【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また実施例中、「%」および「部」は特に断りのない限りそれぞれ「重量%」および「重量部」を意味する。
【0031】
[ポリアミドポリアミン水溶液の調製]
温度計、冷却器、攪拌機および窒素導入管を備えた反応装置に、アジピン酸2000g(13.7モル)を仕込み、水700gを投入した。ジエチレントリアミン1416g(13.7モル)を1時間かけて滴下し、窒素気流下180℃まで昇温し、生成する水を系外に除外しながら約8時間縮合反応させた後、160℃まで冷却し、系内にイオン交換水2923gを徐々に加えて、25℃まで冷却し、固形分濃度50%、粘度420mPa・s(25℃)のポリアミドポリアミン(a1)水溶液を得た。
なお、粘度の測定にはブルックフィールド回転粘度計(TOKIMEC製、VISCOMETER)を使用した。
【0032】
(製造例1) ポリアミドポリアミン中和塩(乳化剤)の製造
上記ポリアミドポリアミン水溶液200g(アミノ基換算469ミリモル)に対して20gの62.5%硫酸水溶液(プロトン換算225ミリモル)を加えて、当量比50%のポリアミドポリアミン中和塩水溶液を得た。
【0033】
(製造例2〜6、比較製造例1〜5)
製造例1において、硫酸水溶液の添加量を変え、表1記載の当量比としたこと以外は、製造例1と同様にしてポリアミドポリアミン中和塩水溶液を得た。
【0034】
【表1】
【0035】
表中の記号は、以下のとおりである。
PA:ポリアミドポリアミン
【0036】
[ロジン系物質の調製]
(製造例7) 無水マレイン酸変性ロジンの製造例
ガムロジン100部および無水マレイン酸3部を200℃に加熱溶融させ、同温度で2時間反応させ、酸価192.5、軟化点88.2℃の無水マレイン変性ロジンを得た。
【0037】
[乳化試験(樹脂エマルジョンの調製)]
製造例7で得られた無水マレイン酸変性ロジンを、製造例1〜6および比較製造例1〜5で得られた各乳化剤を用いて樹脂エマルジョンを調製し、乳化試験を実施した。結果を表2に示す。なお、得られた樹脂エマルジョンの特性は、以下の方法により測定した。
【0038】
(粒子径の測定)
得られたエマルジョンの粒子径測定は、レーザー回折式粒子径測定装置SALD−2000((株)島津製作所製)を用いて測定を行った。測定に際し、サンプル液の希釈にはイオン交換水を使用した。
【0039】
(pHの測定)
エマルジョンのpHの測定は、各エマルジョンの固形分濃度を20%に調整し、pH METER F−14(HORIBA製)を用い、各サンプルの温度を25℃として測定した。
【0040】
(粘度の測定)
エマルジョンの粘度の測定にはブルックフィールド回転粘度計(TOKIMEC製、VISCOMETER)を使用し、各サンプルの固形分濃度を45%、温度を25℃として測定した。
【0041】
(実施例1)
ロジン系物質として、製造例7で得られた無水マレイン酸変性ロジン100部を撹拌機および温度計を付したフラスコに仕込み、150℃で加熱溶融させた。撹拌しながら、製造例1のポリアミドポリアミン中和塩水溶液(乳化剤)6部(固形分換算)を、溶融ロジン系物質に30分間かけて添加し、クリーム状の油中水型エマルジョンを生成させた。得られたエマルジョンを激しく撹拌しながら、さらに熱水(90℃)を添加し、水中油型のエマルジョンに転相させた後30℃まで急冷し、粒子径0.98μm、pH5.2、粘度106mPa・s、固形分濃度45%の樹脂エマルジョンを得た。その結果を表2に示す。
【0042】
(実施例2〜6および比較例1〜5)
実施例1において使用した乳化剤を表2記載の乳化剤に変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂エマルジョンを得た。その結果を表2に示す。なお、比較例1〜5は、転相せず、エマルジョンを得ることができなかった。
【0043】
(実施例7)
実施例1において使用したロジン系物質を、製造例7で得られた無水マレイン酸変性ロジン70部およびロジントリグリセライド30部(商品名AAV−K、荒川化学工業製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂エマルジョンを得た。その結果を表2に示す。
