特許第5751753号(P5751753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751753
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】認知機能改善のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20150702BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   A61K31/353
   A61K35/78 C
   A61P25/28
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2009-515463(P2009-515463)
(86)(22)【出願日】2007年6月13日
(65)【公表番号】特表2009-539991(P2009-539991A)
(43)【公表日】2009年11月19日
(86)【国際出願番号】US2007013820
(87)【国際公開番号】WO2007146306
(87)【国際公開日】20071221
【審査請求日】2010年6月11日
【審判番号】不服2013-15465(P2013-15465/J1)
【審判請求日】2013年8月9日
(31)【優先権主張番号】60/813,948
(32)【優先日】2006年6月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390037914
【氏名又は名称】マース インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】イナムダー,アマー ピー
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド,イアン アンドルー
(72)【発明者】
【氏名】フランシス,スーザン ティー
【合議体】
【審判長】 内田 淳子
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/123096(WO,A2)
【文献】 特表2005−526780(JP,A)
【文献】 特表2008−542263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44, 36/00-36/9068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康なヒト被験体における実行認知機能の増強に使用するための薬剤であって、
カテキン、エピカテキン、化学式An
【化1】
を有する化合物、及びそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を含んでなり、
ここで、
nは、2〜18の整数であり、
R及びXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
Rは、OH、O−糖またはO−没食子酸であり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、モノマー単位の結合がC−4、C−6またはC−8の位置で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZは水素または糖であり、
前記糖が、随意的に、いずれかの位置においてフェノール部分で置換され、前記薬剤が、1回量でまたは単回投与量で少なくとも50mgの前記化合物を含む、
ことを特徴とする、薬剤
【請求項2】
RがOHであることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項3】
前記化合物がカテキンであることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項4】
前記化合物がエピカテキンであることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項5】
前記化合物がAnであり、nが2〜12であることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項6】
前記化合物がAnであり、nが2〜10であることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項7】
nが2であることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項8】
食品の形態であることを特徴とする請求項1記載の薬剤
【請求項9】
飲料の形態であることを特徴とする請求項1記載の薬剤
【請求項10】
菓子の形態であることを特徴とする請求項1記載の薬剤
【請求項11】
前記化合物がカカオ抽出物として提供されることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項12】
前記化合物がカカオ材料として提供されることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項13】
前記ヒトが、競合事象に関与する人、聴衆に向けてまたは会合において演説を行う人、エンターテインメントの専門的職業に従事する人から選択されることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項14】
前記ヒトが、複雑な意思決定及び/または並行作業を行う人、運輸従事者、建設作業員、及び防衛要員から選択されることを特徴とする請求項記載の薬剤
【請求項15】
前記ヒトが、認知能力の低下を患う高齢の個人であることを特徴とする請求項記載の薬剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)実行認知機能(executive cognitive functions)(例えば、意思決定、計画、作業記憶、並行作業、判断、数値問題の解決、読解力)の増強、及び/または、(ii)脳血管系での血流の増加を目的とした、本明細書に記載する特定のポリフェノール化合物を、それらを必要とする被験体に投与することを含む、組成物及びそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラバノール及びプロシアニジンは、それらの幅広い生物活性に起因して、医薬及び栄養の分野において、大いなる注目を集めている(例えば特許文献1)。出願人は、本明細書に掲げる化合物を投与することにより、実行認知機能の増強及び/または脳血管系の血流の増加をもたらすことを見出した。
【0003】
磁気共鳴画像法(MRI)は、核磁気共鳴(NMR)の原理に基づいたイメージング技術であり、分子についての微小な化学的及び物理的情報を得るために用いる分光技術である。MRIは、主に、医療現場で使用され、人体内部の質の高い画像を作り出す。MRIシステムはまた、実際上、身体の任意の部分の血流を撮像することができる。これにより、研究で身体の動脈系を見ることはできるが、その周りの組織は見ることができない。多くの場合、MRIシステムは、脈管の放射線医学に必要とされる、造影剤の注入をせずにこれを行なうことができる。
【0004】
脳血管系における血流及び血液酸素化の変化(血行動態という総称で知られる)は、神経作用(すなわち、脳活動/機能)と密接に関連している/付随することが知られている。したがって、イメージング技術を使用して、脳の血行動態における変化をマッピングすることにより、脳活動/機能を研究することができる。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)は、脳機能を判断するのに用いられる、これらの磁気共鳴(MR)に基づく技術の1つである。それは、血液酸素化レベル依存性造影剤(blood oxygenation level dependent contrast)(「BOLD」)の効果を通じて、脳活性の変化を測定する。BOLD効果は、酸化ヘモグロビンの分布の変化に基づいている。脳細胞が活性の場合、それらは、局所の毛細血管から赤血球内のヘモグロビンによって運ばれる酸素を消費する。この酸素の利用が、酸素ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの相対濃度における局所的変化の原因となる、脳活性が増大した領域の血流の増加をもたらす。よって、BOLD反応によって測定される酸素化状態の変化は、脳血流(CBF)、脳血液量(CBV)、及び脳酸素代謝率(CMRO2)における増加の複雑な相互作用から生じる。したがって、BOLD信号の変化は、血流の変化と非常に相関し、すなわち、BOLD反応の増大は、血流増加の兆候であり、言い換えれば、知力及び/または能力の増強など、認知機能の増大に相当する可能性がある。動脈スピンラベリング法(ASL法)は、絶対単位(すなわち、ml血液/100g組織/分)におけるCBFと生理学的に相関する測定法を提供する、別の非侵襲性の磁気共鳴(MR)に基づいたイメージング技術である。ASLに基づくイメージングは、BOLD反応の規準である、同一領域の神経血管結合によって可能になるが、血液酸素化の変化ではなく、血流自体の変化の定量的尺度を提供する。
【0005】
上記脳のイメージング技術(fMRI−BOLD反応及びASL法の利用)は、本明細書に記載する本願発明を可能にした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,297,273号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実行認知機能は、例えば、意思決定、計画、作業記憶、並行作業、判断、数値問題の解決、及び、読解力など、多くの複雑な作業の実行における重要な役割を担う。したがって、当技術分野では、実行認知機能を増強し、及び/または脳の血流を増加させる方法が、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(i)実行認知機能(例えば、意思決定、計画、作業記憶、並行作業、判断、数値問題の解決、読解力)の増強、及び/または、(ii)脳血管系での血流の増加を目的とした、本明細書に記載する特定のポリフェノール化合物を、それらを必要とする被験体に投与することを含む、組成物及びそれらの使用方法に関する。
