【文献】
川岸裕之,他4名,直交表による大域的最適解探索手法の開発 多峰性関数への適用,日本機械学会2005年度年次大会講演論文集,日本,一般社団法人日本機械学会,2005年 9月18日,第6号,p.45-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度センサの選択は、前記温度センサ評価値による評価が高いものから順に使用する温度センサを追加することによって温度センサの複数の組み合わせを生成し、ここで生成した組み合わせのそれぞれについて組み合わせ評価値を算出し、算出した組み合わせ評価値による評価に基づいて温度センサの組み合わせを選択することによって行われる請求項1に記載の工作機械。
前記温度センサの選択は、前記温度センサ評価値が大きいものから順に使用する温度センサを追加することによって温度センサの組み合わせを生成し、生成した組み合わせについて前記組み合わせ評価値を算出し、温度センサを追加する前後の前記組み合わせ評価値を比較し、温度センサの追加後の前記組み合わせ評価値による評価の低下が所定の閾値を超える場合に温度センサの追加を終了して組み合わせ評価値が最大になる組み合わせを選択することによって行われる請求項1に記載の工作機械。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0020】
1.本発明のもとになったアイデア
図1は、本実施形態に係る複数の駆動機構によって工具と被削材を相対運動させてその被削材を所定形状に加工する工作機械の構造例を説明するための斜視図である。左右に工作物を回転させる主軸が設定設置されており、特に刃物台211はXYZ軸方向への3軸に加えて傾斜加工ができるよう旋回軸が備わり、多軸制御加工が可能となっている。
【0021】
図2は、実施形態に係る多軸制御工作機械の駆動機構のクロススライドモデルである傾斜支持体について説明するための斜視図である。ここで、本実施形態のクロススライド200は、工作機械のベッド212(
図1中に図示)に載せて使用する構成部品であり、ベッド212上のスライドウェイ(不図示)上に沿って前後に移動するサドルの一種である。
【0022】
そして、図示するように、クロススライドの傾斜面205には、平行して2本の往復スライドウェイ207a、207bが設けられている。この往復スライドウェイ207a、207b上には、被削材を加工するための切削工具を保持する刃物台211(
図1中に図示)が設置される。また、この刃物台211は,往復スライドウェイ207a、207bに沿って斜め方向(制限されたYZ軸方向)に移動可能に構成されている。そのため、刃物台211(
図1に図示)は、すでに説明したベッド212(
図1に図示)に対する前後左右方向(XY軸方向)の移動と、この刃物台のクロススライド200に対する斜め方向(制限されたYZ軸方向)の移動と、の組み合わせによって、結局のところ、立体空間におけるXYZ軸方向に自由自在に移動可能に構成されていることになるのである。
【0023】
図3は実施形態に係る多軸制御工作機械の熱変位補正法の概念について説明するための概念図である。この多軸制御工作機械の熱変位補正法では、まず、工作機械の構成部品の外表面(例えば,傾斜支持体200の外表面)のうち、この工作機械のオペレータが自らの経験に基づいて発熱源となる可能性の高い場所(例えば、摺動部または回転軸など)に熱源候補領域を設定する。続いて、被測定構造体である工作機械の構成部品の外表面(例えば、傾斜支持体200の外表面)の周縁部に設けられている複数の温度センサのうち、後述する温度センサ選択部204によって温度測定部として選択されたものによって温度上昇の測定を行う。次いで、その被測定構造体の温度上昇の測定から得られた温度上昇履歴から逆解析により熱源候補領域からの熱流入量を算出する。そして、この熱流入量に基づいて被測定構造体であるクロススライドモデルを備える工作機械の熱変位データを推定する。被測定構造体であるクロススライドモデルを備える工作機械において、幾つかの駆動パターンについてこのような一連の作業を行えば、熱流入量に基づいて発生する熱変位を補正するための熱変位補正式の確立が行える。最終的には、このようにして被測定構造体であるクロススライドモデルを備える工作機械ごとに特有の確立された式により各熱源への熱流入量を考慮した熱変位量の推定を行い、熱変位量に基づく熱変位を補正することが可能となる。
【0024】
そのため、この多軸制御工作機械の熱変位補正法によれば、工作機械の分野では従来から望まれていながら実現が困難であった以下のようなことが可能になる。すなわち、まず、被削材の最終形状をCADデータとしてインプットし、コンピュータにより工作機械駆動パターンを算出する。算出された駆動パターンでは、例えば、軸の回転数がa回転/分、レールのストロークをb回/分と規定されているとすると、流入熱量はQ1=cJ/分、Q2=dJ/分などと、あらかじめコンピュータに格納されたデータテーブルを用いた変換で流入熱量が推定される。そして、すでに、熱流入量に基づいて発生する熱変位を補正するための熱変位補正式の確立が行えていれば、このようにして推定された流入熱量から熱変位量Δdが求められ、この熱変位量Δdに基づく補正を行うことによって高精度の加工がなされるものである。
【0025】
図4は実施形態に係る多軸制御工作機械のクロススライドモデルの周縁部に設置したデータロガー(温度センサ)の設置場所の一例を示した図である。この図では、後述する実施例で行った実験におけるデータロガー(温度センサ)の設置場所を例として示している。この図のデータロガー(温度センサ)のうち、後述する温度センサ選択部204によって選択されたものが温度測定部として利用される。設置にあたって断熱パテにより外気を遮断し、クロススライドモデルの表面温度を計測可能な状態にされている。この図では、これらデータロガーの設置数は15としている。
【0026】
2.工作機械の実施形態
2−1.機能ブロック
図5は、上記のアイデアがもとになって発明された、実施形態に係る多軸制御工作機械の構成を説明するための機能ブロック図である。この多軸制御工作機械1000は、複数の駆動機構300によって工具と被削材を相対運動させてその被削材を所定形状に加工する工作機械1000である。この工作機械1000は、全体として、被測定構造体の温度を測定する複数の温度センサ202と、工作機械の操作者からの種々のデータ入力を受け付け、入力されたデータに基づいて被測定構造体モデルデータを生成する入力受付・モデルデータ生成部101と、温度センサ202のうち温度測定に使用されるものを温度測定部として選択する温度センサ選択部204と、そのようにして測定された温度分布に基づいて熱変位補正データを算出する熱変位補正装置100と、そのようにして導き出された熱変位補正データに基づいて駆動パターンに補正を加える複数の駆動機構300と、を備える工作機械である。
【0027】
2−2.温度センサ
まず、この工作機械1000を構成する温度センサ202について以下説明する。この多軸制御工作機械1000には、被測定構造体200の外表面の周縁部における温度を測定するための温度センサ202が設けられている。この温度センサ202は、被測定構造体200の外表面の周縁部に密着させられて、その表面温度を測定・記録するデータロガーとして働く。また、この温度センサ202は、測定・記録した温度データに対応する電気信号をコンピュータが解読可能な形式の温度データに変換して出力する。複数の温度センサ202のうち温度測定部として使用されるものが温度センサ選択部204によって選択され、選択された温度センサ202からの出力が熱変位補正装置100に伝達される。
【0028】
2−3.入力受付・モデルデータ生成部
次に、この工作機械1000を構成する入力受付・モデルデータ生成部101について説明する。入力受付・モデルデータ生成部101は、工作機械の操作者からの種々のデータ入力を受け付け、入力されたデータに基づいて被測定構造体モデルデータを生成する。
【0029】
入力受付・モデルデータ生成部101は、工作機械の立体構造のうち熱源となる可能性の高い領域を熱源候補領域として設定するための熱源候補領域設定部104を有している。熱源候補領域設定部104は、操作者によりキーボードなどの入力部102を介して入力された熱源候補領域のデータを受け取ってもよく、あるいは、ネットワーク112、サーバー114などから呼び出されたあらかじめ設定された熱源候補領域に関するデータを読み込んでもよい。こうして受け付けられたデータは後述する被測定構造体モデルデータ生成部120に受け渡される。
【0030】
また、入力受付・モデルデータ生成部101は、被測定構造体の立体構造・物性・温度センサ位置・熱源候補領域についての各種情報を組み合わせて、コンピュータによる各種3Dシミュレーションの対象として用いる際に適したデータとなるように、被測定構造体モデルデータを生成する被測定構造体モデルデータ生成部120を有している。また、この入力受付・モデルデータ生成部101には、この被測定構造体モデルデータ生成部120に、これらの各種情報を外部から入手して受け渡すために、外部から熱源候補領域の設定条件を受け付ける熱源候補領域設定部104、被測定構造体に設置された温度センサの位置情報を受け付ける温度センサ位置データ受付部116、被測定構造体の立体構造および材料物性に関するデータを受け付ける被測定構造体の構造・物性データ受付部118も設けられている。そして、これらの熱源候補領域設定部104、温度センサ位置データ受付部116、被測定構造体の構造・物性データ受付部118を介して外部から取得された被測定構造体の立体構造・物性・温度センサ位置・熱源候補領域についての各種情報は、被測定構造体モデルデータ生成部120に集約され、これらのデータを互いに組み合わせて、コンピュータによる各種3Dシミュレーションの対象として用いる際に適したデータとなるように、被測定構造体モデルデータが生成される。そして、このように生成された被測定構造体モデルデータは被測定構造体モデルデータ記憶部122に記憶される。
【0031】
2−4.温度センサ選択部
次に、温度センサ選択部204について以下説明する。この多軸制御工作機械1000には、温度センサ202のうち温度測定に使用されるものを温度測定部として選択する温度センサ選択部204が設けられている。以下、
図6に示すフローチャートを用いて温度センサ選択部の動作について詳細に説明する。以下の説明では明示はしないが、入力又は生成された各種データは、その後のデータ処理に利用可能なように、所定の記憶部に格納される。また、以下の各ステップは、主記憶又は外部記憶装置に格納された所定のコンピュータプログラムをCPUが実行することによって実現される。
【0032】
2−4−1.温度センサの複数の組み合わせの生成(ステップSA1)
まず、ステップSA1では、温度センサ選択部204は、温度センサ202のそれぞれを使用するかどうかに基づいて直交表に従って温度センサの複数の組み合わせを生成する。直交表とは、任意の2因子(列)について,その水準のすべての組合せが同数回ずつ現れるという性質をもつ表である。本実施形態では、ある温度センサ202を用いるかどうかが問題であるので二水準の直交表を用いる。二水準の直交表の例としては、L
4、L
8、L
12、L
16、L
32、L
64、L
128などが挙げられる。L
12及びL
16の直交表を
図7〜
図8に示す。L
32の直交表は、(1)L
16の直交表の各行を2行にし、(2)15列目の右側に01010101....0101からなる第16列を追加し、(3)第16列と、第1〜15列との排他的論理和からなる列を第17列目以降に追加することによって作成することができる。L
64の直交表は、L
32の直交表に対して同様の作業を行い、L
128の直交表は、L
64の直交表に対して同様の作業を行うことによって作成することができる。L
12、L
16、L
32、L
64、L
128の直交表に割り当てることができる温度センサ202の最大数は、それぞれ、11個、15個、31個、63個、127個である。従って、温度センサ選択部204が考慮する温度センサ202の数に応じて使用する直交表を選択すればよい。例えば、温度センサ選択部204が考慮する温度センサ202の数が11個以下であれば、L
12の直交表を用いることが好ましい。
【0033】
温度センサ選択部204は、全ての温度センサ202を直交表に割り当ててもよいが、必要性が高いことが明白な温度センサ202(以下、「基礎温度センサ」と呼ぶ)については常に温度測定部として使用することにして、それ以外の温度センサ202のみを直交表に割り当ててもよい。この場合、考慮する温度センサ202の数を減らすことができ、計算時間を短縮することができる。基礎温度センサとしては、後述するステップSB2で計算される基準温度分布での温度上昇量が最も小さい位置に配置された温度センサ202を選択することが好ましい。この場合、使用する温度センサ202の数が少ない場合でも、比較的良好な結果が得られることが後述する実施例1によって明らかになったからである。
