特許第5751784号(P5751784)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5751784
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/38 20060101AFI20150702BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20150702BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20150702BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   F02D41/38 BZAB
   F01N3/02 321Z
   F02D41/40 C
   F02D45/00 314Z
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-215466(P2010-215466)
(22)【出願日】2010年9月27日
(65)【公開番号】特開2012-67731(P2012-67731A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100079131
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 暁夫
(72)【発明者】
【氏名】城之内 克成
(72)【発明者】
【氏名】福田 智宏
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−299403(JP,A)
【文献】 特開2010−084686(JP,A)
【文献】 特開2005−133607(JP,A)
【文献】 特開2005−256820(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152165(WO,A1)
【文献】 特開2010−223158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/38
F01N 3/023
F02D 41/40
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンレール式エンジン(70)の排気系(77)に配置された排気ガス浄化装置(50)と、前記エンジン(70)の吸排気系(76)(77)に配置された吸気絞り装置(81)及び排気絞り装置(82)のうち少なくとも一方とを備えており、ポスト噴射(E)にて燃料を前記排気ガス浄化装置(50)内に供給する再生モードを実行可能に構成されている排気ガス浄化システムであって、
前記再生モードの実行の可否を選択操作する再生スイッチ(21)を備え、
前記排気ガス浄化装置(50)内の粒子状物質堆積量が規定量以上の場合は、再生ランプ(24)を点滅させ、
前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)を超えていれば、点滅していた再生ランプ(24)を点灯させてから前記再生モードを実行し、
前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下であれば、前記再生ランプ(24)を点滅させた状態で、前記少なくとも一方の絞り装置(81)(82)の作動、アフタ噴射(D)及び近接ポスト噴射(F)の組合せによって前記エンジン(70)からの排気ガス温度を上昇させる昇温モードを実行し、
前記昇温モードにおいて前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下の状態で前記再生スイッチ(21)を入り操作してから所定時間(Tmo)が経過すれば、前記再生ランプ(24)を点滅させたままで前記昇温モードを終了して通常運転モードに戻るように構成されている、
排気ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば建設機械、農作業機及びエンジン発電機といった作業機に搭載されるエンジンに対する排気ガス浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)に関する高次の排ガス規制が適用されるのに伴い、エンジンが搭載される建設機械、農作業機及びエンジン発電機等に、排気ガス中の大気汚染物質を浄化処理する排気ガス浄化装置を搭載することが要望されつつある。排気ガス浄化装置としては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)が知られている(特許文献1及び2参照)。DPFは、排気ガス中の粒子状物質(以下、PMという)等を捕集するためのものであり、ディーゼル酸化触媒とスートフィルタとを備えている。この場合、DPFにて捕集されたPMが規定量を超えると、DPF内の流通抵抗が増大してエンジン出力の低下をもたらすため、排気ガスの昇温によってDPFに堆積したPMを除去し、DPFのPM捕集能力を回復させる(DPFを再生させる)こともよく行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145430号公報
