(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電磁調理器は、電磁誘導装置は磁心と前記磁心を巻回するコイル線を含む電磁誘導装置の上に金属製発熱媒体を配置する。電源として商用波数(50Hz又は60Hz)の電力をそのまま使う電磁誘導装置の場合は、電磁誘導装置の上に金属製発熱媒体を直接載せて配置する。いわゆる高周波電磁誘導装置の場合は、電磁誘導装置の上の間隙を空けた位置に金属製発熱媒体を配置する。間隙を空けた位置に金属製発熱媒体を配置するのは、電磁誘導装置から発生する磁束を貫く位置に金属容器を配置し、発熱性を高めるためである。好ましい間隔は1mm〜50mm、さらに好ましくは5〜30mmである。コイル線には20〜100kHzの高周波交流電気を流すことが好ましい。さらに好ましくは20〜50kHzである。前記金属製発熱媒体は金属容器又は金属板が好ましい。
【0012】
電磁誘導装置及び金属製発熱媒体はともに一方向に長くする。これにより発熱源を列方向に長くし、加熱面積を広くできる。茹で麺器の場合は金属容器内の水は容器の底の列状態で沸騰し、対流が起こることから強制撹拌を必要とせず、沸騰水による自己撹拌が可能な電磁調理器とすることができる。また、発熱面積が広くなることから、急速な沸騰ができる。加えて、金属製発熱媒体は一方向に長いため、茹で麺器の場合は金属容器にパスタ等の乾麺をそのままの状態で横方向に向けて投入できる。焼き物調理器の場合は、例えば餃子を列方向に多数個並べて加熱調理できる。
【0013】
金属製発熱媒体は電磁誘導装置と分離可能に配置する。これにより調理用途に応じて金属製発熱媒体を変えることができる。電磁調理器として茹で麺器、煮物調理器、揚げ物調理器、蒸し器の場合は、金属容器を使用し、焼き物の場合は金属板(プレート)を使用でき、調理目的に応じて発熱媒体を選択できる。また、金属製発熱媒体が腐食した場合は金属製発熱媒体のみ換えれば済むことから耐腐食性の高価な金属を使わなくてもよく、製品コストも安くできる。
【0014】
電磁誘導装置と金属製発熱媒体との間には耐熱ガラス又はセラミック板を配置するのが好ましい。電磁誘導装置の保護のためである。
【0015】
電磁誘導装置の磁心は断面がE型であり、前記E型磁心の内部にコイル線が巻回され、前記コイル線側が上部に向いていることが好ましい。磁束を上部に向けて金属製発熱媒体を誘導加熱させるためである。
【0016】
金属製発熱媒体は横長の一方向に沿った底の複数列が加熱源になることが好ましい。複数列が加熱源になると、例えば茹で麺器の場合、バスタ、うどん、そば、ラーメン等を一方向に沿って入れて茹で麺をすると、中心から外側に向かってスパイラル状に動き、強制撹拌を必要とせず、沸騰水による自己撹拌が可能となる。この際、麺同士のくっつきを防ぎ、麺表面のぬめりを取り、ダンゴにならず、極めて良好な茹であがりとなる。焼き物調理器の場合は、例えば餃子を複数列方向に多数個並べて加熱調理できる。
【0017】
沸騰は、1本の列でもよいし、複数本の列で起きるようにすることができる。1列で沸騰させるには断面が凹型の磁心を使用し、コイル線を凹の内部と外側に巻回する。2列で沸騰させるには断面がE型の磁心を使用し、内部にコイル線を巻回する。4列で沸騰させるにはE型の磁心を使用し、内部にコイル線を巻回し、E型磁心2列を離して配置する。
【0018】
本発明の電磁調理器は茹で麺器、煮物調理器、揚げ物調理器(フライヤー)、焼き物調理器又は蒸し器などに好適である。以下各調理器について説明する。
【0019】
(1)茹で麺器
