【実施例】
【0041】
以下の実施例、比較例、参考例にて、官能試験、分析試験は下記の手順で行った。
≪官能試験≫
パネラー4人にて、実施例等で得られた大豆ペーストの青臭み、渋味、香り、甘味の項目について、その強さに応じて5段階の評価(ランク付け)を行い、パネラー4人の評価点の平均値をその項目の評価点とした。
青臭み若しくは渋味の評価点が4.0以上の場合、または香り若しくは甘味の評価点が2.0以下の場合を「不合格」(表中には「不良」と表示)とし、それ以外を「合格」(表中には「良」と表示)とした。
また、「合格」評価のうち、青臭み及び渋味の評価点がともに3.0以下、かつ香り及び甘味の評価点がともに3.0以上の場合を特に「特上品質」(表中には「優良」と表示)とした。
なお、各項目のランク評価点は以下のとおりである;
青臭み:ランク1(青臭みを殆んど感じない。)
ランク2(青臭みをかすかに感じる。)
ランク3(青臭みをわずかに感じる。)
ランク4(青臭みをはっきり感じる。)
ランク5(青臭みを強く感じる。)
渋味 :ランク1(渋味を殆んど感じない。)
ランク2(渋味をかすかに感じる。)
ランク3(渋味をわずかに感じる。)
ランク4(渋味をはっきり感じる。舌に残る。)
ランク5(渋味を強く感じる。)
香り :ランク1(香りを殆んど感じない。)
ランク2(かすかな香りをかすかに感じる。)
ランク3(弱い香りを感じる。)
ランク4(香りをはっきり感じる。)
ランク5(強い香りを感じる。)
甘味 :ランク1(甘味を殆んど感じない。)
ランク2(かすかな甘味を感じる。)
ランク3(弱い甘味を感じる。)
ランク4(甘味をはっきり感じる。)
ランク5(強い甘味を感じる。)
【0042】
≪n−ヘキサナールの定量≫
n−ヘキサナールの定量はヘッドスペースGC/MS法によった。
[ヘッドスペースGC/MS測定条件]
大豆ペーストを約2g精秤し、3mLの超純水とともに20mLバイアル瓶に入れて密栓後、70℃20分間保持する。次いで平衡ヘッドスペース法によりサンプリングし、GC/MS分析に供する。使用機器、分析条件は以下のとおりである。
・使用機器:GC/MS(Agilent社製Agilent7890A/7000)、オートサンプラー(GERSTEL社製 MPS2XL)
・分析カラム:DB-5ms 長さ30mm、内径0.25mm、膜厚0.25μm(Agilent J&W社製)
・注入口温度:250℃
・注入モード:スプリット(スプリット比50:1)
・昇温条件:40℃30分間保持、その後毎分10℃にて70℃まで昇温し、70℃到達後は毎分20℃にて昇温し、250℃到達後その温度を保持する。
・キャリアーガス:ヘリウム
・イオン源温度:280℃
・イオン化法:電子イオン化(70eV)
・検出モード:SIM(Select Ion Monitoring)モード
・測定イオン(m/z):56,72,82
・注入量 :1000μL
試料中のn−ヘキサナールの定量は、あらかじめ作成の検量線より求めた。
【0043】
≪ソヤサポゲノールAの定量≫
[大豆サポニンの抽出と加水分解]
大豆ペースト約600mgを精秤し、70%エタノール(含0.1%酢酸)を6mL加え、ボルテックスミキサーにて攪拌後、25度Cで48時間静置し、大豆サポニン抽出液を得る。
[大豆サポニンの加水分解]
上記大豆サポニン抽出液を高速遠心機にて10分間遠心後、上澄み300μLを採取し、塩酸30μLを加えてボルテックスミキサーにて撹拌する。攪拌後、試料液面に流動パラフィンを重層し、ヒーターにて80℃6時間加熱することにより、サポニン成分を加水分解する。かくして得られた加水分解液を放冷後、高速液体クロマトグラフ分析に供する。
[高速液体クロマトグラフィー]
上記加水分解液中のソヤサポゲノールA含量を高速液体クロマトグラフィーにて求めた。使用機器、分析条件は以下のとおりである。
・測定機器:高速液体クロマトグラフ(Waters社製Alliance e2695/2487 UV-VIS,検出器:UV検出方式)
・移動相:水/アセトニトリル/酢酸(容積比4:6:0.01)
・注入量:10μL
・流速 :1.0mL/分
・紫外線波長:210nm
・カラム:InertSustain C8 4.6×150mm 5μm(GLサイエンス社製)
・カラム温度:40度C
なお、試料中のソヤサポゲノールAの定性は、あらかじめ調整したソヤサポゲノールAの標準試料の保持時間との比較により行い、定量は検量線法による。
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に示す。