【0009】
1つの態様では、本発明は、本発明の化合物を含む、医薬品、食品、食品添加剤、または栄養補助食品などの組成物に関する。組成物は、随意的に、さらなる認知の増強/改善剤を含んでもよく、あるいは、さらなる認知の増強/改善剤と併用して投与して差し支えない。精神的認知(mental cognition)を増進/改善する、及び/または、精神的認知の低下に関する症状を治療/予防するための、上記組成物及びラベル及び/または使用説明書を含む、包装された製品もまた、本発明の範囲内にある。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、本発明の化合物を、それらを必要とする被験体に投与することを含む、脳の特定領域における脳活性(例えばfMRI−BOLD反応を使用することにより評価する)を増進させる方法に関する。このような活性化された脳領域の非限定的な例としては、右背外側前頭前野、頭頂葉皮質、及び、前帯状皮質が挙げられる。
【0011】
別の態様では、本発明は、本発明の化合物を、それらを必要とする被験体に投与することを含む、脳への血流の増加方法(例えばASL法を用いて測定する)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】文字−数字作業の平均応答時間(±SEM)。応答時間は、すべての被験体を平均した。
図2A】「高フラバノール」でのベースラインの状態に対する「スイッチ」における作業関連活性。統計的パラメトリックマップは、高さ及び空間の広がりについてP<0.05(補正された)で閾値処理した(thresholded)。
図2B】「高フラバノール」での「スイッチ」及び「非スイッチ」状態の比較のための作業関連活性(ベースラインに対する「スイッチ」>ベースラインに対する「非スイッチ」)。統計的パラメトリックマップは、高さ及び空間の広がりについてP<0.05(補正された)で閾値処理された。
図3】急性用量の高フラバノール飲料及び低フラバノール飲料を摂取後の灰白質(n=4)の平均脳血流反応(±SEM)の経時変化。
図4】「認知要求バッテリー」(“Cognitive Demand Battery”)試験:(a)スリーズコレクト(Threes Correct)試験;(b)セブンズエラー(Sevens Error)試験;(c)短時間視覚情報処理課題(Rapid Visual Information Processing Task)(RVIP);(d)精神的疲労、におけるフラバノール/プロシアニジンが補充されたカカオ飲料の効果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願に引用したすべての特許、特許出願、及び、参考文献は、参照することにより本明細書に援用される。矛盾する場合は、本開示を適用する。
【0014】
本発明は、(i)実行認知機能の増強、及び/または、(ii)脳血管系での血流の増加を目的とした、組成物、製品、及び、方法に関し、ここで、各々には、本明細書に記載する特定のポリフェノール化合物を、それらを必要とする被験体に投与することが含まれる。本発明に使用する化合物には、特定のフラバノール(フラバン−3−オール)、プロシアニジン、または、それらの薬学的に許容される塩または誘導体が挙げられる。これらの化合物は、天然起源の場合、例えば、カカオニブまたはその断片、チョコレート・リカー、カカオ固形物(例えば、ある程度、または完全に脱脂された)、カカオ抽出物またはその画分など、カカオ成分の形態で組成物中に含まれていて差し支えない。
【0015】
本明細書では、「フラバノール」または「フラバン−3−オール」という用語は、次の化学式:
【化1】
【0016】
のモノマーのことをいう。
【0017】
「プロシアニジン」という用語は、上記モノマーのオリゴマーのことをいう。
【0018】
「カカオ成分」という用語は、カカオ豆に由来する成分のことをいい、例えば、カカオニブまたはその断片、チョコレート・リカー、カカオ固形物(例えば、ある程度、または完全に脱脂されたケーキまたは粉末)、フラバノール及び/またはプロシアニジン含有カカオ抽出物またはその画分が挙げられる。
【0019】
特定の実施の形態では、本発明は、フラバノール(例えば、(−)−エピカテキン及び(+)−カテキン)、及び、フラバノール(例えば、(−)−エピカテキン及び(+)−カテキン)、または、それらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体、及びグルクロン酸化誘導体を含む)を、有効量で含む組成物に関する。誘導体は、下記のように調製して差し支えない。
【0020】
他の実施の形態では、本発明は、次の化学式An
【化2】
【0021】
またはそれらの薬学的に許容される塩または類似体(酸化生成物、メチル化誘導体、及びグルクロン酸化誘導体を含む)を有する化合物、及び該化合物を有効量で含む組成物に関し、
ここで、
nは、2〜18の整数であり、
R及びXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
Rは、OH、O−糖またはO−没食子酸(gallate)であり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、モノマー単位の結合がC−4、C−6またはC−8の位置で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZは独立して水素または糖であり、
前記糖は、随意的に、例えばエステル結合を介して、いずれかの位置においてフェノール部分で置換されている。
【0022】
化学式Anにおけるモノマー単位は、4→6α、4→6β、4→8α及び/または4→8βの連結を介して結合されて構わない。糖は、単糖または二糖であることが好ましい。糖は、グルコース、ガラクトース、ラムノース、キシロース、およびアラビノースからなる群より選択されて差し支えない。フェノール部分は、カフェイン酸、ケイヒ酸、クマリン酸、フェルラ酸、没食子酸、ヒドロキシ安息香酸およびシナピン酸からなる群より選択されて構わない。誘導体としては、没食子酸エステルなどのエステル、単糖類または二糖類部分(例えば、β−D−グルコース)などの糖部分で誘導体化された化合物、グルクロン酸化およびメチル化誘導体、並びに酸化生成物が挙げられる。一部の実施の形態では、エステル誘導体は、没食子酸エステル以外のエステルである。酸化生成物は、米国特許第5,554,645号明細書に開示されるように調製して差し支えなく、参照することによりその関連部分を本願に援用する。例えば没食子酸エステルなどのエステルは、参照することによりその開示を本願に援用する、例えば米国特許第6,420,572号明細書に記載されるように、既知のエステル化反応を利用して調製して差し支えない。3’O−メチル−、4’O−メチル−、および3’O,4’O−ジメチル−誘導体などのメチル化誘導体は、例えば、Cren- Oliveらの2002, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 821-830及びDonovanらのJournal of Chromatography B, 726 (1999) 277-283に記載されるように調製して差し支えなく、ここに参照することによりこれらの開示を本願に援用する。グルクロン酸化生成物は、Yuらの"A novel and effective procedure for the preparation of glucuronides," Organic Letters, 2(16) (2000) 2539-41、及びSpencerらの"Contrasting influences of glucuronidation and O-methylation of epicatechin on hydrogen peroxide-induced cell death in neurons and fi
broblasts," Free Radical Biology and Medicine 31(9) (2001) 1139-46に記載されるように調製して差し支えなく、ここに参照することにより本願に援用する。この開示が本願に引用されるすべての化学式に適用されることは、注目すべきことである。
【0023】
別の実施の形態では、本発明は、化学式An
【化3】
【0024】
を有する化合物、及び該化合物またはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物、に関し、
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれ、αまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、モノマー単位の結合がC−4、C−6またはC−8の位置で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZはそれぞれ水素である。
【0025】
本発明に係る製品および方法に有用な化合物の例としては、本明細書に記載される化学式Anの化合物が挙げられ、ここで整数nは、3〜18、2〜12、3〜12、2〜5、4〜12、5〜12、4〜10、または5〜10である。一部の実施の形態では、整数nは2〜4であり、例えば2または3である。この開示は、本明細書の化学式Anのいずれの化合物にも適用される。
【0026】
使用方法
本発明は、(i)実行認知機能を増強させる、及び/または、(ii)脳血管系での血流を増加させる方法に関する。
【0027】
本明細書では、「実行認知機能」とは、注意、言語及び記憶などの他の認知機能を管理する(「実行」のように)役割を担う、高次の認知能力(cognitive capacity)として定義される。実行認知機能の例としては、意思決定、並行作業、作業記憶、判断、複雑な数値計算能力、読解力が挙げられる。
