特許第5751242号(P5751242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751242
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】インバータ制御装置および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20060101AFI20150702BHJP
   H02P 27/04 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   H02P5/408 A
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-253349(P2012-253349)
(22)【出願日】2012年11月19日
(62)【分割の表示】特願2010-510039(P2010-510039)の分割
【原出願日】2009年4月28日
(65)【公開番号】特開2013-34386(P2013-34386A)
(43)【公開日】2013年2月14日
【審査請求日】2012年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2008-117102(P2008-117102)
(32)【優先日】2008年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】日比野 寛
(72)【発明者】
【氏名】巴 正信
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−181358(JP,A)
【文献】 特許第4065901(JP,B1)
【文献】 特開平01−161162(JP,A)
【文献】 特開2002−252936(JP,A)
【文献】 特開2005−198442(JP,A)
【文献】 特開2007−282312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタを介して供給される直流電力を任意の周波数、任意の電圧値の交流電力に変換して交流電動機(150)に供給するインバータ(140)を制御する装置であって、
出力電圧指令を算出する制御演算部(204〜208)を有し、
前記制御演算部(204〜208)は、前記LCフィルタの共振周波数(f0)を制御可能な制御帯域を有して前記交流電動機(150)に供給する電流が指令値に追従するようにフィードバック制御する電流制御器(206)を備え、
前記インバータ(140)をPWM制御するための制御信号を出力電圧補正部(202)からの出力電圧指令に基づいて算出するPWM算出部(203)と、
前記インバータ(140)に供給される直流電力の電圧を検出する直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の変動成分(当該変動成分は少なくとも直流成分を含まずかつ前記LCフィルタの共振周波数(f0)成分を含む)を検出する変動成分検出部(211)と、
前記変動成分検出部(211)により検出された変動成分に基づいて、前記LCフィルタによるリンク共振を抑制するための補償量(リンク共振補償量)を算出するリンク共振補償部(213)と、
前記リンク共振補償量を所定範囲に制限する制限部(212)と、
前記電流制御器(206)への入力指令を、前記制限部(212)により制限されたリンク共振補償量により補正して、直流電圧の変動の所定周波数帯域(この所定周波数帯域は、少なくとも前記LCフィルタの共振周波数(f0)を含み且つ前記電流制御器(206)のフィードバック制御の周波数帯域以下である周波数帯域)において、直流電圧の増加時に前記インバータ(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加し、直流電圧の減少時に前記インバータ出力電圧を減少させる補正部(214)とを備え、
前記出力電圧補正部(202)は、前記直流電圧検出部(201)からの直流電圧値が直接入力され、当該直流電圧値に基づいて、この直流電圧の変動の前記所定周波数帯域より高く且つ電源電圧急変時の変動の周波数帯域を含んだ周波数帯域と、前記所定周波数帯域より低い周波数帯域とにおいて、前記制御演算部(204〜208)からの出力電圧指令を補正して、直流電圧の変動によるインバータ出力電圧の変動を抑制する
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制限部(212)の制限値は、前記リンク共振補償量による補正がない場合における前記LCフィルタによる共振成分の振幅に比べて小さい値に設定されている
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記インバータ(140)に供給される直流電力は、交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ(110)により供給されるものであり、
前記変動成分検出部(211)は、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の前記交流電源(100)による脈動成分を検出する電圧脈動検出部(500)を備え、前記電圧脈動検出部(500)により検出された脈動成分を前記変動成分から除去する
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
前記インバータ(140)に供給される直流電力は、交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ(110)により供給されるものであり、
前記LCフィルタは、その共振周波数(f0)が、前記インバータ(140)に供給される直流電力の電圧の前記交流電源(100)による脈動成分の整数倍およびそれらの近傍の周波数以外になるようにリアクトル(120)およびコンデンサ(130)が選定されている
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、
