特許第5751379号(P5751379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5751379
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20150702BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20150702BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   B32B27/20 A
   B32B17/10
   C01B31/02 101F
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-235234(P2014-235234)
(22)【出願日】2014年11月20日
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-121732(P2014-121732)
(32)【優先日】2014年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 克己
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
(72)【発明者】
【氏名】増田 幹
(72)【発明者】
【氏名】平山 俊昭
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−015223(JP,A)
【文献】 特開平08−071501(JP,A)
【文献】 特開2010−279899(JP,A)
【文献】 特開2011−201961(JP,A)
【文献】 特開2013−209494(JP,A)
【文献】 特開2012−112088(JP,A)
【文献】 特開2011−252052(JP,A)
【文献】 特開2006−239519(JP,A)
【文献】 特開2008−302286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B05D 1/00− 7/26
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C09D 1/00− 10/00
C09D101/00−201/10
C01B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくともカーボンナノチューブと樹脂とを含んでなるカーボンナノチューブ含有層が積層された積層体であって、カーボンナノチューブ含有層の積層面に、さらにクリア層が積層された積層体であって、積層された面方向から測定した積層体のL*が2.5以下、a*が−2以上2以下かつb*が−2以上0.3以下であり、基材上のカーボンナノチューブ含有層が塗布して形成されてなり、クリア層が透明樹脂またはガラスであることを特徴とする積層体。(ただし、L*、a*およびb*は、JIS Z8729で規定されるL***表色系における値を表わす。)
【請求項2】
カーボンナノチューブの繊維径が8〜25nmであることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
カーボンナノチューブ含有層中のカーボンナノチューブの量が3〜30質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
カーボンナノチューブ含有層の膜厚が10〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の積層体。
【請求項5】
クリア層の膜厚が5〜40μmであることを特徴とする1〜4いずれか記載の積層体。
【請求項6】
積層された面方向から測定した積層体の波長380〜780nmにおける平均反射率が5%以下である請求項1〜5いずれか記載の積層体。
【請求項7】
基材の波長380〜780nmにおける平均透過率が5%以下である請求項1〜6いずれか記載の積層体。
【請求項8】
基材上に、少なくともカーボンナノチューブと樹脂とを含んでなるカーボンナノチューブ含有層が積層され、カーボンナノチューブ含有層の積層面に、さらにクリア層が積層された積層体の製造方法であって、積層された面方向から測定した積層体のL*が2.5以下、a*が−2以上2以下かつb*が−2以上0.3以下であり、基材上のカーボンナノチューブ含有層が塗布して形成され、クリア層が透明樹脂またはガラスであることを特徴とする積層体の製造方法。(ただし、L*、a*およびb*は、JIS Z8729で規定されるL***表色系における値を表わす。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物および積層体に関する。更に詳しくは、カーボンナノチューブと樹脂とを含んでなる樹脂組成物と、該組成物を含むカーボンナノチューブ含有層が積層された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
直径が数ナノメートルから数十ナノメートルの筒状炭素材料であるカーボンナノチューブは、高い導電性、機械的強度を有することから、燃料電池、電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレー(FED)用部材、水素を始めとする各種ガスの吸蔵材料などの機能性材料として、エレクトロニクス、エネルギー分野等の幅広い分野への利用が期待されている。
【0003】
その中でも、カーボンナノチューブを用いた導電性透明フィルムの検討が多く行われている。例えば、透明基材の片面上にカーボンナノチューブ導電膜と透明保護膜を積層させたものが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
また、カーボンナノチューブ分散体を基材表面に塗工し、乾燥させた後、樹脂溶液を塗工する導電性透明フィルムの製造方法も提案されている。(特許文献2参照)
【0005】