【0044】
(実施例8)
ロジン系物質として、製造例7で得られた無水マレイン酸変性ロジン100部を撹拌機および温度計を付したフラスコに仕込み、150℃で加熱溶融させた。撹拌しながら、上記ポリアミドポリアミン水溶液を43%に希釈した水溶液12.3部(固形分換算5.3部)を、溶融ロジン系物質に10分間かけて添加した後、10分間攪拌を継続した。ここに3%硫酸水溶液23.3部(正味の硫酸分として0.7部)を5分間かけて滴下して、水中油型エマルジョンに転相させた。さらに得られたエマルジョンを激しく撹拌しながら、さらに熱水(90℃)を添加して希釈した後30℃まで急冷し、粒子径0.90μm、pH5.2、粘度102mPa・s、固形分濃度45%の樹脂エマルジョンを得た。
なお、本実施例は、予めポリアミドポリアミン中和塩を調製することなく樹脂エマルジョンを調製した例である。
【表2】
【0045】
なお、表2中、AAVKは、ロジントリグリセライド(商品名AAV−K、荒川化学工業製)である。
【0046】
[製紙用エマルジョン型サイズ剤の調製および評価]
(実施例9)
実施例1で得られた樹脂エマルジョンに5%硫酸を加えてpH5.0に調整したものを製紙用エマルジョン型サイズ剤として使用した。
(実施例10)
実施例9で得られた製紙用エマルジョン型サイズ剤555部に、予め、50%硫酸アルミニウム水溶液174部と19.2%炭酸ナトリウム水溶液75部とを混合して得られた水溶性アルミニウム化合物を、温度65℃で混合し、製紙用エマルジョン型サイズ剤を得た。
【0047】
(比較例6) 溶剤乳化法による製紙用エマルジョン型サイズ剤の調製
2リットルの反応容器にトルエン100部を仕込み、撹拌を開始した。製造例12で得られたロジン系物質100部を溶解させた。比較製造例5のポリアミドポリアミン中和塩水溶液(当量比100%)を70部とイオン交換水50部を仕込んだ。ホモミキサー(PRIMIX社製、TK HOMOMIXER MARK II)を用い、12000rpmで2分間撹拌を続けた後、混合物をピストン型高圧ホモジナイザー(マントンゴーリン社製、型式15MR 8TBA)に通し1次圧25MPa、2次圧5MPaで1回通過処理を行い、樹脂エマルジョンを得た。乳化液を速やかに減圧単蒸留によりトルエンを除去し、実施例9と同様にして水溶性アルミニウム化合物を混合して製紙用エマルジョン型サイズ剤を得た。
【0048】
(比較例7) ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂を用いた溶剤乳化法による製紙用エマルジョン型サイズ剤の調製
(1)ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン付加物の調製
2リットルの反応容器に上記各製造例で使用したポリアミドポリアミン530g、イオン交換水255gを加え、20℃に設定した。エピクロロヒドリン168gを3時間かけて滴下し、35℃で1時間保温した。イオン交換水540gを加え、さらに1時間保温した後、65℃に加熱した。62.5%硫酸15gとイオン交換水119gを加え、30℃へ冷却した。微黄色透明の固形分濃度25.5%、粘度213mPa・s、pH2.32のポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン付加物の水溶液を得た。
(2)製紙用エマルジョン型サイズ剤の調製
次に、2リットルの反応容器にトルエン100部を仕込み、撹拌を開始し、実施例12で得られたロジン系物質100部を溶解させた。上記により得られたポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン付加物の水溶液を55部とイオン交換水65部を混合し、ホモミキサー(PRIMIX社製、TK HOMOMIXER MARK II)を用い、12000rpmで2分間撹拌を続けた後、混合物をピストン型高圧ホモジナイザー(マントンガウリン社製、型式15MR 8TBA)に通し1次圧25MPa、2次圧5MPaで1回通過処理を行い、樹脂エマルジョンを得た。樹脂エマルジョンを速やかに減圧単蒸留によりトルエンを除去し、実施例9と同様にして水溶性アルミニウム化合物を混合して製紙用エマルジョン型サイズ剤を得た。