[実施例1]
≪大豆ペーストの調製≫
生大豆を以下の膨潤工程、加熱工程、磨砕工程に処し、大豆ペーストを作製した。
1.膨潤工程
水400gを入れた容器に生大豆100gを加え、水温を30℃に保持したまま180分浸漬し、その後大豆を分取し膨潤大豆を得た。大豆の膨潤比(膨潤大豆重量/生大豆重量)は2.0であった。
2.加熱工程
容器内に新鮮な水1000gを満たし、加温して85℃の熱水とした。次いで分取した膨潤大豆200g(生大豆含量100g)を上記熱水に浸し、そのまま温度を85℃に保ちながら20分間保持した。次いで、大豆を分取し、直ちに流水にて冷却し、加熱大豆を得た。加熱大豆の膨潤比(加熱大豆重量/生大豆重量)は2.2であった。
3.磨砕工程
加熱大豆220g(生大豆含量100g)に水280gを加え、湿式粉砕機にて粉砕処理し、固形分濃度(生大豆重量/大豆磨砕処理物重量)20重量%の大豆磨砕処理物を得た。(以下の実施例、比較例、参考例のいずれにおいても固形分濃度20重量%とした。)
レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製LS13320)を用いて、懸濁粒子の平均粒子径を測定した結果、100μmであった。また粒度累積体積分布90パーセントの粒子径は230μmであった。
次いで、大豆磨砕処理物を「レトルトパウチ食品品質表示基準」(平成12年12月19日農林水産省告示第1680号)に従いレトルト殺菌処理をした。
得られた大豆ペーストの官能試験を実施した。結果を表1に示す。
青臭み、渋味が抑制され、かつほのかな香りを発し、良好な甘味を呈した。
大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1において、膨潤工程を省略し、加熱工程は膨潤大豆に代えて生大豆100gを直接熱水に浸した他は同様にして加熱大豆を得た。加熱大豆の膨潤比(加熱大豆重量/生大豆重量)は2.0であった。次いで、実施例1と同様に加熱工程、磨砕工程、レトルト殺菌処理を行い、大豆ペーストを得た。得られた大豆ペーストの官能試験を実施した。
結果を表1に示す。実施例1の大豆ペーストと比較して、甘味がやや良好であったが、青臭み及び渋味が強いものであった。
【0046】
[参考例1]
比較例1において、加熱工程における加熱時間をさらに60分に延長した他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表1に示す。比較例1と対比して、青臭みが改善されたものの、渋味が依然として強く、他方で甘味が薄れ、風味に劣る大豆ペーストとなった。
【0047】
[参考例2]
比較例1において、加熱工程における加熱時間を120分に延長した他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表1に示す。比較例1と比較して、青臭み及び渋味が改善されたものの、香り及び甘味の乏しい大豆ペーストとなった。
【0048】
[参考例3]
比較例1において、加熱工程における熱水温度を90℃とし、加熱時間を10分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表1に示す。青臭み及び渋味が強く、香りが薄い大豆ペーストとなった。
【0049】
[参考例4]
参考例3において、加熱工程における加熱時間を20分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表1に示す。香り及び甘味とも許容レベルとなったが、青臭み及び渋味とも強い大豆ペーストとなった。
【0050】
[参考例5]
参考例3において、加熱工程における加熱時間を25分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表1に示す。青臭み及び渋味とも許容レベルに到達したが、香り及び甘味共に失われ、風味を欠いた大豆ペーストとなった。
以上、比較例1、参考例1〜5より、膨潤工程を欠くと、加熱工程における熱水の温度及び加熱時間を調整しても、「青臭み・渋味が抑制され、かつ香り・甘味を呈する」という、バランスのとれた風味を有する大豆ペーストが得られないということが判る。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、膨潤大豆を85℃の熱水に浸す加熱工程に代えて、膨潤大豆を85℃の蒸気雰囲気下におく工程とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。熱水に浸す場合と比較して、甘味が高かったものの、香りを欠き、他方青臭みと渋味の強い大豆ペーストとなった。(比較の便宜上、表2には、実施例1の結果を再掲してある。)
