(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段は、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が1つで、その位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、この分岐点を境として短周期側の回帰直線の傾きが1/fnに近似している場合に、覚醒状態と判定する請求項1記載の生体状態推定装置。
前記判定手段は、さらに、前記0.01Hz以下の分岐点よりも長周期側の回帰直線において、覚醒時と比較して、機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が低下し、活動調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が上昇して前記機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値よりも高くなっている場合に入眠予兆現象と判定する手段を有する請求項1〜4のいずれか1に記載の生体状態推定装置。
前記生体信号測定手段を背部に当接し、背部から得られる生体信号を用いて、前記周波数演算手段、周波数傾き時系列解析演算手段、周波数解析手段、回帰直線演算手段、分岐点特定手段、及び判定手段により、生体の状態を推定する請求項1〜5のいずれか1に記載の生体状態推定装置。
前記判定ステップは、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が1つで、その位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、この分岐点を境として短周期側の回帰直線の傾きが1/fnに近似している場合に、覚醒状態と判定する請求項7記載のコンピュータプログラム。
前記判定ステップは、さらに、前記0.01Hz以下の分岐点よりも長周期側の回帰直線において、覚醒時と比較して、機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が低下し、活動調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が上昇して前記機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値よりも高くなっている場合に入眠予兆現象と判定する請求項7〜10のいずれか1に記載のコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4及び非特許文献1〜3の技術は、上記したように、パワー値の傾きの時系列波形と最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形が逆位相となり、かつ、パワー値の傾きの時系列波形で低周波、大振幅の波形が生じた時点をもって入眠予兆現象と捉えている。
【0009】
また、本出願人は、特願2009−237802として次のような技術も提案している。すなわち、生体信号測定手段により得られる生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求め、この周波数の時系列波形から求められる周波数傾き時系列波形と周波数変動時系列波形を用いた技術であり、周波数傾き時系列波形の正負、周波数傾き時系列波形の積分波形の正負、周波数傾き時系列波形と周波数変動時系列波形とを重ねて出力した場合における逆位相の出現(逆位相の出現が入眠予兆を示す)等を組み合わせて人の状態を判定する技術である。
【0010】
本出願人は、上記のように生体信号を用いた人の状態を把握する技術を提案しているが、人の状態をより正確に把握する技術の提案が常に望まれている。また、人の状態を把握する手法が複数あれば、それらを併用することにより、さらに、正確に人の状態を把握することが可能となる。本発明は上記に鑑みなされたものであり、生体信号を新たな分析方法を用いて分析し、人の状態を把握する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、心疾患の一つである心房細動において、心・循環系のゆらぎの特性が切り替わるところは、0.0033Hzと言われており、0.0033Hzのゆらぎを調整するためのゆらぎが、0.0033Hz近傍以下に存在すると言われている。生体信号に内在する低周波のゆらぎを算出する周波数傾き時系列波形を求め、それを周波数解析したところ、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hz、0.0033Hz近傍の0.0035Hzを中心にしたゆらぎが生じていることが確認できた。また、これらこの2つ以外に、0.0053Hzを中心としたゆらぎが生じていることが確認できた。
【0012】
そこで、本発明者は上記した知見から、0.0035Hzの信号(以下、「疲労受容信号」という)を基本として、これを通常の活動状態における疲労の進行度合いを示す信号とし、0.0053Hzの信号(以下、「活動調整信号」という)を、活動時において脳や自律神経系の制御による影響の度合いが出現する信号とし、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hzの信号(以下、機能調整信号)を、体の変調や機能低下を制御する信号として着目した。
【0013】
一方、24時間の心電
図R−R間隔変動の対数パワースペクトル密度と対数周波数の関係から捉えることができる回帰直線の分岐点は、3〜5分間の長周期の帯域にある。通常、心電図のR−R間隔変動成分は1Hz近傍にある。そのため、R−R間隔変動のデータは24時間程度必要となり、計測に時間と労力が掛かるため、日々の体調管理に用いるのは不向きである。0.5Hz近傍にある心房と大動脈の揺れ具合を捉えた生体信号のゼロクロス検出法により求めた時系列波形の周波数成分の解析についても同様のことがいえる。そこで、この生体信号のゼロクロス検出法により求めた時系列波形に傾き時系列解析を施すことで、3〜5分間の長周期の成分からなる時系列波形を作り、短時間の計測データで解析する方法を考案した。この時系列波形を周波数解析した結果は、生体信号のゼロクロス検出法により求めた24時間分の時系列波形を周波数解析した結果と同様の傾向を示すのではないかと考え、その結果、計測時間が0.5〜1時間程度でも、周期関数の対数パワースペクトル密度と対数周波数の関係において、回帰直線の分岐点を捉えることを可能にすると推測し、本発明を完成するに至った。
【0014】
また、生体信号としては、指尖容積脈波ではなく、心房、心室及び大動脈の揺れにより背部の体表に生じる振動(本明細書では、この背部を介して検出される体表脈波を特に「心部揺動波」又は「Aortic Pulse Wave(APW)」と称する)を捉えることに着目した。これは、大動脈の壁は、動脈の中でも弾力性に富んでおり、心臓から直接送り出される血液の高い圧力を受け止めることができ、また、心臓の左心室からでたばかりのところには逆流防止の弁である大動脈弁がある。このため、心房、心室及び大動脈の揺れ具合を捉えた生体信号を解析することで、生体の定常性維持のための脳と自律神経系の負のフィードバック機構の調節環をよく捉えることができ、それにより制御される心臓自体のねじるような動きによって発生する圧力波から心臓の活性度合いを捉え、また、自律神経の活動だけでなく脳機能の活性化状態を併せて把握し、より正確に生体状態を推定できるからである。
【0015】
すなわち、本発明の生体状態推定装置は、生体信号測定手段により採取した生体信号を用いて、生体の状態を推定する生体状態推定装置であって、
前記生体信号測定手段により得られる所定の測定時間における生体信号の時系列波形から、周波数の時系列波形を求める周波数演算手段と、
前記周波数演算手段により得られた前記生体信号の周波数の時系列波形において、所定のオーバーラップ時間で設定した所定の時間窓毎に前記周波数の傾きを求める移動計算を行い、時間窓毎に得られる前記周波数の傾きの時系列変化を周波数傾き時系列波形として出力する周波数傾き時系列解析演算手段と、
前記周波数傾き時系列解析演算手段から得られる周波数傾き時系列波形を周波数解析し、対数パワースペクトル密度と対数周波数との関係を示す解析波形を出力するとする周波数解析手段と、
前記周波数解析手段により出力される解析波形について、所定の周波数範囲毎に回帰直線を求める回帰直線演算手段と、
前記回帰直線演算手段により求められる複数の回帰直線から、隣接する周波数範囲の回帰直線同士の傾きが所定角度以上変化するポイントを分岐点と特定する分岐点特定手段と、
前記分岐点特定手段により特定される分岐点の位置、前記回帰直線演算手段により求められる前記各回帰直線の形、及び前記周波数解析手段により求められる前記対数パワースペクトル密度の前記解析波形の振幅の大きさのうちの1以上の要素を用いて生体の状態を判定する判定手段と
を具備することを特徴とする。
【0016】
前記判定手段は、前記分岐点特定手段により特定される分岐点の位置、前記回帰直線演算手段により求められる前記各回帰直線の形、及び前記周波数解析手段により求められる前記対数パワースペクトル密度の前記解析波形の振幅の大きさのうちの1以上の要素を、それらの要素の覚醒状態と判定時点とを比較し、その相対的変化により状態を判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記分岐点が無く、前記各回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合、又は、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が1つで、その位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、この分岐点を境として短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合に、基準となる健常かつ覚醒状態と判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が2つ以上であって、一方の分岐点の位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、該一方の分岐点と他方の分岐点との間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合に眠気状態と判定する構成とすることが好ましい。
前記長周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、眠気に対し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定する構成とすることが好ましい。
前記他方の分岐点よりも短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、眠気に対し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定する構成とすることが好ましい。
【0017】
前記判定手段は、さらに、前記0.01Hz以下の分岐点よりも長周期側の回帰直線において、覚醒時と比較して、機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が低下し、活動調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が上昇して前記機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値よりも高くなっている場合に入眠予兆現象と判定する手段を有する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が4つ以上であって、そのうちの2つの分岐点が周波数0.01Hz以下の長周期側に位置し、他の2つの分岐点が周波数0.006Hz以上であって前記長周期側の分岐点よりも短周期側に位置し、
前記長周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差があり、
前記短周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合に病気状態と判定する構成とすることが好ましい。
前記長周期側の他方の分岐点と短周期側の一方の分岐点とを結ぶ回帰直線及び短周期側の他方の分岐点よりもさらに短周期側の回帰直線の傾きが、1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、病気に伴うストレスに関し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定する構成とすることが好ましい。
さらに、前記判定手段は、0.006Hz以上の短周期側における前記解析波形の振幅の大きさにより活性状態を判定する構成とすることが好ましい。
【0018】