【0049】
上記により得られた各製紙用エマルジョン型サイズ剤を用いて、以下の方法により、それぞれのサイズ性能および有機溶剤(トルエン、ハロヒドリン)の含有量についての評価を行った。その結果を表3に示す。
【0050】
(サイズ効果1)紙1:硫酸アルミニウムを用いて抄紙された紙による評価
広葉樹由来晒しクラフトパルプのシートをパルプ濃度が2.0%になる量の硬度100ppmの希釈用水で希釈し、離解機で8分間離解した。次いで、ナイアガラビーターを用いて350mLカナディアンスタンダードフリーネスになるまで叩解した。
次いで、該パルプスラリー500gを3L手つきステンレスビーカーに秤量し、160rpmで攪拌を行いながら0.5%(対パルプ乾燥重量換算値として)の硫酸アルミニウムを添加して30秒攪拌した後、サイズ剤を添加して10秒間攪拌した。次いで、パルプ濃度が1.0%となるよう希釈水を投入し、攪拌速度を800RPMに上げて10分間攪拌した。ついで、このパルプスラリーに対し、定着剤として0.1%(対パルプ乾燥重量換算値として)のカチオン性ポリアクリルアミドポリマーであるポリストロン−1280(荒川化学工業製)を添加して1分間攪拌した。得られたパルプスラリー170gをスタンダードタッピ型抄紙機で抄紙した。
得られた湿紙を50%固形分濃度以下となるようにロールプレスでプレスし、次いでドラムドライヤーで80℃で2.5分乾燥させた。得られた紙片を20℃、60%相対湿度環境下で24時間調湿して、試験用試料とした。(坪量80g/m
2)。サイズ度はステキヒト法(JIS−P8122に基づく)で測定を行った。
【0051】
(サイズ効果2)紙2:硫酸アルミニウムを用いずに抄紙された紙による評価
硫酸アルミニウムを添加しなかった以外は、上記硫酸アルミニウム添加抄紙と同様に抄紙および評価を行った。
【0052】
(有機溶剤の含有量)
ヘッドスペースサンプラー(Agilent Technologies社製 G1888 Network Headspace Sampler)が接続されたガスクロマトグラフィーシステム(Hewlett Packard社製 HP6890 series GC−System)を用いて測定を実施した。
ヘッドスペースサンプラーは、オーブン80℃、ループ140℃、Tr.ライン180℃の条件、ガスクロマトグラフィーシステムは、昇温メソッドとして初期温度50℃、保持5分、昇温速度10℃/分、昇温時間7分、120℃到達後1分保持とし、カラムとしてUltra ALLOY
® Capillary Column、F0.25、30m(Frontier Laboratories Ltd社製)を使用し、0.3MPaのヘリウムガスをキャリアガスとして利用した。検出器は水素炎イオン検出器を使用した。
ヘッドスペースサンプラー用20mLバイアルに各製法により得られた製紙用エマルジョン型サイズ剤を10g投入し、60℃で10分振盪した。次にバイアル中の気体部分を採取し、トルエンおよびハロヒドリン含量を測定した。なお、ハロヒドリン含量は、エピクロロヒドリン、ジクロロヒドリン、モノクロロヒドリンの総量として測定した。
【0053】
【表3】
【0054】
以上の結果より、本発明の製紙用エマルジョン型サイズ剤は、有機溶剤の含有量が極めて少なく、サイズ性能も従来の溶剤乳化法により得られた製紙用エマルジョン型サイズ剤と遜色ないものであることが明らかといえる。
【0055】
つぎに、当量比が実施例1と異なるポリアミドポリアミン中和塩水溶液を用いて製造された実施例2〜7の樹脂エマルジョンについても、それぞれ、実施例9(アルミ化合物を混合しない場合)および実施例10(アルミ化合物を混合した場合)と同様にして、製紙用表面サイズ剤を調製し、それらのサイズ性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
以上の結果より、当量比が本発明の範囲内にあるポリアミドポリアミン中和塩水溶液を用いて製造された樹脂エマルジョンは、製紙用エマルジョン型サイズ剤として十分なサイズ性能を有していることが確認できた。