前記制限部(212)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記制限範囲を調整する
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、
前記リンク共振補償部(213)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記リンク共振補償量を調整する
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項7】
交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ部(110)と、
リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタと、
前記コンバータ部(110)からの直流電力が前記LCフィルタを介して供給され、当該直流電力を任意の周波数、任意の電圧値の交流電力に変換して交流電動機(150)に供給するインバータ部(140)と、
前記インバータ部(140)を制御するインバータ制御部(200)と
を有する電力変換装置であって、
前記インバータ制御部(200)は、
前記インバータ部(140)に供給される直流電力の電圧を検出する直流電圧検出部(201)と、
出力電圧指令を算出する制御演算部(204〜208)とを有し、
前記制御演算部(204〜208)は、前記LCフィルタの共振周波数(f0)を制御可能な制御帯域を有して前記交流電動機(150)に供給する電流が指令値に追従するようにフィードバック制御する電流制御器(206)を備え、
前記インバータ部(140)をPWM制御するための制御信号を出力電圧補正部(202)からの出力電圧指令に基づいて算出するPWM算出部(203)と、
前記直流電圧検出部(201)によって検出された直流電圧の変動成分(当該変動成分は少なくとも直流成分を含まずかつ前記LCフィルタの共振周波数(f0)成分を含む)を検出する変動成分検出部(211)と、
前記変動成分検出部(211)により検出された変動成分に基づいて、前記LCフィルタによるリンク共振を抑制するための補償量(リンク共振補償量)を算出するリンク共振補償部(213)と、
前記リンク共振補償量を所定範囲に制限する制限部(212)と、
前記電流制御器(206)への入力指令を、前記制限部(212)により制限されたリンク共振補償量により補正して、直流電圧の変動の所定周波数帯域(この所定周波数帯域は、少なくとも前記LCフィルタの共振周波数(f0)を含み且つ前記電流制御器(206)のフィードバック制御の周波数帯域以下である周波数帯域)において、直流電圧の増加時に前記インバータ部(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加し、直流電圧の減少時に前記インバータ出力電圧を減少させる補正部(214)とを備え、
前記出力電圧補正部(202)は、前記直流電圧検出部(201)によって検出された直流電圧値が直接入力され、当該直流電圧値に基づいて、この直流電圧の変動の前記所定周波数帯域より高く且つ電源電圧急変時の変動の周波数帯域を含んだ周波数帯域と、前記所定周波数帯域より低い周波数帯域とにおいて、前記制御演算部(204〜208)からの出力電圧指令を補正して、直流電圧の変動によるインバータ出力電圧の変動を抑制する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記制限部(212)の制限値は、前記リンク共振補償量による補正がない場合における前記LCフィルタによる共振成分の振幅に比べて小さい値に設定されている
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記変動成分検出部(211)は、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の前記交流電源(100)による脈動成分を検出する電圧脈動検出部(500)を備え、前記電圧脈動検出部(500)により検出された脈動成分を前記変動成分から除去する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1つにおいて、
前記LCフィルタは、その共振周波数(f0)が、前記インバータ部(140)に供給される直流電力の電圧の前記交流電源(100)による脈動成分の整数倍およびそれらの近傍の周波数以外になるようにリアクトル(120)およびコンデンサ(130)が選定されている
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1つにおいて、
前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、
前記制限部(212)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記制限範囲を調整する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか1つにおいて、
前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、
前記リンク共振補償部(213)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記リンク共振補償量を調整する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか1つに記載の電力変換装置を備えている
ことを特徴とする空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機を駆動するインバータを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、直流リンク部にフィルタコンデンサを有する電圧形インバータ装置では、直流入力電圧の変動による出力電圧の変動を抑制する出力電圧一定制御が行われている。この出力電圧一定制御を行う従来のインバータ装置の概略構成を図1に示す。なお、図1では、制御系は簡略化して示している。また、出力電流検出部(160)をインバータ部(140)とモータ(150)間に配置しているが、モータ(150)に出力される電流が検出できる構成であればよく、例えば、直流リンク部分にシャント抵抗を配置して電流を検出する構成でもよい。