【0034】
温度センサ202は、直交表の各列に割り当てる。例えば、L
12の直交表を用いる場合は、最大11個の温度センサ202を列A〜Kに割り当てる。割り当てる温度センサ202の数が11個未満、例えば8個の場合は、列A〜Hに割り当てる。直交表の各行は、温度センサ202の組み合わせを示している。例えば、L
12の直交表の第1行〜第12行は、第1〜第12の温度センサ202の組み合わせを示している。直交表中の「0」、「1」は、それぞれ、その温度センサ202を「使用しない」、「使用する」を意味する。例えば、L
12の直交表の第10行目は、列ABCHIKが1で、残りの列が0である。従って、この行は、列ABCHIKに割り当てられた温度センサ202を使用するという温度センサ202の組み合わせを示している。このように、直交表を用いることによって、温度センサ202のそれぞれを使用するかどうかに基づく、温度センサ202の複数の組み合わせが生成される。
なお、ステップSA1は、後述するステップSB3において最初の組み合わせを選択する前のどの段階で行ってもよいので、ステップSA2を開始する前に行ってもよく、ステップSA2を開始した後にステップSB3を実行する前に行ってもよい。
【0035】
2−4−2.組み合わせ評価値の算出処理(ステップSA2)
次に、ステップSA2では、温度センサ選択部204は、ステップSA1で作成した温度センサ202の複数の組み合わせのそれぞれについて組み合わせ評価値を算出する。組み合わせ評価値は、温度センサ202の組み合わせの良否を判断するための指標であり、その算出方法は特に限定されない。
【0036】
組み合わせ評価値は、一例では、熱源候補領域からの基準熱流入量を設定し、上記基準熱流入量に基づいて上記熱源候補領域での基準温度分布を生成し、上記熱源候補領域からの仮定熱流入量を設定し、上記仮定熱流入量に基づいて上記工作機械の推定温度分布を生成し、上記基準温度分布のうち上記組み合わせに含まれる温度センサに対応する箇所の温度基準値と、上記推定温度分布のうち上記組み合わせに含まれる温度センサに対応する箇所の温度推定値とを対比して、上記温度基準値および上記温度推定値の間のギャップが小さくなるように、上記仮定熱流入量を別の値に再設定して繰り返し計算し、上記繰り返し計算の結果として得られた最終の推定温度分布と基準温度分布との差異又は最終の仮定熱流入量と基準熱流入量との差異を評価することによって算出することができる。この方法によれば、後述する近似データ算出部134が近似熱流量を算出する際に用いる方法に類似した方法によって組み合わせ評価値が算出されるので、この方法によって算出した組み合わせ評価値を用いて温度センサを選択すれば、近似データ算出部134が近似熱流量の精度良く算出することができる。
以下、
図9のフローチャートを用いて組み合わせ評価値の算出処理についてさらに詳細に説明する。
【0037】
(1)基準熱流入量の設定(ステップSB1)
ステップSB1では、温度センサ選択部204は、各熱源候補領域から流入する熱流入量を設定する。ここで、設定する熱流入量は、後述するステップSB6での対比・ギャップ解析をする際の基準となる基準温度分布を作成するために用いられる。ここで設定する熱流入量を以下「基準熱流入量」と称する。基準熱流入量は、熱源となるモーター等の仕様を考慮して設定したり、後述する近似データ算出部134が以前に算出した近似熱流入量に設定したりすることができる。後者の場合、近似データ算出部134が以前に算出した近似熱流入量と、近似データ算出部134がこれから算出しようとする近似熱流入量は、比較的近接していると考えられるので、近似データ算出部134が以前に算出した近似熱流入量を基準熱流入量に設定することによって、近似データ算出部134が近似熱流量をさらに精度良く算出することができる。また、工作機械の周囲温度が変化したり、工作機械の運転条件が変更されたりした場合に工作機械がさらされる熱環境が変化する場合がありが、このような熱環境の変化に対応させるために温度測定部として使用する温度センサを再選択する場合があるが、その場合、基準熱流入量を近似データ算出部134が以前に算出した近似熱流入量に設定することによって、人為的に基準熱流入量を設定する手間を省くことができる。また、近似データ算出部134が直前に算出した近似熱流入量は、熱環境の変化が反映された値であるため、この近似熱流量を基準熱流入量に設定することによって熱環境の変化により確実に対応することができる。複数の熱源候補領域が存在している場合は、それぞれの熱源候補領域に対して基準熱流入量を設定する。
【0038】
(2)基準温度分布の計算(ステップSB2)
ステップSB2では、温度センサ選択部204は、基準温度分布を計算する。基準温度分布とは、基準熱流入量が被測定構造体モデルデータに流れ込んだ場合に、所定の時間経過後に被測定構造体の温度分布がどのようになるのか、有限要素解析法などの計算アルゴリズムを用いて計算して得られる被測定構造体の温度分布である。
【0039】
(3)組み合わせの選択(ステップSB3、SB9、SB10)
ステップSB3では、温度センサ選択部204は、ステップSA1で生成した温度センサの複数の組み合わせのうちの一つを選択する。具体的には例えば、
図7に示すL
12の直交表の第1行を選択する。この場合、全ての列の値が0であるので、基礎温度センサのみが温度測定部となる。基礎温度センサがない場合には、第2行を最初の組み合わせとして選択するとよい。
温度センサ選択部204は、ここで選択した温度センサの組み合わせについて、ステップSB4〜ステップSB8を実行することによって組み合わせ評価値を算出する。温度センサ選択部204は、ステップSA1で生成した温度センサの複数の組み合わせのうちの全てについて組み合わせ評価値を算出するために、ステップSB9において、全ての組み合わせについて組み合わせ評価値を算出したかどうかを確認し、未算出の組み合わせが存在している場合には(ステップSB9のN)、ステップSB10において、次の組み合わせを選択する。未算出の組み合わせが存在していない場合には(ステップSB9のY)、温度センサ選択部204は、組み合わせ評価値の算出処理を完了する。
【0040】
(4)仮定熱流入量の設定(ステップSB4)
ステップSB4では、温度センサ選択部204は、各熱源候補領域から流入する熱流入量を仮定する。ここで仮定する熱流入量は、後述するステップSB6での対比・ギャップ解析をする際の基準となる推定温度分布をステップSB5で計算するために用いられる。ここで仮定する熱流入量を以下「仮定熱流入量」と称する。仮定熱流入量は、ステップSB6での対比・ギャップ解析の結果が、ステップSB7で規定されている終了条件を充足するまで、繰り返し設定される。仮定熱流量の初期値の設定方法は、特に限定されないが、温度センサの組み合わせの良否を反映した組み合わせ評価値を算出するという目的を鑑みると、仮定熱流量は、基準熱流入量とは異なっていることが好ましく、基準熱流入量の1/2以下又は2倍以上の値にすることがさらに好ましい。仮定熱流入量と基準熱流入量とが近すぎると、組み合わせ評価値が温度センサの組み合わせの良否を反映しにくいからである。
【0041】
(5)推定温度分布の計算(ステップSB5)
ステップSB5では、温度センサ選択部204は、推定温度分布を計算する。推定温度分布とは、仮定熱流入量が被測定構造体モデルデータに流れ込んだ場合に、所定の時間経過後に被測定構造体の温度分布がどのようになるのか、有限要素解析法などの計算アルゴリズムを用いて計算して得られる被測定構造体の温度分布である。
【0042】
(6)対比・ギャップ解析(ステップSB6)
ステップSB6では、温度センサ選択部204は、対比・ギャップ解析を行う。ここでは、対比・ギャップ解析とは、ステップSB2で生成した基準温度分布と、ステップSB5で生成した推定温度分布との差異の大きさについての解析である。この解析は、具体的には、(1)ステップSB3又はSB10で選択された温度センサの組み合わせに含まれる温度センサに対応する各箇所において、ステップSB2で生成した基準温度分布上での温度(以下、「温度基準値」と称する)と、ステップSB5で生成した推定温度分布上での温度(以下、「温度推定値」と称する)を取得し、(2)温度センサに対応する各箇所についての温度基準値と温度推定値との差分を計算し、(3)計算した差分についての絶対値の和又は残差二乗和に基づくギャップ評価値を計算することによって行うことができる。ギャップ評価値は、一例では、下記式(1)に基づいて計算することができる。式(1)において、T
iは、温度推定値であり、T
sは、温度基準値であり、nは、ステップSB3又はSB10で選択された温度センサの組み合わせに含まれる温度センサの数である。
【数1】
【0043】
(7)終了条件判定(ステップSB7)
ステップSB7では、温度センサ選択部204は、ステップSB4〜SB6の繰り返し処理を終了することができるかどうかの判定を行う。この判定は、種々の基準に基づいて行うことができる。例えば、(a)ギャップ評価値が閾値を超えている否か、(b)繰り返しの回数が閾値以上であるか否か、(c)計算時間が閾値以上であるか否か等の条件のうちの何れかを終了条件として採用してもよく、これらの組み合わせを終了条件として採用してもよい。
終了条件が充足されていない場合は(ステップSB7のN)、ステップSB4に戻り、温度基準値と温度推定値との差分の絶対値の和又は残差二乗和が小さくなるように(言い換えると、上記式(1)の値を最大化するように)、仮定熱流量の値を変更し、再度、ステップSB5以降の処理を行う。終了条件が充足された場合は(ステップSB7のY)、繰り返し処理を終了し、ステップSB8に進む。
【0044】
(8)組み合わせ評価値の算出(ステップSB8)
ステップSB8では、温度センサ選択部204は、組み合わせ評価値の算出を行う。組み合わせ評価値とは、温度センサの組み合わせの良否を判断するための指標となる値であればよい。組み合わせ評価値は、具体的には、例えば(1)組み合わせ評価値の算出に用いる温度センサに対応する各箇所において、温度基準値と温度推定値との差分を計算し、(2)計算した差分についての絶対値の和又は残差二乗和に基づく値を計算することによって算出することができる。組み合わせ評価値は、例えば、下記式(2)で定まる値にすることができる。式(2)において、T
iは、温度推定値であり、T
sは、温度基準値であり、mは、組み合わせ評価値の算出に用いる温度センサの数である。
【数2】
式(1)でのnの値は、温度センサの組み合わせ毎に異なるが、式(2)でのmの値は、温度センサのどの組み合わせでも同じ値であり、組み合わせ評価値の算出には常に同一の温度センサが使用される。これによって、温度センサの複数の組み合わせを同じ基準で比較することができる。組み合わせ評価値の算出には、工作機械1000に設置されている全ての温度センサを用いることが好ましい。この場合、組み合わせ評価値をより精度良く算出することができるからである。算出された組み合わせ評価値の例を
図10に示す。
組み合わせ評価値の算出方法は、ここで示したものに限定されず、例えば、(1)全ての熱源候補領域について、ステップSB4で最後に設定した仮定熱流入量と、ステップSB1で設定した基準熱流入量との差分を計算し、(2)計算した差分についての絶対値の和又は残差二乗和に基づく値を計算することによって算出してもよい。
【0045】
この後は、「(3)組み合わせの選択(ステップSB3、SB9、SB10)」の項で説明したように、温度センサ選択部204は、ステップSB9において、全ての組み合わせについて組み合わせ評価値を算出したかどうかを確認し、未算出の組み合わせが存在している場合には(ステップSB9のN)、ステップSB10において、次の組み合わせを選択する。未算出の組み合わせが存在していない場合には(ステップSB9のY)、温度センサ選択部204は、組み合わせ評価値の算出処理を完了する。
【0046】
2−4−3.温度センサ評価値の算出(ステップSA3)
次に、ステップSA3では、温度センサ選択部204は、温度センサ評価値を算出する。温度センサ評価値とは、温度センサ202の有用性を示す指標となる値である。温度センサ202の各組み合わせについて算出された組み合わせ評価値をある温度センサが使用されているかどうかに基づいて分類することによってその温度センサの温度センサ評価値を算出することができる。
以下、
図10に示した組み合わせ評価値の例を用いて、
図11に示すフローチャートに従って、温度センサ評価値の算出方法をさらに具体的に説明する。
【0047】
(1)最初の温度センサの選択(ステップSC1)
まず、ステップSC1では、温度センサ選択部204は、温度センサ評価値を算出する最初の温度センサ202を選択する。例えば、
図10の温度センサAを選択する。
【0048】
(2)温度センサの組み合わせの分類(ステップSC2)