一方、カーボンナノチューブを色材として使用した例は少なく、漆黒性の樹脂塗工物、フィルム、成形物を得るためにはカーボンブラックを樹脂溶液や固形樹脂に均一に分散させたものを使用してきた。(特許文献3、4参照)しかし、当該手段においては、明度(L*)が高い(灰色・白)方向にあり、色度(a*、b*)がプラス方向(+a*:赤、+b*:黄)となり、いわゆる「ピアノブラック」や「カラスの濡れ羽色」といった漆黒性を表現することが困難であった。
【0006】
また、カーボンブラックを使用した成形物の色調はカーボンブラックの一次粒子径により異なる傾向にある。具体的には、一次粒子径が小さなカーボンブラックを使用すると、青味はあるが黒度が低下する。このように、黒色の着色は黒度と青味はトレードオフの関係にあるため、青味があって、かつ黒度が高い漆黒の色調を再現することは困難であった。
【0007】
そこで、カーボンブラックの粒径や凝集粒サイズなどのコロイダル特性を変えたり、オゾン酸化、硝酸酸化といった表面処理をカーボンブラックに施し、分散体中での分散状態を変えるなどして、黒度の調製を行ってきた。(特許文献5、6、7参照)また、黒色に加えて青味をだすために、さらにフタロシアニンブルーなどの有機顔料を添加する方法もある。しかし、有機顔料の添加に伴い黒度が低下し、成形体を直射日光下で観察すると赤味が浮いて観察される、いわゆるブロンズ現象が発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−192186号公報
【特許文献2】特表2004−526838号公報
【特許文献3】特開2001−179176号公報
【特許文献4】特開2004−098033号公報
【特許文献5】特開平6−122834号公報
【特許文献6】特開平6−136287号公報
【特許文献7】特開2008−285632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、青味があり、かつ黒度の高い漆黒性に優れた樹脂組成物を提供することにある。また、その積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カーボンナノチューブと樹脂を含む樹脂組成物を積層することにより、漆黒性に優れた樹脂組成物の積層体を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、基材上に、少なくともカーボンナノチューブと樹脂とを含んでなるカーボンナノチューブ含有層が積層された積層体であって、カーボンナノチューブ含有層の積層面に、さらにクリア層が積層された積層体であって、積層された面方向から測定した積層体のL*が2.5以下、a*が−2以上2以下かつb*が−2以上0.3以下であり、基材上のカーボンナノチューブ含有層が塗布して形成されてなり、クリア層が透明樹脂またはガラスであることを特徴とする積層体(ただし、L*、a*およびb*は、JIS Z8729で規定されるL***表色系における値を表わす。)に関する。
【0012】
また、本発明は、カーボンナノチューブの繊維径が8〜25nmであることを特徴とする前記積層体に関する。
また、本発明は、カーボンナノチューブ含有層中のカーボンナノチューブの量が3〜30質量%であることを特徴とする前記積層体に関する。
また、本発明は、カーボンナノチューブ含有層の膜厚が10〜50μmであることを特徴とする前記積層体に関する。
また、本発明は、クリア層の膜厚が5〜40μmであることを特徴とする前記積層体に関する。
【0014】
また、本発明は、積層された面方向から測定した積層体の波長380〜780nmにおける平均反射率が5%以下である積層体に関する。
【0015】
また、本発明は、基材の波長380〜780nmにおける平均透過率が5%以下である積層体に関する。
さらに、本発明は、基材上に、少なくともカーボンナノチューブと樹脂とを含んでなるカーボンナノチューブ含有層が積層され、カーボンナノチューブ含有層の積層面に、さらにクリア層が積層された積層体の製造方法であって、積層された面方向から測定した積層体のL*が2.5以下、a*が−2以上2以下かつb*が−2以上0.3以下であり、基材上のカーボンナノチューブ含有層が塗布して形成され、クリア層が透明樹脂またはガラスであることを特徴とする積層体の製造方法(ただし、L*、a*およびb*は、JIS Z8729で規定されるL***表色系における値を表わす。)に関する。

【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物を使用することにより、漆黒性に優れた樹脂組成物が得られる。よって、高い漆黒性が必要とされる様々な用途分野において、本発明で得られる樹脂組成物及び積層体を使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の樹脂組成物及び積層体について詳しく説明する。
【0018】
(1)樹脂組成物(a)
本発明の樹脂組成物(a)は少なくともカーボンナノチューブ(b)と樹脂(c)を含む。
【0019】
本発明の樹脂組成物(a)を得るには、カーボンナノチューブ(b)、樹脂(c)と溶媒を、特に限定されるものではないが、例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、バスケットミル、ホモミキサー、ホモナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」等)、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、フーバーマーラー、3本ロールミル、エクストルーダー等を使用して分散処理を行うことが好ましい。必要に応じて、分散剤や添加剤を加えても良い。
【0020】
樹脂組成物(a)に用いる溶媒は特に限定されるものではなく、水溶液、水系溶媒および有機系溶媒のいずれも用いることができる。
【0021】
有機系溶媒としては、沸点が50〜250℃の有機系溶媒が、塗工時の作業性や硬化前後の乾燥性の点から用いやすい。具体的な溶媒の例としては、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、ブチルジグリコールアセテート、MEKなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジブチルエーテル、エチレングリコール、モノブチルエーテル等のエーテル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドンなどの双極性非プロトン溶媒などを用いることができる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0022】
