性のある素材が好適であることが分かった。
【0024】
このような繊維について鋭意検討した結果、木材パルプ由来の繊維は、ヘミセルロース由来のカルボキシル基を持つので、アニオン性の電荷を持ち、繊維の構造は、多糖類が複雑な構造で高分子化したものであるため、比表面積が非常に大きく、更に柔軟性があるため、木材パルプ由来の繊維を使用すると、少ない繊維の添加量で、脱水ケーキの含水率を著しく低減することが可能であることが分かった。更に良いことには、木材パルプを用いると、繊維と汚泥が良好に絡み合うことで、フロックの密度が高くなる効果があり、フロックの沈降性と圧密性が良好となるので、脱水機で脱水する前の段階で、水分と汚泥の分離性を向上させることができる。更に好ましくは、木材パルプは、天然物であるために持続的に供給でき、カルボキシル基といったアニオン性の電荷を持ち、更に安価であるため好適に用いられる。また、繊維は乾燥した状態、湿った状態、液中に分散された状態でも使用することもできるが、繊維の分散性と、汚泥および凝集剤との馴染み易さを考慮し、液中に分散してから使用することが好ましい。
【0025】
本発明で、繊維として木材パルプを使用する場合は、木材パルプに前処理を施すことができる。前処理の一例として叩解し、比表面積を増大させることができるし、木材パルプにオゾン、塩素、二酸化塩素、過硫酸、次亜塩素酸、過酸化水素等の公知の酸化剤による酸化処理や、TEMPO酸化法、フェントン酸化法等の公知の酸化法によって酸化処理を施し、木材パルプ中のアニオン性残基量を増やしてから使用することもできる。また、アニオン性を持つ化合物および/またはカチオン性を持つ化合物を木材パルプに固定/吸着させてから、使用することも可能である。
【0026】
本発明で使用する凝集剤は、アニオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、ノニオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリル酸ナトリウム、カチオン性ポリアクリル酸アルキルエステル、カチオン性ポリメタアクリル酸アルキルエステル、カチオン性ポリアミン、カチオン性ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、カチオン性ジシアンジアミド、カチオン性アミノ縮合物、アニオン性アルギン酸ナトリウム、アニオン性カルボキシメチルセルロース、ノニオン性苛性化デンプン等、アニオン性、カチオン性、ノニオン性に関わらず、また、その分子量や主たる特性をもたらす官能基の量に関わらず、また、直鎖状もしくは枝分かれ状といった形状にも関わらず、公知の如何なる有機高分子化合物も用いることができるし、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第三鉄、塩素化コッパラス等の如何なる無機塩類も用いることができる。また、凝集剤は、一種類のみ使用することもできるし、複数の種類を使用することもできる。また、珪藻土、活性シリカといった助剤、硫酸や塩酸、水酸化ナトリウムといったpH調整剤、マンガン酸塩、次亜塩素酸塩、硫酸第一鉄等の酸化・還元剤、凝集剤等の補助薬剤を使用することもできる。凝集剤や補助薬剤、電荷を持つ繊維の選択や添加量の決定は、ジャーテストや脱水試験等を行い、フロックの形状や脱水性を考慮して適宜行われる。
【0027】
本発明における電荷を持つ繊維と凝集剤の種類、種類の数、添加量、添加順、濃縮、脱水のタイミングを決定する際には、繊維と凝集剤が反発およびまたは吸着する性質を考慮する必要があるため、これらの電荷を考慮して、良好なフロックが形成されるように、適宜決定される。例えば、アルミニウムイオンや鉄イオンといった正電荷を持ち、汚泥を微細フロックにまとめる働きを持つ金属イオンを1ppm以上含む汚泥に、アニオン性凝集剤を添加した後で、アニオン性残基を持つ繊維を添加することができる。また、アニオン性凝集剤を添加した後で、カチオン性凝集剤を添加し、イオンコンプレックス効果により強固なフロックを形成した後でイオンコンプレックス中のアニオン性部位と反発するようにカルボキシル基を持つ繊維、例えば木材パルプを添加することもできるし、アニオン性凝集剤と負の電荷を持つ繊維を同時に添加して、フロックと繊維を電気的に反発させた状態を保持してから、カチオン性凝集剤を用いてフロックを形成させることもできる。また、正の電荷を持つ無機イオンを含む汚泥にアニオン性の凝集剤を添加し、カチオン性の凝集剤を添加し、凝集沈殿処理し、バースクリーンにて汚泥を濃縮した後に、アニオン性の電荷を持つ繊維を添加することもできる。更に、その後、カチオン性の凝集剤を添加して再度フロックを粗大化させることもできる。これらは一例であるため、これらの順番に限定されるものではない。