茹で麺器の場合、金属容器の一方向に沿って麺を横に入れて茹でることが好ましい。麺は例えばバスタ、うどん、そば、ラーメン等を挙げることができる。とくにパスタは塩を入れて茹でることから、容器の腐食が激しい。このため従来の電磁誘導加熱を使用した茹で麺器の場合は、SUS304のような高価なステンレス鋼が必要であり、腐食した場合も修理にはかなりの時間と費用が掛かっていた。しかし、本発明では金属容器が腐食した場合、金属容器のみ換えれば済むことから製品コストも安くできる。例えばSUS430のような安価なステンレス鋼を使用できる。金属容器自体も直方体容器でよいことから安価に製造できる。
【0020】
(2)煮物調理器
煮物調理器には煮物以外に汁もの(味噌汁、すまし汁、スープ、シチュー)やカレー、おでんなども広く含む。煮物調理器には茹で麺器と同様の金属容器を使用し、ふたも使用する。電力供給を制御して長時間、穏やかな加熱もできる。
【0021】
(3)揚げ物調理器
揚げ物調理器には茹で麺器と同様の金属容器を使用し、食用オイルを加熱する。加熱面積が広いことから常に一定の温度制御も可能であり、加熱しすぎによるオイルの酸化も防止できる。
【0022】
(4)蒸し器
蒸し器の場合も茹で麺器と同様の金属容器を使用し、その上にせいろを置く。せいろは複数段重ねて置くこともできる。
【0023】
(5)焼き物・炒め物調理器
焼き物・炒め物調理器の場合は金属板(プレート)を使用し、必要な場合はふたも使用できる。
【0024】
本発明の電磁誘導装置は、磁心と前記磁心を巻回するコイル線を含む高周波コイルを上に向けて配置する。これにより金属容器や鉄板などの金属製発熱媒体を上においたときに同発熱媒体を効率よく発熱できる。
【0025】
本発明の金属製発熱媒体は、少なくとも底の部分は電磁誘導装置から発生する磁束により発熱する金属で構成されている。磁束が貫く位置に金属製発熱媒体を置くと、磁束により同発熱媒体を効率よく発熱できる。前記において、磁束により発熱する金属とは、鉄、ステンレス鋼などである。
【0026】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明する。下記において同一符号は同一部品を示す。
図1は本発明の一実施例の電磁調理器(茹で麺器)を示す模式的配置図である。この電磁調理器は、電磁誘導装置1a,1bの上に耐熱ガラス4a,4bを置き、その上に金属容器2a,2bを置く。単に置くだけなので、金属容器は電磁誘導装置と分離可能である。電磁誘導装置1a,1bには給電リード線9を介してインバータ5に接続される。インバータは市販品を使用することができる。インバータ5には温度検出比較回路装置6と電源7が接続される。電源7は単相でも三相でもよい。温度検出比較回路装置6には温度センサ8a,8bが接続され、温度調整が可能である。温度センサ8a,8bからの信号により、空焚き防止もできる。電磁誘導装置1a,1b及び金属容器2a,2bはともに一方向に長い。金属容器2a,2bには水3a,3bを入れ、沸騰して麺類を茹でる。
【0027】
図2は本発明の一実施例の電磁調理器の幅方向の断面図である。電磁誘導装置1内にはフェライトコアからなるE型磁心12が上向きに配置され、E型磁心12にはコイル線13が巻回されている。E型磁心12とコイル線13は合わせて高周波コイル14ともいう。高周波コイル14は電気絶縁樹脂15,16によってモールド固定されている。これらは樹脂ハウジング18内に収納されている。17は高周波コイルの保護のための温度センサ挿入用スペースである。耐熱ガラス4の下に配置された空焚き防止用センサ8により金属容器2の空焚きは防止される。
【0028】
電磁誘導装置1の上の間隙10を空けた位置の金属容器2内に水を入れ加熱すると、沸騰領域11a,11bの2か所で列状の沸騰をする。沸騰水は矢印a1,a2,b1,b2のような動きをする。これは麺を入れて観察すると確認できる。これにより強制撹拌を必要とせず、沸騰水による自己撹拌が可能となる。