【0003】
図1のインバータ装置は、制御部であるインバータ制御部(200)を備えている。該インバータ制御部(200)は、インバータ部(140)へ入力される直流電圧の変動による影響を出力電圧が受けないように電圧補正部(202)により補正を行う。具体的には、インバータ部(140)へ入力される直流電圧値を直流電圧検出部(210)により検出し電圧補正部(202)に与える。電圧補正部(202)は、電圧指令値をこの直流電圧値で割り電圧補正を行う(例えば、特許文献1、2の従来例を参照)。
【0004】
PWM算出部(203)は、インバータ部(140)をPWM制御するための制御信号を電圧補正部(202)からの電圧指令値に基づいて算出し、この制御信号に応答してインバータ部(140)のスイッチング素子がオン/オフ制御される。
【0005】
図1では、モータ(150)として同期電動機を想定した制御系を示している。同期電動機の制御は、一般にd-q座標上に座標変換したモータモデルに基づいて行われる。d-q座標上に座標変換した同期電動機の状態方程式を[数1]に示す。
【0006】
【数1】
【0007】
速度制御器(204)および電流制御器(206)は、例えばPI制御を行う。PI制御を行う場合の電流制御器(206)の伝達関数を[数2]に示す。
【0008】
【数2】
【0009】
電流ベクトル制御器(205)では、例えばid*=0制御、最大トルク制御、弱め磁束制御などを行う(例えば非特許文献1参照)。
【0010】
一般に、電流制御器(206)により構成される電流制御系の制御帯域は、速度制御器(204)により構成される速度制御系の制御帯域よりも大きく設定される。たとえば圧縮機の駆動モータなどでは、速度制御系の制御帯域は10Hz程度、電流制御系の制御帯域は200Hz程度に設定されることが多い。より高速で制御を行う必要がある演算処理は、速度制御系や電流制御系を介さずに行う必要があり、図1では電圧補正部(202)による電圧補正処理が該当する。
【0011】
次に、電圧補正部(202)において行われる電圧補正について詳しく説明する。
【0012】
直流入力電圧VDCのもとでキャリア周期T、パルス幅τでインバータ部(140)をPWM制御した場合(図2参照)の出力電圧(平均電圧値)V ̄を[数3]に示す。
【0013】
【数3】
【0014】
出力電圧V ̄と出力指令電圧V*とが直流入力電圧VDCに依らず一致するように、パルス幅τは[数4]により求められる。この式では、V*をVDCで割ることで、出力電圧V ̄が変動しないように電圧補正を行っている(ここでは、VDCで割る処理を電圧補正としている)。このような処理を行うと、VDCの変動による出力電圧V ̄の変動を抑制できる。
【0015】
【数4】
【0016】
ここで、前記インバータ部(140)に入力される電流値をIDCとすると、入力電力Pinは、
Pin=VDCIDC
となる。
【0017】
前記インバータ部(140)の出力電力Poutは、電圧補正部(202)での電圧補正により一定値に制御され、
Pin=Pout=P(一定)…[ただしインバータ部(140)での損失を無視]
となり、入力電流はIDC=P/VDCとなる。
【0018】
そのため、インバータ部(140)の入力電圧VDCと入力電流IDCは、VDCが増加すればIDCが減少し、VDCが減少すればIDCが増加するという関係になる。すなわち、出力電圧一定制御を行う場合、入力側からみたインバータ部(140)は負性抵抗の特性を示すことになる。
【0019】
一方、リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタは、[数5]に示す共振周波数f0で共振する現象(リンク共振)が生じることがある。
【0020】
【数5】
【0021】
このリンク共振を抑制するためには、VDC増加時にインバータ部(140)の出力を増やしてVDCの増加を抑制し、VDC減少時にはインバータ部(140)の出力を減らしてVDCの減少を抑制する制御、すなわち、VDCが増加すればIDCが増加し、VDCが減少すればIDCが減少する制御を行う必要がある。しかしながら上述の出力電圧一定制御を行うと、リンク共振を抑える方向とは逆側(VDC増加→IDC減少、VDC減少→IDC増加)に電圧補正部(202)で補正をかけるため、リンク共振を抑制できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特公平7-36702号公報(特許第2004329号)
【特許文献2】特許第3212354号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】「埋込磁石同期モータの設計と制御」、武田・松井・森本・本田、オーム社、2001/10/25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記の課題に対して[特許文献2]では、出力電圧一定制御とリンク共振抑制制御を互いの利点を損なうことなく同時に行い、それぞれの制御の効果を得ることができる制御方法が開示されている。[特許文献2]の図1に示されているように、この制御方法では、直流電圧検出器(6)により検出した直流電圧に時定数分の遅れ(14)を与えて電圧演算補正回路(11)に供給する。電圧演算補正回路(11)は、時定数分の遅れ(14)が与えられた直流電圧値(110)により電圧補正を行う。電圧演算補正回路(11)により得られた補正値(106)に、さらに、直流入力電圧の変動量(102)を加算して補正を行う(13)。このように、時定数分の遅れを設けて制御を周波数分離することで、出力電圧一定制御とリンク共振抑制制御との干渉を防止している。
【0025】
