(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱器は、前記コイルを前記板材と反対側から覆う磁性体のコアと、前記コイルおよび前記コアを超えて前記板材に向かって突出する非磁性体の凸部を含む、請求項5に記載のスピニング成形装置。
前記加熱器と前記板材の成形箇所との距離が予め定められた距離となるように、前記加熱器を前記板材に対して相対移動させるように制御する制御装置を備える、請求項1〜7の何れかに記載のスピニング成形装置。
前記局所的な加熱を行う前記加熱器と前記板材の成形箇所との距離が、予め定められた距離となるように、前記加熱器を前記板材に対して相対移動させる、請求項13または14に記載のスピニング成形方法。
前記加工具の当接位置と前記回転軸を中心とする同一周上にある位置で、前記板材の表面温度を計測し、当該表面温度が所定の温度範囲内になるように前記局所的な加熱を行う前記加熱器の出力を調節する、請求項13〜16の何れかに記載のスピニング成形方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2の構成においては、加工具であるへらと板材の未成形側の箇所との間に加熱器である高周波誘導加熱用コイルの先端部を位置させているため、以下のような問題が生じる。すなわち、加工具の動作により、加熱器の配置箇所が制限されるため、局所加熱をするのに最適な箇所に加熱器を配置できず、成形箇所を適切に加熱できない。また、特許文献2の構成においては板材を成形型であるマンドレルの形状に沿って成形することが前提となっている。このため、板材の成形箇所がマンドレルと接触していることにより、板材を加熱する熱がマンドレルに伝達することによって奪われ、十分に温度が上昇せず(加熱のロスが大きく)板材に割れが発生するという問題も生じ得る。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、板材の成形箇所を適切に加熱することにより、板材に変形や割れを発生させることなく成形を行うことができるスピニング成形装置およびスピニング成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、チタン合金板や厚さの厚いステンレス鋼板などの特定の板材については、板材を局所的に加熱する場合、加熱しない箇所で剛性が確保されることがあり、それ故に成形型を用いなくても板材を所望の形状に成形できることを見出した。本発明はこのような観点からなされたものである。
【0011】
本発明のある形態に係るスピニング成形装置は、成形する板材を回転軸回りに回転させながら成形を行うスピニング成形装置であって、前記板材が取り付けられる受け治具、および前記板材を前記受け治具と共に前記回転軸回りに回転させる回転シャフト、を含む保持部材と、前記板材の第1主面に当接させることにより板材を加工して成形する加工具と、前記板材を加熱する加熱器と、を備え、前記加熱器は、前記板材を挟んで前記加工具と反対側に配置されており、前記回転軸を中心として前記板材の前記加工具が当接する位置と同一周上にある位置で、前記板材の第1主面と反対側の第2主面を局所的に加熱するよう構成されている。
【0012】
上記構成によれば、成形型ではなく受け治具が用いられているために、板材の成形箇所の加工具と反対側に空間を確保することができ、その空間に加熱器を配置することができる。その結果、板材における加工具が当接する第1主面とは反対側の第2主面が局所的に加熱されるため、加工具と板材との位置関係によらず、板材の成形箇所を適切に加熱することができる。また、板材が成形型ではない受け治具に取り付けられるため、成形箇所を受け治具と非接触とすることができるとともに、加熱による熱が受け治具に直接的に伝達せず、成形型を用いた場合よりも効率的に加熱することができる。したがって、板材に変形や割れを発生させることなく成形を行うことができる。
【0013】
前記受け治具は、前記板材における成形開始位置によって規定される円よりも小さなサイズを有していてもよい。これにより、成形開始位置から適切な加熱を行うことができる。
【0014】
前記加熱器は、高周波誘導加熱による加熱を行うものであってもよい。これにより、局所的な加熱を簡単かつ効率よく行うことができる。
【0015】
前記スピニング成形装置は、前記板材における前記加工具の当接位置よりも径方向外側の位置で前記板材を予備的に加熱する予備加熱器を備えていてもよい。これにより、成形速度を速くしたり、板材が分厚い場合でも成形速度を遅くすることなく成形に必要な温度までの加熱を効率的に行うことができる。
【0016】