【特許文献2】特開2003−27922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンは例えば建設機械、農作業機並びにエンジン発電機といった多種多様な作業機に搭載される。このため、DPF付きエンジンにおいて、排気ガス温度を高めてDPF再生動作を実行したとしても、DPFの浄化能力が十分に回復しない場合(再生不十分な場合)があり得る。この点、DPF付きエンジンがコモンレール式のもの(燃料噴射装置がコモンレールタイプのもの)であれば、ポスト噴射にてDPF内に燃料を供給し燃焼させるという積極的な加熱によって、DPF再生を促進させることが可能である。
【0005】
しかし、ポスト噴射にてDPF内に燃料を供給しPMを積極的に燃焼させるという態様では、ポスト噴射の頻度が高いと(回数が嵩むと)、大幅に燃費が悪化するばかりか、エンジンの各気筒内に未燃焼の燃料が残留してエンジンオイルを希釈させ、エンジンの耐久性悪化を招来するという問題があった。特に、DPF再生の際には、ディーゼル酸化触媒を活性化させるために、ディーゼル酸化触媒を活性温度(例えば約250〜300℃)以上に温めておく必要があるものの、例えばエンジン始動時のように、排気ガス温度が低くてディーゼル酸化触媒が活性温度に達していないときは、ポスト噴射による未燃焼の燃料がそのままDPF外に白煙として排出されてしまうという問題をはらんでいた。
【0006】
そこで、本願発明は、このような現状を検討して改善を施した排気ガス浄化システムを提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、コモンレール式エンジン(70)の排気系(77)に配置された排気ガス浄化装置(50)と、前記エンジン(70)の吸排気系(76)(77)に配置された吸気絞り装置(81)及び排気絞り装置(82)のうち少なくとも一方とを備えており、ポスト噴射(E)にて燃料を前記排気ガス浄化装置(50)内に供給する再生モードを実行可能に構成されている排気ガス浄化システムであって、前記再生モードの実行の可否を選択操作する再生スイッチ(21)を備え、前記排気ガス浄化装置(50)内の粒子状物質堆積量が規定量以上の場合は、再生ランプ(24)を点滅させ、前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)を超えていれば、点滅していた再生ランプ(24)を点灯させてから前記再生モードを実行し、前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下であれば、前記再生ランプ(24)を点滅させた状態で、前記少なくとも一方の絞り装置(81)(82)の作動、アフタ噴射(D)及び近接ポスト噴射(F)の組合せによって前記エンジン(70)からの排気ガス温度を上昇させる昇温モードを実行し、前記昇温モードにおいて前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下の状態で前記再生スイッチ(21)を入り操作してから所定時間(Tmo)が経過すれば、前記再生ランプ(24)を点滅させたままで前記昇温モードを終了して通常運転モードに戻るように構成されているというものである。
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によると、コモンレール式エンジン(70)の排気系(77)に配置された排気ガス浄化装置(50)と、前記エンジン(70)の吸排気系(76)(77)に配置された吸気絞り装置(81)及び排気絞り装置(82)のうち少なくとも一方とを備えており、ポスト噴射(E)にて燃料を前記排気ガス浄化装置(50)内に供給する再生モードを実行可能に構成されている排気ガス浄化システムであって、前記再生モードの実行の可否を選択操作する再生スイッチ(21)を備え、前記排気ガス浄化装置(50)内の粒子状物質堆積量が規定量以上の場合は、再生ランプ(24)を点滅させ、前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)を超えていれば、点滅していた再生ランプ(24)を点灯させてから前記再生モードを実行し、前記再生ランプ(24)の点滅中において前記再生スイッチ(21)を入り操作し且つ前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下であれば、前記再生ランプ(24)を点滅させた状態で、前記少なくとも一方の絞り装置(81)(82)の作動、アフタ噴射(D)及び近接ポスト噴射(F)の組合せによって前記エンジン(70)からの排気ガス温度を上昇させる昇温モードを実行し、前記昇温モードにおいて前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下の状態で前記再生スイッチ(21)を入り操作してから所定時間(Tmo)が経過すれば、前記再生ランプ(24)を点滅させたままで前記昇温モードを終了して通常運転モードに戻るように構成されているから、前記昇温モードにおいて、吸排気量制限による燃料噴射量増加と、前記アフタ噴射及び前記近接ポスト噴射による気筒内燃焼とによって、前記エンジンからの排気ガス温度の上昇を図れることになる。
【0013】