【0052】
[参考例6]
比較例2において、加熱時間を60分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。加熱時間を延長したものの、大豆ペーストの風味は比較例2と同様レベルであり、風味の改善は殆んど認められなかった。
【0053】
[参考例7]
比較例2において、加熱時間を90分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。加熱時間をさらに延長したものの、香りがさらに薄れ、大豆ペーストの風味は改善されなかった。
【0054】
[参考例8]
比較例2において、蒸気温度を90℃とし、加熱時間を10分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。甘味に優れるものの、香りが失われ、他方青臭みと渋味が強い大豆ペーストとなった。
【0055】
[参考例9]
参考例8において、加熱時間を20分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。参考例8よりも香りが改善されたが、青臭みと渋味が依然として強い大豆ペーストとなった。
【0056】
[参考例10]
参考例8において、加熱時間を60分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表2に示す。参考例9よりもさらに香りが改善されたが、渋味が依然として強い大豆ペーストとなった。
以上、比較例2、参考例6〜10より、膨潤工程を経ていても、その後の加熱工程が熱水浸漬でなく蒸気加熱の場合には、加熱時間を30分超の長時間としても、青臭み及び渋味を除くことが困難であることが判る。
【0057】
[比較例3]
実施例1において、加熱工程における熱水温度を75℃とした他は同様にして、大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表3に示す。実施例1と比較して、青臭み及び渋味がともに極めて強い大豆ペーストとなった。(なお、比較の便宜上、表3には実施例1の結果を再掲してある。)
【0058】
[参考例11]
比較例3において、加熱工程における加熱時間を60分とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表3に示す。比較例3よりも青臭みが改善されたものの、香り及び甘味が失われ、風味を欠く大豆ペーストとなった。
【0059】
[実施例2]
実施例1において、加熱工程における熱水温度を80℃とした他は同様にして大豆ペーストを得、官能試験を行った。結果を表3に示す。実施例1と比較して、青臭み及び渋味がやや強くなったが許容レベルの大豆ペーストが得られた。大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表3に示す。
【0060】
[実施例3]
実施例1において、加熱工程における熱水温度を88℃とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表3に示す。実施例1と同様風味の大豆ペーストが得られた。大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表3に示す。
【0061】
[比較例4]
実施例1において、加熱工程における熱水温度を90℃とした他は同様にして大豆ペーストを得、同様の試験を行った。結果を表3に示す。青臭み及び渋味は抑制されたものの、香り、甘味の乏しい大豆ペーストとなった。大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表3に示す。
【0062】
[参考例12]
比較例4において、加熱工程における加熱時間を13分とした他は同様にして大豆ペーストを得た。結果を表3に示す。比較例4よりも甘味が増したものの、青臭み及び渋味が増し、香りも劣った大豆ペーストとなった。
以上、実施例1〜3、比較例3、参考例11、比較例4、参考例12より、熱水温度が80℃未満または90℃以上である場合には、加熱時間の調節のみでは、「青臭み及び渋味の除去」と「香り及び甘味の保持」とを両立させることが困難であることが判る。
【0063】
[比較例5]