次に、ステップSC2では、温度センサ選択部204は、選択した温度センサが含まれているかどうかで、温度センサの組み合わせを「無しグループ」と「有りグループ」とに分類する。例えば、温度センサAを例に挙げると、第1行〜第6行の温度センサの組み合わせでは、温度センサAの列が0になっているので、これらの組み合わせには、温度センサAが含まれておらず、「無しグループ」に分類される。また、第7行〜第12行の温度センサの組み合わせでは、温度センサAの列が1になっているので、これらの組み合わせには、温度センサAが含まれており、「有りグループ」に分類される。
【0049】
(3)無し代表値の算出(ステップSC3)
次に、ステップSC3では、温度センサ選択部204は、無しグループに属する温度センサの組み合わせについての組み合わせ評価値の代表値(無し代表値)を算出する。代表値とは、無しグループに属する温度センサの組み合わせについての組み合わせ評価値に対して所定の算術処理を行って得られる値であり、例えば、平均値や合計値である。代表値が平均値であり、選択された温度センサが温度センサAの場合を例に挙げると、第1行〜第6行の温度センサの組み合わせが「無しグループ」に属しているので、これらの組み合わせについての組み合わせ評価値の平均値が無し代表値となる。第1行〜第6行の温度センサの組み合わせの組み合わせ評価値は、それぞれ、25.8, 57.4, 51.3, 30.9, 44.6, 47.9であるので、これらの平均値は、43.0である。従って、温度センサAの無し代表値は、43.0である。
【0050】
(4)有り代表値の算出(ステップSC4)
次に、ステップSC4では、温度センサ選択部204は、有りグループに属する温度センサの組み合わせについての組み合わせ評価値の代表値(有り代表値)を算出する。代表値とは、有りグループに属する温度センサの組み合わせについての組み合わせ評価値に対して所定の算術処理を行って得られる値であり、例えば、平均値や合計値である。代表値が平均値であり、選択された温度センサが温度センサAの場合を例に挙げると、第7行〜第12行の温度センサの組み合わせが「有りグループ」に属しているので、これらの組み合わせについての組み合わせ評価値の平均値が有り代表値となる。第7行〜第12行の温度センサの組み合わせの組み合わせ評価値は、それぞれ、36.7, 41.0, 49.9, 38.4, 36.5, 54.1であるので、これらの平均値は、42.8である。従って、温度センサAの有り代表値は、42.8である。
【0051】
(5)温度センサ評価値の算出(ステップSC5)
次に、ステップSC5では、温度センサ選択部204は、無し代表値と有り代表値の違いに基づいて温度センサ評価値を算出する。温度センサ評価値は、無し代表値と有り代表値の違いが反映される値であればよく、例えば、「(有り代表値)−(無し代表値)」によって求まる値や、「(有り代表値)/(無し代表値)」によって求まる値にすることができる。温度センサ評価値が「(有り代表値)−(無し代表値)」であり、選択された温度センサが温度センサAの場合を例に挙げると、温度センサAの有り代表値が42.8で、温度センサAの無し代表値が43.0であるので、温度センサ評価値は、-0.2である。
【0052】
(6)次の温度センサの選択(ステップSC6,ステップSC7)
次に、ステップSC6では、温度センサ選択部204は、全ての温度センサについて温度センサ評価値が算出されたかどうかを確認し、未算出の温度センサが残っている場合には(ステップSC6のN)、次の温度センサを選択し、(ステップSC7)、ステップSC2に戻って選択した温度センサについて温度センサ評価値を算出する。未算出の温度センサが残っていない場合には(ステップSC6のY)、温度センサ評価値の算出処理を終了する。
【0053】
温度センサA〜Kについて、上述した方法に従って算出した無し代表値、有り代表値及び温度センサ評価値を
図12に示す。代表値としては平均値を用い、温度センサ評価値は、「(有り代表値)−(無し代表値)」によって算出した。温度センサ評価値は、その温度センサがある場合に、代表値が向上するかどうかを示す指標となる値であり、その値が大きいほど、その温度センサの有用性が高いことを意味している。
図12の場合、温度センサ評価値が高いものから降順で温度センサを並べると、温度センサは、I,J,F,E,G,C,H,A,K,D,Bの順に並べられる。
【0054】
2−4−4.温度センサの選択処理(ステップSA4)
ステップSA4では、温度センサ選択部204は、温度センサ評価値に基づいて、温度センサの選択を行う。温度センサの選択方法は、特に限定されないが、例えば、以下に示す2つの方法で行うことができる。
【0055】
(1)温度センサの選択方法の一つ目
以下、
図13のフローチャートを用いて、温度センサの選択方法の一つ目について説明する。一つ目の方法では、温度センサの複数の組み合わせを予め生成し、それぞれの組み合わせについて組み合わせ評価値を算出し、算出した組み合わせ評価値に基づいて温度センサを選択する。
【0056】
(1−1)温度センサの複数の組み合わせを生成(ステップSD1)
ステップSD1では、温度センサ選択部204は、温度センサ評価値による評価が高いものから順に使用する温度センサを追加することによって温度センサの複数の組み合わせを生成する。
図12で示した温度センサ評価値を例に挙げると、まず、温度センサ評価値が高い物から降順で温度センサを並べ、使用する温度センサを一つずつ増やすと、
図14に示す表が得られ、この表の第1行〜第12行が、温度センサの複数の組み合わせに対応する。例えば、第6行では、温度センサI,J,F,E,Gの列が1で、残りの列が0であるので、第6行は、温度センサI,J,F,E,Gからなる組み合わせを意味する。また、
図14では示していないが、基礎温度センサがある場合には、全ての組み合わせに基礎温度センサが追加される。なお、
図14の第1行のような場合は、使用するセンサは、基礎温度センサのみであるが、このように使用するセンサが一つの場合でも、本明細書では、便宜上、「組み合わせ」という用語を用いる。また、温度センサ評価値による評価が同程度である温度センサが複数存在している場合には、それらのセンサを択一的に選択して温度センサの組み合わせを生成してもよい。例えば、
図12の例では、温度センサCとHや温度センサDとKは、温度センサ評価値が同程度であるので、温度センサCとHの何れか一方を使用する組み合わせを生成してもよい。
【0057】
(1−2)各組み合わせについて組み合わせ評価値を算出(ステップSD2)
ステップSD2では、温度センサ選択部204は、ステップSD1で生成した全ての組み合わせについて、組み合わせ評価値を算出する。組み合わせ評価値は、ステップSB3〜SB10において説明した方法で算出することができる。
図14で示す12個の組み合わせのそれぞれに基礎温度センサを追加した組み合わせについて算出される組み合わせ評価値の一例を
図15に示す。
図15の例では、
図14の第1行〜第12行の組み合わせのそれぞれについての組み合わせ評価値を示している。第1行の組み合わせでは、組み合わせ評価値は比較的小さいが、第4行の組み合わせまでは温度センサを追加する度に組み合わせ評価値が上昇している。第5行の組み合わせでは、第4行の組み合わせに比べて組み合わせ評価値が少し低下しているが、第6行の組み合わせでは、組み合わせ評価値が再度上昇し、全ての組み合わせの中で最大の値になっている。
【0058】
(1−3)組み合わせ評価値に基づいて温度センサの組み合わせを選択(ステップSD3)
ステップSD3では、温度センサ選択部204は、組み合わせ評価値に基づいて温度センサの組み合わせを選択する。選択方法は、特に限定されず、例えば、温度センサの使用数は考慮せずに組み合わせ評価値による評価が最高である組み合わせを選択してもよく、温度センサの使用数と組み合わせ評価値の総合評価によって組み合わせを選択してもよい。前者の選択方法によれば、
図15の例では、第6行の組み合わせが選択される。この場合、基礎温度センサと、温度センサI,J,F,E,Gが温度測定部として選択される。また、後者の選択方法によれば、温度センサの使用数が少なく組み合わせ評価値が比較的高い、第4行の組み合わせが選択される場合がある。この場合、基礎温度センサと、温度センサI,J,Fが温度測定部として選択される。
【0059】
(2)温度センサの選択方法の二つ目
以下、
図16のフローチャートを用いて、温度センサの選択方法の二つ目について説明する。二つ目の方法では、温度センサの組み合わせを一つずつ生成し、生成する度に組み合わせ評価値を算出し、組み合わせ評価値の値が所定の条件を満たした場合に温度センサの組み合わせの生成を終了して、温度センサの選択を行う。この方法によれば、一つ目の方法よりも、組み合わせ評価値を算出する組み合わせの数を減らすことができるので、計算時間を短縮することができる。
【0060】
(2−1)温度センサの組み合わせを生成(ステップSE1、ステップSE5)
ステップSE1では、温度センサ選択部204は、温度センサの最初の組み合わせを生成する。温度センサの最初の組み合わせは、例えば、基礎温度センサがある場合は、最初に基礎温度センサからなる組み合わせを生成し、基礎温度センサがない場合は、温度センサ評価値が最も高い温度センサからなる組み合わせを生成する。温度センサの最初の組み合わせに含まれる温度センサの数は、1つであっても2つ以上であってもよい。例えば、2つの場合は、基礎温度センサと、温度センサ評価値が最も高い温度センサの組み合わせにしたり、温度センサ評価値が高い順に選択した2つの温度センサの組み合わせにしたりすることができる。
【0061】
また、ステップSE5では、温度センサ選択部204は、温度センサ評価値による評価が高いものから順に使用する温度センサを追加することによって温度センサの組み合わせを生成する。例えば、
図14の例の場合、温度センサI,J,F,E,G,C,H,A,K,D,Bの順で温度センサを追加する。温度センサを追加する数は、1つずつであっても2つ以上ずつであってもよい。温度センサの最初の組み合わせが
図14の第1行の組み合わせで、温度センサを1つずつ追加する場合は、ステップSE5では、
図14の第2行、第3行・・・第12行の順で温度センサの組み合わせが生成される。
【0062】
(2−2)組み合わせ評価値を算出(ステップSE2)
ステップSE2では、温度センサ選択部204は、ステップSE1又はステップSE5で生成した組み合わせについて組み合わせ評価値を算出する。組み合わせ評価値は、ステップSB4〜SB8で説明した方法によって算出することができる。
【0063】
(2−3)組み合わせ評価値の比較(ステップSE3)
ステップSE3では、温度センサ選択部204は、温度センサを追加する前後の組み合わせ評価値を比較する。このステップは、ステップSE1で生成した最初の組み合わせについては実行せず、ステップSE2においてステップSE5で生成した組み合わせについて組み合わせ評価値を算出した場合にのみ実行する。例えば、
図14の例の場合、ステップSE5で第3行の組み合わせが生成された場合、ステップSE3では、第2行の組み合わせの組み合わせ評価値と、第3行の組み合わせの組み合わせ評価値を比較する。
【0064】
(2−4)組み合わせ評価値の評価(ステップSE4、SE5)
ステップSE4では、温度センサ選択部204は、温度センサを追加する前後での組み合わせ評価値による評価の低下が閾値を超えているかどうかを判断する。閾値を超えていない場合には(ステップSE4のN)、ステップSE5において、温度センサを追加して新たな組み合わせを生成し、ステップSE2に戻る。閾値を超えている場合には(ステップSE4のY)、温度センサの追加を終了して、ステップSE6に進む。
例えば、
図14及び
図15の例の場合、第4行の組み合わせまでは、組み合わせ評価値は、温度センサを追加する度に上昇するが、第5行の組み合わせの組み合わせ評価値は、第4行の組み合わせの組み合わせ評価値よりも低い値となっている。これらの組み合わせ評価値の差が予め設定していた閾値よりも小さければ、ステップSE4での判断がNとなり、ステップSE5に進んで温度センサの追加を継続する。これらの組み合わせ評価値の差が予め設定していた閾値よりも大きければ、ステップSE4での判断がYとなり、温度センサの追加を終了する。
【0065】
閾値は0としてもよいが、その場合、組み合わせ評価値がわずかに低下した場合でも温度センサの追加が終了されることになってしまうので、さらに温度センサを追加した場合に組み合わせ評価値が大きく上昇する場合であっても温度センサが追加されないため、最終的に得られる組み合わせ評価値が比較的低い値になってしまう場合がある。そこで、例えば、温度センサを追加する前の組み合わせについての組み合わせ評価値の10%等に閾値に設定することによって、組み合わせ評価値をより高い値にすることができる可能性がある(この閾値は、5%や20%などであってもよい。)。