このため、例えば前記エンジン始動時でも、前記再生モードを実行する前に、排気ガスひいては前記排気ガス浄化装置を素早く昇温でき、前記排気ガス浄化装置の活性化に至るまでの時間を短縮できる。従って、前記再生モードでの前記ポスト噴射開始時の白煙発生を、従前よりも確実に防止できるという効果を奏する。
しかも、前記昇温モードにおいて前記排気ガス浄化装置(50)内の排気ガス温度(Tp)が下限温度(Tpo)以下の状態で前記再生スイッチ(21)を入り操作してから所定時間(Tmo)が経過すれば、前記再生ランプ(24)を点滅させたままで前記昇温モードを終了して通常運転モードに戻るように構成されているから、前記排気ガス温度を十分に昇温できない状態で、吸排気量制限、前記アフタ噴射及び前記近接ポスト噴射を延々と実行するのを回避できる。このため、燃費悪化の抑制に効果的である。
【0014】
本願発明において、前記近接ポスト噴射を前記再生モードでのポスト噴射に対して進角させれば、前記アフタ噴射の後でも気筒内燃焼を行えることになり、前記エンジンからの排気ガス温度を十分に昇温できるという効果を奏する。
【0015】
更に、前記近接ポスト噴射においては、白煙の発生防止(排気ガス昇温)に効果が見込めるだけの燃料を噴射すれば足りるから、前記昇温モードにおける前記近接ポスト噴射での燃料噴射量を、前記再生モードにおける前記ポスト噴射での燃料噴射量よりも少なくすれば、燃費の悪化を抑制できるという効果を奏する。
【0016】
本願発明において、前記昇温モードにて前記エンジンからの排気ガス温度が所定温度以上であれば、前記再生モードに移行するように構成すると、前記ポスト噴射にて白煙発生のおそれがある排気ガス温度域では、前記再生モードを実行することがなくなる。従って、前記再生モードでの前記ポスト噴射開始時の白煙発生を確実に防止できるという効果を奏する。
【0017】
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エンジン及び排気ガス浄化装置の関係を示す機能ブロック図である。
図2】エンジンの燃料系統説明図である。
図3】燃料の噴射タイミングを説明する図である。
図4】DPF再生制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(1).エンジン及びその周辺の構造
まず、図1及び図2を参照しながら、エンジン70及びその周辺の構造を説明する。図2に示すように、エンジン70は4気筒型のディーゼルエンジンであり、上面にシリンダヘッド72が締結されたシリンダブロック75を備えている。シリンダヘッド72の一側面には吸気マニホールド73が接続されており、他側面には排気マニホールド71が接続されている。シリンダブロック75の側面のうち吸気マニホールド73の下方には、エンジン70の各気筒に燃料を供給するコモンレールシステム117が設けられている。吸気マニホールド73の吸気上流側に接続された吸気管76には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81とエアクリーナ(図示省略)とが接続される。
【0021】
図1に示すように、エンジン70における4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続されている。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続されている。コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して、4気筒分のインジェクタ115が接続されている。
【0022】
上記の構成において、燃料タンク118の燃料は燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、エンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、エンジン70の騒音振動を低減できる。
【0023】
図3に示すように、コモンレールシステム117は、上死点(TDC)を挟む付近でメイン噴射Aを実行するように構成されている。また、コモンレールシステム117は、メイン噴射A以外に、上死点より約60°以前のクランク角度θ1の時期に、NOx及び騒音の低減を目的として少量のパイロット噴射Bを実行したり、上死点直前のクランク角度θ2の時期に、騒音低減を目的としてプレ噴射Cを実行したり、上死点後のクランク角度θ3及びθ4の時期に、PMの低減や排気ガスの浄化促進を目的としてアフタ噴射D及びポスト噴射Eを実行したりするように構成されている。
【0024】
パイロット噴射Bは、メイン噴射Aに対して大きく進角した時期に噴射することによって、燃料と空気との混合を促進させるものである。プレ噴射Cは、メイン噴射Aに先立って噴射することによって、メイン噴射Aでの着火時期の遅れを短縮するものである。アフタ噴射Dは、メイン噴射Aに対してやや遅角させて噴射することによって、拡散燃焼を活性化させ、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる(PMを再燃焼させる)ものである。ポスト噴射Eは、メイン噴射Aに対して大きく遅角した時期に噴射することによって、実際の燃焼過程に寄与せずに未燃焼の燃料として後述するDPF50に供給するものである。DPF50に供給された未燃焼の燃料は、ディーゼル酸化触媒53(詳細は後述する)上で反応し、その反応熱によってDPF50内の排気ガス温度が上昇することになる。
