特許第5751507号(P5751507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5751507無核ブドウの房作り方法、及びその方法によって生産される生食用ブドウ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5751507
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】無核ブドウの房作り方法、及びその方法によって生産される生食用ブドウ
(51)【国際特許分類】
   A01G 17/02 20060101AFI20150702BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   A01G17/02
   A01G7/00 604Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-172353(P2014-172353)
(22)【出願日】2014年8月27日
【審査請求日】2014年12月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘明
(72)【発明者】
【氏名】安井 淑彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知佐
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4964673(JP,B2)
【文献】 特許第5019452(JP,B2)
【文献】 特開2006−109702(JP,A)
【文献】 特開2003−325062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウの蕾が開く前に、長さが15mm以下の支梗を2〜4個残し、その他の支梗は全て取り除き、満開後ジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液で花房を処理して、無核化、着粒安定化及び果粒肥大化を促進させる無核ブドウの房作り方法。
【請求項2】
展葉が3〜5枚になった時点でジベレリン溶液を花房に適用して支梗間の距離を大きくする請求項1に記載の無核ブドウの房作り方法。
【請求項3】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウを栽培する過程でほとんど摘粒作業を行うことなく、食べきりサイズの果房を生産することができる無核ブドウの房作り方法、及びその方法によって生産される生食用ブドウに関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウの房作を行う際には、後述の図8に示すように、花穂が伸長しきって開花が始まる時期に主穂の先端部分の花穂を3〜3.5cm程度残して、その他の花穂を全て取り除き、その後摘粒を行いながらブドウを栽培する方法が一般的に行われている。本明細書においては、この房作り方法を慣行法という。慣行法では、後述の図9に示すような、房の大きさが600g程度、一房あたりの果粒数が35粒程度の楕円型の果房が得られる。
【0003】
ところが、単身世帯の増加や個食の増加などによって、青果の少量販売が増加傾向にある。ブドウに関しては、上述の従来の房作り方法で生産した大きな房のブドウは高価であるし、なによりも単身世帯等では、大きな房を購入しても新鮮なうちにブドウを食べきれないため、ブドウを買い控える傾向があった。
【0004】
このような問題に鑑みて、特許文献1のような個食に適したブドウの房作り方法が提案されている。特許文献1のブドウの房作り方法では、一房の中で、2以上、8以下の子房を残し、それ以外の子房は全て取り除いてブドウを栽培する。このブドウの房作り方法によれば、消費者に対して新鮮なブドウを少量ずつ提供することができるとされている。
【0005】
一方、特許文献2には、副穂を除去した後、上部1〜4番目の花穂のうち、満開期に花穂長が23〜25mmのものを1花穂選択し、その他の花穂をカットするブドウの房作り方法が開示されている。このブドウの房作り方法によれば、房あたり30粒、房の大きさが400〜500g、房の形が円筒形で、2kg入り箱4〜5房のブドウを提供することができるとされている。また、この房作り方法によれば摘粒作業が60%削減されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−109702号公報
【特許文献2】特開2003−325062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のブドウの房作り方法は、房切りを行った後、摘房し、摘粒作業を行う。この方法は、摘粒作業が煩雑な点で花穂の先端部を3〜3.5cm程度残す慣行法と同様である。従来の房作り方法では、果粒が密集している部分では果粒が十分に肥大しなかったり果粒が落下したりすることから、房の様子を観察しながら摘粒を行う。摘粒は、手間のかかる作業である。
