【実施例】
【0036】
実施例1.ポリペプチドの合成
配列番号4及び5のポリペプチドをそれぞれコードする配列番号20及び21のcDNA断片を、pET28a(+)−Fcベクター(ヒト免疫グロブリンのFc領域をコードする配列番号35のcDNAをpET28a(+)ベクターに挿入して作製したベクター)に挿入し、pET28a−CD99L2EXT−FcベクターとpET28a−PBDX(またはXG)EXT−Fcベクターとを作製した。すなわち、配列番号20及び21のcDNA断片をPCRにより単離し、EcoRIで消化した後、結合酵素を利用してpET28a(+)−FcベクターのEcoRI部位に挿入し、pET28a−CD99L2EXT−FcベクターとpET28a−PBDX(またはXG)EXT−Fcベクターとを作製した。
【0037】
得られた発現ベクターでBL21(DE3)細胞を形質転換させて得られたコロニーを、LB培地で約4〜6時間培養した。培養物の吸光度(A600)が0.4〜0.6になった時点で、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)(1.4mM)を用いて7〜9時間蛋白質の発現を誘導した。細胞を遠心分離して沈殿させ、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した後、さらに沈殿させて培地から不純物を除去した。分画物をSDS−PAGEゲルで分析して蛋白質発現を確認した。
【0038】
発現した蛋白質の精製のために、8M尿素緩衝液(8M尿素、0.01M Tris−Cl、0.1M NaH
2PO
4)を使用した。精製段階によって、尿素緩衝液のpHを8.0、6.3、4.5などに調節した。蛋白質分解酵素阻害剤(1mM PMSF、10μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチン、1μg/mlアプロチニン)を含むpH8.0の尿素緩衝液で細胞を溶解させた後、4℃、13,000rpmで20分間で遠心分離した。上澄み液を、ヒスチジン結合樹脂であるNi−NTA His Bind Resin(Novagen社、米国)と、1mlのエッペンドルフチューブ内で混合した後、4℃で16時間インキュベーションして発現した蛋白質のヒスチジン残基と樹脂との結合を誘導した。反応溶液を遠心分離し、上澄み液を捨て、ペレットをpH6.3尿素緩衝液で洗浄した。蛋白質をPBSで透析した後、分注単位ごとに冷蔵保管した。
【0039】
配列番号6〜14のペプチドは、自動ペプチド合成器(PeptrEx−R48、Peptron社、大田、大韓民国)を用いて、FMOC固相法によって合成した。合成されたペプチドは、C18分析用RPカラム(資生堂カプセルパック)を使用した逆相高速液体クロマトグラフィ(Prominence LC−20AB、島津製作所)で精製及び分析し、質量分析器(HP 1100 Series LC/MSD、Hewlett−Packard社、Roseville、米国)を利用して単離した。
【0040】
【表1】
FL:全長、
EXT:細胞外領域、
HCR:高度保存領域
【0041】
実施例2.ポリペプチドを含む組成物の調製
配列番号4〜14のポリペプチドを、3μg/100μlの濃度になるように、PBSに溶解させた。得られた蛋白質溶液を、下記試験例で使用した。
【0042】
試験例1.ヒト単核球(U937)で発現するβ
1インテグリンの非活性化試験
ヒト単核球(U937)で発現するβ
1インテグリンの非活性化に対する配列番号6〜14のペプチド断片の効果を試験した。
【0043】
U937細胞(5×10
4)を各ウェルに添加した後、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14のそれぞれのペプチドを含む蛋白質溶液(5〜30μg/ml)で処理した。1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで3回洗浄し、0.1μMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSP)、1μg/mlペプスタチンA、10μg/mlロイペプチン、1μg/mlアプロチニン及び1mM Na
3VO
4が添加された1%NP40溶解緩衝液(1%ノニデット P40、0.1M NaCl、0.05Mトリス(pH8.0)、5mM EDTA)で溶解させた。
【0044】
細胞溶解物を10%ポリアクリルアミド・ゲル上で電気泳動した。活性化形態のβ
1インテグリンを認識するために、β−メルカプトエタノールのない非還元状態で電気泳動を実施した。分離された蛋白質をニトロセルロース膜に転写した後、ブロッキング溶液(0.05% Tween20と3%ウシ血清アルブミンとが含まれたトリス緩衝生理食塩水(TBS))を用いて室温で約1時間処理した。活性化形態のβ
1インテグリンに特異的な抗β