【0025】
更に、コモンレールシステム117は、アフタ噴射Dとポスト噴射Eとの間になるクランク角度θ5の時期に、近接ポスト噴射Fを実行するように構成されている。近接ポスト噴射Fは、アフタ噴射Dに対して遅角だがポスト噴射Eに対して進角した時期に噴射することによって、実際の燃焼過程に寄与し(気筒内で燃焼し)、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させるものである。図3に示すように、実施形態では、近接ポスト噴射Fでの燃料噴射量がポスト噴射Eでの燃料噴射量よりも少なく設定されている。ここで、図3におけるグラフの山の高低は、大まかに言って、各噴射段階A〜Fでの燃料噴射量の差異を表現している。
【0026】
なお、図1に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して燃料タンク118に回収されることになる。
【0027】
排気マニホールド71の排気下流側に接続された排気管77には、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82と、排気ガス浄化装置の一例であるDPF50とが接続される。各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、排気管77、排気絞り装置82及びDPF50を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
【0028】
DPF50は、排気ガス中のPM等を捕集するためのものである。実施形態のDPF50は、耐熱金属材料製のケーシング51内にある略筒型のフィルタケース52に、例えば白金等のディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54とを直列に並べて収容したものである。フィルタケース52の排気上流側にディーゼル酸化触媒53が配置され、排気下流側にスートフィルタ54が配置される。スートフィルタ54は、排気ガスをろ過可能な多孔質隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造に構成されている。
【0029】
ケーシング51の一側部には、排気管77のうち排気絞り装置82の排気下流側に連通する排気導入口55が設けられている。前記ケーシング51の一側部と、フィルタケース52の一側部は第1側壁板56及び第2側壁板57にて塞がれている。ケーシング51の他側部は第1蓋板59及び第2蓋板60にて塞がれている。両蓋板59,60の間は、フィルタケース52内に複数の連通管62を介して連通する排気音減衰室63に構成されている。また、第2蓋板60を略筒型の排気出口管61が貫通している。排気出口管61の外周面には、排気音減衰室63に向けて開口する複数の連通穴58が形成されている。排気出口管61及び排気音減衰室63等によって消音器64を構成している。
【0030】
ケーシング51の一側部に形成された排気導入口55には排気ガス導入管65が挿入されている。排気ガス導入管65の先端は、ケーシング51を横断して排気導入口55と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管65の外周面には、フィルタケース52に向けて開口する複数の連通穴66が形成されている。排気ガス導入管65のうち排気導入口55と反対側の側面に突出する部分は、これに着脱可能に螺着された蓋体67にて塞がれている。
【0031】
DPF50には、検出手段の一例として、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26が設けられている。実施形態のDPF温度センサ26は、ケーシング51及びフィルタケース52を貫通して装着されており、その先端はディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54との間に位置させている。
【0032】
DPF50には、検出手段の一例として、スートフィルタ54の詰まり状態を検出する差圧センサ68が設けられている。差圧センサ68は、DPF50内におけるスートフィルタ54の上流側と下流側との各排気圧の圧力差(入口側と出口側との排気ガス差圧)を検出するものである。この場合、排気ガス導入管65の蓋体67に、差圧センサ68を構成する上流側排気圧センサ68aが装着され、スートフィルタ54と排気音減衰室63との間に、下流側排気圧センサ68bが装着されている。
【0033】
なお、DPF50の上下流間の圧力差と、スートフィルタ54(DPF50)内のPM堆積量との間に特定の関連性があるから、差圧センサ68にて検出される圧力差に基づき、DPF50内のPM堆積量が演算にて求められる。そして、PM堆積量の演算結果に基づき、吸気絞り装置81、排気絞り装置82、又はコモンレール120を作動制御することにより、スートフィルタ54(DPF50)の再生制御が実行される。
【0034】