図15の例の場合は、第5行の組み合わせの組み合わせ評価値が第4行のものよりも低下した時点で温度センサの追加を終了せずに、温度センサをもう一つ追加することによって、第6行の組み合わせにおいて、非常に高い組み合わせ評価値が得られている。
【0066】
(2−5)組み合わせの選択(ステップSE6)
ステップSE6では、温度センサ選択部204は、すでに組み合わせ評価値を算出した温度センサの組み合わせのうち、組み合わせ評価値が最大である組み合わせを選択する。例えば、
図14及び
図15の例において、第5行の組み合わせの組み合わせ評価値が第4行のものよりも低下したところで温度センサの追加を終了した場合、第1〜第4行の組み合わせの組み合わせ評価値を比較し、組み合わせ評価値が最大である組み合わせ(この場合、第4行の組み合わせ)を選択する。第4行の組み合わせには、温度センサI,J,Fが含まれているので、温度センサI,J,Fが温度測定部として選択される(基礎温度センサがある場合は、基礎温度センサと温度センサI,J,Fが温度測定部として選択される)。
【0067】
2−5.熱変位補正装置
次に、
図17のブロック図を用いて、工作機械1000を構成する熱変位補正装置100について以下説明する。
【0068】
2−5−1.温度データ受付部
この熱変位補正装置100には、温度センサ選択部204によって選択された温度センサ202からの出力を受け取る温度データ受付部108を有している。温度データ受付部108によって受け取られた温度データは、温度データ記憶部110に格納される。
【0069】
2−5−2.熱流入量仮定部
この熱変位補正装置100には、熱源候補領域からの熱流入量を仮定する熱流入量仮定部124が設けられている。この熱流入量仮定部124は、上述した被測定構造体モデルデータ記憶部122に記憶された被測定構造体モデルデータを読み出し、その被測定構造体モデルデータに、所定のルールに基づいて仮定される熱流入量を熱源候補領域のデータにひも付けしたうえで書き込む。このようにして、所定のルールに基づいて仮定された熱流入量が書き込まれた被測定構造体モデルデータは、後述する温度分布推定部126に受け渡される。
【0070】
2−5−3.温度分布推定部
この熱変位補正装置100には、上述したように熱流入量仮定部によって仮定された熱流入量に基づいて、工作機械の推定温度分布を生成する温度分布推定部126が、設けられている。温度分布推定部126は熱流入量仮定部124より所定のルールに基づいて仮定された熱流入量が書き込まれた被測定構造体モデルデータを受け取り、その仮定された熱流入量の場合には、所定の時間経過後に被測定構造体の温度分布がどのようになるのか有限要素解析法などの計算アルゴリズムを用いて計算して、被測定構造体の温度分布を推定する。こうして推定された温度分布は、温度分布記憶部128に格納される。
【0071】
2−5−4.対比・ギャップ解析部
この熱変位補正装置100には、温度データ記憶部110に格納されている温度測定部によって検出された被測定構造体の複数の温度測定部における温度検出値と、温度分布記憶部128に格納されている被測定構造体のモデルデータにおける上記の温度測定部に対応する箇所の温度推定値とを対比して、その温度検出値およびその温度推定値の間のギャップが小さくなるように後述するように解析を行う対比・ギャップ解析部130が設けられている。すなわち、この対比・ギャップ解析部130は、その温度検出値およびその温度推定値の間のギャップが小さくなるように、すでに説明した熱流入量仮定部124に対して熱流入量を所定のルールに基づいて別の値に再仮定させるように指示する信号を伝達する。すると、このような信号を伝達された熱流入量仮定部124は、所定のルールに基づいて別の値に再仮定された熱流入量仮定データを生成して温度分布推定部126に伝達することになる。一方、この対比・ギャップ解析部130は、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に、これまで説明した各種計算をさらに繰り返し計算させる信号をあわせて伝達する。そのため、その信号を伝達された温度分布推定部126は、熱流入量仮定部124から受け取った別の値に再仮定された熱流入量仮定データに基づいて、その別の値に再仮定された熱流入量の場合には、所定の時間経過後に被測定構造体の温度分布がどのようになるのか有限要素解析法などの計算アルゴリズムを用いて計算して、再び被測定構造体の温度分布を推定する。こうして推定された温度分布は、温度分布記憶部128に格納される。その後は、このような計算が、温度検出値および温度推定値の間のギャップが小さくなるように繰り返されていく。
【0072】
2−5−5.繰り返し計算判定部
さらに、この熱変位補正装置100には、繰り返し計算判定部132が設けられている。この繰り返し計算判定部132は、対比・ギャップ解析部130の指示によって、温度検出値および温度推定値の間のギャップが小さくなるように、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126によって繰り返される計算結果を対比・ギャップ解析部130を介して毎回受け取るようになっている。そして、この繰り返し計算判定部132は、そのギャップが十分小さくなるなどして、繰り返し計算の終了判定が所定のルールに基づいて可となった場合、その終了判定を指示する信号を、後述する近似データ算出部134に伝達する。一方、この繰り返し計算の終了判定が不可となった場合には、そのまま熱流入量仮定部124および温度分布推定部126は計算を繰り返し続けることになる。
【0073】
2−5−6.近似データ算出部
この熱変位補正装置100には、近似データ算出部134が設けられている。この近似データ算出部134は、繰り返し計算判定部132から終了判定を指示する信号を受け取ると、繰り返し計算の結果を基にして、もっとも上記のギャップが小さい熱源候補領域からの近似熱流入量および工作機械の近似温度分布の組み合わせデータからなる近似データを算出する。そして、こうして算出された近似データは、近似データ記憶部136に格納される。
【0074】
2−5−7.熱変位補正データ生成部
そして、この熱変位補正装置100には、熱変位補正データ生成部139が設けられている。この熱変位補正データ生成部139は、近似データ記憶部136から取得する近似データを基にして、被測定構造体の立体構造の各位置に導き出される熱変位量を打ち消すために必要な熱変位補正量を演算し、その熱変位補正量を被測定構造体の立体構造の各位置にひも付けして書き込んだ熱変位補正データを生成する。そして、このようにして得られた熱変位補正データは、熱変位補正装置100の出力部138を介して、熱変位補正装置100の外部にある多軸制御工作機械の駆動機構に出力され、被削材の加工精度向上のために用いられる。あるいは、このようにして得られた熱変位補正データは、熱変位補正装置100の出力部138を介して、熱変位補正装置100の外部にあるサーバー、ネットワーク、プリンタなどに出力されて、操作者によって画面上の画像データまたは紙上の印字として目視されてもよい。
【0075】
2−6.一部の構成についての詳細な機能ブロック
図18は実施形態に係る多軸制御工作機械の一部の構成を詳しく説明するための拡大された機能ブロック図である。まず温度分布記憶部128および温度データ記憶部110のデータが対比・ギャップ計算部130に受け渡される。対比・ギャップ解析部130においては、差分データ計算部302により計算されたデータを残差二乗和計算部304により残差二乗和が計算され、繰り返し計算判定部132に渡される。繰り返し計算判定部132においては閾値記憶部308に記憶されたデータを基に残差二乗和・閾値大小判定部306において残差二乗和と閾値の大小の判定が行われる。この繰り返し計算判定部132は、対比・ギャップ解析部130の指示によって、温度検出値および温度推定値の間のギャップが小さくなるように、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126によって繰り返される計算結果を対比・ギャップ解析部130を介して毎回受け取るようになっている。そして、この繰り返し計算判定部132は、そのギャップが十分小さくなるなどして、繰り返し計算の終了判定が所定のルールに基づいて可となった場合、その終了判定を指示する信号を、後述する近似データ算出部134に伝達する。一方、この繰り返し計算の終了判定が不可となった場合には、そのまま熱流入量仮定部124および温度分布推定部126は計算を繰り返し続けることになる。
【0076】
2−6−1.対比・ギャップ解析部の詳細
図6に図示するように、対比・ギャップ解析部130には、互いに対応するデータ同士を付き合わせて差分を求める差分データ計算部302と、差分データ計算部302で得られた複数項の差分の残差二乗和を計算する残差二乗和計算部304とが設けられている。
【0077】
この対比・ギャップ計算部130には、図示するように、外部の温度データ記憶部110および温度分布記憶部128のデータが受け渡される。すると、対比・ギャップ解析部130においては、温度データ記憶部110および温度分布記憶部128から取得した互いに対応するデータ同士が、差分データ計算部302によって付き合わされて各項目毎に差分を抽出される。こうして抽出された差分データは、差分データ計算部302から残差二乗和計算部304に受け渡されて、得られた複数項の差分の残差二乗和が計算される。そして、得られた残差二乗和に関するデータは、繰り返し計算判定部132に渡される。
【0078】
2−6−2.繰り返し計算判定部の詳細
繰り返し計算判定部132には、繰り返し計算を継続するか否かの判定に用いるための上記の残差二乗和の閾値を格納する閾値記憶部308と、その閾値記憶部308から取得した閾値を用いて、上記の残差二乗和およびその閾値の間の大小を判定する残差二乗和・閾値大小判定部306とが設けられている。すなわち、繰り返し計算判定部132においては、閾値記憶部308に記憶されたデータを基に、残差二乗和・閾値大小判定部306で、残差二乗和計算部304から取得した残差二乗和と閾値記憶部308から呼び出された閾値との大小の判定が行われる。そして、こうして得られた残差二乗和・閾値大小判定部306の判定結果は、総合判定部318に渡される。
【0079】
また、この繰り返し計算判定部132には、繰り返し計算にかかった計算時間を計測する時刻計算部314と、これらの繰り返し計算を行った計算回数をカウントする回数計算部316と、これらの計算時間および計算回数についてあらかじめ設定された上限を格納している上限値記憶部312と、が設けられている。また、この繰り返し計算判定部132には、これらの時刻計算部314および回数計算部316から取得した計算時間・計算回数と、上限値記憶部312から取得した計算時間および計算回数の上限値とを比較して、それらの大小を判定する時刻・回数上限到達判定部310が設けられている。すなわち繰り返し計算判定部132においては、上限値記憶部312に記憶されたデータを基に、時刻・回数上限到達判定部310で、これらの時刻計算部314および回数計算部316から取得した計算時間・計算回数と、上限値記憶部312から取得した計算時間および計算回数の上限値との大小の判定が行われる。そして、こうして得られた時刻・回数上限到達判定部310の判定結果は、総合判定部318に渡される。
【0080】
また、この繰り返し計算判定部132には、これらの残差二乗和・閾値大小判定部306の判定結果および時刻・回数上限到達判定部310の判定結果を取得して、これらの判定結果を総合的に判断して、さらに繰り返し計算を行うべきかどうか判定する総合判定部318が設けられている。例えば、この総合判定部318では、上記の残差二乗和・閾値大小判定部306の判定結果および上記の時刻・回数上限到達判定部310の判定結果を取得して、これらの判定結果がいずれも繰り返し計算を終了する必要がないという判定結果であれば、総合判定部318としても、同様に繰り返し計算を終了する必要がないという総合判定結果(継続判定結果)を下すことになる。そして、この継続判定結果は、総合判定部318から熱流入量仮定部124へ伝達される。すると、熱流入量仮定部124は、すでに説明したように、所定のルールに基づいて別の値に再仮定された熱流入量仮定データを生成して温度分布推定部126に伝達し、その後は上述の繰り返し計算が続けられることになる。
【0081】
一方、これらの判定結果のうち少なくとも一つが繰り返し計算を終了すべきであるという判定結果であれば、総合判定部318は、繰り返し計算を終了すべきであるという総合判定結果(終了判定結果)を下すことになる。そして、この終了判定結果は、近似データ算出部134へ伝達される。すると、近似データ算出部134は、すでに説明したように、繰り返し計算の結果を基にして、もっとも上記のギャップが小さくなる、熱源候補領域からの近似熱流入量および工作機械の近似温度分布の組み合わせデータからなる近似データを算出する。