前記加熱器は、前記回転軸と直交する方向に二重の円弧状に形成されたコイルを含んでいてもよい。これにより、成形箇所と同一周上をより効率的に加熱することができる。
【0017】
前記加熱器は、前記コイルを前記板材と反対側から覆う磁性体のコアと、前記コイルおよび前記コアを超えて前記板材に向かって突出する非磁性体の凸部を含んでいてもよい。これにより、コイルに覆われたコアを用いてコイルで発生する磁束が外部へ漏れ出るのを防ぐことで磁束を集中させ、より局所的かつ効率的に熱量を発生させることができる。さらに、非磁性体の凸部によってコイルおよびコアが板材と接触することを防止することができる。その結果、コイルの電気的短絡を防止できるとともに、板材の第2主面におけるコアと対向する箇所に、高い表皮効果を得ることができる。
【0018】
前記スピニング成形装置は、前記加工具の当接位置よりも径方向外側の位置で前記板材を支持する補助具を備えていていてもよい。これにより、板材を安定させ、効率よく加熱および成形を行うことができる。
【0019】
前記スピニング成形装置は、前記加熱器と前記板材の成形箇所との距離が、予め定められた距離となるように、前記加熱器を前記板材に対して相対移動させるように制御する制御装置を備えていてもよい。これにより、成形の際、板材が保持部材の回転軸方向に変位しても加熱器と板材の成形箇所(加熱箇所)との距離を一定に保持することができる。したがって、成形時において板材の成形箇所への加熱を成形状態によらず一定にすることができる。
【0020】
前記スピニング成形装置は、前記加熱器を、前記加工具による成形動作に同調して移動させるように制御する制御装置を備えていてもよい。これにより、加工具による成形動作に応じて加熱器が移動するため、安定した成形が可能となる。また、加熱器で成形箇所を確実に加熱してから加工具による成形を行うことができるため、良好な成形品を得ることができる。
【0021】
前記スピニング成形装置は、前記加工具の当接位置と前記回転軸を中心とする同一周上にある位置で、前記板材の表面温度を計測する放射温度計と、前記加熱器の出力を調節する出力調節器と、を備え、前記出力調節器は、前記表面温度が所定の温度範囲内になるように前記加熱器の出力を調節してもよい。これにより、実際の板材の成形箇所の温度に基づいて加熱器の出力が調節されるため、板材の成形箇所の温度をより適切に調節することができる。
【0022】
前記スピニング成形装置は、前記加工具の前記板材への当接による負荷を計測する負荷計測器と、前記加工具を、前記負荷に応じた送り速度で前記板材に対して相対移動させるように制御する制御装置と、を備えていてもよい。板材を回転させる際の板材に対する加工具の送り速度が速いと成形速度は速いが負荷が大きくなり変形や割れのリスクが高まる。一方、送り速度が遅いと負荷は小さくなるが、成形速度が遅くなる。そこで、負荷が所定の範囲内となるように加工具の送り速度を制御することにより、成形速度をできるだけ落とさずに適切な成形を行うことができる。
【0023】
例えば、前記板材は、チタン合金からなっていてもよい。
【0024】
本発明の他の形態に係るスピニング成形方法は、成形する板材を回転軸回りに回転させながら成形を行うスピニング成形方法であって、前記板材を保持部材の受け治具に取り付けて当該板材を前記回転軸回りに回転させながら、前記板材の第1主面に加工具を当接させて前記板材を加工して成形する際に、前記板材を挟んで前記加工具と反対側に加熱器を配置し、前記回転軸を中心として前記板材の前記加工具が当接する位置と同一周上にある位置で、前記板材の第1主面と反対側の第2主面を局所的に加熱する。
【0025】
上記方法によれば、成形型ではなく受け治具が用いられているために、板材の成形箇所の加工具と反対側に空間を確保することができ、その空間に加熱器を配置することができる。その結果、板材における加工具が当接する第1主面とは反対側の第2主面が局所的に加熱されるため、加工具と板材との位置関係によらず、板材の成形箇所を適切に加熱することができる。また、板材が成形型ではない受け治具に取り付けられるため、成形箇所を受け治具と非接触とすることができるとともに、加熱による熱が受け治具に直接的に伝達せず、成形型を用いた場合よりも効率的に加熱することができる。したがって、板材に変形や割れを発生させることなく成形を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は以上に説明したように構成され、板材の成形箇所を適切に加熱することにより、板材に変形や割れを発生させることなく成形を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下ではすべての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0029】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態におけるスピニング成形装置を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態におけるスピニング成形装置101は、板材Wを回転軸(rotational axis)S回りに回転する保持部材1を備えている。本実施形態では、回転軸Sは鉛直方向に延びているが、回転軸Sが延びる方向は水平方向であってもよいし、斜め方向であってもよい。