上記の構成において、エンジン70からの排気ガスは、排気導入口55を介して排気ガス導入管65に入って、排気ガス導入管65に形成された各連通穴66からフィルタケース52内に噴出し、ディーゼル酸化触媒53からスートフィルタ54の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは、スートフィルタ54(各セル間の多孔質隔壁)に捕集される。ディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過した排気ガスは、消音器64を介して排気出口管61から機外に放出される。
【0035】
排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生可能温度(例えば約250〜300℃)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用によって、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO(二酸化窒素)に酸化される。そして、NOがNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復する。すなわち、スートフィルタ54(DPF50)が再生するのである。
【0036】
(2).エンジンの制御関連の構成
次に、図1及び図2等を参照しながら、エンジン70の制御関連の構成を説明する。図1に示す如く、エンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPU31の他、各種データを予め固定的に記憶させたROM32、制御プログラムや各種データを書換可能に記憶するEEPROM33、制御プログラムや各種データを一時的に記憶するRAM34、時間計測用のタイマ35、及び入出力インターフェイス等を有しており、エンジン70又はその近傍に配置される。
【0037】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13、エンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の回数)を検出及び設定する噴射設定器15、アクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16、吸気経路中の吸気温度を検出する吸気温度センサ17、排気経路中の排気ガス温度を検出する排気温度センサ18、エンジン70の冷却水温度を検出する冷却水温度センサ19、コモンレール120内の燃料温度を検出する燃料温度センサ20、後述する再生モードの実行の可否を選択操作する再生スイッチ21、差圧センサ68(上流側排気圧センサ68a及び下流側排気圧センサ68b)、並びに、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26等が接続されている。
【0038】
ECU11の出力側には、エンジン4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。また、ECU11の出力側には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82、ECU11の故障を警告報知するECU故障ランプ22、DPF50内における排気ガス温度の異常高温を報知する異常高温報知手段としての排気温度警告ランプ23、及び、DPF50再生動作に伴い点灯する再生ランプ24が接続されている。各ランプ22〜24の明滅に関するデータは予めECU11のEEPROM33に記憶されている。
【0039】
ECU11は、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度とスロットル位置センサ16にて検出されるスロットル位置とからエンジン70の出力トルクを求め、出力トルクと出力特性とを用いて目標燃料噴射量を演算し、当該演算結果に基づきコモンレール装置117が作動する燃料噴射制御を実行するように構成されている。なお、コモンレール装置117の燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
【0040】
(3).DPF再生制御の態様
次に、図4のフローチャートを参照しながら、ECU11によるDPF50再生制御の一例について説明する。さて、エンジン70の制御モードとしては少なくとも、通常運転モードと、DPF50の詰り状態が規定水準以上の場合に、ポスト噴射Eを利用して排気ガス温度を上昇させる再生モードとがある。再生モードでは、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53上で反応させ、その反応熱によってDPF50内の排気ガス温度を上昇させる(約600℃程度)。その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMが強制的に燃焼除去される。
実施形態の再生モードでは、ポスト噴射Eだけに頼って排気ガスを昇温させるのではなく、少なくとも一方の絞り装置81,82の作動及びアフタ噴射Dを組み合わせることによって、ポスト噴射Eでの燃料噴射量を少なくして、燃費悪化及び白煙発生を抑制している。なお、再生モードでポスト噴射Eのみに依拠する構成も可能であるし、少なくとも一方の絞り装置81,82の作動とポスト噴射Eとを組み合わせたり、アフタ噴射Dとポスト噴射Eとを組み合わせたりしてもよい。