【0082】
2−7.多軸制御工作機械の動作
以下、本実施形態に係る多軸制御工作機械の動作について説明する。
図19は本実施形態に係る多軸制御工作機械の動作について説明するためのフローチャートである。
【0083】
2−7−1.入力受付・モデルデータの生成処理(ステップSF1)
ステップSF1では、入力受付・モデルデータ生成部101が、工作機械の操作者からの種々のデータ入力を受け付け、入力されたデータに基づいて被測定構造体モデルデータを生成する。以下、
図20のフローチャートを用いて、入力受付・モデルデータの生成処理について詳細に説明する。
【0084】
(1)熱源候補領域の設定(ステップSG1)
ステップSG1では、熱源候補領域設定部104は、熱源候補領域の設定を受け付ける。具体的には、例えば、工作機械1000の電源をONにするなどして、一連の動作をスタートさせると、工作機械1000に付属する液晶画面などに、この工作機械1000の操作者に対して、自らの過去の経験に基づいてこの工作機械の立体構造のうち熱源となる可能性の高い領域を熱源候補領域として設定することを促す画面が表示される。すると、この工作機械の操作者は、工作機械1000に付属する入力装置などを用いて自らの過去の経験に基づいてこの工作機械1000の立体構造のうち熱源となる可能性の高い領域を熱源候補領域として設定することになる。
【0085】
(2)温度センサ位置のデータ入力(ステップSG2)
ステップSG2では、温度センサ位置データ受付部116は、温度センサ202の位置の入力を受け付ける。具体的には、例えば、工作機械1000に付属する液晶画面などに、この工作機械1000の操作者に対して、この工作機械1000の立体構造のうち温度センサ202が設置されている領域を設定することを促す画面が表示される。すると、この工作機械の操作者は、この工作機械1000に付属する入力装置などを用いて温度センサ202が設置されている領域を設定することになる。あるいは、この温度センサが設置されている領域が毎回固定された領域なのであれば、この工作機械1000は、上記の画面表示の代わりに、あらかじめ用意された温度センサが設置されている領域を記録したデータテーブルなどを読み出してもよい。いずれにしても、このようにして、温度センサ202の位置が入力される。
【0086】
(3)被測定構造体の構造・物性データの入力(ステップSG3)
ステップSG3では、被測定構造体構造・物性データ受付部118は、被測定構造体の構造・物性データの入力を受け付ける。具体的には、工作機械1000に付属する液晶画面などに、この工作機械1000の操作者に対して、この工作機械1000の立体構造データおよび材料物性データを入力することを促す画面が表示される。すると、この工作機械の操作者は、この工作機械1000に付属する入力装置などを用いてこの工作機械1000の立体構造データおよび材料物性データを入力することになる。あるいは、この工作機械1000の立体構造データおよび材料物性データが毎回同じ立体構造データおよび材料物性データなのであれば、この工作機械1000は、上記の画面表示の代わりに、あらかじめ用意された立体構造データおよび材料物性データを記録した3DCADデータ(材料物性データ付き)などを読み出してもよい。いずれにしても、このようにして、立体構造データおよび材料物性データが入力される。
【0087】
(4)被測定構造体モデルデータの生成(ステップSG4)
ステップSG4では、被測定構造体モデルデータ生成部120は、被測定構造体モデルデータの生成を行う。具体的には、被測定構造体モデルデータ生成部120は、ステップSG1〜SG3で入力された熱源候補領域、温度センサ位置及び被測定構造体の構造・物性データのついての情報が集約されて、これらのデータを互いに組み合わせて、コンピュータによる各種3Dシミュレーションの対象として用いる際に適したデータとなるように、被測定構造体モデルデータを生成する。
【0088】
2−7−2.温度測定部として使用する温度センサの選択処理(ステップSF2)
ステップSF2では、温度センサ選択部204が、工作機械1000に設置されている温度センサ202の中から、温度選択部として使用する温度センサ202を選択する。この選択は、
図6及び「2−4.温度センサ選択部」で説明した方法で行うことができる。
【0089】
2−7−3.熱変位補正処理(ステップSF3)
ステップSF3では、熱変位補正装置100が、熱変位補正処理を行う。以下、
図21のフローチャートを用いて、熱変位補正処理について詳細に説明する。
【0090】
(1) 温度測定部から工作機械の温度を取得(ステップSH1)
ステップSH1では、温度データ受付部108が、温度センサ選択部204によって選択された温度選択部において、工作機械の温度を取得する。
【0091】
(2) 仮定熱流入量の設定(ステップSH2)
ステップSH2では、熱流入量仮定部124が、各熱源候補領域から流入する熱流入量を仮定する。ここで仮定する熱流入量は、後述するステップSH4での対比・ギャップ解析をする際の基準となる推定温度分布をステップSH3で計算するために用いられる。ここで仮定する熱流入量を以下「仮定熱流入量」と称する。仮定熱流入量は、ステップSH4での対比・ギャップ解析の結果が、ステップSH5規定されている終了条件を充足するまで、繰り返し設定される。仮定熱流量の初期値の設定方法は、特に限定されないが、熱源候補領域から流入する熱流入量を精度良く推定するという目的を鑑みると、各熱源候補領域が実際に発熱している熱量を過去の知見やモーターの仕様書などから推測して、できるだけ真の値に近い値を初期値として設定することが好ましい。
【0092】
(3)推定温度分布の計算(ステップSH3)
ステップSH3では、温度分布推定部126が、推定温度分布を計算する。推定温度分布とは、仮定熱流入量が被測定構造体モデルデータに流れ込んだ場合に、所定の時間経過後に被測定構造体の温度分布がどのようになるのか、有限要素解析法などの計算アルゴリズムを用いて計算して得られる被測定構造体の温度分布である。
【0093】
(4)対比・ギャップ解析・終了判定(ステップSH4、SH5)
ステップSH4では、対比・ギャップ解析部130が、温度測定部で検出された温度検出値と上記の所定の時間経過後における被測定構造体の推定温度分布とを対比して、その温度検出値およびその温度推定値の間のギャップが小さくなるようにギャップの解析を行う。
続いて、ステップSH5では、繰り返し計算判定部132が、繰り返し計算の終了条件が充足しているかどうかを確認し、充足していると判断した場合には(ステップSH5のY)、繰り返し計算を終了して、ステップSH6に進む。一方、終了条件が充足していないと判断した場合には(ステップSH5のN)、ステップSH2に戻り計算を繰り返し続けることになる。
【0094】
(5)近似データの算出(ステップSH6)
ステップSH6では、近似データ算出部134が、これまでに行った繰り返し計算の結果を基にして、上記のギャップが最も小さくなる、熱源候補領域からの近似熱流入量および工作機械の近似温度分布の組み合わせデータからなる近似データを算出する。
【0095】
(6)熱変位補正データの生成(ステップSH7)
ステップSH7では、熱変位補正データ生成部139が、ステップSH6で算出された近似データを基にして、被測定構造体の立体構造の各位置について導き出される熱変位量を打ち消すために必要な熱変位補正量を演算し、その熱変位補正量を被測定構造体の立体構造の各位置にひも付けして書き込んだ熱変位補正データを生成する。
【0096】
(7)データの出力(ステップSH8)
ステップSH8では、出力部138が、ステップSH7で生成された熱変位補正データを熱変位補正装置100の外部にある多軸制御工作機械の駆動機構300に出力する。
【0097】
2−7−4.工作機械の運転(ステップSF4)
ステップSF4では、工作機械1000は、ステップSH8で出力されたデータに従って、熱変位補正を行って駆動機構300で被削材の加工を行う。
【0098】
2−7−5.熱変位再補正(ステップSF5)
工作機械1000は、ステップSF4の運転をしばらく継続するが、運転時間が長くなると、加工時に発生した熱の蓄積や周囲温度の変化によって、ステップSH8で出力した熱変位補正データでは適切な熱変位補正ができなくなる場合がある。そこで、ステップSF5では、工作機械1000は、熱変位再補正の条件が充足しているかどうかを確認し、充足している場合には(ステップSF5のY)、ステップSF3に戻って、再度、熱変位補正処理を行う。充足していない場合には(ステップSF5のN)、ステップSF4に戻って、運転を継続する。熱変位再補正の条件としては、(1)加工時間が閾値を超えた場合、(2)温度測定部での温度変化が閾値を超えた場合、(3)周囲温度の変化が閾値を超えた場合等が挙げられる。
【0099】
2−7−6.温度センサ再選択(ステップSF6)
また、加工時に発生した熱の蓄積や周囲温度の変化が大きい場合には、温度測定部として使用する温度センサを変更した方が、熱変位補正の精度を向上させることができる場合がある。そこで、ステップSF6では、工作機械1000は、温度センサ再選択の条件が充足しているかどうかを確認し、充足している場合には(ステップSF6のY)、ステップSF2に戻って、再度、温度測定部として使用する温度センサの選択を行う。充足していない場合には(ステップSF5のN)、ステップSF4に戻って、運転を継続する。温度センサ再選択の条件としては、(1)加工時間が閾値を超えた場合、(2)温度測定部での温度変化が閾値を超えた場合、(3)周囲温度の変化が閾値を超えた場合等が挙げられる。温度センサの再選択は、熱変位の再補正ほどは頻繁に行う必要がないので、温度センサ再選択の条件は、熱変位再補正の条件よりも緩やかにすることが好ましい。
【0100】
2−8.多軸制御工作機械の作用効果
以下、本実施形態に係る多軸制御工作機械の作用効果について説明する。
本実施形態に係る工作機械1000は、複数の駆動機構によって工具と被削材を相対運動させて該被削材を所定形状に加工する工作機械1000である。ここで、この工作機械1000には、複数の温度センサ202と、温度測定部として使用する温度センサを選択する温度センサ選択部204と、工作機械1000における熱源候補領域を設定する熱源候補領域設定部104とが設けられている。また、この工作機械1000には、熱源候補領域からの熱流入量を仮定する熱流入量仮定部124が設けられている。さらに、この工作機械1000には、熱流入量仮定部124によって仮定された熱流入量に基づいて、工作機械1000の温度分布を推定する温度分布推定部126が設けられている。くわえて、この工作機械1000には、温度測定部による温度検出値と、温度分布推定部126によって推定された温度分布のうち温度測定部に対応する箇所の温度推定値とを対比して、その温度検出値およびその温度推定値の間のギャップが小さくなるように、熱流入量仮定部124に熱流入量を別の値に再仮定させて、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせる対比・ギャップ解析部130が設けられている。そして、この工作機械1000には、この繰り返し計算の結果を基にして、熱源候補領域からの近似熱流入量および工作機械1000の近似温度分布を算出する近似データ算出部134が設けられている。
【0101】
本実施形態に係る工作機械1000は、このような構成を有するため、温度センサ選択部が各温度センサの有用性を示す温度センサ評価値を算出し、上記温度センサ評価値に基づいて温度測定部として使用する温度センサを選択するので、予め温度センサを数多く設置しておき、それらの温度センサのうち、有用性の高いものを温度測定部として用いて近似熱流入量の探索を行うことによって、温度測定部の数を最小限にしつつ近似熱流入量の精度を高くすることができる。
【0102】
また、本実施形態に係る工作機械1000では、その温度検出値およびその温度推定値の間のギャップが小さくなるように、熱流入量仮定部124に熱流入量を別の値に再仮定させて、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせることで、上記温度推定値が上記温度検出値に近くなるような近似熱流入量を探索することができる。そのため、本実施形態の工作機械1000を用いれば、このようにして求めた近似熱流入量に基づいて、工作機械1000のモデルデータにその近似熱流入量を適用して、工作機械1000における熱変位データを推定することができ、その熱変位データに基づいて精度のよい熱変位補正を行うことが可能になる。
【0103】
また、本実施形態に係る工作機械1000では、対比・ギャップ解析部130が、上記の温度検出値および上記の温度推定値の間の残差二乗和が小さくなるように、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせる残差二乗和計算部304を有している。