【0008】
特許文献2のブドウの房作り方法は、23〜25mmの花穂を1つ選択して残す方法である。この方法によれば、従来法に比べて約60%摘粒作業を削減できるとされているが、やはり摘粒作業を完全に省略することはできない。また、この方法で生産されるブドウは、果粒が房あたり30粒、果房の大きさが400〜500gであり、少人数で食べきるには量が多い。
【0009】
そこで、本発明では、摘粒をほとんど行わずに、1人から2人で食べきるのに適した量の果房を有する無核ブドウを生産することができる無核ブドウの房作り方法を提供する。また、この房作り方法によって、1人から2人で食べきるのに適した量で美感にも優れた果房を有する生食用ブドウを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、ブドウの蕾が開く前に、長さが15mm以下の支梗を2〜4個残し、その他の支梗は全て取り除き、満開後ジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液で花房を処理して、無核化、着粒安定化及び果粒肥大化を促進させる無核ブドウの房作り方法(以下、単に房作り方法と称することがある)によって、上記の課題を解決する。ブドウを、ジベレリンとサイトカイニンとの混合液で処理するには、ブドウの花が満開になった後3〜5日経過後にジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液にブドウを浸漬することにより行うことが好ましい。
【0011】
本発明では、ブドウの蕾が開く前に、15mm以下の支梗を基準として、支梗を2〜4個の残すことでブドウの房作りを行う。これによって、摘粒をほとんど行うことなく、房が略球形状の食べきりサイズの無核ブドウを得ることができる。支梗を選別する際には、例えば、定規や0〜15mmの範囲で長さを示す印を入れた棒などを支梗に当てることで、取り除く支梗と除去せずに花房に残す支梗とを短時間で簡単に選別することができる。これは、蕾の数を目視で確認して数えるよりも格段に効率的である。しかも、花房はジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液で処理されているため、果肉の中に種子がなく喫食しやすく、果粒が大粒で、着粒に不良が生じ難い。
【0012】
上記の房作り方法によって、以下のような略球形の生食用の無核ブドウ(以下、生食用ブドウと称することがある)を生産することができる。すなわち、ブドウの果房の縦方向の長さをL1、果房の横方向の長さをL2としたとき、L1/L2=0.8〜1.1である無核ブドウを摘粒しない状態で出荷した生食用ブドウである。この食べきりサイズの生食用ブドウは、摘粒しない状態で、すなわち穂軸又は果梗が果粒に付いた状態で、円錐台形状、円筒形状、又は球形等の小型容器に収めて出荷することができる。縦方向は、果房から延びる穂軸の軸方向又は果房から延びる果梗の軸方向のことであり、横方向は、前記軸方向に直交する方向のことである。
【0013】
本発明の房作り方法においては、展葉が3〜5枚になった時点でジベレリン溶液を花房に適用して支梗間の距離を大きくするようにすることが好ましい。展葉が3〜5枚の時点でジベレリン処理を行うことで支梗間の距離が大きくなり、支梗を除去する作業を行いやすくなる。ジベレリン溶液を花房に適用するに際しては、散布により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブドウの房作り方法によれば、結実後において、ほとんど摘粒を行わずに、1人から2人で食べきるのに適した量の果房を有する無核ブドウを生産することができる。例えば、1房あたりの重量が40〜300g程度で、1房あたりの果粒数が3〜20粒程度の無核ブドウを生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】その他の支梗を取り除く前の花房を示す平面図である。
図2】その他の支梗を取り除いた後の花房を示す平面図である。
図3図2のA部分の拡大図である。
図4】展葉期において、主枝から分岐する新梢を示す模式図である。
図5】収穫期において、花房に結実した無核ブドウを示す平面図である。
図6図5の破断直線の箇所で切断した無核ブドウを小型容器に収めた様子を示す模式図である。
図7】複数の果粒を果梗から外して小型容器に収めた様子を示す模式図である。
図8】慣行法による房作り方法を示す図2相当の平面図である。
図9】慣行法による房作り方法で得た果房を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しつつ本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