また、前記溶媒のほかにも、必要に応じて、例えば顔料、濡れ浸透剤、皮張り防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤、pH調整剤、レベリング剤、消泡剤などの添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0023】
(2)カーボンナノチューブ(b)
カーボンナノチューブ(b)は、グラファイトの1枚面を巻いて円筒状にした形状を有しており、そのグラファイト層が1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、2層またはそれ以上で巻いた多層カーボンナノチューブでも、これらが混在するものであっても良いが、コスト面や着色効果の面から多層カーボンナノチューブであることが好ましい。また、カーボンナノチューブ(b)の側壁がグラファイト構造ではなく、アモルファス構造をもったカーボンナノチューブ(b)を用いることもできる。
【0024】
カーボンナノチューブ(b)の形状は、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)、コイル状の形態などいずれの形態を有するものであってもよい。具体的には、例えばグラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバーなどを挙げることができる。これらの形態として1種または2種以上を組み合わせた形態において使用することができる。本発明は魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)、コイル状以外の形態であることが好ましい。魚骨状、トランプ状の場合は、樹脂組成物・成形体の製造時に発生するせん断応力によりカップ・トランプ状グラファイトシートの積層面(x−y面)よりカーボンナノチューブ(b)の切断が起こり、樹脂中に十分なネットワーク構造を形成できず、光閉じ込め効果が減少して黒度の低下に繋がる恐れがある。コイル状の場合も同様に、製造時にその3次元構造が破壊されやすく、着色効果が低下する可能性がある。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブ(b)は、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブ(b)でも構わない。例えば、触媒を用いて、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500〜1000℃にて、炭素源として炭化水素および/またはアルコールとを接触反応させてカーボンナノチューブ(b)を製造することができる。
【0026】
カーボンナノチューブ(b)の炭素源としての原料ガスは、従来公知の任意のものを使用でき、例えば、炭素を含むガスとしてメタン、エチレン、プロパン、ブタンやアセチレン等の炭化水素や一酸化炭素、アルコールなどを用いることができるが、特に使いやすさの理由により、炭化水素やアルコールを用いることが望ましい。
【0027】
触媒は、必要に応じて、還元性ガス雰囲気下で活性化した後、又は還元性ガスと共に、酸素濃度1体積%以下の雰囲気中、炭素源としての原料ガスと接触反応させて製造することが好ましい。酸素濃度1体積%以下の雰囲気は特に制限はないが、アルゴンガスのような希ガスや窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気が好ましい。活性化に使用する還元性ガスとしては、水素、アンモニア等を用いることができるが、特に水素が好ましい。
【0028】
触媒としては、従来公知の様々な金属酸化物を使用することができる。例えば、コバルト、ニッケルや鉄等の活性成分を含む金属とマグネシウム、アルミニウム等の担持成分を含む金属を組み合わせた触媒が挙げられる。
【0029】
カーボンナノチューブ(b)の繊維径は、分散の容易さや色相の観点から、1〜500nmが好ましく、5〜20nmがより好ましい。
【0030】
カーボンナノチューブ(b)の繊維径は、走査透過電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブ(b)を観測し、観測写真において、任意の100個のカーボンナノチューブ(b)を選び、それぞれの外径を計測し、その数平均値を求めることにより、カーボンナノチューブ(b)の平均粒径(nm)を算出することにより測定できる。
【0031】
カーボンナノチューブ(b)の繊維長は、分散の容易さや色相の観点から、0.1〜150μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブ(b)の炭素純度は、カーボンナノチューブ(b)100質量%中、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0033】
本発明でカーボンナノチューブ(b)は、一般的に二次粒子として存在している。この二次粒子形状は、例えば一般的な一次粒子であるカーボンナノチューブ(b)が複雑に絡み合っている状態でもよく、ほぐれ易くカーボンナノチューブ(b)を直線状にしたものの集合体であっても良い。直線状のカーボンナノチューブ(b)の集合体である二次粒子は絡み合っているものと比べると分散性が良いので好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブ(b)は、表面処理を行ったものや、カルボキシル基などの官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物や金属原子、フラーレン等を内包させたカーボンナノナノチューブ(b)等も用いることができる。
【0035】
(3)樹脂(c)
樹脂(c)は、天然樹脂、合成樹脂から選ばれる1種ないし2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