実施例1において、加熱工程における加熱時間を10分とした他は同様にして大豆ペーストを得た。結果を表4に示す。実施例1と比較して、香りが著しく乏しい上に、青臭み及び渋味の著しく増した大豆ペーストとなった。(なお、比較の便宜上、実施例1の結果を表4に再掲した。)大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表4に示す。
【0064】
[実施例4〜9]
実施例1において、加熱工程における加熱時間を各々13、15、18、25、27、30分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。結果を表4に示す。いずれの場合も、青臭み及び渋味が抑えられ、かつ香り及び甘味を有する良好な大豆ペーストが得られた。
【0065】
[比較例6]
実施例1において、加熱工程における加熱時間を35分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。結果を表4に示す。実施例1と比較して、青臭み及び渋味は改善されたが、香り及び甘味が失われた風味の乏しい大豆ペーストとなった。大豆ペースト中のn−ヘキサナール、ソヤサポゲノールAを定量した。結果を表4に示す。
実施例4〜9、比較例6より、加熱工程における熱水温度が85℃の場合、加熱時間を13分以上30分以下とすることにより、青臭み・渋味とも抑制されかつ香り・甘味を備えた大豆ペーストが得られ、加熱時間を15分以上27分以下に制御することにより、風味のバランスのさらに優れた大豆ペーストが得られ、加熱時間を18分以上27分以下に制御することにより、風味のバランスの一層優れた大豆ペーストが得られることが明らかである。
【0066】
[実施例10〜13]
実施例1において、各々加熱工程における熱水温度を82℃とし、かつ加熱時間を各々15、18,23、25分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。結果を表5に示す。いずれの場合も青臭み及び渋味が抑えられ、かつ香り及び甘味の良好な大豆ペーストが得られた。特に加熱時間を18分以上23分以下とすることにより、特に風味の優れた大豆ペーストが得られた。加熱時間15分として得た大豆ペーストについてn−ヘキサナール及びソヤサポゲノールAを定量した。結果を表5に示す。
【0067】
[実施例14〜17]
実施例1において、各々加熱工程における熱水温度を88℃とし、かつ加熱時間を各々15、18,23、25分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。結果を表5に示す。いずれの場合も青臭み及び渋味が抑えられ、かつ香り及び甘味の良好な大豆ペーストが得られた。特に加熱時間を18分以上23分以下とすることにより、特に風味の優れた大豆ペーストが得られた。
【0068】
以上、実施例1〜17より、加熱工程において熱水温度を80℃以上90℃未満とすることにより、青臭みと渋味を抑制しつつ、香りと甘味をともに備える大豆ペーストが得られることが明らかである。特に熱水温度を85℃近傍に制御する場合には、青臭み・渋味の除去及び香り・甘味の保持を両立させることの出来る許容時間幅が他の温度領域よりも広くなることが明らかである。
【0069】
[実施例18]
実施例1において、膨潤工程における水中浸漬時間を120分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。大豆の膨潤比は1.8であった。官能試験の結果を表6に示す。(なお、比較の便宜上、実施例1の結果を表6に再掲した。)
【0070】
[実施例19]
実施例1において、膨潤工程における水中浸漬時間を90分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。大豆の膨潤比は1.7であった。官能試験の結果を表6に示す。
【0071】
[比較例7]
実施例1において、膨潤工程における水中浸漬時間を60分とした他は同様にして、大豆ペーストを得た。大豆の膨潤比は1.6であった。官能試験の結果を表6に示す。
以上、実施例1,18,19、及び比較例7より、膨潤工程において、大豆の膨潤比が1.6以下である場合には、渋味が強く、かつ香りの乏しい大豆ペーストしか得られなかった。大豆の膨潤比を1.7以上、特に1.8以上にすることにより、青臭み・渋味が抑制され、かつ香り・甘味の良好な大豆ペーストが得られた。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】