(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751780
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】既設コンクリート構造体のせん断補強方法及びコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
E03F 3/04 20060101AFI20150702BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20150702BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
E03F3/04 Z
E04G23/02 D
E01D22/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-210589(P2010-210589)
(22)【出願日】2010年9月21日
(65)【公開番号】特開2012-67444(P2012-67444A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】500072862
【氏名又は名称】清宮 理
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】清宮 理
(72)【発明者】
【氏名】西垣 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西内 美宣
(72)【発明者】
【氏名】大越 靖広
(72)【発明者】
【氏名】松鵜 元
(72)【発明者】
【氏名】濱田 真
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−133150(JP,A)
【文献】
特開平10−018608(JP,A)
【文献】
特許第4157510(JP,B2)
【文献】
特開2003−003556(JP,A)
【文献】
特開2002−213193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
E03F 3/04
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造体に当該既設コンクリート構造体の部材軸方向の一端面から部材軸方向に連続して延長する孔を形成して当該孔内に前記既設コンクリート構造体を構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きいコンクリートを打設したことにより、コンクリート構造体のせん断強度Vu=Vc+Vp+VsのうちのVcを上げたことを特徴とする既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
但し、
Vc;せん断補強材がないせん断強度(コンクリート部分によるせん断強度)、
Vp;プレストレスによって上昇するせん断強度、
Vs;せん断補強材が負担するせん断強度。
【請求項2】
前記既設コンクリート構造体は鉄筋コンクリート構造体であり、前記孔は鉄筋コンクリート構造体内の鉄筋を避けて形成されたことを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造体のせん断補強方法。
【請求項3】
既設コンクリート構造体の部材軸方向の一端面から部材軸方向に連続して延長するように形成された孔内に前記既設コンクリート構造体を構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きいコンクリートが打設されて形成されたことにより、コンクリート構造体のせん断強度Vu=Vc+Vp+VsのうちのVcを上げたことを特徴とするコンクリート構造体。
但し、
Vc;せん断補強材がないせん断強度(コンクリート部分によるせん断強度)、
Vp;プレストレスによって上昇するせん断強度、
Vs;せん断補強材が負担するせん断強度。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断耐力を向上させることが可能な既設コンクリート構造体のせん断補強方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設コンクリート構造体の一方の面より穿孔された有底孔内に設置されるせん断補強材と既設コンクリート構造体とを充填材で一体化させることにより既設コンクリート構造体のせん断補強を行うことが知られている(例えば特許文献1参照)。
コンクリート構造体のせん断強度Vuの算定式は、Vu=Vc+Vp+Vsで表される。ここで、Vc;せん断補強材がないせん断強度(コンクリート部分によるせん断強度)、Vp;プレストレスによって上昇するせん断強度、Vs;せん断補強材が負担するせん断強度である。