【0104】
本実施形態に係る工作機械1000は、このような構成を有するため、残差二乗和計算部304によって、上記の温度検出値および上記の温度推定値の間のギャップを残差二乗和として、適切かつ効率よく評価することができる。そのため、上記温度推定値が上記温度検出値に近くなるような近似熱流入量についても、適切かつ効率よく探索することができる。
【0105】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000では、残差二乗和計算部304が、温度検出値および温度推定値の間の残差二乗和が所定の閾値よりも小さくなるように、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせる残差二乗和・閾値大小判定部306を有する。
【0106】
本実施形態に係る工作機械1000は、このような構成を有するため、残差二乗和が所定の閾値よりも小さくなるまで繰り返し計算を続けることになるので、近似計算において一定以上の精度を確保することができ、さらに残差二乗和が所定の閾値よりも小さくなった時点で繰り返し計算を終了することができるので、余計な計算を行うことなく効率よく近似計算をすることができる。
【0107】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000では、残差二乗和計算部304が、繰り返し計算の回数が所定の回数に到達するまで、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせる回数計算部316を有している。
【0108】
本実施形態に係る工作機械1000は、このような構成を有するため、繰り返し計算の回数が所定の回数に到達した時点で繰り返し計算を終了することができるので、余計な計算を行うことなく効率よく近似計算をすることができる。
【0109】
また、本実施形態に係る工作機械1000では、残差二乗和計算部304が、繰り返し計算に要した時間が所定の長さに到達するまで、熱流入量仮定部124および温度分布推定部126に繰り返し計算をさせる時刻計算部314を有している。
【0110】
本実施形態に係る工作機械1000は、このような構成を有するため、繰り返し計算に要した時間が所定の長さに到達した時点で繰り返し計算を終了することができるので、余計な計算を行うことなく効率よく近似計算をすることができる。
【0111】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000では、熱変位補正装置100が、工作機械1000の操作者による熱源候補領域の設定条件の入力を受け付ける熱源候補領域設定部104を有している。これにより、操作者の経験などを踏まえた条件設定も可能になるので、熱源候補領域を絞り込んで限られた領域内でのみ熱流入量の仮定を行えばよいので、熱流入量を効率および精度良く近似することができるため、結果として効率および精度良く熱変位補正を行うことができる。
【0112】
2−9.その他の構成
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0113】
例えば、本実施形態に係る工作機械1000では、詳しくは説明を省略したが、熱流入量仮定部124が、上記のように設定された熱源候補領域において、熱流入量の初期値をランダムに仮定するランダム数値仮定部(不図示)を有していてもよい。このように、熱流入量の初期値をランダムに仮定したうえで、何度も繰り返し計算を行うことによって、あらゆる熱流入量の初期値の可能性についてしらみつぶしにシミュレーションを行うことができるため、結果として精度の良い近似熱流入量を算出することができる。この点は、ステップSB4の仮定熱流入量の設定ステップでも同様である。
【0114】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000では、詳しくは説明を省略したが、熱流入量仮定部124が、繰り返し計算判定部132の判定結果に基づいて、前回の計算で仮定された熱流入量をランダムに変動させて、次回の熱流入量を再仮定するランダム変動部(不図示)を有していてもよい。このように、繰り返し計算判定部132の判定結果に基づいて、前回の計算で仮定された熱流入量を所定のルールに基づいた形でランダムに変動させて、次回の熱流入量を再仮定したうえで、何度もヒューリスティックな繰り返し計算を行うことによって、あらゆる熱流入量の初期値の可能性について、網羅的かつ探索的にシミュレーションを行うことができるため、結果として精度の良い近似熱流入量を効率よく算出することができる。この点は、ステップSB4の仮定熱流入量の設定ステップでも同様である。
【0115】
また、本実施形態に係る工作機械1000では、詳しくは説明を省略したが、温度分布推定部126が、工作機械1000の立体構造および物性に関する情報を含む被測定構造体モデルデータに、仮定された熱流入量を適用して有限要素解析によって、温度分布を推定する有限要素解析部(不図示)を有していてもよい。このように、有限要素解析によって温度分布を推定することにより、工作機械1000の立体構造を細かく分割した各ブロック毎に単純な計算式をたてて、それらの計算結果を各ブロック同士の境界条件によって交換しあうことにより、全体としての計算の精度を維持しつつ、計算効率を向上させることができるため、他の解析法と比較して、精度良く効率の良い解析が可能となる。この点は、ステップSB2やSB5での温度分布の生成ステップでも同様である。
【0116】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000では、詳しくは説明を省略したが、近似データ算出部134が、繰り返し計算の一連の結果のうち、ギャップが最小となる熱流入量および温度分布の組み合わせを、近似熱流入量および近似温度分布として選択する最小ギャップ選択部(不図示)を有していてもよい。このように、何度も繰り返し計算を行うことによって、あらゆる熱流入量の初期値の可能性についてしらみつぶしにシミュレーションを行って、多くの組み合わせの近似熱流入量および近似温度分布を算出したうえで、それらの中からギャップが最小となる組み合わせを選択することによって、結果として精度の良い近似熱流入量および温度分布の組み合わせを算出することができる。
【0117】
また、本実施形態に係る工作機械1000は、詳しくは説明を省略したが、近似データ算出部134によって算出された近似温度分布に基づいて、工作機械1000の熱変位データを推定する熱変位推定部(不図示)をさらに備えていてもよい。このように、熱流入量の効率よい推定を行ったうえで、その推定された熱流入量に基づいた工作機械1000の各位置における熱変位を推定すれば、その推定された熱変位に基づいた熱変位補正が可能になる。
【0118】
さらに、本実施形態に係る工作機械1000は、詳しくは説明を省略したが、熱変位推定部(不図示)によって推定された、工作機械1000の熱変位データに基づいて移動体の移動目標位置データの補正量を算出する熱変位補正データ生成部139をさらに有する。このように、熱変位データに基づいて移動体の移動目標位置データの補正量を算出することによって、推定された熱変位に基づいた熱変位補正が可能になり、温度の変化にかかわらず精度の高い被削材の加工が可能になる。
【0119】
また、本実施形態に係る工作機械1000は、熱変位補正データ生成部139によって算出された補正量に基づいて切削加工部の軸送りを補正する軸送り補正部(不図示)をさらに備えている。このようにすれば、算出された補正量に基づいて切削加工部の軸送りを補正することが可能になり、よって精度の高い被削材の加工が可能になる。
【0120】
上記実施形態では、熱源候補領域設定部104は、1種類の熱源パターンで熱源候補領域を設定し、温度センサ選択部204は、この熱源パターンについて温度センサ評価値を算出し、算出された温度センサ評価値に基づいて温度センサの選択を行ったが、熱源位置が特定できない場合には、1種類の熱源パターンを設定することが難しい。このような場合には、熱源候補領域設定部104が直交表に基づいて複数の熱源パターンで熱源候補領域を設定し、温度センサ選択部204が各熱源パターンについて温度センサ評価値を算出し、その平均値に基づいて温度測定部として使用する温度センサを選択するように構成することが好ましい。このような構成にすることにより、熱源位置を特定することができない場合にも、温度測定部の数及び配置を適切に決定することができる。
【0121】
3.工作機械の温度測定部の数及び配置の決定方法の実施形態
ここまでは、工作機械の実施形態について説明を行ってきたが、温度センサ選択部204が具現化している技術的思想は、工作機械から離れたコンピュータ等においても、類似した形態で具現化することができる。この点において、本発明は、工作機械とは別のコンピュータ等において、工作機械の温度測定部の数及び配置を決定するための方法を提供する。以下の方法は、各ステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムによって実現可能である。
【0122】
本発明の一実施形態にかかる、工作機械の温度測定部の数及び配置の決定方法は、複数の駆動機構によって工具と被削材を相対運動させて該被削材を所定形状に加工する工作機械の温度測定部の数及び配置の決定方法であって、上記工作機械のモデル上に熱源候補領域及び複数の評価ポイントを設定するステップと、上記評価ポイントのそれぞれを使用するかどうかに基づいて直交表に従って評価ポイントの複数の組み合わせを生成するステップと、上記組み合わせのそれぞれについて組み合わせ評価値を算出するステップと、各組み合わせについて算出された上記組み合わせ評価値をある評価ポイントが使用されているかどうかに基づいて分類することによってその評価ポイントの評価ポイント評価値を算出するステップと、上記評価ポイント評価値に基づいて温度測定部を配置する評価ポイントを選択するステップを備える。
【0123】
この方法は、「2−3.入力受付・モデルデータ生成部」及び「2−4.温度センサ選択部」での説明において「温度センサ」を「評価ポイント」に置換した内容に従って、実行することができる。つまり、上記の工作機械についての説明では、温度センサが工作機械に実際に設置されている位置を温度センサの位置として設定したが、本実施形態の方法では、温度センサの位置を設定する代わりに、温度測定部を配置する位置の候補となる点を評価ポイントとして任意の位置に設定し、以降のステップを実行する。
すなわち、入力受付・モデルデータ生成部101は、温度センサの位置の代わりに、複数の評価ポイントの位置の入力を受け付け、ステップSA1では、直交表に従って評価ポイントの複数の組み合わせを生成し、ステップSA2では、生成した各組み合わせについて組み合わせ評価値を算出し、ステップSA3では、各評価ポイントについて評価ポイント評価値を算出し、ステップSA4では、評価ポイント評価値に基づいて評価ポイントの選択を行う。この選択された評価ポイントが温度測定部を配置する位置である。例えば、ステップSA4で、評価ポイントI,J,F,E,Gが選択されたとすると、これらの評価ポイントに温度センサを配置し、温度測定部とする。
【0124】
このような方法で数及び配置を決定した温度測定部は、複数の駆動機構によって工具と被削材を相対運動させて該被削材を所定形状に加工する工作機械であって、上記工作機械に設けられている温度測定部と、上記工作機械における熱源候補領域を設定する熱源候補領域設定部と、上記熱源候補領域からの熱流入量を仮定する熱流入量仮定部と、上記熱流入量仮定部によって仮定された熱流入量に基づいて上記工作機械の推定温度分布を生成する温度分布推定部と、上記温度測定部による温度検出値と、上記温度分布推定部によって推定された温度分布のうち上記温度測定部に対応する箇所の温度推定値とを対比して、該温度検出値および該温度推定値の間のギャップが小さくなるように、上記熱流入量仮定部に上記熱流入量を別の値に再仮定させて、上記熱流入量仮定部および上記温度分布推定部に繰り返し計算をさせる対比・ギャップ解析部と、上記繰り返し計算の結果を基にして、上記熱源候補領域からの近似熱流入量および上記工作機械の近似温度分布を算出する近似データ算出部を備える工作機械に採用することができる。
【0125】
「2.工作機械の実施形態」で説明した工作機械では、数多くの温度センサを工作機械に予め設置しておき、その中から有用性の高い温度センサを温度測定部として選択する。このため、工作機械がさらされる熱環境の変化に柔軟に対応することが可能である。
