【文献】
D.K.Ghosh,"Characterization of some quaternary defect chalcopyrites as useful nonlinear optical and solar-cell materials",PHYSICAL REVIEW B,Vol.41, No.8 (1990),p.5126-5130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光電変換素子とは、光量子のエネルギーを何らかの物理現象を介して電気エネルギーに変換(光電変換)することが可能な素子をいう。太陽電池は、光電変換素子の一種であり、太陽光線の光エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができる。
【0003】
太陽電池に用いられる半導体としては、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi、GaAs、InP、CdTe、CuIn
1-xGa
xSe
2(CIGS)、Cu
2ZnSnS
4(CZTS)などが知られている。
これらの中でも、CIGSやCZTSに代表されるカルコゲナイト系の化合物は、光吸収係数が大きいので、低コスト化に有利な薄膜化が可能である。特に、CIGSを光吸収層に用いた太陽電池は、薄膜太陽電池中では変換効率が高く、多結晶Siを用いた太陽電池を超える変換効率も得られている(非特許文献1参照)。
【0004】
太陽光のスペクトルは、紫外線から赤外線まで幅広く分布する。一方、光吸収層が吸収できる光子は、光吸収層を構成する材料のバンドギャップより大きなエネルギーを持つ光子だけである。また、バンドギャップより大きなエネルギーを持つ光子が吸収されても、バンドギャップを超えるエネルギーは熱となって放散されるだけであるので、出力電圧はバンドギャップの大きさに対応する値となる。そのため、光吸収層のバンドギャップが大きくなるほど、太陽電池の出力電圧は高くなるが、吸収される光子の数が減るために電流は少くなる。一方、光吸収層のバンドギャップが小さくなるほど、吸収される光子の数が増えるために電流は増大するが、出力電圧は低くなる。
【0005】
すなわち、光吸収層が1種類の材料で構成されている太陽電池(単接合型太陽電池)は、電流と電圧がトレードオフの関係にある。そのため、例えば、ナノ結晶シリコン単接合型太陽電池やアモルファスシリコン単接合型太陽電池の変換効率は、共に10年以上、大きな進歩がない(非特許文献2参照)。
さらに、CIGS単接合型太陽電池については、希少金属であるInを用いているので高コストである。また、CIGSではInとGaの組成比によりバンドギャップを調節することができる。但し、Inリッチでバンドギャップが小さい場合には、高い変換効率が得られるものの、Gaリッチでバンドギャップが大きくなると、変換効率が低くなるという問題がある。
【0006】
この問題を解決するために、バンドギャップの異なる複数の光吸収層を積層した多接合型太陽電池が提案されている。
多接合型太陽電池としては、例えば、、
(a)ナノ結晶シリコン/アモルファスシリコン2接合型太陽電池、
(b)アモルファスシリコンゲルマニウム/アモルファスシリコン2接合型太陽電池
などが既に市販されている。
【0007】
多接合型太陽電池において高い変換効率を得るためには、光吸収層のバンドギャップを調整する必要がある。多接合型太陽電池を作製する場合において、バンドギャップの異なる材料を、組成や製造方法が全く異なる材料で構成するのは、製造コストの増大を招く。従って、多接合型太陽電池の光吸収層を構成する材料は、大電流低電圧の材料から低電流高電圧の材料まで任意に制御可能な材料が好ましい。
さらに、光吸収層内にピンホールが発生すると、光電素子の変換効率が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 光電変換素子]
本発明に係る光電変換素子は、光吸収層の全部又は一部がCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物(0<x<1)からなることを特徴とする。
【0015】
[1.1. 光吸収層]
[1.1.1. Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物]
光吸収層には、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物(0<x<1)が用いられる。
「Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物」とは、Cu、Ge、Sn及びSを必須の成分として含む硫化物系化合物半導体をいう。Cu
2Ge
1-xSn
xS