天然樹脂としては、天然ゴム、ゼラチン、ロジン、セラック、多糖類、ギルソナイト等が挙げられる。また、合成樹脂としては、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、オレフィン樹脂、合成ゴム、ポリエステル、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、フッ素系樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、シリコーン系樹、ニトロセルロース、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂のうち、耐光性の観点からベース塗料及びカーボンナノチューブ含有層(e)にはアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂が含まれていることが好ましい。
【0037】
また、樹脂(c)には硬化性を有するタイプとラッカータイプとがあるが、通常は硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、メラミン樹脂等のアミノ樹脂や(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して使用され、加熱または常温で効果反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成用樹脂と硬化性を有するタイプと併用することもできる。
【0038】
(4)積層体(d)
本発明の積層体(d)は少なくとも基材とカーボンナノチューブ含有層(e)の2層から構成され、カーボンナノチューブ含有層(e)の下に基材が設けられた基本構成を有しているが、基材とカーボンナノチューブ含有層(e)との間に他の層が設けられていても良い。
【0039】
本発明における積層体(d)を形成するために用いられる基材は特に限定されるものではなく、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金などの金属類、ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン―酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料、木材、繊維材料(紙、布等)等の天然または合成材料等が挙げられる。
【0040】
上記の基材のうち、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金類などの金属類が好ましい。また、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等の顔料を含む樹脂も好ましい。これらの基材の波長380〜780nmにおける平均透過率はいずれも5%以下である。
【0041】
基材の波長380〜780nmにおける平均透過率は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体(d)が得られる。
【0042】
平均透過率はPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー100、T60)上に前記樹脂組成物を含むカーボンナノチューブ含有層がバーコーターで形成された積層体について、紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500)を用い、基材にカーボンナノチューブ含有層を積層した面から波長300〜1500nmにおける透過スペクトルを5nmの範囲で測定し、波長380nm〜780nmの各透過率の加重平均値を求めることで算出できる。
【0043】
本発明の積層体(d)の形成方法では、上記基材に対し直接または下地層を介してカーボンナノチューブ含有層(e)が形成されるが、積層体(d)が自動車車体および部品の場合は予め化成処理、電着塗装等による下塗り塗装、中塗り塗装等を施しておくことが好ましい。この中塗り塗装は、下地の隠ぺい、耐チッピング性の付与および上塗りとなるカラークリヤー塗膜との密着性確保のために塗膜を形成するものである。
【0044】
本発明の積層体(d)の形成方法において、基材上に下地層を形成した後、この下地層を加熱硬化させることなく上記カーボンナノチューブ含有層(e)を形成し、その後塗膜を加熱硬化させる方法(ウェットオンウェット法)、および、基材上に上記下地層を形成した後、この下地層を加熱硬化させ、次にカーボンナノチューブ含有層(e)を加熱硬化させる方法(ウェットオンドライ法)のどちらも適用可能である。
【0045】
下地層としては、カーボンブラック等の顔料と樹脂(c)を含むベース塗料を使用することができる。このカーボンブラック等の顔料は顔料用として市販されているものであればどのようなものでも使用することができる。
【0046】
上記ベース塗料におけるカーボンブラックの含有量はPWCで8〜20質量%、好ましくは8〜15質量%である。PWCとは、Pigment Weight Concentration(顔料重量濃度)のことであり、下記の式により算出される。
【0047】
PWC=[(含有顔料質量%)/(全塗料固形分質量%)]×100 (%)
【0048】
本発明の積層体(d)は、カーボンナノチューブ含有層(e)上に、さらにクリア層(f)が形成されることが好ましい。クリア層が形成されることにより、光沢が得られ、漆黒性に優れた積層体(d)が得られる。
【0049】
積層体(d)のJIS Z8729に基づいたL*,a*,b*表色系におけるL*は2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。また、a*は−2.0以上、2.0以下であることが好ましく、b*は−1.5以上0以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ含有層(e)の積層面に、さらにクリア層(f)が積層された積層体(d)の場合には、b*が−2.0以上0.3以下であることが好ましく、−2.0以上0以下であることがさらに好ましい。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体(d)が得られる。L*が小さい程、黒度が高い(明度が低い)ことを示す。a*とb*はゼロ(0)に近い値である程、黒い色相であるといえる。また、b*がマイナスである程、青味(青色)が強い色相であるといえる。したがって、漆黒性という観点では、若干青味(青色)を有する黒色である場合が、漆黒性が高いと考えられるため、上記の数値範囲が好ましいと考えられる