一方、本実施形態の方法では、コンピュータ等上で、有用性が高い評価ポイントを予め選択しておき、その評価ポイントに温度センサを設置し、その温度センサを温度測定部として使用する。従って、温度センサの設置数を最小限にすることができるという利点がある。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0127】
<実施例1>
実施例1では、モデル上に複数の評価ポイントを設置し、各評価ポイントについて評価ポイント評価値を算出し、算出した評価ポイント評価値に基づいて温度測定部を配置する評価ポイントを選択した。以下、本実施例の詳細を説明する。
【0128】
本実施例では、
図22に示す形状のモデルを用いた。このモデルは、50mm×50mm×20mmの直方体の角に一辺が10mmの立方体形状が突出した形状である。熱源Q1は、この立方体の上面に配置されており、Q1からモデルへの熱流入量は0.25W(熱流束:2500W/m
2)とした。熱源Q2は、この立方体の周囲の幅10mmの領域であり、Q2からモデルへの熱流入量は、0.75W(熱流束:2500W/m
2)とした。熱源Q3は、Q1及びQ2を下面に射影した領域であり、Q3からモデルへの熱流入量は、1.00W(熱流束:2500W/m
2)とした。
図22に示した対称面は断熱面とし、対称面と熱源以外の面は、放熱面(熱伝達係数:10W/(m
2k))とした。このモデルの上面に
図23の○印で示す位置に11個の評価ポイント(f03,f05,f13,f14,f30,f31,f32,f33,f34,f35,f36)を設定した。また、
図23の三角で示す位置に基礎評価ポイントf12、f15を設定した。なお、本実施例のシミュレーションでは、f12とf15のうちの何れか一方を基礎評価ポイントとして用いた。
以上の条件で作成したモデルについてシミュレーションによって温度分布を計算したところ、
図24に示す結果が得られた。
図24中のMAX、MINで示す位置において、温度上昇量が、それぞれ最高(32.995K)、最低(30.800K)となった。
ここまでのステップは、
図19のステップSF1と、ステップSF2の一部(
図9に示すステップSB1〜SB2(ステップSA2))に対応する。
【0129】
次に、
図25に示すL
12の直交表に従って、上述した11個の評価ポイントの種々の組み合わせを作成した。L
12の直交表の第1行〜第12行は、第1〜第12の評価ポイントの組み合わせを示している。直交表中の「0」、「1」は、それぞれ、その評価ポイントを「使用しない」、「使用する」を意味する。例えば、L
12の直交表の第10行目は、列ABCHIKが1で、残りの列が0である。従って、この行は、列ABCHIKに割り当てられた評価ポイントを使用するという評価ポイントの組み合わせを示している。このステップは、
図6のステップSA1に対応する。
【0130】
次に、
図9のステップSB3〜SB10(ステップSA2)に従って、各組み合わせについて、組み合わせ評価値を算出した。ステップSB4では、下記式(3)に示すギャップ評価値を最大化するように(T
iとT
sの差を最小化するように)、仮定熱流量を設定した。式(1)において、T
iは、ステップSB5で生成した推定温度分布上での温度(温度推定値)であり、T
sは、ステップSB2で生成した基準温度分布上での温度(温度基準値)であり、nは、ステップSB3又はSB10で選択された評価ポイントの組み合わせに含まれる評価ポイントの数である。
【数3】
【0131】
この計算は、iSIGHT(エンジニアス・ジャパン株式会社製、バージョン10.0)という市販のソフトウェア中のPAOという最適化手法を用いて行った。Q1〜Q3のいずれについても、仮定熱流量の最大値を2.0とし、初期値と最小値を0.1とした。また、最適化計算は、3h経過後に終了した。
【0132】
また、組み合わせ評価値は、例えば、下記式(4)に従って算出した。式(4)において、T
iは、温度推定値であり、T
sは、温度基準値であり、mは、組み合わせ評価値の算出に用いる評価ポイントの数である。組み合わせ評価値の算出には、
図23に示す14個の評価ポイントf03,f05,f11,f12,f13,f14,f15,f30,f31,f32,f33,f34,f35,f36を用いた。
【数4】
【0133】
f12を基礎評価ポイントとしたときと、f15を評価ポイントとしたときに算出された組み合わせ評価値を
図26に示す。また、f12を基礎評価ポイントとしたときに最後に設定された仮定熱流入量を
図27に示し、f15を基礎評価ポイントとしたときに最後に設定された仮定熱流入量を
図28に示す。
図26と
図27及び
図28を比較すると、組み合わせ評価値が高い場合ほど、仮定熱流量の値が「解」に近い傾向にあることが分かる。例えば、基礎評価ポイントがf12の場合、第2行や第12行の組み合わせは組み合わせ評価値が非常に大きいところ、仮定熱流量Q1〜Q3の値も「解」に近い値になっている。一方、第4行の組み合わせは、組み合わせ評価値が比較的小さいところ、仮定熱流量Q1〜Q3の値は「解」から大きくずれている。
【0134】
次に、
図11のステップSC1〜SC7(ステップSA3)に従って、各評価ポイントについて評価ポイント評価値を算出した。f12を基礎評価ポイントとしたときの結果を
図29に示し、f15を基礎評価ポイントとしたときの結果を
図30に示す。なお、代表値としては、平均値を採用し、評価ポイント評価値は、「(有り代表値)−(無し代表値)」によって定義した。
【0135】
次に、
図13のステップSD1(ステップSA4)に従って、評価ポイント評価値による評価が高いものから順に使用する評価ポイントを追加することによって評価ポイントの複数の組み合わせを生成した。その結果を
図31(f12が基礎評価ポイント)及び
図32(f15が基礎評価ポイント)に示す。
【0136】
次に、s00〜s11について、ステップSD2(ステップSA4)に従って、組み合わせ評価値を算出した。その結果を
図33(f12が基礎評価ポイント)及び
図34(f15が基礎評価ポイント)に示す。
【0137】
次に、ステップSD3(ステップSA4)に従って、組み合わせ評価値が最高である組み合わせを選択した。f12が基礎評価ポイントの場合は、ジョブs05の組み合わせ評価値が最高であるので、この組み合わせを選択した。この組み合わせには、評価ポイントf12,f34,f35,f31,f30,f32が含まれているので、この評価ポイントの位置に温度測定部を配置することとした。また、f15が基礎評価ポイントの場合は、ジョブs05の組み合わせ評価値が最高であるので、この組み合わせを選択した。この組み合わせには、評価ポイントf15,f31,f36,f13,f03,f34が含まれているので、この評価ポイントの位置に温度測定部を配置することとした。なお、f15が基礎評価ポイントの場合、ジョブs03とジョブs05とでは、組み合わせ評価値がほぼ同じであるので、評価ポイントの少なさを考慮して、ジョブs03を選択することもできる。ジョブs03の組み合わせには、評価ポイントf15,f31,f36,f13が含まれているので、この評価ポイントの位置に温度測定部を配置することができる。
また、
図33と
図34を比較すると、
図33では評価ポイントの数が少ないときは組み合わせ評価値が非常に低いが、
図34では評価ポイントが少ないときでも組み合わせ評価値が高い値になっていることが分かる。
図33と
図34の違いは、基礎評価ポイントがf12であるかf15であるかの違いであり、評価ポイントf15は、
図24の温度分布での温度上昇量が最も小さい位置に配置された評価ポイントである。この結果は、温度変化が小さい位置に配置された評価ポイントや温度センサを基礎評価ポイント又は基礎温度センサとして選択することによって、少ない測定点数で良好な結果を得ることができることを示している。
以上の方法により、温度測定部の数及び配置を決定することができた。
【0138】
<実施例2>
実施例2では、工作機械に設置されている全ての温度センサを温度測定部として選択した場合において、熱源からのモデルへの熱流入量を推定した。以下、詳述する。
図35は本実施例の実験目的を表した実験概念図である。図示するように、本実施例で行った実験では、恒温室でのクロススライドの温度測定によって得られた一定時間経過後の温度上昇量を求める実験値と、熱源を仮定して一定時間経過後の温度上昇量の解析による各点の温度上昇量の解析値を比較して、繰り返し計算によって、実験の温度測定結果と一致する熱源(温度上昇量)を探索することにより、クロススライドモデルの熱源分布の推定を行った。なお、具体的な実験手順および実験結果について以下説明する。
【0139】
既知熱源としてシリコンラバーヒータ2箇所をクロススライドモデルの斜面部に伝熱グリースで摺動面に密着させ、ベークライト板と万力で固定させた。続いて温度センサ(温度センサー)をクロススライドモデル上15点(以下温度センサ1,2・・・15とする)に設置し室温21℃、湿度55%の条件の恒温室内で加熱条件150W×2個、8時間で加熱を行い、温度上昇履歴計15点で時間を追って調べた。その結果を
図36に示す。
【0140】
図36、本実施例で用いた多軸制御工作機械のクロススライドモデルの駆動機構における周縁部における温度センサの温度測定結果を図示したグラフである。すなわち、
図36は、加熱実験を行った際の温度−時間プロットである。
図36を見るとおり、シリコンラバーヒータに近い温度センサ15は大きな温度上昇を示し、逆に温度センサ4などは設置されたシリコンラバーヒータから遠いため温度上昇は小さかった。これらの8時間後の温度上昇量は以下の表1および表2のとおりであった。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
これら15点の温度上昇量の測定結果から、逆解析による熱源の推定を行った。逆解析の手法を以下に示す。温度センサーにより測定された温度上昇履歴が
図36に示すようなクロススライドモデル上に9点の熱源があると仮定してそれらから熱が流入するとしたモデルの温度上昇履歴と比較し、最適化アルゴリズムで選定した熱流束の組み合わせで時刻歴温度解析を行ったものと比較することで後述する(式A)の目的関数である残差の2乗和が最小になるような熱流束の組み合わせを探索した。なお、クロスモデルの物性値は材質はねずみ鋳鉄、密度は7500kg/m
3、熱伝導率は50W/(m・K)、比熱0.55kJ/(kg・K)、熱源以外の放熱面に適用する熱伝達係数は10W/(m
2・K)である。ここで熱流束を適用した面を除いてすべての面は放熱面とした。すなわち、熱流束=(流入する熱量W)/(面積mm
2)とすることができる。
【0144】
続いて同様の実験で、今回は測定点を17点に増やして実験を行い、恒温室でのクロススライドモデルの温度測定結果tc_04〜tc_oの17点の一定時間経過後の温度上昇量と最適化アルゴリズムで選定した熱流束の組み合わせ、kp99〜kp43の17点において時刻歴温度解析で所定時間経過後の各点温度上昇量を以下の表3のように比較した。
【0145】
【表3】
【0146】
ここで目的とする関数は残差の2乗和
δ
2=(kp99−tc_04)
2+(kp42−tc_05)
2+・・・・
+(kp43−tc_o)
2・・・(式A)
におけるδ
2が最小になる熱流束の組み合わせを探索した。実験値と完全に一致する場合はδ
2=0となるものである。一つの熱流束の組み合わせの温度解析に約3分を要した。この温度解析の繰り返し計算により目的関数を最小化する熱流束の組み合わせを探した。この繰り返し計算の時間には約24時間、約500回程度の繰り返し計算を行った。その結果を以下の表4に示す。また、繰り返し計算において最適条件におけるクロススライドモデルの温度分布を
図37に示す。よって最適条件における熱源分布から既知熱源の流入がほぼ推定可能となった。
【0147】
【表4】
【0148】
図37は最適条件におけるクロススライドモデルの温度分布を表した3D解析図である。すなわち、
図37は実施例で用いた多軸制御工作機械のクロススライドモデルの駆動機構において、温度センサの温度測定結果から逆解析によって算出した最適条件の熱源分布に基づいて推定された、クロススライドモデルの駆動機構の温度分布を図示した3D解析図である。この解析図を見れば、本実施例の方法によって、最適条件における熱源分布により既知熱源の熱流入量がほぼ推定可能となったことがわかる。
【0149】
<実施例3>
図38は、工作機械機体の熱流入量推定において温度センサの配置を検討するために用いた複合加工機クロススライドモデルの概略図を示す.本実施例では、クロススライドモ
デルは単体で取り扱い、準定常温度上昇実験結果に基づいて温度センサの配置と数を検討した。クロススライドモデルの温度上昇は、
図38中の15個の点(t1〜t15)に温度センサを設置して測定した。面熱源には、出力 300 W のシリコンラバーヒータを用いた。
【0150】