【0030】
保持部材1には、被成形材料である板材Wが成形型を介さずに取り付けられる。より詳しくは、保持部材1は、回転軸Sに略垂直な受け面Pを有する受け治具2と、受け治具2が相対回転不能に取り付けられ、板材Wを受け治具2と共に回転させる回転シャフト10を含む。上述した回転軸Sは、回転シャフト10の中心軸である。板材Wは、受け治具2の受け面P上に取り付けられる。つまり、板材Wは、回転軸Sと略垂直に交わるように配置される。板材Wは、当該板材Wの上方に受け治具2の受け面Pと対向するように配置された固定治具3によって受け面Pに固定される。これにより、保持部材1の回転シャフト10が回転軸S回りに回転することにより、板材Wが回転軸S回りに回転する。
【0031】
なお、本明細書における板材Wは平板に限られない。例えば、板材Wは、少なくとも一部に曲面を含む板材や予め折り曲げられた板材(成形途中の材料や成形後の材料)であってもよい。また、例えば板材の一部に他の板材を貼り付けたり、鋳造により一体成形されたような、一部の厚みが他の部分と異なるような材料も板材Wに含まれる。
【0032】
また、板材Wの材質は、特に限定されないが、例えば、チタン合金、ニッケル基合金、コバルト基合金、高強度鋼、高強度ステンレス鋼、マグネシウム合金など冷間での加工が難しい金属材料が好適である。特に、チタン合金のように、常温と高温(成形温度)とにおける耐力の差が大きい材料においては、従来の方法では割れや変形が発生し易い。このため、このような材料の成形において本実施形態を適用することが効果的である。ただし、冷間での加工が行えるアルミ合金や純チタンなどの金属材料にも同様に本実施形態を適用可能である。冷間での加工が行える金属材料であっても、板材の厚みが厚い場合には、本実施形態を適用することが効果的である。
【0033】
チタン合金には、耐食合金(例えば、Ti−0.15Pd)、α合金(例えば、Ti−5Al−2.5Sn)、α+β合金(例えば、Ti−6Al−4V)、β合金(Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al)などがある。
【0034】
スピニング成形装置101は、受け治具2に取り付けられた板材Wの第1主面に当接させることにより板材を加工して成形する加工具4と、板材Wを加熱する加熱器5と、をさらに備えている。本実施形態では、加工具4が当接する第1主面が上面、第1主面と反対側の第2主面が下面であるが、第1主面が下面、第2主面が上面であってもよい。加熱器5は、板材Wを挟んで加工具4と反対側に配置されている。そして、加熱器5は、板材Wの加工具4が当接する位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置で、板材Wの第2主面を局所的に加熱するよう構成されている。なお、同一周上とは、例えば、回転軸Sと板材Wの加工具4が当接する位置との距離をrとすると、回転軸Sからの距離がr±10%となる範囲を意味する。
【0035】
受け治具2は、本実施形態ではフラットな円盤状の板材である。ただし、受け治具2は必ずしもフラットである必要はなく、例えば、板材Wがボウル(bowl)状である場合には、板材Wの向きによって受け面Pの中央が盛り上がったり窪んだりしていてもよい。あるいは、受け治具2は、例えば、複数の棒材が縦横に組み合わされた井桁状であってもよい。また、板材Wには、受け治具2と重なる領域に1つまたは複数の貫通穴が設けられていて、受け治具2の受け面Pには、その貫通穴に嵌合する位置決めピンが設けられていてもよい。
【0036】
受け治具2は、板材Wにおける成形開始位置によって規定される円と同一のサイズを有していてもよいが、その円よりも小さなサイズを有していることが望ましい。すなわち、受け治具2の周縁部は、板材Wの成形開始位置の真下に加熱器5が配置できるように板材Wの成形開始位置から径方向内側に離間していることが望ましい。
【0037】
本実施形態においては、