しかしながら、[特許文献2]の図1に示された制御方法では、時定数分の遅れ(14)により、電圧演算補正回路(11)に入力される直流電圧値が遅れるため、インバータ部(4)への入力電圧の急変時(たとえば、瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰時など)に電圧演算補正回路(11)の応答が遅れ、制御に悪影響を与える。特に、インバータ部(4)の入力電圧が急増した際には、電圧演算補正回路(11)の応答が遅れることで出力電圧が増加し、さらに、上述のリンク共振抑制制御によりインバータ部(4)の出力電圧が増加し、過電流となる。
【0026】
本発明では、上記のような電圧急変時においても、出力電圧一定制御とリンク共振抑制制御を互いの利点を損なうことなく同時に行い、それぞれの効果を得ることができるインバータ制御装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
第1の発明は、リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタを介して供給される直流電力を任意の周波数、任意の電圧値の交流電力に変換して交流電動機(150)に供給するインバータ(140)を制御する装置である。
【0028】
そして、第1の発明は、リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタを介して供給される直流電力を任意の周波数、任意の電圧値の交流電力に変換して交流電動機(150)に供給するインバータ(140)を制御する装置であって、出力電圧指令を算出する制御演算部(204〜208)を有し、前記制御演算部(204〜208)は、前記LCフィルタの共振周波数(f0)を制御可能な制御帯域を有して前記交流電動機(150)に供給する電流が指令値に追従するようにフィードバック制御する電流制御器(206)を備え、前記インバータ(140)をPWM制御するための制御信号を出力電圧補正部(202)からの出力電圧指令に基づいて算出するPWM算出部(203)と、前記インバータ(140)に供給される直流電力の電圧を検出する直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の変動成分(当該変動成分は少なくとも直流成分を含まずかつ前記LCフィルタの共振周波数(f0)成分を含む)を検出する変動成分検出部(211)と、前記変動成分検出部(211)により検出された変動成分に基づいて、前記LCフィルタによるリンク共振を抑制するための補償量(リンク共振補償量)を算出するリンク共振補償部(213)と、前記リンク共振補償量を所定範囲に制限する制限部(212)と、前記電流制御器(206)への入力指令を、前記制限部(212)により制限されたリンク共振補償量により補正して、直流電圧の変動の所定周波数帯域(この所定周波数帯域は、少なくとも前記LCフィルタの共振周波数(f0)を含み且つ前記電流制御器(206)のフィードバック制御の周波数帯域以下である周波数帯域)において、直流電圧の増加時に前記インバータ(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加し、直流電圧の減少時に前記インバータ出力電圧を減少させる補正部(214)とを備え、
前記出力電圧補正部(202)は、前記直流電圧検出部(201)からの直流電圧値が直接入力され、当該直流電圧値に基づいて、この直流電圧の変動の前記所定周波数帯域より高く且つ電源電圧急変時の変動の周波数帯域を含んだ周波数帯域と、前記所定周波数帯域より低い周波数帯域とにおいて、前記制御演算部(204〜208)からの出力電圧指令を補正して、直流電圧の変動によるインバータ出力電圧の変動を抑制する構成としている。
【0029】
第2の発明は、第1の発明において、前記制限部(212)の制限値が、前記リンク共振補償量による補正がない場合における前記LCフィルタによる共振成分の振幅に比べて小さい値に設定されている構成としている。
【0030】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記インバータ(140)に供給される直流電力が、交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ(110)により供給されるものであり、前記変動成分検出部(211)は、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の前記交流電源(100)による脈動成分を検出する電圧脈動検出部(500)を備え、前記電圧脈動検出部(500)により検出された脈動成分を前記変動成分から除去する構成としている。
【0031】
第4の発明は、第1〜第3の発明の何れか1の発明において、前記インバータ(140)に供給される直流電力が、交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ(110)により供給されるものであり、前記LCフィルタは、その共振周波数(f0)が、前記インバータ(140)に供給される直流電力の電圧の前記交流電源(100)による脈動成分の整数倍およびそれらの近傍の周波数以外になるようにリアクトル(120)およびコンデンサ(130)が選定されている構成としている。
【0032】
第5の発明は、第1〜第4の発明の何れか1の発明において、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、前記制限部(212)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記制限範囲を調整する構成としている。
【0033】
第6の発明は、第1〜第4の発明の何れか1の発明において、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、前記リンク共振補償部(213)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記リンク共振補償量を調整する構成としている。
【0034】