つまり、従来は、コンクリート構造体にせん断補強材を用いたりプレストレスを導入してVsやVpを上げることにより、コンクリート構造体のせん断強度(せん断耐力)を上げるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4157510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、上述したVsやVpを上げることを目的としてせん断補強材を用いたりプレストレスを導入することによってせん断補強を行っており、上述したVcを上げることを目的としたせん断補強は行われていない。
本発明は、上述したVcを上げることによりせん断補強を行うようにした既設コンクリート構造体のせん断補強方法などを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既設コンクリート構造体のせん断補強方法によれば、既設コンクリート構造体に当該既設コンクリート構造体の
部材軸方向の一端面から部材軸方向に連続して延長する孔を形成して当該孔内に前記既設コンクリート構造体を構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きいコンクリートを打設した
ことにより、コンクリート構造体のせん断強度Vu=Vc+Vp+VsのうちのVcを上げたので、せん断補強材を用いたりプレストレスを導入することなく、コンクリート構造体のせん断強度Vuの算定式におけるVcを上げたコンクリート構造体を得ることができ、既設コンクリート構造体のせん断耐力を上げることができる
。また、既設コンクリート構造体が鉄筋コンクリート構造体である場合、鉄筋を避けた孔形成作業を容易に行えるようになる。
但し、
Vc;せん断補強材がないせん断強度(コンクリート部分によるせん断強度)、
Vp;プレストレスによって上昇するせん断強度、
Vs;せん断補強材が負担するせん断強度である。
前記既設コンクリート構造体は鉄筋コンクリート構造体であり、前記孔は鉄筋コンクリート構造体内の鉄筋を避けて形成されたので、鉄筋の機能を損なわずに鉄筋コンクリート構造体のせん断強度を上げることができる。
本発明に係るコンクリート構造体によれば、既設コンクリート構造体の
部材軸方向の一端面から部材軸方向に連続して延長するように形成された孔内に前記既設コンクリート構造体を構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きいコンクリートが打設されて形成された
ことにより、コンクリート構造体のせん断強度Vu=Vc+Vp+VsのうちのVcを上げたので、せん断補強材を用いたりプレストレスを導入することなく、コンクリート構造体のせん断強度Vuの算定式におけるVcを上げたコンクリート構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】既設コンクリート構造体のせん断補強方法を示す図(実施形態1)。
【
図2】(a)はコンクリート構造体の部材軸方向に沿った断面図、(b)はコンクリート構造体の部材軸方向と直交する方向に沿った断面図(実施形態1)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、実施形態1による既設コンクリート構造体のせん断補強方法は、例えば、ボックスカルバート、擁壁、橋脚、橋台等の既設コンクリート構造体1A(
図1(a)参照)に当該既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xの一端面2から部材軸方向Xに沿って連続して延長するように既設コンクリート構造体1Aの内部に孔3を形成して有底孔を有した既設コンクリート構造体1Bを形成し(
図1(b)参照)、当該既設コンクリート構造体1Bの部材軸方向Xの一端面2側から当該孔3内に前記既設コンクリート構造体1Aを構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きい高強度コンクリート4を打設し(
図1(b)参照)、当該高強度コンクリート4を固化させて当該高強度コンクリート4と既設コンクリート構造体1Bとを一体化させたコンクリート構造体1を形成する(
図1(c)参照)。
つまり、既設コンクリート構造体1Aのコンクリートの一部が高強度コンクリート4に置換されたコンクリート構造体1を形成することによって、上述したせん断強度Vuの算定式のVcを上げたコンクリート構造体1を得るものである。
即ち、
図2に示すように、実施形態1によるコンクリート構造体1は、既設コンクリート構造体1A(
図1(a)参照)の部材軸方向Xの一端面2より部材軸方向Xに沿って連続して延長するように穿孔された有底の孔3を有した有底孔形成後の既設コンクリート構造体1Bと、孔3内に打設されて固化することで既設コンクリート構造体1Bと一体化された高強度コンクリート4とにより構成される。
【0008】
孔3は、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xである上下方向に沿って連続して延長するよう、例えば、既設コンクリート構造体1Aの壁部の部材軸方向Xの一端面2である上端面から下方に向けて連続して延長するように形成される。