【0050】
積層体(d)のJIS Z8729で規定されるL***表色系における明度(L*)および色度(a*、b*)は、基材にカーボンナノチューブ含有層を積層した面方向から、色差計(NIPPONDENSHOKU社製、SpectroColorMeterSE2000)を用いて測定することによって得られる。
【0051】
積層された面方向から測定した積層体(d)の波長380〜780nmにおける平均反射率は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体(d)が得られる。
【0052】
平均反射率はPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー100、T60)上にバーコーターで形成された塗膜について、紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500、積分球使用)を用い、基材に樹脂組成物(a)を積層した測定面から波長300〜1500nmにおける絶対反射スペクトルを5nmの範囲で測定し、波長380nm〜780nmの各反射率の加重平均値を求めることで算出できる。
【0053】
(5)カーボンナノチューブ含有層(e)
本発明のカーボンナノチューブ含有層はカーボンナノチューブ(b)と樹脂(c)とを含んでなる、カーボンナノチューブ含有層(e)の下に基材が設けられている。
【0054】
本発明のカーボンナノチューブ含有層(e)は、樹脂組成物(a)を塗布して形成することができる。具体的には、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等、一般的な方法を挙げることができる。
【0055】
カーボンナノチューブ含有層(e)中のカーボンナノチューブ(b)の量は、用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは1〜25質量%、更に好ましくは2〜15質量%の範囲である。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体が得られる。
【0056】
カーボンナノチューブ含有層(e)には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、カーボンナノチューブ(b)とカーボンブラックとを併用することができる。カーボンブラックの具体例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック並びにナフサなどの炭化水素を水素及び酸素の存在下で部分酸化して、水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを製造する際に副生するカーボンブラック、あるいはこれを酸化または還元処理したカーボンブラックなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独でも2種類以上併用しても良い。また、黒度を向上する視点から、カーボンブラックは平均粒径が20nm以下で、かつ、DBP吸油量が80ml/100g以下のものが好ましく使用される。また、本発明においてDBP吸油量とは、カーボンブラック粒子間の化学的ないし物理的結合による複雑な凝集形態(ストラクチャー)の尺度で、カーボンブラック100g当りに包含することのできるジブチルフタレート(DBP)の量(ml)を表す。
【0057】
カーボンブラックの平均粒径は、カーボンナノチューブ(b)の繊維径と同様の方法で求められる。具体的には、走査透過電子顕微鏡によって、カーボンブラックを観測し、観測写真において、任意の100個のカーボンブラックを選び、それぞれの外径を計測し、その数平均値を求めることにより、カーボンブラックの平均粒径を算出することができる。
【0058】
カーボンブラックの使用量は、カーボンナノチューブ(b)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。一方、100重量部を超えると、成形体の黒度と青味が低下する可能性がある。青味が低下し、赤味が増すと、漆黒性に優れた積層体が得られにくい。
【0059】
カーボンナノチューブ含有層(e)の波長380〜780nmにおける平均反射率は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体が得られる。
【0060】
カーボンナノチューブ含有層(e)の膜厚は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0061】
カーボンナノチューブ含有層(e)を基材上に形成する方法としては、形成する基材により最適な方法を選択すれば良く、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等、一般的な方法で樹脂組成物(a)を基材上にコーティングすることにより、カーボンナノチューブ含有層(e)を形成することができる。
【0062】
(6)クリア層(f)
本発明のクリア層(f)は下層塗膜を視認できる程度の透明性を有するものである。具体的には透明樹脂、ガラス等をあげることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、オレフィン樹脂、合成ゴム、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、フッ素系樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、シリコーン系樹、ニトロセルロース、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性ポリアミド樹脂、天然ゴム、ゼラチン、ロジン、セラック、多糖類、ギルソナイト等を挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。また、下層塗膜を視認できる程度のカーボンブラックやカーボンナノチューブ(b)が含まれても良い。