【0041】
通常運転モード及び再生モードはECU11の指令に基づき実行される。すなわち、図4のフローチャートにて示すアルゴリズムは、EEPROM33に記憶されている。そして、当該アルゴリズムをRAM34に呼び出してからCPU31にて処理することによって、前述の各モードが実行されることになる。実施形態のECU11は、前述の燃料噴射制御を実行するだけでなく、再生モードの実行前に、少なくとも一方の絞り装置81,82の作動、アフタ噴射D及び近接ポスト噴射Fの組合せによって、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる昇温モードを実行するように構成されている。
【0042】
図4のフローチャートに示すように、DPF50再生制御では、まず差圧センサ68からの検出結果に基づきDPF50内のPM堆積量を推定し(S01)、当該推定結果が規定量(規定水準)以上か否かを判別する(S02)。PM堆積量が規定量未満の場合は(S02:NO)、リターンして通常運転モードに戻る。実施形態の規定量は例えば8g/lに設定される。PM堆積量が規定量以上の場合は(S02:YES)、再生ランプ24を点滅させ(S03)、DPF50が詰まっている旨をオペレータに知らせて、注意を喚起する。
【0043】
次いで、再生スイッチ21を入り操作したら(S04:YES)、タイマ35の時間情報に基づく計測を開始して、DPF温度センサ26にて検出されたDPF50内の排気ガス温度Tpが予め設定された下限温度Tpo以下か否かを判別する(S05)。下限温度Tpoは、ディーゼル酸化触媒53での触媒反応を促進(活性化)させる活性温度が基準になっている(例えば約250〜300℃)。
【0044】
DPF50内の排気ガス温度Tpが下限温度Tpoを超えている場合は(S05:NO)、点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S06)、再生モードに移行する(S07〜S09)。再生モードでは、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を所定開度まで閉弁することによって、吸気量や排気量を制限する(S07)。そうすると、エンジン70負荷が増大することになるから、アクセル操作具による設定回転速度維持のために燃料噴射量が増加する。その結果、エンジン70からの排気ガスの昇温が促される。次いで、コモンレールシステム117のアフタ噴射Dを実行し(S08)、高圧燃料を気筒内で燃焼させ(実際の燃焼過程に寄与させ)、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる。それから、コモンレールシステム117のポスト噴射EにてDPF50内に未燃焼の燃料を供給し(S09)、当該燃料をディーゼル酸化触媒53上で反応させ、その反応熱によって、DPF50内の排気ガス温度Tpを上昇させる。その結果、DPF50内のPMが強制的に燃焼除去され、DPF50のPM捕集能力が回復する。実施形態の再生モードは例えば約30分程度実行され、当該時間の経過後、コモンレールシステム117がポスト噴射Eを行わなくなる。このように制御すると、ポスト噴射Eにて白煙発生のおそれがある排気ガス温度域では、再生モードを実行することがなくなる。従って、再生モードでのポスト噴射E開始時の白煙発生を確実に防止できる。
【0045】
DPF50内の排気ガス温度Tpが下限温度Tpo以下ならば(S05:YES)、昇温モードに移行する(S10〜S14)。昇温モードでは、再生モードでのステップS07と同様に、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を所定開度まで閉弁することによって、吸気量や排気量を制限する(S10)。そうすると、エンジン70負荷が増大することになるから、アクセル操作具による設定回転速度維持のために燃料噴射量が増加する。その結果、エンジン70からの排気ガスの昇温が促される。次いで、コモンレールシステム117のアフタ噴射Dを実行し(S11)、高圧燃料を気筒内で燃焼させ(実際の燃焼過程に寄与させ)、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる。それから、コモンレールシステム117の近接ポスト噴射Fを実行し(S12)、アフタ噴射Dの場合と同様に、高圧燃料を気筒内で燃焼させ、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる。この場合、近接ポスト噴射Fでの燃料噴射量はポスト噴射Eでの燃料噴射量よりも少ない。
【0046】
このように、吸排気量制限による燃料噴射量増加と、アフタ噴射D及び近接ポスト噴射Fによる気筒内燃焼とによって、エンジン70からの排気ガス温度の上昇を図れるので、例えばエンジン70始動時であっても、再生モードを実行する前に、排気ガスひいてはDPF50を素早く昇温でき、DPF50活性化に至るまでの時間を短縮できる。従って、再生モードでのポスト噴射E開始時の白煙発生を従前よりも確実に防止できる。