【0029】
図3は電磁誘導装置の長さ方向の断面図である。E型磁心12が上向きに配置され、E型磁心12にはコイル線13が巻回され、電気絶縁樹脂16で保護され、樹脂ハウジング18内に収納されている。
【0030】
図4Aは金属容器内の沸騰領域11を示す平面図である。沸騰領域11は長円状に形成される。この長円状沸騰領域11は、コイル線13の位置にほほ合致している。
図4Bは乾麺の一例としてパスタ19aを金属容器に投入した平面図である。金属容器の長さ方向に向けて投入する。
図4Cはパスタが茹であがった状態の平面図である。茹であがったパスタ19bはスパイラル状に捩れた状態で茹で上げられる。
【0031】
図5は本発明の別の実施例の電磁調理器(焼き物・炒め物調理器)を示す長さ方向から見た模式的断面図である。電磁誘導装置1の上に空間を空けて鉄板20を配置する。必要な場合はこの上にふたをしてもよい。鉄板20の上では通常の焼き物や炒め物調理ができる。例えば餃子、焼き肉、焼きそば、お好み焼き、野菜炒めなどの調理ができる。
【0032】
前記においては電磁誘導装置1と金属容器2を一対で使用する例を説明した。これはバッチとして使用する場合は好適な例である。バッチ式でさらに大量の麺を茹でるには、電磁誘導装置1を複数個並べておき、その上に前記複数の電磁誘導装置を覆う程度の大きな金属容器を置いて調理器とする。連続的に大量の麺を茹でるには、連続法も可能である。連続システムは、電磁誘導装置1を複数個固定しておき、金属容器2を連続的に複数個の電磁誘導装置1の上を電磁誘導装置1と平行状態又は垂直状態で通過させる。平行状態の場合は、
図1の状態になった時に加熱が最も効率的となる。
【0033】
茹で麺操作が終わったら、お湯と麺を網等で分離する。その後は常法にしたがって調理を進める。分離したお湯は1回ごとに捨ててもよいし、繰り返し使用することもできる。本発明の電磁調理器は、急速加熱ができることから、1回ごとに新しい水を使用しても、沸騰までに1〜3分程度しかかからない。このため、客のオーダーを聞いてから調理を開始することができる。したがって、従来の連続して大量のお湯を沸かし続けておく必要があった電磁調理器に比べて、電力使用量は大幅に低下できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
1 使用機器
(1)インバータ
市販品のインバータ、電圧:200V、電力:5.0KW、周波数:20〜50kHzを使用した。交流電気の周波数を範囲で示すのは加熱対象物体によって出力が変化するからである。このインバータには温度検出比較回路装置が内蔵されている。
(2)電磁誘導装置
直径3mmのコイル線を使用し、2.5KWコイル×2本を直列結線して使用した。すなわち、電磁誘導加熱装置は
図1に示すように2個使用した。
(3)金属容器
厚み0.7mmのステンレス鋼SUS430を使用し、奥行き80mm、高さ80mm、幅300mmの直方体容器2個を使用した。電磁誘導装置と金属容器との間隙(ギャップ)は9mmとした。また電磁誘導装置と金属容器との間には耐熱ガラス(日本電気硝子社製、商品名“ネオセラム”、厚み4mm)を配置した。金属容器内の水量は650mlとした。電磁調理器全体の形状は
図1〜3に示すとおりである。
【0036】
2 パスタ
パスタはイタリア製商品名“ディ チェコ”、太さ1.4mmを使用し、1回分100g使用した。
【0037】
3 パスタの茹で実験