【0063】
クリア層(f)をカーボンナノチューブ含有層(e)上に形成する方法としては、形成する物質により最適な方法を選択すれば良く、真空蒸着、EB蒸着、スパッタ蒸着などのドライ法、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等、一般的な方法を挙げることができる。また、クリア層(f)は製膜されたものをラミネートしても良く、カーボンナノチューブ含有層(e)に積層されていれば、必ずしもこれらの層が密着していなくても良い。
【0064】
クリア層(f)の膜厚は5〜40μm、好ましくは25〜35μmの範囲内であることが好ましい。特に斯かる範囲であれば、漆黒性に優れた積層体が得られる。
【0065】
本明細書における漆黒性とは、JIS Z8729で規定されるL***表色系において、基材上に積層された面方向から測定した積層体(d)のL*が2.5以下、かつb*が−1.5以上0以下の値を示すもの、また、カーボンナノチューブ含有層(e)の積層面に、さらにクリア層(f)が積層された積層体(d)の場合には、L*が2.5以下、かつb*が−2.0以上0.3以下の値を示すものを「漆黒性」を示すものとみなし、上記の値は、色差計(NIPPONDENSHOKU社製、SpectroColorMeterSE2000)により測定された値とした。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。例中、特に断わりのない限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」をそれぞれ意味する。また、「カーボンナノチューブ」を「CNT」、「カーボンブラック」を「CB」と略記することがある。
【0067】
<物性の測定方法>
後述の各実施例及び比較例において使用された積層体の物性は、以下の方法により測定した。
【0068】
<膜厚>
積層体中のカーボンナノチューブ含有層、クリア層の膜厚は膜厚計(NIKON社製、DIGIMICRO MH−15M)を用いて塗膜中の3点を測定し、その平均値を膜厚とした。
【0069】
<L**b*
基材に樹脂組成物を積層した面方向から、色差計(NIPPONDENSHOKU社製、SpectroColorMeterSE2000)を用いてJIS Z8729で規定されるL***表色系における明度(L*)および色度(a*、b*)を測定した。
【0070】
<平均反射率>
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー100、T60)上にバーコーターで形成された塗膜について、紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500、積分球使用)を用い、基材に樹脂組成物を積層した測定面から波長300〜1500nmにおける絶対反射スペクトルを5nmの範囲で測定し、波長380nm〜780nmの各反射率の加重平均値を求めることで算出した。
【0071】
<平均透過率>
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー100、T60)について、紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500)を用い、基材に樹脂組成物を積層した測定面から波長300〜1500nmにおける透過スペクトルを5nmの範囲で測定し、波長380nm〜780nmの各透過率の加重平均値を求めることで算出した。PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー100、T60)の平均透過率は89%であった。
株式会社光社製ステンレス板(ユニホビーR素材シリーズ、KHS532、厚み0.5mm)について、紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500)を用い、基材に樹脂組成物を積層した測定面から波長300〜1500nmにおける透過スペクトルを5nmの範囲で測定し、波長380nm〜780nmの各透過率の加重平均値を求めることで算出した。
【0072】
<カーボンナノチューブの繊維径>
走査透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−6700M)によって、得られたカーボンナノチューブを観測した。観測写真において、任意の100個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測し、その数平均値を求めることによりカーボンナノチューブの繊維径(nm)を算出した。
【0073】
<カーボンブラックの平均粒径>
走査透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−6700M)によって、カーボンブラックを観測した。観測写真において、任意の100個のカーボンブラックを選び、それぞれの外径を計測し、その数平均値を求めることにより、カーボンブラックの平均粒径(nm)を算出した。
【0074】
<カーボンナノチューブ合成用触媒およびカーボンナノチューブの製造例>
後述の各実施例及び比較例において使用されたカーボンナノチューブ合成用触媒およびアーボンナノチューブは以下の方法により作製した。
【0075】
<カーボンナノチューブ合成用触媒(A)の作製>
酢酸コバルト・四水和物200gおよび担持成分としての酢酸マグネシウム・四水和物172gをビーカーに秤取り、均一になるまで撹拌した。耐熱性容器に移し替え、電気オーブンを用いて、190±5℃の温度で30分乾燥させ水分を蒸発させた後、乳鉢で粉砕してカーボンナノチューブ合成用触媒(A)の前駆体を得た。得られたカーボンナノチューブ合成用触媒触媒(A)の前駆体100gを耐熱容器に秤取り、マッフル炉にて、空気中500℃±5℃雰囲気下で30分焼成した後、乳鉢で粉砕して触媒(A)を得た。