図1に示されるように、1つの加工具4を備えた構成を例示しているが、これに限られず、加工具4は複数設けられてもよい。この場合、複数の加工具は、それぞれ板材Wの第1主面に当接するように配置される。さらに、複数の加工具は、例えば、互いに、回転軸Sを中心とした同一周上において、回転軸S回りに180°離間して配置することとしてもよい。加工具4が位置する側を板材Wの表面側とすれば、加熱器5は板材Wの裏面側に配置される。
【0038】
図2Aは
図1に示すスピニング成形装置の回転軸、加工具および加熱器の関係を示す図である。なお、
図2Aは板材の裏面側(加熱器が位置する側)から視た下面図であり、
図1に示す回転シャフト10、加工具4、加熱器5および板材W以外の構成は図示を省略している。本実施形態においては、加工具4は、例えば回転軸Sと所定の角度(
図1の例では約90°)をなす回転軸Q回りに回転する加工ローラを有する。加工具4は、板材Wの表面側に位置し、板材Wの第1主面に回転軸Q回りに回転する加工ローラが当接することにより、板材Wがしごき加工または絞り加工される。また、加熱器5は、板材Wの裏面側に位置する。加工具4および加熱器5は、いずれも、互いに独立して保持部材1に対して三次元的に(少なくとも回転軸Sの軸方向および径方向に)移動可能に構成され、回転軸Sからの距離が同じ距離r(rは可変)となるように位置制御される。なお、加工具4は、上記加工ローラを有するものに限られず、例えばへらなどを有するものであってもよい。
【0039】
加熱器5は、高周波誘導加熱により板材Wの第2主面を加熱するコイル61を備えている。高周波誘導加熱は、例えば、周波数が5kHz〜400kHzの誘導加熱である。コイル61へは、誘導加熱電源11から電流が供給される。本実施形態においては、加熱器5は、平面視において加工具4と回転軸S(保持部材1)に対して対称な位置(回転軸Sを中心とした周方向において加熱器5と加工具4とが回転軸S回りにθ=180°離間した位置)に位置されている。なお、加熱器5の位置は、板材Wの加工具4が当接する側とは反対側で、かつ、板材Wの加工具4が当接する位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置で板材Wの第2主面を局所的に加熱可能である限りこれに限定されない。例えば、平面視において、加熱器5と加工具4との中心角θ(それぞれと中心軸Sとを結ぶ線分の周方向においてなす角)が所定の角度(0°≦θ≦360°)になるように配置してもよい。
【0040】
加熱器5のコイル61は、回転軸Sと直交する方向に二重の円弧状に形成されている。具体的には、コイル61は、互いに平行な内側円弧部および外側円弧部を有する。また、加熱器5は、
図2Bに示すように、コイル61の内側円弧部および外側円弧部を板材Wと反対側から個別に覆うコア62と、コア62を支持するベースプレート64と、コア62の径方向外側でベースプレート64に設けられた凸部63を含む。コア62は、磁性体であり、コイル61の各円弧部の周囲に発生する磁束を集約する。凸部63は、非磁性体であり、コイル61およびコア62を超えて板材Wに向かって突出している。このように凸部63が設けられていれば、凸部63によってコイル61およびコア62が板材Wと接触することを防止することができる。その結果、コイル61の電気的短絡を防止できるとともに、板材Wの第2主面におけるコア62と対向する箇所に、高い表皮効果を得ることができる。なお、コイル61の電気的短絡を防止するという観点からは、コイル61の表面に絶縁性の塗料を塗布してもよい。
【0041】
加熱器5のコイル61は、円弧の両端部と回転軸Sとの周方向においてなす角が略90°となるような三日月形状に形成されている。これにより、成形箇所Aと回転軸Sを中心とする同一周上を効率的に加熱することができる。なお、コイル61の形状はこれに限られず、円弧の両端部と回転軸Sとの周方向においてなす角が90°以外の角度であってもよいし、円弧の一部に直線部が含まれてもよいし、直線の組み合わせを含むように(折線状に)形成されてもよい。また、円弧状のコイル61の代わりに、円形に複数回巻いたコイル(円筒数巻きコイル)を円弧状に並べてもよいし、1つの円筒数巻きコイルのみを加熱器5のコイルとして用いてもよい。
【0042】
上記構成のスピニング成形装置101によれば、成形型ではなく受け治具2が用いられているために、板材Wの成形箇所Aの加工具4と反対側に空間を確保することができ、その空間に加熱器5を配置することができる。その結果、板材Wにおける加工具4が当接する第1主面とは反対側の第2主面が局所的に加熱されるため、加工具4と板材Wとの位置関係によらず、板材Wの成形箇所Aを効率的に加熱することができる。また、板材Wが成形型ではない受け治具2に取り付けられるため、成形箇所Aを受け治具2と非接触とすることができる。