3の元素比は、形式的には、Cu:(Ge+Sn):S=2:1:3である。しかしながら、本発明において、「Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物」というときは、化学量論組成の化合物だけでなく、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3と同視できる限りにおいて、若干の組成比のずれを伴う化合物も含まれる。「同視できる」とは、Cu/(Sn+Ge)比のずれが化学量論組成の±20%以内であることをいう。化学量論組成からのずれは、好ましくは、±10%以内である。
【0016】
[1.1.2. x]
「x」は、Sn/(Ge+Sn)比を表す。Cu
2GeS
3のバンドギャップは約1.55eVであり、Cu
2SnS
3のバンドギャップは約0.90eVである。そのため、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物において、xが大きくなるほど、バンドギャップは小さくなる。すなわち、xを制御することによって、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物のバンドギャップを約0.90eVから約1.55eVまで任意に制御することができる。xは、さらに好ましくは、0.7<x<1である。
Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物は、格子欠陥の抑制、バンドギャップの調整、キャリア濃度などの調整のために、Li、Na、K、Mg、Ca、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Pb、Sb、Bi、Se、Teなどを含んでいても良い。
【0017】
[1.1.3. 光吸収層の構造]
Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物は、光吸収層の全部を構成するものでも良く、あるいは、一部を構成するものでも良い。
すなわち、光吸収層は、
(1)単一の組成を有するCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物のみからなるもの(単接合型の光電変換素子)、
(2)2種以上の組成を有するCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物層の積層体(多接合型の光電変換素子)、あるいは、
(3)1種以上の組成を有するCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物層と、他の化合物層との積層体(多接合型の光電変換素子)
のいずれであっても良い。
【0018】
例えば、2接合型太陽電池において、太陽光の入射側から数えて1層目及び2層目の材料として、それぞれ、バンドギャップが約1.8eV及び1.1eVである材料を用いると、最大の変換効率が得られることが知られている。この場合、本発明に係るCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物は、2層目の材料として好適である。
また、例えば、3接合型太陽電池において、太陽光の入射側から数えて1層目、2層目及び3層目の材料として、それぞれ、バンドギャップが約2.2eV、1.4eV及び0.9eVである材料を用いると、最大の変換効率が得られることが知られている。この場合、本発明に係るCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物は、2層目及び3層目の材料として好適である。
【0019】
[1.1.4. ピンホール、耐剥離性]
本発明に係る光電変換素子を構成する光吸収層を、後述する方法を用いて合成すると、他の方法を用いた場合に比べて、ピンホールが少なくなり、耐剥離性も高くなる。
【0020】
[1.2. 他の層]
光電変換素子は、通常、光吸収層以外の層を備えている。素子の積層構造や各層の構成材料は、特に限定されるものではなく、光電変換素子の種類に応じて最適なものを選択することができる。
例えば、太陽電池は、一般に、基板上に、下部電極/光吸収層/バッファ層/窓層/グリッド電極がこの順で形成された構造を備えている。
【0021】
光電変換素子が太陽電池である場合において、光吸収層以外の各層の材料としては、具体的には、以下のようなものがある。
基板の材料としては、例えば、ガラス(例えば、SLG、低アルカリガラス、非アルカリガラス、石英ガラス、Naイオンを注入した石英ガラス、サファイアガラスなど)、セラミックス(例えば、シリカ、アルミナ、イットリア、ジルコニアなどの酸化物、Naを含む各種セラミックスなど)、金属(例えば、ステンレス、Naを含むステンレス、Au、Mo、Tiなど)などがある。
【0022】
下部電極の材料としては、例えば、Mo、MoSi
2、ステンレス、In−Sn−O、In−Zn−O、ZnO:Al、ZnO:B、SnO
2:F、SnO
