(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751484
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】ナノ金属ガラス粒子集合体薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20150702BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20150702BHJP
C22C 45/00 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
C23C14/35 Z
B82Y40/00
!C22C45/00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-130026(P2011-130026)
(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公開番号】特開2012-255197(P2012-255197A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】陳 娜
(72)【発明者】
【氏名】ルズギン ドミトリ ヴァレンチノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】井上 明久
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 嘉則
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−269982(JP,A)
【文献】
特開2009−064591(JP,A)
【文献】
特表2000−510042(JP,A)
【文献】
特表2008−540167(JP,A)
【文献】
特開平09−217171(JP,A)
【文献】
特開平10−140332(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/083149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B82Y 40/00
C22C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空引き、ガス置換が終了したRFマグネトロンスパッタ装置において、RF電圧印加直後のプラズマが不安定な状態で、RF電源を間欠的にON−OFFすることを特徴とするナノ金属ガラス粒子集合体薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記ガス置換ガスがアルゴンガスであり、前記RF電源の間欠的なON−OFFの間隔が、3分間以上、10分間以内であることを特徴とする請求項1記載のナノ金属ガラス粒子集合体薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的、磁気的、電気的、化学的特性などが期待される新しいナノ金属ガラスの創製及び大きい表面積のナノ金属ガラスのクラスター(集合体)
薄膜の製造方法に関し、特に高い触媒活性を有するナノ金属ガラスのクラスター(集合体)
薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ガラスは、従来の結晶材料と比較して、原子また分子が無秩序配列状態で空間充填した固体、すなわち、長距離秩序をもたない構造の固体であり、従来の結晶材料には見られないような優れた機械的、磁気的、電気的、化学的性質を持つ。一方、金属ガラスは、同じ組成の結晶材料よりは構造的な不飽和サイトを有し、吸着や表面反応が活性な特徴がある。従来、金属ガラスを作製する方法は液体急冷と鋳造であり、いずれの製造方法でも高温の合金液体から冷却すると、均一なガラス組織を示す。このような組織は、表面積が1m
2/gよりも小さいので、工業触媒として利用することができない。
【0003】
アモルファス合金を触媒とする研究は1980年頃から始まり、今日まで多種なアモルファス合金の化学触媒特性が確認されている(例えば、非特許文献1参照)。アモルファス合金触媒の製造方法は、大きく分けて、液体急冷(rapid quenching)法と化学還元(chemical reduction)法があるが、どちらでも重大な欠点があり、実用に供されたものはまだ無い。
【0004】
液体急冷法により作成したアモルファス合金は、等質であり、表面積が非常に小さく、生産性も低いため、工業用触媒として活用する可能性は非常に低い(例えば、非特許文献2参照)。また、化学還元法により作製したアモルファス触媒は、大きい表面積を有するが、アモルファス粒子が酸化し易く、その上、表面エネルギーが高いために熱的安定性が非常に低いので、工業プロセスに応用できない。このため、これまでほぼ二千種類のアモルファス合金が開発されたのにもかかわらず、アモルファス触媒を工業的に活用することはまだ出来てない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G. V. Smith, W. E. Brower and M. S.Matyjaszczyk and T. L. Pettit, “Metallic Glasses: New Catalyst Systems”, Studies in Surface Science andCatalysis [Proceedings of the Seventh International Congress on Catalysis (heldin Tokyo in 1980)], Vol. 7, 1981, p. 355-363
【非特許文献2】J. F. Deng,H. Li and W. J. Wang, “Progress in design of new amorphous alloy catalysts”,Catalysis Today, 1999年, 51, p.113-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の液体急冷法や化学還元法で作製したアモルファス合金の構造的な弱点を解決するものとして、ナノ構造である金属ガラスが考えられる。このナノ金属ガラスは大きい表面積を有し、高い触媒活性を示す。更に、単なるアモルファス粒子よりかなり構造的に高い熱安定性も有し、工業プロセスで製造することが可能である。
【0007】
このことから、本発明は、工業的なプロセスで高い触媒性能が期待でき、熱的にも安定なナノ金属ガラス粒子を簡単に製造することができるナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、真空引き、ガス置換が終了したRFマグネトロンスパッタ装置において、RF電圧印加直後のプラズマが不安定な状態で、RF電源を間欠的にON−OFFすることを特徴とするナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法が得られる。