第7の発明は、交流電源(100)からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ部(110)と、リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタと、前記コンバータ部(110)からの直流電力が前記LCフィルタを介して供給され、当該直流電力を任意の周波数、任意の電圧値の交流電力に変換して交流電動機(150)に供給するインバータ部(140)と、前記インバータ部(140)を制御するインバータ制御部(200)とを有する電力変換装置である。
【0035】
そして、第7の発明は、前記インバータ制御部(200)が、前記インバータ部(140)に供給される直流電力の電圧を検出する直流電圧検出部(201)と、出力電圧指令を算出する制御演算部(204〜208)とを有し、前記制御演算部(204〜208)は、前記LCフィルタの共振周波数(f0)を制御可能な制御帯域を有して前記交流電動機(150)に供給する電流が指令値に追従するようにフィードバック制御する電流制御器(206)を備え、前記インバータ部(140)をPWM制御するための制御信号を出力電圧補正部(202)からの出力電圧指令に基づいて算出するPWM算出部(203)と、前記直流電圧検出部(201)によって検出された直流電圧の変動成分(当該変動成分は少なくとも直流成分を含まずかつ前記LCフィルタの共振周波数(f0)成分を含む)を検出する変動成分検出部(211)と、前記変動成分検出部(211)により検出された変動成分に基づいて、前記LCフィルタによるリンク共振を抑制するための補償量(リンク共振補償量)を算出するリンク共振補償部(213)と、前記リンク共振補償量を所定範囲に制限する制限部(212)と、前記電流制御器(206)への入力指令を、前記制限部(212)により制限されたリンク共振補償量により補正して、直流電圧の変動の所定周波数帯域(この所定周波数帯域は、少なくとも前記LCフィルタの共振周波数(f0)を含み且つ前記電流制御器(206)のフィードバック制御の周波数帯域以下である周波数帯域)において、直流電圧の増加時に前記インバータ部(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加し、直流電圧の減少時に前記インバータ出力電圧を減少させる補正部(214)とを備え、前記出力電圧補正部(202)は、前記直流電圧検出部(201)によって検出された直流電圧値が直接入力され、当該直流電圧値に基づいて、この直流電圧の変動の前記所定周波数帯域より高く且つ電源電圧急変時の変動の周波数帯域を含んだ周波数帯域と、前記所定周波数帯域より低い周波数帯域とにおいて、前記制御演算部(204〜208)からの出力電圧指令を補正して、直流電圧の変動によるインバータ出力電圧の変動を抑制する構成としている。
【0036】
第8の発明は、第7の発明において、前記制限部(212)の制限値は、前記リンク共振補償量による補正がない場合における前記LCフィルタによる共振成分の振幅に比べて小さい値に設定されている構成としている。
【0037】
第9の発明は、第7または第8の発明の何れか1の発明において、前記変動成分検出部(211)は、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の前記交流電源(100)による脈動成分を検出する電圧脈動検出部(500)を備え、前記電圧脈動検出部(500)により検出された脈動成分を前記変動成分から除去する構成としている。
【0038】
第10の発明は、第7〜第9の発明の何れか1の発明において、前記LCフィルタは、その共振周波数(f0)が、前記インバータ部(140)に供給される直流電力の電圧の前記交流電源(100)による脈動成分の整数倍およびそれらの近傍の周波数以外になるようにリアクトル(120)およびコンデンサ(130)が選定されている構成としている。
【0039】
第11の発明は、第7〜第10の発明の何れか1の発明において、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、前記制限部(212)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記制限範囲を調整する構成としている。
【0040】
第12の発明は、第7〜第10の発明の何れか1の発明において、前記直流電圧検出部(201)により検出される直流電圧の電圧異常を検出する電圧異常検出部(215)をさらに備え、前記リンク共振補償部(213)は、前記電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて前記リンク共振補償量を調整する構成としている。
【0041】
第13の発明は、第7〜第12の発明の何れか1の発明の電力変換装置を備えている空気調和機である。
【発明の効果】
【0042】
第1および第7の発明では、リンク共振抑制制御を行うと同時に、瞬時停電、瞬時電圧低下及び瞬時電圧低下からの復帰時などの電圧急変時においてもこれに応答して高速に補正処理を行うことができる。
【0043】
また、直流電圧検出部(201)からの直流電圧値が電圧補正部(202)に補償器やフィルタを介さずに直接入力される。したがって、瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰時などの電圧急変時においても電圧補正部(202)はこれに応答して高速に補正処理を行うことができる。なお、ノイズなどが問題となる場合には、電圧急変時の波形やLCフィルタの共振周波数成分を通過させ、これらの成分よりも十分に高い周波数のノイズを除去するような低域通過フィルタを設けてもよい。
【0044】
また、制限部(212)によりリンク共振補償量を一定の範囲に制限しているため、電圧急変時にリンク共振補償量が過度に変動してしまうことを防げる。リンク共振補償量が過度に変動するとリンク共振抑制制御によりインバータ出力も大きく変動し過電流等の問題が生じてしまうが、第1および第8の発明によれば、このようなリンク共振抑制制御による過電流等の問題を防止できる。