【0028】
本明細書では、「認知機能の改善」は、実行認知機能の少なくとも1つにおける、測定可能な改善として定義される。当業者は、例えば、実施例に記載される方法など、認知機能の改善を測定可能な既知の方法を選択することができる。
【0029】
本明細書では、「認知能力(cognitive abilities)の低下」は、例えば、年配/高齢の被験体など、健康な被験体における認知能力の低下として定義される。すなわち、本明細書では、「認知能力の低下」は、神経変性状態のことをいうのではない。
【0030】
本明細書では、「健康な」被験体とは、神経変性疾患に罹患していない/神経変性疾患と診断されていない、被験体である。
【0031】
本明細書では、「血流の増加」とは、ml血液/100ml組織/分によって表される、組織に送達される血液の量における増加のことをいう。脳における血流の増加は、単位時間ごとの脳の単位体積に入る血液量の増加のことをいう。
【0032】
特定の実施の形態では、本発明は、(i)実行認知機能を増強させる方法、及び/または、(ii)脳血管系への血流を増加させる方法を提供し、各方法には、それらを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または動物(veterinary animal)に、エピカテキンまたはカテキン(例えば、(−)−エピカテキンまたは(+)−カテキン)などのフラバノール、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で、投与することが含まれる。
【0033】
「動物」という用語は、獣医が世話をする、または獣医によって手当てされる任意の動物のことをいい、例えば、ネコ、イヌおよびウマ(例えば競走馬)などの愛玩(companion)(ペット)動物および家畜動物が挙げられる。
【0034】
ある実施の形態では、本発明は、(i)実行認知機能を増強させる方法、及び/または、(ii)脳血管系への血流を増加させる方法を提供し、各方法には、それらを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または動物に、次の化学式An
【化4】
【0035】
を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物を、投与することが含まれ、
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれ、αまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHまたO−糖またはO−没食子酸であり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、モノマー単位の結合がC−4、C−6またはC−8の位置で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZはそれぞれ水素または糖であり、
糖は、随意的に、例えばエステル結合を介してなど、いずれかの位置においてフェノール部分で置換されている。
【0036】
例えば、上記方法には化合物An、またはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)の使用が含まれていて差し支えなく、ここで、RはOHであり、C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZはそれぞれ水素である。適切な糖の例としては、上述の通りである。フェノール部分の例としては、上述の通りである。誘導体の例としては、上述の通りである。
【0037】
ある実施の形態では、本発明は、(i)実行認知機能を増強させる方法、及び/または、(ii)脳血管系への血流を増加させる方法を提供し、各方法には、それらを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または動物に、化学式An
【化5】
【0038】
を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)を含む組成物を投与することが含まれ、
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれ、αまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、モノマー単位の結合がC−4、C−6またはC−8の位置で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別のモノマー単位と結合しない場合は、X、YおよびZはそれぞれ水素である。
【0039】
本発明の製品および方法に有用な化合物の例としては、本明細書に記載される化合物が挙げられ、ここで整数nは、3〜18、2〜12、3〜12、2〜5、4〜12、5〜12、4〜10、または5〜10である。一部の実施の形態では、整数nは、2〜4であり、例えば、2または3である。この開示は、本明細書の化学式Anの任意の化合物に適用される。
【0040】
いずれのヒトまたは動物も本明細書に記載される方法の利益を享受することができるが、「それらを必要とする被験体」は、認知機能の増強の必要に迫られている被験体、または実行認知機能の持続的な使用を必要とする、専門的職業を有する(または課題を行なう)被験体である。認知機能の増強及び/または脳の血流の増加を必要とする被験体の例としては、例えば競合事象に差し迫って参加する者(例えば、試験の受験者、スポーツ/競技種目の競技者、就職面接に臨む者など)、聴衆に向けてまたは会合において演説を行う者(例えば、教育者、政治家、テレビの生放送に臨むニュース番組のアンカーマン、リポーターなど)、エンターテイナー(例えば、映画俳優、及び生番組の演奏者など)、及び、心理作用の極端な時期を含む仕事に従事している者など、当業者には明らかであろう。例えば社会的地位のある企業幹部などの複雑な意思決定及び並行作業を必要とする仕事に従事する者、運輸従事者(例えば、バス運転手、鉄道機関士、定期航空パイロット、船長/艦長など)、建設作業員(例えば、橋など危険性の高い建造物、高層建築、山中の道路及び鉄道など)、防衛要員(例えば、軍艦の艦長、空軍の航空機操縦士、海軍艦艇の操縦士など)なども、被験体に含まれる。さらには、認知の低下を体験しているが、臨床的に神経変性疾患とは診断されていない、年配/高齢の個人(例えば75歳を超えるなど、65歳よりも高齢の人)もまた、本明細書に記載される組成物及び方法の利益を受けるであろう。
【0041】
本発明の化合物は、例えば、カカオニブまたはその断片、チョコレート・リカー、カカオ固形物(例えば、ある程度または完全に脱脂されたカカオ固形物、例えばカカオ固形物はカカオ粉末である)、カカオ抽出物またはその画分など、カカオ成分の形態で経口投与されて差し支えなく、あるいは、カカオ成分とは無関係に加えてもよい。カカオ成分は、例えば米国特許第6,194,020号、及び同第6,599,553号の各明細書に記載される、伝統的な処理工程を変更することによって、カカオポリフェノール(CP)の成分を維持するように調製して差し支えない。
【0042】
一部の実施の形態では、他の認知増強剤と併用して、および/または他の認知増強剤に対する感応性を向上させる目的で、本化合物を投与して差し支えない。認知増強剤の例としては、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、微量栄養素、植物抽出物またはそれらの誘導体、ハーブまたはハーブ系サプリメント(例えば、イチョウ、朝鮮人参など)が挙げられる。
【0043】
したがって、つぎの使用は本発明の範囲内にある。実行認知機能の増強及び/または脳血管系における血流の増加のための、薬剤、食品、栄養補給食品または栄養補助食品の製造における、先に定義された、フラバノールまたはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)の使用。実行認知機能の増強及び/または脳血管系における血流の増加のための、薬剤、食品、栄養補給食品または栄養補助食品の製造における、本明細書に定義される、化学式Anの化合物、またはその薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含む)の使用。
【0044】
有効量は、本明細書が提供する指針および当技術分野の一般知識を用いて、当業者によって決定されて差し支えない。例えば、有効量は、哺乳動物の体内に、生理学的に適切な濃度を達成するものであって構わない。これらの生理学的に適切な濃度は、少なくとも20nMであり、少なくとも約100nMであることが好ましく、少なくとも約500nMであることがさらに好ましい。1つの実施の形態では、ヒトなどの哺乳動物の血中に、少なくとも約1μモルが達成される。本明細書に定義される化合物は、約35mg/日、40mg/日、または50mg/日以上(例えば、1000mg/日まで)、または75mg/日以上(例えば、1000mg/日まで)、または約100〜150mg/日以上(例えば、約900mg/日まで)、または約300mg/日以上(例えば、約500mg/日まで)で投与されて差し支えない。しかしながら、使用量の上限は規制因子ではないことから、上記の例示より多い量を使用してもよい。使用量は、Adamson, G.E.らのJ. Ag. Food Chem.; 1999; 47 (10) 4184-4188に記載のとおりに測定して構わない。
【0045】
投与計画通りに、すなわち、例えば、日、月、2ヶ月、半年、1年などの有効期間、または、熟練した開業医によって決定される、一部の他の投与計画において必要とされる期間、投与を継続して差し支えない。投与は、少なくとも、実行認知機能の増強及び/または脳血管系における血流の増加に必要とされる期間、継続されて差し支えない。組成物を、毎日、好ましくは一日に2、3回、例えば朝と晩に投与し、哺乳動物の体内における化合物の有効濃度を維持してもよい。最も有益な結果を得るため、少なくとも7日間、または少なくとも14日間、または少なくとも30日間、または少なくとも45日間、または少なくとも60日間、または少なくとも90日間、組成物を投与して差し支えない。これらの投与計画を、必要に応じて周期的に繰り返してもよい。