【0043】
従来の構成においては、板材Wの加工具4が当接する側とは反対側には、成形型が設けられることが一般的で、このような成形型が存在することにより加熱器5の加熱コイルを配置することが困難であった。というのも、加熱コイルは、太さ約数mm程度の銅管からなる誘導加熱コイルであって、このコイルの一部に肉厚が数mm〜30mm程度の磁束集中用のコアを取り付ける場合もある。このように加熱コイルを配置するにはある程度の空間が必要であり、成形型を用いつつ、加熱コイルを成形箇所Aの直下に配置しようとすると、成形型と加熱器とが接触してしまい好ましくない。これに対し、本実施形態においては、成形型を用いない構成としており、板材Wの加工具4が当接する側とは反対側である、加工具4による板材Wの成形箇所Aの直下に加熱器5を配置している。板材Wの加工具4が当接する側に加熱器5を配置すると、板材Wの成形形状により加熱器5の加熱コイルの形状が制限されるが、板材Wに対して加工具4が当接する側とは反対側(従来の構成であれば成形型が存在する側)に加熱器5の加熱コイルが配置されるため、板材Wの成形形状に加熱器5の加熱コイルの形状が制限されることがない。したがって、本実施形態の構成によれば、板材Wに対して成形型も加工具4も存在しない側に加熱器5が配置されるため、当該成形箇所Aの局所的な加熱を容易に行うことができる。さらに、成形型よりも格段に小さな受け治具2を用いることにより、加熱器5の加熱による熱が受け治具2に直接的に伝達せず、成形型を用いた場合よりも効率的に加熱することができる。さらに、本実施形態においては高周波誘導加熱による加熱が行われる。これにより、局所的な加熱を簡単かつ効率よく行うことができる。また、成形型を用いないことにより、成形型の製造コストを削減できるため、成形コストを低減することができる。
【0044】
上述したように、受け治具2は、板材Wにおける成形開始位置によって規定される円と同一のサイズを有していてもよい。ただし、この場合には、成形開始位置近傍だけは、加熱器5と受け治具2との干渉により、加熱器9の加熱位置を加工具の当接位置と同一周上にすることはできない。これに対し、受け治具2が、板材Wにおける成形開始位置によって規定される円よりも小さなサイズを有していれば、成形開始位置から適切な加熱を行うことができる。
【0045】
本実施形態におけるスピニング成形装置101は、
図1に示すように、回転シャフト10の回転制御を行うとともに、加工具4および加熱器5の位置制御を行う成形機コントローラ12と、加工具4の板材Wへの当接による負荷を計測する負荷計測器13と、板材Wの成形箇所Aの位置を検出する変位センサ14とをさらに備えている。さらに、スピニング成形装置101は、加工具4の当接位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置(成形箇所A)で、板材Wの表面温度を計測する放射温度計15と、加熱器5の出力を調節する出力調節器16とを備えている。出力調節器16は、誘導加熱電源11から出力される電流値を変更することにより加熱器5の出力を調節するよう構成されている。
【0046】
スピニング成形装置101は、成形条件や各構成の運転状況に応じて各構成要素に制御命令を伝える制御装置17を備えている。例えば、制御装置17は、成形機コントローラ12からの動作状況(保持部材1、加工具4および加熱器5の制御状況)、負荷計測器13からの加工具4の板材Wへの負荷情報および変位センサ14からの板材Wの成形箇所Aの位置情報に基づいて、回転シャフト10の回転制御ならびに加工具4および加熱器5の位置制御を行ったり、変位センサ14および放射温度計15の位置制御を行う。また、制御装置17は、放射温度計15からの板材Wの成形箇所Aの表面温度情報に基づいて、加熱器5の出力制御を行う。
【0047】
以下、本実施形態におけるスピニング成形装置101の制御態様について一例を示して説明する。
図3は
図1に示すスピニング成形装置の制御態様の一例を示すフローチャートである。ここでは、予め保持部材1に所定の板材Wが保持されているものとする。
図3に示すように、制御装置17は、まず、板材Wの種類、成形形状、大きさ、厚さなどに応じて保持部材1の回転速度、加工具4の加工ローラの送り速度(回転軸S方向への移動速度)、径方向移動速度(回転軸Sを中心とする加工ローラの径方向への移動速度)および成形角度(板材Wに対する加工ローラの回転軸Qの傾き)ならびに加熱温度などの設定情報を取得する(ステップS1)。制御装置17は、これらの情報を外部の装置から取得することとしてもよいし、スピニング成形装置101が記憶部を有し、制御装置17が当該記憶部に記憶された情報を読み込むことによって取得することとしてもよい。