最初に、図1を参照して、ブドウの花房1(花穂)の各部の名称を説明する。図1に示したように、花房1は、基端側の穂軸11から分岐する副穂12(岐肩)と、先端側の穂軸11から分岐する複数の支梗13からなる主穂14とからなる。穂軸11は、新梢16と主枝17とを介して図示されていない幹につながっている。穂軸11からは、複数の果梗15が分岐しており、果梗15には蕾21が着生する。図4に示したように、春頃に主枝17から側芽19が出て、新梢16が伸長する。ある程度、新梢16が伸長すると新梢16の3節目から5節目に花房1が確認できる。新梢16の基端側から数えて第1花房(第1花穂)、第2花房(第2花穂)と呼ばれる。図4の花房1はまだ小さいが、花房が生長すると図1に示したような形態となる。ただし、後述するジベレリン処理を行わない場合は、支梗間の距離はより小さい。初夏の頃には、花房1が開花し始める。本発明の房作り方法では、満開後にジベレリン及びサイトカイニンの混合溶液で処理するため、単為結実して無核ブドウ2が得られる。
【0018】
本発明の房作り方法では、ブドウの蕾21が開く前に、長さが15mm以下の支梗13を2〜4個残し、その他の支梗13は全て取り除く。具体的には、取り除く支梗13の付け根部分(図1において、破断した直線で示した部分)を鋏等を使用して切断する。図1の例では、破断した円で囲んだ支梗13の長さが15mm以下の支梗を3つ残した。その他の支梗13を取り除いた状態を図2に示す。本明細書において、支梗の長さとは、図3の部分拡大図に示したように、支梗13の伸長方向に対して先端側の蕾21と基端側の蕾21との最短の直線距離のことを指す。
【0019】
花房1に残す支梗13は、長さが15mm以下であれば、どの支梗13を残してもよい。しかし、残される複数の支梗間の距離が近いと、果粒20が肥大する際に果房の形が崩れる原因となる。したがって、支梗間に40〜50mm程度の間隔が空くように除去する支梗13を選択することが好ましい。
【0020】
花房1に残す支梗13の長さは15mm以下とする。15mmを超えると、花房1に残される蕾の数が多くなり、摘粒に要する手間が増大するし、果房の大きさが大きくなり少人数で食べきるには量が多くなる。支梗13の長さが小さすぎると、支梗13を除去し辛らくなり、作業に時間を要する傾向がある。したがって、作業効率を考慮すると、花房1に残す支梗13の長さは6mm以上とすることが好ましい。花房1に残す支梗の長さは12mm以下、かつ9mm以上とすると、球形で適切な量の果房が得られるので、より好ましい。
【0021】
支梗13の除去は、蕾21が着生した後、蕾21が開く前に行う必要がある。ブドウの蕾が開花した後では、蕾21の形状が変化して長さを適切に測定することが困難になる。このため、蕾21が開花した後では、残すべき支梗13の選定が困難になり、食べきりサイズの果房が得られないし、摘粒作業を減らす効果も得られなくなってしまう。支梗13の除去は、花房の先端部の支梗13がばらけた時点を目安に行うとよい。
【0022】
本発明房作り方法では、花房に残す支梗13の数は2〜4個とする。花房1に残す支梗13の数が2を下回ると収量が少なくなる。花房1に残す支梗13の数が4個を上回ると作業効率が悪くなる。
【0023】
本発明の房作り方法では、ブドウの花が満開になった後、ジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液で花房1を処理する。これによって、ブドウは単為結実し(無核化)、着粒不良が防止されて安定して結実するようになり(着粒安定化)、果粒20の肥大が促進される(果粒肥大化)。
【0024】
本発明において、使用可能なジベレリンとしては、例えば、協和発酵バイオ株式会社の「ジベレリン協和粉末(農林水産省登録 第6007号)が挙げられる。
【0025】
本発明において、使用可能なサイトカイニンとしては、例えば、ホルクロルフェニュロンが挙げられる。ホルクロルフェニュロンとしては、例えば、協和発酵バイオ株式会社の「フルメット(登録商標)液剤(農林水産省登録 第17247号)が挙げられる。
【0026】
ジベレリンとサイトカイニンとの混合液の溶媒としては、例えば、水が挙げられる。
【0027】
ジベレリンの濃度は、重量割合で25ppmとすることが好ましい。ジベレリンとサイトカイニンの混合溶液において、ジベレリン濃度は、重量割合で25ppmとし、サイトカイニン濃度は、重量割合で10ppmとすることが好ましい。
【0028】
ブドウを、ジベレリンとサイトカイニンとの混合液で処理するには、ブドウの花が満開になった後3〜5日経過後にジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液にブドウを浸漬することにより行うことが好ましい。
【0029】
本発明の房作り方法が適用できるブドウの品種としては、ピオーネ、シャインマスカット等の大粒品種が挙げられる。