【0046】
組成物および製剤
本発明にかかる化合物は、食品(ペットフードを含む)、食品添加物、または栄養補助食品、または医薬品として投与されて構わない。
【0047】
本明細書では、「食品」は、タンパク質、炭水化物および/または脂質を含む物質であり、身体の器官において使用され、成長、修復および生活過程を維持し、エネルギーを供給する。食品には、例えば、ミネラル、ビタミン、および調味料などの補助的物質も含めてもよい。メリアム・ウェブスター・カレッジ英英辞典の第10版(1993)を参照のこと。食品という用語には、人または動物の消費に適合する飲料も含まれる。本明細書では、「食品添加物」は、米国食品医薬品局(FDA)の21 C.F.R. 170.3(e)(l)に定義されており、直接および間接添加物が含まれる。本明細書では、「栄養補助食品」は、食事を補助することを意図した製品(タバコを除く)であり、以下の食品材料の1種類以上を有するか、または含む:ビタミン、ミネラル、ハーブまたは他の植物、アミノ酸、1日の総摂取量を増加させて食事を補うことを目的とした、ヒトに利用される食物中の物質、または、濃縮物、代謝産物、構成物質、抽出物、またはこれらの材料の組合せ。本明細書では、「医薬品」は、薬効のある薬物(medicinal drug)である。メリアム・ウェブスター・カレッジ英英辞典の第10版(1993)を参照のこと。医薬品は、薬剤(medicament)とも称される。上記組成物は、当技術分野で既知のように調製されて差し支えない。
【0048】
組成物は、担体、希釈剤、または賦形剤を含んでいてもよい。担体、希釈剤、または賦形剤は、目的の用途に応じて、ヒトまたは動物への使用、食品、添加物、栄養補助食品または医薬品用途に適合するように選択されて差し支えない。任意で、組成物に追加の認知促進及び/または増強剤を含めてもよい。当業者は、用途に応じて、本発明の化合物の純度を選択してもよい。例えば、医薬品の投薬形態の調製に使用する場合、化合物は工業的に可能な限り純粋であるべきだが、食品、添加物、または栄養補助食品の調製の場合には、化合物は、もう少し純度が低いか、または混合物(例えば、植物抽出物)として使用して差し支えない。
【0049】
本発明の化合物は、「単離および精製」してもよく、言い換えれば、化合物および/または不純物の汚染の程度が、化合物の有効性に著しく影響を与えるか、化合物の有効性を損ねなければ、天然に生じる化合物から分離し(例えば、化合物が天然由来の場合)、または、合成的に調製して構わない。例えば、「単離および精製されたB2二量体」は、利用可能な、商業的に実現可能な精製および分離技術によって達成可能な範囲で、天然に(例えば、カカオ豆に)生じるB5二量体から分離される。こうした化合物は、医薬品用途に特に適している。
【0050】
化合物は、もう少し純度が低くても、すなわち、「実質的に純粋」であってもよく、言い換えれば、利用可能な精製、分離、および/または合成技術によって達成可能な最高水準の均質性を有していてもよいが、類似の化合物から分離する必要はない。本明細書では、「類似の化合物」は、同じ重合度を有する化合物である。例えば、「実質的に純粋な二量体」は、二量体の混合物のことをいう(例えば、カカオ抽出物画分に生じるであろう、B2およびB5など)。医薬品用途への適合は劣るが、このような「実質的に純粋」な化合物は、食品、食品添加物および栄養補助食品の用途に活用することができる。
【0051】
一部の実施の形態では、本発明の化合物は、少なくとも純度80%、少なくとも純度85%、少なくとも純度90%、少なくとも純度95%、少なくとも純度98%、または少なくとも純度99%である。このような化合物は、特に、医薬品用途に適している。
【0052】
本発明の化合物を含む医薬品は、随意的に、別の認知増強/改善剤と併用して、経口投与される。本明細書では、「経口投与」には、経口による投与が含まれ、舌下腺および口腔内投与が含まれる。当業者は、本発明の化合物の送達を最大にする、適切な投与形態を決定することができるであろう。したがって、各種の経口による投与に適合させた投与形態は本発明の範囲内にあり、錠剤、カプセル、ゼラチンカプセル(ジェルキャップ)、大用量または単位用量の粉末または顆粒、エマルション、懸濁液、ペースト、またはゼリーなど、固体、液体、および半固体の投与形態が含まれる。徐放性の投薬形態もまた、本発明の範囲内にある。適切な薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤は、当技術分野で一般に知られており、当業者が容易に決定することができる。例えば、錠剤には、有効量の本発明の化合物、および随意的に、ソルビトール、ラクトース、セルロース、または第二リン酸カルシウムなどの担体を含めて差し支えない。
【0053】
本明細書に記載の化合物および随意的に別の認知増強/改善剤を含む食品を、ヒトまたは動物用途に適応させることができ、このような食品としてペットフードが挙げられる。食品は、菓子類以外の、例えば飲料(例えば、ココア風味飲料)などであってもよい。ダークチョコレート、低脂肪チョコレート、および、チョコレートコーティングキャンディであってよいキャンディを含む、ミルク、スイート、およびセミスイートチョコレートなどの、米国同一性規格(standard of identity)(SOI)および非同一性規格のチョコレートもまた、本発明の範囲内にある。他の例としては、焼成食品(baked product)(例えば、ブラウニー、ベークド・スナック、クッキー、ビスケット)、調味料、グラノーラ・バー、トフィー・チュー(toffee chew)、食事代替バー(meal replacement bar)、スプレッド、シロップ、混合粉末飲料、ココアまたはチョコレート風味飲料、プリン、餅、混ぜご飯、風味のよいソース(savory sauce)などが挙げられる。必要に応じて、食品にチョコレートまたはココアの風味を加えてもよい。食品は、例えばピーナツ、クルミ、アーモンドおよびヘーゼルナッツなどのナッツ類を含む、グラノーラ・バーなどの、チョコレートおよびキャンディ・バーであって差し支えない。食品は、本明細書に記載の化合物を有効量、送達するように設計される。
【0054】
本発明に使用する化合物は、例えば、カカオ豆または当業者に既知の別の天然源に由来する、天然のものであって差し支えなく、あるいは合成的に調製されてもよい。当業者は、用途および/または利用可能性、あるいはコストに基づいて、天然または合成ポリフェノールを選択することができる。
【0055】
化合物は、カカオ成分の形態で組成物中に含まれていてもよい。例えば、化合物は、チョコレートに含まれるチョコレート・リカーなど、カカオ材料の形態で組成物中に含まれていて差し支えなく、あるいは、例えば、抽出物、抽出画分、単離および精製された個々の化合物、プールされた抽出画分、または合成的に調製された化合物など、カカオ材料とは無関係に加えられてもよい。抽出および精製に関しては、ここに参照することによりそれぞれ本明細書に援用される、Romanczykらの米国特許第5,554,645号および同第6,670,390号の各明細書、およびHammerstoneらの米国特許第6,627,232号明細書に記載されるように行なうことができる。
【0056】
カカオ・フラバノールおよび/またはプロシアニジンは、これらの化合物を含むカカオ材料により、あるいは、チョコレートを含むことにより、本発明の組成物中に提供されて差し支えなく、チョコレートとしては、ミルク、スウィート、およびセミスウィートであって構わないが、ダーク・チョコレートおよび低脂肪チョコレートであることが好ましい。伝統的なカカオ処理工程を使用してカカオ材料を調製してもよいが、Kealeyらの米国特許第6,015,913号明細書に記載される方法を用いて調製されることが好ましい。あるいは、カカオポリフェノールの濃度を高めるため、275以下の発酵因子を有するカカオ豆から調製されたチョコレート・リカーおよびカカオ固形物を使用してもよい。これらの材料は、伝統的なカカオ処理方法(例えば、豆をローストし、十分に発酵させる)を使用して得られるよりも高い、カカオポリフェノール含量を有している。上記の材料から従来法を使用するか、または、ここに参照することによりそれぞれの関連部分を本明細書に援用する、国際公開第99/45788号パンフレットとして公開された国際出願第PCT/US99/05414号およびその対応米国出願である米国特許第6,194,020号明細書に記載される、チョコレート製造の間にカカオポリフェノールを保存する、改良方法を使用して、チョコレートを調製してもよい。次の非伝統的な方法の少なくとも1つによって調製されるチョコレートを、ここでは、「保存量のカカオポリフェノールを有するチョコレート」と称する:(i)発酵が不十分であるか未発酵のカカオ豆からカカオ材料を調製する、(ii)カカオ材料製造工程の間にカカオポリフェノールを保存する、および(iii)チョコレート製造工程の間にカカオポリフェノールを保存する。このような非伝統的な方法を使用して、濃度を高めたフラバノールおよび/またはプロシアニジンを含むように設計された、他のカカオ成分含有製品(例えば、飲料、栄養補助食品などの食品)を調製してもよい。
【0057】
合成プロシアニジンもまた使用して差し支えなく、当技術分野で既知の方法、および、例えば、ここに参照することによりそれぞれの関連部分を本明細書に援用する、米国特許第6,420,572号、同第6,156,912号および同第6,864,377号の各明細書に記載されるように調製して構わない。
【0058】
本発明の化合物の1日の有効量は、食品の場合は1回量で、あるいは、医薬品または栄養補助食品の場合には単回投与量で提供されて差し支えない。例えば、菓子(例えば、チョコレート)には、少なくとも約100mg/回(serving)(例えば、150〜200、200〜400mg/回)を含めてもよい。