2:Sb、ZnO:Ga、TiO
2:Nbなどがある。
バッファ層の材料としては、例えば、CdS、Zn(O、S)、(Zn、Mg)Oなどがある。
窓層の材料としては、例えば、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B、In−Sn−O、In−Zn−O、SnO
2:Sb、TiO
2:Nbなどがある。
グリッド電極の材料としては、例えば、Al、Cu、Ag、Au、又は、これらのいずれか1以上を含む合金などがある。また、このような合金としては、具体的には、Al−Ti合金、Al−Mg合金、Al−Ni合金、Cu−Ti合金、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金、Cu−Au合金、Ag−Ti合金、Ag−Sn合金、Ag−Zn合金、Ag−Au合金などがある。
【0023】
図1に、光電変換素子の一種である太陽電池の断面模式図を示す。
図1において、太陽電池は、ガラス/Mo/光吸収層/CdS/ZnO:Ga/Alグリッド電極からなる。光吸収層は、その全部又は一部がCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物からなる。
さらに、各層の間に、付加的な層(例えば、基板と下部電極の密着性を高めるための接着層、光散乱層、反射防止層など)が設けられていても良い。
【0024】
[2. 光電変換材料の製造方法]
本発明に係る光電変換材料の製造方法は、プリカーサ作製工程と、蒸気発生工程と、反応工程とを備えている。
[2.1. プリカーサ作製工程]
プリカーサ作製工程は、Cu系プリカーサを作製する工程である。
本発明において、Cu−Ge−S系化合物を得るためのプリカーサとして、Cu系プリカーサを用いる。
「Cu−Ge−S系化合物」とは、少なくともCu、Ge及びSを含む化合物をいう。Cu−Ge−S系化合物は、さらにSnを含んでいても良い。Cu−Ge−S系化合物としては、例えば、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物(0≦x<1)などがある。
「Cu系プリカーサ」とは、少なくともCuを含むプリカーサをいう。2種以上の元素を含むCu系プリカーサは、単一の組成を有する合金であっても良く、あるいは、2種以上の元素又は合金の混合物であっても良い。
Cu系プリカーサとしては、
(a)Cu、
(b)少なくともCu及びGeを含むCu−Ge系プリカーサ(例えば、Cu
3GeなどのCu−Ge化合物、あるいは、CuとGeの合金)、
(c)少なくともCu及びSnを含むCu−Sn系プリカーサ(例えば、Cu
6Sn
5、Cu
3Sn、Cu
10Sn
3などのCu−Sn化合物、あるいは、CuとSnの合金)、
(d)少なくともCu、Ge及びSnを含むCu−Ge−Sn系プリカーサ(例えば、Cu
3GeなどのCu−Ge化合物と、Cu
6Sn
5、Cu
3Sn、Cu
10Sn
3などのCu−Sn化合物との混合物、あるいはCu−Ge化合物とCu−Sn合金の混合物、あるいはCu−Ge合金とCu−Sn化合物の混合物、あるいはCuとGeとSnの合金)、
(e)上記(a)〜(d)のいずれか2以上の混合物、
などがある。
また、Cu系プリカーサは、後述する反応工程にて供給されるSの一部が更に含まれていても良い。
【0025】
Cu
2Sn組成を有するプリカーサをS雰囲気下で加熱すると、比較的容易にCu
2SnS
3を合成することができる。一方、Cu
2Ge組成を有するプリカーサをS雰囲気下で加熱しても、ピンホールの少ないCu
2GeS
3は得られない。これは、Cu−Ge二元系において、Cu
2Ge相は存在せず、加熱中にCu
3Ge相とGe相に分離し、Ge相が揮発するためであると考えられる。
そこで、本発明においては、プリカーサとして、Cu系プリカーサを用い、Cu系プリカーサにGeが含まれている場合にはその揮発を抑え、かつ合成されるCu−Ge−S系化合物中の所望のGe組成に対しての不足分を補うため、Geを外部から補いながら、硫化反応を起こさせる。この点が、従来の方法とは異なる。
Snを任意の比率(x)で含むCu−Ge−S系化合物(すなわち、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物(0≦x<1))を合成するためには、Cu系プリカーサ内のCu、Ge及びSnの元素比は、概略
Cu/(Ge+Sn)>2、かつ、
Sn/(Ge+Sn)>x
である必要がある。
【0026】
上述したように、合成されるCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物には、化学量論組成の化合物だけでなく、若干の組成比のずれを伴う化合物も含まれる。具体的には、Cu/(Sn+Ge)比のずれが化学量論組成の±20%以内、すなわち、1.6<Cu/(Sn+Ge)<2.4である化合物も含まれる。