前記判定手段は、周波数0.006Hz以上に位置する前記短周期側の分岐点を基準に設定される回帰直線のうち、少なくとも1本の回帰直線が右肩上がりの場合に、がんの疑いがあると判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記生体信号測定手段を用いて覚醒状態で測定した生体信号を解析処理したものにおいて、周波数0.006Hz以上に位置する前記短周期側の分岐点を基準に設定される回帰直線のうち、少なくとも2本の回帰直線が右肩上がりの場合に、がんの疑いがあると判定する構成とすることが好ましい。
【0019】
前記生体信号測定手段を、背部に当接し、背部から得られる生体信号を用いて、前記周波数演算手段、周波数傾き時系列解析演算手段、周波数解析手段、回帰直線演算手段、分岐点特定手段、及び判定手段により、生体の状態を推定する構成とすることが好ましい。
前記生体信号測定手段を、さらに腹部及び胸部の少なくとも一箇所に当接し、腹部及び胸部の少なくとも一箇所から得られる生体信号の解析波形を、前記背部から得られる解析波形と比較して生体の状態を推定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、さらに、心電図計より得られた心電図のデータを周波数解析して求めた解析波形を、前記背部、腹部又は胸部から得られる解析波形と比較し、それらの解析波形間に、対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差があるか否かを判定する手段を有する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記心電図の波形の解析波形が高く、前記背部、腹部又は胸部から得られる解析波形から採取した生体信号に基づく解析波形が低く、両者間に所定以上の較差がある場合であって、その較差が所定の範囲である場合に、睡眠状態と判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、さらに指尖容積脈波のデータを周波数解析して求めた解析波形を合わせて比較し、指尖容積脈波に基づく解析波形と、前記背部、腹部又は胸部から得られる生体信号の解析波形との間に、対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差があるか否かを判定する手段を有する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、さらに指尖容積脈波のデータを周波数解析して求めた解析波形を合わせて比較し、指尖容積脈波に基づく解析波形の振幅の大きさにより、前記病気に伴うストレス又は眠気に関し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態における程度を判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、前記心電図の波形の解析波形が高く、前記背部、腹部又は胸部から得られる解析波形から採取した生体信号に基づく解析波形が低く、両者間に所定以上の較差がある場合に、心肥大傾向があると判定する構成とすることが好ましい。
前記判定手段は、さらに指尖容積脈波のデータを周波数解析して求めた解析波形を合わせて比較し、指尖容積脈波に基づく解析波形と、前記背部から得られる生体信号の解析波形とを比較し、指尖容積脈波の解析波形の短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似しているのに対し、前記背部から得られる生体信号の解析波形の傾きが水平状態に近い場合に、心房細動の徴候を有すると判定する構成とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明のコンピュータプログラムは、生体信号測定手段により採取した生体信号を用いて、生体の状態を推定する生体状態推定装置に設定されるコンピュータプログラムであって、
前記生体信号測定手段により得られる所定の測定時間における生体信号の時系列波形から、周波数の時系列波形を求める周波数演算ステップと、
前記周波数演算ステップにより得られた前記生体信号の周波数の時系列波形において、所定のオーバーラップ時間で設定した所定の時間窓毎に前記周波数の傾きを求める移動計算を行い、時間窓毎に得られる前記周波数の傾きの時系列変化を周波数傾き時系列波形として出力する周波数傾き時系列解析演算ステップと、
前記周波数傾き時系列解析演算ステップから得られる周波数傾き時系列波形を周波数解析し、対数パワースペクトル密度と対数周波数との関係を示す解析波形を出力するとする周波数解析ステップと、
前記周波数解析ステップにより出力される解析波形について、所定の周波数範囲毎に回帰直線を求める回帰直線演算ステップと、
前記回帰直線演算ステップにより求められる複数の回帰直線から、隣接する周波数範囲の回帰直線同士の傾きが所定角度以上変化するポイントを分岐点と特定する分岐点特定ステップと、
前記分岐点特定ステップにより特定される分岐点の位置、前記回帰直線演算ステップにより求められる前記各回帰直線の形、及び前記周波数解析手段により求められる前記対数パワースペクトル密度の前記解析波形の振幅の大きさのうちの1以上の要素を用いて生体の状態を判定する判定ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0021】
前記判定ステップは、前記分岐点特定ステップにより特定される分岐点の位置、前記回帰直線演算ステップにより求められる前記各回帰直線の形、及び前記周波数解析ステップにより求められる前記対数パワースペクトル密度の前記解析波形の振幅の大きさのうちの1以上の要素を、それらの要素の覚醒状態と判定時点とを比較し、その相対的変化により状態を判定することが好ましい。
前記判定ステップは、前記分岐点が無く、前記各回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合、又は、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が1つで、その位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、この分岐点を境として短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合に、基準となる健常かつ覚醒状態と判定することが好ましい。
前記判定ステップは、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が2つ以上であって、一方の分岐点の位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、該一方の分岐点と他方の分岐点との間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合に眠気状態と判定することが好ましい。
前記長周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、眠気に対し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定することが好ましい。
前記他方の分岐点よりも短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、眠気に対し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定することが好ましい。
前記判定ステップは、さらに、前記0.01Hz以下の分岐点よりも長周期側の回帰直線において、覚醒時と比較して、機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が低下し、活動調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値が上昇して前記機能調整信号の周波数に対応する対数パワースペクトル密度の値よりも高くなっている場合に入眠予兆現象と判定するステップを有することが好ましい。
前記判定ステップは、前記いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が4つ以上であって、そのうちの2つの分岐点が周波数0.01Hz以下の長周期側に位置し、他の2つの分岐点が周波数0.006Hz以上であって前記長周期側の分岐点よりも短周期側に位置し、
前記長周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差があり、
前記短周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合に病気状態と判定することが好ましい。
前記長周期側の他方の分岐点と短周期側の一方の分岐点とを結ぶ回帰直線及び短周期側の他方の分岐点よりもさらに短周期側の回帰直線の傾きが、1/f
nに近似するか、水平状態に近いか、又は右肩上がりかにより、順に、病気に伴うストレスに関し、受容している状態、耐えている状態、又は反撃している状態と判定することが好ましい。
さらに、前記判定ステップは、0.006Hz以上の短周期側における前記解析波形の振幅の大きさにより活性状態を判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求め、さらに、周波数傾きの時系列波形を求めて周波数解析する手段を有する。このような傾き時系列解析を施すことで、3〜5分間の長周期の成分からなる時系列波形を作り、短時間の計測データでありながら、24時間分の時系列波形を周波数解析した結果と同様の傾向を示すデータを得ることができる。すなわち、短時間の計測で、24時間程度の長時間の計測をしなければ特徴が現れない0.5Hz近傍にある心房、心室及び大動脈の揺れ具合を捉えることができ、生体の状態推定を行う上で有効である。心房、心室及び大動脈の揺れ具合を捉えることとは、生体の恒常性維持機能による作用の反力や病変によって生じる生体内環境の変化に対するストレスを捉えることであり、これにより心臓の動きから逆に制御の状態を推定できる。この結果、本発明によれば、現在の状態推定はもとより、将来起こりえる体調の急変シグナルをも捉えることが可能である。また、本発明は、傾き時系列波形を周波数解析し、対数パワースペクトル密度と対数周波数の関係において、回帰直線の分岐点を捉え、分岐点の現れた位置、回帰直線の形等を用いて状態を判定するが、この分岐点の位置や回帰直線の形等は、人の状態に応じて類型化できるため、状態判定を簡易かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態において用いた生体信号測定手段を示した図である。
【
図2】
図2は、上記実施形態に係る生体信号測定手段の他の態様を示した図である。
【
図3】
図3は、上記生体信号測地手段をシートに組み込む過程を示した図である。
【
図4】
図4は、本発明の一の実施形態に係る生体状態推定装置の構成を示した図である。
【
図5】
図5は、睡眠導入実験において、22名の被験者の眠気の無い状態(活性状態)の心部揺動波の原波形を連結したデータの周波数分析結果と、眠気がある状態の心部揺動波の原波形を連結したデータの周波数分析結果を示した図である。
【
図6】
図6は、生体信号測定手段から検出した生体信号をピーク検出法、ゼロクロス法を用いた処理する方法を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)は、APWにピーク検出法、ゼロクロス法を適用した際の検出点の比較を示した図であり、
図7(b)はAPWをピーク検出法及びゼロクロス法を適用して求めた時系列波形である。
【
図8】
図8は、ピーク検出法及びゼロクロス法を用いた時系列波形を周波数解析して両者の検出感度を比較した図である。
【
図9】
図9は、周波数傾き時系列波形の求め方を説明するための図である。
【
図10】
図10(a),(b)は、被験者a,bの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図11】
図11(a),(b)は、被験者c,dの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図12】
図12(a),(b)は、被験者e,fの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図13】
図13(a),(b)は、被験者g,hの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図14】
図14(a),(b)は、被験者i,jの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図15】
図15は、被験者kの眠気を有していない状態(覚醒状態)の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図16】
図16は、被験者Aの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図17】