【0045】
また、制限部(212)により一定の範囲に制限されたリンク共振補償量を、制御演算部(204〜208)内の適切な制御帯域の補償器(206)に入力するため、必要以上に高速に応答させずにすみ、安定に制御できる。
【0046】
リンク共振については急峻に収束させる必要がないため、リンク共振補償量を大きくしなくてもよい。リンク共振補償量が大きいと、特に瞬時停電などの電圧急変時に本来の制御に悪影響を与え、最悪の場合にはインバータ(140)を破壊する。したがって、制限部(212)によりリンク共振補償量を制限する範囲は、リンク共振を抑制するのに必要な変動量が検出できるように設定し、さらに、制限する範囲はできるだけ小さくすることが望ましい。このような事情をふまえて第2および第8の発明では制限部(212)の制限値を小さく設定しているため、リンク共振補償量による悪影響(出力電圧の変動)を防止できる。
【0047】
言い換えれば、前記直流電圧の所定周波数帯域成分の変動量の大きさに応じて、変動量が大きいほど直流電圧の増加量に対する前記インバータ(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加する割合、ならびに、直流電圧の減少量に対する前記インバータ出力電圧を減少させる割合を小さくすることによりリンク共振補償量による悪影響(出力電圧の変動)を防止できる。
【0048】
第3および第9の発明によれば、リンク共振の周波数成分と直流電圧の脈動の周波数成分とが近くてもこれらを分離できる(リンク共振の周波数成分のみを取り出せる)。
【0049】
リンク共振の周波数成分と、交流電源(100)による直流電圧の脈動の周波数成分とが同じだと共振が増大する。また、リンク共振と脈動を分離できず、リンク共振の抑制制御が正常に動作しない。第4および第10の発明によれば、リンク共振と電圧脈動を分離でき、直流電圧の脈動成分によりリンク共振が増大することを防ぐことができる。
【0050】
電圧異常時(たとえば、瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰時などの電圧急変時)、リンク共振抑制制御は、直流電圧増加→出力電圧増加、直流電圧減少→出力電圧減少、という動きをする。この動作(特に直流電圧増加時)は、外乱として作用するため、悪影響(過電流など)を防ぐために制限部(212)を設けている。第5および第11の発明では、電圧異常検出部(215)の検出結果に応じて制限部(212)による制限範囲を調整する。たとえば、電圧異常時には制限範囲を小さくすることで、共振抑制制御による出力電圧の変動を抑制し、定常時には制限範囲を大きくすることで、共振抑制制御が正常に動作するようにする。これにより、電圧異常時に合わせて制限範囲を設定しなくても済むため、制限範囲の設定が容易になる。
【0051】
第6および第12の発明では、電圧異常検出部(215)の検出結果に応じてリンク共振補償量を調整する。たとえば、電圧異常時にはリンク共振補償量を小さくすることで、共振抑制制御による出力電圧の変動を抑制し、定常時にはリンク共振補償量を大きくすることで、共振抑制制御が正常に動作するようにする。これにより、電圧異常時に合わせてリンク共振補正部(213)(の定数)を設定しなくても済むため、リンク共振補正部(213)(の定数)の設定が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、従来のインバータ装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、直流入力電圧VDCとキャリア周期Tとパルス幅τの関係を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態によるインバータ装置の概略構成を示すブロック図である。
図4図4は、図1の変動成分検出部の内部構成例を示すブロック図である。
図5図5は、図1の変動成分検出部の内部構成例を示すブロック図である。
図6図6は、第2の実施形態によるインバータ装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面において実質的に同一の構成要素には同じ参照符号を付けている。また、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0054】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によるインバータ装置の概略構成を図3に示す。このインバータ装置は、図1に示した構成要素に対して、変動成分検出部(211)→リミッタ(212)→リンク共振補償器(213)というループを追加したものである。
【0055】
つまり、前記インバータ制御部(200)は、前記インバータ(140)に供給される直流電圧変動の所定周波数帯域において、直流電圧の増加時に前記インバータ(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加し、直流電圧の減少時に前記インバータ出力電圧を減少させると共に、直流電圧の前記所定周波数帯域以外においては、直流電圧の変動によるインバータ出力電圧の変動を抑制する。
【0056】
前記直流電圧変動の所定周波数帯域は、少なくとも前記LCフィルタの共振周波数を含んでいる。
【0057】
また、前記直流電圧変動の所定周波数帯域は、交流電動機(150)に供給する電流が指令値に追従するように制御するフィードバック制御の周波数帯域以下である。
【0058】
また、所定周波数帯域は、交流電源(100)による電圧脈動の周波数未満に設定されいる。
【0059】
また、前記インバータ制御部(200)は、前記直流電圧の所定周波数帯域成分の変動量の大きさに応じて、変動量が大きいほど直流電圧の増加量に対する前記インバータ(140)からモータに供給されるインバータ出力電圧を増加する割合を小さくすると共に、直流電圧の減少量に対する前記インバータ出力電圧を減少させる割合を小さくする。
【0060】
以下に前記構成要素が満たすべき条件を示す。
【0061】
[変動成分検出部(211)]