【0030】
本発明の房作り方法では、長さが15mm以下の支梗13を2〜4個残して、その他の支梗13は全て取り除く。支梗13を除去する際に、支梗間の距離が小さいと、支梗13を除去するのに手間がかかる。このため、図4に示したように、新梢1本当たりの展葉18が3〜5枚になった時点でジベレリン溶液を花房に適用して、穂軸11を伸長させて、支梗間の距離が大きくなるようにすることが好ましい。ジベレリン溶液は、上記の溶媒でジベレリンを希釈して重量割合で3〜5ppmとなるようにし、これを花房1に散布することが好ましい。符号19は、側芽である。図4では、第1花房と第2花房とが新梢16から分岐している。第1花房又は第2花房のいずれをジベレリン処理するかは、樹の状態や、第1花房及び第2花房の大きさによって決定すればよい。第1花房及び第2花房の両方をジベレリン処理してもよいし、生長が思わしくない花房を摘んで、他方の生長が良好な花房にジベレリン処理を行ってもよい。勿論、第1花房及び第2花房の両方の生長が思わしくなければ、その新梢16は諦めて両方の花房を摘んで、次の新梢のジベレリン処理に移行すればよい。残すべき花房1の総数は、樹の状態に応じて決定すればよく、摘房して花房1の総数を調節する。
【0031】
本発明の房作り方法では、長さが15mm以下の支梗を残してその他の支梗は全て取り除くことで、摘粒をほとんど行うことなく、略球形の無核ブドウ2を得ることが可能である。図5に示したように、ブドウの果房の縦方向の長さをL1、果房の横方向の長さをL2としたとき、L1/L2=0.8〜1.1の関係を満たす略球形の生食用の無核ブドウ2である。縦方向は、果房25から延びる穂軸11の軸方向又は果房25から延びる果梗15の軸方向のことであり、横方向は、前記軸方向に直交する方向のことである。
【0032】
1人から2人で食べきるのに適した量のブドウは、従来から販売されてきた。従来の食べきりサイズのブドウ3は、図7に示したように、穂軸11又は果梗15から果粒23を摘粒した状態で小型容器22に入れて販売する形態が一般的であった。このようなブドウは、果粒23がバラバラで房の形をしていない。本発明の房作り方法で生産した無核ブドウ2は、摘粒しなくても、換言すると図6に示したように、穂軸11又は果梗15が果粒20に付いた状態で略球形であり、軸(穂軸11又は果梗15)が付いた状態で出荷することができる。従来の食べきりサイズのブドウ3は、バラバラの状態で容器に収められているため見栄えが悪かったが、本発明の食べきりサイズのブドウは、略球形で穂軸11又は果梗15が付いた状態で出荷、販売することができるので、果房が優れた美感を有している。そして、本発明の生食用の無核ブドウ2は、穂軸11又は果梗15が果房に付いた状態でも略球形であるため、例えば、側面視が円錐台形状の小型容器22に入れて流通させることができる。図6に示した小型容器22は、プラスチック製であり、蓋24で密閉可能である。小型容器22及び蓋24の素材として、透明なプラスチック材料を使用してもよい。
【0033】
長さ1.5mm以下の支梗を選別する際には、例えば、定規や0〜15mmの範囲で長さを示す印を入れた棒などを支梗に当てることで、取り除く支梗と除去せずに花房に残す支梗とを短時間で簡単に選別することができる。そして、本発明の房作り方法によれば、例えば、1房あたりの重量が40〜300g程度で、1房あたりの果粒20の数が3〜20粒程度の1人から2人で食べきるのに適した量の無核ブドウ2を、ほとんど摘粒を行うことなく生産することが可能である。
【0034】
以下、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0035】
[実施例]
圃場に定植して8年が経過した露地植のピオーネについて、本発明の房作り方法を実施した。ピオーネは棚仕立てで栽培し、前年以前に主枝を棚に這わせてある。冬季には、定法にしたがって、主枝は先端を剪定し、主枝から延びる枝は、1〜2つ芽が残るようにして、根元から剪定してある。
【0036】
4月中旬から下旬には、棚に這わせた主枝から複数の側芽が発芽し、展葉期を迎えた。5月上旬には、側芽一つについて展葉が3枚から5枚となり、第1花房が現れた。
【0037】
協和発酵バイオ株式会社のジベレリン(ジベレリン協和粉末、農林水産省登録第6007号)をジベレリンの濃度が重量割合で5ppmとなるように水で希釈して、ジベレリン水溶液を用意した。これを、市販の霧吹きに入れて、第1花房に吹き付ける作業を行った。
【0038】
5月下旬には、支梗がばらけはじめ、5月の末日には花房の先端部の支梗までばらけた。5月末日に、後述する表1に記載した支梗の長さの支梗を残し、その他の支梗を除去する作業を行った。支梗の除去は、1房あたりの支梗が3つになるように、市販の小型定規と鋏とを使用して、必要のないその他の支梗を除去した。展葉期にジベレリン処理を行っていたため、支梗の間隔が開いていたため容易に支梗を切除することができた。なお、花房に残す支梗を選定するに際しては、支梗間の距離が40〜50mm程度となるように残す支梗を選定した。