図39は、工作機械機体の熱流入量の推定に用いたクロススライドモデルの熱源候補領域を示す。なお、実機でのクロススライドの運動を考慮して、上述のシリコンラバーヒータを設置した面(面B)以外に 8 つの熱源候補領域(面A及びC〜I)を設定した。
【0151】
逆解析による工作機械機体の熱流入量の推定は次のように行った。まず、工作機械機体に設置した温度センサで機体の温度上昇量を測定した。つぎに、仮定した熱流入量に対して有限要素法で機体の準定常温度上昇解析を行い、その解析結果と準定常温度上昇測定結果をもとに、式(5)で定義した目的関数δを最小にする熱流入量を最適化手法を用いて求めた。
【0152】
【数5】
【0153】
ここで、nは温度センサの数、T
anは仮定した熱流入量に対して有限要素解析で求めた温度センサの準定常温度上昇量、T
exはそれに対応する準定常温度上昇量の測定値である。
【0154】
表5は、温度センサの配置と数が熱流入量の推定精度に及ぼす影響の検討に用いた温度センサの組み合わせを示す。
【0155】
【表5】
【0156】
温度センサの組み合わせの選定には、実験計画法の2n系の直交表L
8を利用した。表5中の○印は式(5)のδの計算において、その温度センサの準定常温度上昇量を考慮することを、また×はそれを考慮しないことをそれぞれ示す。なお、熱流入量の推定精度に及ぼす温度センサの影響は、表5中の7箇所の温度センサで調べた。また、クロススライドモデルの熱流入量の推定に用いたその準定常温度上昇量の測定値は、表5中のNo.1〜No.8の温度センサの組み合わせに対し、加熱開始から8時間後のものであった。
【0157】
本解析では、
図39中に示した各面熱源への熱流入は、表6中に示した熱流束の範囲でδを最小化する熱流束の組み合わせから求めた。最適化には線形計画法、逐次2次計画法、Downhill Simplex法、遺伝的アルゴリズムを組み合わせた手法を用いた。なお、最適解の探索時間は、6時間とした。
【0158】
【表6】
【0159】
<結果および考察>
図40は、表5中に示したNo.1〜No.8それぞれの温度センサの組み合わせに対する熱流入量の推定結果を示す。
図40中に示した熱流入量は、熱流束の最適解の値にその熱源候補領域の面積を乗じて求めた。シリコンラバーヒータを設置した熱源候補領域Bの熱流入量の推定結果がその出力300Wに最も近かったのはNo.1であり、その熱流入量は251.7Wであった。ただし、
図40中に示したように、No.1のδは他の温度センサの組み合わせ比べてかなり大きかった。この原因としては、No.1で用いた温度センサの数が他の組み合わせにおける3よりも多い7であったことが考えられる。ここで、表5中のNo.1〜No.8の温度センサの組み合わせで熱流入量を推定するのに最適なものを見出すため、No.1〜No.8それぞれの組み合わせに対する熱流入量の最適解を用いてクロススライドモデルの準定常温度上昇を解析し、式(6)で与えられる、
図38中に示した15箇所の全準定常温度上昇の測定値を用いるΔを求めた。
【0160】
【数6】
【0161】
図40中に示したように、Δが最小となったのはシリコンラバーヒータを設置した熱源候補領域Bの熱流入量を最も精度よく推定できたNo.1、次がNo.4でその推定値は244.1Wであった。
図40中の棒グラフからわかるように、Δが小さかったNo.1、No.4の場合、実際の熱源であったB以外の熱源候補領域の熱流入量は、他の温度センサの組み合わせの場合と比較して、おおむねわずかであった。
【0162】
ところで、表5中に示したように、温度センサの数はNo.1の7を除けば、他はいずれも3である。しかし、温度センサの数が同じであっても
図40中のΔには大きな違いがある。そこで、熱流入量を高精度に推定するための温度センサを見出すため、式(7)で与えられる、品質工学の望小特性のSN比ηを用いて、各温度センサの考慮の有無が熱流入量の推定精度に及ぼす影響を検討した。
【0163】
【数7】
【0164】
図41は、式(7)で求めた、各温度センサのSN比要因効果図を示す。SN比から判断して、本解析では、いずれの温度センサもδの計算にその準定常温度上昇量を考慮することは、熱流入量の推定精度の向上につながった。特に、準定常温度上昇実験でシリコンラーバーヒータを設置した近傍の温度センサであったt14、t15では、それぞれの準定常温度上昇量を考慮するしないがSN比に顕著な影響を及ぼした。これは、t14とt15のいずれも含むNo.1、No.4の温度センサの組み合わせの場合、
図40中に示したΔが小さかったこととよく一致する。
【0165】
以上のように、工作機械機体の熱流入量の推定を高精度化するため、実験計画法の直交表を用いて温度センサの配置と数について検討した。熱流入量の推定精度に対するそれぞれの温度センサの要因効果を熱流入量の最適解の探索結果に基づいて評価することは、工作機械機体の熱流入量を高精度に推定する温度センサの配置と数を決定するために有用である。
【0166】
<実施例4>
これまでの実施例は、熱源位置が特定されている場合の温度センサ設置方法について検討を行ったが、実施例4では、熱源位置が特定できない場合の温度センサ設置方法について検討する。
【0167】
本実施例では、
図42に示すような形状のモデルを用い、このモデル上に7つの面熱源3,7,12,21,32,33,34と、評価ポイントkp38,51,52,55,299,303,324,359,5,287,288を設定した。
次に、表7に示すように、直交表L
4に従って面熱源32,33,34を熱源とするか又はここから放熱させるかに基づいて、4種類の熱源パターンを作成した。各熱源パターンで熱流入量を推定する際には、表7において「放熱」と表示されている面番号以外の面熱源を熱源とした。例えば、熱源パターン1では、面熱源3,7,12,21を熱源とし、熱源パターン2では、面熱源3,7,12,21,33,34を熱源とした。
【0168】
【表7】
【0169】
次に、表8に示すように、直交表L
4に従って評価ポイントkp5,287,288を目的関数の計算に含めるか又は含めないかに基づいて、評価ポイントの組み合わせを4種類作成した。各熱源パターンについて、これらの評価ポイントの組み合わせに基づいて、各熱源候補領域からの熱流入量の推定が行われる。
【0170】
【表8】
【0171】
次に、熱源パターン1〜4のそれぞれについて、非定常温度上昇解析を行うことによって、
図43に示す正解の温度分布を得た。本解析では、加熱時間開始から600秒後の温度上昇を対象に検討を行った。この場合、温度上昇解析の解析時間は約60秒であった。熱流束探索解析では、評価ポイントでの温度が正解の温度分布での温度に一致するように、熱源候補領域からの熱流入量が推定される。
【0172】
次に、表9に示す条件で、式(8)に示す目的関数を最小化するように熱流束探索解析を行った。式(8)において、T
anは、 最適化手法で選定した熱流束値を用いて解析した各評価ポイントの温度上昇値であり、T
exは、 各評価ポイントにおける正解の温度上昇値であり、nは、評価ポイントの数である。本熱流束探索解析では、表7中に示した各熱源候補領域への熱流入は、表9中に示した熱流束の範囲でδを最小化する熱流束の組み合わせから求めた。最適化には、線形計画法、逐次2次計画法、Downhill Simplex法、遺伝的アルゴリズムを組み合わせた、最適化ソフウエアiSIGHT FD 3.1に搭載されているPointerを用いた。なお、最適化の探索時間は、1時間とした。
【0173】
【表9】
【0174】
【数8】
【0175】
本実施例では、4つの熱源パターンのそれぞれについて、4組の評価点パターンで熱源候補領域からの熱流入量の推定が行われるので、全部で16通りの熱流束探索解析が行われる。この熱流束探索解析では、繰り返し計算が行われるが、一例として熱源パターン1、評価ポイントの組み合わせaについて、繰り返しの各ステップでの各熱源候補領域からの熱流入量(熱流束)及び目的関数の値を
図44に示す。
図44を参照すると、各熱源候補領域からの熱流入量はステップ毎に大きく上下しているが、目的関数は、ステップが増えるにつれて着実に小さくなっていることが分かる。
【0176】
熱流束探索解析が終了し、各熱源候補領域からの熱流入量の推定値が決定されると、この推定値に基づいてクロススライドモデルの温度分布が求まるので、この温度分布を用いて、式(9)に基づいてδ
allを算出した。δ
allの算出では、全ての評価ポイントのデータを利用した。そして、算出されたδ
allに基づいて、式(10)で定義されるSN比ηを算出した。
【0177】
【数9】
【0178】
【数10】
【0179】
熱源パターン1について得られた結果を表10及び
図45に示す。
【表10】
【0180】
熱源パターン2について得られた結果を表11及び
図46に示す。
【表11】
【0181】
熱源パターン3について得られた結果を表12及び
図47に示す。
【表12】
【0182】
熱源パターン4について得られた結果を表13及び
図48に示す。
【表13】
【0183】
次に、各熱源パターンについて、各評価ポイントの点数付けを行った。以下、熱源パターン1を用いて、点数付けの方法を具体的に説明する。評価ポイント「5」は、表8に示すように、評価ポイントの組み合わせ「a」と「b」では計算に含められず、評価ポイントの組み合わせ「c」と「d」では計算に含められる。下記表14での評価ポイント「5」の右側の評価「×」は、評価ポイント「5」が計算に含められていない場合の結果を意味し、その場合のSN比の値は、表10を参照すると、評価ポイントの組み合わせが「a」の場合のSN比(−0.76)と「b」の場合のSN比(11.684)の平均(5.46)である。同様に評価「○」は、評価ポイント「5」が計算に含められている場合の結果を意味し、その場合のSN比の値は、表10を参照すると、評価ポイントの組み合わせが「c」の場合のSN比(3.89)と「d」の場合のSN比(8.26)の平均(6.08)である。この平均の差(増分)は、0.61である。この増分が大きいほど、評価ポイント「5」を計算に含めることによる結果の改善の度合いが大きいことを意味する。
【0184】
同様の方法で、評価ポイント「287」と「288」についてのSN比の増分を算出したところ、それぞれ、8.41と4.04であった。
増分が大きいほど、好ましい評価ポイントであるということがいえるので、増分が大きいものから順に、評価ポイントの点数を3点、2点、1点とした。
熱源パターン2〜4についても同様の方法で、各評価ポイントの点数付けを行った。熱源パターンが変われば、評価ポイントの点数も変わる。例えば、評価ポイント「5」は、熱源パターン1では点数が1であったが、熱源パターン2では点数が3であった。
【0185】
【表14】
【0186】
熱源パターンが定まっている場合には、その熱源パターンについて評価ポイントの点数を求め、その点数に基づいて、計算に含める評価ポイントを決定すればいいので、シンプルであるが、実際の現場においては、熱源の位置を厳密に定めることが困難である場合も多く、熱源位置が変動することを考慮して、評価ポイントの点数を求められることが多い。
そこで、本実施例では、表15に示すように、4つの熱源パターンでの各評価ポイントの点数を平均し、その平均値を評価ポイントの点数とした。表15によると、評価ポイント「287」の平均点は2.5であり、評価ポイント「5」と「288」の平均点はどちらも「1.75」であった。この結果から、熱源位置の変動を考慮した場合、評価ポイント「287」が最も重要な評価ポイントであると結論付けることができる。
また、評価ポイント「5」と「288」は、平均点が同じである。このような場合、実機の運転モードに近い熱源パターンでの点数が高い評価ポイントをより重要な評価ポイントであると判断することができる。例えば、実機の運転モードでの熱源パターンが熱源パターン1に近い場合には、評価ポイント「288」の方が重要であるといえ、一方、実機の運転モードでの熱源パターンが熱源パターン2に近い場合には、評価ポイント「5」の方が重要であるといえる。
【0187】
【表15】
【0188】
本実施例では、直交表L
4を用いて熱源パターンの組み合わせと評価ポイントの組み合わせを作成したが、これらの組み合わせは、直交表L
4以外の直交表を用いて作成してもよい。また、熱源パターンの組み合わせの作成に用いる直交表と評価ポイントの組み合わせに用いる直交表は、同じであっても異なっていてもよい。
【0189】
また、本実施例では、各熱源パターンについて評価ポイントの点数付けを行った後、その点数の平均点に基づいて最終的な評価ポイントの評価を行ったが、各熱源パターンについてのSN比の増分の平均値に基づいて最終的な評価ポイントの評価を行ってもよい。さらに、SN比の増分の代わりに、「(5)温度センサ評価値の算出(ステップSC5)」で説明した種々の温度センサ評価値を用いてもよい。
【0190】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。