【0059】
本発明の化合物、および、随意的に別の認知増強/改善剤を含む栄養補助食品を、当技術分野で既知の方法を用いて調製して差し支えなく、例えば、第二リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、硝酸カルシウム、ビタミン、およびミネラルなどの栄養素を、含めて差し支えない。
【0060】
さらには、本発明の組成物(例えば、食品、栄養補助食品、医薬品)、および、本発明の化合物の存在、または高められた含有量を示す、もしくは、実行認知機能を増強させ、および/または脳血管系における血流を増加させるための組成物の使用を指南するためのラベルを含む、包装された製品などの製造品も本発明の範囲内にある。包装された製品に、組成物、および、実行認知機能を増強させ、および/または脳血管系における血流を増加させるための使用説明書を含めてもよい。ラベルおよび/または使用説明書は、本願に記載される任意の使用方法に言及するものであって差し支えない。
【0061】
本発明は、また、本明細書に記載される任意の組成物を含む製造品を製造し、製造品をもたらす組成物を包装し、本明細書に記載される任意の使用のための組成物/製造品の使用を指示、指南、または促進する、方法に関する。これらの指示、指南、または促進には、宣伝も含まれる。
【0062】
本発明について、以下の非限定的な実施例において、さらに説明する。
【実施例】
【0063】
実施例1:健康な若年層での認知課題に対するfMRI反応におけるカカオ・フラバノールの効果
方法
被験体
次に掲げる除外基準の下、18〜30歳の若い女性被験体16名が本研究に参加した:偏頭痛、脳梗塞、高血圧、糖尿病、または神経系または血管系疾患の経歴がなく、タバコ製品を利用しないこと。被験体のすべてが、正常視力及び正常色覚を有し、失読症ではなく、右利きであり、ローマ字を使用する母国語であった。被験体の1日の平均カフェイン摂取量を、食事についてのアンケートに対する回答から推定し、彼女たちのすべてがカフェイン利用の少ないクラスに分類された(<120mg/日)。すべての被験体に、アルコール及びカフェインの摂取、またはfMRIの測定のための各訪問前12時間の薬物の利用を控えるように指示した。地元の医学部の研究倫理委員会(Medical School Research Ethics Committee)は、この研究を許可し、被験体は本研究に参加する前に説明を受けた上での書面による同意を行った。
【0064】
各被験体は、別々に少なくとも14日繰り返された2つのfMRIセッションを受けた。被験体を無作為化し、二重盲検式の均衡方式で、1つのfMRIセッション前の5日間は高フラバノールのカカオ飲料(飲料中に150mgのフラバノール/プロシアニジン)を、別のfMRIセッション前の5日間は低フラバノールのカカオ飲料(飲料中に13mgのフラバノール/プロシアニジン)を摂取させた。被験体は、各スキャンセッションの前5日間の設定期間で、1日1飲料を消費し、最後の飲料をfMRIスキャンのおよそ1.5時間前に消費した。
【0065】
研究計画
番号の奇数−偶数判定課題、及び、子音−母音判断を要する文字課題の2つの課題を行なうため、被験体をあらかじめ訓練した。文字課題では、被験体は、並べられた文字が子音(G、K、M、R)または母音(A、E、O、U)のいずれであるかについて、1つの文字刺激に反応することを習得した。被験体は、母音に反応して左のボタンを、子音に反応して右のボタンを押すように訓練された。数字課題では、奇数(3、5、7、9)または偶数(2、4、6、8)のどちらかの数字に反応する訓練を、それぞれ左及び右のボタン反応を使用して、行なった。
【0066】
被験体は、ひとたび文字及び数字課題のルールに精通すると、fMRI研究において行なわれる文字−数字ペア課題の訓練を受けた。文字及び数字を含む文字−数字ペア課題は、コンピュータ画面上に一斉に表示した(fMRIスキャンでは、投影機及びスクリーンを使用した)。文字−数字ペアは、赤色または青色であった。文字−数字ペアが赤色で提示された場合、被験体は文字に注目し、訓練されたとおり、適切なボタンを押す(すなわち、母音または子音として分類するルールを適用する)ことにより反応するように指示された。文字−数字ペアが青色で提示された場合、彼らは同じように、数字(奇数−偶数の判断)に反応した。
【0067】
この研究では、「スイッチ」課題の定義は、2種類のルール間の変化であり、1つは文字(子音−母音判断)、もう1つは数字(奇数−偶数判断)である。「スイッチ」及び「非スイッチ」状態を含むパラダイムを作出するため、文字−数字ペアをブロックごとに分けた。5つの文字−数字ペアが同色のブロックはすべて「非スイッチ」ブロックである。赤色と青色の刺激を繰り返す(及びそのように課題判断を再構成する)5つの文字−数字ペアのブロックは「スイッチ」ブロックである。ブロック内の各文字−数字ペア間のギャップは3秒であり、全ブロックの所要時間は15秒であった。次に、12秒間の固定間隔 (fixation cross) を設けた(ベースラインの状態)。ブロックを交互に提示した(すなわち、「スイッチ」ブロック、「非スイッチ」ブロック、「スイッチ」ブロック、「非スイッチ」ブロックなど)。ブロック内の文字−数字ペアの提示は、スイッチの価値を高め、fMRIBOLD反応の規模も増大させる助けとなり、ブロック間の12秒の間隔の間にBOLD反応をベースラインに戻すことができる。
【0068】
fMRI研究の前に、被験体は、5ブロックの「スイッチ」及び「非スイッチ」試験を行なうことにより、課題において優秀レベル(competent level)(誤答率5%未満)になるまで訓練された。fMRI研究の間、20ブロックの「スイッチ」試験及び20ブロックの「非スイッチ」試験が本研究で行われ、結果的に研究継続時間の合計は18分であった。
【0069】
fMRIスキャン
3.0T専用スキャナ−をTEMヘッドコイル及びインサートヘッド傾斜コイル(insert head gradient coil)と共に使用した。30ミリ秒のエコー時間(TE)及び1.9kHzの傾斜スイッチング周波数を有するMBEST取得シーケンスを使用して、128×64のマトリックスサイズ、3mmの面内解像度、及び9mmのスライス厚を有するT2*−重量の冠状エコープラナー画像(EPI)を獲得した。16の連続的な冠状断面を3秒ごとに取得した(TR=3秒)。本研究の被験体のすべてについて、応答時間及び誤答率のデータを記録した。さらには、被験体の心拍数をモニタした。fMRIの研究後、64のスライスEPIのセットを得て、解剖学的局在の補助とした。
【0070】
fMRIデータ処理
SPM99(Friston KJ et al., Neuroimage 1995; 2:166-172) (英国、Wellcome Department of Imaging Neuroscience、統計的パラメトリックマッピング)を使用してfMRIデータを処理した。スキャナから得た未加工のデータを運動補正し、EPIの標準的鋳型に空間正規化された、初回のデータセットに対するすべての有効なスライスの位置ずれを補正した。8mlのFWHM(半値全幅)空間平滑化及び128s高域フィルタでのカットオフが適用された。
【0071】
パラダイムをモデル化したSPM99内に一般線形モデルのデザイン行列を作出した。「スイッチ」及び「非スイッチ」ブロックを12sボックス関数としてモデル化した。次に標準的な血流動態応答関数(canonical haemodynamic response function)及びその時間導関数を用いてパラダイムの経時変化を抽出した。「スイッチ」状態及び「非スイッチ」状態のベースラインに対する統計的パラメトリックマップ(SPM’s)を形成した。さらには、個別の活性化対ベースラインの比較(「スイッチ」対ベースライン及び「非スイッチ」対ベースライン)をマスクとして使用した、P<0.05の補正された有意水準での2つの活性化状態の直接比較(すなわち、ベースラインに対する「スイッチ」、及びベースラインに対する「非スイッチ」)も行った。
【0072】
脳血流(CBF)の測定及び分析
4人の被験体(24〜31歳)についてのこの最初の研究では、脳血流におけるフラバノールの効果の経時変化を評価した。マルチスライス軸の7mmスライス5枚にEPISTAR(Echo-Planar MR Imaging and Signal Targeting with Alternating Radiofrequency)ASL(arterial spin labeling sequence)法を使用して、脳血流(CBF)マップを得た。動脈スピンを抑制するため、拡散強調(b=5mm2/s)を適用した。ラベリングには双曲正割パルスを使用し、タグ及びコントロールスラブは反転時間(TI)1400ミリ秒で幅9cmであった。タグとコントロールイメージの間の繰り返し時間3秒、でEPISTARシーケンスを実行し、60タグ及びコントロールペアの合計を得た。各被験体は、高フラバノールカカオ飲料(450mgフラバノール)または低フラバノールカカオ飲料の摂取前及び摂取して2、4、及び6時間後に、2回別々に、CBF画像化を受けた。この研究では、fMRIの研究とは対照的に、単回用量の飲料を1回のみ消費した。各CBF測定の後、脳組織の型及び灰白質領域の区分けのためのT1マップを得た(CBVは通例、血液量を調べるのに用いられる)。
【0073】
脳血流データを、T1マップから得たマスクを用いて、最初に大脳の灰白質と白質の領域に分けた。次に、灰白質CBFマップをさらに主要血管から栄養を供給されている領域で分けた(参照することにより本明細書に援用される、Yen Y-F et al., Magn Reson Med 2001: 47:921-928を参照)。次いで、平均脳血流の値を、白質および灰白質領域について算出した。灰白質全体の潅流値をここに示す。
【0074】
結果
スイッチパラダイムの課題についての行動結果