【0047】
また、昇温モードでの近接ポスト噴射Fは、再生モードでのポスト噴射Eに対して進角させているから、アフタ噴射Dの後でも気筒内燃焼を行えることになり、エンジン70からの排気ガス温度を十分に昇温できる。更に、近接ポスト噴射Fにおいては、白煙の発生防止(排気ガス昇温)に効果が見込めるだけの燃料を噴射すれば足りるから、昇温モードにおける近接ポスト噴射Fでの燃料噴射量を、再生モードにおけるポスト噴射Eでの燃料噴射量よりも少なくすれば、燃費の悪化を抑制できる。
【0048】
次いで、DPF50内の排気ガス温度Tpが下限温度Tpo以下か否かを再び判別し(S13)、下限温度Tpoを超えていれば(S13:NO)、昇温モードを終了してステップS06以降へ進み、再生モードを実行する。未だ下限温度Tpo以下であれば(S13:YES)、再生スイッチ21入り操作後から所定時間Tmoが経過したか否かを判別し(S14)、所定時間Tmoが経過していなければ(S14:NO)、昇温モードの最初のステップであるステップS10に戻る。所定時間Tmoが経過していれば(S14:YES)、長時間にわたって、吸排気量の制限、アフタ噴射D及び近接ポスト噴射Fを実行していることになるから、排気ガス温度Tpが十分に上昇していなくても、再生モードを実行せずに昇温モードを終了して、通常運転モードに戻る(リターンする)。このように制御すると、排気ガス温度Tpを十分に昇温できない状態で、吸排気量制限、アフタ噴射D及び近接ポスト噴射Fを延々と実行するのを回避でき、燃費悪化の抑制に効果的である。
【0049】
なお、実施形態では、再生スイッチ21の入り操作にて昇温モードや再生モードの実行を許可する構成が採用されているが、これに限らず、DPF50内のPM堆積量が規定値以上であれば自動的に昇温モードや再生モードに移行する構成にしてもよいことは言うまでもない。
【0050】
(4).まとめ
上記の記載並びに図1図4から明らかなように、コモンレール式エンジン70の排気系77に配置された排気ガス浄化装置50と、前記エンジン70の吸排気系76,77に配置された吸気絞り装置81及び排気絞り装置82のうち少なくとも一方とを備えており、ポスト噴射Eにて燃料を前記排気ガス浄化装置50内に供給する再生モードを実行可能に構成されている排気ガス浄化システムであって、前記再生モードの前に、前記少なくとも一方の絞り装置81,82の作動、アフタ噴射D及び近接ポスト噴射Fの組合せによって、前記エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる昇温モードを実行するように構成されているから、前記昇温モードにおいて、吸排気量制限による燃料噴射量増加と、前記アフタ噴射D及び前記近接ポスト噴射Fによる気筒内燃焼とによって、前記エンジン70からの排気ガス温度の上昇を図れることになる。このため、例えば前記エンジン70始動時であっても、前記再生モードを実行する前に、排気ガスひいては前記排気ガス浄化装置50を素早く昇温でき、前記排気ガス浄化装置50活性化に至るまでの時間を短縮できる。従って、前記再生モードでの前記ポスト噴射E開始時の白煙発生を従前よりも確実に防止できるという効果を奏する。
【0051】
上記の記載並びに図1図4から明らかなように、前記近接ポスト噴射Fは前記再生モードでのポスト噴射Eに対して進角させているから、前記アフタ噴射Dの後でも気筒内燃焼を行えることになり、前記エンジン70からの排気ガス温度を十分に昇温できるという効果を奏する。
【0052】
更に、前記近接ポスト噴射Fにおいては、白煙の発生防止(排気ガス昇温)に効果が見込めるだけの燃料を噴射すれば足りるから、前記昇温モードにおける前記近接ポスト噴射Fでの燃料噴射量を、前記再生モードにおける前記ポスト噴射Eでの燃料噴射量よりも少なくすれば、燃費の悪化を抑制できるという効果を奏する。
【0053】
上記の記載並びに図1図4から明らかなように、前記昇温モードにて前記エンジン70からの排気ガス温度Tpが所定温度Tpo以上であれば、前記再生モードに移行するように構成されているから、前記ポスト噴射Eにて白煙発生のおそれがある排気ガス温度域では、前記再生モードを実行することがなくなる。従って、前記再生モードでの前記ポスト噴射E開始時の白煙発生を確実に防止できるという効果を奏する。
【0054】
上記の記載並びに図1図4から明らかなように、前記昇温モードにて前記エンジン70からの排気ガス温度Tpが所定温度Tp未満で且つ所定時間Tmoが経過すれば、通常運転モードに復帰するように構成されているから、前記排気ガス温度Tpを十分に昇温できない状態で、吸排気量制限、前記アフタ噴射D及び前記近接ポスト噴射Fを延々と実行するのを回避できる。このため、燃費悪化の抑制に効果的なのである。
【0055】
(5).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
11 ECU(制御手段)
50 DPF(排気ガス浄化装置)
53 ディーゼル酸化触媒
54 スートフィルタ
68 差圧センサ
70 エンジン
71 排気マニホールド
73 吸気マニホールド
76 吸気管
77 排気管
81 吸気絞り装置
82 排気絞り装置
117 コモンレールシステム
120 コモンレール
図1
図2
図3
図4