【0039】
6月上旬には、ブドウの花が満開となった。満開になった4日後に花房全体をジベレリンとホルクロルフェニュロンとの混合水溶液に浸漬する作業を行った。混合水溶液は、協和発酵バイオ株式会社のジベレリン(ジベレリン協和粉末、農林水産省登録第6007号)をジベレリンの濃度が重量割合で25ppmとなるように水で希釈して、これに協和発酵バイオ株式会社会社のフルメット(登録商標)溶剤(農林水産省登録第17247号)をホルクロルフェニュロンの濃度が重量割合で10ppmとなるように添加した。このようにして調整した混合水溶液を、適当な容量を有する広口カップに注いで、花房を広口カップに満たした混合水溶液に1回ずつ浸していった。
【0040】
その後は、摘粒を全く行わなかったこと以外は、定法と同様にしてピオーネの栽培を行った。6月中旬には、結実がみられた。7月中旬には着色が始まったので、果房に袋掛けを行った。9月上旬には、ピオーネを収穫した。
【0041】
[比較例]
比較のために、除去する支梗の長さを大きめに設定したことと、摘粒を行ったこと以外は、上記の実施例と同様にしてピオーネの房作りを実施した。果房に残す支梗の長さは、表1に記載した通り20mm、25mm、30mmとした。比較例1ないし比較例3では、花房一つ当たりの支梗が3つとなるように支梗を取り除いた。
【0042】
実施例1(支梗長6mm)の房作り方法では、果粒数3粒から5粒で、50gから80gの果房が得られた。実施例2(支梗長9mm)の房作り方法では、果粒数6粒から10粒で、100gから170gの果房が得られた。実施例4(支梗長15mm)の房作り方法では、果粒数11粒から17粒で、190gから290gの果房が得られた。このように、実施例1ないし実施例4では、果粒数が1房あたり3〜20粒、1房あたりの重量が40〜300gの食べきりサイズの無核ブドウを得ることができた。しかも、以下の表1に示すように、結実後は、全く摘粒作業を行わなかったにもかかわらず、やや扁球形、球形、ほぼ球形の無核ブドウを得ることができた。実施例1ないし実施例4の無核ブドウは、栽培の過程で果粒が脱落することもほとんどなかった。このようにして得られた無核ブドウを図5で破断した直線で示した箇所で穂軸を切断し、図6のプラスチック製の小型容器に入れてサンプルを作製した。この無核ブドウは、穂軸及び果梗が付いたままの略球形であり、優れた美感を有していた。また、果実の食味は従来のものと同等で良好であった。なお、表1に示した数値は、200房を調査したものである。
【0043】
一方、比較例1ないし比較例3の場合は、1房あたりの果粒数が31〜38粒、一房あたりの重量が480〜620gとなり、一人で食べきるには量が多かった。また、結実後には摘粒が必要となり、摘粒作業に多くの時間が必要であった。比較例3の果房の形は、楕円形で慣行法で房作りした果房に近いものとなったため、従来の2kg箱に詰めて出荷した。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、慣行法によって房作りを行った場合と、本発明の方法によって房作りを行った場合とについて、果実品質、収量等を比較確認した。その結果、本発明の房作り方法で得た無核ブドウは、果粒一粒当たりの重さ、糖度、果皮の色及び10アール当たりの収量について慣行法と同等であり、十分な品質であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の房作り方法を利用すれば、摘粒をほとんど必要とせず、果房が略球形状の食べきりサイズの無核ブドウを提供することができる。このような無核ブドウは、消費者の要望に応えるものであり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 花房(花穂)
2 無核ブドウ
3 従来の食べきりサイズのブドウ
11 穂軸
12 副穂(岐肩)
13 支梗
14 主穂
15 果梗
16 新梢
17 主枝
18 展葉
19 測芽
20 果粒
21 蕾
22 小型容器
23 果粒(比較例)
24 蓋
25 果房
【要約】
【課題】
摘粒をほとんど行わずに、1人から2人で食べきるのに適した量の果房を有する無核ブドウを生産することができる無核ブドウの房作り方法を提供することを目的とする。また、この房作り方法によって、1から2人で食べきるのに適した量で美感にも優れた果房を有する無核ブドウを提供する。
【解決手段】
ブドウの蕾21が開く前に、長さが15mm以下の支梗13を2〜4個残し、その他の支梗13は全て取り除き、満開後ジベレリンとサイトカイニンとの混合溶液で花房1を処理して、無核化、着粒安定化及び果粒肥大化を促進させる無核ブドウ2の房作り方法である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9