凝集剤と電荷を持つ繊維の電荷の作用を考慮する際に、ゼータ電位を指標とすることが特に好ましく、ゼータ電位の他に、酸化還元電位や、濁度等を指標とすることもできるが、凝集剤と繊維の持つ電荷がバランスよく反発およびまたは引き合いながら、繊維と凝集剤と汚泥が均一に分散し、脱水性のよいフロックが形成されている場合には、フロックの形状が球に近づき、フロックの最長辺と最短辺の比率が1:1に近づくので、ジャーテストを行い目視でフロックの形状を観察して、最もよい添加法を決定するとよい。凝集剤と電荷を持つ繊維の電荷の作用を考慮する際には、ゼータ電位を指標とすることが好ましく、ゼータ電位が−100〜100mVの範囲となるように調整することが好ましい。また、ゼータ電位の他に、酸化還元電位や、濁度等を指標とすることもできる。ゼータ電位を測定しながら、目視でフロックの形状を観察して、最もよい添加法を決定するとよい。凝集剤と電荷を持つ繊維は、少なくとも一種を複数回に分けて添加することもできるし、少なくとも一種、もしくは複数種を繰り返して添加することもできる。
【0028】
本発明における凝集剤の添加法は、公知の如何なる方法も用いることができる。本発明における電荷を持つ繊維の添加法は、電荷を持つ繊維を配管から汚泥の入った容器へ投入する方法や、シャワー方式やスプレー方式で吹きかける方法等、如何なる方法も用いることができる。例えば、乾燥した木材パルプを水中に分散させる機械と、得られたパルプスラリーを添加するポンプを組み合わせた装置を使用することができる。凝集剤と電荷を持つ繊維の混合法は、これらを均一に分散させるために、攪拌機にて攪拌することが望ましいが、その他如何なる公知の混合法も用いることができるし、配管等を通過する際のせん断力で十分に混合できる場合は、特に混合機を使用しなくてもよい。また、凝集剤と電荷を持つ繊維の添加場所は、汚泥の発生後から脱水処理完了までの間であれば如何なる場所でもよいが、凝集沈殿や加圧浮上といった凝集剤を用いた凝集処理装置や、脱水剤の添加および攪拌装置が既設である場合は、その装置を使用することが好ましい。また、凝集処理装置や脱水剤の添加装置および攪拌装置がない場合は、脱水機に凝集剤と電荷を持つ繊維を添加するだけでも、脱水性を向上させることができる。
【0029】
本発明における汚泥の濃縮処理は、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、遠心分離機による濃縮処理、バースクリーンやロータリースクリーンのようなスクリーン処理、ろ布を用いたろ過処理等、公知の濃縮処理を行うことができる。
【0030】
本発明における脱水機は、フィルタープレス、スクリュープレス、遠心脱水機、ベルトプレス、電気浸透脱水機といった如何なる脱水機も使用することができるが、既存の脱水機を持つ場合は、その脱水機を用いることが好ましい。これまで、下水処理工程や食品製造工程から排出される汚泥のように、汚泥に含まれる繊維分が少ない場合には、連続式のスクリュープレスで脱水すると、脱水機の目穴から汚泥が流出し、脱水が困難であるため、バッチ式のフィルタープレス等が使用されることが多いが、本発明における方法でフロックを調製すると、繊維の効果によってスクリュープレスの目穴から汚泥が流出しにくくなるため、スクリュープレスを用いて連続して脱水することが可能である。そのため、新規に脱水機を設置する場合には、スクリュープレスを選択することが好ましい。また、遠心脱水機にて脱水したあと、スクリュープレスで脱水するなど、複数の脱水機を組み合わせることもできるし、ロータリースクリーンのようなスクリーンで濃縮した後で、スクリュープレスやベルトプレスで脱水することもできる。
【0031】
本発明におけるフロックの最長辺と最短辺の比率は、水を入れた容器にフロックを分散させ、定規と共にフロックの写真を撮り、個々のフロックの最長辺と最短辺の長さを測定することによって求められる。また、フロックの位置を変え、同じ操作を3回以上繰り返す必要がある。本発明におけるフロックの体積は、同様の操作で得られた写真から個々のフロックにおける最長辺と最短辺の長さを平均し、この平均値を球体の直径として、球の体積を求める方法にて算出される。例えば、ビーカーに入ったフロックを、ジャーテスターを用いて回転数10〜60rpmで攪拌してフロックを水中に分散させながら、CCDカメラでビーカー側面から写真を撮り、画像解析装置にて、個々のフロックの最長辺と最短辺の長さを測定する。同じ操作を3回以上繰り返し、最長辺と最短辺の比率と体積を算出する。また、ビーカー中のフロックを攪拌後、攪拌をとめてから写真を取る方法もよいし、実際の操業の場では、攪拌機によってフロックを攪拌しながら、攪拌機上部からフロックの写真を撮影してもよい。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例と比較例について述べるが、これらは一例であり、本発明はこれらに限定されない。実施例、比較例における脱水ケーキの含水率を表1に示す。
(実施例1)