電磁誘導装置の高周波コイルと金属容器のギャップを9mmとし、高周波コイル1本に対して1個の金属容器を置いた。まず温度25℃の水を約2分で沸騰させ、その後パスタを金属容器の長さ方向に沿って横向けに投入した。食塩5gも加えた。投入後一旦温度が下がり沸騰状態はなくなったが、約10秒後に再度沸騰した。その後は吹きこぼれが無い程度に電力の出力調整をした。パスタを投入してから6分間沸騰状態で茹であげた。この間、パスタは金属容器底の2列の沸騰領域でスパイラル状に回転しながら流動し、人の手の撹拌は不要であった。これによりパスタ同士のくっつきはなく、表面のぬめりも取れ、スパイラル状に捩れた状態で茹で上げられた。茹で具合の食感を確かめたところ、プロの職人が茹でたのと同等の食感であった。
【0038】
(実施例2)
パスタに換えて日本蕎麦(乾麺)を使用して実施例1と同様に実験した。食塩は加えなかった。茹で時間は3分とした。日本蕎麦においても、金属容器底の2列の沸騰領域でスパイラル状に回転しながら流動し、人の手の撹拌は不要であった。これにより麺同士のくっつきはなく、表面のぬめりも取れ、スパイラル状に捩れた状態で茹で上げられた。茹で具合の食感を確かめたところ、プロの職人が茹でたのと同等の食感であった。
【0039】
(実施例3)
パスタに換えてソーメン(乾麺)を使用して実施例1と同様に実験した。食塩は加えなかった。茹で時間は3分とした。ソーメンにおいても、金属容器底の2列の沸騰領域でスパイラル状に回転しながら流動し、人の手の撹拌は不要であった。これにより麺同士のくっつきはなく、表面のぬめりも取れ、スパイラル状に捩れた状態で茹で上げられた。茹で具合の食感を確かめたところ、プロの職人が茹でたのと同等の食感であった。
【0040】
(実施例4)
パスタに換えてうどん(乾麺)を使用して実施例1と同様に実験した。食塩は加えなかった。茹で時間は9分とした。うどんにおいても、金属容器底の2列の沸騰領域でスパイラル状に回転しながら流動し、人の手の撹拌は不要であった。これにより麺同士のくっつきはなく、表面のぬめりも取れ、スパイラル状に捩れた状態で茹で上げられた。茹で具合の食感を確かめたところ、プロの職人が茹でたのと同等の食感であった。
【0041】
以上の実験から次のことが分かった。
(1)
図2の2列の沸騰領域11a,11bにおける水の沸騰により、金属容器内に強い対流が起こり、麺が金属容器内でスパイラル状に回転しながら茹でられる。これにより麺同士のくっつきは防止され、表面のぬめりも取れ、団子状態にもならず、スパイラル状に捩れた状態で茹で上げられる。
(2)従来の茹で麺器(ガス火、電気抵抗加熱、電磁誘導加熱等を問わない)は大量のお湯を沸かし続ける必要があったが、本発明の電磁調理器は茹でるのに必要なお湯をその都度沸かせば済むことから、電力エネルギーコストを下げることができる。前回分のお湯を再利用すれば、さらに電力エネルギーコストを下げることができる。
(3)従来の電磁誘導加熱方式のパスタ用茹で麺器は、茹でる時の塩分により水槽やその周辺機器が腐食するため、耐腐食性金属で作成する必要があり、それでも修理等が必要になることが多く、修理にかなりの時間と費用が掛かっていた。これに対して本発明の電磁調理器は破損したとしても金属容器のみ換えれば済み、コストは安い。また、金属容器の清掃は簡単であり、使い勝手もよい。
(4)本発明の電磁調理器は強制撹拌を必要とせず、沸騰水による自己撹拌が可能な電磁調理器とすることができる。自己撹拌が可能であると、麺カゴは不要で、人件費もかからず、調理コストも安くできる。
【0042】
(実施例5)
図5に示す装置を用いた。電磁誘導装置は実施例1と同一のものを使用し、電磁誘導装置と鉄板とのギャップは9mmとした。鉄板は厚み5mmの鉄板を使用し、奥行き80mm、幅300mm、周囲の縁の高さ20mmの長方形とした。この鉄板の上に食用オイルを引き、合計12個の餃子を1列に並べて加熱調理したところ、約6分で調理できた。焼き具合はこんがりと焼け、内部までよく焼けており、申し分ない焼き具合であった。