1インテグリンモノクローナル抗体(Chemicon Co.;cat.No.MAB2259Z)が添加されたTBS緩衝液中で2時間インキュベーションした。0.05% Tween20を含むTBS緩衝液で洗浄した後、蛋白質を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(DiNonA Co.;cat.No.80019F)を用いて室温で1時間処理した。0.05% Tween20を含むTBS緩衝液で5回洗浄した後、抗体検出キット(iNtRON Biotechnology,Inc)を使用して可視化した。同量の細胞溶解物を対照として本実験を確認するために、抗βアクチンモノクローナル抗体(Sigma−Aldrich Ltd.;cat No.A54441)を使用してアクチンを検出した。その結果は、
図2〜
図4の通りである。
【0045】
図2〜
図4から分かるように、CD99の細胞内ドメインに由来するQKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。
図2〜
図4によれば、本発明のポリペプチドで処理した群では、用量依存的にβ
1インテグリンが非活性化された。しかし、配列番号11〜14のアミノ酸を含まないポリペプチドで処理した場合には、このような減少は観察されなかった(データ示さず)。
【0046】
試験例2.ヒト単核球(U937)とHUVECとの接着に対する抑制活性試験
ヒト単核球(U937)とヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)との接着に対する配列番号6〜14のペプチド断片の効果を試験した。96ウェル細胞培養板の各ウェルに、HUVEC(5×10
4)を添加した。5%CO
2中、37℃で24時間インキュベーションした後、HUVECをIL−1βで4時間処理して活性化させた後、無血清培地で洗浄した。U937細胞(1×10
5)を、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14の各ペプチドを含む蛋白質溶液(5〜30μg/ml)で1時間処理した。得られたU937細胞を無血清培地で3回洗浄した後、HUVECを含むそれぞれのウェルに添加した。37℃で1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで1回洗浄し、トリプシン−EDTAを利用して細胞外基質から分離した。HUVECとは異なる、小さな円形状のU937細胞の数を、倒立顕微鏡下、血球計算機を使用して測定した。その結果は、
図5〜
図7の通りである。
図5〜
図7では、QKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。
【0047】
図5〜
図7から分かるように、本発明のポリペプチドを用いて処理した群では、HUVECに接着した単核球の数が、対照群に比べて、約30〜60%減少している。また、融合蛋白質であるpET28a−hCD99L2−Fc及びpET28a−PBDX−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(データ示さず)。しかし、配列番号11〜14のアミノ酸を含まないポリペプチドで処理した群では、かような減少は観察されなかった。従って、配列番号11〜14のアミノ酸を含むポリペプチドは、単核球の経内皮血管外遊出を抑制できることが期待される。
【0048】
試験例3.単核球の試験管内(in vitro)血管外遊出に対する抑制活性試験
HUVECをボイデンチャンバーの上室で培養した。上澄み液を除去し、実施例2で調製したPBS中に配列番号6〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で1時間処理したかまたは処理していないヒト単核球(U937)を、5×10
5細胞/チャンバーとなるように接種した。このとき、NIH/3T3マウス線維母細胞を、0.005%ビタミンC及び0.1%ウシ血清アルブミンを含むDMEM無血清培地で16時間培養して得られた培養物を遠心分離して得られた上澄み液を含む培養液を、前記チャンバーの下室に入れ、単核球の浸潤を誘導した。前記チャンバーを6時間培養し、浸潤して下室に移動した細胞数を測定した。前記試験を5回反復した。結果を
図8〜
図10に示す。対照ペプチドは、QKKKLCFまたはLCFからなるペプチドである。
【0049】
図8〜
図10から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した群での単核球の血管外への遊出は、対照群に比べて、有意に減少(約25〜40%減少)した。白血球が血管を通って炎症部位に移動するためには、経内皮血管外遊出が必須であることを考慮すると、本発明によるポリペプチドは、効果的に炎症反応を抑制できることが期待される。
【0050】
試験例4.急性接触性皮膚炎に対する抑制活性試験