製紙工場から排出された汚泥であって硫酸アルミニウムを200ppm含む汚泥に、アニオン性凝集剤100ppmを添加し、カチオン性凝集剤100ppmを添加してフロックを形成した後、カルボキシル基を持つ木材パルプを2g/L添加し、フロックを形成した。得られたフロックをスクリュープレスにて脱水した。得られた脱水ケーキの重さを測り、105℃に設定した乾燥機にて一昼夜乾燥し、乾燥前後の重さから、下記の式に従い、脱水ケーキの含水率を求めた。
脱水ケーキの含水率(%)=(脱水後の重さ − 乾燥後の重さ)÷ (脱水後の重さ)×100
【0033】
(実施例2)
食品製造工場から排出され、ポリ塩化アルミニウムを100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppmを添加し、カルボキシル基を持つ木材パルプを0.2g/L添加してから、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0034】
(実施例3)
下水処理施設から排出され、塩化第二鉄を100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppm、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、凝集沈殿処理した。沈殿した汚泥を抜き出し、カルボキシル基を持つ木材パルプを0.2g/L添加してフロックを形成した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0035】
(実施例4)
製紙工場から排出され、塩化第二鉄を100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppm、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成し、凝集沈殿処理した。沈殿した汚泥を抜き出し、ロータリースクリーンにて濃縮し、カルボキシル基を持つ木材パルプを0.2g/L添加してフロックを形成した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0036】
(比較例1)
製紙工場から排出された汚泥であって硫酸アルミニウムを200ppmを含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppmを添加し、カチオン性凝集剤100ppmを添加してフロックを形成した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0037】
(比較例2)
食品製造工場から排出され、ポリ塩化アルミニウムを100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppmを添加し、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0038】
(比較例3)
下水処理施設から排出され、塩化第二鉄を100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppm、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成し、凝集沈殿処理した。沈殿した汚泥を抜き出し、スクリュープレスにて脱水した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0039】
(比較例4)
製紙工場から排出され、塩化第二鉄を100ppm含有させた汚泥に、アニオン性凝集剤100ppm、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成し、凝集沈殿処理した。沈殿した汚泥を抜き出し、ロータリースクリーンにて濃縮しスクリュープレスにて脱水した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0040】
(比較例5)
下水処理施設から排出された汚泥に、塩化第二鉄を100ppmとカルボキシル基を持つ木材パルプを0.2g/L添加して、カチオン性凝集剤100ppmを添加し、フロックを形成した後に、スクリュープレスにて脱水した。それ以外は実施例1と同じ操作を行い、脱水ケーキの含水率を求めた。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例と比較例の比較から明らかなように、汚泥にパルプ繊維を添加していない場合には、脱水後の汚泥ケークの含水率が高い。また、比較例5では、パルプ繊維を添加していても、請求項で規定した形状のフロックの割合が小さく、これに対し、凝集剤を含む汚泥に電荷を持つ繊維を添加し、かつ、フロックの形状として、最長辺と最短辺の比率が10:1〜1:1の範囲であって、体積として0.1mm〜15cmであるフロックが全フロック数の5%以上であるように制御して汚泥を凝集させた場合は、著しくケークの含水率を低減することが可能である。