応答時間における健全なスイッチコストが観察された。被験体の各々は、文字および数字課題の両方で、数値的に「非スイッチ」状態よりも「スイッチ」状態のほうが遅く、1つの課題ルールからもう一方への持続的な切替え(constant switching)が難しいことを証明した。「スイッチ」及び「非スイッチ」ブロック群の平均応答時間を図1に示す。スイッチコストの有意性は、「低フラバノール」ではp=5×10-6、「高フラバノール」ではp=1×10-6であった。2種類の飲料のスイッチコストには顕著な差異はなかった(p=0.30)。平均スイッチコストは224±25ミリ秒であった。fMRIの研究での40ブロックに及ぶ「スイッチ」及び「非スイッチ」試験の間、被験体が学習効果によって疲労または上達のいずれかになることから、彼らは間違いが多くなるか、少なくなるであろう可能性についても調査した。応答時間の分析は、fMRIセッションの経過中に、有意な疲労/学習効果は生じなかったことを示した(p=0.74)。飲む順番もまた無作為化し、第1と第2のスキャンセッション間の応答時間の比較を行い、これもまた、有意差がないことを示した(p=0.73)。
【0075】
パラダイムを切り替える課題における心拍の結果
低及び高フラバノールカカオ飲料における「スイッチ」及び「非スイッチ」状態についての平均心拍数を表1に示すように測定した。対応のあるt−検定を行い、「スイッチ」及び「非スイッチ」状態の間の心拍数の差異を決定した。両方の飲料において、「スイッチ」状態では「非スイッチ」状態と比較して心拍数が顕著に増加した(「低フラバノール」:「スイッチ」>「非スイッチ」p=0.01;「高フラバノール」:「スイッチ」>「非スイッチ」p=0.0009)。低及び高フラバノール飲料間には顕著な差異は見られなかった。
【0076】
表1:低及び高フラバノール飲料についての「スイッチ」及び「非スイッチ」状態に応答する際の平均心拍数(±SEM)(拍数/分)
【表1】
【0077】
パラダイムを切り替える課題についてのfMRIの結果
図2aは、p<0.05の修正可能性でのスイッチ課題対ベースライン状態の集団統計的パラメトリックマップを示している。ベースライン状態と比較して、「スイッチ」及び「非スイッチ」では、前頭前野内側部及び外側部(前頭前野背外側部(DLPFC)を含む)、頭頂葉皮質、前帯状皮質(ACC)、及び小脳において活性化を示した。「非スイッチ」は図2aに示していないが、ベースライン状態と比較した「非スイッチ」では、ベースライン状態と比較した「スイッチ」のものと同様の領域を示した。
【0078】
上記概略した脳領域がスイッチ課題と関連があることは、以前から示されている(Lewis PA et al., Curr Opin Neurobiol 2003; 13:250-255; Sohn MH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2000; 97:13448-53; Swainson R et al., J Cogn Neurosci 2003; 15:785-99)。さらには、スイッチ課題に加えて、多くの認知神経イメージングの研究が同様のパターンの活性化を示している。これらには、作業記憶(Cabeza et al., Neuroimage 2002: 16:317-330; Postle B et al., Proc Natl Acad Sci USA 1999; 96:12959-12964)、記憶検索(Thompson-Schill SL et al., Proc Natl Acad Sci USA 1997: 94:14792-14797; Wagner AD et al., Neuroimage 2000; 14:1337-1347)、及び算数問題解決課題(Anderson JR et al., Psychonom Bull Rev 2003; 10:241-261; Dehaenae S et al., Science 1999; 284:970-974)が挙げられる。 これらの課題のすべてが、これら2つの領域が高次認知における相補的役割を果たすことを示唆する、前頭葉−頭頂の強力な相互接続を実証している(Petrides M et al., J Comp Neurol 1984; 228:105-116; Schwartz ML et al., J Comp Neurol 1984; 226:403-420)。
【0079】
図2bは、「非スイッチ」課題と比較して、「スイッチ」課題の間は、BOLD反応が有意な向上を示す活性化領域の集団統計マップを示している。この比較から、「スイッチ」状態に対して優先的に活性化されたそれらの脳領域が、前頭前野背外側部及び頭頂葉皮質、さらには前帯状皮質及び小脳において、右半球に大きく局在化していることが判明した。
【0080】
図2aは、休止時のベースラインと比較した「スイッチ」状態の領域を示している。これらは、スイッチ課題の実行に関連する脳のすべての部位であり、したがってそれらには、ボタンを押す操作に対する運動反応など、本課題の異なる態様に関連する領域が含まれうるため、スイッチ課題だけに限定されない。
【0081】
図2a及びbを参照すると、図2bは、「非スイッチ」状態と比べて「スイッチ」状態の領域の方が大きいことを示している。したがって、これは、(休止時のベースラインに対する「スイッチ」状態)−(休止時のベースラインに対する「非スイッチ」状態)として考えることができる。これは、ボタンを押す操作に対する運動反応などの重要ではない課題の態様が「スイッチ」及び「非スイッチ」の両状態に存在するため、「非スイッチ」から「スイッチ」を差し引くことにより、ボタンを押す運動反応に関連する脳領域が排除されることから、重要な条件である。「スイッチ」−「非スイッチ」状態では、純粋に、スイッチ課題にのみ関連する領域だけが示される。スイッチ課題では、前帯状皮質(ACC)は、課題設定における不一致を検出し(Gehring WJ and Knight RT, Nat Neurosci 2000; 3:516-20)、右前頭葉皮質は無関係の(直前の)反応の抑制に関する働きをし(Aron et al., Trends Cogn Sci 2004:8:170-7)、作業記憶に新規に取り込まれた情報の活性化の維持に関する働きをする(Goldman-Rakic PS, Annu Rev Neurosci 1988; 11:137-156)と考えられる。右後頭頂葉は、空間的または視覚的注意に関与することが示されており(Rushworth MFS et al., J Neurosci 2001; 21: 5262-5271)、一方、小脳は、主にスイッチ課題におけるタイミングの不規則性で活性化されると考えられ、内部のタイミングシステムとしての役割と一致している(Ivry RB, Curr Opin Neurobiol 1996;6:851-7)。
【0082】
「低フラバノール」及び「高フラバノール」状態の間のBOLD信号の変化の統計比較では、「高フラバノール」が、ベースライン状態に対する活性化(「スイッチ」及び「非スイッチ」)、ならびに、ベースラインに対する「スイッチ」をベースラインに対する「非スイッチ」と比較した場合の両方において、有意に大きいBOLD信号変化を生じた。表2は、「低」及び「高」フラバノール飲料を摂取後の、対象とする選択された領域についての、ベースラインと比較した「スイッチ」BOLD応答の信号変化の平均%を示している。
【0083】
表2:低及び高フラバノール飲料の反復投与の摂取後の「スイッチ」状態のベースラインと比較したBOLD反応の信号変化の平均%(±SEM)。高フラバノール飲料ではBOLD反応における著しい増加を示した。
【表2】
【0084】
脳血流(CBF)の経時変化の結果
図3は、低及び高フラバノール飲料の摂取後の灰白質での平均脳血流反応の経時変化を示している。高フラバノール飲料に反応して、摂取後およそ2時間で生じた脳血流反応におけるピークを伴って、脳血流が上昇し、およそ6時間後、CBFはベースラインに戻った。この研究では、fMRI研究では繰り返し用量が与えられたのとは対照的に、急性用量のフラバノールが与えられたことに注目されたい。
【0085】
ASL法の研究は、脳の血管拡張及びCBFの増加を引き起こす、高炭酸ガス血症の影響の測定を目的として、以前に行なわれている。このような研究は、PaCO2の瞬間的な上昇につながる呼気の息止めに応じて、CBFが30%〜87%上昇することを示している(Li TQ et al., Neuroimage 1999; 10:562-9; Li TQ et al., Neuroimage 1999; 9:243-9; Kastrup A et al., AJNR Am J Neuroradiol 1999; 20:1233-8)。血管拡張性の刺激としての5%CO2の吸入の直接的影響は、およそ87%の全体的なCBFの上昇を示している(Kastrup A et al., Magn Reson Imaging 2001; 19:13-20)。高フラバノール飲料摂取後2時間における本明細書に示す60%のCBFの変化は、これらの効果と同程度である。
【0086】
実施例2:カカオポリフェノールの行動的影響の評価
方法
研究設計
本研究は、二重盲式のプラセボを比較対照とした、均衡の取れたクロスオーバー法に従い、カカオ飲料中の複数回用量のポリフェノールの認知に関する効果を試験した。参加者(N=30;男性13名、女性17名、平均年齢21.93歳、SEM0.61、年齢範囲18〜35歳)は、特有の、関連性のある健康状態及び食事要因を危険にさらす可能性について、審査を受けた、健康な若年成人であった。研究参加者は5回にわたり研究所を訪れた。最初の訪問は、被験体が手順に習熟するための練習日であり、この訪問は、すべての能力得点が、バッテリーにとって、標準の範囲内にあることを保証する助けにもなった。次の訪問は、状態間の十分なウォッシュ・アウト期間を確保するため、少なくとも3日間は離して行なう、4日間で構成され、被験体は、無作為に、ラテン方格法のセルに割り当てられ、治療順序が指示された。
【0087】