【0048】
設定情報の取得後、制御装置17は、加工具4、加熱器5、変位センサ14および放射温度計15の位置決めを行う(ステップS2)。具体的には、制御装置17は、加工具4の加工ローラが板材Wにおける所定の成形箇所Aに当接するように加工具4を位置決めし、当該成形箇所A(回転軸Sを中心とする同一周上の領域)を加熱するように加熱器5を位置決めし、当該成形箇所Aの変位を計測できるように変位センサ14を位置決めし、当該成形箇所Aの表面温度を計測できるように放射温度計15を位置決めする。
【0049】
その上で、制御装置17は、回転シャフト10を回転軸S回りに回転させることにより、板材Wを回転させるとともに、加熱器5による板材Wの成形箇所Aへの加熱を開始する(ステップS3)。制御装置17は、放射温度計15が検出する成形箇所Aの表面温度を取得し、当該成形箇所Aの表面温度が成形可能な範囲内の温度となっているかどうか判定する(ステップS4)。例えば、チタン合金(Ti−6Al−4V)からなる板材Wを用いる場合、例えば500〜1000℃を成形可能な範囲として設定することができる。
【0050】
出力調節器16は、放射温度計15により計測される板材Wの表面温度が所定の温度範囲内になるように加熱器5の出力を調節する。これにより、実際の板材Wの成形箇所Aの温度に基づいて加熱器5の出力が調節されるため、板材Wの成形箇所Aの温度をより適切に調節することができる。また、本実施形態では、板材Wにおける加工具4が当接する第1主面の表面温度、すなわち、加熱器5が位置する側(裏面側)とは反対側(表面側)の板材Wの表面温度を放射温度計15で計測するため、放射温度計15が加熱器5に干渉されることなく高精度な温度計測を行うことができる。ただし、放射温度計15は、成形箇所Aにおいて板材Wの第1主面および第2主面の双方の温度を計測するように複数配置されていてもよい。
【0051】
成形箇所Aの表面温度が成形可能な範囲内の温度となっている場合(ステップS4でYes)、加工具4を用いて、成形箇所Aの加工による成形を開始する(ステップS5)。一方、成形箇所Aの表面温度が成形可能な範囲外の温度となっている場合(ステップS4でNo)、成形箇所Aの表面温度が成形可能な範囲内の温度となるまで、加熱器5の出力を調整する。
【0052】
制御装置17は、加熱器5を、加工具4による成形動作に同調(同期)して移動させるように制御する。なお、同調には、加工具4の移動に追従して加熱器5を移動させることと、加熱器5による加熱が完了してから(成形箇所Aの表面温度が成形可能な範囲内となってから)加工具4による成形を開始する(加工ローラを板材Wの成形箇所Aに当接させる)こととを含む。これにより、加工具4による成形動作に応じて加熱器5が移動するため、安定した成形が可能となる。また、加熱器5で成形箇所Aを確実に加熱してから加工具4による成形を行うことができるため、良好な成形品を得ることができる。
【0053】
また、制御装置17は、加工具4を、負荷計測器13により検出された負荷に応じた送り速度で板材Wに対して相対移動させるように制御する。具体的には、制御装置17は、負荷計測器13により検出された負荷が予め設定されている成形可能な範囲内にあるか否かを判定する(ステップS6)。負荷が成形可能な範囲内にあると判定された場合(ステップS6でYes)、加工を続行する。また、負荷が成形可能な範囲外にあると判定された場合(ステップS6でNo)、加工ローラの送り速度を変更する制御を行う(ステップS7)。加工ローラの送り速度を変更する制御は、負荷が成形可能な範囲内となるまで繰り返し行われる。
【0054】
板材Wを回転させる際の板材Wに対する加工具4の送り速度が速いと成形速度は速いが負荷が大きくなり割れや変形のリスクが高まる。一方、送り速度が遅いと負荷は小さくなるが、成形速度が遅くなる。そこで、負荷が所定の範囲内となるように加工具4の送り速度を制御することにより、成形速度をできるだけ落とさずに適切な成形を行うことができる。
【0055】
また、制御装置17は、変位センサ14により検出される板材Wの成形箇所Aの位置情報と、成形機コントローラ12から得られる加熱器5の位置制御情報とから、加熱器5と板材Wの成形箇所Aとの距離hが、予め定められた範囲内(例えば1mm〜10mm)にあるか否かを判定する(ステップS8)。加熱器5と成形箇所Aとの距離hが予め定められた範囲内にある場合(ステップS8でYes)、加工を続行する。また、距離hが予め定められた範囲内にない場合(ステップS8でNo)、当該距離hが予め定められた距離となるように、加熱器5を板材Wに対して相対移動させるように制御する(ステップS9)。