従って、この化合物の合成に用いられるCu系プリカーサは、この化合物と同様の組成のずれを伴っていても良い。すなわち、この化合物の合成に用いられるCu系プリカーサは、1.6<Cu/(Ge+Sn)の組成を持つものも含まれる。
プリカーサの形状は、特に限定されるものではなく、塊、粉末又は薄膜の何れであっても良い。
Cu系プリカーサは、Cu−Sn系プリカーサであり、かつ、1.6<Cu/Snであることが好ましい。これと、S及びGeを含む蒸気と反応させることにより、Cu
2Ge
1-xSnS
3系化合物(0.7<x<1)を作製することができる。
また、Cu系プリカーサは、Cu−Ge−Sn系プリカーサであり、かつ、1.6<Cu/(Ge+Sn)であり、かつ0.7<Sn/(Ge+Sn)であることが好ましい。これと、S及びGeを含む蒸気と反応させることにより、Cu
2Ge
1-xSnS
3系化合物(0.7<x<1)を作製することができる。
Cu系プリカーサは、格子欠陥の抑制、バンドギャップの調整、キャリア濃度などの調整のために、Li、Na、K、Mg、Ca、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Pb、Sb、Bi、Se、Teなどを含んでいても良い。
【0027】
Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物を合成するためのCu系プリカーサは、全体の組成がCu/(Ge+Sn)>2、かつSn/(Ge+Sn)>x、又はこれと同等になっていれば良く、プリカーサ内部の構造は特に限定されない。
例えば、Cu系プリカーサは、同時スパッタ法により成膜されたCu−Ge−Sn薄膜であっても良く、あるいは、複数のターゲットを用いて複数回に分けてスパッタ成膜された積層膜であっても良い。
但し、Cu系プリカーサ中にフリーのGeが存在する場合において、直接、硫化温度まで加熱すると、フリーのGeが揮発するおそれがある。このような場合には、硫化させる前にCu系プリカーサを予備加熱し、フリーのGeからCu
3Geを生成させるのが好ましい。
【0028】
[2.2. 蒸気発生工程]
蒸気発生工程は、S源及びGe源から、S及びGeを含む蒸気を発生させる工程である。
[2.2.1. S源及びGe源]
蒸気を発生させるためのS源及びGe源は、欠陥の少ないCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物を合成可能な量のS及びGeを含む蒸気を発生可能なものであればよい。
S源としては、例えば、S粉末、GeS、GeS
2などがある。これらの中でも、S粉末は、低温加熱で多量のS蒸気を発生させることができるので、S源として好適である。
また、Ge源としては、例えば、Ge、GeS、GeS
2などがある。
【0029】
これらのS源及びGe源は、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
S源及びGe源の形状は、特に限定されるものではなく、塊、粉末又は薄膜の何れであっても良い。特に、S粉末は、気化が容易であるので、S源として好適である。同様の理由から、Ge、GeS及びGeS
2の粉末及び薄膜は、Ge源として好適である。
【0030】
[2.2.2. 蒸気の発生]
蒸気発生方法は、特に限定されるものではなく、所定量のS及びGeを含む蒸気を発生可能な方法であればよい。
例えば、S源及びGe源を同一温度に加熱することによって、所定量のS及びGeを含む蒸気を発生可能である場合には、S源及びGe源を同一の温度に加熱すればよい。この場合、S源及びGe源は、距離を離して配置されていても良く、あるいは、近接して配置されていても良い。
【0031】
一方、S源及びGe源の気化温度が著しく異なっている場合、これらを同一温度に加熱すると、蒸気中に含まれるS量及びGe量を制御するのが難しい。このような場合には、S源とGe源とを離して配置し、それぞれ、最適な温度で加熱するのが好ましい。
例えば、S源としてS粉末を用い、Ge源として、GeS
2を用いる場合、S粉末の気化温度は、GeS
2に比べて低い。このような場合には、S粉末及びGeS
2を、それぞれ、別個の温度で加熱するのが好ましい。
【0032】
蒸気中のS濃度及びGe濃度は、プリカーサをCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物に変換可能な濃度以上の濃度であれば良い。
Cu−Ge−S系に存在する硫化物であって、Ge含有量が最大であるものは、Cu
2GeS
3である。そのため、プリカーサと過剰のS及びGeを含む蒸気とを反応させても、異相が生成することはない。
【0033】
[2.3. 反応工程]
反応工程は、蒸気発生工程で得られた前記蒸気と前記Cu系プリカーサとを反応させ、Cu−Ge−S系化合物からなる光電変換材料を得る工程である。すなわち、本発明に係る方法は、0<x<1であるCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物の製造だけでなく、x=0であるCu