参加者は、最初の試験セッションの最低でも12時間前、及び、その朝から最後の試験セッションが完了するまでの間を通して、カフェイン及びアルコールを控えた。日記を提供し、参加者に、各研究日の最初の試験セッション前24時間の、すべての食事及び飲料の消費を記録させた。参加者には、各研究日の24時間前からフラボノイド含量の高い食事及び飲料を避けるように勧告した。
【0088】
治療
参加者には、別々の機会に、1)36.4mgのカカオポリフェノール(対照)、2)469.3mgのカカオポリフェノール(中程度のCP)、3)902.2mgのポリフェノール(高CP)を含む3種類の飲料が与えられた。いずれの場合も、治療は、2つの小袋入りの粉末を200mlの熱水に混合して構成した。33%カカオ粉末と同様に、飲料にもまた、次のものが含まれていた:脱脂粉乳(59.0%);繊維(5.6%);乳化剤(0.8%);セルロースゲル(0.55%);キサンタン・ガム(0.55%);人工及び天然バニラ(0.1%);及びスクラロース(0.1%)。飲料の消費に5分間の余地が与えられた。
【0089】
各治療用または対照用の小袋の組成は次の通りであった:
【表3】
【表4】
【表5】
【0090】
微量/主要栄養素及びアルカロイドを制御するため、毎回、2つの小包が供給された;高CP飲料用に、高CP製品の2つのパケットが与えられた;中程度のCPには、高CP製品を1パケット、対照製品を1パケット与えられた;対照CPには、対象製品2パケットが与えられた。
【0091】
評価
認知要求バッテリー
この研究では、我々は、「認知要求バッテリー」(CDB)に着手した。参加者には、(i)36.4mgのカカオポリフェノール(対照)、(ii)469.3mgのカカオポリフェノール(中程度のCP)、(iii)902.2mgのポリフェノール(高CP)を含む3種類の飲料が与えられた。研究日には、シリアル・スリーズ(Serial Threes)(2分)、シリアル・セブンズ(Serial Sevens)(2分)、短時間視覚情報処理課題(Rapid Visual Information Processing Task)(RVIP、5分)、及び、精神的要求視覚アナログ尺度(mental demand visual analogue scale)(1分)からなるCDBが含まれた。研究所に現れる際には、カフェイン濃度の分析用に唾液試料を採取した。各研究日に、参加者は各課題を1回体験し、訓練の影響を緩和した。その後、ベースラインセッションを行い、その直後に、5分間認められている、その日の治療を行なった。飲料の消費の終了は、T=0を意味した。吸収に90分間が認められ、その後、参加者は即時セッションにおいてCDBを6回行った後、カフェイン濃度を決定するための2回目の唾液試料を採取した。これらの課題(CDBにおける)の目的は、継続的な認知要求における治療の影響を評価することである。参加者はおよそ1時間の間、繰り返しこのような試験を3回行なうため、セッションにおける全体的な認知に関する負担(load)が増加した。
【0092】
連続引き算
これらの課題は、所定の介入と「精神的な要求」の間の相互作用を評価する。
【0093】
シリアル・セブンズ試験の修正されたコンピュータ化バージョンを使用した(Haskell, C. F. et al., Psychopharmocology, 2005, 179:813-825)。オリジナルの口頭でのシリアル・セブンズ試験には、痴呆用のミニメンタルステート検査 (Mini-Mental State Examination)の一部を含め、多くの形態があるようである。低血糖症の間の認識機能障害の評価に用いられており、また、血中グルコース濃度の上昇と認知能力(cognitive performance)の関係の調査にも用いられている(Kennedy D. O. and Scholey, A. B., Psychopharmacology, 2000, 149:63-71; Scholey, A, B, et al., Physiology & Behavior, 2001, 73:585-592)。
【0094】
現在の研究では、2分間の試験を使用した、連続引き算のコンピュータ化バージョンが行なわれた。シリアル・セブンズの課題では、標準指示画面が参加者に情報を与え、できるだけ早く正確に、与えられた数から7つ逆算し、テンキーボードを使用して各応答を入力する。参加者はまた、間違った場合には、その新しい不正確な数字からの引き算を続けるべきであることを口頭で指示された。800〜999の無作為の開始番号がコンピュータ画面上に現れ、それは最初の応答の入力によって消えた。各3つの数字の応答を、星印で画面上に表されている各数字と共にテンキーボードで入力した。入力キーを押すと各応答の終了が示され、画面上から3つの星印が消去された。課題は、引き算の累計と誤答の数について記録された。応答が誤りの場合は、その後の応答はその新しい数字に関して正しい場合には肯定として記録された。
【0095】
シリアル・スリーズの課題は、引き算の連続回数が3回である点を除けば、シリアル・セブンズとまったく同じである。
【0096】
短時間視覚情報処理課題(Rapid Visual Information Processing Task)
この課題は、向精神薬の診療における認知の影響の研究に幅広く使用されている。参加者は3連続の奇数または3連続の偶数を目的として、連続した数字をモニタした。数字は1分間に100の速度で表され、参加者は、できるだけ素早く応答キーを押すことにより、目的とする文字列の検出に応答した。課題は連続して5分間続き、毎分、8つの正しい目的の文字列が含まれていた。課題は、目的の文字列を正しく検出した%、正しい検出の平均反応時間、及び誤検出警報(false alarm)の数について記録された。
【0097】
主観的尺度(精神的要求視覚アナログ尺度)
課題の各セットの終わりに、参加者は、端に「全然」及び「非常に」と表示された100mmの線上に印をつけることにより、いかに精神的に疲労したと彼らが感じたかについて示すように求められた。
【0098】
結果
結果を図4(a〜d)に示す。結果は、認知遂行/能力の特定の態様におけるフラバノール/プロシアニジンで補完されたカカオ飲料の有益な効果を示している。
【0099】
実施例3:精神的要求性の低い課題におけるカカオポリフェノールの行動についての急性効果
方法
この研究により、精神的要求性の高い状況とは無関係のカカオポリフェノールの効果を調査し、カカオポリフェノールの効果が、単に精神的要求性の高い状況に限定されるか否かについて評価した。
【0100】
研究に参加する前に、ボランティアはインフォームドコンセント用紙に署名し、医療保険に関する質問書に記入した。すべての参加者は良好な健康状態であり、経口避妊薬を除いて、社会的薬物及び薬物治療がないことを報告した。常習的喫煙者は本研究から除外した。
【0101】
30名の参加者を本研究にスカウトし、目的が、活性成分(その1つはカフェインであって差し支えない)を含むカカオ飲料の認知及び心的状態への影響の調査であることを報告した。参加者は、最初の試験セッションの最低12時間前及び朝から最後の試験セッションが完了するまで、カフェイン及びアルコールを控えた。日記が提供され、参加者は、各研究日の最初の試験セッション前24時間及び/または研究訪問の間ずっと、すべての食事及び飲料消費を記録した。参加者には、各研究日の24時間前からフラボノイド含量の高い食事及び飲料を避けるように勧告した。このフラボノイドの食事を制限する要求は、モニタすべき血漿フラバノール濃度を急激に変化させた。
【0102】
唾液のカフェイン濃度
salivetteを使用して唾液試料を得た。試料は、一晩の節制が順守されたことを確認するため、ベースライン評価の直後に、及び、条件全体にわたる均一なカフェインの吸収を確認するため、各治療後評価セッションの直後に、採取された。唾液試料は、Emitシステム(Syva社製(米国、パロアルト所在))を使用して社内バッチ分析用に解凍するまで、すぐに−20℃で冷凍した。これは、代謝産物としてのカフェインを測定することを意図した酵素免疫測定法であり、カフェインと酵素標識薬との抗体結合部位に対する競争に基づいている。
【0103】
血漿フラバノール濃度
ベースライン評価直後及び治療セッション後90分後、フラバノール濃度を決定するため、2mlの静脈血試料を採取した。これらの血液試料は、EDTAを含むmonovetteを使用して、静脈穿刺により採取した。次に試料を5℃で10分間、3000rpmで遠心分離するまで氷上に保持した。ギルソンピペットを使用して、得られた血漿から1485μlをアンバーチューブ(amber tube)に測り入れた。アスコルビン酸の新鮮な溶液(570mM/100.4mg/ml)を調製し、氷上で光から離して保持した。次に、この溶液15μlを1485μlの血漿に加え、混合し、−70℃で保管した。残念ながら、技術的困難に起因して、これらの試料の分析はできなかった。
【0104】
評価
認知薬物研究(CDR)バッテリー
CDRシステムは、欧州及び北米での500回をはるかに上回る治験に使用され、幅広い物質を使用した機能障害のみならず、認知の改善に感受性であることが示されている。
【0105】
多くの栄養補助食品の摂取の結果として認知機能の改善に感受性であることが以前より判明しているものと同様の、仮編成済みのバッテリーを使用した。システムからのコンピュータ制御された課題の選択は、各試験セッションで存在している試験の平行形式で管理された。提示は、ラップトップ型コンピュータ上のカラーモニタを解して行なわれ、書き言葉の想起試験を除くすべての応答は2ボタン式(はい/いいえ)の応答ボックスを解して記録された。
【0106】
試験の全体的選択は、およそ20分間行なわれ、次の手順で管理された。
【0107】
単語の提示:頻度及び具体性を適合させた、15単語を参加者のモニタに順々に表し、記憶させた。刺激持続時間は1秒、刺激間間隔も同じ。
【0108】
単語の即時想起:参加者は、60秒間、できるだけ多くの単語を記載した。課題は正答と誤答の数を記録した。
【0109】
画像の提示:参加者に、20枚の記憶用の画像を、3秒毎に1枚の速さで、刺激持続時間1秒でモニタに順次提示した。