【0056】
これにより、加工具による成形の際、板材Wが保持部材1の回転軸S方向に変位しても加熱器5と板材Wの成形箇所(加熱箇所)Aとの距離を一定に保持することができる。特に、本実施形態のように、高周波誘導加熱用のコイル61を用いる加熱器5においては、板材Wの成形箇所Aに対するコイル61の距離hが変化すると、コイル61から板材Wに加えられる熱量が比較的大きく変化する。したがって、加熱器5と板材Wの成形箇所Aとの間の距離hを一定に保持することにより、加工時において板材Wの成形箇所Aへの加熱を加工状態によらず一定にすることができる。
【0057】
このような、制御を行いながら、成形が行われる。そして、制御装置17は所定の成形タイミングごとに成形が完了したかどうかの判定を行う(ステップS10)。成形が完了していない場合(ステップS10でNo)、制御装置17は、成形工程を継続する(ステップS3〜S9)。成形が完了した場合(ステップS10でYes)、制御装置17は、処理を終了する。
【0058】
本実施形態においては、成形型を使用していない。その代わり、変位センサ14からの位置情報によって板材Wの成形箇所Aの位置を把握することができるため、これに基づいて加工具4および加熱器5を適切に制御することができ、板材Wを所望の形状に高精度に成形することができる。また、負荷計測器13からの負荷情報によって板材Wの成形箇所Aへの負荷の大きさを把握することができるため、これによっても成形型を用いることなく板材Wの成形精度を高くすることができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、加熱器5として高周波誘導加熱用のコイル61を用いた構成について説明したが、回転軸Sを中心として板材Wの加工具4が当接する位置と同一周上にある位置で、板材Wにおける加工具4が当接する第1主面とは反対側の第2主面を局所的に加熱することが可能な加熱器であればこれに限られない。例えば、加熱器5として、摩擦加熱器を採用することも可能である。
【0060】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態におけるスピニング成形装置について説明する。
図4は本発明の第2実施形態におけるスピニング成形装置を示す概略構成図である。本実施形態において第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施形態におけるスピニング成形装置102が第1実施形態と異なる点は、
図4に示すように、加工具4の当接位置(成形箇所A)よりも径方向外側の位置(成形進行方向における板材Wの未成形箇所側にある位置(予備加熱箇所B))で、板材Wを予備的に加熱する予備加熱器7をさらに備えていることである。なお、
図4には制御装置17や負荷計測器13などの制御に関する構成は図示を省略している。
【0061】
ここで、成形進行方向は、板材Wにおける加工具4による成形が進行する方向として定義される。
図4の例において、成形進行方向は、回転軸Sの径方向内方から外方に向く方向である。この場合、予備加熱器7は、加熱器5より回転軸Sの径方向外側に配置される。
【0062】
本実施形態において、予備加熱器7は、板材Wの加熱器5が加熱する側とは反対側で、かつ、板材Wの加熱器5が加熱する位置(成形箇所A)より回転軸Sの径方向外側の位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置(予備加熱箇所B)を加熱するように構成されている。すなわち、予備加熱器7は、板材Wの未成形箇所を予備的に加熱するように構成される。また、予備加熱器7は、加熱器5と同様に高周波誘導加熱による加熱が採用されるが、予備加熱器7においては、バーナなどによる加熱でもよい。例えば、予備加熱器7は、加熱器5と同様に、回転軸Sと直交する方向に二重の円弧状に形成されたコイルを含む。回転軸Sから予備加熱器7までの距離は回転軸Sから加熱器5までの距離よりも遠いため、予備加熱器7のコイルの曲率半径は、加熱器5のコイル61の曲率半径よりも大きいことが望ましい。
【0063】
予備加熱器7は、予備加熱箇所Bの温度が、加工具4の成形箇所Aへの押圧力の影響により予備加熱箇所Bが変形しない程度の温度となるように、出力が調整される。例えば、加熱器5による加熱より弱い加熱を行うことが好ましい。なお、予備加熱器7の加熱能力を加熱器5の加熱能力より低くするためには、予備加熱器7の出力を加熱器5の出力より低い出力としてもよいし、これに加えてまたはこれに代えて、同じ出力の加熱器において予備加熱器7と板材Wとの距離を加熱器5と板材Wとの距離より長くしたりしてもよい。また、予備加熱箇所Bは成形箇所Aに隣接することが好ましい。