2GeS
3系化合物の製造にも適用することができる。
【0034】
[2.3.1. 反応方法]
S源やGe源の気化温度と、プリカーサ/蒸気間の反応温度とが同程度である場合、S源、Ge源及びプリカーサを同一温度に加熱すればよい。この場合、S源、Ge源及びプリカーサは、互いに距離を離して配置しても良く、あるいは、近接して配置されていても良い。
一方、これらのいずれか1以上の温度が著しく異なる場合には、S源等のいずれか1以上を他から距離を離して配置し、それぞれ、別個の温度で加熱するのが好ましい。
【0035】
[2.3.2. 反応装置]
図2に、本発明に係る光電変換材料を製造するための反応装置の一例を示す。
図2において、反応装置(3ゾーン炉)は、石英管と、3つの電気炉とを備えている。石英管は、S源、Ge源及びプリカーサを保持すると同時に、S源及びGe源から発生させた蒸気をプリカーサに供給するためのものである。石英管は、一端から他端に向かってキャリアガス(N
2)を流せるようになっている。
【0036】
石英管の上流側から下流側に向かって、S源(硫黄)を入れた角灰皿、Ge源(GeS
2)を入れた角灰皿、及び、プリカーサを入れた角灰皿が置かれている。なお、GeS
2及びプリカーサを同じ角灰皿に入れても良い。すなわち、2つの電気炉を備えた反応装置(2ゾーン炉)用いて原料の加熱を行っても良い。これは、GeS
2の気化温度とプリカーサ/蒸気間の反応温度がほぼ同等であるためである。一方、硫黄は、他から距離を離して配置するのが好ましい。これは、硫黄の気化温度がGeS
2の気化温度や反応温度に比べて低いためである。各角灰皿の周囲には、それぞれ、電気炉が配置され、各角灰皿の温度を別個に制御できるようになっている。
【0037】
石英管内にキャリアガスを流しながら、電気炉を加熱すると、まず、上流側の電気炉内において、硫黄からS蒸気が発生し、下流側に運ばれる。次いで、中間地点においてGeS
2が気化し、S及びGeを含む蒸気となる。この蒸気が下流側においてプリカーサと反応し、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物が生成する。
【0038】
[3. 作用]
Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物は、xが大きくなるほど、バンドギャップが小さくなる。そのため、Sn含有量(x)を制御することによって、大電流低電圧の材料から低電流高電圧の材料に至るまで、任意に作り分けることができる。
【0039】
また、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物(0≦x<1)からなる薄膜を合成する場合において、Ge蒸気を含まない雰囲気中にてS蒸気とCu系プリカーサとを反応させると、薄膜中にピンホールが生成したり、あるいは、薄膜が基板から剥離する。
これに対し、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物を形成する場合において、S及びGeを含む蒸気とCu系プリカーサとを反応させると、ピンホールの少ないCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物を形成することができる。これは、Cu系プリカーサとGeとが充分に反応するため、あるいは、Cu系プリカーサにGeが含まれる場合には、Cu系プリカーサからのGeの揮発が抑制されるためと考えられる。
【実施例】
【0040】
(試料No.1〜5)
[1. 光電変換素子の作製]
ガラス/Mo/光吸収層/CdS/ZnO:Ga/Alグリッド電極からなる単接合型の光電変換素子を作製した。
光吸収層(Cu
2Ge
1-xSn
xS
3)は、
図2に示す反応装置(3ゾーン炉)を用いて作製した。Cu系プリカーサには、Cu
2Ge
0.667(試料No.1)、Cu
2Ge
0.632Sn
0.059(試料No.2)、Cu
2Ge
0.518Sn
0.214(試料No.3)、Cu
2Sn
0.847(試料No.4)、又は、Cu
2Sn(試料No.5)の5種類を用いた。また、試料No.1〜4については、S及びGeを含む蒸気とプリカーサとを反応させた。一方、試料No.5については、S蒸気とプリカーサとを反応させた。この場合、中間の角灰皿には、何も入れなかった。その結果、合成されたCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物からなる薄膜の組成xの値は、それぞれ、0.000(試料No.1)、0.059(試料No.2)、0.214(試料No.3)、0.832(試料No.4)、又は、1.000(試料No.5)であった。
【0041】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. 外部量子効率]