変動成分検出部(211)は、直流電圧検出部(201)の検出電圧の直流成分を除去し、共振周波数(f0)Hz[数5]を通過させるものである。前記変動成分検出部(211)は、例えば、遮断周波数を(f0)Hzよりも十分小さく設定した高域通過フィルタにより実現できる。
【0062】
[リミッタ(212)]
リミッタ(212)は、変動成分検出部(211)により検出した変動成分を所定値の範囲に制限するものである。制限する範囲は、リンク共振を抑制するのに必要な変動量が検出できるように設定する。また、制限する範囲はできるだけ小さくすることが望ましい。これにより、特に電圧急増時における制御への影響を減らすことができる。
【0063】
[リンク共振補償器(213)]
補償器(213)は、リンク共振を抑制できるように設計する。補償器(213)は共振周波数(f0)Hzにおいて位相遅れが生じないように選定することが望ましく、例えばP制御(比例制御)により構成する。リンク共振は、1秒以内に収束すれば十分であり、補償器(213)のゲインが大きくなりすぎないように選定する。
【0064】
また、リアクトル(120)とコンデンサ(130)からなるLCフィルタの共振周波数(f0)Hz[数5]は、交流電源(100)による直流電圧の脈動の周波数成分と一致しないように設定する。例えば、周波数(f)の三相交流電源(100)をコンバータ部(110)により全波整流する場合には、交流電源(100)による直流電圧の脈動の周波数成分は6fなので、LCフィルタの共振周波数(f0)を6fn(nは整数)とその近傍(例えば6fn-5〜6fn+5)以外の周波数に設定する。また、周波数(f)の単相交流電源(100)をコンバータ部(110)により全波整流する場合には、交流電源(100)による直流電圧の脈動の周波数成分は2fなので、LCフィルタの共振周波数を2fn(nは整数)とその近傍(例えば2fn-5〜2fn+5)以外の周波数に設定する。
【0065】
なお、変動成分検出部(211)の一例として、遮断周波数を(f0)Hzよりも十分小さく設定した高域通過フィルタを挙げたが、(f0)Hz付近の周波数成分のみを通過させるバンドパスフィルタとしてもよい。バンドパスフィルタを用いると、交流電源(100)を整流して直流電源とする構成において、交流電源(100)の電源周波数に起因する電圧脈動を除去できるというメリットがある。これは、小容量のコンデンサ(130)を用いる場合や、交流電源(100)に単相交流電源を用いる場合に有用である。
【0066】
また、図3ではリミッタ(212)を変動成分検出部(211)の出力側に配置しているが、補償量の調整部(図3では加算器(214))までの間であれば、どこに配置してもよい。例えば、リンク共振補償器(213)の入出力の両方に配置する構成も考えられる。リンク共振補償器(213)に積分項がある場合には、変動成分検出部(211)の出力側にリミッタ(212)を配置することで、瞬時停電などによる電圧急変時に積分項が過大となるのを防ぐことができる。
【0067】
図3のインバータ装置では、前記リミッタ(212)を設置することで、電圧異常時(瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰など)と定常時の切り分けを行っている。
【0068】
前記リンク共振抑制を行う際には、共振成分の変化割合(傾き)が必要となる。変化割合(傾き)さえ分かれば、リミッタ(212)により範囲を制限しても、問題なく制御できる。
【0069】
一方、電圧異常ではリンク共振に比べて電圧の変化量が大きいことが問題となる。電圧の変化量を制限すれば、電圧異常によるリンク共振抑制制御への悪影響(過電流など)を制限することができる。
【0070】
これより、リミッタ(212)により制限する範囲を、リンク共振抑制に必要な共振成分の変化割合(傾き)を検出するのに必要な範囲に設定することで、リンク共振抑制制御には大きな影響を与えず、電圧異常による悪影響を制限できる。
【0071】
リミッタ(212)により制限する範囲は、例えば、リンク共振抑制を行わない場合における共振成分の振幅よりも小さく設定する。
【0072】
リンク共振補償量により入力指令を補正する補償器の選定方法について、具体的な例を挙げて説明する。図3の回路構成における、LCフィルタの定数と、制御器の制御帯域と、キャリア周波数の例を、以下に示す。
・リアクトル(120):L=4.5mH
・コンデンサ(130):C=1000μF
・LCフィルタの共振周波数(f0):75Hz
・速度制御器(204)の制御帯域:10Hz
・電流制御器(206)の制御帯域:200Hz
・PWMキャリア周波数:5kHz
この構成で共振周波数(f0)=75Hzの成分を制御するためには、電流制御器(206)やPWM算出部(203)などの、制御帯域が75Hzよりも大きな演算部に対し、リンク共振補償量を入力すればよい。しかしながらPWM算出部(203)では制御帯域が広く、瞬時停電などの電圧異常時の高周波成分に対しても補償してしまうため、不安定となる可能性がある。ここでは、電流制御系が必要十分な制御帯域を有しているので、入力指令を補正する補償器として電流制御器(206)の補償器を選定し、電流指令値に対してリンク共振補償量を加算することで補正を行う。
【0073】
このように構成することで、電流制御系の制御帯域以上の成分が、制御に影響を与えないようにできる。
【0074】
また、電圧補正部(202)には、直流電圧検出部(201)から直流電圧値を直接入力する。電圧異常時(瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰など)には、急激に電圧が変化するため、電圧補正の応答を高速にする必要がある。例えば、直流電圧の急増時に出力電圧の検出が遅れると、電圧補正が正常に動作せず、出力電圧が急増し、過電流となり、インバータの停止・破壊に繋がる。直流電圧値を直接入力することで、電圧補正を高速に行うことができ、出力電圧の変動、特に直流電圧増加時の出力電圧急増による過電流を防止できる。
【0075】