【0009】
本発明に係るナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で使用する物理蒸気沈着方法であるスパッタリングは、通常の堆積プロセスと異なり、RF電源ON直後の不安定なプラズマを用いると、基板に届く原子の密度が不均一になる。この結果、本発明によれば、構造が違うガラス粒子と粒子−粒子界面との複合構造を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、前記ガス置換ガスがアルゴンガスであり、前記RF電源の間欠的なON−OFFの間隔が、3分間以上、10分間以内であることを特徴とするナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法が得られる。
【0011】
間欠的なON−OFFの間隔が、3分間より短い時には、スパッタリングの堆積速度が非常に遅くなり、工業的にナノ金属ガラス薄膜を製造することは困難である。また、間欠的なON−OFFの間隔が10分間より長くなると、プラズマが安定するので、通常の二次元成長する薄膜の堆積になり、ナノ金属ガラス粒子が得られない。ON−OFFの間隔を3分間以上10分間以内とすることにより、薄膜の三次元成長を促進することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、工業的なプロセスで高い触媒性能が期待でき、熱的にも安定なナノ金属ガラス粒子を簡単に製造することができるナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で用いたRFマグネトロンスパッタ装置の模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6ナノ金属ガラス薄膜(NMG)およびPd
78Si
22ナノ金属ガラス薄膜(NMG)のX線回折(XRD)解析結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6ナノ金属ガラス薄膜の示差走査熱量法(DSC)の解析結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法において、(a)繰り返しスパッタリング時間5分間、(b)繰り返しスパッタリング時間15分間、(c)繰り返しスパッタリング時間30分間、(d)繰り返しスパッタリング時間2時間、(e)繰り返しスパッタリング時間10時間で作製したAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6ナノ金属ガラス薄膜の走査電子顕微鏡写真である。
【
図5】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したPd
78Si
22ナノ金属ガラス薄膜の走査電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6ナノ金属ガラス薄膜の(a)透過電子顕微鏡写真、(b)選択領域の電子回折パターン、(c)高分解能透過電子顕微鏡写真である。
【
図7】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したPd
78Si
22ナノ金属ガラス薄膜の高分解能透過電子顕微鏡写真、および選択領域の電子回折パターン(はめ込み部)である。
【
図8】本発明の実施の形態のナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で作製したAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6ナノ金属ガラス薄膜の、シランの酸化反応の繰り返し触媒活性を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明で用いたRFマグネトロンスパッタ装置の模式図である。金属ガラスとして、組成がAu
52Ag
5Pd
2Cu
25Si
10Al
6の合金とPd
78Si
22の合金とをターゲットに用いて、Si基板上にナノ金属ガラス薄膜をスパッタリングした。スパッタリングの条件は、到達真空度が1×10
−4Pa、成膜中のArガス圧が1Pa、スパッタリングのパワーが100Wで、RF電圧を間欠的に5分間ON−5分間OFFを繰り返した。この繰り返しで10時間スパッタリングしたAu−基ナノ金属ガラス薄膜の密度を測定した結果、13.33±0.14g/cm
3であり、薄膜がナノ粒子の集合体で、空隙が存在するので、同一組成の均一な組織を持つバルク金属ガラスより、6%以上小さい値になった。
【0015】
図2は、繰り返しで2時間スパッタリングしたAu−基ナノ金属ガラス薄膜とPd基ナノ金属ガラス薄膜のX線回折結果である。また、
図3は、繰り返しで10時間スパッタリングしたAu−基ナノ金属ガラス薄膜の示差走査熱量法(DSC)の解析結果である。
図2及び
図3から、得られた薄膜が金属ガラス層であることがわかる。
【0016】
図4は、Au−基ナノ金属ガラス薄膜の繰り返しスパッタリング時間が、5分から10時間までの走査電子顕微鏡写真である。
図4から、繰り返しスパッタリング時間が最初の5分間では、ナノ粒子の粒径は約10nmであり、繰り返しスパッタリング時間が長くなると、30nm程度に成長し、更に繰り返しスパッタリング時間が長くなると、ナノ粒子同士が凝集してクラスターを形成し、繰り返しスパッタリング時間が10時間では、クラスター同士の集合体の形態となることがわかる。また、
図5は、Pd−ナノ金属ガラス薄膜の、繰り返しスパッタリング時間が2時間の走査電子顕微鏡写真である。
図5から、クラスター同士の集合体の形態であることがわかる。
【0017】
図6は、繰り返し時間が2時間のスパッタリングで作製したAu基ナノ金属ガラス薄膜の(a)透過電子顕微鏡写真、(b)選択領域の電子回折パターン、(c)高分解能透過電子顕微鏡写真をそれぞれ示す。また、
図7は、繰り返し時間が2時間のスパッタリングで作製したPd基ナノ金属ガラス薄膜の高分解能透過電子顕微鏡写真と、選択領域の電子回折パターン(はめ込み部)をそれぞれ示す。それぞれの電子回折パターンから、アモルファス相であることがわかり、それぞれの高分解能透過電子顕微鏡写真から、一つの金属ガラス粒子とその界面との2相から成っていることが分かる。
【0018】
図8は、繰り返しスパッタリング時間が2時間で作製したAu基ナノ金属ガラス薄膜の、シラン(ジメチルフェニルシラン)の酸化反応の繰り返し触媒活性を示している。
図8から、5回までの繰り返し使用でも、触媒活性がほとんど低下していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上、詳細に説明してきたように、本発明に係るナノ金属ガラス粒子集合体
薄膜の製造方法で製造されたナノ金属ガラス薄膜は、工業的には酸化反応の触媒として使用することが出来る。