【0110】
単純反応時間:参加者は、「はい」の単語がモニタに提示されるたびに、できるだけ早く「はい」の応答ボタンを押すように指示された。無作為に1〜3.5秒に変化する刺激持続時間で、50回の刺激が提示された。応答時間をミリ秒で記録した。
【0111】
数字注意(Digit Vigilance)課題:目的の数字を無作為に選択し、モニタ画面の右側にコンスタントに表示した。一連の数字が1分間に80の速さで画面中央に表示され、参加者は、一連の数字が目的の数字と一致するたびに、できるだけ早く「はい」のボタンを押すことが求められた。課題は3分間継続し、刺激−目的の適合が45回あった。課題の測定は、正確さ(%)、応答時時間(ミリ秒)及び誤検出警報の数であった。
【0112】
選択反応時間:「いいえ」または「はい」のいずれかの単語がモニタ上に表示され、参加者は、できるだけ早く関連するボタンを押すことを必要とした。試験は50回あり、刺激語は、1〜3.5秒の不規則に変化する刺激間間隔で、等しい確率で無作為に選択された。応答時間(ミリ秒)及び正確さ(%)を記録した。
【0113】
空間作業記憶:9つの窓のうちの4つに明かりのついた、家の図的表示をスクリーン上に提示した。参加者は明かりのついている窓の位置を覚えるように指示された。その後の36の家の提示では、窓のうちの1つに明かりがつき、参加者はこれがオリジナルの提示における明かりのついた窓の1つと一致するか否かを決定した。参加者は「はい」または「いいえ」の応答ボタンをできるだけ早く押すことによって応答を行った。平均応答時間をミリ秒で測定し、オリジナルおよび新規の(不正解の選択肢)刺激の両方に対する応答の正確さを%で記録した。
【0114】
数字作業記憶:参加者が記憶しておくため、5つの数字を順次提示した。その次に、一連の30の試験用の数字について、参加者がその各々をオリジナルの組に存在したか否かを判断し、「はい」または「いいえ」の応答ボタンをできるだけ早く、それぞれに見合うように押した。これを別の刺激及び試験用数字を用いてさらに2回繰り返した。平均応答時間をミリ秒で測定し、オリジナルおよび新規の(不正解の選択肢)刺激の両方に対する応答の正確さを%として記録した。
【0115】
遅延型単語想起(Delayed Word Recall):参加者は60秒間与えられ、できるだけ多くの単語を記載した。課題は正答数及び誤答数として記録した。
【0116】
遅延型単語認識(Delayed Word Recognition):オリジナルの単語に15の不正解の単語を加え、無作為の順序で1回に1語ずつ提示した。各単語について、参加者は、「はい」または「いいえ」ボタンを、それぞれに見合うようにできるだけ早く押すことにより、単語のオリジナルのリストに含まれていると認識したか否かを示した。平均応答時間をミリ秒で測定し、オリジナルおよび新規の(不正解の選択肢)刺激の両方に対する応答の正確さを%として記録した。
【0117】
遅延型画像認識:オリジナルの画像に20の不正解の画像を加え、無作為の順序で1回に1つずつ提示した。各画像について、参加者は、「はい」または「いいえ」ボタンを、それぞれに見合うようにできるだけ早く押すことにより、オリジナルの組に由来すると認識したか否かを示した。平均応答時間をミリ秒で測定し、オリジナルおよび新規の(不正解の選択肢)刺激物の両方に対する応答の正確さを%として記録した。
【0118】
以下の表は、各課題の評価の情報処理のステージを示している。
【表6】
【表7】
【表8】
【0119】
Bond-Lader視覚アナログ尺度 (Bond A., and Lader M., 1974, The use of analogue scales in rating subjective feelings, British Journal of Psychology, 47:211-218)
この測定は、反意語によって支えられる終点を有する16の視覚アナログ尺度で構成された:敏捷な−緩慢な、穏やかな−興奮した、力強い−弱々しい、混乱した−頭の冴えた、よく調和した−不器用な、不活発な−精力的な、満足した−不満な、不安な−平静な、精神的に鈍い−機転の利く、緊張した−寛いだ、注意深い−夢のような、無能な−堪能な、幸せな−悲しい、敵対した−友好的な、関心のある−退屈した、内向的な−社交的な。これらを組み合わせて3つの「気分」要素:「用心深さ」、「落ち着き」及び「満足」を形成した。
【0120】
精神動態の注意(Psychomoter Vigilance)課題(Dinges D. F., and Powell J. W., 1985, Microcomputer analyses of performance on a portable, simple visual RT task during sustained operations. Behavior Research, Methods, Instruments and Computers, 17:652:655)
精神動態の注意課題(PVT)は、持続した注意力を評価するのに用いられる、単純な持ち運び可能な応答時間課題である。被験体は刺激が現れたらすぐに利き手の親指でボタンを押すように指示された(LED−デジタル・カウンタ)。本研究では、単一PVT試験の継続時間は10分で構成された。眠気も、10段階評価を用いて、応答時間課題の前後に、この装置で評価した。
【0121】
治療
参加者には、別々の機会に、1)36.4mgのカカオポリフェノール(対照)、2)469.3mgのカカオポリフェノール(中程度のCP)、3)902.2mgのポリフェノール(高CP)を含む3種類の飲料が与えられた。いずれの場合も、治療は、2つの小袋入りの粉末を200mlの熱水に混合して構成した。対照の治療は対照CPの2つの小袋で構成され、469.3mg用量は対照小袋1つと高CP小袋1つで構成され、902.2mg用量は2つの高CP小袋で構成された。2種類の小袋の栄養組成は実施例2の表3〜5に示されている。飲料の消費に5分間与えられた。
【0122】
各参加者は、状態間の十分なウォッシュ・アウトを確保するため、少なくとも3日間は離して行なわれた、合計4日間の研究日に参加することが必要とされた。試験は、参加者が互いに視覚的に隔離された、一続きの研究所で行なわれた。初日の最初のセッションに到着次第、参加者は、無作為に、研究の3日間の活動日に亘って治療順序の釣り合いを取った、ラテン方格法を使用した治療計画に割り当てられた。初日には、4回の試験バッテリーの完了が含まれた。これは、訓練の影響を考慮して調製し、試験バッテリー及びその後の訪問時の手順を熟知させるために、行なわれた。
【0123】
参加者は、最初の試験セッションの最低でも12時間前、及び、その朝から最後の試験セッションが完了するまでの間を通して、カフェイン及びアルコールを控えた。日記を提供し、参加者に、各研究日の最初の試験セッション前24時間の、すべての食事及び飲料の消費を記録させた。参加者には、各研究日の24時間前からフラボノイド含量の高い食事及び飲料を避けるように勧告した。訓練日のデータは分析に含めなかった。
【0124】
3日間の各活動日には、4つの同一の試験セッションが含まれた。最初は、投与前試験セッションであり、これはその日のベースライン能力を確立した。その後、すぐにその日の治療のものを摂取した。さらなる試験セッションを、その日の治療物の消費から90分、3時間、及び6時間後に開始した。各試験セッションはおよそ30分間継続し、CDR試験バッテリーの完了、Bond-Lader視覚アナログ気分尺度、10分のPVT、及びsalivetteを使用した唾液試料の採取を含んだ。加えて、投与前セッション及び投与90分後セッションには、CDRバッテリーの完了前に2mlの静脈血漿試料の採血も含まれた。
【0125】
唾液のカフェイン濃度を分析し、カフェインの自制の順守を検査した。
【0126】
最初の統計分析の前に、投与前ベースラインデータの個別の一元配置反復測定ANOVA(one-way repeated measures ANOVAS)を行い、治療前の能力によるベースラインの差異の可能性を確定した。
【0127】
個別の課題の結果における得点を、SPSS12.0.1を使用して、「ベースラインからの変化」として分析した。
【0128】
各測定データを、二元配置反復測定ANOVA(two-way repeated measures ANOVA)[時間(投与から1.5時間、3時間、及び6時間後)×治療(469.3mgCP/902.2mgCP/対照)]によって分析した。
【0129】
結果
各状態における各測定について、投与前の平均ベースライン、及びベースラインの得点からの変化を、F値及び治療効果の可能性(蓋然性)とともに決定した。
【0130】
ベースラインデータからの変化を分析する前に、各結果判定法での3条件すべて(対照、469.3mgCP、902.2mgCP)についての、投与前のベースラインの未処理の平均得点は、一元配置反復測定ANOVAに従った。測定によるベースラインの有意差はなかった。
【0131】
唾液の分析は、0.79μg/mlの平均ベースラインカフェイン値を有し、カフェイン自制の指示が順守されたことを立証した(1μg/mlよりも少し下回る濃度は、一晩のカフェインの自制として報告されている。Evans and Griffith, 1999, Caffeine withdrawal: a parametric analysis of caffeine dosing conditions. The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 289:285-294参照のこと)。治療後の唾液のカフェイン濃度の分析は、治療条件による有意差がないことを示した。
治療後の得点
いずれの測定においても治療後に有意差はなかった。
【0132】
CDR評価バッテリーを構成する課題は、測定する能力は多項目に及ぶが、多くの努力を要しない、単純な課題である。この研究結果は、精神的要求性の低い課題の遂行には、本発明の化合物の効果がないことを示した。
図1
図2A
図2B
図3
図4