図17(a),(b)は、被験者B,Cの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図18】
図18(a),(b)は、被験者D,Eの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図19】
図19(a),(b)は、被験者F,Gの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図20】
図20(a),(b)は、被験者H,Iの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図21】
図21(a),(b)は、被験者J,Kの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図22】
図22(a),(b)は、被験者L,Mの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図23】
図23(a),(b)は、被験者N,Oの眠気を生じた状態の解析波形及び回帰直線を示したデータである。
【
図24】
図24(a),(b)は、それぞれ眠気の無い状態(覚醒状態)と眠気のある状態における被験者全員のデータを連結してゼロクロス法で処理して傾き時系列波形を求め、周波数解析して解析波形と回帰直線を求めたグラフである。
【
図25】
図25は、試験例2における60歳代の健康な男性被験者S氏の時系列の波形を示すものであり、上から順に、心部揺動波のゼロクロス法による周波数傾き時系列波形、ピーク検出法による周波数傾き時系列波形、ゼロクロス法とピーク検出法による心部揺動波の周波数傾き重み付平均絶対値時系列波形、各時系列波形から求められる状態判定結果を示す波形、ゼロクロス法による周波数変動方向きの周波数分析率解析波形、ピーク検出法による周波数変動方向きの周波数分析率解析波形を示した図である。
【
図26】
図26は、試験例2における60歳代の健康な男性被験者S氏の本発明による解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図27】
図27は、試験例2における50歳代の健康な男性被験者F氏の本発明による解析波形と回帰直線を示した図(9時06分から1.5時間分)である。
【
図28】
図28は、試験例2における50歳代の健康な男性被験者F氏の本発明による解析波形と回帰直線を示した図(11時12分から1.5時間分)である。
【
図29】
図29は、試験例2における50歳代の健康な男性被験者F氏の本発明による解析波形と回帰直線を示した図(13時54分から1時間分)である。
【
図30】
図30(a),(b)は、試験例3における男性被験者FG氏の過労時(座位)、睡眠時(臥位)における対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図31】
図31は、試験例3における男性被験者FG氏の回復時(起床時)における対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図32】
図32は、試験例3における男性被験者FG氏の食中毒発症時(脱水症状発症時)における対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図33】
図33(a)は、試験例3における男性被験者FG氏の投薬時における対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図であり、(b)は投薬中止1日目の対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図34】
図34(a),(b)は、試験例3における男性被験者FG氏の投薬中止2日目、3日目の対数パワースペクトル密度の解析波形と回帰直線を示した図である。
【
図35】
図35(a)〜(f)は、試験例4における20歳代の健常な男性AO氏のデータである。
【
図36】
図36(a)〜(f)は、試験例4における20歳代の健常な男性U氏のデータである。
【
図37】
図37(a)〜(f)は、試験例4における89歳代の健常な男性HO氏のデータである。
【
図38】
図38(a)〜(f)は、試験例4における89歳代の健常な男性HO氏の睡眠時間が4時間半のときのデータである。
【
図39】
図39(a)〜(f)は、試験例4における86歳の男性被験者(藤田良登氏)のデータである。
【
図42】
図42(a)〜(f)は、62歳の男性被験者YA氏の測定結果を示した図である。
【
図43】
図43(a)〜(f)は、
図42の被験者YA氏の約4ヶ月前のデータを示した図である。
【
図44】
図44(a)〜(f)は、73歳の自覚的には健常な男性被験者HO氏のデータである。
【
図45】
図45(a)は、入眠予兆現象を生じた指尖容積脈波の時系列データの代表事例を示す図であり、
図45(b)は、入眠予兆現象を本発明の解析波形で示した図であり、
図45(c)は、特徴的な3つの信号の分布率によって入眠予兆現象を判定する手段を示した図である。
【
図46】
図46は、試験例4の各被験者の事例をまとめて模式的に示した図である。
【
図47】
図47は、本発明の解析波形及び回帰直線による判定手法を説明するための図である。
【
図48】
図48は、睡眠導入実験の代表事例の被験者について、心部揺動波の3つの周波数成分の分布率の波形と各被験者の状態との関係を示した図である。
【
図49】
図49は、覚醒状態におけるゼロクロス法による傾き時系列波形のパターンを示した図である。
【
図52】
図52(a),(b)は、心房細動の患者について静的着座状態で生体信号測定手段1により背部から心部揺動波(APW)を得て解析したデータを示した図であり、52(c)は、指尖容積脈波計から得られた指尖容積脈波を解析したデータを示した図である。
【
図53】
図53は、
図52の被験者(W氏)のAPWの71分間の計測データを分析した解析結果(
図52(a)に相当)と、心房細動を有する他の被験者(I氏)のAPWの10分間の計測データの解析結果から得られた回帰直線とを示した図である。
【
図54】
図54は、健常者の回帰直線及び心房細動の患者の回帰直線とを示した図である。
【
図55】
図55は、救急車防振架台に被験者U氏を寝かせて測定した解析結果を示した図であり、(a)〜(c)は30分間のデータを、(d)は40分間のデータを示したである。
【
図56】
図56は、救急車防振架台に被験者KO氏を寝かせて測定した解析結果を示した図であり、(a)〜(c)は30分間のデータを、(d)は40分間のデータを示したである。
【
図57】
図57(a)〜(c)は、被験者U氏の60分間の座位姿勢での睡眠実験の結果を示した図である。
【
図58】
図58は、本発明の生体状態推定装置による状態推定の判定手法をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1及び
図2は、本実施形態に係る生体状態推定装置60の分析対象である生体信号、ここでは心部揺動波(人の上体の背部から検出される心房と心室の動き及び大動脈の揺動に伴う体表脈波であり、心臓の動きが直接的に反映される生体信号)を採取する生体信号測定手段1を示した図であり、
図3は、該生体信号測定手段1を自動車用のシート100に組み込む過程を示した図である。まず、この生体信号測定手段1について説明する。生体信号測定手段1は、三次元立体編物10、三次元立体編物支持部材15、フィルム16、板状発泡体21,22、振動センサ30を有して構成される。
【0025】
三次元立体編物10は、例えば、特開2002−331603号公報に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。
【0026】
一方のグランド編地は、例えば、単繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)によって形成され、他方のグランド編地は、例えば、短繊維を撚った糸から、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編み目構造に形成されている。もちろん、この編地組織は任意であり、細目組織やハニカム状以外の編地組織を採用することもできるし、両者とも細目組織を採用するなど、その組み合わせも任意である。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、2つのグランド編地間に編み込んだものである。本実施形態では、三次元立体編物の固体振動、特に、連結糸の弦振動を検出するものであるため、連結糸はモノフィラメントから構成することが好ましいが、採取する生体信号の種類に応じて共振周波数を調整するため、連結糸もマルチフィラメントから構成することもできる。
【0027】
また、三次元立体編物10は、厚み方向の荷重−たわみ特性が、測定板上に載置して直径30mm又は直径98mmの加圧板で加圧した際に、荷重100Nまでの範囲で、人の臀部の筋肉の荷重−たわみ特性に近似したバネ定数を備えることが好ましい。具体的には直径30mmの加圧板で加圧した際の当該バネ定数が0.1〜5N/mmの範囲、又は、直径98mmの加圧板で加圧した際の当該バネ定数が1〜10N/mmであるものを用いることが好ましい。人の臀部の筋肉の荷重−たわみ特性に近似していることにより、三次元立体編物と筋肉とが釣り合い、心拍、呼吸、心房や大動脈の揺動などの生体信号が伝播されると、三次元立体編物が人の筋肉と同様の振動を生じることになり、生体信号を大きく減衰させることなく伝播できる。
【0028】
このような三次元立体編物としては、例えば、以下のようなものを用いることができる。なお、各三次元立体編物は、必要に応じて複数枚積層して用いることもできる。
【0029】
(1)製品番号:49076D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・300デシテックス/288fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と700デシテックス/192fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸との撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメントとの組み合わせ
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0030】
(2)製品番号:49011D(住江織物(株)製)
材質:
グランド編地(縦糸)・・・600デシテックス/192fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸
グランド編地(横糸)・・・300デシテックス/72fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸
連結糸・・・・・・・・・800デシテックス/1fのポリエチレンテレフタレートモノフィラメント
【0031】
(3)製品番号:49013D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0032】
(4)製品番号:69030D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・450デシテックス/144fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/144fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメントとの組み合わせ
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0033】
(5)旭化成せんい(株)製の製品番号:T24053AY5−1S
【0034】
板状発泡体21,22は、ビーズ発泡体により構成することが好ましい。ビーズ発泡体としては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンのいずれか少なくとも一つを含む樹脂のビーズ法による発泡成形体が用いることができる。ビーズ発泡体からなる板状発泡体21,22は、個々の微細なビーズを構成している発泡により形成された球状の樹脂膜の特性により、微小な振幅を伴う生体信号を膜振動として伝播する。この膜振動が三次元立体編物に弦振動として伝わり、これらの膜振動と弦振動が重畳され、生体信号は、膜振動と弦振動が重畳されることによって増幅された機械振動として、後述する振動センサ30により検出される。従って、生体信号の検出が容易になる。
【0035】
板状発泡体21,22をビーズ発泡体から構成する場合、発泡倍率は25〜50倍の範囲で、厚さがビーズの平均直径以下に形成されていることが好ましい。例えば、30倍発泡のビーズの平均直径が4〜6mm程度の場合では、板状発泡体21,22の厚さは3〜5mm程度にスライスカットする。これにより、板状発泡体21,22に柔らかな弾性が付与され、振幅の小さな振動に共振した固体振動を生じやすくなる。なお、板状発泡体21,22は、本実施形態のように、三次元立体編物10を挟んで両側に配置されていても良いが、いずれか片側、好ましくは、シートバック側のみに配置した構成とすることもできる。
【0036】
ここで、三次元立体編物10は、幅40〜100mm、長さ100〜300mmの範囲の短冊状のものが用いられる。この大きさのものだと、三次元立体編物10に予備圧縮(連結糸に張力が発生する状態)を生じやすくなり、人と三次元立体編物10との間で平衡状態が作りやすい。本実施形態では、人が背部が当接した際の違和感軽減のため、脊柱に対応する部位を挟んで対象に2枚配設するようにしている。三次元立体編物10を簡単に所定位置に配置するようにするため、
図1に示したように、三次元立体編物10は三次元立体編物支持部材15に支持させた構成とすることが好ましい。三次元立体編物支持部材15は、板状に成形され、脊柱に対応する部位を挟んで対称位置に、縦長の配置用貫通孔15a,15aが2つ形成されている。三次元立体編物支持部材15は、上記板状発泡体21,22と同様に、板状に形成されたビーズ発泡体から構成することが好ましい。三次元立体編物支持部材15をビーズ発泡体から構成する場合の好ましい発泡倍率、厚さの範囲は上記板状発泡体21,22と同様である。但し、生体信号により膜振動をより顕著に起こさせるためには、三次元立体編物10,10の上下に積層される板状発泡体21,22の厚さが、三次元立体編物支持部材15の厚さよりも薄いことが好ましい。
【0037】
三次元立体編物支持部材15に形成した配置用貫通孔15a,15aに、2つの三次元立体編物10,10を挿入配置した状態で、三次元立体編物10,10の表側及び裏側にフィルム16,16を積層する。本実施形態では、配置用貫通孔15a,15aの周縁部にフィルム16,16の周縁部を貼着して積層する。なお、配置用貫通孔15a,15aの形成位置(すなわち、三次元立体編物10,10の配設位置)は、心房と大動脈(特に、「下行大動脈」)の拍出に伴う動きによって生じる揺れ及び大動脈弁の動きを検知可能な領域に相当する位置とすることが好ましい。この結果、三次元立体編物10,10は、上下面が板状発泡体21,22によりサンドイッチされ、周縁部が三次元立体編物支持部材15によって取り囲まれており、板状発泡体21,22及び三次元立体編物支持部材15が共振箱(共鳴箱)の機能を果たす。なお、大動脈の壁は、動脈の中でも弾力性に富んでおり、心臓から直接送り出される血液の高い圧力を受け止めることができ、また、心臓の左心室からでたばかりのところには逆流防止の弁である大動脈弁がある。このため、三次元立体編物の位置を上記の位置にすると、生体の定常性維持のための脳と自律神経系の負のフィードバック機構の動きをよく捉えることができる。
【0038】
また、三次元立体編物支持部材15よりも、三次元立体編物10,10の方が厚いものを用いることが好ましい。つまり、三次元立体編物10,10を配置用貫通孔15a,15aに配置した場合には、三次元立体編物10,10の表面及び裏面が、該配置用貫通孔15a,15aよりも突出するような厚さ関係とする。これにより、フィルム16,16の周縁部を配置用貫通孔15a,15aの周縁部に貼着すると、三次元立体編物10,10は厚み方向に押圧されるため、フィルム16,16の反力による張力が発生し、該フィルム16,16に固体振動(膜振動)が生じやすくなる。一方、三次元立体編物10,10にも予備圧縮が生じ、三次元立体編物の厚さ形態を保持する連結糸にも反力による張力が生じて弦振動が生じやすくなる。なお、フィルム16,16は、三次元立体編物10,10の表側及び裏側の両側に設けることが好ましいが、いずれか少なくとも一方に設けた構成とすることも可能である。
【0039】
三次元立体編物10,10の連結糸は、一対のグランド編地間に掛け渡されるため、いわばコイル状に巻かれた長い弦となり、上下の節点に共振箱(共鳴箱)の機能を果たすフィルム16,16及び板状発泡体21,22が配設されている。心拍変動に代表される生体信号は、低周波であるため、このような長い弦と多数の節点を備えた共振システムにより増幅される。つまり、連結糸の弦振動が多数の節点を介してフィルム16,16の膜振動及び板状発泡体21,22のビーズの膜振動を起こさせ、これらが重畳して作用し、増幅される。なお、三次元立体編物の連結糸の節点間の間隔、すなわち、連結糸の配置密度は高いほど好ましい。
【0040】
また、フィルム16,16を板状発泡体21,22側に予め貼着して一体化しておき、板状発泡体21,22を三次元立体編物支持部材15に積層するだけで、フィルム16,16を三次元立体編物10,10の表側及び裏側に配置できる構成とすることも可能である。但し、三次元立体編物10,10に予備圧縮を付与するためには、上記のように、フィルム16,16を三次元立体編物支持部材15の表面に固着することが好ましい。また、
図1のように、三次元立体編物10毎に対応してフィルムを配設するのではなく、
図2に示したように、2つの三次元立体編物10,10を両方とも覆うことのできる大きさのフィルム16を用いるようにしてもよい。
【0041】
フィルム16,16としては、例えば、心拍変動を捉えるには、ポリウレタンエラストマーからなるプラスチックフィルム(例えば、シーダム株式会社製、品番「DUS605−CDR」)を用いることが好ましい。但し、フィルム16,16は固有振動数が合致すれば共振による膜振動を生じるため、これに限るものではなく、採取する対象(心拍、呼吸、心房や心室及び大動脈の揺動等)に応じた固有振動数を有するものを使用することが好ましい。例えば、後述の試験例で示したように、伸縮性の小さい素材、例えば、熱可塑性ポリエステルからなる不織布(例えば、帝人(株)製のポリエチレンナフタレート(PEN)繊維(1100dtex)から形成した2軸織物(縦:20本/inch、横:20本/inch))を用いることも可能である。また、例えば、伸度2 0 0 % 以上、1 0 0 % 伸長時の回復率が8 0 % 以上である弾性繊維不織布( 例えば、K B セーレン( 株) 製、商品名「エスパンシオーネ」) を用いることも可能である。
【0042】
振動センサ30は、上記したフィルム16,16を積層する前に、いずれか一方の三次元立体編物10に固着して配設される。三次元立体編物10は一対のグランド編地と連結糸とから構成されるが、各連結糸の弦振動がグランド編地との節点を介してフィルム16,16及び板状発泡体21,22に伝達されるため、振動センサ30は感知部30aを三次元立体編物10の表面(グランド編地の表面)に固着することが好ましい。振動センサ30としては、マイクロフォンセンサ、中でも、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることが好ましい。本実施形態では、マイクロフォンセンサを配置した部位(すなわち、三次元立体編物10を配置した配置用貫通孔15a)の密閉性を考慮する必要がないため、マイクロフォンセンサのリード線の配線は容易に行うことができる。本実施形態では、上記したように、生体信号に伴う人の筋肉及び骨格を介した体表面の振動は、三次元立体編物10だけでなく、板状発泡体21,22、フィルム16にも伝播され、それらが振動(弦振動、膜振動)して重畳されて増幅する。よって、振動センサ30は、三次元立体編物10に限らず、振動伝達経路を構成する板状発泡体21,22及びフィルム16に、その感知部30aを固定することもできる。なお、本実施形態では、三次元立体編物10、三次元立体編物支持部材15、板状発泡体21,22、フィルム16が生体信号を機械的に増幅させるため、これらが機械的増幅デバイスを構成する。
【0043】
上記した生体信号測定手段1は、例えば、
図3に示したように、自動車用シート100のシートバックフレーム110に被覆される表皮120の内側に配置される。なお、配置作業を容易にするため、生体信号測定手段1を構成する三次元立体編物10、三次元立体編物支持部材15、フィルム16、板状発泡体21,22、振動センサ30等は予めユニット化しておくことが好ましい。
【0044】
上記した生体信号測定手段1は、三次元立体編物10と三次元立体編物10の周辺に積層される板状発泡体21,22とを備えた機械的増幅デバイス、好ましくは、三次元立体編物10と板状発泡体21,22との間にフィルム16が配設された機械的増幅デバイスを有し、この機械的増幅デバイスに振動センサが取り付けられた構成である。心拍、呼吸、心房や心室及び大動脈の揺動などの人の生体信号による体表面の微小振動は、板状発泡体21,22、フィルム16及び三次元立体編物10に伝播されるが、板状発泡体21,22及びフィルム16では膜振動を生じ、三次元立体編物には糸の弦振動を生じさせる。
【0045】
さらに言えば、三次元立体編物10は、一対のグランド編地間に連結糸が配設されてなるが、人の筋肉の荷重−たわみ特性に近似した荷重−たわみ特性を備えている。従って、三次元立体編物10を含んだ機械的増幅デバイスの荷重−たわみ特性を筋肉のそれに近似させたものにして、それを筋肉に隣接して配置されることで、筋肉及び三次元立体編物間の内外圧差が等しくなり、心拍、呼吸、心房や大動脈の揺動などの生体信号を正確に伝えることができ、これにより、三次元立体編物10を構成する糸(特に、連結糸)に弦振動を生じさせることができる。また、三次元立体編物10に積層された板状発泡体21,22、好ましくはビーズ発泡体は、ビーズの有する柔らかな弾性と小さな密度により各ビーズに膜振動が生じやすい。フィルム16は、周縁部を固定し、人の筋肉の荷重−たわみ特性に近似する三次元立体編物で弾性支持することにより、所定の張力が生じるため、膜振動が生じやすい。すなわち、生体信号測定手段1によれば、心拍、呼吸、心房や心室及び大動脈の揺動などの生体信号により、筋肉の荷重−たわみ特性に近似する荷重−たわみ特性をもつ機械的増幅デバイス内の板状発泡体21,22やフィルム16に膜振動が生じると共に、人の筋肉の荷重−たわみ特性に近似した荷重−たわみ特性を有する三次元立体編物10に弦振動が生じる。そして、三次元立体編物10の弦振動は再びフィルム16等の膜振動に影響を与え、これらの振動が重畳して作用する。その結果、生体信号に伴って体表面から入力される振動は、弦振動と膜振動との重畳によって増幅された固体振動として直接振動センサ30により検出されることになる。
【0046】
本発明で使用する生体信号測定手段1としては、従来のように密閉袋内の空気圧変動を検出する構成としたものを用いることも可能であるが、体積と圧力が反比例関係にあるため、密閉袋の体積を小さくしないと圧力変動を検出しにくい。これに対し、上記した生体信号測定手段1によれば、空気圧変動ではなく、上記のように、機械的増幅デバイス(三次元立体編物10、板状発泡体21,22、フィルム16)に伝播される増幅された固体振動を検出するものであるため、その容積(体積)が検出感度の観点から制限されることはほとんどなく、心拍、呼吸、心房や心室及び大動脈の揺動等に伴う振幅の小さな振動を感度良く検出できる。このため、多様な体格を有する人に対応できる。従って、上記生体信号測定手段1は、乗物用シートのように、多様な体格を有する人が利用し、さらに多様な外部振動が入力される環境下においても感度良く生体信号を検出できる。また、密閉構造を作る必要がないため、製造工程が簡素化され、製造コストも下げることができ、量産に適している。
【0047】
なお、上記した生体信号測定手段1は、シート100の表皮120の内側に組み込んでいるが、表皮120の表面に後付で取り付けるシート用クッションに組み込むようにしてもよい。但し、後付で取り付ける場合は、三次元立体編物が体重により予備圧縮が生じやすいように、シートと三次元立体編物との間に、硬い面を設けることが、例えば、面剛性の高い三次元立体編物、あるいは、ポリプロピレンなどの合成樹脂製の厚さ1〜2mm程度のプレートを挿入するなどすることが好ましい。例えば、柔らかい圧縮特性をもつシートの場合、三次元立体編物が予備圧縮されず、そのために生体信号が反射されずに吸収されてしまうが、上記のような硬い面を設けることにより、このようなシート側の圧縮特性のばらつきが吸収され、振幅の大きな生体信号がとりやすくなる。
【0048】
次に、生体状態推定装置60の構成について
図4に基づいて説明する。生体状態推定装置60は、周波数演算手段610、周波数傾き時系列解析演算手段620、周波数解析手段630、回帰直線演算手段640、分岐点特定手段650及び判定手段660を有して構成される。生体状態推定装置60は、コンピュータから構成され、周波数演算手段610により周波数演算ステップが実行され、周波数傾き時系列解析演算手段620により周波数傾き時系列解析演算ステップが実行され、周波数解析手段630により周波数解析ステップが実行され、回帰直線演算手段640により回帰直線演算ステップが実行され、分岐点特定手段650により分岐点特定ステップが実行され、判定手段660により判定ステップが実行される。なお、コンピュータプログラムは、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体へ記憶させて提供することもできるし、通信回線を通じて伝送することも可能である。
【0049】
周波数演算手段610は、生体信号測定手段1の振動センサ30から得られ出力信号の時系列データ(APW)、好ましくは、フィルタリング処理(例えば、体動などにより生じた周波数成分を除去するフィルタリング処理)された所定の周波数領域の時系列データにおける周波数の時系列波形を求める。
【0050】
周波数演算手段610には、生体信号測定手段1の振動センサから得られる出力信号の時系列波形において、正から負に切り替わる地点(以下、「ゼロクロス地点」という)を用いて周波数の時系列波形を求める方法(以下、「ゼロクロス法」という)と、生体信号測定手段1の振動センサから得られる出力信号の時系列波形を平滑化微分して極大値(ピーク)を用いて時系列波形を求める方法(以下、「ピーク検出法」という)の2つの方法がある。
【0051】
ここで、
図5は睡眠導入実験で被験者22 名の眠気が無い状態と眠気が有る状態において、被験者22名分のAPW のデータを連結して、周波数分析をした結果を示す。眠気の有無に関わらず、0.6Hz と1.2Hz にピークがある。ただし、眠気の無・有で、0.6Hz 近傍のパワースペクトルに大小が生じた。このことから、0.6Hz と1.2Hz は、心臓の運動や心拍・脈拍によって生じる成分であり、これらの周波数により、心臓の運動や心拍・脈拍が制御されていると考えた。特に、0.6Hz の成分は眠気の有無で変化が生じているため、眠気の有無といった人の状態変化、すなわち自律神経、特に交感神経の変化に強く関わってくる周波数と考えた。眠気は、疲労が進行して発生し、交感神経の代償作用が生じてくると軽減される。また、眠気が生じると活動レベルが低下し、恒常性の維持機能の制御が単純化し、心臓の収縮・拡張のリズムと振幅がゆるやかになる場合もあると考えた。よって、0.5 次成分は、眠気が生じると低下していき、心臓の動きも単純なものになるとした。一方、活性状態は、心臓が必要な血液量を送り出すために、大きな動きが心臓に生じ、心室のねじれが加わった回転運動により、0.5 次成分が増大していくとした。そこで、眠気の発生は0.6Hzの変動を捉えることで、捕捉、予測ができる可能性が生じた。心臓の運動と心拍・脈拍及び脈波の成分が表れるAPW は、心拍・脈拍数の1/3〜1/2 の周波数成分を中心とする帯域(0.5 次)と心拍・脈拍数の帯域(1 次)の大きく二つの成分で構成されている。1 次成分は直接APW として捉えることができるが、0.5 次の成分は、直接APW として捉えることができない。そこで、0.5 次の成分を求める方法が必要になった。この0.5 次成分を捉える方法として、本発明者は、上記のゼロクロス検出法とピーク検出法(脈拍数に対応)を考えた。
【0052】
ゼロクロス検出法は、APWの基本周波数の変動の様子を捉えるのに適し、ピーク検出法は心拍数すなわちAPWの複合波、例えば心拍数としてカウントされる高周波成分の周波数変動と基本周波数の変動の様子を捉えるのに適している。そして、ゆらぎ解析には、ゼロクロス検出法・ピーク検出法により求められた時系列波形に傾き時系列解析を適用することにした。この心拍や脈波及びAPW の周波数成分を利用した解析により、ゆらぎ、すなわち、変化の指向性を捉える。
図6はこれらのゼロクロス検出法・ピーク検出法の計算要領を示す。
図7(a)、(b)は、APWにピーク検出法、ゼロクロス検出法を適応した計算要領を示し、
図8は周波数分析した結果を示す。ゼロクロス検出法は0.5 次成分以下の変動を捉え、ピーク検出法は0.5 次と1 次成分ともに検出できる。そのため、0.5 次成分の変動を見たい場合はゼロクロス検出法を用い、1 次成分の心拍変動を含めた判定にはピーク検出法を併用する。すなわち、常時観察にはゼロクロス検出法を用い、判定精度を上げるためにはピーク検出法を併用し、閾値を上げていくことになる。なお、両検出法ともに、1 次成分に対して0.5 次成分以下の帯域が強調されたものになっている。
【0053】
ゼロクロス法は、まず、ゼロクロス地点を求めたならば、それを例えば5秒毎に切り分け、その5秒間に含まれる時系列波形のゼロクロス地点間の時間間隔の逆数を個別周波数fとして求め、その5秒間における個別周波数fの平均値を当該5秒間の周波数Fの値として採用する(
図9の[1]のステップ)。そして、この5秒毎に得られる周波数Fをプロットすることにより、周波数の時系列波形を求める(
図9の[2]のステップ)。ピーク検出法は、例えば、SavitzkyとGolayによる平滑化微分法により極大値を求める。次に、例えば5秒ごとに極大値を切り分け、その5秒間に含まれる時系列波形の極大値(波形の山側頂部)間の時間間隔の逆数を個別周波数fとして求め、その5秒間における個別周波数fの平均値を当該5秒間の周波数Fの値として採用する(
図9の[1]のステップ)。そして、この5秒毎に得られる周波数Fをプロットすることにより、周波数の時系列波形を求める(
図9の[2]のステップ)。
【0054】
周波数傾き時系列解析演算手段620は、周波数演算手段610によって、ゼロクロス法又はピーク検出法を用いて得られた生体信号測定手段1の振動センサの出力信号の周波数の時系列波形(APW)から、所定の時間幅の時間窓を設定し、時間窓毎に最小二乗法により振動センサの出力信号の周波数の傾きを求め、その時系列波形を出力する構成である。具体的には、まず、ある時間窓Tw1における周波数の傾きを最小二乗法により求めてプロットする(
図9の[3],[5]のステップ)。次に、オーバーラップ時間Tl(
図9の[6]のステップ)で次の時間窓Tw2を設定し、この時間窓Tw2における周波数の傾きを同様に最小二乗法により求めてプロットする。この計算(移動計算)を順次繰り返し、エアパック信号の周波数の傾きの時系列変化を周波数傾き時系列波形として出力する(
図9の[8]のステップ)。なお、時間窓Twの時間幅は180秒に設定することが好ましく、オーバーラップ時間Tlは162秒に設定することが好ましい。これは、本出願人による上記特許文献3(WO2005/092193A1公報)において示したように、時間窓Twの時間幅及びオーバーラップ時間Tlを種々変更して行った睡眠実験から、特徴的な信号波形が最も感度よく出現する値として選択されたものである。
【0055】
また、上記したように、心房細動のゆらぎの特性は0.0033Hzで切り替わり、0.0033Hzのゆらぎを調整するためのゆらぎが、0.0033Hz近傍以下に存在すると言われている。従って、0Hzと0.0033Hzの中間である0.0017Hzを中心としたゆらぎの状態を見ると、ばらつきが生じたとしても0.0033Hz以下に生じるゆらぎの状態の概要が現れると考えられる。0.0017Hzの波形の1/4周期にあたる時間は147秒である。90%ラップ状態で波形をスムージングするとして、前後の10%の時間を加算すると、147/0.8=約180秒となり、この点からも180秒とすることが好ましいと言える。ここに、180秒、3 分間で変化していく様子、変化の傾向、微分係数、傾きを時系列波形として捉える。そして180 秒間の平均値である傾きを、スムージングさせるために180秒間の時間を90%ラップさせて、18秒毎にプロットしていき時系列波形を作り、この傾きの時系列波形を使って解析を行う。この傾き時系列波形は恒常性のゆらぎを捉えるもので、心拍変動の制御の程度を時系列波形として大局的に評価するものである。
【0056】
周波数解析手段630は、周波数傾き時系列解析演算手段620から得られる周波数傾き時系列波形を周波数解析し、パワースペクトルを求める手段である。
【0057】
回帰直線演算手段640は、周波数解析手段630により出力される解析波形について、所定の周波数範囲毎に回帰直線を求める手段である。分岐点特定手段650は、回帰直線演算手段640により求められる複数の回帰直線から、隣接する周波数範囲の回帰直線同士の傾きが所定角度以上変化するポイントを分岐点と特定する手段である。
【0058】
回帰直線演算手段640における所定の周波数範囲毎とは、例えば、0.001Hz毎あるいは0.002Hz毎といったように回帰直線を求めていく。あるいは、0.0033Hz以下の範囲、0.0033Hz〜0.006Hzの範囲、0.006H以上の範囲といったように区切ってもよい。また、例えば、0.002Hz毎に求める際に、最初に求めた回帰直線に対して、周波数帯で任意の率(例えば90%)でオーバーラップさせて次の回帰直線を求めるというようにすることも可能である。
【0059】
このようにして回帰直線を求めていった際に、回帰直線の傾きが大きく変化するポイントがあった場合に、そのポイントを分岐点として特定するのが分岐点特定手段650である。傾きの大きな変化は、隣接する一方の回帰直線と他方の回帰直線との間の外角が所定の角度(例えば225度)以上となるポイントや、2つの下記直線の傾きが正と負の間で切り替わるポイントというように設定できる。状態の大きな変化が影響していると考えられることから、ゆらぎが生じていない分岐現象として捉えられる(0.0035−0.0017)/2=0.0009Hzの間でパワースペクトルの急激に変化する点、あるいは、正と負の間で切り替わるポイントなどを分岐点とすることが破壊モードである分岐現象を分岐点として特定しやすいことからも好ましい。
【0060】
判定手段660は、周波数解析手段630により出力される解析波形、回帰直線演算手段640により得られる回帰直線の形、分岐点特定手段650により求められる分岐点の位置のいずれか少なくとも一つの要素を用いて人の状態を判定する。なお、いずれが要素がどのような場合にどのような状態であるかは、予め、コンピュータの記憶部に参照データとして記憶させておき、判定手段660は、求めた解析波形、回帰直線の形、分岐点の位置を参照データに照合し、人の状態を判定する。
【0061】
判定手段660は、後述の試験例から、例えば、次のように判定する。
(1)分岐点が無く、前記各回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合・・・健常かつ高覚醒状態
【0062】
(2)いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が1つで、その位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、この分岐点を境として短周期側の回帰直線の傾きが1/f
nに近似している場合・・・健常かつ中程度又は低度の覚醒状態
【0063】
(3)いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が2つ以上であって、一方の分岐点の位置が周波数0.01Hz以下の長周期側であり、該一方の分岐点と他方の分岐点との間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合・・・眠気状態又は入眠予兆現象を伴う状態
【0064】
(4)心部揺動波(APW)を用いた解析波形の回帰直線が、短周期側の所定の位置までは上記(1),(2)と同様の傾向を示し、所定の位置から短周期側の回帰直線が水平状態に近くなっている一方、指尖容積脈波を用いた解析波形の回帰直線が、上記(1),(2)と同様の傾向を示し、短周期側の回帰直線の傾きに乖離が生じている場合・・・不顕性の不整脈の疑い
【0065】
(5)いずれかの回帰直線同士の交点からなる分岐点が4つ以上であって、そのうちの2つの分岐点が周波数0.01Hz以下の長周期側に位置し、他の2つの分岐点が周波数0.006Hz以上であって前記長周期側の分岐点よりも短周期側に位置し、前記長周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差があり、前記短周期側の2つの分岐点間に対数パワースペクトル密度の値で所定以上の較差がある場合・・・病気状態
以下、試験例に基づき、判定手段660における判定方法をさらに詳細に説明する。
【0066】
(試験例1)
(眠気の有無に関する判定試験)
図1に示した生体信号測定手段1を、(株)デルタツーリング製、シートクッションである商品名「ツインランバー」の背部の裏側に積層し、屋内に設置した自動車用シートに取り付け、被験者を着座させ、座位姿勢での心房や心室及び大動脈の揺動による生体信号(以下、「心部揺動波」というが、「APW」と略記する場合もある)を採取した。なお、生体信号測定手段1を構成する板状発泡体21,22及び三次元立体編物支持部材15は、ビーズの平均直径が約5mmで、厚さ3mmにスライスカットしたビーズ発泡体を用いた。三次元立体編物10は、住江織物(株)製、製品番号:49011Dで、厚さ10mmのものであった。フィルム16は、シーダム株式会社製、品番「DUS605−CDR」を用いた。被験者は、20歳代〜50歳代の健康な男性である。
【0067】
生体信号測定手段1から得られた心部揺動波を周波数演算手段610においてゼロクロス(0x)法を適用して処理し、周波数の時系列波形を求め、この周波数の時系列波形を、周波数傾き時系列解析演算手段620により処理して周波数の傾きの時系列波形を求めた。次に、周波数解析手段630は、周波数傾き時系列波形を周波数解析し、パワースペクトルを求め、横軸に周波数(対数値)を、縦軸にパワースペクトル密度(対数値)をとって解析波形を表示したものが
図10〜
図23に示したグラフである。また、解析波形に重ねて示した太線は、回帰直線演算手段640により求めた回帰直線を示すものである。回帰直線1は0.0033Hz以下、回帰直線2は0.0033Hz〜0.006Hzの範囲、回帰直線3は0.006Hz以上の各周波数領域で求めたものである。但し、回帰直線2と回帰直線3とのなす角度が10度以下の場合には、両者を一つの直線で表し、図においては回帰直線2として表示している(
図10〜
図15)。また、各回帰直線(その延長線も含む)の交点が分岐点であるが、本試験例では、それらの交差角度が10度を超える場合にプロットするように設定した。なお、本試験例及び下記の試験例では10度に設定しているが、これはあくまで例示であり、要求される分析結果の精度に応じて変えることもできるし、あるいは、被験者毎に変えたすることもできる。
【0068】
図10〜
図15は、各被験者a〜kが眠気を有していない状態(覚醒状態)のデータである。これらの図から、いずれの場合も、分岐点は1つ(回帰直線1,2との間)であり、この分岐点の位置が、0.001〜0.005Hzに存在し、かつ、分岐点より短周期側の回帰直線2は、その方向きが1/f
nに近似している。なお、本明細書において、水平状態に近似とは、周波数に対する傾きが−0.5〜0の範囲、1/fに近似とは、周波数に対する傾きが−0.5以下で−1.5よりも大きい範囲、1/f
2に近似とは、−1.5以下で−2.5よりも大きい範囲をいう。
【0069】
図16〜
図23は、各被験者A〜Oが眠気を生じた状態のデータである。これらの図から、分岐点は、回帰直線1,2の間と回帰直線2,3の間の2箇所に生じていることが分かる。そして2つの分岐点がいずれも0.003〜0.009Hzの範囲にあり、
図10〜
図15の眠気を有していない状態よりも短周期側に存在している。また、2つの分岐点間には、対数パワースペクトル密度で所定以上の較差がある。すなわち、回帰直線2を挟んだ2つの回帰直線1と3との間に較差があり、回帰直線2は垂直に近い傾きとなっていることが、
図16〜
図23の覚醒状態と比較した場合の大きな特徴である。すなわち、回帰直線2は、被験者の状態が回帰直線1の状態から回帰直線3の状態に移る間の疲労の進行に伴う機能低下を示す線であると言える。また、2つめの分岐点よりも短周期側の回帰直線3は、これらの例ではほぼ1/fに近い傾きとなっている。これは、各被験者a〜kが眠気を感じ、比較的リラックス状態になっていることを示している。
以上のことから、解析波形の分岐点の数、分岐点間の較差、回帰直線の傾きを用いることにより、覚醒状態か眠気のある状態かを判定できる。上記のように、本試験例はいずれも健常者が被験者となっており、病気を有する被験者との間でも明らかな差があるが、これらの詳細については後述する。
【0070】
図24(a),(b)は、それぞれ眠気の無い状態(覚醒状態)と眠気のある状態における被験者全員のデータを連結してゼロクロス法で処理して傾き時系列波形を求め、周波数解析して解析波形と回帰直線を求めたグラフである。このグラフには、データを連結して24時間計測分としたデータと1時間計測分としたデータを併せて表示した。
【0071】
24時間計測分のデータをゼロクロス検出法で処理し、さらに周波数分析することによって得られるゆらぎは、(a)の眠気が無いときは、分岐点が0.002Hz 以下にあり、(b)の眠気が有るときは0.005Hz 近傍に分岐点が移る。そして、眠気が無いときは、1/f に近づき、眠気が有るときは、さらに分岐点が0.006Hz 以上の帯域で複数生じ、2 つ以上の分岐点は分岐現象を示し、異常があると判断できる。さらにゆらぎの傾きは、1/f から略水平の方に近付いていく。また、1時間計測分のデータをゼロクロス検出法で処理し、さらに傾き時系列解析し、周波数分析することによって得られるゆらぎも、24 時間分のデータを周波数分析した結果によって得られるゆらぎ曲線と同様の傾向を示す。従って、約1 時間計測分のデータを傾き時系列波形にし、周波数分析することによって得られたゆらぎは、約24 時間計測分のデータを周波数分析することによって得られるゆらぎと同等の眠気の有無の判定ができる可能性が示唆される。
【0072】
(試験例2)
(実車走行試験)
試験例1と同様に、
図1に示した生体信号測定手段1を、(株)デルタツーリング製、シートクッションである商品名「ツインランバー」の背部の裏側に積層し、自動車の運転席のシートに取り付け、実車走行試験を行った。60歳代の健康な男性被験者S氏により高速道路を模擬したコースを約60分間走行した。
【0073】
図25は、その結果を示した図であり、本出願人が開発した従来の指標による時系列波形で分析したところでは、約16〜18分の間で眠気が生じているが、その他の時間帯は覚醒状態であると判定できる。実際の被験者S氏のコメントでは、実験前半で軽い眠気を覚えたがその他の時間帯は眠気を感じなかった、ということであった。
【0074】
一方、本発明による解析波形を示したのが
図26である。この図から、回帰直線の分岐点は2つあり、約0.006Hzまでの回帰直線と、2つ目の分岐点である約0.007Hz以降の回帰直線との間で所定の較差が生じている。このことから、2の分岐点の間に機能低下が生じ、眠気を生じていたことが判定でき、本発明による解析結果が有効であることがわかる。
【0075】
図27〜
図29は、50歳代の健康な男性被験者F氏が、高速道路を模擬したコースを連続して運転した際の解析波形を示した図である。
図27は、9時06分から1.5時間分の解析結果を、
図28は、11時12分から1.5時間分の解析結果を、
図29は、13時54分から1時間分の解析結果を示す。
【0076】
いずれの図も0.006Hz前後を境界として2つの分岐点があり、0.006Hz以前の回帰直線とそれ以降の回帰直線との間に較差が生じており被験者F氏が機能低下による眠気を感じていることがわかる。被験者F氏のコメントによると、全般的に比較的強い眠気を感じており、特に、運転後半になるほど、眠気を強く感じた、ということであった。
【0077】
そこで、軽い眠気であった
図26の被験者S氏の場合と、より強い眠気を感じていた
図27〜
図29の被験者F氏の場合とを比較すると、まず、0.006Hz前後より長周期側の回帰直線の傾きにおいて、
図26の場合は、ほぼ水平状態 に近い傾きであるが、
図27〜
図29の場合には、いずれも右肩上がりになっていることが分かる。このことから、最初の分岐点より前の長周期側の回帰直線の傾きは、眠気を感じるほど右肩上がりとなり、水平から右肩下がりになるほど(1/f
nに傾きが近づくほど)眠気が弱くなっていると言える。また、
図27の場合よりも、
図28及び
図29の方が、0.006Hz前後の2つめの分岐点よりも短周期側の回帰直線の傾きの右肩上がりの角度が大きくなっていることがわかる。被験者F氏のデータ中、軽い眠気の
図27の場合には右肩下がり(1/f)に近い。いずれも運転していることから覚醒を保たなければならないという意識(すなわち、眠気に対する反撃(攻撃)意識)が働くが、2つめの分岐点よりも短周期側の回帰直線の傾きが右肩上がりになるほど、眠気が強くなることに対応してその反撃意識が強くなっていることがわかる。
【0078】
すなわち、分岐点が2箇所存在し、一方の分岐点よりも長周期側の回帰直線と他方の分岐点よりも短周期側の回帰直線との間に所定の較差が存在する場合において、長周期側の回帰直線が右肩上がりになるほど眠気が強いという判定指標となり、短周期側の回帰直線が右肩上がりになるほど眠気に対する反撃性(攻撃性)が強いという判定指標となる。
【0079】
(試験例3)
(同一被験者の状態別試験)
50歳代の男性被験者FG氏について、過労時(座位)、睡眠時(臥位)、起床時(座位)の各状態別に上記と同様に対数パワースペクトル密度の解析波形を求め、
図30〜
図34に示した。
【0080】
図30(b)の睡眠時は、分岐点が0.004Hz付近と0.008Hz付近の2点であり、
図31の回復時(起床時)もほぼ同様であるが、2つ目の分岐点より短周期側の回帰直線は、回復時(起床時)の方が水平に近く、起床した時点でまだ体調が十分ではないことを示している。一方、睡眠時と比較して回復時(起床時)の方が短周期側の振幅(0.006Hz以上)が大きく、活性の程度が高くなっていることがわかる。
図30(a)の過労時では、分岐点が複数あるとともに、分岐点よりも短周期側の回帰直線の傾きがほぼ水平状態に近いか、若干右肩上がりであり、睡眠時と比較して、疲労に対する強い反撃性(攻撃性)を示していることが読み取れる。
【0081】
図32〜
図34は、上記と同じ50歳代の被験者FG氏がカキによる食中毒を起こした際のデータであり、順に、食中毒発症時、投薬時、投薬中止1日目、投薬中止2日目、投薬中止3日目の各状態の対数パワースペクトル密度の解析波形を示している。
【0082】
図32の発症時においては、分岐点が2つで、短周期側の振幅の変化が
図33(a)の投薬時よりも大きくなっている。投薬時の
図33(a)の場合、
図32よりも全体として1/fの傾きに近くなっているが、短周期側において水平に近い回帰直線が認められる。これは、投薬により症状が抑えられているものの依然として病気に耐えていることを示唆するものである。一方、
図33(b)及び
図34の投薬中止して以降は、分岐点が2つ以上になると共に、短周期側の振幅が
図33(a)の投薬時と比較して大幅に大きくなっており、短周期側の回帰直線も水平に近いか右肩上がりになっている。従って、投薬を中止すると、病気に対する反撃性(攻撃性)がより強くなることがわかる。
【0083】
なお、振幅の乱れは、単に振幅の振れ幅だけで比較するだけでなく、振幅を示す波形に取り囲まれた面積を計算し、健常時と比較してどの程度面積が大きくなっているか否かにより判定することもできる。
また、例えば、
図31の回復時では、短周期側の回帰直線が水平に近いが、その前の
図30(b)では、回帰直線が右肩下がり(1/fに近い状態)になっている。これは、時系列でみれば(
図30(b)、
図31の順にみると)、ゆらぎが次第に減衰していく消極的なゆらぎを示す受容している状態(リラックスしている状態)から、耐えている状態に変化しているのであるが、2つの状態間で急激に変化するのではなく、それらの中間状態として硬直したような状態が存在する。
一方、
図33(b)から
図34(a)に移る際には、
図33(b)の右肩上がりの回帰直線が、
図34(a)において、水平に近い状態に変化する。この場合は、ゆらぎが次第に拡散する積極的なゆらぎを示す反撃(攻撃)している状態から、耐えている状態に変化するが、この場合の中間状態としては、反撃(攻撃)を我慢する状態が存在する。
従って、本発明による解析波形及び回帰直線の時間的変化を求めることにより、各状態間の中間状態の推定を行うこともできる。
【0084】
(試験例4)
(心電図、指尖容積脈波との比較試験)
図1に示した生体信号測定手段1を背部に当てて上記と同様に心部揺動波(APW)を採取する手段に加え、被験者の体前側の胸部及び腹部においてそれぞれ上記と同じ構造の生体信号測定手段(但し、大きさは上記生体信号測定手段1よりも小さい)を当接し、計3箇所から生体信号測定手段による生体信号データ(以下、これらをまとめて「体表脈波」という)を得た。また、試験時に、同時に、心電図計により心電図を測定するとともに、指尖容積脈波計((株)アムコ製、フィンガークリッププローブ SR−5C)を用いて指尖容積脈波も測定した。結果を被験者別に
図35〜
図39に示す。なお、各図において(a)は胸部から得た生体信号の解析波形を、(b)は腹部から得た生体信号の解析波形を、(c)は背部から得た生体信号(心部揺動波)の解析波形を、(d)は心電図計から得た心電図データの解析波形を、(e)は(a)〜(d)の解析波形を併せて示したものを、(f)は指尖容積脈波データの解析波形をそれぞれ示す。
【0085】
図35は、20歳代の健常な男性AO氏のデータである。実験中の被験者AO氏の様子は、実験開始後5分でウトウトし始め、その後ずっと睡眠したが、物音がする度に目が覚める程度の浅い睡眠であった。
【0086】
図35から、2つの回帰直線間の分岐点同士の間に所定の較差があり、機能低下による眠気を生じている(睡眠中も含む)と判定できる。また、いずれのデータもほぼ同一の傾向を示しているが、心電図のデータと、胸部、腹部及び背部のデータとの間で若干の乖離がある。
【0087】
図36も、20歳代の健常な男性U氏のデータである。実験中の被験者U氏の様子は、実験開始後10分までは覚醒しており、その後ウトウトして20分後過ぎから浅い睡眠になった。
【0088】
図36から、2つの回帰直線間の分岐点同士の間に機能低下による所定の較差があり、眠気を生じている(睡眠中も含む)と判定できる。また、いずれのデータもほぼ同一の傾向を示しているが、心電図のデータと、胸部、腹部及び背部のデータとの間に若干の乖離がある。
【0089】
図35(e)及び
図36(e)を参照すると、20歳代の健常な人の場合で、心電図のデータに対し、胸部、腹部及び背部のデータとの間に若干の乖離があると、睡眠中であることを示すと考えられる、乖離の幅は個人差があるため、予めデータを取っておき、所定の閾値を設定することができる。