本発明によるポリペプチドの抵炎症活性を試験した。250μM PMA(ホルボール12−ミリステート13−アセテート)を、Balb/cマウス(約6週齢)の一方の耳に塗布して接触性皮膚炎を誘導した。同時に、配列番号11〜14のペプチド断片(100μg)をPBS(100μl)に溶解させて調製した蛋白質溶液(100μl)を、皮膚炎を誘導したマウスの尾静脈を介して注入した。対照ペプチド(すなわち、QKKKLCF)(100μg)をPBS(100μl)に溶解させて調製した溶液(100μl)を、同じ方法で注入した。6時間後、耳重量を測定することによって、皮膚炎誘発及び疾患の程度を評価した。耳重量測定は、パンチング器を使用して耳の3カ所で同じサイズの耳サンプルを採取した後、得られたサンプルを称量して行った。
【0051】
図11は、本発明のポリペプチドで処理した試験群マウスの耳重量を、該ペプチドで処理していない対照群マウスと比較して得られたグラフである。
図11によれば、本発明によるポリペプチドで処理した群では、耳重量が対照群に比べて約15〜30%減少している。従って、配列番号11〜14のペプチドを含んだ本発明のポリペプチドは、炎症反応を効果的に抑制できることが期待される。
【0052】
試験例5.IgE依存性即時型過敏反応に対する抑制活性試験
本発明によるポリペプチドの抗アレルギー活性を試験した。Balb/cマウス(約6週齢)を、尾静脈を介してIgE抗体(5μg)を注射することにより感作した。24時間後、配列番号13のペプチド断片(100μg)を、PBS(100μl)に溶解させて調製した蛋白質溶液(100μl)を、感作したマウスの尾静脈を介して注入した。抗原として、0.15%DNFB溶液[2,4−ニトロフルオロベンゼンのアセトン:オリーブ油(4:1)溶液]をマウスの耳に塗布し、IgE依存性即時型過敏反応を誘導した。陰性対照群マウスには、0.15%DNFB溶液の処理なしに、PBS(100μl)の注入のみを行った。陽性対照群マウスには、PBS(100μl)を注入し、0.15%DNFB溶液による処理を行った。耳厚の変化を、デジタルノギスを用いて、1時間毎に12時間測定した。3日目から毎日、配列番号13のペプチド断片(100μg)を試験群マウスに腹腔注射し、対照群マウスにはPBSのみを腹腔注射した。耳厚の変化を15日間測定した。
【0053】
図12は、試験群マウス及び陽性対照群マウス(0.15%DNFB溶液処理によって耳厚増大)の耳厚の変化を、陰性対照群と比較して得たグラフである。
図12から分かるように、本発明によるポリペプチドを注入した群では、耳厚増大が、陽性対照群に比べて顕著に低減した。従って、配列番号13のペプチドを含んだ本発明のポリペプチドは、IgE依存性即時型過敏反応を効果的に抑制できることが期待される。
【0054】
試験例6.コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する抑制活性試験
リューマチ性関節炎に対する本発明によるペプチドの抑制活性を試験した。CFA(完全フロイントアジュバント)とウシII型コラーゲン(2mg/ml)との1:1(v/v)混合物(50μl)を、C57BL/6マウス(オス、4週齢)の尾根部皮下に注入した。2週後、ウシII型コラーゲン(2mg/ml)と完全フロイントアジュバントとの1:1(v/v)混合物をマウスの足の裏に追加接種した。CIAが誘導され、平均関節炎スコアが9〜12点に達した時点で、マウスを無作為に試験群と対照群とに分けた。試験群には、配列番号13のペプチド断片(100μg)のPBS(100μl)溶液を経口投与し、対照群には、PBS(100μl)のみを経口投与した。この後、平均関節炎スコアを肉眼で21日間測定し、統計分析した。平均関節炎スコアは、次の基準に基づいて付与した:0=正常、1=足の指1本以下の浮腫、2=足の指2本以上の浮腫、3=足の裏及び足の指1本以下の浮腫、4=足の裏及び足の指2本以上の浮腫、または足首、足の裏及び足の指1本以下の浮腫、5=足の指の硬直。
【0055】
図13は、(PBSのみで処理した)対照群及び(本発明によるペプチドで処理した)試験群の平均関節炎スコアを測定して得られた結果である。
図13から分かるように、本発明によるペプチドを経口投与群では、関節炎が有意に抑制された。
【0056】
試験例7.細胞外基質へのHUVECの付着に対する抑制活性試験
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のフィブロネクチンへの付着に対する配列番号4〜14のポリペプチドの効果を試験した。
【0057】
細胞外基質成分の一つであるフィブロネクチンで96ウェル細胞培養板の各ウェルをコーティングし、紫外線下で乾燥させた。HUVEC(5×10
4)を各ウェルに入れ、実施例2で調製した配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液を30μg/mlの濃度で用いて各ウェルの処理を行った。1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで3回洗浄し、トリプシン−EDTAを利用して分離した後、トリパンブルー溶液で染色した。フィブロネクチンに接着した細胞の数を血球計算機を使用して測定した。その結果を