【0064】
予備加熱器7により、未成形箇所である予備加熱箇所Bが予備的に加熱されるため、加熱器5による局所的な加熱の際に温度上昇が早くなる。これにより、加工速度を速くしたり、板材Wが分厚い場合でも加工速度を遅くすることなく成形に必要な温度までの加熱を効率的に行うことができる。
【0065】
このような予備加熱は、板材Wの種類、板材Wの板厚、加熱温度、加工具4の能力(例えば加工ローラの推力)に応じて適宜用いられ得る。特に、板材Wの板厚と板材Wの表裏の表面温度差と加工具4の能力との関係に応じて予備加熱の要否を検討することができる。
図5は板材の板厚に対する板材の裏面と表面との表面温度差の関係を示すグラフである。
図5は、チタン合金であるTi−6Al−4Vからなる板材Wの加熱器5が加熱する第2主面の温度が900℃の場合の第2主面と第1主面との温度差(裏側表面温度−表側表面温度)を示す。
【0066】
図5における斜線で示す領域X(板厚Dth以上かつ表面温度差Tth以上の領域)が予備加熱を用いることが効果的な領域を示している。この領域Xは、加工具4の能力の1つである加工ローラの推力に応じて変化する。すなわち、加工ローラの推力が大きくなると板厚のしきい値Dthおよび表面温度差のしきい値Tthはより大きい値となる。また、加工ローラの推力が小さくなると板厚のしきい値Dthおよび表面温度差のしきい値Tthはより小さい値となる。要するに、加工ローラの推力が小さくなると、より小さい板厚または表面温度差であっても、予備加熱を行う方が好ましくなる。
【0067】
なお、成形進行方向が、回転軸Sの径方向外方から内方に向く方向の場合、予備加熱器7は、板材Wの加熱器5が加熱する位置より回転軸Sの径方向内側の位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置を加熱することにより、同様の効果が得られる。また、予備加熱器7は、板材Wの加熱器5が加熱する位置より回転軸Sの径方向外側の位置と回転軸Sを中心とする同一周上にある位置を加熱可能な限りどのように配置してもよい。例えば、予備加熱器7は板材Wにおける加熱器5と同じ側を加熱するように配置することとしてもよい。また、本実施形態においては予備加熱器7は加熱器5と回転軸Sを中心とする周方向に関して略同一位置に配置されているが、周方向にずれた位置に配置されてもよい。
【0068】
<第3実施形態>
以下に、本発明の第3実施形態におけるスピニング成形装置について説明する。
図6は本発明の第3実施形態におけるスピニング成形装置を示す概略構成図である。本実施形態におけるスピニング成形装置103が第1実施形態と異なる点は、
図6に示すように、板材Wの未成形箇所に当接し、加工具4の当接位置よりも径方向外側の位置で板材Wを支持する補助具8をさらに備えていることである。なお、
図6には制御装置17や負荷計測器13などの制御に関する構成は図示を省略している。
【0069】
本実施形態において、補助具8は、板材Wの未成形箇所に当接されることにより従動回転する補助ローラにより構成される。ただし、補助具8の構成は、板材Wに当接した状態で板材Wを傷付けない(当接による摩擦力が小さい)構成であれば、このようなローラに限られない。
【0070】
このような補助具8を用いることにより、板材Wを安定させ、効率よく加熱および加工を行うことができる。すなわち、補助具8により板材Wの未成形箇所が保持されることにより、加工具4による加工を行う際に発生する板材Wの外周縁の回転軸S方向の振れを抑制することができる。これにより、加熱器5による加熱を板材Wの成形箇所によらず均一化することができる。さらに、加工具4の板材Wに与える押圧力を板材Wの成形箇所によらず均一化することができる。したがって、板材Wの成形精度を高くすることができる。
【0071】
なお、補助具8は、板材Wの未成形箇所に当接する限り、どのように配置してもよい。例えば、
図6に示すように、補助具8は、板材Wの加工具4が当接する側と同じ側に設けてもよいし、反対側に設けてもよい。また、補助具8は、1個でも複数でもよい。
【0072】
以上、上記実施形態は例示であってこれに限定されるものではない。本発明は、上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲での全ての変更が意図される。例えば、複数の上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせることとしてもよい。