(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751482
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】酸化物スパッタリングターゲットの製造方法並びにこれに用いる緩衝粉
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20150702BHJP
C04B 35/00 20060101ALI20150702BHJP
C04B 35/48 20060101ALI20150702BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20150702BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20150702BHJP
G11B 7/26 20060101ALI20150702BHJP
G11B 7/243 20130101ALI20150702BHJP
G11B 7/254 20130101ALI20150702BHJP
G11B 7/257 20130101ALI20150702BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/00 J
C04B35/48 D
C04B35/64 N
C04B35/64 L
G11B7/26 531
G11B7/24 511
G11B7/24 534K
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-110946(P2011-110946)
(22)【出願日】2011年5月18日
(65)【公開番号】特開2012-241218(P2012-241218A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】張 守斌
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝典
(72)【発明者】
【氏名】杉内 幸也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
【審査官】
伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−145174(JP,A)
【文献】
特開平04−132659(JP,A)
【文献】
特開平05−246760(JP,A)
【文献】
特開2009−270148(JP,A)
【文献】
特開2003−323743(JP,A)
【文献】
特開2008−037702(JP,A)
【文献】
特開昭63−230551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
C04B 35/48
C04B 35/64
C04B 35/645
G11B 7/243
G11B 7/254
G11B 7/257
G11B 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉を含む圧粉体を形成する工程と、
該圧粉体を型内に配置し該型内の前記圧粉体の外周に緩衝粉を充填した状態で熱間加工して酸化物スパッタリングターゲットとなる酸化物焼結体を作製する工程とを有し、
前記緩衝粉を、前記熱間加工時の加熱により焼結すると共に焼結後の冷却時に前記酸化物焼結体の膨張により前記緩衝粉による焼結体が割れる粉末とすることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉が、酸化ジルコニウム粉であり、前記圧粉体は酸化クロム粉を含むことを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記圧粉体が、さらに酸化ケイ素粉を含むことを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記緩衝粉を、SiO2粉とすることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記熱間加工が、ホットプレス装置を用いてホットプレス温度:1200℃以上でホットプレスする加工であることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記酸化物焼結体を、直径80mmを超える円盤状とすることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記圧粉体の前記酸化ジルコニウムの含有量を、25〜80mol%に設定することを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉を含む圧粉体を型内に配置し、熱間加工して酸化物スパッタリングターゲットとなる酸化物焼結体を作製する際に、前記型内の前記圧粉体の外周に充填される緩衝粉であって、
前記熱間加工時の加熱により焼結すると共に焼結後の冷却時に前記酸化物焼結体の膨張により割れる粉末であることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットの製造用緩衝粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の誘電体層や界面層などを成膜するための酸化物スパッタリングターゲット及びその製造方法並びにこれに用いる緩衝粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相変化型情報記録媒体の光ディスクを構成する誘電体層や界面層などとして、(ZrO
2)
M(Cr
2O
3)
100−M(mol%)(式中、20≦M≦80)の酸化物膜や、(ZrO
2)
K(Cr
2O
3)
L(SiO
2)
100−K−L(mol%)(式中、20≦K≦70、20≦L≦60、60≦K+L≦90)の酸化物膜が用いられている。この酸化物膜は、酸化物焼結体のスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって成膜されている(例えば、特許文献1参照)。
この酸化物焼結体のスパッタリングターゲットを製造する方法としては、上記特許文献1には具体的に記載されていないが、従来、公知な大気焼結や真空ホットプレス等を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−323743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記組成のスパッタリングターゲットを製造する場合、従来の大気焼結を採用すると、有害な六価クロムが生成されるおそれがあるため好ましくなく、一方、従来の真空ホットプレスを採用すると、六価クロムの生成を回避できるものの、焼結後の冷却時に酸化ジルコニウムが正方晶から単斜晶へ相変態するため焼結体が膨張し、割れが発生するおそれがある。特に、高密度のスパッタリングターゲットを得るために真空ホットプレスを行った場合や、大型のスパッタリングターゲットを得ようとした場合に、焼結後の冷却時に膨張しようとする焼結体に対し、ホットプレスの型が拘束になり、焼結体の割れの発生が顕著になる不都合があった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、焼結後の冷却時における割れの発生を抑制することができる酸化物スパッタリングターゲット及びその製造方法並びにこれに用いる緩衝粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法は、焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉を含む圧粉体を形成する工程と、該圧粉体を型内に配置し該型内の前記圧粉体の外周に緩衝粉を充填した状態で熱間加工、すなわち熱間にて加圧成形して酸化物スパッタリングターゲットとなる酸化物焼結体を作製する工程とを有し、前記緩衝粉を、前記熱間加工時の加熱で焼結すると共に焼結後の冷却時に前記酸化物焼結体の膨張により前記緩衝粉による焼結体が自己犠牲的に割れる粉末とすることを特徴とする。
【0007】
この第1の発明では、緩衝粉を、熱間加工時の加熱により焼結すると共に焼結後の冷却時に酸化物焼結体の膨張により前記緩衝粉による焼結体が自己犠牲的に割れる粉末とするので、緩衝粉が加熱時においては焼結して外周面からの圧力(側圧)を酸化物焼結体に伝え、該酸化物焼結体の密度を高めると共に、焼結後の冷却時においては酸化物焼結体が膨張しても焼結した緩衝粉による焼結体が割れることで該酸化物焼結体の割れを抑制することができる。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉が、酸化ジルコニウム粉であり、前記圧粉体は酸化クロム粉を含むことを特徴とする。
すなわち、この第2の発明では、金属酸化物粉が、酸化ジルコニウム粉であり、前記圧分体は酸化クロム粉を含むので、相変化型情報記録媒体の光ディスクを構成する誘電体層や界面層などの成膜に用いる(ZrO
2)
M(Cr
2O
3)
100−M(mol%)(式中、20≦M≦80)、のスパッタリングターゲットを、割れを抑制して得ることができる。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記圧粉体が、さらに酸化ケイ素粉を含むことを特徴とする。
すなわち、この第3の発明では、圧粉体がさらに酸化ケイ素粉を含むので、相変化型情報記録媒体の光ディスクを構成する誘電体層や界面層などの成膜に用いる(ZrO
2)
K(Cr
2O
3)
L(SiO
2)
100−K−L(mol%)(式中、20≦K≦70、20≦L≦60、60≦K+L≦90)のスパッタリングターゲットを、割れを抑制して得ることができる。
【0010】
また、第4の発明は、第2または第3の発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記緩衝粉を、SiO
2粉とすることを特徴とする。
すなわち、この第4の発明では、緩衝粉を、SiO
2粉とするので、型である黒鉛より膨張係数が大きく、焼結時に酸化物焼結体への側圧を加え易くなり、より高密度化することができる。
【0011】
また、第5の発明は、第2から第4の発明のいずれかに係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記熱間加工が、温度:1200℃以上でホットプレスする加工であることを特徴とする。
1170〜1190℃の低温による真空ホットプレスであれば、上記緩衝粉を用いない従来の製法でも、上記割れの発生をある程度、抑制することが可能であるが、作製された酸化物焼結体(酸化物スパッタリングターゲット)の密度が70〜85%の低密度となり、スパッタ時に割れ易くなって大きなパワーを掛けることができず、生産性が悪くなってしまう。これに対して、第4の発明では、ホットプレス温度:1200℃以上でホットプレスするので、密度の向上を図ることができ、理論密度比が90%以上の高密度の酸化物焼結体を得ることができる。なお、理論密度比とは、酸化物焼結体と理論密度の比をいい、理論密度とは焼結体原料の組成及びその結晶構造のデータから、空孔等の欠陥が全くない場合に導かれる密度をいう。
【0012】
また、第6の発明は、第2から第5の発明のいずれかに係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記酸化物焼結体を、直径80mmを超える円盤状とすることを特徴とする。
第6の発明において、酸化物焼結体を直径80mmを超える円盤状とした理由は、緩衝粉を用いない従来の真空ホットプレスにおいて割れが顕著に発生してしまう直径80mmを超える大型のターゲットサイズに対し、特に割れ抑制効果が得られるためである。
【0013】
また、第7の発明は、第2から第6の発明のいずれかに係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法において、前記圧粉体の前記酸化ジルコニウムの含有量を、25〜80mol%に設定することを特徴とする。
第7の発明において、酸化ジルコニウムの含有量を上記範囲に限定した理由は、含有量が25mol%未満であると、緩衝粉を用いない従来の真空ホットプレスでも割れがほとんど生じないためであり、含有量が80mol%を超えると、スパッタ膜を誘電体層とした際の情報記憶媒体の記録感度が低くなるためである。すなわち、第7の発明の製法により得られた酸化物スパッタリングターゲットで、(ZrO
2)
M(Cr
2O
3)
100−M(mol%)(式中、20≦M≦80)、(ZrO
2)
K(Cr
2O
3)
L(SiO
2)
100−K−L(mol%)(式中、20≦K≦70、20≦L≦60、60≦K+L≦90)の酸化物膜を情報記憶媒体の誘電体層としてスパッタ成膜することで、良好な記録感度を得ることができる。
【0014】
第8の発明は、上記第1の発明から第7の発明のいずれか一つの酸化物スパッタリングターゲットの製造方法で作製されたことを特徴とする酸化物スパッタリングターゲットである。
【0015】
第9の発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造用緩衝粉は、焼結後の冷却時に膨張する金属酸化物粉を含む圧粉体を型内に配置し、熱間加工して酸化物スパッタリングターゲットとなる酸化物焼結体を作製する際に、前記型内の前記圧粉体の外周に充填される緩衝粉であって、前記熱間加工時の加熱により焼結すると共に焼結後の冷却時に前記酸化物焼結体の膨張により割れる粉末であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造方法によれば、緩衝粉を、熱間加工時の加熱により焼結すると共に焼結後の冷却時に酸化物焼結体の膨張により前記緩衝粉による焼結体が自己犠牲的に割れる粉末とするので、高密度のターゲットを得ることができると共に、焼結後の冷却時に酸化物焼結体が膨張しても割れを抑制することができる。
したがって、本発明の製造方法によれば、高密度な酸化物スパッタリングターゲットを割れなく高歩留まりで作製できると共に、得られた本発明の酸化物スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことで、スパッタ時にも割れが発生し難く、高い生産性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る酸化物スパッタリングターゲット及びその製造方法並びにこれに用いる緩衝粉の一実施形態において、圧粉体の形成工程を示す断面による説明図である。
【
図2】本実施形態において、熱間加工(真空ホットプレス)の工程を示す断面による説明図である。
【
図3】本実施形態の他の例において、熱間加工(真空ホットプレス)の工程を示す平面方向から視た説明図(a)および断面による説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の酸化物スパッタリングターゲット及びその製造方法並びにこれに用いる緩衝粉の一実施形態を、