【0076】
<カーボンナノチューブ合成用触媒(B)の作製>
水酸化コバルト74gおよび担持成分としての酢酸マグネシウム・四水和物172gをビーカーに秤取り、均一になるまで撹拌した。耐熱性容器に移し替え、電気オーブンを用いて、190±5℃の温度で30分乾燥させ水分を蒸発させた後、乳鉢で粉砕してカーボンナノチューブ合成用触媒(B)の前駆体を得た。得られたカーボンナノチューブ合成用触媒触媒(B)の前駆体100gを耐熱容器に秤取り、マッフル炉にて、空気中500℃±5℃雰囲気下で30分焼成した後、乳鉢で粉砕して触媒(B)を得た。
【0077】
<カーボンナノチューブ(A1)の作製>
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(A)1.0gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエチレンガスを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、1時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0078】
<カーボンナノチューブ(A2)の作製>
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(A)1.0gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエチレンガスを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、2時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0079】
<カーボンナノチューブ(B1)の作製>
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(B)1.0gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエチレンガスを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、1時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0080】
<カーボンナノチューブ(B2)の作製>
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(B)1.0gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエチレンガスを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、2時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0081】
<CNT塗液の作製>
本願発明の樹脂組成物の一態様であるCNT塗液の作製方法を以下に示す。
【0082】
(実施例1)
三菱化学社製エポキシ樹脂グレード1256を、ブチルカルビトールアセテートに溶解して、固形分40%のエポキシ樹脂溶液を作製し、エポキシ樹脂溶液の固形分15gに対して、カーボンナノチューブ(A1)0.789gを混合し、フーバーマーラーで荷重150lb(=667N)、回転速度100rpmの条件で3回練り、CNT塗液(A1a)を得た。
(実施例2〜9)
表1に掲載したカーボンナノチューブの種類とカーボンナノチューブの添加量に変更した以外は実施例1と同様の方法により、それぞれCNT塗液を得た。
【0083】
【表1】
【0084】
(実施例10)
カーボンナノチューブ(A1)0.789g、スチレン・アクリル系ポリマー(ジョンソンポリマー社製、ジョンクリル683)15g、MEK(メチルエチルケトン)156.3gを225cm3のガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントコンディショナーを用いて1時間分散を行い、CNT塗液(WA1)を得た。
(実施例11)
表2に掲載したカーボンナノチューブの種類に変更した以外は実施例10と同様の方法により、CNT塗液(WB1)を得た。
【0085】
【表2】
【0086】
<カーボンナノチューブ含有層を有する積層体の作製>
【0087】
(実施例12)
東レ株式会社製PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(ルミラー100、T60)を基材として、片面にCNT塗液(A1a)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させ、基材上にカーボンナノチューブ含有層を形成し、積層体を得た。得られた積層体について、カーボンナノチューブ含有層の膜厚、L***を測定した。
【0088】
(実施例13〜26)
実施例12で使用したCNT塗液(A1a)の替わりに、表3に掲載したCNT塗液とCNT含有層の膜厚を変更した以外は、実施例12と同様な方法により、基材上にカーボンナノチューブ含有層を作製した。得られた積層体について、カーボンナノチューブ含有層の膜厚、L***を測定した。
【0089】
表3に実施例12〜26で作製したカーボンナノチューブ含有層の作製条件と基材上に得られたカーボンナノチューブ含有層を有する積層体の評価結果を示す。漆黒性の評価基準は、上記塗膜のL*が2.0以下かつb*が0以下を◎(優)、L*が2.1〜2.4、かつb*が0以下を○(良)、L*が2.5以上かつかつb*が0.1以上を×(不良)とした。
【0090】
【表3】
【0091】
<カーボンブラック塗液の作製>
【0092】
(比較例1)
三菱化学社製エポキシ樹脂グレード1256を、ブチルカルビトールアセテートに溶解して、固形分40%のエポキシ樹脂溶液を作製し、エポキシ樹脂溶液の固形分15gに対して、デグザ社製カーボンブラック(COLOR Black FW−200)0.789gを混合し、フーバーマーラーで荷重150lb(=667N)、回転速度100rpmの条件で3回練り、カーボンブラック塗液(C1)を得た。
【0093】