以上のように、第1の実施形態では、次の3つの要素を持つことで、リンク共振の抑制制御と電圧補正(出力電圧一定制御)とを電圧急変時においても両立させている。
【0076】
(1)…電圧補正部(202)に対し、直接、直流電圧値を入力する。
【0077】
瞬時停電、瞬時電圧低下、瞬時電圧低下からの復帰などの電圧異常が起こると、直流電圧が短時間で変化する。この急変に対して電圧補正部(202)で電圧補正を適切に行うためには高速な処理が必要となる。本実施形態では、直流電圧検出部(201)からの直流電圧値が電圧補正部(202)に補償器やフィルタを介さずに直接入力されるため、電圧異常時においても電圧補正部(202)はこれに応答して高速に補正処理を行うことができ、電圧異常時にも適切な電圧補正ができる。
【0078】
(2)…電流制御系にリンク共振補償量を入力する(適切な制御帯域の補償器を使用)。
【0079】
リンク共振の補償が可能な制御帯域の補償器(206)によりリンク共振を補償している。このようにすれば、制御帯域の違いにより電圧補正と切り分けができるので、リンク共振抑制制御と出力電圧一定制御とが互いに干渉しない。
【0080】
(3)…リミッタ(212)を設置して電圧異常とリンク共振を切り分ける。
【0081】
リンク共振抑制制御は、インバータの抵抗特性を調整する制御であり、抵抗特性を正に近づける・正の方向に動かす制御である。リンク共振抑制制御において必要となるのは電圧の変化(割合)であり、リミッタ(212)により制限しても問題なく動作する。一方、電圧異常は、直流電圧が急変する現象であり、リミッタ(212)によりリンク共振補償量を一定の範囲に制限することで、電圧急変時にリンク共振補償量が過度に変動してしまうことを防げる。リンク共振補償量が過度に変動するとリンク共振抑制制御によりインバータ出力も大きく変動し過電流等の問題が生じてしまうが、本実施形態によれば、このようなリンク共振抑制制御による過電流等の問題を防止できる。
【0082】
次に、図3に示した変動成分検出部(211)の構成例を示す。
【0083】
図4は、三相交流電源(100)をコンバータ部(110)により全波整流する場合や、コンデンサ(130)容量が大きい場合など、交流電源(100)による直流電圧の脈動が少ない回路での、変動成分検出部(211)の構成例である。この構成においては、LPF(低域通過フィルタ)の遮断周波数は、リンク共振の共振周波数よりも小さく設定する。この構成においては、LPFにより低周波成分を求め、低周波成分を直流電圧検出値から減算することで、リンク共振成分を含む高周波成分を抽出する。
【0084】
図5は、交流電源(100)が単相交流電源である場合や、コンデンサ(130)容量が小さい場合など、交流電源(100)による直流電圧の脈動が大きい回路での、変動成分検出部(211)の構成例である。この構成においては、LPF(低域通過フィルタ)の遮断周波数をリンク共振の共振周波数よりも小さく設定する。また、脈動成分抽出部(500)のPLLを交流電源(100)による脈動成分の位相を検出するように設定する。例えば、周波数f[Hz]の単相交流を全波整流する構成では、2f[Hz]成分に同期させ、三相交流を全波整流する構成では、6f[Hz]成分に同期させる。脈動成分抽出部(500)の振幅検出部では、交流電源(100)による脈動成分の振幅を検出する。
【0085】
図5の構成では、LPFにより低周波成分を求め、脈動抽出部(500)のPLLと振幅検出部により交流電源(100)による脈動成分を求め、これらの成分を直流電圧検出値から減算して、リンク共振成分を抽出する。
【0086】
図5の構成は、例えば、リンク共振の共振成分の周波数と交流電源(100)による脈動成分の周波数とが近く、フィルタによる分離が困難(位相遅れなど)な場合などに有用である。なお、交流電源(100)による脈動成分を抽出できれば、他の構成でもよく、例えばフーリエ変換を用いて脈動成分の位相と振幅を抽出する構成でもよい。
【0087】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によるインバータ装置の概略構成を図6に示す。このインバータ装置では、図3のインバータ装置に対して、電圧異常検出部(215)と、電圧異常検出部(215)の検出結果に応じてリミッタ(212)の制限値を変更する処理を追加している。
【0088】
このインバータ装置では、電圧異常検出部(215)の検出結果に応じてリミッタ(212)による制限範囲を調整する。たとえば、電圧異常時には制限範囲を小さくすることで、共振抑制制御による出力電圧の変動を抑制し、定常時には制限範囲を大きくすることで、共振抑制制御が正常に動作するようにする。これにより、電圧異常時に合わせて制限範囲を設定しなくても済むため、制限範囲の設定が容易になる。
【0089】
また、電圧異常検出部(215)の検出結果に応じてリンク共振補償器(213)によるリンク共振補償量を調整するようにしてもよい。たとえば、電圧異常時にはリンク共振補償量を小さくすることで、共振抑制制御による出力電圧の変動を抑制し、定常時にはリンク共振補償量を大きくすることで、共振抑制制御が正常に動作するようにする。これにより、電圧異常時に合わせてリンク共振補償器(213)(の定数)を設定しなくても済むため、リンク共振補償器(213)(の定数)の設定が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によるインバータ制御装置およびこれを備えた電力変換装置は、例えば空気調和機に適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
100…交流電源
110…コンバータ部
120…リアクトル
130…コンデンサ
140…インバータ部
150…モータ
160…出力電流検出部
200…ベクトル制御部
201…直流電圧検出部
202…電圧補正部
203…PWM算出部
204…速度制御器
205…電流ベクトル制御器
206…電流制御器
207…座標変換器
208…座標変換器
215…電圧異常検出部
500…脈動成分抽出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6