図1および
図2に参照して説明する。
【0019】
本実施形態の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法は、
図1および
図2に示すように、酸化ジルコニウム粉と酸化クロム粉(または酸化ジルコニウム粉、酸化クロム粉および酸化ケイ素粉)とを含む圧粉体1を形成する工程と、該圧粉体1を型2内に配置し該型2内の圧粉体1の外周に緩衝粉3を充填した状態で熱間加工して酸化物スパッタリングターゲットとなる酸化物焼結体4を作製する工程とを有している。
【0020】
上記圧粉体1を形成する工程では、まず酸化ジルコニウム、酸化クロム各原料粉末を、所定の比率になるように秤量する。なお、圧粉体1の酸化ジルコニウムの含有量を、25〜80mol%に設定する。また、原料粉末に酸化ケイ素粉を添加しても良いが、この場合、真空ホットプレス時のホットプレス温度の設定が適宜変更される。さらに、酸化クロム粉、酸化ケイ素粉にそれぞれ金属クロム粉末、金属珪素粉末を含有しても良い。
【0021】
上記秤量した原料粉末を混合した混合粉末、および該混合粉末とほぼ同重量のジルコニアボールをポリエチレン製ボールミル用ポットに入れ、ボールミル装置にて所定時間、湿式混合する。なお、この際の溶媒には、例えばアルコールを用いる。乾燥後、例えば目開き:500μmの篩にかけて整粒する。
【0022】
なお、本実施形態の製造方法では、直径80mmを超える円盤状の酸化物スパッタリングターゲットを作製することに好適であるため、圧粉体1の製造では、
図1に示すように、例えば直径80mmを超えるカーボンモールドの圧粉体用型5に各原料の混合粉末を入れ、ハンドプレスで圧力をかけることで圧粉体1を製造する。この圧粉体の理論密度比は、35%〜45%程度が適切である。
【0023】
次に、
図2に示すように、圧粉体用型5よりも大きな直径のカーボンスリーブの型2中に、先ほど製作した圧粉体1を中心に配置し、型2と圧粉体1との間のリング状の隙間に緩衝粉3として例えば株式会社ニッチツ製ハイシリカ(結晶質のSiO
2粉)を投入する。なお、圧粉体1および緩衝粉3の上下にはカーボンスペーサ6が設置される。
【0024】
上記緩衝粉3は、熱間加工時の加熱で焼結すると共に焼結後に酸化物焼結体4の膨張により割れる粉末である。この緩衝粉3としては、上述したようなSiO
2粉が好ましいが、その他として、1200℃以上の加熱により焼結可能なAl
2O
3,Ta
2O
5,MgOなどの粉末も採用可能である。なお、緩衝粉3としては、焼結時にカーボン製の型2と反応する材料は適さない。
【0025】
また、この緩衝粉3の粒度は、粗い方が好ましい。すなわち、圧粉体1との密度差がある方が、緩衝粉の焼結体が割れた時のクラックが酸化物焼結体4に伝わり難くなるためである。なお、原料粉末を予め圧粉体1としてあるので、内部に緩衝粉3が入り難い。圧粉体1の理論密度比は、35%〜45%程度が好ましい。
例えば、緩衝粉3としてSiO
2粉を採用する場合、1〜10μm(例えば3μm程度)の粒度が採用される。この緩衝粉3は、圧粉体1の外周に2〜20mmの厚さ(外周方向)で設けることが好ましい。2mmより薄いと十分な緩衝効果が得られず酸化物焼結体4に割れが発生し易く、20mmより厚いと酸化物焼結体4の外周密度が低下し易くなるためである。
【0026】
次に、上記の状態で、ホットプレス装置を用いてホットプレス温度:1200℃以上で所定圧力、所定時間で真空ホットプレスし、酸化物焼結体4を得る。この後、得られた酸化物焼結体4を、機械加工により所定形状とする。なお、得られた酸化物焼結体4は、中央部に比べて外周部の密度がやや低くなる傾向が生じるが、外周部を機械加工により削ることで密度差を無くすことができる。こうして得られた酸化物焼結体4を、バッキングプレートに接合して酸化物スパッタリングターゲットとする。
【0027】
このように本実施形態の酸化物スパッタリングターゲットの製造方法では、緩衝粉3を、熱間加工時の加熱で焼結すると共に焼結後に酸化物焼結体4の膨張により割れる粉末とするので、緩衝粉3が加熱により焼結して外周面からの圧力を酸化物焼結体4に伝え、該酸化物焼結体4の密度を高めると共に、焼結後の冷却時に酸化物焼結体4が膨張しても焼結した緩衝粉3が割れることで該酸化物焼結体4の割れを抑制することができる。
また、緩衝粉3をSiO
2粉とするので、型である黒鉛より膨張係数が大きく、焼結時に酸化物焼結体4への側圧を加え易くなり、より高密度化することができる。
【実施例】
【0028】
上記本実施形態に基づいて実際に酸化物スパッタリングターゲットを作製した実施例について、評価を行った結果を説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1としては、まずZrO
2(純度:3N、粒径:3μm)、Cr
2O