【0009】
孔3は、図外の穿孔機や高圧水噴射機(ウォータジェット)を用いて既設コンクリート構造体1Aの壁部の上端面から壁部内の鉄筋を避けるように壁部の厚さ方向の中央部に形成される。
【0010】
孔3は、
図2(b)に示すように、既設コンクリート構造体1Aの壁部の横方向Yに沿って間欠的に複数形成された構成であっても良いし、既設コンクリート構造体1Aの壁部の横方向Yに沿って連続するように形成された構成であっても良い。
さらに、
図2(b)に示すように、孔3の断面形状(部材軸方向Xと直交するように孔を切断した場合の孔の断面形状)は、正方形、長方形、円形等、どのような形状であっても良い。
【0011】
実施形態1によれば、既設コンクリート構造体1Aのコンクリートの一部を高強度コンクリート4に置換したことにより、せん断補強材を用いたりプレストレスを導入することなく、コンクリート構造体のせん断強度Vuの算定式におけるVcを上げたコンクリート構造体1を得ることができ、既設コンクリート構造体1Aのせん断耐力を上げることができる。
【0012】
また、例えば、既設コンクリート構造体1Aがボックスカルバートの場合において、ボックスカルバートの壁部の内側面(部材軸方向Xに沿った面)に孔3を形成する場合、ボックスカルバートの内側に穿孔機やコンクリート打設機を搬入しなければならなかったり、ボックスカルバートの内側には各種の配管や電源ケーブル等が設置されているため、この配管や電源ケーブルが邪魔となったり、安全のため電源ケーブルでの電源供給を停止した上で作業を行わなくてはならなかった。また、例えば、既設コンクリート構造体1Aが擁壁の場合、道路に面した擁壁の側面(部材軸方向Xに沿った面)に孔3を形成して孔3内に高強度コンクリート4を打設する作業を、道路を遮断して行わなくてはならなかった。このように、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xに沿った面に孔3を形成する場合には、作業性などの面で難がある。一方、実施形態1によれば、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xの一端面2より部材軸方向Xに連続して延長する孔3を形成し、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xの一端面2より孔3内に高強度コンクリートを打設するので、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xに沿った面に孔3を形成するのに比べて、既設コンクリート構造体1Aのせん断補強作業を容易に行うことが可能となる。
【0013】
また、既設コンクリート構造体1Aが鉄筋コンクリート構造体である場合、鉄筋は鉄筋コンクリート構造体の部材軸方向Xに沿った面に近い側に配置されることが多い。このため、既設コンクリート構造体1Aとしての鉄筋コンクリート構造体の部材軸方向Xに沿った面に孔3を形成する場合には、既設コンクリート構造体1A内の鉄筋が存在する位置を確認してから鉄筋を避けるように孔3を形成する必要があり、鉄筋を避けた孔形成作業が難しい。一方、実施形態1によれば、既設コンクリート構造体1Aの部材軸方向Xの一端面2より部材軸方向Xに延長する孔3を形成するので、鉄筋が配置されていない鉄筋コンクリート構造体の厚さ方向の中央部分を狙って孔3を形成しやすくなり、鉄筋を避けた孔形成作業を容易に行えるようになる。
【0014】
実施形態2
実施形態1の場合において、例えばプレテンション方式にて高強度コンクリート4にプレストレスを導入することにより、コンクリート構造体のせん断強度Vu=Vc+Vp+VsのVp(プレストレスによって上昇するせん断強度)を上げることができるので、せん断補強効果をより向上できる。
【0015】
尚、高強度コンクリート4のコンクリート強度と既設コンクリート構造体1Aを構成するコンクリートのコンクリート強度との差は大きいほど良い。例えば、既設コンクリート構造体1Aを構成するコンクリートのコンクリート強度が24Nの場合、コンクリート強度が30N以上の高強度コンクリート4を用いればよい。
【0016】
既設コンクリート構造体1Aの頂版や床版の部材軸方向Xに連続して延長する孔3を形成し、当該孔3内に前記既設コンクリート構造体1Aを構成していたコンクリートよりもコンクリート強度の大きい高強度コンクリート4を打設するようにしてもよい。
【0017】
尚、部材軸方向Xとは、既設コンクリート構造体1Aの上下に延長する部位や壁部においては上下方向を言い、既設コンクリート構造体1Aの頂版や床版においては壁部と直交する方向を言う。
【0018】
既設コンクリート構造体1Aは、無筋コンクリート構造体であっても良いし、鉄筋コンクリート構造体であってもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 コンクリート構造体、1A 既設コンクリート構造体、3 孔、
4 高強度コンクリート、X 部材軸方向。