(比較例2)
デグザ社製カーボンブラック(COLOR Black FW−200)0.789g、スチレン・アクリル系ポリマー(ジョンソンポリマー社製、ジョンクリル683)15g、MEK(メチルエチルケトン)156.3gを225cm3のガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントコンディショナーを用いて1時間分散を行い、カーボンブラック塗液(WC1)を得た。
【0094】
<カーボンブラック含有層を有する積層体の作製>
【0095】
(比較例3)
東レ株式会社製PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(ルミラー100、T60)を基材として、片面にカーボンブラック塗液(C1)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させ、基材上にカーボンブラック含有層を有する積層体を作製した。
(比較例4)
東レ株式会社製PETフィルム(ルミラー100、T60)を基材として、片面にカーボンブラック塗液(WC1)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させ、基材上にカーボンブラック含有層を有する積層体を作製した。
【0096】
表4に比較例3〜4で作製したカーボンブラック含有層の作製条件と得られたカーボンブラック含有層を有する積層体の評価結果を示す。漆黒性の評価基準は、上記塗膜のL*が2.0以下かつb*が0以下を◎(優)、L*が2.1〜2.4、かつb*が0以下を○(良)、L*が2.5以上かつかつb*が0.1以上を×(不良)とした。
【0097】
【表4】
【0098】
<積層体の作製>
【0099】
<クリア塗料の調製>
クリア層の形成に用いるクリア塗料は丸底フラスコ中に、有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチル=70部/15部/10部/5部からなる混合液)を入れ、メラミン焼き付け用アクリル樹脂(DIC株式会社製、ACRYDIC A405)を添加し、1時間撹拌することにより調製した。
【0100】
(実施例27)
実施例12で作製したカーボンナノチューブ含有層を有する積層体を用い、クリア塗料を乾燥後の膜厚で30μmとなるようにカーボンナノチューブ含有層上にエアスプレーを用いて静電塗装し、得られた塗膜面を150±5℃にて20分間乾燥させてクリア層を形成することにより積層体を作製した。得られた積層体について、L***および平均反射率を測定した。
【0101】
(実施例28〜41)
実施例13〜26で作製したカーボンナノチューブ含有層を有する積層体を用い、実施例27と同様の方法により、それぞれ積層体を作製した。得られた積層体について、L***および平均反射率を測定した。
【0102】
表5に実施例27〜41で作製した積層体の作製条件と評価結果を示す。漆黒性の評価基準は、上記塗膜のL*が2.0以下かつb*が0以下を◎(優)、L*が2.1〜2.4、かつb*が0以下を○(良)、L*が2.5以上かつかつb*が0.1以上を×(不良)とした。
【0103】
【表5】
【0104】
(比較例5)
比較例3で作製したカーボンブラック含有層を有する積層体を用い、クリア塗料を乾燥後の膜厚で30μmとなるようにカーボンブラック含有層上にエアスプレーを用いて静電塗装し、得られた塗膜面を150±5℃にて20分間乾燥させてクリア層を形成することにより積層体を作製した。得られた積層体について、L***および平均反射率を測定した。
【0105】
(比較例6)
比較例4で作製したカーボンブラック含有層を有する積層体を用い、クリア塗料を乾燥後の膜厚で30μmとなるようにカーボンブラック含有層上にエアスプレーを用いて静電塗装し、得られた塗膜面を150±5℃にて20分間乾燥させてクリア層を形成することにより積層体を作製した。得られた積層体について、L***および平均反射率を測定した。
【0106】
表6に比較例5〜6で作製した積層体の作製条件と評価結果を示す。漆黒性の評価基準は、上記塗膜のL*が2.0以下かつb*が0以下を◎(優)、L*が2.1〜2.4、かつb*が0以下を○(良)、L*が2.5以上かつかつb*が0.1以上を×(不良)とした。
【0107】
【表6】
【0108】
(実施例42)
株式会社光社製ステンレス板(ユニホビーR素材シリーズ、KHS532、厚み0.5mm)を基材として、片面にCNT塗液(A1a)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させ、基材上にカーボンナノチューブ含有層を形成した。その後、クリア塗料を乾燥後の膜厚で30μmとなるようにカーボンナノチューブ含有層上にエアスプレーを用いて静電塗装し、得られた塗膜面を150±5℃にて20分間乾燥させてクリア層を形成することにより積層体を作製した。得られた積層体について、L***および平均反射率を測定した。
【0109】
表7に実施例42で作製した積層体の作製条件と評価結果を示す。漆黒性の評価基準は、上記塗膜のL*が2.0以下かつb*が0以下を◎(優)、L*が2.1〜2.4、かつb*が0以下を○(良)、L*が2.5以上かつかつb*が0.1以上を×(不良)とした。
【0110】
【表7】
【0111】
上記結果から、本発明のカーボンナノチューブと樹脂を含む樹脂組成物および積層体を用いた場合、比較例で使用したカーボンブラックを使用した樹脂組成物および積層体を用いた場合よりも、漆黒性の高い樹脂組成物および積層体が得られることが明らかとなった。
【要約】
【課題】青味があり、かつ黒度の高い漆黒性に優れた樹脂組成物を提供すること。また、その積層体を提供することを提供すること。
【解決手段】
少なくともカーボンナノチューブと樹脂とを含んでなる樹脂組成物であって、基材上に積層された、前記樹脂組成物を含むカーボンナノチューブ含有層の膜厚が10μmである際、積層された面方向から測定した積層体のL*が2.5以下、a*が−2以上2以下、かつb*が−1.5以上0以下であることを特徴とする樹脂組成物。(ただし、L*、a*およびb*は、JIS Z8729で規定されるL***表色系における値を表わす。)
【選択図】なし