【0090】
図37は、89歳の健常な男性HO氏のデータである。この被験者HO氏も上記と同様に眠気が生じているが、各データは総じて同様の傾向を示している。これに対し、
図38は、同じ被験者HO氏が測定前日の睡眠時間が4時間半で、測定日の午前中頭痛を感じていたが測定時には頭痛を感じなくなった状態での試験結果である。この図においても、全体的にはいずれも類似の傾向にあるが、(e)では、心電図のデータが若干他のデータから乖離している。これは、高齢であることから睡眠不足により心臓に負担がかかったことによるものと考えられる。
【0091】
すなわち、
図35〜
図37のように、測定部位を異ならせた体表脈波のデータ、心電図のデータ、指尖容積脈波のデータを比較することで、それらがほぼ一致していれば概ね健常と言えるが、データが相互に不一致で乖離の程度が大きい場合には、何らかの異常が体に生じていることを示すものと考えられる。
【0092】
そこで、疾患を有している者について試験を行った。
図39は86歳の男性被験者(藤田良登氏)であって、大腸がんを患っており、測定時の約1ヶ月前にリンパ節切除、大腸の一部切除の手術を行っており、測定時は家の中で歩行でき、食事を座って摂ることができる程度に回復した状態である。測定日の同日に行った血液検査の結果が
図40であり、この血液検査の結果を見る限り、正常値の範囲から大きく外れたデータはなく、血液検査の結果のみから判断すれば術後の経過が良好で特別な異常はないと判断できる。
【0093】
しかしながら、
図39の測定結果を見ると次のことが言える。まず、
図39(f)から、心電図データと他のデータとの間の乖離が極めて大きいことがわかる。これは、心臓に大きな負担が生じていることを意味する。(c)からは、分岐点が複数であるとともに、短周期側の振幅が顕著に大きく、病気の傾向を示していることがわかる。また、0.006Hz以上の2つの回帰直線がいずれも右肩上がりであり、外部ストレスによる機能低下に対して強い反撃性(攻撃性)を示している。(a)の胸部及び(b)の腹部も、(c)と同様に機能低下と強い反撃性(攻撃性)を示しているが、短周期側の振幅では腹部の方が胸部よりも大きく、活性度が高い。なお、(e)の指尖容積脈波のデータから読み取れる末梢系は分岐点が4つ以上で病気の徴候を示すものの、0.006Hz以上の短周期側の回帰直線の傾きが1/fに近く、末梢系の反撃性(攻撃性)は(c)の心部揺動脈波と比較して若干低い。
一方、血液検査及び
図39の測定を行った日の2週間後において、被験者(藤田良登氏)の躯幹部のCT撮影を行った。このCT画像を
図41として示す。
図41から多量の腹水、胸水が認められ、腹膜播種及び胸膜播種の疑いを指摘された。また、CT画像から心肥大の傾向が見られ、
図39(f)の心電図データと他のデータとの間の大きな乖離は、心肥大により生じたものであると考えられる。
【0094】
本発明を用いた体表脈波の解析結果では、
図39に示したように、胸部及び腹部の病的徴候を検出している。一方、(a)の胸部及び(b)の腹部の解析波形と、(c)の背部の解析波形とを比較すると、胸部及び腹部の解析波形が比較的近似しているのに対し、背部の解析波形は異なっており、特に短周期側において振幅が大きくなっている。これは、胸水と腹水の増加、胸膜播種、腹膜播種、大動脈瘤などの影響で胸部及び腹部にストレスが及び、胸部及び腹部内が高圧になり、背部の解析波形とは大きく異なるものになったものと考えられる。従って、背部(心部揺動波)の解析波形を他の体表脈波と比較することで、ストレスの及んでいる箇所を特定できると言える。すなわち、本発明の生体状態推定装置による解析結果は血液検査だけでは得られない情報を得ることができると言える。CT撮影は、被験者(藤田良登氏)の体調が不調になったために行ったものであるが、その意味では、近い将来における体調変化を、本発明を用いた体表脈波の解析結果は捉えていると言える。
【0095】
また、本発明の生体状態解析装置は、上記した生体信号検出手段1を用い、非侵襲で得た生体信号(心部揺動脈波を含む体表脈波)を解析する装置である。このため、被験者の負担が極めて小さく、高齢で病気の患者でも負担をかけることなく簡易に測定し解析できる。さらに、心電図データと比較することで心臓への負担の度合いも判定できる。この被験者は、実際、さらに8日後に腹膜播種、胸膜播種と診断され、腹水を1リットル抜き、一時的な回復を得たが、余命1ヶ月と診断された。その1日後、動脈酸素分圧が急降下したので純酸素を3リットル吸引したが状態が急変していった。このような純酸素の吸収によっても動脈酸素分圧が上昇しないものは低酸素血症の特徴である。すなわち、これは、酸素化能障害が生じたものと思われる。この酸素化能障害は拡散障害に端を発すると考えられ、胸水による圧迫によって生じたものと推定される。なお、通常、酸素飽和度(SpO
2)は成人で99%あり、これが85%以下になると脳に酸素が行かなくなって死に至る。本被験者の場合、容態が急変し、腹水を抜いた直後88%あった酸素飽和度(SpO
2)が急降下し、3リットルの酸素吸引を行っても91%にしかならなかった。
【0096】
図42は、62歳の男性被験者YA氏の測定結果で、YA氏は、肺がんを患っている。胸部、腹部及び背部(心部揺動波)において分岐点が4つ以上あり、短周期側の回帰直線が右肩上がりになる反撃性(攻撃性)を示している。すなわち、胸部、腹部及び心臓において機能低下が生じ、交感神経の亢進が見られる。また、(f)から心電図データとの解析結果との乖離も比較的大きく、心臓の負担が大きいことがわかる。さらに、短周期側における振幅を比較すると、(a)〜(c)の中枢系(胸部、腹部及び心臓)のデータも大きいが、(e)の末梢系のデータの方が振幅がより大きく、末梢系における異常(病気)も懸念される。
【0097】
図43は、同じ男性被験者YA氏の臥位のデータであるが、
図42の約4ヶ月前の測定結果である。このデータにおいても、(a)〜(c)から中枢系の異常が検出されていることがわかる。また、(e)の末梢系の異常の程度が高いことがわかる。その一方、(f)の心電図データとの比較を見ると、
図42よりも乖離が小さい。従って、約4ヶ月の間に心臓に負担がかかるような異常(病気)が進行したと見ることができる。
ここで、
図39〜
図43の被験者はいずれもがん患者である。また、被験者YA氏の場合、
図42はがんの診断がなされた後のデータであるが、
図43はがんの診断がなされる以前のデータである。しかしながら、いずれも、短周期側の回帰直線の右肩上がりの現象がみられる。特に、心部揺動波の右肩上がりの現象は顕著である。従って、このように少なくとも心部揺動波において右肩上がりの回帰直線が出現した場合、特に、眠気の徴候と混同しないように、眠気のない覚醒状態で測定したものでありながら、右肩上がりの回帰直線が少なくとも1本、好ましくは2本以上出現した場合には、「がんの疑いあり」と判定する構成とすることが好ましい。本実施形態の生体状態推定装置は、厳密な診断を行うことが目的ではなく、簡易な測定で、病気の疑い、ここではがんの疑いのある者を大まかにスクリーニングするものである。その意味で、このような右肩上がりの現象が出現したならば、何らかの病気を患っていること、特にがんの可能性があることを抽出できる判定手段とすることが好ましい。
【0098】
図44は、73歳の自覚的には健常な男性被験者HO氏のデータである。(c)の背部(心部揺動波(心臓))では、分岐点が1つであって、分岐点以降の回帰直線の傾きが1/fに近いが、(a)の胸部及び(b)の腹部では、分岐点が4つ以上で、短周期側の回帰直線が水平状態に近い傾き又は右肩上がりになっており、病気への生体からの反撃性(攻撃性)の増大から胸部、腹部において異常(病気)が見られると判定できる。(f)を見ると、心電図のデータとの間で乖離があり、心臓への負担が大きい状態であると判定できる。また、(e)の末梢系も、分岐点が4つ以上で、短周期側の回帰直線が水平状態に近いことから病気の可能性があると判定できる。
【0099】
(まとめ)
図45(a)は、入眠予兆現象を生じた指尖容積脈波のデータの代表事例を示す。これは生体信号として指尖容積脈波を用いたものであり、指尖容積脈波の原波形をウエーブレット解析したデータと、指尖容積脈波の原波形から周波数傾きの時系列波形を求めたデータである。
図45(a)に示したウエーブレット解析においてLF/HFのバースト波形が生じた時点が入眠予兆現象を示す信号である。
【0100】
この入眠予兆信号の前後で、上記した周波数の傾き時系列波形を周波数解析して解析波形の回帰直線を求めたのが
図45(b)である。この図において、覚醒時では、回帰直線は、1/f傾きであるのに対し、入眠予兆信号が現れた後の眠気のある状態では、分岐点が生じていることがわかる。すなわち、0.006Hz未満の領域では、覚醒時の右肩下がりの傾きが、入眠予兆信号の出現後は右肩上がりの傾きに変化している。この中で、上記した特徴的な信号である、0.0017Hz、0.0035Hz、0.0053Hzの推移を抽出したのが
図45(c)である。この図から、眠気が生じると、0.0053Hzの信号(活動調整信号)のパワースペクトル密度の値が相対的に高くなり、これと対照的に0.0017Hzの信号(機能調整信号)のパワースペクトル密度の値が相対的に小さくなり、0.0035Hzの信号(疲労受容信号)が若干相対的に高くなっている。従って、この代表事例から、特に、活動調整信号の変化を覚醒時と比較することにより眠気が生じているか否かを判定するのに有効である。
【0101】
図46は、試験例4の各被験者の事例をまとめて模式的に示した図である。胸部、腹部、背部(心部揺動波)の体表脈波の解析波形に対し、心電図データの解析波形、指尖容積脈波の解析波形がいずれも近似している場合には、健康と判定する。健康事例に対し、心電図データの解析波形が乖離している場合には、加齢に伴い心臓・血管系に負担がかかっていることを示す。これに加えて、背部(心部揺動波)の波形が、胸部・腹部の波形と乖離し、指尖容積脈波の波形の振幅が大きくなっている場合には、心肥大等により心臓に大きな負担がかかっていることを示す。さらに、心電図データの乖離に加え、腹部の体表脈波、背部(心部揺動波)の体表脈波、指尖容積脈波の解析波形が近似している一方で胸部の解析波形が乖離している場合には、腹部付近の疾患、例えば腹部大動脈に異変が生じた可能性を示す。なお、心電図データ等の乖離の程度は、個人差もあるため、例えば、健常時における心電図データと心部揺動波との乖離の量を基準として、例えばその5倍以上離れた場合に上記のように判定する、といったように設定できる。
【0102】
図47は、上記したものを全てまとめて示したものであり、中央の図に示した1/fの傾きになっている解析波形を基準とし、これを健常かつ覚醒状態とすると、0.006Hzよりも短周期側の回帰直線が1/f
nに近いか、水平状態に近いか、右肩上がりかにより、それぞれ、生体に生じている所定の状態(眠気、病気など)を受容しているか、その状態に耐えているか、その状態に対して反撃ないしは攻撃をしているかを判定できる。特に、上記したように、0.0017Hz、0.0035Hz及び0.0053Hzの信号の推移に注目することにより、眠気の状態をより確実に検出できる。
【0103】
また、分岐点が2つ以上あり、2つの回帰直線間に所定以上の較差がある場合には、疲労(眠気)や病気による機能低下が生じたことを示すものである。また、0.0053Hzよりも短周期側、好ましくは0.006Hzよりも短周期側における回帰直線の傾きが1/f
nに近いか、水平状態に近いか、右肩上がりかにより、傾斜角度が水平に近づくほど、さらには右肩上がりになるほど、疲労(眠気)や病気による機能低下に対する抵抗力がより強くなることを意味する。すなわち、1/f
nに近い場合には比較的リラックスしてその状態を受け入れていることを意味し、水平状態に近い場合にはその状態に耐えていることを意味し、さらに右肩上がりになるとその状態により強い抵抗を示し、反撃あるいは攻撃を生体が示していることを意味する。
【0104】
また、0.053Hzよりも短周期側、好ましくは0.006Hzよりも短周期側における解析波形の振幅が大きいほど、活性度合いの高いこと、すなわち、病気であれば病気と戦っていることを示すものである。
【0105】
以上のように本発明の生体状態推定装置を用いることにより、人の状態を従来よりも細かく分析して把握することができる。
【0106】
また、上記した0.0017Hz(機能調整信号)、0.0035Hz(疲労受容信号)、0.0053Hz(活動調整信号)が入眠予兆現象に関する特徴を示すことを立証するための睡眠実験を行ったところ、
図48〜
図51に示す結果が得られた。実験は、人通りの無い屋内の隔離された空間で、実験開始30分間は眠気に耐えて覚醒状態を維持し、その後、30分間以降は各自に意志に任せ、眠たい人は眠りに入り、まだ頑張り続けられる人は頑張っても良いというものであり、心部揺動波(APW)を周波数分析し、上記3つの周波数成分の分布率の波形と各被験者の状態について分析した。なお、分布率は、パワースペクトルの時系列変化から、上記した機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号に相当する周波数成分を抜き出し、この3つの周波数成分のパワースペクトルの値の合計を100とした際の3つの各周波成分の割合を時系列に算出して求める。3つの周波数成分はゼロクロス法(0x検出法)とピーク検出法(peak検出法)によりそれぞれ算出した。