図14〜
図16に示す。
図14〜
図16では、CD99の細胞内領域に由来するQKKKLCFまたはLCFを対照ペプチドとして使用した。
【0058】
図14〜
図16から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した試験群では、フィブロネクチンに接着したHUVECの数が、対照群に比べて、約30〜60%減少した。また、融合蛋白質であるCD99L2EXT−Fc及びPBDX(またはXG)−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(
図16)。このとき、対照ペプチドはヒトIgGFc、すなわち、配列番号16の蛋白質であった。
【0059】
試験例8.試験管内(in vitro)血管新生に対する抑制活性試験
血管新生に対する本発明のポリペプチドの効果を試験した。
【0060】
一般的に、血管の基底膜成分と血管内皮細胞との相互作用は、新生血管の形成及び維持に重要な役割を果たす。基底膜成分であるマトリゲルを用いて24ウェル細胞培養板を処理すると、重合反応によりプラグが形成される。マトリゲルでコーティングした24ウェル細胞培養板に、HUVECを8×10
4細胞/ウェルの密度で接種した。実施例2で調製した配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)及びbFGF(塩基性線維芽細胞成長因子、150ng/ml)を前記ウェルに添加した。24時間インキュベーションした後、新生血管の形成を倒立顕微鏡を使用して観察した(×50倍)。その結果を
図17〜
図19に示す。対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。
【0061】
図17〜
図19から分かるように、HUVECを、本発明のポリペプチドを含有する蛋白質溶液で処理すると、血管形成(すなわち、血管新生)が顕著に抑制された。また、融合蛋白質であるCD99L2EXT−Fc及びPBDX(またはXG)−Fcで処理した場合にも、同様の結果が得られた(
図19)。
【0062】
試験例9.ガン細胞の浸潤に対する抑制活性試験
トランスウェルの各ウェルを、インテグリンのリガンドであるフィブロネクチンでコーティングした。MCF−7ヒト乳ガン細胞(5×10
5細胞)をトランスウェルの上室に入れ、24時間インキュベーションした。細胞が約80%成長した時点で、各ウェルを、実施例2で調製したPBS中に配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で処理した。5%CO
2中、37℃で1時間インキュベーションした後、各ウェルを0.1%BSAで処理した。浸潤誘導培地(NIH3T3細胞を0.005%ビタミンC及び1%BSAが添加された無血清DMEM中で24時間培養して得られた培養上澄み液)をトランスウェル下室にロードした。トランスウェルの下室に移動した細胞数を24時間おきに3回測定した後、その結果を統計分析した。対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。その結果を
図20〜
図22に示す。
【0063】
図20〜
図22から分かるように、本発明による配列番号4〜14のペプチドで処理した群では、ヒト乳ガン細胞の浸潤率が、対照ペプチドで処理した群に比べて、約60%抑制された。ガン細胞が血管外に遊出し、基底膜や周囲結合組織を浸潤した後、新しい部位に転移することを考慮すると、本発明のポリペプチドがガン細胞の転移を効果的に抑制できることが分かる。
【0064】
試験例10.ガン細胞の試験管内(in vitro)血管外遊出に対する抑制活性試験
HUVECをボイデンチャンバーの上室で培養した。上澄み液を除去し、実施例2で調製したPBS中に配列番号4〜14のそれぞれのペプチドを含有する蛋白質溶液(30μg/ml)で1時間処理したかまたは処理していないMCF−7ヒト乳ガン細胞を、5×10
5細胞/チャンバーとなるように接種した。このとき、浸潤誘導培地を下室に入れ、乳ガン細胞の浸潤を誘導した。前記チャンバーを6時間培養し、下室に移動した細胞数を測定した。前記試験を3回以上反復した。結果を
図23〜
図25に示す。
図23〜
図25で、対照ペプチド及び蛋白質は、試験例1及び7で使用したものと同じペプチド及びFcである。
【0065】
図23〜
図25から分かるように、本発明のポリペプチドで処理した群では、ヒト乳ガン細胞の血管外遊出が、対照群の約60〜80%に低下した。ガン細胞が血管を介して臓器に転移するためには血管外への遊出が必須であることを考慮するとき、本発明のポリペプチドがガン細胞の転移を効果的に抑制できることが分かる。