光電変換素子の外部量子効率を測定した。
図3に、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3(x=0.059、0.214、又は、0.832)を光吸収層に用いた光電変換素子の外部量子効率を示す。なお、
図3には、x=0、0.059、0.214、0.832、又は、1.000の時の吸収端の立ち上がり位置も併せて示した。
吸収端の立ち上がりの位置から、バンドギャップが調節できていることが分かる。すなわち、
図3より、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3のxを調整することで、バンドギャップが1.55〜0.90eVの範囲で調節することができることが分かる。Cu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物を光吸収層に用いると、2端子型多接合太陽電池の高効率化に必須である電流整合を容易に実現することができる。
【0042】
[2.2. 電流−電圧特性]
光電変換素子の電流−電圧特性を測定した。
図4に、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3(x=0.832)の電流−電圧特性を示す。なお、
図4には、x=1.000の結果も併せて示した。また、図中の数値は、変換効率(%)を表す。
図4より、Cu
2SnS
3(x=1.0)にGeを添加し、Cu
2Ge
1-xSn
xS
3とすることにより、変換効率が向上することがわかる。また、CdSをバッファ層として用いた場合において、xが特定の範囲にあるときには、x=1.000に比べて、電圧に加えて電流密度も高くなることがわかる。
なお、Cu
2GeS
3(x=0)は、条件によっては変換効率を測定できるが、基板からの剥離が懸念されたため、測定しなかった。
【0043】
(試料No.6〜10)
[1. 試料の作製]
[1.1. 試料No.6〜8]
ガラス基板上にCu−Ge−Sn系プリカーサからなる薄膜を形成した。Cu−Ge−Sn系プリカーサの組成は、Cu
2Ge
0.814Sn
0.219(試料No.6)、Cu
2Ge
0.602Sn
0.430(試料No.7)、又は、Cu
2Ge
0.061Sn
0.953(試料No.8)とした。
図2に示す反応装置(3ゾーン炉)を用いて、Sのみを含む蒸気と、このプリカーサとを反応させて、厚さ約1μmのCu
2Ge
1-xSn
xS
3膜を成膜した。この場合、中間に位置する各灰皿には、何も入れなかった。
その結果、合成されたCu
2Ge
1-xSn
xS
3系化合物からなる薄膜の組成xの値は、それぞれ、0.219(試料No.6)、0.430(試料No.7)、又は、0.953(試料No.8)であった。
【0044】
[1.2. 試料No.9〜10]
ガラス基板上にCu−Ge系プリカーサ(Cu/Ge=3)からなる薄膜を形成した。S及びGeを含む蒸気と、このプリカーサとを反応させて、厚さ約1μmのCu
2GeS
3薄膜を作製した(試料No.9)。
同様に、ガラス基板上にCu−Ge系プリカーサ(Cu/Ge=2)からなる薄膜を形成した。Sを含む蒸気と、このプリカーサとを反応させて、厚さ約1μmのCu
2GeS
3薄膜を作製した(試料No.10)。
なお、試料No.9及び試料No.10は、いずれも、2つの電気炉を備えた反応装置(2ゾーン炉)を用いて作製した。また、石英管の上流側には、S源(硫黄)を入れた角灰皿を配置し、下流側には、Ge源(GeS
2)及びプリカーサを入れた角灰皿を配置した。
【0045】
[2. 試験方法]
ガラス基板の裏面から光を照射し、漏れてくる光をカメラで撮影し、256階調の白黒画像を得た。256階調の内、真黒から16階調目よりも白いピクセルの数を数えた。ピンホール量は、次の(1)式から求めた。
ピンホール量=P/P
0 ・・・(1)
但し、Pは、各試料の白ピクセル数/全ピクセル数、
P
0は、x=0.059の試料の白ピクセル数/全ピクセル数。
【0046】
[3. 結果]
図5に、S+Ge蒸気法による光吸収層(試料No.2〜4)と、S蒸気法による光吸収層(試料No.6〜8)とを比較したピンホール試験の結果を示す。
また、図示はしないが、試料No.9の薄膜のピンホール数は、5個/cm
2以下であった。一方、試料No.10の薄膜のピンホール数は、6〜9個/cm
2であった。
図5及び試料No.9、10の結果より、硫黄蒸気だけで硫化させると、ピンホール量が著しく増大することがわかる。これは、硫化時にGeが昇華し、ピンホール形成の原因となっているためである。一方、硫黄+Geを含む蒸気で硫化させると、Geの昇華が抑えられ、ピンホールの少ない良質な膜を得ることができた。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。