【0107】
まず、ゼロクロス法(0x検出法)とピーク検出法(peak検出法)の少なくとも一方の分布率波形において、0.0017Hzと0.0035Hzが逆位相になっている時間帯とその時間帯における被験者の状態を比較した。結果を
図48に示す。
図48から、0.0017Hzと0.0035Hzが逆位相になっている時間帯では、被験者がウトウトしていたり、入眠していたりする人数が相対的に多くなっている。
【0108】
また、逆位相の時間帯において、0.0017Hzが0.0035Hzよりも分布率が高い場合(APW(1))、0.0035Hzが0.0017Hzよりも分布率が高い場合(APW(2))、0.0017Hzの分布率が高い時間帯と0.0035Hzの分布率が高い時間帯とが連続的に生じた場合(APW(3))、0.0017Hzと0.0035Hzの逆位相が生じていてかつ0.0053Hzが上昇が生じた場合(APW(4):0.0017Hzが40%前後、0.0035Hzが10%以下、0.0053Hzが50%以上)について、その後入眠に至ったか否かを調べた。
【0109】
その結果、
図48に示したように、APW(1)が55.6%、APW(2)が66.7%、APW(3)が50%、APW(4)が72.2%であった。従って、APW(1)の波形変化パターンを「弱い眠気」の状態、APW(2)の波形変化パターンを「強い眠気」の状態、APW(3)の波形変化パターンを「眠気に抵抗」している状態、APW(4)の波形変化パターンを「入眠予兆」の状態とした相関データを記憶部に記憶させておく。判定手段660は、波形変化パターンを特定したならば、上記の波形変化パターンのいずれに該当するかを特定し、人の状態を判定する。
【0110】
なお、
図48に示したように、3つの周波数成分はゼロクロス法(0x検出法)とピーク検出法(peak検出法)のいずれで算出した場合も眠気、入眠予兆の判定は可能であり、いずれを用いてもよいが、感度の高さに個人差もあるため、個人毎にいずれを用いるかを設定してもよい。また、常に両方を用い、両者ともに逆位相が現れた場合に、眠気、入眠予兆現象と判定するようにすることもできる。但し、本発明の生体信号測定手段を自動車などに配置して居眠り検知に利用する場合、いずれか一方において逆位相が現れただけでも、眠気、入眠予兆と判定するようにすると、居眠りの予防により効果的と考えられる。
【0111】
一方、
図49は、覚醒状態におけるゼロクロス法による傾き時系列波形のパターンを示した図であり、波形と心理判定(覚醒しているか、軽い眠気を感じているか)との比較を示している。
【0112】
図50は、
図48における心理判定(APW(+))の中で、「覚醒」と判定されたものを「Awake」、「ウトウト・眠気」及び「入眠」と判定されたものを「Sleep」とし、
図49における心理判定(APW(−))の中で、「覚醒」と判定されたものを「Awake」、「軽い眠気」と判定されたものを「Sleep」として相関を示したものである。その結果、X
2(カイ2乗値)=30.98であり、自由度1の場合のP=5%の値である3.841より大きいので、APW(−)とAPW(+)の間には有意差があるといえる。
【0113】
図51は、
図48における心理判定(APW(+))の中で、APW(1)(2)(3)(4)の中で入眠に至った事例と入眠に至らなかった事例の数、及び、
図49における心理判定(APW(−))の中で、入眠に至った事例と入眠に至らなかった事例をまとめたものである。その結果、X
2(カイ2乗値)=26.97であり、自由度2の場合のP=5%の値である5.991より大きいので、APW(−)とAPW(1)(2)(3)とAPW(4)の間には有意差があるといえる。
以上のことから、本発明の周波数解析により解析波形及び回帰直線を求めて、その傾きに基づいて眠気及び入眠予兆現象を含む状態を判定する手法、ウエーブレット解析及び傾き時系列波形により入眠予兆現象を判定する手法、上記の3つの特徴的な信号に関する分布率に基づいて眠気及び入眠予兆現象を含む状態を判定する手法は、
図45及び
図48〜
図51を参照すると、いずれも相関性があると言える。
【0114】
(心房細動患者の事例)
図52は、心房細動の患者について静的着座状態で生体信号測定手段1により背部から心部揺動波(APW)を得て解析したデータ(
図52(a),(b))と、指尖容積脈波計から得られた指尖容積脈波を解析したデータ(
図52(c))とを示している。なお、
図52(a)は、0.01Hz付近以上の短周期側の波形について1本の回帰直線を引いたものであり、(b)はよりミクロに分析し、2本の回帰直線を引いたものである。
【0115】
(a),(b)のAPWは71分間の計測データであり、(c)の指尖容積脈波は62分間の計測データである。なお、実験は、被験者が出席している会議中に実施しており、会議中被験者は発言をすることはなかったが高い覚醒状態を維持していた。(a)では、0.01Hz付近に2つ目の分岐点があり、それよりも短周期側の回帰直線が水平状態に近い傾きを示していることがわかる。一方、(c)では、0.004Hzにおける分岐点以降、それよりも短周期側の回帰直線は1/fに近い傾きを示している。このことから、指尖容積脈波の(c)の解析結果だけで判定する場合、被験者がリラックス状態であるという判定しかできない。しかし、APWの(a)の解析結果であれば、短周期側の回帰直線の傾きが水平に近い状態となっており被験者がその状態に耐えていることがわかる。心房細動のような心疾患は、心拍変動にも指尖容積脈波にも現れず、一見、健常状態にあって病気としてみられない。これは心臓そのもののゆらぎの変調によるものだからであり、いわゆる不顕性の不整脈による心疾患である。すなわち、心臓で発現するもので、指尖容積脈波では不整脈として捉えにくい。指尖容積脈波において特徴を捉えにくいのは、末梢を正常に保とうとして心臓がいわば頑張っているためである。しかし、上記した生体信号測定手段1を用いた背部からの生体信号である心部揺動波(APW)であれば、心臓の動きそのものの特徴を明確に捉えることができる。従って、指尖容積脈波の解析波形の傾きが1/fに近い状態でありながら、APWの解析波形の短周期側が水平状態に近い傾向を示した際には、心房細動の傾向を示すものと判定することができる。
但し、(b)に示したように、0.01Hz以上の短周期側の波形をより詳細に解析して回帰直線を引くと、0.001Hzと0.002Hzとの間に分岐点が認められ、2本の回帰直線を引くことができる。すなわち、より詳細な分析を行うことにより、心房細動も分岐点が4つ以上(回帰直線が短周期側で2段以上)となる病気状態の一つと捉えることが可能である。
【0116】
図53は、
図52の被験者(W氏)のAPWの71分間の計測データを分析した解析結果(
図52(a)に相当)と、心房細動を有する他の被験者(I氏)のAPWの10分間の計測データの解析結果から得られた回帰直線とを示したものである。また、従来知られている心房細動の患者の24時間分の心電図のR−R間隔変動から得られたパワースペクトルの回帰直線を併せて示したものである(文献:Junichiro Hayanoほか、Spectral characteristics of ventricular response to atrial fibrillation, Am J Physiol Heart Circ Physiol, 273: 2811-2816, 1997)。
また、
図54は、上記の文献に示されている心電図のR−R間隔変動から得られた健常者の回帰直線及び心房細動の患者の回帰直線と、本発明の周波数傾き時系列波形を解析して得た健常者の回帰直線及び上記したW氏とI氏の回帰直線とを併せて示したものである。
図53及び
図54から、健康であれば、心電図データの解析波形と周波数傾き時系列波形から求めた解析波形とがいずれもほぼ1/fの傾きで推移しているが、心房細動の患者の場合には、いずれも、0.0033Hzよりも短周期側において、傾きがほぼ水平になっている。これは外部ストレスに対して耐えている状態を示すものである。これらのことから、本発明の周波数傾き時系列波形を解析して回帰直線を求める手法は、従来の心電図データの解析波形を利用する手法と同様の判定結果が得られ、心房細動を検出する手段として適切であると言える。
【0117】
(対象評価試験)
被験者を救急車用防振架台に寝かせ、30分〜40分間走行して上記した解析波形と回帰直線を求めた。被験者は、20歳代の健常な男性被験者U氏及び30歳代の健常な男性被験者KO氏であり、結果を
図55及び
図56に示す。なお、救急車用防振架台は、上下及び前後の2軸で除振するタイプ(NA−III)、NA−IIIの上下及び前後の除振機能をロックしたタイプ(NA−IIIロック)、振り子のように動作して除振するタイプ(NA−IV)の3種類を準備してワンボックスタイプの自動車に搭載し、走行した。
【0118】
図55から、被験者U氏は、NA−III及びNA−IVに関して、分岐点が1点で短周期側の回帰直線の傾きが1/fに近似している。但し、NA−IVの傾きの方がより1/fに近く、NA−IIIの方が若干水平状態に近い。従って、これらの救急車用防振架台について被験者U氏は共に快適に感じているが、NA−IVの方がより快適と感じていると言える。一方、NA−IIIロックでは、被験者U氏は、長周期側の回帰直線と短周期側回帰直線との間に大きな較差があり機能低下が生じていることがわかる。また、短周期側の回帰直線の傾きが水平状態に近似しており、不快な状況に対して忍耐強く耐えようとする意識が強く働いていることがわかる。
【0119】
被験者KO氏の場合は、
図56から、いずれの場合も、分岐点が2つ以上あり、長周期側の回帰直線と短周期側の回帰直線との間に較差があることから眠気が生じている。しかし、この中で、NA−IVについては、短周期側の回帰直線の傾きが1/fに近似していると共に、0.006Hzよりも短周期側の振幅が安定している。従って、この被験者は、NA−IVを最も快適と感じていると判定できる。NA−IIIについては、短周期側の回帰直線の傾きが1/fに近似しリラックスしていることがわかるが、0.006Hzよりも短周期側における解析波形の振幅の乱れからストレスに抵抗していることがわかる。一方、NA−IIIロックでは、0.006Hzよりも短周期側の2本の回帰直線が右肩上がりのものと、水平状態に近似したものとがあり、不快な状況に対して反撃(攻撃)したり、あるいは耐えようとする意識が強く働いていることがわかる。
【0120】
これらのことから、被験者U氏は、NA−IVを最も快適と感じ、次にNA−IIIを快適と感じている。また、被験者KO氏も、NA−IVを最も快適と感じ、NA−IIIを快適と感じている。従って、人が快適と感じる感覚ないしは好みの違いを本発明により評価できると言える。
【0121】
図57は、上記被験者U氏の60分間の座位姿勢での睡眠実験の結果を示したものである。(a)は60分間自由な状態(起きているか寝ているかを被験者の自由に任せた状態)とした場合の結果であり、(b)は、疲労を感じた後、栄養ドリンクを飲み、その後60分間自由な状態とした場合の結果であり、(c)は、前半覚醒状態を維持させ、後半自由な状態とした場合の結果である。
【0122】
(a)では疲労による眠気が生じ、分岐点が4つ生じ、しかも、0.006Hzよりも短周期側の2本の回帰直線がいずれも水平に近いことから眠気に耐えようとしていることがわかる。これに対し、(b)では、分岐点が1点で短周期側の回帰直線の傾きが1/fに近くなっている。これは、被験者U氏が、栄養ドリンクの効き目がよく、速やかに疲労が回復したことを示すものである。(c)では、分岐点が2つであり、眠気状態であったことがわかる。このことから、本発明を用いることにより栄養ドリンク等の薬剤の服用効果を確認できることがわかる。この点は、
図33(a),(b)において、投薬時と投薬を中止した際のデータと同じ傾向であり、このことからも本発明は薬剤の服用効果の確認に有用であると言える。但し、
図57(c)において、0.006Hz以上の短周期側をより詳細に分析すると、0.006〜0.01Hzの範囲とそれ以上の範囲とで2本の回帰直線を引くことができる。このように分析した場合には、一見健常に見えるU氏も、上記した心房細動と同様の徴候を有していると判定されることなる。実際、U氏は、心房細動の自覚症状があるとのことであった。
【0123】
図58は、上記した説明をより理解しやすくするためにまとめた図である。この図に示したように、本発明の生体状態推定装置は、健常と病気とをまず大きく分けて判定する。そして、健常の中で、覚醒、眠気、入眠予兆、睡眠の各状態を判定する。病気の中では、がん、心房細動、心肥大の疑いを判定してそれらをスクリーニングする。
図58では、各状態の下部に、それぞれの典型的な回帰直線を表示しているが、この図からわかるように、本発明の状態推定技術は、それぞれの状態で異なる回帰直線を示すことものであることから、状態推定をより正確に行うことができるものである。