3(純度:3N、粒径1.7〜2.2μm)の各原料粉末を、モル比50:50の比率になるように秤量した。この秤量した原料粉末を混合した混合粉末、および該混合粉末とほぼ同重量のジルコニアボール(直径2mm)をポリエチレン製ボールミル用ポットに入れ、ボールミル装置にて5時間湿式混合した。なお、この際の溶媒には、アルコールを用いた。乾燥後、目開き:500μmの篩にかけた。
【0029】
次に、直径:205mmのカーボンモールドの圧粉体用型5に各原料の混合粉末を入れ、ハンドプレスで例えば30MPaの圧力をかけることで圧粉体1を製造した。圧粉体1の密度は、2.2g/cm
3であった。
さらに、下部にカーボンスペーサ6を設置した直径:225mmのカーボンスリーブの型2中に、先ほど製作した圧粉体1を中心に配置し、型2と圧粉体1との隙間に緩衝粉3として結晶質のSiO
2粉(平均粒径3.7μm)を90g程度投入した。このとき、SiO
2粉は、型2と圧粉体1との隙間を完全に埋め、高さは圧粉体1と同一であり、その密度は0.6g/cm
3となる。
【0030】
次に、圧粉体1および緩衝粉3の上にカーボンスペーサ6を設置し、圧粉体1と緩衝粉3とが投入されたカーボンスリーブの型2を、ホットプレス装置に装填した後、到達真空圧力:20Pa以下に排気した後、ホットプレス温度(最高加熱温度):1260℃にて6時間、29.8MPaの圧力にて真空中にてホットプレスし、酸化物焼結体4を得た。この後、得られた酸化物焼結体4を、機械加工により直径:152mm×厚さ:6mmの酸化物スパッタリングターゲットとした。
【0031】
このように作製した本発明の実施例の酸化物スパッタリングターゲットについて、理論密度比を測定すると共に、スパッタ評価(製造時の割れやヒビの発生状態およびスパッタ時の異常放電の回数)を行った。その結果を表1に示す。
(実施例2)
本発明の実施例2としては、まずZrO
2(純度:3N、粒径:3μm)、Cr
2O
3(純度:3N、粒径1.7〜2.2μm)、SiO
2(純度 3N、粒径5μm)の各原料粉末を、モル比50:30:20の比率になるように秤量した。この秤量した原料粉末を実施例1と同様に、混合した混合粉末、および該混合粉末とほぼ同重量のジルコニアボール(直径2mm)をポリエチレン製ボールミル用ポットに入れ、ボールミル装置にて5時間湿式混合した。なお、この際の溶媒には、アルコールを用いた。乾燥後、目開き:500μmの篩にかけた。
その後は、実施例1と同様にして、酸化物スパッタリングターゲットを作成し、評価を実施した。
【0032】
(比較例1〜3)
比較例1〜3として、緩衝粉3を用いずに表1に示す条件で、従来の真空ホットプレスで作製した酸化物スパッタリングターゲットについても同様に評価した。比較例1と2は実施例1と同様な混合済み原料粉末を使用し、比較例3は実施例2と同様な混合済み原料粉末を使用した。
【0033】
なお、上記スパッタ評価は、本実施例および上記比較例の酸化物スパッタリングターゲットをバッキングプレートに接合して、以下の条件にてマグネトロンスパッタ装置でスパッタした。
電源(RF):投入電力1300W
到達真空度:5×10
−4Pa
スパッタ雰囲気:Arのみ
スパッタガス圧:0.67Pa
耐割れ性の評価:30min連続スパッタし、5min休止のサイクルで3サイクルをスパッタ後、ターゲット表面に割れ、ヒビの有無を目視にて観察した。
【0034】
【表1】
【0035】
この結果から判るように、緩衝粉3を用いずに本発明の実施例1,2と同様のホットプレス条件で作製した比較例1,3では、製造時に大きく割れが発生してしまったのに対し、本発明の実施例1,2では、製造時に割れやヒビの発生が無く、スパッタ時の異常放電も無かった。なお、緩衝粉3を用いずにホットプレス温度(最高加熱温度)を1170℃に下げた比較例2では、製造時に割れやヒビが発生しなかったが、理論密度比が低くスパッタ時の異常放電が436回と多発した。
【0036】
なお、上記実施例1について、平均密度を測定した結果、理論密度5.38g/cm
3に対し、4.94g/cm
3であり、中心部と外周部との密度差(内外密度差)が0.21g/cm
3であった。なお平均密度は電子天秤にて測定した酸化物スパッタリングターゲット全体の重量と、ノギスとマイクロメーターにて測定した酸化物スパッタリングターゲットの直径と厚みから導出した体積より求めた密度をいう。また、内外密度差は中心部と外周部において10×30×6mm程度の大きさに切り出した酸化物スパッタリングターゲットの局部を平均密度と同様に、電子天秤、ノギス、マイクロメーターにて測定し導出した密度の差をいい、(中心部の密度−外周部の密度=内外密度差)とした。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態および上記実施例では、熱間加工をホットプレスによって行っているが、他の熱間加工方法としてHIP法(熱間等方加圧式焼結法)等を採用しても構わない。
また、カーボンスリーブの形の内周面に、
図3に示すように突起2aを設け、酸化物焼結体4の割れを促進するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0038】
1…圧粉体、2…型、3…緩衝粉、4…酸化物焼結体、5…圧粉体用型、2a…突起